(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053909
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、回路基板材料、回路基板及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20240409BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160418
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 星冴
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002DJ056
4J002FB006
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】線膨張係数が低く、さらに、低誘電正接化をも達成できる樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂(A)及び充填材(B)を含み、フィルム中の当該充填材(B)のアスペクト比の90%平均が9以上であることを特徴とし、前記充填材(B)の長軸方向の90%平均長さが1μm以上5μm以下であり、短軸方向の90%平均長さが0.01μm以上0.5μm以下であるのが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)及び充填材(B)を含み、
樹脂フィルム中の当該充填材(B)のアスペクト比の90%平均が9以上である、樹脂フィルム。
【請求項2】
前記充填材(B)の長軸方向の90%平均長さが1μm以上5μm以下であり、短軸方向の90%平均長さが0.01μm以上0.5μm以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記充填材(B)は無機充填材である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記無機充填材(B)はフッ素含有無機充填材である、請求項3に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記フッ素含有無機充填材(B)はフッ素雲母である、請求項4に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記充填材(B)を20質量部以上含有する、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
線膨張係数が50ppm/℃以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(A)が熱可塑性ポリイミド樹脂である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸成分(a-1)に由来する繰り返し単位と脂肪族ジアミン成分(a-2)に由来する繰り返し単位とを有する、請求項8に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
前記脂肪族ジアミン成分(a-2)が、少なくとも脂環式ジアミンを含む、請求項9に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
前記脂肪族ジアミン成分(a-2)が、直鎖状脂肪族ジアミン及び分岐状脂肪族ジアミンの一方又は両方(直鎖状脂肪族ジアミン等という。)をさらに含む、請求項10に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
前記直鎖状脂肪族ジアミン等と、前記脂環式ジアミンとの含有割合が、モル基準で、前記直鎖状脂肪族ジアミン等:前記脂環式ジアミン=1:99~90:10の範囲である、請求項11に記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
前記脂環式ジアミンが、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである、請求項10に記載の樹脂フィルム。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂(A)が結晶性を有する、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項15】
10GHzにおける誘電正接が0.004以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項16】
10GHzにおける比誘電率が3.5以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項17】
回路基板に使用する、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の樹脂フィルムと導体とが積層してなる構成を有する、回路基板材料。
【請求項19】
請求項18に記載の回路基板材料を備えた、回路基板。
【請求項20】
請求項19に記載の回路基板を備えた、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板材料などとして好適である樹脂フィルム、当該樹脂フィルムを使用した回路基板材料、回路基板及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板用絶縁材には、その製造工程上、はんだ耐熱性が要求される。例えばポリエーテルケトン樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱性熱可塑性樹脂を、プリント配線基板用絶縁材として使用することができれば、高温での電気的特性にも優れ、高温雰囲気下での回路の信頼性を得ることが期待できる。
しかしながら、これら耐熱性熱可塑性樹脂は、成形加工温度が高いため、導体に貼り合わせる際に、エポキシ樹脂等の接着剤を使用したり、260℃以上の高温での熱プレス成形を行ったりする必要があり、昇温・降温に時間がかかるなどの問題があった。さらには、結晶性樹脂の場合、融点近傍の温度まで加熱しないと接着性が得られず、融点を超えると一転して樹脂が流れ出し、流動変形してしまうという問題点も抱えていた。
【0003】
そこで、特許文献1には、結晶性ポリアリールケトン樹脂65~35質量%と非晶性ポリエーテルイミド樹脂35~65質量%とからなり、ガラス転移温度が150~230℃であり、結晶融解ピーク温度が260℃以上である、フィルム状絶縁体が開示されている。
【0004】
また、現在、次世代高速通信(5G)に向けた高周波数対応化において、基板材料の低誘電率化、及び、低誘電正接化が求められている。
【0005】
そこで、高周波数対応化を図るべく、例えば特許文献2などでは、ポリイミドにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のマイクロパウダーを含有させた基板材料としての多層ポリイミドフィルムが開示されている。
特許文献3には、絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層に隣接する金属を含む導電層とを有し、絶縁樹脂層が、特定構造のポリイミドを含有する電磁波シールドフィルムが開示されている。
【0006】
熱可塑性ポリイミド樹脂は、スーパーエンプラの中でも誘電特性に優れている観点から、高周波回路基板として利用されており、例えば、特許文献4には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物とを含有した材料から成形された樹脂フィルムを有し、線膨張係数が1ppm/℃以上50ppm/℃以下などの条件を満たす高周波回路基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-038464号公報
【特許文献2】特表2014-526399号公報
【特許文献3】特開2020-007464号公報
【特許文献4】特開2021-103757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
樹脂フィルムをプリント配線基板に用いることを想定すると、膨張係数の不一致により、熱の変化で銅箔の剥離を引き起こす可能性があるため、当該樹脂フィルムの線膨張係数を低くして、銅の線膨張係数にできるだけ近づける必要がある。
前述の熱可塑性ポリイミド樹脂に板状無機化合物を配合した樹脂フィルムは、線膨張係数(CTE)を低下させるものである。しかし、次世代高速通信(5G)に向けた高周波数対応を考慮すると、さらに低誘電正接化を図る必要があり、熱可塑性ポリイミド樹脂に板状無機化合物を配合しても誘電特性は変化せず、次世代の高周波回路基板には利用できないおそれがある。
また、ポリイミド樹脂が本来的に抱えている課題である吸水性の問題を解消する必要もある。
【0009】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂に充填材を配合した樹脂フィルムであって、線膨張係数が低く、さらに、低誘電正接化をも達成できる樹脂フィルムを提供せんとするものである。この樹脂フィルムは成膜時に充填材が凝集しにくいという利点もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示す樹脂フィルム及び当該樹脂フィルムを使用した回路基板材料が提供される。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂(A)及び充填材(B)を含み、樹脂フィルム中の当該充填材(B)のアスペクト比の90%平均が9以上である、樹脂フィルム。
【0012】
[2] 前記充填材(B)の長軸方向の90%平均長さが1μm以上5μm以下であり、短軸方向の90%平均長さが0.01μm以上0.5μm以下である、[1]に記載の樹脂フィルム。
【0013】
[3] 前記充填材(B)は無機充填材である、[1]又は[2]に記載の樹脂フィルム。
【0014】
[4] 前記無機充填材(B)はフッ素含有無機充填材である、[3]に記載の樹脂フィルム。
【0015】
[5] 前記フッ素含有無機充填材(B)はフッ素雲母である、[4]に記載の樹脂フィルム。
【0016】
[6] 前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記充填材(B)を20質量部以上含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0017】
[7] 線膨張係数が50ppm/℃以下である[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0018】
[8] 前記熱可塑性樹脂(A)が熱可塑性ポリイミド樹脂である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0019】
[9] 前記熱可塑性ポリイミド樹脂(A)が、テトラカルボン酸成分(a-1)に由来する繰り返し単位と脂肪族ジアミン成分(a-2)に由来する繰り返し単位とを有する、[8]に記載の樹脂フィルム。
【0020】
[10] 前記脂肪族ジアミン成分(a-2)が、少なくとも脂環式ジアミンを含む、[9]に記載の樹脂フィルム。
【0021】
[11] 前記脂肪族ジアミン成分(a-2)が、直鎖状脂肪族ジアミン及び分岐状脂肪族ジアミンの一方又は両方(直鎖状脂肪族ジアミン等という。)と、脂環式ジアミンとを含む、[10]に記載の樹脂フィルム。
【0022】
[12] 前記直鎖状脂肪族ジアミン等と、前記脂環式ジアミンとの含有割合が、モル基準で、前記直鎖状脂肪族ジアミン等:前記脂環式ジアミン=1:99~90:10の範囲である、[11]に記載の樹脂フィルム。
【0023】
[13] 前記脂環式ジアミンが、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである、[10]~[12]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0024】
[14] 前記熱可塑性樹脂(A)が結晶性を有する、[1]~[13]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0025】
[15] 10GHzにおける誘電正接が0.004以下である、[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0026】
[16] 10GHzにおける比誘電率が3.5以下である、[1]~[15]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0027】
[17] 回路基板に使用する、[1]~[16]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【0028】
[18] [1]~[17]のいずれかに記載の樹脂フィルムと導体とが積層してなる構成を有する、回路基板材料。
【0029】
[19] [18]に記載の回路基板材料を備えた、回路基板。
【0030】
[20] [19]に記載の回路基板を備えた、電子機器。
【発明の効果】
【0031】
本発明が提案する樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂に充填材を配合した樹脂フィルムであり、線膨張係数が低く、さらに、低誘電正接化をも達成できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明を、実施の形態例に基づいて説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0033】
<本樹脂フィルム>
本発明の実施形態の一例に係る樹脂フィルム(「本樹脂フィルム」と称する。)は、熱可塑性樹脂(A)及び充填材(B)を含み、本樹脂フィルム中の当該充填材(B)のアスペクト比の90%平均が9以上であることを特徴とする。
【0034】
本樹脂フィルムには、本発明の特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物等を配合してもよい。
【0035】
<熱可塑性樹脂(A)>
熱可塑性樹脂(A)は、結晶性、非晶性のいずれでもよいが、結晶性を有するのが好ましい。
熱可塑性樹脂(A)は、プリント配線基板を加工する時の温度(200℃~300℃)において十分な耐熱性と剛性を確保していれば特に制限はなく種々の熱可塑性樹脂、及び、その混合物を用いることができる。
熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、が挙げられる。この中でも、耐熱性、高強度、加工性の観点から、ポリイミドであることが好ましい。
【0036】
以下、熱可塑性ポリイミド樹脂について説明する。
熱可塑性樹脂は、テトラカルボン酸成分(a―1)に由来する繰り返し単位と、脂肪族ジアミン成分(a-2)に由来する繰り返し単位とを有し、これらの重合により得られる。
【0037】
(テトラカルボン酸成分(a―1))
テトラカルボン酸成分(a-1)としては、ピロメリット酸、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸等が挙げられる。また、これらのアルキルエステル体も使用することができる。
【0038】
これらの中でも、テトラカルボン酸成分(a-1)のうち、50モル%を越える成分がピロメリット酸であることが好ましい。テトラカルボン酸成分(a-1)がピロメリット酸を主成分とすれば、回路基板とした場合に耐熱性、二次加工性、及び低吸水性が向上する。
このような観点から、テトラカルボン酸成分(a-1)のうち、ピロメリット酸は、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、テトラカルボン酸成分(a-1)の全て(100モル%)がピロメリット酸であるのが最も好ましい。
【0039】
(脂肪族ジアミン成分(a-2))
脂肪族ジアミン成分(a-2)は、脂肪族ジアミン(脂環族ジアミンをも含む)を主成分とし、つまり、脂肪族ジアミン成分(a-2)のうち50モル%を越える成分が脂肪族ジアミンである。主成分が脂肪族ジアミンであることにより、回路基板とした場合に、優れた耐熱性、低吸水性、成形性、及び二次加工性を付与することができる。
このような観点から、脂肪族ジアミン成分(a-2)中の脂肪族ジアミンは60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、脂肪族ジアミン成分(a-2)の全て(100モル%)が脂肪族ジアミンであるのが最も好ましい。
【0040】
脂肪族ジアミン成分(a-2)に含まれる脂肪族ジアミンとしては、炭化水素基の末端にアミン基を有するジアミン成分であれば、特に限定されるものではないが、環状炭化水素の末端にアミン基を有する脂環式ジアミンを少なくとも含むのが好ましい。
脂環式ジアミンの具体例としては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等が挙げられる。これらの中では、耐熱性と成形性、二次加工性を両立できるという観点から、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが最も好ましい。
【0041】
脂肪族ジアミン成分(a-2)は、上記脂環式ジアミンの他に、直鎖状脂肪族ジアミン、分岐状脂肪族ジアミンのいずれか少なくとも一方を含むことが好ましい。
直鎖状脂肪族ジアミンとは、直鎖状炭化水素の両末端にアミン基を有するものであり、分岐状脂肪族ジアミンとは、直鎖状脂肪族ジアミンに炭素数1~10の枝分かれ構造を有するものである。
直鎖状脂肪族ジアミンとしては、アルキル基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば特に制限はないが、具体例としては、エチレンジアミン(炭素数2)、プロピレンジアミン(炭素数3)、ブタンジアミン(炭素数4)、ペンタンジアミン(炭素数5)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ヘプタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数8)、ノナンジアミン(炭素数9)、デカンジアミン(炭素数10)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、ドデカンジアミン(炭素数12)、トリデカンジアミン(炭素数13)、テトラデカンジアミン(炭素数14)、ペンタデカンジアミン(炭素数15)、ヘキサデカンジアミン(炭素数16)、ヘプタデカンジアミン(炭素数17)、オクタデカンジアミン(炭素数18)、ノナデカンジアミン(炭素数19)、エイコサン(炭素数20)、トリアコンタン(炭素数30)、テトラコンタン(炭素数40)、ペンタコンタン(炭素数50)等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、成形性や二次加工性、低吸湿性の観点から、炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンが好ましい。この直鎖状脂肪族ジアミンは、炭素数1~10の枝分かれ構造を有するものでもよい。
【0043】
分岐状脂肪族ジアミンは、これら直鎖状脂肪族ジアミンに好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10の枝分かれ構造が結合されたものが挙げられる。
脂肪族ジアミン(a-2)としては、結晶性の観点から、直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが特に好ましい。
【0044】
脂肪族ジアミン成分(a-2)に含まれる脂肪族ジアミン以外の成分としては、他のジアミン成分を含んでいてもよい。具体的には、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4’-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等のエーテルジアミン成分、シロキサンジアミン類等が挙げられる。
【0045】
脂肪族ジアミン成分(a-2)は、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミン、分岐状脂肪族ジアミンの一方又は両方(以下、直鎖状脂肪族ジアミン等ともいう。)を含む場合、それぞれの含有割合は、モル基準で、直鎖状脂肪族ジアミン等:脂環族ジアミン=1:99~90:10の範囲であることが好ましく、1:99~80:20であることがより好ましく、1:99~70:30であることが更に好ましく、10:90~70:30であることが特に好ましく、20:80~70:30であることがとりわけ好ましく、25:75~60:40であることが最も好ましい。
脂肪族ジアミン成分(a-2)に含まれる脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミン等の割合が係る範囲であれば、回路基板の耐熱性と成形性のバランスを向上させることができる。
【0046】
(融点)
熱可塑性樹脂(A)は、結晶性を有するとよい。結晶性の熱可塑性樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)測定において、結晶融解ピーク(融点)が観測される。熱可塑性樹脂(A)の融点(融解温度ともいう)は、280℃以上370℃以下であるのが好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点が280℃未満の場合には、耐熱性を有する回路基板用の樹脂フィルムを得ることができなくなるからである。これに対し、熱可塑性樹脂(A)の融点が370℃を越える場合には、回路基板の製造温度が400℃を越えてしまうため、回路基板の製造が困難となり、しかも、使用可能な溶融押出成形機が制限されてしまう等の問題が生じるおそれがある。
このような観点から、300℃以上350℃以下がより好ましく、310℃以上330℃以下がさらに好ましい。
【0047】
(ガラス転移温度)
熱可塑性樹脂(A)のDSC測定によるガラス転移温度は、160℃以上240℃以下が好ましい。熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度が160℃未満の場合には、耐熱性を有する回路基板を得ることができず、熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度が240℃を越える場合には、熱可塑性樹脂(A)の融点が370℃を越えるので、回路基板用の樹脂フィルムの製造温度が400℃を越えて樹脂フィルムの製造に支障をきたし、使用可能な溶融押出成形機の制限を招くからである。
このような観点から、170℃以上210℃以下がより好ましく、170℃以上190℃以下がさらに好ましい。
【0048】
(その他の成分)
熱可塑性樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、あるいは変性体も使用することができる。
【0049】
熱可塑性ポリイミド樹脂は、特に限定されるものではないが、好ましくは特許第5365762号公報、特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報記載の熱可塑性を有するポリイミド樹脂、より好ましくは特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報に記載された熱可塑性のポリイミド樹脂が好適である。
この熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、高強度、高耐熱性、高耐溶剤性、結晶性、フィルム成形性に優れる三菱ガス化学社製の商品名サープリムシリーズ等が挙げられる。
【0050】
<充填材(B)>
充填材(B)としては無機充填材、例えば、マイカ(雲母ともいう。)クレー、ガラス、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ベーマイト、タルク、セリサイト、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、アルミナ、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸リチウムカリウム等のチタン酸塩、炭酸カルシウムなどの無機物からなる鱗片状、板状又は薄片状(偏平形状)の粉体を挙げることができる。また、ガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などを挙げることもできる。
この中でも、無機充填材としては、マイカ、シリカ、ガラス、タルク、カオリン、炭酸カルシウムなどの粒子であって、フッ素を含有するフッ素含有無機充填材が好ましい。その中でも、誘電特性を改善できる点で、フッ素を含有するマイカ(フッ素雲母)、その中でも特にフッ素金雲母が好ましい。
【0051】
マイカは、フィロケイ酸鉱物雲母族に属する板状結晶であり、天然マイカ(白雲母、黒雲母、金雲母等)と、人工的に製造される合成マイカの2種類に分類される。
特に、合成マイカとしては、高温での使用を可能とするために、通常天然に存在するマイカの水酸基(OH)をフッ素(F)に置き換えた合成マイカが知られている。
合成マイカの合成法には、水熱合成法、固相合成法、溶融法等が知られており、いかなる方法により製造したものであってもよいが、水酸基が100%フッ素に置換される溶融法により合成されるのが好ましい。
合成マイカ粒子の中でも、加熱寸法安定性及び耐水性の観点から、非膨潤性の合成マイカが特に好ましい。
非膨潤性の合成マイカとしては、例えばフッ素金雲母(K2Mg6Al2Si6O20)F4)、カリウム四ケイ素雲母(K2Mg5(Si8O20)F4)、カリウムテニオライトK2Mg4Li2(Si8O20)F4)などを挙げることができ、中でも誘電正接をより低減できるフッ素金雲母が特に好ましい。
【0052】
(アスペクト比)
本樹脂フィルム中の充填材(B)のアスペクト比(=長軸径/短軸径)の90%平均(以下、90%平均アスペクト比ともいう。)は、9以上であるのが好ましい。
このような90%平均アスペクト比の充填材(B)であれば、本樹脂フィルム中で凝集しにくく製膜しやすくなり、フィルムの線膨張係数の低減が期待できる。
このような観点から、本樹脂フィルム中の充填材(B)の90%平均アスペクト比は10以上であるのがより好ましく、11以上あるのがさらに好ましく、12以上であるのが特に好ましい。上限は、特に限定するものではないが、100以下であるのが好ましく、50以下であるのがより好ましく、30以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
(長軸径)
本樹脂フィルム中の充填材(B)の長軸方向の90%平均長さ(以下、90%平均長軸径ともいう。)は、1μm以上5μm下であるのが好ましい。
この範囲であれば、フィルムの製膜性や外観が良好であり、フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。
このような観点から、本樹脂フィルム中の充填材(B)の90%平均長軸径は、1.5μm以上4.5μm以下であるのがより好ましく、2μm以上4μm以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
(短軸径)
本樹脂フィルム中の充填材(B)の短軸方向の90%平均長さ(以下、90%平均短軸径ともいう。)は、0.01μm以上0.5μm下であるのが好ましい。
この範囲であれば、充填材(B)のアスペクト比が大きくなり、本樹脂フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。
かかる観点から、本樹脂フィルム中の充填材(B)の90%平均短軸径は、0.05μm以上0.45μm以下であるのがより好ましく、0.1μm以上0.4μm以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
なお、本樹脂フィルム中の充填材(B)のアスペクト比、長軸径又は短軸径は、下記実施例に示された方法で測定するものである。
【0056】
(充填材単体の粒子径)
本樹脂フィルムに配合前の充填材(B)粒子径は特に制限はないが、90%平均粒形は1μm以上100μm未満であるのが好ましく、2μm以上80μm未満であるのがより好ましく、3μm以上60μm未満であるのがさらに好ましく、5μm以上50μm未満であるのが特に好ましい。この範囲であれば、フィルム中の無機充填材の粒子径を上記の範囲に収めることができる。
なお充填材単体の粒子径は、レーザー回折式粒度分布計により100個を抽出して測定することができる。
【0057】
(含有割合)
本樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)とを、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して充填材(B)を20質量部以上含有するのが好ましい。
このような含有割合であれば、この範囲であれば、フィルムの製膜性や外観が良好であり、フィルムの線膨張係数低減効果が期待できる。
このような観点から、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して充填材(B)を22質量部以上含有するのがより好ましく、24質量部以上含有するのがさらに好ましい。
また、上限は、特に限定するものではないが、製膜性の観点から熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して充填材(B)を50質量部以下を含有するのが好ましく、40質量部以下を含有するのがより好ましい。
【0058】
(フィルム厚み)
本樹脂フィルムの厚みは、電気・電子機器用の回路基板材料として用いる場合、10μm以上300μm以下であるのが好ましく、その中でも20μm以上200μm以下、その中でも30μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。
また、本樹脂フィルムは、流れ方向(MD)とその直交方向(TD)における物性の異方性ができるだけ少なくなるように製膜することが好ましい。
【0059】
(誘電正接)
誘電正接とは、絶縁体内部での電気エネルギー損失の指標であり、充電される電流と損失する電流の比から求められる値である。理想的な絶縁体では、電気エネルギー損失がゼロであるため、誘電正接の値が小さいことが絶縁体に望まれる。
高周波回路基板では、電力吸収することにより、信号の伝送損失がおこり熱に変化する。誘電正接は、信号伝送の品質に影響し、従って、誘電正接が大きければ大きいほど、吸収が大きく、信号損失が大きくなり、反対に誘電正接が低ければ低いほど、信号の損失が少なくなる。
本樹脂フィルムの10GHzにおける誘電正接は、高周波回路基板用途の観点から、0.004以下であることが好ましく、0.0038以下であることがより好ましく、0.0035以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることにより、誘電損失が小さく、回路基板の電気信号の伝達効率、高速化が得られる。誘電正接の下限は、特に限定するものではないが、通常0.001以上である。
【0060】
(比誘電率)
周波数を高くすることの一つの目的は、信号を早く伝達すること、すなわち、高周波回路においては信号の速度を高めることである。
比誘電率が低ければ低いほど、信号速度は速くなり、光速に近づくことになる。従って比誘電率の低い材料であることが適切である。
かかる観点から、本樹脂フィルムの10GHzにおける比誘電率は3.5以下であることが好ましく、3.4以下であることがさらに好ましく、3.3以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることにより、誘電損失が小さく、回路基板の電気信号の伝達効率、高速化が得られる。比誘電率の下限は、特に限定するものではないが、通常2.0以上である。
【0061】
なお、比誘電率及び誘電正接は、下記実施例に示された方法で測定するものである。
【0062】
(吸水率)
吸水性すなわち吸水率は、比誘電率および誘電損失に影響する。
本樹脂フィルムは、その吸水率が低くなることで、基板の銅箔からの剥離が防止されやすくなる。また、耐マイグレーション性が高まり短絡の発生を防止しやすくなる。
よって、本樹脂フィルムの吸水率は1%以下であることが好ましく、中でも0.8%以下、その中でも0.6%以下であるのがさらに好ましい。吸水率の下限は、特に限定するものではないが、通常0.1以上である。
なお、吸水率は下記実施例で示すように、本樹脂フィルムから試験片を作成し、その試験片を水に23℃で24時間浸漬した際の浸漬前後の質量変化から測定するものである。
【0063】
(線膨張係数)
本樹脂フィルムは、銅箔などの基板に積層することを想定すると、熱と冷間の変化の不一致により、銅箔の剥離を引き起こす可能性があるため、本樹脂フィルムの線膨張係数を低くして、銅の線膨張係数にできるだけ近づけるのが好ましい。
かかる観点から、本樹脂フィルムは、MD及びTDのいずれの方向においても、線膨張係数が50ppm/℃以下であるのが好ましく、中でも40ppm/℃以下、その中でも35ppm/℃以下であるのがさらに好ましい。なお、銅箔の線膨張係数が約20ppm/℃であることから、下限は15ppm/℃以上であることが想定される。
【0064】
なお、線膨張係数は、下記実施例に示された方法で測定するものである。
【0065】
<本フィルムの製造方法>
本樹脂フィルムは、例えば、熱可塑性樹脂(A)や充填材(B)などの材料を溶融混練し、急冷製膜することにより製造することができる。
この際、製膜方法としては、例えば、インフレーション成形法、Tダイを用いる押出しキャスト成形法、カレンダー成形法などを挙げることができる。中でも、フィルム製膜性や安定生産性等の観点からTダイを用いる押出しキャスト成形法が好ましい。また、プレス成形により成膜してもよい。
【0066】
Tダイを用いる押出しキャスト成形法での成形温度は、組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね融点以上、430℃以下である。また、成形体の厚みは、特に制限されるものではないが、通常10μm~800μm程度である。
溶融混練には、一般的に使用される単軸押出機、二軸押出機、ニーダーやミキサーなどが使用でき、特に制限されるものではない。
押出機やミキサーの回転数は使用するスクリューの形状やサイズによって異なるが、充填材(B)を分散させる観点から10rpm以上であることが好ましく、15rpm以上であることが特に好ましい。また回転数の上限は特に制限はないが、充填材(B)の粉砕抑制やせん断発熱による樹脂の分解抑制の観点から100rpm未満であることが好ましい。
【0067】
Tダイを用いる押出キャスト法の場合、得られるフィルムは急冷して非晶状態で採取してもよく、キャスティングロールで加熱することによって結晶化させてもよく、また、非晶状態で採取した後に加熱処理を施して結晶化した状態で採取してもよい。一般に非晶状態のフィルムは耐久性や二次加工性に優れ、結晶化後のフィルムは耐熱性や剛性(コシ)に優れるため、用途、目的に応じて最適な結晶化状態のフィルムを使用すればよい。
【0068】
溶融した材料を冷却してフィルム形状とする際の冷却条件を調整する方法としては、例えば、冷却機としてキャストロールを用い、押し出された溶融樹脂をキャストロールに接触させることにより行うことができる。
【0069】
プレス成形の場合、例えば、二枚の金属板間に溶融混錬した材料を流し込み、温度330℃以上380℃以下、圧力2MPa以上10MPa以下、成形時間10秒以上60秒以下の条件でプレス成形し、その後200℃以下まで水冷で徐冷することにより成膜することができる。
【0070】
<回路基板材料>
本発明の実施形態の一例に係る回路基板材料は、上述した本樹脂フィルムと、導体とが積層してなる構成のものである。例えば、当該導体から回路を形成して、回路基板を構成することができる。
【0071】
前記導体として、銅箔を挙げることができる。
当該銅箔は、回路基板においてはエッチングなどにより所定の形状にパターニングされ、配線などを構成することができる。
銅箔の厚みは、例えば1μm以上80μm以下であるのが好ましく、3μm以上50μm以下であるのがより好ましく、5μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
銅箔は、一般的には接着層を介さずベースフィルムに直接貼り合わされてもよく、また、接着層を介してもよい。接着層としては、特に限定されないが、ポリイミド系樹脂接着剤、エポキシ系樹脂接着剤、アクリル系樹脂接着剤、フェノール系樹脂接着剤などを挙げることができる。これらの中ではポリイミド系樹脂接着剤、エポキシ系樹脂接着剤が好ましい。
【0073】
また、銅箔にシランカップリング剤などの表面処理剤により表面処理をして、銅箔はその表面処理剤を介してベースフィルムに貼り合わされてもよいし、銅箔は、表面処理剤や接着層を介さずにベースフィルムに直接貼り合わされてもよい。
【0074】
本樹脂フィルムは、ベースフィルム及びカバーフィルムのいずれかを構成することが好ましい。
ベースフィルムは、回路基板の基材となるものであり、ベースフィルム上に銅箔が設けられるとよい。
カバーフィルムは、カバーレイフィルムと呼ばれることがあり、ベースフィルム上に設けられた銅箔などを被覆して保護するためのフィルムである。カバーフィルムは、回路基板の基材となるベースフィルムやリジット基板などの銅箔が設けられた面に貼り合わされて使用される。
カバーフィルムは、一般的にベースフィルムやリジット基板などの基材に接着層を介して貼り合わされる。この接着層に使用される接着剤は上記のものを使用することができる。また、接着層は適宜省略されてもよく、その場合、カバーフィルムは、シランカップリング剤などの表面処理剤により表面処理された銅箔に接着されてもよく、また、接着層や表面処理剤を介さずに銅箔に直接接着されてもよい。
【0075】
銅箔は、一般的に基材上にパターニングされ部分的に設けられるが、基材の銅箔が設けられない部分において、カバーフィルムは基材に直接接着されてもよいし、接着層を介して基材に貼り合わされてもよい。
【0076】
<回路基板・電子機器>
本発明の実施形態の一例に係る回路基板は、上述した回路基板材料を備えたものである。
【0077】
回路基板は、高周波回路基板を含むものであり、用途の具体例としては、FPC(Flexible printed circuits)やFCCL(Flexible Cupper Clad Laminate)などを挙げることができる。
本発明では、上記の通り、本樹脂フィルムなどの成形体は、誘電特性などの各種性能がバランスよく良好になり、吸水性も低くなる。そのため、回路基板に必要とされる要求特性を満足し、回路基板に好適に用いられる。特に、本発明では、上記したFPCやFCCLなどに特に好適である。
【0078】
本発明の実施形態の一例に係る電子機器は、上述した回路基板を備えたものである。
当該電子機器としては、例えば携帯電話、スマートフォン(モバイルフォン)、電子手帳、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラなどの携帯電子機器、電子ペーパー、テレビ、DVDプレーヤー、各種オーディオ機器、カーナビゲーション装置、インストルメントパネルなどの車載用表示器、電卓、プリンター、スキャナー、複写機、冷蔵庫、洗濯機などを挙げることができる。
【0079】
<語句の説明>
本発明においては、「フィルム」とも称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」とも称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
【0080】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0081】
以下、本発明を実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は制限を受けるものではない。
なお、本明細書中に記載される樹脂フィルムについての種々の測定は次のようにして行った。
【0082】
(1)樹脂フィルム中の充填材のアスペクト比
充填材のアスペクト比(=長軸径/短軸径)は、得られたフィルム(サンプル)の幅方向の厚み断面を電子顕微鏡により観察し、充填材100個を抽出して各充填材の最大径を長軸径、最大径と直交方向を短軸径として測定してアスペクト比(=長軸径/短軸径)を算出し、アスペクト比が小さい粒子側からの累計頻度90%に相当する値を90%平均アスペクト比とした。
また、充填材が鱗片状を呈する場合、各充填材の径、すなわち長軸径を粒径とした際の粒径の平均値を、各充填材の厚みの平均値で割った値とした。
【0083】
(2)充填材の長軸方向及び短軸方向の長さ
充填材の長軸方向の長さ及び短軸方向の長さは、得られたフィルム(サンプル)の幅方向の厚み断面を電子顕微鏡により観察し、充填材100個を抽出して各充填材の最大径を長軸径として測定し、長軸径が小さい粒子側からの累計頻度90%に相当する値を長軸方向の90%平均の長さとした。
また、充填材の最大径と直交方向の径を短軸径として測定し、短軸径が小さい粒子側からの累計頻度90%に相当する値を短軸方向の90%平均の長さとした。
【0084】
(3)充填材単体の粒径
充填材の粒径は、レーザー回折式粒度分布計により100個を抽出して測定し、体積基準で解析して算出し、粒子径が小さい粒子側からの累計頻度90%に相当する値を90%平均粒径(粒径(D90))とした。
【0085】
(4)充填材の凝集
充填材の凝集は、得られたフィルム(サンプル)の幅方向の厚み断面を電子顕微鏡により観察し、250μm×250μm範囲で観察した際に、充填材5個以上からなる凝集体が10個以上存在した場合を凝集ありと判定した。
【0086】
(5)ガラス転移温度・融点
原料ペレットを、JIS K7121:2012に準拠して、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲25~380℃、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用い、再昇温過程において検出されたDSC曲線の変曲点からガラス転移温度を、ピークトップ温度から融点を求めた。
【0087】
(6)比誘電率
得られたフィルム(サンプル)について、JIS C2565:1992に準拠して、空洞共振器法を用いて、温度23℃、湿度50%RH、周波数10GHzの条件で測定した。
【0088】
(7)誘電正接
得られたフィルム(サンプル)について、JIS C2565:1992に準拠して、空洞共振器法を用いて、温度23℃、湿度50%RH、周波数10GHzの条件で測定した。
本実施例では、誘電正接が0.004未満を〇、0.004以上を×と評価した。
【0089】
(8)線膨張係数
得られたフィルム(サンプル)を4mm×10mmのサイズとし、熱機械分析(TMA)装置(日立ハイテクサイエンス社製、型式:TMA/SS7100)にて、1mNの荷重を加えながら一定の昇温速度(5℃/min)で30℃から150℃の温度範囲で、MD又はTDの方向に引張り試験を行い、温度に対するフィルムの伸び量から線膨張係数(CTE)を測定した。
本実施例では、MD/TDでの平均CTEが30ppm/℃未満を〇、30ppm以上で40ppm/℃未満を△、40ppm/℃を超えるものを×と評価した。
【0090】
(9)吸水率
得られたフィルム(サンプル)から、直径10cmの試験片(厚み50μm)を切り出し、測定試料として得た。JIS K7209:2000に準拠して、得られた測定試料を23℃で24時間、水に浸漬保持し、浸漬前後の質量変化から吸水率(%)を測定した。
【0091】
本発明の実施例及び比較例を作製するにあたり以下の材料を用いた。
【0092】
[熱可塑性樹脂(A)]
(A)-1:熱可塑性ポリイミド樹脂
商品名:サープリムTO-65S(三菱ガス化学株式会社製)
テトラカルボン酸成分:ピロメリット酸=100モル%
ジアミン成分:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン/オクタメチレンジアミン=60/40モル%
融点(DSC測定):322℃
ガラス転移温度(DSC法):180℃
比誘電率(10GHz):3.0
誘電正接(10GHz):0.0050
線膨張係数:60ppm/℃
吸水率:0.7%
【0093】
[充填材(B)]
(B)-1:フッ素金雲母
トピー工業製PDM-5L(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が14.9μm
【0094】
(B)-2:フッ素金雲母
トピー工業製PDM-9WA(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が42.5μm
【0095】
(B)-3:カリウム四ケイ素雲母
コープケミカル製 MK―100DS(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が5.2μm
【0096】
(B)-4:カリウム四ケイ素雲母
コープケミカル製MK―100(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が8.3μm
【0097】
(B)-5:カリウム四ケイ素雲母
コープケミカル製MK―300(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が27.5μm
【0098】
(B)-6:白雲母
レプコ製MX-F(偏平形状)
レーザー回折式粒度分布測定装置において、小粒径側からの累積個数90%のときの粒径(D90)が7.5μm
【0099】
(実施例1)
(A)-1、(B)-1を、表1に示す割合(質量部)で混合した混合組成物を、Tダイを備えたφ40mm同方向単軸押出機を用いて回転数30rpm、温度350℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで約180℃のキャスティングロールにて冷却し、厚み50μmの樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の充填材(B)-1の90%平均アスペクト比は15.7であり、90%平均長軸径は2.8μmであり、90%平均短軸径は0.23μmであった。樹脂フィルム中の(B)-1の凝集体は観察されなかった。
【0100】
(実施例2~3)
(A)-1、(B)-1の混合質量比を、表1に示す割合(質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
いずれの樹脂フィルム(サンプル)においても、樹脂フィルム中の充填材(B)-1の90%平均アスペクト比は15.7であり、90%平均長軸径は2.8μmであり、90%平均短軸径は0.23μmであった。いずれの樹脂フィルム中にも(B)-1の凝集体は観察されなかった。
【0101】
(実施例4)
(A)-1を東洋精機社製のプラストグラフミキサーに供給し、温度=340℃、回転数=40rpmで3分溶融混練した後、(B)-1を表1に示す混合比になるよう供給し、温度=340℃、回転数=40rpmで5分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を2枚の金属板間に挟み込み、温度=340℃、圧力=3MPa、成形時間=10秒の条件でプレス成形し、その後200℃以下まで水冷で徐冷することで、厚さ200μmにフィルム化して樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の充填材(B)-1の90%平均アスペクト比は13.4であり、90%平均長軸径は4.2μmであり、90%平均短軸径は0.39μmであった。樹脂フィルム中の(B)-1の凝集体は観察されなかった。
【0102】
(実施例5)
(B)-1の代わりに、(B)-2を使用した以外は、実施例4と同様の方法で、樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の充填材(B)-2の90%平均アスペクト比は12.9であり、90%平均長軸径は3.5μmであり、90%平均短軸径は0.33μmであった。樹脂フィルム中の(B)-2の凝集体は観察されなかった。
【0103】
(比較例1、2)
(B)-1の代わりに、それぞれ(B)-4、(B)-6を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の充填材(B)-4の90%平均アスペクト比は7.6であり、90%平均長軸径は2.3μmであり、90%平均短軸径は0.43μmであった。樹脂フィルム中の(B)-4の凝集体は観察されなかった。
樹脂フィルム中の充填材(B)-6の90%平均アスペクト比は4.3であり、90%平均長軸径は1.4μmであり、90%平均短軸径は0.39μmであった。樹脂フィルム中の(B)-7の凝集体は観察された。
【0104】
(比較例3,4)
(B)-1の代わりに、それぞれ(B)-3、(B)-5を使用した以外は、実施例4と同様の方法で、樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
樹脂フィルム中の充填材(B)-3の90%平均アスペクト比は8.3であり、90%平均長軸径は3.0μmであり、90%平均短軸径は0.59μmであった。樹脂フィルム中の(B)-3の凝集体は観察されなかった。
樹脂フィルム中の充填材(B)-5の90%平均アスペクト比は8.0であり、90%平均長軸径は6.3μmであり、90%平均短軸径は1.3μmであった。樹脂フィルム中の(B)-5の凝集体が観察された。
【0105】
(参考例)
(A)-1のみを使用し、実施例1と同様の方法で、樹脂フィルム(サンプル)を作製した。
【0106】
(評価結果)
各実施例及び比較例の組成及び評価結果を下記表1に示す。なお、表1中の吸水率の「-」は未測定である。
【0107】
【0108】
上記表1の実施例1~5の結果より、アスペクト比の高い(9以上)充填材が配合された樹脂フィルムは、いずれの成形条件でも低誘電正接化ならびに低線形膨張化を両立できることが示された。さらに吸水率も低く、フィルム内での充填材の凝集も観察されなかった。
【0109】
一方で、比較例1~4のようにアスペクト比の低い(9未満)充填材を用いた場合には、誘電正接の値が高かった。
実施例で用いたフッ素金雲母は溶融法により合成されており、水酸基が充填材の組成中には存在していない。一方で、比較例で用いたカリウム四ケイ素雲母はタルクを出発原料とした固相法により合成されており、充填材中にタルク由来の水酸基や不純物等が残存し、誘電正接が高くなった可能性が推察される。
また、比較例4では、使用した充填材単体の粒子径が大きく、充填材の凝集が生じた。充填材の粒子径が大きくなると、製膜性やフィルムの力学特性が悪化する傾向にあると推測される。