(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053745
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 1/10 20060101AFI20240409BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240409BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240409BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20240409BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240409BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L1/10
C08L67/00
C08L33/06
C08L51/06
C08F265/06
C08J5/18 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160136
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍一朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌幸
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AA33X
4F071AA44
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4J026EA04
4J026EA05
4J026FA03
4J026FA07
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムを製造できる樹脂組成物の提供。
【解決手段】セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)、及びアクリル重合体(C)を含み、前記脂肪族ポリエステル(B)が、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体であり、前記セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対し、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が35質量部以上である、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)、及びアクリル重合体(C)を含み、前記脂肪族ポリエステル(B)が、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体であり、前記セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対し、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が35質量部以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対し、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量部以上150質量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物の総質量に対して、前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が10質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物の総質量に対して、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物の総質量に対して、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項7】
フィルム表面の算術平均粗さRaが0.10μm以上3.00μm以下である、請求項6に記載のフィルム。
【請求項8】
フィルム表面の最大高さRzが0.5μm以上15.0μm以下である、請求項6に記載のフィルム。
【請求項9】
20°表面光沢度が0.1%以上70%以下である、請求項6に記載のフィルム。
【請求項10】
60°表面光沢度が5%以上70%以下である、請求項6に記載のフィルム。
【請求項11】
85°表面光沢度が5%以上90%以下である、請求項6に記載のフィルム。
【請求項12】
内部ヘーズが0.1%以上40.0%以下である、請求項6に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及び前記樹脂組成物からなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品の表面上に積層して用いられるフィルムが知られている。特許文献1には、例えば液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルム等の光学フィルムとして利用できるセルロースエステルフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の内装材、外装材、自動車の内装材、外装材、携帯電話、又は電機製品等の物品の表面に積層される、装飾のための加飾フィルムや、保護のための表面保護フィルム等として、艶消し性を有する艶消しフィルムが用いられることがある。艶消しフィルムを用いると、高級感、深み感、落ち着き感等を付与することができる。艶消しフィルムには、艶消しフィルムの下の物品表面が視認できる視認性が求められることがある。
本発明は、艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムを製造できる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)、及びアクリル重合体(C)を含み、前記脂肪族ポリエステル(B)が、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体であり、前記セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対し、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が35質量部以上である、樹脂組成物。
[2] 前記セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対し、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量部以上150質量部以下である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記樹脂組成物の総質量に対して、前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が10質量%以上60質量%以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記樹脂組成物の総質量に対して、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記樹脂組成物の総質量に対して、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
[7] フィルム表面の算術平均粗さRaが0.10μm以上3.00μm以下である、[6]に記載のフィルム。
[8] フィルム表面の最大高さRzが0.5μm以上15.0μm以下である、[6]又は[7]に記載のフィルム。
[9] 20°表面光沢度が0.1%以上70%以下である、[6]~[8]のいずれかに記載のフィルム。
[10] 60°表面光沢度が5%以上70%以下である、[6]~[9]のいずれかに記載のフィルム。
[11] 85°表面光沢度が5%以上90%以下である、[6]~[10]のいずれかに記載のフィルム。
[12] 内部ヘーズが0.1%以上40.0%以下である、[6]~[11]のいずれかに記載のフィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムを製造できる樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、重合体の「構成単位」とは単量体1分子から形成される単位(原子団)を意味する。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0008】
≪樹脂組成物(X)≫
本実施形態の樹脂組成物(X)は、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)を含む。
【0009】
<セルロースエステル化合物(A)>
セルロースエステル化合物(A)としては、例えば、セルロースプロピオネート(CP)、セルロースブチレート(CB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートイソブチレート(CAIB)、セルロースプロピオネートブチレート(CPB)等が挙げられる。得られるフィルムの透明性の点から、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。セルロースエステル化合物(A)は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物(X)が、再生可能な有機資源由来の物質であるセルロースエステル化合物を含むと、環境負荷を低減できる。
【0010】
セルロースエステル化合物(A)のガラス転移温度(Tg)は、得られるフィルムの機械特性の点から120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。また、成形性の点から180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
セルロースエステル化合物(A)のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7244-4:1999に準拠する方法で、粘弾性スペクトロメーターを用いて、加熱速度3℃/分で昇温させたときの、損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度から求めることができる。
【0011】
<脂肪族ポリエステル(B)>
脂肪族ポリエステル(B)は、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体である。すなわち、脂肪族ポリエステル(B)は、脂肪族ジオールに由来する構成単位と、脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する。
脂肪族ポリエステル(B)の原料として用いる脂肪族ジオールは1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
脂肪族ポリエステル(B)の原料として用いる脂肪族カルボン酸は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
前記脂肪族ジオールは、炭素数が2以上の脂肪族炭化水素の、2つの炭素原子に結合した水素原子がそれぞれヒドロキシ基に置換した化合物である。
脂肪族ジオールにおける前記脂肪族炭化水素は、飽和鎖式炭化水素、不飽和鎖式炭化水素、又は脂環式炭化水素のいずれもよい。熱安定性の点で飽和鎖式炭化水素が好ましい。飽和鎖式炭化水素は直鎖状又は分岐状のいずれでもよく、直鎖状が好ましい。
脂肪族ジオールにおける前記脂肪族炭化水素の炭素数は、フィルムの柔軟性の点から、2~10が好ましく、2~6がより好ましい。
脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキセングリコール等が挙げられる。
【0013】
前記脂肪族カルボン酸は、炭素数が2以上の脂肪族炭化水素から2個以上の水素原子を除いた多価基と、前記水素原子の一部又は全部と置換したカルボキシ基を有する化合物である。
脂肪族カルボン酸における前記脂肪族炭化水素は、飽和鎖式炭化水素、不飽和鎖式炭化水素、脂環式炭化水素のいずれもよい。飽和鎖式炭化水素は直鎖状又は分岐状のいずれでもよく直鎖状が好ましい。不飽和鎖式炭化水素は直鎖状又は分岐状のいずれでもよく直鎖状が好ましい。
脂肪族カルボン酸における前記脂肪族炭化水素の炭素数は、フィルムの柔軟性の点から、2~10が好ましく、2~6がより好ましい。
【0014】
前記脂肪族カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸を含むことが好ましい。脂肪族ジカルボン酸は、炭素数が2以上の脂肪族炭化水素の、2つの炭素原子に結合した水素原子がそれぞれカルボキシ基に置換した化合物である。
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(へプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、マレイン酸、フマル酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。フィルムの柔軟性の点で、コハク酸、アジピン酸が好ましい。
【0015】
前記脂肪族カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸以外の他の脂肪族カルボン酸を含んでもよい。他の脂肪族カルボン酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、3官能以上の脂肪族多価カルボン酸等が挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、4-ヒドロキシメチルシクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。また、さらには、これらの低級アルキルエステル、分子内エステル等の誘導体も挙げられる。
【0016】
脂肪族ポリエステル(B)は、脂肪族ジオールに由来する構成単位、及び脂肪族カルボン酸に由来する構成単位以外の、他の構成単位を含んでもよい。
脂肪族ポリエステル(B)の全構成単位に対して、脂肪族ジオールに由来する構成単位と、脂肪族カルボン酸に由来する構成単位との合計の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。
また、脂肪族カルボン酸に由来する構成単位の総質量に対して、脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位の割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。
【0017】
脂肪族ポリエステル(B)の具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等が挙げられる。
【0018】
上記のうち、脂肪族ポリエステル(B)は、フィルムの柔軟性及び艶消し性の点から、1,4-ブタンジオールに由来する構成単位と、コハク酸に由来する構成単位とを有するポリブチレンサクシネート系樹脂であることが好ましい。ポリブチレンサクシネート系樹脂としては、ポリブチレンサクシネート(PBS)又はポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)がより好ましく、中でも、ポリブチレンサクシネート(PBS)がさらに好ましい。
また脂肪族ポリエステル(B)は、再生可能な有機資源由来の物質を原料とするものが好ましい。
【0019】
<アクリル重合体(C)>
アクリル重合体(C)は、少なくとも、下記重合体(Ca)及び下記重合体(Cb)を含むことが好ましい。さらに下記重合体(Cc)を含んでもよい。
アクリル重合体(C)は、後述する単量体成分を重合して得られた重合体(Ca)の存在下で、重合体(Cb)の単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。
また、アクリル重合体(C)は、コア層と、コア層を覆う少なくとも1層以上のシェル層とから構成される多層構造重合体であってもよい。アクリル重合体(C)が多層構造を有する場合は、重合体(Ca)がコア層を構成し、重合体(Cb)がシェル層を構成することが好ましい。
【0020】
アクリル重合体(C)が、重合体(Ca)、重合体(Cb)、及び重合体(Cc)を含む場合、アクリル重合体(C)は、重合体(Ca)の存在下に、重合体(Cc)の単量体成分を重合し、次いで重合体(Cb)の単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。
また、アクリル重合体(C)が多層構造を有する場合、重合体(Cc)は、重合体(Cb)で構成されるシェル層の外側の層、又は重合体(Ca)で構成されるコア層と、重合体(Cb)で構成されるシェル層との間の層を構成することが好ましい。
【0021】
[重合体(Ca)]
重合体(Ca)は、炭素数1~8のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MA1)由来の構成単位、及び二重結合を1分子内に2個以上有する単量体(MA2)由来の構成単位を含む。
【0022】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MA1)において、炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MA1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ホモポリマーにおけるTgが低いものが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル(MA1)の含有量は、重合体(Ca)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、99.9質量%以下が好ましく、99.7質量%以下がより好ましい。
【0024】
前記単量体(MA2)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(MA1)と共重合可能な二重結合を1分子内に2個以上有する単量体である。
単量体(MA2)の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体;α,β-不飽和カルボン酸若しくはジカルボン酸の、アリルエステル、メタリルエステル又はクロチルエステル;等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸若しくはフマル酸のアリルエステルが好ましく、中でも、アリルメタクリレートがさらに好ましい。
【0025】
前記単量体(MA2)の含有量は、柔軟性の点から、重合体(Ca)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。またフィルムの成形性の点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0026】
重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)は、フィルムの柔軟性の点から、25℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下が特に好ましい。また、フィルムの成形性の点から、Tgは-100℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましい。
【0027】
重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)は、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いて、重合体(Ca)を構成する単量体からFOXの式を用いて計算できる。また、JIS K7244-4:1999に準拠する方法で、粘弾性スペクトロメーターを用いて、加熱速度3℃/分で昇温させたときの、損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度から求めることができる。
後述の重合体(Cb)、重合体(Cc)のガラス転移温度も同様である。
【0028】
[重合体(Cb)]
重合体(Cb)は、炭素数1~4のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MB1)由来の構成単位を含む重合体(ただし、前記重合体(Ca)を除く)である。重合体(Cb)は、前記単量体(MA2)由来の構成単位を含まない。
【0029】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MB1)において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MB1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ホモポリマーにおけるTgの低いものが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル(MB1)の含有量は、重合体(Cb)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。100質量%でもよい。
【0031】
重合体(Cb)のガラス転移温度(Tg)は、重合体(Ca)と異なっていてもよく、重合体(Ca)のTgよりも高いことが好ましい。重合体(Cb)のTgは、フィルムの機械的特性の点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、フィルムの成形性の点から150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0032】
[重合体(Cc)]
重合体(Cc)は、炭素数1~8のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MC1)由来の構成単位、及び二重結合を1分子内に2個以上有する単量体(MC2)由来の構成単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(MC1)の好ましい態様は、前記重合体(Ca)で挙げた(MA1)と同様である。単量体(MC2)の好ましい態様は、前記重合体(Ca)で挙げた(MA2)と同様である。
なお、重合体(Cc)を構成する単量体の組成(種類及びその比率)と、重合体(Ca)を構成する単量体の組成(種類及びその比率)とは、同一でないことが好ましい。重合体(Cc)の単量体の組成と、重合体(Ca)の単量体の組成とが異なることで、フィルムの柔軟性を良好にすることが容易になる。
【0033】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MC1)の含有量は、重合体(Cc)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、99.9質量%以下が好ましく、99.7質量%以下がより好ましい。
【0034】
前記単量体(MC2)の含有量は、柔軟性の点から、重合体(Cc)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。またフィルムの成形性の点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0035】
重合体(Cc)のガラス転移温度(Tg)は、フィルムの柔軟性の点から、重合体(Ca)のTgより高いことが好ましい。具体的には、柔軟性の点から、0℃以上が好ましい。また、成形性の点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
例えば、重合体(Cc)のガラス転移温度(Tg)が、重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)より高く、その差の絶対値が10~80℃であることが好ましく、20~70℃であることがより好ましい。両者の差の絶対値が上記範囲の下限値以上であるとフィルムの柔軟性を良好にすることが容易になり、上限値以下であるとフィルムの成形性が良好となる。
【0036】
アクリル重合体(C)の総質量に対して、前記重合体(Ca)の含有量は、柔軟性、透明性及び加工性の点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
アクリル重合体(C)の総質量に対して、前記重合体(Cb)の含有量は、柔軟性、透明性及び加工性の点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がよりさらに好ましい。
また、アクリル重合体(C)が重合体(Cc)を含む場合、アクリル重合体(C)の総質量に対して、前記重合体(Cc)の含有量は、柔軟性の点から、1質量%以上35質量%以下が好ましい。
なお、前記重合体(Ca)の含有量と、前記重合体(Cb)の含有量と、前記重合体(Cc)の含有量の合計は100質量%を超えない。100質量%でもよい。
【0037】
[アクリル重合体(C)の製造方法]
アクリル重合体(C)の製造方法としては、例えば、逐次多段乳化重合法、乳化懸濁重合法等が挙げられる。
アクリル重合体(C)を逐次多段乳化重合法で製造する方法としては、例えば、重合体(Ca)を得るための単量体成分、水及び界面活性剤を混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合した後に、必要に応じて重合体(Cc)の原料となる単量体成分を反応器に供給して重合した後に、重合体(Cb)の原料となる単量体成分を反応器に供給して重合する方法が挙げられる。
また、アクリル重合体(C)を乳化懸濁重合法で製造する方法としては、例えば、重合体(Ca)の存在下に、必要に応じて重合体(Cc)の原料となる単量体成分を逐次多段乳化重合させた後に、重合体(Cb)の原料となる単量体成分の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法が挙げられる。
上記逐次多段乳化重合法又は乳化懸濁重合法で得られたアクリル重合体(C)を用いて得られるフィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性の点で好ましい。
【0038】
アクリル重合体(C)の平均粒子径は、得られるフィルムの機械特性、透明性の点から、0.03μm以上が好ましく、0.07μm以上がより好ましく、0.09μm以上が特に好ましい。また、0.3μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましく、0.13μm以下が特に好ましい。
なお、前記平均粒子径は光散乱光度計を用い、動的光散乱法により測定したキュムラント解析による測定値である。
【0039】
アクリル重合体(C)のアセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)は、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。また、8万以下が好ましく、7万以下がより好ましい。Mwが2万以上であると、得られるフィルムの機械強度が向上し、成形加工時のクラックを抑制できる。また、Mwが8万以下であると、得られるフィルムは柔軟性が高く、加工性に優れる。
【0040】
なお、前記質量平均分子量(Mw)は、アクリル重合体(C)中のアセトン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により以下の方法で測定した測定値である。
(1)アクリル重合体1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流させてアセトン可溶分を抽出する。
(2)得られた抽出液を、CRG SERIES((株)日立製作所製)を用いて、4℃において、14000rpm、30分間遠心分離を行う。
(3)アセトン不溶分をデカンテーションで取り除き、真空乾燥機にて50℃で、24時間乾燥させて得られたアセトン可溶分について、以下の条件でGPC測定を行い、標準ポリスチレンによる検量線から質量平均分子量を求める。
装置:東ソー(株)製「HLC8220」
カラム:東ソー(製)「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」
(内径4.6mm×長さ15cm×2本、排除限界4×107(推定))
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
測定温度:40℃
試料注入量:10μL(試料濃度0.1%)
【0041】
アクリル重合体(C)の、200℃における溶融粘度は10,000Pa・s以上が好ましく、12,000Pa・s以上がより好ましく、15,000Pa・s以上がさらに好ましい。また、30,000Pa・s以下が好ましく、25,000Pa・s以下がより好ましく、20,000Pa・s以下がさらに好ましい。
アクリル重合体(C)の溶融粘度が上記下限値以上であると、フィルム表面に微細な凹凸が発現しやすく、きめの細かい艶消し性が得られやすい。上記上限値以下であると、アクリル重合体(C)と、セルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)との界面剥離が起こりにくく、フィルムの柔軟性及び加工性に優れる。
アクリル重合体(C)が多層構造を有する場合、アクリル重合体(C)の溶融粘度は、コア層とシェル層の比率やシェル層の質量平均分子量(Mw)などによって調整できる。例えば、シェル層の比率を低くすることやシェル層の質量平均分子量(Mw)を高くすることにより、アクリル重合体(C)の溶融粘度が高まる傾向がある。
【0042】
樹脂組成物(X)において、アクリル重合体(C)の溶融粘度は、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)との混合物の溶融粘度より高いことが好ましい。アクリル重合体(C)と、前記混合物との、200℃における溶融粘度の差の絶対値(以下「溶融粘度差」ともいう。)は、4000Pa・s以上が好ましく、6000Pa・s以上がより好ましく、8000Pa・s以上がさらに好ましい。また、30,000Pa・s以下が好ましく、25,000Pa・s以下がより好ましく、20,000Pa・s以下がさらに好ましい。
前記溶融粘度差が上記下限値以上であると、フィルム表面に微細な凹凸が発現しやすく、きめの細かい艶消し性が得られやすい。一方、前記溶融粘度差が上記上限値以下であると、アクリル重合体(C)と、セルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)との界面剥離が起こりにくく、フィルム柔軟性及び加工性に優れる。
【0043】
樹脂組成物(X)の、200℃における溶融粘度は100~9000Pa・sが好ましく、300~7000Pa・sより好ましく、500~5000Pa・sがさらに好ましい。樹脂組成物(X)の溶融粘度が上記下限値以上であると加工性に優れ、上記上限値以下であるとフィルムの柔軟性に優れる。
【0044】
<任意成分>
樹脂組成物(X)は、必要に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、艶消し剤、加工助剤、耐衝撃助剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、着色剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体が挙げられる。また、樹脂組成物(X)は、再生可能な有機資源由来の物質として、デンプンなどの多糖類を配合してもよい。
【0045】
酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤を用いることができる。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系、硫黄系、ヒドラジン系等の熱安定剤を用いることができる。可塑剤としては、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、オキシ安息香酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系等の可塑剤を用いることができる。滑剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、金属石鹸系、脂肪酸アミド系、高級アルコール系、パラフィン系等の滑剤を用いることができる。
【0046】
帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性イオン系等の帯電防止剤を用いることができる。難燃剤としては、臭素系、リン系、塩素系、窒素系、アルミニウム系、アンチモン系、マグネシウム系、ホウ素系、ジルコニウム系等の難燃剤を用いることができる。充填剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、滑石、蝋石、カオリン等を用いることができる。
【0047】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤を用いることができる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系等の光安定剤を用いることができる。封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物等、ポリマーのカルボキシル末端の封鎖剤として使用されているものを用いることができる。相溶化剤としては、高分子型相溶化剤、低分子の有機化合物、無機化合物、有機無機複合体等を用いることができる。これらの配合剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<含有量>
樹脂組成物(X)において、セルロースエステル化合物(A)の含有量を100質量部とするとき、脂肪族ポリエステル(B)の含有量は35質量部以上であり、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。また、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下が特に好ましい。前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が上記下限値以上であると視認性が良好となり、上限値以下であるとフィルムの成形性が良好となる。
【0049】
樹脂組成物(X)において、セルロースエステル化合物(A)の含有量を100質量部とするとき、アクリル重合体(C)の含有量は10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上が特に好ましい。また、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、100質量部以下が特に好ましい。前記アクリル重合体(C)の含有量が上記下限値以上であると良好な艶消し性が得られやすく、上限値以下であると良好な機械特性が得られやすい。
【0050】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。また、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下が特に好ましい。前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が上記範囲内であると、得られるフィルムにおいて良好な艶消し性及び視認性が得られやすい。
【0051】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、脂肪族ポリエステル(B)の含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が上記範囲内であると、良好な艶消し性及び柔軟性が得られやすい。
【0052】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、アクリル重合体(C)の含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が特に好ましい。前記アクリル重合体(C)の含有量が上記範囲内であると、フィルムを成形したときに良好な艶消し性及び機械特性が得られやすい。
【0053】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の合計の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が特に好ましい。また、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下が特に好ましい。
【0054】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)とアクリル重合体(C)の合計の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。100質量%でもよい。
【0055】
≪フィルムの製造方法≫
本実施形態のフィルムは、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物(X)をフィルム状に成形(製膜)して得られる。フィルムの製造方法の一例を示す。
例えば、樹脂組成物(X)を、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法;又はカレンダー法等の公知の方法でフィルム状に成形できる。これらの中では、経済性が良好である点でTダイ法が好ましい。また、必要に応じて製膜工程中に、公知の延伸方法による一軸延伸(機械方向又は横方向(機械方向に垂直な方向))、二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸)等の延伸工程を設けることができる。
また、フィルム表面に、熱転写法、エッチング法等の公知の方法で種々の構造を賦形してもよい。
【0056】
≪フィルム≫
本実施形態のフィルムは樹脂組成物(X)からなる。
樹脂組成物(X)をフィルムに成形する際に成分の変性が生じる場合があるが、かかる成分変性を除くと、樹脂組成物(X)の組成とフィルムの組成は同じである。
【0057】
本実施形態のフィルムは、連続相及び分散相からなる海島構造を有することが好ましい。海島構造における連続相(海部)がセルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)を含み、分散相(島部)がアクリル重合体(C)を含むことが好ましい。
なお、本実施形態のフィルムが海島構造を有することは、フィルムの表面に対して垂直な断面(MD方向及びTD方向のいずれであってもよい。)を走査型電子顕微鏡により観察したときの分散相の有無によって確認できる。
【0058】
本実施形態のフィルムの厚みは、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。また、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。厚みが上記範囲内であると、成形に適した剛性が得られ、外観意匠性をより十分に付与することができる。
【0059】
本実施形態のフィルムの表面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上が好ましく、0.20μm以上がより好ましい。また、3.00μm以下が好ましく、2.00μm以下がより好ましい。
Raが上記下限値以上であるとギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れる。Raが上記上限値以下であると、艶消しのきめが細かく、外観意匠性に優れる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B0601:2001に準拠する方法で測定した値である。
【0060】
本実施形態のフィルムの表面の最大高さRzは、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。また、15.0μm以下が好ましく、13.0μm以下がより好ましく、11.0μm以下がさらに好ましい。
Rzが上記下限値以上であるとギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れる。Rzが上記上限値以下であると、艶消しのきめが細かく、外観意匠性に優れる。
なお、最大高さRzは、JIS B0601:2001に準拠する方法で測定した値である。
【0061】
本実施形態のフィルムは、特に、前記Raと前記Rzを同時に満足することにより、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れるフィルムとなる。
【0062】
本実施形態のフィルムの全光線透過率は80%以上が好ましく、83%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。また、100%以下が好ましく、99%以下がより好ましく、98%以下がさらに好ましい。
全光線透過率が上記範囲内であると、視認性が良好となる。
なお、全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠する方法で測定した値である。
【0063】
フィルムの高級感や深み感等の意匠性は、表面光沢度及びヘーズ(曇値)が指標となる。
一般に、表面光沢度は低いことが好ましい。具体的には、フィルムの20°表面光沢度は、0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。また、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。フィルムの60°表面光沢度は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。また、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。フィルムの85°表面光沢度は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。また、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、60%以下がよりさらに好ましい。
特に、20°、60°、及び85°表面光沢度が上記範囲内であると、ギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れるフィルムとなる。
なお、前記20°、60°、及び85°表面光沢度は、JIS Z8741:1997に準拠する方法で測定した値である。
【0064】
本実施形態のフィルムの全ヘーズは90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましい。また、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。全ヘーズが上記範囲内であると、艶消し性及び視認性が良好となる。
本実施形態のフィルムの内部ヘーズは40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。また、1.0%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましく、3.0%以上がさらに好ましい。内部ヘーズが上記範囲内であると視認性に優れる。
本実施形態のフィルムの外部ヘーズは10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。外部ヘーズが上記下限値以上であると良好な艶消し性が得られる。外部ヘーズが上記上限値以下であると視認性が良好となる。
なお、全ヘーズ、内部ヘーズはJIS K7105:1981に準拠する方法で測定した値である。内部ヘーズは試験片をエタノールに浸漬して測定した値である。外部ヘーズは、全ヘーズと内部ヘーズの差である。
【0065】
また本実施形態のフィルムは、引張弾性率が0.1GPa以上であることが好ましい。引張弾性率は、0.3GPa以上がより好ましく、0.4GPa以上が特に好ましい。上記下限値以上であると、フィルムの成形性に優れる。また、柔軟性の点から、3.0GPa以下が好ましく、1.5GPa以下がより好ましい。
【0066】
また本実施形態のフィルムは、引張破断伸度が100%以上であることが好ましい。引張破断伸度は、110%以上がより好ましく、120%以上が特に好ましい。破断伸度が上記下限値以上であると、各種成形加工の際に、破断や割れの発生を抑制することができる。また、成形加工性の点から、600%以下が好ましく、500%以下がより好ましい。
なお前記引張弾性率及び引張破断伸度を測定するための引張試験は、JIS K7127:1999に準拠する方法で、初期のチャック間距離100mm、引張速度50mm/min、温度23℃の条件で行う。
【0067】
本実施形態のフィルムは、23℃におけるパンクチャー衝撃が0.1J以上が好ましく、0.5J以上がより好ましく、1.0J以上がさらに好ましい。また、10.0J以下が好ましく、8.0J以下がより好ましく、5.0J以下がさらに好ましい。
また、-20℃におけるパンクチャー衝撃が0.1J以上が好ましく、0.3J以上がより好ましく、0.5J以上がさらに好ましい。また、10.0J以下が好ましく、8.0J以下がより好ましく、5.0J以下がさらに好ましい。
23℃におけるパンクチャー衝撃が上記下限値以上であるとフィルムの成形性が良好となる。23℃におけるパンクチャー衝撃が上記上限値以下であると良好な柔軟性が得られやすい。
-20℃におけるパンクチャー衝撃が上記下限値以上であるとフィルムの成形性が良好となる。-20℃におけるパンクチャー衝撃が上記上限値以下であると良好な柔軟性が得られやすい。
なお、パンクチャー衝撃は、JIS K7124-2:1999に準拠する方法で測定した値である。
【0068】
本実施形態のフィルムによれば、良好な艶消し外観と視認性が得られる。
良好な艶消し性が得られる理由は明確ではないが、例えば、以下の理由が考えられる。
樹脂組成物(X)をフィルム状に成形する工程において、樹脂組成物(X)がダイ等の内部でせん断力を受けたときに、樹脂組成物(X)中のアクリル重合体(C)が引きのばされ、弾性エネルギーが蓄積される。その後、樹脂組成物(X)がダイ等から吐出されたときに、アクリル重合体(C)が適度な流動性を有していると、弾性エネルギーの解放によってアクリル重合体(C)がもとの形状に戻ろうとする力が働く。このとき、アクリル重合体(C)の弾性率が、その周囲の弾性率より高いと、その弾性率差によってフィルム表面が収縮し、微細な凹凸が発現すると考えられる。特に、セルロースエステル化合物(A)に対して脂肪族ポリエステル(B)の含有量が多いほど、アクリル重合体(C)の周囲の流動性が高まって、アクリル重合体(C)とその周囲との流動性の差がより大きくなり、その結果、フィルム表面がより荒れやすく、より高い艶消し性が発現すると考えられる。
このような、弾性率差によって微細な凹凸が発現しやすい点で、本実施形態のフィルムが海島構造を有し、分散相がアクリル重合体(C)を含み、連続相がセルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)を含むことが好ましい。
なお、フィルム状に成形する際の流動性は、成形温度付近における溶融粘度が目安となる。溶融粘度が低いほど流動性が高くなる。
【0069】
また、良好な視認性が得られる理由は明確ではないが、例えば、以下の理由が考えられる。
脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)に対して、セルロースエステル化合物(A)を添加することで、脂肪族ポリエステル(B)の結晶化を抑えることができ、内部ヘーズを低減でき、視認性が向上すると考えられる。
【0070】
本実施形態のフィルムは、良好な艶消し外観と視認性を有し、建築物の内装材、外装材、自動車内外装、携帯電話、電機製品等の各種物品の表面に、高級感、深み感、落ち着き感を付与するための加飾フィルム、表面保護フィルム等として使用できる。
本実施形態のフィルムは、物品の最外層を構成するフィルムとして好適である。
【実施例0071】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、含有量の単位である「部」は、特に断りのない限り「質量部」を表す。
【0072】
[評価方法・測定方法]
<全光線透過率>
全光線透過率はJIS K7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製)商品名:NDH5000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件でフィルムの全光線透過率を測定した。
【0073】
<全ヘーズ、内部ヘーズ、及び外部ヘーズ>
JIS K7105:1981に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製)商品名:NDH5000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件でフィルムの全ヘーズを測定した。全ヘーズ測定後の試験片を、エタノール(純度99.5質量%)を入れたセルの中に浸け、内部ヘーズを測定した。外部ヘーズは、全ヘーズと内部ヘーズの差より算出した。
【0074】
<表面光沢度>
JIS Z8741:1997に準拠し、ポータブル光沢計(コニカミノルタ(株)製、商品名:GM-268Plus)を用い、フィルムの表面光沢度を測定した。測定角度(入射角)は20°、60°、85°とした。
【0075】
<算術平均粗さRa>
表面粗さ測定機((株)東京精密製、商品名:SURFCOM 1400D)を用い、JIS B0601:2001に準拠し、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で、フィルムの算術平均粗さRaを測定した。
【0076】
<最大高さRz>
表面粗さ測定機((株)東京精密製、商品名:SURFCOM 1400D)を用い、JIS B0601:2001に準拠し、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で、フィルムの最大高さRzを測定した。
【0077】
<引張破断伸度、引張弾性率>
島津製作所(株)型式:AGS-X 精密万能試験機(オートグラフ)を用い、JIS K7127:1999に準拠し、引張破断伸度及び引張弾性率を測定した。厚さ100μmのフィルムを流れ方向(MD)に150mm、幅方向(TD)に15mmの大きさに切断して試験片とした。初期のチャック間距離100mm、引張速度50mm/min、雰囲気温度23℃におけるフィルム(MD)の引張破断伸度及び引張弾性率を測定し、5回の測定値の平均値を記録した。
【0078】
<パンクチャー衝撃試験>
JIS K7124-2:1999に準拠し、高速パンクチャー衝撃試験機ハイドロショットHITS-P10(島津製作所社製)を用いて、23℃、及び、-20℃の温度環境下で、打ち抜き径0.5インチ、試験速度3m/cの条件で、破壊までのエネルギー(単位:J)を測定し、5回の測定値の平均値を記録した。
【0079】
<海島構造>
フィルムの表面に対して垂直な断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製 RegulusSU8220、倍率5000~50000倍)により観察し、海島構造(分散相の有無)を調べた。
【0080】
<溶融粘度>
JIS K7244:2007を参考に、レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名MARS)を用いて、歪み0.5%、周波数1Hz、温度240℃より降温速度3.0℃/分にて温度分散測定を行い、200℃における溶融粘度を測定した。
【0081】
<原料>
表1における略称は以下の原料を示す。
MMA:メチルメタクリレート
n-BA:n-ブチルアクリレート
AMA:アリルメタクレート
1,3-BD:1,3-ブチレングリコールジメタクリレート
MA:メチルアクリレート
RS610NA:モノn-ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム(フォスファノールRS-610NA:東邦化学(株)製)
OTP:ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(ペレックスOT-P:花王(株)製)
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
t-BH:t-ブチルハイドロパーオキサイド
n-OM:n-オクチルメルカプタン
【0082】
表2における略称は以下の原料を示す。
セルロースエステル(A1):セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ガラス転移温度158℃
脂肪族ポリエステル(B1):ポリブチレンサクシネート(PBS)
脂肪族ポリエステル(B2):ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)
アクリル重合体(C1):下記製造例1で合成したアクリルゴム
アクリル重合体(C2):下記製造例2で合成したアクリルゴム
アクリル重合体(C3):下記製造例3で合成したアクリルゴム
【0083】
(製造例1:アクリル重合体(C1)の製造)
原料の配合(単位:質量部)を表1に示す。
攪拌機及び冷却器を備えた容器にイオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n-BA4.5部、1,3-BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体成分(Ca1-1)を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤としてRS610NA1.1部を攪拌しながら上記容器に投入し、20分間攪拌を継続し、単量体成分(Ca1-1)を含有する乳化液を調製した。
次に、冷却器付き反応容器内にイオン交換水186.5部を投入し、これを70℃に昇温し、更に、イオン交換水5部にSFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、単量体成分(Ca1-1)を含有する乳化液を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて、単量体成分(Ca1-1)からなる重合体を得た。
続いて、前記容器内に、MMA1.5部、n-BA22.5部、1,3-BD1.0部、AMA0.25部、CHP0.016部からなる単量体成分(Ca1-2)を90分間かけて添加した後、60分間反応を継続させて重合体(Ca1)を得た。重合体(Ca1)のTgは-47℃であった。
続いて、MMA6.0部、n-BA4.0部、AMA0.075部、及びCHP0.013部からなる単量体成分(Cc1-1)を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体を形成させた。ここで、単量体成分(Cc1-1)から構成される重合体(Cc1)のTgは20℃であった。
次いで、MMA55.2部、n-BA4.8部、n-OM0.22部、及びt-BH0.075部からなる単量体成分(Cb1-1)を140分間かけて前記反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させてアクリル重合体(C1)のラテックスを得た。ここで、単量体成分(Cb1-1)から構成される重合体(Cb1)のTgは84℃であった。
得られたアクリル重合体(C1)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリル重合体(C1)を得た。
アクリル重合体(C1)の平均粒子径は0.12μm、Mwは59,000、200℃における溶融粘度は16,000Pa・sであった。
【0084】
(製造例2:アクリル重合体(C2)の製造)
原料の配合(単位:質量部)を表1に示す。
攪拌機及び冷却器を備えた容器にイオン交換水195部を仕込んだ後、MMA0.3部、n-BA4.5部、1,3-BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体成分(Ca2-1)を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤としてRS610NA1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、20分間攪拌を継続し、単量体成分(Ca2-1)を含有する乳化液を調製した。
次に、上記乳化液を75℃に昇温し、更に、イオン交換水5部にSFS0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。温度上昇ピークを確認した後、15分間反応を継続させて、単量体成分(Ca2-1)からなる重合体を得た。
続いて、前記容器内に、MMA9.6部、n-BA14.4部、1,3-BD1.0部、AMA0.25部、CHP0.016部からなる単量体成分(Ca2-2)を90分間かけて添加した後、60分間反応を継続させて重合体(Ca2)を得た。重合体(Ca2)のTgは-10℃であった。
続いて、MMA6.0部、MA4.0部、AMA0.075部、及びCHP0.013部からなる単量体成分(Cc2-1)を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体を形成させた。ここで、単量体成分(Cc2-1)から 構成される重合体(Cc2)のTgは60℃であった。
次いで、MMA57.0部、MA3.0部、n-OM0.264部及びt-BH0.075部からなる単量体成分(Cb2-1)を140分間かけて前記反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させてアクリル重合体(C2)のラテックスを得た。ここで、単量体成分(Cb2-1)から構成される重合体(Cb2)のTgは99℃であった。
得られたアクリル重合体(C2)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリル重合体(C2)を得た。
アクリル重合体(C2)の平均粒子径は0.11μm、Mwは58,000、200℃における溶融粘度は20,500Pa・sであった。
【0085】
(製造例3:アクリル重合体(C3)の製造)
原料の配合(単位:質量部)を表1に示す。
攪拌機及び冷却器を備えた容器にイオン交換水244部を仕込んだ後、MMA0.3部、n-BA4.7部、AMA0.08部、CHP0.025部からなる単量体成分(Ca3-1)を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤としてOTP1.0部を攪拌しながら上記容器に投入し、20分間攪拌を継続し、単量体成分(Ca3-1)を含有する乳化液を調製した。
次に、冷却器付き反応容器内にイオン交換水244部を投入し、これを80℃に昇温し、更に、イオン交換水5部にSFS0.60部、硫酸第一鉄0.00012部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合水溶液を添加した。次いで、窒素下で撹拌しながら、単量体成分(Ca3-1)を含有する乳化液の1/15(質量基準)を仕込み、15分間保持した。次いで、残りの乳化液を、水に対する増加率が8質量%/時間となるように滴下した後、60分間反応を継続させて、単量体成分(Ca3-1)からなる重合体を得た。
この重合体のラテックスにSFS0.6部を加え、15分間保持した。次いで、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、MMA3.0部、n-BA47部、AMA0.8部、CHP0.05部からなる単量体成分(Ca3-2)を、水に対する増加率が4質量%/時間となるように滴下した後、120分間反応を継続させて重合体(Ca3)を得た。重合体(Ca3)のTgは-47℃であった。
この重合体のラテックスにSFS0.4部を加え、15分間保持した。次いで、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、MMA40.5部、n-BA4.5部、n-OM0.302部及びt-BH0.063部からなる単量体成分(Cb3-1)を、水に対する増加率が10質量%/時間となるように滴下した後、60分間反応を継続させてアクリル重合体(C3)のラテックスを得た。ここで、単量体成分(Cb3-1)から構成される重合体(Cb3)のTgは79℃であった。
得られたアクリル重合体(C3)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き150μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリル重合体(C3)を得た。アクリル重合体(C3)のMwは45,000であった。アクリル重合体(C3)の200℃における溶融粘度は10,900Pa・sであった。
【0086】
【0087】
<実施例1~9、比較例1~6>
表2、3に示す組成(単位:質量%)となるように、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)をドライブレンドした。次いで、口径25mmの同方向二軸押出機を用いて220℃で混練し、樹脂組成物(X)をTダイより押出した。次いで、約80℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み100μmのフィルムを作製した。
表2、3に、樹脂組成物(X)の200℃における溶融粘度を示す。
得られたフィルムの各種特性の評価結果を表2、3に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
表2、3の結果に示されるように、実施例1~9のフィルムは、内部ヘーズが低くて視認性に優れるとともに、表面光沢度が低く艶消し性が良好であった。
実施例1~9のフィルムは海島構造を有し、アクリル重合体(C)が分散相(海島の島部)を形成し、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の混合物が連続相(海島の海部)を形成していると考えられる。
実施例1~9のフィルムにおけるアクリル重合体(C)は、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の混合物よりも200℃における溶融粘度が8000Pa・s以上高いため、微細な凹凸が形成されて艶消し性が良好になったと考えられる。
【0091】
脂肪族ポリエステル(B)がPBSAである実施例7のフィルムは、PBSである実施例1のフィルムに比べて、より表面光沢度が低くなり、艶消し性がより向上した。実施例7では、実施例1より連続相の流動性が上がり、分散相との流動性差が大きくなることで、より表面粗さが大きくなったと考えられる。
一方、脂肪族ポリエステル(B)がPBSである実施例1のフィルムは、PBSAである実施例7のフィルムと比べて引張破断伸度が高かった。PBSは、PBSAよりもセルロースエステル(A1)との相溶性が高いと考えられる。
【0092】
アクリル重合体(C)がアクリル重合体(C2)である実施例8と比べて、アクリル重合体(C1)である実施例1の方がより表面光沢度が低くなり、艶消し性がより向上した。アクリル重合体(C1)の方が、アクリル重合体(C2)より流動性が高いため、分散相と連続相との流動性差がより適切になり、より表面粗さが大きくなったと考えられる。
【0093】
アクリル重合体(C)がアクリル重合体(C3)である実施例9と比べて、アクリル重合体(C1)である実施例1の方が、表面光沢度がより低くなり、艶消し性がより向上した。一方、実施例9は実施例1と比べて内部ヘーズがより低くなり、視認性がより向上した。アクリル重合体(C3)は、シェル層の質量平均分子量が低く、分散相の流動性が上がり、連続層との流動性差が小さくなったため、表面粗さが小さくなったと考えられる。
【0094】
比較例1~5のフィルムは、SEM画像において分散相が確認できなかった。すなわち海島構造が確認できなかった。比較例2のフィルムは結晶化により白化していたため内部ヘーズ及び外部ヘーズは測定しなかった。
アクリル重合体(C)を含有しない比較例1、2は、フィルム表面に凹凸が十分に発現せず、表面光沢度が高く、艶消し性が不十分であった。艶消し性が不十分であると高級感に劣る。
アクリル重合体(C)単体のフィルムである比較例3も、フィルム表面に凹凸が十分に発現せず、表面光沢度が高く、艶消し性が劣った。
セルロースエステル化合物(A)を含有しない比較例4は、フィルムの内部ヘーズが高く視認性が劣った。フィルム中の脂肪族ポリエステル(B)が結晶化したと考えられる。
脂肪族ポリエステル(B)を含有しない比較例5は、表面光沢度が高く艶消し性が劣った。比較例5においては、セルロースエステル化合物(A)とアクリル重合体(C)とが微分散又は部分相溶した結果、適度な大きさの分散相が形成されなかったと考えられる。
セルロースエステル化合物(A)の100質量部に対する脂肪族ポリエステル(B)の含有量が少なすぎる比較例6のフィルムは、表面に微細な凹凸が形成されず、表面光沢度が高くなり艶消し性が劣った。