(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053255
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】光半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20240408BHJP
H01S 5/12 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
H01S5/026 618
H01S5/12
H01S5/026 616
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159381
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 亘
(72)【発明者】
【氏名】八坂 洋
(72)【発明者】
【氏名】横田 信英
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB14
5F173AD12
5F173AD16
5F173AD30
5F173AH02
5F173AR36
5F173ME58
(57)【要約】
【課題】素子長を長くすることなく、変調領域からの帰還光が制御できるようにする。
【解決手段】この光半導体デバイスは、レーザ領域131と、レーザ領域131に連続して形成されたパッシブ光導波路132と、パッシブ光導波路132に連続して形成された変調領域133とを備える。パッシブ光導波路132は、基板101の上に形成された半導体層104をコアとしている。また、パッシブ光導波路132の上には、ヒータ110が形成されている。ヒータ110により、パッシブ光導波路132の屈折率を変調する変調機構が構成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された第1活性層をコアとする光導波路構造を備える分布帰還型レーザからなるレーザ領域と、
基板の上に形成された半導体層をコアとして前記レーザ領域に連続して形成されたパッシブ光導波路と、
基板の上に形成された第2活性層をコアとする光導波路構造を備えて前記パッシブ光導波路に連続して形成された電界吸収型変調器からなる変調領域と、
前記変調領域の端部に設けられた反射部と、
前記パッシブ光導波路の屈折率を変調する変調機構と
を備える光半導体デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の光半導体デバイスにおいて、
前記変調機構は、前記パッシブ光導波路の上に形成されたヒータから構成されている
ことを特徴とする光半導体デバイス。
【請求項3】
請求項1記載の光半導体デバイスにおいて、
前記変調機構は、前記パッシブ光導波路の半導体層に順バイアスを印加する電極から構成されていることを特徴とする光半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
直接変調半導体レーザは、インターネット技術の爆発的な進展に伴って超大容量の光信号を処理することが不可欠となったデータセンター等に用いられる低コストな高速光信号発生器として、不可欠な光源装置である。直接変調半導体レーザの応答帯域は、緩和振動周波数で制限を受けるため、高速化には緩和振動周波数の増大が必要である。緩和振動周波数frは、半導体レーザの利得定数Ag、キャリア寿命時間τs、および光子寿命時間τpを用いて以下の式で表される。
【0003】
【0004】
このため半導体レーザの応答速度向上に向けて、活性層材料の改良による利得定数の増加や、共振器長の短尺化による光子寿命時間の低減に主眼がおかれてきた。しかし、利得定数は物性定数のため飛躍的な改善は難しく、また共振器長短尺化は素子の発熱の問題で制限を受けるため、応答帯域は40GHz程度に留まっていた(非特許文献1)。
【0005】
緩和振動周波数による帯域制限を打破する技術として、半導体レーザに外部共振器を具備することで、外部共振器からの遅延時間を与えられた帰還光とレーザ発振光との共鳴効果(光子共鳴効果、photon-photon resonance (PPR) effect)によって、応答特性に第2の共鳴状の感度改善領域を出現させることで、帯域拡大を実現する技術が注目を集めている(非特許文献2、非特許文献3)。この技術を用いることで、108GHzの3dB帯域を実現した報告がある(非特許文献4)。
【0006】
これら全ての報告では、半導体材料として利得定数の大きい1.3μm組成の半導体材料が用いられ、利得定数が小さい1.55μm組成の半導体材料では広帯域動作を実現した報告は少ない。
【0007】
1.55μm組成の半導体材料でも超高速な直接変調半導体レーザの実現を可能とする技術として、
図4に示すように、レーザ領域331と変調領域332とを備える光半導体デバイスが提案されている(非特許文献5)。この光半導体デバイスは、例えばn型の化合物半導体からなる基板301の上にレーザ領域331および変調領域332が形成され、レーザ領域331は、レーザ用の活性層302を備え、共振器内に形成された回折格子303によって単一波長で発振する。
【0008】
変調領域332は、光損失変調用の活性層304を備える。また、活性層302、活性層304の上には、p型の化合物半導体からなる半導体層305が形成され、レーザ領域331、変調領域332の各々に、電極308,電極309が形成されている。また、変調領域332の端面には、反射膜306が形成され、変調領域332を外部共振器としている。
【0009】
活性層302への注入電流変調と同時に、外部共振器としても作用する変調領域332の活性層304への注入電流を変調し、変調領域332における光損失を変調している。この技術によれば、超高速な直接変調可能な半導体レーザ光源が実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. Nakahara et al., "112-Gb/s PAM-4 Uncooled (25°C to 85°C) Directly Modulation of 1.3-μm InGaAlAs-MQW DFB BH Lasers with Record High Bandwidth", 45th European Conference on Optical Coμmunication , DOI: 10.1049/cp.2019.1025, ISBN:978-1-83953-185-9, 2019.
【非特許文献2】M. Radziunas et al., "Improving the Modulation Bandwidth in Semiconductor Lasers by Passive Feedback", IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 13, no. 1, pp. 136-142, 2007.
【非特許文献3】T. Uusitalo et al., "Analysis of the photon-photon resonance influence on the direct modulation bandwidth of dual-longitudinal-mode distributed feedback lasers", Optical and Quantum Electronics volume, vol. 49, Article number: 46, 2017.
【非特許文献4】S. Yamaoka et al., "239.3-Gbit/s NET RATE PAM-4 TRANSMISSION USING DIRECTLY MODULATED MEMBRANE LASERS ON HIGH-THERMAL-CONDUCTIVITY SiC", 45th European Conference on Optical Coμmunication, DOI: 10.1049/cp.2019.1022, ISBN:978-1-83953-185-9, 2019.
【非特許文献5】M. Kanno et al., "Measurement of Intrinsic Modulation Bandwidth of Hybrid Modulation Laser", IEEE Photonics Technology Letters, vol. 32, no. 13, pp. 839-842, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した技術では、変調領域332からレーザ領域331に帰還される帰還光の位相に、レーザ領域331で発振される発振光が影響を受けることから、帰還光の制御が必要であった。また、光子共鳴効果による第2の共鳴周波数を帯域拡大にうまく反映するには、レーザ領域331および変調領域332による素子長をある程度長くする必要があり、電極の寄生容量増加に伴うCR時定数による帯域制限が発生することが問題であった。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、素子長を長くすることなく、変調領域からの帰還光が制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光半導体デバイスは、基板の上に形成された第1活性層をコアとする光導波路構造を備える分布帰還型レーザからなるレーザ領域と、基板の上に形成された半導体層をコアとしてレーザ領域に連続して形成されたパッシブ光導波路と、基板の上に形成された第2活性層をコアとする光導波路構造を備えてパッシブ光導波路に連続して形成された電界吸収型変調器からなる変調領域と、変調領域の端部に設けられた反射部と、パッシブ光導波路の屈折率を変調する変調機構とを備える。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、レーザ領域と変調領域との間に、屈折率を変調する変調機構を備えるパッシブ光導波路を設けたので、素子長を長くすることなく、変調領域からの帰還光が制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施の形態に係る光半導体デバイスの構成を示す構成図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施の形態に係る光半導体デバイスの構成を示す断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の実施の形態に係る光半導体デバイスの構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る光半導体デバイスの、E/O応答特性を測定した結果を示す特性図である。
【
図3】
図3は、従来の光半導体デバイスの、E/O応答特性を測定した結果を示す特性図である。
【
図4】
図4は、従来の光半導体デバイスの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る光半導体デバイスについて
図1A、
図1B、
図1Cを参照して説明する。この光半導体デバイスは、レーザ領域131と、レーザ領域131に連続して形成されたパッシブ光導波路132と、パッシブ光導波路132に連続して形成された変調領域133とを備える。なお、
図1Aは、導波方向に平行で基板101に垂直な面の断面を示している。また、
図1Bは、導波方向に垂直な面の断面を示している。
【0017】
レーザ領域131は、基板101の上に形成された第1活性層102をコアとする光導波路構造とされ、第1発生層102が形成されている領域に形成された回折格子103を備える分布帰還型レーザである。第1活性層102は、バンド端波長が1.55μmとなるInGaAlAsからなる量子井戸層による多重量子井戸構造とすることができる。例えば、第1活性層102は、厚さ6nmの井戸層を5層用いた多層量子井戸層とすることができる。レーザ領域131の端部には、反射防止膜111が形成されている。
【0018】
パッシブ光導波路132は、基板101の上に形成された半導体層104をコアとしている。半導体層104は、例えば、InGaAlAsから構成されている。また、パッシブ光導波路132の上には、ヒータ110が形成されている。ヒータ110により、パッシブ光導波路132の屈折率を変調する変調機構が構成されている。
【0019】
変調領域133は、基板101の上に形成された第2活性層105をコアとする光導波路構造とされた電界吸収型変調器である。変調領域133の端部には、反射部107が設けられている。第2活性層105は、バンド端波長が1.43μmとなるInGaAlAsからなる量子井戸層による多重量子井戸構造とすることができる。例えば、第2活性層105は、厚さ6nmの井戸層を5層用いた多層量子井戸層とすることができる。変調領域133は、多重量子井戸構造とした第2活性層105における量子閉じ込めシュタルク効果により、導波する光を変調する。
【0020】
また、レーザ領域131、パッシブ光導波路132、変調領域133の全域において、第1活性層102、半導体層104、第2活性層105の上に、半導体層106が形成されている。半導体層106は、例えば、p型のInPから構成することができる。なお、基板101は、n型のInPから構成することができる。基板101は、下部クラッド層として機能させ、半導体層106は、上部クラッド層として機能させることができる。また、図示していないが、基板101の裏面に各領域に共通して電極を形成することができる。
【0021】
また、レーザ領域131、パッシブ光導波路132、変調領域133は、導波方向に延在するリッジ(ストライプ)形状に形成され、側面が埋め込み絶縁層112により埋め込まれている(埋め込み導波路構造)。埋め込み絶縁層112は、例えば、誘電率の低い樹脂であるBCB(Benzocyclobutene)から構成することができる。
【0022】
また、レーザ領域131の半導体層106上には、第1電極108が形成され、変調領域133の半導体層106上には、第2電極109が形成されている。なお、ヒータ110は、パッシブ光導波路132の半導体層106上に形成されている。第1電極108によりレーザ領域131に電流を注入してレーザを発振させる。また、第2電極109により変調領域133に逆バイアスを印加することで、導波する光(レーザ光)を強度変調する。また、反射部107が形成されている変調領域133を外部共振器とし、この外部共振器からの遅延時間を与えられた帰還光とレーザ発振光との光子共鳴効果によって帯域を拡大させることができる。
【0023】
また、ヒータ110に電圧を印加して発熱させることで、パッシブ光導波路132の温度を制御する。ヒータ110へ印加する電圧を制御することで、熱光学効果によってパッシブ光導波路132の屈折率を制御することで、最適な帰還光位相を得ることができる。光出力は、レーザ領域131の反射防止膜111が形成されている端部より放射される。
【0024】
上述した実施の形態に係る光半導体デバイスの、E/O応答特性(周波数応答特性)を測定した結果を
図2に示す。レーザ領域131の長さを150μm、パッシブ光導波路132の長さを250μm、変調領域133の長さを70μmとし、デバイスの全長を470μmとした。この条件において、光子共鳴効果の周波数は、150GHz程度となる。また、埋め込み絶縁層112をBCBから構成したことにより、電極の寄生容量を0.03pF以下に低減することができる。
【0025】
図2に示すように、高次のピークを誘起することにも成功して、約280GHzで3dB帯域(E/O)が実現されている。
【0026】
このような高次ピークの誘起を従来の光半導体デバイスで実現するためには、レーザ領域と変調領域の長さを、上述した長さの3倍程度とする必要がある。このように素子長を長くすると、電極における寄生容量が増加し、CR時定数が増大するため、
図3に示すように、応答帯域が制限を受け、3dB帯域(E/O)が得られる周波数が、1/3程度の100GHzほどにまで低減してしまう。また、
図3に示す結果を得るためには、帰還光の位相を最適な条件にするために素子温度およびレーザ領域へのDC注入電流量を制御する必要がある。これに対し、実施の形態によれば、ヒータ110への電圧を調整することで容易に最適動作点での動作が確認できた。
【0027】
なお、3dB帯域(E/O)が得られる周波数を200GHz以上とするためには、レーザ領域131の長さを100~150μm、パッシブ光導波路132の長さを50~250μm、変調領域133の長さを50~100μmの範囲とし、全素子長が所望の光子共鳴効果周波数となるように設計する必要があることが確認されている。
【0028】
ところで、レーザ領域131に用いる回折格子103は、均一とすることができるが、位相シフト型回折格子を導入して、位相シフト量および位相シフト位置を制御しても同様の特性を得ることができる。また、上述では、ヒータ110による加熱(熱光学効果)でパッシブ光導波路132の屈折率を制御したが、これに限るものではない。パッシブ光導波路132の屈折率を変調する変調機構は、パッシブ光導波路132の半導体層104に順バイアスを印加する電極から構成することができる。この電極を用いて電流注入構成とすることで、キャリアプラズマ効果による屈折率制御を行える構造としても同様の効果を得ることができることも言うまでもない。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、レーザ領域と変調領域との間に、屈折率を変調する変調機構を備えるパッシブ光導波路を設けたので、素子長を長くすることなく、変調領域からの帰還光が制御できるようになる。
【0030】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0031】
101…基板、102…第1活性層、103…回折格子、104…半導体層、105…第2活性層、106…半導体層、107…反射部、108…第1電極、109…第2電極、110…ヒータ、111…反射防止膜、131…レーザ領域、132…パッシブ光導波路、133…変調領域。