(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051672
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】金属酸化物多孔質繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D01F9/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157957
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 兵
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS17
4L037CS18
4L037CS36
4L037FA01
4L037FA03
4L037FA20
4L037PA41
4L037PA63
4L037PC05
4L037PC11
(57)【要約】
【課題】平均細孔径が比較的大きく、比表面積が大きすぎない所定の多孔質構造を有する金属酸化物多孔質繊維を提供する。
【解決手段】平均繊維径が0.1μm以上、5μm以下であり、平均細孔径が10nm以上、100nm以下であり、細孔容積が0.5cm
3/g以下であり、比表面積が6.0m
2/g以上、50m
2/g以下である金属酸化物多孔質繊維。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.1μm以上、5μm以下であり、平均細孔径が10nm以上、100nm以下であり、細孔容積が0.5cm3/g以下であり、比表面積が6.0m2/g以上、50m2/g以下である、
金属酸化物多孔質繊維。
【請求項2】
酸化アルミニウムおよび/または酸化チタンからなる、
請求項1に記載の金属酸化物多孔質繊維。
【請求項3】
α型結晶構造を有する酸化アルミニウムからなる、
請求項1に記載の金属酸化物多孔質繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物多孔質繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
静電紡糸法によって形成した無機化合物の多孔質繊維が知られている。このような多孔質繊維は、例えば、樹脂に配合させて複合体として使用することが知られている。この多孔質繊維を樹脂に配合した複合体は、多孔質繊維に樹脂が入り込んで樹脂の動きが抑制されるため(アンカー効果)、高い機械特性や耐熱性を有する。このような複合体は、自動車等のボディ、電子部品、医療材料などの様々な用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属無機化合物を溶解させた無機系曳糸性ゾル溶液と、溶媒と、ポリマーとを混合することによって紡糸溶液を調製し、その紡糸溶液を静電紡糸して複合微細繊維を生成し、その複合微細繊維を焼成することによって複合微細繊維からポリマーを除去して多孔質無機繊維を製造する方法が開示されている。
また特許文献2には、アルミニウムイソプロポキシドと、細孔形成剤と、紡糸助剤とを硝酸に溶解させたゾル紡糸液を調製し、そのゾル紡糸液を静電紡糸して酸化アルミニウムゲル繊維を調製し、その酸化アルミニウムゲル繊維を700℃~900℃で焼成してγ型結晶構造の多孔質アルミナナノファイバーを製造する方法が開示されている。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-7697号公報
【特許文献2】中国公開特許公報103011778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1および特許文献2の金属酸化物多孔質繊維は、いずれも多数の細孔を設け、比表面積を増大させることを目的としている。しかし、金属酸化物多孔質繊維の比表面積を大きくしすぎると次のような課題があることがわかった。
第1に、平均繊維径が5.0μm以下の多孔質繊維は、比表面積が大きくなると凝集性が大きくなり、溶媒での分散性や流動性が低下することがわかった。そのため、ハンドリング性が低下する。
第2に、平均繊維径が5.0μm以下の多孔質繊維は、比表面積が大きくなりすぎると繊維として脆くなりすぎることがわかった。そのため、粉砕工程後で繊維形状を保てない、あるいは、粉砕工程において大きさ(例えば、所定のアスペクト比)の制御がしにくくなる。
第3に、金属酸化物多孔質繊維は、大気中に置くと多孔質繊維の細孔内に水分が取り込まれるため、比表面積が大きくなりすぎると、その細孔内に取り込まれる水分量が増加して吸湿性が高くなることがわかった。これは湿気に弱い電子部品等の用途には好ましくない。
本発明はこのような事情を鑑みて研究・開発されたものであり、所定の物性を有する金属酸化物多孔質繊維を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、所定の多孔質構造を有する金属酸化物多孔質繊維は、多孔質繊維としての特性を維持しつつ、溶媒に対する分散性や流動性を有し、耐衝撃性を有し、かつ、吸湿性が抑制されていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のように構成される。
[1]平均繊維径が0.1μm以上、5μm以下であり、平均細孔径が10nm以上、100nm以下であり、細孔容積が0.5cm3/g以下であり、比表面積が6.0m2/g以上、50m2/g以下である、金属酸化物多孔質繊維。
[2]酸化アルミニウムおよび/または酸化チタンからなる、[1]に記載の金属酸化物多孔質繊維。
[3]α型結晶構造を有する酸化アルミニウムからなる、[1]に記載の金属酸化物多孔質繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属酸化物多孔質繊維は、平均細孔径が比較的大きく、比表面積が大きすぎない所定の多孔質構造を有するため、凝集が抑制されて、溶媒への分散性や流動性といったハンドリング性が向上する。また脆くなりすぎず粉砕工程後でも繊維形状を維持させることができる。さらに吸湿性が抑制されることで湿気に弱い電子部品などの製品寿命を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1aおよび
図1bは、それぞれ実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維および比較例5の酸化アルミニウム繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維および実施例2の酸化アルミニウム多孔質繊維のX線回析像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[金属酸化物多孔質繊維]
金属酸化物多孔質繊維は、平均繊維径が0.1μm以上、5μm以下であり、平均細孔径が10nm以上、100nm以下であり、細孔容積が0.5cm3/g以下であり、比表面積が6.0m2/g以上、50m2/g以下であることを特徴としている。
【0012】
金属酸化物多孔質繊維の平均繊維径は、0.1μm以上、好ましくは、0.2μm以上であり、5μm以下、好ましくは3μm以下、特に好ましくは、2μm以下である。平均繊維径が0.1μm以上であれば凝集性が抑制させやすい。一方、平均繊維径5μm以下であれば、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができ、より薄膜化した複合体を得ることができる。
【0013】
金属酸化物多孔質繊維の平均細孔径は、10nm以上、20nm以上、好ましくは30nm以上、40nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、100nm以下、好ましくは80nm以下、70nm以下、特に好ましくは、65nm以下である。平均細孔径が10nm以上であれば、樹脂に配合する場合、樹脂が入り込んで樹脂の動きを抑制しやすくなり、平均細孔径が100nm以下であれば、比表面積が小さくなりすぎず、また多孔質繊維の強度を維持できる。
金属酸化物多孔質繊維の細孔容積は、0.5cm3/g以下、好ましくは、0.4cm3/g以下、0.3cm3/g以下、特に好ましくは0.2cm3/g以下であり、0.01cm3/g以上、好ましくは0.05cm3/g以上、0.08cm3/g以上、特に好ましくは、0.10cm3/g以上である。細孔容積が0.5cm3/g以下であれば、繊維が脆くなりすぎず、粉砕工程後繊維形状を維持でき、細孔容積が0.01cm3/g以上であれば、樹脂に配合する場合、樹脂が細孔に入り込んで樹脂の動きを抑制しやすくなる。
金属酸化物多孔質繊維の比表面積は、50m2/g以下、好ましくは、40m2/g以下、30m2/g以下、20m2/g以下、特に好ましくは、10m2/g以下であり、6.0m2/g以上である。比表面積が50m2/g以下であれば、吸湿性を抑制することができ、また分散性も高い。比表面積が6.0m2/g以上であれば、アンカー効果が発揮されやすい他、多孔質繊維としての特性が得られる。
【0014】
金属酸化物多孔質繊維の吸湿率は、特に限定されず、0.05%以上、好ましくは0.07%以上、特に好ましくは、0.10%以上であり、2%以下、好ましくは1%以下、0.5%以下、特に好ましくは0.2%以下である。なお、吸湿率は、乾燥を行った金属酸化物多孔質繊維を、温度21.0℃、湿度60%の環境に24時間静置して吸湿させ、吸湿前後の繊維の重量を測定し、次の計算式により算出する。
吸湿率=((吸湿後の重量-吸湿前の重量)/吸湿前の繊維重量)×100%
金属酸化物多孔質繊維の分散性(Rsp値/総表面積)は、特に限定されず、200以上、好ましくは300以上、特に好ましくは400以上である。なお、分散性(Rsp値/総表面積)は、金属酸化物多孔質繊維を1.56重量部と、シリコーンオイル1.44重量部を混合してスラリーを調製し、パルス核磁気共鳴装置(パルスNMR)を用いてシリコーンオイルおよびスラリーの緩和時間を測定し、次の式((シリコーンオイルの緩和時間/スラリーの緩和時間)-1)/総表面積)によって算出した。ここで、総表面積は、((金属酸化物多孔質繊維の重量/スラリーの重量×100)×金属酸化物多孔質繊維の比表面積)によって表される値である。
【0015】
金属酸化物としては、特に限定されず、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化鉄、酸化インジウム、酸化リチウム、酸化カドミウム、三酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ゲルマニウム、チタン酸バリウム、チタン酸アルミニウム等が挙げられ、酸化アルミニウムおよび/または酸化チタンが好ましく挙げられる。特に、熱伝導性の観点からα型結晶構造の酸化アルミニウムが好ましい。
【0016】
「金属酸化物多孔質繊維の製造方法」
金属酸化物多孔質繊維の製造方法は、紡糸溶液を調製する工程(S1)と、前駆体繊維を製造する工程(S2)と、前駆体繊維を焼成する工程(S3)とを有する。
【0017】
紡糸溶液を調製する工程(S1)は、金属アルコキシド、紡糸助剤および溶媒を混合して紡糸溶液を調製する工程である。詳しくは、紡糸助剤を溶媒に溶解させ、次いで、金属アルコキシドを溶解または分散させて曳糸性を有する紡糸溶液を調製する。好ましくは、金属アルコキシドを溶解させて紡糸溶液を調製する。
【0018】
金属アルコキシドの金属元素としては、例えば、アルミニウム、チタン、ケイ素、ベリリウム、スズ、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、カルシウム、カリウム、リチウム、鉄、バリウム等が挙げられ、特に、アルミニウム、チタンが好ましく挙げられる。アルミニウムアルコキシドとしては、特に限定するものではないが、アルミニウムエトキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムイソプロポキシドが好ましく挙げられ、特に、アルミニウムsecブトキシドが好ましく挙げられる。チタンアルコキシドとしては、特に限定するものではないが、チタン酸テトラエチル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトライソプロピルが好ましく挙げられる。
【0019】
紡糸助剤は、紡糸溶液の繊維化を促す作用を奏する静電紡糸可能なポリマーであり、工程(S3)の焼成によって分解されるものである。例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲンまたはこれらの共重合体や混合物が挙げられる。この紡糸助剤は、溶媒への溶解性および焼成工程での分解性の観点から、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸であることが好ましく、特に、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0020】
紡糸溶液中における金属アルコキシドの配合量は、10重量%以上、好ましくは、20重量%以上、特に好ましくは25重量%以上であり、50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは35重量%以下である。金属アルコキシドの配合量が10重量%以上であれば紡糸溶液の安定性や曳糸性を向上させ、高い生産性で製造することができる。また金属アルコキシドの配合量が50重量%以下であれば紡糸溶液の粘度が高くなりすぎず安定的な紡糸が行えるとともに細い繊維が得られやすくなる。
紡糸溶液中の金属アルコキシドと紡糸助剤との混合重量比率が1:0.1~1:0.5の範囲であり、好ましくは、1:0.1~1:0.4、特に好ましくは1:0.15~1:0.3である。紡糸助剤の割合が小さくなると、細孔が形成されにくくなり、比表面積が小さくなりすぎる。一方、紡糸助剤の割合が大きくなりすぎると、比表面積が大きくなりすぎる。
【0021】
溶媒は、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、ギ酸、酢酸、またはプロピオン酸が挙げられる。これら溶媒は1種単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。紡糸溶液の調製工程に用いる溶媒は、金属アルコキシドの分散性や溶解性、紡糸安定性の観点から、沸点が100~150℃を有するアルコール系溶媒を主成分とすることが好ましい。ここで「主成分とする」とは、紡糸溶液調製工程に用いる溶媒を構成する成分のうち最大の割合を占める成分のことを意味しており、当該成分が50重量%以上であること、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、を占めていることを意味している。溶媒の沸点が100℃以上であれば、紡糸工程において、溶媒の揮発によるノズルのつまりを抑えることができ、また、紡糸溶液調製工程において、加熱によって溶解性を向上させることにより容易に紡糸溶液を得ることが可能となり、150℃以下であれば、高い吐出量で紡糸しても溶媒が揮発することができ、均一な前駆体繊維を得ることが可能となる。沸点が100~150℃を有するアルコール系溶媒としては、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることがより好ましい。
【0022】
溶媒には、静電紡糸が可能である範囲で添加剤を加えてもよい。例えば、紡糸溶液のゲル化を抑制するべく安定剤が挙げられる。安定剤としては、β-ジケトンであることが好ましく、アセチルアセトンであることがより好ましい。
例えば、金属アルコキシドと安定剤の重量比は、1:0.05~1:0.5であり、好ましくは1:0.1~1:0.4、特に好ましくは1:0.2~1:0.3である。金属アルコキシドと安定剤の重量比を1:0.05以上であれば、金属アルコキシドの加水分解が抑制でき、長時間安定な紡糸溶液を得ることが可能となる。金属アルコキシドと安定剤の重量比を1:0.5以下であれば、過剰添加による紡糸性悪化を抑制することが可能となる。
【0023】
前駆体繊維を製造する工程(S2)は、工程(S1)で得られた紡糸溶液を静電紡糸して前駆体繊維を得る工程である。
静電紡糸は、紡糸溶液をノズル等から吐出させるとともに、吐出された紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、コレクター上に繊維を得る方法である。この静電紡糸の条件は、紡糸溶液から所定の繊維径の繊維が製造できれば、特に限定されるものではない。
例えば、紡糸溶液の吐出量としては、0.1~10mL/hrであることが好ましい。吐出量が0.1mL/hr以上であれば充分な生産性を得ることができ、10mL/hr以下であれば均一かつ細い繊維を得られ易くなる。
また印加させる電圧の極性は、正であっても負であってもよい。例えば、正の電圧の場合、5kV以上、100kV以下の範囲が挙げられる。
また、ノズルとコレクターとの距離は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~50cmの範囲を例示できる。コレクターは、紡糸された前駆体繊維を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定されない。コレクターの素材としては、金属などの導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、平板状、シャフト状、コンベア状を例示できる。コレクターがコンベア状であると、前駆体繊維を連続的に製造することができるため好ましい。
さらに、ノズルとコレクターとの間の電界を作用させた紡糸空間(静電紡糸装置のチャンバー内)の湿度を30%以上、40%以上、50%以上、特に60%以上とするのが好ましい。紡糸空間の湿度を30%以上とすることにより、繊維に細孔が形成されやすくなる。
【0024】
前駆体繊維を焼成する工程(S3)は、前駆体繊維を、空気雰囲気下中、800℃以上、1300℃以下で焼成する工程である。この工程により前駆体繊維の紡糸助剤を除去して細孔を形成し、金属酸化物多孔質繊維を形成する。
焼成温度は、800℃以上、1000℃以上、好ましくは1100℃以上、特に好ましくは1150℃以上、または、1150℃より高い温度である。焼成温度の上限は、1300℃以下、好ましくは1250℃、特に好ましくは1200℃以下である。焼成温度を上げることにより比表面積を減少させることができる。そして、焼成温度を800℃以上とすることにより、所定の多孔質構造が得られる。なお、焼成温度を1300℃より大きくすることにより多孔質性が減少し、多孔質としての特性を得ることが困難となる。
焼成温度までの昇温速度は、特に限定されず、1℃/分以上、好ましくは5℃/分以上、特に好ましくは8℃/分以上であり、20℃/分以下、好ましくは15℃/分以下である。
焼成時間は、特に限定されず、焼成温度で1時間以上、8時間以下、好ましくは6時間以下、特に好ましくは4時間以下である。
【実施例0025】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としたものであり、本発明の範囲は本実施例に限定されない。
実施例で用いた物性値の測定方法及び定義を以下に示す。
【0026】
<平均繊維径>
株式会社日立製作所製の走査型電子顕微鏡(SN-3400N)を使用して、繊維を観察し、画像解析機能を用いて金属酸化物多孔質繊維50本以上の繊維径を測定し、平均値を求めた。
<平均細孔径、細孔容積、比表面積>
マイクロトラク・ベル株式会社の自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP MAX2)を使用し、吸着ガスとして、窒素ガスを使用した。平均細孔径と細孔容積は、BJH法を用いて評価を行った。比表面積は、BET法で評価を行った。
<吸湿性の評価>
乾燥機にて110℃で十分乾燥を行った金属酸化物多孔質繊維を、温度21.0℃、湿度60%の環境に24時間静置して吸湿させ、吸湿前後の繊維の重量を測定し、次の計算式により吸湿率を算出することにより、吸湿性の評価を行った。
吸湿率=((吸湿後の重量-吸湿前の重量)/吸湿前の繊維重量)×100%
<溶媒への分散性の評価>
金属酸化物多孔質繊維を1.56重量部と、シリコーンオイル1.44重量部を混合してスラリーを調製し、パルス核磁気共鳴装置(パルスNMR)を用いて、シリコーンオイルおよびスラリーの緩和時間を測定し、以下の計算式によりRsp値/総表面積を算出することで、溶媒への分散性を評価した。Rsp値/総表面積が大きいほど、分散性が高いことを意味する。
Rsp値/総表面積=((シリコーンオイルの緩和時間/スラリーの緩和時間)-1)/((金属酸化物多孔質繊維の重量/スラリーの重量×100)×金属酸化物多孔質繊維の比表面積)
<耐衝撃性の評価>
金属酸化物多孔質繊維を5.0重量部と、直径9.5mmのナイロンボール50個を金属製容器に入れ、振動数2800rpm、振幅約3mmの条件で繊維に衝撃を与えた後、走査型電子顕微鏡を使用して、得られた金属酸化物多孔質繊維を観察し、画像解析機能を用いて、金属酸化物多孔質繊維50本以上の繊維径、および繊維長を測定し、アスペクト比(繊維長/繊維径)の平均値を算出することで、耐衝撃性を評価した。アスペクト比が大きいほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0027】
「実施例1」
プロピレングリコールモノメチルエーテル12.8重量部と、アセチルアセトン1.5重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン1.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド5.9重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
この紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに8ml/hrで供給すると共に、ノズルに28kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、32%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム多孔質繊維を得た。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維の平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は62nm、比表面積は8.5m
2/gであった。この酸化アルミニウム多孔質繊維を実施例1とする。この実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維の走査型電子顕微鏡写真を
図1aに示す。この走査型電子顕微鏡写真から繊維表面に複数の細孔が形成されていることがわかる。
【0028】
「実施例2」~「実施例4」、「比較例1」
焼成温度をそれぞれ1000℃、900℃、800℃とした以外は、実施例1と同様にして酸化アルミニウム多孔質繊維を成形した。これらを実施例2~実施例4とする。
焼成温度を650℃とした以外は、実施例1と同様にして酸化アルミニウム多孔質繊維を成形した。これらを比較例1とする。
【0029】
「実施例5」、「比較例2」、「比較例3」
プロピレングリコールモノメチルエーテル12.5重量部と、アセチルアセトン1.9重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン1.0重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド7.5重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
この紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに7ml/hrで供給すると共に、ノズルに28.5kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、60%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム多孔質繊維を得た。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維の平均繊維径は0.8μm、平均細孔径は56nm、比表面積は6.5m2/gであった。この酸化アルミニウム多孔質繊維を実施例5とする。
紡糸湿度を32%とした以外は、実施例5と同様にして酸化アルミニウム多孔質繊維を形成した。これを比較例2とする。
紡糸湿度を32%とし、焼成温度を1400℃とした以外は、実施例5と同様にして酸化アルミニウム繊維を形成した。この繊維は、無孔質であった。これを比較例3とする。
【0030】
「実施例6」、「実施例7」、「比較例4」
プロピレングリコールモノメチルエーテル13.5重量部と、アセチルアセトン3.0重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン1.3重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド7.5重量部と、チタン酸テトライソプロピル4.3重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
この紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに7ml/hrで供給すると共に、ノズルに25kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、60%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度でそれぞれ950℃まで昇温し、950℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム・酸化チタン多孔質繊維を得た。得られた酸化アルミニウム・酸化チタン多孔質繊維の平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は50nm、比表面積は10m2/gであった。この酸化アルミニウム・酸化チタン多孔質繊維を実施例6とする。
焼成温度を1050℃とした以外は、実施例6と同様にして酸化アルミニウム・酸化チタン多孔質繊維を成形した。これを実施例7とする。
焼成温度を1150℃とした以外は、実施例6と同様にして酸化アルミニウム・酸化チタン繊維を成形した。この繊維は、無孔質であった。これを比較例4とする。
【0031】
「比較例5」、「比較例6」
プロピレングリコールモノメチルエーテル13.5重量部と、アセチルアセトン1.9重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド7.5重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
この紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに5.5ml/hrで供給すると共に、ノズルに35kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、32%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム繊維を得た。得られた酸化アルミニウム繊維は、無孔質であった。この酸化アルミニウム繊維を比較例5とする。なお、この比較例5の酸化アルミニウム繊維の走査型電子顕微鏡写真を
図1bに示す。この走査型電子顕微鏡写真からも繊維表面はなだらかであり、無孔質であることがわかる。
紡糸湿度を60%とした以外は、比較例6と同様にして酸化アルミニウム多孔質繊維を形成した。これを比較例6とする。
【0032】
実施例1~7および比較例1~6の物性を次の表1に示す。なお、表1において、「(M-alk):(PVP)」重量比」は、紡糸溶液中の金属アルコキシドとポリビニルピロリドン(紡糸助剤)の重量比を示す。
【表1】
【0033】
これらの実施例および比較例から、焼成温度、紡糸湿度および紡糸溶液中の金属アルコキシドと紡糸助剤の重量比を調整することにより、本願発明の所定の多孔質構造を備えた金属酸化物多孔質繊維を得ることができることがわかった。
つまり、実施例1~4および比較例1から、焼成温度を上げることによって、平均細孔径が大きくなり、比表面積が減少することがわかる。特に焼成温度を1150℃とした場合、平均細孔径が大きく上がり、比表面積が大きく下がった。なお、比較例2、3から、焼成温度を1400℃と高くしすぎると孔が潰れて無孔となった。
また実施例5と比較例2から紡糸湿度を上げることにより、多孔質性が向上することがわかった。なお、比較例5、6からも同様の傾向がみられた。
そして、実施例1、比較例2、比較例5から紡糸助剤の重量比を上げることによっても多孔質性が向上することがわかった。
【0034】
図2に、実施例1および2で得られた酸化アルミニウム多孔質繊維のX線回析像を示す。
実施例1および2は、それぞれ焼成温度を1150℃および1000℃とした以外は、同じ工程によって製造されたものである。この実施例1および2のX線回析像から実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維はα型結晶構造を呈しているのに対し、実施例2の酸化アルミニウム多孔質繊維はγ型結晶構造を呈していることがわかった。
また
図2の結果より、酸化アルミニウム多孔質繊維は、焼成温度によって結晶構造が変化し、特に、1000℃と1150℃との間(例えば、1100℃以上)に、γ型結晶構造からα型結晶構造に変化する臨界温度があることが推測される。そして、1150℃で焼成している実施例5はα型結晶構造を呈しており、1000℃以下で焼成した実施例3、4、6は、γ型結晶構造を呈していることが推測される。
【0035】
次に得られた実施例および比較例の「吸湿性の評価」、「溶媒への分散性の評価」および「耐衝撃性の評価」を行った。その結果を表2に示す。
【0036】
【0037】
「吸湿性の評価」
比較例1の酸化アルミニウム多孔質繊維は吸湿率が3%弱であったのに対して、実施例1、4の酸化アルミニウム多孔質繊維は吸湿率が2%以下とすることができた。特に、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維は吸湿率を0.14%まで低下させることができた。また実施例1、4の酸化アルミニウム多孔質繊維より比表面積が小さい比較例2の酸化アルミニウム多孔質繊維は、さらに吸湿率が低下していることから、多孔質繊維の吸湿率は、比表面積に依存していることがわかった。
【0038】
「溶媒への分散性の評価」
比較例1の酸化アルミニウム多孔質繊維に対して、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維は、Rsp値/総表面積が各段に大きくなることがわかった。つまり、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維の方が比較例1の酸化アルミニウム多孔質繊維より分散性が高いことがわかった。なお、この結果から分散性は比表面積に依存していることもわかった。
【0039】
「耐衝撃性の評価」
比較例1の酸化アルミニウム多孔質繊維の衝撃試験後のアスペクト比が5.4であったのに対して、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維の衝撃試験後のアスペクト比が17であった。つまり、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維の方が比較例1の酸化アルミニウム多孔質繊維より耐衝撃性に優れていることがわかった。なお、実施例1の酸化アルミニウム多孔質繊維より比表面積が小さい比較例2の酸化アルミニウム多孔質繊維および比較例5の酸化アルミニウム繊維(無孔)は、アスペクト比がさらに大きくなっている。これらの結果から耐衝撃性は比表面積に依存していることがわかった。
本発明の金属酸化物多孔質繊維は、金属酸化物多孔質繊維としての特性を維持しつつ、従来の多孔質繊維に比べて吸湿性を抑制でき、溶媒に対する分散性や流動性を持たせることができ、かつ、耐衝撃性を持たせることをできる。そのため、電子部品を含めて様々な用途に適用することができる。