(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052484
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】電極積層体、電気化学素子、電極積層体の製造方法、電極積層体の製造装置、電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240404BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240404BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240404BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044622
(22)【出願日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2022157775
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
(72)【発明者】
【氏名】李 木馨
(72)【発明者】
【氏名】木田 仁司
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
(72)【発明者】
【氏名】梶田 倫正
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 綾
(72)【発明者】
【氏名】栗山 博道
(72)【発明者】
【氏名】寺井 希
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】曽根 雄司
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029DJ13
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】クラックなどの破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる固体電気化学素子を製造可能な電極積層体の提供。
【解決手段】電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有し、前記樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を有する電極積層体。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、
前記電極基体上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有し、
前記樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を有することを特徴とする電極積層体。
【請求項2】
前記電極合材層の平均厚みAに対する、前記樹脂構造体の平均厚みBの比(B/A)が、0.97以上1.03以下である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項3】
前記樹脂構造体が、多孔質である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項4】
前記樹脂構造体の空隙率が、30%以上である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項5】
樹脂構造体の透気度が、1,000秒/100mL以下である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項6】
前記樹脂構造体が、接着性樹脂構造体である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項7】
前記接着性樹脂構造体のピール強度が、2N/m以上である請求項6に記載の電極積層体。
【請求項8】
前記樹脂構造体における500MPa、5分間の押圧後の圧縮率が、1%以上50%以下である請求項1に記載の電極積層体。
【請求項9】
前記樹脂構造体が、前記電極合材層と隣接する請求項1に記載の電極積層体。
【請求項10】
前記樹脂構造体の少なくとも一部が、他の基材の表面と接着される請求項1に記載の電極積層体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項12】
重合性化合物及び液体を含有する液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体をプレスするプレス工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、を含み、
前記電極合材層形成工程が、前記付与工程の前、又は前記重合工程の後に実施され、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体が互いに隣接して形成され、
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする電極積層体の製造方法。
【請求項13】
重合性化合物及び液体を含有する液体組成物が収容された収容容器と、
前記液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与手段と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合手段と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体を前記電極基体方向にプレスするプレス手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成手段と、を有し、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体が互いに隣接して形成され、
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする電極積層体の製造装置。
【請求項14】
請求項12に記載の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極積層体製造工程と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極積層体製造手段と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化手段と、を有することを特徴とする電気化学素子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極積層体、電気化学素子、電極積層体の製造方法、電極積層体の製造装置、電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は、電気自動車等へ搭載など、需要が拡大している。また、各種ウェアラブル機器や医療用パッチに搭載する薄型電池に対するニーズが高まってきており、全固体二次電池に対する要求が多様化している。
【0003】
正極と負極と固体電解質層で構成される全固体電池では、全固体電池の性能向上のために高い密度を狙って、正極、固体電解質層、及び負極を含む積層体を非常に高い圧力でプレスする場合があるが、このプレスの際に、固体電解質においてクラックなどの破損が生じ、その結果、全固体電池の使用時に、正極と負極との間で短絡が発生してしまう懸念があった。
【0004】
このような全固体電池における固体電解質のクラックなどの破損を防止するために、これまでに、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質を含む正極活物質層と、を含む固体電池用正極であって、前記正極活物質層を有する面の前記正極活物質層の周縁部の隣接する少なくとも2辺に、正極ガイドが配置されている、固体電池用正極が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、クラックなどの破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる固体電気化学素子を製造可能な電極積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の電極積層体は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有し、前記樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クラックなどの破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる固体電気化学素子を製造可能な電極積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態の電極積層体の一部構成の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本実施形態の電極積層体の一例を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、本実施形態の電極積層体の他の例を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは、本実施形態の電極積層体の他の例を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは、本実施形態の電極積層体の他の例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の電気化学素子の一部構成の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の電極積層体の一部構成の一例を示す上面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6A】
図6Aは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6B】
図6Bは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6C】
図6Cは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6D】
図6Dは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6E】
図6Eは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6F】
図6Fは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図6G】
図6Gは、本実施形態の電極積層体の一部構成の他の例を示す上面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置である液体吐出装置の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置である液体吐出装置の他の例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置としてのドラム状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
【
図12】
図12は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置としての無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部の一例を示す構成図である。
【
図13】
図13は、樹脂構造体と電極合材層の位置関係を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、樹脂構造体と電極合材層の厚み関係を模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、本実施形態の電気化学素子である全固体電池の一例を示す断面図である。
【
図16】
図16は、樹脂構造体と電極合材層の距離を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、樹脂構造体と電極合材層の距離を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、本実施形態の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電極積層体)
本発明の電極積層体は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有し、前記樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を有する。
【0010】
本発明の電極積層体は、本発明者らが、以下の従来技術における問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、従来の固体電池用正極を用いた全固体電池の製造方法では、全固体電池における正極と負極との短絡を防止するために、正極活物質層における固体電解質層と対向する面の周縁部に正極ガイドを配置して、積層、及びプレスを実施しているが、全固体電池作製の際には非常に高い圧力がかかるため、正極ガイドのクラックや電極への圧力負荷がかかり、依然として電極、及び固体電解質層への圧力負荷によるダメージが生じるという問題がある。
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、本発明の電極積層体が、クラックなどの破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる固体電気化学素子を製造可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、電極合材層の周縁部に、樹脂を骨格とした共連続構造を有する樹脂構造体が設けられたことにより、電極合材層や固体電解質層などの各層の塗布形成、乃至プレスにより容易に精度よく、電極合材層の平均厚みと樹脂構造体の平均厚みとを略同等とすることができる(
図1)。樹脂構造体が樹脂を骨格とした共連続構造を有することで、従来の正極ガイドに比べ、より一層プレスなどにより負荷される圧力による影響を緩和することもでき、クラックなどの破損の発生を抑制することができる。また、当該樹脂構造体は、電極合材層及び樹脂構造体上に設けられた固体電解質層に対して負荷される圧力負荷を分散することに寄与することが可能であるため、プレスなどの工程において固体電解質層に対して均一な圧力を印加することが可能であり、プレス工程におけるクラックなどの破損の発生を抑制することができる(
図2A)。
これら電極合材層の周縁部に、樹脂を骨格とした共連続構造を有する樹脂構造体を有する、クラックなどの破損の発生が抑制された電極積層体と、対となる電極と、を組み合わせることで、更なるプレス工程におけるクラックなどの破損の発生を抑制し、正極と負極との短絡が防止されるとともに、電池特性に優れる全固体電池を形成することができる(
図3)。
なお、本明細書、及び特許請求の範囲において、電極合材層の平均厚みと樹脂構造体の平均厚みとが略同等であるとは、前記電極合材層の平均厚みAに対する、前記樹脂構造体の平均厚みBの比(B/A)が、0.97以上1.03以下であることを意味する。
【0012】
図1に、本発明の電極積層体の一部構成の一例を示す。
図1は、樹脂構造体を有する電極25の断面図であり、樹脂構造体を有する電極25は、第1の電極基体21と、第1の電極基体21上に電極合材層20と、第1の電極基体21上であって、第1の電極合材層20の周縁部である外周部に樹脂構造体10と、を有し、樹脂構造体10が、樹脂を骨格とした共連続構造を有する。
なお、
図1では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂構造体10が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面のそれぞれに、電極合材層20と、樹脂構造体10が設けられていてもよい。このとき、第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状は同一であることが好ましい。第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状を同一とすることにより両面の電極合材層にかかる圧力を均一にすることができ、破損の発生を抑制することができる。
【0013】
図2Aに、本発明の電極積層体の一例を示す。
図2Aは、電極積層体35の断面図であり、電極積層体35は、第1の電極基体21と、第1の電極基体21上に第1の電極合材層20と、第1の電極基体21上であって、第1の電極合材層20の周縁部である外周部に樹脂構造体10と、第1の電極合材層20及び樹脂構造体10上に固体電解質層30と、を有し、樹脂構造体10が、樹脂を骨格とした共連続構造を有する。
なお、
図2Aでは、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂構造体10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、
図2Bに示すように、第1の電極基体21の対向する両面のそれぞれに、電極合材層20と、樹脂構造体10と、固体電解質層30が設けられていてもよい。このとき、第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状は同一であることが好ましい。第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状を同一とすることにより両面の電極合材層にかかる圧力を均一にすることができ、破損の発生を抑制することができる。
また、
図2Bに示すように、樹脂構造体10が電極基体21の端部を含むようにその外周部に設けられていてもよく、
図2Cに示すように、樹脂構造体10の周囲に電極基体21の余白をもって樹脂構造体10が設けられていてもよく、
図2Dに示すように、樹脂構造体10が電極基体21の端部を被覆するようにその外周部に設けられていてもよい。
【0014】
さらに樹脂構造体10は、樹脂を骨格とした共連続構造のみからなる構造体であってもよいが、樹脂を骨格とした共連続構造を含む構造部分と、樹脂を骨格とした共連続構造を含まない構造部分と、を有する構造体であってもよい。樹脂を骨格とした共連続構造を含まない構造部分としては、例えば、無機絶縁材料や、ガスを吸着、吸収する材料などからなる構造体が挙げられる。
樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を含む構造部分と、樹脂を骨格とした共連続構造を含まない構造部分と、を有する構造体である場合、樹脂を骨格とした共連続構造を含む構造部分と、樹脂を骨格とした共連続構造を含まない構造部分と、の位置関係としては、例えば、電極の積層方向に対して隣接するように設けられていてもよく、積層方向と垂直な方向、すなわち電極基体と水平な方向に沿って隣接するように設けられていてもよく、樹脂を骨格とした共連続構造を含む構造部分に、樹脂を骨格とした共連続構造を含まない構造部分が包含されるように設けられていてもよい。
【0015】
そして、
図3に、後述する本発明の電気化学素子の一例を示す。
図3は、電気化学素子45の断面図であり、電気化学素子45は、電極積層体35上に、第2の電極基体41、及び第2の電極基体41上に電極合材層40と、を有する第2の電極を有し、固体電解質層30と、電極合材層40とが互いに面する。電気化学素子45は、単電池層であり、これを積層して積層電池とすることができる。
なお、
図3では、第1の電極基体21の片面に電極合材層20と、樹脂構造体10と、固体電解質層30が設けられた構成を図示しているが、第1の電極基体21の対向する両面のそれぞれに、電極合材層20と、樹脂構造体10と、固体電解質層30が設けられていてもよく、この構成が積層された積層電池としてもよい。このとき、第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状は同一であることが好ましい。第1の電極基体21の対向する両面の電極合材層20及び樹脂構造体10の形状を同一とすることにより両面の電極合材層にかかる圧力を均一にすることができ、破損の発生を抑制することができる。
【0016】
<電極(第1の電極、第2の電極)>
前記電極は、電極基体と、電極合材層と、樹脂構造体と、を有する。
負極と正極とを総称して「電極」と称し、負極用電極基体と正極用電極基体とを総称して「電極基体」と称し、負極合材層と正極合材層とを総称して「電極合材層」と称する。
また、第1の電極が負極であった場合は第2の電極は正極を指し、第1の電極が正極であった場合は第2の電極は負極を指す。
【0017】
<電極基体>
前記電極基体としては、導電性を有し、印加される電位に対して安定基材であれば、特に制限はなく、例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、及びそれらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが挙げられる。
【0018】
<電極合材層>
前記電極合材層(以下、「活物質層」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活物質(負極活物質又は正極活物質)を含み、更に必要に応じて、導電助剤、バインダ、分散剤、固体電解質、その他の成分を含んでもよい。
【0019】
<<活物質>>
前記活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。なお、正極活物質又は負極活物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される1種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
前記リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
前記アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0020】
前記負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
前記炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウム、酸化チタンなどが挙げられる。
また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0021】
<<導電助剤>>
前記導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されているカーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は予め活物質と複合化されていてもよい。
前記活物質に対する前記導電助剤の質量比としては、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。活物質に対する導電助剤の質量比が10質量%以下であると、液体組成物の安定性が向上する。また、活物質に対する導電助剤の質量比が8質量%以下であると、液体組成物の安定性が更に向上する。
【0022】
<<バインダ>>
前記バインダは、負極材料同士、正極材料同士、負極材料と負極用電極基体、正極材料と正極用電極基体を結着することが可能であれば、特に制限はない。ただし、液体組成物をインクジェット吐出に用いる場合は、液体吐出ヘッドのノズル詰まりを抑制する観点から、バインダは、液体組成物の粘度を上昇させにくいことが好ましい。
【0023】
前記活物質に対する前記バインダの含有量としては、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量以上10質量%以下がより好ましい。活物質に対するバインダの含有量が1質量%以上であると、活物質を電極基体に強固に結着させることが可能である。
【0024】
前記バインダとしては、高分子化合物を用いることができる。
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)ポリメチルメクリル酸(PMMA)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0025】
<<分散剤>>
前記分散剤としては、液体組成物中の活物質の分散性を向上させることが可能であれば、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンオキシド系、ポリプロピレンオキシド系、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子分散剤;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の低分子分散剤;ポリリン酸塩系分散剤等の無機分散剤;などが挙げられる。
【0026】
<<固体電解質>>
前記電極合材層に含まれる固体電解質層を構成する材料としては、電子絶縁性を有し、かつ、イオン伝導性を示す固体物質であれば、特に制限はないが、硫化物固体電解質や酸化物系固体電解質が、高いイオン伝導性を有する観点で好ましい。
前記硫化物固体電解質としては、例えば、Li10GeP2S12、アルジロダイト型結晶構造を有するLi6PS5X(X=F,Cl,Br,I)などが挙げられる。
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型結晶構造を有するLLZ(Li7La3Zr2O12)やNASICON型結晶構造を有するLATP(Li1+xAlxTi20x(PO4)3)(0.1≦x≦0.4)、ペロブスカイト型結晶構造を有するLLT(Li0.33La0.55TiO3)、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.3N0.4)などが挙げられる。
【0027】
上記に挙げたもの以外でも、当該発明の趣旨を逸脱するものでなければ、特に制限はない。また、これら固体電解質を、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの固体電解質層を構成するために液体に溶解又は分散させる電解質材料としては、固体電解質の前駆体となる材料である、例えば、Li2SとP2S5、LiCl、固体電解質の材料であるLi2S-P2S5系ガラス、Li7P3S11ガラスセラミクスなどが挙げられる。
【0028】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、例えば、分散剤が挙げられる。
【0029】
<樹脂構造体>
前記樹脂構造体は、前記電極基体上に設けられた電極合材層の周縁部に設けられ、かつ前記電極基体上の前記電極基体の周縁部に設けられる。
前記樹脂構造体は、樹脂を骨格とする共連続構造を有する。前記樹脂構造体は、多孔質であることが好ましく、多孔質構造体、又は多孔質樹脂と称することができる。
前記樹脂構造体は、絶縁性を有することが好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において絶縁性を有するとは、体積固有抵抗率が、1×1012(Ω・cm)以上であることを意味する。
ここで、「共連続構造」とは、両相連続構造、すなわち2種以上の物質乃至相が、それぞれ連続構造を有し、界面を形成しない構造を意味し、本実施形態においては、樹脂相と空孔相とが共に三次元分岐網目連続相となっている構造を意味する。このような構造は、例えば、後述する液体組成物を重合誘起相分離法によって重合することにより形成することができる。
【0030】
前記樹脂構造体の形状、及び設ける領域について、図を用いて説明する。
図4~6は、
図1に示す樹脂構造体を有する電極25の上面図、及び他の実施形態の上面図である。
図4において、樹脂構造体10は、電極合材層20の2辺に隣接して設けられる。
図5においては、2つの領域の樹脂構造体10のそれぞれは、電極合材層20の1つの長辺と当該長辺の2つの角に隣接して設けられる。
また、
図6Aに示すように、樹脂構造体10は、電極合材層20の4辺の外周部全てに連続的に隣接して設けられてもよく、
図6B~Gに示すように、電極合材層20の周縁部に断続的に隣接して設けられてもよい。
【0031】
樹脂構造体10が断続的に隣接して設けられる場合は、
図6B~Gに示すように、電極合材層20の1以上の辺に隣接するように断続して設けられる態様(
図6B)や、電極合材層20の1以上の角部に隣接するように断続して設けられる態様(
図6C)、またそれらの組み合わせ(
図6D)であってもよい。
また、電極合材層20の外縁の内側が全面塗布されていなくてもよく、すなわち、電極合材層20が開口部乃至未塗工部を有していてもよく、樹脂構造体10が電極合材層20の外周部及び内周部に設けられる態様(
図6E)であってもよく、内周部に設けられた樹脂構造体20の内周部に更に電極合材層20’が設けられる態様(
図6F)であってもよい。また、開口部を有する電極合材層20の内周部に樹脂構造体10が設けられる場合においても、電極合材層20の1以上の内辺に隣接するように断続して設けられる態様や、電極合材層20の1以上の内角部に隣接するように断続して設けられる態様、またそれら組み合わせであってもよい。更に、開口部を有する電極合材層20の内周部のみに樹脂構造体が設けられる構造(
図6G)であってもよい。
【0032】
ここで、「電極合材層の周縁部」に設けられるとは、電極合材層の外周部に樹脂構造体が設けられていてもよく、電極合材層の内周部に樹脂構造体が設けられていてもよく、これらの組み合わせであってもよい。
「電極合材層の外周部」に設けられる場合、前記電極合材層の外周部の少なくとも2辺に前記樹脂構造体が設けられていればよく、前記樹脂構造体が、前記電極合材層の外周部の3辺に設けられていてもよく、4辺(すべての辺)に設けられていてもよい。また、前記樹脂構造体は、任意の辺において、電極タブを突出させるための凹部や、切り欠き部を有していてもよい。「電極合材層の外周部」に設けられる場合も同様である。
また、「電極基体の周縁部」に設けられるとは、電極基体の端部を含むように樹脂構造体が設けられてもよく、
図4~6のように樹脂構造体の周囲に電極基体の余白をもって樹脂構造体が設けられていてもよい。
【0033】
前記樹脂構造体は、電極合材層と離間していてもよく(
図13の左上図)、電極合材層と隣接していてもよい(
図13の右上図、左下図、及び右下図)が、圧力を印可した際の合材層端部から活物質粒子の脱落を抑制する点、また固体電解質スラリが樹脂構造体と電極合材層との間に入り込むことを抑制できる点から、前記電極合材層と隣接することが好ましい。
【0034】
前記隣接している場合、
図13に示すように、樹脂構造体と電極合材層との対面が互いに一部領域で接触していてもよく(
図13の右上図)、樹脂構造体と電極合材層との対面全面が接触していてもよい(
図13の左下図、及び右下図)。ここで、樹脂構造体を後から設けた場合には、樹脂構造体が電極合材層側に重なり(
図13の左下図)、電極合材層側を後から設けた場合には、電極合材層側が樹脂構造体に重なる(
図13の右下図)。これらの中でも、圧力を印可した際の合材層端部から活物質粒子の脱落を抑制する点、また固体電解質スラリが樹脂構造体と電極合材層との間に入り込むことを抑制できる点から、
図13の左下図の構成が好ましく、中でも、樹脂構造体の厚みと電極合材層の厚みとが略同等であることがより好ましい。また、樹脂構造体は、電極合材層と離間している場合であってもよく(
図13の左上図)、樹脂構造体と電極合材層に樹脂構造体とは異なる材料を挟むような構成であってもよい。
【0035】
前記離間している場合の、樹脂構造体と電極合材層との距離dとしては、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、1mm以下が更に好ましい。
樹脂構造体と電極合材層との距離dが10mm以下であると、プレス工程を経た後に樹脂構造体と電極合材層とが接触しやすくなるため、固体電解質層を樹脂構造体及び電極合材層上に均一に形成することができ、また固体電解質層をプレスした際に固体電解質層に対して均一に圧力を付加することができる。
【0036】
電極合材層と樹脂構造体との距離d(電極合材層の周縁部と樹脂構造体の幅)は、
図16~17のように定義する。
図16に示す電極合材層と樹脂構造体とが隣接する状態を0とし、
図17に示す矢印の間を電極合材層と樹脂構造体との距離dとする。
樹脂構造体が電極合材層側に重なっている場合(例えば、
図13の左下図、及び右下図)、マイナスの値で示す。
【0037】
前記電極積層体における、前記電極合材層の平均厚みAに対する、前記樹脂構造体の平均厚みBの比(B/A)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.97以上1.03以下が好ましく、0.98以上1.02以下がより好ましい。
電極合材層の平均厚みA、樹脂構造体の平均厚みBは、それぞれ任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
プレス前、及びプレス後における、電極合材層の平均厚みA、樹脂構造体の平均厚みBの関係としては、
図14に模式的に示すように、A<Bであっても、A=Bであっても、A>Bであってもよく、いずれも適宜選択することができるが、A=B、乃至A<Bであることが好ましい。
【0038】
また、前記樹脂構造体における500MPa、5分間の押圧後の層厚みの圧縮率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が更に好ましい。また、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
なお、前記圧縮率は、例えば、圧縮前後の層厚みについて集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、算出することができる。
前記圧縮率が50%以下であると、樹脂構造体の強度の観点から、プレス工程を経たときに、樹脂構造体の形状を十分に保つことができる。前記圧縮率が1%以上であると、固体電解質層形成後のプレス工程において、樹脂構造体から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。
【0039】
前記樹脂構造体が、共連続構造を有することで、電極合材層の厚みと、樹脂構造体の厚みと、を略同等にしようとした際に、プレスにより容易に精度高く樹脂構造体の厚みを制御することができる。また、前記樹脂構造体は、後述する通り塗布及び重合誘起相分離法により形成できることによっても容易に樹脂構造体の厚みを制御することができる。共連続構造を有する多孔質の樹脂層であれば、プレスした際に生じる圧力を効率よく逃がせることが可能となるため、樹脂層の破壊や高低差ムラなどといった不具合の発生を抑制し、品質のよい樹脂層を得ることができる。また、樹脂構造体が共連続構造を有することで、樹脂構造体内の界面を減らすことができ、構造体層が無機粒子の積層体で構成されるような界面が多い構成に比べ、プレス時の構造体に生じるクラックの発生を抑制することができる。更に樹脂構造体が共連続構造、すなわち孔相が全て連続している構造であると、例えば固体電解質として硫化物固体電解質を用いた際に発生し得る硫化水素等のガスを構造体内に留めることなく、積極的に任意の箇所に誘導することができる。任意の箇所としては、例えばガスを吸着する部材や、電気化学素子が収容される外装体内から外装体外にガスを放出するための弁といった部材である。またガスを吸着する部材は、外装体内に設けられてもよく、外装体内に設けられる場合、であれば樹脂構造体内に設けられてもよく、外装体内であって樹脂構造体とは異なる位置に設けられてもよい。
【0040】
また、樹脂構造体が共連続構造をとらない、すなわち閉孔を多く有するような多孔質構造であると、閉孔内にガスがとどまり、充電時に活物質層が膨張した際に内圧が高まり、樹脂構造体にクラックが生じる可能性があるが、樹脂構造体が共連続構造を有すると、樹脂構造体にクラックが生じにくい構成とすることができる。
更に固体電池を製造する際には、固体電池内には水蒸気や酸素などのガスが残っていると固体電解質や活物質と反応し、電池特性を損なってしまうことから、製造工程において、固体電池内のガスを除去する工程が設けられることがある。樹脂構造体が共連続構造、すなわち孔相が全て連続している構造であると、ガスを除去する工程において固体電池内のガスを効率よく除去できるとともに、閉孔を有さないことから残留ガス量も少なくすることができ、電池特性に優れる電気化学素子とすることができる。
【0041】
デンドライド析出による短絡が生じ得る電気化学素子においては、通常、正極合材層よりも負極合材層を大きくする構成が一般的である。このとき、正極集電体及び負極集電体が略同等の大きさであると、
図15のように正極集電体上において、負極の負極合材層が対向する領域において、正極合材層が形成されない余剰部が発生する。電気学素子特性の観点から、樹脂構造体は、正極の余剰部、即ち正極合材層の外周部に設けられることが好ましい。なお、電気化学素子としたときに、正極合材層よりも負極合材層を小さくする構成がとられる場合であれば、樹脂構造体は負極の余剰部、即ち負極合材層の外周部に設けられることが好ましい。
【0042】
共連続構造を有し、空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、多孔質構造体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0043】
[走査型電子顕微鏡(SEM)による画像観察、及び空隙率の測定]
前記多孔質構造体のプレス前の空隙率としては、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。また、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。
プレス前の空隙率が30%以上であることで、固体電解質層形成後のプレス工程において、樹脂構造体から固体電解質層にかかる圧力を緩和することができる。また、空隙率が90%以下であることで、樹脂構造体の強度の観点から、プレス工程を経たときに、樹脂構造体の形状を十分に保つことができる。
【0044】
前記多孔質構造体の空隙率の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質構造体に、オスミウム染色を施した後で、エポキシ樹脂で真空含浸し、集束イオンビーム(FIB)で内部の断面構造を切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて空隙率を測定する方法などが挙げられる。
【0045】
前記多孔質構造体のプレス後の空隙率としては、1%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。また、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
プレス後の空隙率が1%以上であることで、樹脂構造体の周辺に位置する部材との密着性を向上させることができる。また、空隙率が80%以下であることで、更にプレス工程を行う場合であっても、厚み変化を抑制することができる。
【0046】
[透気度]
前記多孔質構造体のプレス前の透気度としては、1,000秒/100mL以下が好ましく、500秒/100mL以下がより好ましく、300秒/100mL以下が更に好ましい。
前記透気度は、JIS P8117に準拠して測定される透気度であり、例えば、ガーレー式デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)等を用いて測定することができる。
一例として、透気度が1,000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0047】
前記多孔質樹脂が有する孔の断面形状としては、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さ(最長径)を指すものとする。各孔の大きさ、及び孔の大きさのメジアン径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができ、1つ1つの孔全体が観察でき、かつ孔の数が100か所以上含まれるような視野で画像を取得し、各孔の最長径を各「孔の大きさ」として測定し、孔の大きさを横軸、孔の大きさごとの孔の数を縦軸とした孔径分布をとったとき、孔の数の累積が50%となるような径を孔の大きさのメジアン径として表す。
【0048】
前記多孔質樹脂の有する孔の大きさとしては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択できるが、孔の大きさと樹脂構造体上に設けられる固体電解質層を形成するための液体組成物に含まれる固体電解質のメジアン径との比が1よりも小さいことが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。孔の大きさが、固体電解質のメジアン径よりも大きい場合、樹脂構造体の孔内に固体電解質が含まれやすくなってしまう。上記範囲とすることで樹脂構造体に固体電解質が含まれにくい構成とすることができ、プレス時の圧力分散や、樹脂構造体から固体電解質にかかる圧力の緩和の点で有利である。
多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法などが挙げられる。
【0049】
前記樹脂構造体の平均厚みとしては、特に限定はなく、電極合材層の平均厚みなどの各種条件に応じて適宜選択することができるが、1.0μm以上150.0μm以下が好ましく、10.0μm以上100.0μm以下がより好ましい。平均厚みが10.0μm以上であることで圧力負荷を分散することができるとともに、正極と負極との短絡を防止することができ、100.0μm以下にすることで密度が高く電池特性に優れる固体電気化学素子を製造できる。
前記平均厚みは、任意の3点以上の厚みを測定し、その平均を算出することにより求めることができる。
【0050】
-接着性樹脂構造体-
また、前記樹脂構造体は、熱接着性を有し、後述するピール強度が2N/m以上である接着性樹脂構造体である態様であってもよく、前記接着性樹脂構造体である前記樹脂構造体の少なくとも一部が、他の基材の表面と接着されることが好ましい。
前記接着性樹脂構造体により、例えば、電極基体、電極合材層、固体電解質層、及び電気化学素子の外装の少なくとも2つが、樹脂構造体を介して熱接着され、電池積層時や積層後の工程の際に生じる、固体電解質層のずれや、電極積層のずれを抑制することができ、電池特性に優れる固体電気化学素子を製造することができる。これらの中でも、少なくとも電極基体と固体電解質層とが樹脂構造体を介して熱接着されていることが好ましい。
【0051】
[ガラス転移点]
前記接着性樹脂構造体は、加熱時に接着性を発現させて別物質と接着を実施した際に、架橋樹脂が溶融することなく大きな形状の変化が生じにくい。それによって、樹脂構造体は加熱接着前後においても良好な絶縁性を維持することが可能となる。
前記接着性絶縁層が接着層として機能するためには、骨格となる架橋樹脂のガラス転移点(Tg)が重要となる。
前記接着性樹脂構造体のガラス転移点(Tg)としては、0℃以上100℃以下が好ましく、25℃以上60℃以下がより好ましい。
前記Tgが0℃未満であると、常温で架橋樹脂表面にタック性が発現してしまうために樹脂構造体を形成した後のハンドリングが困難となるために好ましくない。
前記Tgが100℃を超えると、加熱接着後に良好な接着性が得られにくく、加熱接着に要する温度が高温となることにより、その他周囲の基材に過熱による悪影響を及ぼしやすいため好ましくない。一方、前記Tgが0℃以上100℃以下であると、加熱接着前後のハンドリングが良く、加熱接着後に良好な接着性が得られ、過熱の悪影響が生じない点で有利である。
【0052】
[ピール強度]
前記接着性樹脂構造体のピール強度は、下記のピール強度測定用素子を用いたときの、室温(25℃)において測定したピール測定法によるピール強度である。
前記絶縁層のピール強度としては、2N/m以上であり、5N/m以上が好ましく、25N/m以上がより好ましい。
前記ピール強度測定用素子は、30mm×100mmの前記基材2枚のそれぞれの一方の面全体に、前記接着性樹脂構造体を設け、前記接着性樹脂構造体同士を対向させ、温度140℃、エアシリンダー推力500N、及び1秒間の条件で熱接着することにより作製する。
【0053】
前記ピール強度は、例えば、ピール強度測定用装置として、粘着・被膜剥離解析装置Versatile Peel Analyzer(協和界面化学株式会社製)を用いて測定することができ、具体的には、以下の手順により測定することができる。
ピール強度測定用素子の電極aにおける接着性樹脂構造体が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の試料固定面と、を薄型両面テープで固定する。次いで、ピール強度測定用素子の電極bの接着性樹脂構造体が形成されている面と対向する面と、ピール強度測定用装置の引張り圧子と、をテープで固定する。下記に示す測定条件にてピール強度を測定する。
【0054】
-ピール強度の測定条件-
・ピール強度測定用装置:粘着・被膜剥離解析装置Versatile Peel Analyzer(協和界面化学株式会社製)
・薄型両面テープ:No.5000NS(幅20mm、日東電工株式会社製)
・テープ:No.29(幅18mm、日東電工株式会社製)
・測定速度:30mm/min
・剥離角度:90°
・剥離距離:75mm
なお、剥離距離は、ピール強度に大きく寄与しないことから、任意の値としてよい。また、ピール強度測定用素子の固定に用いる薄型両面テープ及びテープは、前記接着性樹脂構造体のピール強度よりも十分に高いピール強度を有し、測定中に剥離しないものを適宜選択することができる。
【0055】
<固体電解質層>
前記固体電解質層の固体電解質としては、前記電極合材層の固体電解質として説明した材料を適宜選択して用いることができる。
前記固体電解質層はバインダを含んでもよく、前記バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート等の熱可塑性樹脂、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、イソプレンゴム、ポリイソブテン、ポリエチレングリコール(PEO)、ポリエチレンビニルアセテート(PEVA)などが挙げられる。
【0056】
(電極積層体の製造方法、及び電極積層体の製造装置)
本発明の電極積層体の製造方法は、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、プレス工程と、固体電解質層形成工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
本発明の電極積層体の製造装置は、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、プレス手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0057】
<収容容器>
前記収容容器は、前記樹脂構造体を形成するための液体組成物と、容器とを含み、前記容器に液体組成物が収容された収容容器である。
容器としては、例えば、ガラス瓶、プラスチック容器、プラスチックボトル、ステンレスボトル、一斗缶、ドラム缶などが挙げられる。
【0058】
[樹脂構造体形成工程、及び樹脂構造体形成手段]
ここで、電極積層体における樹脂構造体を形成する方法は、付与工程と、重合工程とを少なくとも含む。
すなわち、前記樹脂構造体を形成する方法は、重合性化合物及び液体を含有する液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与工程と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
前記樹脂構造体を形成する手段は、重合性化合物及び液体を含有する液体組成物が収容された収容容器と、前記液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与手段と、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0059】
[樹脂構造体、及び電極合材層の形成順序]
樹脂構造体、及び電極合材層の形成順序としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記電極合材層形成工程が前記付与工程の前に実施され、前記電極合材層を形成した後に、前記電極合材層の周縁部に前記樹脂構造体を形成してもよい。その場合、前記電極積層体の製造方法は、樹脂構造体形成工程(付与工程、重合工程)、電極合材層形成工程、プレス工程、及び固体電解質層形成工程の順に実施される。
或いは、前記電極合材層形成工程が前記重合工程の後に実施され、前記樹脂構造体を前記電極基体上の周縁部に形成した後に、前記電極基体上の前記周縁部の内側に前記電極合材層を形成してもよい。その場合、前記電極積層体の製造方法は、電極合材層形成工程、樹脂構造体形成工程(付与工程、重合工程)、プレス工程、及び固体電解質層形成工程の順に実施される。
【0060】
<付与工程、付与手段>
前記付与工程は、前記液体組成物を電極基体上の周縁部に付与する工程であり、付与手段により好適に実施できる。
前記付与手段は、前記収容容器に収容された前記液体組成物を電極基体上の周縁部に付与する手段である。
【0061】
前記付与工程及び付与手段としては、液体組成物を付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。これらの中でも、インクジェット印刷法が好ましい。これによって必要となる箇所に対して精度よく樹脂層を形成することできる。
【0062】
-液体組成物-
前記液体組成物は、樹脂構造体を形成するための液体組成物であって、重合性化合物、及び液体を含み、更に必要に応じて、重合開始剤などのその他の成分を含む。
前記液体組成物は、多孔質樹脂を形成し、前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
【0063】
前記液体組成物は、多孔質構造体を形成する。すなわち、液体組成物における重合性化合物の重合及び硬化により樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(「多孔質樹脂」又は「多孔質構造体」とも称する)を形成する。
ここで、「液体組成物が多孔質樹脂を形成する」とは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の処理(例えば、加熱処理等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。
【0064】
--重合性化合物--
前記重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物の組成及び特徴により多孔質樹脂を形成する。
前記重合性化合物は、重合することにより重合物(樹脂)を形成する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の重合性化合物を選択することができるが、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。
前記重合性化合物としては、例えば、1官能、2官能、又は3官能以上のラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等のラジカル重合性化合物;重合性官能基以外の官能基を更に有する機能性モノマー、機能性オリゴマーなどが好適に挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
前記重合性化合物の重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基の少なくともいずれかが好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
前記重合性化合物が、活性エネルギー線の照射によって重合可能であることが好ましく、熱又は光により重合可能であることがより好ましい。
【0065】
重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与(例えば、光の照射や加熱)等で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、エン-チオール反応により形成される樹脂などが好適に挙げられる。
これらの中でも、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂がより好ましく、また、生産性の観点から、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂がより好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくともいずれかを有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0066】
前記活性エネルギー線としては、液体組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましい。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm2以下が好ましく、300mW/cm2以下がより好ましく、100mW/cm2以下が更に好ましい。但し、活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下することから、10mW/cm2以上が好ましく、30mW/cm2以上がより好ましい。
【0067】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
前記重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。
前記含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0071】
--液体--
前記液体は、ポロジェンを含み、更に必要に応じて、ポロジェン以外のその他の液体を含む。
前記ポロジェンは、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中にポロジェンが含まれることで、重合性化合物が重合した場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光又は熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。
液体乃至ポロジェンは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、液体は重合性を有さない。
【0072】
ポロジェンの1種単独としての沸点又は2種類以上を併用した場合の沸点としては、常圧において、50℃以上250℃以下が好ましく、70℃以上200℃以下がより好ましく、120℃以上190℃以下が更に好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを除去する工程における時間が短縮され、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に、品質が向上する。
【0073】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類;γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;などを挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0074】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。
ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、かつ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物及び重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0075】
前記液体乃至ポロジェンの含有量としては、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。
前記液体乃至ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、前記液体乃至ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0076】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さないその他の液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。
前記その他の液体の含有量としては、液体組成物全量に対して10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0質量%(含まれないこと)が特に好ましい。
【0077】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0078】
--その他の成分--
---重合開始剤---
前記液体組成物は、重合開始剤などのその他の成分を含んでもよい。
前記重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、例えば、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、塩基発生剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0079】
光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光ラジカル発生剤を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名イルガキュアやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、アセトフェノン誘導体などが挙げられる。
具体的な化合物としては、例えば、α-ヒドロキシ-アセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド;チタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン;キサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物;ジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0080】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は、通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0081】
重合開始剤の含有量としては、十分な硬化速度が得られる点で、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
【0082】
前記液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。
【0083】
[重合誘起相分離]
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質体を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0084】
次に、重合性化合物を含む液体組成物による、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たし、樹脂骨格による共連続構造を有する多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、三次元網目構造の共連続構造を有する多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0085】
[光透過率]
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率は、30%以上である。
ポロジェンと重合性化合物との相溶性は、前記光透過率により判断することができる。
前記光透過率が30%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を、重合性化合物と液体とが非相溶の状態であると判断する。
【0086】
前記光透過率は、具体的には以下の方法により測定することができる。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、以下の条件により、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品番号:42016、株式会社ミトリカ製)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0087】
[ヘイズ値の上昇率]
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上である。
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、前記ヘイズ値の上昇率により判断することができる。
前記ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を、液体がポロジェンを含み、樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を、樹脂と液体とが相溶の状態であると判断する。
ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。
【0088】
前記ヘイズ値の上昇率は、具体的には、前記液体組成物を重合して作製した平均厚み100μmのヘイズ測定用素子の重合前後におけるヘイズ値の上昇率であり、以下の方法により測定することができる。
-ヘイズ測定用素子の作製-
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートによりギャップ剤としての樹脂微粒子を基板上に均一分散させる。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。ギャップ剤のサイズ(平均粒子径100μm)がヘイズ測定用素子の平均厚みに相当する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm2、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0089】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。
なお、測定に用いる装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業株式会社製
【0090】
[粘度]
液体組成物の粘度としては、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0091】
[ハンセン溶解度パラメータ(HSP)]
上記のポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を通じて予測することができる。
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、2種の物質の相溶性を予測するのに有用なツールであって、チャールズハンセン(Charles M.Hansen)によって発見されたパラメータである。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、実験的及び理論的に誘導された下記3つのパラメータ(δD、δP、及びδH)を組み合わせることにより表される。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の単位は、MPa0.5又は(J/cm3)0.5が用いられる。本実施形態では(J/cm3)0.5を用いた。
・δD:ロンドン分散力に由来するエネルギー。
・δP:双極子相互作用に由来するエネルギー。
・δH:水素結合力に由来するエネルギー。
【0092】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、(δD,δP,δH)のように表されるベクトル量であり、3つのパラメータを座標軸とする3次元空間(ハンセン空間)上にプロットして表される。一般的に使用される物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、データベース等の公知の情報源があるため、例えば、データベースを参照することによって、所望の物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を入手することができる。データベースにハンセン溶解度パラメータ(HSP)が登録されていない物質は、例えばHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のコンピュータソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法からハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算することができる。2種以上の物質を含む混合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、各物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に、混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出される。なお、本実施形態では、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「液体のハンセン溶解度パラメータ」と表す。
【0093】
また、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とに基づく相対的エネルギー差(RED)は、下記式で表される。
【数1】
上記式中、Raは、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)との相互作用間距離を示し、Roは、溶質の相互作用半径を示す。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)間の相互作用間距離(Ra)は2種の物質の距離を示す。その値が小さいほど、3次元空間(ハンセン空間)内で、2種の物質がより接近することを意味し、互いに溶解する(相溶する)可能性がより高くなることを示す。
2種の物質(溶質A及び溶液B)に対するそれぞれのハンセン溶解度パラメータ(HSP)が下記のようであると仮定すれば、Raは下記のように計算することができる。
・HSP
A=(δD
A、δP
A、δH
A)
・HSP
B=(δD
B、δP
B、δH
B)
・Ra=[4×(δD
A-δD
B)
2+(δP
A-δP
B)
2+(δH
A-δH
B)
2]
1/2
Ro(溶質の相互作用半径)は、例えば、次に説明するハンセン溶解球法により決定することができる。
【0094】
-ハンセン溶解球法-
最初に、Roを求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体(上記の「液体(ポロジェン)」とは意味が区別される液体)とを準備し、各評価用液体に対する対象の物質の相溶性試験を行う。相溶性試験において、相溶性を示した評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と相溶性を示さなかった評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とを、ハンセン空間上に各々プロットする。プロットされた各評価用液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて、相溶性を示した評価用液体群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含し、相溶性を示さなかった評価用液体群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含しないような仮想の球体(ハンセン球)をハンセン空間上に作成する。ハンセン球の半径が物質の相互作用半径R0、中心が物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)となる。なお、相互作用半径R0及びハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体との間における相溶性の評価基準(相溶したか否かの判断基準)は評価者自身が設定する。本実施形態における評価基準は後述する。
【0095】
-重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
本実施形態における重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物の相互作用半径を、ハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本実施形態における重合性化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC」と表し、重合性化合物の相互作用半径を「重合性化合物の相互作用半径D」と表す。言い換えると、「重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC」及び「重合性化合物の相互作用半径D」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「液体のハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0096】
重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC及び重合性化合物の相互作用半径Dは、下記[1-1]及び上記した光透過率の測定方法に従い、重合性化合物の評価用液体に対する相溶性の評価(「重合性化合物、及び評価用液体を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率」に基づく評価)により求められる。
【0097】
[1-1]透過率測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体を準備し、重合性化合物、各評価用液体、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、透過率測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体は、下記記載の21種類の評価用液体を用いる。
~透過率測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物:28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用液体群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、n-テトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0098】
-重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物が重合することにより形成される樹脂の相互作用半径はハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本実施形態における重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「樹脂のハンセン溶解度パラメータA」と表し、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂の相互作用半径を「樹脂の相互作用半径B」と表す。言い換えると、「樹脂のハンセン溶解度パラメータA」及び「樹脂の相互作用半径B」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「液体のハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0099】
樹脂のハンセン溶解度パラメータA及び樹脂の相互作用半径Bは、下記[2-1]、及び上記したヘイズ値の上昇率の測定方法に従い、樹脂の評価用液体に対する相溶性の評価(「重合性化合物、及び評価用液体を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率」に基づく評価)により求められる。
【0100】
[2-1]ヘイズ測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂の前駆体(重合性化合物)と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体を準備し、重合性化合物、各評価用液体、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、ヘイズ測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用液体は、下記記載の21種類の評価用液体を用いる。
~ヘイズ測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂の前駆体(重合性化合物):28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用液体:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用液体群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、n-テトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0101】
-樹脂と液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物及び評価用液体を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率に基づいて決定される重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータA、当該樹脂の相互作用半径B、並びにポロジェンのハンセン溶解度パラメータ、から下記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.00以上であることが好ましく、1.10以上がより好ましく、1.20以上が更に好ましく、1.30以上が特に好ましい。
【数2】
樹脂とポロジェンのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.00以上である場合、重合性化合物が液体組成物中において重合して形成される樹脂とポロジェンが相分離を起こしやすくなり、多孔質樹脂がより形成されやすくなるため好ましい。
【0102】
-重合性化合物と液体(ポロジェン)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物及び評価用液体を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率に基づいて決定される重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC、当該重合性化合物と評価用液体の相溶性に基づいて決定される重合性化合物の相互作用半径D、並びに液体のハンセン溶解度パラメータ、から下記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.05以下であることが好ましく、0.90以下がより好ましく、0.80以下が更に好ましく、0.70以下が特に好ましい。
【数3】
重合性化合物とポロジェンのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.05以下である場合、重合性化合物とポロジェンが相溶性を示しやすくなり、0に近づくに従ってより相溶性を示す。そのため、相対的エネルギー差(RED)が1.05以下であることで、重合性化合物をポロジェンに溶解させてから経時的に重合性化合物が析出しないような高い溶解安定性を示す液体組成物が得られる。重合性化合物がポロジェンに対する高い溶解性を有することで、液体組成物の吐出安定性を保つことができるため、例えば、インクジェット方式のような液体組成物を吐出する方式にも好適に本実施形態の液体組成物を適用することができる。また、相対的エネルギー差(RED)が1.05以下であることで、重合反応開始前の液体組成物の状態において重合性化合物とポロジェンの間における分離が抑制され、不規則又は不均一な多孔質樹脂の形成が抑制される。
【0103】
[液体組成物の製造方法]
液体組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製することが好ましい。
【0104】
<重合工程、重合手段>
前記重合工程は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する工程であり、重合手段により好適に実施できる。
前記重合手段は、前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する手段である。
前記重合により、前記液体組成物中の前記重合体化合物が重合し、重合誘起相分離により、多孔質樹脂が形成され、電極基体上の周縁部に樹脂構造体を製造することができる。
前記重合処理及び重合部としては、特に制限はなく、用いる重合開始剤や重合様式などの目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合の場合、波長365nmの紫外線を3秒間照射する光照射処理及び光照射方法、熱重合の場合、150℃真空乾燥で12時間加熱する加熱処理及び加熱方法などが挙げられる。
【0105】
<その他の処理、その他の部>
前記積層体の製造装置におけるその他の処理としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去処理などが挙げられる。
前記積層体の製造方法におけるその他の部としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、除去部などが挙げられる。
【0106】
<<除去処理、除去部>>
前記除去処理は、前記重合処理により液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から液体を除去する処理であり、除去部により好適に実施できる。
前記除去部は、前記重合部で液体組成物が重合してなる多孔質樹脂から液体を除去する部である。
前記液体を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒、分散液などの液体を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで液体の除去がより促進され、形成される絶縁層における液体の残存を抑制できるので好ましい。
加熱する際には、ステージにより加熱してもよいし、ステージ以外の加熱機構により加熱してもよい。加熱機構は、基体の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。加熱機構としては、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等が挙げられる。
加熱温度は、特に制限はないが、使用エネルギーの観点から、70℃~150℃が好ましい。
【0107】
<電極合材層形成工程、電極合材層形成手段>
前記電極合材層形成工程は、前記電極基体上に電極合材層を形成する工程であり、電極合材層形成手段により好適に実施できる。
前記電極合材層形成手段は、前記電極基体上に電極合材層を形成する手段である。
前記電極合材層形成工程を実施する順番としては、上述した通り、前記付与工程の前であってもよく、前記重合工程の後であってもよい。
すなわち、前記電極合材層を形成した後に、前記電極合材層の周縁部に前記樹脂構造体を形成してもよく、或いは、前記樹脂構造体を前記電極基体上の周縁部に形成した後に、前記電極基体上の前記周縁部の内側に前記電極合材層を形成してもよい。
【0108】
前記電極合材層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉体状の活物質や結着剤、導電材等を液体中に分散し、得られた分散液を電極基体上に塗布し、固定して乾燥する方法などが挙げられる。
前記塗布方法としては、例えば、スプレー、ディスペンサ、ダイコーター、引き上げ塗工などが挙げられる。
【0109】
<プレス工程、プレス手段>
前記プレス工程は、前記電極合材層及び前記樹脂構造体をプレスする工程であり、プレス手段により好適に実施できる。
前記プレス手段は、前記電極合材層及び前記樹脂構造体をプレスする手段である。
前記プレスを行うことにより、前記電極合材層の平均厚みと、前記樹脂構造体の平均厚みとを略同等とすることができ、したがって、電極上に設けられた固体電解質層をプレスする際に高い圧力がかかった場合でも、圧力負荷を優れて分散することができる。
前記プレス工程を行うタイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記電極基体上に、前記電極合材層及び前記樹脂構造体を形成した後に、前記電極合材層及び前記樹脂構造体をプレスしてもよく、或いは、プレス前の前記樹脂構造体の厚みと前記電極合材層の厚みが略同等であれば、更に固体電解質層を設けた後に、プレスしてもよく、その両方を行ってもよい。
【0110】
前記プレス方法としては、特に制限はなく、市販の加圧成型装置を用いて行うことができ、前記電極合材層及び前記樹脂構造体を前記電極基体方向にプレスすればよく、例えば、一軸プレス、ロールプレス、冷間静水等方圧プレス(CIP)、ホットプレスなどが挙げられる。これらの中でも、等方加圧することができる冷間静水等方圧プレス(CIP)が好ましい。
プレス圧力は、電極基体と電極合材層とを圧着しつつ、電極合材層を圧密化することができる圧力で行うことがよく、1MPa~900MPaが好ましく、50MPa~300MPaがより好ましい。
【0111】
<固体電解質層形成工程、固体電解質層形成手段>
前記固体電解質層形成工程は、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する工程であり、固体電解質層形成手段により好適に実施できる。
前記固体電解質層形成手段は、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する手段である。
前記固体電解質層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記固体電解質、及び必要に応じて前記バインダを含む液体組成物を、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に塗布し、固化して乾燥させる方法が挙げられる。
【0112】
塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、インクジェット法やスプレーコート法、ディスペンサ法などの液体吐出方法や、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法などが挙げられる。
【0113】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで樹脂構造体、乃至電極積層体を形成する実施形態]
図7は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための樹脂構造体の製造装置(液体吐出装置)の一例を示す模式図である。
樹脂構造体の製造装置500は、上記した液体組成物を用いて樹脂構造体を製造する装置である。樹脂構造体の製造装置は、印刷基材5上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する付与処理を実施する印刷部100と、液体組成物層に熱又は光を付与して重合させる重合処理を実施する重合部200と、多孔質樹脂前駆体6を加熱し、その孔内の溶媒を除去することで多孔質樹脂を得る加熱処理を実施する加熱部300を備える。樹脂構造体の製造装置は、印刷基材5を搬送する搬送部7を備え、搬送部7は、印刷部100、重合部200、加熱部300の順に印刷基材5をあらかじめ設定された速度で搬送する。
印刷基材5は、電極基体上に電極合材層が設けられた基材であってもよい。また、電極合材層を有しない電極基体であってもよく、その場合は、樹脂構造体の形成後に電極合材層が設けられる。
【0114】
-印刷部100-
印刷部100は、印刷基材5上に樹脂構造体を形成するための液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、液体組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
収容容器1bは、液体組成物6を収容し、印刷部100は、印刷装置1aから液体組成物6を吐出して、印刷基材5上に液体組成物6を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、樹脂構造体の製造装置と一体化した構成であってもよいが、樹脂構造体の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、樹脂構造体の製造装置と一体化した収容容器や樹脂構造体の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物6を安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外及び可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物6が外光により重合開始されることが防止される。
【0115】
-重合部200-
重合部200は、
図7に示すように、光重合の場合、重合工程を実施する重合手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有し、光照射装置2aは、印刷部100により形成された液体組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体を得る。
光照射装置2aは、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始及び進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源などが挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
次に、光照射装置2aの光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行するため、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し、多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm
2以上1W/cm
2以下が好ましく、30mW/cm
2以上300mW/cm
2以下がより好ましい。
【0116】
重合不活性気体循環装置2bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
重合不活性気体のO2濃度としては、阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)が好ましく、0%以上15%以下がより好ましく、0%以上5%以下が更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2bは安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0117】
重合部200は、熱重合の場合は、加熱装置であってもよい。加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱(例えば、ホットプレート)、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
また、加熱温度や時間、又は光照射の条件に関しては、液体組成物6に含まれる重合性化合物や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0118】
-除去部300-
除去部300は、
図7に示すように、加熱装置3aを有し、重合部200により形成した多孔質樹脂前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、残存する液体を乾燥させて除去する液体除去工程を行う。これにより多孔質樹脂を形成することができる。除去部300は、液体除去を減圧下で実施してもよい。
また、除去部300は、多孔質樹脂前駆体を加熱装置3aにより加熱して、重合部200で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、及び多孔質樹脂前駆体に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も行う。なお、これらの重合促進工程及び開始剤除去工程は、液体除去工程と同時ではなく、液体除去工程の前又は後に実施されてもよい。
さらに、除去部300は、液体除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を行う。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒータや温風ヒータなどが挙げられる。
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質樹脂前駆体に含まれる液体の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0119】
図8は、本実施形態の電極積層体の製造方法を実現するための樹脂構造体の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
液体吐出装置300’は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
前記樹脂構造体の製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0120】
本実施形態の樹脂構造体の製造方法の他の例を
図9に示す。
基材上に多孔質樹脂が設けられた電極-樹脂構造体の積層体210の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、基材211上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
まず、細長状の基材211を準備する。そして、基材211を筒状の芯に巻き付け、多孔質樹脂212を形成する側が、
図9中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、基材211は、
図9中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の基材211の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、
図8と同様にして、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される基材211上に吐出する。
なお、液体吐出ヘッド306は、基材211の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された基材211は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、重合部309に搬送される。その結果、多孔質樹脂212が形成され、基材上に多孔質樹脂が設けられた電極-樹脂構造体の積層体210が得られる。その後、高分子電解質が設けられた電極210は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
重合部309は、基材211の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
重合部309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、熱重合の場合、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等;光重合の場合、紫外線照射装置などが挙げられる。なお、重合部309は、複数個設置されていてもよい。
【0121】
加熱又は光照射の条件は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。重合により液体組成物12Aが重合されて多孔質樹脂が形成される。
また、
図10のように、タンク307Aは、タンク307Aに接続されたタンク313Aから液体組成物を供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数の液体吐出ヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0122】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで樹脂構造体、乃至電極積層体を形成する実施形態]
図11~12は、本実施形態の樹脂構造体の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、
図11は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、
図12は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図11に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
【0123】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラムに4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド101は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0124】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、液体組成物を熱重合させて、多孔質樹脂を形成する。また、液体が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の多孔質樹脂が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0125】
図12に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物乃至多孔質樹脂を転写することで基材上に多孔質樹脂を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、熱重合することで多孔質樹脂を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0126】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した多孔質樹脂は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0127】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上記した本発明の電極積層体を有する電気化学素子である。前記電気化学素子は、固体電解質層を有する全固体電池であることが好ましい。
図15に、本発明の電気化学素子である全固体電池の一例を示す。
図15に示す全固体電池は、正極20と負極40が、固体電解質30を介して、積層されている。ここで、正極20は、負極40の両側に積層されている。
また、正極基体21には、引き出し線50が接続されており、負極基体41には、引き出し線51が接続されている。
なお、正極20と負極40の積層数は、特に制限は無い。また、正極20の個数と負極40の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
引き出し線50及び51は、外装60の外部に引き出されている。
前記電気化学素子の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シリンダタイプコインタイプなどが挙げられる。
【0128】
(電気化学素子の製造方法、及び電気化学素子の製造装置)
本発明の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極製造工程と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極製造部と、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化部と、を有し、必要に応じて、更にその他の手段を有する。
【0129】
<電極製造工程、及び電極製造部>
前記電極製造工程は、上記した本発明の電極積層体の製造方法において説明した、付与工程と、重合工程と、電極合材層形成工程と、プレス工程と、固体電解質層形成工程と、を含み、更に必要に応じて、電極加工工程などのその他の手段を有する。
前記電極製造部は、上記した本発明の電極積層体の製造装置において説明した、収容容器と、付与手段と、重合手段と、電極合材層形成手段と、プレス手段と、固体電解質層形成手段と、を有し、更に必要に応じて、電極加工手段などのその他の手段を有する。
前記電極製造工程、及び前記電極製造部により、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有する電極積層体を製造することができる。
【0130】
<素子化工程、及び素子化部>
前記素子化工程は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する工程である。
前記素子化部は、前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する手段である。
電極積層体を用いて電気化学素子を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の電気化学素子の製造方法を選択することができ、例えば、対向電極の設置、巻回又は積層、容器への収容の少なくともいずれかを行い蓄電素子とする方法が挙げられる。
なお、素子化工程としては、素子化の全行程を備える必要はなく、素子化の一部の工程を含むものであってもよい。
【0131】
<電極加工工程、及び電極加工部>
電極加工部は、付与部よりも下流において、樹脂層が形成された電極積層体を加工する手段である。電極加工部は、裁断、折り畳み、及び貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。積層電極加工部は、例えば、樹脂層が形成された積層電極を裁断し、積層電極の積層体を作製することができる。電極加工部は、樹脂層が形成された積層電極を巻回又は積層することができる。
電極加工部は、例えば、電極加工装置を有し、多孔質樹脂層が形成された積層電極の裁断やつづら折り、積層や巻回を目的の電池形態に応じて実施する。
電極加工部によって行われる電極加工工程は、例えば、付与工程よりも下流において、樹脂層が形成された積層電極を加工する工程である。電極加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、及び貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【0132】
[電気化学素子の用途]
前記電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、電気自動車などの移動体;スマートフォン、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラなどが挙げられる。これらの中でも、車両、電気機器が特に好ましい。
前記移動体としては、例えば、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、トラック、大型自動二輪車、普通自動二輪車などが挙げられる。
【0133】
[移動体]
図18に、本発明の電気化学素子である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す。移動体70は、例えば電気自動車である。移動体70はモーター71と、電気化学素子72と、移動手段の一例としての車輪73を備える。電気化学素子72は、上述した本発明の電気化学素子である。電気化学素子72は、モーター71に電力を供給することでモーター71を駆動する。駆動されたモーター71は、車輪73を駆動させることができ、その結果、移動体70は移動することができる。
以上の構成によれば、正極と負極との短絡を防止するとともに、電池特性に優れる固体電気化学素子からの電力により駆動するので、安全かつ効率よく移動体を移動させることができる。
移動体70は電気自動車に限られず、PHEVやHEV、又はディーゼルエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な機関車やバイクであってもよい。又、移動体は、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な、工場等で使用される搬送用ロボットであってもよい。また、移動体は、その物体全体が移動せず、一部のみが移動するもの、例えば、工場の製造ラインに配される、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用してアーム等が動作可能な組立ロボットであってもよい。
【実施例0134】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0135】
<固体電解質の合成>
固体電解質として、アルジロダイト型硫化物固体電解質Li6PS5Cl(LPSC)を公知文献1「J. Power Sources. 2018, 396, 33-40」に従い合成した。
固体電解質層形成用塗料は、以下のように作製した。
溶媒としてオクタン(東京化成工業株式会社製)を用いた。脱水した溶媒として、カールフィッシャー水分濃度計により、100ppm以下の水分含有量であることを確認したものを用いた。
この溶媒100質量部に対し、上記合成した固体電解質100質量部、及び分散剤(Lubrizol社製、SolspersetmTM 21000)1質量部を添加して混合し、固体電解質層形成用塗料を得た。
【0136】
<活物質へのイオン伝導性酸化物の表面被覆>
正極活物質としてニッケル系正極活物質(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、以下、「NCM1」と称することがある。平均一次粒子径3.5μm、株式会社豊島製作所製)を用いた。NCM1粒子を表面被覆するイオン伝導性酸化物としてはLiNbO3を用いた。LiNbO3層は、公知文献2「J.Mater.Chem.A. 2021, 9, 4117-4125」を参考に、リチウムとニオブを含有するアルコキシド溶液をNCM1粉末粒子表面で加水分解することにより形成した。まず、無水エタノール(関東化学株式会社製)中に金属リチウム(本城金属株式会社製)を溶解させ、リチウムエトキシドのエタノール溶液を調製した。さらに、この溶液にニオビウムペンタエトキサイド(Nb(OC2H5)5)(株式会社高純度化学研究所製)を加え、リチウムとニオブを含有するアルコキシド溶液とした。転動流動装置(MP-01、株式会社パウレック製)を用いてNCM1粉末を流動層とし、先のアルコキシド溶液を噴霧することでNCM1粉末粒子表面をアルコキシドで被覆した前駆体粉末を得た。この粉末をドライ空気雰囲気下350℃で加熱することによりNCM1表面にLiNbO3層を形成したLNO/NCM1を合成した。
また同様に、ニッケル系正極活物質(ニッケル酸リチウム、以下、「NCA1」と称することがある。株式会社豊島製作所製)を用いてNCA1表面にLiNbO3層を形成したLNO/NCA1を合成した。
【0137】
<正極作製方法>
<正極1>
正極活物質としてLNO/NMC1 45.3質量%、導電材としてアセチレンブラック2.2質量%(デンカブラック、デンカ株式会社製)、バインダとしてポリブチルメタクリレート(PBMA、アルドリッチ社製)1.4質量%、固体電解質1 14.7質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.4質量%中に分散させて正極塗料を作製した。
この正極塗料を電極基体としてのアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み:15μm)の片面に塗布後、乾燥させて20mm×20mmの正極合材層を形成し、正極合材層の周囲4辺に幅15cmの余白部分を有する、正極1を得た。正極合材層の平均厚みは95μmであり、単位面積あたりの電池容量は2.91mAh/cm2であった。
【0138】
<正極2>
正極活物質としてLNO/NCA1 45.3質量%、導電材としてアセチレンブラック2.2質量%(デンカブラック、デンカ株式会社製)、バインダとしてポリブチルメタクリレート(PBMA、アルドリッチ社製)1.4質量%、固体電解質1 14.7質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.4質量%中に分散させて正極塗料を作製した。
この正極塗料をアルミニウム箔基体(50mm×50mm、平均厚み:15μm)の片面に塗布後、乾燥させて20mm×20mmの正極合材層を形成し、正極合材層の周囲4辺に幅15cmの余白部分を有する、正極2を得た。正極合材層の平均厚みは97μmであり、単位面積あたりの電池容量は3.11mAh/cm2であった。
【0139】
<負極作製方法>
<負極1>
電極基体としてのステンレス箔基体(50mm×50mm、平均厚み:20μm)上に平均厚み50μmのリチウム金属(本城金属株式会社製)貼り付け、さらに50μmのインジウム箔(株式会社ニラコ製)を貼り付け、22mm×22mmの負極1とした。
【0140】
<負極2>
電極基体としてのステンレス箔基体(50mm×50mm、平均厚み:20μm)上に平均厚み50μmのリチウム金属(本城金属株式会社製)貼り付け、さらに50μmのインジウム箔(株式会社ニラコ製)を貼り付け、22mm×18mmの負極2とした。
【0141】
<負極3>
負極活物質として黒鉛(Gr、シグマアルドリッチ社製) 45.5質量%、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック、デンカ株式会社製)1.4質量%、バインダとしてアクリロニトリルブタジエンラバー(NBR、アルドリッチ社製)1.8質量%、固体電解質1 14.8質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.5質量%中に分散させて負極塗料を作製した。
この負極塗料を電極基体としてのステンレス箔基体(50mm×50mm、平均厚み:20μm)の片面に塗布後、乾燥させて22mm×18mmの負極合材層を形成し、負極3を得た。負極合材層の平均厚みは61μmであり、単位面積あたりの電池容量は3.38mAh/cm2であった。
【0142】
<負極4>
負極活物質としてシリコン(Si、シグマアルドリッチ社製) 45.5質量%、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック、デンカ株式会社製)1.4質量%、バインダとしてアクリロニトリルブタジエンラバー(NBR、アルドリッチ社製)1.8質量%、固体電解質1 14.8質量%をアニソール(東京化成工業株式会社製)36.5質量%中に分散させて負極塗料を作製した。
この負極塗料をステンレス箔基体の片面に塗布後、乾燥させて22mm×18mmの負極合材層を形成し、負極3を得た。負極合材層の平均厚みは21μmであり、単位面積あたりの電池容量は3.61mAh/cm2であった。
【0143】
[電極の単位面積当たりの容量の測定方法]
電極の単位面積当たりの容量は、充放電測定装置(TOSCAT3001、東洋システム株式会社製)を用いて以下の手順により計測した。
まず、作製した電極を直径10mmの丸型に打ち抜いた。
次に、正極又は負極に固体電解質1を含む電極は下記の方法で容量評価を実施した。
アルゴン雰囲気下にて正極又は負極を直径10mmの丸型電極の単位面積当たりの容量に打ち抜き加工した。
二極式セル(宝泉株式会社製)のポリエチレンテレフタレート(PET)管に80mgの固体電解質1を入れ、プレスピンを載せて、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力10MPaで1分間成型した。
次に、直径10mmに打抜いた正極又は負極を、活物質面と上記PET管内の固体電解質面に接触するように載せて、プレスピンをセットし、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力30MPaで1分間成型した。
正極合材層をプレスした逆側に10μmのSUS箔に平均厚み50μmのリチウムを貼り付けたもの(本城金属株式会社製)の上に平均厚み50μmのインジウム(株式会社ニラコ製)を重ねた。そして、一軸プレス機(P-6、理研精機株式会社製)を用いて表示圧力12MPaで3秒間成型した。プレスピンを載せた状態でPET管を二極式セルの中に入れ、デジタルトルクラチェット(KTCツール)で表示圧力25N・mに密封した。
この電気化学素子を、室温(25℃)において、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電した後、2.4Vまで定電流放電して初期充放電を実施した。更に、当該充放電を2回実施し、2回目の放電容量を、初期の正極の単位面積当たりの容量として計測した。
負極に関しても同様に負極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で-0.55V~1.4Vの範囲で充放電を実施し、負極の単位面積当たりの容量を算出した。
【0144】
<樹脂構造体形成用の液体組成物の調製>
以下に示す割合で材料を混合し絶縁層形成用の液体組成物を調製した。
<液体組成物1>
溶媒として2-エチルヘキサノール(東京化成工業株式会社製)49.5質量%、重合性化合物としてライトアクリレート4EG-A(共栄社化学株式会社製)を50.0質量%、重合開始剤として重合開始剤としてOmnirad819(旧Irgacure819、IGM ResinsB.V.社製)を0.5質量%の割合で混合し、絶縁層形成用の液体組成物1を得た。
【0145】
[正極合材層と樹脂構造体との距離]
正極合材層と樹脂構造体との距離d(正極合材層の外周部と樹脂構造体の幅)は、
図16~17のように定義した。
図16に示す正極合材層と樹脂構造体とが隣接する状態を0とし、
図17に示す矢印の間を正極合材層と樹脂構造体との距離dとした。
樹脂構造体が電極合材層側に重なっている場合、マイナスの値で示す。
【0146】
(実施例1)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体幅10mmとなるよう吐出させて塗布した。
その後、直ちに、窒素雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶媒を除去し、電極積層体として樹脂構造体を有する正極(以下、正極-樹脂構造体と称する)とした。このとき樹脂構造体の平均厚みは123μmであった(
図1、
図6A、及び表1参照)。
【0147】
正極-樹脂構造体をアルミラミネートで封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分間加圧した。加圧後、正極-樹脂構造体をアルミラミネートから取り出した。固体電解質層をバーコート法で正極上に塗布形成し、電極積層体とした(
図2参照)。塗布後、再度アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極1を対向させ、単電池層とし(
図3参照)、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池1とした。作製した全固体電池1の電池電圧を計測すると2.04Vであった。単位面積当たりの容量は、初回放電容量で141mAh/gであった。正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0148】
(実施例2)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し正極の外周部と樹脂構造体の幅0mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは122μmであった(
図1、
図6A、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池2とした。作製した全固体電池2の電池電圧を計測すると2.06Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0149】
(実施例3)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層と樹脂構造体との距離dが-0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは121μmであった(
図1、
図6A、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池3とした。作製した全固体電池3の電池電圧を計測すると 2.04Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0150】
(実施例4)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体幅10mmとなるよう吐出させて塗布した。
その後、直ちに、窒素雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶媒を除去し、正極-樹脂構造体とした。このとき樹脂構造体の平均厚みは121μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
【0151】
正極-樹脂構造体をアルミラミネートで封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分加圧した。加圧後、正極-樹脂構造体をアルミラミネートから取り出した。固体電解質層をバーコート法で正極上に塗布形成し、電極積層体とした(
図2参照)。塗布後、再度アルミラミネートで封止しCIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極2を対向させ、単電池層とし(
図3参照)、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池4とした。作製した全固体電池4の電池電圧を計測すると2.05Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0152】
(実施例5)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは123μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池5とした。作製した全固体電池5の電池電圧を計測すると2.07Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0153】
(実施例6)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが-0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは119μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池6とした。作製した全固体電池6の電池電圧を計測すると 2.01Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0154】
(実施例7)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体5mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは120μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池7とした。作製した全固体電池7の電池電圧を計測すると 2.03Vでであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0155】
(実施例8)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは95μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池8とした。作製した全固体電池8の電池電圧を計測すると 2.08Vでであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0156】
(実施例9)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは92μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池9とした。作製した全固体電池9の電池電圧を計測すると 2.09Vでであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0157】
(実施例10)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極2を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは112μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
以下、実施例1と同様にして全固体電池10とした。作製した全固体電池10の電池電圧を計測すると 2.08Vでであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0158】
(実施例11)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体幅10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは108μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
実施例1と同様にして、正極-樹脂構造体を作製し、続いて、電極積層体を作製した。負極2をアルミラミネートで封止しCIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極2を対向させ、単電池層とし、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池11とした。作製した全固体電池11の電池電圧を計測すると 2.67Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で4.2Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0159】
(実施例12)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体幅10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは105μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)。
【0160】
実施例1と同様にして、正極-樹脂構造体を作製し、続いて、電極積層体を作製した。負極3をアルミラミネートで封止しCIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極2を対向させ、単電池層とし、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池12とした。作製した全固体電池12の電池電圧を計測すると 2.61Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で4.2Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0161】
(実施例13)
樹脂構造体形成用の液体組成物1をインクジェットヘッド(MH5421F、リコーインダストリー株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。ステージに正極1を設置し、正極合材層の外周部2辺と樹脂構造体との距離dが0.5mmとなるように設定し、樹脂構造体幅10mmとなるよう吐出させて塗布した。樹脂構造体の平均厚みは98μmであった(
図1、
図4、及び表1参照)
その後、直ちに、窒素雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm
2、照射時間:20s)し、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶媒を除去し、正極-樹脂構造体とした。このとき樹脂構造体の平均厚みは98μmであった。
【0162】
固体電解質層をバーコート法で正極上に塗布形成し、電極積層体とした。塗布後、アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極1を対向させ、単電池層とし、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池13とした。作製した全固体電池13の電池電圧を計測すると2.09Vであった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電が問題なくでき、クラック及び短絡も見られなかった。評価結果を表2に示す。
【0163】
(比較例1)
正極1をアルミラミネート封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分間加圧した。加圧後、正極をアルミラミネートから取り出した。
固体電解質層をバーコート法で塗布し電極積層体とした。塗布後、再度アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。電極積層体と負極1を対向させ、単電池層とし、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池aとした。
【0164】
作製した全固体電池aの電池電圧を計測すると 0.11Vであり、短絡傾向であった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電すると3.6Vまで上昇しなかった。
加圧後、セルを解体したところ固体電解質層にクラックがみられていた。このため電圧が0V付近に低下してしまったと考えられる。評価結果を表2に示す。
【0165】
(比較例2)
正極1を設置し、正極合材層との距離dが0.5mm、幅10mm、平均厚み100μmとなるよう非共連続構造である非連通孔多孔質ポリカーボネートフィルム(ポリカーボネート製トラックエッチド(PCTE)メンブレン1223036、ジーブイエスジャパン社製)を積層配置し、共連続構造を有しない樹脂構造体を有する正極とした(
図1、
図6A、及び表1参照)。
【0166】
正極-樹脂構造体をアルミラミネートで封止した後、冷間静水等方圧プレス(CIP)で500MPa、5分間加圧した。加圧後、正極-樹脂構造体をアルミラミネートから取り出した。固体電解質層をバーコート法で正極上に塗布形成し、共連続構造を有しない電極積層体とした(
図2参照)。塗布後、再度アルミラミネートで封止し、CIPで500MPa、5分間加圧した。正極-樹脂構造体と負極1を対向させ、単電池層とし(
図3参照)、それぞれ引き出し線を付けた後にラミネートで真空封止をして全固体電池bとした。作製した全固体電池bの電池電圧を計測すると0.51Vであり、短絡傾向であった。その後、正極活物質の理論容量から算出される単位面積当りの容量の20%の電流値で3.6Vまで定電流充電すると3.6Vまで上昇しなかった。
加圧後、セルを解体したところ固体電解質層にクラックがみられていた。このため電圧が0V付近に低下してしまったと考えられる。評価結果を表2に示す。
【0167】
【0168】
【0169】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 電極基体と、
前記電極基体上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層の周縁部に設けられた樹脂構造体と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に設けられた固体電解質層と、を有し、
前記樹脂構造体が、樹脂を骨格とした共連続構造を有することを特徴とする電極積層体である。
<2> 前記電極合材層の平均厚みAに対する、前記樹脂構造体の平均厚みBの比(B/A)が、0.97以上1.03以下である前記<1>に記載の電極積層体である。
<3> 前記樹脂構造体が、多孔質である前記<1>から<2>のいずれかに記載の電極積層体である。
<4> 前記樹脂構造体における500MPa、5分間の押圧後の圧縮率が、1%以上50%以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の電極積層体である。
<5> 前記樹脂構造体が、前記電極合材層と隣接する前記<1>から<4>のいずれかに記載の電極積層体である。
<6> 前記樹脂構造体の少なくとも一部が、他の基材の表面と接着される前記<1>から<5>のいずれかに記載の電極積層体である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の電極積層体を有することを特徴とする電気化学素子である。
<8> 重合性化合物及び液体を含有する液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与工程と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合工程と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体をプレスするプレス工程と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、を含み、
前記電極合材層形成工程が、前記付与工程の前、又は前記重合工程の後に実施され、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体が互いに隣接して形成され、
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする電極積層体の製造方法である。
<9> 重合性化合物及び液体を含有する液体組成物が収容された収容容器と、
前記液体組成物を、電極基体上の周縁部に付与する付与手段と、
前記液体組成物に熱又は光を付与して重合させて樹脂構造体を形成する重合手段と、
前記電極基体上に電極合材層を形成する電極合材層形成手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体を前記電極基体方向にプレスするプレス手段と、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成手段と、を有し、
前記電極合材層及び前記樹脂構造体が互いに隣接して形成され、
前記液体組成物を撹拌しながら測定した波長550nmにおける光透過率が、30%以上であり、
前記液体組成物を重合して作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする電極積層体の製造装置である。
<10> 前記<8>に記載の電極積層体の製造方法により電極積層体を製造する電極積層体製造工程と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化工程と、を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法である。
<11> 前記<9>に記載の電極積層体の製造装置により電極積層体を製造する電極積層体製造手段と、
前記電極積層体を用いて電気化学素子を製造する素子化手段と、を有することを特徴とする電気化学素子の製造装置である。
【0170】
前記<1>から<6>のいずれかに記載の電極積層体、前記<7>に記載の電気化学素子、前記<8>に記載の電極積層体の製造方法、前記<9>に記載の電極積層体の製造装置、前記<10>に記載の電気化学素子の製造方法、前記<11>に記載の電気化学素子の製造装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。