(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052317
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】搬送装置及びこの搬送装置を備えるインライン式の真空処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20240404BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240404BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20240404BHJP
B65G 23/44 20060101ALI20240404BHJP
B65G 15/14 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C23C14/56 G
C23C14/24 J
H01L21/68 A
B65G23/44
B65G15/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158963
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】深尾 万里
(72)【発明者】
【氏名】沢森 朗
(72)【発明者】
【氏名】久保 隼
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 茂
【テーマコード(参考)】
3F023
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
3F023AA05
3F023BB02
3F023BC01
3F023CA02
4K029AA09
4K029AA24
4K029BB02
4K029CA01
4K029DA03
4K029DA12
4K029DB14
4K029DB18
4K029DB19
4K029DB21
4K029EA00
4K029JA01
4K029KA02
4K029KA09
5F131AA03
5F131AA12
5F131AA32
5F131AA33
5F131BA03
5F131CA17
5F131CA32
5F131DA02
5F131DA22
5F131DA52
5F131DB92
(57)【要約】
【課題】基板がその処理面を開放した状態で設置できる搬送トレイを真空チャンバ内で一方向に搬送するための搬送装置をランニングコストの削減効果が高い構成とする。
【解決手段】搬送装置TMは一対の搬送ユニットTm1,Tm2を備える、各搬送ユニットが、搬送トレイTcの搬送方向に間隔を存して設けられる2個の回転部材21a,21b、22a,22bの間に巻き掛けられて周回走行する搬送ベルト23a、23bと、搬送トレイが載置される搬送ベルトの部分を支持する複数個の支持ローラ24とを有する。各搬送ベルトを同期して周回走行させて、これらの搬送ベルトに跨って載置される搬送トレイのX軸方向への搬送を繰り返したときに、搬送トレイと比較して優先的に変形するように搬送ベルトが構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板がその処理面を開放した状態で設置できる搬送トレイを真空チャンバ内で一方向に搬送するための搬送装置において、
被処理基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とし、Y軸方向に間隔を存して配置される一対の搬送ユニットを備え、各搬送ユニットが、X軸方向に間隔を存して設けられる2個の回転部材の間に巻き掛けられて周回走行する搬送ベルトと、X軸方向に間隔を存して設けられて前記搬送トレイが載置される前記搬送ベルトの部分を支持する複数個の支持ローラとを夫々有し、
前記一対の搬送ユニットの各搬送ベルトを同期して周回走行させてこれらの搬送ベルトに跨って載置される前記搬送トレイのX軸方向への搬送を繰り返したときに、搬送トレイと比較して優先的に変形するように前記搬送ベルトが構成されることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記回転部材の少なくとも一方をX軸方向で互いに離間する方向に付勢する付勢手段を備え、前記搬送ベルトが変形したときに前記付勢手段の付勢力で前記回転部材の少なくとも一方がX軸方向に変位されて前記搬送ベルトに付与されるテンションが維持されることを特徴とする請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記回転部材の少なくとも一方の変位量を検出する検出器を更に備えることを特徴とする請求項2記載の搬送装置。
【請求項4】
請求項3記載の搬送装置と、前記真空チャンバ内で前記被処理基板に対して所定の真空処理を施すための真空処理ユニットとを備えるインライン式の真空処理装置。
【請求項5】
前記搬送装置及び前記真空処理ユニットの少なくとも一方の作動を制御する制御ユニットを更に備え、前記制御ユニットが前記検出器に通信自在に接続されて、前記検出器の検出値に応じてベルト交換に関する情報を報知するように構成されることを特徴とする請求項4記載のインライン式の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で被処理基板がその処理面を開放した状態で設置できる搬送トレイを一方向に搬送するための搬送装置及びインライン式の真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイの製造工程には、ガラス基板等の被処理基板(以下、「基板」という)の片面(成膜面)に有機膜や金属膜を真空蒸着法にて順次成膜する工程がある。このような工程には、一般にインライン式の真空成膜装置が利用される。このような真空処理装置としての真空成膜装置は、一方向に長手な真空チャンバを有し、その内部には、複数個の成膜源が列設されていると共に、各成膜源が列設された方向に基板を搬送する搬送装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。この場合、基板はその処理面を開放した状態で搬送トレイに設置された状態で搬送される。なお、近年の基板の大面積に伴い、基板と搬送トレイとを含めた総重量は数百キロに及ぶ場合がある。
【0003】
上記搬送装置は、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とし、Y軸方向に間隔を存して配置される一対の搬送ユニットを備える。各搬送ユニットは、真空チャンバの互いに対峙する側壁にX軸方向に所定間隔で設けられる回転部材としての複数個の駆動ローラを有する。そして、一対の搬送ユニットの各駆動ローラを同期して回転駆動させて、これらの駆動ローラに跨って載置される搬送トレイが各駆動ローラを乗り継ぎながらX軸方向下流側へと搬送される。このような搬送装置では、例えば、各駆動ローラを乗り継ぐ際の搬送トレイと駆動ローラとの衝突や搬送トレイと駆動ローラとの摺動面での摩耗などは避けられない。このとき、駆動ローラの外周面が、摩耗などで優先的に変形するように設計すると、搬送トレイの搬送時の振動が大きくなって搬送トレイ内で基板が位置ずれを起こし易く、または、搬送トレイの搬送速度がバラツキ易くなってくる。このような搬送不良は、各搬送トレイに設置される基板の成膜面に精度よく一定の膜厚で成膜することを阻害してしまう。このことから、通常は、搬送トレイが駆動ローラと比較して優先的に変形するように設計される(つまり、搬送トレイを消耗品としている)。
【0004】
ところで、インライン式の真空処理装置に利用される搬送トレイは、複数枚の搬送トレイを1セットとし、メンテナンスのために複数セットで準備される。そして、製品歩留まりを高く維持するために、各セットの搬送トレイが予め設定される時間だけ使用されると、セット毎交換することが一般である。このように搬送トレイを消耗品として定期的に交換するのでは、ランニングコストが多大となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ランニングコストの削減効果が高い搬送装置及びこの搬送装置を備える真空処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内で被処理基板がその処理面を開放した状態で設置できる搬送トレイを一方向に搬送するための本発明の搬送装置は、被処理基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とし、Y軸方向に間隔を存して配置される一対の搬送ユニットを備え、各搬送ユニットが、X軸方向に間隔を存して設けられる2個の回転部材の間に巻き掛けられて周回走行する搬送ベルトと、X軸方向に間隔を存して設けられて前記搬送トレイが載置される前記搬送ベルトの部分を支持する複数個の支持ローラとを夫々有し、前記一対の搬送ユニットの各搬送ベルトを同期して周回走行させて、これらの搬送ベルトに跨って載置される前記搬送トレイのX軸方向への搬送を繰り返したときに、搬送トレイと比較して優先的に変形するように前記搬送ベルトが構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、真空チャンバ内で搬送トレイを搬送する際に、回転部材や支持ローラと搬送トレイの裏面との間に緩衝材として機能する例えばスチール製の搬送ベルトを介在させ、この搬送ベルトを優先的に変形する消耗品とし、必要に応じて2枚の搬送ベルトを交換するようにした。このため、上記従来例のように搬送トレイ自体を消耗品として定期的に交換するものと比較してランニングコストを大幅に削減することができる。しかも、駆動ローラを用いる従来例のものと比較して搬送時の振動が可及的に抑制されると共に、搬送速度のばらつきも小さくできる。その結果、被処理基板の成膜面に単層膜や多層膜を成膜する場合に、精度よく一定の膜厚で成膜処理を施すことが可能になる。
【0009】
ところで、X軸方向上流側にて一対の搬送ベルトの間に跨るように搬送トレイを載置し、各搬送ベルトを同期して周回走行させて、搬送トレイをX軸方向下流側へと搬送することを繰り返す場合、搬送ベルトに生じる変形には、搬送トレイと搬送ベルトとの間の摩耗(例えば、スリップ痕)だけでなく、伸びによるものがある。そして、搬送ベルトが伸びてくると、搬送速度のバラツキが生じてくる。本発明では、前記回転部材の少なくとも一方をX軸方向で互いに離間する方向に付勢する付勢手段を備え、前記搬送ベルトが(弾性)変形したときに前記付勢手段の付勢力で前記回転部材の少なくとも一方がX軸方向に変位されて前記搬送ベルトに付与されるテンションが維持される構成を採用することができる。これにより、殊更真空チャンバ内を大気開放して搬送ベルトのテンションを再調整するといった作業を不要にでき、常時、搬送速度のバラツキを小さく維持することができる。
【0010】
他方で、搬送ベルトが所定範囲を超えた伸びにより(塑性)変形すると、搬送ベルトに付与されるテンションを維持することができない。このような場合、搬送ベルトを定期的に交換することも考えられるが、搬送ベルトに生じる伸びは、搬送トレイの重量や搬送速度といった搬送条件で異なる。このため、不要なベルト交換を防止できることが好ましい。本発明では、前記回転部材の少なくとも一方の変位量を検出する検出器を更に備える構成を採用することができる。これによれば、例えば、検出器での検知値を真空処理装置または搬送装置の制御ユニットに取り込み、その取り込んだ値が予め設定した閾値を超えた場合に、ベルト交換を報知するようにすれば、搬送ベルトの交換時期が適切に判断でき、不要なベルト交換を防止できる。なお、搬送ベルトに生じるスリップ痕などの摩耗状態を監視するために、CCDカメラなどの撮像素子を設け、その画像解析からもベルト交換を判断すれば、搬送ベルトの変形に伴う搬送不良を確実に防止できてよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明のインライン式の真空処理装置は、上記搬送装置に加え、前記真空チャンバ内で前記被処理基板に対して所定の真空処理を施すための真空処理ユニットを備える。そして、前記搬送装置及び前記真空処理ユニットの少なくとも一方の作動を制御する制御ユニットを更に備え、前記制御ユニットが前記検出器に通信自在に接続されて、前記検出器の検出値に応じてベルト交換に関する情報を報知するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の搬送装置を備えるインライン式の真空成膜装置の構成を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、インライン式の真空処理装置を真空成膜装置とし、また、被処理基板を矩形の輪郭を持つガラス基板(以下、「基板Sg」という)として、基板Sgを搬送トレイTcに設置した状態で搬送して、基板Sgの片面(成膜面Sg1)に真空蒸着法にて多層膜を成膜する場合を例に、本発明の搬送装置TM及びこの搬送装置TMを備えるインライン式の成膜装置CMの実施形態を説明する。以下では、基板Sg面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とし、また、後述の成膜源側から基板Sgに向かう方向をZ軸方向上方とし、また、基板Sgは、
図1中、左側から右側に移動するものとし、これを基準に方向を示す用語を用いるものとする。
【0014】
図1及び
図2を参照して、本実施形態の搬送装置TMを備える真空成膜装置CMは、互いに連設されてX軸方向に長手の第1~第3の各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3を備える。第1~第3の各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3には真空ポンプ(図示せず)が接続され、その内部の成膜空間を所定圧力の真空雰囲気を形成することができる。第1~第3の各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内にはまた、X軸方向同一軸線上に位置させて、各成膜源1a,1b,1cが夫々設けられている。各成膜源1a,1b,1cは、同一の構成を有し、成膜材料Vmを収容する坩堝11と、坩堝11の成膜材料Vmを加熱する加熱手段12とを備える。成膜材料Vmとしては、基板Sgに積層しようとする各薄膜の組成に応じて適宜選択される。加熱手段12としては、成膜材料Vmの種類に応じて抵抗加熱方式、誘導加熱方式や電子銃方式のものが用いられる。各成膜源1a,1b,1cはまた、坩堝11の上面放出口11aを覆って基板Sgへの成膜材料Vmの到達を防止する回動自在なシャッタ13を備える。
【0015】
第1の成膜チャンバPc1のX軸方向上流側及び第3の成膜チャンバPc3のX軸方向下流側には、ロードロックチャンバLc1,Lc2がゲートバルブGV1,Gv2を介して夫々連設されている。各ロードロックチャンバLc1,Lc2には、特に図示して説明しないが、真空ポンプとベントバルブとが夫々接続され、その内部を大気雰囲気と真空雰囲気とに速やかに切換ることができる。そして、上流側のロードロックチャンバLc1に予め処理前の基板Sgを設置した搬送トレイTcが搬入され、下流側のロードロックチャンバLc2から処理済み基板Sgが搬送トレイTcと共に搬出されるようになっている。
【0016】
搬送トレイTcは、真空雰囲気で使用しても成膜処理に影響を与えない材料、例えば、ステンレス鋼やインバー、アルミニウム製の板材で構成され、基板Sgの成膜面Sg1が臨む矩形の開口Tc1が形成され(
図2参照)、基板Sgがその処理面Sg1を下方に向けた姿勢で搬送トレイTcの上面に設置される。そして、基板Sgが設置された搬送トレイTcを上流側のロードロックチャンバLc1から、各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内を順次通って下流側のロードロックチャンバLc2まで搬送するため各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3には、本実施形態の搬送装置TMが夫々設けられている。
【0017】
搬送装置TMは、
図3~
図5も参照して、Y軸方向で互いに向かい合う各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の両側壁に夫々配置される一対の搬送ユニットTm1,Tm2を備える。各搬送ユニットTm1,Tm2は、同一の構成を有し、第1~第3の各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3のX軸方向両端部に夫々設けられる回転部材としての駆動プーリ21a,21b及び従動プーリ22a,22bと、駆動プーリ21a,21bと従動プーリ22a,22bとの間に巻き掛けられる搬送ベルト23a、23bと、X軸方向に間隔を存して設けられて搬送トレイTcが載置される搬送ベルト23a、23bの部分を支持する複数個の支持ローラ24とを夫々を備えている。そして、一対の搬送ベルトト23a、23bの間に跨るように、Y軸方向に沿う搬送トレイTcの両外端部が各搬送ベルト23a、23bに夫々設置される。駆動プーリ21a,21b及び従動プーリ22a,22bより小径の各支持ローラ24は、各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の側壁に軸支され、搬送ベルト23a、23bの周回走行に伴って回転自在である。支持ローラ24としては、各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内で成膜処理に悪影響を与えないように、例えば、ステンレス鋼、または炭素鋼(S45C:焼き入れ材)製のもの、或いはハードクロムメッキ等の表面処理を施したものが用いられる。また、互いに隣接する各支持ローラ24のX軸方向の間隔は、搬送トレイTcのX軸方向長さに応じて適宜設定される。
【0018】
X軸方向下流端側に設けられる駆動プーリ21a,21bには、内部気密性を確保した状態で各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の側壁に挿設されるモータ3a,3bの駆動軸31a,31bが接続されている。従動プーリ22a,22bは、X軸方向で駆動プーリ21a,21bから離間する方向(
図4中、左方向)に付勢する付勢手段4を介して各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の側壁に取り付けられている。この場合、各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の側壁には、X軸方向に長手のベース板51が設けられ、ベース板51の内面には、X軸方向にのびるように2本のレール部材52がZ軸方向に間隔を置いて取り付けられ、レール部材52に可動板53がX軸方向に摺動自在に係合している。そして、レール部材52に立設した軸体54の先端部に軸受55を介して従動プーリ22a,22bが夫々外挿されている。ベース板51の内面にはまた、可動板53からX軸方向下流側に間隔を存して固定板56が設けられている。
【0019】
可動板53に向かい合う固定板56の部分には、X軸方向にのびる収容孔56aが凹設されると共に、固定板56に向かい合う可動板53の部分にはバネ座53aが取り付けられている。そして、バネ座53aと収容孔56aとの間に付勢手段4としてのコイルバネが縮設されている。コイルバネ4の付勢力は、搬送ベルト23a,23bに付与する張力が所定の範囲に常時維持されるように設定される。この場合、固定板56に設けた調整ボルト6によりコイルバネ4の付勢力が調整できるようにしている。また、可動板53の上面には、ベース板51よりZ軸方向上方にのびる長さを持つ検出片53bが設けられ、検出片53bの部分に対峙させてベース板51上には検出器としての反射型のレーザセンサ7が取り付けられている。そして、レーザセンサ7から検出片53bに向けてレーザ光を照射し、その反射光量から従動プーリ22a,22bのX軸方向の変位量を検出することができる。
【0020】
搬送ベルト23a,23bとしては、搬送装置TMによって搬送トレイTcのX軸方向への搬送を繰り返したときに、搬送トレイTcと比較して優先的に変形するように構成され、真空雰囲気で使用しても真空処理に悪影響を与えない材料が適宜選択される。例えば、基板Sgを設置した状態の搬送トレイTcの総重量が50kg~1200kgの範囲である場合、幅が40mm~60mmの範囲且つ厚さが0.15mm~0.30mmの範囲のスチール製のもので搬送ベルト23a、23bを構成することができる。搬送ベルト23a、23bに生じる変形としては、搬送トレイTcの支持板部Tc3との面接触に伴う摩耗(例えば、スリップ痕)だけでなく、特に駆動プーリ21a,21b、従動プーリ22a,22bまたは支持ローラ24と搬送トレイTcとの間に挟まれた際の圧延同様の事象に伴う伸びによるものがある。そして、搬送ベルト23a、23bが伸びるように変形とした場合は、コイルバネ4の付勢力により固定板56に対して可動板53が、ひいては、従動プーリ22a,22bがX軸方向で駆動プーリ21a,21bから離間する方向に相対変位して搬送ベルト23a、23bに付与されるテンションが維持され、このときの変位量がレーザセンサ7で検出される。なお、図中、Ppは、搬送装置TMの各構成部品への着膜を防止する防着板である。
【0021】
真空成膜装置CMは、コンピューター、メモリやシーケンサ等を備える制御ユニットCuを備える。制御ユニットCuは、各成膜源1a,1b,1cや真空ポンプといった成膜時に作動する部品だけでなく、搬送装置TMの作動も統括制御する。この場合、制御ユニットCuは、特に図示して説明しないが、各部品や搬送装置TMの作動状態を表示するディスプレイを備える。制御ユニットCuはまた、レーザセンサ7に通信自在に接続されて検出された変位量が入力される。そして、入力された変位量が予め制御ユニットCuに設定される閾値を超えると、制御ユニットCuのディスプレイに搬送ベルト23a、23bの交換時期が到来したことを音声や画像で報知できるようにしている。
【0022】
上記真空成膜装置CMにより基板Sgの処理面Sg1に多層膜を成膜する場合には、大気雰囲気の上流側のロードロックチャンバLc1に、予め処理前の基板Sgを設置した搬送トレイTcが搬入される。この場合、各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内は真空ポンプにより真空排気されて所定圧力に維持されると共に、各成膜源1a,1b,1cにて坩堝11の成膜材料Vmが加熱手段12により加熱される。このとき、シャッタ13により坩堝11上面の放出開口11aが遮蔽されている。上流側のロードロックチャンバLc1が所定圧力まで真空排気されると、ゲートバルブGv1が開放され、上流側のロードロックチャンバLc1から第1の成膜チャンバPc1内の搬送装置TMへと、つまり、搬送トレイTcが一対の搬送ユニットTm1,Tm2の各搬送ベルト23a,23bに跨るように受け渡される。モータ3a,3bにより各駆動プーリ21a,21bを同期して回転駆動させて搬送ベルト23a,23bを周回走行させると、搬送トレイTcがX軸方向下流側へと搬送され、引き続き、第2及び第3の成膜チャンバPc2,Pc3内の搬送装置TMを夫々乗り継ぎながら搬送される。搬送中には、シャッタ13を適宜退避させることで、気化または昇華により坩堝11から所定の余弦則に従い放出される成膜材料Vmが開口Tc4を通して基板Sgの成膜面Sg1が付着、堆積することで処理面Sg1に多層膜が成膜される。そして、第3の成膜チャンバPc3内で搬送トレイTcが最下流側まで搬送されてくると、ゲートバルブGv2が開放され、処理済みの基板Sgのある搬送トレイTcが下流側のロードロックチャンバLc2へと搬送され、ゲートバルブGv2が閉じた後、大気開放して回収される。
【0023】
以上の実施形態によれば、各搬送装置TMの一対の搬送ベルト23a,23bの間に跨るように搬送トレイTcを載置し、各搬送ベルト23a,23bを同期して周回走行させて、搬送トレイTcをX軸方向下流側へと搬送することを繰り返す際に、駆動プーリ21a,21b、従動プーリ22a,22b及び支持ローラ24と搬送トレイTcの支持板部Tc3の裏面との間に緩衝材として機能するスチール製の搬送ベルト23a,23bが介在され、搬送ベルト23a,23bが優先的に変形する消耗品とした。これにより、必要に応じて2枚の搬送ベルト23a,23bを交換すればよいため、上記従来例のように搬送トレイTc自体を消耗品として定期的に交換するものと比較してランニングコストを大幅に削減することができる。しかも、駆動ローラを用いる従来例のものと比較して搬送時の振動が可及的に抑制されると共に、搬送速度のばらつきも小さくできる。その結果、成膜面Sg1に多層膜を成膜する場合に、精度よく一定の膜厚で成膜処理を施すことが可能になる。
【0024】
また、搬送ベルト23a,23bが伸びた場合、コイルバネ4の付勢力で従動プーリ22a,22bがX軸方向に相対変位されて搬送ベルト23a,23bに付与されるテンションが維持されるため、殊更各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3を大気開放して搬送ベルト23a,23bのテンションを再調整するといった作業を不要にでき、常時、搬送速度のばらつきを可及的に小さく維持することができる。しかも、従動プーリ22a,22bの変位量を検出する検出器7を更に備え、検出器7での検知値を制御ユニットCuに取り込み、その取り込んだ値が予め設定した閾値を超えた場合に、ベルト交換を報知できるため、搬送ベルト23a,23bの交換時期が適切に判断でき、不要なベルト交換を防止できる。なお、特に図示して説明しないが、搬送ベルト23a、23bに生じるスリップ痕などの摩耗状態を監視するために、CCDカメラなどの撮像素子を各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内に設け、その画像解析からもベルト交換を判断すれば、搬送ベルト23a,23bの変形に伴う搬送不良を確実に防止できてよい。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空処理として真空蒸着法による成膜処理を例に説明したが、これに限定されるものではない。スパッタリング法やCVD法による成膜処理やドライエッチング処理を実施するものにも本発明は適用することができる。また、付勢手段としてコイルバネ4を用いるものを例に説明したが、搬送ベルト23a,23bが変形に応じて従動プーリ22a,22bをX軸方向に相対変位できるものであれば、これに限定されるものではなく、板バネなどの他の付勢手段を利用することができ、また、従動プーリ22a,22bに代えてまたはこれに加えて駆動プーリ21a,21bがX軸方向に相対変位するように構成してもよい。更に、従動プーリ22a,22bの変位量を検出する検出器7としてレーザセンサ7を用いるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、マイクロスイッチなどの他のものを用いることもできる。
【0026】
また、上記実施形態では、一対の搬送ベルトト23a、23bの間に跨るように、Y軸方向に沿う搬送トレイTcの両外端部を直接各搬送ベルト23a、23bに夫々設置するものを例に説明したが、これに限定されるものではない。搬送トレイTcの各搬送ベルト23a、23bへの設置面(接触面)は、特に摩耗し易いため、当該面のみに、例えば、硬度の高い(耐摩耗性の高い材料である)SUS440Cなどのステンレス鋼製のシート材を取り付けるようにしてもよい。そして、何等かの原因で傷付いたようなときには、当該シート材のみを交換するようにすれば、ランニングコスト削減の効果をより向上させることができる(即ち、搬送トレイ自体を消耗品としない)。
【符号の説明】
【0027】
CM…インライン式の真空成膜装置(真空処理装置)、TM…搬送装置、Cu…制御ユニット、Tc…搬送トレイ、Tm1,Tm2…搬送ユニット、21a,21b…駆動プーリ(回転部材)、22a,22b…従動プーリ(回転部材)、23a,23b…搬送ベルト、24…支持ローラ、4…コイルバネ(付勢手段)、7…レーザセンサ(検出器)。