(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053111
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20240405BHJP
C08G 65/22 20060101ALI20240405BHJP
C08G 65/336 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C08L71/02
C08G65/22
C08G65/336
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024036993
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2022025929の分割
【原出願日】2018-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017024879
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石関 健二
(57)【要約】
【課題】水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物の提供。
【解決手段】含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、前記化合物(A)および前記化合物(B)は、それぞれ、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、その一方の末端に結合したペルフルオロアルキル基と、下式(I)で表される基とを有し、前記組成物中に含まれる前記化合物(A)と前記化合物(B)との組合せにおいて、前記化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が、前記化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数よりも少なく、前記化合物(A)の含有量が、前記化合物(A)と前記化合物(B)との合計に対し30~95質量%である含フッ素エーテル組成物。-SiRnL3-n(I)Lは水酸基または加水分解性基、Rは水素原子または1価の炭化水素基、nは0~2の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)は、それぞれ、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、その一方の末端に結合したペルフルオロアルキル基と、下式(I)で表される基とを有し、
前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が、含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数よりも少なく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
-SiRnL3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が1~19、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2~20である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項3】
前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が1、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2または3であるか、前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が3である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項4】
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基の数が1~3個である、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項5】
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数が1~3個である、請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項6】
前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少ない、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。
[Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s ・・・(A/B)
ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、
-SiRnL3-nは、前記式(I)で表される基であり、sが2以上の場合はs個の式(I)で表される基は同一の基であり、
rおよびsは、それぞれ、1以上の整数であって、r+sは8以下である。
【請求項7】
前記rが1~3である、請求項6に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項8】
前記sが1~3である、請求項6または7に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項9】
下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含み、前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRa
n1La
3-n1]s1 ・・・(A1)
[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRb
n2Lb
3-n2]s2 ・・・(B1)
ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、
QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFaおよびRPFbは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は、1以上の整数であり、s1が2以上のときs1個の[-SiRa
n1La
3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2が2以上のときs2個の[-SiRb
n2Lb
3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項10】
前記式(A1)中のr1が2以上のときr1個のRfaが同一である、請求項9に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項11】
前記式(A2)中のr2が2以上のときr2個のRfbが同一である、請求項9または10に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項12】
前記式(A1)中のRfaの炭素数が1~19、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2~20である、請求項9~11のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項13】
前記式(A1)中のRfaの炭素数が1、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2または3であるか、前記式(A1)中のRfaの炭素数が2、前記式(B1)中のRfbの炭素数が3である、請求項9~12のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すことから、表面処理剤等に用いられる。たとえば該表面処理剤によって基材の表面に表面層を形成すると、潤滑性、撥水撥油性等が付与され、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。含フッ素化合物の中でも、ペルフルオロアルキル鎖の途中にエーテル結合(-O-)が存在するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、油脂等の汚れの除去性に優れる。
【0003】
含フッ素エーテル化合物として、加水分解性シリル基を有するものが提案されている。このような含フッ素エーテル化合物は、指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長期間維持されることが求められる用途、たとえば、タッチパネルの、指で触れる面を構成する部材の表面処理剤に用いられる。
【0004】
含フッ素エーテル化合物としては、たとえば、下記の含フッ素エーテル化合物が提案されている。
炭素数1~2のオキシペルフルオロアルキレン基の少なくとも1種からなる基(α)の1~3つと、炭素数3~6のオキシペルフルオロアルキレン基の少なくとも1種からなる基(β)の1~3つとを有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)基を単位とし、前記単位の2つ以上が連結してなるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物(特許文献1)。
また、特許文献1には、上記含フッ素エーテル化合物を95質量%以上含む組成物や、上記含フッ素エーテル化合物の2種を含む混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者によれば、特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物、組成物または混合物によって形成される表面層は、水滴滑落性が不充分であることが分かった。なお、水滴滑落性とは、傾斜面において水滴が滑落しやすい(転落角が小さい、または/および滑落速度が速い)性質である。
本発明は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[15]の構成を有する、含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品を提供する。
[1]含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)は、それぞれ、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、その一方の末端に結合したペルフルオロアルキル基と、下式(I)で表される基とを有し、
前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が、含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数よりも少なく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
-SiRnL3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。
【0008】
[2]前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が1~19、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2~20である、[1]の含フッ素エーテル組成物。
[3]前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が1、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2または3であるか、前記含フッ素エーテル化合物(A)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が2、前記含フッ素エーテル化合物(B)が有するペルフルオロアルキル基の炭素数が3である、[1]または[2]の含フッ素エーテル組成物。
[4]前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基の数が1~3個である、[1]~[3]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[5]前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数が1~3個である、[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
【0009】
[6]前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少ない、[1]の含フッ素エーテル組成物。 [Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s ・・・(A/B)
ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、
-SiRnL3-nは、前記式(I)で表される基であり、sが2以上の場合はs個の式(I)で表される基は同一の基であり、
rおよびsは、それぞれ、1以上の整数であって、r+sは8以下である。
[7]前記rが1~3である、[6]の含フッ素エーテル組成物。
[8]前記sが1~3である、[6]または[7]の含フッ素エーテル組成物。
【0010】
[9]下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含み、前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。 [Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRa
n1La
3-n1]s1 ・・・(A1)
[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRb
n2Lb
3-n2]s2 ・・・(B1)
ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、
QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFaおよびRPFbは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は、1以上の整数であり、s1が2以上のときs1個の[-SiRa
n1La
3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2が2以上のときs2個の[-SiRb
n2Lb
3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
[10]前記式(A1)中のr1が2以上のときr1個のRfaが同一である、[9]の含フッ素エーテル組成物。
[11]前記式(A2)中のr2が2以上のときr2個のRfbが同一である、[9]または[10]の含フッ素エーテル組成物。
[12]前記式(A1)中のRfaの炭素数が1~19、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2~20である、[9]~[11]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[13]前記式(A1)中のRfaの炭素数が1、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2または3であるか、前記式(A1)中のRfaの炭素数が2、前記式(B1)中のRfbの炭素数が3である、[9]~[12]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
【0012】
[14]前記[1]~[13]のいずれかの含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[15]前記[1]~[13]のいずれかの含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素エーテル組成物およびコーティング液によれば、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる。
本発明の物品は、水滴滑落性に優れる表面層を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記し、式(I)で表される基を基(I)と記す。他の式で表される化合物または基も同様に記す。
また、オキシペルフルオロアルキレン基の化学式は、その酸素原子をペルフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
【0015】
〔含フッ素エーテル組成物〕
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、含フッ素エーテル化合物(A)(以下、「化合物(A)」とも記す。)と、含フッ素エーテル化合物(B)(以下、「化合物(B)」とも記す。)とを含む。本組成物は、後述するように液状媒体は含まない。本組成物は、化合物(A)および化合物(B)からなるものでもよく、後述するように化合物(A)および化合物(B)以外の他の含フッ素エーテル化合物や、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。
化合物(A)および化合物(B)はそれぞれ、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖(以下、「RPF鎖」とも記す。)と、その一方の末端に結合したペルフルオロアルキル基(以下、「Rf基」とも記す。)と、下式(I)で表される基(以下、「基(I)」とも記す。)とを有する。
【0016】
-SiRnL3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
化合物(A)が有するRf基の炭素数は、化合物(B)が有するRf基の炭素数よりも少ない。つまり本組成物は、RPF鎖とRf基と基(I)とを有する含フッ素エーテル化合物として、Rf基の炭素数が異なる2種を含む。これにより、表面層の水滴滑落性が優れる。
化合物(A)および化合物(B)それぞれが有するRPF鎖および基(I)はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
(Rf基)
Rf基の炭素数は、表面層の潤滑性および耐摩擦性にさらに優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
したがって、化合物(A)が有するRf基の炭素数が1~19、化合物(B)が有するRf基の炭素数が2~20であることが好ましく、化合物(A)が有するRf基の炭素数が1~9、化合物(B)が有するRf基の炭素数が2~10であることがより好ましく、化合物(A)が有するRf基の炭素数が1~5、化合物(B)が有するRf基の炭素数が2~6であることがさらに好ましく、化合物(A)が有するRf基の炭素数が1、化合物(B)が有するRf基の炭素数が2または3であるか、化合物(A)が有するRf基の炭素数が2、化合物(B)が有するRf基の炭素数が3であることが特に好ましい。
Rf基は分岐状であっても直鎖状であってもよく、直鎖状が好ましい。Rf基としては、たとえばCF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-等が挙げられ、CF3-、CF3CF2-が特に好ましい。
【0019】
化合物(A)が有するRf基の数は、RPF鎖の数と同一である。化合物(A)がRf基を2個以上有する場合、各Rf基は全てが同一の基であっても異なっていてもよく、好ましくは同一の基である。
同様に、化合物(B)が有するRf基の数は、RPF鎖の数と同一である。化合物(B)がRf基を2個以上有する場合、各Rf基は全てが同一の基であっても異なっていてもよく、好ましくは同一の基である。
ただし、化合物(A)が有するRf基のうち最も炭素数の多いRf基の炭素数は、化合物(B)が有するRf基のうち最も炭素数の少ないRf基の炭素数よりも少ない。
【0020】
Rf基の組み合わせとしては、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2-の組み合わせ、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2CF2-の組み合わせ、化合物(A)が有するRf基がCF3CF2-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2CF2-の組み合わせが好ましく、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2-の組み合わせが特に好ましい。
【0021】
Rf基は、典型的には、連結基を介してRPF鎖の一方の末端に結合する。
連結基としては、基(II)が好ましい。つまり化合物(A)および化合物(B)それぞれのRPF鎖の一方の末端には、基(II)を介してRf基が結合していることが好ましい。ただし、基(II)の左側がRf基に結合する。
-O-Q- ・・・(II)
ただし、Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個(好ましくは2~4個)が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基である。該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
Qが水素原子を有するオキシフルオロアルキレン基または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であることによって、化合物(A)および化合物(B)の液状媒体への溶解性が高くなる。そのため、コーティング液中で化合物(A)および化合物(B)が凝集しにくく、また、基材の表面に塗布した後、乾燥させる途中に化合物(A)および化合物(B)が凝集しにくいため、表面層の外観にさらに優れる。
Qにおけるオキシフルオロアルキレン基の炭素数は、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2または3が特に好ましい。
オキシフルオロアルキレン基における水素原子の数は、表面層の外観に優れる点から、1個以上であり、2個以上が好ましく、3個以上が特に好ましい。オキシフルオロアルキレン基における水素原子の数は、表面層の撥水撥油性にさらに優れる点から、(Qの炭素数)×2個以下が好ましく、(Qの炭素数)個以下が特に好ましい。
オキシフルオロアルキレン基は、分岐構造を有しないオキシフルオロアルキレン基であってもよく、分岐構造を有するオキシフルオロアルキレン基であってもよい。表面層の耐摩耗性および潤滑性がさらに優れる点から、分岐構造を有しないオキシフルオロアルキレン基が好ましい。
オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなる基において、2~5個のオキシフルオロアルキレン基は同一であっても異なっていてもよい。
Qとしては、化合物(A)および化合物(B)の製造のしやすさの点から、単結合、または-CHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CF2CHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CF2OCHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CF2OCF2CF2OCHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CH2OCH2CF2O-、および-CF2CF2OCF2CH2OCH2CF2O-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がOに結合する。)が好ましい。
【0023】
(RPF鎖)
RPF鎖としては、たとえば、下式(1)で表されるRPF鎖が挙げられる。
(RFO)m1 ・・・(1)
ただし、RFはペルフルオロアルキレン基であり、
m1は2~200の整数であり、
(RFO)m1は、炭素数の異なる2種以上のRFOからなるものであってもよい。
【0024】
RFの炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋除去性にさらに優れる点から、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましく、表面層の潤滑性にさらに優れる点からは、1~2個が特に好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点からは、炭素数3~4個のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
RFは、分岐状でも直鎖状でもよく、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、直鎖状が好ましい。
【0025】
m1は、2~200の整数であり、5~150の整数が好ましく、10~80の整数が特に好ましい。m1が前記範囲の下限値以上であれば、表面層の撥水撥油性に優れる。m1が前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐摩擦性に優れる。すなわち、化合物(A)および化合物(B)の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する基(I)の数が減少し、耐摩擦性が低下する。
【0026】
(RFO)m1において、炭素数の異なる2種以上のRFOが存在する場合、各RFOの結合順序は限定されない。たとえば、2種のRFOが存在する場合、2種のRFOがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
【0027】
(RFO)m1としては、表面層の耐摩擦性、指紋汚れ性、潤滑性にさらに優れる点から、{(CF2O)m11(CF2CF2O)m12}、(CF2CF2O)m13、(CF2CF2CF2O)m14、(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15が好ましく、{(CF2O)m11(CF2CF2O)m12}、(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15がより好ましく、(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15が特に好ましい。
ただし、m11は1以上の整数であり、m12は1以上の整数であり、(m11+m12)は2~200の整数であり、m11個のCF2Oおよびm12個のCF2CF2Oの結合順序は限定されない。m13およびm14はそれぞれ2~200の整数であり、m15は1~100の整数である。m15は2~100の整数が好ましい。
【0028】
化合物(A)、化合物(B)それぞれが有するRPF鎖は1個でもよく2個以上でもよい。耐摩擦性の点から、1~3個が好ましく、1~2個が特に好ましい。RPF鎖の数、ひいてはRf基の数が1以上であることで、表面層の水滴滑落性、撥水撥油性、耐久性、指紋汚れ除去性、潤滑性に優れる。RPF鎖の数が前記範囲の上限値以下であれば、表面層の外観に優れる。
化合物(A)、化合物(B)がRPF鎖を2個以上有する場合、各RPF鎖は同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
(基(I))
基(I)において、Lは、水酸基または加水分解性基である。
加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、Lが加水分解性基である場合、基(I)のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。
加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。
【0030】
Lとしては、化合物(A)、化合物(B)の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(A)、化合物(B)の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(A)、化合物(B)の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0031】
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等の飽和炭化水素基、アリル基等のアルケニル基等が挙げられ、飽和炭化水素基が好ましい。
1価の炭化水素基の炭素数は、化合物(A)、化合物(B)が製造しやすい点で、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0032】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1つの基(I)にLが複数存在することによって、基材との接着性がより強固になり、表面層の耐久性がさらに優れる。
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよい。たとえば一部のLが加水分解性基で、残りのLが水酸基であってもよい。
【0033】
基(I)としては、Si(OCH3)3、SiCH3(OCH3)2、Si(OCH2CH3)3、SiCl3、Si(OCOCH3)3、Si(NCO)3が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCH3)3が特に好ましい。
【0034】
化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)は1個でもよく2個以上でもよい。表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3個が好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点から、2個または3個が特に好ましい。
化合物(A)、化合物(B)が基(I)を2個以上有する場合、各基(I)は全てが同一の基であってもよく同一の基でなくてもよい。化合物(A)の製造のしやすさの点では、全てが同一の基であることが好ましい。
【0035】
化合物(A)、化合物(B)それぞれの数平均分子量(Mn)は、2,000~20,000が好ましく、2,500~15,000がより好ましく、3,000~10,000が特に好ましい。数平均分子量が前記範囲内であれば、耐摩擦性に優れる。
数平均分子量(Mn)は、後述する実施例に記載の測定方法により測定される。
【0036】
表面層をドライコーティング法により形成する場合、化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との差が少ないことが好ましい。ドライコーティング法の場合、分子量の小さいものほど先に蒸発して基材に蒸着される傾向がある。数平均分子量(Mn)の差が少ないほど、形成される表面層に化合物(A)および化合物(B)の分布のムラが生じにくい。
化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との差は、2,000以下が好ましく、1,000以下が特に好ましい。
表面層をウェットコーティング法により形成する場合は、化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との間に差があっても、形成される表面層に化合物(A)および化合物(B)の分布のムラは生じにくいため、それらの差は特に限定されない。
ドライコーティング法、ウェットコーティング法については後で詳しく説明する。
【0037】
化合物(A)、化合物(B)はそれぞれ、RPF鎖、Rf基および基(I)を有する限り特に限定されない。たとえば以下の文献に記載される含フッ素エーテル化合物や市販の含フッ素エーテル化合物等の公知の含フッ素エーテル化合物のなかから適宜選択できる。
特開2013-91047号公報、特開2014-80473号公報、国際公開第2013/042732号、国際公開第2013/042733号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2014/163004号、国際公開第2014/175124号、国際公開第2015/087902号、特開2013-227279号公報、特開2013-241569号公報、特開2013-256643号公報、特開2014-15609号公報、特開2014-37548号公報、特開2014-65884号公報、特開2014-210258号公報、特開2014-218639号公報、特開2015-200884号公報、特開2015-221888号公報、国際公開第2013/146112号、国際公開第2013/187432号、国際公開第2014/069592号、国際公開第2015/099085号、国際公開第2015/166760号、特開2013-144726号公報、特開2014-77836号公報、特開2013-117012号公報、特開2014-214194号公報、特開2014-198822号公報、特開2015-129230号公報、特開2015-196723号公報、特開2015-13983号公報、特開2015-199915号公報、特開2015-199906号公報等。
【0038】
RPF鎖、Rf基および基(I)を有し、Rf基がCF3-である含フッ素エーテル化合物の例としては、ダイキン工業社製のオプツール(登録商標)UD509、信越化学工業社製のKY-178、KY-185、KY-1900等が挙げられる。
RPF鎖、Rf基および基(I)を有し、Rf基がCF3CF2CF2-である含フッ素エーテル化合物の例として、ダイキン工業社製のオプツールDSX、AES、東レ・ダウコーニング社製のDOW CORNING(登録商標)2634 COATING、信越化学工業社製のKY-108等が挙げられる。
本組成物は、これらのうち、CF3-である含フッ素エーテル化合物を化合物(A)として、Rf基がCF3CF2CF2-である含フッ素エーテル化合物を化合物(B)として含むものであってよい。
【0039】
本組成物において、化合物(A)、化合物(B)はそれぞれ、1種の化合物からなる単一化合物であってもよく、2種以上の化合物からなる混合物であってもよい。
本明細書において、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖におけるオキシペルフルオロアルキレン基の繰り返し数の数に分布を有する以外は同一の化合物群である含フッ素エーテル化合物は単一化合物とみなす。たとえばRPF鎖が{(CF2O)m11(Rf2O)m12}である化合物の場合、m11とm12に分布を有する以外は同一の化合物群は、単一化合物である含フッ素エーテル化合物とする。
【0040】
化合物(A)と化合物(B)としては、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物が好ましい。
下式(A/B)におけるRfは、前記Rf基を表し、本組成物中に含まれる化合物(A)と化合物(B)との組合せにおいては、化合物(A)におけるRfの炭素数が、化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少ない。また、RPFは前記RPF鎖を表し、QおよびSiRnL3-nは前記のものと同じである。
[Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s・・・(A/B)
ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、
-SiRnL3-nは、前記式(I)で表される基であり、sが2以上の場合はs個の式(I)で表される基は同一の基であり、
rおよびsは、それぞれ、1以上の整数であって、r+sは8以下である。
【0041】
前記rは、前記RPF鎖の数、ひいてはRf基の数を表し、1以上の整数である。rは、前記のように、耐摩擦性の点から、1~3が好ましく、1~2が特に好ましい。
前記sは基(I)の数を表し、前記のように、表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3が好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点から、2または3が特に好ましい。
また、上記の点から、r+sは2~6であることが好ましく、3~5であることが特に好ましい。
(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZa、Zbで表される連結基が好ましく、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられる。好ましいZは、後述の好ましいZaやZbと同じ連結基である。
【0042】
<好ましい態様>
本組成物の好ましい一態様として、化合物(A)が下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)(以下、「化合物(A1)」とも記す。)であり、化合物(B)が下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)(以下、「化合物(B1)」とも記す。)である態様が挙げられる。すなわち、本態様の組成物は、化合物(A1)と化合物(B1)とを含み、化合物(A1)の含有量が、化合物(A1)と化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%である。
【0043】
[Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRa
n1La
3-n1]s1 ・・・(A1)
[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRb
n2Lb
3-n2]s2 ・・・(B1)
ただし、RfaおよびRfbは、Rf基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、
QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFaおよびRPFbは、RPF鎖であり、
Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は1以上の整数であり、s1が2以上のときs1個の[-SiRa
n1La
3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2が2以上のときs2個の[-SiRb
n2Lb
3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
Rf基は前記と同様であり、好ましい態様も同様である。
r1が2以上のときr1個のRfaは、炭素数が同一であることが好ましく、製造しやすさの点から、同一の基、すなわち炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であることが好ましい。炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であるとは、たとえばr1が2の場合に、2個のRfaがCF3CF2CF2-であるということである(2個のRfaの炭素数が同一であっても化学構造が異なる、CF3CF2CF2-、CF3CF(CF3)-の組み合わせではない。)
r2が2以上のときr2個のRfbは、炭素数が同一であることが好ましく、製造しやすさの点から、同一の基、すなわち炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であることが好ましい。
本態様においては、表面層の潤滑性および耐摩擦性にさらに優れる点から、Rfaの炭素数が1~19、Rfbの炭素数が2~20であることが好ましく、Rfaの炭素数が1~9、Rfbの炭素数が2~10であることがより好ましく、Rfaの炭素数が1~5、Rfbの炭素数が2~6であることがさらに好ましく、Rfaの炭素数が1、Rfbの炭素数が2または3であるか、Rfaの炭素数が2、Rfbの炭素数が3であることが特に好ましい。
【0045】
QaおよびQbは前記基(II)中のQと同様であり、好ましい態様も同様である。
RPFaおよびRPFbのRPF鎖は前記と同様であり、好ましい態様も同様である。
LaおよびLbは前記基(I)中のLと同様であり、好ましい態様も同様である。
RaおよびRbは前記基(I)中のRと同様であり、好ましい態様も同様である。
n1およびn2は前記基(I)中のnと同様であり、好ましい態様も同様である。
r1およびr2の好ましい値は、化合物(A)、化合物(B)が有するRPF鎖の好ましい数と同様である。すなわち、r1およびr2は、耐摩擦性の点から、1~3が好ましく、1~2が特に好ましい。
s1およびs2の好ましい値は、化合物(A)、化合物(B)が有する基(I)の好ましい数と同様である。すなわち、s1およびs2は、表面層の水滴滑落性に優れる点から、1~3が好ましく、2~3が特に好ましい。
【0046】
Zaとしては、たとえば(r1+s1)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する(r1+s1)価の基、(r1+s1)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。
Zbとしては、価数が(r2+s2)価である以外はZaと同様のものが挙げられる。
【0047】
無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基(たとえばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環から(a+b)個の水素原子を除いた基)、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基(たとえば前記芳香族炭化水素環式基に置換基としてアルキル基が結合した基、前記飽和炭化水素基の炭素原子間または/および末端にフェニレン基等のアリーレン基を有する基等)、2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。 置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基である。置換基としては、たとえば水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノカルボニル基等が挙げられる。
【0048】
炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に有する炭化水素基以外の基または原子としては、たとえばエーテル性酸素原子(-O-)、チオエーテル性硫黄原子(-S-)、窒素原子(-N<)、ケイ素原子(>Si<)、炭素原子(>C<)、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、-C(O)-S-等が挙げられる。ただし、R15は水素原子、アルキル基またはフェニル基であり、R16~R17はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基である。
オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。
【0049】
<化合物(A1)の好ましい形態>
化合物(A1)としては、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性にさらに優れる点から、以下の化合物(A11)、化合物(A12)および化合物(A13)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0050】
「化合物(A11)」
化合物(A11)は、下式(A11)で表される。
Rfa-O-Qa-RPFa-Q32a-[C(O)N(R33a)]p1-R34a-C[-R35a-SiRa
n1La
3-n1]3 ・・・(A11)
ただし、Rfa、Qa、RPFa、Ra、Laおよびn1はそれぞれ前記と同義であり、
Q32aは、フルオロアルキレン基、または炭素数2以上のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
R33aは、水素原子またはアルキル基であり、
p1は、0または1であり、
R34aは、単結合、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、C[-R35a-SiRa
n1La
3-n1]3と結合する側の末端。)にエーテル性酸素原子を有する基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の末端(ただし、C[-R35a-SiRa
n1La
3-n1]3と結合する側の末端。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
R35aは、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、Siと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
3つの[-R35a-SiRa
n1La
3-n1]は同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
化合物(A11)は、上述の式(A1)において、r1が1であり、s1が3であり、Zが-Q32a-[C(O)N(R33a)]p1-R34a-C[-R35a-]3の化合物である。
【0052】
Q32aにおいて、フルオロアルキレン基としては、ペルフルオロアルキレン基、または1つ以上の水素原子を含むフルオロアルキレン基が好ましい。したがって、Q32aとしては、ペルフルオロアルキレン基、1つ以上の水素原子を含むフルオロアルキレン基、炭素数2以上のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または1つ以上の水素原子を含む炭素数2以上のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基が好ましい。
【0053】
p1が0である場合、Q32aとしては、ペルフルオロアルキレン基が好ましく、ペルフルオロアルキレン基は分岐構造を有しないことが好ましい。Q32aが分岐構造を有しないペルフルオロアルキレン基であれば、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる。
p1が0である場合、Q32aは、RPFaが{(CF2O)m11(CF2CF2O)m12}または(CF2CF2O)m13であるときは、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基であり、RPFaが(CF2CF2CF2O)m14であるときは、典型的には、炭素数2のペルフルオロアルキレン基であり、RPFaが(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15であるときは、典型的には、炭素数3の直鎖のペルフルオロアルキレン基である。
【0054】
p1が1である場合、Q32aとしては、下記の基が挙げられる。
(i)ペルフルオロアルキレン基。
(ii)-RFCH2O-(ただし、RFは、ペルフルオロアルキレン基である。)をRPFaと結合する側に有し、1つ以上の水素原子を含むフルオロアルキレン基(炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよい。)をC(O)N(R33)と結合する側に有する基。
【0055】
(ii)のQ32aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、下記の基が好ましい。
-RFCH2O-CF2CHFOCF2CF2CF2-、-RFCH2O-CF2CHFCF2OCF2CF2-、-RFCH2O-CF2CHFCF2OCF2CF2CF2-、-RFCH2O-CF2CHFOCF2CF2CF2OCF2CF2-。
Q32aが分岐構造を有しない化合物(A11)によれば、耐久性および潤滑性に優れる表面層を形成できる。
【0056】
[C(O)N(R33a)]p1基におけるp1が0と1の場合で、含フッ素エーテル化合物の特性はほとんど変わらない。pが1の場合にはアミド結合を有するが、Q32aの[C(O)N(R33a)]と結合する側の末端の炭素原子に少なくとも1つのフッ素原子が結合していることにより、アミド結合の極性は小さくなり、表面層の撥水撥油性が低下しにくい。p1が0か1かは、製造のしやすさの点から選択できる。
[C(O)N(R33a)]p1基中のR33aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、水素原子が好ましい。
R33aがアルキル基の場合、アルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0057】
p1が0の場合、R34aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、単結合、-CH2O-、-CH2OCH2-、-CH2OCH2CH2O-および-CH2OCH2CH2OCH2-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がQ32aに結合する。)が好ましい。
p1が1の場合、R34aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、単結合、-CH2-および-CH2CH2-からなる群から選ばれる基が好ましい。
【0058】
R35aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2-、-OCH2CH2CH2-からなる群から選ばれる基(ただし、右側がSiに結合する。)が好ましい。
R35aとしては、表面層の耐光性に優れる点から、エーテル性酸素原子を有しないものが特に好ましい。屋外使用のタッチパネル(自動販売機、案内板等のデジタルサイネージ)、車載タッチパネル等においては、撥水撥油層に耐光性が求められる。
化合物(A11)中の3つのR35aは、同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
化合物(A11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、外観にさらに優れる点から好ましい。
【0060】
【0061】
【0062】
ただし、これらの式中のWは、Rfa-O-Qa-RPFa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRfa、QaおよびRPFaを組み合わせたものとなる。Q32aの好ましい範囲は上述した通りである。
【0063】
「化合物(A12)」
化合物(A12)は、下式(A12)で表される。
Rfa-O-Qa-RPFa-R42a-R43a-N[-R44a-SiRa
n1La
3-n1]2 ・・・(A12)
ただし、Rfa、Qa、RPFa、Ra、Laおよびn1はそれぞれ前記と同義であり、
R42aは、ペルフルオロアルキレン基であり、
R43aは、単結合、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
R44aは、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
2つの[-R44a-SiRa
n1La
3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
化合物(A12)は、上述の式(A1)において、r1が1であり、s1が2であり、Zが-R42a-R43a-N[-R44a-]2の化合物である。
【0065】
R42aは、分岐構造を有しないペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。R42aが分岐構造を有しないペルフルオロアルキレン基であれば、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる。
R42aは、RPFaが{(CF2O)m11(CF2CF2O)m12}または(CF2CF2O)m13であるときは、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基であり、RPFaが(CF2CF2CF2O)m14であるときは、典型的には、炭素数2のペルフルオロアルキレン基であり、RPFaが(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15であるときは、典型的には、炭素数3の直鎖のペルフルオロアルキレン基である。
【0066】
R43aとしては、化合物(A12)の製造のしやすさの点から、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2-および-CH2NHCH2CH2-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がR42aに結合する。)が好ましい。
R43aは、極性が高くかつ耐薬品性や耐光性が不充分なエステル結合を有しないため、表面層の初期の撥水性、耐薬品性および耐光性に優れる。
【0067】
R44aとしては、化合物(A12)の製造のしやすさの点から、-CH2CH2CH2-または-CH2CH2OCH2CH2CH2-(ただし、右側がSiに結合する。)が好ましい。
R44aは、極性が高くかつ耐薬品性や耐光性が不充分なエステル結合を有しないため、表面層の初期の撥水性、耐薬品性および耐光性に優れる。
R44aとしては、表面層の耐光性に優れる点からは、エーテル性酸素原子を有しないものが特に好ましい。
化合物(A12)中の2つのR44aは、同一の基であってもよく、同一の基でなくてもよい。
【0068】
化合物(A12)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性および耐光性にさらに優れる点から好ましい。
【0069】
【0070】
ただし、これらの式中のWは、Rfa-O-Qa-RPFa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRfa、QaおよびRPFaを組み合わせたものとなる。R42aの好ましい範囲は上述した通りである。
【0071】
「化合物(A13)」
化合物(A13)は、下式(A13)で表される。
[Rfa-O-Qa-RPFa-R51a-R52a-O-]e1Z3a[-O-R53a-SiRa
n1La
3-n1]f1 ・・・(A13)
ただし、Rfa、Qa、RPFa、Ra、Laおよびn1はそれぞれ前記と同義であり、
R51aは、直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、
R52aは、アルキレン基であり、
Z3aは、(e1+f1)価の炭化水素基、または炭化水素基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で(e1+f1)価の基であり、
R53aは、アルキレン基であり、
e1は、1以上の整数であり、
f1は、1以上の整数であり、
(e1+f1)は3以上であり、
e1が2以上のときe1個のRfaは、全てが同一の基であり、e1個のQa、RPFa、R51aおよびR52aはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
f1が2以上のときf1個の[-O-R53-SiRnL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0072】
化合物(A13)は、上述の式(A1)において、r1がe1であり、s1がf1であり、Zが[-R51a-R52a-O-]e1Z3a[-O-R53a-]f1の化合物である。
【0073】
R51aは、たとえばRPFaが{(CF2O)m11(CF2CF2O)m12}または(CF2CF2O)m13であるときは、典型的には、-CF2-であり、RPFaが(CF2CF2CF2O)m14であるときは、典型的には、-CF2CF2-であり、RPFaが(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m15であるときは、典型的には、-CF2CF2CF2-である。
R51aが直鎖状である化合物(A13)であれば、耐摩擦性および潤滑性に優れる表面層を形成できる。
【0074】
R52aとしては、化合物(A13)の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、-CH2-が特に好ましい。
【0075】
Rfa-O-Qa-RPFa-R51a-基としては、表面層の撥水撥油性、耐久性、指紋汚れ除去性、潤滑性、さらに外観にもさらに優れる点および化合物(A13)の製造のしやすさの点から、基(Rf-1)、基(Rf-2)、または基(Rf-3)が好ましい。
Rf11O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (Rf-1)
Rf11OCHFCF2OCH2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (Rf-2)
Rf11O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2- (Rf-3)
ただし、Rf11は、炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり;m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF2Oおよびm22個のCF2CF2Oの結合順序は限定されず;m25は、1~100の整数である。
【0076】
Z3aとしては、(e1+f1)個の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が挙げられる。
Z3aの具体例としては、たとえば、下式の基が挙げられる。Z3aとしては、水酸基の反応性に優れる点から、1級の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましく、原料の入手容易性の点から、基(Z-1)、基(Z-2)、または基(Z-3)が特に好ましい。ただし、R4は、アルキル基であり、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0077】
【0078】
R53aとしては、化合物(A13)の製造のしやすさの点から、炭素数3~14のアルキレン基が好ましい。さらに、後述する化合物(A13)の製造におけるヒドロシリル化の際に、アリル基(-CH2CH=CH2)の一部または全部がインナーオレフィン(-CH=CHCH3)に異性化した副生物が生成しにくい点から、炭素数4~10のアルキレン基が特に好ましい。
【0079】
e1およびf1の好ましい値はそれぞれ、r1およびr2の好ましい値と同様である。
【0080】
化合物(A13)としては、たとえば、下式の化合物(1-1)~(1-6)が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、外観にさらに優れる点から好ましい。
【0081】
【0082】
ただし、これらの式中のWは、Rfa-O-Qa-RPFa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRfa、QaおよびRPFaを組み合わせたものとなる。R51aの好ましい形態は上述した通りである。
【0083】
<化合物(B1)の好ましい形態>
化合物(B1)としては、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性にさらに優れる点から、以下の化合物(B11)、化合物(B12)および化合物(B13)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0084】
「化合物(B11)」
化合物(B11)は、下式(B11)で表される。
Rfb-O-Qb-RPFb-Q32b-[C(O)N(R33b)]p2-R34b-C[-R35b-SiRb
n2Lb
3-n2]3 ・・・(B11)
ただし、Rfa、Qb、RPFb、Rb、Lbおよびn2はそれぞれ前記と同義であり、
Q32bは、フルオロアルキレン基、または炭素数2以上のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
R33bは、水素原子またはアルキル基であり、
p2は、0または1であり、
R34bは、単結合、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、C[-R35b-SiRb
n2Lb
3-n2]3と結合する側の末端。)にエーテル性酸素原子を有する基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の末端(ただし、C[-R35b-SiRb
n2Lb
3-n2]3と結合する側の末端。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
R35bは、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、Siと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
3つの[-R35b-SiRb
n2Lb
3-n2]は同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
化合物(B11)は、上述の式(B1)において、r2が1であり、s2が3であり、Zbが-Q32b-[C(O)N(R33b)]p2-R34b-C[-R35b-]3の化合物である。
【0086】
Q32b、R33b、p2、R34b、R35bはそれぞれ、前記式(A11)におけるQ32a、R33a、p1、R34a、R35aと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0087】
「化合物(B12)」
化合物(B12)は、下式(B12)で表される。
Rfb-O-Qb-RPFb-R42b-R43b-N[-R44b-SiRn2L3-n2]2 ・・・(B12)
ただし、Rfa、Qb、RPFb、Rb、Lbおよびn2はそれぞれ前記と同義であり、
R42bは、ペルフルオロアルキレン基であり、
R43bは、単結合、アルキレン基、アルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、または炭素数2以上のアルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
R44bは、アルキレン基、または炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
2つの[-R44b-SiRb
n2Lb
3-n2]は、同一の基でなくてもよい。
【0088】
化合物(B12)は、上述の式(B1)において、r2が1であり、s2が2であり、Zbが-R42b-R43b-N[-R44b-]2の化合物である。
【0089】
R42b、R43b、R44bはそれぞれ、前記式(A12)におけるR42a、R43a、R44aと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0090】
「化合物(B13)」
化合物(B13)は、下式(B13)で表される。
[Rfb-O-Qb-RPFb-R51b-R52b-O-]e2Z3b[-O-R53b-SiRb
n2Lb
3-n2]f2 ・・・(B13)
ただし、Rfa、Qb、RPFb、Rb、Lbおよびn2はそれぞれ前記と同義であり、
R51bは、直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、
R52bは、アルキレン基であり、
Z3bは、(e2+f2)価の炭化水素基、または炭化水素基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で(e2+f2)価の基であり、
R53bは、アルキレン基であり、
e2は、1以上の整数であり、
f2は、1以上の整数であり、
(e2+f2)は3以上であり、
e2が2以上のときe2個のRfbは、全てが同一の基であり、e2個のQb、RPFb、R51bおよびR52bはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
f2が2以上のときf2個の[-O-R53b-SiRb
n2Lb
3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
化合物(B13)は、上述の式(B1)において、r2がe2であり、s2がf2であり、Zbが[-R51b-R52b-O-]e2Z3b[-O-R53b-]f2の化合物である。
【0092】
R51b、R52b、Z3b、R53b、e2、f2はそれぞれ、前記式(A13)におけるR51a、R52a、Z3a、R53a、e1、f1と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0093】
(他の含フッ素エーテル化合物)
本組成物は、化合物(A)および化合物(B)以外の他の含フッ素エーテル化合物をさらに含んでいてもよい。
他の含フッ素エーテル化合物としては、たとえば、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、基(I)を有しない含フッ素エーテル化合物(以下、化合物(C)とも記す。)が挙げられる。
【0094】
化合物(C)としては、たとえば化合物(C1)が挙げられる。
A31-O-Q51-(RF3O)m30-[Q52-O]p3-A32 ・・・(C1)
ただし、A31およびA32は、それぞれ独立に炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり;Q51は、単結合、1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しないフルオロアルキレン基、1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しないフルオロアルキレン基の末端(ただし、A31-Oと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2以上のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2以上のフルオロアルキレン基の末端(ただし、A31-Oと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり(ただし、酸素数は10以下である。);Q52は、1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しないフルオロアルキレン基、または1つ以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2以上のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり(ただし、酸素数は10以下である。);RF3は、分岐構造を有しないペルフルオロアルキレン基であり;m30は、2~200の整数であり;(RF3O)m30は、炭素数の異なる2種以上のRF3Oからなるものであってもよく;p3は、Q51が単結合の場合は0であり、Q51が単結合以外の場合は1である。
【0095】
化合物(C1)は、公知の製造方法により製造したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。たとえば、Q51が単結合であり、p3が0である化合物(C1)の市販品としては、FOMBLIN(登録商標)M、FOMBLIN(登録商標)Y、FOMBLIN(登録商標)Z(以上、ソルベイソレクシス社製)、Krytox(登録商標)(デュポン社製)、デムナム(登録商標)(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0096】
本組成物は、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物としては、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物の製造上不可避の化合物等が挙げられる。
【0097】
(本組成物の組成)
本組成物において、化合物(A)および化合物(B)のうち、Rf基の炭素数が少ない方の含有量は、化合物(A)と化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であり、40~90質量%が好ましく、40~80質量%が特に好ましい。Rf基の炭素数が少ない方の含有量が前記範囲内であれば、表面層の水滴滑落性に優れる。
【0098】
本組成物において、化合物(A)および化合物(B)の合計量は、本組成物の総質量に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上が特に好ましい。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0099】
〔コーティング液〕
本発明のコーティング液(以下、本コーティング液とも記す。)は、本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
本コーティング液は、本組成物を含んでいればよく、化合物(A)、化合物(B)等の製造工程で生成した副生成物等の不純物を含んでもよい。
本組成物の濃度は、本コーティング液中、0.001~50質量%が好ましく、0.05~30がより好ましく、0.05~10がさらに好ましく、0.1~1質量%が特に好ましい。
【0100】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を含んでもよい。
【0101】
フッ素系有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばC6F13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C6F13C2H5(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、C2F5CHFCHFCF3(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、たとえばヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばCF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、C4F9OCH3(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、C4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、C2F5CF(OCH3)C3F7(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、たとえばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、たとえば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒が挙げられる。
本コーティング液は、液状媒体を50~99.999質量%含むことが好ましく、70~99.5質量%含むことがより好ましく、90~99.5質量%含むことがさらに好ましく、99~99.9質量%含むことが特に好ましい。
【0102】
本コーティング液は、本組成物および液状媒体の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、たとえば、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤が挙げられる。
本コーティング液における、その他の成分の含有量は、10質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0103】
本コーティング液の固形分濃度は、0.001~50質量%が好ましく、0.05~30がより好ましく、0.05~10がさらに好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
コーティング液の固形分濃度は、加熱前のコーティング液の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出する値である。
本組成物の濃度は、固形分濃度と、本組成物および溶媒等の仕込み量とから算出可能である。
【0104】
〔物品〕
本発明の物品は、本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
【0105】
(表面層)
本組成物においては、化合物(A)および化合物(B)中の基(I)におけるLが加水分解性基である場合には、基(I)が加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)が形成され、該シラノール基は分子間で反応してSi-O-Si結合が形成され、または該シラノール基が基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材-O-Si)が形成される。したがって、表面層は、化合物(A)および化合物(B)を、化合物(A)および化合物(B)それぞれの基(I)の一部または全部が加水分解反応した状態で含む。基(I)におけるLが水酸基である場合には、加水分解反応を経ずに上記反応が進む。
【0106】
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0107】
(基材)
本発明における基材は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている基材であれば特に限定されない。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO2膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、メガネレンズ用基材が好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材は、透光性を有する。「透光性を有する」とは、JIS R3106:1998(ISO 9050:1990)に準じた垂直入射型可視光透過率が25%以上であることを意味する。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0108】
(物品の製造方法)
本発明の物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、本発明の物品を得る方法。
・ウェットコーティング法によって本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、本発明の物品を得る方法。
【0109】
<ドライコーティング法>
本組成物は、ドライコーティング法にそのまま用いることができる。本組成物は、ドライコーティング法によって密着性に優れた表面層を形成するのに好適である。
ドライコーティング法としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。化合物(A)および化合物(B)の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が特に好ましい。真空蒸着時には、鉄や鋼等の金属多孔体に本組成物または本コーティング液を含浸させたペレット状物質を使用してもよい。
【0110】
真空蒸着の際の温度は、20~300℃が好ましく、30~200℃が特に好ましい。
真空蒸着の際の圧力は、1×10-1Pa以下が好ましく、1×10-2Pa以下が特に好ましい。
【0111】
<ウェットコーティング法>
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0112】
<後処理>
表面層の耐摩擦性を向上させるために、必要に応じて、化合物(A)および化合物(B)と基材との反応を促進するための操作を行ってもよい。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。
たとえば、水分を有する大気中で表面層が形成された基材を加熱して、加水分解性シリル基のシラノール基への加水分解反応、基材の表面の水酸基等とシラノール基との反応、シラノール基の縮合反応によるシロキサン結合の生成、等の反応を促進できる。
表面処理後、表面層中の化合物であって他の化合物や基材と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、たとえば、表面層に溶媒をかけ流す方法、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法等が挙げられる。
【0113】
〔作用効果〕
本組成物および本コーティング液にあっては、化合物(A)および化合物(B)を含み、それらのうちRf基の炭素数が少ない化合物(A)の含有量が、化合物(A)および化合物(B)の合計に対し30~95質量%であるため、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる。
化合物(A)および化合物(B)はそれぞれ、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合していることにより、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する。かかる構造を有する化合物(A)および化合物(B)によれば、基材上に表面層を形成したときに、各化合物のRf基が基材側とは反対側に配向しやすい。Rf基が基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーが低くなる。
これに加えて、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基の炭素数が異なることにより、表面層の表面に炭素数の異なるRf基が特定の比率で分散配置されており、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成されると考えられる。これにより、表面層の表面の撥水性がさらに高まり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されると考えられる。
【0114】
〔用途〕
本組成物、本コーティング液および物品の用途は、特に限定されない。たとえば、タッチパネル等の表示入力装置;透明なガラス製または透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート;電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート;振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルターの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コート等が挙げられる。
【0115】
上記効果を奏することから、本組成物、本コーティング液および物品は、水滴滑落性が求められる用途に好適に用いられる。かかる用途としては、たとえばキッチン用防汚コート;熱交換器の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート等が挙げられる。
【実施例0116】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
例1~10のうち、例3~9は実施例であり、例1~2、10は比較例である。
【0117】
〔物性および評価〕
(数平均分子量)
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出した。末端基は、たとえば基(I)またはRf基である。
【0118】
(水滴の転落角)
水平に保持した物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下した後、物品を徐々に傾け、水滴が転落しはじめた時の物品と水平面との角度(転落角)を測定した。
【0119】
(水滴の滑落速度)
物品の表面と水平面との角度(傾斜角)を40°に設定し、物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下し、水滴が50mm移動したときの時間を測定した。この移動時間を滑落速度とする。
【0120】
〔合成例1〕
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(14I-1)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3 ・・・(14I-1)
化合物(14I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。
【0121】
50mLのナスフラスコに、化合物(14I-1)の9.0gおよびH2N-CH2-C(CH2CH=CH2)3の0.45gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物(14I-1)がすべて化合物(17I-1)に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をCF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、AE-3000)の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物(17I-1)の7.6g(収率84%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3 ・・・(17I-1)
化合物(17I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,800。
【0122】
10mLのPFA製サンプル管に、化合物(17I-1)の6.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.07g、HSi(OCH3)3の0.78g、ジメチルスルホキシドの0.02g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.49gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物(A-1)の6.7g(収率100%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(A-1)
【0123】
化合物(A-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。 19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55.2(3F)、-82.1(54F)、-88.1(54F)、-90.2(2F)、-119.4(2F)、-125.4(52F)、-126.2(2F)。 単位数x3の平均値:13、化合物(A-1)の数平均分子量:5,100。
【0124】
〔合成例2〕
国際公開第2013/121984号の実施例2に記載の方法にしたがい、化合物(14I-2)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3 ・・・(14I-2)
化合物(14I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,800。
【0125】
化合物(14I-1)の代わりに、化合物(14I-2)を用いた以外は例1-2と同様にして、化合物(17I-2)の8.4g(収率93%)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3 ・・・(17I-2)
化合物(17I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,900。
【0126】
化合物(17I-1)の代わりに、化合物(17I-2)を用いた以外は例1-3と同様にして、化合物(B-1)の6.7g(収率100%)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(B-1)
【0127】
化合物(B-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。 19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-84.0(54F)、-88.2(3F)、-89.2(58F)、-119.7(2F)、-126.5(54F)。
単位数x4の平均値:13、化合物(B-1)の数平均分子量:5,200。
【0128】
〔例1~10〕
化合物(A-1)と化合物(B-1)とを使用し、表1に示す質量比で混合して組成物を調製し、下記評価に供した。ただし、例1では化合物(A-1)のみ、例2では化合物(B-1)のみを使用した。
【0129】
(評価)
例1~10で得た各化合物または組成物を用いて、基材の表面処理を行い、基材の表面に表面層を有する物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラス(ドラゴントレイル)を用いた。得られた物品について、水接触角および水滴の滑落速度を評価した。結果を表1に示す。
【0130】
<ドライコーティング法>
ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR-350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~10で得た各化合物または組成物の0.5gを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。組成物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への成膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への成膜を終了させた。組成物が堆積された基材を、120℃で30分間加熱処理し、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0131】
<ウェットコーティング法>
例1~10で得た各化合物または組成物と、液状媒体としてのC4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を120℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0132】
【0133】
化合物(A-1)と化合物(B-1)とを含み、化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30~95質量%である例3~9の組成物は、化合物(A-1)、化合物(B-1)をそれぞれ単独で用いた例1、2に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。
化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例10における表面層の水滴滑落性は、例1と同等であった。
【0134】
(例11~20)
市販のCF3O{(CF2CF2O)m(CF2O)n}CF2CH2OHで表される化合物(mの平均値が20、nの平均値が21)を使用し、特許5761305号の合成例11~15記載の方法にしたがい、下記化合物(A-2)を得た。
CF3-O-{(CF2CF2O)20-(CF2O)21}-CF2CH2OCH2CH2CH2-Si[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(A-2) また、国際公開第2017/038830号の実施例1に記載の方法にしたがい、下記化合物(B-2)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)2{(CF2O)21(CF2CF2O)20}-CF2-CH2OCH2-C[CH2OCH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(B-2)
上記化合物(A-2)と化合物(B-2)を用いて、例1~10と同様にして、基材にドライコーティングし、得られた物品について転落角及び転落速度を評価した。結果を表2に示す。
【0135】
【0136】
化合物(A-2)と化合物(B-2)とを含み、化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30~90質量%である例13~19の組成物は、化合物(A-2)、化合物(B-2)をそれぞれ単独で用いた例11、12に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。
化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例20における表面層の水滴滑落性は、例11と同等であった。
本組成物および本コーティング液は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえばタッチパネル等の表示入力装置;透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート;電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート;振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。
なお、2017年02月14日に出願された日本特許出願2017-024879号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。