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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051545
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】状態監視システム及び状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/10 20060101AFI20240404BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240404BHJP
【FI】
F04B49/10 331M
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157766
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】池田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 英樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 啓二
(72)【発明者】
【氏名】中島 史
【テーマコード(参考)】
2G024
3H145
【Fターム(参考)】
2G024AD04
2G024BA12
2G024CA09
2G024CA16
2G024CA17
2G024CA19
2G024DA09
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
3H145AA03
3H145AA25
3H145BA39
3H145CA03
3H145CA19
3H145CA25
3H145DA11
3H145EA49
(57)【要約】
【課題】バルブの寿命消費量を高精度に評価する。
【解決手段】状態監視システムは、圧縮機のバルブの状態を監視するために、圧縮機の運転状態を示す第1パラメータ、及び、圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得する。マップを用いて、第1パラメータ及び第2パラメータに対応する、バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタが算出される。シビアリティファクタは、単位期間の長さ、及び、単位期間ごとの圧縮機の回転数を少なくとも用いて、単位期間におけるバルブの寿命消費量の算出に用いられ、寿命消費量が積算されることで積算寿命消費量が算出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機のバルブの状態監視システムであって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得するためのパラメータ取得部と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを算出するためのファクタ算出部と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出するための演算部と、
を備える、状態監視システム。
【請求項2】
前記積算寿命消費量の過去のトレンドから前記バルブの余寿命を予測するための寿命予測部を更に備える、請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
前記寿命予測部は、前記積算寿命消費量の所定期間における寿命消費量増加率に基づいて、前記過去トレンドを特定する、請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記余寿命に基づいて次回メンテナンスの推奨時期を算出するメンテナンス時期推奨部を更に備える、請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項5】
予め圧縮機に定められたメンテナンス時期と前記次回メンテナンスの推奨時期とを比較し、短い方の時間を選択して通知する演算部を備えた、請求項4に記載の状態監視システム。
【請求項6】
前記第1パラメータは前記圧縮機の吸入圧力及び吐出圧力を含む、請求項1又は2に記載の状態監視システム。
【請求項7】
前記圧縮機はレシプロ圧縮機である、請求項1又は2に記載の状態監視システム。
【請求項8】
圧縮機のバルブの状態監視方法であって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得する工程と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを取得する工程と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出する工程と、
を備える、状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態監視システム及び状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばモータ等の動力源からの動力によって駆動される回転機機として、液体を圧送するポンプや気体等の媒体を圧縮するための圧縮機が知られている。この種の圧縮機は、稼働時間が経過するに従って、少なからず構成部品が劣化する。構成部品の劣化は、進行すると故障や不具合につながり、圧縮機の稼働に支障を生じるおそれがある。そのため所定のタイミングで部品交換や修理等のメンテナンスを実施することで、このような不具合や故障を防止することが重要である。
【0003】
圧縮機のメンテナンスの実施時期は、圧縮機の運用形態や外部環境に依存して変化し得る。例えば特許文献1では、圧縮機の運転条件(圧縮機の温度、及び、圧縮流体の圧力等)に基づいて、圧縮機本体のメンテナンスの実施時期(メンテナンスサイクル)を算出可能な圧縮機に関して開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6306740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮機において、圧縮対象である流体の吸入、及び、吐出のタイミングに動作されるバルブ類は、仮に故障や不具合が生じると圧縮機の運用に大きな支障をもたらす重要部品である。圧縮機のメンテナンス時期を評価するに際して、このようなバルブのような重要部品の寿命消費量は有効な指標となる。
【0006】
圧縮機のバルブの寿命消費量は、バルブの開閉回数(衝突回数)の関数として表現することができる。バルブの開閉回数は、圧縮機の回転数と運転時間とを用いて求めることができる。しかしながら、圧縮機のバルブの衝突速度、衝突の姿勢等によっても1回の開閉によって消費されるバルブの寿命が異なるため、単に圧縮機の回転数及び運転時間のみからバルブの寿命消費量を高精度に算出することは難しい。
【0007】
また圧縮機の運転条件は、圧縮機のバルブの衝突速度、衝突の姿勢等に影響する。そのため、バルブの寿命消費量を高精度に算出するためには、圧縮機の運転条件を考慮することが有効である。本発明者らの知見によれば、圧縮機の運転条件とバルブの寿命消費量との相関は圧縮機に流入する流体の過熱度によって非線形的に変動し、仮に運転条件が同じであっても、圧縮機に流入する流体の過熱度が異なるとバルブの寿命消費量は一定ではないことが見出された。上記特許文献1では、運転条件のみによって圧縮機のメンテナンス時期を算出することで実質的な寿命評価を行っているが、圧縮機に流入する流体の過熱度が考慮されておらず、精度のよい評価を行うことができない。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、バルブの寿命消費量を高精度に評価可能な状態監視システム及び状態監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る状態監視システムは、上記課題を解決するために、
圧縮機のバルブの状態監視システムであって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得するためのパラメータ取得部と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを算出するためのファクタ算出部と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出するための演算部と、
を備える。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態に係る状態監視方法は、上記課題を解決するために、
圧縮機のバルブの状態監視方法であって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得する工程と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを算出する工程と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、バルブの寿命消費量を高精度に評価することができる状態監視システム及び状態監視方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】圧縮機の概略構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る状態監視システムの構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係る状態監視方法を示すフローチャートである。
図4図3のステップS2で取得されるマップの一例である。
図5図3のステップS5で算出される積算寿命消費量の時間的推移を示す図である。
図6】過去トレンドから将来的な積算寿命消費量を推定する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
まず図1を参照して、本開示の少なくとも一実施形態に係る状態監視システム100の監視対象である圧縮機1について説明する。図1は圧縮機1の概略構成を示す図である。
【0015】
圧縮機1は、圧縮機本体2と、圧縮機本体2の上流側にある吸入ライン4と、圧縮機本体2の下流側にある吐出ライン6とを備える。圧縮機本体2はレシプロ圧縮機であり、動力源としてモータ8を備える。モータ8は、駆動軸10を介して圧縮機本体2に連結される。モータ8は、電力源12(例えば商用電源)から供給される電力によって駆動され、その駆動力は駆動軸10を介して圧縮機本体2に伝達される。圧縮機本体2が駆動されると、不図示の流体供給源から吸入ライン4を介して流体(空気や冷媒等)が圧縮機本体2に導入され、圧縮機本体2で圧縮される。圧縮機本体2で生成された圧縮流体は、吐出ライン6を介して、不図示の供給先に向けて吐出される。
【0016】
吸入ライン4には、圧縮機本体2に供給される流体の圧力(以下、適宜「吸入圧力ps」と称する)を検出するための吸入圧力センサ14、圧縮機本体2に供給される流体の温度「以下、適宜「吸入温度Ts」と称する」を検出するための吸入温度センサ15、及び、圧縮機本体2に供給される流体の過熱度Shを検出するための過熱度センサ16が設けられる。吐出ライン6には、圧縮機本体2から吐出される流体の圧力(以下、適宜「吐出圧力pd」と称する)を検出するための吐出圧力センサ18が設けられる。電力源12から圧縮機本体2に電力を供給するための電力供給ライン13には、圧縮機本体2の消費電力Pw又は電源周波数Pfを検出するための電力センサ20が設けられる。また圧縮機本体2には、圧縮機本体2の回転数fを検出するための回転数センサ22が設けられる。
【0017】
尚、これらの各センサの検出結果は、電気信号として出力可能であり、後述の状態監視システム100で取得されることで、各種演算処理に用いられる(尚、状態監視システム100で用いられない検出結果がある場合には、当該検出結果に対応するセンサは適宜省略可能である)。
【0018】
次に上記構成を有する圧縮機1の状態を監視するための状態監視システム100について説明する。図2は一実施形態に係る状態監視システム100の構成を示すブロック図である。
【0019】
状態監視システム100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0020】
状態監視システム100は、パラメータ取得部102と、ファクタ算出部104と、記憶部106と、回転数取得部108と、演算部110と、出力部112とを備える。
【0021】
パラメータ取得部102は、第1パラメータP1及び第2パラメータP2を取得するための構成である。第1パラメータP1は圧縮機1の運転状態を示す1以上のパラメータである。本実施形態では、第1パラメータP1として、吸入圧力センサ14で検出される吸入圧力ps、吐出圧力センサ18で検出される吐出圧力pd、電力センサ20で検出される消費電力Pw又は電源周波数Pfの少なくとも1つが含まれる。また第2パラメータP2は、圧縮機1に流入する流体の過熱度と相関のあるパラメータである。本実施形態では、第2パラメータP2として、過熱度センサ16で検出される過熱度Sh、又は、吸入温度センサ15で検出される吸入温度Tsの少なくとも1つが含まれる。
【0022】
尚、パラメータ取得部102による各パラメータの取得は、サンプリング周波数dt[min]で実施される。サンプリング周波数dtの数値範囲は限定されないが、例えば、圧縮機1の寿命を評価するために適切な期間(例えば1年以上)において各パラメータを連続取得可能に設定される。
【0023】
また以下の実施形態では、前述のように、第1パラメータP1として吸入圧力ps及び吐出圧力pdを選定するとともに、第2パラメータP2として過熱度Shを選定した場合を例示するが、他の組み合わせも可能である。例えば、第1パラメータP1として吸入圧力ps及び消費電力Pwを選定するとともに、第2パラメータP2として吸入温度Tsを選定してもよい。また第1パラメータP1として吐出圧力pd及び消費電力Pw(又は電源周波数Pf)を選定するとともに、第2パラメータP2として吸入温度Tsを選定してもよい。
【0024】
ファクタ算出部104は、パラメータ取得部102で取得された第1パラメータP1及び第2パラメータP2に基づいて、シビアリティファクタSを算出するための構成である。シビアリティファクタSは圧縮機1のバルブの寿命消費量に対応する評価指標であり、第1パラメータP1及び第2パラメータP2の両方に基づいて算出される。
【0025】
ファクタ算出部104によるシビアリティファクタSの算出は、第1パラメータP1、第2パラメータP2及びシビアリティファクタSの関係を示すマップMを用いて行われる。マップMは、第1パラメータP1、第2パラメータP2及びシビアリティファクタSの関係を、予め実験的、経験的又はシミュレーション的手法によって予め構築され、例えばメモリ等の記憶部106に読み出し可能に記憶される。ファクタ算出部104は、記憶部106にアクセスすることによりマップMを取得し、マップMに基づいて、パラメータ取得部102で取得された第1パラメータP1及び第2パラメータP2に対応するシビアリティファクタSを求める。このようにファクタ算出部104におけるシビアリティファクタSの算出は、このようなマップMを用いることで、圧縮機1に流入する流体の過熱度の寿命消費量に対する非線形性を考慮して行われる。
【0026】
回転数取得部108は、圧縮機本体2の回転数fを取得するための構成である。回転数fは、前述のように回転数センサ22の検出値として取得可能である。
【0027】
演算部110は、ファクタ算出部104で算出されたシビアリティファクタS、及び、回転数取得部108で取得された回転数fに基づいて、圧縮機1の状態を監視するための各種演算を行うための構成である。演算部110は、その演算内容に応じて複数の機能ブロックを備え、具体的には、積算寿命消費量算出部114、寿命予測部116、及び、メンテナンス時期推奨部118を備える。
【0028】
積算寿命消費量算出部114は、予め設定された単位期間における積算寿命消費量Lを算出するための構成である。積算寿命消費量Lは、単位期間において、回転数取得部108で取得された回転数f、及び、ファクタ算出部104で算出されたシビアリティファクタSを少なくとも用いて算出される単位期間における圧縮機本体2が備えるバルブの寿命消費量を積算することで求められる。
【0029】
寿命予測部116は、積算寿命消費量Lの過去のトレンドから圧縮機1のバルブの余寿命を予測するための構成である。積算寿命消費量Lは、前述の積算寿命消費量算出部114によって逐次算出される。寿命予測部116は、逐次算出される積算寿命消費量Lの時間的推移に基づいて、積算寿命消費量Lの過去のトレンドを特定し、過去のトレンドに基づいて余寿命を予測する。例えば、過去のトレンドから将来的な積算寿命消費量Lの推移を推定し、推定した積算寿命消費量Lがある特定の閾値に到達する寿命までの期間を余寿命として予測する。
【0030】
メンテナンス時期推奨部118は、監視対象である圧縮機1の次回メンテナンスの推奨時期を算出するための構成である。次回メンテナンスの推奨時期は、例えば、寿命予測部116によって算出された寿命tthrから、マージンとして所定期間tを減算することで求められる。これにより、寿命tthrに到達することで圧縮機1に実際に不具合や故障が生じる可能性が高くなるタイミングより前に次回メンテナンスを推奨することで、不具合や故障の未然防止が可能となる。
【0031】
またメンテナンス時期推奨部118は、寿命予測部116と同様に、逐次算出される積算寿命消費量Lの時間的推移に基づいて、積算寿命消費量Lの過去のトレンドを特定し、過去のトレンドに基づいて次回メンテナンスの推奨時期を算出する。例えば、過去のトレンドから将来的な積算寿命消費量Lの推移を推定し、推定した積算寿命消費量Lがある特定の閾値に到達するタイミングを次回メンテナンスの推奨時期として算出する。
出力部112は、演算部110における演算結果を出力するための構成である。演算部110で算出される前述の積算寿命消費量L、余寿命、及び、次回メンテナンスの推奨時期は、出力部112によって出力されることで、状態監視システム100のオペレータに認識される。例えば、積算寿命消費量Lや余寿命は、ディスプレイ等の表示装置を用いて、オペレータが認識可能な態様で表示される。また次回メンテナンスの推奨時期については、当該時期に到達した際に例えばアラームや表示によって、次回メンテナンスの推奨時期に到達した旨をオペレータに報知してもよい。
【0032】
次に上記構成を有する状態監視システム100によって実施される状態監視方法について説明する。図3は一実施形態に係る状態監視方法を示すフローチャートである。
【0033】
まずパラメータ取得部102は、第1パラメータP1及び第2パラメータP2を取得する(ステップS1)。第1パラメータP1は、圧縮機1の運転状態に関する1以上のパラメータを任意に選定できるが、本実施形態では一例として、第1パラメータP1として、吸入圧力センサ14で検出された吸入圧力ps、及び、吐出圧力センサ18で検出された吐出圧力pdが選定された場合について述べる。また第2パラメータP2は、圧縮機本体2に流入する流体の過熱度と相関のあるパラメータを任意に選定できるが、本実施形態では一例として、第2パラメータP2として、過熱度センサ16で検出された過熱度Shが選定された場合について述べる。
【0034】
続いてファクタ算出部104は、記憶部106にアクセスすることによりマップMを取得する(ステップS2)。マップMは、前述したように、記憶部106に予め記憶されており、第1パラメータP1、第2パラメータP2及びシビアリティファクタSとの関係を規定する。
【0035】
ここで図4図3のステップS2で取得されるマップMの一例である。図4では、マップMが、第1パラメータP1をX軸、第2パラメータP2をY軸、シビアリティファクタSをZ軸に示す三次元マップとして示されている。この例では、マップMのイメージをわかりやすくするために、第1パラメータP1及び第2パラメータP2をそれぞれX軸及びY軸に一次元的に示しているが、第1パラメータP1又は第2パラメータP2が複数のパラメータを含む場合には、マップMは、三次元以上の多次元マップとして用意されてもよい。
【0036】
続いてファクタ算出部104は、シビアリティファクタSを算出する(ステップS3)。ステップS3では、ステップS2で取得したマップMに対して、ステップS1で取得した第1パラメータP1及び第2パラメータPを当てはめることで、対応するシビアリティファクタSが算出される。シビアリティファクタSは、第1パラメータP1及び第2パラメータP2に対して非線形的な振る舞いを有するが、図4を参照して前述したように、マップMとして用意されることで、第1パラメータP1及び第2パラメータP2に対応するシビアリティファクタSが一義的に求められるようになっている。
【0037】
続いて回転数取得部108は、圧縮機本体2の回転数fを取得する(ステップS4)。ステップS4では、回転数取得部108は、回転数センサ22の検出結果に基づいて、回転数fを取得することができる。
【0038】
続いて積算寿命消費量算出部114は、ステップS3で算出されたシビアリティファクタS、及び、ステップS4で取得された回転数fを少なくとも用いて、単位期間における積算寿命消費量Lを算出する(ステップS5)。具体的には、積算寿命消費量Lは、サンプリング周波数dt[min]、前回メンテナンス時期から現在までの経過時間τ[min]を用いて、次式により算出される。
【0039】
ここで図5図3のステップS5で算出される積算寿命消費量Lの時間的推移を示す図である。上記(1)で算出される積算寿命消費量Lは、圧縮機1の稼働時間が進むにしたがって次第に増加する。図5では、比較例として標準運転条件に基づいて算出された積算寿命消費量L´の時間的推移が併せて示されている。標準運転条件では、比較的厳しい運転条件で積算寿命消費量L´が算出されており、例えば、時間に対して一定の変化率で増加するように一次関数的に示される。これに対して、ステップS5で算出される積算寿命消費量Lは、標準運転条件に基づく積算寿命消費量L´に比べて低くなる。これは、第2パラメータP2に対するシビアリティファクタSの非線形的振る舞いを考慮して算出されることで、標準運転条件に基づく積算寿命消費量L´に比べて過度なマージンを含まず、圧縮機1の状態を精度よく評価していることを意味する。
【0040】
続いて寿命予測部116は、ステップS5で算出される積算寿命消費量Lに基づいて、圧縮機1のバルブの余寿命を予測する(ステップS6)。ステップS6では、積算寿命消費量Lの時間的推移から過去のトレンドを特定し、過去トレンドから将来的な積算寿命消費量Lを推定することにより、余寿命が予測される。
【0041】
ここで図6は積算寿命消費量Lの過去トレンドから将来的な積算寿命消費量Lを推定する様子を示す図である。この例では、横軸が時間で1日ごとにデータの取得及び算出がなされており、上記ステップS1~S5が繰り返し実施されることにより、時刻ti-30から時刻t(現在)までにおける30日間分の積算寿命消費量Lが得られている。寿命予測部116は、当該期間における過去のトレンドを一次関数で近似し、一次係数αiを当該期間における寿命消費率として次式により算出する。
尚、上記(2)式において、Li-30は時刻ti-30に対応する積算寿命消費量であり、Lは時刻tに対応する積算寿命消費量である。
【0042】
寿命予測部116は、上記(2)式で求められた寿命増加率αiを用いて、将来的な積算寿命消費量Lの推移を予測する。具体的には、図6に破線で示すように、過去トレンドとして特定された一次関数的な振る舞いが将来的に継続すると仮定することで、将来的な積算寿命消費量Lの推移を予測する。そして、予め設定された寿命に対応する積算寿命消費量の基準値(以下、適宜「積算寿命消費量閾値Lthr」と称する)に到達する時点として寿命tthrを次式により予測する。
【0043】
続いてメンテナンス時期推奨部118は、次回メンテナンスの推奨時期を算出する(ステップS7)。次回メンテナンスの推奨時期tは、例えばステップS6で算出された寿命tthrから所定期間tを減算することで、次式により求められる。
この場合、推奨時期tは、寿命tthrより、所定期間tのマージンを確保できる時期として求められる。これにより、寿命tthrに到達することで圧縮機1に実際に不具合や故障が生じる可能性が高くなるタイミングより前に次回メンテナンスを推奨することで、不具合や故障の未然防止が可能となる。
【0044】
続いて出力部112は、演算結果を出力する(ステップS8)。ステップS8で出力される演算結果は、例えばステップS5で算出された積算寿命消費量L、ステップS6で算出された寿命tthr、及び、ステップS7で算出された次回メンテナンスの推奨時期tの少なくとも一つが含まれる。
尚、ステップS8で出力結果に含まれない演算結果に対応する上記ステップは適宜省略可能である。
【0045】
以上説明したように上記各実施形態によれば、運転状態を示す第1パラメータと、圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータとの両方に基づいて、圧縮機のバルブの寿命消費量に対応する評価指標となるシビアリティファクタが算出される。シビアリティファクタの算出は、第1パラメータ、第2パラメータ及びシビアリティファクタの関係を示すマップを用いて行われることで、圧縮機に流入する流体の過熱度の寿命消費量に対する非線形性を考慮して行われる。このようなシビアリティファクタの積算値である積算寿命消費量を算出することで、圧縮機のバルブの状態を精度よく監視できる。
【0046】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0047】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0048】
(1)一態様に係る状態監視システムは、
圧縮機のバルブの状態監視システムであって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得するためのパラメータ取得部と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを算出するためのファクタ算出部と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出するための演算部と、
を備える。
【0049】
上記(1)の態様によれば、運転状態を示す第1パラメータと、圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータとの両方に基づいて、圧縮機のバルブの寿命消費量に対応する評価指標となるシビアリティファクタが算出される。シビアリティファクタの算出は、第1パラメータ、第2パラメータ及びシビアリティファクタの関係を示すマップを用いて行われることで、圧縮機に流入する流体の過熱度の寿命消費量に対する非線形性を考慮して行われる。このようなシビアリティファクタの積算値である積算寿命消費量を算出することで、圧縮機のバルブの状態を精度よく監視できる。
【0050】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記積算寿命消費量の過去のトレンドから前記バルブの余寿命を予測するための寿命予測部を更に備える。
【0051】
上記(2)の態様によれば、積算寿命消費量を逐次算出し、その過去トレンドに基づいて将来的な積算寿命消費量の推移を求めることで、バルブ余寿命を好適に予測できる。
【0052】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記寿命予測部は、前記積算寿命消費量の所定期間における寿命消費量増加率に基づいて、前記過去トレンドを特定する。
【0053】
上記(3)の態様によれば、積算寿命消費量の所定期間における変化量である寿命消費率増加率を算出することで、バルブ余寿命を予測するための過去トレンドを好適に推定できる。
【0054】
(4)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記余寿命に基づいて次回メンテナンスの推奨時期を算出するメンテナンス時期推奨部を更に備える。
【0055】
上記(4)の態様によれば、圧縮機の余寿命に基づいて次回メンテナンスの推奨時期を好適に求めることができる。
【0056】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
予め圧縮機に定められたメンテナンス時期と前記次回メンテナンスの推奨時期とを比較し、短い方の時間を選択して通知する演算部を備える。
【0057】
上記(5)の態様によれば、予め圧縮機に対して設定されるメンテナンス時期と、余寿命に基づいて算出される次回メンテナンスの推奨時期とを比較し、短い方を通知することで、必要なメンテナンス時期をユーザに適切に知らしめることができる。
【0058】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記第1パラメータは前記圧縮機の吸入圧力及び吐出圧力を含む。
【0059】
上記(6)の態様によれば、第1パラメータとして圧縮機の吸入圧力及び吐出圧力を採用することで、圧縮機の運転状態を好適に把握できる。
【0060】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記圧縮機はレシプロ圧縮機である。
【0061】
上記(7)の態様によれば、レシプロ圧縮機に用いられるバルブの状態を、積算寿命消費量に基づいて好適に監視できる。
【0062】
(8)一態様に係る状態監視方法は、
圧縮機のバルブの状態監視方法であって、
前記圧縮機の運転状態を示す1以上の第1パラメータ、及び、前記圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータを取得する工程と、
前記第1パラメータ及び前記第2パラメータと、前記バルブの寿命消費レベルを示すシビアリティファクタとの関係を規定するマップから、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに対応する前記シビアリティファクタを算出する工程と、
単位期間の長さ、前記単位期間ごとの前記圧縮機の回転数、及び、前記シビアリティファクタを少なくとも用いて算出される前記単位期間における前記バルブの寿命消費量を積算することで積算寿命消費量を算出する工程と、
を備える。
【0063】
上記(8)の態様によれば、運転状態を示す第1パラメータと、圧縮機に流入する流体の過熱度と相関のある第2パラメータとの両方に基づいて、圧縮機のバルブの寿命消費量に対応する評価指標となるシビアリティファクタが算出される。シビアリティファクタの算出は、第1パラメータ、第2パラメータ及びシビアリティファクタの関係を示すマップを用いて行われることで、圧縮機に流入する流体の過熱度の寿命消費量に対する非線形性を考慮して行われる。このようなシビアリティファクタの積算値である積算寿命消費量を算出することで、圧縮機のバルブの状態を精度よく監視できる。
【符号の説明】
【0064】
1 圧縮機
2 圧縮機本体
4 吸入ライン
6 吐出ライン
8 モータ
10 駆動軸
12 電力源
13 電力供給ライン
14 吸入圧力センサ
15 吸入温度センサ
16 過熱度センサ
18 吐出圧力センサ
20 電力センサ
22 回転数センサ
100 状態監視システム
102 パラメータ取得部
104 ファクタ算出部
106 記憶部
108 回転数取得部
110 演算部
112 出力部
114 積算寿命消費量算出部
116 寿命予測部
118 メンテナンス時期推奨部
L 積算寿命消費量
Lthr 積算寿命消費量閾値
M マップ
P1 第1パラメータ
P2 第2パラメータ
S シビアリティファクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6