(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051560
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】宇宙太陽光エネルギー送受電システム、エネルギー送受電方法及び受信局
(51)【国際特許分類】
B64G 1/66 20060101AFI20240404BHJP
H01Q 3/24 20060101ALI20240404BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20240404BHJP
B64G 1/44 20060101ALI20240404BHJP
B64G 3/00 20060101ALI20240404BHJP
B64G 1/10 20060101ALI20240404BHJP
H02J 50/20 20160101ALI20240404BHJP
H02J 50/90 20160101ALI20240404BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
B64G1/66 B
H01Q3/24
H01Q3/26 Z
B64G1/44
B64G3/00
B64G1/10
H02J50/20
H02J50/90
H02J50/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157790
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康一
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 真一
(72)【発明者】
【氏名】船瀬 龍
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB03
5J021AB06
5J021DB03
5J021FA05
5J021FA24
5J021GA02
(57)【要約】
【課題】宇宙太陽光エネルギー送受電システムのエネルギー受電効率を高める。
【解決手段】人工衛星2は、受信されたパイロット信号14の到来方向に基づき、送信する電磁波13の方向を制御し、受信局3のパイロット信号制御装置11は、エネルギー受信装置9において受信された電磁波の強度分布または人工衛星の軌道情報に基づき、パイロット信号送信装置12のパイロット信号送信地点20を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星と受信局とを含む宇宙太陽光エネルギー送受電システムにおいて、
前記人工衛星は、
太陽電池と、
前記太陽電池が発生させた電力を電磁波に変換して送信するエネルギー送信装置と、
前記エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御するエネルギー送信方向制御装置とを備え、
前記受信局は、
前記人工衛星の前記エネルギー送信装置から送信される電磁波を受信するエネルギー受信装置と、
パイロット信号を送信するパイロット信号送信装置と、
前記パイロット信号送信装置を制御するパイロット信号制御装置とを備え、
前記人工衛星の前記エネルギー送信方向制御装置は、前記人工衛星において受信された前記パイロット信号の到来方向に基づき、前記エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御し、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は、前記エネルギー受信装置において受信された電磁波の強度分布または前記人工衛星の軌道情報に基づき、前記パイロット信号送信装置のパイロット信号送信地点を制御することを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は、前記エネルギー受信装置において受信された電磁波の強度分布の重心地点を始点とし所望の重心地点を終点とする受信地点修正ベクトルに基づき、前記パイロット信号送信地点を変位させる送信地点修正ベクトルを求めることを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記送信地点修正ベクトルは、前記受信地点修正ベクトルと同じ方向のベクトルにオフセットベクトルを加えて求められることを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は、前記人工衛星の軌道情報に基づき、前記パイロット信号送信装置が送信する前記パイロット信号の送信方向を制御することを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項5】
請求項1において、
前記受信局は複数の前記パイロット信号送信装置を備え、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は前記パイロット信号を時分割し、タイムスロットごとに複数の前記パイロット信号送信装置のいずれかを前記パイロット信号送信地点として決定することを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項6】
請求項1において、
前記受信局の前記パイロット信号送信装置は前記パイロット信号送信地点に移動可能な移動体に搭載されていることを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項7】
請求項1において、
前記受信局の前記パイロット信号送信装置は、パイロット信号送信可能エリアに配置されるアレイアンテナであり、
前記受信局は、前記アレイアンテナを構成するアンテナ素子のON/OFFを切り替えるアンテナ素子切り替え装置をさらに備え、
前記アンテナ素子切り替え装置は前記パイロット信号送信地点に応じた送信領域のアレイアンテナをONとして前記パイロット信号を送信することを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項8】
請求項1において、
複数の前記受信局を含み、
複数の前記受信局が送信する前記パイロット信号が干渉しないように調整する受信局制御装置をさらに有することを特徴とする宇宙太陽光エネルギー送受電システム。
【請求項9】
人工衛星と受信局とを含む宇宙太陽光エネルギー送受電システムにおけるエネルギー送受電方法であって、
前記人工衛星は、太陽電池と、前記太陽電池が発生させた電力を電磁波に変換して送信するエネルギー送信装置と、前記エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御するエネルギー送信方向制御装置とを備え、
前記受信局は、前記人工衛星の前記エネルギー送信装置から送信される電磁波を受信するエネルギー受信装置と、パイロット信号を送信するパイロット信号送信装置と、前記パイロット信号送信装置を制御するパイロット信号制御装置とを備え、
前記人工衛星の前記エネルギー送信方向制御装置は、前記人工衛星において受信された前記パイロット信号の到来方向に基づき、前記エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御し、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は、前記エネルギー受信装置において受信された電磁波の強度分布または前記人工衛星の軌道情報に基づき、前記パイロット信号送信装置のパイロット信号送信地点を制御することを特徴とするエネルギー送受電方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記受信局は複数の前記パイロット信号送信装置を備え、
前記受信局の前記パイロット信号制御装置は前記パイロット信号を時分割し、タイムスロットごとに複数の前記パイロット信号送信装置のいずれかを前記パイロット信号送信地点として決定することを特徴とするエネルギー送受電方法。
【請求項11】
人工衛星から送信される電磁波を受信する受信装置と、
パイロット信号を送信するパイロット信号送信装置と、
前記パイロット信号送信装置を制御するパイロット信号制御装置とを有し、
前記パイロット信号は、前記人工衛星がその到来方向に基づき、送信する電磁波の方向を制御するために用いられ、
前記パイロット信号制御装置は、前記受信装置において受信された電磁波の強度分布または前記人工衛星の軌道情報に基づき、前記パイロット信号送信装置のパイロット信号送信地点を制御することを特徴とする受信局。
【請求項12】
請求項11において、
前記人工衛星は太陽電池を備え、前記太陽電池が発生させた電力を前記電磁波に変換して送信することを特徴とする受信局。
【請求項13】
請求項11において、
前記パイロット信号制御装置は、前記受信装置において受信された電磁波の強度分布の重心地点を始点とし所望の重心地点を終点とする受信地点修正ベクトルに基づき、前記パイロット信号送信地点を変位させる送信地点修正ベクトルを求めることを特徴とする受信局。
【請求項14】
請求項11において、
複数の前記パイロット信号送信装置を備え、
前記パイロット信号制御装置は前記パイロット信号を時分割し、タイムスロットごとに複数の前記パイロット信号送信装置のいずれかを前記パイロット信号送信地点として決定することを特徴とする受信局。
【請求項15】
請求項11において、
前記パイロット信号送信装置は、パイロット信号送信可能エリアに配置されるアレイアンテナであり、
前記アレイアンテナを構成するアンテナ素子のON/OFFを切り替えるアンテナ素子切り替え装置をさらに有し、
前記アンテナ素子切り替え装置は前記パイロット信号送信地点に応じた送信領域のアレイアンテナをONとして前記パイロット信号を送信することを特徴とする受信局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙太陽光エネルギー送受電システム、エネルギー送受電方法及び受信局に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙太陽光発電所システム(Space Solar Power Satellite/Station/System,SPSまたはSSPS)においては、高精度の送電方向制御が必要である。
【0003】
特許文献1には、高精度な送電ビームの方向制御を実現することが可能な送電ビーム方向制御装置を提供するために、フェーズドアレイアンテナの一方式であるレトロディレクティブビーム方式において、送電衛星が受電設備の複数の地点(パイロット局)からそれぞれ送信された複数のパイロット信号のそれぞれの到来角度を検出し、それら複数の到来角度から、受電設備と送電衛星との相対角度を求める方式が開示される。さらに、地上からのパイロット信号と、地上局の位置情報や、航法系センサ(AGPS、太陽センサ、恒星センサ)と組み合わせ、照射方向を制御する方法が開示される。
【0004】
特許文献2には、宇宙太陽光発電システムで、発電衛星からマイクロ波を拡散させて都市部、住宅地等の電力消費地域に直接照射する方式、及び離散的に存在する不特定多数の小規模のレクテナにより必要なだけ電力を取得することができる宇宙太陽光発電システムが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-032879号公報
【特許文献2】特開2003-309938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように、複数の受信局に対して発電衛星から拡散させたマイクロ波を同時照射する場合、各受信局のレクテナにより受信する際にはエネルギー密度が小さくなる。一方、特許文献1では一か所のレクテナパネルに照射されるため、エネルギー密度を低下させることはない。ここで、特許文献1では送電ビームの方向制御を人工衛星において行っている。
【0007】
しかしながら、特に、人工衛星が準静止軌道をとる場合には、受信局と人工衛星との相対位置及び高度が時々刻々変化する。さらに人工衛星からの照射エネルギーの照射位置にずれをもたらす原因には、大気圏及び電離圏における電子密度不均一や擾乱などの空間の媒質不均一性の影響、その他人工衛星に加わる各種擾乱(摂動、太陽光圧など)がある。これらは事前予測しがたいため、常時精密な送電方向制御を行い、照射エネルギーが適切に受信局に照射されることを担保する必要がある。このため、衛星姿勢及び照射エネルギー方向制御のための演算負荷が大きくなり、衛星軌道上では困難な場合があり、また、演算ができても、送信用のフェーズドアレイアンテナによる位相制御及び送電方向制御を計算通りに実行できないおそれもある。
【0008】
本発明は、衛星軌道上での計算負荷及び制御負荷をより小さくすることで、エネルギー受電効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の態様である宇宙太陽光エネルギー送受電システムは、人工衛星と受信局とを含む宇宙太陽光エネルギー送受電システムであって、人工衛星は、太陽電池と、太陽電池が発生させた電力を電磁波に変換して送信するエネルギー送信装置と、エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御するエネルギー送信方向制御装置とを備え、受信局は、人工衛星のエネルギー送信装置から送信される電磁波を受信するエネルギー受信装置と、パイロット信号を送信するパイロット信号送信装置と、パイロット信号送信装置を制御するパイロット信号制御装置とを備え、
人工衛星のエネルギー送信方向制御装置は、人工衛星において受信されたパイロット信号の到来方向に基づき、エネルギー送信装置が送信する電磁波の方向を制御し、受信局のパイロット信号制御装置は、エネルギー受信装置において受信された電磁波の強度分布または人工衛星の軌道情報に基づき、パイロット信号制御装置のパイロット信号送信地点を制御する。
【発明の効果】
【0010】
衛星軌道上での計算負荷及び制御負荷を小さくした宇宙太陽光エネルギー送受電システムを提供する。上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】宇宙太陽光エネルギー送受電システムの全体構成図である。
【
図2】パイロット信号送信地点を切り替える方式を示す図である。
【
図3】複数のパイロット信号送信装置からパイロット信号を送信するタイムシーケンスである。
【
図4】パイロット信号送信地点の切り替えを行うフローチャートである。
【
図5】パイロット信号送信地点の切り替え方式を説明するための図である。
【
図6】複数の受信局へエネルギー送電を切り替える方式を示す図である。
【
図7】パイロット信号送信をアレイアンテナで行う場合の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って宇宙太陽光エネルギー送受電システムの実施例について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【実施例0013】
図1に宇宙太陽光エネルギー送受電システム1の全体構成図を示す。宇宙太陽光エネルギー送受電システム1は人工衛星2と地上局である受信局3を含む。また、
図2にパイロット信号送信地点を切り替えながら、人工衛星2からの太陽光エネルギーを受信局3にて受電する様子を示す。
【0014】
人工衛星2は太陽電池4、エネルギー変換装置5、エネルギー送信装置6、エネルギー送信方向制御装置7、パイロット信号受信装置8を備える。受信局3は、エネルギー受信装置9、解析装置10、パイロット信号制御装置11、複数のパイロット信号送信装置12を備える。
【0015】
まず、人工衛星2が備える要素について簡単に説明する。
【0016】
太陽電池4は、例えば光電変換により太陽光エネルギーを直流電力に変換する太陽光パネル(ソーラーパネル)である。エネルギー変換装置5は、太陽電池4が発生させた直流電力を受信局3への送電に適した電磁波に変換する。エネルギー変換装置5は、例えばマグネトロンなどのマイクロ波発生装置であり、この場合、エネルギー変換装置5は直流電力をマイクロ波に変換する。エネルギー送信装置6は太陽光エネルギーを電磁波(照射エネルギー13)として受信局3に送信するためのアンテナである。
【0017】
エネルギー送信装置6は、照射エネルギー13が受信局3で適切に受信できるよう、照射エネルギー13(電磁波)の送信方向が制御可能とされている。アンテナの向きを変更する機械的機構を備えていてもよいし、例えば、ダイポールアンテナもしくはパッチアンテナ等をアレイ状に並べたフェーズドアレイアンテナを用いて、各アンテナエレメントから送信される電磁波の位相を電気的に制御することで、電気的に送信方向を制御してもよい。エネルギー送信方向制御装置7は、エネルギー送信装置6による照射エネルギー13の送信方向を制御する。例えば、エネルギー送信装置6がフェーズドアレイアンテナであれば、エネルギー送信方向制御装置7はその位相制御回路である。照射エネルギー13の送信方向は、受信局3から送信されるパイロット信号14にしたがって決定される。
【0018】
パイロット信号14は、パイロット信号受信装置8によって受信される。パイロット信号受信装置8は、例えばアンテナ及び無線機を備えるマイクロ波受信機である。パイロット信号受信装置8のアンテナをエネルギー送信装置6のアンテナと共用してもよい。パイロット信号14の位相情報からパイロット信号14の到来方向を算出し、パイロット信号14の送信地点の方向に向けて照射エネルギー13(電磁波)を送信するよう、エネルギー送信方向制御装置7は、エネルギー送信装置6を制御する。例えばレトロディレクティブ方式の送信方向制御が適用されている場合、電磁波の送信方向はパイロット信号の到来方向と同じ方向とされる。
【0019】
次に、受信局3が備える要素について簡単に説明する。
【0020】
エネルギー受信装置9は、人工衛星2からの照射エネルギー13を受信する装置であり、例えばレクテナ、もしくはアンテナに整流回路が結合された電気回路である。解析装置10は例えばコンピュータであり、その解析内容については後述するが、エネルギー受信装置9のエネルギー受信状態に基づき、パイロット信号の送信地点を制御するための解析を実施する。パイロット信号送信装置12はパイロット信号14を人工衛星2に向けて送信する、例えばパラボラアンテナ及びその付属装置である。複数のパイロット信号送信装置12はパイロット信号制御装置11によって制御されている。パイロット信号制御装置11は解析装置10の解析結果に応じてパイロット信号14を送信するパイロット信号送信装置12の切り替えを行う電子回路であり、アンテナのローテータや方向制御装置を含んでもよい。なお、
図1では、複数のパイロット信号送信装置12について、それぞれを区別する場合には識別子(A,B,C・・・)を付して示している。例えば、受信局3はパイロット信号送信装置12A,12B,12C・・を含み、そのいずれかがパイロット信号14を送信する。
【0021】
図2では、作図の都合上、パイロット信号送信装置12はエネルギー受信装置9の周辺に配置されているように描かれているものの、実際にはエネルギー受信装置9の直径は例えば数kmに及ぶ大きさであり、人工衛星2から見て、複数のパイロット信号送信装置12はエネルギー受信装置9と重なる位置に配置することもできる。エネルギー受信装置9は受電レクテナアレイなどにより構成され、解析装置10はエネルギー受信装置9におけるエネルギー受電強度分布を算出し、例えばその重心地点を算出する。算出された重心地点は、所望のエネルギー受信地点からずれが生じることが想定される。ずれの原因としては、回路系の内部遅延などによる信号の遅延や、地球の自転による相対速度の変化、人工衛星の軌道高度の変化、エネルギー伝播経路内物質21の時間的及び空間的変化などがある。特に、人工衛星2の軌道が静止軌道ではなく、例えば準静止軌道をとるような場合には、人工衛星2の高度や位置が変わることによって信号の遅延の程度が変わることになる。この場合、パイロット信号14の送信方向は人工衛星2の軌道位置及び相対速度に応じて制御される必要があるのに加え、人工衛星2の高度も変化することにより地球の自転に起因する信号遅延もあわせて変化するため、複数のずれの原因が重なって生じることになる。
【0022】
本実施例では、演算リソース及びハードウェアリソースの限られる人工衛星2に過度の演算負荷及び制御負荷を負わせることなく、このような多様な原因によって生じる照射エネルギー13のエネルギー強度分布重心地点22を所望の地点へずらすため、パイロット信号送信地点20(
図2の例では、パイロット信号送信装置12Aが送信地点になっている)を変位させる。例えば、レトロディレクティブ方式の送信方向制御が適用されている場合、重心地点をずらしたい方向と同じ方向に、パイロット信号送信地点20を移動させる制御を行う。
【0023】
例えば、レトロディレクティブ方式の送信方向制御が適用されている場合、あらかじめパイロット信号送信装置12を複数備えておき、所望の照射エネルギー照射地点に最も近いものからパイロット信号を照射するよう切り替えればよい。
図3に、複数のパイロット信号送信装置A~Nからパイロット信号14を送信するタイムシーケンス例を示す。パイロット信号は時分割されるとともに、常にいずれかのパイロット信号送信装置12からパイロット信号14が送信されている。パイロット信号送信装置は同時に利用されることなく、切り替えて利用され、パイロット信号送信装置12の切り替え先はエネルギー強度分布重心地点22と所望の地点とのずれに基づき決定される。このため、同じパイロット信号送信装置から連続する複数のタイムスロットでパイロット信号14を送信することもあり得る。
【0024】
以上のように、照射エネルギーの受信強度分布が最適となるよう地上側から制御され、受電された照射エネルギー13は例えばレクテナアレイにより整流化され、商用電力へ変換後、商業電力網への接続線23を介して、商業電力網24にて利用される(
図2参照)。なお、地上側から照射エネルギーの受信強度分布に基づき、人工衛星2の照射エネルギーの送信方向をフィードバック制御する利点は、エネルギー受信強度分布のずれは、常時地球に対して相対速度を持つ衛星側の擾乱や大気擾乱などのように予測が困難な原因によって生じるずれについても対処可能なことである。このような場合でも、地上側でパイロット信号送信地点を制御することで、エネルギー強度分布重心地点22をフィードバック制御により修正することが可能となる。
【0025】
図4にパイロット信号送信地点の切り替えを行うフローチャートを示す。
図5を参照しながらフローチャートについて説明する。少なくともエネルギー受信装置9を含むように、パイロット信号送信可能エリア33が設定されている。この例では、パイロット信号送信可能エリア33はパイロット信号送信装置12が設置された範囲に相当する。
【0026】
最初に、受信局3は、いずれかのパイロット信号送信装置12からパイロット信号14を衛星に向け送信する(ステップS301)。パイロット信号14を送信したパイロット信号送信装置12の設置位置がパイロット信号送信地点20である。次に、受信局3が人工衛星2からのエネルギー信号もしくはパイロット信号を受信する(ステップS302)。何らかの理由で、人工衛星2からの照射エネルギー13の到達位置が所望の位置から大きくはずれるおそれがある場合には、照射エネルギー13としての電磁波ではなく、照射エネルギー13の強度を弱め、照射エネルギーの送信方向を受信局3に伝えるパイロット信号として送信してもよい。
【0027】
次に、解析装置10は、エネルギー受信装置9での電気回路における電流または電圧等を測定することで、受信強度分布を算出し、受信強度分布よりエネルギー強度分布重心地点22を算出する(ステップS303)。次に、解析装置10は、エネルギー強度分布の所望の重心地点への受信地点修正ベクトルpを算出する(ステップS304)。
図5に示すように、受信地点修正ベクトルpは、エネルギー強度分布重心地点22を始点とし、所望の重心地点34を終点とするベクトルである。
【0028】
次に、パイロット信号制御装置11は、パイロット信号送信地点20を送信地点修正ベクトルqにしたがってずらす(ステップS305)。送信地点修正ベクトルqは受信地点修正ベクトルpに基づいて定められ、
図5にはq=αpとした例を示している。この場合、送信地点修正ベクトルqは、パイロット信号送信地点20を始点とし、受信地点修正ベクトルpと同じ方向のベクトルとなる。定数αは例えば、0から1の間の値を取り、所定量に設定しておいてもよいし、制御スピードを制御できるよう、可変値としてもよい(制御スピードを速める場合にはより1に近い値に設定する)。また、受信地点修正ベクトルpと送信地点修正ベクトルqの方向は一致していなくてもよく、例えば、送信地点修正ベクトルqに所定のオフセットベクトルを加える構成としてもよい。オフセットベクトルを加えることで、例えば、地球の自転の影響のような、一定時間において一定方向に一定量発生するずれを精度よく補正することができる。
【0029】
エネルギー送受電を継続する場合には(ステップS306でYes)、ステップS301を実行し、継続しない場合には(ステップS306でNo)、処理を終了する。
【0030】
なお、本実施例では、エネルギー強度分布重心地点22を指標としてパイロット信号送信地点をずらす制御を行う例を開示したが、制御指標は強度分布重心地点には限られない。エネルギー受信装置9での受信強度分布が、あらかじめ定めた2次元的な強度分布に合うように制御してもよい。宇宙空間から照射されるエネルギーは一般に一様分布ではない強度分布を持つ。エネルギー受信装置9での受信強度分布がその所定のパターンに合致するように制御する構成としてもよい。
【0031】
なお、本実施例では、受信強度分布を利用したフィードバック制御について説明したが、人工衛星2の軌道情報を用いてパイロット信号送信地点を制御してもよい。パイロット信号送信地点は、人工衛星2と自転する地球との間の相対的変位を考慮し、光速でのパイロット信号の到達及び照射エネルギーの到達を考慮することで、エネルギー強度分布が所望の重心地点34となるパイロット信号送信地点20を幾何的に計算することも可能である。
【0032】
パイロット信号制御装置11は、パイロット信号14を送信するパイロット信号送信装置12に対して、パイロット信号の送信方向を制御する。パイロット信号14の送信方向は、パイロット信号14が到達するときの人工衛星2の位置を予測して定める必要がある。パイロット信号の送信方向は、パイロット信号送信地点20または受信局3に対する、人工衛星2の相対位置ベクトルr、人工衛星2の受信局3に対する相対速度ベクトルv、光速cとする場合、相対速度ベクトルq、相対速度ベクトルv及び光速cの関数で定まる角度差θにより定めることができる。具体的には、角度差θは、相対速度ベクトルvの受信局3から人工衛星2への視線方向(相対位置ベクトルr)に対して垂直な成分をベクトルvpとするとき、
θ≒2vp/c
と近似的に表すことができる。
【0033】
また、本実施例では複数のパイロット信号送信装置12を備え、いずれかのパイロット信号送信装置12がパイロット信号14を送信することによって、パイロット信号送信地点20を変位させる例を説明したが、これに限られない。パイロット信号送信装置12を車両等の移動体に搭載して移動させることによって、パイロット信号送信地点20を変位させてもよい。移動体としては、航空機、船舶などであってもよい。