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特開2024-53844トリアリールアミン化合物、並びに組成物及び発電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053844
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】トリアリールアミン化合物、並びに組成物及び発電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240409BHJP
   C07D 401/04 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01L31/04 168
H01L31/04 154C
C07D401/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160296
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英里
(72)【発明者】
【氏名】毛利 和弘
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【テーマコード(参考)】
4C063
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063CC22
4C063DD12
4C063EE10
5F151AA11
5F151CB13
5F151FA04
5F151GA05
5F151JA03
5F151JA04
5F151JA05
5F251AA11
5F251CB13
5F251FA04
5F251GA05
5F251JA03
5F251JA04
5F251JA05
5F251XA43
5F251XA55
(57)【要約】
【課題】トリアリールアミン化合物を含む正孔輸送層を備える発電デバイスにおいて、発電性能および連続光照射下での出力の安定性を向上させることを課題とする。
【解決手段】特定の構造を有するトリアリールアミン化合物、前記化合物と有機溶媒とを含む組成物、および上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記上部電極又は前記下部電極の間に位置する正孔輸送層と、を有する発電デバイスであって、前記正孔輸送層が上記トリアリールアミン化合物を含む、発電デバイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるトリアリールアミン化合物。
【化1】
(式(I)中、X及びXは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表し、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、又は1価の有機基を表し、nは、1以上10000以下の自然数を表す。)
【請求項2】
上記式(I)において、nが1以上20未満の自然数である、請求項1に記載のトリアリールアミン化合物。
【請求項3】
下記式(II)で表されるトリアリールアミン化合物。
【化2】
(式(II)中、X及びXは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表し、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、又は1価の有機基を表し、nは、2以上10未満の自然数を表す。)
【請求項4】
下記式(III)で表されるトリアリールアミン化合物。
【化3】
(式(III)中のX~Xは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表し、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、又は1価の有機基を表す。)
【請求項5】
式(III)中のRが、炭素数1~20の炭化水素基である、請求項4に記載のトリアリールアミン化合物。
【請求項6】
式(III)中のXまたはXが、フルオロ基である、請求項4に記載のトリアリールアミン化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のトリアリールアミン化合物と有機溶媒とを含む組成物。
【請求項8】
さらに、ドーパントを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ドーパントが、下記式(IV)で表されるジアリールヨードニウム塩である、請求項8に記載の組成物。
[R11-I-R12]X (IV)
(式(IV)中、R11及びR12は、それぞれ独立に1価の有機基である。)
【請求項10】
前記ドーパントが、下記式(V-a)~(V-f)から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項8に記載の組成物。
【化4】
【化5】
【請求項11】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、
前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、
前記活性層と前記上部電極又は前記下部電極の間に位置する正孔輸送層と、を備える発電デバイスであって、
前記正孔輸送層が、請求項1~6のいずれか1項に記載のトリアリールアミン化合物を含む、発電デバイス。
【請求項12】
前記正孔輸送層が、さらにドーパントを含む請求項11に記載の発電デバイス。
【請求項13】
前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、請求項11に記載の発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリールアミン化合物、並びに組成物及び発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発電デバイスとして、一対の電極の間に、活性層、及びバッファ層等が配置されたものが知られている。この光電変換効率の向上を目的として、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を活性層として用いることが検討されており、特に、ペロブスカイト構造を有する化合物が注目されている。
【0003】
このような発電デバイスの正孔輸送材料として、有機半導体化合物等が使用されており、有機半導体化合物としては、例えばポリトリアリールアミン系半導体化合物が挙げられる。ポリトリアリールアミン系半導体化合物を用いた発電デバイスとして、例えば特許文献1には、ポリトリアリールアミン等の電荷注入抵抗増大型のホール輸送材と、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン]等の電子再結合増大型のホール輸送材とを組み合わせて含有する発電デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-022681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の正孔輸送層を用いると、エネルギーハーベスティング用途で重要な、蛍光灯やLED等を光源とする、室内等の低照度環境下における発電効率が低下することがあった。
本発明は、トリアリールアミン化合物を含む正孔輸送層を備える発電デバイスにおいて、発電性能および連続光照射下での出力の安定性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有するトリアリールアミンを用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 下記式(I)で表されるトリアリールアミン化合物。
[2] 下記式(I)において、nが1以上20未満の自然数である、[1]に記載のトリアリールアミン化合物。
[3] 下記式(II)で表されるトリアリールアミン化合物。
[4] 下記式(III)で表されるトリアリールアミン化合物。
[5] 下記式(III)中のRが、炭素数1~20の炭化水素基である、[4]に記載のトリアリールアミン化合物。
[6] 下記式(III)中のXまたはXが、フルオロ基である、[4]又は[5]に記載のトリアリールアミン化合物。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載のトリアリールアミン化合物と有機溶媒とを含む組成物。
[8] さらに、ドーパントを含む、[7]に記載の組成物。
[9」 前記ドーパントが、下記式(IV)で表されるジアリールヨードニウム塩である、[8]に記載の組成物。
[10] 前記ドーパントが、下記式(V-a)~(V-f)から選択される少なくとも1種の化合物を含む、[8]に記載の組成物。
[11] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記上部電極又は前記下部電極の間に位置する正孔輸送層と、を備える発電デバイスであって、前記正孔輸送層が、[1]~[6]のいずれか1項に記載のトリアリールアミン化合物を含む、発電デバイス。
[12] 前記正孔輸送層が、さらにドーパントを含む[11]に記載の発電デバイス。
[13] 前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、[11]又は[12]に記載の発電デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、トリアリールアミン系半導体化合物を含む正孔輸送層を備える発電デバイスにおいて、発電性能および連続光照射での出力の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態としての発電デバイスを模式的に表す断面図である。
図2】一実施形態としての太陽電池を模式的に表す断面図である。
図3】一実施形態としての太陽電池モジュールを模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
また、本明細書において、2つ以上の対象を併せて説明する際に用いる「独立して」とは、それらの2つ以上の対象が同じであっても異なっていてもよいという意味で使用される。
【0011】
<0.トリアリールアミン化合物及び組成物>
本発明で用いるトリアリールアミン化合物は、下記式(I)で表される化合物(以下「化合物(1)」という。)である。
【0012】
【化1】
【0013】
式(I)中、X及びXは、独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基であり、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり;R~Rは、独立して水素原子、又は1価の有機基であり;nは、1以上10000未満の自然数である。
本開示における「電子吸引基」は特段制限されず、例えば、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、アセチル基、エトキシカルボニル基、ニトロ基、スルホニル基、アシル基、これらの電子吸引基を置換基として有していてもよい1価の、芳香族炭化水素環基若しくは芳香族複素環基等が挙げられる。安定性、耐熱性及び耐光性の向上の観点から、ハロゲノ基、又はアセチル基が好ましく、ハロゲノ基がより好ましく、フルオロ基がさらに好ましい。
及びXの少なくとも1つが電子吸引基であればよいが、連続光照射下での安定性向上の観点から、X及びXのいずれも電子吸引基であることが好ましい。
【0014】
~Rは、水素原子、又は1価の有機基であれば特段制限されない。ここで、有機基は、脂肪族でも芳香族基でもよく、中でも、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基または芳香族基が好ましい。
安定性及び耐久性の向上の観点から、Rは、炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基であることがより好ましく、炭素数1~20のアルキル基であることがより好ましい。前記アルキル基の炭素数の下限は、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、4以上であることが特に好ましい。また、前記アルキル基の炭素数の上限は16以下が好ましく、14以下であることがより好ましく、12以下であることがさらに好ましい。前記アルキル基は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖状アルキル基が好ましい。ここでアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~4がさらに好ましい。またR及びRは、いずれも同一の基であることが好ましい。
【0015】
及びRは、安定性及び耐久性の向上の観点から、芳香族基であることが好ましく、炭素数6~20のアリール基であることがより好ましく、フェニル基であることがさらに好ましい。また、R及びRは、いずれも同一の基であることが好ましい。
【0016】
~Rの選択肢である芳香族炭化水素基、及びR~Rの選択肢であるアリールオキシ基が有するアリール基としては、例えば、下記芳香族炭化水素群P1に由来する基を挙げることができる。また、R~Rの選択肢である芳香族複素環基としては、例えば、下記芳香族複素環群P2に由来する基を挙げることができる。
【0017】
(芳香族炭化水素群P1)
ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2~5縮合環。
【0018】
(芳香族複素環群P2)
フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2~4縮合環。
【0019】
~Rは、特にR~Rは、有機溶剤に対する溶解性及び耐熱性の点から、置換基を有していてもよい芳香族基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基がより好ましい。
芳香環への置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記[置換基群Z1]及び[置換基群Z2]から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0020】
(置換基群Z1)
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1~24、より好ましくは炭素数1~12、さらに好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖状アルキル基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4~36、更に好ましくは炭素数5~24のアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のジアルキルアミノ基;
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2~24 、好ましくは炭素数2~12のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1~2、更に好ましくは炭素数1~6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1~24、更に好ましくは炭素数1~12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4~36、更に好ましくは炭素数5~24のアリールチオ基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2~36、更に好ましくは炭素数3~24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6~36、更に好ましくは炭素数6~24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3~36、更に好ましくは炭素数4~24の芳香族複素環基;
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Z1に例示した基を挙げることができる。
【0021】
置換基群Z1の式量としては、さらに置換した基を含めて500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
有機溶媒に対する溶解性が向上する点で、R~Rが有してもよい置換基群Z1としては、各々独立に、炭素数1~12のアルキル基及び炭素数1~12のアルコキシ基が好ましい。
(置換基群Z2)
【0022】
【化2】
【0023】
式中、R21~R25は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Ar41は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。尚、ベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が環を形成していてもよい。
【0024】
化合物(1)の合成方法は、特に限定されないが、例えば、特開2009-263665号公報に記載されているような方法で合成することができ、トリアリールアミンモノマーの酸化重合や遷移金属触媒を用いたカップリング反応により合成できる。
正孔輸送層中の化合物(1)の構造は、H-NMRにより確認できる。ただし、置換基によっては、H-NMRのみでは困難な場合がある。そのような場合は、13C-NMRや質量分析(MS)の情報を合わせることで確認できる。
また、正孔輸送層中の化合物(1)の含有量は、高効率液体クロマトグラフ(HPLC)により分析することができる。
【0025】
(n)
式(I)中のnは、1以上10000未満の自然数であれば特段制限されない。発電デバイスの安定性を高める観点から、前記nの下限は、2以上であることが好ましい。また、合成ステップ数と材料コストの観点から、前記nの上限は、1000未満であることが好ましく、100未満であることがより好ましく、50未満であることがさらに好ましく、20未満であることがとりわけ好ましく、10未満であることが特段好ましい。
【0026】
(分子量)
化合物(1)の分子量は、300以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましい。また、一方で、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましい。
【0027】
式(I)で表される化合物は、以下の式(II)又は式(III)で表される化合物であることが好ましい。式(II)又は式(III)におけるX、X、R~R、又はnは、式(I)と同義である。
【0028】
【化3】
【0029】
式(II)中、X及びXは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表し、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、又は1価の有機基を表し、nは、2以上10未満の自然数を表す。
【0030】
【化4】
【0031】
式(III)中のX~Xは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表し、かつ、X及びXの少なくとも1つが電子吸引基であり、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、又は1価の有機基を表す。
【0032】
正孔輸送層に含まれる有機半導体化合物であるトリアリールアミンは、具体的に、例えば、下記式で示される化合物である。
【0033】
【化5】
【0034】
これらの化合物の中でも、安定性の向上の観点から、下記の化合物が好ましい。
【0035】
【化6】
【0036】
<組成物>
本開示の一態様は、式(I)~(III)のいずれかで表されるトリアリールアミン化合物の1種以上と有機溶媒とを含む組成物である。
前記有機溶媒は、式(I)~(III)で表される化合物の溶解性の観点で、極性溶媒であることが好ましい。
前記極性溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;安息香酸エチル、エチルピコリン酸等の芳香族エステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のエーテルアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。また、クロロホルム、ジクロロメタン等のポリハロ脂肪族炭化水素、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のポリハロ芳香族化合物も好ましい有機溶媒として挙げられる。
本態様の組成物に含まれる前記有機溶媒は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
本態様の組成物の総質量に対する化合物(1)の含有量は、例えば、0.1~20質量%とすることができ、正孔輸送層を形成する塗料組成物として用いる場合には化合物(1)の溶解性を高める観点及び充分な厚さの正孔輸送層を形成しやすい観点から、1~10質量%が好ましい。
【0038】
本態様の組成物は、さらに後述するドーパントの1種以上を含むことが好ましい。
本態様の組成物の総質量に対するドーパントの含有量は、例えば、0.001~0.02質量%とすることができる。また、正孔輸送層を形成する塗料組成物として用いる場合には化合物(1)へのドーパント付与による正孔輸送能の向上と正孔輸送能の安定性を考慮して、組成物中の化合物(1)の含有量100質量部に対して、ドーパントの含有量は1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0039】
<1.発電デバイス>
本発明の一実施形態である発電デバイスは、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記上部電極又は前記下部電極の間に位置する正孔輸送層と、を有する発電デバイスであって、前記正孔輸送層が、前記式(I)~(III)で表されるトリアリールアミン化合物を含む、発電デバイスである。
【0040】
図1は、発電デバイスの一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される発電デバイスは、一般的な薄膜太陽電池に用いられる発電デバイスであるが、本発明に係る発電デバイスが図1に示されるものに限られるわけではない。
図1に示す発電デバイス100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極105がこの順に配置されている。また、発電デバイス100は、下部電極101と活性層103との間に存在するバッファ層102、及び上部電極105と活性層103との間に存在するバッファ層104を有する。これらのバッファ層102及びバッファ層104の少なくともいずれか一方の層が正孔輸送層であり、その正孔輸送層は少なくとも化合物(1)を含有する。また、正孔輸送層は、化合物(1)以外の有機半導体化合物を含有していてもよく、さらにドーパントを含有していてもよい。
また、図1に示すように、発電デバイス100は、基材106を有していてもよく、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
【0041】
[半導体の定義]
一般的に半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを言う。本明細書において「半導体特性」は、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動され得るかを示す一つの指標である。
具体的には、本明細書における「半導体」は、室温(25℃)におけるキャリア移動度が好ましくは1.0×10-6cm/V・s以上、より好ましくは1.0×10-5cm/V・s以上、さらに好ましくは5.0×10-5cm/V・s以上、特に好ましくは1.0×10-4cm/V・s以上である。なお、キャリア移動度は、例えば、電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定することができる。
【0042】
[1-1.バッファ層]
発電デバイスは、一対の電極間に位置するバッファ層を有し、かつ、そのバッファ層として少なくとも1層以上の正孔輸送層を有する。正孔輸送層は、正孔輸送能を有する有機半導体化合物、好ましくはさらにその有機半導体化合物に対するドーパントを含有する層である。
図1においては、バッファ層102及びバッファ層104の少なくともいずれか一方の層が正孔輸送層となる。ただし、正孔輸送層を塗布法により成膜する際には、塗布溶媒が活性層103を浸漬して、活性層103に影響を及ぼす可能性があるため、正孔輸送層は、下部電極101と、活性層103との間に位置していることが好ましい。
正孔輸送層とは別のバッファ層は、電子輸送層としての層であってよい。なお、アノードと活性層との間に設けられたバッファ層は正孔輸送層と呼ばれることがあり、カソードと活性層との間に設けられたバッファ層は電子輸送層と呼ばれることがある。
【0043】
[1-1-1.バッファ層(正孔輸送層)]
正孔輸送層としてのバッファ層は、正孔輸送能を有する有機半導体化合物を含有すれば特段制限されず、本発明の効果が得られる範囲で他の物質を含んでいてよい。n-i-p積層型発電デバイスの場合、正孔輸送層により輸送電荷量の制御が容易となる。以下、本項目において、バッファ層を正孔輸送層とも称する。
【0044】
(有機半導体化合物)
正孔輸送層に含まれる有機半導体化合物は、特に制限されないが、前記式(I)~(III)で表されるトリアリールアミン化合物を含むことが好ましい。
【0045】
(ドーパント)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上記の有機半導体化合物(トリアリールアミン)に対するドーパントを含有することが好ましく、その態様は特段制限されない。ドーパントは、正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力を前記活性層に対して最適化するための化合物であり、電荷を付与できる化合物であれば特に制限されない。
ドーパントとして使用できる物質としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートなどのホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデンなどのモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物などが挙げられる。ドーパントは、正孔輸送層の成膜前または成膜後で、少なくとも一つの有機半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機能する電子受容活性部位を産生する点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0046】
超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように超原子価ヨウ素化合物は、半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0047】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0048】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I-Ar]X構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば化合物(1)に関して既に挙げたものでありうる。Xは、任意のアニオンを表す。Xとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、Xはフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0049】
ドーパントの好ましい例としては、一般式(IV)に表されるものが挙げられる。式(IV)において、Xは、任意のアニオンを表し、具体例としては上記の通りである。
[R11-I-R12]X (IV)
【0050】
式(IV)において、R11及びR12は、それぞれ独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、脂肪族基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、又はテトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0051】
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、又はピリジル基等が挙げられる。
【0052】
なお、上記の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲニル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0053】
11及びR12は、好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有することが好ましい。R11及びR12は、特に、パラ位に前記アルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
また、化合物(1)へのドーパント付与による正孔輸送能の向上の観点では、前記ドーパントは、下記式(V-a)~(V-f)から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
正孔輸送層中のドーパントの含有量は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましく、0.3重量%以上であることがさらに好ましく、0.5重量%以上であることが特に好ましく、また、通常30重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、12重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
また、正孔輸送層において、上記の化合物(1)等の有機半導体化合物に対するドーパントの含有比率(ドーパント/有機半導体化合物)は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましく、0.3重量%以上であることがさらに好ましく、0.5重量%以上であることが特に好ましく、また、通常30重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、12重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
なお、発電デバイスが複数のバッファ層を有する場合、それらの中の正孔輸送層に相当するいずれか1つの層が上記の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0057】
(その他の物質)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上記の有機半導体化合物及びドーパント以外の物質を含んでいてよく、例えば、光電変換(活性層)材料、接着性機能材料、フィラー、又は強度補助材等を含んでいてよい。
【0058】
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、活性層で生成する正孔に対するマッチングが良好となり、エネルギー損失を抑制しやすい点で特定の範囲であることが好ましい。具体的には、-6.0eV以上が好ましく、-5.95eV以上がより好ましく、-5.9eV以上がさらに好ましい。また、一方で、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、-5.2eV以下が好ましく、-5.4eV以下がより好ましく、-5.5eV以下がさらに好ましい。すなわち、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、-5.9eV以上-5.5eV以下であることが特に好ましい。
【0059】
イオン化ポテンシャルは、サンプルに対して光を照射し、照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)を計測することで、算出することができる。測定機器は任意のものを用いることができるが、例えば、理研計器(株)のAC-2、AC-3等を用いることができる。
【0060】
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、化合物(1)を用いることで調整できる。イオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするためのより詳細な方法としては、例えば、化合物(1)において、芳香族化合物の置換基の種類や位置を適切に配置することにより、化合物の電子状態を制御することが挙げられる。また、正孔輸送層に後述するドーパントなどを併用することなどによって、正孔輸送層に含有される化合物の電子状態を調整する、すなわち化合物の全体もしくは一部を酸化もしくは還元することなどが挙げられる。
【0061】
[1-1-2.バッファ層(電子輸送層)]
発電デバイスは、上述した正孔輸送層としてのバッファ層以外にも電子輸送層としてのバッファ層を有していてもよい。以下、本項目において、バッファ層を電子輸送層とも称する。その態様は特段制限されず、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いればよく、公知の物を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0062】
正孔輸送層としてのバッファ層の厚さ、及び電子輸送層としてのバッファ層の厚さは、特段制限されず、用途に応じて適宜設定することができるが、一実施形態において、独立に、0.5nm以上、別の実施形態において1nm以上、さらに別の実施形態において5nm以上とすることができ、一方、一実施形態において1μm以下、別の実施形態において500nm以下、さらに別の実施形態において200nm以下、さらに別の実施形態において150nm以下とすることができる。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、正孔や電子のキャリアの移動効率が向上しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
【0063】
正孔輸送層としてのバッファ層、及び電子輸送層としてのバッファ層のいずれも、層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、上述の有機半導体化合物、ドーパント、及び溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0064】
[1-2.電極]
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本実施形態に係る発電デバイス100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。発電デバイス100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。図1に示す発電デバイス100は、下部電極101及び上部電極105を有している。
【0065】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、発電デバイス100は、下部電極101がアノードであり上部電極105がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり上部電極105がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0066】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0067】
下部電極101及び上部電極105、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0068】
[1-3.活性層]
発電デバイス100は、一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有し、光電変換を行う活性層103を有する。発電デバイス100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極105から取り出される。
有機無機ハイブリッド型半導体材料とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた材料であって、半導体特性を示す材料のことを指す。
【0069】
有機無機ハイブリッド型半導体材料は、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)であることが好ましい。ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMXで表されるAMX型のもの、又は一般式AMXで表されるAMX型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。
【0070】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族乃至第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0071】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0072】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な発電デバイスを得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0073】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。一実施形態において、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンもしくは臭化物イオンを主に用いることが好ましいが、ヨウ化物イオンと臭化物イオンとを適当な比率で組み合わせてもよい。
【0074】
ペロブスカイト半導体化合物の好ましい例としては、有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられ、特にハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHPbI(3-x)Cl、CHNHPbI(3-x)Br、CHNHPbBr(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn、CHNHPb(1-y)SnBr、CHNHPb(1-y)SnCl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Br、及びCHNHPb(1-y)SnBr(3-x)Cl、並びに、上記の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、又はCFNHを用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0075】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、M及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また活性層103は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0076】
活性層103に含まれるペロブスカイト半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層103には、ペロブスカイト半導体化合物に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。
【0077】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、一実施形態において10nm以上、別の実施形態において50nm以上、さらに別の実施形態において100nm以上、さらに別の実施形態において120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層103の厚さは、一実施形態において1500nm以下、別の実施形態において1200nm以下、さらに別の実施形態において800nm以下である。
【0078】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、ペロブスカイト半導体化合物の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、ペロブスカイト半導体化合物を析出させることもできる。
【0079】
ペロブスカイト半導体化合物の前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト半導体化合物へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト半導体化合物へと変換可能なペロブスカイト半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、一般式AXで表される化合物と、一般式MXで表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱攪拌することにより、塗布液を作製することができる。この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、一般式AMXで表されるペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層103を作製することができる。溶媒としては、ペロブスカイト半導体化合物及び添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0080】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0081】
活性層のイオン化ポテンシャルの範囲は特段限定されないが、好ましくは-6.3eV以上-5.4eV以下であり、より好ましくは-6.2eV以上-5.5eV以下であり、特に好ましくは-6.1eV以上-5.6eV以下である。
また、活性層のバンドギャップは、好ましくは1.2eV以上2.3eV以下であり、より好ましくは1.4eV以上2.1eV以下であり、特に好ましくは1.6eV以上2.0eV以下である。
活性層のイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを上記範囲とすることによって、屋内や室内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯に対する、発電効率を向上させることができるため、好ましい。
特に、活性層のバンドギャップが上記範囲だと、屋内光源を受けることによって発生するエネルギーが、半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離するために十分なものとなり、かつ過剰とならず、発電効率を良好なものとすることができる。
【0082】
バンドギャップは、半導体化合物の吸収端波長と吸光度とから算出することができる。具体的には、透明ガラス基板等の適当な試料上に半導体化合物薄膜を成膜し、その透過スペクトルを測定し、横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(ahν)に変換し、この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出することができる。透過スペクトルは、例えば、日立ハイテク製U-4100等の分光光度計を使用して測定することができる。
【0083】
活性層のイオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記のペロブスカイト半導体化合物におけるカチオン成分を適宜変更することがあげられる。
活性層のバンドギャップを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記ペロブスカイト半導体化合物におけるハロゲン元素の構成比率を適宜変更することがあげられる。
【0084】
[1-4.基材]
発電デバイス100は、通常は支持体となる基材106を有する。もっとも、本実施形態に係る発電デバイスは基材106を有さなくてもよい。基材106の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0085】
<2.発電デバイスの製造方法>
上述の方法に従って、発電デバイス100を構成する各層を形成することにより、発電デバイス100を作製することができる。発電デバイス100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0086】
ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0087】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、さらに好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは発電デバイス100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0088】
上部電極105を積層した後に、発電デバイス100を50℃以上または80℃以上、一方、300℃以下、280℃以下、または250℃以下の温度範囲において、加熱することができる(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、発電デバイス100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られる。各層間の密着性が向上することにより、発電デバイスの熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、発電デバイス100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなる。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0089】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、一実施形態において1分以上、別の実施形態において3分以上、一方、一実施形態において180分以下、別の実施形態において60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることができる。アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することができる。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に発電デバイスを載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に発電デバイスを入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0090】
<3.光電変換特性>
発電デバイス100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。発電デバイス100に適当なスペクトルの光をある照射強度で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。一例として、発電デバイス100に色温度5000Kの白色LED光を適当な照射強度(照度)で照射することで、各照度における電流-電圧特性を測定することができる。
【0091】
発電デバイスは低照度領域(10~5000Lx)における発電効率に優れ、特に白色LED光等の光源を用いた場合において、光電変換効率を20%以上とすることができる。また、200Lxにおける光電変換効率を25%以上とすることができる。この効率の上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
なお、この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、発電デバイスの電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量(例えば、強度AM1.5Gの太陽光であれば100mW/cm)で除した値(%)である。
【0092】
<4.発電デバイス>
一実施形態において、発電デバイス100は、発電デバイス、中でも室内等の低照度環境用太陽電池として好適に使用される。図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、図2には本発明の一実施形態に係る太陽電池である太陽電池が示されている。図2に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、上述した発電デバイスを有している。そして、保護フィルム1が形成された側(図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
なお、本明細書において、低照度環境とは、10~5000Lxを意味し、典型的には200Lx周辺である。
【0093】
発電デバイスを構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0094】
本実施形態に係る太陽電池、特に上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。上記説明したとおり、低照度環境下で優れた変更効率を有することから、特にエネルギーハーベスティング用途に、好適に適用できる。
【0095】
本実施形態に係る太陽電池、特に上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、図3に示すように、本実施形態に係る太陽電池、特に上述した太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。
【実施例0096】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0097】
<測定方法等>
[イオン化ポテンシャルの測定]
活性層のイオン化ポテンシャルについては、薄膜ITO(酸化インジウムスズ、表面抵抗率:7~10Ω/sq.)が形成されたガラス基板上に、後述の発電デバイスの作製方法における活性層の形成方法と同様にして、後述の活性層用塗布液1を150μLと、活性層用塗布液2を120μLと、活性層用塗布液3を150μLとを順次塗布し、厚さ600nmのペロブスカイト半導体化合物の活性層を、薄膜ITOが形成されたガラス基板上に直接形成した。
形成した活性層の表面に光をあてることによって生成する光量子収量に基づき求めた。装置としては、光量子収量測定装置(オプテル社製「PCR-101」)を用いた。
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルについては、薄膜ITO(表面抵抗率:7~10Ω/sq.)が形成されたガラス基板上に、後述の発電デバイスの作製方法における正孔輸送層の形成方法と同様にして、後述の正孔輸送層塗布液の120μLを塗布し、厚さ100nmの正孔輸送層を、薄膜ITOが形成されたガラス基板上に直接形成した。
形成した正孔輸送層の表面に光をあてることによって生成する光量子収量に基づき求めた。装置としては、光量子収量測定装置(オプテル社製「PCR-101」)を用いた。
光量子収量測定装置による測定は、具体的には、薄膜ITOが形成されたガラス基板上に活性層又は正孔輸送層の単膜が形成されたものを、この装置に設置し、入射光エネルギーに対する光量子収量を測定し、下記式(1)を導いた。続いて、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルIPを、式(2)におけるY=0のときのXの値として算出した。
3√Y=A×X+B 式(1)
IP=(3√Y-B)/A=-B/A 式(2)
【0098】
[バンドギャップの算出]
活性層のバンドギャップについては、透明ガラス基板上に、後述の発電デバイスの作製方法における活性層の形成方法と同様に、後述の活性層用塗布液1の150μLと活性層用塗布液2の120μLを順次塗布して、厚さ600nmのペロブスカイト半導体化合物の活性層をガラス基板上に直接形成した。
形成した活性層の透過スペクトルを測定し、横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(ahν)に変換した(ここで、αは吸光係数を意味し、hはプランク定数を意味し、νは振動数を意味する)。この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出した。この透過スペクトルは、分光光度計(日立ハイテク製U-4100)を使用して測定した。
上記のフィッティング及びバンドギャップの算出は、文献(山下大輔、石崎温史:分析化学 66,333(2017))に記載の方法に準じて行った。
【0099】
[発電デバイスの評価]
各例で得られた発電デバイスに、1mm角のメタルマスクを付け、ITO透明導電膜と上部電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用いた。
照射光源としては分光計器社製屋内光評価用LED光源BLD-100を用い、色温度5000Kの白色LED光を発電デバイスに照射した。この際、照度計を用いて発電デバイスの受光面が200Lxの照度となるように照射強度を調整した。
この測定結果から、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、開放電圧Voc(V)、フィルファクターFF、及び光電変換効率PCE(%)を算出した。発電デバイスを作製した直後の測定結果に基づいて算出されたこれらの値を表1に示す。
【0100】
<合成例>
実施例で用いた化合物1の合成方法を以下に示す。
【0101】
マグネシウム(2.67g、109mmol)をフラスコに入れ、窒素置換を3回おこなった。乾燥テトラヒドロフランを20mL加え、激しく撹拌しながら1-ブロモヘキサンを少量滴下し、加熱撹拌した。反応が開始したことを確認できたら、乾燥テトラヒドロフラン80mLと1-ブロモヘキサン(16.9g、103mmol)の混合溶液を穏やかな還流が続くように滴下した。滴下終了後、乾燥テトラヒドロフランを50mL加えて均一化し、還流下で1時間撹拌した後、室温まで冷却した。非特許文献(Synthesis 2006,5,890)に記載の方法で調整したグリニャール試薬の濃度を決定した。ジクロロ(N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン)亜鉛(3.16g、12.5mmol)と乾燥テトラヒドロフラン10mLに対し、調整したヘキシルマグネシウムブロミド(22mL、12mmol)を滴下した。
調整した有機亜鉛試薬と4-ブロモ-2,6-ジフルオロアニリン(1.75g、5.0mmol)を用い、反応条件として非特許文献(Organic Letter 2008,10,2765)と非特許文献(Synthesis 2009,4,681)に記載の方法を参考にして、下記の中間体1を得た。
【0102】
【化9】
【0103】
中間体1:H-NMR(400MHz,溶媒:重クロロホルム):δ6.63(d,J=9.6Hz,2H),δ3.56(s,2H),δ2.49-2.45(m,2H),δ1.54-1.50(m,2H),δ0.1.36-1.24(m,6H),δ0.88(t,J=6.8Hz,3H).
【0104】
中間体1(2.13g、10mmol)、4-ブロモビフェニル(2.45g、10.5mmol)を用い、反応条件として、特許文献(特開2019-175970)に記載の方法を参考にして、下記の中間体2を得た。
【0105】
【化10】
【0106】
中間体2:H-NMR(400MHz,溶媒:重クロロホルム):δ7.56-7.53(m,2H),δ7.48-7.45(m,2H),δ7.41-7.38(m,2H),δ7.30-7.25(m,1H),δ6.84-6.78(m,4H),δ5.41(s,1H),δ2.61-2.57(m,2H),δ1.63-1.58(m,2H),δ1.37-1.24(m,6H),δ0.90(t,J=6.8Hz,3H).
【0107】
中間体2(1.16g、3.15mmol)、4,4’-ジブロモビフェニル(468mg、1.5mmol)を用い、反応条件として、特許文献(特開2019-175970)に記載の方法を参考にして、下記の化合物1を得た。
【0108】
【化11】
【0109】
化合物1:H-NMR(400MHz,溶媒:重クロロホルム):δ7.57-7.56(m,4H),δ7.50-7.46(m,8H),δ7.43-7.39(m,4H),δ7.31-7.27(m,2H),δ7.13-7.09(m,8H),δ6.84-6.82(m,4H),δ2.64-2.60(m,4H),δ1.68-1.60(m,4H),δ1.38-1.32(m,12H),δ0.90(t,J=6.8Hz, 6H).
【0110】
<実施例1>
[電子輸送層用塗布液の調製]
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加えることにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液を調製した。
【0111】
[活性層用塗布液の調製]
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとり、グローブボックス内に導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱撹拌することにより活性層用塗布液1を調製した。
次に、別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックス内に導入した。これに溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr、及びMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
別のバイアル瓶に、2-フェニルエチルアンモニウムヨージドを量りとり、グローブボックス内に導入した。2-フェニルエチルアンモニウムヨージドの濃度が1mg/mLとなるように溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、活性層用塗布液3を調製した。
【0112】
[正孔輸送層用塗布液の調製]
合成した化合物1を54.5mg/mL(4重量%)で含有するo-ジクロロベンゼン溶液に、電子受容性ドーパントである4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB;TCI社製)を化合物1の溶液中含有量の8重量%となるように添加した。次に、得られた混合液を150℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0113】
[発電デバイスの作製]
パターニングされたITO透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
この上に、上述の電子輸送層用塗布液を、室温(25℃)で上記のガラス基板上に2000rpmの速度で厚さ35nmとなるようにスピンコートした後にホットプレート上150℃で10分間加熱することにより、電子輸送層を形成した。
この電子輸送層が形成されたガラス基板をグローブボックスに導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1(150μL)を電子輸送層上に滴下し、2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。さらに、ヨウ化鉛層が形成されたガラス基板を室温に戻した後、ヨウ化鉛層上に活性層用塗布液2(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上150℃で20分間加熱し、その後室温まで冷却してから、活性層用塗布液3(150μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上100℃で10分間加熱することにより、ペロブスカイト半導体化合物の活性層(厚さ650nm)を形成した。
この活性層上に、正孔輸送層塗布液(150μL)を1000rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、正孔輸送層(厚さ100nm)を形成した。
この正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により、厚さ10nmのMoOを蒸着し、その上に厚さ200nmのIZO(酸化インジウム亜鉛)をスパッタ製膜し、さらにその上に厚さ50nmのアルミニウムを蒸着して、上部電極を形成した。
以上のようにして、発電デバイスを作製した。
この発電デバイスにおける、活性層のイオン化ポテンシャルとバンドギャップ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル、及び色温度5000Kの白色LED光を照射し、受光面の照度が200Lxであるときの光電変換特性の測定結果を表1に示す。なお、光電変換特性は、発電デバイスの封止後の測定結果に基づいて算出された値である。
【0114】
<比較例1>
実施例1で用いた化合物1の代わりに、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA,自社製)を用い、PTAAの溶液中含有量を36.4mg/mLにした以外は、実施例1と同様にして発電デバイスを作製した。各測定結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1の結果より、化合物1を含有する正孔輸送層を備えた実施例1の発電デバイスは、低照度白色LEDを光源とする変換効率において、比較例1の発電デバイスよりも優れていることが裏付けられた。
【0117】
続いて、連続光照射に対する出力安定性を評価した。具体的には、内側が凹んだ摺ガラスに発電デバイスを収納し、シール材(UV硬化樹脂)を用いて発電デバイスの上面に接着することにより、発電デバイスを封止した。この封止された発電デバイスを連続光照射試験用の発電デバイスとして用いた。
封止された発電デバイスを開放回路とし、照度5800Lx(1.74mW/cm)の光を照射し、通常の室内にて2528時間静置し、電流-電圧特性を測定した。
得られた電流-電圧曲線から光電変換効率を求めた。光照射開始時及び2528時間経過時における照度200Lxにおける光電変換効率の測定結果を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
表2の結果より、化合物1を含有する正孔輸送層を備えた実施例1の発電デバイスは、低照度白色LEDを光源とする変換効率において、比較例1の発電デバイスよりも2528時間超経過後も高出力を維持しており、出力の安定性に優れ、発電デバイスとして優れていることが裏付けられた。
実施例1の発電デバイスにおける活性層のイオン化ポテンシャルは-6.1eV以上-5.6eV以下であり、活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.0eV以下であり、かつ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが-5.9eV以上-5.5eV以下であったことから、これらの組み合わせが低照度下において優れた変換効率を実現させ、また、連続光照射に対する優れた出力安定性を実現させたと考えられる。
【符号の説明】
【0120】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3、9 ガスバリアフィルム
4、8 ゲッター材フィルム
5、7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 発電デバイス
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
104 バッファ層
105 上部電極
106 基材
図1
図2
図3