(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052611
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】発酵乳及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/13 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A23C9/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168724
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022158174
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 南羽
(72)【発明者】
【氏名】久保内 愛
(72)【発明者】
【氏名】余 卓尓
(72)【発明者】
【氏名】浅田 耕平
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC05
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC01
4B001EC04
(57)【要約】
【課題】本発明は、動物性タンパク質の量を減らし、植物性タンパク質で補いながらも適度な硬度、なめらかさ及び濃厚感を有する発酵乳及び当該発酵乳を簡易な方法により製造できる方法の提供を課題とする。
【解決手段】タンパク質を3~15質量%含む発酵乳であって、乳タンパク質及び植物性タンパク質の両方を含むことを特徴とする発酵乳を提供する。また、植物性タンパク質が、エンドウマメタンパク質である前記発酵乳を提供する。また、乳タンパク質、植物性タンパク質を含む原料ミックスを20MPa以上で均質化する均質化工程、及び、均質化された原料ミックスを発酵する工程、を含む発酵乳の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳であって、乳タンパク質及び植物性タンパク質の両方を含むことを特徴とする発酵乳。
【請求項2】
乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
植物性タンパク質が、エンドウマメタンパク質である請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
硬度が25~100gfである請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項5】
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の製造方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを20MPa以上で均質化する均質化工程、及び、均質化された原料ミックスを発酵する工程を含むことを特徴とする前記発酵乳の製造方法。
【請求項6】
原料ミックスにおける乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
植物性タンパク質がエンドウマメタンパク質である請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の製造方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを微粒子化することにより50%粒子径を20μm以下とする微粒子化工程、及び、微粒子化された原料ミックスを発酵する工程を含むことを特徴とする前記発酵乳の製造方法。
【請求項9】
原料ミックスにおける乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
植物性タンパク質がエンドウマメタンパク質である請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の発酵工程における原料ミックスの沈殿抑制方法であって、
乳タンパク質、植物性タンパク質を含む前記原料ミックスを20MPa以上で均質化する工程又は前記原料ミックスを微粒子化することにより50%粒子径を20μm以下とする微粒子化工程を含むことを特徴とする前記沈殿抑制方法。
【請求項12】
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の硬度を25~100gfとする硬度付与方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を配合して原料ミックスを調製する工程を含むことを特徴とする前記硬度付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳及びその製造方法に関する。より詳しくはエンドウマメタンパク質を含む発酵乳及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界の人口の増加に伴い、必要な食料が不足する危険性が指摘されており、特にタンパク質不足については深刻となることが予想されている。
一般的にタンパク質には、動物性タンパク質と植物性タンパク質が存在するが、近年、環境負荷を踏まえた観点から、植物性タンパクの需要が増加している。
特許文献1には、動物性タンパク質の少なくとも一部の代替物として植物性タンパク質を食品に使用することができるが、酸性化のステップを必要とすることが記載されている。
特許文献2には、乳タンパク質及び非動物性タンパク質を含む食品、及びその製造方法並びに、ヨーグルト様食品が記載されているが、ヨーグルトの風味や物性については検討されていない。
即ち、乳製品に関して、これまで乳タンパク質に関わる風味や物性面についての多くの知見が得られているが、乳製品代替としての植物性タンパク質に関する知見が少なく、植物性タンパク質を用いた場合の風味や物性面に関する課題が多い。
静置型発酵乳において、硬度不足は輸送時の組織の崩れや離水増加の原因となる。硬度が高すぎると喫食時の舌触りが損なわれ好ましくない。これまで、乳タンパク質を使用した発酵乳の物性制御技術は多く報告されているが、植物性タンパク質と乳タンパク質を併用した発酵乳様食品について、硬度、なめらかさ及び濃厚感を制御するという知見は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019―526254号公報
【特許文献2】特表2017-512468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、動物性タンパク質の使用量を減らし、その減量分を植物性タンパク質で補いながらも適度な硬度、なめらかさ及び濃厚感を有する発酵乳の提供及び当該発酵乳を簡易な方法により製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、原料タンパク質を3~15質量%含む発酵乳において、乳タンパク質及びエンドウマメタンパク質の両方を配合することで、硬度、なめらかさ及び濃厚感を調整することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳であって、乳タンパク質及び植物性タンパク質の両方を含むことを特徴とする発酵乳。
<2>
乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である<1>に記載の発酵乳。
<3>
植物性タンパク質が、エンドウマメタンパク質である<1>又は<2>に記載の発酵乳。
<4>
硬度が25~100gfである<1>又は<2>に記載の発酵乳。
<5>
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の製造方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを20MPa以上で均質化する均質化工程、及び、均質化された原料ミックスを発酵する工程を含むことを特徴とする前記発酵乳の製造方法。
<6>
原料ミックスにおける乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である<5>に記載の製造方法。
<7>
植物性タンパク質がエンドウマメタンパク質である<5>又は<6>に記載の製造方法。
<8>
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の製造方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを微粒子化することにより50%粒子径を20μm以下とする微粒子化工程、及び、微粒子化された原料ミックスを発酵する工程を含むことを特徴とする前記発酵乳の製造方法。
<9>
原料ミックスにおける乳タンパク質と植物性タンパク質の配合比が、10:90~90:10である<8>に記載の製造方法。
<10>
植物性タンパク質がエンドウマメタンパク質である<8>又は<9>に記載の製造方法。
<11>
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の発酵工程における原料ミックスの沈殿抑制方法であって、
乳タンパク質、植物性タンパク質を含む前記原料ミックスを20MPa以上で均質化する工程又は前記原料ミックスを微粒子化することにより50%粒子径を20μm以下とする微粒子化工程を含むことを特徴とする前記沈殿抑制方法。
<12>
タンパク質を3~15質量%含む発酵乳の硬度を25~100gfとする硬度付与方法であって、
乳タンパク質及び植物性タンパク質を配合して原料ミックスを調製する工程を含むことを特徴とする前記硬度付与方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発酵乳の製造方法によれば、植物性タンパク質及び乳タンパク質を併用し、特定の均質化処理または微細化処理をすることで適度な硬度、なめらかさ及び濃厚感を付与した発酵乳を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(発酵乳(ヨーグルト))
本発明における「発酵乳」は、タンパク質を3~15質量%含み、後述する乳タンパク質及び植物性タンパク質の両方を含む発酵ミックスを乳酸菌、ビフィズス菌、酵母のうちいずれか一つまたはこれらの組み合わせにより発酵して製造されるものをいう。ここで、「乳等省令」では、「発酵乳」は乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの、と定義されているが、本願発明の「発酵乳」には、当該乳等省令で定義される発酵乳のほか、これに類似する製品形態、風味及び食感を持つ発酵乳様の食品も含まれる。
以下、発酵乳を性状と製法により分類すると1)静置型発酵乳、2)攪拌型発酵乳、3)液状発酵乳に分けられる。
1)静置型発酵乳は、ハードタイプの発酵乳と称され、小売容器に充填して発酵させたプリン状の組織を有するものであり、例えば以下のように製造される。まず、乳、乳製品、ショ糖、安定剤等の原材料を混合・溶解して調製した発酵ミックスを均質化、殺菌、冷却した後、乳酸菌スターターを接種し、容器に充填して密封してから培養室や発酵トンネル内で発酵させ、適度な酸度になった時点で直ちに5℃に冷却して発酵を終了させ、最終製品とする。
2)攪拌型発酵乳は、ソフトタイプの発酵乳とも称され、発酵ミックスに乳酸菌スターターを添加し、タンクで発酵させ発酵ベースを作る。発酵後、カードを破砕して容器に充填して、必要に応じフルーツソース等を混合して最終製品とする。
3)液状発酵乳は発酵ミックスを攪拌型発酵乳と同様の方法で発酵させ、カードを破砕後に均質化して液状にした発酵乳を必要に応じフルーツソース等を混合して最終製品とする。本明細書においては、上記のものを総称して発酵乳と称するが、なかでも本発明の発酵乳としては、適度な硬度、なめらかさ及び濃厚感の付与を必要とする静置型発酵乳が好ましい。
【0008】
(原料)
本発明において、「発酵乳の原料」とは、生乳(原乳)、全脂乳、脱脂乳、ホエイ等の乳成分を含む液体である。ここで、生乳とは、例えば、牛乳などの獣乳をいう。発酵乳の原料は、全脂乳、脱脂乳、ホエイなどの他に、その加工品(例えば、全脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱塩脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、練乳、ホエイ粉、ホエイ濃縮粉、クリーム、バター、チーズなど)も含まれる。本発明はこのような乳由来成分以外にタンパク質として後述する植物性タンパク質を含む。
【0009】
(乳タンパク質原料)
本発明の発酵乳に含まれる乳タンパク質の原料としては、脱脂乳を精密ろ過膜等で処理することで得られる濃縮乳、ミセラーカゼイン、ホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate:WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate:WPC)、乳清パウダー、ミルクタンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate:MPC)、生乳、脱脂乳、脱脂粉乳等を例示できる。なお、乳タンパク質は、乳由来タンパク質と同義で用いられる。
【0010】
(植物性タンパク質原料)
本発明の発酵乳に含まれる植物性タンパク質の原料としては、ササゲ属、インゲンマメ属、ソラマメ属、エンドウ属、ヒヨコマメ属、ヒラマメ属、ダイズ属、ラッカセイ属等のマメ科由来のタンパク質や、ごま、麻の実、アーモンド、落花生、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、栗、クルミ、ココナッツ等の種実由来のタンパク質、藻類由来のタンパク質等、植物由来のタンパク質素材を示す。このうちでも特に、青エンドウ豆、黄エンドウ豆、赤エンドウ豆、白エンドウ豆等、マメ科エンドウ属由来のタンパク質濃縮物が好ましい。エンドウ豆由来のタンパク質濃縮物としては、市販品を用いることもでき、例えば、TRUPRO2000(IFF社製)が挙げられる。
【0011】
本発明の発酵乳は、タンパク質を3~15質量%含み、乳タンパク質及び植物性タンパク質の両方を含むことを特徴とする。換言すれば本発明は、発酵乳に含まれる全タンパク質3~15質量%のうち乳タンパク質の一部をエンドウマメタンパク質などの植物性タンパク質に置き換えたものである。植物性タンパク質を含むことで所望の硬度、なめらかさ及び濃厚感を付与することができる。すなわち、乳タンパク質と植物性タンパク質を併用することにより、硬度、なめらかさ及び濃厚感を調整することができる。
発酵乳に含まれる全タンパク質における植物性タンパク質の配合割合は、好ましくは10質量%以上が好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がよりいっそう好ましい。また、上限は100質量%未満であればよく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がよりいっそう好ましい。好ましい範囲としては、10質量%以上90質量%以下であり、20質量%以上80質量%以下がより好ましく、30質量%以上70質量%以下がよりいっそう好ましい。発酵乳に含まれる全タンパク質におけるエンドウマメタンパク質の上記配合割合は、植物性タンパク質をエンドウマメタンパク質に置き換えても同様である。
乳タンパク質:植物性タンパク質の配合割合は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がさらに好ましく、30:70~70:30がよりいっそう好ましく、50:50が最も好ましい場合もある。乳タンパク質:エンドウマメタンパク質の上記配合割合は、植物性タンパク質をエンドウマメタンパク質に置き換えても同様である。
本発明において、植物性タンパク質と乳タンパク質の両方の配合割合を上述のとおり変更することにより所望の硬度が得られることから、換言すれば、発酵乳の硬度を25~100gfとする硬度付与方法とも言える。
【0012】
(硬度)
本発明における発酵乳は、植物性タンパク質と乳タンパク質を併用し、その配合割合を変更することにより所望の硬度、なめらかさ及び濃厚感を付与することができる。植物性タンパク質の比率を高くすることで硬度を高めることができ、例えば静置型発酵乳の10℃における硬度としては25~100gfが好ましく、30~70gfがさらに好ましい場合がある。
硬度の測定は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)、レオナー(山電社製)などの圧縮試験機で測定することができる。後述する試験例では、10℃に調整した試料に直径16mmのプランジャーを速度1mm/秒で陥入した際の最大荷重を硬度(gf)とした。
【0013】
(その他原材料)
本発明の発酵乳の一態様においては、前記乳タンパク質及び植物性タンパク質のほかに風味付与素材、色素を含むことができる。風味付与剤としては、砂糖、糖類などの甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、植物油脂、乳化剤などの、食品もしくは食品成分及び食品添加物が挙げられる。
【0014】
(発酵乳の製造方法)
本発明の発酵乳の製造方法は、乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを20MPa以上で均質化する均質化工程、及び、均質化された原料ミックスを発酵する工程、を含む方法である。
また、別の態様では、乳タンパク質及び植物性タンパク質を含む原料ミックスを微粒子化することにより50%粒子径を20μm以下とする微粒子化工程、及び、微粒子化された原料ミックスを発酵する工程、を含む方法である。発酵乳に含まれるタンパク質は3~15質量%であることが好ましい。また、発酵乳に含まれる全タンパク質における植物性タンパク質の配合割合、発酵乳に含まれる全タンパク質におけるエンドウマメタンパク質の配合割合は、上述の(植物性タンパク質原料)の項で述べた範囲が好ましい。
【0015】
本発明の発酵乳の製造方法のより具体的な一態様を次に記す。
生乳、脱脂粉乳、MPC(Milk Protein Concentrate:MPC)、WPC、WPI、及び微粒子化ホエイタンパク質などの乳タンパク質原料及び植物性タンパク質原料、並びに必要に応じて発酵乳の製造に一般的に用いられるその他の原料を計量し、水に溶解して混合した後、均質化処理若しくは微粒子化処理及び殺菌処理を行う。均質化処理若しくは微粒子化処理と殺菌処理の順序はいずれでもよいが、均質化処理若しくは微粒子化処理後に殺菌処理を行うことが好ましい。
【0016】
(均質化工程又は微粒子化工程)
本発明の発酵乳の製造方法における原料ミックスの均質化処理は、原料ミックスを均質化するための圧力の条件は、50~70℃の温度で20MPa以上であればよい。好ましくは20~50MPaであり、さらに好ましくは20~30MPaである。均質化処理はホモジナイザーなど、公知の均質化処理装置を用いて行えばよい。
また、均質化処理は、発酵前の原料ミックスを微粒子化することを目的としており、微粒子化のためには、上記均質化装置以外にせん断処理装置や超音波処理装置を用いてもよい。微粒子化処理を行う場合の目的とする微粒子のサイズは、50%粒子径として20μm以下であればよく、さらに好ましくは14μm以下である。また、下限としては0.2μm以上が好ましい。好ましい範囲としては、0.2μm~20μmであり、さらに好ましくは0.2μm~14μmである。発酵前の原料ミックスを微粒子化することにより、発酵工程における原料の沈殿を抑制し、発酵乳の組織を均一化することができる。このため、得られる発酵乳の食感がなめらかなものとなるという効果が得られる。また、微粒子のサイズを変更することで、なめらかさを所望のものに調整することができる。
本発明において均質化工程又は微粒子化工程を含む発酵乳の製造方法は、換言すれば、原料ミックスの発酵工程における沈殿抑制方法とも言える。
【0017】
(50%粒子径)
本発明における発酵開始前の原料ミックスの50%粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置、画像解析式粒子径分布測定装置、精密粒度分布測定装置、リアルタイムゼータ電位・ナノ粒子径測定装置、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置、分析用超遠心システムなど、粒度分布を測定する装置で測定することができる。本発明において、これらの測定方法で得られた体積基準での積算分布曲線の50%に相当する粒子径を50%粒子径(μm)として用いる。
【0018】
(殺菌工程)
殺菌の条件は80~95℃の温度で2秒~10分間保持を例示できるが、これに限られるものではない。殺菌方法としては、HTST法、UHT法、チューブラー式やバッチ式が挙げられるが、このうちでもチューブラー式やバッチ式殺菌が望ましい。
上記の均質化工程又は微粒子化工程における加温及び殺菌に用いる機器は、プレート式熱交換器、チューブ式殺菌機、サーモシリンダー、ジュール加熱装置、タンクを用いたバッチ式殺菌及びこれらの組み合わせのいずれでも良いが、これらに限定されるものではなく、発酵乳製造に用いることができればよい。
【0019】
(発酵工程)
冷却した原料ミックスに乳酸菌を添加し、容器に充填する。乳酸菌を添加する場合、発酵条件として、30~40℃で3~20時間の発酵、発酵の終点がミックスのpHが5以下に到達した時点を例示できる。
発酵に用いる乳酸菌は、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等を例示できるが、発酵乳の製造に通常用いられる乳酸菌スターターであれば特に制限されることはない。
発酵終了後、容器を例えば10℃以下まで冷却することで、静置型発酵乳が得られる。
【実施例0020】
[試験例1]微粒子化工程が及ぼす影響
1.発酵乳の製造方法
表1に示す原料ミックスの配合成分を混合し、0MPa(比較例1)、15MPa(比較例2)、20MPa(実施例1)、25MPa(実施例2)の各均質化圧力、65℃でホモジナイザーを使用し、均質化処理を行った。その後、均質化された原料ミックスを90℃で10分間バッチ式殺菌を行った。その後冷却し、乳酸菌(S. thermophilus菌、L. bulgaricus菌)をそれぞれの原料ミックスに3質量%添加し、容器に充填し37℃で発酵を行った。ヨーグルトのカードが形成されるpH5以下になった段階で冷却を行い、静置型発酵乳を得た。本原料ミックスにおける総タンパク質濃度は4質量%である。全タンパク質におけるエンドウマメタンパク質の配合割合は50%であり、乳タンパク質とエンドウマメタンパク質の配合比率は50:50である。
なお、タンパク質濃度は、窒素分析装置を用いた燃焼法にて測定した(以下の試験例において同じ)。
【0021】
【0022】
2.評価方法
(1)50%粒子径の測定方法
均質化処理直後の原料ミックスについて50%粒子径の測定を行った。
レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラックベル製)を使用し、得られた体積基準での積算分布曲線の50%に相当する粒子径を50%粒子径(μm)とした。
【0023】
(2)沈殿有無の観察
発酵開始後1日経過後、原料ミックスの沈殿有無を目視観察した。
【0024】
3.評価結果及び考察
結果を表2に示す。
本結果より、原料ミックスを均質圧20MPa、25MPaで均質化した実施例1、実施例2は、原料ミックスの粒子を13μm、14μmに微粒子化でき、原料の沈殿を防ぐことができた。発酵前の原料ミックスの沈殿を防ぐことにより組織が均一になり、食感のなめらかな発酵乳を得ることができると考えられる。これに対して、均質圧が15MPa及び0MPaで均質化した比較例1,2は、原料ミックスの粒子径が21μm、63μmとなり、発酵前の原料ミックスが沈殿してしまった。発酵前の原料ミックスの沈殿は、できあがった発酵乳の組織が不均一となり、食感のざらつきの原因になると考えられる。
【0025】
【0026】
[試験例2]
1.発酵乳の製造方法
表3に示す配合成分をそれぞれ混合し、均質圧20MPa、65℃で均質化処理を行った。その後、均質化された原料ミックスを90℃で10分間バッチ式殺菌を行った。冷却した後、乳酸菌(S.thermophilus菌、L. bulgaricus菌)をそれぞれの原料ミックスに3%添加し、100gの容器に70gずつ充填後、30~45℃で発酵させ、ヨーグルトのカードが形成されるpH5以下になった段階で10℃以下に冷却し、静置型発酵乳を製造した。
【0027】
2.評価方法
(1)硬度の測定方法
硬度の測定は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)を用いた。10℃に調整した試料(100gの容器に70g充填したもの)に直径16mmのプランジャーを速度1mm/秒で10mmまで陥入した際の最大荷重を硬度(gf)とした。
【0028】
(2)風味評価
発酵乳を製造後7日目に、「なめらかさ」について、7段階の絶対評価による官能評価を実施した。評価点ごとの基準は、以下のとおりである。評価は、訓練した専門パネル5人で実施し、平均値を求めた。
(評価点:評価基準)
3点:非常になめらかである
2点:ややなめらかである
1点:わずかになめらかである
0点:どちらでもない
-1点:わずかにざらつく
-2点:ややざらつく
-3点:非常にざらつく
(3)総合評価
(総合評価:評価基準)
〇良い :硬度25gf~100gf
◎非常に良い :硬度が25gf~100gf、かつ、なめらかさが1.0以上
【0029】
3.評価結果及び考察
結果を表3に示す。
本結果によれば、比較例3とその他の実施例及び比較例4を比較することにより、エンドウタンパク質を含むことにより硬度を付与することができることがわかった。発酵乳において、上記の方法で処理(溶解、均質、殺菌、発酵)することで、エンドウタンパク質の比率を高めることにより乳タンパク質のみを配合した場合よりも硬いゲルを形成できると考えられる。そして、適度な硬度の付与となめらかさを考慮すれば、エンドウマメタンパク質の全タンパク質における配合比率は20質量%以上100質量%未満が好ましく、より好ましくは30質量%以上80質量%以下である。
また、乳タンパク質とエンドウタンパク質の配合比は、20:80~80:20が好ましく、より好ましくは30:70~70:30であり、50:50が最も好ましいことがわかった。
【0030】
【0031】
[試験例3]
1.発酵乳の製造方法
表4に示す配合成分をそれぞれ混合し、均質圧20MPa、65℃で均質化処理を行った。その後、均質化された原料ミックスを90℃で10分間バッチ式殺菌を行った。冷却した後、乳酸菌(S.thermophilus菌、L. bulgaricus菌)をそれぞれの原料ミックスに3%添加し、100gの容器に70gずつ充填後、30~45℃で発酵させ、ヨーグルトのカードが形成されるpH5以下になった段階で10℃以下に冷却し、静置型発酵乳を製造した。
【0032】
2.評価方法
(1)硬度の測定方法
硬度の測定は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)を用いた。10℃に調整した試料(100gの容器に70g充填したもの)に直径16mmのプランジャーを速度1mm/秒で10mmまで陥入した際の最大荷重を硬度(gf)とした。
【0033】
(2)風味評価
発酵乳を製造後7日目に、「濃厚感」について、7段階の絶対評価による官能評価を実施した。評価点ごとの基準は、以下のとおりである。評価は、訓練した専門パネル5人で実施し、平均値を求めた。
(評価点:評価基準)
3点:非常に濃厚である
2点:やや濃厚である
1点:わずかに濃厚である
0点:どちらでもない
-1点:わずかに水っぽい
-2点:やや水っぽい
-3点:非常に水っぽい
(3)総合評価
(総合評価:評価基準)
〇良い :硬度25gf~100gf
◎非常に良い :硬度が25gf~100gf、かつ、濃厚感が1.0以上
【0034】
3.評価結果及び考察
結果を表4に示す。
本結果によれば、比較例5とその他の実施例及び比較例6を比較することにより、エンドウマメタンパク質を含むことにより硬度を付与することができることがわかった。発酵乳において、上記の方法で処理(溶解、均質、殺菌、発酵)することで、エンドウマメタンパク質の比率を高めることにより乳タンパク質のみを配合した場合よりも硬いゲルを形成できると考えられる。そして、適度な硬度の付与と濃厚感を考慮すれば、エンドウマメタンパク質の全タンパク質における配合比率は10質量%以上100質量%未満が好ましく、より好ましくは20質量%以上90質量%以下である。
また、乳タンパク質とエンドウマメタンパク質の配合比は、10:90~90:10が好ましく、より好ましくは10:90~80:20であり、50:50が最も好ましいことがわかった。
【0035】
本発明の発酵乳の製造方法によれば、植物性タンパク質及び乳タンパク質を併用し、特定の均質化処理または微細化処理をすることで適度な硬度を付与し、かつ、なめらかさ及び濃厚さをも有する発酵乳を提供することができる。