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特開2024-52656情報処理装置、情報処理装置の作動方法、および情報処理装置の作動プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052656
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理装置の作動方法、および情報処理装置の作動プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/05
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178985
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2022158866の分割
【原出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 敬之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昌孝
【テーマコード(参考)】
2G043
2G057
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043DA08
2G043EA03
2G043FA06
2G043KA01
2G043NA01
2G043NA11
2G057AA02
2G057AB02
2G057AC01
2G057BA05
2G057BB06
2G057CB03
2G057DA01
(57)【要約】
【課題】物性データに悪影響を及ぼすおそれを低減することが可能な分光分析装置のセンサ部、測定システム、および測定方法を提供する。
【解決手段】先端部は、内壁面と内殻部とを有する。内壁面は、透明板の出射面に対向する壁面である。内殻部は、出射面側から内壁面側にかけて突出し、出射面との間に培養上清液が流れる空間を設けた状態で内壁面を保持する。内殻部は、培養上清液の流入口および流出口、並びに、培養上清液の流れる方向の両側に配された内壁面を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用い、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得し、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させ、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置。
【請求項2】
前記第1収容器は、第1流路径を持ち、前記流体が流れる第1流路を有する第1フローセルであり、
前記第2収容器は、前記第1流路径とは異なる第2流路径を持ち、前記流体が流れる第2流路を有する第2フローセルである請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1物性データおよび前記第2物性データはラマンスペクトルデータである請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記流体は細胞培養液である請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用いること、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得すること、並びに、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させること、
を含み、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置の作動方法。
【請求項6】
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用いること、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得すること、並びに、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させること、
を含む処理をコンピュータに実行させるための情報処理装置の作動プログラムであり、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置の作動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、分光分析装置のセンサ部、測定システム、および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光分析装置はセンサ部を有する。センサ部の先端部には、物性データの測定対象物質に測定光を照射し、測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵されている。特許文献1に記載されているように、先端部はフローセルに装着されることがある。フローセルは、測定対象物質を含む流体が流れる流路を有する。フローセルは、測定対象物質を含む流体の収容器の一種である。特許文献1には、様々な流路径を有するフローセルが記載されている。
【0003】
特許文献2には、光学系(透明なエレメント)の先に、横断面L字状の脚部が設けられたセンサ部が記載されている。脚部は、光学系の測定光の出射面と一定の間隔を置いて対向する端部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-511635号公報
【特許文献2】特開2021-048872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている通り、フローセルの流路径は多種多様である。このため、光学系による測定光の集光位置と、光学系の測定光の出射面に対向する流路の壁面との間隔が、流路径によって広くなったり狭くなったりする。そうすると、同じ測定対象物質を測定したとしても、フローセルの流路径によって物性データが異なってしまう。具体的には、フローセルの流路径が相対的に大きく、集光位置と出射面に対向する流路の壁面との間隔が相対的に広い場合は、フローセルの流路径が相対的に小さく、集光位置と出射面に対向する流路の壁面との間隔が相対的に狭い場合よりも、物性データの強度値が全体的に低くなってしまう。
【0006】
特許文献2では、光学系の測定光の出射面と一定の間隔を置いて対向する端部を有する脚部を設けている。特許文献2における脚部は横断面L字状であり、端部に繋がる部分以外は開放されている。このため、例えばフローセルが樹脂を含む場合に、脚部の開放部分から漏れ出た測定光がフローセルの樹脂に照射され、その戻り光が開放部分から取り込まれて、物性データに悪影響を及ぼすという新たな問題が生じる。
【0007】
本開示の技術に係る1つの実施形態は、物性データに悪影響を及ぼすおそれを低減することが可能な分光分析装置のセンサ部、測定システム、および測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の分光分析装置のセンサ部は、物性データの測定対象物質に測定光を照射し、測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、測定対象物質を含む流体の収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、先端部は、光学系の測定光の出射面に対向する対向壁面と、出射面側から対向壁面側にかけて突出し、出射面との間に流体が流れる空間を設けた状態で対向壁面を保持する保持部であって、流体の流入口および流出口、並びに、流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、を有する。
【0009】
収容器は、流体が流れる流路を有するフローセルであることが好ましい。
【0010】
先端部は、樹脂を含むフローセルに装着されることが好ましい。
【0011】
先端部は、流路径が異なる複数種のフローセルに装着されることが好ましい。
【0012】
対向壁面の少なくとも表面の一部には金属が配されていることが好ましい。
【0013】
対向壁面における金属の面積は、対向壁面における測定光の照射面積よりも大きいことが好ましい。
【0014】
対向壁面の表面粗さは1.6μm以下であることが好ましい。
【0015】
対向壁面は平面であることが好ましい。
【0016】
出射面側を上側、対向壁面側を下側とした場合、対向壁面は下側に凸の曲面であることが好ましい。
【0017】
樹脂を含む本体部を備えることが好ましい。
【0018】
流入口および流出口は、円形状または矩形状であることが好ましい。
【0019】
光学系による測定光の集光位置は、出射面と対向壁面との間にあることが好ましい。
【0020】
光学系は、正の屈折力を持つレンズを含むことが好ましい。
【0021】
光学系は、測定光の出射面が平面の光学素子をさらに含むことが好ましい。
【0022】
光学素子の光軸方向の厚みは、レンズの出射面において光軸と交わる点と、測定光の集光位置との距離の半分以上、かつ距離以下であることが好ましい。
【0023】
側壁面の少なくとも表面の一部には金属が配されていることが好ましい。
【0024】
出射面と対向壁面との間隔は固定されていることが好ましい。
【0025】
物性データはラマンスペクトルデータであることが好ましい。
【0026】
流体の濁度は250NTU以上1000NTU以下であることが好ましい。
【0027】
流体は細胞培養液であることが好ましい。
【0028】
本開示の測定システムは、上のいずれかに記載の分光分析装置のセンサ部と、先端部が装着される収容器と、を備える。
【0029】
収容器がフローセルであり、先端部がフローセルに装着された場合、流体が流れる流路は、先端部の内側および外側に存在することが好ましい。
【0030】
収容器がフローセルであり、先端部がフローセルに装着された場合、流入口および流出口の各々の中心を結ぶ線は、流れ方向と平行になることが好ましい。
【0031】
本開示の測定方法は、上のいずれかに記載の分光分析装置のセンサ部を用いて、物性データを測定する。
【発明の効果】
【0032】
本開示の技術によれば、物性データに悪影響を及ぼすおそれを低減することが可能な分光分析装置のセンサ部、測定システム、および測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】培養中の培養槽から得られた細胞培養液中の測定対象物質のラマンスペクトルデータを、測定システムにより測定している様子を示す図である。
図2】励起光およびラマン散乱光を示す図である。
図3】フローセルの分解斜視図である。
図4】センサ部の分解斜視図である。
図5】フローセルおよびセンサ部の断面図である。
図6】フローセルの流路と先端部の流入口および流出口との位置関係を示す図である。
図7】流路径が相対的に小さいフローセルに先端部を装着した例を示す図である。
図8】流路径が中程度のフローセルに先端部を装着した例を示す図である。
図9】流路径が相対的に大きいフローセルに先端部を装着した例を示す図である。
図10】励起光の集光位置、および光学素子の光軸方向の厚みについての説明図である。
図11】対向壁面における金属の面積と対向壁面における励起光の照射面積との関係を示す図である。
図12】下側に凸の曲面の対向壁面を示す図である。
図13】円形状の流入口および流出口を示す図である。
図14】情報処理装置を示す図である。
図15】情報処理装置を構成するコンピュータのブロック図である。
図16】情報処理装置のCPUの処理部を示すブロック図である。
図17】データセット群の成り立ちを示す図である。
図18】濃度予測モデルの学習フェーズにおける処理を示す図である。
図19】流路径が中程度のフローセルを用いて測定されたラマンスペクトルデータを濃度予測モデルに適用し、濃度予測モデルから濃度予測結果を出力させる様子を示す図である。
図20】流路径が相対的に大きいフローセルを用いて測定されたラマンスペクトルデータを濃度予測モデルに適用し、濃度予測モデルから濃度予測結果を出力させる様子を示す図である。
図21】ラマンスペクトル分析画面を示す図である。
図22】濃度予測結果が表示されたラマンスペクトル分析画面を示す図である。
図23】濃度予測モデルの学習フェーズにおける処理手順を示すフローチャートである。
図24】情報処理装置の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[第1実施形態]
一例として図1に示すように、測定システム2は、フローセル10とラマン分光計11とを備える。測定システム2は、例えば、バイオ医薬品の原薬の製造システムにおける細胞培養部12に組み込まれている。細胞培養部12は、培養槽13および除細胞フィルタ14を有する。培養槽13には細胞培養液15が貯留されている。フローセル10は、本開示の技術に係る「収容器」の一例である。また、ラマン分光計11は、本開示の技術に係る「分光分析装置」の一例である。なお、除細胞フィルタ14は、交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF:Alternating Tangential Flow Filtration)フィルタでもよい。
【0035】
培養槽13には抗体生産細胞16が播種され、抗体生産細胞16は細胞培養液15内において培養される。抗体生産細胞16は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞(Chinese Hamster Ovary cells))といった宿主細胞に抗体遺伝子を組み込むことで樹立された細胞である。抗体生産細胞16は、免疫グロブリン、すなわち抗体17を培養の過程で生産する。このため、細胞培養液15中には抗体生産細胞16だけでなく抗体17も存在している。抗体17は例えばモノクロナール抗体であり、バイオ医薬品の有効成分となる。なお、抗体17は、本開示の技術に係る「測定対象物質」の一例である。
【0036】
培養槽13には第1送出路18が接続されている。第1送出路18には除細胞フィルタ14が配されている。除細胞フィルタ14は、例えばタンジェンシャルフロー濾過(TFF:Tangential Flow Filtration)方式により、図示省略したフィルタ膜で細胞培養液15中の抗体生産細胞16を捕捉し、細胞培養液15から抗体生産細胞16を除く。また、除細胞フィルタ14は抗体17を透過する。このため、第1送出路18の除細胞フィルタ14の下流には、主として抗体17を含む細胞培養液15が流れる。こうして除細胞フィルタ14により抗体生産細胞16が除かれた細胞培養液15は、培養上清液と呼ばれる。以下、除細胞フィルタ14により抗体生産細胞16が除かれた細胞培養液15を、培養上清液15Aと表記する。培養上清液15Aは、本開示の技術に係る「流体」の一例である。
【0037】
培養上清液15Aの濁度は、250NTU(Nephelometric Turbidity Unit)以上1000NTU以下である。NTUは、ホルマジン標準液に基づく液体の濁度の単位である。なお、培養上清液15Aには、抗体17の他に、細胞由来タンパク質・細胞由来DNA(Deoxyribonucleic Acid)、抗体17の凝集体、あるいはウイルス等も含まれる。これら細胞由来タンパク質・細胞由来DNA、抗体17の凝集体、およびウイルス等も、本開示の技術に係る「測定対象物質」の一例である。
【0038】
フローセル10は、除細胞フィルタ14の下流側において第1送出路18に接続されている。フローセル10には、矢印FDで示すように第1送出路18からの培養上清液15Aが予め設定された流速で流れる。第1送出路18の除細胞フィルタ14の下流(除細胞フィルタ14とフローセル10の間)には、図示省略した送出ポンプが設けられている。送出ポンプは、200cc/min以上、例えば300cc/minの流量で培養上清液15Aをフローセル10に向けて送り出す。
【0039】
フローセル10には第2送出路19も接続されている。第1送出路18からフローセル10に流入した培養上清液15Aは、第2送出路19に流出する。第2送出路19は、例えば、クロマトグラフィー装置を用いて培養上清液15Aから抗体17を精製する精製部に接続されており、フローセル10からの培養上清液15Aを精製部に送り出す。
【0040】
一例として図2に示すように、ラマン分光計11は、ラマン散乱光RSLの特性を利用して物質Mの評価を行う機器である。励起光ELを物質Mに照射すると、励起光ELが物質Mと相互作用することで励起光ELと異なる波長を持つラマン散乱光RSLが発生する。励起光ELとラマン散乱光RSLの波長差は、物質Mが持つ分子振動のエネルギー分に相当する。このため、分子構造の異なる物質M間で、異なる波数をもったラマン散乱光RSLを得ることができる。励起光ELは、本開示の技術に係る「測定光」の一例である。ラマン散乱光RSLは、本開示の技術に係る「戻り光」の一例である。なお、ラマン散乱光RSLは、ストークス線および反ストークス線のうち、ストークス線を用いることが好ましい。
【0041】
図1に戻って、ラマン分光計11は、センサ部25とアナライザ26とで構成される。センサ部25はフローセル10に接続される。センサ部25は先端から励起光ELを出射する。励起光ELは、フローセル10内を流れる培養上清液15Aに照射される。この励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用によりラマン散乱光RSLが生じる。センサ部25はラマン散乱光RSLを受光し、受光したラマン散乱光RSLをアナライザ26に出力する。
【0042】
アナライザ26は、ラマン散乱光RSLを波数毎に分解し、波数毎のラマン散乱光RSLの強度値を導出することで、ラマンスペクトルデータ27を生成する。ラマンスペクトルデータ27は、各波数に対するラマン散乱光RSLの強度値が登録されたデータである。図1においては、ラマンスペクトルデータ27は、波数700cm-1~1800cm-1までの範囲のラマン散乱光RSLの強度値を、1cm-1刻みで導出したデータである。なお、ラマンスペクトルデータ27の下部に示すグラフは、ラマンスペクトルデータ27の強度値を波数毎にプロットして線で繋いだものである。ラマンスペクトルデータ27は、本開示の技術に係る「物性データ」の一例である。
【0043】
このように、測定システム2は、抗体生産細胞16を培養中の培養槽13から得られた培養上清液15Aをフローセル10に流す。そして、このフローセル10に流れる培養上清液15Aにセンサ部25を通じて励起光ELを照射することで、培養上清液15A内の抗体17等のラマンスペクトルデータ27を測定する。
【0044】
一例として図3に示すように、フローセル10は、内部中心に直線状かつ断面円形状の流路30を有する円筒状の部材である。フローセル10は樹脂を含む。フローセル10における樹脂の含有率は95%以上、例えば99%である。あるいは樹脂の含有率は100%であり、フローセル10は全て樹脂で形成されている。言い換えれば、フローセル10は樹脂製である。樹脂は、例えばポリオレフィン系樹脂等である。この場合、フローセル10はシングルユースであってもよい。なお、フローセル10は金属製であってもよい。
【0045】
フローセル10の両端面の中心には、円筒ボス状の第1接続部31および第2接続部32が設けられている。第1接続部31には流路30の流入口33があり、第2接続部32には流路30の流出口34がある。この流入口33から流出口34に向かう流路30に平行な方向が、培養上清液15Aの流れる方向FDである。方向FDは、本開示の技術に係る「流れ方向」の一例である。
【0046】
第1接続部31および第2接続部32は、平行ネジ、またはテーパネジである。第1接続部31には、第1送出路18の一端に設けられた無菌コネクタ35が液密に取り付けられる。また、第2接続部32には、第2送出路19の一端に設けられた無菌コネクタ36が液密に取り付けられる。なお、第1接続部31および第2接続部32と無菌コネクタ35および36との接続にフェルールを用いてもよい。
【0047】
フローセル10の周板の中心には、装着部37が設けられている。装着部37は、フローセル10にセンサ部25を着脱可能に取り付けるための円筒状の穴であり、内壁面にネジ38が切られている。装着部37は流路30の手前まで設けられている。装着部37にはセンサ部25の一部が収容される。
【0048】
センサ部25は、本体部39と先端部40とを備える。本体部39は、内部中心に直線状かつ断面円形状の光通路41を有する円筒状の部材である。光通路41には、励起光ELおよびラマン散乱光RSLが通過する。励起光ELは、本体部39から先端部40に向けて光通路41を通過する。反対に、ラマン散乱光RSLは、先端部40から本体部39、ひいてはアナライザ26に向けて光通路41を通過する。本体部39は、フローセル10と同様に、樹脂を含む。本体部39における樹脂の含有率は95%以上、例えば99%である。あるいは樹脂の含有率は100%であり、本体部39は全て樹脂で形成されている。言い換えれば、本体部39は樹脂製である。樹脂は、フローセル10と同様に、例えばポリオレフィン系樹脂等である。
【0049】
一例として図4に示すように、本体部39は、基端側から順に、大径部45、中径部46、および小径部47を有する。大径部45は、本体部39のうちで最も径が大きい部分である。中径部46は、大径部45よりも径が小さく、小径部47よりも径が大きい部分である。中径部46にはネジ48が切られている。ネジ48は装着部37のネジ38と螺合する。つまり、本体部39、ひいてはセンサ部25は、中径部46によって装着部37に着脱可能に取り付けられる。このため、中径部46と、中径部46から先のセンサ部25の部分である先端部40および小径部47とは、フローセル10内に収容される。小径部47は、本体部39のうちで最も径が小さい部分である。小径部47にはネジ49が切られている。
【0050】
先端部40は、光学系55、内殻部56、および外殻部57を有する。光学系55は、本体部39の小径部47と内殻部56との間であって、外殻部57内に保持される。光学系55は半球レンズ58と透明板59とを含む。半球レンズ58は、文字通り半球状のレンズであり、例えば石英ガラス製である。半球レンズ58は励起光ELの出射面60を有する。出射面60は平面である。半球レンズ58は、本開示の技術に係る「正の屈折力を持つレンズ」の一例である。
【0051】
透明板59は、互いに平行な励起光ELの出射面61および入射面62を有する円板であり、例えば石英ガラス製である。半球レンズ58の出射面60と透明板59の入射面62の曲率は同一(この場合は0)である。出射面60と入射面62は、接着剤等により固着接合されていてもよく、接着剤等によらず単に面同士が合わさった状態で保持されていてもよい。透明板59は、本開示の技術に係る「光学素子」の一例である。また、透明板59の出射面61は、本開示の技術に係る「光学系の測定光の出射面」の一例である。
【0052】
本体部39の側(透明板59の出射面61側)を上側、先端部40の側(内殻部56の底板63の内壁面63A側)を下側とした場合(図5も参照)、内殻部56および外殻部57はともに、上側が開放され、下側が平面状の底板63および64により閉塞された円筒容器状をしている。内殻部56は周板65を有し、外殻部57は周板66を有する。周板65は底板63から上側に立設され、底板63とで円柱状の空間67を形成する。同様に、周板66は底板64から上側に立設され、底板64とで円柱状の空間68を形成する。
【0053】
周板65の高さは周板66よりも低い。つまり、内殻部56の高さは外殻部57よりも低い。内殻部56は、全体的に外殻部57よりも一回り小さいサイズを有し、外殻部57の空間68内に隙間なく収容される(図5も参照)。
【0054】
内殻部56は金属製、例えばハステロイ製である。一方、外殻部57は、フローセル10等と同様に、樹脂を含む。外殻部57における樹脂の含有率は95%以上、例えば99%である。あるいは樹脂の含有率は100%であり、外殻部57は全て樹脂で形成されている。言い換えれば、外殻部57は樹脂製である。樹脂は、フローセル10等と同様に、例えばポリオレフィン系樹脂等である。
【0055】
外殻部57の周板66の内壁面66Aの上側にはネジ69が切られている。ネジ69は小径部47のネジ49と螺合する。これにより、外殻部57、ひいては先端部40が本体部39と一体化される。
【0056】
周板65の上側の180°対称な位置には矩形状の切り欠き70Aおよび71Aが形成されている。また、周板66の中心部の180°対称な位置には矩形状の穴70Bおよび71Bが形成されている。穴70Bおよび71Bは、より正確には正方形状をしている。切り欠き70Aおよび71Aと、穴70Bおよび71Bは同じサイズを有する。切り欠き70Aは穴70Bに対応し、切り欠き71Aは穴71Bに対応する。切り欠き70Aと穴70Bは、培養上清液17の流入口70として機能する。また、切り欠き71Aと穴71Bは、培養上清液17の流出口71として機能する。
【0057】
内殻部56の底板63の内壁面63Aは平面状である。内壁面63Aは、励起光ELの向かう側(励起光ELの照射方向の下流側)に位置し、内壁面63Aには励起光ELが照射される(図10および図11参照)。透明板59の出射面61と対向する。すなわち、内壁面63Aは、本開示の技術に係る「対向壁面」の一例である。光学系55および内殻部56が外殻部57の空間68内に収容され、小径部47のネジ49に外殻部57のネジ69が螺合されて先端部40が本体部39と一体化された場合、出射面61と内壁面63Aとの間隔が固定される。
【0058】
内壁面63Aの表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、0より大きく、6.4μm以下(0<Ra≦6.4μm)、好ましくは1.6μm以下(0<Ra≦1.6μm)である。図示は省略したが、内壁面65Aの表面粗さRaも、0より大きく、6.4μm以下、好ましくは1.6μm以下である。内壁面63Aおよび65Aには、表面粗さRaを目標値とするために研磨等の平滑化処理が施される。なお、表面粗さRaは、日本工業規格が定めたJIS B 0601-2001に則って測定した値である。
【0059】
内殻部56の周板65の内壁面65Aは、上側から見た場合、透明板59の出射面61側から内壁面63A側にかけて突出している。また、内壁面65Aは、出射面61との間に培養上清液17が流れる空間67を設けた状態で内壁面63Aを保持している。さらに、内壁面65Aは、方向FDの両側に配され、方向FDの両側を閉塞している。すなわち、内壁面65Aは、本開示の技術に係る「側壁面」の一例であり、内殻部56は、本開示の技術に係る「保持部」の一例である。この内殻部56から分かるように、本開示の技術に係る「対向壁面」と「保持部」の機能は、1つの部材が担っていてもよい。なお、符号64Aは、外殻部57の底板64の内壁面を示す。
【0060】
一例として図5に示すように、光学系55は、本体部39の小径部47の先端と、内殻部56の周板65の縁との間に挟まれるように保持されている。透明板59の出射面61と、流入口70および流出口71の上端の縁とは高さが一致している。本体部39の中径部46と接する装着部37の部分には、円形状の溝80が形成されている。溝80にはOリング81が嵌め込まれている。Oリング81は弾性を有するゴムであり、ネジ38および48による装着部37への本体部39の締結固定により、中径部46と溝80の底板との間で押し潰される。Oリング81は、中径部46と溝80の底板との間で押し潰されることで、流路30を流れる培養上清液15Aの装着部37外への漏出を防止する。なお、図示は省略したが、小径部47と半球レンズ58との間、および、内殻部56と透明板59との間にも、培養上清液15Aの漏出防止用のOリングが配されている。
【0061】
図5のように先端部40がフローセル10に装着された場合、流入口70の中心CIと流出口71の中心COとを結ぶ線LIOは、方向FDと平行になる。言い換えれば、線LIOは流路30の中心線と平行になる。ここで「平行」とは、完全な平行の他に、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差を含めた意味合いでの平行を指す。
【0062】
また、一例として図6に示すように、先端部40がフローセル10に装着された場合、流入口70の中心CI、流出口71の中心CO、および流路30の中心CPが一致する。ここで「一致」とは、完全に一致する場合の他に、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差を含めた意味合いでの一致を指す。ここでいう誤差は、好ましくは±10%、より好ましくは±5%である。
【0063】
図6からも分かるように、先端部40がフローセル10に装着された場合、培養上清液15Aが流れる流路は、先端部40の内側および外側に存在する。言い換えれば、培養上清液15Aは先端部40の内側と外側を流れる。先端部40の内側の流路は、流入口70および流出口71、透明板59の出射面61、内殻部56の底板63の内壁面63A、並びに内殻部56の周板65の内壁面65Aにより画定される。先端部40の外側の流路は、フローセル10の流路30、外殻部57の底板64の外壁面64B、並びに外殻部57の周板66の外壁面66Bにより画定される。なお、流入口70および流出口71の面積は、内殻部56の周板65の面積の好ましくは1/2以下、より好ましくは1/4以下、さらに好ましくは1/8以下である。
【0064】
一例として図7図9に示すように、先端部40は、流路径が異なる複数種のフローセル10に装着される。具体的には、まず図7に示すように、先端部40は、流路径φSを持つ流路30Sを有するフローセル10Sに装着される。また、図8に示すように、先端部40は、流路径φMを持つ流路30Mを有するフローセル10Mに装着される。さらに、図9に示すように、先端部40は、流路径φLを持つ流路30Lを有するフローセル10Lに装着される。流路径φS、φM、およびφLは、φS<φM<φLの関係にある。つまり、フローセル10Sは相対的に流路径φが小さく、フローセル10Mは流路径φが中程度であり、フローセル10Lは相対的に流路径φが大きい。なお、培養上清液15Aの流速は、フローセル10の種類によらず常に同じである。
【0065】
ここで、フローセル10S、10M、および10Lのいずれに先端部40が装着された場合も、流入口70の中心CIと流出口71の中心COとを結ぶ線LIOは、方向FDと平行になる。また、フローセル10S、10M、および10Lのいずれに先端部40が装着された場合も、流入口70の中心CI、流出口71の中心CO、および流路30の中心CPが一致する。なお、ここでは3種のフローセル10S、10M、および10Lを例示したが、先端部40が装着されるフローセル10は2種でもよいし、4種以上でもよい。
【0066】
一例として図10に示すように、透明板59の出射面61を出射した励起光ELは、内殻部56内に位置する集光位置FPに集光される。半球レンズ58の径および屈折率により焦点距離が定まり、集光位置FPは焦点距離によって定まる。この場合の集光位置FPは点状である。集光位置FPは、透明板59の出射面61と、内殻部56の底板63の内壁面63Aとの間にある。
【0067】
透明板59の光軸OA方向の厚みをTh、半球レンズ58の出射面60において光軸OAと交わる第1点P1と集光位置FPとの距離をdとした場合、厚みThは距離dの半分以上、かつ距離d以下(d/2≦Th≦d)である。より好ましくは、厚みThは距離dと同じ、つまりTh=dである。Th=dの場合、集光位置FPは透明板59の出射面61において光軸OAと交わる第2点P2と一致する。なお、厚みThと距離dが「同じ」とは、完全な同じの他に、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差を含めた意味合いでの同じを指す。ここでいう誤差は、好ましくは±10%、より好ましくは±5%である。
【0068】
一例として図11に示すように、集光位置FPを通過した励起光ELは、集光位置FPから内壁面63Aに向かって円錐状に広がり、最終的には内壁面63Aに照射される。符号90は、内壁面63A上における励起光ELの照射領域を示す。照射領域90は光軸OAを中心とする円である。この照射領域90の径は、内壁面63Aの径よりも小さい。言い換えれば、内壁面63Aにおける金属の面積は、内壁面63Aにおける励起光ELの照射面積よりも大きい(内壁面63Aにおける金属の面積>内壁面63Aにおける励起光ELの照射面積)。
【0069】
次に、上記構成による作用について説明する。フローセル10およびラマン分光計11からなる測定システム2は、細胞培養部12に組み込まれる。フローセル10は、第1接続部31が第1送出路18に、第2接続部32が第2送出路19にそれぞれ接続される。ラマン分光計11のセンサ部25(先端部40)は、装着部37を介してフローセル10に装着される。フローセル10の流路30には、抗体生産細胞16を培養中の培養槽13から得られた培養上清液15Aが流される。培養上清液15Aは、流入口70からセンサ部25の先端部40内に流入し、流出口71から先端部40外に流出する。先端部40内において、培養上清液15Aには、光通路41および光学系55を通過した励起光ELが照射される。励起光ELは光学系55によって集光位置FPに集光される。
【0070】
励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用によりラマン散乱光RSLが生じる。ラマン散乱光RSLは光学系55によって取り込まれ、光通路41を通過してセンサ部25からアナライザ26に出力される。ラマン散乱光RSLはアナライザ26によりラマンスペクトルデータ27に変換される。
【0071】
先端部40は、内壁面63Aと内殻部56とを有する。内壁面63Aは、透明板59の出射面61に対向する壁面である。内殻部56は、出射面61側から内壁面63A側にかけて突出し、出射面61との間に培養上清液15Aが流れる空間67を設けた状態で内壁面63Aを保持する。内殻部56は、培養上清液15Aの流入口70および流出口71、並びに、方向FDの両側に配された内壁面65Aを含む。この内壁面65Aによれば、流体の流れ方向の片側が開放されている特許文献2に記載のセンサ部と比べて、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれを低減することができる。例えば、励起光ELが樹脂製のフローセル10に照射され、励起光ELとフローセル10の樹脂との相互作用により生じたラマン散乱光RSLが取り込まれて、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれを低減することができる。なお、フローセル10が樹脂でなかった場合も、励起光ELの漏れ光によるフローセル10からのラマン散乱光が原因で、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれを低減することができる。
【0072】
励起光ELとフローセル10の樹脂との相互作用により生じるラマン散乱光RSLの強度は比較的高い。このため、特許文献2に記載のセンサ部の場合は、励起光ELとフローセル10の樹脂との相互作用により生じたラマン散乱光RSLによって、本来測定すべき励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用により生じたラマン散乱光RSLがかき消されてしまう。すなわち、励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用により生じたラマン散乱光RSLによるラマンスペクトルデータ27のS/N比が著しく低下してしまう。
【0073】
しかしながら、本開示の技術は、方向FDの両側に配された内壁面65Aがあることで、本来測定すべき励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用により生じたラマン散乱光RSLが、励起光ELとフローセル10の樹脂との相互作用により生じるラマン散乱光RSLによりかき消されてしまうおそれが少ない。つまり、励起光ELと培養上清液15A内の抗体17等との相互作用により生じたラマン散乱光RSLによるラマンスペクトルデータ27のS/N比をより高いレベルに保つことができる。
【0074】
また、方向FDの両側に配された内壁面65Aがあることで、特許文献2に記載のセンサ部と比べて、内殻部56内の励起光ELの集光位置FP付近における培養上清液15Aの流れを安定させることができる。このため、集光位置FP付近の培養上清液15Aに成分の偏りが少なくなり、ラマンスペクトルデータ27の測定安定性を高めることができる。
【0075】
第1送出路18に予め設定された流路径の分岐流路を設け、分岐流路にフローセル10を接続するようにすれば、第1送出路18の流路径によらず常に同じ径のフローセル10でラマンスペクトルデータ27の測定を行うことができるが、一々分岐流路を設けなければならず、手間が掛かる。対して本開示の技術によれば、そうした手間は掛からない。
【0076】
また、後の第2実施形態において詳しくは述べるが、センサ部25によれば、ラマンスペクトルデータ27に基づいて培養上清液15Aに含まれる抗体17の濃度を予測する濃度予測モデル126(図16参照)を、1種のフローセル10を用いて測定されたラマンスペクトルデータ27のみから生成し、生成した濃度予測モデル126を複数種のフローセル10で共用することができる。複数種のフローセル10毎に濃度予測モデル126を用意する手間を省くことができる。
【0077】
図1等で示したように、先端部40が装着される収容器は、培養上清液15Aが流れる流路30を有するフローセル10である。このため、培養槽13に先端部40の装着部を設けるといった改変を施すことなく、培養上清液15Aのラマンスペクトルデータ27を容易に測定することができる。
【0078】
図3で示したように、先端部40は、樹脂を含むフローセル10に装着される。このため、励起光ELがフローセル10の樹脂に照射され、そのラマン散乱光RSLが取り込まれて、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれを低減することができる、という効果を大いに発揮することができる。
【0079】
図7図9で示したように、先端部40は、流路径が異なる複数種のフローセル10S、10M、および10Lに装着される。先端部40は、前述のように、透明板59の出射面61に対向する内壁面63Aを有し、透明板59の出射面61と内壁面63Aとの間隔は変わらない。したがって、同じ測定対象物質を測定したとしても、流路径が異なる複数種のフローセル10S、10M、および10Lでラマンスペクトルデータ27が異なってしまうということがなく、多種多様な流路径を持つフローセル10に支障なく用いることができる。
【0080】
図4で示したように、内殻部56は金属製であり、内壁面63Aおよび65Aは金属で形成されている。このため、励起光ELが樹脂に照射され、励起光ELと樹脂との相互作用により生じたラマン散乱光RSLが取り込まれて、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれをさらに低減することができる。
【0081】
図11で示したように、内壁面63Aにおける金属の面積は、内壁面63Aにおける励起光ELの照射面積よりも大きい。このため、励起光ELが樹脂に照射され、励起光ELと樹脂との相互作用により生じたラマン散乱光RSLが取り込まれて、ラマンスペクトルデータ27に悪影響を及ぼすおそれをより確実に低減することができる。
【0082】
図4で示したように、内壁面63Aの表面粗さRaは1.6μm以下である。このため、内壁面63Aによって励起光ELおよびラマン散乱光RSLが反射され、これによりラマンスペクトルデータ27の強度値を高めることができる。
【0083】
図4等で示したように、内壁面63Aは平面である。このため、内壁面63A、ひいては内殻部56を容易に製造することができる。
【0084】
図3で示したように、本体部39は樹脂を含む。このため、本体部39を安価に製造することができ、容易に廃棄することもできる。
【0085】
図4等で示したように、流入口70および流出口71は矩形状である。このため、内殻部56内の励起光ELの集光位置FPに向けて培養上清液15Aをストレスなく流すことができる。集光位置FP付近の培養上清液15Aに成分の偏りが少なくなり、ラマンスペクトルデータ27の測定安定性を高めることができる。
【0086】
図10で示したように、光学系55による励起光ELの集光位置FPは、透明板59の出射面61と内壁面63Aとの間にある。このため、内殻部56内を流れる培養上清液15Aのラマンスペクトルデータ27を確実に測定することができる。
【0087】
図4等で示したように。光学系55は、正の屈折力を持つ半球レンズ58を含む。このため、励起光ELの集光位置FPを、透明板59の出射面61から比較的近い位置とすることができ、励起光ELが培養上清液15Aで減衰するおそれを低減することができる。
【0088】
図4等で示したように、光学系55は、励起光ELの出射面61が平面の透明板59をさらに含む。このため、励起光ELが培養上清液15Aで減衰するおそれをさらに低減することができる。
【0089】
図10で示したように、透明板59の光軸OA方向の厚みThは、半球レンズ58の出射面60において光軸OAと交わる第1点P1と、励起光ELの集光位置FPとの距離dの半分以上、かつ距離d以下である。厚みThが距離dの半分以上であれば、励起光ELが培養上清液15Aで減衰するおそれを低減する、という効果をより発揮することができる。厚みThが距離d以下であれば、集光位置FPを必ず透明板59外とすることができる。
【0090】
透明板59の出射面61と内壁面63Aとの間隔は固定されている。このため、同じ測定対象物質を測定したとしても、流路径が異なる複数種のフローセル10S、10M、および10Lでラマンスペクトルデータ27が異なってしまうということがなく、多種多様な流路径を持つフローセル10に支障なく用いることができる。
【0091】
ラマン散乱光RSLは、タンパク質のアミノ酸の官能基由来の情報を反映しやすい。このため、本例のように物性データをラマンスペクトルデータ27とすることで、タンパク質である抗体17の濃度といった物性を如実に反映した物性データを取得することができる。
【0092】
図1で示したように、培養上清液15Aの濁度は250NTU以上1000NTU以下である。その場合、培養上清液15Aによる励起光ELの減衰がより大きくなる。したがって、正の屈折力を持つ半球レンズ58を用いたり、励起光ELの出射面61が平面の透明板59を用いたり等して、励起光ELが培養上清液15Aで減衰するおそれを低減する、という効果を大いに発揮することができる。
【0093】
細胞生産物である抗体17を含むバイオ医薬品は、抗体医薬品と呼ばれ、癌、糖尿病、関節リウマチといった慢性疾患の治療をはじめとして、血友病、クローン病といった希少疾患の治療にも幅広く用いられている。このため、抗体生産細胞16を培養中の培養槽13から得られた抗体医薬品の元となる培養上清液15Aを流体とした本例によれば、色々な疾患の治療に幅広く用いられている抗体医薬品の開発を促進することができる。
【0094】
培養中の培養槽13から得られた培養上清液15Aを流体としている。このため、培養槽13において抗体生産細胞16の培養を継続しつつ、ラマンスペクトルデータ27を測定することができる。また、培養上清液15Aは、抗体生産細胞16が除かれたものである。このため、細胞生産物である抗体17等のラマンスペクトルデータ27を精度よく測定することができる。
【0095】
図6等で示したように、先端部40がフローセル10に装着された場合、培養上清液15Aが流れる流路は、先端部40の内側および外側に存在する。このため、先端部40(内殻部56)内において培養上清液15Aのラマンスペクトルデータ27を測定することができる。また、先端部40によって、フローセル10における培養上清液15Aの流れが妨げられることがない。
【0096】
図5で示したように、先端部40がフローセル10に装着された場合、流入口70および流出口71の各々の中心CIおよびCOを結ぶ線LIOは、方向FDと平行になる。このため、内殻部56内の励起光ELの集光位置FPに向けて培養上清液15Aをストレスなく流すことができる。内殻部56内における培養上清液15Aに成分の偏りが少なくなり、ラマンスペクトルデータ27の測定安定性を高めることができる。
【0097】
(変形例1)
一例として図12に示すような先端部100であってもよい。先端部100は内殻部101を有する。内殻部101の底板102、ひいては底板102の内壁面102Aは、フローセル10の流路30の形状に倣う下側に凸の曲面である。内壁面102Aは、本開示の技術に係る「対向壁面」の一例である。
【0098】
このように、内壁面102Aを下側に凸の曲面とすれば、内壁面102Aが、ラマン散乱光RSLを光学系55に指向する反射面の役割を果たす。したがって、ラマンスペクトルデータ27のS/N比をより高めることができる。なお、下側に凸の曲面は、パラボラアンテナ状であってもよい。
【0099】
(変形例2)
一例として図13に示すような先端部105であってもよい。先端部105は、円形状の流入口106および流出口107を有する。このように、流入口および流出口の形状は、流入口70および流出口71のような矩形状に限らず、流入口106および流出口107のような円形状であってもよい。
【0100】
なお、内殻部56は、例示の円筒容器状に限らない。四角筒容器状、六角筒容器状等でもよい。このため、底板63も例示の円形状に限らず、矩形状、六角形状等でもよい。また、周板66も例示の曲面に限らず、平面でもよい。
【0101】
[第2実施形態]
第2実施形態においては、ラマンスペクトルデータ27に基づいて、培養上清液15Aに含まれる抗体17等の測定対象物質の状態を予測する。
【0102】
一例として図14に示すように、ラマン分光計11は、LAN(Local Area Network)といったコンピュータネットワークを通じて、情報処理装置110と相互通信可能に接続されている。ラマン分光計11は、情報処理装置110にラマンスペクトルデータ27を送信する。情報処理装置110は、例えばデスクトップ型のパーソナルコンピュータ、ノート型のパーソナルコンピュータ、あるいはタブレット端末である。
【0103】
一例として図15に示すように、情報処理装置110を構成するコンピュータは、ストレージ115、メモリ116、CPU(Central Processing Unit)117、通信部118、ディスプレイ119、および入力デバイス120を備えている。これらはバスライン121を介して相互接続されている。
【0104】
ストレージ115は、情報処理装置110を構成するコンピュータに内蔵、またはケーブル、ネットワークを通じて接続されたハードディスクドライブである。もしくはストレージ115は、ハードディスクドライブを複数台連装したディスクアレイである。ストレージ115には、オペレーティングシステム等の制御プログラム、各種アプリケーションプログラム、およびこれらのプログラムに付随する各種データ等が記憶されている。なお、ハードディスクドライブに代えてソリッドステートドライブを用いてもよい。
【0105】
メモリ116は、CPU117が処理を実行するためのワークメモリである。CPU117は、ストレージ115に記憶されたプログラムをメモリ116へロードして、プログラムにしたがった処理を実行する。これによりCPU117はコンピュータの各部を統括的に制御する。なお、メモリ116は、CPU117に内蔵されていてもよい。
【0106】
通信部118は、LAN等を介した各種情報の伝送制御を行うネットワークインターフェースである。ディスプレイ119は各種画面を表示する。各種画面にはGUI(Graphical User Interface)による操作機能が備えられる。情報処理装置110を構成するコンピュータは、各種画面を通じて、入力デバイス120からの操作指示の入力を受け付ける。入力デバイス120は、キーボード、マウス、タッチパネル、および音声入力用のマイク等である。
【0107】
一例として図16に示すように、情報処理装置110のストレージ115には、作動プログラム125が記憶されている。作動プログラム125は、コンピュータを情報処理装置110として機能させるためのアプリケーションプログラムである。ストレージ115には、作動プログラム125に加えて、濃度予測モデル126も記憶されている。濃度予測モデル126は、例えばニューラルネットワークにより構成される機械学習モデルである。なお、ニューラルネットワークに限らず、決定木、ランダムフォレスト、ナイーブベイズ、および勾配ブースティング決定木等でもよい。
【0108】
作動プログラム125が起動されると、情報処理装置110を構成するコンピュータのCPU117は、メモリ116等と協働して、取得部130、RW制御部131、予測部132、および表示制御部133として機能する。
【0109】
取得部130は、ラマン分光計11からのラマンスペクトルデータ27を取得する。取得部130は、ラマンスペクトルデータ27をRW制御部131に出力する。
【0110】
RW制御部131は、ストレージ115への各種データの記憶、およびストレージ115に記憶された各種データの読み出しを制御する。RW制御部131は、取得部130からのラマンスペクトルデータ27をストレージ115に記憶する。また、RW制御部131は、ラマンスペクトルデータ27および濃度予測モデル126をストレージ115から読み出し、読み出したラマンスペクトルデータ27および濃度予測モデル126を予測部132に出力する。また、RW制御部131は、ラマンスペクトルデータ27を表示制御部133に出力する。
【0111】
予測部132は、ラマンスペクトルデータ27を濃度予測モデル126に適用し、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。濃度予測結果135は、ここでは培養上清液15A中の抗体17の濃度を予測した結果である。予測部132は、濃度予測結果135を表示制御部133に出力する。
【0112】
表示制御部133は、ディスプレイ119への各種画面の表示を制御する。例えば表示制御部133は、ラマンスペクトル分析画面150(図21等参照)をディスプレイ119に表示する制御を行う。
【0113】
一例として図17に示すように、データセット140は、学習用強度値141と正解濃度142との組である。このデータセット140の集合であるデータセット群140Gが、濃度予測モデル126の学習フェーズのために用意される。
【0114】
学習用強度値141は、図7で示した流路径φSを持つ流路30Sを有するフローセル10Sを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Sの強度値をコピーしたものである。正解濃度142は、ラマンスペクトルデータ27Sを測定した培養上清液15A中の抗体17の量、および流路30Sの体積を元に算出される。抗体17の量は、例えば高速液体クロマトグラフィー装置を用いて測定される。
【0115】
一例として図18に示すように、濃度予測モデル126の学習フェーズにおいては、データセット140のうちの学習用強度値141を濃度予測モデル126に入力し、濃度予測モデル126から学習用濃度予測結果135Lを出力させる。次いで、学習用濃度予測結果135Lと正解濃度142との比較結果に基づいて、損失関数を用いた濃度予測モデル126の損失演算を行う。そして、損失演算の結果に応じて濃度予測モデル126の係数の更新設定を行い、更新設定にしたがって濃度予測モデル126を更新する。
【0116】
濃度予測モデル126の学習フェーズにおいては、学習用強度値141の濃度予測モデル126への入力、濃度予測モデル126からの学習用濃度予測結果135Lの出力、損失演算、更新設定、および濃度予測モデル126の更新の上記一連の処理を、データセット140を変更しつつ繰り返し行う。上記一連の処理の繰り返しは、正解濃度142に対する学習用濃度予測結果135Lの予測精度が、予め定められた設定レベルまで達した場合に終了される。こうして予測精度が設定レベルまで達した濃度予測モデル126が、ストレージ115に記憶されて予測部132で用いられる。なお、正解濃度142に対する学習用濃度予測結果135Lの予測精度に関係なく、上記一連の処理を設定回数繰り返した場合に学習を終了してもよい。
【0117】
濃度予測モデル126の学習は、情報処理装置110において行ってもよいし、情報処理装置110とは別の装置において行ってもよい。また、ストレージ115に記憶された後も、濃度予測モデル126の学習を継続して行ってもよい。
【0118】
予測部132は、流路径φSとは異なる流路径φを持つ流路30を有する、フローセル10Sとは異なる複数種のフローセル10を用いて測定されたラマンスペクトルデータ27を濃度予測モデル126に適用する。そして、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。より詳しくは、一例として図19に示すように、予測部132は、図8で示した流路径φMを持つ流路30Mを有するフローセル10Mを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Mの強度値を濃度予測モデル126に入力する。そして、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。また、一例として図20に示すように、予測部132は、図9で示した流路径φLを持つ流路30Lを有するフローセル10Lを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Lの強度値を濃度予測モデル126に入力する。そして、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。なお、図示は省略したが、予測部132は、流路径φSを持つ流路30Sを有するフローセル10Sを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Sの強度値を濃度予測モデル126に入力し、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。
【0119】
表示制御部133は、情報処理装置110のユーザの指示に応じて、一例として図21に示すラマンスペクトル分析画面150をディスプレイ119に表示する。ラマンスペクトル分析画面150にはラマンスペクトルデータ27のグラフが表示される。
【0120】
ラマンスペクトル分析画面150の下部には、濃度予測ボタン151が設けられている。濃度予測ボタン151が押された場合、情報処理装置110のCPU117にて濃度予測指示が受け付けられる。CPU117は、濃度予測指示を受けて、予測部132に図19および図20で示した処理を行わせ、濃度予測モデル126から濃度予測結果135を出力させる。
【0121】
予測部132からの濃度予測結果135が入力された場合、表示制御部133は、ラマンスペクトル分析画面150の表示を、一例として図22に示すように遷移させる。図22において、ラマンスペクトル分析画面150には、ラマンスペクトルデータ27のグラフとともに濃度予測結果135が表示される。
【0122】
次に、第2実施形態による作用について、一例として図23および図24に示すフローチャートを参照して説明する。
【0123】
まず、図17で示したデータセット140を用いて、図18で示したように濃度予測モデル126の学習が行われる。すなわち、流路径φSを持つ流路30Sを有するフローセル10Sを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Sの強度値をコピーした学習用強度値141が濃度予測モデル126に入力され、これにより濃度予測モデル126から学習用濃度予測結果135Lが出力される(図23のステップST100)。次いで、学習用濃度予測結果135Lと正解濃度142との比較結果に基づいて、濃度予測モデル126が更新される(ステップST110)。これらステップST100およびステップST110の処理は、正解濃度142に対する学習用濃度予測結果135Lの予測精度が、予め定められた設定レベルまで達しないうちは(ステップST120でNO)、データセット140が変更されつつ(ステップST130)繰り返し行われる。正解濃度142に対する学習用濃度予測結果135Lの予測精度が設定レベルまで達した場合(ステップST120でYES)、濃度予測モデル126の学習が終了される。学習が終了された濃度予測モデル126は、情報処理装置110のストレージ115に記憶される。
【0124】
情報処理装置110のCPU117は、図16で示したように、作動プログラム125の起動により、取得部130、RW制御部131、予測部132、および表示制御部133として機能される。
【0125】
情報処理装置110のストレージ115には、濃度予測モデル126が記憶されている。濃度予測モデル126は、RW制御部131によりストレージ115から読み出され、予測部132に出力される。
【0126】
情報処理装置110においては、ラマン分光計11からのラマンスペクトルデータ27が、取得部130により取得される(図24のステップST200)。ラマンスペクトルデータ27は、RW制御部131によりストレージ115に記憶される(ステップST210)。
【0127】
ラマンスペクトルデータ27は、RW制御部131によりストレージ115から読み出され(ステップST220)、予測部132および表示制御部133に出力される。そして、図21で示したように、表示制御部133によりラマンスペクトル分析画面150がディスプレイ119に表示される(ステップST230)。
【0128】
情報処理装置110のユーザは、ラマンスペクトル分析画面150にグラフが表示されたラマンスペクトルデータ27を測定した培養上清液15A中の抗体17の濃度を濃度予測モデル126に予測させるために、濃度予測ボタン151を押す。これにより濃度予測指示がCPU117にて受け付けられる(ステップST240)。
【0129】
濃度予測指示を受けて、予測部132では、図19および図20で示したように、ラマンスペクトルデータ27の強度値が濃度予測モデル126に入力され、これにより濃度予測モデル126から濃度予測結果135が出力される(ステップST250)。濃度予測結果135は、予測部132から表示制御部133に出力され、図22で示したように、表示制御部133によりラマンスペクトル分析画面150に表示される(ステップST260)。
【0130】
ユーザは、ラマンスペクトル分析画面150に表示された濃度予測結果135を参考に、様々な決断を下す。例えば、小規模設備による抗体生産細胞16の培養条件等の条件出し実験を行っている場合を考える。この場合、濃度予測結果135が目標値よりも悪かったら、ユーザは、現行の実験を中止して新たな条件による実験に移行するといった決断を下す。また、条件出し実験が終了し、大規模設備による量産を行っている場合を考える。この場合、濃度予測結果135が目標値よりも悪かったら、ユーザは、量産を中断して培養槽13のメンテナンスを行うといった決断を下す。
【0131】
このように、第2実施形態においては、情報処理装置110のCPU117は、培養上清液15Aに含まれる抗体17の濃度を予測する濃度予測モデル126を用いる。濃度予測モデル126は、フローセル10S内の培養上清液15Aに含まれる抗体17等のラマンスペクトルデータ27Sの強度値をコピーした学習用強度値141と、抗体17の正解濃度142とで構成されるデータセット140のみを用いて生成される。
【0132】
取得部130は、フローセル10Sとは異なるフローセル10、例えばフローセル10Mおよび10L内の培養上清液15Aに含まれる抗体17等のラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lを取得する。予測部132は、ラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lを濃度予測モデル126に適用し、濃度予測モデル126から抗体17の濃度予測結果135を出力させる。
【0133】
フローセル10Sを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Sのみから生成された濃度予測モデル126を、フローセル10Sとは異なるフローセル10Mおよび10Lを用いて測定されたラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lに基づく抗体17の濃度の予測に利用することができる。したがって、フローセル10S用、フローセル10M用、およびフローセル10L用等と、複数種のフローセル10毎に濃度予測モデル126を用意する手間を省くことができる。
【0134】
データセット140の学習用強度値141として必要であるのは、フローセル10S内の培養上清液15Aに含まれる抗体17等のラマンスペクトルデータ27Sの強度値のみである。このため、データセット140を簡単に用意することができる。
【0135】
ラマンスペクトルデータ27S、27M、および27Lは、上記第1実施形態で示した先端部40を有するセンサ部25により測定される。このため、同じ測定対象物質を測定したとしても、ラマンスペクトルデータ27S、27M、および27Lが異なってしまうということがなく、ラマンスペクトルデータ27S、27M、および27Lに対して、互いの差異を解消する補正を行う必要がない。
【0136】
濃度予測モデル126は機械学習モデルに限らない。多変量解析、統計解析により生成されるモデルでもよい。多変量解析、統計解析の例としては、重回帰、主成分回帰、部分的最小二乗回帰、ロジスティック回帰、Lasso回帰、リッジ回帰、サポートベクター回帰、およびガウス過程回帰等が挙げられる。こうした多変量解析、統計解析により生成されるモデルにおいては、少なくとも2つのデータセット140に基づいて回帰式の係数を決定することが、後述する付記項25等の「状態予測モデル」を「データセットのみを用いて生成」することに相当する。
【0137】
データセット140の生成に用いるラマンスペクトルデータ27は、例示のラマンスペクトルデータ27Sに限らない。ラマンスペクトルデータ27Mの強度値、またはラマンスペクトルデータ27Lの強度値を、データセット140の学習用強度値141としてもよい。
【0138】
培養上清液15Aの流速は、フローセル10の種類によって異なっていてもよい。ただし、この場合、培養上清液15Aの流速が異なることに起因するラマンスペクトルデータ27の差異を補正したうえで、ラマンスペクトルデータ27を濃度予測モデル126に適用することが好ましい。データセット140の生成に用いるラマンスペクトルデータ27を、例えばラマンスペクトルデータ27Sとした場合は、ラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lを、あたかもラマンスペクトルデータ27S相当のデータとする補正を行う。補正には、ラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lをラマンスペクトルデータ27相当のデータとする換算式、あるいは機械学習モデルを用いればよい。
【0139】
培養上清液15A中の抗体17の濃度を予測しているが、これに限らない。培養上清液15A中の凝集体の濃度を予測してもよい。また、濃度に代えて、あるいは加えて、密度等を予測してもよい。
【0140】
先端部40が装着される収容器は、フローセル10に限らない。先端部40が装着される収容器は、例えば培養槽13であってもよい。この場合、培養槽13に装着部を設け、当該装着部に先端部40を装着する。収容器が培養槽13の場合の流れ方向は、培養槽13内の攪拌翼の回転により生じた、細胞培養液15の流れる方向である。
【0141】
内殻部56の底板63の内壁面63Aを対向壁面としたが、これに限らない。内殻部56は用いずに先端部40を外殻部57のみで構成し、外殻部57の底板64の内壁面64Aを対向壁面としてもよい。この場合、内殻部56と同じく、外殻部57を金属製とする。あるいは、外殻部57は樹脂製とし、内壁面64Aの全面または一部に、アルミニウム、銅、金等の金属膜をメッキ加工により形成する。さらに、外殻部57の周板66の内壁面66Aの全面または一部にも、金属膜をメッキ加工により形成する。このように、対向壁面の少なくとも表面の一部、および側壁面の少なくとも表面の一部に金属が配されていればよい。ただし、樹脂によりラマンスペクトルデータ27のS/N比が低下してしまうおそれを低減する、という効果を十分に発揮させるためには、対向壁面の表面の全体、および側壁面の表面の全体に金属が配されていることが好ましい。
【0142】
本開示の技術に係る「対向壁面」と「保持部」の機能を、1つの部材である内殻部56が担っているが、これに限らない。対向壁面である内壁面63Aを有する底板63と、保持部の機能を担う内殻部56の他の部分とが元々は別体で、接着や溶着等により一体化されてもよい。
【0143】
正の屈折力を持つレンズとしては、例示の半球レンズ58に限らない。球体であるボールレンズ、平凸レンズ、両凸レンズ、あるいはシリンドリカルレンズ等でもよい。また、光学素子としては、例示の互いに平行な出射面61および入射面62を有する円板状の透明板59に限らない。ボールレンズ、平凸レンズ、および両凸レンズ等の出射面の形状に倣う形状の入射面と、平面状の出射面とを有する透明板でもよい。
【0144】
正の屈折力を持つレンズと光学素子とを接合することで光学系を構成するのではなく、正の屈折力を持つレンズと光学素子とを、1つのレンズとして一体的に形成してもよい。
なお、光学素子はなくてもよく、正の屈折力を持つレンズのみで光学系を構成してもよい。
【0145】
光学系55の励起光ELの出射面(透明板59の出射面61)と対向壁面(内壁面63A)との間隔を、例えば段階的に変更する機構を設けてもよい。この場合、使用が想定されるフローセル10のうちで、最も流路径φが小さいフローセル10に合わせて、光学系55の励起光ELの出射面と対向壁面との間隔を設定する。つまり、光学系55の励起光ELの出射面と対向壁面との間隔は固定でなくてもよい。
【0146】
第1接続部31および第2接続部32をフローセル10の下側に配置し、流路30をU字状としてもよい。フローセル10の形状は円筒状に限らず、角筒状でもよい。流路30の断面形状も円形状に限らず、楕円形状でもよいし、矩形状でもよい。また、炭素繊維強化樹脂等の複合材料によりフローセル10等を形成してもよい。
【0147】
ラマンスペクトルデータ27を測定する対象の物質は抗体17等に限らない。抗体17以外のタンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA(Ribonucleic Acid))、脂質、ウイルス、ウイルスサブユニット、およびウイルス様粒子等でもよい。
【0148】
細胞生産物は抗体17等に限らない。サイトカイン(インターフェロン、インターロイキン等)、あるいはホルモン(インスリン、グルカゴン、卵胞刺激ホルモン、エリスロポエチン等)、成長因子(IGF(Insulin-Like Growth Factor)-1、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)等)、血液凝固因子(第7因子、第8因子、第9因子等)、酵素(リソソーム酵素、DNA(Deoxyribonucleic Acid)分解酵素等)、Fc(Fragment Crystallizable)融合タンパク質、受容体、アルブミン、タンパク質ワクチンでもよい。また、抗体17としては、バイスペシフィック抗体、抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate)、低分子抗体、糖鎖改変抗体等も含まれる。
【0149】
物性データはラマンスペクトルデータ27に限らない。赤外吸収スペクトルデータ、近赤外吸収スペクトルデータ、核磁気共鳴スペクトルデータ、紫外可視分光(UV-Vis:Ultraviolet Visible Absorption Spectroscopy)スペクトルデータ、あるいは蛍光スペクトルデータでもよい。
【0150】
流体は培養上清液15Aに限らない。除細胞フィルタ14により除細胞する前の細胞培養液15でもよい。培養槽13に供給する前の、細胞生産物を含まない細胞培養液(いわゆる培地)でもよい。精製部にてクロマトグラフィー装置で培養上清液15Aを精製した精製液でもよい。流体は細胞培養液15に限らず、例えば水質汚染を調べるために採取した河川の水等でもよい。フロー合成によりモノマーあるいは重合体(例えばポリスチレン等)といった生成物を連続生成する際の原料(例えばポリスチリルリチウムおよびメタノール水溶液等)および/または生成物であってもよい。また、流体は液体に限らず気体でもよい。
【0151】
先端部40がフローセル10に装着された場合、流入口70の中心CI、流出口71の中心CO、および流路30の中心CPを一致させているが、これに限らない。流路径φが比較的大きい場合は、流入口70の中心CIおよび流出口71の中心COを、流路30の中心CPよりも上側に位置するように、フローセル10およびセンサ部25等を設計してもよい。こうすれば、先端部40等の流路30への突出量を少なくすることができ、先端部40等による培養上清液15Aの流れの抵抗を減らすことができる。あるいは、先端部40等の流路30への突出量を、フローセル10の種類によらず同じにしてもよい。
【0152】
以上の記載から、下記の付記項に記載の技術を把握することができる。
【0153】
[付記項1]
物性データの測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記測定対象物質を含む流体の収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部。
[付記項2]
前記収容器は、前記流体が流れる流路を有するフローセルである付記項1に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項3]
前記先端部は、樹脂を含む前記フローセルに装着される付記項2に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項4]
前記先端部は、流路径が異なる複数種の前記フローセルに装着される付記項2または付記項3に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項5]
前記対向壁面の少なくとも表面の一部には金属が配されている付記項1から付記項4のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項6]
前記対向壁面における前記金属の面積は、前記対向壁面における前記測定光の照射面積よりも大きい付記項5に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項7]
前記対向壁面の表面粗さは1.6μm以下である付記項1から付記項6のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項8]
前記対向壁面は平面である付記項1から付記項7のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項9]
前記出射面側を上側、前記対向壁面側を下側とした場合、前記対向壁面は前記下側に凸の曲面である付記項1から付記項7のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項10]
樹脂を含む本体部を備える付記項1から付記項9のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項11]
前記流入口および前記流出口は、円形状または矩形状である付記項1から付記項10のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項12]
前記光学系による前記測定光の集光位置は、前記出射面と前記対向壁面との間にある付記項1から付記項11のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項13]
前記光学系は、正の屈折力を持つレンズを含む付記項1から付記項12のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項14]
前記光学系は、前記測定光の出射面が平面の光学素子をさらに含む付記項13に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項15]
前記光学素子の光軸方向の厚みは、前記レンズの出射面において光軸と交わる点と、前記測定光の集光位置との距離の半分以上、かつ前記距離以下である付記項14に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項16]
前記側壁面の少なくとも表面の一部には金属が配されている付記項1から付記項15のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項17]
前記出射面と前記対向壁面との間隔は固定されている付記項1から付記項16のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項18]
前記物性データはラマンスペクトルデータである付記項1から付記項17のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項19]
前記流体の濁度は250NTU以上1000NTU以下である付記項1から付記項18のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項20]
前記流体は細胞培養液である付記項1から付記項19のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部。
[付記項21]
付記項1から付記項20のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部と、
前記先端部が装着される前記収容器と、
を備える測定システム。
[付記項22]
前記収容器が前記フローセルであり、前記先端部が前記フローセルに装着された場合、前記流体が流れる流路は、前記先端部の内側および外側に存在する付記項21に記載の測定システム。
[付記項23]
前記収容器が前記フローセルであり、前記先端部が前記フローセルに装着された場合、前記流入口および前記流出口の各々の中心を結ぶ線は、前記流れ方向と平行になる付記項21または付記項22に記載の測定システム。
[付記項24]
付記項1から付記項20のいずれか1項に記載の分光分析装置のセンサ部を用いて、前記物性データを測定する測定方法。
【0154】
また、上記第2実施形態の記載から、下記の付記項に記載の技術を把握することができる。
【0155】
[付記項25]
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用い、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得し、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させ、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置。
[付記項26]
前記第1収容器は、第1流路径を持ち、前記流体が流れる第1流路を有する第1フローセルであり、
前記第2収容器は、前記第1流路径とは異なる第2流路径を持ち、前記流体が流れる第2流路を有する第2フローセルである付記項25に記載の情報処理装置。
[付記項27]
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用いること、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得すること、並びに、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させること、
を含み、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置の作動方法。
[付記項28]
流体に含まれる測定対象物質の状態を予測する状態予測モデルであり、第1収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第1物性データと、前記測定対象物質の状態の正解データとで構成されるデータセットのみを用いて生成された状態予測モデルを用いること、
前記第1収容器とは異なる第2収容器内の前記流体に含まれる前記測定対象物質の第2物性データを取得すること、並びに、
前記第2物性データを前記状態予測モデルに適用し、前記状態予測モデルから前記測定対象物質の状態の予測結果を出力させること、
を含む処理をコンピュータに実行させるための情報処理装置の作動プログラムであり、
前記第1物性データおよび前記第2物性データは、
前記測定対象物質に測定光を照射し、前記測定対象物質からの戻り光を取り込むための光学系が内蔵された先端部であり、前記第1収容器および前記第2収容器に装着される先端部を備える分光分析装置のセンサ部であって、
前記先端部は、
前記光学系の前記測定光の出射面に対向する対向壁面と、
前記出射面側から前記対向壁面側にかけて突出し、前記出射面との間に前記流体が流れる空間を設けた状態で前記対向壁面を保持する保持部であって、前記流体の流入口および流出口、並びに、前記流体の流れ方向の両側に配された側壁面を含む保持部と、
を有する、
分光分析装置のセンサ部により測定される、
情報処理装置の作動プログラム。
【0156】
ここで、CPU117は、上記「プロセッサ」の一例である。濃度予測モデル126は、上記「状態予測モデル」の一例である。濃度は、上記の「状態」の一例である。フローセル10Sは、上記の「第1収容器」および「第1フローセル」の一例である。ラマンスペクトルデータ27Sおよび学習用強度値141は、上記の「第1物性データ」の一例である。正解濃度142は、上記の「正解データ」の一例である。
【0157】
フローセル10Mおよび10Lは、上記の「第2収容器」の一例である。ラマンスペクトルデータ27Mおよび27Lは、上記の「第2物性データ」の一例である。濃度予測結果135は、上記の「予測結果」の一例である。
【0158】
上記第2実施形態において、例えば、取得部130、RW制御部131、予測部132、表示制御部133、および補正部165といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(作動プログラム125)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU117に加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0159】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせ、および/または、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0160】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0161】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【0162】
本開示の技術は、上述の種々の実施形態および/または種々の変形例を適宜組み合わせることも可能である。また、上記各実施形態に限らず、要旨を逸脱しない限り種々の構成を採用し得ることはもちろんである。
【0163】
以上に示した記載内容および図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、および効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、および効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容および図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことはいうまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容および図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
【0164】
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」と同義である。つまり、「Aおよび/またはB」は、Aだけであってもよいし、Bだけであってもよいし、AおよびBの組み合わせであってもよい、という意味である。また、本明細書において、3つ以上の事柄を「および/または」で結び付けて表現する場合も、「Aおよび/またはB」と同様の考え方が適用される。
【0165】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0166】
2 測定システム
10、10L、10M、10S フローセル
11 ラマン分光計
12 細胞培養部
13 培養槽
14 除細胞フィルタ
15 細胞培養液
15A 培養上清液
16 抗体生産細胞
17 抗体
18 第1送出路
19 第2送出路
25 センサ部
26 アナライザ
27、27L、27M、27S ラマンスペクトルデータ
30、30L、30M、30S 流路
31 第1接続部
32 第2接続部
33 流入口
34 流出口
35、36 無菌コネクタ
37 装着部
38、48、49、69 ネジ
39 本体部
40、100、105 先端部
41 光通路
45 大径部
46 中径部
47 小径部
55 光学系
56、101 内殻部
57 外殻部
58 半球レンズ
59 透明板
60 半球レンズの励起光の出射面
61 透明板の励起光の出射面
62 透明板の励起光の入射面
63、102 内殻部の底板
63A、102A 内殻部の底板の内壁面
64 外殻部の底板
64A 外殻部の底板の内壁面
64B 外殻部の底板の外壁面
65 内殻部の周板
65A 内殻部の周板の内壁面
66 外殻部の周板
66A 外殻部の周板の内壁面
66B 外殻部の周板の外壁面
67 内殻部の空間
68 外殻部の空間
70、106 流入口
70A、71A 切り欠き
70B、71B 穴
71、107 流出口
80 溝
81 Oリング
90 照射領域
110 情報処理装置
115 ストレージ
116 メモリ
117 CPU
118 通信部
119 ディスプレイ
120 入力デバイス
121 バスライン
125 作動プログラム
126 濃度予測モデル
130 取得部
131 リードライト制御部(RW制御部)
132 予測部
133 表示制御部
135 濃度予測結果
135L 学習用濃度予測結果
140 データセット
140G データセット群
141 学習用強度値
142 正解濃度
150 ラマンスペクトル分析画面
151 濃度予測ボタン
CI 流入口の中心
CO 流出口の中心
CP 流路の中心
d 第1点と集光位置との距離
EL 励起光
FD 培養上清液の流れる方向
FP 集光位置
LIO 流入口および流出口の各々の中心を結ぶ線
M 物質
OA 光軸
P1 第1点
P2 第2点
RSL ラマン散乱光
ST100、ST110、ST120、ST130、ST200、ST210、ST220、ST230、ST240、ST250、ST260 ステップ
Th 透明板の光軸方向の厚み
φ、φL、φM、φS フローセルの流路径
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