(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053731
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】セメントクリンカ製造設備及びセメントクリンカ製造方法並びに水銀除去方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/36 20060101AFI20240409BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240409BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20240409BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20240409BHJP
B01J 20/06 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C04B7/36 ZAB
C04B7/38
B01D53/64 100
B01D53/83
B01J20/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160115
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】山口 喜久
【テーマコード(参考)】
4D002
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA29
4D002AC05
4D002BA04
4D002CA09
4D002DA11
4D002DA66
4D002EA01
4G066AA78B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA25
4G066CA47
4G066DA01
(57)【要約】
【課題】水銀を効率的に除去することが可能なセメントクリンカの製造設備を提供すること。
【解決手段】原料調製装置2と、焼成装置3と、水銀除去装置4とを備え、水銀除去装置4が、原料調製装置2又は焼成装置3から排出される排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収装置41と、ダスト回収装置41で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化チャンバー42と、水銀気化チャンバー42で気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着チャンバー43とを備えているセメントクリンカ製造設備1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料調製装置と、焼成装置と、水銀除去装置とを備えたセメントクリンカ製造設備であって、
前記水銀除去装置が、
前記原料調製装置又は焼成装置から排出される排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収装置と、
前記ダスト回収装置で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化チャンバーと、
前記水銀気化チャンバーで気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着チャンバーと、
を備えていることを特徴とするセメントクリンカ製造設備。
【請求項2】
前記水銀吸着チャンバーが、
回転軸及び該回転軸に設けられた撹拌翼を具備し、前記水銀吸着チャンバー内に収容した吸着材を撹拌する撹拌手段と、
前記水銀気化チャンバーで気化した水銀を導入する水銀ガス導入手段と、
追加の吸着材を連続的又は断続的に投入する吸着材投入手段と、
水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出する吸着材排出手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項3】
前記水銀吸着チャンバーの容量が、前記水銀気化チャンバーの容量よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項4】
前記水銀気化チャンバーが、チャンバー内を370℃以上に保持する加熱手段を備えると共に、前記水銀吸着チャンバーが、チャンバー内を100℃超200℃以下に保持する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項5】
前記吸着材が、セメントダスト、飛灰、及び石炭灰から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項6】
前記水銀除去装置が、前記水銀吸着チャンバーで吸着材に吸着させた水銀を分離して回収する水銀分離回収装置を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項7】
前記水銀分離回収装置が、水銀を分離した吸着材を、原料調製装置又は焼成装置に導入する吸着材導入手段を備えていることを特徴とする請求項6記載のセメントクリンカ製造設備。
【請求項8】
セメントクリンカの製造において発生する排ガス中の水銀を除去する水銀除去方法であって、
前記排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収工程と、
前記ダスト回収工程で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化工程と、
前記水銀気化工程で気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着工程と、
を有することを特徴とする水銀除去方法。
【請求項9】
前記水銀吸着工程が、水銀吸着チャンバー内に気化した水銀を導入しつつ、収容した所定量の吸着材を撹拌して、水銀を吸着材に吸着させる工程であって、追加の吸着材を連続的又は断続的に導入しつつ、水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出することを特徴とする請求項8記載の水銀除去方法。
【請求項10】
前記水銀吸着工程で用いる吸着材の容量が、前記水銀気化工程で処理されるダストの容量より少ないことを特徴とする請求項8又は9記載の水銀除去方法。
【請求項11】
前記水銀気化工程における処理温度が370℃以上であると共に、前記水銀吸着工程における処理温度が100℃超200℃以下であることを特徴とする請求項8又は9記載の水銀除去方法。
【請求項12】
前記吸着材が、セメントダスト、飛灰、及び石炭灰から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8又は9記載の水銀除去方法。
【請求項13】
さらに、前記水銀吸着工程で吸着材に吸着させた水銀を吸着材から分離して回収する水銀分離回収工程を有することを特徴とする請求項8又は9記載の水銀除去方法。
【請求項14】
請求項13記載の水銀除去方法を実施しつつセメントクリンカを製造する方法であって、
水銀分離回収工程で水銀を分離した吸着材を、セメントクリンカ製造工程で原料として使用することを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を除去しつつセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造設備及び製造方法に関する。また、セメントクリンカ製造工程において水銀を除去する水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造工程において用いられる石灰石等の天然原料、石炭や重油等の燃料あるいは汚泥や焼却灰等の廃棄物に水銀(水銀化合物を含む)が含有されている場合、ロータリーキルンなどのセメントクリンカ製造設備の高温部においては、水銀は気化して水銀ガスとなる。このロータリーキルンで発生した水銀ガスを含む排ガスは、その余熱を原料の乾燥等に用いる目的で、原料調製装置の原料乾燥機等に送られる。原料乾燥機等を通過した後の排ガスは、バグフィルタや電気集塵機などのダスト回収装置に送られ、排ガスに含まれるダストが捕集される。このダストには、水銀が温度の低下に伴って凝縮して付着し、あるいは凝縮しないものでも当該ダストに吸着(本発明においては両者を併せて単に「付着」という。)されることから、このダストを捕集することにより、排ガス中から水銀が除去される。一方、捕集されたダストは、セメントクリンカ原料として再利用される。
【0003】
しかしながら、上述したようにセメントクリンカ製造設備内に持ち込まれた原料や燃料に含まれる水銀の量が多い場合などには、排ガスと共にダスト回収装置に送られた水銀ガスがダストに付着し切れずに、その状態のまま排ガスとともに煙突から大気へ放出されてしまうおそれがある。
【0004】
このような課題を解決するものとして、例えば、特許文献1には、「燃焼排ガスの水銀除去方法」という名称で、セメント製造設備で発生する燃焼排ガスに含まれる水銀を低コストで容易に除去することが可能な方法に関する発明が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された発明は、セメント製造設備のサスペンションプレヒータの最上段のサイクロンから排出される燃焼排ガスを石炭乾燥粉砕装置に導入し、この石炭乾燥粉砕装置において石炭の粉砕によって得られた微粉炭に当該燃焼排ガスに含まれる水銀を吸着させた後、燃焼排ガスと微粉炭をバグフィルタに導入して微粉炭のみを捕集することにより燃焼排ガスを清浄化することを特徴とする。
【0006】
このようにセメント製造設備の付帯設備である石炭乾燥粉砕装置を用いる当該水銀除去方法によれば、新たに水銀除去用の装置を設置する必要がないことから、燃焼排ガスの清浄化を低コストで容易に行うことができる。
【0007】
また、特許文献2には、「セメントキルンの排ガスの処理方法」という名称で、各種の廃棄物が原料や燃料として用いられるセメントキルンにおいて発生する排ガスから水銀、有機塩素化合物及びダストを除去する方法に関する発明が開示されている。
【0008】
特許文献2に開示された発明は、集塵機から排ガスを抽出して吸着塔に送り、排ガスに含まれる水銀及び有機塩素化合物を吸着塔において活性炭や微粉炭に吸着させた後、この活性炭や微粉炭を加熱炉にて400℃以上に加熱して水銀や有機塩素化合物を除去するとともに、この工程で得られた活性炭や微粉炭をセメントキルンに投入することを特徴とする。
【0009】
このようなセメントキルンの排ガスの処理方法によれば、水銀及び有機塩素化合物を除去するための加熱炉の小型化と、加熱に要するエネルギーの削減が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-75784号公報
【特許文献2】特開2006-96615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、セメントの製造設備で発生する排ガス中の水銀を除去する方法が種々提案されているが、さらに効率よく水銀を除去する新たな方法が求められている。
【0012】
本発明の課題は、水銀を効率的に除去することが可能なセメントクリンカの製造設備及び製造方法を提供することにある。また、セメントクリンカ製造工程において水銀を効率的に除去することが可能な水銀除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、排ガス中のダストを捕集して回収し、かかるダストに所定の処理を施すことにより、排ガスから水銀を効率的に除去できると共に、セメントクリンカ製造系内から水銀を効率的に除去できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] 原料調製装置と、焼成装置と、水銀除去装置とを備えたセメントクリンカ製造設備であって、
前記水銀除去装置が、
前記原料調製装置又は焼成装置から排出される排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収装置と、
前記ダスト回収装置で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化チャンバーと、
前記水銀気化チャンバーで気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着チャンバーと、
を備えていることを特徴とするセメントクリンカ製造設備。
[2] 前記水銀吸着チャンバーが、
回転軸及び該回転軸に設けられた撹拌翼を具備し、前記水銀吸着チャンバー内に収容した吸着材を撹拌する撹拌手段と、
前記水銀気化チャンバーで気化した水銀を導入する水銀ガス導入手段と、
追加の吸着材を連続的又は断続的に投入する吸着材投入手段と、
水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出する吸着材排出手段と、
を備えていることを特徴とする[1]記載のセメントクリンカ製造設備。
[3] 前記水銀吸着チャンバーの容量が、前記水銀気化チャンバーの容量よりも小さいことを特徴とする[1]又は[2]記載のセメントクリンカ製造設備。
【0015】
[4] 前記水銀気化チャンバーが、チャンバー内を370℃以上に保持する加熱手段を備えると共に、前記水銀吸着チャンバーが、チャンバー内を100℃超200℃以下に保持する加熱手段を備えていることを特徴とする[1]~[3]のいずれか記載のセメントクリンカ製造設備。
[5] 前記吸着材が、セメントダスト、飛灰、及び石炭灰から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか記載のセメントクリンカ製造設備。
[6] 前記水銀除去装置が、前記水銀吸着チャンバーで吸着材に吸着させた水銀を分離して回収する水銀分離回収装置を備えていることを特徴とする[1]~[5]のいずれか記載のセメントクリンカ製造設備。
[7] 前記水銀分離回収装置が、水銀を分離した吸着材を、原料調製装置又は焼成装置に導入する吸着材導入手段を備えていることを特徴とする[6]記載のセメントクリンカ製造設備。
【0016】
[8] セメントクリンカの製造において発生する排ガス中の水銀を除去する水銀除去方法であって、
前記排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収工程と、
前記ダスト回収工程で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化工程と、
前記水銀気化工程で気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着工程と、
を有することを特徴とする水銀除去方法。
[9] 前記水銀吸着工程が、水銀吸着チャンバー内に気化した水銀を導入しつつ、収容した所定量の吸着材を撹拌して、水銀を吸着材に吸着させる工程であって、追加の吸着材を連続的又は断続的に導入しつつ、水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出することを特徴とする[8]記載の水銀除去方法。
[10] 前記水銀吸着工程で用いる吸着材の容量が、前記水銀気化工程で処理されるダストの容量より少ないことを特徴とする[8]又は[9]記載の水銀除去方法。
[11] 前記水銀気化工程における処理温度が370℃以上であると共に、前記水銀吸着工程における処理温度が100℃超200℃以下であることを特徴とする[8]~[10]のいずれか記載の水銀除去方法。
【0017】
[12] 前記吸着材が、セメントダスト、飛灰、及び石炭灰から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[8]~[11]のいずれか記載の水銀除去方法。
[13] さらに、前記水銀吸着工程で吸着材に吸着させた水銀を吸着材から分離して回収する水銀分離回収工程を有することを特徴とする[8]~[12]のいずれか記載の水銀除去方法。
[14] [13]記載の水銀除去方法を実施しつつセメントクリンカを製造する方法であって、
水銀分離回収工程で水銀を分離した吸着材を、セメントクリンカ製造工程で原料として使用することを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のセメントクリンカの製造設備及び製造方法によれば、排ガスから水銀を効率的に除去できると共に、系内から水銀を効率的に除去できる。また、本発明の水銀除去方法によれば、セメントクリンカ製造工程において水銀を効率的に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備全体を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備の水銀除去装置の概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備の水銀除去装置の水銀吸着チャンバーの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のセメントクリンカ製造設備は、原料調製装置と、焼成装置と、水銀除去装置とを備え、水銀除去装置が、原料調製装置又は焼成装置から排出される排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収装置と、ダスト回収装置で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀(水銀化合物を含む。以下同様。)を気化する水銀気化チャンバーと、水銀気化チャンバーで気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着チャンバーとを備えている。
【0021】
原料調製装置は、原料乾燥機や原料ミルなどを備えている。また、焼成装置は、サイクロン、仮焼炉などを具備し、セメントクリンカ原料を仮焼成するプレヒータ部や、仮焼成されたセメントクリンカ原料を本焼成するロータリーキルンなどを備えている。
【0022】
本発明においてダストを回収するための排ガスは、原料調製装置又は焼成装置から大気に排出される前のガスであれば特に制限されるものではなく、好ましくは、焼成装置のロータリーキルンから排出された排ガスであり、より好ましくは、ロータリーキルンから排出後、さらに原料調製装置の原料乾燥機に導入されて排出された排ガスである。
【0023】
本発明のセメントクリンカ製造設備においては、ダスト回収装置、水銀気化チャンバー及び水銀吸着チャンバーを含む水銀除去装置における処理により、排ガスから水銀を効率的に除去できると共に、系内から水銀を効率的に除去できる。なお、本発明においては、水銀と同時に、亜鉛、鉛、カドミウムといった揮発性重金属も除去することができる。
【0024】
以下、
図1を用いて、本発明の一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備について説明する。
図1は、セメントクリンカ製造設備全体を示す概略図である。なお、図中の実線矢印は、セメントクリンカ製造設備を移動する原料の流れを表しており、点線矢印は、排ガスの流れを表しており、破線矢印は、ダスト回収装置で排ガスから捕集したダストの流れを表している。
【0025】
図1に示すように、セメントクリンカ製造設備1は、セメントクリンカ原料を調製する原料調製装置2と、原料調製装置2で調製されたセメントクリンカ原料を焼成する焼成装置3と、排ガス中の水銀を除去する水銀除去装置4とを備えている。
【0026】
原料調製装置2は、原料乾燥機21と、原料ミル22と、原料混合サイロ23と、原料貯蔵サイロ24とを備えている。この原料調製装置2を用いてセメントクリンカ原料の調製が行われる(原料調製工程)。
【0027】
原料調製工程では、石灰石、粘土、珪石及び酸化鉄原料等が調合された後、原料乾燥機21に送られて乾燥される。原料乾燥機21では、焼成装置3から送られてきた高温の排ガスを利用して原料の乾燥が行われる。続いて、原料ミル22に送られて粉砕される。原料ミル22において粉砕された原料は、原料混合サイロ23に送られて均質にブレンドされた後、原料貯蔵サイロ24に貯蔵される。一方、原料乾燥機21から排出された排ガスは、水素除去装置4に送られる。
【0028】
焼成装置3は、複数のサイクロン31及び仮焼炉32を具備し、セメントクリンカ原料を仮焼成するプレヒータ部33と、仮焼成されたセメントクリンカ原料を本焼成するロータリーキルン34と、焼成されたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ35とを備えている。この焼成装置3を用いてセメントクリンカ原料の焼成が行われる(焼成工程)。
【0029】
焼成工程では、原料調製工程において乾燥、粉砕等された粉体原料が、プレヒータ部33に送られ、仮焼成される。ロータリーキルン34には緩い傾斜が設けられており、プレヒータ部33で予熱された粉体原料は、この傾斜と回転運動によってロータリーキルン34内をゆっくりと移動しながら高温(例えば約1450℃)で焼成される。ロータリーキルン34で焼成された粉体原料は、クリンカクーラ35で急冷されてセメントクリンカと呼ばれる黒い塊状の焼成物となる。
【0030】
なお、焼成工程に続いて、製造したセメントクリンカに石膏等を加える仕上げ工程が行われ、セメントが製造される。
【0031】
次に、セメントクリンカ製造工程における排ガスの主な流れについて説明する。
図1に点線矢印で示すように、ロータリーキルン34で発生した排ガスが、粉体原料の流れに逆行するようにプレヒータ部33の内部を上昇し、最上段のサイクロン31から排出される。そして、この排ガスは、その余熱を原料の乾燥に利用するため、原料乾燥機21に送られる。原料乾燥機21から排出される排ガスは、水銀除去装置4に送られ、水銀(水銀含有ダスト)が除去された後、煙突5から大気中に放出される。したがって、外部に放出される排ガス中には水銀がほとんど含まれていない。
【0032】
なお、水銀は、プレヒータ部33やロータリーキルン34の内部では気化して水銀ガスとなっているため、仕上げ工程に送られるセメントクリンカには含まれない。
【0033】
続いて、
図2及び
図3を用いて、水銀除去装置4について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係るセメントクリンカ製造設備の水銀除去装置の概略図であり、
図3は、水銀除去装置の水銀吸着チャンバーの概略図である。
【0034】
図2に示すように、水銀除去装置4は、ダスト回収装置41と、水銀気化チャンバー42と、水銀吸着チャンバー43と、水銀分離回収装置44とを備えている。
【0035】
(ダスト回収装置)
ダスト回収装置41は、バグフィルタ45(第1バグフィルタ)と、バグフィルタ45から回収されたダストを分級するサイクロン46と、サイクロン46の分級によって得られた微粒子のダストを捕集するバグフィルタ47(第2バグフィルタ)とを備えている。
【0036】
まず、原料乾燥機21から排出された排ガスは、バグフィルタ45によりダストが回収される。この回収されたダストの一部は、サイクロン46に送られ、残りのダストは、クリンカ製造設備1の系に戻される。サイクロン46では、微粒子のダストが分離され、バグフィルタ47において微粒子ダストが回収される。比較的重量のあるダストは、クリンカ製造設備1の系に戻される。微粒子ダストは水銀濃度が高いため、これを除去することにより効率的に水銀を除去することができる。
【0037】
なお、ダスト回収装置としては、排気ガス中からダストを回収できるものであれば特に制限されるものではなく、バグフィルタの他、電気集塵機を用いることができる。微粒子ダストを回収するべく、必要に応じて、サイクロン(粉体分離器)を組み合わせることが好ましい。多段の電気集塵機を用いる場合、水銀濃度の高い微粒子のダストを回収すべく、後段からダストを回収することが好ましい。
【0038】
(水銀気化チャンバー)
水銀気化チャンバー42は、ダスト回収装置41で回収した水銀濃度の高い微粒子のダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する手段である。この水銀気化チャンバー42において、水銀気化工程が実施される。
【0039】
水銀気化チャンバー42は、加熱手段及び撹拌手段を備えており、水銀気化チャンバー42内に導入されたダストを撹拌しながら加熱して、ダストに付着した水銀を気化させて水銀ガスとする。水銀気化チャンバー42には、ダスト回収装置41のバグフィルタ47からダストが連続的又は断続的に導入され、水銀気化チャンバー42で気化した水銀ガスはキャリアガスと共に下流の水銀吸着チャンバー43へ送られる。なお、水銀気化チャンバー42で水銀が除去されたダストは、連続的又は断続的に排出され、セメントクリンカ製造設備1の系に戻される。
【0040】
水銀気化チャンバーの容量としては、例えば0.5~20m3であり、1~10m3であることが好ましい。また、水銀気化チャンバーは、加熱手段により、チャンバー内を370℃以上に保持することが好ましく、400℃以上に保持することがより好ましく、450℃以上に保持することがさらに好ましい。この範囲の温度に加熱することにより、水銀の沸点が356℃であることから、水銀を効果的に気化し、ダストから水銀を除去することができる。
【0041】
(水銀吸着チャンバー)
水銀吸着チャンバー43は、水銀気化チャンバー42で気化した水銀(水銀ガス)を吸着材に吸着させる手段である。この水銀吸着チャンバー43において、水銀吸着工程が実施される。
【0042】
水銀吸着工程は、具体的に例えば、水銀吸着チャンバー内に気化した水銀ガスを導入しつつ、収容した所定量の吸着材を撹拌して、水銀を吸着材に吸着させ、その一方で、追加の吸着材を連続的又は断続的に導入しつつ、水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出する工程である。
【0043】
水銀吸着チャンバー43としては、水銀ガスを吸着材に吸着させることができる手段であれば特に制限されるものではなく、例えば、
図2及び
図3に示すように、水平方向に配設された回転軸49及び回転軸49に設けられた撹拌翼50を具備し、水銀吸着チャンバー43内に収容した吸着材を撹拌する撹拌手段51と、水銀気化チャンバー42で気化した水銀を導入する水銀ガス導入手段52と、追加の吸着材を連続的又は断続的に投入する吸着材投入手段53と、水銀が吸着した吸着材を連続的又は断続的に排出する吸着材排出手段54とを備えているものを挙げることができる。
【0044】
水銀吸着チャンバーの容量としては、水銀気化チャンバーより小さいことが好ましく、1/2以下の容量が好ましく、1/3以下の容量がより好ましく、1/4以下の容量がさらに好ましく、下限側は、処理効率を鑑み、適宜決定すればよいが、例えば、1/20以上である。具体的に、例えば0.05~10m3であり、0.1~5m3であることが好ましい。
【0045】
用いる吸着材の容量は、処理ダストの容量より少ないことが好ましく、1/2以下の容量が好ましく、1/5以下の容量がより好ましく、1/10以下の容量がさらに好ましく、下限側は、水銀の回収効率を鑑み、適宜決定すればよいが、例えば、1/50以上である。これにより、水銀を濃縮して回収することができ、後の水銀分離回収処理や吸着材の廃棄処理を効率的に行うことができる。
【0046】
また、水銀吸着チャンバーは、加熱手段により、チャンバー内を100℃超200℃以下に保持することが好ましく、110~180℃に保持することがより好ましく、120~150℃に保持することがさらに好ましい。この範囲の温度に保持することにより、水銀ガスを十分に冷却して吸着材に十分に吸着させることができる。また、吸着材に水分が含まれていることが多いが、この場合にも、水分は水蒸気として排出されるため、水銀吸着チャンバー内を乾燥状態に保持することができ、吸着材のチャンバー内壁への固着を防止することができる。
【0047】
ここで、吸着材としては、水銀を吸着できるものであれば特に制限されるものではなく、セメントダスト、飛灰、石炭灰等を用いることができる。これらの中でも、軽量で吸着性能が高いため、石炭灰が好ましい。また、吸着材としてセメントダストを用いる場合、バグフィルタ45で回収されたダスト等を用いてもよいが、バグフィルタ47において回収された微粒子ダスト(水銀気化チャンバーに導入される微粒子ダスト)を用いることが好ましい。
【0048】
吸着材のかさ密度(ゆるみかさ密度)は、0.2~1.0g/cm3が好ましく、0.3~0.8g/cm3がより好ましく、0.4~0.7g/cm3がさらに好ましい。また、吸着材の平均粒径(体積基準)は、一般的に、0.001~1mmが好ましく、0.002~0.5mmがより好ましい。ただし、石炭灰の場合は、粒径が比較的大きい方が好ましく、例えば、平均粒径は0.02~2mmが好ましく、0.05~1mmがより好ましい。
【0049】
かさ密度(ゆるみかさ密度)の測定は、例えば、ASTM 32990に準拠したスコットボリュメーターを用いる。また、平均粒径(体積基準)の測定は、例えば、JIS Z 8825-1に準拠したレーザー回折・散乱法を用いる。
【0050】
本実施形態においては、水銀吸着チャンバー43は、回転軸49が水平方向に配設された横型であるが、回転軸が鉛直方向に配設された縦型でもよく、回転軸が斜めに配設された傾斜型でもよい。また、水銀ガス導入手段52は、
図3に示すように、ガス通気管55の周囲に加熱手段56及び保温材57を設けて、先端部(放出直前)まで高温(例えば370℃以上)に保持することが好ましい。これにより、水銀ガス等の重金属含有ガスの固化によるガス通気管55の閉塞を防止することができる。
【0051】
なお、水銀吸着チャンバー43から排出される排ガスは、活性炭等で処理して大気に放出してもよいが、余熱を利用すべく、セメントクリンカ製造設備1の系内に戻すことが好ましい。
【0052】
(水銀分離回収装置)
水銀吸着チャンバーで吸着材に吸着させた水銀は、水銀分離回収装置によって吸着材から分離して回収することが好ましい。例えば、
図2に示すように、水銀分離回収装置としては、導入された吸着材の昇温を行うため第1加熱炉(昇温炉)58と、吸着材の高温状態を保持し吸着材から水銀を分離する第2加熱炉(恒温炉)59と、水銀が分離された吸着材を冷却する冷却器60とを備えた水銀分離回収装置44を挙げることができる。水銀分離回収装置44としては、具体的に、いわゆるハーゲンマイヤー炉を用いることができ、これにより、ダイオキシンの分解処理も同時に行うことができる。
【0053】
第1加熱炉58及び第2加熱炉59は、窒素ガス等の不活性ガスが導入される構造となっている。不活性ガスによって、炉内は酸素濃度が0.1%以下の酸欠状態となり、この酸欠還元雰囲気下で400℃~600℃程度の温度に加熱される。第1加熱炉58及び第2加熱炉59における加熱処理により、沸点が356℃である水銀が気化して水銀ガスとなるため、吸着材からの水銀が分離される。また、酸化水銀や塩化水銀が生成されず、金属水銀の形態で回収できる。
【0054】
第2加熱炉59で発生した水銀ガス(及び水蒸気)を冷却し、金属水銀回収器61で、金属水銀を回収する。金属水銀回収器61では、水より比重が大きい水銀が底部に溜まり、水銀より比重が小さい水は水銀の上側に溜まる構造となっており、これにより、金属水銀を回収することができる。
【0055】
一方、冷却器60においては、第2加熱炉59から取り出され、水銀が除去された吸着材を70℃程度まで冷却する。なお、冷却速度が遅いと、一旦分解したダイオキシンが250℃前後で再合成されてしまうため、急冷する(例えば、60分程度で70℃まで一気に下げる)ことが好ましい。これにより、ダイオキシンの再合成が抑制される。
【0056】
冷却器60で冷却された水銀が分離された吸着材は、セメントクリンカ製造設備1の系内に戻すことが好ましい。すなわち、水銀分離回収装置44は、水銀を分離した吸着材を、原料調製装置2又は焼成装置3に導入する吸着材導入手段62を備えていることが好ましい。これにより、水銀分離回収装置で水銀を分離した吸着材を、セメントクリンカ製造工程で使用することができ、吸着材をセメントクリンカの原料として有効活用することができる。
【0057】
上記本発明のセメントクリンカ製造設備を用いて、本発明の水銀除去方法を実施することができる。すなわち、本発明の水銀除去方法は、セメントクリンカの製造において発生する排ガス中のダストに付着した水銀を除去する方法であって、排ガス中のダストを捕集して回収するダスト回収工程と、ダスト回収工程で回収したダストを加熱して、ダストに付着した水銀を気化する水銀気化工程と、水銀気化工程で気化した水銀を吸着材に吸着させる水銀吸着工程とを有する。各工程は、上記本発明のセメントクリンカ製造設備で説明したのと同様であるので省略する。
【実施例0058】
[実施例1]
以下、ダストの粒子径とダストに含まれる水銀含有量の関係について確認した。
具体的に、バグフィルタ45(第1バグフィルタ)において捕集されるダストをサイクロン46で分級して、その粒子径と水銀濃度の関係を調べた。その結果を表1に示す。なお、表に示した「D10」、「D50」及び「D90」はそれぞれ頻度の累積が10%、50%及び90%になる粒子径を意味している。
【0059】
【0060】
表1から明らかなように、分級前のダストは水銀濃度が28.0ppmであったのに対し、分級後のダストは水銀濃度が粗粉(D50=17.79μm)の場合で約0.8倍となっており、微粉(D50=2.91μm)の場合で約1.6倍となった。これは、セメントの製造工程の系内に持ち込まれた原料や燃料に含まれる水銀の原料調製工程と焼成工程の中で循環する量を低減させるには、バグフィルタ45(第1バグフィルタ)から回収されたダストを分級して得られた微粒子のダスト(表1に示した微粉に相当)に含まれる水銀を除去することが有効であることを意味している。
このときのダストを分級して得られた微粉のゆるみかさ密度は、0.66g/cm3であった。
【0061】
[実施例2]
続いて、本発明の水銀除去装置(水銀気化チャンバー及び水銀吸着チャンバー)を用いた水銀除去の効果について確認した。
具体的には、バグフィルタ47(第2バグフィルタ)において捕集された微粉ダスト4300cm3(2838g)を、第1ダストに4100cm3(2706g)と第2ダストに200cm3(132g)に分け、第1ダストを水銀気化チャンバー42に供給し、約500℃に加熱して、水銀をガス化させ、その水銀ガスを水銀吸着チャンバー43内において吸着材としての第2ダストと約100℃で接触させて、高濃度の水銀を含む第2ダストを回収した。その結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
表2から明らかなように、仕込みの第1ダストと第2ダストは水銀濃度がそれぞれ44.2ppmであったのに対し、取り出しの第1ダストは水銀濃度が0.4ppm、第2ダスト(吸着材)は水銀濃度が675.4ppmとなった(濃縮倍率約15倍)。したがって、本発明の方法によれば、少量の吸着材に高濃度の水銀を吸着して回収させることができ、後工程の水銀分離処理等における処理量を低減することが可能となる。
【0064】
[実施例3]
実施例2において、吸着材として用いた第2ダストの代わりに石炭灰を用いて、本発明の水銀除去装置(水銀気化チャンバー及び水銀吸着チャンバー)を用いた水銀除去の効果について確認した。石炭灰は、株式会社トクヤマ内の火力発電設備から得られたものを90μmの振動篩機で処理した篩上の石炭灰とした。このようにして得られた篩上の石炭灰のゆるみかさ密度は、0.51g/cm3であった。
【0065】
具体的には、実施例1で得られた微粉ダストを水銀気化チャンバー42に、前記石炭灰を水銀吸着チャンバー43に供給し、水銀気化チャンバー42を約500℃に加熱して、水銀をガス化させ、その水銀ガスを水銀吸着チャンバー43内において吸着材としての石炭灰と約110℃で接触させて、高濃度の水銀を含む石炭灰を回収した。その結果を表3に示す。
【0066】
【0067】
表3から明らかなように、仕込みの微粉ダストと石炭灰は水銀濃度がそれぞれ44.2ppm、2.2ppmであったのに対し、取り出しの微粉ダストは水銀濃度が0.5ppm、石炭灰(吸着材)は水銀濃度が515.2ppmとなった(濃縮倍率約12倍)。したがって、本発明の方法によれば、少量の吸着材に高濃度の水銀を吸着して回収させることができ、後工程の水銀分離処理等における処理量を低減することが可能となる。