(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005316
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】塩化ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/09 20060101AFI20240110BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240110BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240110BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C01G53/09
C01G53/00 B
C22B23/00 102
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105448
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AB02
4G048AB08
4G048AE05
4K001AA19
4K001BA23
4K001DB04
(57)【要約】
【課題】溶解効率を高く維持できる塩化ニッケル水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ニッケル水溶液の製造方法は、気密性を有する溶解槽1にニッケル原料Nを装入する原料装入工程と、溶解槽1に溶解始液を供給する給液工程と、溶解槽1に塩素ガスを供給する塩素ガス供給工程と、溶解槽1内のニッケル原料Nが規定量まで減少したときに、溶解槽1に新規のニッケル原料Nを装入する原料再装入工程とを備える。ニッケル原料Nが少なくなったタイミングで新規のニッケル原料Nを装入するので、ニッケル原料Nの溶解を高い効率で維持できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル原料を塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を製造する方法であって、
気密性を有する溶解槽に前記ニッケル原料を装入する原料装入工程と、
前記溶解槽に溶解始液を供給する給液工程と、
前記溶解槽に塩素ガスを供給する塩素ガス供給工程と、
前記溶解槽内の前記ニッケル原料が規定量まで減少したときに、前記溶解槽に新規の前記ニッケル原料を装入する原料再装入工程と、を備える
ことを特徴とする塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記原料再装入工程において、前記塩素ガスの積算供給量が基準値に達したときに、前記ニッケル原料が前記規定量まで減少したと判断する
ことを特徴とする請求項1記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記塩素ガス供給工程において、前記溶解槽内の気相部の圧力が一定となる量の前記塩素ガスを前記溶解槽に供給し、
前記原料再装入工程において、前記塩素ガスの供給量が基準値まで低下したときに、前記ニッケル原料が前記規定量まで減少したと判断する
ことを特徴とする請求項1記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記原料再装入工程において、前記溶解槽内の前記塩素ガスを脱ガスした後に、前記ニッケル原料を装入する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル原料を装入するタイミングをずらしながら複数の前記溶解槽において前記ニッケル原料を塩素浸出して前記塩化ニッケル水溶液を得る
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル原料は電気ニッケルである
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ニッケル水溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ニッケル原料を塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ニッケルはニッケルめっきに用いられる。また、塩化ニッケルは積層セラミックコンデンサの電極材料および導電ペースト用のニッケル粉の原料などとしても用いられる。上記塩化ニッケルとして、塩化ニッケル水溶液、または塩化ニッケル水溶液を晶析して得られる塩化ニッケル結晶が用いられる。
【0003】
特許文献1、2には、ニッケル原料を塩酸で溶解して塩化ニッケル水溶液を得る方法が開示されている。また、特許文献3には、ニッケル原料を塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-152592号公報
【特許文献2】特表平7-507036号公報
【特許文献3】特開2016-121370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩化ニッケル水溶液を製造する実操業においては、効率的な操業が求められるため、ニッケル原料の溶解効率を高く維持することが求められる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、溶解効率を高く維持できる塩化ニッケル水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、ニッケル原料を塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を製造する方法であって、気密性を有する溶解槽に前記ニッケル原料を装入する原料装入工程と、前記溶解槽に溶解始液を供給する給液工程と、前記溶解槽に塩素ガスを供給する塩素ガス供給工程と、前記溶解槽内の前記ニッケル原料が規定量まで減少したときに、前記溶解槽に新規の前記ニッケル原料を装入する原料再装入工程と、を備えることを特徴とする。
第2発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、第1発明において、前記原料再装入工程において、前記塩素ガスの積算供給量が基準値に達したときに、前記ニッケル原料が前記規定量まで減少したと判断することを特徴とする。
第3発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、第1発明において、前記塩素ガス供給工程において、前記溶解槽内の気相部の圧力が一定となる量の前記塩素ガスを前記溶解槽に供給し、前記原料再装入工程において、前記塩素ガスの供給量が基準値まで低下したときに、前記ニッケル原料が前記規定量まで減少したと判断することを特徴とする。
第4発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、第1~第3発明のいずれかにおいて、前記原料再装入工程において、前記溶解槽内の前記塩素ガスを脱ガスした後に、前記ニッケル原料を装入することを特徴とする。
第5発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、第1~第4発明のいずれかにおいて、前記ニッケル原料を装入するタイミングをずらしながら複数の前記溶解槽において前記ニッケル原料を塩素浸出して前記塩化ニッケル水溶液を得ることを特徴とする。
第6発明の塩化ニッケル水溶液の製造方法は、第1~第5発明のいずれかにおいて、前記ニッケル原料は電気ニッケルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、ニッケル原料が少なくなったタイミングで新規のニッケル原料を装入するので、ニッケル原料の浸出反応、すなわちニッケル原料の溶解を高い効率で維持できる。
第2発明によれば、塩素ガスの積算供給量を指標とすることで、ニッケル原料を装入するタイミングを容易に判断できる。
第3発明によれば、塩素ガスの供給量を指標とすることで、ニッケル原料を装入するタイミングを容易に判断できる。
第4発明によれば、溶解槽内の塩素ガスを脱ガスするので、ニッケル原料の装入作業を安全に行なうことができる。
第5発明によれば、ニッケル原料を装入するタイミングをずらしながら複数の溶解槽を運転することにより、塩化ニッケル水溶液を連続的に生産できる。また、塩化ニッケル水溶液の生産速度を平準化することができる。
第6発明によれば、高純度の塩化ニッケル水溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る製造設備の全体構成図である。
【
図4】(1)原料装入工程および(2)給液工程における溶解槽の状態を示す説明図である。
【
図5】(3)減圧工程および(4)塩素ガス供給工程における溶解槽の状態を示す説明図である。
【
図6】第2実施形態に係る製造設備の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る塩化ニッケル水溶液の製造方法は、ニッケル原料を塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を製造する方法である。ニッケル原料はニッケルを含有するものであれば特に限定されない。ただし、ニッケル原料として電気ニッケルを用いれば、特段の浄液処理を行なわなくても高純度の塩化ニッケル水溶液を得ることができる。
【0011】
電気ニッケルは、例えば、ニッケルの湿式製錬により製造できる。ニッケルの湿式製錬では、ニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物などの原料を塩素浸出する。浸出液から不純物を除去する浄液処理を行ない、塩化ニッケル水溶液を得る。塩化ニッケル水溶液を電解液として用いて電解採取することにより電気ニッケルが得られる。
【0012】
溶解効率を高くするためには、電気ニッケルは小さいほうが好ましい。例えば、板状の電気ニッケルを100mm×100mm以下の寸法に切断したものを用いることが好ましい。また、ボタン形の電気ニッケルを用いてもよい。電気ニッケルの寸法が小さいほど塩化ニッケル水溶液との接触面積が大きくなるため、塩素浸出が効率的に進行する。
【0013】
(製造設備)
本実施形態の製造方法は
図1に示す製造設備AAを用いる。製造設備AAは、溶解槽1、始液槽2、調整槽3、および終液槽4を有する。また、製造設備AAは、各種の測定器から測定値を取得するとともに、各種の弁、ポンプなどの動作を制御する制御装置5を有する。制御装置5としてPLCなどのコンピュータを用いることができる。
【0014】
図2に示すように、溶解槽1はニッケル原料Nを塩素浸出する槽である。溶解槽1は槽本体10を有する。槽本体10は気密性を有する槽である。槽本体10の形状は特に限定されず円筒形でもよいし、角筒形でもよい。
【0015】
槽本体10の天板の中央には装入口12が設けられている。ニッケル原料Nは装入口12から槽本体10の内部に装入される。装入口12は蓋13で閉塞される。また、装入口12と蓋13との間を水封する水封部が設けられている。したがって、蓋13で装入口12を閉塞し、水封すれば、槽本体10を気密にできる。
【0016】
槽本体10の内部には簀子板15が設けられている。簀子板15は槽本体10の上下中央付近において横断するよう水平に設けられている。槽本体10の内部空間は簀子板15により上下2つの空間に区画されている。簀子板15として、パンチングプレート、ウェッジワイヤースクリーンなど、複数の孔またはスリットを有する板材が用いられる。装入口12から装入されたニッケル原料Nは簀子板15の上に載置される。一方、液は簀子板15を通過して、槽本体10の上部空間から下部空間に流下する。
【0017】
槽本体10の天板には給液口16が設けられている。給液口16は給液装置に接続されている。給液装置から供給された溶解始液は給液口16から槽本体10の内部に流入する。給液装置の詳細は後述する。
【0018】
槽本体10の側壁には、上部にオーバーフロー口17、下部に排液口18が設けられている。オーバーフロー口17は簀子板15より上方であって、槽本体10の天板に近い位置に設けられている。一方、排液口18は簀子板15より下方であって、簀子板15に近い位置に設けられている。オーバーフロー口17および排液口18は、いずれも、槽本体10内の液の排出に用いられる。
【0019】
槽本体10の側壁には、さらに、抜出口19が設けられている。抜出口19は排液口18より下方であって、槽本体10の底に近い位置に設けられている。槽本体10の天板には戻し口20が設けられている。
【0020】
抜出口19と戻し口20とは小循環管51で接続されている。小循環管51には小循環ポンプ71が設けられている。小循環ポンプ71の吸込側は抜出口19に接続されており、吐出側は戻し口20に接続されている。したがって、小循環ポンプ71を駆動させると、槽本体10の下部から液が抜き出され、その液を槽本体10の上部に戻すことができる。
【0021】
小循環管51には熱交換器73が設けられている。熱交換器73は小循環管51を流れる液を冷却する。したがって、槽本体10から抜き出された液は、冷却された後に、槽本体10に戻される。
【0022】
槽本体10の内部には、天板の下面近くに、噴射部21が設けられている。戻し口20は噴射部21に接続している。小循環管51を循環した液は噴射部21から噴射され、ニッケル原料Nを湿潤させる。
【0023】
噴射部21は、同心状に配置された小環状管21aおよび大環状管21bからなる。小環状管21aおよび大環状管21bには、それぞれ、所定間隔で複数の孔が設けられており、その孔から液が噴射される。装入口12は小環状管21aの内側に配置されている。したがって、ニッケル原料Nの装入時に噴射部21が邪魔とならない。
【0024】
槽本体10には塩素ガス供給管52が接続されている。塩素ガス供給管52の開口端は槽本体10の内部であって、簀子板15より下方に位置している。塩素ガス供給管52の他方の端部は塩素ガス供給源74に接続されている。塩素ガス供給源74として液化塩素を封入したガスボンベなどを用いることができる。塩素ガス供給管52には流量制御弁61が設けられている。塩素ガス供給管52により槽本体10の内部に塩素ガスを供給できる。また、流量制御弁61の開度を調整することで塩素ガスの供給量を調整できる。塩素ガス供給管52、流量制御弁61、および塩素ガス供給源74は、溶解槽1に塩素ガスを供給する塩素ガス供給装置を構成する。
【0025】
槽本体10の天板には圧力計22が設けられている。圧力計22により溶解槽1内の気相部の圧力を測定できる。
【0026】
槽本体10の天板には環集口23が設けられている。環集口23には環集管53が接続されている。また、環集管53には排気弁62が設けられている。排気弁62を開けば槽本体10内部のガスを排気できる。また、排気弁62を閉じれば、槽本体10を気密にできる。
【0027】
溶解槽1内の気相部は塩素ガス供給管52から供給された塩素ガスで満たされる。また、ニッケル原料Nは噴射部21から噴射された液によって湿潤する。これにより、塩素ガス雰囲気下でニッケル原料Nが液膜で覆われた状態となる。塩素ガスがニッケル原料Nを覆う液に吸収され、ニッケル原料Nの塩素浸出反応が進行し、塩化ニッケル水溶液が生成される。このように、溶解槽1内においてニッケル原料Nが塩素浸出されて塩化ニッケル水溶液が生成される。生成された塩化ニッケル水溶液は溶解槽1の下部に一時的に貯留され、排液口18または抜出口19から排出される。
【0028】
図3に示すように、始液槽2は溶解始液を貯留する槽である。溶解始液は塩化ニッケル水溶液または水である。溶解始液として用いられる水は純水が好ましい。そうすれば、高純度の塩化ニッケル水溶液を得ることができる。始液槽2の形状は特に限定されず円筒形でもよいし、角筒形でもよい。また、始液槽2には溶解槽1のような気密性は要求されない。ただし、定常操業時において溶解始液には塩素ガスが溶存していることから、始液槽2の気相部も環集されることが好ましい。
【0029】
始液槽2の下部には液出口31および液入口32が設けられている。また、始液槽2の天板には水添加口33および塩酸添加口34が設けられている。始液槽2は撹拌機35を有する。撹拌機35の駆動により溶解始液を撹拌できる。始液槽2にはpH計36が設けられている。pH計36により溶解始液のpHを測定できる。始液槽2には液位計37が設けられている。液位計37により始液槽2内の液位を測定できる。
【0030】
図1に示すように、始液槽2の液出口31には給液管54の一端が接続されている。給液管54の他端は溶解槽1の給液口16に接続されている。給液管54には給液ポンプ72が設けられている。給液ポンプ72を駆動させると始液槽2内の溶解始液が溶解槽1に供給される。したがって、始液槽2、給液管54、および給液ポンプ72は、溶解槽1に溶解始液を供給する給液装置を構成する。
【0031】
始液槽2の液入口32には排液管55の一端が接続されている。排液管55の他端は溶解槽1の排液口18に接続されている。排液管55には排液弁63が設けられている。したがって、排液弁63を開けば、溶解槽1で生成された塩化ニッケル水溶液が排液管55を介して始液槽2に排出される。給液管54および排液管55は始液槽2と溶解槽1との間で液を循環させる大循環流路を構成する。
【0032】
溶解槽1のオーバーフロー口17にはオーバーフロー管56の一端が接続されている。オーバーフロー管56の他端は排液管55の排液弁63より下流側(始液槽2側)に接続されている。溶解槽1のオーバーフロー口17からオーバーフローした液はオーバーフロー管56および排液管55を介して始液槽2に排出される。
【0033】
図3に示すように、始液槽2には水添加装置が設けられる。水添加装置は水供給源75、水供給管57、および流量制御弁64を有する。水供給源75として水を貯留する槽、工場内のユーティリティー配管などを用いることができる。水供給管57は水供給源75と始液槽2の水添加口33とを接続する。流量制御弁64は水供給管57に設けられ、始液槽2に対する水の供給量を制御する。
【0034】
水添加装置により始液槽2に水を添加することで、溶解槽1から始液槽2に戻ってきた塩化ニッケル水溶液に水を添加できる。水の添加により、塩化ニッケル水溶液の濃度を調整できる。ここで、撹拌機35による撹拌によって、始液槽2内の塩化ニッケル水溶液の濃度を均一にできる。なお、添加する水として純水を用いれば、塩化ニッケル水溶液への不純物の混入を防止できる。
【0035】
始液槽2には塩酸添加装置が設けられる。塩酸添加装置は塩酸供給源76、塩酸供給管58、および流量制御弁65を有する。塩酸供給源76として塩酸を貯留する槽、工場内のユーティリティー配管などを用いることができる。塩酸供給管58は塩酸供給源76と始液槽2の塩酸添加口34とを接続する。流量制御弁65は塩酸供給管58に設けられ、始液槽2に対する塩酸の供給量を制御する。
【0036】
塩酸添加装置により始液槽2に塩酸を添加することで、溶解槽1から始液槽2に戻ってきた塩化ニッケル水溶液に塩酸を添加できる。塩酸の添加により、塩化ニッケル水溶液のpHを調整できる。ここで、撹拌機35による撹拌によって、始液槽2内の塩化ニッケル水溶液のpHを均一にできる。また、pH計36により塩化ニッケル水溶液のpHを測定できる。
【0037】
図1に示すように、製造設備AAは、生成された塩化ニッケル水溶液を排出する排液装置を有する。排液装置は払出管59および流量制御弁66を有する。払出管59の一端は給液管54の給液ポンプ72より下流側(溶解槽1側)に接続されている。払出管59の他端は終液槽4に接続されている。流量制御弁66は払出管59に設けられている。流量制御弁66を開くと、給液管54を流れる塩化ニッケル水溶液の一部が払出管59を流れ、終液槽4に導かれる。
【0038】
払出管59の途中には調整槽3が設けられている。調整槽3にはニッケル原料が充填されている。溶解槽1で生成された塩化ニッケル水溶液には塩素ガスが溶存している。この塩化ニッケル水溶液を調整槽3に通液すると、塩化ニッケル水溶液に溶存する塩素ガスにより調整槽3内のニッケル原料が浸出される。塩化ニッケル水溶液に溶存する塩素ガスがニッケル原料の浸出に消費されることで、塩化ニッケル水溶液から塩素ガスを除去できる。このようにすることで、還元剤などの薬剤を使用して溶存塩素ガスを除去する場合などと比較して、塩化ニッケル水溶液への不純物の混入を抑制できる。調整槽3に充填されるニッケル原料として電気ニッケルを用いることが好ましい。電気ニッケルは高純度なニッケルであるので、さらに塩化ニッケル水溶液への不純物の混入を抑制できる。調整槽3を通過した塩化ニッケル水溶液は終液槽4に貯留される。
【0039】
(製造方法)
つぎに、本実施形態の塩化ニッケル水溶液の製造方法を説明する。
【0040】
(1)原料装入工程
溶解槽1ではバッチ処理によりニッケル原料Nを塩素浸出して塩化ニッケル水溶液を生成する。
図4の(1)に示すように、バッチ処理開始時に、溶解槽1の蓋13を取り外して、装入口12からニッケル原料Nを装入する。ニッケル原料Nは簀子板15の上に積み上げられた状態となる。ニッケル原料Nの装入後、装入口12を蓋13で閉塞する。そして、装入口12と蓋13との間を水封する。
【0041】
(2)給液工程
つぎに、
図4の(2)に示すように、環集管53の排気弁62を開く。給液ポンプ72を駆動させ、始液槽2内の溶解始液を溶解槽1に供給する(
図1参照)。なお、製造設備AAを初めて稼働させる時など、塩化ニッケル水溶液が全く残留していないときは、始液槽2内の溶解始液は水、好ましくは純水である。バッチ処理を繰り返し行なっている定常操業時は、始液槽2内の溶解始液は前回のバッチ処理で生成された塩化ニッケル水溶液である。
【0042】
溶解始液は給液口16から溶解槽1に供給される。溶解始液の供給により、溶解槽1内の液位が徐々に上昇する。これに伴い、溶解槽1内の気相部の空気が環集管53から排気される。溶解槽1内の液位がオーバーフロー口17の高さに達すると、溶解始液はオーバーフロー口17から排出される。この時点で溶解槽1内に存在していた空気はその大部分が排気される。オーバーフロー口17から排出された溶解始液はオーバーフロー管56および排液管55を介して始液槽2に戻される(
図1参照)。なお、給液口16からの溶解始液の供給はバッチ処理が終了するまで継続する。
【0043】
また、小循環ポンプ71を駆動させ、抜出口19から液を抜き出し、噴射部21から噴射する。この液の循環もバッチ処理が終了するまで継続する。
【0044】
(3)減圧工程
つぎに、
図5の(3)に示すように、環集管53の排気弁62を閉じて、溶解槽1を密閉状態とする。そして、排液弁63を開いて、排液管55を介して溶解槽1内の溶解始液を始液槽2に戻す(
図1参照)。排液管55の排液弁63を開くと、溶解始液は溶解槽1の下部に位置する排液口18から排出される。そのため、溶解槽1内の液位が徐々に低下する。溶解槽1は密閉状態であるため、液位の低下に伴い気相部の圧力が徐々に低下し、負圧となる。このように、溶解槽1を溶解始液で満たした後、溶解槽1を密閉状態として溶解始液の液位を下げることで、溶解槽1の内部を負圧にする。
【0045】
(4)塩素ガス供給工程
排液管55の排液弁63を開くと同時に、またはその直後に、溶解槽1への塩素ガスの供給を開始する。
図5の(4)に示すように、塩素ガスの供給は塩素ガス供給管52の流量制御弁61を開くことで行なわれる。溶解槽1内の液位の低下とともに、塩素ガスを供給することにより、溶解槽1内の気相部が塩素ガス雰囲気となる。塩素ガスの供給はバッチ処理が終了するまで継続する。
【0046】
ここで、塩素ガスの供給量は溶解槽1内の気相部の圧力が予め定められた圧力で一定となる量に制御することが好ましい。溶解槽1内の気相部の圧力は圧力計22により測定できる。制御装置5は圧力計22から測定値を取得し、その測定値が予め定められた圧力で一定となるように流量制御弁61の開度を制御し、塩素ガスの供給量を調整する。例えば、制御装置5は溶解槽1内の気相部の圧力を制御量、塩素ガスの供給量を操作量としたフィードバック制御を行なう。溶解槽1内の気相部の圧力の目標値は、例えば-1~-3kPaの間で定められる。
【0047】
溶解槽1内の液位は排液口18の高さまで低下して、この液位で一定になる。この際、塩素ガス供給管52の開口端(塩素ガスの排出部)の位置は、液面より高くてもよいし、液面と同じでもよいし、液面より低くてもよい。すなわち、塩素ガスは溶解槽1内の気相部に直接供給されてもよいし、溶解槽1内の液中に供給されてもよい。
【0048】
(5)浸出工程
塩素ガスの供給を開始すると、ニッケル原料Nの塩素浸出反応が開始される。溶解槽1内の気相部は塩素ガスで満たされた状態である。また、ニッケル原料Nは噴射部21から噴射された液によって湿潤している。これにより、塩素ガス雰囲気下でニッケル原料Nが液膜で覆われた状態となる。塩素ガスがニッケル原料Nを覆う液に吸収され、ニッケル原料Nの塩素浸出反応が進行し、塩化ニッケル水溶液が生成される。生成された塩化ニッケル水溶液は溶解槽1の下部に一時的に貯留される。この塩化ニッケル水溶液は一部が排液口18から排出され、大循環流路55、54を介して、溶解槽1と始液槽2との間を循環する。また、塩化ニッケル水溶液の他の一部は小循環管51を循環して噴射部21から噴射される。
【0049】
ニッケル原料Nの塩素浸出反応により塩素ガスが消費され、その分溶解槽1内の気相部の圧力が低下する。しかし、溶解槽1内の気相部の圧力に基づき塩素ガスの供給量を制御する場合には、溶解槽1内の気相部の圧力が一定となる量の塩素ガスが供給される。すなわち、塩素浸出反応に消費された量の塩素ガスが新たに供給される。
【0050】
(6)温度調整工程
ニッケル原料Nの塩素浸出反応は発熱反応である。したがって、そのままでは塩素浸出反応の進行にともない、溶解槽1内の塩化ニッケル水溶液の温度が上昇する。しかし、
図2に示すように、塩化ニッケル水溶液が循環する小循環管51には熱交換器73が設けられている。熱交換器73により塩化ニッケル水溶液を冷却できる。熱交換器73により塩化ニッケル水溶液を設備保護の観点から適した温度、例えば50~60℃に調整する。そうすれば、反応熱による温度上昇を抑えることができ、設備を保護できる。
【0051】
(7)水添加工程
溶解槽1内ではニッケル原料Nの塩素浸出反応が連続的に進行する。そのため、塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度が徐々に上昇する。そこで、塩化ニッケル水溶液に水、好ましくは純水を添加して塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を調整することが好ましい。
【0052】
本実施形態では、
図3に示すように、始液槽2に水を添加する。これにより、溶解槽1から始液槽2に戻ってきた塩化ニッケル水溶液に水を添加する。ここで、制御装置5は、塩化ニッケル水溶液への水の添加量を、溶解槽1への塩素ガスの供給量に基づき定めた量に調整することが好ましい。
【0053】
塩素浸出反応に消費される塩素ガスの量と浸出されるニッケルの量との比率は既知である。したがって、水の添加量は塩素ガスの供給量に比例させればよい。具体的には、制御装置5は、塩素ガスの供給量に所定の係数を掛けた値を目標値とし、水の添加量がその目標値となるように水供給管57の流量制御弁64の開度を調整する。
【0054】
水の添加により塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を所望の濃度に調整する。例えば、塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度は130~160g/Lの間で定められた値に調整される。なお、比重計などを用いて塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を定期的に測定し、水の添加量を求めるために塩素ガスの供給量に乗じられる係数を必要に応じて調整してもよい。
【0055】
(8)pH調整工程
塩化ニッケル水溶液に塩酸を添加してpHを調整することが好ましい。本実施形態では、
図3に示すように、始液槽2に塩酸を添加する。ここで、塩化ニッケル水溶液のpHを1~3に調整することが好ましい。始液槽2内の塩化ニッケル水溶液のpHはpH計36により測定できる。制御装置5はpH計36から測定値を取得し、その測定値が予め定められた目標値となるように塩酸供給管58の流量制御弁65の開度を制御し、塩酸の供給量を調整する。例えば、制御装置5は塩化ニッケル水溶液のpHを制御量、塩酸の供給量を操作量としたフィードバック制御を行なう。
【0056】
塩化ニッケル水溶液のpHを1~3に維持すれば、塩化ニッケル水溶液の酸化中和反応が生じることがない。そのため、酸化中和反応により水酸化物および酸化物が生成することを抑制できる。
【0057】
(9)排液工程
水および塩酸の添加により始液槽2内の液位が上昇する。また、始液槽2内にはニッケル濃度およびpHが調整された塩化ニッケル水溶液が貯留された状態となる。この調整済みの塩化ニッケル水溶液を始液槽2から排出する。塩化ニッケル水溶液の排出は排液装置により行なわれる。
【0058】
図1に示すように、排液装置は払出管59および流量制御弁66を有する。給液管54には調整済みの塩化ニッケル水溶液が流れている。流量制御弁66を開くことで、給液管54を流れる塩化ニッケル水溶液の一部を払出管59に流し、終液槽4に導く。
【0059】
ここで、制御装置5は、始液槽2の液位が一定となるように、塩化ニッケル水溶液の排出量を調整することが好ましい。具体的には、始液槽2の液位は液位計37により測定できる。制御装置5は液位計37から測定値を取得し、その測定値が予め定められた値で一定となるように払出管59の流量制御弁66の開度を制御し、塩化ニッケル水溶液の排出量を調整する。例えば、制御装置5は始液槽2の液位を制御量、塩化ニッケル水溶液の排出量を操作量としたフィードバック制御を行なう。このような制御を行なうことにより、生成された量の塩化ニッケル水溶液を排出できる。
【0060】
(10)脱塩素ガス工程
始液槽2から排出された塩化ニッケル水溶液は調整槽3に供給される。調整槽3にはニッケル原料が充填されている。溶解槽1で生成された塩化ニッケル水溶液には塩素ガスが溶存している。この塩化ニッケル水溶液を調整槽3に通液すると、塩化ニッケル水溶液とニッケル原料とが接触し、塩化ニッケル水溶液に溶存する塩素ガスによりニッケル原料が浸出される。塩化ニッケル水溶液に溶存する塩素ガスがニッケル原料の浸出に消費されることで、塩化ニッケル水溶液から塩素ガスを除去できる。調整槽3を通過して溶存塩素ガスが除去された塩化ニッケル水溶液は終液槽4に貯留される。
【0061】
なお、(4)塩素ガス供給工程から(10)脱塩素ガス工程までの各工程は、同時並行で行なわれる。すなわち、ニッケル原料Nの塩素浸出反応の進行とともに、生成された塩化ニッケル水溶液の調整を行ない、生成された分だけ塩化ニッケル水溶液を排出する。
【0062】
(11)原料再装入工程
塩素浸出反応の進行とともに溶解槽1内のニッケル原料Nが減少する。ニッケル原料Nが減少すると塩化ニッケル水溶液との接触面積が小さくなり溶解速度が小さくなる。そこで、溶解槽1内のニッケル原料Nが完全に消費される前に、ある程度のニッケル原料Nが残された状態でバッチ処理を終了して、ニッケル原料Nを再装入することが好ましい。こうすることで、ニッケル原料Nの溶解速度を高く維持でき、塩化ニッケル水溶液の単位時間当たり生産量を向上できる。一方、ニッケル原料Nを再装入するには、溶解槽1内の残留ガスを排出してニッケル原料Nを追装入する作業が発生し、この間は設備の休止時間となる。溶解速度を高く維持するためにニッケル原料Nが多く残された状態を維持しようとすると、再装入の頻度が高くなる。そうすると、設備の休止時間が増え、設備稼働時間率が低下する。
【0063】
そこで、溶解槽1内のニッケル原料Nが規定量まで減少したときに、溶解槽1に新規のニッケル原料Nを装入する。ここで、「規定量」とは、ニッケル原料Nを再装入するタイミングを決定する指標であり、予め定められたニッケル原料Nの残留量を意味する。規定量は、ニッケル原料Nの溶解速度と設備稼働時間率とのバランスを考慮して、塩化ニッケル水溶液の生産効率が最も高くなるように設定することが好ましい。このように、ニッケル原料Nが少なくなったタイミングで新規のニッケル原料Nを装入すれば、ニッケル原料Nの浸出反応、すなわちニッケル原料Nの溶解を高い効率で維持できる。
【0064】
ニッケル原料Nが規定量まで減少したときにバッチ処理を終了する。ここで、バッチ処理開始時に溶解槽1に装入されたニッケルの量はニッケル原料Nの装入量から特定できる。また、塩素浸出反応に消費されたニッケルの量は塩素ガスの消費量から特定できる。したがって、バッチ処理開始時から溶解槽1に供給された塩素ガスの総量(積算供給量)からニッケル原料Nの残量を推定できる。そこで、塩素ガスの積算供給量が基準値に達したときに、ニッケル原料Nが規定量まで減少したと判断すればよい。ここで、基準値はバッチ処理開始時に溶解槽1に装入されたニッケルの量の所定割合(例えば、4割)が消費されるときの塩素ガスの積算供給量として定められる。
【0065】
溶解槽1内のニッケル原料Nが少なくなると、ニッケル原料Nと塩化ニッケル水溶液との接触面積が小さくなる。言い換えれば、塩素浸出反応に関与する固液界面の面積が小さくなる。そうすると、塩素浸出反応が進みにくくなり、塩素ガスの消費量も少なくなる。溶解槽1内の気相部の圧力に基づき塩素ガスの供給量を制御する場合には、塩素ガスの消費量は塩素ガスの供給量から知ることができる。そこで、塩素ガスの供給量が基準値まで低下したときに、ニッケル原料Nが規定量まで減少したと判断してもよい。
【0066】
バッチ処理中の溶解槽1は密閉状態であるため、ニッケル原料Nの残量を視認することは困難である。しかし、以上のように、塩素ガスの積算供給量または塩素ガスの供給量を指標とすることで、ニッケル原料Nを装入するタイミングを容易に判断できる。
【0067】
ニッケル原料Nが規定量まで減少したときに、バッチ処理を終了し、溶解槽1に新規のニッケル原料Nを装入する。具体的には、塩素ガス供給管52の流量制御弁61を閉じて塩素ガスの供給を停止する。つぎに、環集管53の排気弁62を開いて溶解槽1内の塩素ガスを脱ガスする。環集管53から排出された塩素ガスは除害塔に導かれ、除害処理が行なわれる。また、小循環ポンプ71を停止して溶解槽1内の塩化ニッケル水溶液の循環を停止するとともに、給液管54から溶解槽1への溶解始液の供給を停止する。
【0068】
環集管53の排気弁62を開いてから一定時間経過すると、脱ガスが完了する。その後、溶解槽1の蓋13を取り外して、装入口12から新規のニッケル原料Nを装入する。溶解槽1内の塩素ガスを脱ガスするので、ニッケル原料Nの装入作業を安全に行なうことができる。以降は、新たなバッチ処理が行なわれる。すなわち、(2)給液工程から(10)脱塩素ガス工程までの各工程が、繰返し実行される。
【0069】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る塩化ニッケル水溶液の製造方法を説明する。
【0070】
(製造設備)
本実施形態の製造方法は
図6に示す製造設備BBを用いる。製造設備BBは複数(図示の例では3つ)の溶解槽1A、1B、1Cを有する。なお、溶解槽1A、1B、1Cの数は特に限定されず、2つでもよいし、4つ以上でもよい。各溶解槽1A、1B、1Cの構成は第1実施形態の溶解槽1と同様である。
【0071】
製造設備BBは1つの始液槽2を有する。始液槽2の構成は第1実施形態と同様である。複数の溶解槽1A、1B、1Cは、それぞれ、始液槽2と大循環流路で接続されている。すなわち、製造設備BBは複数(溶解槽1A、1B、1Cと同数)の大循環流路を有する。
【0072】
具体的には、給液管54は途中で複数の支管54A、54B、54Cに分岐している。複数の支管54A、54B、54Cは、それぞれ、対応する溶解槽1A、1B、1Cの給液口16に接続されている。また、各支管54A、54B、54Cには流量制御弁67A、67B、67Cが設けられている。流量制御弁67A、67B、67Cの開度により、溶解槽1A、1B、1Cへの溶解始液の流量を調整できる。
【0073】
各溶解槽1A、1B、1Cの排液口18には排液管55A、55B、55Cの一端が接続されている。排液管55A、55B、55Cの他端は、全て、始液槽2の液入口32に接続されている。また、各溶解槽1A、1B、1Cのオーバーフロー口17にはオーバーフロー管56A、56B、56Cの一端が接続されている。オーバーフロー管56A、56B、56Cの他端は対応する排液管55A、55B、55Cに接続されている。
【0074】
上記の大循環流路を介して、溶解槽1A、1B、1Cのそれぞれと始液槽2との間で液が循環する。
【0075】
給液管54には払出管59が接続されている。流量制御弁66を開くと、給液管54を流れる塩化ニッケル水溶液の一部が払出管59を流れ、終液槽4に導かれる。
【0076】
(製造方法)
つぎに、本実施形態の塩化ニッケル水溶液の製造方法を説明する。
溶解槽1A、1B、1Cはそれぞれ第1実施形態と同様の手順でバッチ処理を行なう。すなわち、(1)原料装入工程から(10)脱塩素ガス工程までを行ない、ニッケル原料Nが減少すれば再びニッケル原料Nを装入する。ここで、(1)原料装入工程から(3)減圧工程までの間および(11)原料再装入工程では、塩化ニッケル水溶液が生成されない。これらの工程は、バッチ処理の間の準備工程といえる。
【0077】
そこで、複数の溶解槽1A、1B、1Cにおいて、ニッケル原料Nを装入するタイミングをずらしながらバッチ処理を行なう。そうすると、製造設備BBの操業期間中はいずれかの溶解槽1A、1B、1Cで塩化ニッケル水溶液が生成されることとなる。すなわち、ニッケル原料Nを装入するタイミングをずらしながら複数の溶解槽1A、1B、1Cを運転することにより、塩化ニッケル水溶液を連続的に生産できる。また、塩化ニッケル水溶液の生産速度を平準化することができる。
【0078】
なお、始液槽2および調整槽3は、溶解槽1A、1B、1Cに対して共通であるので、(7)水添加工程から(10)脱塩素ガス工程までの各工程は、共通に行なわれる。
【0079】
〔その他の実施形態〕
上述の実施形態では、溶解槽1内の塩化ニッケル水溶液を小循環管51に循環させ、噴射部21からニッケル原料Nに噴射している。これに代えて、溶解槽1と始液槽2との間の大循環流路を循環する塩化ニッケル水溶液を噴射部21から噴射してもよい。この場合、小循環管51はなくてもよい。また、塩化ニッケル水溶液の温度調整は大循環流路に設けられた熱交換器で行なってもよい。
【0080】
上述の実施形態では、溶解槽1は負圧下で塩素浸出しているが、正圧下で塩素浸出してもよい。いずれの場合でも溶解槽1は気密に維持される。塩素浸出反応が進行している間は、溶解槽1から塩素ガスが排出されることがない。そのため、大規模な塩素ガスの除害装置が不要である。
【0081】
溶解槽1に水を添加して塩化ニッケル水溶液のニッケル濃度を調整してもよい。また、溶解槽1に塩酸を添加して塩化ニッケル水溶液のpHを調整してもよい。すなわち、溶解槽1において塩化ニッケル水溶液の調整を行ない、溶解槽1から調整済みの塩化ニッケル水溶液を排出してもよい。この場合、始液槽2はなくてもよい。
【符号の説明】
【0082】
AA、BB 製造設備
1 溶解槽
12 装入口
15 簀子板
2 始液槽
3 調整槽
4 終液槽
5 制御装置
52 塩素ガス供給管
54 給液管
55 排液管
56 オーバーフロー管