(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053446
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240408BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240408BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240408BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240408BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240408BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240408BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/44 101A
C22B3/44
C22B23/00 102
C22B26/12
C22B47/00
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159742
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 淳一
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA11
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB22
4K001DB23
4K001GA07
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池廃棄物から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を金属塩として有効に回収することができる金属回収方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池廃棄物の電池粉から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を含む金属を回収する方法であって、前記電池粉を酸で浸出させ、前記一種以上の対象金属が溶解した浸出後液としての金属含有溶液を得る浸出工程と、前記金属含有溶液のpHを上昇させ、前記一種以上の対象金属を含む中和残渣を得る中和工程とを含み、前記中和残渣を前記浸出工程で前記電池粉とともに浸出させ、前記浸出工程及び前記中和工程を含む一連の工程を繰り返すことにより、前記金属含有溶液中の前記一種以上の対象金属の濃度を上昇させ、前記浸出工程の後で前記中和工程の前に、前記金属含有溶液から前記一種以上の対象金属を析出させ、前記一種以上の対象金属を含む金属塩を得る晶析工程をさらに含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池廃棄物の電池粉から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を含む金属を回収する方法であって、
前記電池粉を酸で浸出させ、前記一種以上の対象金属が溶解した浸出後液としての金属含有溶液を得る浸出工程と、前記金属含有溶液のpHを上昇させ、前記一種以上の対象金属を含む中和残渣を得る中和工程とを含み、
前記中和残渣を前記浸出工程で前記電池粉とともに浸出させ、前記浸出工程及び前記中和工程を含む一連の工程を繰り返すことにより、前記金属含有溶液中の前記一種以上の対象金属の濃度を上昇させ、
前記浸出工程の後で前記中和工程の前に、前記金属含有溶液から前記一種以上の対象金属を析出させ、前記一種以上の対象金属を含む金属塩を得る晶析工程を含む金属回収方法。
【請求項2】
前記一種以上の対象金属が、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される二種以上の対象金属である請求項1に記載の金属回収方法。
【請求項3】
前記一種以上の対象金属が、コバルト、ニッケル及びマンガンの三種の対象金属である請求項2に記載の金属回収方法。
【請求項4】
前記浸出後液としての金属含有溶液にリチウムが溶解しており、
前記中和工程で、リチウムが溶解したリチウム含有溶液が得られ、
前記リチウム含有溶液から水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【請求項5】
前記水酸化リチウム溶液を、前記中和工程でpH調整剤として使用する請求項4に記載の金属回収方法。
【請求項6】
前記中和残渣が、前記一種以上の対象金属の水酸化物を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【請求項7】
前記浸出後液としての金属含有溶液に、アルミニウム及び/又は鉄が溶解しており、
前記一連の工程が、前記浸出工程と前記中和工程との間に、当該金属含有溶液のpHを上昇させ、アルミニウム及び/又は鉄を析出させて除去する不純物除去工程をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【請求項8】
前記一連の工程の繰返しにより、前記金属含有溶液のコバルトイオン濃度が50g/L以上になった場合、ニッケルイオン濃度が50g/L以上になった場合、及び/又は、マンガンイオン濃度が50g/L以上になった場合に、前記晶析工程を行う請求項1~3のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、金属回収方法を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、製品寿命もしくは製造不良その他の理由より廃棄されたリチウムイオン二次電池の廃棄物から、そこに含まれ得るコバルトやニッケル等の有価金属を湿式処理により回収することが、資源の有効活用の観点から広く検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池廃棄物から有価金属を回収するプロセスでは、たとえば、リチウムイオン電池廃棄物に対して焙焼等の前処理を行った後の電池粉を酸で浸出させ、電池粉に含まれ得る金属が溶解した浸出後液として金属含有溶液を得る。その後、たとえば特許文献1に記載されているように、中和や溶媒抽出等により、金属含有溶液中の各金属イオンを分離させ、有価金属を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような金属の回収プロセスでは、回収対象のコバルト、ニッケル及びマンガンのうちの一種以上の対象金属を含む金属塩の状態で回収できれば、それを直接的にリチウムイオン電池の正極材の製造原料等として使用できる可能性がある。例えば、コバルト、ニッケル及びマンガンの三種の対象金属の金属塩を含む混合金属塩が得られた場合、それを直接的にリチウムイオン二次電池の三元系正極材の製造原料等として使用できると考えられる。この場合、工程の簡略化、コストの大幅な削減が見込まれる。
【0006】
この明細書では、リチウムイオン電池廃棄物から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を金属塩として有効に回収することができる金属回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書で開示する金属回収方法は、リチウムイオン電池廃棄物の電池粉から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を含む金属を回収する方法であって、前記電池粉を酸で浸出させ、前記一種以上の対象金属が溶解した浸出後液としての金属含有溶液を得る浸出工程と、前記金属含有溶液のpHを上昇させ、前記一種以上の対象金属を含む中和残渣を得る中和工程とを含み、前記中和残渣を前記浸出工程で前記電池粉とともに浸出させ、前記浸出工程及び前記中和工程を含む一連の工程を繰り返すことにより、前記金属含有溶液中の前記一種以上の対象金属の濃度を上昇させ、前記浸出工程の後で前記中和工程の前に、前記金属含有溶液から前記一種以上の対象金属を析出させ、前記一種以上の対象金属を含む金属塩を得る晶析工程を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
上述した金属回収方法によれば、リチウムイオン電池廃棄物から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を金属塩として有効に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一の実施形態の金属回収方法を示すフロー図である。
【
図2】リチウムイオン電池廃棄物から電池粉を得る前処理工程の一例を示すフロー図である。
【
図3】効果の検証のための液温に対する各金属の飽和濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、上述した金属回収方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態の金属回収方法は、リチウムイオン電池廃棄物の電池粉から、回収対象の金属として、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を含む金属を回収する方法である。
【0011】
この方法では、
図1に示すように、電池粉を酸で浸出させ、一種以上の対象金属が溶解した浸出後液としての金属含有溶液を得る浸出工程と、金属含有溶液のpHを上昇させ、一種以上の対象金属を含む中和残渣を得る中和工程とを含む一連の工程を繰り返す。中和工程で得られる中和残渣は、浸出工程に供されて浸出工程で電池粉とともに浸出させる。このようにすれば、一連の工程の繰返しによって、金属含有溶液中の一種以上の対象金属が濃縮され、その濃度が次第に上昇する。
【0012】
そして、一連の工程を繰り返して、金属含有溶液中の一種以上の対象金属の濃度がある程度高くなったとき、浸出工程の後で中和工程の前に、金属含有溶液から一種以上の対象金属を析出させ、一種以上の対象金属を含む金属塩を得る晶析工程を行う。それにより、一種以上の対象金属を金属塩として有効に回収することができる。なお、晶析工程を行ったときは、一種以上の対象金属が溶解した晶析後液としての金属含有溶液が得られ、この金属含有溶液は中和工程に供される。
【0013】
浸出工程後に得られる浸出後液としての金属含有溶液にリチウムが溶解している場合、そのリチウムの多くは中和工程後まで液中に残留し、中和工程では、リチウムが溶解したリチウム含有溶液が得られる。この場合、リチウム含有溶液から水酸化リチウム溶液を得る水酸化工程を行うことができる。また、電池粉にアルミニウム及び/又は鉄が含まれること等によって、浸出後液としての金属含有溶液にアルミニウム及び/又は鉄が溶解している場合、必要に応じて、一連の工程には、浸出工程と中和工程との間(晶析工程を行う場合は晶析工程の前)に、アルミニウム及び/又は鉄を除去する不純物除去工程が含まれ得る。
【0014】
(リチウムイオン電池廃棄物)
リチウムイオン電池廃棄物は、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用され得るリチウムイオン二次電池で、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものである。このようなリチウムイオン電池廃棄物から有価金属を回収することは、資源の有効活用の観点から好ましい。リチウムイオン電池廃棄物は、リサイクルの対象となるリチウムイオン電池のことを指し、そのリチウムイオン電池が有価で取引されるか、あるいは、無償または産業廃棄物の扱いで取引されるかについては問わない。
【0015】
リチウムイオン電池廃棄物は、その周囲を包み込む外装として、アルミニウムを含む筐体を有する。この筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。
【0016】
また、リチウムイオン電池廃棄物は、上記の筐体内に、リチウムと、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択される一種とを含む単独金属酸化物又は、二種以上とを含む複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むことがある。またその他に、リチウムイオン電池廃棄物には、銅、鉄等が含まれる場合がある。
【0017】
さらに、リチウムイオン電池廃棄物の筐体内には通常、六フッ化リン酸リチウム等の電解質を有機溶媒に溶解させた電解液が含まれる。有機溶媒としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
【0018】
(前処理工程)
リチウムイオン電池廃棄物に対しては、多くの場合、乾式処理の前処理工程を行う。前処理工程には、焙焼、破砕及び篩別のうちの少なくとも一つが含まれることがある。リチウムイオン電池廃棄物は、前処理工程を経ることにより電池粉になる。前処理工程の焙焼、破砕、篩別は、それぞれを必要に応じて行ってもよい他、順不同で行われ得る。
図2に示す例では、焙焼、破砕及び篩別をこの順序で行っている。
【0019】
なお、電池粉とは、リチウムイオン電池廃棄物に何らかの処理を施して、正極材成分が分離濃縮された粉を意味する。電池粉は、リチウムイオン電池廃棄物に対し、熱処理を行って又は熱処理を行わずに、破砕及び篩別を行うことにより正極材成分が濃縮された粉状のものとして得られることもある。
【0020】
焙焼では、上記のリチウムイオン電池廃棄物を加熱する。焙焼を行うと、たとえば、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウム、コバルト等の金属が、溶けやすい形態に変化し得る。焙焼時には、リチウムイオン電池廃棄物を、たとえば450℃~1000℃、さらに600℃~800℃の温度範囲で0.5時間~4時間にわたって保持する加熱を行うことが好適である。焙焼は、大気雰囲気下又は窒素等の不活性雰囲気下で行うことができる他、大気雰囲気下と不活性雰囲気下の両雰囲気をこの順序で又はこれとは逆の順序で行ってもよい。焙焼炉は、バッチ式でも連続式でもよく、例えば、バッチ式では定置炉、連続式ではロータリーキルン炉等があり、その他の各種の炉を用いることもできる。
【0021】
焙焼の際には、電解液が蒸発すること等により、リチウムイオン電池廃棄物から電解液の少なくとも一部が除去される。多くの場合、焙焼時にリチウムイオン電池廃棄物が加熱されると、内部の電解液の成分中の低沸点のものから順次に蒸発する。焙焼を行った場合、電解液は除去されて無害化され、また、有機バインダーは分解されて、後述する破砕及び篩別の際にアルミニウム箔と正極活物質との分離が促進される。なお、正極活物質は焙焼により組成が変化するが、ここでは焙焼を経たものであっても正極活物質と呼ぶこととする。
【0022】
焙焼の後は、リチウムイオン電池廃棄物の筐体から正極活物質等を取り出すための破砕を行うことができる。破砕では、リチウムイオン電池廃棄物の筐体を破壊するとともに、正極活物質が塗布されたアルミニウム箔から正極活物質を選択的に分離させる。
【0023】
破砕には、種々の公知の装置ないし機器を用いることができるが、特に、リチウムイオン電池廃棄物を切断しながら衝撃を加えて破砕することのできる衝撃式の粉砕機を用いることが好ましい。この衝撃式の粉砕機としては、サンプルミル、ハンマーミル、ピンミル、ウィングミル、トルネードミル、ハンマークラッシャ等を挙げることができる。なお、粉砕機の出口にはスクリーンを設置することができ、それにより、リチウムイオン電池廃棄物は、スクリーンを通過できる程度の大きさにまで粉砕されると粉砕機よりスクリーンを通じて排出される。
【0024】
リチウムイオン電池廃棄物を破砕した後は、適切な目開きの篩を用いて篩分けする篩別を行う。それにより、篩上にはアルミニウムや銅が残り、篩下にはアルミニウムや銅がある程度除去された電池粉を得ることができる。
【0025】
前処理工程で得られる電池粉は、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属が含まれる。その他、電池粉は、リチウム、アルミニウム、鉄及び銅からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことがある。たとえば、電池粉のコバルト含有量は1質量%~30質量%、ニッケル含有量は1質量%~30質量%、マンガン含有量は1質量%~30質量%、リチウム含有量は2質量%~8質量%、アルミニウム含有量は1質量%~10質量%、鉄含有量は1質量%~5質量%、銅含有量は1質量%~10質量%である。
【0026】
電池粉は、そこから実質的にリチウムのみを取り出すため、後述する浸出工程の前に水と接触させることができる。それにより、電池粉中のリチウムが水に浸出する。この場合、その水浸出残渣としての電池粉を浸出工程に供する。但し、水浸出を行う場合、その設備が必要になるとともに、当該水浸出と浸出工程の酸浸出との両方を行うことにより処理時間が増大する他、水によってリチウムを有効に浸出させるための焙焼等の条件を管理することを要する場合がある。またそのように管理しても、水によるリチウムの浸出率をそれほど高めることができないことがある。それ故に、上述したようにして得られた電池粉は、水浸出を行わずに浸出工程の酸浸出に供してもよい。水浸出を行わない場合、浸出工程以降の湿式処理での液中のリチウムイオン濃度を高く維持しやすくなる。
【0027】
(浸出工程)
浸出工程では、上記の電池粉を、硫酸、硝酸又は塩酸その他の無機酸を含む酸性浸出液に添加すること等により、電池粉に含まれているコバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を含む金属を酸で浸出させる。
【0028】
浸出工程は公知の方法ないし条件で行うことができるが、pHは0.0~2.0とする場合があり、酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)は0mV以下になることがある。
【0029】
酸による浸出で溶け残った浸出残渣は、フィルタープレスやシックナー等の公知の装置及び方法による濾過等の固液分離で、金属含有溶液から分離させることができる。電池粉中の銅の多くは、浸出残渣に含ませることができる場合がある。この固液分離は省略可能であり、浸出後に固液分離なしで次工程を行うこともある。
【0030】
浸出工程では、浸出後液として、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属が溶解した金属含有溶液が得られる。典型的には、金属含有溶液はさらに、リチウム、アルミニウム、鉄及び銅からなる群から選択される少なくとも一種が溶解したものである。
【0031】
浸出後液としての金属含有溶液は、コバルトイオン濃度が10g/L~50g/L、ニッケルイオン濃度が10g/L~50g/L、マンガンイオン濃度が0g/L~50g/L、リチウムイオン濃度が1.0g/L~20g/L、アルミニウムイオン濃度が1.0g/L~20g/L、鉄イオン濃度が0.1g/L~5.0g/L、銅イオン濃度が0.005g/L~0.2g/Lである場合がある。
【0032】
(不純物除去工程)
浸出工程で得られる浸出後液としての金属含有溶液に、不純物のアルミニウムイオン及び/鉄イオンがある程度含まれる場合、当該金属含有溶液のpHを上昇させ、アルミニウム及び/又は鉄を析出させて除去することができる。ここでは、脱アルミニウム段階と脱鉄段階を行うことがある。但し、金属含有溶液にアルミニウムイオン又は鉄イオンが実質的に含まれない場合等には、脱アルミニウム段階又は脱鉄段階を省略することがある。金属含有溶液がアルミニウムイオン及び鉄イオンのいずれも実質的に含まない場合、不純物除去工程を省略することも可能である。
【0033】
脱アルミニウム段階では、金属含有溶液のpHを上昇させることにより、アルミニウムイオンの少なくとも一部を析出させて、固液分離で除去する。このとき、たとえば50℃~90℃の液温にて、pH調整剤によってpHを4.0~5.0の範囲内に上昇させると、ニッケルイオンやコバルトイオンの析出を抑えつつ、アルミニウムイオンを有効に分離させることができる。
【0034】
脱鉄段階では、酸化剤を添加し、更にpH調整剤を添加してpHを4.0~5.0の範囲内に上昇させる。それにより鉄イオンが2価から3価へ酸化され、酸化物又は水酸化鉄(Fe(OH)3)等の固体となって析出し、これを固液分離で除去することができる。酸化時の酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)は、好ましくは300mV~900mVとする。酸化剤は、鉄を酸化できるものであれば特に限定されないが、二酸化マンガン、正極活物質、及び/又は、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣とすることが好ましい。正極活物質を酸で浸出して得られるマンガン含有浸出残渣には、二酸化マンガンが含まれ得る。
【0035】
上述した脱アルミニウム段階及び/又は脱鉄段階で使用するpH調整剤としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等があるが、後述の水酸化工程で得られる水酸化リチウム溶液を用いることが好ましい。この場合、湿式処理内でリチウムイオンが循環する。
【0036】
(晶析工程)
上述の浸出工程、場合によっては不純物除去工程、及び、後述の中和工程を含む一連の工程を繰り返し行ったことにより、金属含有溶液中の対象金属の濃度がある程度高くなったときは、浸出工程の後又は不純物除去工程の後で中和工程の前に、晶析工程を行う。対象金属の濃度が上昇した後に晶析工程を行うことにより、リチウム等を析出させずに、対象金属を選択的に析出させることができる。
【0037】
晶析工程を行うのは、一連の工程の繰返しにより、浸出工程の後又は不純物除去工程の後の金属含有溶液のコバルトイオン濃度が50g/L以上になった場合、ニッケルイオン濃度が50g/L以上になった場合、及び/又は、マンガンイオン濃度が50g/L以上になった場合とすることがある。なお、このときのリチウムイオン濃度は1.0g/L~30g/Lとなっていることがある。
【0038】
晶析工程では、浸出工程の後又は不純物除去工程の後の金属含有溶液から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属の金属塩(コバルト塩、ニッケル塩及び/又はマンガン塩)を析出させる。
【0039】
ここでいう一種以上の対象金属が、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される二種以上の対象金属であって、金属含有溶液にコバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される二種以上の対象金属が溶解している場合、晶析工程では、当該二種以上の対象金属の各金属塩を析出させ、それらの金属塩を含む混合金属塩を得る。
【0040】
図1に示す例では、一種以上の対象金属が、コバルト、ニッケル及びマンガンの三種の対象金属であり、金属含有溶液にコバルト、ニッケル及びマンガンの三種の対象金属が溶解している。この例では、晶析工程にて、コバルト塩、ニッケル塩及びマンガン塩を含む混合金属塩を得る。
【0041】
晶析工程では、たとえば、金属含有溶液を50℃~80℃の温度に加熱して濃縮した後に冷却すること等により、金属含有溶液に溶解している一種以上の対象金属を晶析させることができる。
【0042】
それにより、金属含有溶液に含まれる硫酸イオン、硝酸イオン又は塩化物イオン等の無機酸の陰イオンに応じた金属塩が得られる。たとえば、金属含有溶液が硫酸イオンを含む場合、金属塩には、硫酸コバルト、硫酸ニッケル及び硫酸マンガンからなる群から選択される一種以上が含まれる。
【0043】
金属含有溶液に含まれる一種以上の対象金属のうち、晶析工程で析出しなかったものは、晶析後液に溶解した状態で残留する。また、晶析工程に供する金属含有溶液にリチウムイオンが含まれていたとき、リチウムイオンは多くの場合、晶析工程で析出せずに晶析後液に含まれる。
【0044】
晶析後液としての金属含有溶液は、コバルトイオン濃度が140g/L~180g/L、ニッケルイオン濃度が100g/L~150g/L、マンガンイオン濃度が100g/L~150g/L、リチウムイオン濃度が10g/L~35g/Lとなる場合がある。
【0045】
(中和工程)
中和工程では、浸出工程後、不純物除去工程後又は晶析工程後の金属含有溶液にpH調整剤を添加してpHを上昇させ、そこに溶解している一種以上の対象金属を析出させて、対象金属を含む中和残渣を得る。
【0046】
より詳細には、たとえば、金属含有溶液の液温を60℃~90℃とし、pHを9.0~10.0、酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)を0mV~600mVとすることができる。pH調整剤としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等があるが、後述の水酸化工程で得られる水酸化リチウム溶液を用いることが好ましい。この場合、湿式処理内でリチウムイオンが循環する。
【0047】
多くの場合、対象金属は、水酸化物(水酸化コバルト、水酸化ニッケル及び/又は水酸化マンガン)として沈殿して中和残渣に含まれる。中和残渣には、対象金属の酸化物(Co3O4、Mn3O4、Mn2O3、Ni3O4等)が含まれる場合もある。
【0048】
中和残渣は、固液分離により溶液から分離させることができる。この実施形態では、
図1に示すように、中和残渣を浸出工程に供し、浸出工程で電池粉とともに浸出させる。それにより、中和工程で中和残渣に移行した対象金属が、浸出工程で浸出されて再度、金属含有溶液に含まれる。このようにして浸出工程及び中和工程を含む一連の工程を繰り返すと、該一連の工程内で循環する対象金属に、新たに投入される電池粉中のものが加わることで、金属含有溶液中の対象金属の濃度が上昇する。金属含有溶液中の対象金属の濃度がある程度高くなったときは、先述したように晶析工程を行って対象金属の金属塩を得る。
【0049】
なお、金属含有溶液中のリチウムイオンは実質的に中和工程で析出しないので、中和残渣にはリチウムがほぼ含まれない。対象金属を含むがリチウムを含まない中和残渣を浸出工程に供して、一連の工程を繰り返すと、一連の工程では、金属含有溶液中の対象金属の濃度は大きく上昇していくが、リチウムイオン濃度はそれほど上昇しない。このため、そのような金属含有溶液に対して先述の晶析工程を行った場合、晶析工程では、対象金属が、リチウムイオンよりも先に晶析しやすくなる。それにより、晶析工程では、リチウムイオンを析出させずに、対象金属を選択的に析出させることができる。
【0050】
中和工程で中和残渣を分離させて得られる溶液は、実質的にリチウムのみが溶解しているリチウム含有溶液である。リチウム含有溶液のリチウムイオン濃度は、10g/L~35g/Lとなる場合がある。このリチウム含有溶液に対しては、次に述べる水酸化工程を行うことができる。
【0051】
(水酸化工程)
水酸化工程では、硫酸リチウム溶液等の上記のリチウム含有溶液から、水酸化リチウム溶液を得る。水酸化工程は、水酸化リチウム溶液を作製できれば、その詳細については特に問わないが、たとえば、電気透析による手法、水酸化バリウムを使用する化成法、炭酸リチウムを作製した後に水酸化カルシウムを使用する化成法等を採用することができる。
【0052】
電気透析では、バイポーラ膜電気透析装置にて、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜との間の脱塩室にリチウム含有溶液を入れるとともに、バイポーラ膜と陰イオン交換膜との間の酸室及び、陽イオン交換膜とバイポーラ膜との間のアルカリ室のそれぞれに純水を入れて、電極間に電圧を印加する。そうすると、脱塩室の金属含有溶液中のリチウムイオンがアルカリ室に移動し、アルカリ室にて、バイポーラ膜によって純水が水酸化物イオンに分解され、水酸化リチウム溶液が得られる。
【0053】
炭酸化及び化成法による場合、まずリチウム含有溶液に炭酸塩を添加し又は炭酸ガスを吹き込むこと等により、炭酸リチウム溶液を得る。その後、いわゆる化成法では、炭酸リチウム溶液に水酸化カルシウムを添加し、Li2CO3+Ca(OH)2→2LiOH+CaCO3の反応式の下、水酸化リチウム溶液を生成させることができる。液中に残留することがあるカルシウムイオンは、陽イオン交換樹脂やキレート樹脂等により除去することが可能である。
【0054】
水酸化バリウムを使用する場合、リチウム含有溶液に水酸化バリウムを添加し、Li2SO4+Ba(OH)2→2LiOH+BaSO4の反応に基づき、水酸化リチウム溶液を得ることができる。なお、このときに液中に溶解し得るバリウムは、陽イオン交換樹脂やキレート樹脂等を用いて分離させて除去することができる。
【0055】
このようにして得られた水酸化リチウム溶液は、
図1に示すように、中和工程にて、アルカリ性のpH調整剤として有効に用いることができる。
【0056】
なお、水酸化の後、加熱濃縮又は減圧蒸留等の晶析操作により、水酸化リチウム溶液から水酸化リチウムを析出させてもよい。晶析では、加熱濃縮の場合、晶析時の温度は高いほど処理が速く進むので好ましい。ただし、晶析後、晶析物の乾燥時の温度は、結晶水が脱離しない60℃未満の温度で実施することが好ましい。結晶水が脱離すると、無水の水酸化リチウムとなり潮解性を有するため取り扱いが困難となるからである。その後、水酸化リチウムを、必要な物性に調整するため、粉砕処理等を行うことができる。
【0057】
(効果の検証)
コバルト、ニッケル、マンガン及びリチウムの飽和濃度は、化学便覧 基礎編 改訂3版(公益社団法人 日本化学会編、丸善出版、1984年6月発行)により確認したところ、
図3にグラフで示すとおりであった。なお、マンガンについては、
図3に示していないが、20℃での飽和濃度は143g/Lであった。
【0058】
これにより、コバルトやニッケル、マンガンの濃度がある程度高くなったところで晶析を行うと、リチウムを析出させずに、コバルトやニッケル、マンガンを析出できることがわかる。
【0059】
以上より、先述した金属回収方法によれば、リチウムイオン電池廃棄物から、コバルト、ニッケル及びマンガンからなる群から選択される一種以上の対象金属を金属塩として有効に回収できる可能性が示唆された。