(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051902
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240404BHJP
H02J 3/12 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158287
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚之
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA09
5G066DA01
5G066DA04
(57)【要約】
【課題】配電系統の信頼性を向上させる不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムを提供する。
【解決手段】情報取得部11は、配電系統の系統情報を取得する。正相電圧算出部12は、系統情報を基に、三相平衡状態を前提とした場合の正相電圧を算出する。不平衡率算出部13は、系統情報を基に、不平衡率を算出する。組合せ抽出部14は、正相電圧算出部12により算出された正相電圧及び不平衡率算出部13により算出された不平衡率を基に相電圧の制約条件を求め、制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出する。不平衡電圧範囲推定部15は、組合せ抽出部14により抽出された相電圧の組み合わせの密度分布を用いて、制約条件を満たす相電圧の最小電圧及び最大電圧を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統の系統情報を取得する情報取得部と、
前記系統情報を基に、三相平衡状態を前提とした場合の正相電圧を算出する正相電圧算出部と、
前記系統情報を基に、不平衡率を算出する不平衡率算出部と、
前記正相電圧算出部により算出された前記正相電圧及び前記不平衡率算出部により算出された前記不平衡率を基に相電圧の制約条件を求め、前記制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出する組合せ抽出部と、
前記組合せ抽出部により抽出された前記相電圧の組み合わせの密度分布を用いて、前記制約条件を満たす相電圧の最小電圧及び最大電圧を求める不平衡電圧範囲推定部と
を備えたことを特徴とする不平衡電圧推定装置。
【請求項2】
前記系統情報には、前記配電系統に繋がる需要家の契約容量、前記配電系統の配電線インピーダンス、並びに、各相の電圧及び電流が含まれ、
前記正相電圧算出部は、前記契約容量及び前記配電線インピーダンスを基に配電線の容量を算出し、前記配電線の容量並びに前記各相の電圧及び電流を基に、前記三相平衡状態を前提とした電圧解析を行って前記正相電圧を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の不平衡電圧推定装置。
【請求項3】
前記系統情報には、過去の不平衡率の情報が含まれ、
前記不平衡率算出部は、前記過去の不平衡率を統計解析することで前記不平衡率を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の不平衡電圧推定装置。
【請求項4】
前記組合せ抽出部は、前記制約条件として前記正相電圧に基づく正相電圧制約条件及び前記不平衡率に基づく不平衡制約条件を求め、前記正相電圧制約条件及び前記不平衡制約条件を満たす相電圧の組合せを全数探索して列挙することで前記制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出することを特徴とする請求項1に記載の不平衡電圧推定装置。
【請求項5】
不平衡電圧範囲推定部は、カーネル密度推定を用いて前記制約条件を満たす相電圧の組合せの確率密度関数を推定し、推定した前記確率密度関数における所定の信頼区間を基に前記最小電圧及び前記最大電圧を推定することを特徴とする請求項1に記載の不平衡電圧推定装置。
【請求項6】
配電系統の系統情報を取得する情報取得部と、
前記系統情報を基に、三相平衡状態を前提とした場合の正相電圧を算出し、
前記系統情報を基に、不平衡率を算出し、
算出した前記正相電圧及び前記不平衡率を基に相電圧の制約条件を求め、前記制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出し、
抽出した前記相電圧の組み合わせの密度分布を用いて、前記制約条件を満たす相電圧の最小電圧及び最大電圧を求める
ことを特徴とする不平衡電圧推定方法。
【請求項7】
配電系統の系統情報を取得する情報取得部と、
前記系統情報を基に、三相平衡状態を前提とした場合の正相電圧を算出し、
前記系統情報を基に、不平衡率を算出し、
算出した前記正相電圧及び前記不平衡率を基に相電圧の制約条件を求め、前記制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出し、
抽出した前記相電圧の組み合わせの密度分布を用いて、前記制約条件を満たす相電圧の最小電圧及び最大電圧を求める
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする不平衡電圧推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電(PV:Photovoltaic)システムの導入が急速拡大している。メガソーラーを代表とする大容量PVは、三相連系である。一方、低圧需要家に連系されるPVは単相連系である。そのため、高圧配電線の各線間に連系されるPV容量は各区間により異なり、各線間電圧は不平衡が拡大することが懸念される。今後、単相連系のPVの導入が拡大することで相間の設置容量が異なることによる不平衡電圧の拡大により、系統電圧管理が困難になる可能性がある。また、買取価格の低下や買取制度の廃止によりPVから出力された電気を自家消費する方向に需要家の消費パターンが変化すると、蓄電池による相間の充放電量の違いによりさらなる不平衡を招くことが懸念される。
【0003】
これまで、一般送配電事業者では区間に連系される契約電力量から区間容量を設定し、系統全体の潮流を容量案分することで潮流計算等により系統電圧を推定していることが多く、三相平衡を前提に正相電圧により電圧の状態推定を行ってきた。しかし、今後PVや蓄電池等の単相連系する機器が増加すると系統電圧の不平衡が大きくなり、各線間の電圧差が拡大することでSVR(Step Voltage Regulator)を代表とする三相一括で電圧制御する機器では適正電圧範囲への維持が困難となる可能性がある。例えば、SVRが電圧を低い相を監視・制御することでタップの張り付きが発生し、適切なタップの切り替えが困難となる。このような状況において、不平衡電圧を容易に推定することができれば、不平衡への対策が必要となる配電線を特定して、スクリーニングを行うことが可能となる。
【0004】
なお、三相不平衡を解消する従来技術として、複数のコンデンサ又はリアクトルを各相に選択的に投入し、且つ、コンデンサ又はリアクトルの台数を削減しながら三相の線間の電圧不平衡を解消する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般送配電事業者が入手可能な情報は限られている。一般送配電事業者が入手可能な情報としては、例えば、需要家の契約容量、コンデンサ設置容量及びPV設置容量、配電線のインピーダンス及び装柱情報、並びに、センサ開閉器の計測情報などが存在する。一般送配電事業者は、これらの情報を用いて各区間の潮流量の推定や三相平衡を前提とした各区間単位の清掃電圧の計算などを行っている。ただし、従来技術では、これらの情報を用いた不平衡電圧の推定は行われていない。
【0007】
また、コンデンサ又はリアクトルの台数を削減して三相の線間の電圧不平衡を解消する技術では三相の各線の電圧を直接計測しており、一般送配電事業者が入手可能な情報を基に不平衡電圧の推定は行われていない。そのため、一般送配電事業者が不平衡電圧を推定して、推定結果を基に不平衡電圧が発生するおそれのある配電線を特定することは難しく、不平衡電圧への対応が遅れるおそれがある。したがって、配電系統の信頼性を向上させることは困難である。
【0008】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、配電系統の信頼性を向上させる不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の開示する不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムの一つの態様において、情報取得部は、配電系統の系統情報を取得する。正相電圧算出部は、前記系統情報を基に、三相平衡状態を前提とした場合の正相電圧を算出する。不平衡率算出部は、前記系統情報を基に、不平衡率を算出する。組合せ抽出部は、前記正相電圧算出部により算出された前記正相電圧及び前記不平衡率算出部により算出された前記不平衡率を基に相電圧の制約条件を求め、前記制約条件を満たす相電圧の組合せを抽出する。不平衡電圧範囲推定部は、前記組合せ抽出部により抽出された前記相電圧の組み合わせの密度分布を用いて、前記制約条件を満たす相電圧の最小電圧及び最大電圧を求める。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、本発明は、配電系統の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例に係る不平衡電圧推定装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせの集合を示す図である。
【
図3】
図3は、不平衡電圧の取り得る範囲の推定処理の概念図である。
【
図4】
図4は、実施例に係る不平衡電圧推定装置による不平衡電圧推定処理のフローチャートである。
【
図5】
図5は、不平衡電圧推定装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する不平衡電圧推定装置、不平衡電圧推定方法及び不平衡電圧推定プログラムが限定されるものではない。
【実施例0013】
図1は、実施例に係る不平衡電圧推定装置のブロック図である。本実施例に係る不平衡電圧推定装置1は、
図1に示すように、情報取得部11、正相電圧算出部12、不平衡率算出部13、組合せ抽出部14、不平衡電圧範囲推定部15及び通知部16を有する。
【0014】
不平衡電圧推定装置1は、配電系統におけるノードと呼ばれる電圧の調整地点のそれぞれにおける不平衡電圧の範囲の推定を行う。以下の説明では、1つのノードにおける不平衡電圧の推定処理について説明する。また、配電系統には、センサ開閉器が配置される。センサ開閉器は、各線間電圧及び各線電流を計測する。また、センサ開閉器は、不平衡率を取得する。
【0015】
情報取得部11は、一般送配電業者が得られる系統情報を情報提供装置2から取得する。ここで、一般送配電事業者は、需要家情報として契約容量、力率改善用コンデンサ設置情報が取得可能であり、PV設置情報として設置容量やPCS(Power Conditioning Subsystem)の型番等が取得可能である。開閉器区間に分布する潮流量は契約容量から設定される区間容量から推定され、PV設置情報は潮流量を補正するために用いられる。また、一般送配電事業者は、配電線情報として、配電線の線種や線路亘長により規定される正相インピーダンスが取得可能である。さらに、一般送配電事業者は、センサ開閉器で取得可能な各相の電圧及び電流から算出した電力情報を容量案分することで各区間の潮流を推定可能である。
【0016】
そこで、情報取得部11は、例えば、契約容量、コンデンサ設置容量及びPV設置容量を需要家情報として取得する。また、情報取得部11は、例えば、配電線インピーダンスの情報及び配電線の装柱情報を配電線情報として取得する。また、情報取得部11は、センサ開閉器により計測された各相の電圧及び電流の情報や不平衡率をセンサ開閉器の計測情報として取得する。
【0017】
正相電圧算出部12は、配電線情報及びセンサ開閉器の計測情報の入力を情報取得部11から受ける。そして、正相電圧算出部12は、契約容量、コンデンサ設置容量及びPV設置容量よりセンサ開閉器で挟まれる開閉器区間に設定される区間容量を算出する。次に、正相電圧算出部12は、センサ開閉器の計測情報に含まれる各相の電圧及び電流から、有効電力及び無効電力を求める。そして、正相電圧算出部12は、算出した有効電力及び無効電力を区間容量で案分することで各ノードに対して有効電力及び無効電力を設定する。そのうえで、正相電圧算出部12は、三相平衡状態を前提にした電圧解析により各ノードにおける基準となる正相電圧を算出する。この正相電圧は、電圧の中心を表す。その後、正相電圧算出部12は、算出した各ノードにおける正相電圧を組合せ抽出部14へ出力する。
【0018】
不平衡率算出部13は、センサ開閉器の計測情報に含まれる不平衡率の情報の入力を情報取得部11から受ける。次に、不平衡率算出部13は、取得した不平衡率を統計解析して各ノードで満たす基準とする不平衡率を算出する。この不平衡率は電圧の広がりを表す。その後、不平衡率算出部13は、算出した各ノードで満たす基準とする不平衡率を組合せ抽出部14へ出力する。
【0019】
ここで、本実施例では、不平衡率算出部13は、配電系統に配置されたセンサ開閉器の計測情報を用いて不平衡率を求めたが、センサ開閉器が配置されていない場合には、他の方法で不平衡率を求めることが可能である。例えば、センサ開閉器の設置が無い場合、不平衡率算出部13は、一般送配電事業者で用いられる管理値を利用して不平衡率を求めることができる。ただし、管理値は実態よりも大きな値となる場合が一般的であり、電圧推定幅が大きくなることに留意することが重要である。
【0020】
組合せ抽出部14は、各ノードにおける正相電圧の入力を正相電圧算出部12から受ける。また、組合せ抽出部14は、各ノードで満たす基準とする不平衡率の入力を不平衡率算出部13から受ける。さらに、組合せ抽出部14は、需要家情報、配電線情報及びセンサ開閉器の計測情報の入力を情報取得部11から受ける。そして、組合せ抽出部14は、取得した情報を用いて正相電圧及び不平衡率で決定される条件を満たす各相電圧の組み合わせを抽出する。以下に、組合せ抽出部14による各相電圧の組み合わせの抽出処理について詳細に説明する。
【0021】
ここで、不平衡電圧の推定のために、相電圧、不平衡率及び正相電圧の関係から各相電圧に対する条件を定式化する。まず、不平衡率に関する制約条件について検討する。ここでは、各相電圧を次の数式(1)で示されるように定義する。
【0022】
【0023】
ここで、Vaは三相電圧のうちのa相電圧であり、θaは、a相の電圧位相である。Vbは三相電圧のうちのb相電圧であり、θbは、b相の電圧位相である。Vcは三相電圧のうちのc相電圧であり、θCは、c相の電圧位相である。この場合、各相電圧から成る相電圧ベクトルは次の数式(2)で表される。ここで、Vが電圧ベクトルを表す。
【0024】
【0025】
ここで、配電系統は非接地系統であることを考慮すると、定常状態では零相電圧について次の数式(3)が成立する。数式(3)は、零相電圧制約である。ここで、V0が零相電圧を表す。
【0026】
【0027】
数式(3)に関して、成立する条件を実部と虚部とに分けて比較すると、次の数式(4)が成立する。
【0028】
【0029】
ここで、各線間電圧は、各相電圧を用いて次の数式(5)のように表現される。ここで、Vabは、ab間電圧であり、Vbcは、bc管電圧であり、Vcaは、ca管電圧である。
【0030】
【0031】
各線間電圧が数式(5)のように求められることで、各線間電圧の大きさは、次の数式(6)のように表される。
【0032】
【0033】
数式(6)に対して、零相電圧に関する条件である数式(4)を適用したうえで整理すると、各線間電圧は次の数式(7)のように整理される。すなわち、零相電圧制約を基に各線間電圧を変形することで、次の数式(7)が導かれる。
【0034】
【0035】
ここで、不平衡率は、次の数式(8)~(11)で定義されることが知られている。
【0036】
【0037】
そこで、数式(7)の零相電圧を考慮した線間電圧と数式(8)~(11)とを用いることで、零相電圧を考慮した不平衡率が算出される。そして、不平衡率に関する制約条件を、次の数式(12)のように定義する。ここで、Krefは不平衡率規定値である。
【0038】
【0039】
次に、正相電圧に関する制約条件について検討する。正相電圧は各相電圧とベクトルオペレータとを用いて、次の数式(13)及び(14)のように表される。ここで、εはベクトルオペレータであり、V1は正相電圧である。
【0040】
【0041】
各相電圧を用いて、数式(13)及び(14)を展開すると、次の数式(15)が得られる。
【0042】
【0043】
数式(15)の三角関数が0≦cosθ≦1であることを考慮すると、数式(15)の取り得る範囲は次の数式(16)として表される。
【0044】
【0045】
数式(16)は、相電圧の組み合わせに対して、正相電圧の変動する範囲を規定する式である。正相電圧算出部12により算出された正相電圧を用いて、相電圧が満たす制約は次の数式(17)のように定義される。ここで、Vmは、正相電圧算出部12により算出された正相電圧である。
【0046】
【0047】
数式(17)は、相電圧の組合せを、三相平衡を仮定して得られた正相電圧、すなわち、三相平衡計算により得られる正相電圧に近づけるための制約である。さらに、相電圧の組合せを三相平衡計算により得られる正相電圧に近づけるために、数式(17)で示される相電圧が満たすことを要求される正相電圧に関する制約条件を次の数式(18)のように拡張する。ここで、aは余裕率を表す。
【0048】
【0049】
数式(18)は、相電圧の組み合わせを、三相平衡を前提とした正相電圧Vmに近づけるための条件であり、余裕率を定義して、正相電圧からのずれ幅を表す。本実施例では、余裕率を0.1%として、事前に得られた正相電圧に極力近づけるように設定する。以上により、数式(12)で表される電圧不平衡率に関する制約条件である不平衡制約条件と、数式(18)で表される正相電圧に関する制約条件である正相電圧制約条件とが定義される。
【0050】
そこで、組合せ抽出部14は、数式(12)及び(18)で表される制約条件を満たす相電圧の組み合わせを全数探索して、列挙することで解の集合を算出する。
図2は、正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせの集合を示す図である。
【0051】
図2におけるグラフ101は、正相電圧制約条件を満たす解の集合を表す。グラフ101のそれぞれの軸は、a相電圧、b相電圧及びc相電圧を表す。正相電圧制約条件では各相電圧が線形接続されていることから、正相電圧制約条件は、グラフ101に示すように各相電圧が取り得る平面を規定する。
【0052】
図2におけるグラフ102は、不平衡制約条件を満たす解の集合を表す。グラフ102のそれぞれの軸は、a相電圧、b相電圧及びc相電圧を表す。不平衡制約条件では、グラフ102に示すように、相電圧の広がりが定義される。
【0053】
組合せ抽出部14は、グラフ103に示すように、正相電圧制約条件を満たす解の集合と不平衡制約条件を満たす解の集合とを組み合わせる。これにより、組合せ抽出部14は、正相電圧制約条件により規定される各相電圧が取り得る平面と不平衡制約条件で規定される相電圧の広がりとが交わる領域を特定する。組合せ抽出部14は、特定した領域に含まれる解の集合104を、数式(12)及び(18)で表される制約条件を満たす相電圧の組み合わせの集合として抽出する。その後、組合せ抽出部14は、抽出した制約条件を満たす相電圧の組み合わせの情報を不平衡電圧範囲推定部15へ出力する。
【0054】
不平衡電圧範囲推定部15は、制約条件を満たす相電圧の組み合わせの情報の入力を組合せ抽出部14から受ける。そして、不平衡電圧範囲推定部15は、制約条件を満たす相電圧の組み合わせの出現確率を定量的に評価して、不平衡電圧の取り得る範囲を推定する。
【0055】
ここで、
図2に示される解の集合は、各軸について対称性を有する。例えば、3つの相電圧を相電圧の高い順に列挙した場合にa相電圧、b相電圧、c相電圧とc相電圧、a相電圧、b相電圧は等価となる。各相電圧の大きさを求めるためには、各相電圧の相対関係を定義する条件を用いることになるが、
図2に示す制約では各相電圧間の相関関係は特定困難である。すなわち、一般送配電事業者が取得可能な簡易な系統情報からでは、各相の不平衡電圧を同定することは困難である。そのため、本実施例に係る不平衡電圧推定装置1は、各相間の不平衡電圧ではなく、不平衡電圧の変動範囲を推定する。具体的には、不平衡電圧範囲推定部15は、
図2に示す実行可能領域では境界に近づくほど条件を満たす集合が小さくなるという点に着目して、解の集合の要素の出現確率を定量的に評価することで、不平衡電圧の取り得る範囲を推定する。
【0056】
図3は、不平衡電圧の取り得る範囲の推定処理の概念図である。不平衡電圧範囲推定部15が取得した相電圧の組み合わせは、
図3の解の集合111にあたる。そして、解の集合111に含まれる電圧毎の頻度はグラフ112のようにあらわされる。グラフ112は、横軸で電圧を表し、縦軸で頻度を表す。
【0057】
そこで、不平衡電圧範囲推定部15は、抽出された各相電圧の組み合わせから算出される線間電圧を用いて、確率密度分布113を推定する。
図3の確率密度分布を表すグラフは、横軸で電圧を表し、縦軸で確率を表す。ここで、密度の分布形態が不明であるので、不平衡電圧範囲推定部15は、密度分布の推定に、ノンパラメトリックの分布推定であるカーネル密度推定を用いる。
【0058】
不平衡電圧範囲推定部15は、正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせのそれぞれを表す解の集合111に対して次の数式(19)に示すカーネル密度推定を用いて、解の集合111の確率密度関数113を推定する。ここで、Vは、任意の電圧である。また、Viは、抽出された相電圧の組み合わせである解の集合より得られた線間電圧のサンプルである。nは、解の集合よりサンプリングした要素数である。hは、バンド幅である。また、fは、カーネル密度関数である。
【0059】
【0060】
そして、不平衡電圧範囲推定部15は、推定した確率密度関数113における99%信頼区間114を特定して、次の数式(20)及び(21)で示される最小電圧115及び最大電圧116を推定する。
【0061】
【0062】
ここで、Pは、電圧降下ベクトルの発生確率である。また、Vminは、信頼区間における電圧降下の最小値である。また、Vmaxは、信頼区間における電圧降下の最大値である。
【0063】
不平衡電圧範囲推定部15は、以上のような処理で行われる最小電圧及び最大電圧の推定をノード毎に実行する。その後、不平衡電圧範囲推定部15は、推定結果を通知部16へ出力する。
【0064】
通知部16は、推定結果であるノード毎の最小電圧及び最大電圧の入力を不平衡電圧範囲推定部15から受ける。そして、通知部16は、ノード毎の最小電圧及び最大電圧の情報を管理者端末(不図示)などへ送信することで、管理者に推定結果を通知する。
【0065】
ここで、不平衡電圧範囲推定部15により求められた最小電圧115及び最大電圧116は、許容される電圧不平衡の範囲に収まる下限と上限とを規定する。すなわち、各ノードにおいて、各相電圧が、それぞれのノード毎に求められた最小電圧115を下回る又は最大電圧116を上回った場合に、管理者は、許容範囲を超える電圧不平衡が発生すると判定することができる。そこで、管理者は、許容範囲を超える電圧不平衡が発生するノードにおいて、電圧不平衡に対処するための処置を施すことを検討できる。
【0066】
図4は、実施例に係る不平衡電圧推定装置による不平衡電圧推定処理のフローチャートである。次に、
図4を参照して、本実施例に係る不平衡電圧推定装置1による不平衡電圧推定処理の流を説明する。
【0067】
情報取得部11は、契約容量、コンデンサ設置容量及びPV設置容量を含む需要家情報、配電線インピーダンス及び装柱情報を含む配電線情報、並びに、センサ開閉器の計測情報を含む簡易な系統情報を情報提供装置2から取得する(ステップS1)。
【0068】
正相電圧算出部12は、配電線情報及びセンサ開閉器の計測情報の入力を情報取得部11から受ける。そして、正相電圧算出部12は、三相平衡を前提として、配電線のインピーダンス、配電線の装柱情報、並びに、有効電力及び無効電力の情報を用いて各ノードにおける基準となる正相電圧を算出する(ステップS2)。その後、正相電圧算出部12は、算出した各ノードにおける正相電圧を組合せ抽出部14へ出力する。
【0069】
不平衡率算出部13は、センサ開閉器の計測情報に含まれる不平衡率の情報の入力を情報取得部11から受ける。次に、不平衡率算出部13は、取得した不平衡率を統計解析して各ノードで満たす基準とする不平衡率を算出する(ステップS3)。その後、不平衡率算出部13は、算出した各ノードで満たす基準とする不平衡率を組合せ抽出部14へ出力する。
【0070】
組合せ抽出部14は、各ノードにおける正相電圧の入力を正相電圧算出部12から受ける。また、組合せ抽出部14は、各ノードで満たす基準とする不平衡率の入力を不平衡率算出部13から受ける。さらに、組合せ抽出部14は、各種の系統情報を情報取得部11から取得する。そして、組合せ抽出部14は、数式(12)及び(18)に取得した正相電圧及び不平衡率を用いて、各ノードにおける正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を決定する(ステップS4)。
【0071】
次に、組合せ抽出部14は、正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせを抽出する(ステップS5)。その後、組合せ抽出部14は、抽出した相電圧の組み合わせの情報を不平衡電圧範囲推定部15へ出力する。
【0072】
不平衡電圧範囲推定部15は、正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせの情報の入力を組合せ抽出部14から受ける。次に、不平衡電圧範囲推定部15は、数式(19)で表されるカーネル密度推定を用いて正相電圧制約条件及び不平衡制約条件を満たす相電圧の組み合わせの確率密度関数を推定する。次に、不平衡電圧範囲推定部15は、数式(20)及び(21)を用いて、推定した確率密度関数における99%信頼区間にあたる許容可能な電圧範囲を推定する(ステップS6)。
【0073】
次に、不平衡電圧範囲推定部15は、許容可能な電圧範囲から不平衡電圧の最小電圧及び最大電圧をノード毎に推定する(ステップS7)。その後、不平衡電圧範囲推定部15は、推定結果である各ノードの不平衡電圧の最小電圧及び最大電圧を通知部16へ出力する。
【0074】
通知部16は、各ノードの不平衡電圧の最小電圧及び最大電圧の入力を不平衡電圧範囲推定部15から受ける。そして、通知部16は、各ノードの不平衡電圧の最小電圧及び最大電圧を管理者端末(不図示)などへ送信して、推定結果を管理者に通知する(ステップS8)。管理者は、不平衡電圧推定装置1から通知された判定結果を用いて、発生する不平衡電圧への対処が必要なノードを特定して、その特定したノードに対してどのような処置を施すかを検討することができる。
【0075】
以上に説明したように、本実施例に係る不平衡電圧推定装置は、簡易な系統情報から得られる三相平衡を前提とした正相電圧及び不平衡率を用いて、配電系統におけるノード毎の電圧不平衡が許容範囲内に納まる最小電圧及び最大電圧を求めることができる。これにより、管理者は、容易に電圧不平衡が発生するノードを特定することができ、迅速に電圧不平衡に対処することができる。したがって、配電系統の信頼性を向上させることができる。
【0076】
(ハードウェア構成)
図5は、不平衡電圧推定装置のハードウェア構成図である。
図5に示すように、不平衡電圧推定装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)91、メモリ92、ハードディスク93及びネットワークインタフェース94を有する。
【0077】
ネットワークインタフェース94は、不平衡電圧推定装置1と外部装置との間の通信のインタフェースである。ネットワークインタフェース94は、例えば、CPU91と情報提供装置2との間の通信を中継する。また、ネットワークインタフェース94は、例えば、通知部16と管理者端末との間の通信を中継する。
【0078】
ハードディスク93は、補助記憶装置である。ハードディスク93は、
図1に例示した、情報取得部11、正相電圧算出部12、不平衡率算出部13、組合せ抽出部14、不平衡電圧範囲推定部15及び通知部16の機能を実現するプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0079】
メモリ92は、主記憶装置である。メモリ92は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などである。
【0080】
CPU91は、ハードディスク93から各種プログラムを読み出してメモリ92上に展開して実行する。これにより、CPU91は、
図1に例示した、情報取得部11、正相電圧算出部12、不平衡率算出部13、組合せ抽出部14、不平衡電圧範囲推定部15及び通知部16の機能を実現する。