(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052408
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】塗工膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/00 20060101AFI20240404BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B05D7/00 A
B05D3/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159103
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國安 諭司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴之
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC04
4D075AC16
4D075BB24Z
4D075BB69Z
4D075BB92Z
4D075CA17
4D075CA48
4D075DA04
4D075DA35
4D075DB01
4D075DB04
4D075DB06
4D075DC19
4D075EA10
4D075EB12
4D075EC04
(57)【要約】
【課題】基材上に複数条の塗工液膜を形成し、かかる塗工液膜を乾燥させて、基材上に複数本の塗工膜を製造する過程において生じる、未塗工部の折れシワを抑制しうる塗工膜の製造方法の提供。
【解決手段】連続搬送されている基材に対して塗工液を塗工し、基材上に複数条の塗工液膜を形成する工程Aと、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする工程Bと、を有する、塗工膜の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続搬送されている基材に対して塗工液を塗工し、基材上に複数条の塗工液膜を形成する工程Aと、
複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする工程Bと、
を有する、塗工膜の製造方法。
【請求項2】
塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液の固形分濃度×0.8以上とする、請求項1に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項3】
塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が80質量%~100質量%となったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与する、請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項4】
塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与をスプレー塗布にて行う、請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項5】
複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teを、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向下流側とする、塗工液膜の乾燥を行う工程Cをさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項6】
塗工液が、電極活物質及び導電助剤を含むスラリーである、請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項7】
塗工膜の幅方向両端部の色濃度をTとし、塗工膜の幅方向中央部の色濃度をCとしたとき、0.9≦T/Cの関係を満たす、請求項6に記載の塗工膜の製造方法。
【請求項8】
基材が、熱伝導率が200W/m・K以上の基材である、請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗工膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロールトゥロール方式での連続プロセスにて、狭幅(例えば、幅200mm以下)の塗工膜を効率良く製造する方法としては、以下の方法が知られている。
即ち、連続搬送する広幅の基材上に塗工液を多条で塗工し、得られた塗工液膜を乾燥した後、隣接する塗工膜間の未塗工部(すなわち、基材の露出部)を塗工膜に沿って切断することで複数条の塗工膜を得る、塗工膜の製造方法である。
【0003】
塗工液を多条で塗工する技術を用いた方法として、例えば、特許文献1には、溶媒を含む機能層形成用塗工液を基材上に塗布する塗工液塗布工程と、塗布された機能層形成用塗工液を乾燥させて固化させる乾燥工程とを有する機能性素子の製造方法において、機能層端部の変形を防止するため、機能層周辺部に溶剤を塗布する溶剤塗布工程を有する機能性素子の製造方法が記載されている。また、特許文献1には、機能層が、ストライプ状に形成されるストライプ型着色層であり、溶剤塗布工程が、少なくともストライプ型着色層の各ストライプの端部側に溶剤を塗布する工程であることも記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ウエブを搬送するバックアップロールと、ウエブにn個の第1塗工部をストライプ塗工する主塗工装置と、ウエブのn個の第1塗工部の一側部又は両側部の外側に第2塗工部をそれぞれ塗工するn個又は2n個の小型ダイと、n個又は2n個の小型ダイをウエブの幅方向にそれぞれ移動させるn個又は2n個の横移動手段と、n個の前記第1塗工部の前記両側部の位置をそれぞれ検出するセンサと、制御部と、を有し、制御部は、センサが検出した第1塗工部の側部の位置に小型ダイが位置するように、横移動手段によって小型ダイを幅方向にフィードバック制御で移動させ、小型ダイによって第2塗工部を、第1塗工部の側部に一定の間隔を開けるか接触させるか、又は一部重ねて塗工させる、塗工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-361907号公報
【特許文献2】特開2019-76824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗工液を多条で塗工する技術を用いた塗工膜の製造方法において、塗工膜の用途によっては、隣接する塗工膜間に形成される未塗工部には平滑性が求められる。しかしながら、塗工膜の製造方法において上述のように塗工液膜の乾燥が行われる場合には、隣接する塗工膜間の未塗工部に折れシワが発生してしまうことがある。
塗工液膜の幅方向両端部(両縁から5mm程まで)は、その内側の幅方向中央部に比べ、固形分濃度が高まる速度が速く(すなわち、乾燥が早く)、局所的に収縮することから、カールが生じてしまう。このように塗工液膜の幅方向両端部にカールが生じると、それに伴い隣接する未塗工部も変形してしまい、この未塗工部の変形部分が、搬送ロールと接触することで折れシワとなる。
未塗工部の折れシワは、基材の未塗工部において、基材の一部に折れ跡が付いたり、基材の一部が折れ重なったりすることで生じる、基材の長手方向(搬送方向でもある)に連なる痕跡をいう。なお、ここでは、未塗工部の折れシワについて着目しているが、折れシワは、塗工部にも生じる現象である。
【0007】
そこで、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基材上に複数条の塗工液膜を形成し、かかる塗工液膜を乾燥させて、基材上に複数本の塗工膜を製造する過程において生じる、未塗工部の折れシワを抑制しうる塗工膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下の実施形態を含む。
<1> 連続搬送されている基材に対して塗工液を塗工し、基材上に複数条の塗工液膜を形成する工程Aと、
複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする工程Bと、
を有する、塗工膜の製造方法。
<2> 塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液の固形分濃度×0.8以上とする、<1>に記載の塗工膜の製造方法。
<3> 塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が80質量%~100質量%となったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与する、<1>又は<2>に記載の塗工膜の製造方法。
<4> 塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与をスプレー塗布にて行う、<1>~<3>のいずれか1つに記載の塗工膜の製造方法。
<5> 複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teを、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向下流側とする、塗工液膜の乾燥を行う工程Cをさらに有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の塗工膜の製造方法。
<6> 塗工液が、電極活物質及び導電助剤を含むスラリーである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の塗工膜の製造方法。
<7> 塗工膜の幅方向両端部の色濃度をTとし、塗工膜の幅方向中央部の色濃度をCとしたとき、0.9≦T/Cの関係を満たす、<6>に記載の塗工膜の製造方法。
<8> 基材が、熱伝導率が200W/m・K以上の基材である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の塗工膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、基材上に複数条の塗工液膜を形成し、かかる塗工液膜を乾燥させて、基材上に複数本の塗工膜を製造する過程において生じる、未塗工部の折れシワを抑制しうる塗工膜の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態の塗工膜の製造方法の各工程の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の塗工膜の製造方法の各工程の他の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、基材上に形成された塗工液膜の乾燥点を説明するためのグラフである。
【
図4】
図4は、基材上に形成された複数条の塗工液膜を説明するための概略上面模式図である。
【
図5】
図5は、工程Cにおける基材及び塗工液膜を幅方向に断面視した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、塗工膜の製造方法の実施形態について説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実
施することができる。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示にて示す各図面における各要素は必ずしも正確な縮尺ではなく、本開示の原理を明確に示すことに主眼が置かれており、強調がなされている箇所もある。
また、各図面において、同一機能を有する構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
本開示おいて「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
本開示において、「塗工液膜」とは、乾燥が完了するまで(例えば、固形分濃度が100質量%になるまで)の膜を指し、「塗工膜」とは乾燥が完了した後の膜を指す。
本開示において、「幅方向」とは、長尺の基材、塗工液膜、及び塗工膜のいずれかの長手方向と直交する方向を指す。
本開示において、「幅方向両端部」とは、塗工液膜又は塗工膜の幅方向の両端部分を指し、幅方向縁部(具体的には、下記の塗工領域と未塗工領域との境界線)から、5mmまで内側の領域を指す。
本開示において、「幅方向中央部」とは、塗工液膜又は塗工膜の幅方向の中央部分であって、上記「幅方向両端部」よりも内側の領域を指す。
本開示において、「幅方向縁部」とは、塗工液膜又は塗工膜の幅方向の縁部を指し、塗工液膜又は塗工膜の膜面を上面視したときには、塗工領域(即ち、塗工液膜又は塗工膜の形成部)と未塗工領域(即ち、基材の露出部)との境界線として視認される。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい形態又は態様の組み合わせは、より好ましい形態又は態様である。
【0016】
≪塗工膜の製造方法≫
本実施形態に係る塗工膜の製造方法は、連続搬送されている基材に対して塗工液を塗工し、基材上に複数条の塗工液膜を形成する工程Aと、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする工程Bと、を有する。本実施形態に係る塗工膜の製造方法は、必要に応じて、他の工程をさらに有していてもよい。
【0017】
既述のように、塗工液を多条で塗工する工程と、塗工された塗工液膜を乾燥する工程と、を有する塗工膜の製造方法においては、隣接する塗工膜間の未塗工部に折れシワが発生することがある。
本発明者らは、この未塗工部の折れシワの抑制について鋭意検討を行ったところ、固形分濃度が高まる速度が速い塗工液膜の幅方向両端部に対し、特定のタイミングで塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を下げることで、塗工液膜の幅方向両端部にカールが生じることを抑制することができ、結果的に、未塗工部の折れシワを抑制し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
以上のことから、本実施形態に係る塗工膜の製造方法によれば、塗工膜間の未塗工部における折れシワを抑制しうる。
【0018】
ここで、特許文献1に記載の方法では、塗工液膜の周辺部に溶剤を塗布しており、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を塗布したものではない。また、特許文献2に記載の方法は、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する方法ではない。
【0019】
以下、本実施形態の塗工膜の製造方法の各工程について説明する。
【0020】
まず、塗工膜の製造方法の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、一実施形態の塗工膜の製造方法の各工程の一例を示す概略図である。
図1に示すように、長尺の基材10は、ロール状に巻回されたロールR1からその先端が送り出され、X方向への連続搬送が開始される。連続搬送されている基材10が、塗工手段20の設置位置まで到達したとき、基材10上に塗工手段20により塗工液が複数条で塗工される。これにより、長尺の基材10上には、塗工液による複数条の塗工液膜が形成される(工程A)。
続いて、長尺の基材10上に形成された複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、付与手段30を用いて、幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与する。これにより、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする(工程B)。
さらに続いて、乾燥ゾーン40の中を、工程Aにて形成された複数条の塗工液膜を有する基材10を連続搬送させることで、基材10上にて複数条の塗工液膜を乾燥する(工程C)。具体的には、工程Cでは、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teを、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材10の搬送方向下流側とする、塗工液膜の乾燥を行うことが好ましい。この工程Cにより、長尺の基材10上の複数条の塗工液膜が乾燥し、複数条の塗工膜が形成される。
続いて、複数条の塗工膜が形成された基材10はロール状に巻き取られ、複数条の塗工膜と基材10との積層体によるロールR2が得られる。
【0021】
図1では、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する付与手段30が、乾燥ゾーン40よりも、基材の搬送方向(すなわち、X方向)の上流側に設置された態様を示しているが、これに限定されるものではない。
塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する付与手段は、乾燥ゾーン40内に設けられていてもよい。ここで、
図2に、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する付与手段30aが、乾燥ゾーン40内に設けられている構成を示す。
図2は、一実施形態の塗工膜の製造方法の各工程の別の一例を示す概略図である。また、
図2は、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する付与手段の設置位置が異なること以外、
図1と同様の構成を有する。
溶剤を付与した後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が低下しすぎないよう、固形分濃度が高くなったところ(すなわち、乾燥が進んだところ)で、溶剤を付与することが望ましい。この観点からは、
図2に示すように、塗工液膜の幅方向両端部に溶剤を付与する付与手段30aは、乾燥ゾーン40内に設けられていることが好ましい。
【0022】
[工程A]
工程Aでは、連続搬送されている基材に対して塗工液を塗工し、基材上に複数条の塗工液膜を形成する。
【0023】
-基材-
本工程に用いる基材は、塗工膜の用途に応じて選択すればよく、また、連続搬送への適用性(好ましくは、ロールトゥロール方式への適用性)を考慮して選択すればよい。
塗工液膜の乾燥時の収縮に影響を及ぼし易いのは、金属基材等の熱伝導性が高い基材である。本実施形態に係る塗工膜の製造方法では、熱伝導性が高い基材を用いた場合であっても、未塗工部の折れシワを抑制することができる。
なお、基材としては、樹脂フィルムを用いてもよい。
【0024】
熱伝導性が高い基材としては、例えば、熱伝導率が200W/m・K以上の基材が挙げられる。なお、本工程で用いる基材が、例えば、金属箔及び樹脂膜を含む多層構造の基材の場合、その基材全体としての熱伝導率が200W/m・K以上であれば、熱伝導率が200W/m・K以上の基材とする。
基材の熱伝導率の上限値は特に制限されず、例えば、500W/m・Kである。
【0025】
上記熱伝導率を示す基材としては、例えば、金属基材が挙げられる。より具体的には、上記熱伝導率を示す基材としては、銅、アルミニウム、銀、金、及びこれらの合金による金属基材が挙げられる。
その他、金属基材としては、ステンレス、ニッケル、チタン、又はインバー合金による基材であってもよい。
中でも、基材としての形状安定性、使用実績等の点から、銅基材、及びアルミニウム基材が好ましく用いられる。
【0026】
基材の熱伝導率は、以下のようにして測定する。
まず、基材を後述する装置に適したサイズに切り出し、測定用試料を得る。得られた測定用試料について、レーザーフラッシュ法で厚み方向の熱拡散率を測定する。例えば、NETZSCH社の「LFA467」を用いて測定することができる。次いで、天秤を用いて測定用試料の比重を測定する。例えば、メトラー・トレド(株)の天秤「XS204」(「固体比重測定キット」使用)を用いて測定することができる。更に、セイコーインスツル(株)の「DSC320/6200」を用い、10℃/分の昇温条件の下、25℃における測定用試料の比熱を求める。得られた熱拡散率に比重及び比熱を乗じることで、測定用試料(即ち、基材)の熱伝導率を算出する。
【0027】
基材のヤング率は、連続搬送への適用性(好ましくはロールトゥロール方式への適用性)の観点から、1GPa~200GPaであることが好ましく、50GPa~150GPaであることがより好ましい。
ここで、基材のヤング率は、25℃におけるヤング率を示す。
【0028】
基材のヤング率は、自由共振式固有振動法にて測定することができる。具体的には、基材のヤング率は、例えば、自由共振式固有振動法を採用した、日本テクノプラス(株)の自由共振式ヤング率測定装置(製品名:JE-RT)を用いて測定される。
【0029】
基材の厚みは、連続搬送への適用性(好ましくはロールトゥロール方式への適用性)の観点から、適宜、設定すればよい。
基材の厚みは、例えば、5μm~100μmであることが好ましく、8μm~30μmであることがより好ましく、10μm~20μmであることが更に好ましい。
基材の幅及び長さは、ロールトゥロール方式に適用する観点、目的とする塗工膜の幅及び長さから、適宜、設定すればよい。
【0030】
基材の厚みは、以下のようにして測定する。
即ち、接触式の厚み測定機を用い、基材の幅方向の3箇所(即ち、幅方向の両縁部から5mmの位置と幅方向中央部)の厚みを、長手方向に500mmの間隔を開けて3点測定する。
測定された計9つの測定値の算術平均値を求め、これを基材の厚みとする。
接触式の厚み測定機としては、例えば、(株)フジワークのS-2270が用いられる。
【0031】
本工程において、連続搬送されている基材の搬送速度としては、特に制限はない。
基材の搬送速度としては、例えば、0.1m/分~100m/分を選択することができ、0.2m/分~20m/分を選択することができる。
【0032】
-塗工液-
本工程で用いる塗工液としては、目的とする塗工膜を形成し得る塗工液を用いればよい。
塗工液膜の乾燥時の収縮に影響を及ぼし易いのは、塗工液中に含まれる溶媒(又は分散媒)が実質的に水である塗工液(以下、水系塗工液ともいう)である。本実施形態に係る塗工膜の製造方法では、水系塗工液を用いた場合であっても、未塗工部の折れシワを抑制することができる。
【0033】
ここで、水系塗工液において、「溶媒(又は分散媒)が実質的に水である」とは、固形分を用いる際に導入される水以外の溶媒の含有を許容することを意味し、全溶媒(又は全分散媒)中の水の割合が90質量%以上であること指し、全溶媒(又は全分散媒)中の水の割合が95質量%以上であることが好ましく、全溶媒(又は全分散媒)が水であることが特に好ましい。
また、固形分とは、溶媒(又は分散媒)を除く成分を指す。
【0034】
本工程で用いる水系塗工液としては、既述のように、溶媒(又は分散媒)としての水と、固形分と、を含む液状物であれば、特に制限されない。
水系塗工液に含まれる固形分には、目的とする塗工膜を得るための成分の他、塗布適性を向上させるための成分等が含まれる。
【0035】
水系塗工液に含まれる水としては、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水(例えば、Milli-Q水)等が挙げられる。なお、Milli-Q水とは、メルク(株)のMilli-Q水製造装置により得られる超純水である。
【0036】
水系塗工液における水の含有量は特に制限はなく、例えば、水系塗工液の全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
水の含有量の上限値は100質量%未満であればよいが、例えば、塗布適性の観点からは、水系塗工液の全質量に対して、90質量%であることが好ましく、80質量%であることがより好ましい。
【0037】
水系塗工液は、固形分の1つとして、粒子を含んでいてもよい。つまり、水系塗工液は、粒子を含む塗工液であってもよい。
粒子を含む水系塗工液を用いると、定率乾燥の段階において、溶媒である水の蒸発に加えて粒子の凝集に伴う体積変化が加わることから、塗工液膜の収縮が大きくなる傾向にある。しかしながら、本実施形態に係る塗工膜の製造方法を適用することで、粒子を含む水系塗工液を用いる場合(言い換えれば、塗工液膜の収縮が大きくなる態様の場合)であっても、未塗工部の折れシワを抑制することができる。
【0038】
粒子は、粒状物であれば特に制限はなく、無機粒子であってもよいし、有機粒子であってもよいし、無機物質と有機物質との複合粒子であってもよい。
【0039】
無機粒子としては、目的とする塗工膜に適用しうる公知の無機粒子を用いることができる。
無機粒子としては、例えば、金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、又はこれらの金属の合金)の粒子、半金属(ケイ素等)の粒子、又は金属又は半金属の化合物(酸化物、水酸化物、窒化物等)の粒子、カーボンブラック等を含む顔料の粒子等が挙げられる。
無機粒子としては、その他、雲母等の鉱物の粒子、無機顔料粒子等も挙げられる。
【0040】
有機粒子としては、目的とする塗工膜に適用しうる公知の有機粒子を用いることができる。
有機粒子としては、樹脂粒子及び有機顔料粒子をはじめ、固体有機物の粒子であれば、特に制限はされない。
【0041】
無機物質と有機物質との複合粒子としては、有機物質によるマトリックス中に無機粒子が分散した複合粒子、有機粒子の周囲を無機物質にて被覆した複合粒子、無機粒子の周囲を有機物質にて被覆した複合粒子等が挙げられる。
【0042】
粒子は、分散性の付与等の目的から、表面処理が施されていてもよい。
なお、表面処理が施されることで、上記の複合粒子となっていてもよい。
【0043】
粒子の粒径、比重、使用形態(例えば、併用の有無等)等には、特に制限はなく、目的とする塗工膜に応じて、又は、塗工膜を製造するに適する条件に応じて、適宜、選択すればよい。
【0044】
水系塗工液における粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的とする塗工膜に応じて、塗工膜を製造するに適する条件に応じて、又は粒子の添加目的に応じて、適宜、決定されればよい。
水系塗工液中の粒子の含有量は、例えば、50質量%以上であってもよい。
【0045】
水系塗工液に含まれる固形分としては、特に制限されず、目的とする塗工膜を得るために用いられる各種成分が挙げられる。
水系塗工液に含まれる固形分として具体的には、上述の粒子の他、バインダー成分、粒子の分散性に寄与する成分、重合性化合物、重合開始剤等の反応性成分、界面活性剤等の
塗布性能を高めるための成分、その他の添加剤等が挙げられる。
【0046】
塗工液(好ましくは水系塗工液)における固形分濃度としては、塗布性の観点から、例えば、30質量%~80質量%が好ましく、40質量%~70質量%がより好ましい。
【0047】
本工程において用いられる塗工液は、電極活物質及び導電助剤を含むスラリー(以下、電極層用スラリーともいう)であることも好ましい。電極活物質及び導電助剤を含むスラリーを用いることで、塗工膜として、電極層が得られる。
電極層用スラリーは、電極活物質及び導電助剤の他、バインダー、増粘剤等をさらに含む。
【0048】
スラリーに含まれる電極活物質としては、負極活物質と、正極活物質が挙げられる。
負極活物質及び正極活物質としては、公知のリチウムイオン二次電池における負極活物質及び正極活物質が挙げられる。
負極活物質として、具体的には、グラファイト(黒鉛)、ハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素)等の炭素材料;酸化ケイ素、酸化チタン、酸化バナジウム、リチウムチタン複合酸化物等の金属酸化物材料;窒化リチウム、リチウムコバルト複合窒化物、リチウムニッケル複合窒化物等の金属窒化物材料;等が挙げられる。
正極活物質として、具体的には、リチウム元素と遷移金属元素とを含むリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。このリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)などが挙げられる。
【0049】
スラリーに含まれる導電助剤としては、公知のリチウムイオン二次電池における導電助剤が挙げられる。
導電助剤として、具体的には、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック等)、活性炭、黒鉛、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。
【0050】
スラリーに含まれるバインダーとしては、公知のリチウムイオン二次電池におけるバインダーが挙げられる。
バインダーとして、具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が用いられる。
【0051】
スラリーには、さらに、カルボキシルメチルセルロース(CMC)等の増粘剤、分散剤等の公知のリチウムイオン二次電池に用いられる各種添加物が添加されていてもよい。
また、スラリーに含まれる溶剤としては、電極活物質及び導電助剤を分散しうる分散媒であればよく、具体的には、水、及び有機溶剤が挙げられる。
【0052】
電極層用スラリーの固形分濃度としては、例えば、40質量%~80質量%が好ましく、50質量%~70質量%がより好ましい。
【0053】
-塗工液膜の膜厚-
本工程において形成される塗工液膜の膜厚は特に制限はなく、目的とする塗工膜に応じて、適宜、決定すればよい。
塗工液膜の厚みは、例えば、50μm~350μmを選択することができ、80μm~300μmを選択することができ、80μm~200μmを選択することができる。
電極層を形成するための塗工液膜の場合、塗工液膜の厚みは、30μm~100μmが好ましく、50μm~80μmがより好ましい。
【0054】
塗工液膜の厚みは、以下のようにして測定する。
即ち、塗工液膜について、幅方向に沿って3箇所(具体的には、幅方向の両縁部から5mmの位置と幅方向中央部)、光干渉式の厚み測定機(例えば、キーエンス社の赤外分光干渉式膜厚計SI-T80)にて測定する。3点の測定値の算術平均値を求め、これを塗工液膜の厚みとする。
【0055】
-塗工幅-
本工程における、1条の塗工幅(即ち、1条の塗工液膜の幅、具体的には、
図4に示す「Wa」)は特に制限はなく、目的とする塗工膜に応じて、適宜、決定すればよい。
塗工幅は、例えば、200mm以下を選択することができ、150mm以下を選択することができ、100mm以下を選択することができる。
塗工幅の下限は、例えば、30mmである。
なお、塗工幅は、1条ごとに異なっていてもよく、同じであってもよい。但し、基材のハンドリングの観点からは、複数の塗工液膜のそれぞれの塗工幅は同程度にし、基材の幅方向で塗工液膜が対称に近い状態で並ぶことが好ましい。このとき、複数の塗工液膜のそれぞれの塗工幅の差は20mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、0mmであってもよい。
【0056】
-未塗工部の幅-
本工程における、塗工液膜間の未塗工部の幅(即ち、塗工液膜間の基材の露出部の幅、具体的には、
図4に示す「Wb」)は特に制限はなく、目的とする塗工膜の用途に応じて、適宜、決定すればよい。
塗工液膜間の未塗工部の幅としては、例えば、5mm~100mmを選択することができ、10mm~50mmを選択することができる。
なお、塗工液膜間の未塗工部が複数ある場合、複数ある未塗工部の幅は、それぞれ異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0057】
また、本実施形態に係る塗工膜の製造方法において、塗工液膜間の未塗工部の幅が、一条の塗工液膜(即ち、塗工幅)の幅の5%~40%である、ことが好ましい。塗工液膜間の未塗工部の幅が、一条の塗工液膜の幅の5%~40%であると、未塗工部の折れシワが発生しやすい傾向があるが、本実施形態に係る塗工膜の製造方法であれば、未塗工部の折れシワを抑制することができる。
未塗工部の幅は、一条の塗工液膜の幅の5%~30%であることがより好ましく、一条の塗工液膜の幅の8%~25%であることが更に好ましい。
ここで、上記一条の塗工液膜の幅とは、塗工液膜間の未塗工部に隣接する2つの塗工液膜の幅の算術平均値をいう。
【0058】
塗工幅及び未塗工部の幅は、以下のようにして測定する。
即ち、塗工液膜の膜面を上面視し、1条の塗工液膜の幅を、定規にて、長手方向に500mmの間隔を開けて3点測定する測定する。測定された3点の測定値の算術平均値を求め、これを塗工幅とする。
また、塗工液膜の膜面を上面視し、塗工液膜間の未塗工部の幅を、定規にて、長手方向に500mmの間隔を開けて3点測定する。測定された3点の測定値の算術平均値を求め、これを未塗工部の幅とする。
【0059】
-塗工液膜の形成数-
本工程では、塗工液膜の形成数としては、2以上であればよく、基材の幅をもとに、塗工液膜の幅及び未塗工部の幅に応じて、決定すればよい。
【0060】
-塗布-
本工程における塗工液の塗布には、複数条の塗工液膜を形成する塗工が可能であれば特に制限はなく、公知の塗工手段が適用される。
塗工手段(例えば、
図1における塗工手段20)として、多条塗工、ストライプ塗工等と呼ばれる、塗工手段が適用される。塗工手段として、具体的には、エクストルージョン型ダイコータ、スプレーコータ、スライドビードコータなどの前計量方式のコータが挙げられる。
【0061】
[工程B]
工程Bでは、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与し、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする。
本工程では、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥が、塗工液膜の幅方向中央部よりも早くすすみ、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与する。
なお、塗工液に含まれる溶剤としては、溶剤種が2種以上であるときは、2種のうちの1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。具体的には、溶剤種が2種以上の混合物であるときは、最も混合比の多い溶剤(主溶剤)を用いるか、又は、塗工液と同じ混合比の混合物を用いることが好ましく、塗工液と同じ混合比の混合物を用いることがより好ましい。
【0062】
塗工液膜は、幅方向両端部の乾燥が幅方向中央部の乾燥よりも早くすすむ。これは、塗布液膜の幅方向両端部が、側面があることで露出面積が広いこと、また、基材からの伝熱を受けやすいことによる。そのため、塗布液膜は、形成された直後から、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度よりも高くなる。上述のように、塗布液膜の幅方向両端部が幅方向中央部よりも早く乾燥することで、カールが生じることから、このカールを抑制するため、本工程では、塗工液膜の幅方向両端部に対し、塗工液に含まれる溶剤を付与する。そして、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与することで、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度以下とする。このようにすることで、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥の完了を、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥の完了と同時又は遅くすることができる。これにより、塗布液膜の幅方向両端部にて生じるカールを抑制することができ、その結果として、未塗工部の折れシワを抑制することが可能となる。
なお、本開示における、乾燥の完了とは、塗工液膜からこれ以上溶剤が除去されなくなった状態をいう。乾燥の完了は、例えば、塗工液膜の固形分濃度が100質量%となった状態が挙げられる。
【0063】
本開示において、塗布液膜の固形分濃度は、光干渉式の厚み測定機、例えば、キーエンス社の赤外分光干渉式膜厚計SI-T80を用いて、塗布した時点から乾膜になるまでの光学厚みを計測することにより、求めることができる。
具体的には、まず、塗布した時点から乾膜になるまでの光学厚みを計測する。次いで、接触式厚み計で乾燥後の膜(乾膜)の厚みを計測する。計測した乾膜の厚みを光学厚みで除算し、光学厚みから湿潤膜(塗膜)の厚みを算出する。そして、測定点における溶媒(又は分散媒)の量を得る。得られた溶媒(又は分散媒)の量から溶媒(又は分散媒)の質量を求め、測定点における固形分濃度の値を算出する。
【0064】
-好ましい態様-
本工程において、塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度は、塗工液の固形分濃度×0.8以上とすることが好ましく、塗工液の固形分濃度×0.9以上とすることがより好ましく、塗工液の固形分濃度×1以上(即ち、塗工液の固形分濃度以上)とすることがさらに好ましい。言い換えれば、塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度は、塗工液の固形分濃度の80%以上(より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%以上)の濃度とすることが好ましい。つまり、塗工液膜の幅方向両端部は、塗工液に含まれる溶剤が付与されることで固形分濃度が下がるが、固形分濃度の下げ幅は塗工液の固形分濃度に応じて、決定することが好ましい。
例えば、塗工液の固形分濃度が50質量%である場合、塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度は、40質量%以上とすることが好ましい。このように、塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を下げすぎないようにすることで、塗工液膜の幅方向両端部の崩れ、分離などを抑制し易くなり、塗工膜の幅方向両端部における面状の悪化を防止することができる。
【0065】
ここで、塗工液に含まれる溶剤が付与された後の塗工液膜の固形分濃度は、溶剤を付与する位置の下流側200mmの位置でレーザー変位計により測定した膜厚から、算出した塗工液膜の固形分濃度をいう。
【0066】
本工程においては、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が80質量%~100質量%となったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与することが好ましい。つまり、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が80質量%~100質量%と高くなったときに(すなわち、乾燥がすすんだときに)、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与することが好ましい。このようなタイミングで、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤を付与することで、塗工液膜の幅方向両端部の崩れ、分離などを抑制し易くなり、塗工膜の幅方向両端部における面状の悪化を防止することができる。
【0067】
なお、塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与は、1度のみ行われてもよいし、2度以上、すなわち、複数回行われてもよい。
また、塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与は、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
溶剤を付与する位置は、塗工液膜の幅方向両端部のみでもよく、塗工液膜の幅方向両端部に加え、塗工液膜の幅方向中央部の一部を含んでいてもよい。
【0068】
本工程において、塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与方法(例えば、
図1における付与手段30)としては、特に制限はない。溶剤の付与方法としては、例えば、バーコータ、スプレーコータ、スロットダイコータ等が挙げられ、中でも、スプレーコータが好ましい。
つまり、塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与は、塗工液膜に接触することなく、且つ、溶剤の付与量の調節が容易である観点から、スプレー塗布で行うことが好ましい。
【0069】
[工程C]
本工程では、以下の工程Cのように、塗工液膜の乾燥を行うことが好ましい。
すなわち、工程Cでは、複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teを、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向下流側とする、塗工液膜の乾燥を行うことが好ましい。
ここで、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teは2つあるが、2つの乾燥点Teの両方が、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも、基材の搬送方向下流側にくるように、本工程において塗布液膜の乾燥を行うことが好ましい。
【0070】
本工程における、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Te、及び、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcについて説明する。
本開示における「乾燥点」とは、塗工液膜が定率乾燥期から減率乾燥期へと移行する点を指す。ここで、本開示においては、
図3に示すように、塗工液膜の膜面温度が一定の値を示している期間(具体的には、膜面温度の温度変化が±5℃内に収まっている期間)を「定率乾燥期」とし、定率乾燥期(即ち、膜面温度が一定の値を示している期間)の後、膜面温度が上昇する期間を「減率乾燥期」とする。よって、
図3に示すように、形成された塗工液膜の膜面温度が一定の値を示している期間から上昇へ転じる、膜面温度の変化点が乾燥点となる。
なお、乾燥点は、一定の値を示している期間の膜面温度が5℃を超えて変化した点とする。
ここで、塗工液膜の膜面温度は、塗工液膜の上部であって、基材の搬送方向に沿って設置された複数の非接触式放射温度計にて測定される。塗工液膜の幅方向両端部にて測定された膜面温度から求められた乾燥点が「塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Te」となる。なお、塗工液膜の幅方向両端部における膜面温度は、塗工液膜の幅方向縁部から、5mm内側を測定する。つまり、乾燥点Teは、塗工液膜の幅方向縁部から5mm内側での乾燥点を指す。また、塗工液膜の幅方向中央部にて測定された膜面温度から求められた乾燥点が「塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tc」となる。塗工液膜の幅方向中央部における膜面温度は、例えば、塗工液膜の幅方向中央部(即ち、塗工液膜の幅方向両端部よりも内側の領域)を幅方向に5等分して、5等分された幅方向それぞれの中央を測定する。この測定は、塗工液膜の幅方向中央部の幅が90mm超である場合に採用することが望ましい。なお、塗工液膜の幅方向中央部の幅が30mm~90mmである場合には、塗工液膜の幅方向中央部(即ち、塗工液膜の幅方向両端部よりも内側の領域)を幅方向に3等分して、3等分された幅方向それぞれの中央を測定すればよい。また、塗工液膜の幅方向中央部の幅が30mm未満である場合には、塗工液膜の幅方向中央の1点を測定すればよい。このように、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcは、1つ求める場合もあるし、塗工液膜の幅によっては3つ又は5つ求める場合がある。
【0071】
-乾燥-
本工程においては、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも、基材の搬送方向下流側にくるように、塗工液膜の乾燥を行うことが好ましい。
本工程における塗工液膜の乾燥について、
図4を用いて具体的に説明する。
図4は、基材上に形成された複数条の塗工液膜を説明するための概略上面模式図である。
図4に示すように、長尺状の基材10の搬送方向をX方向としたとき、形成された2条の塗工液膜12のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも、X方向下流側にくるように、塗工液膜12の乾燥を行う。上述のように、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcが3つ又は5つ求められる場合には、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の全ての乾燥点Tcよりも、X方向下流側にくるように、塗工液膜12の乾燥を行うことが好ましい。
【0072】
本開示において、
図4における「d」を、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teと、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcと、の間の距離とする。より具体的には、「d」は、
図4に示すように、乾燥点Teを通り、基材10の幅方向(即ち、基材の搬送方向Xに直交する方向)に平行な直線Leと、乾燥点Tcを通り、基材10の幅方向(即ち、基材の搬送方向Xに直交する方向)に平行な直線Lcと、の距離を指す。
図4に示すように、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが2つあり、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcも複数ある場合、「d」は、乾燥点Teと乾燥点Tcとの最短距離とすればよい。
なお、「d」は、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向下流側(X方向下流側)にあれば、正の値で表し、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向上流側(X方向上流側)にあれば、負の値で表す。つまり、「d」の値が「1m」であれば、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向下流側(X方向下流側)にあって、乾燥点Teと乾燥点Tcとの距離が1mであることを示す。また、「d」の値が「-2m」であれば、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも基材の搬送方向上流側(X方向上流側)にあって、乾燥点Teと乾燥点Tcとの距離が2mであることを示す。
【0073】
未塗工部の折れシワの抑制の観点からは、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teと、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcと、の距離(
図4における「d」)は、離れていることが好ましく、0.05m以上であることが好ましく、0.08m以上であることがより好ましく、0.1m以上であることがさらに好ましく、1m以上であることがとくに好ましい。なお、塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teと、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcと、の距離の上限としては、20mが挙げられる。
【0074】
塗工液膜の幅方向両端部の乾燥点Teが、塗工液膜の幅方向中央部の乾燥点Tcよりも、基材の搬送方向下流側にくるようにするためには、塗工液膜の幅方向中央部を幅方向両端部よりも早く乾燥させる方法を用いればよい。
【0075】
塗工液膜の幅方向中央部と幅方向両端部とのそれぞれで乾燥状態を制御し易い観点から、本工程では、
図1に示すように、乾燥ゾーン40において、複数条の塗工液膜のそれぞれに、温風乾燥機構42から矢印で示すように温風を当てることで塗工液膜の乾燥を行うことが好ましい。
より具体的には、複数条の塗工液膜のそれぞれに温風を当てる上で、以下の(1)~(
3)の条件を満たすことが好ましい。
(1)複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向中央部に当たる温風の風速を、塗工液膜の幅方向両端部に当たる温風の風速より大きくする。
(2)複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向中央部に当たる温風の露点を、塗工液膜の幅方向両端部に当たる温風の露点より低くする。
(3)複数条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向中央部に当たる温風の温度を、塗工液膜の幅方向両端部に当たる温風の温度より高くする。
(1)~(3)のそれぞれの条件を満たすことで、塗工液膜の幅方向中央部を幅方向両端部よりも早く乾燥させることができる。
なお、(1)~(3)の条件は、1つを満たしてもよいし、複数をみたしてもよい。
【0076】
上記(1)~(3)の条件を満たす乾燥方法について、
図5を用いて、具体的に説明する。
図5は、基材10上に形成された塗工液膜12に対し、温風乾燥機構42から温風を当てる態様を説明するための模式図である。ここで、
図5は、工程Cにおける基材10及び塗工液膜12を幅方向(
図5中のY方向)に断面視した概略模式図である。
図5に示すように、塗工液膜12の膜面に対向するように温風乾燥機構42が配置されている。温風乾燥機構42には、基材10の幅方向に、塗工液膜12の幅方向中央部に対して温風を当てる給気部44と、塗工液膜12の幅方向両端部に対して温風を当てる給気部46と、が並んでいる。
【0077】
上記(1)の条件を満たすようにするには、
図5に示す、給気部44から塗工液膜12の幅方向中央部に対して吹き出す温風の風速を、給気部46から塗工液膜12の幅方向両端部に対して吹き出す温風の風速よりも大きくすればよい。なお、給気部44から塗工液膜12の幅方向中央部に対してのみ温風を吹き出し、給気部46から塗工液膜12の幅方向両端部に対する温風の吹き出しを行わない態様としてもよい。このような方法を用いることで、塗工液膜12の幅方向中央部に当たる温風の風速を、塗工液膜12の幅方向両端部に当たる温風の風速より大きくすることができる。
ここで、塗工液膜12にあたる温風の風速は、給気部44,46における温風の吹き出し口と塗工液膜との間に配置された熱式風速計によって測定することができる。
【0078】
上記(2)の条件を満たすようにするには、
図5に示す、給気部44から塗工液膜12の幅方向中央部に対して吹き出す温風の露点を、給気部46から塗工液膜12の幅方向両端部に対して吹き出す温風の露点よりも低いものとすればよい。このような方法を用いることで、塗工液膜12の幅方向中央部に当たる温風の露点を、塗工液膜12の幅方向両端部に当たる温風の露点より低くすることができる。
ここで、塗工液膜12にあたる温風の露点は、給気部44,46における温風の吹き出し口と塗工液膜との間に配置された静電容量式露点計によって測定することができる。
【0079】
上記(3)の条件を満たすようにするには、
図5に示す、給気部44から塗工液膜12の幅方向中央部に対して吹き出す温風の温度を、給気部46から塗工液膜12の幅方向両端部に対して吹き出す温風の温度よりも高くすればよい。このような方法を用いることで、塗工液膜12の幅方向中央部に当たる温風の温度を、塗工液膜12の幅方向両端部に当たる温風の温度より高くすることができる。
ここで、塗工液膜12にあたる温風の温度は、給気部44,46における温風の吹き出し口と塗工液膜との間に配置された温度計によって測定することができる。
【0080】
-温風の風速、露点、温度-
本工程にて、塗工液膜(又は積層体)に当たる温風の風速は、10m/秒~60m/秒が好ましく、20m/秒~50m/秒がより好ましい。上述の(1)の条件においては、塗工液膜の幅方向中央部と幅方向両端部とでは、温風の風速が、1m/秒~40m/秒の差があることが好ましく、5m/秒~20m/秒の差があることがより好ましい。
また、塗工液膜(又は積層体)に当たる温風の露点は、-30℃~20℃が好ましく、-20℃~10℃がより好ましい。上述の(2)の条件においては、塗工液膜の幅方向中央部と幅方向両端部とでは、温風の露点が、5℃~40℃の差があることが好ましく、10℃~30℃の差があることがより好ましい。
更に、塗工液膜(又は積層体)に当たる温風の温度は、30℃~150℃が好ましく、45℃~100℃がより好ましい。上述の(3)の条件においては、塗工液膜の幅方向中央部と幅方向両端部とでは、温風の温度が、5℃~50℃の差があることが好ましく、10℃~30℃の差があることがより好ましい。
【0081】
以上のようにして、各工程を経ることで、基材上に塗工膜が形成される。
【0082】
各工程を経て得られた塗工膜の厚みは、特に制限はなく、目的、用途等に応じた厚みであればよい。
本実施形態に係る塗工膜の製造方法においては、塗工膜の厚みは、40μm以上とすることが好ましく、50μm以上とすることがより好ましく、60μm以上とすることが更に好ましい。
塗工膜の厚みの上限値は特に制限はなく、用途に応じて決定されればよいが、例えば、300μmである。
塗工膜の厚みの測定は、塗工液膜の厚みの測定と同様である。
【0083】
-好ましい態様-
各工程を経て得られた塗工膜は、以下の態様であることが好ましい。
例えば、塗工液として電極層用スラリーを用いた場合、得られた塗工膜の幅方向両端部の色濃度をTとし、塗工膜の幅方向中央部の色濃度をCとしたとき、0.9≦T/Cの関係を満たすことが好ましい。
0.9≦T/Cを満たす場合、塗工膜の幅方向両端部に崩れ、分離などが生じておらず、塗工膜の幅方向両端部と幅方向中央部との間で組成及び厚みの差がない又は少ないことを意味する。そのため、T/Cの値は大きければ大きい程よく、T/Cは、0.95以上が好ましく、0.98以上が好ましく、1.0が特に好ましい。
【0084】
塗工膜の色濃度T及びCは、以下のように測定される。
濃度計(例えば、日本電色工業(株)製NR-12B)で測定したL*値を、塗工膜における色濃度とする。
なお、塗工膜の幅方向両端部、及び幅方向中央部のそれぞれの任意の5点について、L*値を測定し、この算術平均値を塗工膜の幅方向両端部の色濃度、幅方向中央部の色濃度とする。
【0085】
[その他の工程]
工程Aの前、及び、工程Cの後の少なくとも一方において、必要に応じて、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程として、更には、塗工液膜を付与する前に行われる前処理工程、塗工膜の用途に応じ、形成された塗工膜に対して行う後処理工程等が挙げられる。
その他の工程としては、具体的には、例えば、塗工膜間の未塗工部(基材の露出部)を切断する工程、基材を表面処理する工程、塗工膜を硬化させる工程、塗工膜を圧縮する工程、塗工膜から基材を剥離する工程等が挙げられる。
【0086】
本実施形態の塗工膜の製造方法において、連続搬送されている基材の数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。つまり、複数の基材が平行に連続搬送されており、それぞれの基材に対して、塗工液膜が形成されてもよい。
【0087】
本実施形態に係る塗工膜の製造方法は、連続搬送される基材上に多数条の塗工膜を製造する方法であるため、高い生産性が求められる用途の塗工膜の製造に好適である。
【実施例0088】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、各工程の詳細等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
なお、「部」はいずれも質量基準である。また、表1中の「d」は、乾燥点Teと乾燥点Tcとの間の距離である。
【0089】
<基材の準備>
・幅200mm、厚み12μm、長さ300mの銅基材(熱伝導率:400W/m・K、ヤング率:129.8GPa)を用意した。
【0090】
<塗工液の準備>
[電極層用スラリーの調製]
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)と、をこれら材料の質量比がC:SBR:CMC=98:1:1となるように秤量し、溶媒としてのイオン交換水と混合して、固形分濃度が50質量%の負極電極層用スラリーを調製した。
【0091】
[水系塗工液の調製]
下記成分を混合して、水系塗工液1を調製した。
・ポリビニルアルコール : 58部
(CKS-50:ケン化度99モル%、重合度300、日本合成化学工業(株))
・第一工業製薬(株)セロゲンPR : 24部
・界面活性剤(日本エマルジョン(株)、エマレックス 710) : 5部
・下記方法で調製されたアートパールJ-7Pの水分散物 : 913部
【0092】
-アートパールJ-7Pの水分散物-
621部の純水中に、エマレックス 710(日本エマルジョン(株)、ノニオン界面活性剤)を25部と、カルボキシメチルセルロースナトリウムを25部と、を添加溶解する。得られた水溶液に、アートパール(登録商標)J-7P(根上工業(株)、シリカ複合架橋アクリル樹脂微粒子)329部を加え、エースホモジナイザー((株)日本精機製作所)で、10,000rpm(revolutions per minute;以下、同じ。)で、15分間分散し、アートパールJ-7Pの水分散物を得た(粒子濃度:32.9質量%)。
得られた水分散物中のシリカ複合架橋アクリル樹脂微粒子の真比重は1.20であり、平均粒径は6.5μmであった。
【0093】
[PVA水溶液の調製]
PVA203((株)クラレ製、けん化度87mol%~89mol%)を純水に投入して、80℃に加熱しながら攪拌して、溶解することにより、PVAを純水に溶解してなるPVA水溶液を調製した。PVA水溶液におけるPVAの濃度は30質量%とした。
【0094】
[実施例A1]
図1に示すように構成された装置にて、銅基材上に、電極層用スラリーを2条塗工して塗工液膜を形成し、形成された塗工液膜を乾燥させて、2条の塗工膜を得た。塗工膜を得るまでの基材の搬送速度は20m/分とした。
具体的には、電極層用スラリーを、連続搬送されている基材上に2条で塗布した(工程A)。形成された塗工液膜において、塗工幅は80mm、膜厚は80μmであり、塗工液膜間の未塗工部の幅は20mmであり、基材の両端部における未塗工部の幅はそれぞれ10mm(塗工液膜間の未塗工部の幅は一条の塗工液膜の幅の20%)であった。
続いて、2条の塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が100質量%になり、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度70質量%よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤(イオン交換水)を付与した。イオン交換水の付与により、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を35質量%とした。なお、イオン交換水の付与には、スプレー塗布を用いた。
続いて、温風乾燥機構を用い、塗工液膜に対し温風を当て、塗工液膜の乾燥を行った(工程C)。このとき、塗工液膜の幅方向両端の25mmには温風を当てず、塗工液膜の幅方向中央には風速20m/分で、露点10℃、60℃の温風を当てた。工程Cにおいて、乾燥点Teが乾燥点Tcよりも基材搬送方向下流側にあり、「d」が11mであることを確認した。
以上のような各工程を経て、基材上に2条の塗工膜を形成した。
【0095】
[実施例A2~A7]
実施例A1において、工程Bにおける諸条件を、下記表1に示すように適宜変更した以外は、実施例A1と同様にして、基材上に2条の塗工膜を形成した。
【0096】
[比較例A1]
実施例A1において、工程Bを行わなかった(すなわち、塗工液膜の幅方向両端部への溶剤の付与を行わなかった)以外は、実施例A1と同様にして、基材上に2条の塗工膜を形成した。
【0097】
[折れシワの評価]
乾燥ゾーン(
図1中の乾燥ゾーン40)の出口において、折れシワの有無を目視にて確認した。
評価結果を、表1に示す。
【0098】
[塗工膜の幅方向両端部の面状評価]
得られた塗工膜の幅方向両端部の面状を、目視にて確認し、以下の基準に沿って評価した。
評価結果を表1に示す。
-基準-
G1:溶剤の付与部と非付与部との間で面状に差異なし。
G2:溶剤の非付与部に比べて、溶剤の付与部が僅かにザラザラした面状である。
G3:溶剤の非付与部に比べて、溶剤の付与部がザラザラした面状である。
【0099】
[T/C]
得られた塗工膜について、既述の方法で、T/Cを測定した。
測定結果を表1に示す。
【0100】
【0101】
表1に明らかなように、塗工液として電極層用スラリーを用いた実施例の塗工膜の製造方法によれば、未塗工部の折れシワが抑制されることが分かる。
【0102】
[実施例B1]
実施例A1において、塗工液を電極層用スラリーから水系塗工液(固形分濃度:50質量%)に変えた以外は、実施例A1と同様にして、基材上に2条の塗工膜を形成した。
なお、実施例B1では、水系塗工液を用いて実施例A1と同様の2条の塗工液膜を作成し、得られた塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が100質量%になり、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度80質量%よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤(純水)を付与した。純水の付与により、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を50質量%とした。なお、純水の付与には、スプレー塗布を用いた。
また、実施例A1と同様にして、温風乾燥機構を用い、塗工液膜に対し温風を当て、塗工液膜の乾燥を行った(工程C)。工程Cにおいて、乾燥点Teが乾燥点Tcよりも基材搬送方向下流側にあり、「d」が9mであることを確認した。
実施例B1においても、未塗工部の折れシワは生じていなかった。
【0103】
[実施例C1]
実施例A1において、塗工液を電極層用スラリーからPVA水溶液(固形分濃度:30質量%)に変えた以外は、実施例A1と同様にして、基材上に2条の塗工膜を形成した。
なお、実施例C1では、PVA水溶液を用いて実施例A1と同様の2条の塗工液膜を作成し、得られた塗工液膜のそれぞれにおいて、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度が100質量%になり、塗工液膜の幅方向中央部の固形分濃度80質量%よりも高くなったとき、塗工液膜の幅方向両端部に塗工液に含まれる溶剤(純水)を付与した。純水の付与により、塗工液膜の幅方向両端部の固形分濃度を50質量%とした。なお、純水の付与には、スプレー塗布を用いた。
また、実施例A1と同様にして、温風乾燥機構を用い、塗工液膜に対し温風を当て、塗工液膜の乾燥を行った(工程C)。工程Cにおいて、乾燥点Teが乾燥点Tcよりも基材搬送方向下流側にあり、「d」が13mであることを確認した。
実施例C1においても、未塗工部の折れシワは生じていなかった。