(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051657
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、積層体、電極、電気化学素子、積層体の製造方法、電極の製造方法、及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240404BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240404BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240404BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240404BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240404BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240404BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240404BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20240404BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20240404BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240404BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M50/42
H01M4/04 Z
H01M50/449
H01M50/489
H01M50/46
H01M4/139
H01M4/02 Z
H01M8/02
H01G11/52
H01M4/86 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157940
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】寺井 希
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
【テーマコード(参考)】
5E078
5H018
5H021
5H050
5H126
【Fターム(参考)】
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078CA06
5E078CA12
5E078CA14
5E078CA20
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA11
5H018CC06
5H018EE17
5H018HH03
5H018HH08
5H018HH09
5H021BB11
5H021CC04
5H021EE06
5H021HH01
5H021HH04
5H021HH06
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB18
5H050DA19
5H050FA02
5H050GA28
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA20
5H126AA15
5H126FF07
5H126GG18
5H126JJ03
5H126JJ08
5H126JJ09
(57)【要約】
【課題】絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れ、電極の積層ずれの発生を低減でき、電池特性に優れる電気化学素子を作製可能な電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物の提供。
【解決手段】基材と、前記基材上に設けられた接着性多孔質絶縁層と、を有し、前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂が、架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上である電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた接着性多孔質絶縁層と、を有し、
前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物。
【請求項2】
前記樹脂が、エネルギー照射によって重合可能な重合性化合物の重合物である請求項1に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物。
【請求項3】
前記重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する請求項2に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物。
【請求項4】
請求項1に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物と、
前記接着性多孔質絶縁層の少なくとも一部を介して接着された他の基材と、を有することを特徴とする積層体。
【請求項5】
請求項1に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を有し、
前記基体が、電極基体を有し、
最表層として前記接着性多孔質絶縁層を有することを特徴とする電極。
【請求項6】
第1の電極と、前記第1の電極と絶縁された第2の電極とを含み、前記第1の電極と前記第2の電極が積層された電気化学素子であって、
前記第1の電極、及び前記第2の電極の少なくともいずれかが、請求項5に記載の電極であることを特徴とする電気化学素子。
【請求項7】
前記接着性多孔質絶縁層の少なくとも一部が、他の基材の表面と接着される請求項6に記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記第1の電極が、前記第2の電極の外側に配置され、前記接着性多孔質絶縁層を介して前記第2の電極と接着される請求項6に記載の電気化学素子。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池である請求項6から8のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項10】
第1の基材と、
第2の基材と、を備え、
前記第1の基材は、第1の接着性多孔質絶縁層を有し、
前記第1の基材と、前記第2の基材とは、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着され、
前記第1の接着性多孔質絶縁層は、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂は、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする積層体。
【請求項11】
前記第2の基材が、第2の接着性多孔質絶縁層を有し、
前記第1の基材と、前記第2の基材とが、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の接着性多孔質絶縁層とが、対向するよう積層される請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記第1の基材が、電極であり、
前記第2の基材が、フィルムセパレータである請求項10に記載の積層体。
【請求項13】
前記第1の基材が、電極であり、
前記第2の基材が、電極である請求項10に記載の積層体。
【請求項14】
前記第1の接着性多孔質絶縁層におけるバインダの含有量が、0質量%以上30質量%以下である請求項10に記載の積層体。
【請求項15】
第1の基材上に第1の接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成工程と、
前記第1の接着性多孔質絶縁層が形成された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の基材とが対向するよう積層する積層工程と、
前記積層された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着させる接着工程と、
を有し、
前記第1の接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項16】
請求項10に記載の積層体を有し、
前記第1の基材が、電極基体を有し、
前記第2の基材が、電極基体を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項17】
電極基体を有する基材上に接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成工程を有し、
前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法による、前記接着性多孔質絶縁層のピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする電極の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、
前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、積層体、電極、電気化学素子、積層体の製造方法、電極の製造方法、及び電気化学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の日常生活において、スマートフォンやノートパソコンなどが普及し、また世界全体では、脱炭素社会を目指して内燃機関を持たない電気自動車が注目され始めている。これらの電子機器には、高出力、及び高エネルギー密度の特徴を有するリチウムイオン二次電池が搭載される。
【0003】
現在の一般的な電池では、電極同士が固定されていない場合が多数であり、電極を積層する際に積層ずれが生じやすいという問題がある。電池内部で電極の積層ずれが生じた場合は、良好な電池特性、及び安全性の低下につながることから、電極の積層ずれを抑制することが重要である。
【0004】
これまでに、電極活物質層に積層した絶縁層の樹脂粒子の剥がれが抑制された二次電池として、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも一方を覆うように前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方の表面に結合して積層されてなる多孔質の絶縁層と、前記絶縁層の縁に形成され、前記絶縁層の前記樹脂粒子の溶融により空孔が消失した状態で固化されている溶融部と、を備えた二次電池が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
また、正極の表面の一部と負極の表面の一部に接着して前記正極と前記負極とを離間させる第1の絶縁層と、平面視すると前記第1の絶縁層によって閉じられた領域であって、前記正極と前記負極の間に電解質を保持するための領域と、を含んで成る蓄電ユニットと、電解質とを有する蓄電デバイスであって、前記第1の絶縁層の透気度が1250秒/100cc超、かつ95000秒/100cc未満である蓄電デバイスが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れ、電極の積層ずれの発生を低減でき、電池特性に優れる電気化学素子を作製可能な電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物は、基材と、前記基材上に設けられた接着性多孔質絶縁層と、を有し、前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂が、架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れ、電極の積層ずれの発生を低減でき、電池特性に優れる電気化学素子を作製可能な電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態の多孔質絶縁層の塗布領域の一例を示す模式平面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の電極の一例を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の積層体の一例を示す模式断面図である
【
図4】
図4は、本実施形態の電極の一例を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の多孔質絶縁層の塗布領域の一例を示す模式平面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の多孔質絶縁層の塗布領域の一例を示す模式平面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の電極の他の一例を示す模式断面図である。
【
図10】
図10は、本実施形態の電極の他の一例を示す模式断面図である。
【
図11】
図11は、本実施形態の電極の他の一例を示す模式断面図である。
【
図12】
図12は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図13】
図13は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図14】
図14は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図15】
図15は、本実施形態の積層体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図17】
図17は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図19】
図19は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置の他の一例を示す模式図である。
【
図20】
図20は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
【
図22】
図22は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置としてのドラム状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
【
図23】
図23は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置としての無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物)
本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物は、基材と、前記基材上に設けられた接着性多孔質絶縁層と、を有し、前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂が、架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上である。
前記電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物は、電気化学素子用部材の接着用途に用いられ、接着性の絶縁層を有する。
【0010】
本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物は、本発明者らが、以下の従来技術における問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、従来、絶縁層の樹脂粒子の剥がれを抑制するために、絶縁性の接着剤を塗布した電池用電極が知られているが(特許文献1等参照)、熱溶着により接着する材料を用いた場合は、絶縁層の樹脂粒子の溶融により空孔が消失することにより空隙率が低下してしまい、絶縁層の絶縁性が低下するという問題がある。
また、絶縁性の接着剤としては、セル内部の電解液の循環を妨げない空隙率の高い多孔質であることが好ましいが、例えば、特許文献2の蓄電デバイスのように、絶縁層の透気度(空隙率)が高い場合は、絶縁層の強度が低下するという問題がある。
【0011】
特に、電池等の蓄電素子、燃料電池等の発電素子などの電池用途において、従来技術の多孔質構造体を基材としての電極上に形成して絶縁層として用いる場合、多孔質構造体における空隙率が低下すると、十分な物質透過性が得られず、イオン透過性の担保が困難となり電池性能の低下につながるという問題がある。
また、電池内部で電極の積層ずれが生じた場合は、良好な電池特性、及び安全性の低下につながることから、電極の積層ずれの発生を低減することが望まれるが、絶縁層のイオン透過性(空隙率)及び絶縁層の強度というトレードオフの関係を両立するとともに、電極の積層ずれに対し、絶縁層が強度に加えて十分な柔軟性を有することが重要であることを知見した。
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物が、絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れ、電極の積層ずれの発生を低減でき、電池特性に優れる電気化学素子を作製可能な電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を提供できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
<基材>
前記基材としては、透明、不透明を問わずあらゆる材料を目的に応じて適宜選択することができる。
透明基材としては、例えば、ガラス基材、各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材、これらの複合基板などが挙げられる。
不透明な基材としては、例えば、シリコン基材;ステンレス、アルミニウム、銅等の金属基材;記録媒体;これらを積層したものなどが挙げられる。
記録媒体としては、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などであってもよく、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
また、基材としては、電気化学素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートなどの多孔質絶縁層や、セルロース繊維を含む紙セパレータであってもよく、電気化学素子用の電極基体や、電極基体上に設けられた電極合材層であってもよい。
前記基材の形状としては、曲面であってもよく、凹凸形状を有するものであってもよく、積層体の製造装置の付与手段、及び重合手段に適用可能な基材を適宜選択して使用することができる。
【0013】
<接着性多孔質絶縁層>
前記接着性多孔質絶縁層は、前記基材上に設けられる。
前記接着性多孔質絶縁層は、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記ピール強度が2N/m以上であり、熱接着性を有する。
本明細書及び特許請求の範囲において、「熱接着性」とは、加熱されることにより別物質に対しての接着性が発現することである。この接着性の発現を示す一例としては、加熱による熱接着性を有する構造体と、別物質と、の間におけるピール強度の向上がある。
前記接着性多孔質絶縁層の体積固有抵抗率としては、1×1012(Ω・cm)以上が好ましい。
【0014】
-多孔質構造体-
前記多孔質構造体(以下、多孔質樹脂と称することがある)は、樹脂を骨格とする共連続構造を有する。
前記樹脂は、架橋樹脂であり、エネルギー照射によって重合可能な重合性化合物の重合物であることが好ましい。
ここで、「共連続構造」とは、2種以上の物質乃至相が、それぞれ連続構造を有し、界面を形成しない構造を意味し、本実施形態においては、樹脂相と空孔相とが共に三次元分岐網目連続相となっている構造を意味する。このような構造は、例えば、後述する液体組成物を重合誘起相分離法によって重合することにより形成することができる。
【0015】
[ガラス転移点]
前記樹脂が、架橋樹脂であることにより、加熱時に接着性を発現させて別物質と接着を実施した際に、架橋樹脂が溶融することなく大きな形状の変化が生じにくい。それによって、接着性多孔質絶縁層は加熱接着前後においても良好な絶縁性を維持することが可能となる。
接着性多孔質絶縁層が接着層として機能するためには、骨格となる架橋樹脂のガラス転移点(Tg)が重要となる。
前記接着性多孔質絶縁層のガラス転移点(Tg)としては、0℃以上100℃以下が好ましく、25℃以上60℃以下がより好ましい。
前記Tgが0℃未満であると、常温で架橋樹脂表面にタック性が発現してしまうために接着性多孔質絶縁層を形成した後のハンドリングが困難となるために好ましくない。
前記Tgが100℃を超えると、加熱接着後に良好な接着性が得られにくく、加熱接着に要する温度が高温となることにより、その他周囲の基材に過熱による悪影響を及ぼしやすいため好ましくない。一方、前記Tgが0℃以上100℃以下であると、加熱接着前後のハンドリングが良く、加熱接着後に良好な接着性が得られ、過熱の悪影響が生じない点で有利である。
【0016】
前記多孔質構造体が、三次元分岐網目構造を骨格とした共連続構造であることによって、高空隙かつ高強度な多孔質構造体を実現することが可能となる。
すなわち、
図16A及び
図16Bに示すように、接着性多孔質絶縁層10bは多数の空孔10xを有しており、一の空孔10xが一の空孔10xの周囲の他の空孔10xと連結した連通性を有して三次元的に広がっている。
【0017】
前記多孔質構造体が共連続構造を有し、空孔同士が連通することで、電解質の浸み込みが十分に起き、イオンの移動を妨げることがない。
共連続構造を有し、空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、多孔質構造体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0018】
[走査電子顕微鏡(SEM)による画像観察、及び空隙率の測定]
前記多孔質構造体の空隙率としては、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。また、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。
空隙率が30%以上であることで、多孔質構造体において液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現させることができる。また、多孔質構造体を蓄電素子における絶縁層として用いた場合、電解液の浸透性やイオンの透過性が向上し、蓄電素子内部の反応が効率的に進行する。また、空隙率が90%以下であることで、多孔質構造体の強度が向上する。
前記多孔質構造体の空隙率の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質構造体にオスミウム染色を施した後で、集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて空隙率を測定する方法などが挙げられる。
【0019】
具体的には、以下の手順により、前記空隙率を測定することができる。
すなわち、多孔質構造体を5mm×10mmサイズで切り出し、四酸化オスミウム(VIII)(イーエム株式会社製)を用いてオスミウム染色する。前記水溶液が少量入った瓶の中に、水溶液に触れないように切り出した接着性多孔質絶縁層を入れ、密閉した瓶の中で30分静置し、染色した。その後1時間ドラフト内で乾燥させることで染色したサンプルを得る。
十分に乾燥させた後、二液混合タイプのエポキシ樹脂(ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン製)で真空含浸する。その後、クロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製)にて5.0kVで断面を切り出しし、クライオFIB/SEM(日本FEI株式会社製)で観察する。
観察した画像を二値化し、観察領域に対する空隙の占める割合を求めることで、多孔質構造体の空隙率を算出する。
【0020】
[透気度]
前記多孔質構造体の透気度としては、1,000秒/100mL以下が好ましく、500秒/100mL以下がより好ましく、300秒/100mL以下が更に好ましい。
前記透気度は、JIS P8117に準拠して測定される透気度であり、例えば、ガーレー式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)等を用いて測定することができる。
一例として、透気度が1,000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0021】
前記多孔質樹脂が有する孔の断面形状としては、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。
前記多孔質樹脂の有する孔の大きさとしては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択できるが、液体や気体の浸透性の観点から、0.01μm以上10μm以下が好ましい。空孔の大きさが0.1μm以上10μm以下であることで、多孔質構造体において液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現させることができる。また、後述するように、多孔質構造体を蓄電素子の絶縁層として用いる場合、空孔の大きさが10μm以下であることで、蓄電素子の内部で発生するリチウムデンドライドによる正極と負極の間の短絡を防止することができ、安全性が向上する。
多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法などが挙げられる。
【0022】
前記接着性多孔質絶縁層の平均厚みとしては、特に限定はなく目的に応じて適宜選択することができるが、1.0μm以上150.0μm以下が好ましく、10.0μm以上100.0μm以下がより好ましい。平均厚みが10.0μm以上であることで他の電極との熱接着時に良好な接着強度を得ることができ、100.0μm以下にすることで柔軟な接着性多孔質絶縁層を得ることができる。
前記平均厚みに関しては、多孔質樹脂が使用される用途に応じて適宜調整される。
平均厚みは、対向電極の厚みに応じて調整することが最も好ましく、
図13に示すように、セル化後の断面構造において、接着層によって形成された空間厚みが対向電極の膜厚と同程度の厚みとなるように形成されることが好ましい。これによって、電池積層後の積層電極端部に生じる歪を抑制させることができる。
前記平均厚みは、任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
なお、このとき厚みとは、多孔質樹脂層のみからなる厚みであり、例えば、多孔質樹脂層の基材への染み込みが生じた場合は、多孔質樹脂層及び基材を含む層の厚みは含まれない。
【0023】
前記接着性多孔質絶縁層により、例えば、接着性多孔質絶縁層が塗布された電極と、他の電極を組み合わせた際に熱接着が可能となり、電池積層時や積層後の工程の際に生じる電極積層のずれを抑制することができる。そのため、接着性多孔質絶縁層の形成箇所は、上記接着効果が発現できる箇所であれば特に限定されず、電極基体上、電極合材層上又は多孔質絶縁層上などの任意の場所に形成することができる。ただし、対向電極と対向する面に配置した場合は、これらの機能を発現させることができるが、電極間のイオン透過性を妨げてしまうことのないように、対向電極と対向しない領域に形成することが好ましい。
【0024】
[ピール強度]
前記接着性多孔質絶縁層のピール強度は、前記ピール強度測定用素子を用いたときの、室温(25℃)において測定したピール測定法によるピール強度である。
前記接着性多孔質絶縁層のピール強度としては、2N/m以上であり、5N/m以上が好ましく、25N/m以上がより好ましい。
前記ピール強度測定用素子は、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着することにより作製する。
【0025】
前記ピール強度は、例えば、ピール強度測定用装置として、粘着・被膜剥離解析装置Versatile Peel Analyzer(協和界面化学株式会社製)を用いて測定することができ、具体的には、以下の手順により測定することができる。
ピール強度測定用素子の基体aにおける接着性多孔質絶縁層が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の試料固定面と、を薄型両面テープで固定する。次いで、ピール強度測定用素子の基体bの接着性多孔質絶縁層が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の引張り圧子と、をテープで固定する。下記に示す測定条件にてピール強度を測定する。
【0026】
-ピール強度の測定条件-
・ピール強度測定用装置:粘着・被膜剥離解析装置Versatile Peel Analyzer(協和界面化学株式会社製)
・薄型両面テープ:No.5000NS(幅20mm、日東電工株式会社製)
・テープ:No.29(幅18mm、日東電工株式会社製)
・測定速度:30mm/min
・剥離角度:90°
・剥離距離:75mm
なお、剥離距離は、ピール強度に大きく寄与しないことから、任意の値としてよい。また、ピール強度測定用素子の固定に用いる薄型両面テープ及びテープは、前記接着性多孔質絶縁層のピール強度よりも十分に高いピール強度を有し、測定中に剥離しないものを適宜選択することができる。
【0027】
(積層体)
本発明の第1の実施形態における積層体は、上記した本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物と、前記接着性多孔質絶縁層の少なくとも一部を介して接着された他の基材と、を有する。
【0028】
また、本発明の第2の実施形態における積層体は、第1の基材と、第2の基材と、を備え、前記第1の基材は、第1の接着性多孔質絶縁層を有し、前記第1の基材と、前記第2の基材とは、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着され、前記第1の接着性多孔質絶縁層は、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂は、架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上である。
前記第2の基材が、第2の接着性多孔質絶縁層を有し、前記第1の基材と、前記第2の基材とが、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の接着性多孔質絶縁層とが、対向するよう積層される態様が好ましい。
前記積層体が、前記第1の基材が電極であり、前記第2の基材がフィルムセパレータである態様であってもよく、前記第1の基材が電極であり、前記第2の基材が電極である態様であってもよく、いずれの態様も好適に採用できる。
【0029】
これらの接着性多孔質絶縁層は、前記ピール強度が2N/m以上であり接着性に優れることから、第1の接着性多孔質絶縁層と各基材との界面、第2の接着性多孔質絶縁層を有する場合には、加えて第2の接着性多孔質絶縁層と第2の基材との界面や、第1の接着性多孔質絶縁層と第2の接着性多孔質絶縁層との界面における十分な接着性を担保しつつ、第1の接着性多孔質絶縁層乃至第2の接着性多孔質絶縁層のバインダの含有量を抑制することができる。第1の接着性多孔質絶縁層乃至第2の接着性多孔質絶縁層においてバインダを含有させた場合、前記バインダが溶融した結果、第1の接着性多孔質絶縁層乃至第2の接着性多孔質絶縁層が有する孔を塞ぎ、多孔質が維持できず、電池特性を低下させてしまう。
前記第1の接着性多孔質絶縁層におけるバインダの含有量としては、前記第1の接着性多孔質絶縁層の総量に対し、0質量%以上30質量%以下が好ましく、バインダが実質的に含有されないような含有量である0質量%以上10質量%以下がより好ましく、0質量%以上5質量%以下が更に好ましく、0質量%が更に好ましい。
なお、第2の接着性多孔質絶縁層を有する場合には、前記バインダの含有量は、前記第1の接着性多孔質絶縁層及び前記第2の接着性多孔質絶縁層の総量に対して規定する。
【0030】
<他の基材、第1の基材、第2の基材>
前記他の基材、第1の基材、及び第2の基材としては、前記基材において説明した事項をそれぞれ適宜選択することができる。
前記基材としては、電気化学素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートや多孔質絶縁層、セルロース繊維を含む紙セパレータであってもよく、電気化学素子用の電極基体や、電極基体上に設けられた電極合材層であってもよい。
【0031】
<<多孔質絶縁層>>
前記多孔質絶縁層は、電池特性を担保しつつ短絡などの抑制を目的に活物質上や、電極基体上であって、活物質に隣接するように設けることができる。
前記多孔質絶縁層としては、特に制限はなく、目的に応じて、空孔を複数有する構造体であり、かつ体積固有抵抗率が1×1012(Ω・cm)以上である多孔質体の層を適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィンやセルロース等の材質を主として形成されたシート状の絶縁層、電極等の基材上に形成された基材と一体型の絶縁層などが挙げられる。
【0032】
前記多孔質絶縁層の中でも、架橋性の樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、かつ前記ピール強度が2N/m未満である多孔質絶縁層が好ましい。
前記多孔質絶縁層における多孔質構造体としては、ピール強度、及びガラス転移点以外の特徴については、前記接着性多孔質絶縁層における多孔質構造体において説明した事項を適宜選択することができる。
前記多孔質構造体の前記ピール強度としては、2N/m未満であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記多孔質構造体のガラス転移点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記多孔質絶縁層における多孔質構造体の製造方法としては、前記接着性多孔質絶縁層における多孔質構造体について説明した、液体組成物、重合性化合物、液体、重合誘起相分離法などの事項を適宜選択することができる。
【0033】
前記多孔質樹脂の平均厚みとしては、特に限定はなく目的に応じて適宜選択することができるが、重合時の硬化均一性の点で、0.01μm以上500μm以下が好ましく、0.01μm以上100μm以下がより好ましく、1μm以上50μm以下が更に好ましく、10μm以上20μm以下が特に好ましい。平均厚みが0.01μm以上であることで、得られる多孔質樹脂の表面積が大きくなり、多孔質樹脂による機能を十分に得ることができる。また、平均厚みが500μm以下であることで、膜厚方向において重合時に用いる光や熱のムラが抑制され、膜厚方向において均一な多孔質樹脂を得ることができる。膜厚方向において均一な多孔質樹脂を作製することで多孔質樹脂の構造ムラを抑制し、液体や気体の透過性低下を抑制することができる。
多孔質樹脂を電気化学素子用の絶縁層として用いる場合は、前記多孔質絶縁層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0μm以上50.0μm以下が好ましく、5.0μm以上20.0μm以下がより好ましい。前記平均厚みが5.0μm以上であることで活物質の凹凸による短絡が生じにくく、20.0μm以下にすることで良好な電池特性が得られる。
前記多孔質絶縁層は、第1の電極と第2の電極とが対向する領域に主に配置される。すなわち、二次電池においてイオンの反応場となる領域であり、形成される多孔質絶縁層の膜厚が薄いほど良好な電池特性が得られる。
なお、このとき厚みとは、多孔質樹脂層のみからなる厚みであり、例えば、多孔質樹脂層の基材への染み込みが生じた場合は、多孔質樹脂層及び基材を含む層の厚みは含まれない。
【0034】
図1~
図3に、本実施形態における電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物(電極)、及び積層体(電気化学素子)の一例を示す。
図1及び
図2は、それぞれ本実施形態の平面図及び断面図を示し、
図1は、接着性多孔質絶縁層10bの塗布領域を示す。この実施形態では、第1の電極基体8の両面に第1の電極合材層9が設けられた基材の一方の面上(第1の電極合材層9上)に、多孔質絶縁層10aが設けられ、基材上の多孔質絶縁層10aの周囲の余白部分に接着性多孔質絶縁層10bが設けられる。
図3は、
図1及び
図2に示す電極を有する積層体(電気化学素子)の断面図を示す。
図3の積層体では、
図1及び
図2に示す電極(第1の電極)と、同様の構成の電極(第1の電極)とにより、第2の電極基体11の両面に第2の電極合材層12が設けられた第2の電極が挟持され、離間する2つの第1の電極合材層9が接着性多孔質絶縁層10bを介して接着される。
接着性多孔質絶縁層10bは、電極の最表層、言い換えると、電極の表面に露出した部分に設けられ、本実施形態では、電極の側面の外周部の少なくとも一部に設けられる。接着性多孔質絶縁層10bは、イオン透過性に優れるためセル内部の電解液の循環を妨げず、絶縁層の柔軟性に優れるため電極の積層ずれの発生を低減でき、良好な電池特性、及び安全性を得ることができる。
【0035】
図1及び
図4~
図5に、他の実施形態における電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物(電極)、及び積層体(電気化学素子)の一例を示す。
図1及び
図4は、それぞれ本実施形態の平面図及び断面図を示し、
図1は、接着性多孔質絶縁層10bの塗布領域を示す。この実施形態では、第1の電極基体8の両面に第1の電極合材層9が設けられた基材の一方の面上(第1の電極合材層9上)の全面に、多孔質絶縁層10aが設けられ、多孔質絶縁層10a上の周囲に接着性多孔質絶縁層10bが設けられる。
図5は、
図1及び
図4に示す電極を有する積層体(電気化学素子)の断面図を示す。
図5の積層体では、
図1及び
図4に示す電極(第1の電極)と、同様の構成の電極(第1の電極)とにより、第2の電極が挟持され、離間する2つの第1の電極合材層9が接着性多孔質絶縁層10bを介して接着される。
図6に示す積層体は、
図5の積層体の変形例であり、
図5の積層体に比べ、第2の電極基体11の端部が第2の電極合材層12の端部より延伸し、第2の電極基体11と第1の電極合材層9とが接着性多孔質絶縁層10bを介して接着される。同様に、もう一方の第1の電極合材層9も、接着性多孔質絶縁層10bを介して第2の電極基体11の他方の面と接着される。
【0036】
また、
図7~
図11に、更に他の実施形態における電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物(電極)、及び積層体(電気化学素子)の一例を示す。
図7及び
図8の平面図に、接着性多孔質絶縁層10bの塗布領域の他の変形例を示すように、第1の電極合材層9(基材)上に、多孔質絶縁層10aを設けることなく接着性多孔質絶縁層10bを設けた後(
図7)、多孔質絶縁層10aに代えてシートセパレータ13を設けてもよい(
図8)。
図9は、
図7に対応する断面図であり、
図10は、
図8に対応する断面図であり、
図11は、
図8及び
図10に示す電極を有する積層体(電気化学素子)の断面図を示す。
【0037】
また、
図12~
図13、及び
図14~
図15に、更に他の実施形態における電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物(電極)、及び積層体(電気化学素子)の一例を示す。
図12~
図13、及び
図14~
図15に示すように、第1の電極合材層9が第1の電極基体8の両面に設けられているが、第1の電極基体8の周辺部が露出しており、露出した第1の電極基体8上に接着性多孔質絶縁層10bが設けられていてもよい。
図12~
図13は、絶縁層としてシートセパレータ13を有する態様であり、
図14~
図15は、絶縁層として多孔質絶縁層10aを有する態様である。
図13は、
図12に示す電極を有する積層体(電気化学素子)の断面図を示し、
図15は、
図14に示す電極を有する積層体(電気化学素子)の断面図を示す。
図3、
図5、
図6、
図11、
図13及び
図15の積層体は、いずれも第1の電極と、第1の電極と絶縁された第2の電極とを含み、第1の電極と第2の電極が積層された電気化学素子である。
【0038】
(積層体の製造方法、及び積層体の製造装置)
本発明の積層体の製造方法は、接着性多孔質絶縁層形成工程と、積層工程と、接着工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
本発明の積層体の製造装置は、接着性多孔質絶縁層形成手段と、積層手段と、接着手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0039】
<接着性多孔質絶縁層形成工程、及び接着性多孔質絶縁層形成手段>
[電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物の製造方法]
前記接着性多孔質絶縁層形成工程は、第1の基材上に第1の接着性多孔質絶縁層を形成する工程であり、接着性多孔質絶縁層形成手段により好適に実施できる。
前記接着性多孔質絶縁層形成手段は、第1の基材上に第1の接着性多孔質絶縁層を形成する手段である。
前記第1の接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂が、架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上である。
前記接着性多孔質絶縁層形成工程により、上記した本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を好適に製造することができる。
【0040】
前記接着性多孔質絶縁層形成工程は、液体組成物を第1の基材上に付与する付与処理と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させる重合処理と、を有し、更に必要に応じてその他の処理を有する。
前記接着性多孔質絶縁層形成手段は、液体組成物を収容してなる収容容器と、前記収容容器に収容された前記液体組成物を基材上に付与する付与部と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させる重合部と、を有し、更に必要に応じてその他の部を有する。
【0041】
-液体組成物-
前記液体組成物は、重合性化合物、及び液体を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記液体組成物は、多孔質樹脂を形成し、前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
【0042】
前記液体組成物は、多孔質構造体を形成する。すなわち、液体組成物における重合性化合物の重合及び硬化により樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(「多孔質樹脂」又は「多孔質構造体」とも称する)を形成する。
前記多孔質構造体からなる絶縁層のピール強度が2N/m以上である場合、前記絶縁層は、本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物における接着性多孔質絶縁層に対応し、また、本発明の積層体における第1の接着性多孔質絶縁層に対応する。
前記多孔質構造体からなる絶縁層のピール強度が2N/m未満である場合、前記多孔質絶縁層は、その他の多孔質絶縁層に対応する。
ここで、「液体組成物が多孔質樹脂を形成する」とは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の処理(例えば、加熱処理等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。
【0043】
--重合性化合物--
前記重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物の組成及び特徴により多孔質樹脂を形成する。
前記重合性化合物は、重合することにより重合物(樹脂)を形成する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の重合性化合物を選択することができるが、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。
前記重合性化合物としては、例えば、1官能、2官能、又は3官能以上のラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等のラジカル重合性化合物;重合性官能基以外の官能基を更に有する機能性モノマー、機能性オリゴマーなどが好適に挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
前記重合性化合物の重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基の少なくともいずれかが好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
前記重合性化合物が、エネルギー照射によって重合可能であることが好ましく、熱又は光により重合可能であることがより好ましい。
【0044】
重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与(例えば、光の照射や加熱)等で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、エン-チオール反応により形成される樹脂などが好適に挙げられる。
これらの中でも、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂がより好ましく、また、生産性の観点から、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂がより好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくともいずれかを有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0045】
前記活性エネルギー線としては、液体組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましい。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0046】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
前記重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。
前記含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0050】
--液体--
前記液体は、ポロジェンを含み、更に必要に応じて、ポロジェン以外のその他の液体を含む。
前記ポロジェンは、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中にポロジェンが含まれることで、重合性化合物が重合した場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光又は熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。
液体乃至ポロジェンは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、液体は重合性を有さない。
【0051】
ポロジェンの1種単独としての沸点又は2種類以上を併用した場合の沸点としては、常圧において、50℃以上250℃以下が好ましく、70℃以上200℃以下がより好ましく、120℃以上190℃以下が更に好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを除去する工程における時間が短縮され、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に、品質が向上する。
【0052】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類;γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;などを挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0053】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。
ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物及び重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0054】
前記液体乃至ポロジェンの含有量としては、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。
前記液体乃至ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記液体乃至ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0055】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さないその他の液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。
前記その他の液体の含有量としては、液体組成物全量に対して10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0質量%(含まれないこと)が特に好ましい。
【0056】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0057】
--その他の成分--
---重合開始剤---
前記液体組成物は、重合開始剤などのその他の成分を含んでもよい。
前記重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、例えば、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、塩基発生剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0058】
光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光ラジカル発生剤を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名イルガキュアやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、アセトフェノン誘導体などが挙げられる。
具体的な化合物としては、例えば、α-ヒドロキシ-アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド;チタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン;キサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物;ジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0059】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は、通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0060】
重合開始剤の含有量としては、十分な硬化速度が得られる点で、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
【0061】
前記液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。
【0062】
[重合誘起相分離]
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質体を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0063】
次に、重合性化合物を含む液体組成物による、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たし、樹脂骨格による共連続構造を有する多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、三次元網目構造の共連続構造を有する多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0064】
[光透過率]
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率は、30%以上である。
ポロジェンと重合性化合物との相溶性は、前記光透過率により判断することができる。
前記光透過率が30%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を、重合性化合物と液体とが非相溶の状態であると判断する。
【0065】
前記光透過率は、具体的には以下の方法により測定することができる。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、以下の条件により、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2、ジーエルサイエンス株式会社製)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0066】
[ヘイズ値の上昇率]
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、前記ヘイズ値の上昇率により判断することができる。
前記ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を、樹脂と液体とが相溶の状態であると判断する。
ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。
【0067】
前記ヘイズ値の上昇率は、具体的には、前記液体組成物を重合して作製した平均厚み100μmのヘイズ測定用素子の重合前後におけるヘイズ値の上昇率であり、以下の方法により測定することができる。
-ヘイズ測定用素子の作製-
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートによりギャップ剤としての樹脂微粒子を基板上に均一分散させる。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。ギャップ剤のサイズ(平均粒子径100μm)がヘイズ測定用素子の平均厚みに相当する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm2、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0068】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。
なお、測定に用いる装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業株式会社製
【0069】
[粘度]
液体組成物の粘度としては、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0070】
[ハンセン溶解度パラメータ(HSP)]
上記のポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を通じて予測することができる。
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、2種の物質の相溶性を予測するのに有用なツールであって、チャールズハンセン(Charles M.Hansen)によって発見されたパラメータである。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、実験的及び理論的に誘導された下記3つのパラメータ(δD、δP、及びδH)を組み合わせることにより表される。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の単位は、MPa0.5又は(J/cm3)0.5が用いられる。本実施形態では(J/cm3)0.5を用いた。
・δD:ロンドン分散力に由来するエネルギー。
・δP:双極子相互作用に由来するエネルギー。
・δH:水素結合力に由来するエネルギー。
【0071】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、(δD,δP,δH)のように表されるベクトル量であり、3つのパラメータを座標軸とする3次元空間(ハンセン空間)上にプロットして表される。一般的に使用される物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、データベース等の公知の情報源があるため、例えば、データベースを参照することによって、所望の物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を入手することができる。データベースにハンセン溶解度パラメータ(HSP)が登録されていない物質は、例えばHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のコンピュータソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法からハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算することができる。2種以上の物質を含む混合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、各物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に、混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出される。なお、本実施形態では、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「液体のハンセン溶解度パラメータ」と表す。
【0072】
また、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とに基づく相対的エネルギー差(RED)は、下記式で表される。
【数1】
上記式中、Raは、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)との相互作用間距離を示し、Roは、溶質の相互作用半径を示す。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)間の相互作用間距離(Ra)は2種の物質の距離を示す。その値が小さいほど、3次元空間(ハンセン空間)内で、2種の物質がより接近することを意味し、互いに溶解する(相溶する)可能性がより高くなることを示す。
2種の物質(溶質A及び溶液B)に対するそれぞれのハンセン溶解度パラメータ(HSP)が下記のようであると仮定すれば、Raは下記のように計算することができる。
・HSP
A=(δD
A、δP
A、δH
A)
・HSP
B=(δD
B、δP
B、δH
B)
・Ra=[4×(δD
A-δD
B)
2+(δP
A-δP
B)
2+(δH
A-δH
B)
2]
1/2
Ro(溶質の相互作用半径)は、例えば、次に説明するハンセン溶解球法により決定することができる。
【0073】
-ハンセン溶解球法-
最初に、Roを求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体(上記の「液体(ポロジェン)」とは意味が区別される液体)とを準備し、各評価用液体に対する対象の物質の相溶性試験を行う。相溶性試験において、相溶性を示した評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と相溶性を示さなかった評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とを、ハンセン空間上に各々プロットする。プロットされた各評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて、相溶性を示した評価用液体群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含し、相溶性を示さなかった評価用液体群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含しないような仮想の球体(ハンセン球)をハンセン空間上に作成する。ハンセン球の半径が物質の相互作用半径R0、中心が物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)となる。なお、相互作用半径R0及びハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体との間における相溶性の評価基準(相溶したか否かの判断基準)は評価者自身が設定する。本実施形態における評価基準は後述する。
【0074】
-重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
本実施形態における重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物の相互作用半径を、ハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本実施形態における重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC」と表し、重合性化合物の相互作用半径を「重合性化合物の相互作用半径D」と表す。言い換えると、「重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC」及び「重合性化合物の相互作用半径D」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「液体のハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0075】
重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC及び重合性化合物の相互作用半径Dは、下記[1-1]及び上記した光透過率の測定方法に従い、重合性化合物の評価用液体に対する相溶性の評価(「重合性化合物、及び評価用液体を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率」に基づく評価)により求められる。
【0076】
[1-1]透過率測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体を準備し、重合性化合物、各評価用液体、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、透過率測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体は、下記記載の21種類の評価用液体を用いる。
~透過率測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物:28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用液体群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、n-テトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0077】
-重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物が重合することにより形成される樹脂の相互作用半径はハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本実施形態における重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「樹脂のハンセン溶解度パラメータA」と表し、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂の相互作用半径を「樹脂の相互作用半径B」と表す。言い換えると、「樹脂のハンセン溶解度パラメータA」及び「樹脂の相互作用半径B」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「液体のハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0078】
樹脂のハンセン溶解度パラメータA及び樹脂の相互作用半径Bは、下記[2-1]、及び上記したヘイズ値の上昇率の測定方法に従い、樹脂の評価用液体に対する相溶性の評価(「重合性化合物、及び評価用液体を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率」に基づく評価)により求められる。
【0079】
[2-1]ヘイズ測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂の前駆体(重合性化合物)と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体を準備し、重合性化合物、各評価用液体、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、ヘイズ測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体は、下記記載の21種類の評価用液体を用いる。
~ヘイズ測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂の前駆体(重合性化合物):28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用液体群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、n-テトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0080】
-樹脂と液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物及び評価用液体を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率に基づいて決定される重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータA、当該樹脂の相互作用半径B、並びにポロジェンのハンセン溶解度パラメータ、から下記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.00以上であることが好ましく、1.10以上がより好ましく、1.20以上が更に好ましく、1.30以上が特に好ましい。
【数2】
樹脂とポロジェンのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.00以上である場合、重合性化合物が液体組成物中において重合して形成される樹脂とポロジェンが相分離を起こしやすくなり、多孔質樹脂がより形成されやすくなるため好ましい。
【0081】
-重合性化合物と液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物及び評価用液体を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率に基づいて決定される重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC、当該重合性化合物と評価用液体の相溶性に基づいて決定される重合性化合物の相互作用半径D、並びに液体のハンセン溶解度パラメータ、から下記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.05以下であることが好ましく、0.90以下がより好ましく、0.80以下が更に好ましく、0.70以下が特に好ましい。
【数3】
重合性化合物とポロジェンのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.05以下である場合、重合性化合物とポロジェンが相溶性を示しやすくなり、0に近づくに従ってより相溶性を示す。そのため、相対的エネルギー差(RED)が1.05以下であることで、重合性化合物をポロジェンに溶解させてから経時的に重合性化合物が析出しないような高い溶解安定性を示す液体組成物が得られる。重合性化合物がポロジェンに対する高い溶解性を有することで、液体組成物の吐出安定性を保つことができるため、例えば、インクジェット方式のような液体組成物を吐出する方式にも好適に本実施形態の液体組成物を適用することができる。また、相対的エネルギー差(RED)が1.05以下であることで、重合反応開始前の液体組成物の状態において重合性化合物とポロジェンの間における分離が抑制され、不規則又は不均一な多孔質樹脂の形成が抑制される。
【0082】
[液体組成物の製造方法]
液体組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製することが好ましい。
【0083】
<<収容容器>>
前記収容容器は、前記液体組成物と、容器とを含み、前記容器に液体組成物が収容された収容容器である。
容器としては、例えば、ガラス瓶、プラスチック容器、プラスチックボトル、ステンレスボトル、一斗缶、ドラム缶などが挙げられる。
【0084】
<<付与処理、付与部>>
前記付与処理は、前記収容容器に収容された前記液体組成物を基材上に付与する処理であり、付与部により好適に実施できる。
前記吐出部は、前記液体組成物を基材上に付与する部である。
【0085】
前記付与処理及び付与部としては、液体組成物を付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。これらの中でも、インクジェット印刷法が好ましい。
【0086】
<<重合処理、重合部>>
前記重合処理は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させる処理であり、重合部により好適に実施できる。
前記重合部は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させる部である。
前記重合により、前記液体組成物中の前記重合体化合物が重合し、重合誘起相分離により、多孔質樹脂が形成され、基材と、基材上に多孔質樹脂とを有する積層体を製造することができる。
前記重合処理及び重合部としては、特に制限はなく、用いる重合開始剤や重合様式などの目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合の場合、波長365nmの紫外線を3秒間照射する光照射処理及び光照射方法、熱重合の場合、150℃真空乾燥で12時間加熱する加熱処理及び加熱方法などが挙げられる。
【0087】
<<その他の処理、その他の部>>
前記積層体の製造装置におけるその他の処理としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去処理などが挙げられる。
前記積層体の製造方法におけるその他の部としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去部などが挙げられる。
【0088】
<<<除去処理、除去部>>>
前記除去処理は、前記重合処理により液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から液体を除去する処理であり、除去部により好適に実施できる。
前記除去部は、前記重合部で液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から液体を除去する部である。
前記液体を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒、分散液などの液体を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで液体の除去がより促進され、形成される絶縁層における液体の残存を抑制できるので好ましい。
【0089】
<積層工程、及び積層手段>
前記積層工程は、前記第1の接着性多孔質絶縁層が形成された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の基材とが対向するよう積層する工程であり、積層手段により好適に実施できる。
前記積層手段は、前記第1の接着性多孔質絶縁層が形成された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の基材とが対向するよう積層する手段である。
前記第1の基材が電極であり、前記第2の基材がフィルムセパレータである態様であってもよく、前記第1の基材が電極であり、前記第2の基材が電極である態様であってもよく、いずれの態様も好適に採用できる。接着性多孔質絶縁層が形成される電極としては、電極基体上であってもよく、電極基体上に設けられた電極合材層上であってもよい。
【0090】
<接着工程、及び接着手段>
前記接着工程は、前記積層された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着させる工程であり、接着手段により好適に実施できる。
前記接着手段は、前記積層された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着させる手段である。
前記接着する方法としては、温度:50℃以上300℃以下、エアシリンダー推力:50N以上1,000N以下、及び時間:0.5秒間以上10秒間以下の条件で熱接着する方法が挙げられる。
前記接着する手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱板式シーラー(株式会社石崎電機製作所製)などが挙げられる。
【0091】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで接着性多孔質絶縁層、乃至積層体を形成する実施形態]
図17は、本実施形態の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、及び積層体の製造方法を実現するための接着性多孔質絶縁層の製造装置(液体吐出装置)の一例を示す模式図である。
接着性多孔質絶縁層の製造装置500は、上記した液体組成物を用いて接着性多孔質絶縁層を製造する装置である。接着性多孔質絶縁層の製造装置は、印刷基材4上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100と、液体組成物層に熱又は光を付与して重合させる重合処理を実施する重合部200と、多孔質樹脂前駆体6を加熱し、その孔内の溶媒を除去することで多孔質樹脂を得る除去処理を実施する除去部300を備える。接着性多孔質絶縁層の製造装置は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、印刷部100、重合部200、加熱部300の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
【0092】
-印刷部100-
印刷部100は、印刷基材4上に接着性多孔質絶縁層を形成するための液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、液体組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
収容容器1bは、液体組成物7を収容し、印刷部100は、印刷装置1aから液体組成物7を吐出して、印刷基材4上に液体組成物7を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、積層体の製造装置と一体化した構成であってもよいが、積層体の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、積層体の製造装置と一体化した収容容器や積層体の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物7を安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外及び可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物7が外光により重合開始されることが防止される。
【0093】
-重合部200-
重合部200は、
図17に示すように、光重合の場合、重合工程を実施する重合手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有し、光照射装置2aは、印刷部100により形成された液体組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体6を得る。
光照射装置2aは、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始及び進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源などが挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
次に、光照射装置2aの光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行するため、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し、多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm
2以上1W/cm
2以下が好ましく、30mW/cm
2以上300mW/cm
2以下がより好ましい。
【0094】
重合不活性気体循環装置2bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
重合不活性気体のO2濃度としては、阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)が好ましく、0%以上15%以下がより好ましく、0%以上5%以下が更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2bは安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0095】
重合部200は、熱重合の場合は、加熱装置であってもよい。加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱(例えば、ホットプレート)、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
また、加熱温度や時間、又は光照射の条件に関しては、液体組成物7に含まれる重合性化合物や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0096】
-除去部300-
除去部300は、
図17に示すように、加熱装置3aを有し、重合部200により形成した多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、残存する液体を乾燥させて除去する液体除去工程を行う。これにより多孔質樹脂を形成することができる。除去部300は、液体除去を減圧下で実施してもよい。
また、除去部300は、多孔質膜前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、重合部200で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、及び多孔質膜前駆体6に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も行う。なお、これらの重合促進工程及び開始剤除去工程は、液体除去工程と同時ではなく、液体除去工程の前又は後に実施されてもよい。
さらに、除去部300は、液体除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を行う。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒータや温風ヒータなどが挙げられる。
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質膜前駆体6に含まれる液体の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0097】
また、
図18のように、
図17の接着性多孔質絶縁層の製造装置に、追加の印刷部100’を更に有してもよい。
図18の接着性多孔質絶縁層の製造装置は、印刷基材4上に接着性多孔質絶縁層を形成するための液体組成物を付与する付与である印刷部100に加えて、印刷基材4上に多孔質絶縁層を形成するための液体組成物を付与する付与である追加の印刷部100’を有する。印刷基材4上の複数の領域に、それぞれ異なる液体組成物を付与することにより、続く、重合部200、及び除去部300により、それぞれ接着性多孔質絶縁層と、多孔質絶縁層を形成することができる。
【0098】
図19は、本実施形態の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、乃至積層体の製造方法を実現するための接着性多孔質絶縁層の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
液体吐出装置300’は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
前記接着性多孔質絶縁層の製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0099】
本実施形態の接着性多孔質絶縁層、乃至積層体の製造方法の他の例を
図20に示す。
基材上に接着性多孔質樹脂が付与された付与物210の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、基材211上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、接着性多孔質樹脂212を形成する側が、
図20中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、
図20中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、
図16と同様にして、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、重合部309に搬送される。その結果、接着性多孔質樹脂212が形成され、基材上に接着性多孔質樹脂が設けられた付与物210が得られる。その後、接着性多孔質樹脂が付与された付与物210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
重合部309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
重合部309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、熱重合の場合、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等;光重合の場合、紫外線照射装置などが挙げられる。なお、重合部309は、複数個設置されていてもよい。
【0100】
加熱又は光照射の条件は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。重合により液体組成物12Aが重合されて接着性多孔質樹脂が形成される。
また、
図21のように、タンク307Aは、タンク307Aに接続されたタンク313Aから液体組成物を供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数の液体吐出ヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0101】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで接着性多孔質絶縁層、乃至積層体を形成する実施形態]
図22~23は、本実施形態の接着性多孔質絶縁層の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、
図22は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、
図23は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図22に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0102】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラム4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド101は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0103】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上のインク層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、液体組成物を熱重合させて、多孔質樹脂を形成する。また、液体が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の多孔質樹脂が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0104】
図23に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、熱重合することで多孔質樹脂を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0105】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した多孔質樹脂は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0106】
[電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、及び積層体の用途]
<電気化学素子用途>
前記電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、及び積層体の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着性多孔質絶縁層が、電気化学素子用部材の接着用の接着性多孔質絶縁層であることが好ましい。
これら用途として用いる場合には、例えば、基材としての、電極基体上に予め形成された電極合材層上へ液体組成物を付与することで絶縁層(セパレータ)を形成することが好ましい。
電池等の蓄電素子、燃料電池等の発電素子などに用いる電極を基材とした際に、多孔質構造体である絶縁層と基材の密着性が低いと、外部からの衝撃により構造体が変形する場合や、金属片などの異物が貫通した際などには多孔質構造体と基材間にずれが生じ、短絡が生じる懸念がある。
本実施形態の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、及び積層体によれば、接着性を有し、絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れる接着性多孔質樹脂を基材上に形成することができ、電極の積層ずれの発生を低減でき、短絡の発生を低減できる。
電気化学素子用の絶縁層としては、例えば、所定の大きさの空孔や空隙率を有するフィルム状の多孔質絶縁層等を用いることが知られている。一方で、前記液体組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を適宜変更することができ、電気化学素子の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、前記液体組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、電気化学素子の形状面における設計自由度を向上させることができる。
なお、絶縁層は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。また、本開示において絶縁層と表す場合、層状の形状に限られない。
【0107】
前記基材は、電気化学素子用の絶縁層(フィルムセパレータ)であってもよく、接着性多孔質絶縁層とは異なる多孔質絶縁層であってもよい。前記接着性多孔質樹脂が、前記多孔質絶縁層上に形成されることで、絶縁層全体としての耐熱性、耐衝撃性、耐高温収縮性などの諸機能を追加又は向上させることができる。
【0108】
(電極)
本発明の電極は、上記した本発明の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を有し、前記基体が電極基体を有し、最表層として前記接着性多孔質絶縁層を有する。
【0109】
(電極の製造方法、及び電極の製造装置)
本発明の電極の製造方法は、電極基体を有する基材上に接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成工程を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
本発明の電極の製造装置は、電極基体を有する基材上に接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成手段を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、前記樹脂が架橋樹脂であり、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法による、前記接着性多孔質絶縁層のピール強度が、2N/m以上である。
前記接着性多孔質絶縁層形成工程及び手段としては、前記基材が電極基体を有すること以外は、本発明の積層体の製造方法及び製造装置における接着性多孔質絶縁層形成工程において説明した事項を適宜選択することができる。
【0110】
<電極(第1の電極、第2の電極)>
前記電極は、電極基体と、接着性多孔質絶縁層と、を含み、更に必要に応じて、電極基体上に電極合材層と、多孔質絶縁層との少なくともいずれかを含んでいてもよい。
負極と正極とを総称して「電極」と称し、負極用電極基体と正極用電極基体とを総称して「電極基体」と称し、負極合材層と正極合材層とを総称して「電極合材層」と称する。
また、第1の電極が負極であった場合は第2の電極は正極を指し、第1の電極が正極であった場合は第2の電極は負極を指す。
なお、正極および負極には電極合材層を設けてもよいが、電池内部で反応が十分に生じる場合は電極合材層を除くことができる。
また、電池特性を担保しつつ短絡などを抑制する目的で、接着性多孔質絶縁層とは異なる多孔質絶縁層を有していてもよい。
【0111】
<電極基体>
前記電極基体としては、導電性を有する基材であれば、特に制限はなく、例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、及びそれらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが挙げられる。このような電極基体は、一般な蓄電デバイスである2次電池、キャパシタ等に好適に用いることができ、これらの中でも、リチウムイオン2次電池に好適に用いることができる。
また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパー繊維状の電極を不織又は織状で平面にしたものや上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。更に、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基材上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0112】
<電極合材層>
前記電極合材層(以下、「活物質層」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(負極活物質又は正極活物質)を含み、更に必要に応じて、バインダ(結着剤)、増粘剤、導電剤等を含んでもよい。
負極合材層及び正極合材層は、粉体状の活物質や結着剤、導電材等を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成される。塗布方法はスプレー、ディスペンサー、ダイコーター、引き上げ塗工等により塗布される。
電極合材層は、粉体状の活性物質や触媒組成物を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成され、通常は、スプレー、ディスペンサー、ダイコーターや引き上げ塗工を用いた印刷が用いられ、塗布後に乾燥して形成される。
【0113】
<<活物質>>
正極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、アルカリ金属含有遷移金属化合物を正極用活物質として使用できる。リチウム含有遷移金属化合物として、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePO4などのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、これらの中でも、Mn、Al、Co、Ni及びMgが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは又は2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ニッケル水素電池における上記活物質としては水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0114】
負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を負極活物質として使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0115】
ニッケル水素電池における上記活物質としては、水素吸蔵合金としては、AB2系あるいはA2B系の水素吸蔵合金が例示される。
【0116】
<<結着剤>>
正極又は負極の結着剤としては、例えば、PVDF、PTFE、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、及びヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。また電極に含ませる導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0117】
燃料電池での活物質は、一般に、カソード電極やアノード電極の触媒として、白金、ルテニウムあるいは白金合金などの金属微粒子をカーボンなどの触媒担体に担持させたものが用いられる。触媒担体の表面に触媒粒子を担持させるには、例えば触媒担体を水中に懸濁させ、触媒粒子の前駆体(塩化白金酸、ジニトロジアミノ白金、塩化第二白金、塩化第一白金、ビスアセチルアセトナート白金、ジクロロジアンミン白金、ジクロロテトラミン白金、硫酸第二白金塩化ルテニウム酸、塩化イリジウム酸、塩化ロジウム酸、塩化第二鉄、塩化コバルト、塩化クロム、塩化金、硝酸銀、硝酸ロジウム、塩化パラジウム、硝酸ニッケル、硫酸鉄、塩化銅などの合金成分を含むもの)を添加し、懸濁液中に溶解させ、アルカリを加えて金属の水酸化物を生成させると共に、触媒担体表面に担持させた触媒担体を得る。かかる触媒担体を電極上に塗布し、水素雰囲気下などで還元させることで、表面に触媒粒子(活物質)が塗布された電極を得る。
【0118】
太陽電池等の場合、活物質は、酸化タングステン粉末や酸化チタン粉末のほかSnO2、ZnO、ZrO2、Nb2O5、CeO2、SiO2、Al2O3といった酸化物半導体層があげられ、半導体層には、色素が担持させられており、例えば、ルテニウム・トリス型の遷移金属錯体、ルテニウム-ビス型の遷移金属錯体、オスミウム-トリス型の遷移金属錯体、オスミウム-ビス型の遷移金属錯体、ルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、フタロシアニン及びポルフィリン、有機-無機のペロブスカイト結晶などの化合物を挙げることができる。
【0119】
<<導電剤>>
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0120】
(電気化学素子)
本発明の第1の実施形態における電気化学素子は、第1の電極と、前記第1の電極と絶縁された第2の電極とを含み、前記第1の電極と前記第2の電極が積層された電気化学素子であって、前記第1の電極、及び前記第2の電極の少なくともいずれかが、上記した本発明の電極である。
本発明の第2の実施形態における電気化学素子は、上記した本発明の積層体を有し、前記第1の基材が電極基体を有し、前記第2の基材が電極基体を有する。
本実施形態を適用できる電気化学素子としては、特に制限はなく、一般に蓄電素子である二次電池、キャパシタなどが挙げられ、中でも、リチウムイオン二次電池が好適に挙げられる。
また、本実施形態に係る電気化学素子用部材は、前記第1の電極が、前記第2の電極の外側に配置され、前記接着性多孔質絶縁層を介して前記第2の電極と接着されることが好ましい。
例えば、負極が正極の外側に配置され、負極と正極とが絶縁層を挟んで積層され、前記接着性多孔質絶縁層を介して接着され、負極と正極が絶縁層により互いに絶縁された構造を含む。電気化学素子用部材、電気化学素子用部材に注入された電解質、電気化学素子用部材及び電解質を封止する外装等により電池が形成される。
【0121】
<電解質>
電解質は、電解液で構成されていてもよいし、固体電解質で構成されていてもよい。電解質層が電解液である場合には、非水溶媒に電解質塩を溶解してなる非水電解液であることが好ましい。
【0122】
-非水溶媒-
前記非水溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。
前記非プロトン性有機溶媒としては、例えば、カーボネート系有機溶媒、エステル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒などが挙げられ、低粘度な溶媒が好ましい。
前記カーボネート系有機溶媒としては、例えば、鎖状カーボネート、環状カーボネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、鎖状カーボネートが、電解質塩の溶解力が高い点で好ましい。
【0123】
前記鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)が好ましい。
ジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とを組み合わせた混合溶媒を用いる場合には、ジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)の混合割合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0124】
前記環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)が好ましい。
環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)と、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)とを組み合わせた混合溶媒を用いる場合には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合割合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0125】
前記エステル系有機溶媒としては、例えば、環状エステル、鎖状エステルなどが挙げられる。
環状エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(γBL)、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどが挙げられる。鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、ギ酸アルキルエステルなどが挙げられる。
前記酢酸アルキルエステルとしては、例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチルなどが挙げられる。
前記ギ酸アルキルエステルとしては、例えば、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチルなどが挙げられる。
【0126】
前記エーテル系有機溶媒としては、例えば、環状エーテル、鎖状エーテルなどが挙げられる。
前記環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソランなどが挙げられる。
前記鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトシキエタン(DME)、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0127】
-電解質塩-
非水電解液に用いる電解質塩としては、リチウム塩が好ましい。
前記リチウム塩としては、非水溶媒に溶解し、高いイオン伝導度を示すものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、ホウ弗化リチウム(LiBF4)、六弗化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(SO2CF3)2)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiN(SO2C2F5)2)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiN(SO2F)2)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電極中へのアニオンの吸蔵量の大きさの観点から、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2が好ましい。
電解質塩の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、放電容量と出力の両立の点から、非水溶媒中で、1.0mol/L以上6mol/L以下が好ましく、1.5mol/L以上4mol/L以下がより好ましい。
【0128】
-固体電解質-
固体電解質として利用可能な固体電解質粒子として、例えば、硫化物系非晶質固体 電解質粒子や酸化物系非晶質固体電解質粒子、結晶質酸化物などが挙げられる。
【0129】
(電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置)
本発明の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極の製造装置により電極を製造する電極製造部と、前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化部と、を有し、必要に応じて、更にその他の手段を有する。
【0130】
<電極製造工程、及び電極製造部>
前記電極製造工程は、上記した本発明の電極の製造方法において説明した事項を適宜選択することができ、接着性多孔質絶縁層形成工程を有し、更に必要に応じて、電極加工工程などのその他の工程を有する。
前記電極製造部は、上記した本発明の電極の製造装置において説明した事項を適宜選択することができ、接着性多孔質絶縁層形成手段を有し、更に必要に応じて、電極加工手段などのその他の手段を有する。
前記電極製造工程、及び前記電極製造部により、電極基体と、前記電極基体上に接着性多孔質絶縁層とを有する電極を製造することができる。電極は、電解質層を有する積層電極であってもよく、電極基体上に設けられた電極合材層と、前記多孔質樹脂と、が一体化された電解質層一体型の積層電極であってもよい。
前記付与処理、及び付与部としては、積層体の製造方法、及び積層体の製造装置において説明した事項を適宜選択することができる。
前記重合処理、及び重合部としては、積層体の製造装置、及び積層体の製造方法において説明した事項を適宜選択することができる。
【0131】
<素子化工程、及び素子化部>
前記素子化工程は、前記積層電池を用いて電気化学素子を製造する工程である。
前記素子化部は、前記積層電池を用いて電気化学素子を製造する手段である。
電池を用いて電気化学素子を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の電気化学素子の製造方法を選択することができ、例えば、対向電極の設置、巻回又は積層、容器への収容の少なくともいずれかを行い蓄電素子とする方法が挙げられる。
なお、素子化工程としては、素子化の全行程を備える必要はなく、素子化の一部の工程を含むものであってもよい。
【0132】
<電極加工工程、及び電極加工部>
電極加工部は、付与部よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する。電極加工部は、裁断、折り畳み、及び貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。積層電極加工部は、例えば、樹脂層が形成された積層電極を裁断し、積層電極の積層体を作製することができる。電極加工部は、樹脂層が形成された積層電極を巻回又は積層することができる。
電極加工部は、例えば、電極加工装置を有し、多孔質樹脂層が形成された積層電極の裁断やつづら折り、積層や巻回を目的の電池形態に応じて実施する。
電極加工部によって行われる電極加工工程は、例えば、付与工程よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する工程である。電極加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、及び貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【実施例0133】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0134】
<樹脂形成用の液体組成物の調製>
樹脂1~4形成用の液体組成物1~4を、それぞれ以下に示す割合で材料を混合して調製した。
-樹脂1形成用の液体組成物1の調製-
重合性化合物としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(EBECRYL130、ダイセル・オルネクス株式会社製)を29.0質量%、ポロジェンとしてジプロピレングリコールモノメチルエーテル(関東化学工業株式会社製)を70.0質量%、重合開始剤としてIrgacure184(BASF社製)を1.0質量%の割合で混合し、その他の多孔質樹脂である樹脂1形成用の液体組成物1を得た。
【0135】
-樹脂2形成用の液体組成物2の調製-
重合性化合物としてKAYARAD PEG400DA(日本化薬株式会社製)を29.0質量%、ポロジェンとしてデカン酸メチル(関東化学工業株式会社製)を70.0質量%、重合開始剤としてIrgacure819(BASF社製)を1.0質量%の割合で混合し、接着性多孔質樹脂である樹脂2形成用の液体組成物2を得た。
【0136】
-樹脂3形成用の液体組成物3の調製-
熱可塑性樹脂としてW#9100(株式会社クレハ製)を29.0質量%、溶媒としてNMP(三菱ケミカル株式会社製)を70.0質量%、重合開始剤としてIrgacure819(BASF社製)を1.0質量%の割合で混合し、比較用の熱可塑性樹脂である樹脂3形成用の液体組成物3を得た。
【0137】
-樹脂4形成用の液体組成物4の調製-
重合性化合物としてSR502 NS(エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、SARTOMER社製)を29.0質量%、ポロジェンとしてデカン酸メチル(関東化学工業株式会社製)を70.0質量%、重合開始剤としてIrgacure819(BASF社製)を1.0質量%の割合で混合し、接着性多孔質樹脂である樹脂4形成用の液体組成物4を得た。
【0138】
<無機固体物層形成用の液体組成物の調整>
以下に示す割合で材料を混合したプレ分散液を、以下の手順で分散することで無機固体物層形成用の液体組成物を調整した。
-無機固体物層形成用の液体組成物-
無機固体物としてα-アルミナ(一次粒子径(D50):0.5μm、比表面積:7.8g/m2)を40.0質量%、ジメチルスルホキシドとエチレングリコールの混合溶液(DMSO-EG、質量比:3:4)を58.0質量%、分散剤としてマリアリムHKM-150A(日油株式会社製)を2.0質量%の比率で混ぜ合わせたプレ分散液を調製した。このプレ分散液を、ジルコニアビーズ(Φ2mm)と一緒に容器に入れ、冷凍ナノ粉砕機NP-100(株式会社シンキー製)にて1,500rpmで3分間の分散処理を行い、分散液を得た。得られた分散液から25μmのメッシュフィルターを用いてジルコニアビーズを取り除き、無機固体物層形成用の液体組成物を作製した。
【0139】
<負極の作製>
-負極塗料の作製-
負極合材層形成用として、グラファイト97.0質量%、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)1.0質量%、高分子(スチレンブタジエンゴム)2.0質量%、溶媒として水100.0質量%を加えて、負極塗料を作製した。
【0140】
-負極の作製-
図9に示すように、負極塗料を銅箔基体の両面全面(第1の電極合材層9の領域)に塗布した後、乾燥させて、負極合材層の目付量が片面9.0mg/cm
2となる負極合材層を形成した。次に、ロールプレス機にて電極の堆積密度が1.6g/cm
3になるようプレスし、負極を作製した。このときの負極の平均厚みは112.0μmであった。
【0141】
<正極の作製>
-正極塗料の作製-
正極活物質としてニッケル酸リチウム(NCA)92.0質量%、導電材としてアセチレンブラック3.0質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)5.0質量%を用意し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させて正極塗料を作製した。
【0142】
-正極の作製-
正極塗料をアルミニウム箔基体の両面に塗布した後、乾燥させて、正極合材層の目付量が片面15.0mg/cm2となる正極を得た。次に、ロールプレス機にて電極の体積密度が2.8g/cm3となるようにプレスし、正極を得た。このときの正極の平均厚みは132.0μmであった。
【0143】
(実施例1)
<負極積層体の製造>
図1及び
図2に示すように、樹脂1用の液体組成物1をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極合材層に対し、液体組成物1の吐出量を制御して、多孔質絶縁層10aの平均厚みが20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0144】
続けて、樹脂2用の液体組成物2をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、
図1及び
図2に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域に、液体組成物2を吐出して平均厚みが100.0μmとなる塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、接着性多孔質絶縁層10bを得た。
以上より、
図1及び
図2に示すように、第1の電極合材層9上に樹脂1により多孔質絶縁層10aが形成され、第1の電極合材層9上の多孔質絶縁層10aの周囲3辺に樹脂2により接着性多孔質絶縁層10bが形成された第1の電極としての実施例1の負極積層体を製造した。
【0145】
<電気化学素子の作製>
図3に示すように、多孔質絶縁層10a及び接着性多孔質絶縁層10bを形成した第1の電極としての負極と、第2の電極としての正極と、を対向させて積層し、温度140℃、エアシリンダー推力500N、1sにて接着性多孔質絶縁層10bを熱接着した。その後、残水分の除去のため150℃で真空乾燥を実施した。
その後、電解液を注入し、外装としてラミネート外装材を用いて封止し、実施例1の電気化学素子(蓄電素子)を作製した。
なお、電解液としては、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)の混合物(EC:DMC=1:1(質量比)の混合物)に対し、電解質であるLiPF
6が濃度1.5mol/Lとなるように添加された溶液を用いた。
【0146】
<評価>
以下の手順により、接着性多孔質絶縁層のピール強度、柔軟性、及びイオン透過性を評価した。
【0147】
<<絶縁層のピール強度の測定>>
-ピール強度測定用素子の作製-
30mm×100mmの電極2枚の一方の面全体に液体組成物1をそれぞれ塗布し、硬化させることで接着性多孔質絶縁層10bを形成した電極を2枚用意した。ここで、2枚の電極を試験用電極a、bとした。続いて、接着性多孔質絶縁層10bが塗布された部分を2枚向かい合わせに配置し、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着することにより「ピール強度測定用素子」を作製した。
なお、接着性多孔質絶縁層10bの厚みは、各実施例及び比較例に記載した厚みにて評価を実施した。
【0148】
-ピール強度の測定-
ピール強度測定用素子の試験用電極aの電極基体における接着性多孔質絶縁層が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の試料固定面と、を薄型両面テープで固定した。次いで、ピール強度測定用素子の試験用電極bの電極基体の接着性多孔質絶縁層が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の引張り圧子と、をテープで固定した。下記に示す測定条件にてピール強度を測定した。
【0149】
-ピール強度の測定条件-
・ピール強度測定用装置:粘着・被膜剥離解析装置Versatile Peel Analyzer(協和界面化学株式会社製)
・薄型両面テープ:No.5000NS(幅20mm、日東電工株式会社製)
・テープ:No.29(幅18mm、日東電工株式会社製)
・測定速度:30mm/min
・剥離角度:90°
・剥離距離:75mm
【0150】
<<絶縁層の柔軟性評価>>
絶縁層のピール強度の測定において用いた試験用電極aと同様にして作製した電極を、100mm四方に切り出し、直径4mmの円筒マンドレルを備えた円筒形マンドレル屈曲試験器(コーテック株式会社製)を用いて、曲げ試験に供する屈曲試験を実施した。そして、屈曲試験の前後の絶縁層のクラックの有無の観察を行った。
-柔軟性の測定条件-
・試験器具名:円筒形マンドレル屈曲試験機スタンド(コーテック株式会社・Allgood株式会社製)
・必要治具:マンドレル棒 直径4mm(同上)
【0151】
絶縁層のクラックの有無は、目視及び光学顕微鏡を用いて評価した。なお、絶縁層のクラックが無いものほど屈曲性が優れる。
[評価基準]
〇:絶縁層のクラックが無い。
×:絶縁層のクラックが存在する。
【0152】
<<絶縁層のイオン透過性評価>>
絶縁層のイオン透過性の評価は、走査電子顕微鏡(SEM)による画像観察、及び空隙率の測定により実施した。
接着性多孔質絶縁層10bを5mm×10mmサイズで切り出し、四酸化オスミウム(VIII)(イーエム株式会社製)を用いてオスミウム染色した。具体的には、前記水溶液が少量入った瓶の中に、水溶液に触れないように切り出した接着性多孔質絶縁層を入れ、密閉した瓶の中で30分静置し、染色した。その後1時間ドラフト内で乾燥させることで染色したサンプルを得た。
十分に乾燥させた後、二液混合タイプのエポキシ樹脂(ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン製)で真空含浸した。その後、クロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製)にて5.0kVで断面を切り出しし、クライオFIB/SEM(日本FEI株式会社製)で観察をした。
観察した画像を二値化し、観察領域に対する空隙の占める割合を求めることで、接着性多孔質絶縁層11bの空隙率を算出した。算出した空隙率に基づき、イオン透過性を評価した。
[評価基準]
○:空隙率30%未満
×:空隙率30%以上
【0153】
(実施例2)
図1及び
図4に示すように、樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極合材層に対し、液体組成物の吐出量を制御して、多孔質絶縁層11aが膜厚20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0154】
続けて、樹脂2用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、樹脂1が20.0μm形成された負極上多孔質絶縁層11aに対し、液体組成物を吐出して
図1及び
図4に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域に膜厚が65.0μmとなる塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、接着性多孔質絶縁層10bを得た。
以上より、
図4に示すように、第1の電極基体8/第1の電極合材層9/多孔質絶縁層10a/接着性多孔質絶縁層10bの順に積層された、実施例2の負極積層体を製造した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1において、実施例2の負極積層体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電気化学素子を製造した。
【0155】
(実施例3)
図7及び
図8に示すように、樹脂2用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極のフィルムセパレータがない領域の負極活物質に対し、液体組成物を吐出して接着性多孔質絶縁層10bに示す領域の膜厚が90.0μmとなるパターン画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、接着性多孔質絶縁層10bを得た。
続けて、負極活物質上に、ポリプロピレン製の微多孔膜からなるセパレータ(SETELA(F20BHE)、東レ株式会社製、厚み:20μm)を
図8及び
図10に示す接着性多孔質絶縁層10bの領域に配置した。
【0156】
(実施例4)
図1及び
図2に示すように、樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極合材層に対し、液体組成物の吐出量を制御して、多孔質絶縁層10aが膜厚20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:362Nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0157】
続けて、樹脂4用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、樹脂1が20.0μm形成された負極上多孔質絶縁層10aに対し、液体組成物を吐出して
図1及び
図4に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域に膜厚が65.0μmとなる塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:362Nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、接着性多孔質絶縁層10bを得た。
以上より、
図3に示すように、第1の電極基体8/第1の電極合材層9/多孔質絶縁層10a/接着性多孔質絶縁層10bの順に積層された、実施例4の負極積層体を製造した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1において、実施例4の負極積層体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の電気化学素子を製造した。
【0158】
(比較例1)
図1及び
図2に示すように樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極活物質に対し、液体組成物の吐出量を制御して、多孔質絶縁層10aが膜厚20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0159】
続けて、樹脂3用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極の負極活物質に対し、液体組成物を吐出して
図1及び
図2に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域の膜厚が85.0μmとなるパターン画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することで溶媒を除去し、樹脂3(熱可塑性樹脂)からなる接着性多孔質絶縁層10bを得た。
なお、この接着性多孔質絶縁層10bは熱可塑性樹脂により構成されるため、溶媒除去による加熱により多孔性が失われている。
【0160】
(比較例2)
図1及び
図2に示すように、樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極活物質に対し、液体組成物の吐出量を制御して、多孔質絶縁層11aが膜厚20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0161】
続けて、無機固体物用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極の負極活物質に対し、液体組成物を吐出して
図1及び
図2に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域の膜厚が85.0μmとなるパターン画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、無機固体物からなる接着性多孔質絶縁層10bを得た。
【0162】
(比較例3)
図1及び
図2に示すように、樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極の負極活物質に対し、液体組成物の吐出量を制御して、多孔質絶縁層11aが膜厚20.0μmになるように塗布領域を形成した。
その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層10aを得た。
【0163】
続けて、負極の負極活物質に対し、樹脂1用の液体組成物を吐出して
図1及び
図2に示すように接着性多孔質絶縁層10bに示す領域の膜厚が85.0μmとなるパターン画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を130℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、樹脂1からなる接着性多孔質絶縁層10bを得た。樹脂1のガラス転移点(Tg)は190℃であった。
【0164】
【0165】
表1に結果を示す。
比較例3のように、負極合材層同士を接着させるための絶縁層10bとして架橋の強い材料や高Tgの樹脂(樹脂1)を用いた場合には、そのような樹脂は伸縮性に欠けるため、絶縁層の強度は高くても柔軟性に劣ることがわかった。無機固体物層を用いた比較例2でも、絶縁層10bの柔軟性に劣ることがわかった。また、熱可塑性樹脂(樹脂3)を用いた比較例1では、鎖状分子構造体であり、熱を与えた場合に溶融して多孔質がつぶれてしまうためイオン透過性はほとんど失うことがわかった。
一方で、実施例1~4では、基材と、前記基材上に設けられピール強度が2N/m以上である接着性多孔質絶縁層を用いることで、絶縁層の柔軟性、及びイオン透過性に優れ、電極の積層ずれの発生を低減でき、電池特性に優れる電気化学素子を作製できることがわかった。
【0166】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 基材と、
前記基材上に設けられた接着性多孔質絶縁層と、を有し、
前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層を設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物である。
<2> 前記樹脂が、エネルギー照射によって重合可能な重合性化合物の重合物である前記<1>に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物である。
<3> 前記重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する前記<2>に記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物と、
前記接着性多孔質絶縁層の少なくとも一部を介して接着された他の基材と、を有することを特徴とする積層体である。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物を有し、
前記基体が、電極基体を有し、
最表層として前記接着性多孔質絶縁層を有することを特徴とする電極である。
<6> 第1の電極と、前記第1の電極と絶縁された第2の電極とを含み、前記第1の電極と前記第2の電極が積層された電気化学素子であって、
前記第1の電極、及び前記第2の電極の少なくともいずれかが、前記<5>に記載の電極であることを特徴とする電気化学素子である。
<7> 前記接着性多孔質絶縁層の少なくとも一部が、他の基材の表面と接着される前記<6>に記載の電気化学素子である。
<8> 前記第1の電極が、前記第2の電極の外側に配置され、前記接着性多孔質絶縁層を介して前記第2の電極と接着される前記<6>から<7>のいずれかに記載の電気化学素子である。
<9> リチウムイオン二次電池である前記<6>から<8>のいずれかに記載の電気化学素子である。
<10> 第1の基材と、
第2の基材と、を備え、
前記第1の基材は、第1の接着性多孔質絶縁層を有し、
前記第1の基材と、前記第2の基材とは、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着され、
前記第1の接着性多孔質絶縁層は、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂は、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする積層体である。
<11> 前記第2の基材が、第2の接着性多孔質絶縁層を有し、
前記第1の基材と、前記第2の基材とが、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の接着性多孔質絶縁層とが、対向するよう積層される前記<10>に記載の積層体である。
<12> 前記第1の基材が、電極であり、
前記第2の基材が、フィルムセパレータである前記<10>から<11>のいずれかに記載の積層体である。
<13> 前記第1の基材が、電極であり、
前記第2の基材が、電極である前記<10>から<11>のいずれかに記載の積層体である。
<14> 前記第1の接着性多孔質絶縁層におけるバインダの含有量が、0質量%以上30質量%以下である前記<10>から<13>のいずれかに記載の積層体である。
<15> 第1の基材上に第1の接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成工程と、
前記第1の接着性多孔質絶縁層が形成された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層と、前記第2の基材とが対向するよう積層する積層工程と、
前記積層された前記第1の基材と、第2の基材とを、前記第1の接着性多孔質絶縁層を介して接着させる接着工程と、
を有し、
前記第1の接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記第1の基材の一方の面全体、及び30mm×100mmの前記第2の基材の一方の面全体に、前記第1の接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記第1の接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法によるピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする積層体の製造方法である。
<16> 前記<10>から<13>のいずれかに記載の積層体を有し、
前記第1の基材が、電極基体を有し、
前記第2の基材が、電極基体を有することを特徴とする電気化学素子である。
<17> 電極基体を有する基材上に接着性多孔質絶縁層を形成する接着性多孔質絶縁層形成工程を有し、
前記接着性多孔質絶縁層が、樹脂を骨格とする共連続構造である多孔質構造体であり、
前記樹脂が、架橋樹脂であり、
30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性多孔質絶縁層をそれぞれ設け、前記接着性多孔質絶縁層同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着したピール強度測定用素子を用いたときのピール測定法による、前記接着性多孔質絶縁層のピール強度が、2N/m以上であることを特徴とする電極の製造方法である。
<18> 前記<17>に記載の電極の製造方法により電極を製造する電極製造工程と、
前記電極を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法である。
【0167】
前記<1>から<3>のいずれかに記載の電気化学素子用部材の接着用多孔質絶縁層付与物、前記<4>及び<10>から<14>のいずれかに記載の積層体、前記<5>に記載の電極、前記<6>から<9>及び<16>のいずれかに記載の電気化学素子、前記<15>に記載の積層体の製造方法、前記<17>に記載の電極の製造方法、前記<18>に記載の電気化学素子の製造方法は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。