(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051448
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20240404BHJP
H10B 12/00 20230101ALI20240404BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L27/108 651
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157633
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】池尻 将拓
(72)【発明者】
【氏名】秋山 浩二
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直憲
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和良
【テーマコード(参考)】
5F058
5F083
【Fターム(参考)】
5F058BA11
5F058BD05
5F058BF02
5F058BF12
5F058BF37
5F058BH05
5F058BJ04
5F083AD11
5F083AD60
5F083GA06
5F083JA03
5F083JA36
5F083JA38
5F083JA39
5F083JA40
5F083PR21
5F083PR22
(57)【要約】
【課題】キャパシタの高容量化と低リーク電流を両立させることができる半導体装置の製造方法および半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、基板上に下部電極を形成する工程と、下部電極上に4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜を形成する工程と、高誘電率膜の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜を形成する工程と、高誘電率膜と酸化物膜とを反応させることにより、4価の金属カチオンを含む酸化物と5価の金属カチオンを含む酸化物とが混合した、導電性を有する混合層を形成する工程と、上部電極を形成する工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜を形成する工程と、
前記高誘電率膜の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜を形成する工程と、
前記高誘電率膜と前記酸化物膜とを反応させることにより、前記4価の金属カチオンを含む酸化物と前記5価の金属カチオンを含む酸化物とが混合した、導電性を有する混合層を形成する工程と、
上部電極を形成する工程と、
を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜は、ZrO2膜およびHfO2膜のいずれかである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜は、Nb2O5膜、V2O5膜、およびTa2O5膜のいずれかである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜はZrO2膜であり、前記5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜はNb2O5膜である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記上部電極および前記下部電極はTiN膜で構成される、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記酸化物膜を形成する工程の後に還元処理を行う工程をさらに有する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記還元処理を行う工程は、前記混合膜または前記酸化物膜の上に酸素引き抜き層を形成し、還元雰囲気の熱処理により、前記混合膜または前記酸化物膜から前記酸素引き抜き層へ酸素を引き抜く、請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記還元雰囲気の熱処理は、前記上部電極を形成する工程の後に行う、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記酸素引き抜き層へ酸素を引き抜くことにより、前記混合層に酸素欠損を生じさせる、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記還元処理を行う工程は、水素ガス雰囲気または重水素ガス雰囲気での熱処理により行う、請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記水素ガス雰囲気または前記重水素ガス雰囲気での熱処理により前記混合層に酸素欠損を生じさせる、請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記還元処理を行う工程は、前記上部電極を形成する工程の前に行う、請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記酸化物膜の膜厚は1nm以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記半導体装置はDRAMのキャパシタである、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
基板と、
前記基板上に形成された下部電極と、
前記下部電極上に形成された4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜と、
前記高誘電率膜の上に形成され、前記4価の金属カチオンを含む酸化物と5価の金属カチオンを含む酸化物とが混合した、導電性を有する混合層と、
前記混合層の上に形成された上部電極と、
を有する、半導体装置。
【請求項16】
前記混合層は酸素欠損を有する、請求項15に記載の半導体装置。
【請求項17】
DRAMのキャパシタとして用いられる、請求項15または請求項16に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAM等に用いられるキャパシタとしては、基板上に下部電極、高誘電率膜、上部電極をその順で形成したものが用いられており、特許文献1には高誘電率膜として酸化ジルコニウムを用いたキャパシタが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、タンタルオキサイドまたはニオブオキサイドを含む第1の誘電体膜と、下部電極と第1の誘電体膜との間に設けられた第2の誘電体膜と、第1の誘電体膜と上部電極との間に第3の誘電体膜とを有するものが記載されている。また、第2の誘電体膜と第3の誘電体膜としてジルコニウムオキサイド等を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-152339号公報
【特許文献2】特開2004-266009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、キャパシタの高容量化と低リーク電流を両立させることができる半導体装置の製造方法および半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る半導体装置の製造方法は、基板上に下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜を形成する工程と、前記高誘電率膜の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜を形成する工程と、前記高誘電率膜と前記酸化物膜とを反応させることにより、前記4価の金属カチオンを含む酸化物と前記5価の金属カチオンを含む酸化物とが混合した、導電性を有する混合層を形成する工程と、上部電極を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、キャパシタの高容量化と低リーク電流を両立させることができる半導体装置の製造方法および半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【
図3】従来のZrO
2単膜のキャパシタにおけるCETとリーク電流の関係を示す図である。
【
図4】従来のキャパシタの構造の一部を示す断面図である。
【
図5】TiO
2におけるTiの16のサイトのうち5つをZrで置換した場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。
【
図6】TiO
2のTiのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を示す図である。
【
図7】Nb
2O
5におけるNbの24のサイトのZrへの置換数が0の場合と8の場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。
【
図8】Nb
2O
5のNbのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を示す図である。
【
図9】実際に第1の実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した結果を示す図である。
【
図10】第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一部を示す工程断面図である。
【
図12】Nb
2O
5に対して酸素欠損したNb
12O
29におけるNbの28のサイトのZrへの置換数が4の場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。
【
図13】Nb
12O
29のNbのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を、Nb
2O
5のNbのサイトをZr原子で置換した場合と比較して示す図である。
【
図14】Ti
9O
17のTiのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を、TiO
2のTiのサイトをZr原子で置換した場合と比較して示す図である。
【
図15】実際に第2の実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した結果を示す図である。
【
図16】第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図17】第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一部を示す工程断面図である。
【
図18】実際に第3の実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態について説明する。
【0010】
<第1の実施形態>
最初に第1の実施形態について説明する。
図1は第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャート、
図2はその工程断面図である。
【0011】
本実施形態では、まず、基板101上に下部電極102を形成する(ステップST1、
図2(a))。基板101は特に限定されないが、半導体基板、例えばSi基板が例示される。下部電極102はTiN膜であってよい。下部電極102としては、TiN膜の他に、TiSiN膜、TiAlN膜、TiMeN(Me:遷移金属)膜、W膜、Mo膜、Ru膜を用いることもできる。下部電極102は、CVD、ALD、PVD(スパッタリング)により成膜することができる。
【0012】
次に、下部電極102の上に、容量膜として4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜(High-k膜)103を形成する(ステップST2、
図2(b))。4価の金属カチオンを含む酸化物からなるHigh-k膜103は、ZrO
2膜またはHfO
2膜であってよい。High-k膜103は、CVD、ALD、PVD(スパッタリング)により成膜することができる。High-k膜103の膜厚は、2~10nmの範囲であってよい。
【0013】
次に、High-k膜103の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104を形成する(ステップST3、
図2(c))。5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104は、Nb
2O
5膜、Ta
2O
5膜、またはV
2O
5膜であってよい。酸化物膜104は、CVD、ALD、PVD(スパッタリング)により成膜することができる。酸化物膜104の膜厚は、1nm以下であってよい。
【0014】
次に、High-k膜103と酸化物膜104とを界面で反応させることにより、4価の金属カチオンを含む酸化物と5価の金属カチオンを含む酸化物が混合した、導電性を有する混合層105を形成する(ステップST4、
図2(d))。混合層105は、High-k膜103の結晶化のためのアニールの際に反応層として形成することができる。例えば、High-k膜103がZrO
2膜、酸化物膜104がNb
2O
5膜である場合に、アニールによりZrとNbの拡散が生じて、導電性を有する混合層105としてNbZrO
xが形成される。この際のアニール温度は250~600℃の範囲内であってよい。また、アニールの時間は120min以下であってよい。混合層105の組成は、アニールの際の温度および時間により調整することができ、Zrの量を多くすることにより導電性になり得る。
【0015】
次に、混合層105または酸化物膜104の上に上部電極106を形成する(ステップST5、
図2(e))。上部電極106はTiN膜であってよい。上部電極106としては、TiN膜の他に、TiSiN膜、TiAlN膜、TiMeN(Me:遷移金属)膜、W膜、Mo膜、Ru膜を用いることもできる。上部電極106は、CVD、ALD、PVD(スパッタリング)により成膜することができる。
【0016】
上部電極106を形成後、ダメージ除去等を目的とするアニールを行い、処理を終了させる。なお、このアニールによっても、上部電極106と混合層105との間に原子拡散による混合層は生じ難い。
【0017】
なお、本実施形態において、ステップST4の混合層105の形成は、ステップST5の上部電極106の形成後に行ってもよい。
【0018】
以上のようにして製造された半導体装置は、キャパシタ、典型的にはDRAMのキャパシタとして用いられる。
【0019】
本実施形態の方法により製造された半導体装置は、
図2(e)に示すように、基板101上に形成された下部電極102と、下部電極102上に形成された4価の金属カチオンを含む酸化物からなるHigh-k膜103と、High-k膜103の上に形成された混合層105と、その上に形成された上部電極106と、を有する。
【0020】
本実施形態において、混合層105は、4価の金属カチオンと5価の金属カチオンとの組み合わせにより構成されるため、後述するように電荷中性条件を満たすための欠陥が生成され、導電性になり得る。導電性の混合層105が形成されることにより、その分、誘電体部分の膜厚が薄くなり、CET(Capacitance Equivalent Thickness;容量換算膜厚)を低減させて容量を増大させることができる。また、混合層105の存在によりリーク電流も低下させることができる。
【0021】
以下、詳細に説明する。
近時、LSIの高集積化、高速化が一層進み、LSIを構成する半導体素子のデザインルールが益々微細化しており、それにともなって、例えばDRAMに用いられるキャパシタの容量は減少傾向となり、キャパシタ容量の増加が求められる。特許文献1に示すような、TiN電極間に誘電体膜としてHigh-k膜であるZrO
2膜を単層で設けたキャパシタでは、ZrO
2膜の薄膜化によりCETを低減させてキャパシタ容量を増加させることはできる。しかし、ZrO
2膜を薄膜化するとリーク電流の増加が問題となり、CET低減による高容量化と低リーク電流の両立を図ることは困難である。すなわち、
図3に示すように、ZrO
2膜が3.5nm程度までは、CETとリーク電流との関係はほぼ直線関係であるのに対し、ZrO
2の膜厚が3nmより薄くなり、例えば2.5nmになると、その直線(トレンドライン)よりもリーク電流が上昇してしまう。また、特許文献2には複数の誘電体膜を有するキャパシタが記載されているが、高容量化と低リーク電流の両立を図ることまでは意図していない。
【0022】
そこで、本実施形態では、4価の金属カチオンを含む酸化物からなるHigh-k膜103、例えばZrO2膜の上に、5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104、例えばNb2O5を形成する。そして、アニールにより、High-k膜103と酸化物膜104とを界面で反応(原子拡散)させ、これらが混合した混合層105を形成する。例えば、High-k膜103がZrO2膜、酸化物膜104がNb2O5の場合、NbZrOxを含む混合層105が形成される。
【0023】
図4に示すTiNからなる下部電極102´および上部電極106´の間に誘電体膜としてZrO
2膜103´を設けた構成の従来のキャパシタの場合も、上部電極106´形成後のアニールにより、上部電極106´とZrO
2膜103´の間に反応(原子拡散)が生じ、TiZrO
xからなる混合層(界面層)105´が形成される。
【0024】
このとき、混合層105´は、Tiのサイトの一部をZrで置換したものと考えることができ、その場合の欠陥構造式は以下の(1)式に示すようになる。
【数1】
TiおよびZrのいずれも4価の金属カチオンであり、TiのサイトをZrで置換することは、4価の金属カチオンのサイトを4価の金属カチオンで置き換えることであるから、電荷中性条件を維持することができる。したがって、電気的な欠陥は形成されない。
図5は、TiO
2におけるTiの16のサイトのうち5つをZrで置換した場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。この図に示すように、DOS分布にバンドギャップが形成されており、TiZrO
xからなる混合層105´が絶縁性であることがわかる。なお、図中[up]、「down」はスピンの向きであり、[up]はDOSがプラス、[down]はDOSがマイナスである。
【0025】
図6は、TiO
2のTiのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を示す図である。この図に示すように、TiO
2におけるZr原子の置換数にかかわらず、バンドギャップは閉じず、絶縁体としてふるまうことがわかる。したがって、混合層105´が形成されたことにより、その分、誘電体層が増膜される。
【0026】
すなわち、ZrO2膜のCETをCETZrO2、混合層105´であるTiZrO2のCETをCETTiZrO2とすると、キャパシタ全体のCETであるCETTZTは、以下のようにCETZrO2とCETTiZrO2との和となり、混合層105´はCETが増大する方向に作用する。
CETTZT=CETTiZrO2+CETZrO2
【0027】
これに対して、本実施形態の混合層105は、5価の金属カチオンを含む酸化物、例えばNb
2O
5と、4価の金属カチオンを含む酸化物、例えばZrO
2とが混合したものであり、例えばNbZrO
xである。5価の金属カチオンを含む酸化物であるNb
2O
5に4価の金属カチオンを含む酸化物であるZrO
2を添加した場合、すなわち、Nbのサイトの一部をZrで置換した場合の欠陥構造式は以下の(2)式に示すようになる。
【数2】
5価の金属カチオンであるNbのサイトを4価の金属カチオンであるZrで置換した場合、電荷中性条件を満たすために、上記(2)式の右辺第3項の酸素欠損と、右辺第1項の負電荷にチャージしたZr由来の欠陥が生成され、導電性になり得る。
【0028】
図7は、Nb
2O
5におけるNbの24のサイトのZrへの置換数が0の場合と8の場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。
図7に示すように、計算によっても、Zrが8の場合に、DOS分布のギャップ内に酸素およびZrの電子軌道に由来したエネルギー準位が生成され、導電性となることが確認される。
【0029】
図8は、Nb
2O
5のNbのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を示す図である。この図に示すように、Nb
2O
5におけるZr原子の置換数が増加するにともないバンドギャップが狭まり、Zr原子の置換数が8以上になるとバンドギャップが閉じ、伝導体に変化することがわかる。
【0030】
すなわち、本実施形態においては、混合層105中の4価の金属カチオン(本例ではZr)の置換数を増加させることにより、混合層105を導電性とすることができる。本実施形態では、アニールの際の熱処理条件を調整することにより、導電性の混合層105を形成する。
【0031】
High-k膜103がZrO2膜であり、混合層105がNbZrOxである場合、ZrO2膜のCETをCETZrO2、NbZrOxのCETをCETNbZrOxとすると、キャパシタ全体のCETであるCETTNZTは、以下のようにCETZrO2とCETNbZrOxとの和となる。
CETTNZT=CETNbZrOx+CETZrO2
ここで、NbZrOxは導電性であるため、CETNbZrOxはほぼ0である。このため、従来のZrO2膜単膜のキャパシタよりも誘電体膜の膜厚が薄くなり、CETを低減することができる。また、混合層105であるNbZrOxの存在により、上部電極106の形成時等のHigh-k膜103へのダメージを防止することができる。すなわち、混合層105が存在しないと、High-k膜103に対し、上部電極106をALDにより成膜する場合はClやNH3などによる化学的ダメージが、PVDにより成膜する場合はプラズマによる物理的ダメージが及ぼされるが、混合層105の存在によりこのようなダメージが防止される。このため、CETが小さいのにもかかわらず、リーク電流の上昇を抑制することができる。したがって、キャパシタの高容量化と低リーク電流を両立させることができる。
【0032】
実際に本実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した。ここでは、Si基板上に形成されたTiN膜からなる下部電極の上に、厚さ4nmのZrO
2膜、厚さ0.6nmのNb
2O
5膜を形成した後、アニールを行ってNbZrO
x膜を形成し、その上にTiN膜からなる上部電極を形成してキャパシタを製造した(サンプル1)。このサンプル1のキャパシタについてCETとリーク電流を求めた。その結果、
図9に示すように、単膜のZrO
2を用いた従来構造のキャパシタ(Ref)に対してリーク電流の増加を抑制しつつCETを15%程度低減することができ、単膜ZrO
2のトレンドラインよりも特性が改善されることが確認された。
【0033】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図10は第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャート、
図11はその一部の工程を示す工程断面図である。
【0034】
本実施形態では、第1の実施形態のステップST1~ステップST3と同様のステップST11~ステップST13を行う。すなわち、基板101上に下部電極102を形成し(ステップST11)、容量膜として4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜(High-k膜)103を形成し(ステップST12)、High-k膜103の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104を形成する(ステップST13)。
【0035】
次に、第1の実施形態のステップST4と同様、例えば、High-k膜103の結晶化のためのアニールの際に、High-k膜103と酸化物膜104とを界面で反応させることにより、4価の金属カチオンを含む酸化物と5価の金属カチオンを含む酸化物が混合した、導電性を有する混合層105を形成する(ステップST14、
図11(a))。
【0036】
次に、混合層105の上に、酸素を引き抜くための酸素引き抜き層108を形成する(ステップST15、
図11(b))。このとき、
図11(b)に示すように、例えばTiN膜からなるバリア膜107を介して酸素引き抜き層108を形成する。酸素引き抜き層108としては、TiAlのような活性金属からなる金属膜を用いることができる。酸素引き抜き層108としては、TiAlの他、Ti、Al等を用いることができる。
【0037】
次に、酸素引き抜き層108の上に、第1の実施形態のステップST5と同様、例えばTiN膜からなる上部電極106を形成する(ステップST16、
図11(c))。
【0038】
次に、還元雰囲気にて熱処理を実施する(ステップST17、
図11(d))。これにより、下層の混合層105から酸素引き抜き層108へ酸素が引き抜かれて酸素欠損が生じた混合層105aが形成される。この際の熱処理は、H
2含有雰囲気(水素濃度:1~100%、例えば4%)、温度:350~600℃、例えば400℃、時間:120min以下、例えば10minの条件で行うことができる。
【0039】
ステップST15の酸素引き抜き層108の形成と、ステップST17の還元雰囲気での熱処理は、還元処理工程を構成する。
【0040】
ステップST17の後、必要に応じてさらにアニールを行い、処理を終了させる。
【0041】
なお、本実施形態において、ステップST14の混合層105の形成は、ステップST17際に行ってもよく、ステップST17の後のアニールの際に行ってもよい。ステップST14をステップST17の後のアニールの際に行う場合は、ST17の酸素の引き抜き(還元処理)は酸化物膜104に対して行われる。
【0042】
本実施形態においても、以上のようにして製造された半導体装置は、キャパシタ、典型的にはDRAMのキャパシタとして用いられる。
【0043】
本実施形態においては、4価の金属カチオンと5価の金属カチオンとの組み合わせにより構成され、電荷中性条件を満たすための欠陥が生成された混合層105に、還元処理である酸素の引き抜きを実施して酸素欠損を生じさせ、酸素欠損が生成された混合層105aを形成する。このため、混合層105aは、酸素欠損の存在により混合層105より導電性になりやすく、導電性を高めることができる。したがって、第1の実施形態よりもCETを低減する効果を高くすることができる。また、混合層105aの存在により、上述のような上部電極106の形成時のHigh-k膜103へのダメージのみならず、還元処理の際のHigh-k膜103へのダメージも防止することができ、リーク電流の上昇を抑制することができる。
【0044】
以下、詳細に説明する。
上述したように、5価の金属カチオンを含む酸化物、例えばNb2O5と、4価の金属カチオンを含む酸化物、例えばZrO2とが混合した混合層105は、酸素欠損と負電荷にチャージしたZr由来の欠陥が生成され導電性となり得る。そして、混合層105から酸素が引き抜かれて酸素欠損が増加した混合層105aは、より導電性になりやすくなる。
【0045】
図12は、Nb
2O
5に対して酸素欠損したNb
12O
29におけるNbの28のサイトのZrへの置換数が4の場合の、計算で求めた状態密度(DOS)の分布を示す図である。
図12に示すように、Nb
2O
5に対して酸素欠損したNb
12O
29の場合には、Zrの置換数が4と少なくても、DOS分布のギャップ内に酸素およびZrの電子軌道に由来したエネルギー準位が生成され、導電性となることが確認される。
【0046】
図13は、Nb
12O
29のNbのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を、Nb
2O
5のNbのサイトをZr原子で置換した場合と比較して示す図である。この図に示すように、Nb
2O
5に対して酸素欠損したNb
12O
29の場合には、Zr原子の置換によりNb
2O
5の場合よりも急激にバンドギャップが狭まり、Zr原子の置換数が4以上でバンドギャップが閉じ、伝導体に変化することがわかる。
【0047】
すなわち、本実施形態において、混合層105に還元処理である酸素の引き抜き処理を実施して酸素欠損を増加させた混合層105aは、混合層105よりも導電性になりやすい。このため、第1の実施形態よりもさらにCETを低減することができる。
【0048】
なお、上述したような、5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104を形成させない従来のキャパシタの場合、混合層(界面層)105´を形成してから還元処理により酸素欠損を生じさせてもバンドギャップの変化は
図14に示すようになり、絶縁体のままである。具体的には、
図14は、Ti
9O
17のTiのサイトを置換したZr原子の数とバンドギャップとの関係を、TiO
2のTiのサイトをZr原子で置換した場合と比較して示す図であるが、この図に示すように、Ti
9O
17もTiO
2と同様、Zr原子の置換数にかかわらずバンドギャップは閉じず、絶縁体としてふるまう。
【0049】
実際に本実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した。ここでは、Si基板上に形成されたTiN膜からなる下部電極の上に、厚さ4nmのZrO
2膜、厚さ0.6nmのNb
2O
5膜を形成した後、アニールを行ってNbZrOx膜を形成した。そして、その上に3nmのTiN膜および3nmのTiAl膜を成膜し、さらにTiN膜からなる上部電極を形成した後、還元雰囲気で400℃の熱処理を行ってキャパシタを製造した(サンプル2)。このサンプル2のキャパシタについてCETとリーク電流を求めた。その結果、
図15に示すように、単膜のZrO
2を用いた従来構造のキャパシタ(Ref)に対してリーク電流の増加を2桁以下に抑制しつつCETを35%程度低減することができ、単膜ZrO
2のトレンドラインよりも特性が改善されることが確認された。また、
図15には、第1の実施形態のサンプル1の結果も併記しているが、サンプル2のほうがサンプル1よりもCET低減効果が高いことがわかる。
【0050】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。
図16は第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャート、
図17はその一部の工程を示す工程断面図である。
【0051】
本実施形態では、第1の実施形態のステップST1~ステップST3と同様のステップST21~ステップST23を行う。すなわち、基板101上に下部電極102を形成し(ステップST21)、容量膜として4価の金属カチオンを含む酸化物からなる高誘電率膜(High-k膜)103を形成し(ステップST22)、High-k膜103の上に5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜104を形成する(ステップST23)。
【0052】
次に、第1の実施形態のステップST4と同様、例えば、High-k膜103の結晶化のためのアニールの際に、High-k膜103と酸化物膜104とを界面で反応させることにより、4価の金属カチオンを含む酸化物と5価の金属カチオンを含む酸化物が混合した、導電性を有する混合層105を形成する(ステップST24、
図17(a))。
【0053】
次に、還元処理を実施する(ステップST25、
図17(b))。これにより、混合層105が還元されて酸素欠損が生じた混合層105bが形成される。還元処理は、還元雰囲気として、水素ガス(H
2ガス)雰囲気または重水素ガス(D
2ガス)雰囲気として熱処理により行うことができ、例えば、温度:250~600℃、時間:60min以下の条件で行うことができる。また、還元処理は、H
2プラズマを用いて行ってもよい。
【0054】
次に、混合層105bの上に、第1の実施形態のステップST5と同様、例えばTiN膜からなる上部電極106を形成する(ステップST26、
図17(c))。
【0055】
ステップST26の後、必要に応じてさらにアニールを行い、処理を終了させる。
【0056】
なお、本実施形態において、ステップST24の混合層105の形成は、ステップST26際に行ってもよく、ステップST26の後のアニールの際に行ってもよい。ステップST24をステップST26の後のアニールの際に行う場合は、ステップST25の還元処理の際に酸化物膜104に酸素欠損が生じる。
【0057】
本実施形態においても、以上のようにして製造された半導体装置は、キャパシタ、典型的にはDRAMのキャパシタとして用いられる。
【0058】
本実施形態においても、第2の実施形態と同様、4価の金属カチオンと5価の金属カチオンとの組み合わせにより構成され、電荷中性条件を満たすための欠陥が生成された混合層105に、還元処理を実施し、混合層105に対して酸素欠損が生じた混合層105bを形成する。このため、混合層105bは酸素欠損の存在により混合層105より導電性になりやすく、導電性を高めることができる。したがって、第1の実施形態よりもCETを低減する効果を高くすることができる。また、混合層105bにより、第2の実施形態の混合層105aと同様、上部電極106の形成時のみならず、還元処理の際のHigh-k膜103へのダメージを防止することができ、リーク電流の上昇を抑制することができる。
【0059】
実際に本実施形態の半導体装置(キャパシタ)を製造して特性を把握した。ここでは、Si基板上に形成されたTiN膜からなる下部電極の上に、厚さ4nmのZrO
2膜、厚さ0.6nmのNb
2O
5膜を形成した後、アニールを行ってNbZrOx膜を形成した。そして、H
2ガス雰囲気で541℃の還元処理を行い、その上にTiN膜からなる上部電極を形成し、キャパシタを製造した(サンプル3)。還元処理をD2ガス雰囲気にした以外はサンプル3と同様の条件でもキャパシタを製造した(サンプル4)。このキャパシタについてCETとリーク電流を求めた。その結果、
図18に示すように、単膜のZrO
2を用いた従来構造のキャパシタ(Ref)に対してリーク電流の増加を2桁以下に抑制しつつCETを30%程度低減することができ、単膜ZrO
2のトレンドラインよりも特性が改善されることが確認された。
【0060】
<他の適用>
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
101;基板
102;下部電極
103;4価の金属カチオンを含む酸化物からなるHigh-k膜
104;5価の金属カチオンを含む酸化物からなる酸化物膜
105,105a,105b;混合層
106;上部電極
107;TiN膜
108;酸素引き抜き層