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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051765
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/052 20220101AFI20240404BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240404BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240404BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20240404BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
B22F1/052
B22F3/10 C
B22F3/10 B
B22F3/02 S
B22F1/00 R
B22F1/14 500
B22F1/10
C22C14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158084
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】305022598
【氏名又は名称】株式会社プロテリアルプレシジョン
(72)【発明者】
【氏名】三好 博之
(72)【発明者】
【氏名】上田 到
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA14
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018BD04
4K018CA09
4K018CA29
4K018DA01
4K018DA03
4K018DA21
4K018KA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】この発明の目的は、簡易な手段で焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制を可能にし、MIMによる焼結体の量産性を確保しやすい、焼結体の製造方法の提供である。
【解決手段】この発明は、混合金属粉と有機成分を含む混錬物を作製し、混錬物を射出成形して成形体を作製し、成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体を作製し、脱脂体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する、各工程を含み、標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉の積算体積分布曲線のメジアン径をd50A、d50Pおよびd50Qとするとき、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉とd50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉とを用いて、第1金属粉の混合比が20体積%以上80体積%以下となるように混合金属粉を作製し、混合金属粉の混合比が60体積%以上80体積%以下となるように混錬物を作製する、焼結体の製造方法である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合金属粉を作製し、前記混合金属粉および有機成分を含む混錬物を作製する混錬物作製工程と、前記混錬物を射出成形して成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程と、前記脱脂体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する焼結体作製工程と、を含み、
前記混錬物作製工程では、標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉の積算体積分布曲線におけるメジアン径をd50A、d50Pおよびd50Qとするとき、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉とd50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉とを用いて、前記第1金属粉の混合比が20体積%以上80体積%以下となるように前記混合金属粉を作製し、前記混合金属粉の混合比が60体積%以上80体積%以下となるように前記混錬物を作製する、焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記混錬物作製工程では、2つのピークを示す積算体積分布曲線をもち、2つのピークの間隔に対応する粒径の差が30μm以上70μm以下である、前記混合粉を作製する、請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記混錬物作製工程では、2つのピークを示す積算体積分布曲線をもち、2つのピークの間の谷の深さに対応する体積頻度の差が2%以上10%以下である、前記混合粉を作製する、請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第1加熱よりも低温の第2加熱により、前記脱脂体を構成する金属粉を焼結させて仮焼体を作製する仮焼体作製工程を含み、
前記焼結体作製工程では、前記脱脂体に替えて前記仮焼体を用いる、請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記第1金属粉および前記第2金属粉は、α+β型のチタン合金からなる、請求項1に記載の焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結体の製造方法に関し、詳しくは、金属粉および有機成分を含む混錬物を用いる金属粉末射出成形法による、焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結体の製造方法の一つとして、金属粉末射出成形法(MIM:Metal Injection Molding)が知られている。このMIMによれば、比較的小型の焼結体や複雑で微細な形状の焼結体を最終製品に近い形状で量産可能であり、多くの産業分野で普及している。一般的なMIMは、金属粉および有機成分を含む混錬物(コンパウンド)を作製する混錬物作製工程と、その混錬物を射出成形した成形体(グリーン体)を作製する成形体作製工程と、その成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体(ブラウン体)を作製する脱脂体作製工程と、その脱脂体を構成する金属粉を加熱により焼結させて焼結体を作製する焼結体作製工程と、を含む。また、必要に応じて、脱脂体を構成する金属粉をハンドリングが可能な程度に焼結させて仮焼体を作製する仮焼体作製工程を含み、脱脂体に替えて、その仮焼体を構成する金属粉をさらに強固に焼結させて焼結体を作製する焼結体作製工程が採用される。
【0003】
たとえば、特許文献1には、金属粉およびバインダーを含む混錬物を射出成形して成形体を作製し、その成形体を構成するバインダーを加熱により除去して脱脂体を作製し、その脱脂体を加熱により焼結させて焼結体を作製する、MIMによる焼結体の製造方法が開示されている。この焼結体の製造方法では、混錬物に占める金属粉の割合(混合比)を約60体積%にしており、これにより脱脂体の変形が抑制されている。その後、その脱脂体を構成する金属粉を加熱により焼結させて焼結体を作製することになるが、その際に発生しやすい焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制に係る教示はなされていない。
【0004】
焼結体に生じやすい歪な収縮や歪な変形の抑制に関し、たとえば、特許文献2には、第1金属粉およびバインダーを含む第1混錬物を作製する第1混錬物作製工程と、その第1混錬物を造粒して比較的大径の造粒粉を作製する造粒粉作製工程と、その造粒粉と第2金属粒およびバインダーを含む第2混錬物を作製する第2混錬物作製工程と、を含み、その第2混錬物を射出成形して焼結体を作製する、焼結体の製造方法が開示されている。この焼結体の製造方法では、骨格を構成する造粒粉を取り囲むように第2金属粉とバインダーとがバランスよく配置された第2混錬物を作製している。そして、その第2混錬物を用いることにより、成形体の保形性が高まり、均質で変形の少ない成形体の作製が可能になるとされ、最終的には寸法精度が高い焼結体の作製が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-152205号公報
【特許文献2】特開2018-145481号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】三浦秀士、増田剛紀、小笠原忠司、寒川喜光 共著、Ti射出成形体の高性能化、粉体粉末冶金協会誌「粉体および粉末冶金」2002年49巻9号、p.825-828
【非特許文献2】三浦秀士、竹増光家、▲桑▼野友紀、伊藤芳典、佐藤憲治 共著、Ti-6Al-4V射出成形材の焼結挙動と機械的特性、粉体粉末冶金協会誌「粉体および粉末冶金」2006年53巻10号、p.815-820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示される焼結体の製造方法では、一般的なMIMで実施する上記した工程以外に、少なくとも造粒粉製造工程と第2混錬物作製工程とを実施することになる。そのため、一般的なMIMにより焼結体を量産する場合と比べて、上記した工程の増加に起因して、リードタイムの増長や製造コストの増大といった焼結体の量産に不都合な問題が危惧される。また、この焼結体の製造方法では、第2混錬物を作製する際に造粒粉が損壊する問題が危惧される。この造粒粉の損壊対策として、特許文献2には、造粒粉の形状的な等方性を高めることや、造粒粉と第1金属粉とのバランスを最適化することが教示されている。具体的には、所定のアスペクト比を有する造粒粉を作製することや、第1金属粉に対して所定の粒径比を有する造粒粉を作製することが教示されている。そうした特定の造粒粉を作製することに関しても、上記した焼結体の量産に不都合な問題が危惧される。
【0008】
この発明の目的は、簡易な手段で焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制を可能にし、MIMによる焼結体の量産性を確保しやすい、焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、金属粉、有機成分、混錬物、成形体、脱脂体、仮焼体および焼結体の構成や作製時の挙動を多様な視点で検討し、焼結体の焼結組織を構成する結晶粒が特定の粒径バランスになるときに焼結体の変形量が低減しやすいことを突き止めた。そして、その後の具体的な検討および工夫によって上記課題が解決できることを見出し、この発明に想到することができた。
【0010】
この発明に係る焼結体の製造方法は、混合金属粉を作製し、前記混合金属粉および有機成分を含む混錬物を作製する混錬物作製工程と、前記混錬物を射出成形して成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程と、前記脱脂体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する焼結体作製工程と、を含み、前記混錬物作製工程では、標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉の積算体積分布曲線におけるメジアン径をd50A、d50Pおよびd50Qとするとき、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉とd50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉とを用いて、前記第1金属粉の混合比が20体積%以上80体積%以下となるように前記混合金属粉を作製し、前記混合金属粉の混合比が60体積%以上80体積%以下となるように前記混錬物を作製する。
【0011】
この発明に係る焼結体の製造方法において、好ましくは、前記混錬物作製工程では、2つのピークを示す積算体積分布曲線をもち、2つのピークの間隔に対応する粒径の差が30μm以上70μm以下である、前記混合粉を作製する。
【0012】
この発明に係る焼結体の製造方法において、好ましくは、前記混錬物作製工程では、2つのピークを示す積算体積分布曲線をもち、2つのピークの間の谷の深さに対応する体積頻度の差が2%以上10%以下である、前記混合粉を作製する。
【0013】
この発明に係る焼結体の製造方法において、前記第1加熱よりも低温の第2加熱により、前記脱脂体を構成する金属粉を焼結させて仮焼体を作製する仮焼体作製工程を含み、前記焼結体作製工程では、前記脱脂体に替えて前記仮焼体を用いることができる。
【0014】
この発明に係る焼結体の製造方法は、前記第1金属粉および前記第2金属粉がα+β型のチタン合金からなる場合にも、好ましい効果を奏する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、簡易な手段で焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制が可能になり、MIMによる焼結体の量産性を確保しやすい、焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明に係る標準金属粉の一例である粉末Aの積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図2】この発明に係る第1金属粉の一例である粉末S1の積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図3】この発明に係る第1金属粉の一例である粉末S2の積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図4】この発明に係る第2金属粉の一例である粉末S3の積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図5】この発明に係る混合金属粉の一例である粉末Bの積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図6】この発明に係る混合金属粉の一例である粉末Cの積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図7】この発明に係る混合金属粉の一例である粉末Dの積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図8】この発明に係る混合金属粉の一例である粉末Eの積算体積分布曲線を示す図(グラフ)である。
図9】混錬物中の粉末A~Eの混合比(体積%)と、各試料(表3に示す試料番号1~19の焼結体)の焼結変形量の変形比との関係を示す、図(グラフ)である。
図10】粉末B~Eの各々のピーク1、2の間の粒径差と、各粉末(表3に示す粉末A~Eの焼結体)の焼結変形量の変形比との関係を示す、図(グラフ)である。
図11】粉末B~Eの各々のピーク1、2の間の谷の深さと、各粉末表3に示す粉末A~Eの焼結体)の焼結変形量の変形比との関係を示す、図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係る焼結体の製造方法の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。なお、この発明に係る焼結体の製造方法は、ここに例示する実施形態の内容に限定するものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれると解することが相当である。
【0018】
この発明に係る焼結体の製造方法は、下記(1)~(4)の工程を含み、必要に応じて、下記(4)の工程の前に下記(5)の工程を行うことができる。
(1)混合金属粉を作製し、その混合金属粉および有機成分を含む混錬物を作製する混錬物作製工程
(2)その混錬物を射出成形して成形体を作製する成形体作製工程
(3)その成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程
(4)その脱脂体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する焼結体作製工程
(5)第1加熱よりも低温の第2加熱により、脱脂体を構成する金属粉を焼結させて仮焼体を作製する仮焼体作製工程
【0019】
以下、上記(1)~(3)、(5)および(4)の工程の順に説明する。なお、この発明は、上記(5)の工程を行う構成に限定されない。また、上記(4)の工程で作製した焼結体は、その寸法精度や諸特性などの仕様に応じて、歪取りや矯正を行う工程、切削や研削や研磨などの機械加工を行う工程、HIP(Hot Isostatic Pressing)処理などの熱処理を行う工程、あるいは、洗浄やめっき処理などの表面処理を行う工程などを行ってもよい。
【0020】
<混錬物作製工程>
この発明において、混錬物作製工程では、まず混合金属粉を作製し、その混合金属粉および有機成分を含む混錬物を作製する。混合金属粉の作製には、標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉を用いる。混合金属粉は、第1金属粉の混合比が20体積%以上80体積%以下となるように作製する。この際に、標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉の積算体積分布曲線(以下、「粒度分布」という。)におけるメジアン径をd50A、d50Pおよびd50Qとするとき、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉と、d50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉と、を用いる。この構成を有する第1金属粉および第2金属粉を用いることにより、後述する特定の形態をもつ積算体積分布曲線(粒度分布)を示す混合金属粉を作製することができる。なお、この発明に係る粒度分布は、いずれも、マイクロトラック・ベル株式会社の粒子径分布測定装置MT3000II(測定範囲:0.02μm~2.8mm、測定原理:レーザ回折・散乱、レーザ:赤色3本(波長780nm))により測定している。
【0021】
ここで、この発明に係る「標準金属粉」とは、一般的なMIMにおいて標準的に用いられている金属粉を意図する。標準金属粉は、研究論文および雑誌(粉体および粉末冶金など)の記載内容や、MIMメーカーや研究機関の独自公開データなどを参照し、選択することができる。標準金属粉は、その材質にもよるが、たとえば、高純度チタン(純Ti)粉の場合、メジアン径と解される粒径が45μm以下のガスアトマイズ法によるTi粉が用いられている(非特許文献1)。たとえば、後述する64チタンの場合も同様に、メジアン径と解される粒径が45μm以下のガスアトマイズ法によるTi-6Al-4V合金粉が用いられている(非特許文献2)。
【0022】
標準金属粉、第1金属粉および第2金属粉の粒度分布の一例を、図1図2図3および図4に示す。図1は、標準金属粉(以下、「粉末A」という。)の粒度分布の一例である。図2は、第1金属粉(以下、「粉末S1」という。)の粒度分布の一例である。図3は、粉末S1とは異なる第1金属粉(以下、「粉末S2」という。)の粒度分布の一例である。図4は、第2金属粉(以下、「粉末S3」という。)の粒度分布の一例である。粉末A、粉末S1、粉末S2および粉末S2は、いずれも1つのピークをもつ粒度分布を示し、表1に示す特徴を有する。表1に示すd10およびd90は、金属粉(粒子)の積算体積頻度が10%および90%になるときの粒径である。この例示の場合、標準金属粉である粉末Aのd50(d50A)は25.4μmであり、第1金属粉である粉末S1および粉末S2のd50(d50P)は63.7μmおよび97.8μmであり、第2金属粉である粉末S3のd50(d50Q)は19.9μmである。また、第1金属粉である粉末S1および粉末S2のd50P/d50Aは2.5および3.8であり、第2金属粉である粉末S3のd50Q/d50Aは0.8である。
【0023】
【表1】
【0024】
上記した粉末S1、粉末S2および粉末S3を用いた混合金属粉の粒度分布の一例を、図5図6図7および図8に示す。図5は、表2に粉末Bとして示す、混合金属粉の粒度分布の一例である。図6は、表2に粉末Cとして示す、混合金属粉の粒度分布の一例である。図7は、表2に粉末Dとして示す、混合金属粉の粒度分布の一例である。図8は、表2に粉末Eとして示す、混合金属粉の粒度分布の一例である。混合金属粉である粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eは、第1金属粉である粉末S1または粉末S2の混合比が20体積%以上80体積%以下である。具体的には、粉末B、粉末Cおよび粉末Dの場合、粉末S1の混合比は、それぞれ、30体積%、50体積%および70体積%である。また、粉末Eの場合、粉末S2の混合比は、70体積%である。
【0025】
【表2】
【0026】
上記した構成を有する第1金属粉および第2金属粉を上記した混合比の範囲内で混合して作製した混合金属粉は、特定の形態をもつ粒度分布を示す。具体的には、その混合金属粉は、2つのピークをもつ。その混合金属粉の2つのピークの間隔に対応する粒径の差(ピーク間の粒径差)は、焼結体の変形抑制の観点で、30μm以上70μm以下とし、好ましくは40μm以上60μm以下とする。先に例示した粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eの場合、表2に示すように、ピーク1、2の間の粒径差(図中に示すPw参照)は、それぞれ、32.4μm、40.1μm、41.5μmおよび69.5μmである。このピーク間の粒径差と焼結体の変形抑制との関係については、実験結果に基づいて後述する。
【0027】
また、その混合金属粉の2つのピークの間の谷の深さに対応する体積頻度の差は、焼結体の変形抑制の観点で、2%以上10%以下とする。焼結体の変形をより小さく抑制する目的であれば、好ましくは2%以上4%以下とし、より好ましくは2%以上3.5%以下とする。焼結体の抑制効果をより安定化させる目的であれば、好ましくは、4%以上10%以下とし、より好ましくは5%以上9%以下とし、いずれの場合も上限を8%以下としてもよい。なお、ピーク間の谷の深さとは、2つのピークの間において求まる、体積頻度の最大値と最小値との差である。先に例示した粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eの場合、表2に示すように、ピーク1、2の間の谷の深さ(図中に示すPv参照)は、体積頻度%で、それぞれ、4.3%、2.7%、9.2%および7.7%である。このピーク間の谷の深さと焼結体の変形抑制との関係については、実験結果に基づいて後述する。
【0028】
上記のような特定の形態をもつ粒度分布を示す混合金属粉を用いることが、焼結体の歪な収縮や歪な変形を抑制する作用効果を得る一助となる。上記のような特定の形態をもつ粒度分布を示す混合金属粉を用いると、混合金属粉が焼結されて焼結組織を構成する結晶粒に変化していく過程で、結晶粒の粒径バランスが異方性の強い収縮を生じにくい態様になって、焼結体の歪な収縮や歪な変形を抑制するように働くと考えられる。なお、現時点で、焼結中に金属粉から焼結組織を構成する結晶粒に変遷していく様子や結晶粒の粒径バランスが変動する様子を、動的に観測するのは、技術的に困難である。
【0029】
上記のように混合金属粉を作製した後に、その混合金属粉および有機成分を含む混錬物を作製する。この際に、その混合金属粉の混合比が60体積%以上80体積%以下となるように、混錬物を作製する。混錬物の流動性や充填性を向上させる観点では、好ましくは、混錬物中の混合金属粉の混合比が64%~76%となるようにする。混錬物中の混合金属粉の混合比と焼結体の変形抑制との関係については、実験結果に基づいて後述する。なお、混合金属粉の混合比が60体積%未満であるような混錬物を用いた場合、脱脂体(または仮焼体)の内部の空隙が相応に増加することに起因して、上記のような特定の形態をもつ粒度分布を示す混合金属粉を用いたとしても、焼結体の歪な収縮や歪な変形が十分に抑制されない可能性がある。また、混合金属粉の混合比が80体積%を超えるような混錬物を用いた場合、脱脂体(または仮焼体)の内部の空隙が相応に低減するため焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制には有利である。しかし、混合金属粉の混合比が80体積%を超えるような混錬物は流動性や充填性が不足するため、その混錬物を用いた成形体の射出成形が困難になる可能性がある。
【0030】
この発明において、混合金属粉に用いる第1金属粉および第2金属粉は、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉と、d50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉と、を用いる限り、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法など、どのような方法で製造された金属粉を用いてもよい。好ましくはアトマイズ法で製造された金属粉であり、特にガスアトマイズ法で製造された金属粉は個々の粒子の形状が球形に近いため、混合金属粉およびそれを用いた混錬物の流動性や充填性を向上させることができる。
【0031】
また、第1金属粉および第2金属粉は、用途や所望の諸特性に応じて選定することができる。第1金属粉および第2金属粉は、たとえば、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、Ta、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smなどの元素の1種または2種以上からなる金属材料を用いて作製された金属粉であってよい。金属材料は、高純度の金属材料(純金属)に限られず、たとえば、ステンレス鋼、低炭素鋼および低熱膨張合金などのFe基合金、アロイ713C、アロイ713LCおよびアロイ718などのNi基合金、Ti-6%Al-4%V(質量%)およびTi-3%Al-2.5%V(質量%)などのTi基合金、などの合金材料であってもよい。
【0032】
ここでは、一例として、α+β型のチタン合金を挙げておく。α+β型のチタン合金は、Tiを基とし、Al、V、Mn、Fe、Zr、MoおよびSnなどの元素が選択的に添加されて構成されたTi基合金である。上記したAl、VおよびSnなどの元素は、Tiに対して、たとえば、Alは8質量%以下、Vは10質量%以下、Mnは8質量%以下、Feは2質量%以下、Zrは4質量%以下、Moは6質量%以下、および、Snは2.5質量%以下の範囲で選択的に添加される。具体的には、たとえば、64チタンと称される著名なTi-6%Al-4%V(質量%)の他、Ti-3%Al-2.5%V(質量%)、Ti-6%Al-4%V-2%Sn(質量%)およびTi-6%Al-6%V-2%Sn(質量%)などが、α+β型のチタン合金として知られている。
【0033】
この発明において、混錬物に含む有機成分は、C(炭素)を含む有機物であって、たとえば、熱可塑性を有する高分子化合物(熱可塑性樹脂)、油脂状の化合物(ワックス、ワックスエステル)などである。有機成分を具体的に挙げれば、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、ステアリン酸などの高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、などがある。混錬物に含む有機成分は、上記した各種の有機成分のうちの1種または2種以上を選択的に混合して用いることができる。なお、混錬物に含む有機成分は、一般的なMIMと同様に、バインダーに含む有機成分であってよい。その場合、バインダーは、上記した有機成分の他、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
<成形体作製工程>
この発明において、成形体作製工程では、混錬物作製工程で作製した混錬物を用いて、その混錬物を射出成形して成形体を作製する。成形体の作製には、その成形体の形状に対応するキャビティを備える金型を搭載した、一般的なMIMと同様な射出成形機を用いることができる。成形体は、加熱により適度に可塑化させた混錬物を金型のキャビティ内に適切な圧力で射出し、適時保圧した後に冷却することにより作製することができる。
【0035】
<脱脂体作製工程>
この発明において、脱脂体作製工程では、成形体作製工程で作製した成形体を用いて、その成形体を構成する有機成分を除去して脱脂体を作製する。成形体から有機成分を除去する方法としては、一般的なMIMと同様に、必要に応じて、たとえば、溶媒脱脂法、加熱脱脂法、溶媒脱脂と加熱脱脂とを組合せた複合脱脂法などを用いることができる。たとえば、溶媒脱脂法によれば、成形体に含まれる特定の有機成分に対して可溶性の溶媒中に成形体を浸漬することにより、成形体から特定の有機成分を溶出させて除去することができる。たとえば、加熱脱脂法によれば、成形体に含まれる有機成分が熱分解する温度以上(但し、混合金属粉が焼結し始める温度未満)に成形体を加熱して適時保持することにより、成形体から有機成分を熱分解によりガス化させて除去することができる。
【0036】
たとえば、複合脱脂法によれば、溶媒脱脂により成形体から特定の有機成分を溶出させて脱脂体の前駆体とし、その前駆体に含まれる有機成分を加熱脱脂によりガス化させて除去することにより、脱脂体を作製することができる。油脂状のワックス類を有機成分に含む成形体から脱脂体を作製する場合は、複合脱脂法を選択するのが好ましい。複合脱脂法によれば、溶媒脱脂によりワックス類が溶出して成形体(脱脂体の前駆体)の内部に空隙が形成されるため、その前駆体に残る有機成分が加熱脱脂により熱分解してガス化した際に、そのガスを前駆体から速やかに、かつ十分に、排出することができる。
【0037】
<仮焼体作製工程>
この発明では、上記した脱脂体作製工程の後、後述する焼結体作製工程の前に、仮焼体作製工程を加えることができる。この発明において、仮焼体作製工程では、後の焼結体作製工程で行う第1加熱の際の保持温度よりも低温の第2加熱により、脱脂体を適時保温して脱脂体を構成する金属粉を焼結させて仮焼体を作製する。仮焼体作製工程における焼結を、便宜上、仮焼結という。仮焼体は、第2加熱により、脱脂体を構成する金属粉が焼結し始める温度以上に保温しながらも、その相対密度が90%を超えないように適時保温することにより作製することができる。仮焼体は、相対密度が90%未満であるため、その内部に多くの空隙が存在する。しかし、仮焼体は、仮焼結により金属粉(粒子)に僅かな相互結着が生じているため、金属粉(粒子)に実質的な相互結着が生じていない脱脂体よりも、ハンドリングが容易になる。また、脱脂体に有機成分が残存していた場合、仮焼体作製工程を加えて第2加熱により適時保温する間に、その脱脂体に残存する有機成分を十分に熱分解して除去することができる。
【0038】
<焼結体作製工程>
この発明において、焼結体作製工程では、脱脂体作製工程で作製した脱脂体を用いて、その脱脂体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する。なお、上記した仮焼体製工程を加えた場合は、脱脂体に替えて、仮焼体作製工程で作製した仮焼体を用いて、その仮焼体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製する。焼結体作製工程における焼結を、便宜上、本焼結という。焼結体は、第1加熱により、脱脂体または仮焼体を構成する金属粉の焼結が進む温度以上に保温し、その相対密度が90%以上になるように、好ましくは相対密度が95%以上になるように、適時保温することにより作製することができる。相対密度が90%以上の焼結体は、その内部に空隙が少なく、緻密な焼結組織を有する。相対密度が95%以上の焼結体は、その内部に空隙がより少なく、より緻密な焼結組織を有する。なお、上記したHIP処理により内部の空隙を圧し潰すことにより、相対密度が98%から略100%の焼結体を得ることも可能である。
【0039】
次に、この発明に係る焼結体の製造方法の有効性を確認する目的で実施した、実験結果について説明する。
【0040】
実験では、標準金属粉として上記した粉末Aを使用し、混合金属粉として上記した粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eを使用した。また、粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eは、上記したように、第1金属粉として粉末S1または粉末S2を使用し、第2金属粉として粉末S3を使用している。また、実験では、Ti-6%Al-4%V(質量%)相当組成のα+β型のチタン合金からなる金属粉を使用した。したがって、実験に使用した粉末A、粉末S1、粉末S2、粉末S3、粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eのいずれも、その材質はTi-6%Al-4%V(質量%)相当組成のα+β型のチタン合金である。
【0041】
α+β型のチタン合金の基であるチタン(純Ti)は、合金の基として多用されるFe(鉄)やNi(ニッケル)よりも高活性で他元素と反応しやすい。また、チタン(純Ti)は、常温で六方最密充填構造の金属組織(α相)を呈し、高温(880℃~890℃)で変態して体心立方格子構造の金属組織(β相)を呈する。チタン(純Ti)にAlやVやSnなどの元素を選択的に添加することにより、常温でもβ相が存在するα+β型のチタン合金になる。α+β型のチタン合金は、約900℃以上で適時保温されると、α相がβ相に変態して大きな体積変化を生じやすい。活性反応しやすく、変態により大きな体積変化を生じやすい、α+β型のチタン合金からなる金属粉を用いた脱脂体(または仮焼体)は、約900℃以上で適時保温されると大きな体積変化が生じて、歪な収縮や歪な変形をした焼結体になりやすいと考えられる。この観点で、焼結体の変形抑制の作用効果を確認するのに好適な材質としてα+β型のチタン合金を選定し、具体的には64チタンと称される著名なTi-6%Al-4%V(質量%)からなる金属粉を使用した。
【0042】
実験では、上記した混錬物作製工程、成形体作製工程、脱脂体作製工程、仮焼体作製工程および焼結体作製工程を実施して、試料番号1~19(表3参照)として示す、各種の焼結体を作製した。なお、仮焼体作製工程を加えたのは、焼結体作製工程で金属粉が焼結する際の収縮や変形に対する有機成分の影響を十分に小さくするためである。
【0043】
混錬物作製工程では、標準金属粉として、非特許文献2を参照して粒径(メジアン径)が45μm以下の表1に示す粉末A(d50Aが25.4μm)を準備した。また、混合金属粉を作製するための金属粉として、表1に示す粉末S1(d50Pが63.7μm)、S2(d50Pが97.8μm)およびS3(d50Qが19.9μm)を準備した。次いで、粉末S1、S2およびS3を用いて、表2に示す粉末B、粉末C、粉末Dおよび粉末Eを作製した。次いで、粉末Aおよび粉末B~Eを用いて、表3に示す試料番号1~19に対応する混錬物を作製した。試料番号1~19に対応する混錬物中の粉末A~Eの混合比(体積%)は、表3を参照する。
【0044】
成形体作製工程では、各々の試料番号に対応する混錬物を射出成形して、各々の試料番号に対応する成形体を作製した。作製した成形体は、長さ60mm、幅10mmおよび厚さ2mmの長方形状の平板である。
【0045】
脱脂体作製工程では、各々の試料番号に対応する成形体に対して溶媒脱脂を行って脱脂体を作製した。なお、溶媒脱脂の後の脱脂体から十分に有機成分を除去するために、次の仮焼体作製工程で、加熱脱脂に相当する保温ステップを採用した。
【0046】
仮焼体作製工程では、この後の焼結体作製工程における第1加熱よりも低温の第2加熱により、脱脂体作製工程で作製した各々の試料番号に対応する脱脂体を構成する金属粉を焼結させて仮焼体を作製した。なお、脱脂体を溶媒脱脂で作製したため、その脱脂体には溶媒に溶出しなかった有機成分が残存している可能性がある。そのため、仮焼体を作製する第2加熱において、脱脂体を構成する金属粉が焼結し始める前に、脱脂体に残存する有機成分が十分に除去されるように、加熱パターンを工夫した。具体的には、第2加熱は、減圧ステップ、第1保温ステップ、第2保温ステップ、第3保温ステップおよび冷却ステップを、この順に行う、加熱パターンとした。
【0047】
最初の減圧ステップでは、脱脂体を耐火物で支持して室温(約25℃)の炉内に配置し、その炉内をアルゴンガスで置換した後に約133Pa(約1torr)まで減圧した。耐火物は、成形体と略同形状の脱脂体を安定に載置できる上面を備えるアルミナ製の平板セッターとした。その平板セッターの上面は、イットリア製の敷き粉で被覆した。耐火物を平板セッターにしたのは、脱脂体の加熱収縮による厚さ方向の変形(曲がり)を抑制し、仮焼体の厚さ方向の変形量を略0mmにするためである。アルミナ製の平板セッターの上面をイットリア製の敷き粉で被覆したのは、脱脂体を構成する金属粉が平板セッターに固着するのを抑制するためである。
【0048】
次の第1保温ステップでは、炉内を室温(約20℃)から目標温度(約400℃)まで昇温し、約2時間の保温を行った。この第1保温ステップにより、約400℃以下で溶融または熱分解する有機成分は、脱脂体から十分に除去される。
【0049】
次の第2保温ステップでは、炉内を目標温度(約650℃)までさらに昇温し、約2時間の保温を行った。この第2保温ステップにより、脱脂体に残存する略全部の有機成分が溶融または熱分解され、実質的に有機成分を含まない脱脂体になる。
【0050】
次の第3保温ステップでは、炉内を目標温度(約700℃)までさらに昇温し、約3時間の保温を行った。この第2保温ステップにより、脱脂体を構成する金属粉が僅かに焼結し、金属粉(粒子)に相互結着が生じて、仮焼体が形成される。そして、冷却ステップにより、炉内を目標温度(約45℃)以下になるまで冷却し、仮焼体を安全に取り出した。
【0051】
焼結体作製工程では、各々の試料番号に対応する仮焼体を構成する金属粉を第1加熱により焼結させて焼結体を作製した。第1加熱に際して、仮焼体を耐火物で支持して室温(約25℃)の炉内に配置した。耐火物は、成形体と略同形状の仮焼体の両端側を載置して支持できる上面を備えるアルミナ製の平板セッターとした。その平板セッターの上面は、イットリア製の敷き粉で被覆した。これにより、仮焼体を長さ方向の中央部分の25mmが耐火物に接地しない両端支持の状態とし、金属粉の焼結による仮焼体の厚さ方向への変形(撓み)がより大きくなるようにした。なお、アルミナ製の平板セッターの上面をイットリア製の敷き粉で被覆したのは、仮焼体を構成する金属粉が平板セッターに固着するのを抑制するためである。
【0052】
第1加熱では、炉内をアルゴンガスで置換した後に約1×10-3Paまで減圧し、その減圧雰囲気をできる限り保持しながら昇温を行った。昇温は、約1000℃/3時間の後に約1300℃/4.5時間とした。約1300℃に達した後に約4時間の保温を行った。その後に、約1250℃/3時間で冷却し、炉内を大気圧に戻してから焼結体を取り出した。
【0053】
<焼結変形量の変形比>
上記した各工程を経て作製した、表3に示す試料番号1~19に対応する焼結体の厚さ方向の変形量(以下、「焼結変形量」という。)を測定し、その測定値を用いて焼結変形量の変形比を求めた。
【0054】
焼結体の厚さ方向の焼結変形量は、以下の手順で測定した。まず、平板状の2つの支持具を準備し、常盤などの水平面上に配置する。その際に、2つの支持具の対向間隔が25mmになるように配置する。次に、焼結体の変形(撓み)が下方に凸になるように、焼結体の長さ方向の両端側を2つの支持具の上側平面上に載置する。その際に、焼結体の長さ方向の略中央が上記した対向間隔の略中央に位置するように、焼結体を載置する。次に、焼結体の長さ方向に沿う側面に対して直交するとともに、上記した水平面に対して平行になる方向から、焼結体を撮影する。その際に、上記した25mmの対向間隔を含む範囲(30mm程度)を撮影する。次に、その撮影像により、2つの支持具の上側平面の角縁(間隔25mm)を結ぶ線を基準として、焼結体の下方に凸になっている凸部分に垂線を引いて、その凸量の最大値を測定する。上記の手順により測定した凸量の最大値を、焼結体の厚さ方向の焼結変形量とする。
【0055】
焼結体の厚さ方向の焼結変形量の変形比は、以下の手順で求めた。上記の手順により、粉末Aを用いた焼結体(試料番号1~3)、粉末Bを用いた焼結体(試料番号4~6)、粉末Cを用いた焼結体(試料番号7~9)、粉末Dを用いた焼結体(試料番号10~15)および粉末Eを用いた焼結体(試料番号16~19)の各々について、厚さ方向の焼結変形量を測定する。次に、測定した焼結変形量を用いて、各々の粉末A~Eの焼結変形量の平均値を求める。そして、粉末Aを用いた焼結体の焼結変形量の平均値を対比基準値として、粉末B~Eを用いた各々の焼結体の焼結変形量の平均値を対比基準値で除して、粉末B~Eを用いた各々の焼結体の変形比(以下、「各粉末の焼結変形量の変形比」という。)を求める。同様に、粉末Aを用いた試料番号1の焼結体の焼結変形量を対比基準値として、試料番号2~19の焼結体の焼結変形量を対比基準値で除して、試料番号2~19の焼結体の変形比(以下、「各試料の焼結変形量の変形比」という。)を求める。
【0056】
上記の手順で求めた、各試料および各粉末の焼結変形量の変形比を、表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
<混錬物中の混合金属粉の混合比の影響>
図9に示すグラフは、混錬物中の粉末A~Eの混合比(体積%)と、各試料(試料番号1~19の焼結体)の焼結変形量の変形比との関係を、表3に基づいて作成したものである。図9に拠れば、混合金属粉ではない粉末A(標準金属粉)を用いた試料番号1~3の焼結体の焼結変形量の変形比(以下、単に「変形比」という。)は、混錬物中の粉末Aの混合比(以下、「MV値」という。)の約5体積%の変化に対して、いずれも、0.7を超えていることが分かる。一方、混合金属粉である粉末B~Eを用いた試料番号4~19の焼結体の変形比は、粉末B~EのMV値の最大で約12体積%(粉末Dを参照)の変化に対して、いずれも、0.7以下であることが分かる。この結果より、混合金属粉ではない粉末Aを用いた焼結体と比べて、混合金属粉である粉末B~Eを用いた焼結体は、いずれも、焼結変形の抑制効果を確認することができる。特に、粉末S1と粉末S3との混合比が体積%で50:50の粉末Cを用いた焼結体(試料番号7~8)の変形比は、いずれも、0.3以下となり、焼結変形が十分に抑制されていることを確認することができる。
【0059】
図9中に二点鎖線で示す線分は、粉末A~Eの各々について、MV値と変形比との関係を表わす線形近似線である。線形近似線は、粉末Aを用いた焼結体の変形比は、粉末AのMV値が大きくなると小さくなる傾向を示している。しかし、粉末Aを用いた焼結体の変形比は、MV値の5体積%程度の変動に対して、0.24程度のばらつきになっている。一方、粉末Bを用いた焼結体の変形比は、粉末BのMV値が大きくなると僅かに大きくなる傾向を示している。そして、粉末Bを用いた焼結体の変形比は、MV値の5体積%程度の変動に対して0.05程度のばらつきに治まっている。また、粉末Cを用いた焼結体の変形比は、粉末CのMV値が大きくなると僅かに大きくなる傾向を示している。そして、粉末Cを用いた焼結体の変形比は、MV値の5体積%程度の変動に対して0.13程度のばらつきに治まっている。また、粉末Dを用いた焼結体の変形比は、粉末DのMV値が大きくなると小さくなる傾向を示している。そして、粉末Dを用いた焼結体の変形比は、MV値の12体積%程度の変動(粉末Aの場合の約2.4倍)に対して0.25程度のばらつきに治まっている。また、粉末Eを用いた焼結体の変形比は、粉末EのMV値が大きくなると小さくなる傾向を示している。そして、粉末Eを用いた焼結体の変形比は、MV値の7体積%程度の変動(粉末Aの場合の約1.4倍)に対して0.10程度のばらつきに治まっている。この結果より、混合金属粉ではない粉末Aを用いた焼結体と比べて、混合金属粉である粉末B~Eを用いた焼結体は、いずれも、焼結変形のばらつきの抑制効果を確認することができる。
【0060】
また、図9中に示す線形近似線に拠れば、混合金属粉の混合比(MV値)が60体積%以上80体積%以下となる混錬物を用いた場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.7以下になるような、好ましい焼結変形の抑制効果を予測することができる。たとえば、表3に示すように、混合金属粉の混合比(MV値)が約64体積%以上76体積%以下となるように作製した混錬物を用いた場合、焼結体(試料番号4~19)の変形比は、いずれも、0.7以下になっている。
【0061】
<混合金属粉中の第1金属粉の混合比の影響>
図9中に示す線形近似線に拠れば、第1金属粉の混合比が20体積%以上80体積%以下となる混合金属粉を用いた場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.7以下になるような、焼結変形の好ましい抑制効果を予測することができる。たとえば、表2、表3に示すように、第1金属粉(粉末S1、S2)の混合比が約30体積%以上約70体積%以下となるように作製した混合金属粉(粉末B~E)を用いた場合、焼結体(試料番号4~19)の変形比は、いずれも約0.7以下になっている。
【0062】
<d50P/d50Aおよびd50Q/d50Aの影響>
図9中に示す線形近似線に拠れば、d50P/d50Aが2以上5以下の第1金属粉と、d50Q/d50Aが0.1以上0.8以下の第2金属粉とを用いた混合金属粉を用いた場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.7以下になるような、焼結変形の好ましい抑制効果を予測することができる。たとえば、表1、表3に示すように、d50P/d50Aが約2.5~約3.8の第1金属粉(粉末S1、S2)と、d50Q/d50Aが約0.8の第2金属粉(粉末S3)とを用いた混合金属粉(粉末B~E)を用いた場合、焼結体(試料番号4~19)の変形比は、いずれも約0.7以下になっている。なお、第2金属粉のメジアン径(d50Q)は、一般的なMIMによる量産性を考慮して約2.5μm以上としている。そして、この観点で、2.5μm(d50Q)を表1に示す粉末Aの25.4μm(d50A)で除し、d50Q/d50Aの下限値を約0.1とした。
【0063】
<混合金属粉のピーク間の粒径差の影響>
図10に示すグラフは、混合金属粉(粉末B~E)のピーク1、2の間の粒径差(Pw)と、各粉末(粉末B~E)の焼結変形量の変形比との関係を、表2および表3に基づいて作成したものである。図10に拠れば、ピーク1、2の間の粒径差(Pw)が約30μm以上約70μm以下である混合金属粉を用いた場合、表3に示す粉末Aの焼結変形量の変形比(1.0)と比べて、各粉末の焼結変形量の変形比は、いずれも約0.7以下であることが分かる。また、第1金属粉(粉末S1、S2)の混合比が約50体積%以上約70体積%以下の混合金属粉(粉末C~E)を用いた場合、その焼結変形量の変形比がより小さくなり、いずれも、約0.6以下であることが分かる。また、第1金属粉(粉末S1)の混合比が約50体積%の粉末Cを用いた場合、その焼結変形量の変形比がより一層小さくなり、約0.3以下であることが分かる。この結果より、混合金属粉ではない粉末Aを用いた焼結体と比べて、混合金属粉である粉末B~Eを用いた焼結体は、いずれも、焼結変形の抑制効果を確認することができる。特に、粉末S1と粉末S3との混合比が体積%で50:50の粉末Cを用いた焼結体の変形比は、0.3以下となり、焼結変形が十分に抑制されていることを確認することができる。
【0064】
図10中に二点鎖線で示す曲線分は、各粉末のピーク1、2の間の粒径差(Pw)と、各粉末の焼結変形量の変形比との関係を表わす2次近似曲線である。その2次近似曲線において、各粉末の焼結変形量の変形比は、各粉末のピーク1、2の間の粒径差(Pw)が約30μmから大きくなるほど小さくなり、約50μmから約55μmの付近で最小値を有し、さらに約70μmに到るまで大きくなるような、下向きに凸の傾向を示している。その2次近似曲線に拠れば、各粉末のピーク1、2の間の粒径差(Pw)が約30μm以上約70μm以下である場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.7以下になるような、焼結変形の好ましい抑制効果を予測することができる。また、各粉末のピーク1、2の間の粒径差(Pw)が約40μm以上約65μm以下である場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.4~約0.5以下になるような、焼結変形のより好ましい抑制効果を予測することができる。また、各粉末のピーク1、2の間の粒径差(Pw)が約45μm以上約60μm以下である場合、焼結体の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.3~約0.4以下になるような、焼結変形のより一層好ましい抑制効果を予測することができる。
【0065】
<混合金属粉のピーク間の谷の深さの影響>
図11に示すグラフは、混合金属粉(粉末B~E)のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)と、各粉末(粉末B~E)の焼結変形量の変形比との関係を、表2および表3に基づいて作成したものである。図11に拠れば、ピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が、体積頻度%で、約2%以上約10%以下である混合金属粉を用いた場合、表3に示す粉末Aの焼結変形量の変形比(1.0)と比べて、各粉末の焼結変形量の変形比は、いずれも約0.7以下であることが分かる。また、第1金属粉(粉末S1、S2)の混合比が約50体積%以上約70体積%以下の混合金属粉(粉末C~E)を用いた場合、焼結体の焼結変形量の変形比がより小さくなり、いずれも、約0.6以下であることが分かる。また、第1金属粉(粉末S1)の混合比が約50体積%の粉末Cを用いた場合、焼結体の焼結変形量の変形比がより一層小さくなり、約0.3以下であることが分かる。この結果より、混合金属粉ではない粉末Aを用いた焼結体と比べて、混合金属粉である粉末B~Eを用いた焼結体は、いずれも、焼結変形の抑制効果を確認することができる。特に、粉末S1と粉末S3との混合比が体積%で50:50の粉末Cを用いた焼結体は、その焼結変形量の変形比が0.3以下となっており、焼結変形が十分に抑制されていることを確認することができる。
【0066】
図11中に二点鎖線で示す曲線分は、各粉末のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)と、各粉末の焼結変形量の変形比との関係を表わす2次近似曲線である。その2次近似曲線において、各粉末の焼結変形量の変形比は、各粉末のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が、体積頻度%で、約2%から大きくなるほど大きくなり、約5%から約8%の付近で最大値を有し、さらに約10%に到るまで徐々に小さくなる、上向きに凸の傾向を示している。その2次近似曲線に拠れば、各粉末のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が、体積頻度%で、約2%以上約10%以下である場合、焼結体の焼結変形量の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.7以下になるような、焼結変形の好ましい抑制効果を予測することができる。
【0067】
また、図11中に一点鎖線で示す2つの線分は、各粉末のピーク間の谷の深さ(Pv)と、各粉末の焼結変形量の変形比との関係を表わす線形近似線であって、ピーク間の谷の深さを約4.3体積頻度%で区分した場合の線形近似線である。ピーク間の谷の深さが約4.3体積頻度%以下の線形近似線において、各粉末の焼結変形量の変形比は、ピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が小さくなるほど小さくなる傾向を示している。また、ピーク間の谷の深さが約4.3体積頻度%以上の線形近似線において、各粉末の焼結変形量の変形比は、ピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が大きくなるほど徐々に小さくなる傾向を示している。その2つの線形近似線に拠れば、混合金属粉のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が、体積頻度%で、約2%以上約4%以下である場合、焼結体の焼結変形量の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.2~約0.5以下になるような、焼結変形の好ましい抑制効果を予測することができる。これは、焼結体の焼結変形量の変形比をより小さくする観点で、有効である。また、混合金属粉のピーク1、2の間の谷の深さ(Pv)が、体積頻度%で、約5%以上約8%以下である場合、焼結体の焼結変形量の変形比が粉末A(試料番号1)の場合の約0.5~約0.6程度になるような、焼結変形の安定的な抑制効果を予測することができる。これは、焼結体の焼結変形量の変形比をより安定化する観点で、有効である。
【0068】
上記した実験、つまり、標準金属粉として粉末Aを使用し、混合金属粉として粉末B~Eを使用した、実験の結果を参酌すれば、標準金属粉を用いた焼結体の焼結変形量を比較基準として、この発明に係る焼結体の製造方法を適用したときの焼結体の変形抑制の有効性を確認することができた。これにより、この発明に係る焼結体の製造方法を、簡易な手段で焼結体の歪な収縮や歪な変形の抑制が可能で、MIMによる焼結体の量産性の確保に寄与する技術として提供することができる。

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図11