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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052346
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】化合物、防錆剤、及び潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 295/15 20060101AFI20240404BHJP
   C10M 133/10 20060101ALI20240404BHJP
   C10M 133/24 20060101ALI20240404BHJP
   C10M 139/04 20060101ALI20240404BHJP
   C10M 105/60 20060101ALI20240404BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C07D295/15 CSP
C10M133/10
C10M133/24
C10M139/04
C10M105/60
C10N30:10
C10N30:12
C10N40:20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159008
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BE06A
4H104BE06C
4H104BE06R
4H104BE17A
4H104BE17C
4H104BE17R
4H104BG05A
4H104BG05C
4H104BG05R
4H104BJ03A
4H104BJ03C
4H104BJ03R
4H104LA04
4H104LA06
4H104PA49
4H104PA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱安定性及び防錆性に優れ、金属分を含有しない化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(B1)で表される化合物を提供する。

[Lは、C数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基;L及びLは、独立に、C数1~6のアルキレン基;Y及びYは、独立に、メチレン基又はO]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(B1)で表される化合物。
【化1】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
は、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
n1が1である場合、m1は0~8の整数である。n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
n2が1である場合、m2は0~8の整数である。n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【請求項2】
の炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計が、3~16である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
防錆剤として使用される、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物を、防錆剤として使用する、使用方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物を含有する、防錆剤。
【請求項6】
イオン液体とともに用いられる、請求項5に記載の防錆剤。
【請求項7】
イオン液体と、請求項1又は2に記載の化合物とを含有する、潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記イオン液体が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、請求項7に記載の潤滑剤組成物。
【化2】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
【請求項9】
前記イオン液体が、下記一般式(A2)で表される化合物及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、請求項7又は8に記載の潤滑剤組成物。
【化3】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化4】

[前記一般式(A3)中、各符号は以下を示す。
n5は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示す。
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【請求項10】
半導体製造装置に用いられる、請求項7~9のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
イオン液体と、請求項1又は2に記載の化合物とを混合する工程を含む、潤滑剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、防錆剤、及び潤滑剤組成物に関する。さらに詳述すると、本発明は、化合物、当該化合物を含有する防錆剤、及び当該化合物を含有する潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低粘度でありながらも優れた潤滑特性と熱安定性とを併せ持つ潤滑剤組成物に用いられる基材として、イオン液体が知られている。しかし、イオン液体は、潤滑剤組成物において一般的に用いられる基材である鉱物油や合成油等と比較し、腐食性が高く、防錆性に劣るという欠点を有している。当該欠点を補う方法として、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、及びセバシン酸ナトリウムから選択される1種以上をイオン液体に配合する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-249585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、イオン液体が有する上記利点から、半導体製造装置内の真空チャンバー等といった高真空かつ高温環境下において、イオン液体を基材とする潤滑剤組成物を用いることが期待されている。
しかしながら、半導体製造過程においては、アルカリ金属及び重金属等の金属分による半導体の汚染を避ける必要がある。そのため、特許文献1に記載されるような、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、及びセバシン酸ナトリウムをイオン液体に配合して、潤滑剤組成物の防錆性を向上させることができない。
【0005】
そこで、本発明は、熱安定性及び防錆性に優れ、金属分を含有しない化合物、当該化合物を含有する防錆剤、及び当該化合物を含有する潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の構造を有する化合物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記[1]~[5]に関する。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物。
【化1】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
は、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
n1が1である場合、m1は0~8の整数である。n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
n2が1である場合、m2は0~8の整数である。n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。]
[2] 上記[1]に記載の化合物を、防錆剤として使用する、使用方法。
[3] 上記[1]に記載の化合物を含有する、防錆剤。
[4] イオン液体と、上記[1]に記載の化合物とを含有する、潤滑剤組成物。
[5] イオン液体と、上記[1]に記載の化合物とを混合する工程を含む、潤滑剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱安定性及び防錆性に優れ、金属分を含有しない化合物、当該化合物を含有する防錆剤、及び当該化合物を含有する潤滑剤組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
[化合物の態様]
本実施形態の化合物は、下記一般式(B1)で表される。
【化2】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
は、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
n1が1である場合、m1は0~8の整数である。n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
n2が1である場合、m2は0~8の整数である。n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を行った。
その結果、2つのベタイン構造がリンカーを介して略左右に存在する構造を有し、ヘテロ原子として窒素原子を1つ有する分子内ヘテロ環のカチオンとカルボキシアニオンとから当該ベタイン構造が構成される化合物のうち、特定の構造の化合物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
本実施形態の化合物が、本発明の効果を奏する機構については明確にはなっていないが、例えば以下のように推察される。
すなわち、(i)2つのベタイン構造がリンカーを介して略左右に存在する構造が化合物の熱安定性向上に寄与し、(ii)ベタイン構造を構成するヘテロ環構造が化合物の熱安定性のさらなる向上に寄与し、(iii)化合物末端の2つのカルボキシアニオンもまた熱安定性のさらなる向上に寄与するとともに、防錆性にも寄与し、(iv)2つのヘテロ環を繋ぐリンカー及びヘテロ環とカルボキシアニオンとを繋ぐリンカーの長さが適切であることによって、熱安定性と防錆性に寄与するものと推察される。そして、これらの寄与が総合的に相俟って、熱安定性に優れ、防錆性にも優れる化合物となっているものと推察される。換言すれば、本実施形態の化合物は、本発明の効果を奏するための構造が1分子内に無駄なく効果的に集約された化合物であるといえる。
また、特筆すべき事項として、以下の事項が挙げられる。すなわち、例えばセバシン酸ナトリウム等のように、アルカリ金属等の金属分を有する化合物は、一般的に熱安定性に優れる傾向がある。これに対し、本実施形態の化合物は、金属分を含有していないにもかかわらず、上記(i)~(iv)の構造的特徴によって、熱安定性に優れる化合物となっている。
以下、本実施形態の化合物について、詳細に説明する。
【0012】
<L
上記一般式(B1)中、Lは、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
として選択し得る二価の飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が1未満である場合、Lが存在しなくなるため、本実施形態の化合物の構造となり得ない。 また、Lとして選択し得る二価の飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が10超である場合、上記一般式(B1)で表される化合物の熱安定性を十分に確保し難くなる。
なお、Lが二価の飽和脂肪族炭化水素基以外の基であると、上記一般式(B1)で示される化合物の合成が困難になるとともに、本発明の効果も発揮されにくくなる。
【0013】
ここで、上記一般式(B1)で表される化合物の防錆性を十分に確保しやすくする観点から、Lとして選択し得る二価の飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。また、上記一般式(B1)で表される化合物の熱安定性を十分に確保しやすくする観点から、Lとして選択し得る二価の飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは2~8、より好ましくは3~7、更に好ましくは4~6である。
【0014】
として選択し得る二価の飽和脂肪族炭化水素基としては、非環式飽和炭化水素及び環式飽和炭化水素が挙げられる。具体的には、例えば、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数5~10のシクロアルキレン基、炭素数6~10のアルキルシクロアルキレン基、炭素数6~10のアルキレン-シクロアルキレン基、炭素数7~10のアルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基、炭素数7~10のアルキレン-アルキルシクロアルキレン基、及び炭素数8~10のアルキレン-アルキルシクロアルキレン-アルキレン基等が挙げられる。
【0015】
「アルキレン基」とは、アルカンから2つの水素原子を取り除いた2価の基である。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、上記一般式(B1)で表される化合物の防錆性向上の観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0016】
「シクロアルキレン基」とは、シクロアルカンから2つの水素原子を取り除いた2価の基である。
【0017】
「アルキルシクロアルキレン基」とは、シクロアルキレン基を構成する水素原子の少なくとも1つがアルキル基で置換された基を意味し、例えば、メチルシクロへキシレン基等が挙げられる。
「アルキルシクロアルキレン基」の炭素数は、アルキルシクロアルキレン基を構成するアルキル基とシクロアルキレン基との合計炭素数である。
【0018】
「アルキレン-シクロアルキレン基」とは、アルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、シクロアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手とが結合した基を意味し、例えば、メチレン-シクロへキシレン基等が挙げられる。
「アルキレン-シクロアルキレン基」の炭素数は、アルキレン-シクロアルキレン基を構成するアルキレン基とシクロアルキレン基との合計炭素数である。
【0019】
「アルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基」とは、第1のアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、シクロアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手とが結合するとともに、第2のアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、シクロアルキレン基の2つの結合手のうちの他方の結合手とが結合した基を意味し、例えば、メチレン-シクロへキシレン-メチレン基等が挙げられる。
「アルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基」の炭素数は、アルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基を構成する2つのアルキレン基とシクロアルキレン基との合計炭素数である。
【0020】
「アルキレン-アルキルシクロアルキレン基」とは、アルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、アルキルシクロアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手とが結合した基を意味し、例えば、メチレン-メチルシクロへキシレン基等が挙げられる。
「アルキレン-アルキルシクロアルキレン基」の炭素数は、アルキレン-アルキルシクロアルキレン基を構成するアルキレン基とアルキルシクロアルキレン基(アルキル基とシクロアルキレン基)との合計炭素数である。
【0021】
「アルキレン-アルキルシクロアルキレン-アルキレン基」とは、第1のアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、アルキルシクロアルキレン基の2つの2つの結合手のうちの一方の結合手とが結合するとともに、第2のアルキレン基の2つの結合手のうちの一方の結合手と、アルキルシクロアルキレン基の2つの結合手のうちの他方の結合手とが結合した基を意味し、例えば、メチレン-メチルシクロへキシレン-メチレン基等が挙げられる。
「アルキレン-アルキルシクロアルキレン-アルキレン基」の炭素数は、アルキレン-アルキルシクロアルキレン-アルキレン基を構成する2つのアルキレン基とアルキルシクロアルキレン基(アルキル基とシクロアルキレン基)との合計炭素数である。
【0022】
なお、「アルキレン-シクロアルキレン基」、「アルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基」、「アルキレン-アルキルシクロアルキレン基」、及び「アルキレン-アルキルシクロアルキレン-アルキレン基」を構成する「アルキレン基」は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、上記一般式(B1)で表される化合物の防錆性向上の観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0023】
ここで、本発明の効果の向上の観点及び上記一般式(B1)で表される化合物の合成のしやすさ等の観点から、Lは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2~8のアルキレン基であることがより好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数3~7のアルキレン基であることが更に好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数4~6のアルキレン基であることがより更に好ましい。また、同様の観点から、アルキレン基は、直鎖状であることが好ましい。
【0024】
<L及びL
上記一般式(B1)中、L及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びLとして選択し得るアルキレン基の炭素数が1未満である場合(換言すれば、L及びLが存在しない場合)、上記一般式(B1)で表される化合物のベタイン構造を安定に保持することができず、本発明の効果が発揮されなくなる。
また、L及びLとして選択し得るアルキレン基の炭素数が6超である場合、上記一般式(B1)で表される化合物の熱安定性を確保し難くなる。
ここで、本発明の効果の向上の観点から、L及びLとして選択し得るアルキレン基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
【0025】
<Lの炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計>
本実施形態において、上記一般式(B1)中におけるLの炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計は、熱安定性の向上の観点及び防錆性の向上の観点から、好ましくは3~16、より好ましくは4~16、更に好ましくは5~14、より更に好ましくは6~12である。
【0026】
<Y及びY並びにn1及びn2>
上記一般式(B1)中、Y及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子である。
上記一般式(B1)中、n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
及びYがメチレン基及び酸素原子以外の基である場合、n1及びn2が、0又は3以上の整数である場合、上記一般式(B1)中のヘテロ環構造が不安定となり、上記一般式(B1)で表される化合物の安定性が低下し、熱安定性が確保し難くなる。
上記一般式(B1)中のヘテロ環構造としては、ピロリジニウム環、ピペリジニウム環、オキサゾリジン環、及びモルホリニウム環等が挙げられる。
ここで、本発明の効果の向上の観点から、Y及びYは、いずれもメチレン基であることが好ましい。すなわち、上記一般式(B1)中のヘテロ環構造は、ピロリジニウム環又はピペリジニウム環であることが好ましい。また、Y及びYは、いずれもメチレン基であることが好ましく、かつn1及びn2は、いずれも1であることが好ましい。すなわち、上記一般式(B1)中のヘテロ環構造は、いずれもピロリジニウム環であることがより好ましい。
【0027】
<m1及びm2、R及びR
上記一般式(B1)中、n1が1である場合、m1は0~8の整数である。
n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
上記一般式(B1)中、n2が1である場合、m2は0~8の整数である。
n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
また、上記一般式(B1)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。
なお、m1が2以上である場合、複数存在するRは、同一であっても異なっていてもよい。また、m2が2以上である場合、複数存在するRは、同一であっても異なっていてもよい。
ここで、本実施形態におけるm1及びm2並びにR及びRの規定は、上記一般式(B1)中のヘテロ環構造を構成する水素原子が、炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよいことを意味する規定である。本発明の効果の向上の観点から、m1及びm2は、0であることが好ましい。すなわち、上記一般式(B1)中のヘテロ環構造は、無置換であることが好ましい。
【0028】
<化合物の好ましい態様>
本発明の効果をより向上させやすくする観点から、本実施形態の化合物は、下記態様であることが好ましい。
は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基(当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状であり、好ましくは直鎖状である。)である。
及びLは、各々独立に、炭素数1~3のアルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~2、より好ましくは1である。)である。
及びYは、メチレン基である。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
また、本実施形態の化合物は、下記態様であることがより好ましい。
は、炭素数2~8のアルキレン基(当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状であり、好ましくは直鎖状である。)である。
及びLは、各々独立に、炭素数1~3(当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~2、より好ましくは1である。)のアルキレン基である。
及びYは、メチレン基である。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
さらに、本実施形態の化合物は、下記態様であることが更に好ましい。
は、炭素数3~7のアルキレン基(当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状であり、好ましくは直鎖状である。)である。
及びLは、各々独立に、炭素数1~3(当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~2、より好ましくは1である。)のアルキレン基である。
及びYは、メチレン基である。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
また、本実施形態の化合物は、下記態様であることがより更に好ましい。
は、炭素数4~6のアルキレン基(当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状であり、好ましくは直鎖状である。)である。
及びLは、各々独立に、炭素数1~3のアルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~2、より好ましくは1である。)である。
及びYは、メチレン基である。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
【0029】
<化合物の合成方法>
本実施形態の化合物の合成方法は、特に限定されないが、例えば、以下の合成方法が挙げられる。
まず、下記一般式(B1-1)及び下記一般式(B1-2)で表される原料化合物と、下記一般式(B1-3)で表される原料化合物を反応させ、下記一般式(B1-4)で表される中間体1を生成させる。なお、下記一般式(B1-1)及び下記一般式(B1-2)で表される原料化合物が互いに異なる化合物である場合には、例えば、下記一般式(B1-1)及び下記一般式(B1-2)で表される原料化合物の一方と、下記一般式(B1-3)で表される原料化合物を溶媒中で反応させてモノ置換体を生成させ、当該モノ置換体と下記一般式(B1-1)及び下記一般式(B1-2)で表される原料化合物の他方とを反応させて、中間体1を合成することが好ましい。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】


[上記一般式(B1-1)、上記一般式(B1-2)、及び上記一般式(B1-3)、並びに上記一般式(B1-4)中、各符号は、上記一般式(B1)と同様のものを示す。
上記一般式(B1-3)中、A及びAは、各々独立に、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、好ましくは臭素である。]
【0030】
次いで、中間体1と、下記一般式(B1-5)及び下記一般式(B1-6)で表される原料化合物とを反応させ、下記一般式(B1-7)で表される中間体2を生成させる。
なお、下記一般式(B1-5)及び下記一般式(B1-6)で表される原料化合物が互いに異なる化合物である場合、下記一般式(B1-5)及び下記一般式(B1-6)で表される原料化合物の一方と、中間体1とを、溶媒中で反応させてモノ置換体を生成させ、当該モノ置換体と下記一般式(B1-5)及び下記一般式(B1-6)で表される原料化合物の他方とを反応させて、中間体2を合成することが好ましい。
【化7】

【化8】
【0031】
【化9】
[上記一般式(B1-5)及び上記一般式(B1-6)並びに上記一般式(B1-7)中、各符号は、上記一般式(B1)と同様のものを示す。
上記一般式(B1-5)及び上記一般式(B1-6)並びに上記一般式(B1-7)中、A及びAは、各々独立に、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、好ましくは臭素である。また、R11及びR12は、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基である。]
【0032】
次いで、中間体2をアセトニトリル等の各種溶媒に溶解した後、イオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)と接触させ、加水分解及びイオン交換を行う。そして、溶媒を除去することにより、本実施形態の化合物が得られる。
【0033】
なお、各反応過程においては、適宜溶媒等を用いるようにしてもよい。また、中間体1及び中間体2並びに最終生成物は、適宜溶媒等を用いて洗浄等を適宜行うようにしてもよい。
【0034】
<化合物の用途>
本実施形態の化合物は、熱安定性に優れる。しかも、優れた防錆性も発揮し得るため、イオン液体を基材とする潤滑剤組成物の防錆性を向上させることができる。また、本実施形態の化合物は、金属分を含有していない。
したがって、本実施形態の化合物は、防錆剤としての使用に適している。また、本実施形態の化合物は、イオン液体に配合して使用される、イオン液体用の防錆剤としての使用に適している。さらには、本実施形態の化合物は、半導体製造装置に用いられる潤滑剤組成物用の防錆剤としての使用に適している。
よって、本実施形態によれば、以下の態様が提供される。
(1)防錆剤として使用される、本実施形態の化合物。
(2)イオン液体用の防錆剤として使用される、本実施形態の化合物。
(3)半導体製造装置に用いられる潤滑剤組成物用の防錆剤として使用される、本実施形態の化合物。
また、本実施形態の化合物によれば、以下の使用方法が提供される。
(4)本実施形態の化合物を、防錆剤として使用する、使用方法。
(5)本実施形態の化合物を、イオン液体に配合し、防錆剤として使用する、使用方法。
(6)本実施形態の化合物を、半導体製造装置に用いられる潤滑剤組成物に配合し、防錆剤として使用する、使用方法。
なお、本実施形態において、「イオン液体」とは、潤滑剤組成物の基材としてのイオン液体を意味し、本実施形態の化合物とは区別して用いられる概念である。
【0035】
<化合物の物性>
本実施形態の化合物は、下記物性を有することが好ましい。
【0036】
(熱分解開始温度)
本実施形態の化合物の熱分解開始温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、更に好ましくは220℃以上である。
なお、熱分解開始温度は、後述する実施例に記載の方法により測定される値を意味する。
【0037】
(化合物の防錆性)
本実施形態の化合物は、後述する実施例に記載の方法により評価した場合に、表面に赤褐色または黒色状の変色(錆)が認められないことが好ましい。
【0038】
[防錆剤]
上記一般式(B1)で表される化合物は、防錆性に優れる。
したがって、本実施形態によれば、上記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上を含む防錆剤が提供される。
防錆剤は、上記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上のみからなるものであってもよいが、当該化合物以外の他の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
防錆剤中における上記一般式(B1)で表される化合物から選択される1種以上の含有量としては、防錆剤の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
なお、他の成分としては、本実施形態の化合物の合成過程で生じた副生成物、当該化合物の合成過程において残存する未反応原料、及び希釈剤等が挙げられる。
防錆剤は、イオン液体とともに用いられることが好ましい。
【0039】
[潤滑剤組成物]
本実施形態の潤滑剤組成物は、イオン液体と、上記一般式(B1)で表される化合物とを含有する。
【0040】
なお、以降の説明では、「イオン液体」及び「上記一般式(B1)で表される化合物」を、それぞれ「成分(A)」及び「成分(B)」ともいう。
【0041】
本実施形態の潤滑剤組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、潤滑剤組成物の全量基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
また、本実施形態の潤滑剤組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量の上限値は、100質量%であってもよい。但し、潤滑剤組成物が、成分(A)及び成分(B)以外のその他の成分を含む場合には、成分(A)及び成分(B)の合計含有量の上限値は、その他の成分との関係で調整すればよく、例えば、100質量%未満、99質量%以下、98質量%以下である。
【0042】
本実施形態の潤滑剤組成物において、上記一般式(B1)で表される化合物の含有量は、当該化合物のイオン液体への溶解性の観点及び防錆性の向上の観点から、潤滑剤組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%、更に好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より更に好ましくは1.0質量%~3.0質量%、更になお好ましくは1.5質量%~2.5質量%である。
なお、上記一般式(B1)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上用いる場合の好適な合計含有量は、前述した含有量と同じである。
【0043】
以下、本実施形態の潤滑剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0044】
<イオン液体>
本実施形態の潤滑剤組成物は、イオン液体を含有する。
イオン液体は、陽イオン及び陰イオンから構成される液体状の化合物であって、金属分を含まない化合物を、種々採用することができる。
【0045】
ここで、イオン液体の陰イオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを含むことが好ましい。
【0046】
また、イオン液体の陽イオンとしては、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含むことが好ましい。
【化10】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
【0047】
上記一般式(A1)中のRA11及びRA12のアルキル基の炭素数は、イオン液体の低粘度化や熱安定性の向上の観点から、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
A11としては、メチル基が好ましい。また、RA12としては、n-ブチル基、メトキシエチル基が好ましい。
【0048】
上記一般式(A1)で表される陽イオンとしては、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-ヘプチル-1メチルピロリジニウム、1-オクチル-1メチルピロリジニウム、1-ノニル-1-メチルピロリジニウム、1-デシル-1-メチルピロリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピロリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピロリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピロリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-ペンチル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピペリジニウム、1-ヘプチル-1-メチルピペリジニウム、1-オクチル-1-メチルピペリジニウム、1-ノニル-1-メチルピペリジニウム、1-デシル-1-メチルピペリジニウム、1-ウンデシル-1-メチルピペリジニウム、1-ドデシル-1-メチルピペリジニウム、1-メトキシメチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-シアノメチル-1-メチルピペリジニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルモルホリニウム、1-ペンチル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘキシル-1-メチルモルホリニウム、1-ヘプチル-1-メチルモルホリニウム、1-オクチル-1-メチルモルホリニウム、1-ノニル-1-メチルモルホリニウム、1-デシル-1-メチルモルホリニウム、1-ウンデシル-1-メチルモルホリニウム、1-ドデシル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-メトキシメチル-1-メチルモルホリニウム、1-(2-メトキシ-2-オキソエチル)-1-メチルモルホリニウム、1-シアノメチル-1-メチルモルホリニウム、1-トリメチルシリルメチル-1-メチルモルホリニウム等が挙げられる。
これらの中でも、イオン液体の低粘度化や熱安定性を向上させる観点から、好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-ペンチル-1メチルピロリジニウム、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルモルホリニウム、より好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウム、更に好ましくは1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピロリジニウムである。
【0049】
ここで、イオン液体としては、下記一般式(A2)で表される化合物、及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0050】
【化11】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【0051】
【化12】

[前記一般式(A3)中、n5は1又は2であり、Xはメチレン基又は酸素であり、RA31は、炭素数1~5のアルキレン基を示し、RA32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【0052】
前記一般式(A2)中、RA21の炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。RA21の炭素数が2以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA21の炭素数が12以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0053】
前記一般式(A3)中、RA31の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。また、RA32の炭素数は、好ましくは1~2である。RA31の炭素数が1以上であると、側鎖が自由に可動することができ、また対称性が低くなるため、結晶化を抑制し、イオン液体としての機能を向上させることができる。RA31の炭素数が5以下である、又はRA32の炭素数が3以下であると、側鎖が大きくなりすぎず、化合物全体としてのイオン性が高いため、酸化劣化を抑制しやすい。
【0054】
イオン液体中の一般式(A2)で表される化合物の含有量としては、イオン液体の全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
また、イオン液体中の一般式(A3)で表される化合物の含有量としては、イオン液体の全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
なお、イオン液体としては、上記一般式(A2)で表される化合物から選択される1種以上を用いてもよく、上記一般式(A3)で表される化合物から選択される1種以上を用いてもよく、上記一般式(A2)で表される化合物から選択される1種以上と上記一般式(A3)で表される化合物から選択される1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(イオン液体の物性)
イオン液体の40℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは2.0mm/s~100.0mm/s、より好ましくは10.0mm/s~70.0mm/s、更に好ましくは20.0mm/s~40.0mm/sである。
イオン液体の100℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは1.0mm/s~20.0mm/s、より好ましくは2.0mm/s~10.0mm/s、更に好ましくは3.0mm/s~7.0mm/sである。
イオン液体の粘度指数は、低温、高温環境と温度範囲が大きく変化する宇宙環境で用いる場合にも、粘度変化を小さくする観点から、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上である。
前記40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び前記粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出することができる。
また、イオン液体が2種以上のイオン液体の混合物である場合、混合物の動粘度及び粘度指数が上記範囲内にあることが好ましい。
【0056】
イオン液体の流動点は、低温時に粘性抵抗が増大することを抑える観点から、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。
イオン液体の流動点は、JIS K 2269:1987に準じて測定することができる。
【0057】
イオン液体の酸価は、防錆性の観点から、好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、更に好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
【0058】
イオン液体の引火点は、低蒸発性の観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上である。
【0059】
イオン液体の15℃において測定したイオン濃度としては、好ましくは1.0mol/dm以上、より好ましくは1.5mol/dm以上、更に好ましくは2.0mol/dm以上である。
ここで、イオン濃度とは、イオン液体において、[15℃で測定した密度(g/cm)/分子量Mw(g/mol)]×1000で算出される値である。イオン液体のイオン濃度が1.0mol/dm以上であると、低蒸発性、熱安定性をより向上させることができる。
【0060】
イオン液体の分子量は、好ましくは410以上570以下、より好ましくは410以上470以下、更に好ましくは420以上440以下である。前記イオン液体の分子量が前記範囲内にあると、電荷密度及び陽イオンのアルキル鎖の長さが適当な範囲となり、イオン液体の低粘度化や熱安定性の向上を図ることができる。
【0061】
本実施形態の潤滑剤組成物において、イオン液体の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果の向上の観点等から、潤滑剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
なお、イオン液体の含有量の上限値は、イオン液体以外の成分の添加量に応じて適宜設定され、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは50質量%~99.5質量%、より好ましくは60質量%~99.0質量%、更に好ましくは70質量%~98.5質量%である。
【0062】
本実施形態の潤滑剤組成物において、基材として上述したイオン液体(成分(A))以外の基材成分(例えば、酢酸エチルなどのイオン液体には該当しない基材成分)を含んでもよい。本発明の効果の向上の観点等から、上述したイオン液体(成分(A))の含有量は、基材の全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0063】
上記一般式(B1)で表される化合物(成分(B))の含有量と、イオン液体(成分(A))の含有量との比(B/A)としては、質量比で、好ましくは0.0005以上0.15以下、より好ましくは0.001以上0.111以下、更に好ましくは0.005以上0.08以下である。(B/A)が0.0005以上であると、防錆性を十分なものとしやすい。(B/A)が0.15以下であると、上記一般式(B1)で表される化合物のイオン液体に対する溶解性を十分なものとしやすい。
【0064】
<その他の成分>
本実施形態の潤滑剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としては、例えば、粘度指数向上剤及び増ちょう剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(粘度指数向上剤)
本実施形態の潤滑剤組成物が粘度指数向上剤を含有することにより、潤滑剤組成物の粘度指数を向上させることができる。これにより、低温、高温環境と温度範囲が大きく変化する宇宙環境で用いる場合にも、粘度変化を小さくすることができる。
【0066】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリ(メタ)アクリレート、分散型ポリ(メタ)アクリレート等の重合体であって、イオン液体に溶解し得るものが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、通常5,000~1,000,000、好ましくは6,000~100,000、より好ましくは10,000~50,000であるが、重合体の種類に応じて適宜設定される。
本明細書において、各成分の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
粘度指数向上剤の樹脂分換算の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜調整することができるが、潤滑剤組成物の全量基準で、通常は0.001質量%~15質量%であり、好ましくは0.005質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~7質量%、更に好ましくは0.03質量%~5質量%である。
【0067】
(増ちょう剤)
本実施形態の潤滑剤組成物は、増ちょう剤を含有することにより、グリース組成物の態様であってもよい。
増ちょう剤としては、ジウレア化合物及ポリウレア化合物等のウレア化合物、テトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂などのフッ素系樹脂、ポリエステル、ポリアミド等の非フッ素系樹脂等の非金属系増ちょう剤が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の潤滑剤組成物が、増ちょう剤を含有する場合(換言すれば、本実施形態の潤滑剤組成物がグリース組成物である場合)、増ちょう剤の含有量は、潤滑剤組成物の全量基準で、好ましくは5質量%~50質量%、より好ましくは5質量%~40質量%、更に好ましくは5質量%~35質量%である。
なお、本実施形態の潤滑剤組成物が、増ちょう剤を含有する場合(換言すれば、本実施形態の潤滑剤組成物がグリース組成物である場合)、イオン液体の含有量は、潤滑剤組成物の全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは、70質量%以上である。また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは50質量%~95質量%、より好ましくは60質量%~90質量%、更に好ましくは70質量%~85質量%である、
【0068】
なお、本明細書において、前記その他の成分としての添加剤は、ハンドリング性、イオン液体への溶解性等を考慮し、上述のイオン液体の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、前記その他の成分としての添加剤の上述の含有量は、希釈剤を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0069】
[潤滑剤組成物の物性]
<40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数>
本実施形態の潤滑剤組成物の40℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは2.0mm/s~200.0mm/s、より好ましくは10.0mm/s~150.0mm/s、更に好ましくは20.0mm/s~100.0mm/sである。
本実施形態の潤滑剤組成物の100℃動粘度は、低蒸発性、及び粘性抵抗による動力損失を抑える観点から、好ましくは1.0mm/s~40.0mm/s、より好ましくは2.0mm/s~30.0mm/s、更に好ましくは3.0mm/s~20.0mm/sである。
本実施形態の潤滑剤組成物の粘度指数は、使用環境における温度変化による粘度変化を小さくする観点から、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上である。
潤滑剤組成物の40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び前記粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出した値を意味する。
【0070】
<金属分>
本実施形態の潤滑剤組成物は、金属分を実質的に含有しないことが好ましい。
具体的には、本実施形態の潤滑剤組成物は、金属分(金属元素)の含有量が、潤滑剤組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは金属分(金属元素)を含有しないことである。
【0071】
<防錆性>
本実施形態の潤滑剤組成物は、後述する実施例に記載の方法により評価した場合に、表面に赤褐色または黒色状の変色(錆)が認められないことが好ましい。
【0072】
[潤滑剤組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑剤組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、イオン液体と、下記一般式(B1)で表される化合物とを混合する工程を含む製造方法により製造される。
【化13】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
は、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
n1が1である場合、m1は0~8の整数である。n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
n2が1である場合、m2は0~8の整数である。n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。]
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、イオン液体に、上記一般式(B1)で表される化合物を配合した後に混合する方法等が挙げられる。
また、本実施形態の製造方法は、上述したその他の成分を加える工程を更に含むことができる。
【0073】
[潤滑剤組成物の用途]
本実施形態の潤滑剤組成物は、熱安定性及び防錆性に優れ、金属分を含有しない。
したがって、本実施形態の潤滑剤組成物は、半導体製造装置に好適に用いることができる。詳細には、本実施形態の潤滑剤組成物は、半導体製造装置内の真空チャンバー等といった高真空かつ高温環境下における駆動部分を潤滑するために、好適に用いることができる。当該駆動部分としては、例えば、減速機及び増速機等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
半導体製造装置としては、例えば、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)を行う装置、化学蒸着(CVD: Chemical Vapor Deposition)を行う装置等が挙げられる。
物理蒸着としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、及び各種イオンガンを用いたイオン打ち込みなどが挙げられる。真空蒸着としては、一般的な抵抗加熱式蒸着以外に、電子ビーム蒸着、イオンアシスト電子ビーム蒸着、及びアーク蒸着等が挙げられる。これらの物理蒸着は適宜組み合わせて使用してもよい。
化学蒸着としては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、及びアトミックレイヤーCVD等が挙げられる。これらの化学蒸着は適宜組み合わせて使用してもよく、物理蒸着と適宜組み合わせて使用してもよい。
【0074】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[11]が提供される。
[1] 下記一般式(B1)で表される化合物。
【化14】

[前記一般式(B1)中、各符号は以下を示す。
は、炭素数1~10の二価の飽和脂肪族炭化水素基を示す。
及びLは、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。
及びYは、各々独立に、メチレン基又は酸素原子を示す。
n1及びn2は、各々独立に、1又は2である。
n1が1である場合、m1は0~8の整数である。n1が2である場合、m1は0~10の整数である。
n2が1である場合、m2は0~8の整数である。n2が2である場合、m2は0~10の整数である。
及びRは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。]
[2] Lの炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計が、3~16である、上記[1]に記載の化合物。
[3] 防錆剤として使用される、上記[1]又は[2]に記載の化合物。
[4] 上記[1]又は[2]に記載の化合物を、防錆剤として使用する、使用方法。
[5] 上記[1]又は[2]に記載の化合物を含有する、防錆剤。
[6] イオン液体とともに用いられる、上記[5]に記載の防錆剤。
[7] イオン液体と、上記[1]又は[2]に記載の化合物とを含有する、潤滑剤組成物。
[8] 前記イオン液体が、下記一般式(A1)で表される陽イオンを含む、上記[7]に記載の潤滑剤組成物。
【化15】

[前記一般式(A1)中、各符号は以下を示す。
n3は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A11及びRA12は、各々独立に、エーテル基、エステル基、ニトリル基、及びシリル基から選択される1種以上の基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。]
[9] 前記イオン液体が、下記一般式(A2)で表される化合物及び下記一般式(A3)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、上記[7]又は[8]に記載の潤滑剤組成物。
【化16】

[前記一般式(A2)中、各符号は以下を示す。
n4は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A21は、炭素数2~12のアルキル基を示す。]
【化17】

[前記一般式(A3)中、各符号は以下を示す。
n5は、1又は2である。
Xは、メチレン基又は酸素原子を示す。
A31は、炭素数1~5のアルキレン基を示す。
A32は、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
[10] 半導体製造装置に用いられる、上記[7]~[9]のいずれか1つに記載の潤滑剤組成物。
[11] イオン液体と、上記[1]又は[2]に記載の化合物とを混合する工程を含む、潤滑剤組成物の製造方法。
【実施例0075】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[製造例1~2、比較製造例1~3、比較化合物4]
製造例1~2、比較製造例1~3に示す方法により、各種化合物を合成した。
また、比較化合物4を準備した。
【0077】
<製造例1:化合物1の合成>
置換した4つ口フラスコに攪拌子、温度計、冷却管、及び滴下ロートを取り付け、ピロリジン11g(150mmol)を加えた。攪拌を行いながら、1,6-ジブロモヘキサン4.9g(20mmol)を滴下した。オイルバスを用いて内温60℃で2時間加熱し反応を終了させたのち、エバポレータにて過剰量のピロリジンを除去した。得られた反応物に酢酸エチル30mLを加えたのち、イオン交換水30mLで3回洗浄し1,1’-ヘキサメチレンジピロリジン4.0g(18mmol)を透明液体として得た。
得られた1,1’-ヘキサメチレンジピロリジンをN置換した4つ口フラスコに加え、攪拌子、温度計、冷却管、及び滴下ロートを取り付け、溶媒としてテトラヒドロフラン20mLを加えた。攪拌を行いながらブロモ酢酸エチル6.4g(37mmol)を加え、オイルバスを用いて内温60℃で2時間加熱し反応を終了させた。得られたヘキサメチレンN,N’-ジ酢酸エチルピロリジニウムブロマイドをアセトニトリル、酢酸エチル混合液で洗浄し、白色固体として得た。得られたヘキサメチレンN,N’-ジ酢酸エチルピロリジニウムブロマイドを撹拌子を加えたナスフラスコにとり、アセトニトリル20mLに溶解させた。完全に溶解させたのちに、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト(登録商標) 400 OH)45gを加え、加水分解とイオン交換を行った。2時間攪拌したのちに、イオン交換樹脂を濾過で取り除き、溶媒をエバポレータにて除去することで化合物1を5.1g(15mmol)得た。
【0078】
化合物1の構造式を以下に示す。
【化18】

化合物1は、上記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
は、炭素数6の直鎖状アルキレン基(n-へキシレン基)を示す。
及びLは、炭素数1のアルキレン基(メチレン基)を示す。
及びYは、メチレン基を示す。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
なお、Lの炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計は、8である。
【0079】
<製造例2:化合物2の合成>
製造例1の1,6-ジブロモヘキサンを1,4-ジブロモブタン4.3g(20mmol)に変えて、残りは製造例1と同様の手法にて合成を行った。最終の化合物2は4.7g(15mmol)得た。
【0080】
化合物2の構造式を以下に示す。
【化19】

化合物2は、上記一般式(B1)中の各符号が以下を示す化合物である。
は、炭素数4の直鎖状アルキレン基(n-ブチレン基)を示す。
及びLは、炭素数1のアルキレン基(メチレン基)を示す。
及びYは、メチレン基を示す。
n1及びn2は、1である。
m1及びm2は、0である。
なお、Lの炭素数とLの炭素数とLの炭素数との合計は、6である。
【0081】
<比較製造例1:比較化合物1の合成>
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド10wt%水溶液20g(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド:2.0g,22mmol)とセバシン酸4.4g(22mmol)をナスフラスコに加え、室温で1時間攪拌した。水分を除去したのち得られた白色固体を回収し、比較化合物2を白色固体として5.4g(2.1mmol)得た。
【0082】
比較化合物1の構造式を以下に示す。
【化20】
【0083】
<比較製造例2:比較化合物2の合成>
N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン3.4g(20mmol)をN2置換した4つ口フラスコに加え、攪拌子、温度計、冷却管、滴下ロートを取り付け、溶媒としてテトラヒドロフラン20mLを加えた。攪拌を行いながらブロモ酢酸エチル8.6g(44mmol)を加え、オイルバスを用いて内温60℃で2時間加熱し反応を終了させた。得られたヘキサメチレン-N,N,N’,N’-テトラメチレンN,N’-ジ酢酸エチルピロリジニウムブロマイドをアセトニトリル、酢酸エチル混合液で洗浄し、白色固体として得た。得られたヘキサメチレンN,N’-ジ酢酸エチルピロリジニウムブロマイドを撹拌子を加えたナスフラスコにとり、アセトニトリル20mLに溶解させた。完全に溶解させたのちに、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト(登録商標) 400 OH)45gを加え、加水分解とイオン交換を行った。2時間攪拌したのちに、イオン交換樹脂を濾過で取り除き、溶媒をエバポレーターにて除去することで比較化合物1を4.4g(15mmol)得た。
【0084】
比較化合物2の構造式を以下に示す。
【化21】
【0085】
<比較製造例3:比較化合物3の合成>
ヘキサメトニウム25wt%水溶液10g(ヘキサメトニウム:2.5g,11mmol)とセバシン酸2.1g(11mmol)をナスフラスコ中、室温で1時間攪拌した。水分を除去したのち得られた白色固体を回収し、比較化合物3を3.8g(9.5mmol)得た。
【0086】
比較化合物3の構造式を以下に示す。
【化22】

【0087】
<比較化合物4の準備>
和光純薬から販売されている試薬を比較化合物4として用いた。
【0088】
比較化合物4の構造式を以下に示す。
【化23】
【0089】
[評価]
化合物1~2、比較化合物1~4について、以下に説明する評価を行った。
【0090】
<評価1:熱分解開始温度の評価(化合物単体における評価)>
化合物1~2、比較化合物1~4について、熱重量・示差熱同時測定装置(製品名:TG/DTA6200、SIIナノテクノロジー社(現在:日立ハイテクサイエンス社)製)を用いて、昇温速度10℃/minにて、熱分解開始温度を測定した。
結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示す結果から、化合物1及び2は、いずれも熱分解開始温度が200℃以上であり、熱安定性に優れることがわかる。
一方、比較化合物1~3は、いずれも熱分解開始温度が200℃未満であり、熱安定性に劣ることがわかる。
なお、比較化合物4は、熱分解開始温度が200℃以上であり、熱安定性に優れるものの、アルカリ金属であるナトリウムを含んでいることから、半導体製造装置用途には用いることができない。
【0093】
[実施例1~2、比較例1~4]
イオン液体として、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミドを用いた。
そして、表2に示す配合にて潤滑剤組成物を調製し、下記評価2に供した。
なお、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミドは、上記一般式(A2)中、n4=1であり、Xがメチレン基であり、RA21がブチル基である化合物である。
【0094】
<評価2:防錆性の評価>
蒸留水10gと、各潤滑剤組成物10gとを混合した溶液に、短冊状にカットしたSUS440C板を浸漬した。溶液の温度を60℃に設定し、SUS440C板を7日間浸漬した後、SUS440C板の外観を観察した。そして、防錆性について、以下のように判断した。
A:表面に赤褐色または黒色状の変色(錆)が認められなかった。
B:表面に赤褐色または黒色状の変色(錆)が認められた。
【0095】
【表2】
【0096】
表2より、以下のことがわかる。
実施例1~2に示す結果から、化合物1~2を配合した潤滑剤組成物は、防錆性に優れることがわかる。また、既述のように、化合物1~2は、熱分解開始温度が高く、熱安定性に優れることがわかる。さらに、化合物1~2は、金属分を含有していない。
これに対し、比較例1~4に示す結果から、比較化合物1~4を配合した潤滑油組成物は、いずれも防錆性に優れるものの、既述のように、比較化合物1~3は、熱分解開始温度が低く、熱安定性に劣る。また、比較化合物4は、熱分解開始温度が高く、熱安定性に優れるものの、金属分を含有するため、半導体製造装置用途には用いることができない。