(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005332
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】集塵方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20240110BHJP
B03C 3/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B03C3/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105472
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 萌
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲宏
【テーマコード(参考)】
4D054
5F131
【Fターム(参考)】
4D054AA01
4D054BA01
4D054BC28
4D054BC40
4D054GA08
4D054GB10
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131BA23
5F131CA12
5F131HA12
5F131HA25
(57)【要約】
【課題】真空チャンバ内のパーティクルを安定して集塵できる集塵方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも表面が絶縁物で覆われたものを集塵用搬送物Gsとし、大気雰囲気中にてイオナイザにより集塵用搬送物の表面を正または負の電位に帯電させる。このとき帯電電位をパッシェンの法則より定められる放電開始電位より低い電位に設定する(帯電工程)。帯電した状態の集塵用搬送物を真空雰囲気の真空チャンバLc、Pc1~Pc3に搬送してその内部に存するパーティクルを集塵用搬送物に付着させる(集塵工程)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロードロックチャンバと真空処理チャンバとを有して、大気雰囲気の前記ロードロックチャンバに処理対象物を搬入し、前記ロードロックチャンバを真空雰囲気にした後に真空雰囲気の前記真空処理チャンバに搬送して、前記処理対象物に対して真空処理を施すことができる真空処理装置にて、真空雰囲気の前記真空処理チャンバ内に存するパーティクルを集塵するための集塵方法において、
少なくとも表面が絶縁物で覆われたものを集塵用搬送物とし、大気雰囲気中にて前記集塵用搬送物を正または負の電位に帯電させ、このときの帯電電位をパッシェンの法則より定められる放電開始電位より低い電位に設定する帯電工程と、
正または負の電位に帯電した状態の前記集塵用搬送物を真空雰囲気の前記真空処理チャンバ内に搬送して、その内部に存するパーティクルを前記集塵用搬送物に付着させる集塵工程とを含むことを特徴とする集塵方法。
【請求項2】
前記帯電工程にて、前記集塵用搬送物を正または負のいずれか一方の電位に帯電させたものを第1搬送物と、正または負のいずれか他方の電位に帯電させたものを第2搬送物とし、前記集塵工程にて第1搬送物と第2搬送物とを搬送する工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の集塵方法。
【請求項3】
前記集塵用搬送物の帯電に、ロードロックチャンバに配置したイオナイザを用い、前記イオナイザによりプラスイオンまたはマイナスイオンを前記集塵用搬送物の表面に吹き付けて帯電させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の集塵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵方法に関し、より詳しくは、真空処理装置を構成する真空処理チャンバ内のパーティクルを効率よく集塵できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイや半導体装置などの製造工程においては、ガラス基板やシリコンウエハといった処理対象物(以下、単に「基板」という)に対し、真空雰囲気中で成膜処理、熱処理やエッチング処理といった各種の真空処理を真空雰囲気中で一貫して施すことができる真空処理装置が広く用いられている。このような真空処理装置は、一般に、ロードロックチャンバと少なくとも1個の真空処理チャンバとを有する。そして、他のチャンバから縁切りされた状態で大気雰囲気のロードロックチャンバに基板を搬入し、ロードロックチャンバを所定圧力まで真空排気した後に、真空雰囲気の真空処理チャンバに搬送し、基板に対して各真空処理を施すことができる。各種の真空処理が施された処理済みの基板は、ロードロックチャンバに再度搬送され、他のチャンバから縁切りされた状態でベントラインを介して例えば不活性ガスとしての窒素ガス(または、所謂ドライエア)を導入して大気雰囲気に戻した後に、ロードロックチャンバから回収される。
【0003】
ところで、真空処理装置の初期設置後や、メンテナンスなどに伴う真空処理装置の再稼働後においては、真空処理チャンバ内に微細なパーティクルが浮遊している場合が多い。また、真空処理装置の稼働中には、真空処理チャンバ内に存する防着板などの部品表面からの剥離物や、ゲートバルブなどの可動部品の作動に伴って発生する摩耗粉といったパーティクルが浮遊する場合がある。このようなパーティクルは、製品歩留まりを低下させる要因となるため、可及的に速やかに排除することが必要になる。
【0004】
このようなパーティクルの集塵方法は、例えば特許文献1で知られている。このものは、表面に粘着層が有するガラス基板を集塵用搬送物とし、真空処理チャンバに搬送する前に集塵用搬送物を帯電させ、この帯電したものを真空処理チャンバに搬入することで、浮遊するパーティクルを粘着層に付着させて集塵している。真空処理チャンバ内に浮遊するパーティクルを効率よく集塵するには、集塵用搬送物が可及的に高電位に帯電されていることが好ましい。然し、大気雰囲気中で事前に帯電させた集塵用搬送物をロードロックチャンバに搬送して設置し、ロードロックチャンバを所定圧力まで真空排気した後に、真空処理チャンバに搬送しても(以降、このように基板や集塵用搬送物が搬送される経路を「搬送経路」という)しても、パーティクルを効率よく集塵しない場合があることが判明した。
【0005】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、次のことを知見するのに至った。即ち、例えば、ロードロックチャンバや各真空処理チャンバには、搬送ロボットにより基板の受け渡しや処理時の基板保持のために基板ステージが一般に設けられ、基板ステージの周辺には、処理時に電極として機能する部品が存することがあるばかりか、ロードロックチャンバや各真空処理チャンバの壁面もまた、通常はアース接地されていることで電極として機能する。また、真空処理装置の小型化に伴い、搬送経路では、チャンバ壁面やゲートバルブの部品といった電極として機能し得る部品に近接した状態で基板が搬送される箇所もある。しかも、ロードロックチャンバを所定圧力まで真空排気するといっても、帯電した集塵用搬送物の搬送を開始するときの圧力が常時一定になっているとも限らない。このため、集塵用搬送物を帯電させたときの電位によっては、搬送経路に沿って搬送されるまでの間に火花放電が発生して除電され、しかも、除電された後の帯電量が安定しないことを起因することを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の知見を基になされたものであり、真空チャンバ内のパーティクルを安定して集塵することができる集塵方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、ロードロックチャンバと真空処理チャンバとを有して、大気雰囲気の前記ロードロックチャンバに処理対象物を搬入し、前記ロードロックチャンバを真空雰囲気にした後に真空雰囲気の前記真空処理チャンバに搬送して、前記処理対象物に対して真空処理を施すことができる真空処理装置にて、真空雰囲気の前記真空処理チャンバ内に存するパーティクルを集塵するための本発明の集塵方法は、少なくとも表面が絶縁物で覆われたものを集塵用搬送物とし、大気雰囲気中にて前記集塵用搬送物を正または負の電位に帯電させ、このときの帯電電位をパッシェンの法則より定められる放電開始電位より低い電位に設定する帯電工程と、正または負の電位に帯電した状態の前記集塵用搬送物を真空雰囲気の前記真空処理チャンバ内に搬送して、その内部に存するパーティクルを前記集塵用搬送物に付着させる集塵工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明者らは、特定のガス種(窒素ガス)におけるパッシェンの法則に着目して鋭意研究を重ね、火花放電の生じる火花電圧V(放電開始電位)がガス圧p(Pa)と電極間距離d(m)との積の関数V=f(pd)で表されることから、搬送経路における圧力とこの搬送経路中の集塵用搬送物と電極との間の電極間距離とに基づき、パッシェンの法則より定められる放電開始電位(火花電圧V)より低い正または負の電位に集塵用搬送物を大気雰囲気中で帯電させる構成を採用すれば、真空雰囲気の真空処理チャンバに搬送されるまでの間で火花放電が発生して除電されることなく、その帯電電位を維持したまま真空処理チャンバまで搬送されることを見出した。これにより、真空チャンバ内のパーティクルを安定して集塵することができる。
【0010】
なお、集塵用搬送物を帯電させるときの電位について、例えば、大気中の主成分である窒素ガスでのパッシェンの法則における放電開始電位の下限値より僅かに低い電位に設定しておけば、パーティクルを集塵しようとする真空処理装置の構成(つまり、搬送経路における圧力や電極間距離)に関係なく、常に、帯電電位を維持したまま真空処理チャンバまで搬送してパーティクルを安定して且つ効率よく集塵することができ、有利である。また、真空処理チャンバ内で各種の真空処理を実施する場合、アルゴンガスやヘリウムなどの希ガスが用いられることがあるが、この種のガスでは、パッシェンの法則より定められる放電開始電位は極めて低く、真空雰囲気の真空処理チャンバ内における希ガスの分圧によっては、直ぐに火花放電が発生してしまう。このため、本発明においては、集塵工程を実施する間、真空処理装置の各チャンバには何らのガスも導入しない状態とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記帯電工程にて、前記集塵用搬送物を正または負のいずれか一方の電位に帯電させたものを第1搬送物と、正または負のいずれか他方の電位に帯電させたものを第2搬送物とし、前記集塵工程にて第1搬送物と第2搬送物とを搬送する工程を更に含むことが好ましい。これによれば、例えば、正の電位に帯電させた第1搬送物を搬送すれば、C(炭素)、O(酸素)、F(フッ素)、AlOx(酸化アルミニウム)、Fe(鉄化合物)といった負の電位を持つパーティクルを集塵できる一方で、負の電位に帯電させた第2搬送物を搬送すれば、Si(シリコンやガラス材料)系やSUS(ステンレス鋼)系といった正の電位を持つパーティクルを集塵でき、パーティクルをより一層効率よく集塵できる。なお、本発明者らの鋭意研究によれば、何らかの要因で、本来、負の電位を持つパーティクルが正に帯電し、または、本来、正の電位を持つパーティクルが負に帯電する場合があることから、第1搬送物と第2搬送物とを搬送する上記構成を採用すれば、より安定して効果的にパーティクルを集塵することができ、有利である。
【0012】
ところで、真空処理チャンバ内で基板に対して真空処理を施す際に、正または負の電位に帯電した状態の基板(生産に用いられるもの)が真空処理チャンバ内に搬送されると、真空処理チャンバ内のパーティクルが基板に静電吸着するといった不具合が生じる。このため、イオナイザ等の除電手段を設け、基板に対して除電処理を施した後、ロードロックチャンバ内に搬入することが一般である。本発明においては、前記集塵用搬送物の帯電に、ロードロックチャンバに配置したイオナイザを用い、前記イオナイザによりプラスイオンまたはマイナスイオンを前記集塵用搬送物の表面に吹き付けて帯電させることが好ましい。これによれば、基板を除電するために設けられるイオナイザを集塵用搬送物の帯電に利用することができるため、帯電用の装置を別途設けることなく、従来の真空処理装置をそのまま利用でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の集塵方法が実施される真空処理装置の平面図。
【
図2】本発明の集塵方法が実施される真空処理装置の断面図。
【
図3】集塵用搬送物を帯電させるときの電位の設定を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、処理対象物をガラス基板(以下、単に「基板Gs」という)、集塵用搬送物を生産に利用しないガラス製のダミー基板Dmとし、基板Gsに対する真空処理をスパッタリング法による成膜処理とした真空処理装置にて本発明の集塵方法を適用した場合を例にその実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図2を基準として説明する。
【0015】
図1を参照して、Cmは、本発明の集塵方法を適用できる所謂クラスターツール式の真空処理装置である。真空処理装置Cmは、真空搬送ロボットR
1が配置される搬送チャンバTcと、この搬送チャンバTcを囲うようにゲートバルブGv1~Gv4を介して夫々配置されるロードロックチャンバLc及び各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3とを備える。真空搬送ロボットR
1としては、例えば、ロボットアーム10aと、ロボットアーム10aの先端に設けられて基板Gsを保持するロボットハンド10bとを有する所謂フロッグレッグ式の公知のものを用いることができ、また、ゲートバルブGv1~Gv4としては、弁箱に弁体を格納した公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0016】
搬送チャンバTc、ロードロックチャンバLc、各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3には、図示省略の真空ポンプユニットに通じる排気管が夫々接続されると共に、ベントバルブ(図示せず)が取り付けられ、例えば、窒素ガスを導入して大気雰囲気に戻すことができる。比較的小容積のロードロックチャンバLcの外壁面には開閉扉Drが備えられ、開閉扉Drを通して、ロボットハンド11を有する大気搬送ロボットR2により処理面を上方に向けた姿勢で大気雰囲気のロードロックチャンバLcに基板Gsを搬入し、または、ロードロックチャンバLcから処理済みの基板Gsを搬出することができる。
【0017】
ロードロックチャンバLcの外壁面には、
図2に示すように、大気搬送ロボットR
2により搬送される基板Gsに対向させてイオナイザInが設けられている。イオナイザInは、基板Gsに対してプラスイオンまたはマイナスイオンを照射することで基板Gsを除電するものであり、後述のダミー基板Dmを帯電させることにも利用される。イオナイザInとしては、公知のものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。イオナイザInの設置位置は、これに限定されるものではなく、例えば、イオナイザInをロードロックチャンバLc内に設置することもできる。
【0018】
各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3は、スパッタリング装置の構成要素となるものである。特に図示して説明しないが、各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3の上壁部には、ターゲットを有するカソードユニットが夫々配置されると共に、アルゴンガスなどの希ガスや窒素ガスなどの反応ガスを導入するためのガス導入手段が設けられ、ターゲットをスパッタリングすることで、ターゲットから飛散するスパッタ粒子を基板Gsの成膜面に付着、堆積させて所定の薄膜を成膜することができる。
【0019】
上記真空処理装置Cmにより基板Gsに対する真空処理を施す場合、大気搬送ロボットR2により基板Gsが、処理面を上方に向けた姿勢で大気雰囲気のロードロックチャンバLc内に搬入される。このとき、互いに隔絶された搬送チャンバTc及び各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3は、所定圧力(例えば1×10-5Pa)まで真空排気された状態となっている。ロードロックチャンバLc内が所定圧力まで真空排気されると、ゲートバルブGv1を開け、真空搬送ロボットR1によりロードロックチャンバLc内の基板Gsを受け取り、基板Gsに対して第1の薄膜を成膜する第1の真空処理チャンバPc1へと搬送し、ステージSt上に設置する。この状態でゲートバルブGv2を閉め、第1の真空処理チャンバPc1が所定圧力に対すると、スパッタリング法により基板Gsに対して第1の薄膜が成膜される。
【0020】
次に、真空搬送ロボットR1により第2、第3の真空処理チャンバPc2,Pc3に基板Gsを順次搬送して第2、第3の薄膜を成膜した後、ロードロックチャンバLcへと搬送される。最後に、ロードロックチャンバLc内が大気雰囲気に戻された後、処理済みの基板Gsが大気搬送ロボットR2により回収される。このように本実施形態では、搬送チャンバTcを介してロードロックチャンバLcと各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3との間で、または、各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3相互の間で真空搬送ロボットR1によって基板Gsが搬送される経路(搬送経路)があり、このとき、例えば、ゲートバルブGv1~Gv4の弁箱内を基板Gsが通過する際には、弁箱内壁面や弁体といった電極として機能し得る部品に近接した状態で基板Gsが通過することになる。
【0021】
ところで、真空処理装置Cmの初期設置後や、ターゲットや防着板(図示せず)の交換といったメンテナンスなどに伴う真空処理装置Cmの再稼働後においては、各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3内に微細なパーティクルが浮遊している場合が多い。また、真空処理装置Cmの稼働中には、各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3内に存する防着板(図示省略)などの部品表面からの剥離物や、ゲートバルブGv1~Gv4などの可動部品の作動に伴って発生する摩耗粉といったパーティクルが浮遊する場合がある。このため、複数枚の基板Gsに対して成膜処理を施すのに先立って、または、複数枚の基板Gsに真空処理を施す途中でパーティクルを除去することが実施される。以下に、上記真空処理装置Cmの真空雰囲気の各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3内に存するパーティクルをダミー基板Dmに付着させて集塵する本実施形態の集塵方法を具体的に説明する。
【0022】
絶縁性のガラス基板であるダミー基板Dmを準備する。ダミー基板Dmとしては、イオナイザInで少なくとも上面を正または負の電位に帯電させることができるものであれば、これに限定されるものではなく、例えば、その表面に絶縁物が成膜処理されたものを用いることができる。搬送チャンバTcから縁切りされた大気雰囲気のロードロックチャンバLcの開閉扉Drを開け、大気搬送ロボットR2によりダミー基板Dmがその絶縁面を上にした姿勢でロードロックチャンバLc内に搬入される。ダミー基板DmがイオナイザInの下方を通過するときには、イオナイザInによって例えばプラスイオンがダミー基板Dmの上面にその全面に亘って吹き付けられる。これにより、ダミー基板Dmの上面が正または負の所定電位に帯電する(帯電工程)。
【0023】
ここで、ロードロックチャンバLcの大気開放には、窒素ガスを利用することで大気雰囲気のロードロックチャンバLc内は、通常、窒素リッチな状態である。これに着目して、窒素ガスにおけるパッシェンの法則から、放電開始電位(火花電圧V)がガス圧p(Pa)と電極間距離d(m)との積の関数V=f(pd)で表され、パッシェン曲線Cpが
図3のようになる。このとき、パッシェン曲線Cpを境に、パッシェン曲線Cpより上側に位置する領域E1が「火花放電領域」、パッシェン曲線Cpより下側に位置する領域E2が「非火花放電領域」となり、ガス圧と電極間距離との積に対する火花電圧の変曲点が放電開始電位の下限値(Lp)となる(±500V)。
【0024】
そこで、ダミー基板Dmを帯電させるときの電位は次のように設定することとした。即ち、ダミー基板Dmの種類、大気雰囲気のロードロックチャンバLcを真空排気するときの圧力(即ち、ロードロックチャンバLcから各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3へのダミー基板Dmの搬送を開始するときの設定圧力)や、集塵工程時における各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3の圧力といった真空処理装置Cmの搬送経路における圧力と、搬送経路中におけるダミー基板Dmと電極との電極間距離とを考慮して、常に領域E2内に存し且つパッシェン曲線Cpに可及的に近接するようにダミー基板Dmの帯電電位を設定することとした。本実施形態では、どのような構成の真空処理装置Cmにも適用できるように、放電開始電位の下限値(Lp)より僅かに低い正の電位(+500V)に帯電させるようにした。
【0025】
上記プラス電位に帯電させたダミー基板DmがロードロックチャンバLc内に搬入されると(以下、最初に搬入されるダミー基板Dmを第1搬送物とする)、開閉扉Drを閉じ、図示省略の真空ポンプによりロードロックチャンバLc内を所定圧力(例えば1Pa)に真空排気する。このとき、放電開始電位の下限値(Lp)より僅かに低い正の電位(+500V)に帯電させているため、除電されるといった不具合は生じない。ロードロックチャンバLc内が所定圧力まで真空排気されると、ゲートバルブGv1を開け、真空搬送ロボットR1によりロードロックチャンバLc内のダミー基板Dmを受け取り、第1の真空処理チャンバPc1へと搬送し、ステージSt上に一旦設置する。この状態でゲートバルブGv2を閉めて所定時間放置する。これにより、第1の真空処理チャンバPc1内に浮遊する、主にマイナスに帯電したパーティクルがダミー基板Dm表面に付着して集塵される。なお、第1の真空処理チャンバPc1へと搬送した後、ステージSt上に一旦設置することなく、第2の真空処理チャンバPc2へと搬送してもよい。
【0026】
次に、ゲートバルブGv2,Gv3を夫々開け、真空搬送ロボットR1により第1の真空処理チャンバPc1内のダミー基板Dmを受け取り、第2の真空処理チャンバPc2へと搬送し、ステージSt上に一旦設置する。この状態でゲートバルブGv2,Gv3を閉めて所定時間放置し、同様に、第2の真空処理チャンバPc2内に浮遊する、主にマイナスに帯電したパーティクルがダミー基板Dm表面に付着して集塵される(集塵工程)。この一連の操作を繰り返し、ダミー基板DmをロードロックチャンバLcまで搬送する。最後に、ロードロックチャンバLc内が大気雰囲気に戻された後、ダミー基板Dmが大気搬送ロボットR2により回収される。このとき、イオナイザInの下方をダミー基板Dmが通過する際には、イオナイザInによって例えばマイナスイオンをダミー基板Dmの上面にその全面に亘って吹き付けて、ダミー基板Dmの上面を除電するようにしてもよい。また、大気搬送ロボットR2により回収されたダミー基板Dmは、洗浄した後、ダミー基板Dmとして再利用することができ、または、プリスパッタリング(pre-sputtering)用のダミー基板Dmとして利用することもできる。
【0027】
第1搬送物としてのダミー基板Dmが第1の真空処理チャンバPc1に搬送された後、大気雰囲気に戻したロードロックチャンバLcでは、開閉扉Drを開けて、大気搬送ロボットR2により次のダミー基板Dmがその絶縁面を上にした姿勢でロードロックチャンバLc内に搬入される。イオナイザInの下方をダミー基板Dmが通過する際には、イオナイザInによって、第1搬送物とは逆電位に帯電するようにマイナスイオンをダミー基板Dmの上面にその全面に亘って吹き付ける(これを「第2搬送物」とする)。そして、第2搬送物としてのダミー基板Dmが搬入されると、開閉扉Drを閉じた後、図示省略の真空ポンプによりロードロックチャンバLc内を所定圧力に真空排気し、第2搬送物としてのダミー基板Dmが第1~第3の各真空処理チャンバPc1~Pc3に順次搬送される。これにより、第1~第3の各真空処理チャンバPc1~Pc3内に夫々浮遊する、主にプラスに帯電したパーティクルがダミー基板Dm表面に付着して集塵される(集塵工程)。第1搬送物及び第2搬送物としてのダミー基板Dmの搬送は複数回繰り返すことができる。
【0028】
以上の実施形態によれば、搬送経路において各ダミー基板Dmが搬送される間、火花放電が生じず、しかも、最初の帯電電位を維持した状態で各ダミー基板Dmが各真空処理チャンバPc1,Pc2,Pc3内に搬送される。言い換えると、搬送経路においてダミー基板Dmが除電され、また、そのときの除電量が変化するといったことがないため、第1~第3の各真空処理チャンバPc1~Pc3内に浮遊するパーティクルを安定して効率よく集塵することができる。また、互いに極性の異なる第1搬送物及び第2搬送物を交互に少なくとも1回搬送することで、例えば、正の電位に帯電させた第1搬送物を搬送すれば、C(炭素)、O(酸素)、F(フッ素)、AlOx(酸化アルミニウム)、Fe(鉄化合物)といった負の電位を持つパーティクルを集塵できる。一方で、負の電位に帯電させた第2搬送物を搬送すれば、Si(シリコンやガラス材料)系やSUS(ステンレス鋼)系といった正の電位を持つパーティクルを集塵でき、パーティクルをより一層効率よく集塵できる。しかも、ダミー基板Dmの帯電に、ロードロックチャンバLcに配置したイオナイザInを用いることで、帯電用の装置を別途設けることなく、従来の真空処理装置をそのまま利用でき、有利である。
【0029】
次に、上記効果を確認するために、以下の実験を行った。本実験では、特に図示して説明しないが、所定容積の真空チャンバを用い、真空チャンバ内の底面に、絶縁体で支持された金属製の帯電プレートを設置した。そして、大気雰囲気の真空チャンバ内でイオナイザにより帯電プレート表面を+1000Vに帯電させた後、真空チャンバ内を約1Paの圧力まで真空排気した。このときの帯電プレート表面の電位をモニタすると、約400Vまで電位が低下していた。次に、真空チャンバ内に窒素ガスを導入し、真空チャンバ内を大気雰囲気に戻した後、更に、真空チャンバ内を1Paの圧力まで真空排気した。その間、帯電プレート表面の電位をモニタすると、大きな電位の変化は見られないことが確認された。これから、パッシェンの法則より定められる放電開始電位より低い電位に帯電させておけば、火花放電が発生して除電されることなく、その帯電電位を維持できることが確認された。このことは、帯電プレート表面を-1000Vに帯電させた場合も同様であった。
【0030】
次に、大気雰囲気の真空チャンバ内でイオナイザにより帯電プレート表面を+1000Vに帯電させた後、真空チャンバ内を上記実験より更に低い圧力まで真空排気し、このときの帯電プレート表面の電位をモニタすると、400Vより更に低い電位まで低下することが確認された。これから、真空排気するときの圧力によっては、除電された後の帯電量が安定しないことが確認された。また、真空チャンバ内を約1Paの圧力まで真空排気した後、アルゴンガスを一定の流量で真空チャンバ内に導入したところ、数秒で帯電プレート表面が除電されてしまった。これにより、集塵を実施する際には、真空チャンバには何らのガスも導入しない状態とすることが好ましいことが判る。
【符号の説明】
【0031】
Cm…真空処理装置、In…イオナイザ、Lc…ロードロックチャンバ、Pc1~Pc3…真空処理チャンバ、Gs…基板(処理対象物)、Dm…ダミー基板(集塵用搬送物)、Cp…パッシェン曲線。