(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053562
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】硝酸生成能を有する固体担体の製造方法、当該固体担体を用いた植物栽培方法、並びに土壌組成物
(51)【国際特許分類】
A01G 24/22 20180101AFI20240408BHJP
【FI】
A01G24/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172304
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022159741
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「硝化複合微生物群による植物病原菌抑止機構の解明と有機養液栽培の社会実装」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】521212786
【氏名又は名称】株式会社TOWING
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 信
(72)【発明者】
【氏名】西田 亮也
(72)【発明者】
【氏名】西田 宏平
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 晃規
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA03
2B022BA04
2B022BA06
2B022BA07
2B022BA14
2B022BA18
2B022BB02
(57)【要約】
【課題】固体担体の表層部分だけでなく、固体担体全体に微生物群を固定化できる土壌化技術を提供する。また、土壌化の過程で生成された硝酸態窒素を固体担体から洗い流す工程を必要としない土壌化技術を提供する。
【解決手段】下記(A)の固体担体中に、下記(B)~(E)の全てを共存させる工程を含み、下記(B)の微生物群が固定された固体担体を製造することを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法が提供される。前記固体担体はあらゆる植物栽培方法に培地として活用できる。また、前記固体担体を製造するための土壌組成物が提供される。
(A)通気性を有する固体担体。
(B)有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群。
(C)有機物。
(D)水。
(E)硝酸態窒素を吸収する植物体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の固体担体中に、下記(B)~(E)の全てを共存させる工程を含み、下記(B)の微生物群が固定された固体担体を製造することを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法。
(A)通気性を有する固体担体。
(B)有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群。
(C)有機物。
(D)水。
(E)硝酸態窒素を吸収する植物体。
【請求項2】
前記(E)の植物体の又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を、前記(A)の固体担体中に播種又は定植することにより、前記(A)の固体担体中に前記(E)の植物体を共存させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(B)の微生物群を前記(A)の固体担体の上層部に添加及び/又は混合する工程を実施した後に、前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を前記(A)の固体担体中に播種又は定植する工程を実施することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(B)の微生物群を前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織の表面の少なくとも一部に付着させる工程を実施した後に、前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を前記(A)の固体担体中に播種又は定植する工程を実施することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植することにより、前記(A)の固体担体中に前記(E)の植物体を共存させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(B)の微生物群を含む土壌中で前記(E)の植物体を生育させる工程と、当該工程により得られた発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植する工程と、を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(B)の微生物群を前記(A)の固体担体の上層部に添加及び/又は混合する工程を実施した後に、発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植する工程を実施することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記(A)の固体担体が、バイオ炭、セラミックス、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、木質チップ、わら、水苔、木綿、紙、ポリアクリルアミドゲル、寒天、軽石、土質材料、土質材料焼結体、及び畑土からなる群のうち1種以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記(C)の有機物が、植物由来、動物由来、菌由来、食品由来、及び廃棄物由来の有機物からなる群のうち1種以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記(E)の植物体が、キク科、アブラナ科、ナス科、ヒユ科、ヒガンバナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、イネ科、ショウガ科、ユリ科、セリ科、アカザ科及びヒルガオ科のうち1種以上の植物体であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(A)の固体担体を、容器に充填した状態で用いることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により硝酸生成能を有する固体担体を製造し、得られた前記固体担体を用いて植物を栽培することを特徴とする、植物の栽培方法。
【請求項13】
下記(A)の固体担体中に、下記(B)~(E)の全てを共存させてなることを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体を製造するための土壌組成物。
(A)通気性を有する固体担体。
(B)有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群。
(C)有機物。
(D)水。
(E)硝酸態窒素を吸収する植物体。
【請求項14】
前記(A)の固体担体が、以下の方法により測定される硝酸回収率が1%以上であることを特徴とする、請求項13に記載の土壌組成物。
硝酸回収率測定方法:
(1)前記固体担体に対し、前記(C)の有機物を窒素量として、前記固体担体1Lあたり0.05g以上添加した後、24~26℃で1時間以上静置する。
(2)前記固体担体1Lあたり50mL以上の水を添加して、前記固体担体から流出させることにより、前記固体担体を洗浄する。
(3)前記固体担体より流出した流出液を回収し、前記流出液中の硝酸態窒素含有量を測定する。
(4)前記工程(1)で添加した前記有機物中の窒素量に対する、前記工程(3)で測定した前記流出液中の硝酸態窒素含有量の比率を求め、硝酸回収率とする。
【請求項15】
前記(A)の固体担体が、バイオ炭、セラミックス、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、木質チップ、わら、水苔、木綿、紙、ポリアクリルアミドゲル、寒天、軽石、土質材料、土質材料焼結体、及び畑土からなる群のうち1種以上であることを特徴とする、請求項13に記載の土壌組成物。
【請求項16】
前記(C)の有機物が、植物由来、動物由来、菌由来、食品由来、及び廃棄物由来の有機物からなる群のうち1種以上であることを特徴とする、請求項13に記載の土壌組成物。
【請求項17】
前記(E)の植物体が、キク科、アブラナ科、ナス科、ヒユ科、ヒガンバナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、イネ科、ショウガ科、ユリ科、セリ科、アカザ科及びヒルガオ科のうち1種以上の植物体であることを特徴とする、請求項13に記載の土壌組成物。
【請求項18】
前記(A)の固体担体が、容器に充填されていることを特徴とする、請求項13~17のいずれか1項に記載の土壌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非土壌媒体の土壌化技術に関し、具体的には、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法、当該固体担体を用いた植物栽培方法、並びに土壌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然の土壌では、有機物を分解して硝酸態窒素を生成する微生物群の働きにより、堆肥などの有機物を直接添加すると、有機態窒素をアンモニア態窒素に変換するアンモニア化成、アンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換する硝酸化成(硝化)、という二段階のプロセスによって、多くの植物が利用可能な硝酸態窒素に分解される。
【0003】
一方、土壌化されていない固体担体では、特に硝酸化成を担う硝化菌が十分に固定化されていないため、高濃度の有機物を添加すると硝化菌が死滅したり、植物の根がダメージを受けたりする。
【0004】
ロックウールなどの固体担体に、有機物を分解して硝酸態窒素を生成する微生物群を固定化し、固体担体が自然土壌と同じように有機物を分解して硝酸態窒素を生成できるようにする土壌化技術は、本願発明者のうちの一人が開発した(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1及び非特許文献1の技術は、固体担体に微生物群を添加した後、脱窒反応を防ぐために有機物の添加と水での洗浄を繰り返すことにより、固体担体に微生物を固定化させることを特徴としている(
図11参照)。
【0006】
脱窒反応とは、脱窒菌により硝酸態窒素が亜酸化窒素ガス又は窒素ガスなどに還元され、硝酸態窒素が失われてしまう現象で、嫌気条件下で脱窒菌のエネルギー源になる有機物と硝酸態窒素とが共存する場合に誘発されやすい反応である。また近年、アナモックス細菌による窒素変換反応による脱窒反応も発見された。これは、嫌気性条件下で、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素が、窒素ガスなどに変換されて失われる現象である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jamjan Meeboon, Ryoya Nishida, Takashi Iwai, Kazuki Fujiwara, Masao Takano & Makoto Shinohara, Development of soil-less substrates capable of degrading organic nitrogen into nitrate as in natural soils, Scientific Reports (2022) 12:785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び非特許文献1の技術では、微生物群の固定化が固体担体の表層部分(上層部)に限られるため、深層部分(下層部)まで土壌化できる技術の開発が望まれていた。本開示の課題は、より適切な硝酸生成能が得られる土壌化技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本開示によれば、下記(A)の固体担体中に、下記(B)~(E)の全てを共存させる工程を含み、下記(B)の微生物群が固定された固体担体を製造することを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法が提供される。
(A)通気性を有する固体担体。
(B)有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群。
(C)有機物。
(D)水。
(E)硝酸態窒素を吸収する植物体。
【0011】
本開示の固体担体の製造方法において、前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を、前記(A)の固体担体中に播種又は定植することにより、前記(A)の固体担体中に前記(E)の植物体を共存させることができる。より具体的には、前記方法は、前記(B)の微生物群を前記(A)の固体担体の上層部に添加及び/又は混合する工程を実施した後に、前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を前記(A)の固体担体中に播種又は定植する工程を実施するものであってもよい。また、前記方法は、前記(B)の微生物群を前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織の表面の少なくとも一部に付着させる工程を実施した後に、前記(E)の植物体の種子又は前記(E)の植物体の栄養繁殖可能な組織を前記(A)の固体担体中に播種又は定植する工程を実施するものであってもよい。
【0012】
または、本開示の固体担体の製造方法において、発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植することにより、下記(A)の固体担体中に前記(E)の植物体を共存させることができる。より具体的には、前記方法は、前記(B)の微生物群を含む土壌中で前記(E)の植物体を生育させる工程と、当該工程により得られた発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植する工程と、を含むものであってもよい。また、前記方法は、前記(B)の微生物群を前記(A)の固体担体の上層部に添加及び/又は混合する工程を実施した後に、発芽後の前記(E)の植物体を前記(A)の固体担体中に定植する工程を実施するものであってもよい。
【0013】
このとき、前記(A)の固体担体は、バイオ炭、セラミックス、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、木質チップ、わら、水苔、木綿、紙、ポリアクリルアミドゲル、寒天、軽石、土質材料、土質材料焼結体、及び畑土からなる群のうち1種以上とすることができる。
【0014】
また、前記(C)の有機物は、植物由来、動物由来、菌由来、食品由来、及び廃棄物由来の有機物からなる群のうち1種以上とすることができる。
【0015】
また、前記(E)の植物体は、キク科、アブラナ科、ナス科、ヒユ科、ヒガンバナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、イネ科、ショウガ科、ユリ科、セリ科、アカザ科及びヒルガオ科のうち1種以上の植物体とすることができる。
【0016】
また、前記(A)の固体担体は、容器に充填した状態で用いることができる。
【0017】
また、本開示の栽培方法は、前記方法により硝酸生成能を有する固体担体を製造し、得られた前記固体担体を用いて植物を栽培することを特徴とする、植物の栽培方法である。
【0018】
さらに、本開示の土壌組成物は、前記(A)の固体担体中に、前記(B)~(E)の全てを共存させてなることを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体を製造するための土壌組成物である。
【0019】
本明細書において「土壌組成物」とは、土壌化が進行途中である前記(A)の固体担体を主要成分とする組成物であって、当該固体担体を土壌化する過程で生じる中間体を意味する。
【0020】
前記土壌組成物において、前記(A)の固体担体は、以下の方法により測定される硝酸回収率が1%以上のものであってもよい。
硝酸回収率測定方法:
(1)前記固体担体に対し、前記(C)の有機物を窒素量として、前記固体担体1Lあたり0.05g以上添加した後、24~26℃で1時間以上静置する。
(2)前記固体担体1Lあたり50mL以上の水を添加して、前記固体担体から流出させることにより、前記固体担体を洗浄する。
(3)前記固体担体より流出した流出液を回収し、前記流出液中の硝酸態窒素含有量を測定する。
(4)前記工程(1)で添加した前記有機物中の窒素量に対する、前記工程(3)で測定した前記流出液中の硝酸態窒素含有量の比率を求め、硝酸回収率とする。
【0021】
前記土壌組成物において、前記(A)の固体担体、前記(C)の有機物、前記(E)の植物体は、それぞれ前記したものであってもよい。
【0022】
前記土壌組成物において、前記(A)の固体担体は、容器に充填した状態であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、固体担体の表層部分だけでなく、固体担体全体に微生物群を固定化できる。また、本開示によれば、土壌化の過程で生成された硝酸態窒素を固体担体から洗い流す工程を必要とせず、硝酸態窒素が系外に流出する問題がない。したがって、本開示によれば、より適切な硝酸生成能が得られる土壌化技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】固体担体の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図2】固体担体の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図3】固体担体の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【
図4】固体担体の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【
図5】実施例1における硝酸態窒素回収率(%)を示すグラフである。
【
図6】実施例2における植物の生育状況を示す写真像図である。(A)はコントロール、(B)は試験区、をそれぞれ示す。
【
図7】実施例3の結果を示す図である。(A)は収穫前の植物の外観を示す写真像図であり、(B)は地上部収量(g)、(C)は硝酸態窒素回収率(%)、をそれぞれ示すグラフである。値は平均値±標準誤差を示す。
【
図8】実施例4の結果を示す図である。(A)は収穫前の植物の外観を示す写真像図であり、(B)は地上部収量(g)、(C)は硝酸態窒素回収率(%)、をそれぞれ示すグラフである。値は平均値±標準誤差を示す。
【
図9】実施例5の結果を示す図である。(A)はサニーレタス区の収穫前の外観、(B)は植物なし区(コントロール)の外観、をそれぞれ示す写真像図であり、(C)は撹乱処理前後の硝酸態窒素回収率(%)を示すグラフである。(C)において、「A」は撹乱前、「B」は撹乱後、をそれぞれ示し、値は平均値±標準誤差を示す。
【
図10】実施例7における(A)収穫前の植物の外観、(B)測定用のカラムの外観、をそれぞれ示す写真像図である。
【
図11】従来技術における土壌化技術を示す概略図である。
【
図12】実施例8における各試験区の構成を示す概略図である。(A)はヘアリーベッチ区、(B)はコントロール区、をそれぞれ示す。パイプに充填された固体担体は上から順に、L1~L8の8層に区分されている。
【
図13】実施例8の結果を示すグラフである。(A)はL1全菌体量を基準としたL1~L8の各層のアンモニア酸化菌群(amoA)の相対値(%)、(B)はL1全菌体量を基準としたL1~L8の各層の亜硝酸酸化菌群(norB)の相対値(%)、をそれぞれ示す。黒の棒グラフはコントロール区、白の棒グラフはヘアリーベッチ区、値は平均値±標準誤差、をそれぞれ示す。
【
図14】比較例における植物の生育状況を示す写真像図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔硝酸生成能を有する固体担体の製造方法〕
第一の実施形態は、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法に関する。
【0026】
本実施形態において、硝酸生成能を有する固体担体の製造方法は、下記(A)の固体担体中に、下記(B)~(E)の全てを共存させる工程を含み、下記(B)の微生物群が固定された固体担体を製造することを特徴とする。
(A)通気性を有する固体担体。
(B)有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群。
(C)有機物。
(D)水。
(E)硝酸態窒素を吸収する植物体。
【0027】
本実施形態において、「通気性を有する固体担体」としては、微生物、有機成分、水分を担持することが可能であり、通気性を有する、多孔質のものであれば、如何なるものでも用いることができる。特には、体積に対して微生物が固定化(定着)する表面積が大きい素材のものが好ましい。
【0028】
ここで、「通気性を有する」とは、固体担体を容器に充填した際や積み上げて山にした際の固体担体間及び/又は固体担体内の空隙の環境が、好気条件が保たれることで硝酸化成が進行しやすく、且つ、脱窒反応がおこりにくいような気相の確保された状態である。
【0029】
なお、以下、当該固体担体間と固体担体内の全体の環境を、単に「固体担体中」あるいは「固体担体全体」と表現することがある。
【0030】
そのような固体担体として具体的には、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス(具体的にはグラスビーズ)、セラミック、軽石、土質材料、土質材料焼結体、畑土などの岩石鉱物系の資材や、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、ポリアクリルアミドゲル、などの合成樹脂系の資材、木質チップ(具体的にはスギチップ)、わら、水苔、炭(具体的にはバイオ炭、活性炭)、木綿、紙(具体的にはろ紙)、寒天などの生物由来の資材などを用いることができる。
【0031】
本実施形態においては、これらの素材のうち、バイオ炭、セラミックス、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、木質チップ、わら、水苔、木綿、紙、ポリアクリルアミドゲル、寒天、軽石、土質材料、土質材料焼結体、及び畑土からなる群のうち1種以上を用いることが望ましく、特にバイオ炭が望ましい。
【0032】
なお、ここで、「バイオ炭」とは、生物資源(例えば、穀皮などの農業廃棄物、間伐材、竹など)を低酸素条件下で加熱することによって得られるものであり、バイオ燃料の副産物として製造される。具体例としては、もみ殻燻炭、木炭、竹炭などが挙げられる。
【0033】
本実施形態において、前記固体担体は、容器に充填した状態で用いることができる。前記固体担体を充填する容器としては、前記固体担体を充填できる容器であれば如何なる容器でも用いることができる。具体的には、農業用のポット、プランター等;プラスチック、布、紙などでできた袋等;容器の全体が網目状になっている籠等;を挙げることができる。なお、これらの容器は、底部に開口部を備えており、固体担体に水を添加した後、水を流出させることができる構造を有するものが好適である。
【0034】
前記容器への前記固体担体の充填は、水を添加して流出させた後に、毛細管現象で全体が湛水状態になってしまわないよう、固体担体間及び/又は固体担体内の空隙(気相)が確保されるようにする。湛水状態となり固体担体中が嫌気条件となって脱窒菌が活動しやすい条件が揃った場合に、脱窒反応が起こりやすくなるためである。そのため、前記容器に前記固体担体を充填する場合、通常は0.1~100000ml、好ましくは1~10000mlの前記固体担体を充填することができる。また、充填高さとしては、0.1~100cmの層になるように前記固体担体を充填することができる。
【0035】
本実施形態において、「有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群(本明細書において、単に「微生物群」と呼ぶこともある。)」とは、アンモニア化成を行う微生物群と、硝酸化成を行う微生物群と、を含むものである。これらが共存することによって、有機物からアンモニア態窒素への分解(アンモニア化成)と、アンモニア態窒素から硝酸態窒素への硝化(硝酸化成)と、を同一の反応系で連続的に行うことが可能となる。
【0036】
アンモニア化成を行う微生物群としては、例えば原生動物や、細菌、糸状菌等のアンモニア化成菌などを挙げることができる。また、硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)としては、アンモニア酸化菌(もしくは亜硝酸生成菌)であるNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属(Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属を含む);亜硝酸酸化菌(もしくは硝酸生成菌)であるNitrobacter属、Nitrospira属、Nitrococcus属;などを挙げることができる。
【0037】
本実施形態において「有機物」は、有機質肥料や、食品残渣、植物体残渣、動物体残渣、畜産廃棄物、排泄物といった有機質資源など、如何なるものを用いることができるが、炭素と窒素の含有比であるC/N比が24以下、好ましくは19以下の高窒素含有有機物を用いることが、硝酸態窒素の回収効率を高める点で望ましい。
【0038】
前記有機物としては、タンパク質、タンパク質分解物、アミノ酸などを多く含むものが望ましい。具体的には、植物由来、動物由来、菌由来、食品由来、廃棄物由来の有機物のうち1種以上を挙げることができる。より具体的には、魚煮汁、トウモロコシ浸漬液、油粕、魚粉、大豆粕、酵母粕、酒粕、焼酎粕、米ぬか、生ゴミなどの食品残渣などを挙げることができる。なお、これらは、食品製造過程で得られる廃棄物であり、毒性のあるような成分が含まれていない点で望ましい。また、前記有機物は、家畜糞、人糞尿、昆虫糞などの排泄物や、昆虫粉末、藻類粉末、菌体、メタン発酵消化液、下水汚泥などを挙げることができ、アンモニア態窒素を含む有機物も利用できる。さらには、前記有機物は、大豆粉、だしの素(アミノ酸高含有物)、牛乳、粉ミルク、などの食品そのものも利用できる。加えてさらには、可食部として利用できない植物の組織や器官である植物体残渣も利用することができる。
【0039】
これらのうち、魚煮汁、魚粉、油粕、生ゴミ、トウモロコシ浸漬液、米ぬか、大豆粉、植物体残渣、動物体残渣、牛乳、粉ミルク、家畜糞、人糞尿、昆虫糞、昆虫粉末、藻類粉末、菌体、メタン発酵消化液、及び下水汚泥からなる群のうち1種以上は、有機物として用いられることがさらに望ましい。
【0040】
なお、具体的に、魚煮汁としては、鰹煮汁を挙げることができる。また、トウモロコシ浸漬液としては、コーンスティープリカー(CSL:トウモロコシでんぷん製造時の副産物であるトウモロコシ浸漬液)を挙げることができる。また、油粕としては、菜種油粕、コーン油粕、を挙げることができる。また、植物体残渣としては、トマトなどの栽培管理中に摘葉処理で発生した茎葉などを挙げることができる。また、生ゴミとしては、魚のアラ、調理後の野菜くず、肉切片などを挙げることができる。また、家畜糞としては、牛糞や鶏糞などを挙げることができる。なお、さらに特には、鰹煮汁、コーンスティープリカーは、液体であるため前記固体担体に浸透しやすい点で望ましい。
【0041】
本実施形態において「水」は、特に限定されないが、例えば、純水(蒸留水、イオン交換水、逆浸透膜水など)、井戸水、河川水、湖水、水道水、海水などを挙げることができる。
【0042】
前記した従来技術では、固体担体中に含まれる硝酸態窒素を除去して脱窒反応を抑制するために、固体担体に大量の水を添加して洗浄する必要があった。本実施形態では、植物体に余分な硝酸態窒素を吸収させるため、洗浄工程は不要であるが、水は植物体や微生物群の維持に不可欠であるため、前記固体担体中に適量の水を共存させることが必要である。
【0043】
本実施形態において、「硝酸態窒素を吸収する植物体」としては、野菜、果実、花卉、樹木、果樹、観葉植物、牧草、苔など、あらゆる植物を用いることができる。具体的には、キク科、アブラナ科、ナス科、ヒユ科、ヒガンバナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、イネ科、ショウガ科、ユリ科、セリ科、アカザ科、ヒルガオ科などに属する植物体を挙げることができる。
【0044】
本実施形態は、前記した固体担体中に、前記微生物群、前記有機物、前記水、及び前記植物体の全てを共存させる工程を必須工程とする。なお、本実施形態において、前記した効果が奏される限りにおいて、前記した構成要素以外のいかなる要素(例えば、前記した微生物以外の微生物、前記した固体担体以外の媒体、前記した有機物以外の有機物、無機肥料その他の農業用資材など)を固体担体中に共存させることも可能である。
【0045】
本実施形態において、微生物群を固体担体中に「共存」させる手段としては、例えば、微生物群を含む微生物源を、固体担体の上層部に添加及び/又は混合することが挙げられる。ここで、固体担体の「上層部」とは、固体担体の表層部分を指し、例えば容器に充填された固体担体の場合、高さ方向において上から約10%以内を上層部とすることができる。あるいは、容器に充填せず野積みされた固体担体の場合は、表層から約10cm以内を上層部とすることができる。
【0046】
前記微生物群は、自然界に存在するものであり、例えば、土壌、水道水、湖沼の水、湧き水、井戸水、川の水、海水などに含まれていることから、これらの自然物を微生物源として用いることができる。また、土壌化された固体担体;土壌化された固体担体に水を添加し、当該固体担体から流出した流出液;前記流出液を乾燥させた粉末;などを微生物源として用いることもできる。なお、ここで、「土壌化された固体担体」は、本実施形態によって土壌化された固体担体に限らず、他の手法によって前記微生物群が固定化された固体担体であってもよい。
【0047】
微生物源を固体担体の上層部に添加及び/又は混合する量としては、特に限定されないが、例えば、固体担体1Lに対して、自然土壌や土壌化された固体担体の場合では1~100gを添加することが望ましい。
【0048】
本実施形態において微生物群を固体担体中に「共存」させる他の手段としては、例えば、微生物群を含む微生物源を、植物体の種子又は植物体の栄養繁殖可能な組織の表面の少なくとも一部に付着させた後に、その種子又は栄養繁殖可能な組織を固体担体中に播種又は定植することが挙げられる。
【0049】
ここで、「植物体の栄養繁殖可能な組織」としては、特に限定されないが、栄養繁殖性植物の根、茎(鱗茎、塊茎を含む)、葉、枝などの栄養器官等が挙げられ、具体的には、イモ、球根、むかご、イチゴのランナー等が挙げられる。
【0050】
種子又は栄養繁殖可能な組織(以下、「種子等」と呼ぶことがある。)の表面に微生物群を付着させる方法としては、例えばライブコート技術など従来公知の方法を用いることができる。この工程により、微生物群と植物体とを同時に固体担体中に「共存」させることができる。
【0051】
本実施形態において微生物群を固体担体中に「共存」させる他の手段としては、例えば、微生物群を含む土壌中で植物体を生育させることで、植物体に前記微生物群を付着させた後に、その植物体を固体担体中に定植する(土壌中から固体担体中に移植する)ことが挙げられる。
【0052】
ここで、植物体を固体担体中に定植する際は、植物体の根と接する土壌を除去せずに、土壌ごと固体担体中に定植することが望ましい。その際、植物体は複数の株に分けて定植してもよいし、栄養繁殖性植物であれば、栄養繁殖可能な複数の組織に分割して定植してもよい(例えば、挿し木、挿し芽)。
【0053】
なお、定植前の植物体の栽培に用いる「土壌」は、一般的な畑土などの土壌に限られず、微生物群が固定化された媒体であれば如何なるものであってもよい。具体的には、土壌化された固体担体(本実施形態によって土壌化された固体担体に限られない)が「土壌」として用いられてもよい。
【0054】
本実施形態において、有機物を固体担体中に「共存」させるためには、例えば、有機物を固体担体に添加すればよい。具体的には、有機物が液体であれば、そのまま固体担体に添加することができる。有機物が固体であれば、水などの溶媒に懸濁又は溶解してから固体担体に添加するか、固体担体に固体の有機物を添加した後に、水を添加することができる。
【0055】
ここで、有機物の添加量は特に限定されないが、固体担体1Lに対して、好ましくは0.01~20g、より好ましくは0.1~1g(いずれも乾燥重量換算)とすることができる。なお、具体的には、有機物として鰹煮汁を用いた場合の添加量は、固体担体1Lに対して、好ましくは0.1~20g(液体重量(乾燥重量換算で0.07~14g))であり、コーンスティープリカーを用いた場合の添加量は、固体担体1Lに対して、好ましくは0.1~20g(液体重量(乾燥重量換算で0.05~10g))である。
【0056】
なお、有機物の添加量が、上記添加量よりも多い場合、固体担体における有機物の担持量を超える場合があるため好ましくない。また、有機物の添加量が、上記添加量よりも少ない場合、硝酸態窒素の生成量が少なくなるため好ましくない。
【0057】
有機物の添加間隔としては、植物体の種類に応じて適宜調整すればよいが、通常、6時間以上とすることができ、好ましくは1~7日間とすることができる。添加間隔が上記よりも短い場合、微生物群による有機物の分解が間に合わず、固体担体における有機物の担持量を超える場合があるため好ましくない。
【0058】
本実施形態において、水を固体担体中に「共存」させるためには、水を固体担体に添加すればよい。例えば、固体担体に潅水することができ、具体的な手段は特に限定されないが、散水、噴霧、滴下など従来公知の潅水技術を採用することができる。
【0059】
水の添加量としては、固体担体が湛水状態とならない限り、特に制限はないが、例えば、固体担体1L当たり10~200mL/日の範囲で、植物体や固体担体の種類に応じて適宜調整することが望ましい。また、潅水は、必ずしも毎日行う必要はなく、やはり植物体や固体担体の種類に応じて潅水の間隔を適宜調整すればよい。
【0060】
本実施形態において、植物体を固体担体中に「共存」させるとは、固体担体中で植物体が生育できる状態にすることを意味する。その手段としては、例えば、植物体の種子を固体担体中に播種すること、植物体の栄養繁殖可能な組織を固体担体中に定植すること、発芽後の植物体を固体担体中に定植すること、などを挙げることができる。
【0061】
ここで、「発芽後の植物体」とは、種子や栄養繁殖可能な組織から芽が出て生育中である状態の植物体を意味する。具体的には、「発芽後の植物体」は、プラグ苗や苗木のような幼植物体であってもよいし、十分に成長した植物体であってもよい。なお、発芽後の植物体を固体担体中に定植する際、植物体は複数の株に分けて定植されてもよいし、栄養繁殖性植物であれば、植物体は栄養繁殖可能な複数の組織に分割して定植されてもよい(例えば、挿し木、挿し芽、種芋)。
【0062】
固体担体中に「共存」させる植物体の密度は特に限定されないが、例えば、固体担体1L当たり1~10株の範囲で、植物体の種類に応じて適宜調整することができる。
【0063】
本実施形態では、上記のようにして、前記固体担体中に、前記微生物群、前記有機物、前記水、及び前記植物体の全てを共存させた後に、前記有機物と前記水とを前記固体担体に添加して、前記植物体を生育させる。前記植物体の生育(栽培)に係る具体的な態様は、当業者が技術常識に基づき植物体の種類や環境に応じて適宜決定することができる。
【0064】
微生物群を添加した固体担体に、有機物と水を与えることにより、微生物群は固体担体に固定される。それにより、微生物群が有機物を効率よく硝酸態窒素に分解できるようになるので、植物体は生育が促進され、植物体の根が固体担体の下層部まで伸展する。微生物群は、植物体の根の伸展に伴い、下層部まで生息域を広げる。
【0065】
このようにして、本実施形態は、有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する微生物群を、固体担体全体に固定化することで、硝酸生成能を有する固体担体を製造することができるのである。
【0066】
本実施形態の具体的な工程の一態様は、
図1~
図4を参照して以下のようにして詳細に説明される。
図1及び
図2は、固体担体の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
図3及び
図4は、固体担体の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【0067】
図1に示す一実施形態において、まず、固体担体の製造方法の実施者は、ステップS1で、微生物群を固体担体の上層部に添加及び/又は混合する。ここで、微生物群は前記した土壌などの微生物源として添加される。また、固体担体は、十分に含水させたものを、適切な容器に充填して用いることができる。
【0068】
次に、ステップS3で、微生物源を添加した固体担体中に、植物体の種子を播種するか、又は、植物体の栄養繁殖可能な組織(例えば、球根など)を定植する。なお、本工程の後に、前記した微生物群の添加・混合工程を実施することも可能である。
【0069】
そして、ステップS4で、固体担体に水と有機物(肥料)を添加することにより、植物体を生育させる。水と有機物は混合して添加してもよく、別々に添加してもよい。有機物の添加により、微生物群も増殖し、上層部で固定化され、有機物を効率よく硝酸態窒素に分解できるようになる。生成された硝酸態窒素は植物の根から吸収されるため、多量の水で洗浄しなくても脱窒反応は生じにくい。植物体の成長に伴い根が伸展し、固体担体の上層部に生息する微生物群が根圏の発達とともに固体担体中に拡大する。
【0070】
最後に、ステップS5で、十分に成長した植物体を収穫する(植物体の除去)。植物体の根が固体担体中に伸展していれば、固体担体全体に微生物群が固定された(土壌化が十分に行われた)ことがわかる。
【0071】
図1に示す他の実施形態では、まず、ステップS2で、植物体の種子、又は、植物体の栄養繁殖可能な組織(例えば、球根など)の表面の少なくとも一部に、微生物群を付着させる。ここで、微生物群は前記した微生物源(例えば、土壌化された固体担体からの流出液など)として種子等の表面に付着させることができる。
【0072】
次に、ステップS3で、固体担体中に、微生物源を付着させた種子を播種するか、又は、微生物源を付着させた植物体の栄養繁殖可能な組織を定植する。ここで、固体担体は、十分に含水させたものを、適切な容器に充填して用いることができる。
【0073】
後は、前記と同様に、固体担体に水と有機物(肥料)を添加して植物体を生育させ(ステップS4)、十分に成長した植物体を収穫する(ステップS5)。
【0074】
図2に示す一実施形態において、まず、ステップS11で、微生物群を含む土壌中で植物体を生育させる。ここで、微生物群を含む「土壌」は、前記した通り、一般的な土壌を指すものではなく、微生物群が固定化された媒体であれば如何なるものであってよく、土壌化された固体担体を用いてもよい。
【0075】
次に、ステップS13では、前記ステップS11で生育した発芽後の植物体(例えば、プラグ苗など)を、固体担体中に定植する。ここで、固体担体は、十分に含水させたものを、適切な容器に充填して用いることができる。なお、定植する際、植物体の根と接する土壌ごと移植することが望ましい。また、植物体は複数に株分け等して定植してもよい。
【0076】
後は、前記と同様に、固体担体に水と有機物(肥料)を添加して植物体を生育させ(ステップS14)、十分に成長した植物体を収穫する(植物体の除去)(ステップS15)。
【0077】
図2に示す他の実施形態では、まず、ステップS12で、微生物群を固体担体の上層部に添加及び/又は混合する。ここで、微生物群は前記した土壌などの微生物源として添加することができる。また、固体担体は、十分に含水させたものを、適切な容器に充填して用いることができる。
【0078】
次に、ステップS13で別途生育させた発芽後の植物体(例えば、プラグ苗など)を、固体担体中に定植する。なお、本工程の後に、前記した微生物群の添加・混合工程を実施することも可能である。
【0079】
後は、前記と同様に、固体担体に水と有機物(肥料)を添加して植物体を生育させ(ステップS14)、十分に成長した植物体を収穫する(ステップS15)。
【0080】
図3に示す実施形態では、まず、袋に固体担体を充填し、固体担体表面に培養土などの微生物源を少量接種する(ステップS21)。次に、固体担体中に植物体の種子を播種する(ステップS22)。そして、水と有機物を加えながら植物体を栽培する(ステップS23)。微生物群が有機物を分解して硝酸態窒素を生成し、それを植物体の根に吸収させるため、多量の水で硝酸態窒素を洗い流す必要がない。
【0081】
その後、硝酸態窒素を吸収して植物体は成長を続け、根も固体担体の下層部まで伸展する(ステップS24)。増殖した微生物群は、植物の根の発達とともに固体担体全体に生息域を拡大する。最後に、十分に生育した植物体を除去すると、硝酸生成能を有する袋入り固体担体が出来上がる(ステップS25)。
【0082】
図4に示す実施形態では、まず、ステップS31で、セルトレーに培養土などの微生物源を充填し(微生物の固定化)、ステップS32で、そこに植物体の種子を播種して育苗し、セル苗を作成する。次に、ステップS33で、固体担体で作成した畝にセル苗を定植し、水と有機物を加えながら植物体を栽培する。セル苗自体が微生物源となり、微生物群が固体担体中で増殖する。微生物群が有機物を分解して硝酸態窒素を生成し、それを植物体の根に吸収させるため、多量の水で硝酸態窒素を洗い流す必要がない。
【0083】
その後、ステップS34で、硝酸態窒素を吸収して植物体は成長を続け、根も固体担体の畝の中で広範囲に伸展する。増殖した微生物群は、植物の根の発達とともに畝全体に固定化範囲を拡大する。最後に、ステップS35で、十分に生育した植物体を除去すると、硝酸生成能を有する固体担体の畝が出来上がる。
【0084】
本実施形態において、微生物群が固体担体に固定化され、固体担体が土壌化できたか否かの確認は、固体担体の硝酸生成能を評価することにより実施することができる。硝酸生成能の評価は、以下の方法で硝酸回収率(%)を測定することによって実施することができる。
【0085】
硝酸回収率測定方法:
(1)固体担体に対し、有機物を窒素量として、固体担体1Lあたり0.05g以上添加した後、24~26℃で1時間以上、好ましくは6時間以上静置する。この静置期間中に、有機物が微生物群によって分解され、硝酸態窒素が生成される。
(2)固体担体1Lあたり50mL以上の水を添加して、固体担体から流出させることにより、固体担体を洗浄する。
(3)固体担体より流出した流出液を回収し、流出液中の硝酸態窒素(硝酸イオン)含有量を測定する。
(4)前記工程(1)で添加した有機物中の窒素量に対する、前記工程(3)で測定した流出液中の硝酸態窒素含有量の比率を求め、硝酸回収率(%)とする。
【0086】
上記方法で求めた硝酸回収率が、通常30%以上、好ましくは33%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは37%以上、特に好ましくは40%以上であれば、固体担体が正常に土壌化できていると評価できる。一方、硝酸回収率が1%以上、好ましくは1%以上30%未満、より好ましくは1%以上20%未満である場合は、土壌化が進行中であり菌叢が不安定であるか、脱窒反応が生じて硝酸態窒素が失われている可能性がある。
【0087】
また、固体担体中の植物体の根の伸展を確認することによっても、土壌化の確認が可能である。微生物群(特に硝化菌)が固定されていない領域では、植物体が利用できる硝酸態窒素が生成されないために、根が有機物に暴露して痛んでしまうためである。したがって、根が固体担体全体に伸展していれば、固体担体全体に微生物群が固定されていると確認できる。
【0088】
なお、土壌化の進行過程では、菌叢が不安定になり、硝酸回収率の測定値が一時的に30%以上となる場合がある。したがって、前記した硝酸回収率の測定は、固体担体中の異なる領域(好ましくは、固体担体の中層以下の領域から3箇所以上)から複数のサンプルを採取して行い、それらの平均値により土壌化を評価することが望ましい。あるいは、前記した複数の評価方法を併せて総合的に土壌化の評価を行うこともできる。
【0089】
本実施形態により製造された硝酸生成能を有する固体担体は、実施例において後述するように、微生物群が全体にわたり固定化されており、撹乱処理を行っても硝酸生成能を高いレベルで維持できる。したがって、この固体担体は適切な容器に分割して封入しても品質のバラつきが少なく、市場で流通させることが可能である。
【0090】
〔固体担体を用いた植物の栽培方法〕
前記した硝酸生成能を有する固体担体は、有機物を直接添加しても短時間で硝酸態窒素に分解できるため、あらゆる植物栽培法に適用できる植物栽培用培地として用いることができる。
【0091】
すなわち、本実施形態は、前記方法により硝酸生成能を有する固体担体を製造し、得られた前記固体担体を用いて植物を栽培することを特徴とする、植物の栽培方法に関する。
【0092】
具体的には、前記した硝酸生成能を有する固体担体を用いた植物の栽培方法は、固体担体に対し、植物の種子を播種するか、植物の栄養繁殖可能な組織(例えば、球根など)を定植するか、発芽後の植物体(例えば、プラグ苗など)を定植して、水と有機質肥料を固体担体に直接添加することにより実施できる。
【0093】
ここで、有機質肥料としては、前記した有機物を用いることができる。有機質肥料は、液体であっても粉末であっても使用することができるが、液体の有機質肥料、特に魚煮汁やコーンスティープリカー、あるいは、粉末の有機質肥料の水懸濁液、が好適である。有機質肥料の添加量については、前記した固体担体の製造方法について記載した通りである。
【0094】
本実施形態の栽培方法は、野菜、果実、花卉、樹木、果樹、観葉植物など、あらゆる植物に適用することができる。具体的には、キク科、アブラナ科、ナス科、ヒユ科、ヒガンバナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、イネ科、ショウガ科、ユリ科、セリ科、アカザ科、ヒルガオ科などに属する植物体を挙げることができる。
【0095】
前記した硝酸生成能を有する固体担体は、前記した植物栽培方法の他に、有機物から硝酸態窒素(硝酸イオン、硝酸塩)を生成するための触媒カラムの担体として用いることができる。すなわち、固体担体をカラムに充填し、液体の有機物又は粉末の有機物の水懸濁液をカラムに添加し、固体担体中を通過した流出液を回収することで、硝酸態窒素を得ることができる。得られた硝酸態窒素を含む液体は、無機肥料として利用することができる。ここで、カラムに添加する有機物としては、前記した有機物を用いることができる。
【0096】
〔固体担体を製造するための土壌組成物(中間体)〕
さらなる実施形態は、前記(A)の固体担体中に、前記(B)~(E)の全てを共存させてなることを特徴とする、硝酸生成能を有する固体担体を製造するための土壌組成物に関する。ここで、「土壌組成物」とは、前記した通り、土壌化が進行途中である固体担体を主要成分とする組成物であって、当該固体担体を土壌化する過程で生じる中間体を意味する。また、前記(A)~(E)の各要素については前述した通りである。
【0097】
本実施形態における土壌組成物の固体担体は、ある程度の硝酸生成能を備えていればよく、前記した固体担体の製造方法を経て、十分な硝酸生成能が得られればよい。硝酸生成能を評価する基準として、前記した硝酸回収率測定方法により測定される硝酸回収率(%)を用いることができる。つまり、土壌組成物の固体担体について測定した硝酸回収率が1%以上、好ましくは1%以上30%未満、より好ましくは1%以上20%未満である場合に、「土壌化が進行途中である」と判定することができる。
【0098】
また、前記した通り、固体担体中の植物体の根の状態を確認することによっても、土壌化の確認が可能である。微生物群(特に硝化菌)が固定されていない領域では、植物体が利用できる硝酸態窒素が生成されないために、根が有機物に暴露して痛んでしまうためである。したがって、固体担体中での根の発達が不十分である場合に、「土壌化が進行途中である」と判定することができる。
【0099】
なお、前記した通り、土壌化の進行過程では、菌叢が不安定になり、硝酸回収率の測定値が一時的に高くなる場合がある。したがって、前記した硝酸回収率の測定は、固体担体中の異なる領域(好ましくは、固体担体の中層以下の領域から3箇所以上)から複数のサンプルを採取して行い、それらの平均値により土壌化を評価することが望ましい。あるいは、前記した複数の評価方法を併せて総合的に土壌化の評価を行うこともできる。
【0100】
本実施形態における土壌組成物は、土壌化が進行途中であり菌叢が不安定ではあるが、少なくとも上層部の固体担体については土壌化されていると考えられる。そして、このような土壌組成物を用いることで、硝酸生成能に優れる固体担体を製造できる。また、土壌組成物は、適切な容器に充填されていてもよい。容器に充填された土壌組成物は、運搬が容易であり、市場で流通可能である。したがって、土壌組成物は、前記した植物栽培用培地などに好適に用いることができるため、産業上利用可能である。
【実施例0101】
本開示は、実施例、及び比較例を挙げて以下のように具体的に説明される。なお、以下において「%」は、特に言及がない限り、「質量%」を意味する。
【0102】
〔実施例1〕
我々は、パクチー(セリ科)、ひまわり(キク科)、及びレタス(キク科)を用いて土壌化試験を行った。
【0103】
(試験方法)
(1)直径9cmのビニールポットに、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭300mLを入れ、その上に微生物源であるバーク堆肥(商品名「サンヨーバーク」、三陽チップ工業(株))を3g撒いた。さらにその上から、有機物として鰹節工場の副産物である鰹煮汁0.3g(液体質量、18mg N相当、C/N比2.9、以下同様。)を10mLの水に懸濁した液体を添加した。
(2)上記のポットにそれぞれパクチー、ひまわり、又はレタスの種子を5粒播種した(各群4ポット)。
(3)各ポットにつき20mLの水を、ポット下部から排水しないようにして毎日投入し、植物を栽培した。
(4)本葉展開後、週1回上記(3)の水やり後に、前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに添加し、6週間栽培した。
(5)6週間栽培した後、植物体は根ごと抜き取って収穫し、各ポットに水を600mL投入して固体担体を洗浄した。
(6)次の方法で硝酸態窒素回収率を測定した。再度前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに添加し、25℃で1日間静置した。その後、各ポットに水300mLを添加して、ポット底部より流出した流出液中の硝酸態窒素量を測定した。硝酸態窒素量(硝酸イオン濃度)の測定は、リフレクトクァント(登録商標)硝酸テスト(メルク社)を用い、RQフレックス(メルク社)で測定することにより行った(以下同様)。
【0104】
(結果)
硝酸態窒素量の測定値を、上記(6)で添加した鰹煮汁のN量で割って求めた硝酸態窒素回収率(%)を、
図5に示す。ひまわり、パクチー、レタスの順に高い硝酸態窒素回収率であった(
図5)。最も高いひまわりでは、約40%の硝酸態窒素回収率を示し、十分に硝酸生成能を有する固体担体を製造できることが示された。一方、レタスは、生育は良かったが、硝酸態窒素回収率が20%以下と若干低かった。しかし、回収率は、有機物の添加量を増やすことにより、改善できる可能性がある。
【0105】
以上の結果から、固体担体中に、微生物群、有機物、水、及び植物体を共存させて、前記植物体を栽培することにより、何度も大量の水で洗浄しなくても固体担体を土壌化できることが示された。また、様々な植物を用いて、本実施形態による土壌化が可能であることが示された。
【0106】
〔実施例2〕
コマツナ(アブラナ科)を用いて土壌化試験を行った。
【0107】
(試験方法)
(1)網かごに、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭3Lを充填し、その上に微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を30g散布した。培養土を散布しないこと以外は同様に処理した区をコントロールとした。
(2)上記(1)に、有機物として10倍希釈鰹煮汁30mLを噴霧し、25℃で2週間静置することにより、もみ殻燻炭表層部を土壌化した。
(3)静置後の網かごに、コマツナの種子を1かご当たり20粒播種した(各群3かご)。
(4)発芽後、各かごにつき2g(液体質量、120mg N相当)の鰹煮汁を1Lの水に懸濁した液体を毎日潅水することにより、コマツナを4週間栽培した。
(5)栽培終了後、コマツナの生育状況と、固体担体中でのコマツナの根の伸展を観察した。
【0108】
(結果)
図6は、栽培終了時点のコマツナの生育状況を示す写真像図である。
図6(A)はコントロール、
図6(B)は試験区、をそれぞれ示す。コントロールでは、微生物源である培養土を散布しなかったため、土壌化が行われず、コマツナは生育しなかったことが示された(
図6(A))。一方、試験区ではコマツナが健全に生育し、もみ殻燻炭全体に根が伸展した(
図6(B))。
【0109】
コントロールでは、有機物を分解して硝酸態窒素を生成する微生物群(特に硝化菌)が固定されていないため、植物体が利用できる硝酸態窒素がうまく生成されないために、根が有機物に暴露して傷んでしまったと考えられた。一方、試験区では、根が固体担体全体に伸展していることから、固体担体全体に微生物群が固定されていることが分かった。これらの結果から、植物体の根の伸展に伴い、固体担体全体に微生物群の生息域が拡大することが示唆された。
【0110】
〔実施例3〕
サニーレタス(キク科)を用いて土壌化試験を行った。
【0111】
(試験方法)
(1)直径9cmのビニールポットの底部の穴を塞ぎ、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭300mLを入れた。その上に微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を10g撒いた。さらにその上から、有機物として鰹煮汁0.3g(液体質量、18mg N相当、以下同様。)を10mLの水に懸濁した液体を添加した。
(2)上記のポットを3つ用意し、それぞれサニーレタスの種子を6粒播種した。
(3)毎日各ポットの重量を測定し、乾燥で軽くなった分を補充するようにして、1日10~50mLの水を各ポットに毎日投入し、植物を栽培した。
(4)本葉展開後、1ポット当たり3株に間引いた。また、平日(月~金曜日)は、上記(3)の水やり後に、前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに毎日添加し、6週間栽培した。
(5)6週間栽培した後、サニーレタスの地上部のみ収穫し、各ポットに水を900mL投入して固体担体を洗浄した。
(6)次の方法で硝酸態窒素回収率を測定した。再度前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに添加し、25℃で1日間静置した。その後、底部の穴を開放した状態で各ポットに水900mLを添加して、ポット底部より流出した流出液中の硝酸態窒素量を測定した。硝酸態窒素量の測定値を、添加した鰹煮汁のN量で割って硝酸態窒素回収率(%)を求めた(以下の実施例でも同様)。
【0112】
(結果)
図7に結果を示す。
図7(A)は収穫前の植物の外観を示す写真像図である。
図7(B)は地上部収量(g)、
図7(C)は硝酸態窒素回収率(%)、をそれぞれ示すグラフであり、値は平均値±標準誤差を示す。サニーレタスの生育は良好であった(
図7(A)、(B))。また、硝酸態窒素回収率は40%以上と非常に高かった(
図7(C))。これらの結果から、本実施形態により十分な硝酸生成能を有する固体担体が製造できることが示された。
【0113】
〔実施例4〕
実施例3とは有機物の添加開始のタイミングを変えて、土壌化試験を行った。
【0114】
(試験方法)
(1)直径9cmのビニールポットの底部の穴を塞ぎ、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭300mLを入れた。その上に微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を10g撒いた。
(2)上記のポットを3つ用意し、それぞれサニーレタスの種子を6粒播種した。
(3)毎日各ポットの重量を測定し、乾燥で軽くなった分を補充するようにして、1日10~50mLの水を各ポットに毎日投入し、植物を栽培した。
(4)本葉展開後、1ポット当たり3株に間引いた。また、平日(月~金曜日)は、上記(3)の水やり後に、鰹煮汁0.3g(液体質量、18mg N相当、以下同様)を10mLの水に懸濁した液体を各ポットに毎日添加し、6週間栽培した。
(5)6週間栽培した後、サニーレタスの地上部のみ収穫し、各ポットに水を900mL投入して固体担体を洗浄した。
(6)次の方法で硝酸態窒素回収率を測定した。再度前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに添加し、25℃で1日間静置した。その後、底部の穴を開放した状態で各ポットに水900mLを添加して、ポット底部より流出した流出液中の硝酸態窒素量を測定した。
【0115】
(結果)
図8に結果を示す。
図8(A)は収穫前の植物の外観を示す写真像図である。
図8(B)は地上部収量(g)、
図8(C)は硝酸態窒素回収率(%)、をそれぞれ示すグラフであり、値は平均値±標準誤差を示す。サニーレタスの生育は良好であった(
図8(A)、(B))。また、硝酸態窒素回収率は30%以上であった(
図8(C))。
【0116】
実施例3では播種前にも有機物を添加していたが、今回は播種前の有機物添加は行わず、本葉展開後から開始した。それでも硝酸態窒素回収率は十分なレベルであり(
図8(C))、本実施形態によっても十分な硝酸生成能を有する固体担体が製造できることが示された。
【0117】
〔実施例5〕
植物体の有無、並びに土壌化後の撹乱による影響を検討した。
【0118】
(試験方法)
(1)直径9cmのビニールポットの底部の穴を塞ぎ、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭300mLを入れた。その上に微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を10g撒いた。さらにその上から、有機物として鰹煮汁0.3g(液体質量、18mg N相当、以下同様)を10mLの水に懸濁した液体を添加した。
(2)上記のポットを6つ用意し、そのうち3つにそれぞれサニーレタスの種子を6粒播種した(サニーレタス区)。残りの3つのポットは、種子を播種しないこと以外は同様に処理し、コントロール(植物なし区)とした。
(3)毎日各ポットの重量を測定し、乾燥で軽くなった分を補充するようにして、1日10~50mLの水を各ポットに毎日投入し、植物を栽培した。
(4)本葉展開後、1ポット当たり3株に間引いた。また、平日(月~金曜日)は、上記(3)の水やり後に、前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに毎日添加し、5週間栽培した。
(5)5週間栽培した後、サニーレタスの地上部のみ収穫し、各ポットに水を900mL投入して固体担体を洗浄した。
(6)次の方法で硝酸態窒素回収率を測定した。再度前記鰹煮汁0.3gを10mLの水に懸濁した液体を各ポットに添加し、25℃で1日間静置した。その後、底部の穴を開放した状態で各ポットに水900mLを添加して、ポット底部より流出した流出液(流出液A)中の硝酸態窒素量を測定した。
(7)次いで、上記方法により土壌化した固体担体を全てポットから出し、サニーレタスの根を除去した後に、再度ポットへ戻した(撹乱処理)。コントロールについても、同様に固体担体を全てポットから出し、再度ポットに戻す撹乱処理を行った。
(8)撹乱後の固体担体について上記(6)の操作を繰り返し、得られた流出液(流出液B)中の硝酸態窒素量を測定した。
【0119】
(結果)
図9に結果を示す。
図9(A)はサニーレタス区の収穫前の外観、
図9(B)は植物なし区(コントロール)の外観、をそれぞれ示す写真像図である。
図9(C)は撹乱処理前後の硝酸態窒素回収率(%)を示すグラフであり、「A」は撹乱前、「B」は撹乱後、をそれぞれ示し、値は平均値±標準誤差を示す。サニーレタス区における植物の生育は良好であった(
図9(A))。サニーレタス区では、撹乱前の40%程の硝酸生成能を撹乱後も示した。一方、植物なし区(コントロール)では、撹乱後に硝酸生成能が16%程に低下した(
図9(C))。
【0120】
以上の結果から、植物体を共存させて土壌化を行うことにより、固体担体全体に微生物群の固定化が完了していれば、撹乱処理を行っても硝酸態窒素回収率は大きく落ち込むことなく、高い値を維持できることが示唆された。これに対して、植物なしの場合は、微生物群を撒いて有機物と水を繰り返し与えることによって、表層部のみの土壌化は可能だが、下層部まで土壌化することはできず、撹乱すると硝酸生成能が大きく低下することが示された(
図9)。
【0121】
〔実施例6〕
発芽後の植物体を定植する実施形態での土壌化試験を行った。
【0122】
(試験方法)
(1)1つのセルのサイズが3×3×6cmであるセルトレーに、微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を充填し、十分に含水させた。そこにレタスの種子を各セル1粒播種し、本葉展開まで2週間水のみを与えて育苗した。
(2)15Lプランターに、固体担体としてもみ殻燻炭を充填し、上記(1)のプラグ苗を1プランター当たり10株定植した。以後、有機物として鰹煮汁1g(液体質量、60mg N相当)を10mLの水に懸濁した液体を株元に平日毎日添加して、植物を栽培した。潅水は適宜行った。
(3)十分なサイズに成長した植物を収穫した。潅水時にプランター底部より流出する流出液について、リフレクトクァント(登録商標)硝酸テスト(メルク社)を用いて硝酸イオンの有無を検出した。
【0123】
(結果)
レタスの生育は良好であった。潅水時の流出液から硝酸イオンが検出された。これらの結果から、プラグ苗の土壌に含まれる微生物群が、レタスの成長に伴う根圏の広がりとともに固体担体全体に拡大し、固定化されることが示唆された。また、発芽後の植物体を、土壌化されていない固体担体に定植し、有機物と水を添加して植物を栽培することにより、土壌化が実施できることが示された。
【0124】
〔実施例7〕
土壌化後の固体担体の上層部と下層部の硝酸生成能を確認した。
【0125】
(試験方法)
(1)1つのセルのサイズが3×3×6cmであるセルトレーに微生物源である培養土(商品名「土太郎」、スミリン農産工業(株))を充填し、十分に含水させた。そこにサニーレタスの種子を各セル1粒播種し、本葉展開まで2週間水のみを与えて育苗した。
(2)網かごに、固体担体として十分に含水させたもみ殻燻炭2Lを充填し、その下にトレーを設置した。上記(1)のプラグ苗を、前記網かごに2株定植した。以後、有機物として鰹煮汁0.1g(液体質量、6mg N相当、以下同様)を100mLの水に懸濁した液体を毎日潅水して、植物を栽培した。なお、培養土の代わりにバーミキュライトを充填したセルトレーで育苗したレタス苗を定植したこと以外は同様に処理したものを、コントロールとした。
(3)十分なサイズに成長した植物を収穫した。残ったもみ殻燻炭を上層と下層に分離し、それぞれカラム(
図10(B)、2Lペットボトルの上部を切り取って作製したもの)に充填した。各カラムに鰹煮汁0.1gを100mLの水に懸濁した液体を添加し、25℃で一晩静置した。
(4)静置後の各カラムに水100mLを加え、下部開口部から流出液を回収した。この流出液について、アンモニウムイオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの各濃度を測定した。前記測定は、リフレクトクァント(登録商標)のアンモニアテスト、亜硝酸テスト、硝酸テスト(いずれもメルク社)を用い、RQフレックス(メルク社)で測定することにより行った。なお、比較のため、試験区及びコントロールの上層と下層を合わせてカラムに充填したものについても、同様に測定を行った。
【0126】
(結果)
図10及び表1に結果を示す。
図10(A)は収穫前の植物の外観、
図10(B)は測定用のカラムの外観、をそれぞれ示す写真像図である。試験区でのサニーレタスの生育は良好であった(
図10(A))のに対し、バーミキュライトのセルトレーで育てた苗を定植したコントロールでは、健全に生育しなかった。
【0127】
表1は、土壌化後の固体担体の上層及び下層についてのアンモニウムイオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの各測定値の平均値(単位:mg/L)を表す(n=3)。表中、「Low」は検出限界以下であることを指す。試験区では、上層・下層のいずれのカラムからも硝酸態窒素の生成が確認された。また、試験区では、上層、下層、上層+下層を合わせたカラムのいずれにおいても、各イオン濃度に目立った差は認められなかった。他方、コントロールでは、硝酸態窒素の生成は検出されず、アンモニア態窒素のみ高濃度で検出された。
【0128】
【0129】
これらの結果から、固体担体中に微生物群、有機物、水及び植物体を共存させて、植物体を栽培することにより、固体担体全体がまんべんなく土壌化され、下層部のみでも十分な硝酸生成能を持つようになることが示された。また、微生物群が存在しなければ、固体担体中で植物体を栽培しても土壌化できないことが示された。
【0130】
〔実施例8〕
マメ科植物ヘアリーベッチの根圏の拡大に伴う硝化菌群(アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌)の固体担体内部への拡大に関して、植物を定植しないコントロール区と比較することで評価した。
【0131】
(試験方法)
(1)底部に穴が開いた直径10cmのプラスチックポットに、固体担体として、オートクレーブにて滅菌処理し十分に含水させたもみ殻燻炭200 mLを入れ、特許文献1ならびに非特許文献1の方法(
図11)に従い、このもみ殻燻炭に微生物群の定着処理を行った。すなわち、もみ殻燻炭の上に微生物源としてバーク堆肥(商品名「サンヨーバーク」、三陽チップ工業(株))を加え、さらに有機物の添加と水によるリンスを繰り返すことで、もみ殻燻炭に微生物群を固定化させた。
【0132】
(2)滅菌したヘアリーベッチの種を3日間発芽させた後、上記(1)で微生物群を固定化したポットに定植した。一方、上記(1)で固定化したポットにヘアリーベッチを定植しないものを、コントロールとした。
【0133】
(3)次に、固体担体として、オートクレーブにて滅菌処理し十分に含水させたもみ殻燻炭2 Lを用意し、ビニール袋に入れた。そして、このビニール袋ごと、長さ50 cm×直径9 cmの塩化ビニルパイプに充填した。
【0134】
(4)上記(2)でヘアリーベッチを定植したポットを、微生物を固定化していない未処理のもみ殻燻炭を充填した上記(3)の塩化ビニルパイプの上面に設置した(ヘアリーベッチ区;
図12(A))。一方、上記(2)でヘアリーベッチを定植していないコントロールのポットも、上記と同様に未処理のもみ殻燻炭を充填した塩化ビニルパイプの上面に設置した(コントロール区;
図12(B))。各試験区はそれぞれ3連で試験を行った。
【0135】
(5)試験0日目に、各試験区のポットの上部に1.5 gの鰹煮汁を添加し、その後は4日おきに0.1 gの鰹煮汁を添加した。また乾燥防止のため、各試験区のポットの上部に毎日ミリQ水50 mLを添加した。日長:16 h/day、光度:16000 LUX、温度:24℃の条件下、17日間栽培した。コントロール区も同様に処置した。
【0136】
(6)栽培後、ヘアリーベッチ区とコントロール区の充填したもみ殻燻炭を-20℃にて凍結させた。凍結したもみ殻燻炭を、
図12に図示したL1~L8の8層に切り分け、各層から採取したもみ殻燻炭500 mgを、マイクロチューブ内で粉砕した。続いて粉砕したもみ殻燻炭のうち50 mgを採取し、Nucleospin Soil(タカラバイオ(株))を用いてDNAを抽出(約100 ng/μL)した。
【0137】
(7)上記(6)で抽出したDNAから、リアルタイムPCR法を用いてアンモニア酸化菌群、亜硝酸酸化菌群及び全細菌の遺伝子を定量し、各層におけるそれぞれの菌体量を調べた。ここで、アンモニア酸化菌群の増幅はアンモニア酸化菌に固有のamoA遺伝子をターゲットとするプライマー、亜硝酸酸化菌群(ニトロバクター属)の増幅は亜硝酸酸化還元酵素のnorB遺伝子をターゲットとするプライマー、全細菌の増幅は16S rRNAをターゲットとするプライマーを用いた。各プライマーを以下の表2に示す。
【0138】
【0139】
(8)リアルタイムPCRは、GVP-9600((株)島津製作所)を用い、TB Green(登録商標)Premix Ex TaqTM II (Tli RNaseH Plus), ROX plus(タカラバイオ(株))を用いて以下の表3に示す PCR 反応液を調製した。
【0140】
【0141】
(9)PCR条件は、以下の表4に示すシャトルPCR標準プロトコールに従って行った。
【0142】
【0143】
(10)2nd Derivative Maximum 法でCt値を算出した。また、Ct値の比較により各硝化菌の割合を算出した。例えば、全菌体量に対するアンモニア酸化菌の存在比率(2ΔCt)は、以下の(式1)により計算した。
【0144】
【0145】
(結果)
結果を
図13に示す。
図13は、リアルタイムPCRにより求めた、L1の全菌体量に対する(A)アンモニア酸化菌群の相対値、(B)亜硝酸酸化菌群の相対値、を示すグラフである。Y軸は相対値(%)を対数目盛で示し、X軸はL1~L8の各層を示す。
【0146】
栽培17日後の観察では、
図12(A)に示すように、ヘアリーベッチ区においてL5まで根の伸張が確認できた。アンモニア酸化菌群に関しては、
図13(A)に示すように、コントロール区では、試験方法(1)で硝化菌群を定着させたL1と直下のL2にしか存在しなかったが、ヘアリーベッチ区では、根圏の拡大とともにアンモニア酸化菌群が拡大し、L7までの拡大が確認できた。亜硝酸酸化菌群に関しては、
図13(B)に示すように、コントロール区では、硝化菌群を定着させたL1と直下のL2と若干L3に確認できる程度しか存在しなかったが、ヘアリーベッチ区では、コントロール区と比較して、十分に根の拡大が確認できたL4まで亜硝酸酸化菌が拡大し、定着していることが確認できた。
【0147】
これらの結果より、本実施形態に従う試験区では、コントロール区と比較して、植物の根圏の拡大に伴い硝化菌群が固体担体内部に拡大することを直接的かつ定量的に示すことができた。
【0148】
〔比較例〕
網かごに、十分に含水させたもみ殻燻炭3Lを詰め、そこにコマツナ種子20粒を播種した。播種の1週間後から18日間、鰹煮汁1gを1Lの水に懸濁した液体を毎日潅水して栽培した。栽培期間中は、グロースチャンバー内で25℃、12時間明期、12時間暗期で管理した。栽培終了後、もみ殻燻炭に含まれる無機態窒素(アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素)を分析した。前記分析は、リフレクトクァント(登録商標)のアンモニアテスト、亜硝酸テスト、硝酸テスト(いずれもメルク社)を用い、RQフレックス(メルク社)で測定することにより行った。
【0149】
結果を
図14に示す。
図14に示されるように、本栽培試験では、植物は枯死しなかったものの、葉が黄化し、健全に育たなかった。もみ殻燻炭中の無機態窒素の分析結果を、以下の表5に示す。表5から、栽培終了後のもみ殻燻炭中にはアンモニウムイオンのみが検出され、硝酸イオンと亜硝酸イオンは不検出であった。
【0150】
この結果から、固体担体に微生物源を加えなければ固体担体の土壌化が進まず、有機物の硝化が進まないため、植物の生育も悪化することが明らかとなった。
【0151】
【0152】
以上、図面を参照して、本開示の実施形態及び実施例について詳述してきたが、具体的な構成は、これらに限らず、本開示の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本開示に含まれる。
【0153】
例えば、前記実施例では、固体担体としてもみ殻燻炭を用いて硝酸生成能を有する固体担体を製造する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、通気性を有する任意の固体担体、例えば、バイオ炭、セラミックス、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、ガラス、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、木質チップ、わら、水苔、木綿、紙、ポリアクリルアミドゲル、寒天、軽石、土質材料、土質材料焼結体、畑土などを用いた場合も、本開示に含めることができる。
【0154】
また、例えば、前記実施例では、有機物として鰹煮汁を用いて硝酸生成能を有する固体担体を製造する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、任意の有機物、例えば、魚煮汁、魚粉、油粕、生ゴミ、トウモロコシ浸漬液、米ぬか、大豆粉、植物体残渣、動物体残渣、牛乳、粉ミルク、家畜糞、人糞尿、昆虫糞、昆虫粉末、藻類粉末、菌体、メタン発酵消化液、下水汚泥などを用いた場合も、本開示に含めることができる。
本開示は、栽培履歴のない非土壌媒体を土壌化するため、病害の発生を極力抑えたい苗生産農家・種芋生産農家などに利用されることが期待される。また、本開示は月や火星などのレゴリス(鉱物の破砕物)で植物を栽培する技術にも応用可能であり、産業上の利用が期待される。