(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054066
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20240409BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240409BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20240409BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L1/08
C08L67/00
C08L33/00
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104659
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022160135
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍一朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌幸
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AA33X
4F071AA44
4F071AA44X
4F071AA86
4F071AA88
4F071AF15
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4F071AH07
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4F071BC01
4F071BC12
4F071BC15
4F071BC16
4J002AB021
4J002BG043
4J002BG053
4J002BG063
4J002BG073
4J002CF032
4J002CF182
4J002CF192
4J002GF00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムの提供。
【解決手段】セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物からなるフィルムであり、前記フィルムが、連続相及び分散相からなる海島構造を有し、前記分散相の平均アスペクト比が10以下である、フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)、及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物(X)からなるフィルムであり、
前記フィルムが、連続相及び分散相からなる海島構造を有し、前記分散相の平均アスペクト比が10以下である、フィルム。
【請求項2】
前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が10質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
フィルム表面の算術平均粗さRaが0.10μm以上3.00μm以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
フィルム表面の最大高さRzが0.5μm以上15.0μm以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
20°表面光沢度が0.1%以上70%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
60°表面光沢度が5%以上70%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
85°表面光沢度が5%以上90%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】
内部ヘーズが0.1%以上40.0%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物からなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品の表面上に積層して用いられるフィルムが知られている。特許文献1には、例えば液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルム等の光学フィルムとして利用できるセルロースエステルフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の内装材、外装材、自動車の内装材、外装材、携帯電話、又は電機製品等の物品の表面に積層される、装飾のための加飾フィルムや、保護のための表面保護フィルム等として、艶消し性を有する艶消しフィルムが用いられることがある。艶消しフィルムを用いると、高級感、深み感、落ち着き感等を付与することができる。艶消しフィルムには、艶消しフィルムの下の物品表面が視認できる視認性が求められることがある。
本発明は、艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)、及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物(X)からなるフィルムであり、前記フィルムが、連続相及び分散相からなる海島構造を有し、前記分散相の平均アスペクト比が10以下である、フィルム。
[2] 前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が10質量%以上60質量%以下である、[1]に記載のフィルム。
[3] 前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、[1]又は[2]に記載のフィルム。
[4] 前記樹脂組成物(X)の総質量に対して、前記アクリル重合体(C)の含有量が10質量%以上50質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のフィルム。
[5] フィルム表面の算術平均粗さRaが0.10μm以上3.00μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のフィルム。
[6] フィルム表面の最大高さRzが0.5μm以上15.0μm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のフィルム。
[7] 20°表面光沢度が0.1%以上70%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のフィルム。
[8] 60°表面光沢度が5%以上70%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のフィルム。
[9] 85°表面光沢度が5%以上90%以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のフィルム。
[10] 内部ヘーズが0.1%以上40.0%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のフィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、艶消し性を有するとともに、視認性に優れるフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、重合体の「構成単位」とは単量体1分子から形成される単位(原子団)を意味する。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0008】
≪樹脂組成物(X)≫
本実施形態のフィルムは、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物(X)からなる。
樹脂組成物(X)をフィルムに成形する際に成分の変性が生じる場合があるが、かかる成分変性を除くと、樹脂組成物(X)の組成とフィルムの組成は同じである。
【0009】
<セルロースエステル化合物(A)>
セルロースエステル化合物(A)としては、例えば、セルロースプロピオネート(CP)、セルロースブチレート(CB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートイソブチレート(CAIB)、セルロースプロピオネートブチレート(CPB)等が挙げられる。得られるフィルムの透明性の点から、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。セルロースエステル化合物(A)は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物(X)が、再生可能な有機資源由来の物質であるセルロースエステル化合物を含むと、環境負荷を低減できる。
【0010】
セルロースエステル化合物(A)のガラス転移温度(Tg)は、得られるフィルムの機械特性の点から120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。また、成形性の点から180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
セルロースエステル化合物(A)のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7244-4:1999に準拠する方法で、粘弾性スペクトロメーターを用いて、加熱速度3℃/分で昇温させたときの、損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度から求めることができる。
【0011】
<脂肪族ポリエステル(B)>
脂肪族ポリエステル(B)としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位を有する重合体(b-1)、脂肪族多価カルボン酸由来の構成単位と脂肪族多価アルコール由来の構成単位とを有する重合体(b-2)などが挙げられる。
【0012】
前記重合体(b-1)は、全構成単位に対して、脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位の割合が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%でもよい。
重合体(b-1)の具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ3-ヒドロキシ酪酸 、ポリ4-ヒドロキシ酪酸、ポリ4-ヒドロキシ吉草酸、ポリ3-ヒドロキシヘキサン酸及びポリカプロラクトンなどが挙げられる。
【0013】
前記重合体(b-2)は、全構成単位に対して、脂肪族多価カルボン酸由来の構成単位と脂肪族多価アルコール由来の構成単位の合計の割合が、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%でもよい。
重合体(b-2)の具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などが挙げられる。
【0014】
上記のうち、脂肪族ポリエステル(B)は、フィルムの柔軟性及び艶消し性の点から、ポリブチレンサクシネート系樹脂であることが好ましく、ポリブチレンサクシネート(PBS)又はポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)であることがより好ましく、中でも、ポリブチレンサクシネート(PBS)がさらに好ましい。
また脂肪族ポリエステル(B)は、再生可能な有機資源由来の物質を原料とするものが好ましい。
【0015】
<アクリル重合体(C)>
アクリル重合体(C)としては、下記重合体(Ca)及び下記重合体(Cb)を含むアクリル重合体(c-1)、下記重合体(Cd)単体からなるアクリル重合体(c-2)などが挙げられる。
【0016】
=アクリル重合体(c-1)=
アクリル重合体(c-1)は、後述する単量体成分を重合して得られた重合体(Ca)の存在下で、重合体(Cb)の単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。
また、アクリル重合体(c-1)は、コア層と、コア層を覆う少なくとも1層以上のシェル層とから構成される多層構造重合体であってもよい。アクリル重合体(c-1)が多層構造を有する場合は、最内層が重合体(Ca)で構成され、最外層は重合体(Cb)で構成されることが好ましい。
【0017】
アクリル重合体(c-1)は、さらに重合体(Cc)を含んでもよい。
アクリル重合体(c-1)が、重合体(Ca)、重合体(Cb)、及び重合体(Cc)を含む場合、アクリル重合体(c-1)は、重合体(Ca)の存在下に、重合体(Cc)の単量体成分を重合し、次いで重合体(Cb)の単量体成分を重合して得られる重合体であることが好ましい。
重合体(Ca)、重合体(Cb)、及び重合体(Cc)を含むアクリル重合体(c-1)が多層構造を有する場合、最内層は重合体(Ca)で構成され、最外層は重合体(Cb)で構成され、最外層と最内層との間に重合体(Cc)で構成される層が存在することが好ましい。
【0018】
[重合体(Ca)]
重合体(Ca)は、炭素数1~8のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MA1)由来の構成単位、及び二重結合を1分子内に2個以上有する単量体(MA2)由来の構成単位を含む。
【0019】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MA1)において、炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MA1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ホモポリマーにおけるTgが低いものが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル(MA1)の含有量は、重合体(Ca)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、99.9質量%以下が好ましく、99.7質量%以下がより好ましい。
【0021】
前記単量体(MA2)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(MA1)と共重合可能な二重結合を1分子内に2個以上有する単量体である。
単量体(MA2)の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体;α,β-不飽和カルボン酸若しくはジカルボン酸の、アリルエステル、メタリルエステル又はクロチルエステル;等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸若しくはフマル酸のアリルエステルが好ましく、中でも、アリルメタクリレートがさらに好ましい。
【0022】
前記単量体(MA2)の含有量は、柔軟性の点から、重合体(Ca)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。またフィルムの成形性の点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0023】
重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)は、フィルムの柔軟性の点から、25℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましく、0℃未満が特に好ましい。また、フィルムの成形性の点から、Tgは-100℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましい。
【0024】
重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)は、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いて、重合体(Ca)を構成する単量体からFOXの式を用いて計算できる。また、JIS K7244-4:1999に準拠する方法で、粘弾性スペクトロメーターを用いて、加熱速度3℃/分で昇温させたときの、損失正接(tanδ)のピークのピークトップ温度から求めることができる。
後述の重合体(Cb)、重合体(Cc)、重合体(Cd)のガラス転移温度も同様である。
【0025】
[重合体(Cb)]
重合体(Cb)は、炭素数1~4のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MB1)由来の構成単位を含む重合体(ただし、前記重合体(Ca)を除く)である。重合体(Cb)は、前記単量体(MA2)由来の構成単位を含まない。
【0026】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MB1)において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MB1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ホモポリマーにおけるTgの低いものが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル(MB1)の含有量は、重合体(Cb)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。100質量%でもよい。
【0028】
重合体(Cb)のガラス転移温度(Tg)は、重合体(Ca)と異なっていてもよく、重合体(Ca)のTgよりも高いことが好ましい。重合体(Cb)のTgは、フィルムの機械的特性の点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、フィルムの成形性の点から150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0029】
[重合体(Cc)]
重合体(Cc)は、炭素数1~8のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MC1)由来の構成単位、及び二重結合を1分子内に2個以上有する単量体(MC2)由来の構成単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(MC1)の好ましい態様は、前記重合体(Ca)で挙げた(MA1)と同様である。単量体(MC2)の好ましい態様は、前記重合体(Ca)で挙げた(MA2)と同様である。
なお、重合体(Cc)を構成する単量体の組成(種類及びその比率)と、重合体(Ca)を構成する単量体の組成(種類及びその比率)とは、同一でないことが好ましい。重合体(Cc)の単量体の組成と、重合体(Ca)の単量体の組成とが異なることで、フィルムの柔軟性を良好にすることが容易になる。
【0030】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MC1)の含有量は、重合体(Cc)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、99.9質量%以下が好ましく、99.7質量%以下がより好ましい。
【0031】
前記単量体(MC2)の含有量は、柔軟性の点から、重合体(Cc)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。またフィルムの成形性の点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0032】
重合体(Cc)のガラス転移温度(Tg)は、フィルムの柔軟性の点から、重合体(Ca)のTgより高いことが好ましい。具体的には、柔軟性の点から、0℃以上が好ましく、0℃超がより好ましく、10℃超がさらに好ましい。また、成形性の点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
例えば、重合体(Cc)のガラス転移温度(Tg)が、重合体(Ca)のガラス転移温度(Tg)より高く、その差の絶対値が10~80℃であることが好ましく、20~70℃であることがより好ましい。両者の差の絶対値が上記範囲の下限値以上であるとフィルムの柔軟性を良好にすることが容易になり、上限値以下であるとフィルムの成形性が良好となる。
【0033】
アクリル重合体(c-1)の総質量に対して、前記重合体(Ca)の含有量は、柔軟性、透明性及び加工性の点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
アクリル重合体(c-1)の総質量に対して、前記重合体(Cb)の含有量は、柔軟性、透明性及び加工性の点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がよりさらに好ましい。
また、アクリル重合体(c-1)が重合体(Cc)を含む場合、アクリル重合体(c-1)の総質量に対して、前記重合体(Cc)の含有量は、柔軟性の点から、1質量%以上35質量%以下が好ましい。
なお、アクリル重合体(c-1)の総質量に対して、前記重合体(Ca)の含有量と、前記重合体(Cb)の含有量と、前記重合体(Cc)の含有量の合計は100質量%を超えない。100質量%でもよい。
【0034】
=アクリル重合体(c-2)=
アクリル重合体(c-2)は重合体(Cd)である。アクリル重合体(c-2)は重合体(Cd)以外のアクリル重合体を含まない。
【0035】
[重合体(Cd)]
重合体(Cd)は、炭素数1~18のアルキル基を有し、二重結合を1分子内に1個有する(メタ)アクリル酸エステル(MD1)由来の構成単位を含む重合体である。
【0036】
前記(メタ)アクリル酸エステル(MD1)において、炭素数1~18のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MD1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソイコシル(メタ)アクリレート等の分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ホモポリマーにおけるTgの低いものが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、メチルメタクリレートが特に好ましい。
【0037】
重合体(Cd)は、(メタ)アクリル酸エステル(MD1)と共重合可能な他の単量体由来の構成単位を含んでもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(MD1)の含有量は、重合体(Cd)を構成する単量体の合計量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。100質量%でもよい。
【0038】
重合体(Cd)のガラス転移温度(Tg)は、フィルムの機械特性の点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、フィルムのガス透過性の点から150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0039】
アクリル重合体(C)の好ましい態様として、以下の態様1、2、3が挙げられる。
[態様1]アクリル重合体(C)が重合体(Ca)及び重合体(Cb)を含み、アクリル重合体(C)の総質量に対して、
前記重合体(Ca)の含有量が5~60質量%、好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~55質量%であり、
前記重合体(Cb)の含有量が40~95質量%、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~80質量%である態様。
本態様において、アクリル重合体(C)の総質量に対して、重合体(Ca)と重合体(Cb)の合計は60~100質量%が好ましく、65~100質量%がより好ましく、70~100質量%がさらに好ましい。
【0040】
[態様2]アクリル重合体(C)が、重合体(Ca)、重合体(Cb)、及び重合体(Cc)を含み、アクリル重合体(C)の総質量に対して、
前記重合体(Ca)の含有量が5~59質量%、好ましくは10~55質量%、より好ましくは20~55質量%であり、
前記重合体(Cb)の含有量が40~94質量%、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~80質量%であり、
前記重合体(Cc)の含有量が1~35質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~25質量%である態様。
本態様において、アクリル重合体(C)の総質量に対して、重合体(Ca)と重合体(Cb)と重合体(Cc)の合計は60~100質量%が好ましく、65~100質量%がより好ましく、70~100質量%がさらに好ましい。
【0041】
[態様3]アクリル重合体(C)が重合体(Cd)を含み、アクリル重合体(C)の総質量に対して、
前記重合体(Cd)の含有量が60~100質量%、好ましくは65~99.5質量%、より好ましくは70~99質量%である態様。
本態様において、アクリル重合体(C)は、アクリル重合体(Cd)以外の他のアクリル重合体を含んでもよい。他のアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する重合体であればよく、特に限定されない。他のアクリル重合体が前記アクリル重合体(c-1)を含んでもよい。
【0042】
[アクリル重合体(C)の製造方法]
アクリル重合体(C)の製造方法としては、例えば、逐次多段乳化重合法、乳化懸濁重合法、懸濁重合法等が挙げられる。
アクリル重合体(c-1)を逐次多段乳化重合法で製造する方法としては、例えば、重合体(Ca)を得るための単量体成分、水及び界面活性剤を混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合した後に、必要に応じて重合体(Cc)の原料となる単量体成分を反応器に供給して重合した後に、重合体(Cb)の原料となる単量体成分を反応器に供給して重合する方法が挙げられる。
また、アクリル重合体(c-1)を乳化懸濁重合法で製造する方法としては、例えば、重合体(Ca)の存在下に、必要に応じて重合体(Cc)の原料となる単量体成分を逐次多段乳化重合させた後に、重合体(Cb)の原料となる単量体成分の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法が挙げられる。
上記逐次多段乳化重合法又は乳化懸濁重合法で得られたアクリル重合体(c-1)を用いて得られるフィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性の点で好ましい。
また、アクリル重合体(c-2)を製造する方法としては、例えば、重合体(Cd)を得るための単量体成分を、公知の方法で懸濁重合する方法が挙げられる。
【0043】
アクリル重合体(C)の平均粒子径は、得られるフィルムの機械特性、透明性の点から、0.03μm以上が好ましく、0.07μm以上がより好ましく、0.09μm以上が特に好ましい。また、0.3μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましく、0.13μm以下が特に好ましい。
なお、前記平均粒子径は光散乱光度計を用い、動的光散乱法により測定したキュムラント解析による測定値である。
【0044】
アクリル重合体(C)のアセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)は、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。また、15万以下が好ましく、10万以下がより好ましい。Mwが2万以上であると、得られるフィルムの機械強度が向上し、成形時のクラックを抑制できる。また、Mwが15万以下であると、得られるフィルムは成形性に優れる。
【0045】
なお、前記質量平均分子量(Mw)は、アクリル重合体(C)中のアセトン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により以下の方法で測定した測定値である。
(1)アクリル重合体1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流させてアセトン可溶分を抽出する。
(2)得られた抽出液を、CRG SERIES((株)日立製作所製)を用いて、4℃において、14000rpm、30分間遠心分離を行う。
(3)アセトン不溶分をデカンテーションで取り除き、真空乾燥機にて50℃で、24時間乾燥させて得られたアセトン可溶分について、以下の条件でGPC測定を行い、標準ポリスチレンによる検量線から質量平均分子量を求める。
装置:東ソー(株)製「HLC8220」
カラム:東ソー(株)製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」
(内径4.6mm×長さ15cm×2本、排除限界4×107(推定))
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
測定温度:40℃
試料注入量:10μL(試料濃度0.1%)
【0046】
アクリル重合体(C)の、200℃における溶融粘度は10,000Pa・s以上が好ましく、12,000Pa・s以上がより好ましく、15,000Pa・s以上がさらに好ましい。また、30,000Pa・s以下が好ましく、27,000Pa・s以下がより好ましく、25,000Pa・s以下がさらに好ましい。
アクリル重合体(C)の溶融粘度が上記下限値以上であると、フィルム表面に微細な凹凸が発現しやすく、きめの細かい艶消し性が得られやすい。上記上限値以下であると、アクリル重合体(C)と、セルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)との界面剥離が起こりにくく、フィルムの柔軟性及び加工性に優れる。
アクリル重合体(C)が多層構造を有する場合、アクリル重合体(C)の溶融粘度は、コア層とシェル層の比率やシェル層の質量平均分子量(Mw)などによって調整できる。例えば、シェル層の比率を低くすることやシェル層の質量平均分子量(Mw)を高くすることにより、アクリル重合体(C)の溶融粘度が高まる傾向がある。
【0047】
樹脂組成物(X)において、アクリル重合体(C)の溶融粘度は、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)との混合物の溶融粘度より高いことが好ましい。アクリル重合体(C)と、前記混合物との、200℃における溶融粘度の差の絶対値(以下「溶融粘度差」ともいう。)は、4000Pa・s以上が好ましく、6000Pa・s以上がより好ましく、8000Pa・s以上がさらに好ましい。また、30,000Pa・s以下が好ましく、25,000Pa・s以下がより好ましく、20,000Pa・s以下がさらに好ましい。
前記溶融粘度差が上記下限値以上であると、フィルム表面に微細な凹凸が発現しやすく、きめの細かい艶消し性が得られやすい。一方、前記溶融粘度差が上記上限値以下であると、アクリル重合体(C)と、セルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)との界面剥離が起こりにくく、フィルム柔軟性及び加工性に優れる。
【0048】
樹脂組成物(X)の、200℃における溶融粘度は100~9000Pa・sが好ましく、300~7000Pa・sより好ましく、500~5000Pa・sがさらに好ましい。樹脂組成物(X)の溶融粘度が上記下限値以上であると加工性に優れ、上記上限値以下であるとフィルムの柔軟性に優れる。
【0049】
<任意成分>
樹脂組成物(X)は、必要に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、艶消し剤、加工助剤、耐衝撃助剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、着色剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体が挙げられる。また、樹脂組成物(X)は、再生可能な有機資源由来の物質として、デンプンなどの多糖類を配合してもよい。
【0050】
酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤を用いることができる。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系、硫黄系、ヒドラジン系等の熱安定剤を用いることができる。可塑剤としては、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、オキシ安息香酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系等の可塑剤を用いることができる。滑剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、金属石鹸系、脂肪酸アミド系、高級アルコール系、パラフィン系等の滑剤を用いることができる。
【0051】
帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性イオン系等の帯電防止剤を用いることができる。難燃剤としては、臭素系、リン系、塩素系、窒素系、アルミニウム系、アンチモン系、マグネシウム系、ホウ素系、ジルコニウム系等の難燃剤を用いることができる。充填剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、滑石、蝋石、カオリン等を用いることができる。
【0052】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤を用いることができる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系等の光安定剤を用いることができる。封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物等、ポリマーのカルボキシル末端の封鎖剤として使用されているものを用いることができる。相溶化剤としては、高分子型相溶化剤、低分子の有機化合物、無機化合物、有機無機複合体等を用いることができる。これらの配合剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<含有量>
樹脂組成物(X)の総質量に対して、アクリル重合体(C)の含有量は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が特に好ましい。前記アクリル重合体(C)の含有量が上記範囲内であると、フィルムを成形したときに後述する海島構造が得られやすく、良好な艶消し性及び機械特性が得られやすい。
【0054】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。また、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が特に好ましい。前記セルロースエステル化合物(A)の含有量が上記範囲内であると、得られるフィルムにおいて良好な艶消し性及び視認性が得られやすい。
【0055】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、脂肪族ポリエステル(B)の含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が上記範囲内であると、良好な艶消し性及び柔軟性が得られやすい。
【0056】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の合計の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が特に好ましい。また、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下が特に好ましい。
【0057】
樹脂組成物(X)の総質量に対して、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)とアクリル重合体(C)の合計の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。100質量%でもよい。
【0058】
樹脂組成物(X)において、セルロースエステル化合物(A)の含有量を100質量部とするとき、脂肪族ポリエステル(B)の含有量は20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上がよりさらに好ましく、45質量部以上が特に好ましい。また、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下が特に好ましい。前記脂肪族ポリエステル(B)の含有量が上記下限値以上であると視認性が良好となり、上限値以下であるとフィルムの成形性が良好となる。
【0059】
樹脂組成物(X)において、セルロースエステル化合物(A)の含有量を100質量部とするとき、アクリル重合体(C)の含有量は10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上が特に好ましい。また、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、100質量部以下が特に好ましい。前記アクリル重合体(C)の含有量が上記下限値以上であると良好な艶消し性が得られやすく、上限値以下であると良好な機械特性が得られやすい。
【0060】
≪フィルムの製造方法≫
本実施形態のフィルムは、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)を含む樹脂組成物(X)をフィルム状に成形(製膜)して得られる。フィルムの製造方法の一例を示す。
例えば、樹脂組成物(X)を、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法;又はカレンダー法等の公知の方法でフィルム状に成形できる。これらの中では、経済性が良好である点でTダイ法が好ましい。また、必要に応じて製膜工程中に、公知の延伸方法による一軸延伸(機械方向又は横方向(機械方向に垂直な方向))、二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸)等の延伸工程を設けることができる。
また、フィルム表面に、熱転写法、エッチング法等の公知の方法で種々の構造を賦形してもよい。
【0061】
≪フィルム≫
本実施形態のフィルムは、連続相及び分散相からなる海島構造を有し、前記分散相の平均アスペクト比が10以下である。海島構造における連続相(海部)がセルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)を含み、分散相(島部)がアクリル重合体(C)を含むことが好ましい。
分散相の平均アスペクト比が10以下であると艶消し性に優れる。前記平均アスペクト比は1.0~10.0が好ましく、1.5~7.0がより好ましい。
【0062】
本明細書において、分散相の平均アスペクト比は、以下の方法で得られる値である。
フィルムの表面に対して垂直な断面(MD方向及びTD方向のいずれであってもよい。)を走査型電子顕微鏡により観察し、厚み方向においてフィルムの表面から20%以内の範囲で任意に10個の分散相を選択し、各分散相の長径、短径を測定する。このとき、各分散相の周上の2点を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さを長径として測定する。また、長径に垂直な線分であって、分散相の周上の2点を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さを短径として測定する。前記10個の分散相における、長径の平均値(平均長径)及び短径の平均値(平均短径)を求め、平均短径に対する平均長径の比(平均長径/平均短径)を算出し、分散相の平均アスペクト比とする。
【0063】
分散相の平均アスペクト比は、樹脂組成物(X)をフィルム状に成形する際の、分散相と連続相との流動性の差、及び分散相と連続相との含有比率の、一方又は両方によって調整できる。連続相及び分散相の流動性は、各相を構成する成分の溶融粘度が目安となる。
例えば、連続相と分散相との含有比率が一定である場合、分散相と連続相との流動性の差が大きいほど前記平均アスペクト比の値が小さくなる傾向がある。また前記流動性の差が一定である場合、分散相の含有比率が大きいほど前記平均アスペクト比の値が大きくなる傾向がある。
【0064】
本実施形態のフィルムの厚みは、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。また、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。厚みが上記範囲内であると、成形に適した剛性が得られ、外観意匠性をより十分に付与することができる。
【0065】
本実施形態のフィルムの表面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上が好ましく、0.20μm以上がより好ましい。また、3.00μm以下が好ましく、2.00μm以下がより好ましく、1.00μm以下がさらに好ましく、0.50μm以下がよりさらに好ましい。
Raが上記下限値以上であるとギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れる。Raが上記上限値以下であると、艶消しのきめが細かく、外観意匠性に優れる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B0601:2001に準拠する方法で測定した値である。
【0066】
本実施形態のフィルムの表面の最大高さRzは、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。また、15.0μm以下が好ましく、13.0μm以下がより好ましく、11.0μm以下がさらに好ましい。
Rzが上記下限値以上であるとギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れる。Rzが上記上限値以下であると、艶消しのきめが細かく、外観意匠性に優れる。
なお、最大高さRzは、JIS B0601:2001に準拠する方法で測定した値である。
【0067】
本実施形態のフィルムは、特に、前記Raと前記Rzを同時に満足することにより、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れるフィルムとなる。
【0068】
本実施形態のフィルムの全光線透過率は80%以上が好ましく、83%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。また、100%以下が好ましく、99%以下がより好ましく、98%以下がさらに好ましい。
全光線透過率が上記範囲内であると、視認性が良好となる。
なお、全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠する方法で測定した値である。
【0069】
フィルムの高級感や深み感等の意匠性は、表面光沢度及びヘーズ(曇値)が指標となる。
一般に、表面光沢度は低いことが好ましい。具体的には、フィルムの20°表面光沢度は、0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。また、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。フィルムの60°表面光沢度は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。また、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。フィルムの85°表面光沢度は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。また、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、60%以下がよりさらに好ましい。
特に、20°、60°、及び85°表面光沢度が上記範囲内であると、ギラツキ感が低く、高級感や深み感等の意匠性や加飾性に優れるフィルムとなる。
なお、前記20°、60°、及び85°表面光沢度は、JIS Z8741:1997に準拠する方法で測定した値である。
【0070】
本実施形態のフィルムの全ヘーズは90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましい。また、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。全ヘーズが上記範囲内であると、艶消し性及び視認性が良好となる。
本実施形態のフィルムの内部ヘーズは40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。また、1.0%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましく、3.0%以上がさらに好ましい。内部ヘーズが上記範囲内であると視認性に優れる。
本実施形態のフィルムの外部ヘーズは10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。外部ヘーズが上記下限値以上であると良好な艶消し性が得られる。外部ヘーズが上記上限値以下であると視認性が良好となる。
なお、全ヘーズ、内部ヘーズはJIS K7136:2000に準拠する方法で測定した値である。内部ヘーズは試験片をエタノールに浸漬して測定した値である。外部ヘーズは、全ヘーズと内部ヘーズの差である。
【0071】
また本実施形態のフィルムは、引張弾性率が0.1GPa以上であることが好ましい。引張弾性率は、0.3GPa以上がより好ましく、0.4GPa以上が特に好ましい。上記下限値以上であると、フィルムの成形性に優れる。また、柔軟性の点から、3.0GPa以下が好ましく、2.0GPa以下がより好ましく、1.5GPa以下が特に好ましい。
【0072】
また本実施形態のフィルムは、引張破断伸度が60%以上であることが好ましい。引張破断伸度は、80%以上がより好ましく、100%以上が特に好ましい。破断伸度が上記下限値以上であると、各種成形加工の際に、破断や割れの発生を抑制することができる。また、成形加工性の点から、600%以下が好ましく、500%以下がより好ましい。
なお前記引張弾性率及び引張破断伸度を測定するための引張試験は、JIS K7127:1999に準拠する方法で、初期のチャック間距離100mm、引張速度50mm/min、温度23℃の条件で行う。
【0073】
本実施形態のフィルムは、23℃におけるパンクチャー衝撃が0.1J以上が好ましく、0.5J以上がより好ましく、1.0J以上がさらに好ましい。また、10.0J以下が好ましく、8.0J以下がより好ましく、5.0J以下がさらに好ましい。
また、-20℃におけるパンクチャー衝撃が0.1J以上が好ましく、0.3J以上がより好ましく、0.5J以上がさらに好ましい。また、10.0J以下が好ましく、8.0J以下がより好ましく、5.0J以下がさらに好ましい。
23℃におけるパンクチャー衝撃が上記下限値以上であるとフィルムの成形性が良好となる。23℃におけるパンクチャー衝撃が上記上限値以下であると良好な柔軟性が得られやすい。
-20℃におけるパンクチャー衝撃が上記下限値以上であるとフィルムの成形性が良好となる。-20℃におけるパンクチャー衝撃が上記上限値以下であると良好な柔軟性が得られやすい。
なお、パンクチャー衝撃は、JIS K7124-2:1999に準拠する方法で測定した値である。
【0074】
本実施形態のフィルムによれば、良好な艶消し外観と視認性が得られる。
良好な艶消し性が得られる理由は明確ではないが、例えば、以下の理由が考えられる。
樹脂組成物(X)をフィルム状に成形する工程において、樹脂組成物(X)がダイ等の内部でせん断力を受けたときに、樹脂組成物(X)中の分散相が引きのばされ、弾性エネルギーが蓄積される。その後、樹脂組成物(X)がダイ等から吐出されたときに、分散相が適度な流動性を有していると、弾性エネルギーの解放によって分散相がもとの形状に戻ろうとする力が働く。このとき、連続相より分散相の弾性率が高いと、その弾性率差によってフィルム表面が収縮し、微細な凹凸が発現すると考えられる。特に、フィルムにおける分散相の平均アスペクト比が10以下であると、フィルム表面に微細な凹凸が形成され、良好な艶消し性が発現し、意匠性がより向上すると考えられる。また、分散相より連続相の方が流動性が高く両者の流動性の差が大きいほどフィルム表面がより荒れやすく、より高い艶消し性が発現すると考えられる。
このような、分散相と連続相との弾性率差によって微細な凹凸が発現しやすい点で、本実施形態のフィルムが海島構造を有し、分散相がアクリル重合体(C)を含み、連続相がセルロースエステル化合物(A)及び脂肪族ポリエステル(B)を含むことが好ましい。
なお、フィルム状に成形する際の流動性は、成形温度付近における溶融粘度が目安となる。溶融粘度が低いほど流動性が高くなる。
【0075】
また、良好な視認性が得られる理由は明確ではないが、例えば、以下の理由が考えられる。
脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)に対して、セルロースエステル化合物(A)を添加することで、脂肪族ポリエステル(B)の結晶化を抑えることができ、内部ヘーズを低減でき、視認性が向上すると考えられる。
【0076】
<用途>
本実施形態のフィルムは、良好な艶消し外観と視認性を有し、各種物品の表面上に積層して用いられるフィルムとして好適である。
例えば、建築物の内装材、外装材、自動車の内装材、外装材、各種物品(携帯電話、電機製品等)の加飾フィルム又は表面保護フィルム等として使用できる。
特に、透明性に優れるとともに、表面光沢度が低いフィルムは、艶消し性を有する艶消しフィルムとして好適である。物品の最外層として艶消しフィルムを用いると、高級感、深み感、落ち着き感等を付与することができる。
本実施形態のフィルムは、物品の最外層を構成するフィルムとして好適である。
【実施例0077】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、含有量の単位である「部」は、特に断りのない限り「質量部」を表す。
【0078】
[評価方法・測定方法]
<全光線透過率>
全光線透過率はJIS K7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製)商品名:NDH5000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件でフィルムの全光線透過率を測定した。
【0079】
<全ヘーズ、内部ヘーズ、及び外部ヘーズ>
JIS K7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製)商品名:NDH5000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件でフィルムの全ヘーズを測定した。全ヘーズ測定後の試験片を、エタノール(純度99.5質量%)を入れたセルの中に浸け、内部ヘーズを測定した。外部ヘーズは、全ヘーズと内部ヘーズの差より算出した。
【0080】
<表面光沢度>
JIS Z8741:1997に準拠し、ポータブル光沢計(コニカミノルタ(株)製、商品名:GM-268Plus)を用い、フィルムの表面光沢度を測定した。測定角度(入射角)は20°、60°、85°とした。
【0081】
<算術平均粗さRa>
表面粗さ測定機((株)東京精密製、商品名:SURFCOM 1400D)を用い、JIS B0601:2001に準拠し、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で、フィルムの算術平均粗さRaを測定した。
【0082】
<最大高さRz>
表面粗さ測定機((株)東京精密製、商品名:SURFCOM 1400D)を用い、JIS B0601:2001に準拠し、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で、フィルムの最大高さRzを測定した。
【0083】
<引張破断伸度、引張弾性率>
島津製作所(株)型式:AGS-X 精密万能試験機(オートグラフ)を用い、JIS K7127:1999に準拠し、引張破断伸度及び引張弾性率を測定した。厚さ100μmのフィルムを流れ方向(MD)に150mm、幅方向(TD)に15mmの大きさに切断して試験片とした。初期のチャック間距離100mm、引張速度50mm/min、雰囲気温度23℃におけるフィルム(MD)の引張破断伸度及び引張弾性率を測定し、5回の測定値の平均値を記録した。
【0084】
<パンクチャー衝撃試験>
JIS K7124-2:1999に準拠し、高速パンクチャー衝撃試験機ハイドロショットHITS-P10(島津製作所社製)を用いて、23℃、及び、-20℃の温度環境下で、打ち抜き径0.5インチ、試験速度3m/cの条件で、破壊までのエネルギー(単位:J)を測定し、5回の測定値の平均値を記録した。
【0085】
<平均アスペクト比>
フィルムの表面に対して垂直な断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製 RegulusSU8220、倍率5000~50000倍)により観察し、厚み方向においてフィルムの表面から20%以内の範囲で任意に10個の分散相を選択し、各分散相の長径、短径を測定した。さらに、測定した長径と短径の比からアスペクト比を算出した。なお、これら10個の平均値として平均長径、平均短径を求めた。平均長径/平均短径を算出し平均アスペクト比とした。
【0086】
<溶融粘度>
JIS K7244:2007を参考に、レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名MARS)を用いて、歪み0.5%、周波数1Hz、温度240℃より降温速度3.0℃/分にて温度分散測定を行い、200℃における溶融粘度を測定した。
【0087】
<原料>
表1における略称は以下の原料を示す。
MMA:メチルメタクリレート
n-BA:n-ブチルアクリレート
AMA:アリルメタクレート
1,3-BD:1,3-ブチレングリコールジメタクリレート
MA:メチルアクリレート
RS610NA:モノn-ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム(フォスファノールRS-610NA:東邦化学(株)製)
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
t-BH:t-ブチルハイドロパーオキサイド
n-OM:n-オクチルメルカプタン
【0088】
表2~4における略称は以下の原料を示す。
セルロースエステル(A1):セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ガラス転移温度158℃
脂肪族ポリエステル(B1):ポリブチレンサクシネート(PBS)
脂肪族ポリエステル(B2):ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)
アクリル重合体(C1):下記製造例1で合成したアクリルゴム
アクリル重合体(C2):下記製造例2で合成したアクリルゴム
アクリル重合体(C3):下記製造例3で合成したアクリル重合体
【0089】
(製造例1:アクリル重合体(C1)の製造)
原料の配合(単位:質量部)を表1に示す。
攪拌機及び冷却器を備えた容器にイオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n-BA4.5部、1,3-BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体成分(Ca1-1)を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤としてRS610NA1.1部を攪拌しながら上記容器に投入し、20分間攪拌を継続し、単量体成分(Ca1-1)を含有する乳化液を調製した。
次に、冷却器付き反応容器内にイオン交換水186.5部を投入し、これを70℃に昇温し、更に、イオン交換水5部にSFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、単量体成分(Ca1-1)を含有する乳化液を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて、単量体成分(Ca1-1)からなる重合体を得た。
続いて、前記容器内に、MMA1.5部、n-BA22.5部、1,3-BD1.0部、AMA0.25部、CHP0.016部からなる単量体成分(Ca1-2)を90分間かけて添加した後、60分間反応を継続させて重合体(Ca1)を得た。重合体(Ca1)のTgは-47℃であった。
続いて、MMA6.0部、n-BA4.0部、AMA0.075部、及びCHP0.013部からなる単量体成分(Cc1-1)を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体を形成させた。ここで、単量体成分(Cc1-1)から構成される重合体(Cc1)のTgは20℃であった。
次いで、MMA55.2部、n-BA4.8部、n-OM0.22部、及びt-BH0.075部からなる単量体成分(Cb1-1)を140分間かけて前記反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させてアクリル重合体(C1)のラテックスを得た。ここで、単量体成分(Cb1-1)から構成される重合体(Cb1)のTgは84℃であった。
得られたアクリル重合体(C1)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリル重合体(C1)を得た。
アクリル重合体(C1)の平均粒子径は0.12μm、Mwは59,000、200℃における溶融粘度は16,000Pa・sであった。
【0090】
(製造例2:アクリル重合体(C2)の製造)
原料の配合(単位:質量部)を表1に示す。
攪拌機及び冷却器を備えた容器にイオン交換水195部を仕込んだ後、MMA0.3部、n-BA4.5部、1,3-BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体成分(Ca2-1)を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤としてRS610NA1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、20分間攪拌を継続し、単量体成分(Ca2-1)を含有する乳化液を調製した。
次に、上記乳化液を75℃に昇温し、更に、イオン交換水5部にSFS0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。温度上昇ピークを確認した後、15分間反応を継続させて、単量体成分(Ca2-1)からなる重合体を得た。
続いて、前記容器内に、MMA9.6部、n-BA14.4部、1,3-BD1.0部、AMA0.25部、CHP0.016部からなる単量体成分(Ca2-2)を90分間かけて添加した後、60分間反応を継続させて重合体(Ca2)を得た。重合体(Ca2)のTgは-10℃であった。
続いて、MMA6.0部、MA4.0部、AMA0.075部、及びCHP0.013部からなる単量体成分(Cc2-1)を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体を形成させた。ここで、単量体成分(Cc2-1)から 構成される重合体(Cc2)のTgは60℃であった。
次いで、MMA57.0部、MA3.0部、n-OM0.264部及びt-BH0.075部からなる単量体成分(Cb2-1)を140分間かけて前記反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させてアクリル重合体(C2)のラテックスを得た。ここで、単量体成分(Cb2-1)から構成される重合体(Cb2)のTgは99℃であった。
得られたアクリル重合体(C2)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のアクリル重合体(C2)を得た。
アクリル重合体(C2)の平均粒子径は0.11μm、Mwは58,000、200℃における溶融粘度は20,500Pa・sであった。
【0091】
(製造例3:アクリル重合体(C3)の製造)
MMA99部およびMA1部を公知の懸濁重合法により重合した後、押出賦形することでペレット状のアクリル重合体(C3)を得た。
アクリル重合体(C3)のTgは115℃、Mwは100,000、200℃における溶融粘度は20,600Pa・sであった。
【0092】
【0093】
<実施例1~9、比較例1~6>
表2~4に示す組成(単位:質量%)となるように、セルロースエステル化合物(A)、脂肪族ポリエステル(B)及びアクリル重合体(C)をドライブレンドした。次いで、口径25mmの同方向二軸押出機を用いて220℃で混練し、樹脂組成物(X)をTダイより押出した。次いで、約80℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み100μmのフィルムを作製した。
表2~4に、樹脂組成物(X)の200℃における溶融粘度を示す。
得られたフィルムの各種特性の評価結果を表2~4に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表2~4の結果に示されるように、実施例1~9のフィルムは、内部ヘーズが低くて視認性に優れるとともに、表面光沢度が低く艶消し性が良好であった。
実施例1~9のフィルムは海島構造を有し、アクリル重合体(C)が分散相(海島の島部)を形成し、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の混合物が連続相(海島の海部)を形成していると考えられる。
実施例1~9のフィルムにおけるアクリル重合体(C)は、セルロースエステル化合物(A)と脂肪族ポリエステル(B)の混合物よりも200℃における溶融粘度が8000Pa・s以上高いため、分散相の平均アスペクト比が適切となり、微細な凹凸が形成されて艶消し性が良好になったと考えられる。
【0098】
脂肪族ポリエステル(B)がPBSAである実施例6のフィルムは、PBSである実施例1のフィルムに比べて、より表面光沢度が低くなり、艶消し性がより向上した。実施例6では、実施例1より連続相の流動性が上がり、分散相との流動性差が大きくなることで、より表面粗さが大きくなったと考えられる。
一方、脂肪族ポリエステル(B)がPBSである実施例1のフィルムは、PBSAである実施例6のフィルム、又はPBSAとPBSを併用した実施例9のフィルムと比べて引張破断伸度が高かった。PBSは、PBSAよりもセルロースエステル(A1)との相溶性が高いと考えられる。
【0099】
アクリル重合体(C)がアクリル重合体(C2)である実施例7と比べて、アクリル重合体(C1)である実施例1の方がより表面光沢度が低くなり、艶消し性がより向上した。アクリル重合体(C1)の方が、アクリル重合体(C2)より流動性が高いため、分散相と連続相との流動性差がより適切になり、より表面粗さが大きくなったと考えられる。
アクリル重合体(C)がアクリル重合体(C3)である実施例8と比べて、アクリル重合体(C1)である実施例1の方が引張破断伸度やパンクチャー衝撃が高かった。アクリル重合体(C1)が多層構造を有することで靭性が高くなったと考えられる。
【0100】
比較例1~4のフィルムは、SEM画像において分散相が確認できなかった。すなわち海島構造が確認できなかった。比較例2のフィルムは結晶化により白化していたため内部ヘーズ及び外部ヘーズは測定しなかった。
アクリル重合体(C)を含有しない比較例1、2は、フィルム表面に凹凸が十分に発現せず、表面光沢度が高く、艶消し性が不十分であった。艶消し性が不十分であると高級感に劣る。
アクリル重合体(C)単体のフィルムである比較例3も、フィルム表面に凹凸が十分に発現せず、表面光沢度が高く、艶消し性が劣った。
セルロースエステル化合物(A)を含有しない比較例4は、フィルムの内部ヘーズが高く視認性が劣った。フィルム中の脂肪族ポリエステル(B)が結晶化したと考えられる。
脂肪族ポリエステル(B)を含有しない比較例5は、表面光沢度が高く艶消し性が劣った。比較例5においては、セルロースエステル化合物(A)とアクリル重合体(C)とが微分散又は部分相溶した結果、適度な大きさの分散相が形成されなかったと考えられる。
分散相の平均アスペクト比が大きい比較例6は、表面に微細な凹凸が形成されず、表面光沢度が高くなり艶消し性が劣った。