(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051832
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】プラスチック光ファイバ及びプラスチック光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20240404BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20240404BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G02B6/02 391
G02B6/036
G02B6/44 316
G02B6/44 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158178
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】北山 武史
(72)【発明者】
【氏名】森中 剛
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AA30
2H250AA33
2H250AB33
2H250AB34
2H250AB37
2H250AD14
2H250AD32
2H250AD37
2H250AH02
2H250AH08
2H250AH50
2H250BA34
2H250BB03
2H250BC02
(57)【要約】
【課題】耐屈曲性、長期耐熱耐久性に優れ、本来の光学特性を長期に亘り維持し得るプラスチック光ファイバ及びプラスチック光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】透明樹脂で形成されたコアと、前記コアの外周面上に第一クラッド、第二クラッドの順で同心円状に形成されたクラッド層とを有するプラスチック光ファイバであって、前記第一クラッドを構成する材料の屈折率が1.300~1.375であり、前記第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が50以上、且つ、融点が130℃以上である、プラスチック光ファイバ。このプラスチック光ファイバの外周に、少なくとも1層の被覆層を設けてなる、プラスチック光ファイバケーブル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂で形成されたコアと、前記コアの外周面上に第一クラッド、第二クラッドの順で同心円状に形成されたクラッド層とを有するプラスチック光ファイバであって、
前記第一クラッドを構成する材料の屈折率が1.300~1.375であり、
前記第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が50以上、且つ、融点が130℃以上である、プラスチック光ファイバ。
【請求項2】
前記第二クラッドを構成する材料の融点が133℃以上である請求項1に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項3】
屋内配線用途又は自動車内通信配線用途である、請求項1に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項4】
内視鏡用途、眼科手術用途、又はカテーテル用途の医療機器照明用プラスチック光ファイバである、請求項1に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のプラスチック光ファイバの外周に、少なくとも1層の被覆層を設けてなる、プラスチック光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記被覆層が、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びフッ化ビニリデン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を主成分とする樹脂で形成される、請求項5に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバ及びプラスチック光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート等の透明性の高い樹脂からなるコアを有するプラスチック光ファイバは、列車内、航空機内、自動車等の車両内等での光情報通信や、ファクトリーオートメーション(FA)分野の光情報通信に用いられている。上記の光情報通信分野では、通常プラスチック光ファイバは、その外周に樹脂を被覆したプラスチック光ファイバケーブル(以下、「光ファイバケーブル」という。)の形態で使用される。
【0003】
光ファイバケーブルは、自動車等の車両内配線やFA分野の通信配線等の用途に用いられる場合、エンジン等の高温体に近い環境や、夏期に高温環境で使用されるので、長時間熱に曝露されても伝送損失が増加しないよう、長期耐熱性に優れたプラスチック光ファイバ及び光ファイバケーブルが望まれている。
【0004】
さらに上記の用途では、光ファイバケーブルが、狭い空間に捻回された状態で敷設されたり、可動部配線として繰り返し捻回を受ける状態で使用されたりするので、耐捻回性に優れたプラスチック光ファイバ及び光ファイバケーブルが望まれている。
【0005】
さらに、上記の用途では、光ファイバケーブルが、自動車等の車両内で、振動などの機械的作用を受けた状態で使用されたり、ファクトリーオートメーション(FA)分野で、屈曲された状態と直線状に保持された状態を繰り返しながら使用されても、プラスチック光ファイバのクラッドに割れが発生したり、若しくは、2層以上のクラッドではクラッド間の剥離が発生して、伝送損失が増加しないことが望まれている。すなわち、機械的耐久性に優れたプラスチック光ファイバ及び光ファイバケーブルが望まれている。
【0006】
特許文献1では、長期耐熱性、耐捻回性、及び機械的耐久性に優れたプラスチック光ファイバを提供することを課題として、クラッド層を、コアの外周面上に同心円状に形成された第1クラッドと第2クラッドの2層積層構造とし、第一クラッドを屈折率1.400~1.480のフッ素化メタクリレート系樹脂で形成し、第二クラッドを屈折率が1.340~1.395の変性フッ素樹脂で形成したプラスチック光ファイバが提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、光学特性や、耐曲げ光量損失、耐湿熱性に優れたプラスチック光ファイバを提供することを課題として、特定のコア材料とクラッド材料を使用したプラスチック光ファイバが提案されている。この特許文献2においても、クラッド層は第1クラッドと第2クラッドで構成され、その実施例において、第1クラッドの屈折率を1.412~1.419としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-156984号公報
【特許文献2】特開2004-151702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2のプラスチック光ファイバでは、第一クラッドの屈折率が1.400~1.480又は1.412~1.419と比較的高いことにより、得られるプラスチック光ファイバの耐屈曲性が不十分であった。
また、特許文献1には第二クラッドの樹脂の融点について120~200℃の範囲との記載はあるが、硬度についての検討はなされておらず、特許文献2では、第二クラッドについて、融点や硬度に関する検討はなされていないために、クラッド層の耐熱性や表面硬度が不足する結果、製造工程において劣化、損傷し、本来の光学特性を維持することができない場合があった。
即ち、第二クラッドの融点が低いと、アニール処理時にファイバ同士で融着し、本来の光学特性を維持することが困難となる。さらに、長期耐熱性も不十分となる。また、第二クラッドの硬度が低いと、紡糸(製造時)や加工時に表面に傷が発生することで、やはり本来の光学特性を維持することが困難となる。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、耐屈曲性、長期耐熱耐久性に優れ、本来の光学特性を長期に亘り維持し得るプラスチック光ファイバ及びプラスチック光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
本発明の第一の要旨は、
透明樹脂で形成されたコアと、前記コアの外周面上に第一クラッド、第二クラッドの順で同心円状に形成されたクラッド層とを有するプラスチック光ファイバであって、
前記第一クラッドを構成する材料の屈折率が1.300~1.375であり、
前記第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が50以上、且つ、融点が130℃以上である、プラスチック光ファイバ、
にある。
本発明の第二の要旨は、このプラスチック光ファイバの外周に、少なくとも1層の被覆層を設けてなるプラスチック光ファイバケーブル、にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐屈曲性、長期耐熱耐久性に優れ、本来の光学特性を長期に亘り維持し得るプラスチック光ファイバ及びプラスチック光ファイバケーブルを提供することができる。
本発明のプラスチック光ファイバは、その優れた耐屈曲性及び長期耐熱耐久性と光学特性の維持性能により、各種光情報通信用途、医療用途および照明用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のプラスチック光ファイバの一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
本発明において、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0015】
[プラスチック光ファイバ]
本発明のプラスチック光ファイバ(以下、適宜「光ファイバ」と略する。)は、透明樹脂で形成されたコアと、前記コアの外周面上に第一クラッド、第二クラッドの順で同心円状に形成されたクラッド層とを有する。具体的には、
図1に示すような、コア11の外周に第一クラッド12a、第二クラッド12bの順で同心円状に形成されたクラッド層12を有する光ファイバ10が挙げられる。
【0016】
<光ファイバの直径・各層の厚さ>
本発明のプラスチック光ファイバの直径は、光ファイバの取り扱い性に優れ、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、0.1mm~5mmが好ましく、0.2mm~3mmがより好ましく、0.3~2mmが更に好ましく、0.9~1.1mmが特に好ましい。
【0017】
本発明の光ファイバの直径に対するコアの直径は、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、光ファイバの直径に対して85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。一方、クラッド層の厚み斑に対する許容度の観点から、コアの直径は、光ファイバの直径に対して99.9%以下とすることが好ましい。
【0018】
第一クラッドの厚さは、コアを通過する光を全反射させ、光ファイバのコア部の断面積占有率を十分に確保できることや、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、光ファイバの直径に対して10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。一方、第一クラッドの厚さは、光ファイバ内の光の伝搬の観点から伝搬する光の波長以上とすることが好ましい。例えば、可視光を伝搬する場合、伝搬する最小の波長が400
nmであるので、第一クラッドの厚さは、0.4~50μmが好ましく、1.0~25μmがより好ましく、2.0~15μmがさらに好ましい。
【0019】
第二クラッドの厚さは、高融点かつ高硬度の第二クラッドを形成することによる効果を十分に得た上で、光ファイバの第一クラッド及びコアの断面積占有率を十分に確保できることから、第一クラッドと第二クラッドの厚さの比が1:0.1~1:5となる厚さであることが好ましく、1:0.1~1:4となる厚さであることがより好ましく、1:0.1~1:3となる厚さであることが更に好ましく、1:0.2~1:3となる厚さであることが特に好ましい。例えば、可視光を伝搬する場合、第二クラッドの厚さは、2~30μmが好ましく、3~20μmがより好ましく、4~15μmがさらに好ましい。
【0020】
<コア>
コアを形成する透明樹脂は、透明性の高い樹脂であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、カーボネート樹脂等が挙げられる。これらの透明樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。上述した材料の中でも、波長650nm付近の透明性に優れていることから、アクリル系樹脂とポリカーボネート系樹脂が好ましく、長期耐熱性に優れ、より長距離の通信に適していることから、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0021】
アクリル系樹脂としては、例えば、メチルメタクリレートの単独重合体(PMMA)、メチルメタクリレートと1種類以上のビニル系単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合体としては、具体的には、メチルメタクリレート単位を50質量%以上含む共重合体等が挙げられる。これらのアクリル系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのアクリル系樹脂の中でも、光学特性、機械特性、耐熱性、透明性に優れることから、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を50質量%以上含む共重合体(メチルメタクリレート系共重合体)が好ましい。メチルメタクリレート系共重合体としては、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含む共重合体が好ましく、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含む共重合体が更に好ましい。メチルメタクリレートの単独重合体がコア材として特に好ましい。
尚、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート又はその両方をいう。
【0022】
アクリル系樹脂等のコア材の屈折率は、1.485~1.50が好ましく、1.490~1.495がより好ましい。
尚、本明細書において、屈折率は、後述する方法に従って測定した値とする。
【0023】
コア材の製造は、公知の重合方法で行うことができる。コア材を製造するための重合方法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等が挙げられる。これらの重合方法の中でも、異物の混入を抑制することができることから、塊状重合法、溶液重合法が好ましい。
【0024】
<クラッド層>
本発明のプラスチック光ファイバのクラッド層は、前記コアの外周面上に第一クラッド、第二クラッドの順で同心円状に形成された、2層構造のクラッド層である。
クラッド層を2層構造とすることで、第一クラッドを構成する材料を好適に選択すると共に、プラスチック光ファイバの、耐熱性、受光量や伝送帯域等の光学特性等を調整できると共に、第二クラッドを構成する材料を好適に選択することで、耐屈曲性、長期耐熱耐久性、光学特性の維持性能等に優れたものとすることができる。
【0025】
(第一クラッド)
本発明において、第一クラッドを構成する材料の屈折率は1.300~1.375であることを特徴とする。
第一クラッドを構成する材料の屈折率が、1.375以下であれば、材料の屈折率が低いため、曲げた時の損失または捻回損失が小さく、耐屈曲性に優れる。一方、屈折率が1.300以上であることで、モード分散が低減され、特に広帯域伝送時の通信性能に優れる。また、屈折率が上記範囲内であることで、屈折率の高いコアと第一クラッドとの間で光が全反射を繰り返してコア内を光が伝搬し、第二クラッド(最外層)に傷が入った場合においても、光学特性が担保される。このような観点から、第一クラッドを構成する材料の屈折率は1.300~1.375であり、1.310~1.373が好ましく、1.320~1.370がより好ましい。
【0026】
第一クラッドを構成する材料としては、柔軟性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性に優れる観点から、フッ化ビニリデン系重合体等のフッ素系重合体、パーフルオロアルキルメタクリレート系重合体、メタクリル酸エステル系重合体、パーフルオロアルキルメタクリレート系化合物と(メタ)アクリレート系化合物との共重合体などが用いられる。
フッ化ビニリデン系重合体としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン単位を含有する共重合体、例えば、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン単位を含むその他の3元以上の共重合体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのフッ素系重合体や共重合体は、これらを構成する単量体単位の種類や組成を制御することで、上記の屈折率に調整することができる。
【0027】
(第二クラッド)
本発明において、第二クラッドを構成する材料は、JIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が50以上であって、融点が130℃以上であることを特徴とする。
【0028】
第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が50以上であれば、紡糸(製造時)や加工時において、表面の傷の発生を抑制し、本来の光学特性を維持することが可能となる。この観点から、第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度は好ましくは60以上であり、62以上がより好ましく、64以上がさらに好ましい。また、第二クラッドを構成する材料のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度が90以下であれば、高い加工性を有するため、該硬度は通常90以下で、85以下が好ましく、より好ましくは80以下であり、特に好ましくは75以下である。
【0029】
また、第二クラッドを構成する材料の融点が130℃以上であれば、アニール処理時にファイバ同士で融着することを抑制し、本来の光学特性を維持することが可能となると共に、優れた長期耐熱性を有するものとなる。この観点から、第二クラッドを構成する材料の融点は131℃以上であることが好ましく、133℃以上がより好ましい。
一方、高い加工性を有する観点から、第二クラッドを構成する材料の融点は、通常180℃以下である。
第二クラッドを構成する材料の融点は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0030】
また、第二クラッドを構成する材料の屈折率については、第二クラッドについた傷などの欠陥が、光ファイバの光学特性に影響しないようにするため、第一クラッドを構成する材料の屈折率より大きくすることが好ましい。したがって、第二クラッドの屈折率としては1.375より大きいことが好ましい。
【0031】
第二クラッドを構成する材料としては、光学特特性の観点から、フッ化ビニリデン系重合体等のフッ素系重合体、パーフルオロアルキルメタクリレート系重合体、メタクリル酸エステル系重合体、パーフルオロアルキルメタクリレート系化合物と(メタ)アクリレート系化合物との共重合体などが用いられる。
フッ化ビニリデン系重合体としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン単位を含有する共重合体、例えば、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン単位を含むその他の3元以上の共重合体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのフッ素系重合体や共重合体は、これらを構成する単量体単位の種類や組成を制御することで、上記のJIS K7215に基づくデュロメータ硬さ試験による硬度及び融点、更には屈折率に調整することができる。
【0032】
<プラスチック光ファイバの製造方法>
プラスチック光ファイバの製造は、公知の製造方法を用いて行うことができ、例えば、溶融紡糸法で行うことができる。
溶融紡糸法によるプラスチック光ファイバの製造は、例えば、コア材及びクラッド材をそれぞれ溶融し、複合紡糸することにより行うことができる。
光ファイバケーブルを温度差の大きい環境で用いる場合、ピストニングを抑制するため、プラスチック光ファイバをアニール処理することが好ましい。アニール処理の処理条件は、プラスチック光ファイバの材料によって適宜設定すればよい。アニール処理は連続で行ってもよく、バッチで行ってもよい。
【0033】
[プラスチック光ファイバケーブル]
本発明のプラスチック光ファイバは、必要に応じて、前記光ファイバの外周に少なくとも1層の被覆層を設けたプラスチック光ファイバケーブルの形態とすることで、光ファイバが建物内の配線や、自動車等の車両内の各装置間の接続のために用いられるときに、光ファイバを機械的に保護したり、ガソリン、バッテリー液やウィンドウォッシャー液等による被液から光ファイバを保護できる。
【0034】
<被覆層>
被覆層の材料としては、光ファイバの被覆層として一般的に使用されている種々の熱可塑性樹脂を用いることができるが、光ファイバケーブルが使用される環境や要求に応じて、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びフッ化ビニリデン系樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0035】
中でも、ポリアミド系樹脂は、耐熱性、耐屈曲性、耐溶剤特性に優れることから、耐熱性および耐環境特性を要求される用途向けの光ファイバの被覆材として好適である。また、加工性が良く、適度な融点を有しているため、光ファイバの伝送性能を低下させることなく、容易に光ファイバを被覆することができる。
【0036】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66などの各単量体の単位からなる単独重合体や、これら単量体単位の組合せからなる共重合体、柔軟なセグメントを導入したナイロン単量体単位を含むナイロン系エラストマーなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよく、また、必要に応じて、ポリアミド系樹脂以外の重合体や化合物を混合して使用してもよい。他の重合体や化合物などを混合する場合には、被覆材中のポリアミド系樹脂の含有量が、20質量%以上70質量%以下となる範囲で混合することが好ましい。
【0037】
ポリアミド系樹脂の中では、特に、ナイロン11やナイロン12の単独重合体または共重合体が好ましい。これらは密着性に優れ、また、被覆工程における成形性が良好で、光ファイバに熱的および機械的なダメージを与えにくく、さらに寸法安定性に優れる。このような密着性と寸法安定性との相乗効果により、ピストニングを効果的に防止することができる。
【0038】
また、本発明の光ファイバケーブルでは、光ファイバへの外光の入射を防止するために、被覆層にカーボンブラック等の着色剤を含有させることもできる。
【0039】
また、本発明の光ファイバケーブルでは、難燃性を付与あるいは向上するために、被覆層を形成する材料に難燃剤を含有させてもよい。難燃剤としては、金属水酸化物、燐化合物、トリアジン系化合物などの公知の難燃剤を用いることができる。特に、ポリアミド系樹脂を被覆層の主成分として用いる場合は、トリアジン系化合物を用いることが好ましく、この中でもシアヌル酸メラミンがより好ましい。
【0040】
また、本発明の光ファイバケーブルでは、少なくとも最外層を構成する被覆層に着色剤等を添加してもよい。これにより、光ファイバケーブルの識別性、意匠性を容易に高めることができる。着色剤としては公知のものが用いられるが、染料系の着色剤は高温下などで光ファイバに移行し伝送損失を増加させるおそれがあるため、無機顔料を用いることが好ましい。
【0041】
被覆層は、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。
被覆層の厚さは、光ファイバの直径や被覆層の構成材料、要求特性によっても異なるが、被覆層ケーブルの長期耐久性、耐念回性等の観点から、1層当たり、50~700μmが好ましく、100~350μmがより好ましい。
【0042】
<光ファイバケーブルの製造方法>
光ファイバの外周に被覆層を被覆する方法としては、例えば、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて被覆する方法が挙げられる。特に、プラスチック光ファイバに被覆層を被覆する場合、均一な直径の光ファイバケーブルを得ることができることから、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて被覆する方法が好ましい。
【0043】
[用途]
本発明の光ファイバ及び光ファイバケーブルは、伝送帯域が広く、耐屈曲性、長期耐熱耐久性、光学特性の維持性能に優れることから、例えば、列車内、航空機内、自動車等の車両内、建物内での光情報通信、即ち屋内配線用途や、ファクトリーオートメーション(FA)分野での光情報通信に好適に用いることができる。特に、自動車等の車両内等の狭い空間に屈曲した状態で、機械的ストレスと高温環境下にさらされた状態での使用に好適である。
【0044】
また、本発明の光ファイバ及び光ファイバケーブルは、内視鏡用途、眼科手術用途、カテーテル用途などの医療機器照明用としても有用である。
【0045】
医療機器に用いられる照明として、光源と、光源から先端部に光を伝送して被照射物に光照射させるライトガイドとを組み合わせたものがある。ライトガイドには、光ファイバを単線もしくは伝送光量を大きくするために複数本を束ねて作製されるものがある。近年、CCDに代表される撮像素子の小型化により、内視鏡の観察用プローブの細径化が可能となり、当該プローブ内に配置されるライトガイドも細径化が望まれており、細径でも伝送光量が大きい光ファイバが望まれている。また、内視鏡の観察用プローブの細径化が可能となることで、これまでの当該プローブが入らなかった例えば胆管や膵管といった狭い管内を直接観察することができるようになる。胆管や膵管は5~10mmと非常に細い管腔であるため、これらの管腔に挿入する内視鏡は、3~4mmの外径に制限される。また、胆管や膵管に挿入する内視鏡の観察用プローブは、通常、側視型の十二指腸内視鏡の観察用プローブの側面に設けられた開口部を通じて、十二指腸の乳頭に挿入された後、胆管や膵管に挿入されるが、十二指腸内視鏡の開口部において側面の90度を向く方向に導かれるため、屈曲した場合でも光量が低下しない光ファイバが望ましい。
本発明の光ファイバ及び光ファイバケーブルは、このような医療機器照明用途に好適に用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[化合物等の略号]
以下の実施例及び比較例で使用した化合物等の略号は以下のとおりである。
2F:フッ化ビニリデン
4F:テトラフルオロエチレン
6F:ヘキサフルオロプロピレン
8F:オクタフルオロブテン
3FM:2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート
MAFO:メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8,-トリデカフルオロオクチル
MAA:メタクリル酸
【0048】
[使用材料]
光ファイバのコアを構成するコア材、第一クラッド及び第二クラッドを構成するクラッド材及び被覆層の構成材料は、以下の材料を用いた。
第一クラッド材(B-1):フッ素樹脂(2F/4F/6F/8F)の共重合体、屈折率1.35)
第一クラッド材(B-2):フッ素樹脂(2F/4F/6F共重合体、屈折率1.363)
第一クラッド材(B-3):フッ素樹脂(2F/4F/6F共重合体、屈折率1.377)
第一クラッド材(B-4):フッ素樹脂(3FM/MAFO/MMA/MAA共重合体、屈折率1.418)
第二クラッド材(C-1):フッ素樹脂(2F/4F共重合体、屈折率1.405、融点135℃、デュロメータ硬さ試験による硬度65.8)
第二クラッド材(C-2):フッ素樹脂(2F/4F/6F重合体、屈折率1.377、融点129℃、デュロメータ硬さ試験による硬度49.3)
ポリアミド樹脂(N-1):ポリアミド12樹脂(商品名「グリルアミド XE3926」、EMS-GRIVORY社製)
ポリアミド樹脂(N-2):ポリアミド12樹脂(商品名「グリルアミド XE3823」、EMS-GRIVORY社製)
【0049】
[測定・評価方法]
各種の物性や特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0050】
<屈折率の測定>
溶融プレスにより厚さ200μmのフィルム状の試験片を作製し、ISO 13468に準拠し、アッベ屈折計(機種名「NAR-3T」、(株)アタゴ製)を用いて、23℃におけるナトリウムD線の屈折率を測定した。
【0051】
<デュロメータ硬さ試験による硬度の測定>
JIS K7215に準拠して測定した。
【0052】
<融点の測定>
融点は、示差走査熱量測定によって測定した。示差走査熱量計(形式:EXSTAR DSC6200、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、サンプルを昇温速度20℃/分で昇温させることで測定した。
【0053】
<長期耐熱性の評価>
実施例及び比較例で得られた光ファイバを、温度105℃の環境下または温度85℃湿度95%の環境下に3000時間曝露させ、波長650nm、励振NA=0.1の条件で、25m-1mのカットバック法により測定した。
25m-1mのカットバック法による測定は、IEC 60793-1-40:2001に準拠して行った。具体的には、25mの光ファイバを測定装置にセットし、出力パワーP2を測定した後、光ファイバをカットバック長(入射端から1m)に切断し、出力パワーP1を測定し、下記数式(1)を用いて光の伝送損失(単位:dB/km)を算出した。以上の測定は、遮光された環境下で実施した。
【0054】
【0055】
<耐屈曲性(曲げ損失)の評価>
長さ10mの光ファイバケーブルの一端から波長660nmのLED光を入射させた。その状態のまま、光ファイバケーブルの中央部を半径10mm(R10mm)の棒状物の外周に360°巻き付け、他端から出射される光量を測定した。このように屈曲させた光ファイバケーブルの出射光量と、非屈曲状態の同光ファイバケーブルについて同様に測定した出射光量の差から曲げ損失を算出した。
【0056】
<耐屈曲性(捻回損失)の評価>
長さ2mの光ファイバケーブルの一端から波長660nmのLED光を入射させた。その状態のまま、光ファイバケーブルの1点を固定しそこから25cm離れた位置を回転し光ファイバケーブルを捻回させた。25回転捻回させ、他端から出射される光量を測定した。このように捻回させた光ファイバケーブルの出射光量と、非捻回状態の同光ファイバケーブルについて同様に測定した出射光量の差から捻回損失を算出した。
【0057】
[実施例1]
<プラスチック光ファイバの製造と評価>
コア材をポリメチルメタクリレート(屈折率1.492)、第一クラッドの材料を第一クラッド材(B-1)、第二クラッドの材料を第二クラッド材(C-1)とし、3層構造の同心円状複合紡糸ノズルを用いて紡糸し、140℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2倍に延伸し、第一クラッドの厚さが5μm、第二クラッドの厚さが10μmで、直径1.0mmの延伸光ファイバを得た。この延伸光ファイバを、炉長1mの加熱炉において、温度85℃の加熱空気によって、定長状態を保ちながらアニール処理を施してプラスチック光ファイバとした。得られた光ファイバを用いて、長期耐熱性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
<プラスチック光ファイバケーブルの製造と評価>
一次被覆層を構成する材料をポリアミド樹脂(N-1)とし、二次被覆層を構成する材料をポリアミド樹脂(N-2)とした。これらの材料を樹脂被覆用クロスヘッド型40mmケーブル被覆装置((株)聖製作所製)に供給し、上記のプラスチック光ファイバの外周に一次被覆層(厚さ255μm)と二次被覆層(厚さ345μm)を被覆し、直径2.20mmの光ファイバケーブルを得た。得られた光ファイバケーブルを用いて、耐屈曲性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
[実施例2、比較例1,2]
クラッド材を表1に示す材料としたこと以外は、実施例1と同様にして光ファイバ及び光ファイバケーブルを製造し、同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
以上の結果から、本発明規定の屈折率の第一クラッド材と、本発明の規定の硬度及び融点の第二クラッド材を用いた本発明のプラスチック光ファイバは、耐屈曲性、長期耐熱耐久性、及び光学特性の維持性能に優れることが分かる。
これに対して、第一クラッド材の屈折率が大きい比較例1では、長期耐熱耐久性が劣る。また、第二クラッド材の融点及び硬度の低い比較例2では、耐屈曲性が劣る。