(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051932
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/059 20060101AFI20240404BHJP
H01F 1/06 20060101ALI20240404BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240404BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240404BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240404BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
H01F1/059 160
H01F1/06
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F1/14 650
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158329
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将裕
(72)【発明者】
【氏名】多田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山中 智詞
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健太
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC18
4K018BC19
4K018BC32
4K018BD01
4K018CA09
4K018GA02
4K018KA46
5E040AA03
5E040CA01
5E040HB09
5E040HB17
5E040NN17
5E040NN18
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG01
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】より優れた固有保磁力を有しつつ、耐酸化性に優れたリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌することで、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸処理工程を含む、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌することで、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸処理工程を含む、
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸処理工程において、前記スラリーに対して無機酸を添加して、前記スラリーのpHを1以上4.5以下に調整する、
請求項1に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記リン酸処理工程において、前記無機酸の添加によるpHの調整を10分間以上行う、
請求項2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸処理工程において、pHを1.6以上3.9以下に調整する、
請求項2または3に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸処理工程の後に、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を酸素含有雰囲気下150℃以上330℃以下で熱処理する酸化工程を含む、
請求項1または2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム源に含まれるアルミニウム元素の含有量が、前記SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対して、0.02mоl以下である
請求項1または2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム源が、塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムからなる群から選択される1以上である、請求項1または2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記スラリーが、さらにカルシウム源を含む、請求項1または2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末におけるリン酸塩の含有量が0.5質量%より大きい請求項1または2に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SmFeN系異方性磁性粉末の表面にリン酸塩被覆を形成することにより固有保磁力が向上することが知られている。例えば特許文献1においては、SmFeN系異方性磁性粉末を含む、水を溶媒としたスラリーに対して、pH調整されたオルトリン酸を含むリン酸処理液を添加することにより、SmFeN系異方性磁性粉末の表面にリン酸塩被覆を形成する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2においては、粒径の大きいSmFeN系異方性磁性粉末を含む、有機溶媒を溶媒としたスラリーに対してpH調整されたリン酸処理液を添加した後、SmFeN系異方性磁性粉末を粉砕することにより小粒子化するとともに、SmFeN系異方性磁性粉末の表面にリン酸塩被覆を形成する方法が開示されている。
【0004】
特許文献3においては、リン酸塩被覆が形成されたSmFeN系異方性磁性粉末に対して徐酸化処理をすることにより磁性粉末の固有保磁力が高くなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-056101号公報
【特許文献2】特開2017-210662号公報
【特許文献3】特開2014-160794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より優れた固有保磁力を有しつつ、耐酸化性に優れたリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法は、SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌することで、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸処理工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、より優れた固有保磁力を有しつつ、耐酸化性に優れたリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0010】
<リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法>
本実施形態のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法は、SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌することで、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸処理工程を含むことを特徴とする。
【0011】
[リン酸処理工程]
リン酸処理工程では、SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌する。これにより、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得る。
【0012】
SmFeN系異方性磁性原料粉末は、Th2Zn17型の結晶構造をもち、一般式がSmxFe100-x-yNyで表される希土類金属であるサマリウム(Sm)と鉄(Fe)と窒素(N)からなる窒化物である。ここで、xは、8.1原子%以上10原子%以下、yは13.5原子%以上13.9原子%以下、残部が主としてFeとされることが好ましい。
【0013】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末は、SmFeN系異方性磁性原料粉末に含まれる金属成分(例えば鉄やサマリウム)とリン酸源に含まれるリン酸とが反応することによりリン酸塩(例えばリン酸鉄、リン酸サマリウム)がSmFeN系異方性磁性原料粉末の表面において析出することによって形成される。さらに、スラリー中にアルミニウム源を共存させることによりSmFeN系異方性磁性原料粉末の表面にアルミニウム化合物が析出する。また、本実施形態によると溶媒を水にすることによって、有機溶媒とする場合と比べて、粒径が小さいリン酸塩が析出するので、被覆部が緻密なリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末が得られる。このような水を溶媒として用いたリン酸処理において、アルミニウム源をともに用いる場合、より優れた固有保磁力を有するSmFeN系異方性磁性粉末が得られる。これは、例えば、リン酸処理時にアルミニウム源が存在することにより、SmFeN系異方性磁性原料粉末の表面に、リン酸塩がより緻密に、もしくは、多量に形成されることで、リン酸塩被覆による効果が向上していると考えられる。
【0014】
スラリー中のSmFeN系異方性磁性原料粉末の含有量は、例えば1質量%以上50質量%以下であり、生産性の点から5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0015】
リン酸源は、スラリー中にリン酸(PO4)を生じさせることのできるリン酸化合物であれば特に限定されず、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸系、ポリリン酸系などの無機リン酸、有機リン酸が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中の炭素含有量がより少なくなり、リン酸塩被覆の効果が得られやすい点で、無機リン酸を用いることが好ましい。また、被覆による耐水性、耐食性や磁性粉末の磁気特性を向上する目的で、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩、クロム酸塩などのオキソ酸塩等、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなどの酸化剤等、EDTAなどのキレート剤等を更に添加してもよい。
【0016】
スラリー中のリン酸源の含有量は、リン酸(PO4)換算量で、例えば5質量%以上50質量%以下であり、リン酸化合物の溶解度、保存安定性や化成処理のし易さの点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0017】
アルミニウム源は、スラリー中にアルミニウムイオン(Al3+)を生じさせることのできるアルミニウム化合物であれば特に限定されず、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミニウム化合物の溶解度、化成処理のし易さの点で塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムが好ましい。
【0018】
スラリー中のアルミニウム源の含有量は、得られる磁磁粉末の磁気特性の低下を最小限にするという理由から、例えば塩化アルミニウムを用いた場合には、スラリー中のSmFeN系異方性磁性原料粉末100重量部に対して0.05重量部以上2.5重量部以下が好ましく、0.1重量部以上2重量部以下がより好ましく、0.2重量部以上1.8重量部以下がさらに好ましい。
【0019】
スラリー中のアルミニウム源に含まれるアルミニウム元素の含有量は、SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対して0.02mоl以下であることが好ましく、0.015mоl以下であることがより好ましい。0.02mоl以下とすることにより、磁性粉末の固有保磁力および耐酸化性をより向上できる傾向がある。下限は特に限定されず、一般的には0.001mol以上である。
【0020】
スラリーは、SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源に加えて、さらにカルシウム源を含んでいてもよい。スラリーがカルシウム源を含むことにより、磁性粉末にカルシウムが結合し、耐酸化性および耐水性をより向上できる。
【0021】
カルシウム源は、スラリー中にカルシウムイオン(Ca2+)を生じさせることのできるカルシウム化合物であれば特に限定されず、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、カルシウム化合物の溶解度、化成処理のし易さの点で塩化カルシウムが好ましい。
【0022】
スラリー中のカルシウム源に含まれるカルシウム元素の含有量は、SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対して0.02mоl以下が好ましく、0.015mоl以下がより好ましい。0.02mol以下とすることにより、磁性粉末の耐酸化性および耐水性を向上できる傾向がある。下限は特に限定されず、一般的には0.001mol以上である。
【0023】
SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源、ならびに必要に応じてカルシウム源を含むスラリーを作製する方法は特に限定されず、各成分を任意の順序で混合すればよいが、あらかじめSmFeN系異方性磁性原料粉末、およびアルミニウム源、ならびに必要に応じてカルシウム源を混合し、その後、リン酸源と水を含むリン酸水溶液を添加することが好ましい。スラリーの撹拌速度は100rpm以上1000rpm以下が好ましい。スラリーの撹拌時の温度は、反応効率と制御容易性の観点から5℃以上45℃以下が好ましく、10℃以上25℃以下がより好ましい。
【0024】
リン酸処理工程においては、スラリーに対して無機酸を添加して、スラリーのpHを1以上4.5以下に調整してもよい。pHは1.6以上3.9以下に調整することが好ましく、2以上3以下に調整することがより好ましい。pHを1以上とすることにより、局部的に多量に析出したリン酸塩を起点としてリン酸塩被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末どうしが凝集することを防止し、固有保磁力を向上できる。pHを4.5以下とすることにより、リン酸塩の析出量が減少することによって被覆が不十分となることを防止し、固有保磁力を向上できる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、ほう酸、フッ化水素酸が挙げられる。リン酸処理工程中は、上記pHの範囲となるように、無機酸を随時添加することが好ましい。廃液処理の観点から無機酸を使用するが、目的に応じて有機酸を併用することができる。有機酸としては酢酸、蟻酸、酒石酸等が挙げられる。無機酸と有機酸を混合して使用してもよい。
【0025】
無機酸の添加によるスラリーのpHの調整は、10分間以上行うことが好ましく、被覆部の厚さが薄い部分を減らす点から30分間以上行うことがより好ましい。pH維持の初期はpHの上昇が早いためにpH制御用の無機酸の投入間隔が短いが、SmFeN系異方性磁性原料粉末の表面へのリン酸塩の被覆が進むとともにpHの変動が緩やかになり、無機酸の投入間隔が長くなることから反応終点を判断できる。
【0026】
[リン酸処理後の酸化工程]
リン酸処理工程の後に、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を酸素含有雰囲気下150℃以上330℃以下で熱処理する酸化工程を実施してもよい。この酸化工程では、例えば徐酸化処理によってリン酸塩が被覆された母材のSmFeN系異方性磁性粉末の表面が酸化されて厚い酸化鉄層が形成され、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末の耐熱水性が向上する傾向がある。
【0027】
リン酸処理後の酸化工程は、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を、酸素含有雰囲気下で熱処理することにより行う。反応雰囲気は窒素、アルゴンなどの不活性ガス中に酸素を含むことが好ましい。酸素濃度は3%以上21%以下が好ましく、3.5%以上10%以下がより好ましい。酸化反応中は磁性粉末1kgに対して2L/分以上10L/分以下の流速でガスを交換することが好ましい。
【0028】
リン酸処理後の酸化工程における熱処理温度は150℃以上330℃以下であり、200℃以上330℃以下が好ましく、200℃以上250℃以下がより好ましく、210℃以上230℃以下がさらに好ましい。150℃以上とすることにより、酸化鉄層の生成を促進でき、耐熱水性を向上できる。330℃以下とすることにより酸化鉄層の過剰な形成を防止し、固有保磁力を向上できる。熱処理時間は3時間以上10時間以下が好ましい。
【0029】
[シリカ処理工程]
リン酸工程を経たSmFeN系異方性磁性粉末は、必要に応じてシリカ処理を行ってもよい。磁性粉末にシリカ薄膜を形成することにより、耐酸化性を向上できる。シリカ薄膜は、例えば、アルキルシリケート、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末、およびアルカリ溶液を混合することにより形成できる。
【0030】
[シランカップリング処理工程]
シリカ処理後の磁性粉末を、さらにシランカップリング剤で処理してもよい。シリカ薄膜が形成された磁性粉末をシランカップリング処理することで、シリカ薄膜上にカップリング剤膜が形成され、磁性粉末の磁気特性が向上するとともに、樹脂との濡れ性、磁石の強度を改善することができる。シランカップリング剤は、樹脂の種類に合わせて選定すればよく特に限定されないが、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチレンジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、オレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、ポリエトキシメチルシロキサン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、t-ブチルカルバメートトリアルコキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。シランカップリング剤の添加量は、磁性粉末100重量部に対して、0.2重量部以上0.8重量部以下が好ましく、0.25重量部以上0.6重量部以下がより好ましい。0.2重量部未満ではシランカップリング剤の効果が小さく、0.8重量部を超えると、磁性粉末の凝集により、磁性粉末や磁石の磁気特性を低下させる傾向がある。
【0031】
リン酸処理工程後、酸化工程後、シリカ処理、或いはシランカップリング処理後のSmFeN系異方性磁性粉末は、常法により、濾過、脱水、乾燥を行うことができる。
【0032】
<リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末>
本実施形態の製造方法により得られるリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の平均粒径は、2μm以上5μm以下が好ましく、2.5μm以上4.8μm以下がより好ましい。2μm以上とすることにより、ボンド磁石中の磁性粉末の充填量を大きくできるため磁化を向上しやすく、5μm以下とすることにより、ボンド磁石の固有保磁力を向上できる傾向がある。ここで、平均粒径は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した粒径であり、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置(日本レーザー株式会社のHELOS&RODOS)によって測定できる。
【0033】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の粒径D10は、1μm以上3μm以下が好ましく、1.5μm以上2.5μm以下がより好ましい。1μm以上とすることにより、ボンド磁石中の磁性粉末の充填量を大きくできるため磁化を向上しやすく、一方で3μm以下とすることにより、ボンド磁石の固有保磁力を向上できる傾向がある。ここで、D10とは、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が10%に相当する粒径である。
【0034】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の粒径D50は、2.5μm以上5μm以下が好ましく、2.7μm以上4.8μm以下がより好ましい。2.5μm以上とすることにより、ボンド磁石中の磁性粉末の充填量を大きくできるため磁化を向上しやすく、5μm以下とすることにより、ボンド磁石の固有保磁力を向上できる傾向がある。ここで、D50とは、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が50%に相当する粒径である。
【0035】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の粒径D90は、3μm以上7μm以下が好ましく、4μm以上6μm以下がより好ましい。3μm以上とすることにより、ボンド磁石中の磁性粉末の充填量を大きくできるため磁化を向上しやすく、7μm以下とすることにより、ボンド磁石の固有保磁力を向上できる傾向がある。ここで、D90とは、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が90%に相当する粒径である。
【0036】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の下記で定義されるスパン:
スパン=(D90-D10)/D50
は、固有保磁力の点から2以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0037】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の円形度は特に限定されないが、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。0.5以上とすることにより、流動性が向上し、成形時に粒子間で応力がかかることを抑制できるため磁気特性が向上する。ここで、円形度の測定には、3000倍で撮影したSEM画像を画像処理で二値化し、粒子1個に対して、円形度を求める。本発明で規定する円形度とは、1000個~10000個程度の粒子を計測して求めた円形度の平均値を意味する。一般的に粒径が小さい粒子が多くなるほど円形度は高くなるため、1μm以上の粒子について円形度の測定を行う。円形度の測定においては定義式:円形度=(4πS/L2)を用いる。但し、Sは、粒子の二次元投影面積、Lは二次元投影周囲長である。
【0038】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末は、DSCにおける発熱開始温度が170℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、260℃以上であることがさらに好ましい。DSCにおける発熱開始温度はリン酸塩被覆の緻密さ、厚み、および耐酸化性等の総合的な評価であり、170℃以上であるときに高い固有保磁力が得られる。
【0039】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末は、XRD回折パターンにおいて、αFeの(110)面の回折ピーク強度(I)とSmFeN系異方性磁性粉末の(300)面の回折ピーク強度(II)との比(I)/(II)が2.0×10-2以下であることが好ましく、1.0×10-2以下であることがより好ましい。αFeの(110)面の回折ピーク強度(I)は、不純物であるαFeの存在量を表しており、前述した比(I)/(II)が2.0×10-2以下であるときに、高い固有保磁力が得られる。なお、XRD回折パターンにおける回折ピーク強度は、粉末X線結晶回折装置(リガク製、X線波長:CuKa1)にて測定を行い、測定したαFeの(110)面の回折ピーク強度をSm2Fe17N3の(300)面の回折ピーク強度で除した後10000倍した値をαFeピークハイト比として求めることができる。αFeピークハイト比が低いことは不純物であるαFeの含有量が低いことを意味する。
【0040】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末は、炭素含有量が1000ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。炭素含有量は、リン酸塩中の有機不純物量を示しており、炭素含有量が1000ppm以下であるときには、ボンド磁石を作製する過程において、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末が高温にさらされたときの有機不純物の分解による被覆部の欠陥を抑制できるため、固有保磁力が向上する傾向がある。ここで、炭素含有量は、TOC法によって測定することができる。
【0041】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中のリン酸塩の含有量は0.5質量%より大きいことが好ましく、0.55質量%以上であることがより好ましく、0.75質量%以上であることがさらに好ましく、0.9質量%以上であることが特に好ましい。また、リン酸塩の含有量の上限は4.5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。リン酸塩の含有量が0.5質量%より大きい場合には、リン酸塩による被覆の効果を増大できる傾向があり、4.5質量%以下では、リン酸塩被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末どうしの凝集による固有保磁力の低下を防止できる傾向がある。なお、磁性粉末中のリン酸塩の含有量は、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定されるPO4分子換算量で表す。
【0042】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の、リン酸塩被覆部の厚みは、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の固有保磁力の点から10nm以上200nm以下が好ましい。なお、リン酸塩被覆部の厚みは、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の断面において、EDXによるライン分析によって組成分析を行うことにより測定できる。
【0043】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中のアルミニウムの含有量は0.03質量%より大きいことが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、アルミニウムの含有量の上限は0.40質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。アルミニウムの含有量が0.40質量%以下であると、リン酸塩析出反応時に凝集が起こりづらく、得られる異方性磁性粉末の磁気特性の低下を低減できる傾向があり、0.03質量%以上であると、アルミニウムを含むことによる磁気特性向上の効果が得やすくなる傾向がある。なお、磁性粉末中のアルミニウムの含有量は、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定される。
【0044】
リン酸処理工程におけるスラリーがカルシウム源を含む場合、得られるリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中のカルシウムの含有量は0.01質量%より大きいことが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、カルシウムの含有量の上限は0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。カルシウムの含有量が0.10質量%以下であると、磁気特性の低下を低減できる傾向があり、0.01質量%以上であると、アルミニウムと併存した際に、耐水性がより向上する傾向がある。なお、磁性粉末中のカルシウムの含有量は、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定される。
【0045】
<SmFeN系異方性磁性原料粉末の製造方法>
前述したリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法において、リン酸処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性原料粉末は特に限定されないが、例えば、
SmとFeを含む溶液と沈殿剤を混合し、SmとFeを含む沈殿物を得る工程(沈殿工程)、
沈殿物を焼成してSmとFeを含む酸化物を得る工程(酸化工程)、
酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理して部分酸化物を得る工程(前処理工程)、
部分酸化物を還元する工程(還元工程)、および
還元工程で得られた合金粒子を窒化処理する工程(窒化工程)
を含む方法によって製造されたものを好適に使用できる。
【0046】
[沈殿工程]
沈殿工程では、強酸性の溶液にSm原料、Fe原料を溶解して、SmとFeを含む溶液を調製する。Sm2Fe17N3を主相として得る場合、SmおよびFeのモル比(Sm:Fe)は1.5:17~3.0:17が好ましく、2.0:17~2.5:17がより好ましい。La、W、Co、Ti、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luなどの原料を前述した溶液に加えても良い。
【0047】
Sm原料、Fe原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されない。例えば、入手のしやすさの点で、Sm原料としては酸化サマリウムが、Fe原料としてはFeSO4が挙げられる。SmとFeを含む溶液の濃度は、Sm原料とFe原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整することができる。酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。
【0048】
SmとFeを含む溶液と沈殿剤を反応させることにより、SmとFeを含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、SmとFeを含む溶液は、沈殿剤との反応時にSmとFeを含む溶液となっていればよく、たとえばSmとFeを含む原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良い。別々の溶液として調製する場合においても各原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整する。沈殿剤としては、アルカリ性の溶液でSmとFeを含む溶液と反応して沈殿物が得られるものであれば限定されず、アンモニア水溶液、苛性ソーダなどが挙げられ、苛性ソーダが好ましい。
【0049】
沈殿反応は、沈殿物の粒子の性状を容易に調整できる点から、SmとFeを含む溶液と、沈殿剤とを、それぞれ水などの溶媒に滴下する方法が好ましい。SmとFeを含む溶液と沈殿剤の供給速度、反応温度、反応液濃度、反応時のpH等を適宜制御することにより、構成元素の分布が均質で、粒度分布のシャープな、粉末形状の整った沈殿物が得られる。このような沈殿物を使用することによって、得られる磁性原料粉末の磁気特性が向上する。反応温度は、0~50℃とすることができ、35~45℃であることが好ましい。反応液濃度は、金属イオンの総濃度として0.65mol/L~0.85mol/Lとすることが好ましく、0.7mol/L~0.84mol/Lとすることがより好ましい。反応時のpHは、5~9とすることが好ましく、6.5~8とすることがより好ましい。
【0050】
沈殿工程で得られた沈殿物により、得られる磁性原料粉末の粉末粒径、粉末形状、粒度分布がおよそ決定される。得られた粒子の粒径をレーザー回折式湿式粒度分布計により測定した場合、全粉末が、0.05~20μm、好ましくは0.1~10μmの範囲にほぼ入るような大きさと分布であることが好ましい。また、沈殿物の平均粒径は、粒度分布における小粒径側からの体積累積50%に相当する粒径として測定され、0.1~10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0051】
沈殿物を分離した後は、続く酸化工程の熱処理において残存する溶媒に沈殿物が再溶解して、溶媒が蒸発する際に沈殿物が凝集したり、粒度分布、粉末粒径等が変化したりすることを抑制するために、分離した沈殿物を脱溶媒しておくことが好ましい。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70~200℃のオーブン中で5~12時間乾燥する方法が挙げられる。
【0052】
沈殿工程の後に、得られる沈殿物を分離洗浄する工程を含んでもよい。洗浄する工程は上澄み溶液の導電率が5mS/m以下となるまで適宜行う。沈殿物を分離する工程としては、例えば、得られた沈殿物に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、濾過法、デカンテーション法等を用いることができる。
【0053】
[酸化工程]
酸化工程とは、沈殿工程で形成された沈殿物を焼成することにより、SmとFeを含む酸化物を得る工程である。例えば、熱処理により沈殿物を酸化物に変換することができる。沈殿物を熱処理する場合、酸素の存在下で行われる必要があり、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、酸素存在下で行われる必要があるため、沈殿物中の非金属部分に酸素原子を含むことが好ましい。
【0054】
酸化工程における熱処理温度(以下、酸化温度)は特に限定されないが、700~1300℃が好ましく、900~1200℃がより好ましい。700℃未満では酸化が不十分となり、1300℃を超えると、目的とする磁性原料粉末の形状、平均粒径および粒度分布が得られない傾向にある。熱処理時間も特に限定されないが、1~3時間が好ましい。
【0055】
得られる酸化物は、酸化物粒子内においてSm、Feの微視的な混合が充分になされ、沈殿物の形状、粒度分布等が反映された酸化物粒子である。
【0056】
[前処理工程]
前処理工程とは、SmとFeを含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、酸化物の一部が還元された部分酸化物を得る工程である。
【0057】
ここで、部分酸化物とは、酸化物の一部が還元された酸化物をいう。酸化物の酸素濃度は特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。10質量%を超えると、還元工程において還元剤であるCaとの還元発熱が大きくなり、焼成温度が高くなることで異常な粒子成長をした粒子ができてしまう傾向がある。ここで、部分酸化物の酸素濃度は、非分散赤外吸収法(ND-IR)により測定することができる。
【0058】
還元性ガスは水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)等の炭化水素ガスなどから適宜選択されるが、コストの点で水素ガスが好ましく、ガスの流量は、酸化物が飛散しない範囲で適宜調整される。前処理工程における熱処理温度(以下、前処理温度)は、300℃以上950℃以下の範囲とし、好ましくは400℃以上、より好ましくは750℃以上であり、好ましくは900℃未満である。前処理温度が300℃以上であるとSmとFeを含む酸化物の還元が効率的に進行する。また950℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒径を維持することができる。
【0059】
[還元工程]
還元工程とは、部分酸化物を、還元剤の存在下、920℃以上1200℃以下で熱処理することにより、合金粒子を得る工程であり、例えば部分酸化物をカルシウム融体またはカルシウムの蒸気と接触することで還元が行われる。熱処理温度は、磁気特性の点より950℃以上1150℃以下が好ましく、980℃以上1100℃以下がより好ましい。熱処理時間は、還元反応をより均一に行う観点から、120分未満が好ましく、90分未満がより好ましく、熱処理時間の下限は10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。
【0060】
還元剤である金属カルシウムは、粒状又は粉末状の形で使用されるが、その粒径は10mm以下が好ましい。これにより還元反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。また、金属カルシウムは、反応当量(Sm酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、Feが酸化物の形である場合には、これを還元するに必要な分を含む)の1.1~3.0倍量の割合で添加することができ、1.5~2.0倍量が好ましい。
【0061】
還元工程では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する水洗工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、Sm源として使用されるSm酸化物当り1~30質量%、好ましくは5~28質量%の割合で使用される。
【0062】
[窒化工程]
窒化工程とは、還元工程で得られた合金粒子を窒化処理することにより、異方性の磁性粒子を得る工程である。前述の沈殿工程で得られる粒子状の沈殿物を用いていることから、還元工程にて多孔質塊状の合金粒子が得られる。これにより、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化することができるため、窒化を均一に行うことができる。
【0063】
合金粒子の窒化処理における熱処理温度(以下、窒化温度)は、好ましくは300~600℃、特に好ましくは400~550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。熱処理時間は、合金粒子の窒化が充分に均一に行われる程度に設定されればよい。
【0064】
窒化工程後に得られる生成物には、磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。そこで、その場合は、この生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH)2)懸濁物として磁性粒子から分離することができる。さらに残留する水酸化カルシウムは、磁性粒子を酢酸等で洗浄して充分に除去してもよい。
【0065】
<ボンド磁石用コンパウンドの製造方法>
本実施形態のボンド磁石用コンパウンドの製造方法は、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得る工程、および磁性粉末と樹脂とを混練する工程を含むことが好ましい。この製造方法を経て得られるボンド磁石は優れた固有保磁力を有する。また樹脂としてポリプロピレンを用いる場合には、耐熱水性が向上する。このうち、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得る工程は、前述した方法により実施することが好ましい。
【0066】
[混練工程]
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と樹脂とを混練する工程では、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と樹脂との混合物を、単軸混練機、二軸混練機等の混練機を用いて180~300℃で混練する。例えば、磁性粉末と樹脂粉末をミキサーで混合した後、二軸押出機でストランドを押し出し、空冷した後ペレタイザーで数mmサイズに切断することでペレット形状のボンド磁石用コンパウンドを得ることができる。
【0067】
使用する樹脂がポリプロピレンである場合、ポリプロピレンの重量平均分子量は20,000以上200,000以下の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が20,000よりも小さいと、成形後のボンド磁石の機械強度が低下し、200,000よりも大きいとボンド磁石用コンパウンドの粘度が高くなる傾向がある。また、カップリング処理した磁性粉末との結合性を良くする目的で、ポリプロピレンは酸変性していることが好ましく、例えば、無水マレイン酸により酸変性されたポリプロピレンが好適に使用される。ポリプロピレンに対する酸の変性率は0.1重量%以上、10重量%以下が好ましい。0.1重量%を下回ると磁性粉末との密着性が不十分となり、ボンド磁石の機械強度、耐水性が低下する。10重量%を超えると、樹脂の吸水率が高くなるため、ボンド磁石の耐水性が低下する。
【0068】
ボンド磁石用コンパウンド中のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の含有量は、80質量%以上95質量%以下が好ましく、高い磁気特性を得る点から、90質量%以上95質量%以下がより好ましい。一方、ボンド磁石用コンパウンド中の樹脂の含有量は、3質量%以上20質量%以下が好ましく、流動性を確保する観点から5質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0069】
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と樹脂に加えて、熱可塑性エラストマー、リン系酸化防止剤などの酸化防止剤を同時に混練することができる。熱可塑性エラストマーを含む場合には、樹脂と熱可塑性エラストマーとの質量比率が90:10から50:50の範囲が好ましく、耐衝撃性の点から89:11から70:30の範囲がより好ましい。更にリン系酸化防止剤を含む場合には、ボンド磁石用コンパウンド中のリン系酸化防止剤の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0070】
耐水性ボンド磁石用コンパウンドにおける樹脂として、前述したポリプロピレン(PP)の他に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)等の吸水率の低い結晶性樹脂を挙げることができる。
【0071】
耐熱水性を改善する目的で、前述の結晶性樹脂と変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などのガラス転移点(Tg)が100℃以上の非晶性樹脂とを混合した混合物やポリマーアロイを使用することができる。本発明においては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)とポリプロピレンとのポリマーアロイが好適に使用できる。
【0072】
<ボンド磁石用コンパウンド>
本実施形態のボンド磁石用コンパウンドは、前述した実施形態のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と、樹脂を含むことを特徴とする。前述した実施形態のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と、樹脂を含むことで、このボンド磁石用コンパウンドを用いて作製されるボンド磁石の固有保磁力が向上する。なお、ボンド磁石用コンパウンドは前述した方法により得られる。
【0073】
[ボンド磁石の製造方法]
ボンド磁石用コンパウンドと、適切な成形機を用いることにより、ボンド磁石を製造することができる。具体的には例えば、成形機バレル内で溶融したボンド磁石用コンパウンドを、磁場を印可した金型内に射出成形し、磁化容易軸を揃え(配向工程)、冷却固化した後、空芯コイルもしくは着磁ヨークで着磁する(着磁工程)ことにより、ボンド磁石を得ることができる。
【0074】
バレル温度は用いる樹脂の種類によって選択され、160℃~320℃、同様に金型温度は例えば30~150℃とできる。配向工程における配向磁場は電磁石や永久磁石を用いて発生させ、磁場の大きさは、4kOe以上が好ましく、6kOe以上がより好ましい。また、着磁工程における着磁磁場の大きさは、20kOe以上が好ましく、30kOe以上がより好ましい。
【0075】
[ボンド磁石]
本実施形態のボンド磁石は、前述した実施形態のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末と、樹脂を含むことを特徴とする。このようなボンド磁石は、120℃の熱水浸漬条件下で1000時間保持後のトータルフラックスの維持率が、試験前の95%以上となることがある。120℃の熱水浸漬条件下で1000時間保持する耐熱水試験後のボンド磁石のトータルフラックスが、試験前のトータルフラックスの95%以上であることは、耐熱水性が高いことを意味し、96%以上が好ましく、97%以上がより好ましい。なお、トータルフラックスの値は、例えば、サーチコイル内部に置いたボンド磁石成形品を、サーチコイル外部へ引き抜くことによるサーチコイル内の磁束変化量をフラックスメータ(日本電磁測器製;型式:NFX-1000)で測定することにより得られる。また、ボンド磁石は、前述した方法により得られる。
【0076】
本実施形態のボンド磁石は熱水に耐性を有するため、自動車や自動二輪車などにおける燃料ポンプの駆動源やウォーターポンプなどに好適に使用できる。
【実施例0077】
(実施例1)
純水2.0kgにFeSO4・7H2O 5.0kgを混合溶解した。さらにSm2O3 0.49kgと70%硫酸0.74kgとを加えてよく攪拌し、完全に溶解させた。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/L、Sm濃度が0.112mol/Lとなるように調整し、Sm-Fe硫酸溶液とした。
【0078】
[沈殿工程]
温度が40℃に保たれた純水20kg中に、調製したSm-Fe硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア水溶液を滴下させ、pHを7~8に調整した。これにより、Sm-Fe水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0079】
[酸化工程]
沈殿工程で得られた水酸化物を大気中1000℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のSm-Fe酸化物を得た。
【0080】
[前処理工程]
Sm-Fe酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、前処理温度の850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。非分散赤外吸収法(ND-IR)(株式会社堀場製作所製EMGA-820)により酸素濃度を測定したところ、5質量%であった。これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元された黒色の部分酸化物を得たことがわかった。
【0081】
[還元工程]
前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。炉内温度を1045℃まで上昇させて、45分間保持することにより、Fe-Sm合金粒子を得た。
【0082】
[窒化工程]
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、温度を450℃まで上昇させて、そのまま23時間保持して、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0083】
[水洗工程]
窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返し行い、続いて脱水と乾燥後、機械的解砕処理を行うことでSmFeN系異方性磁性粉末(平均粒径3μm)を得た。
【0084】
[リン酸処理工程]
リン酸処理液として、85%オルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム:モリブデン酸ナトリウム2水和物=1:6:1の重量比で混合し、純水と希塩酸でpHを2、PO4濃度を20質量%に調整したもの、およびアルミニウム源として、塩化アルミニウム4gを純水に溶かしたアルミニウム溶液を準備した。複数のバッチで水洗工程までを行い、得られたSmFeN系異方性磁性原料粉末1000gを塩化水素:70gの希塩酸中で1分間攪拌して表面酸化膜や汚れ成分を除去した後、上澄み液の導電率が100μS/cm以下になるまで排水と注水を繰り返し、SmFeN系異方性磁性原料粉末を10質量%含むスラリーを得た。得られたスラリーを撹拌しながら、準備したリン酸処理液100gおよび塩化アルミニウム4gを溶かしたアルミニウム溶液を処理槽中に全量投入した。つまり、塩化アルミニウムは、SmFeN系異方性磁性原料粉末100重量部に対して0.4重量部添加されており、SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対して、アルミニウム元素換算で0.003mоlとなるように添加された。このように、アルミニウム、カルシウム、マンガン、亜鉛の添加量に関しては、SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対する金属元素換算の物質量として表1に示す。リン酸処理反応スラリーのpHは5分かけて2.5から6に上昇した。10分攪拌した後に吸引濾過、脱水し、真空乾燥することでアルミニウムを含むリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0085】
[リン酸処理後の酸化工程]
リン酸処理工程で得られたリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を、窒素とエアーの混合ガス(酸素濃度4%、5L/min)雰囲気下で室温から徐々に昇温し、最高温度170℃で7時間の熱処理を実施し、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0086】
(実施例2)
塩化アルミニウムの量を12gとしたこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0087】
(実施例3)
塩化アルミニウムの量を16gとしたこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0088】
(実施例4)
塩化アルミニウムの量を9gとし、さらに塩化カルシウム6gを添加したこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0089】
(比較例1)
塩化アルミニウムの添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0090】
(比較例2)
塩化アルミニウムの代わりに塩化カルシウムを4g添加したこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0091】
(比較例3)
塩化アルミニウムの代わりに硝酸マンガンを8g添加したこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0092】
(比較例4)
塩化アルミニウムの代わりに塩化亜鉛を4g添加したこと以外は実施例1と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例1と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0093】
[磁粉評価]
(磁気特性)
実施例1~4および比較例1~4のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末について、VSM(振動試料型磁力計 理研電子製;型式:BHV-55)を用いて固有保磁力(iHc)を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
(耐酸化試験)
実施例1~4および比較例1~4のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を250℃で7時間保温する、耐酸化試験を行った後に磁気特性を測定した。耐酸化試験前後のiHcから、iHc低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
(耐水試験)
実施例1~4および比較例1~4の徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を、85℃、湿度85%の環境で8時間静置する耐水試験を行った後に磁気特性を測定した。徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末について、耐水試験前後のiHcから、iHc低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
(PO4、添加金属付着量)
実施例1~4および比較例1~4のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中の添加金属(アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、または亜鉛)濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定した。また、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中のリン濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定し、リン酸イオン(PO4)としての濃度に換算した。結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
表1より、リン酸処理工程でスラリーにアルミニウム源を添加した実施例1~4では、アルミニウムを添加していない比較例1~4よりも固有保磁力(iHc)が向上し、磁性粉末へのリン酸塩の付着量は増大していることが確認された。また、リン酸処理工程でスラリーにアルミニウム源とカルシウム源を添加した実施例4では、耐酸化性および耐水性がより向上した。
【0099】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で水洗工程までを実施し、SmFeN系異方性磁性原料粉末を得た。リン酸処理液として、85%オルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム:モリブデン酸ナトリウム2水和物=1:6:1の重量比で混合し、純水と希塩酸でpHを2.5、PO4濃度を20質量%に調整したもの、およびアルミニウム源として、塩化アルミニウム12gを純水に溶かしたアルミニウム溶液を準備した。水洗工程で得られたSmFeN系異方性磁性原料粉末1000gを塩化水素:70gの希塩酸中で1分間攪拌して表面酸化膜や汚れ成分を除去した後、上澄み液の導電率が100μS/cm以下になるまで排水と注水を繰り返し、SmFeN系異方性磁性原料粉末を10質量%含むスラリーを得た。得られたスラリーを撹拌しながら、準備したリン酸処理液100gおよびアルミニウム溶液を処理槽中に全量投入した後、6重量%の塩酸を随時投入することでリン酸処理反応スラリーのpHを2.5±0.1の範囲にて制御し30分間維持した。続いて吸引濾過、脱水し、真空乾燥することでアルミニウムを含むリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末1000gを、窒素とエアーの混合ガス(酸素濃度4%、5L/min)雰囲気下で室温から徐々に昇温し、最高温度230℃で4時間の熱処理を実施し、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0100】
(比較例5)
アルミニウム源の添加を行わなかったこと以外は実施例5と同様に行い、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。また、実施例5と同様に徐酸化処理を行い、徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0101】
[磁粉評価]
(磁気特性)
実施例5および比較例5のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末について、VSM(振動試料型磁力計 理研電子製;型式:BHV-55)を用いて固有保磁力(iHc)を測定した。結果を表2に示す。
【0102】
(耐酸化試験)
実施例5および比較例5のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末を230℃で4時間保温する、耐酸化試験を行った後に磁気特性を測定した。耐酸化試験前後のiHcから、iHc低下率を算出した。結果を表2に示す。
【0103】
(耐水試験)
実施例5および比較例5で得られた徐酸化処理されたリン酸塩被覆磁性粉末1gを95℃水中に8時間浸漬する耐水試験を行った後に磁気特性を測定した。徐酸化処理を行ったリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末について、耐水試験前後のiHcから、iHc低下率を算出した。結果を表2に示す。
【0104】
(PO4、添加金属付着量)
実施例5および比較例5のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中の添加金属(アルミニウム)濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定した。また、リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末中のリン濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定し、リン酸イオン(PO4)としての濃度に換算した。結果を表2に示す。
【0105】
【0106】
表2より、リン酸処理工程でスラリーにアルミニウム源を添加した実施例5では、比較例5よりも耐酸化性が大きく向上し、磁性粉末へのリン酸塩の付着量は増大していることが確認された。
【0107】
本開示は以下の形態を含む。
(項1)SmFeN系異方性磁性原料粉末、水、リン酸源、およびアルミニウム源を含むスラリーを撹拌することで、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸処理工程を含む、
リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0108】
(項2)
前記リン酸処理工程において、前記スラリーに対して無機酸を添加して、前記スラリーのpHを1以上4.5以下に調整する、
(項1)に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0109】
(項3)
前記リン酸処理工程において、前記無機酸の添加によるpHの調整を10分間以上行う、
(項1)または(項2)に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0110】
(項4)
前記リン酸処理工程において、pHを1.6以上3.9以下に調整する、
(項2)または(項3)に記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0111】
(項5)
前記リン酸処理工程の後に、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を酸素含有雰囲気下150℃以上330℃以下で熱処理する酸化工程を含む、
(項1)から(項4)のいずれかに記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0112】
(項6)
前記アルミニウム源に含まれるアルミニウム元素の含有量が、前記SmFeN系異方性磁性原料粉末100gに対して、0.02mоl以下である
(項1)から(項5)のいずれかに記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0113】
(項7)
前記アルミニウム源が、塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムからなる群から選択される1以上である、(項1)から(項6)のいずれかに記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0114】
(項8)
前記スラリーが、さらにカルシウム源を含む、(項1)から(項7)のいずれかに記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。
【0115】
(項9)
前記リン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末におけるリン酸塩の含有量が0.5質量%より大きい(項1)から(項8)のいずれかに記載のリン酸塩被覆SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法。