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  • 特開-抗菌・抗ウイルス性ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053195
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240408BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240408BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20240408BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L27/06
C08L23/04
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159294
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】591019656
【氏名又は名称】理研電線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】谷沢 真人
(72)【発明者】
【氏名】白石 誠人
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 滉一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB00W
4J002BB03W
4J002BD03W
4J002BG01X
4J002BH00X
4J002BH01X
4J002BH02X
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA096
4J002DC006
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD170
4J002FD186
4J002FD18X
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】抗菌・抗ウイルス性のための有効成分の含有量が比較的低いながらも、良好な抗菌・抗ウイルス性と良好なケーブル特性とを両立できる抗菌・抗ウイルス性ケーブルを提供すること。
【解決手段】抗菌・抗ウイルス性ケーブルは、ケーブル心線部と、樹脂を含み、前記ケーブル心線部を被覆する被覆部と、を備え、前記樹脂は、カチオンポリマーを含む。前記樹脂は、前記樹脂の100重量部に対して、2.6重量部以上13.6重量部以下の前記カチオンポリマーを含むものでもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル心線部と、
樹脂を含み、前記ケーブル心線部を被覆する被覆部と、
を備え、
前記樹脂は、カチオンポリマーを含む
抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項2】
前記樹脂は、前記樹脂の100重量部に対して、2.6重量部以上13.6重量部以下の前記カチオンポリマーを含む
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項3】
前記樹脂は、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンまたはポリオレフィンである
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項4】
前記ケーブル心線部は、金属または前記金属を含む合金からなる導体を有する
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項5】
前記金属は、銅またはアルミニウムであり、
前記合金は、銅またはアルミニウムを含む合金である
請求項4に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項6】
前記ケーブル心線部は、前記導体に絶縁体を被覆した絶縁心線を有する
請求項4に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項7】
前記ケーブル心線部は、複数の前記絶縁心線を有する
請求項6に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【請求項8】
前記ケーブル心線部は、光ファイバを有する
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス性ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス性ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な菌やウイルスによる汚染が問題化されており、例えば、院内感染等は社会問題化している。これに伴い、抗菌性および抗ウイルス性(以下、抗菌・抗ウイルス性と略記する)に優れた光触媒が注目されている。光触媒は、光の照射を受けることによって触媒作用(具体的には酸化還元作用等)を示し、例えば、特許文献1には、表面処理層に光触媒を含有する抗ウイルス性壁紙が開示されている。光触媒が注目されている。光触媒は、光の照射を受けることによって触媒作用(具体的には酸化還元作用等)を示し、これにより、細菌やウイルス等の有機物を分解して抗菌・抗ウイルス作用を発揮する。例えば、特許文献1には、表面処理層に光触媒を含有する抗ウイルス性壁紙が開示されている。
【0003】
また、電線等のケーブルの分野においては、電力ケーブルや通信ケーブル等、人間と直接または間接的に接触する機会が多い各種ケーブルに抗菌・抗ウイルス性を持たせることが要求されている。特に、病院内で使用される医療機器等のケーブルに抗菌・抗ウイルス性を持たせる要求が高まっている。このような抗菌・抗ウイルス性を有するケーブル(すなわち抗菌・抗ウイルス性ケーブル)として、例えば、特許文献2には、電線被覆材に金属系抗菌剤とポリ塩化ビニルとを含有するものが開示されている。なお、ポリ塩化ビニルは、可塑剤や安定剤等の添加剤を配合することにより、抗菌・抗ウイルス性ケーブルに必要な引張強度等の機械的性質、耐熱性等の物理的性質および絶縁性等の電気的性質(以下、これらの性質を纏めてケーブル特性という)を電線被覆材に付与することが可能な樹脂である。このようなポリ塩化ビニルは、当該電線被覆材の形成樹脂として好適に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6137716号公報
【特許文献2】国際公開第2017/145976号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、樹脂の固形分100重量部に対して4重量部以上の光触媒が含まれることが開示されている。また、特許文献2では、実施例として、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して15重量部以上の金属系抗菌剤が含まれることが開示されている。
【0006】
また一般に、金属系抗菌剤は、銅イオンや銀イオン等の金属イオンを発生させることにより、抗菌・抗ウイルス作用を発揮する。しかし、ケーブル被覆を構成する樹脂に配合される可塑剤や難燃剤の影響で抗菌・抗ウイルス作用が発揮されにくくなる。光触媒も同様に抗菌・抗ウイルス作用が発揮されにくくなる。したがって、金属系抗菌剤や光触媒は相当量を添加しないと効果が出ない場合がある。
【0007】
さらに、金属系抗菌・抗ウイルス剤は、樹脂の中に分散された状態で存在するので、細菌やウイルスが接触しないと効果を発揮されない。
【0008】
また、ケーブルとしての特性(機械的特性、物理的特性、電気的特性など)を満たすためや低コスト化等のためには、抗菌・抗ウイルス性のための有効成分の含有量が比較的低い方が望ましい。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、抗菌・抗ウイルス性のための有効成分の含有量が比較的低いながらも、良好な抗菌・抗ウイルス性と良好なケーブル特性とを両立できる抗菌・抗ウイルス性ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明の一態様は、ケーブル心線部と、樹脂を含み、前記ケーブル心線部を被覆する被覆部と、を備え、前記樹脂は、カチオンポリマーを含む抗菌・抗ウイルス性ケーブルである。
【0011】
前記樹脂は、前記樹脂の100重量部に対して、2.6重量部以上13.6重量部以下の前記カチオンポリマーを含むものでもよい。
【0012】
前記樹脂は、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンまたはポリオレフィンであるものでもよい。
【0013】
前記ケーブル心線部は、金属または前記金属を含む合金からなる導体を有するものでもよい。
【0014】
前記金属は、銅またはアルミニウムであり、前記合金は、銅またはアルミニウムを含む合金であるものでもよい。
【0015】
前記ケーブル心線部は、前記導体に絶縁体を被覆した絶縁心線を有するものでもよい。
【0016】
前記ケーブル心線部は、複数の前記絶縁心線を有するものでもよい。
【0017】
前記ケーブル心線部は、光ファイバを有するものでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルは、抗菌・抗ウイルス性のための有効成分の含有量が比較的低いながらも、良好な抗菌・抗ウイルス性と良好なケーブル特性とを両立できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0021】
カチオンポリマーを含む有機系抗菌・抗ウイルス剤は、カチオンポリマーが、陰イオンを帯びている細菌やウイルスと接触し、細菌の増殖を抑制したり、ウイルスを不活性化し、さらに、界面活性剤の作用で分散が良く、配合が少量でも効果を発揮する。
【0022】
本発明者らは、鋭意検討の結果、抗菌・抗ウイルス性のための有効成分としてカチオンポリマーを用いることによって、有効成分の含有量が比較的低いながらも良好な抗菌・抗ウイルス性と良好なケーブル特性とを両立できることを見出し、本発明に至った。
【0023】
(抗菌・抗ウイルス性ケーブル)
まず、本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルの構成例を示す断面模式図である。図1には、この抗菌・抗ウイルス性ケーブル1の横断面の構造が図示されている。図1に示すように、抗菌・抗ウイルス性ケーブル1は、ケーブル心線部2と、被覆部3とを備えている。
【0024】
ケーブル心線部2は、例えば、図1(a)に示すように、金属または当該金属を含む合金からなる導体である。例えば、当該金属としては、銅またはアルミニウム等が挙げられる。当該合金としては、銅またはアルミニウムを含む合金等が挙げられる。また、ケーブル心線部2は、図1(b)に示すように、導体2aの外周面に絶縁体2bの層を被覆した絶縁心線を有するものでもよい。導体2aは、図1(a)のケーブル心線部2と同様に、銅やアルミニウム等の金属または当該金属を含む合金からなる導体である。絶縁体2bは、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリオレフィン等の樹脂からなるものでもよいし、当該樹脂にカチオンポリマーを配合したものでもよい。また、ケーブル心線部2は、図1(c)に示すように、複数の絶縁心線2cを有するものでもよい。これら複数の絶縁心線2cの各々は、導体の外周面に絶縁体の層を被覆したものである。当該導体は上述の導体2aと同様であり、当該絶縁体は上述の絶縁体2bと同様である。なお、ケーブル心線部2を構成する複数の絶縁心線2cの本数は、図1(c)に示す3本に限らず、図1(d)に示す複数の絶縁心線2dのように2本であってもよいし、4本以上であってもよい。また、図1(d)に示すように、被覆部3が複数の絶縁心線2dを隙間なく囲んでいてもよい。また、ケーブル心線部2は、光ファイバを有するものであってもよい。
【0025】
被覆部3は、樹脂を含み、図1に示すように、ケーブル心線部2を被覆する。詳細には、被覆部3において、当該樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリオレフィンなどの樹脂であり、カチオンポリマーを含む。被覆部3は、図1に示すように、ケーブル心線部2の外周面の全域を覆うように、ケーブル心線部2の長手方向に沿って形成される。以下、被覆部3を構成するポリ塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)と称する。
【0026】
(ポリ塩化ビニル系樹脂(A))
ポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル樹脂)を主成分として含有する。なお、ここでいう主成分とは、対象とする成分中に最も多く含有されている成分である。例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の総重量を100重量部とした場合、ポリ塩化ビニルの含有量は、50重量部以上である。また、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、ポリ塩化ビニルの他に、少なくともカチオンポリマーを含有する。例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、ポリ塩化ビニルの100重量部に対して、2.6重量部以上13.6重量部以下のカチオンポリマーを含有する。以下、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)に含まれるポリ塩化ビニルおよびカチオンポリマーは、それぞれ、ポリ塩化ビニル(B)およびカチオンポリマー(C)と称する。
【0027】
(カチオンポリマー(C))
カチオンポリマー(C)は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)に抗菌・抗ウイルス性を付与する有効成分である。カチオンポリマー(C)は、陰イオンを帯びている細菌やウイルスと接触し、細菌の増殖を抑制したり、ウイルスを不活性化したりすることにより、金属系抗菌剤よりも低い含有量にて良好な抗菌・抗ウイルス性を発揮する。例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)中のカチオンポリマー(C)の含有量は、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、2.6重量部以上13.6重量部以下である。
【0028】
(添加剤)
また、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、カチオンポリマー(C)の抗菌・抗ウイルス性を損なわない範囲において、ケーブル特性を被覆部3に持たせるための添加剤を含有してもよい。当該添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤等が挙げられる。なお、上記ケーブル特性には、抗菌・抗ウイルス性ケーブル1に必要な機械的性質、物理的性質、電気性質等が含まれる。例えば、機械的性質としては、引張強度および伸び性等が挙げられる。物理的性質としては、耐候性、耐熱性および難燃性等が挙げられる。電気的性質としては、絶縁性等が挙げられる。
【0029】
可塑剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の柔軟性を調整するための添加剤である。当該可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、エポキシ化大豆油等が挙げられる。当該可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、5重量部以上100重量部以下である。
【0030】
安定剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の耐熱性および耐候性等を向上させるための添加剤である。例えば、安定剤の添加により、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の成形加工時におけるポリ塩化ビニル(B)の熱分解を防止することができる。当該安定剤としては、例えば、有機錫系化合物、Ca/Zn系化合物、Ba/Zn系化合物等が挙げられる。当該安定剤の含有量は、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、0.1重量部以上5.0重量部以下である。また、紫外線によるポリ塩化ビニル系樹脂(A)の劣化を防止するために紫外線吸収剤を添加したり、酸素によるポリ塩化ビニル系樹脂(A)の劣化を防止するために酸化防止剤を添加したりする場合もある。
【0031】
滑剤は、被覆部3の透明性、艶出し、表面仕上げ等を向上させるためにポリ塩化ビニル系樹脂(A)に含まれる添加剤である。当該滑剤としては、例えば、炭化水素系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸等が挙げられる。当該滑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、0.5重量部以下である。
【0032】
充填剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の増量剤または補強材として含まれる添加剤である。当該充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリコン系化合物等が挙げられる。当該シリコン系化合物としては、タルク等が挙げられる。当該充填剤の含有量は、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、60重量部以下である。
【0033】
着色剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の色付け、すなわち、被覆部3の外観色を調整するための添加剤である。難燃剤は、被覆部3の難燃性を向上させるためにポリ塩化ビニル系樹脂(A)に含まれる添加剤である。当該難燃剤としては、例えば、アンチモン化合物、リン酸エステル等が挙げられる。これらの着色剤および難燃剤は、ケーブル特性に応じて必要量、添加される。
【0034】
ポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、主成分であるポリ塩化ビニル(B)と、抗菌・抗ウイルス性のカチオンポリマー(C)と、必要に応じて添加される上記添加剤とを、上述した含有量となるように配合して混練することにより、合成することができる。このようなポリ塩化ビニル系樹脂(A)を用いて成形加工等することにより、ポリ塩化ビニル(B)と添加剤とによるケーブル特性と、カチオンポリマー(C)による抗菌・抗ウイルス性とを兼ね備えた被覆部3を形成することができる。
【0035】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルでは、ケーブル心線部を被覆する被覆部を、ポリ塩化ビニル(B)とカチオンポリマー(C)とを含有するポリ塩化ビニル系樹脂(A)によって構成し、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)中のカチオンポリマー(C)の含有量を、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して2.6重量部以上13.6重量部以下としている。このため、カチオンポリマー(C)が有する抗菌・抗ウイルス性を維持しつつ、抗菌・抗ウイルス性ケーブルに必要なケーブル特性を前記被覆部に付与することができる。したがって、カチオンポリマー(C)の優れた抗菌・抗ウイルス作用と前記被覆部の良好なケーブル特性とを両立させることが可能な抗菌・抗ウイルス性ケーブルを実現することができる。本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルを用いることにより、電気ケーブルまたは光ファイバケーブルとしての使い易さおよび信頼性の確保を、カチオンポリマーの含有量が比較的低い状態で実現できる。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を示し、本発明について更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0037】
(評価用サンプル)
上述したポリ塩化ビニル(B)とカチオンポリマー(C)と添加剤とを、カチオンポリマー(C)の含有量がポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して、1.3重量部、2.6重量部、5.4重量部、または13.6重量部となるように混練装置に入れて混錬し、カチオンポリマー(C)を含有した複数のポリ塩化ビニル系樹脂(A)を合成した。この際、混練の温度は約155℃とし、混練の時間は20分とした。これら複数のポリ塩化ビニル系樹脂(A)の各々をシート状に成形して硬化し、これにより、上述した抗菌・抗ウイルス性ケーブル1の被覆部3(図1参照)を模擬する、シート状の評価用サンプルを、カチオンポリマー(C)の含有量別に複数作製した。
【0038】
(抗菌性試験)
上述した複数の評価用サンプルの各々について抗菌性試験を行った。この抗菌性試験は、JIS Z 2801「抗菌加工製品-抗菌試験方法・抗菌効果」に準じて行った。なお、細菌として、黄色ブドウ球菌(NBRC12732)および大腸菌(NBRC3972)を用いた。また、リファレンスサンプル(無加工品)は、カチオンポリマー(C)を含有していない以外は評価用サンプルと同様のサンプルとした。
【0039】
表1に、黄色ブドウ球菌に対する、各評価用サンプルの抗菌活性値を示す。表1に示すように、全ての評価用サンプルは、抗菌活性値が2.0以上であり、良好な抗菌性を示した。
【表1】
【0040】
表2に、大腸菌に対する、各評価用サンプルの抗菌活性値を示す。表2に示すように、全ての評価用サンプルは、抗菌活性値が2.0以上であり、良好な抗菌性を示した。
【表2】
【0041】
(抗ウイルス性試験)
上述した複数の評価用サンプルの各々について抗ウイルス性試験を行った。この抗ウイルス性試験は、ISO 21702:2019「Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces」に準じて行った。なお、ウイルスとして、インフルエンザウイルス(ATTC VR-1679)およびネコカリシウイルス(ATTC VR-782)を用いた。また、リファレンスサンプル(無加工品)は、カチオンポリマー(C)を含有していない以外は評価用サンプルと同様のサンプルとした。
【0042】
表3に、インフルエンザウイルスに対する、各評価用サンプルの抗ウイルス活性値を示す。表3に示すように、2.6重量部以上の評価用サンプルは、抗ウイルス活性値が2.0以上であり、良好な抗ウイルス性を示した。
【表3】
【0043】
表4に、ネコカリシウイルスに対する、各評価用サンプルの抗ウイルス活性値を示す。表4に示すように、全ての評価用サンプルは、抗ウイルス活性値が2.0以上であり、良好な抗ウイルス性を示した。
【表4】
【0044】
(引張特性試験)
上述した複数の評価用サンプルの各々について引張特性試験を行った。この引張特性試験は、JIS C 3312「600Vビニル絶縁ビニルキャブタイヤケーブル」に準拠して行った。
【0045】
表5に試験結果を示す。表5において、「原品」とは、加熱前および浸油前の評価用サンプルであることを意味する。「加熱」とは、加熱後の評価用サンプルであることを意味する。「耐油」とは、浸油後の評価用サンプルであることを意味する。表5に示すように、全ての評価用サンプルは、引張強さ、伸び、引張強さ残率、伸び残率について、特性値が規格に合格しており、ケーブルの被覆部の材料として良好な引張特性を示した。ただし、「原品」においては、カチオンポリマー(C)の含有量の増加に応じて引張強さや伸びが低下する傾向が見られた。
【表5】
【0046】
そこで、本発明者らは、別の評価用サンプルとして、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して20重量部という比較的多量の光触媒(D)を含有する評価用サンプルを作製した。光触媒(D)は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)に抗菌・抗ウイルス性を付与するものである。具体的には、光触媒(D)として、酸化チタンと銅化合物とからなるものを用いた。そして、この評価用サンプルについて、上述の抗菌性試験と、JIS R 1756「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス試験方法-バクテリオファージQβを用いる」に準じた抗ウイルス性試験と、JIS C 3005「ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法」に準拠した引張特性試験とを行った。
【0047】
すると、光触媒(D)を比較的多量に含む評価用サンプルについては、抗菌活性値も抗ウイルス活性値も良好であった。ただし、引張特性試験において、引張強度の残率は74%であり、伸びの残率は70%であった。以上より、光触媒(D)を比較的多量に含む評価用サンプルでは、抗菌・抗ウイルス性が有るものの、ケーブルの被覆部の材料として必要な引張特性を維持できない場合があることが確認された。
【0048】
(抗菌・抗ウイルス性ケーブル)
実施例として、JIS C 3312「600Vビニル絶縁ビニルキャブタイヤケーブル」に準拠して、図1(d)に示す構造の抗菌・抗ウイルス性ケーブルを、押し出し成形により作製した。作製した抗菌・抗ウイルス性ケーブルの長さは200mであり、仕上げ外径は8.9mmであった。被覆部の材料として、上述の評価用サンプルのうち、ポリ塩化ビニル(B)の100重量部に対して2.6重量部のカチオンポリマー(C)を含む材料と同じものを用いた。
【0049】
また、比較例として、被覆部にカチオンポリマーを含まない以外は実施例と同じ構成の抗菌・抗ウイルス性ケーブルを作製した。
【0050】
そして、実施例、比較例の抗菌・抗ウイルス性ケーブルまたはその被覆部(シース)に対して、JIS C 3312「600Vビニル絶縁ビニルキャブタイヤケーブル」に準拠した試験を行った。その結果を表6に示す。表6において、「無配合品」とは、被覆部にカチオンポリマーを含まない比較例を意味し、「配合品」とは、被覆部にカチオンポリマーを含む実施例を意味する。また、「特性」として、特性値の種類、または規格を満たす基準を記載している。
【0051】
表6に示すように、実施例の抗菌・抗ウイルス性ケーブルは、引張り特性、加熱特性、耐油特性、巻付加熱特性、低温巻付け特性、加熱変形特性、曲げ特性、難燃特性について、比較例の抗菌・抗ウイルス性ケーブルと同等の特性を有し、かつ規格を満たすことが確認された。
【表6】
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態によって限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。例えば、本発明に係る抗菌・抗ウイルス性ケーブルの横断面形状は、図1に示した円形に限らず、楕円形、矩形、扁平形等、円形以外の形状であってもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 抗菌・抗ウイルス性ケーブル
2 ケーブル心線部
2a 導体
2b 絶縁体
2c、2d 複数の絶縁心線
3 被覆部
図1