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特開2024-54094地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤、植物の糸状菌起因病害抑制方法、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、及び、植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法
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  • 特開-地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤、植物の糸状菌起因病害抑制方法、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、及び、植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054094
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤、植物の糸状菌起因病害抑制方法、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、及び、植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20240409BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172131
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022160003
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】390006596
【氏名又は名称】住友化学園芸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 重信
(72)【発明者】
【氏名】山内 智史
(72)【発明者】
【氏名】勝本 俊行
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 穂高
(72)【発明者】
【氏名】市川 直美
(72)【発明者】
【氏名】勝間 史乃
(72)【発明者】
【氏名】吉永 勝
(72)【発明者】
【氏名】森川 憂乃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 つかさ
(72)【発明者】
【氏名】安西 正人
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB06
(57)【要約】
【課題】 安全性が高く、薬害が少なく、散布等の処理がしやすい、優れた植物病害抑制効果又は植物の病害を抑制する関連遺伝子発現効果を示す、病害抑制剤又はシグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 酢酸を有効成分として含有する地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、又は、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
【請求項2】
前記糸状菌起因病害が、うどんこ病である、請求項1に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
【請求項3】
前記植物が、バラ又はキュウリである、請求項1又は2に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
【請求項4】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、請求項1又は2に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の糸状菌起因病害抑制方法。
【請求項6】
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項7】
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1、P4又はPR3である、請求項6に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項8】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、請求項6又は7に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項9】
前記植物がトマトである、請求項6又は7に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項10】
請求項6に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法。
【請求項11】
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項12】
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1又はP4である、請求項11に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項13】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、請求項11又は12に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項14】
前記植物がトマトである、請求項11又は12に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
【請求項15】
請求項11に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、及び、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤に関する。特に酢酸を有効成分として含む植物糸状菌起因病害抑制剤、植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤、及び、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農作物や園芸用の病害抑制剤(殺菌剤)として、合成農薬が広く使用されてきている。かかる合成農薬は、対象となる病害に適切に使用された場合、病害抑制効果が高いものが多い。
【0003】
しかしながら、合成農薬は環境汚染の問題も同時に発生することがあるため、周囲の自然を汚染せず、人体に対して安全性が高く、かつ、優れた病害抑制性を示す、病害抑制剤が求められるようになってきた。
【0004】
そこで、天然物由来の物質を有効成分とする病害抑制剤等も使用されるようになった。食品原料成分としても使用される天然系物質として、脂肪酸グリセリド(特許文献1等)等が例示される。
しかしながら、これらの物質は園芸用の水系病害抑制剤(水系殺菌剤)として一般に普及させるには、他の化合物との組み合わせや配合条件を含め、配合技術が要求されるという課題があった。
【0005】
一方、水への溶解性の観点から、酢酸(食酢等)が使用されてきた(特許文献2等)。しかしながら、種籾を所定温度の温湯に所定時間浸漬して種籾を発芽させる催芽処理の温湯に食酢を添加することにより、種籾の催芽処理中に種籾に潜在している細菌および糸状菌を第二次的に死滅ないしは不活化させるものであり、処理が簡便ではなく、また、定植後に処理することができないという問題があった。このため、定植された植物に対し散布等でユーザーが処理可能な、人体に対して安全性の高い酢酸を配合した病害抑制剤の開発が望まれていた。
【0006】
ところで、茎葉に病害が発生する場合、発生箇所に対して農薬等を散布して処理する方法が一般的に取られていた。しかしながら、茎葉の表面積は大きく、かつ、形状が複雑で立体的に入り組んでおり、また、風等により散布された農薬が狙った方向と異なる方向に流れやすいため、葉の表裏を含めて万遍なくムラなく十分に散布することは難しく、結果、使用者にとり面倒な作業となっている上に、実際の病害抑制効果が理論上の病害抑制効果より低下してしまうという課題もあった。
【0007】
さらに、植物の病害を抑制する関連遺伝子として、サリチル酸シグナル伝達関連遺伝子やジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子等が知られている。茎葉に病害が発生すると、発生箇所に対して農薬等を散布して処理することで、該病害抑制関連遺伝子の発現も制御されると考えられていた。しかしながら、病害防除剤と同様に、茎葉に農薬等を散布して処理する場合、茎葉の表面積は大きく、かつ、形状が複雑で立体的に入り組んでおり、また、風等により散布された農薬が狙った方向と異なる方向に流れやすいため、葉の表裏を含めて万遍なくムラなく十分に散布することは難しく、結果、使用者にとり面倒な作業となっている上に、実際のサリチル酸シグナル伝達関連遺伝子やジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子の発現量が、理論上の発現量より低下してしまうという課題もあった。すなわち、実際の病害抑制効果が理論上の病害抑制効果より低下してしまうという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-170892号公報
【特許文献2】特開2006-50982号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sato, I., et al, Microbes Environ. Vol. 29, No. 2, 168-177, 2014
【非特許文献2】Takahashi, H., et al, Plant Cell Rep (2014) 33:99-110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性が高く、薬害が少なく、散布等の処理がしやすい、優れた植物病害抑制効果又は植物の病害を抑制する関連遺伝子発現効果を示す、病害抑制剤又はシグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、酢酸を有効成分とする植物病害抑制剤及びシグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を見出した。
【0012】
すなわち、本発明の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
前記糸状菌起因病害が、うどんこ病であってもよい。
【0014】
前記植物が、バラ又はキュウリであってもよい。
【0015】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の植物の糸状菌起因病害抑制方法は、上記地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む。
【0017】
本発明の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。
【0018】
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1、P4又はPR3であることが好ましい。
【0019】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0020】
前記植物がトマトであってもよい。
【0021】
本発明の植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法は、上記地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む。
【0022】
本発明の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。
【0023】
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1又はP4であることが好ましい。
【0024】
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0025】
前記植物がトマトであってもよい。
【0026】
本発明の植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法は、上記地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、安全性が高く、薬害が少なく、散布等の処理がしやすい、優れた植物病害抑制効果又は植物の病害を抑制する関連遺伝子発現効果を示す、病害抑制剤又はシグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】評価試験3において、処理2日後の葉における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図2】評価試験3において、処理4日後の葉における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図3】評価試験3において、図3(a)は処理2日後の葉における遺伝子発現解析結果を示したグラフであり、図3(b)は処理4日後の葉における遺伝子発現解析結果である。
図4】評価試験4において、処理1日後の主根における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図5】評価試験4において、処理2日後の主根における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図6】評価試験4において、処理4日後の主根における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図7】評価試験4において、処理8日後の主根における遺伝子発現解析結果を示したグラフである。
図8図8は葉部及び主根部におけるPR1の遺伝子発現解析結果である。
図9図9は葉部及び主根部におけるP4の遺伝子発現解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0030】
(地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤)
本発明の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。「地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤」とは、糸状菌が起因した植物の病害を抑制し、かつ、地際部に処理する用法の剤である。
【0031】
酢酸は、食酢(米酢、米黒酢、大麦黒酢等の穀物酢、リンゴ酢、ブドウ酢等の果実酢、合成酢、蒸留酢等)に含まれる酢酸であってもよいし、試薬レベルの酢酸であってもよい。
【0032】
酢酸の濃度(酸度)は、病害抑制効果が得られる範囲であれば、特に限定はされない。病害の種類、処理条件によるが、たとえば、酸度0.05%~2.0%であり、0.05%~1.0%、0.1%~1.0%、0.1%~0.5%がより好ましい。
なお、酸度(%)は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の「醸造酢の酸度測定方法手順書」に従い、測定される。概要としては、試料を0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pH8.2±0.3となるまでに消費した水酸化ナトリウム溶液の量から、酢酸を換算値とし酸度を算出するものである。具体的には、下記式(数1)により計算される。
【0033】
【数1】
【0034】
地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤は、上述した酢酸と水のみを含有する他、酢酸以外の成分を含有したものであってもよい。たとえば、食酢に含まれる酢酸以外の成分(アミノ酸、有機酸、アルコール等)を含有してもよい。さらに、植物病害抑制剤として一般的に配合される成分(安定化剤、界面活性剤、pH調整剤、肥料成分、着色剤、着香剤等)を含有していてもよい。
【0035】
対象となる植物糸状菌起因病害は、糸状菌に起因する病害である。糸状菌は、菌糸から構成されており、植物の成長を阻害することで知られている。糸状菌に起因する病害としては、うどんこ病、青かび病、赤枯病、溝腐病、いもち病、瘡痂病、赤星病、黒星病、灰色かび病、赤焼病、イエローパッチ、萎黄病、萎凋病、紫かび病、輪紋病、灰斑病、角斑病、糸状菌性による褐色腐敗病、褐色円斑病、褐色円星病、褐点病、褐斑病、せん孔褐斑病、褐変病、褐紋病、株腐病、がんしゅ病、苗立枯病、立枯病、べと病、半身萎凋病、疫病、斑点病、黒斑病、白斑病、ごま色斑点病、赤色斑点病、菌核病、黒すす病、根こぶ病、白さび病、すそ枯病、さび病、白絹病、炭疽病、根腐病等が挙げられる。
【0036】
病害抑制対象となる植物は、上述した病害が発生する植物であれば、特に限定されない。たとえば、アサガオ、アスター、アスチルベ、インパチェンス、カーネーション、ガーベラ、ガザニア、カンパニュラ、キキョウ、キク、キンギョソウ、キンセンカ、クリスマスローズ、クレマチス、グロキシニア、ケイトウ、アイスランドポピー、コスモス、プリムラ、サルビア、ジニア、シネラリア、カスミソウ、スイートピー、スターチス、ストック、パンジー、ゼラニウム、デルフィニウム、トルコギキョウ、バーベナ、ひまわり、ベゴニア、ペチュニア、リンドウ、ルピナス、シクラメン、ダリア、チューリップ、アジサイ、バラ、シャクヤク、いんげんまめ、トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリ、すいか、メロン、かぼちゃ、にがうり、いちご、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、チンゲンサイ、シュンギク、オクラ、シソ、ホウレンソウ、エンドウ、そらまめ、とうもろこし、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、ネギ、タマネギ、アスパラガス、ばれいしょ等が例示される。
【0037】
本発明の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤は、植物の地際部に散布等の処理を施すものである。地際部とは、地面及びその近く、あるいは、植物の株元と地面の境を指す。
地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤は、病害が主に茎葉に発生するところ、植物の地際部だけに散布等の処理をしても、茎葉での病害抑制効果があることを利用したものである。地際部は茎葉に比べ、対象となる散布等の処理すべき面積が小さいことから、地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤を、対象となる地際部に狙ったとおりに効率的に散布等の処理をすることができる。このため、地際部処理用の病害抑制剤は、使用者にとり、扱いやすい。また、茎葉に散布等の処理をする場合に比べ、処理後の病害抑制剤が植物上(たとえば根部等)に残って滞留しやすく、処理停止後の病害抑制効果が残存しやすい。
【0038】
(植物の糸状菌起因病害抑制方法)
本発明の植物の糸状菌起因病害抑制方法は、植物の地際部に上述した地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む。
【0039】
(地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤)
本発明の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。「地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤」とは、植物の葉におけるシグナル伝達関連遺伝子発現を促進し、かつ、地際部に処理する用法の剤である。
【0040】
酢酸は、食酢(米酢、米黒酢、大麦黒酢等の穀物酢、リンゴ酢、ブドウ酢等の果実酢、合成酢、蒸留酢等)に含まれる酢酸であってもよいし、試薬レベルの酢酸であってもよい。
【0041】
酢酸の濃度(酸度)は、シグナル伝達関連遺伝子発現が促進される範囲であれば、特に限定はされない。病害の種類、シグナル伝達関連遺伝子の種類、処理条件によるが、たとえば、酸度0.05%~2.0%であり、0.05%~1.0%、0.1%~1.0%、0.1%~0.5%がより好ましい。
なお、酸度(%)は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の「醸造酢の酸度測定方法手順書」に従い、測定される。概要としては、試料を0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pH8.2±0.3となるまでに消費した水酸化ナトリウム溶液の量から、酢酸を換算値とし酸度を算出するものである。具体的には、下記式(数1)により計算される。
【0042】
【数1】
【0043】
地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、上述した酢酸と水のみを含有する他、酢酸以外の成分を含有したものであってもよい。たとえば、食酢に含まれる酢酸以外の成分(アミノ酸、有機酸、アルコール等)を含有してもよい。さらに、植物病害抑制剤として一般的に配合される成分(安定化剤、界面活性剤、pH調整剤、肥料成分、着色剤、着香剤等)を含有していてもよい。
【0044】
対象となるシグナル伝達関連遺伝子は、病害抵抗性関連遺伝子のサリチル酸シグナル伝達関連遺伝子や、ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子であり、具体的には、PR1、PR5、P4(以上、サリチル酸シグナル伝達関連遺伝子)、PR3、PI-II、PR6(以上、ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子)である(非特許文献1、非特許文献2等参照)。なかでも、PR1、P4又はPR3が好ましい。
【0045】
病害抑制対象となる植物は、上述したシグナル伝達関連遺伝子が葉部で促進される植物であれば、特に限定されない。たとえば、トマト等が例示される。
【0046】
本発明の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、植物の地際部に散布等の処理を施すものである。地際部とは、地面及びその近く、あるいは、植物の株元と地面の境を指す。
地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、植物の地際部だけに散布等の処理を施しても、少なくとも葉部で病害関連抵抗性遺伝子であるシグナル伝達関連遺伝子の発現がみられるという機能を有するものである。地際部は茎葉に比べ、対象となる散布等の処理すべき面積が小さいことから、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を、対象となる地際部に狙ったとおりに効率的に散布等の処理をすることができる。このため、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、使用者にとり、扱いやすい。
【0047】
(植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法)
本発明の植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法は、植物の地際部に上述した地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含むことを特徴とする。
【0048】
(地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤)
本発明の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、酢酸を有効成分として含有することを特徴とする。「地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤」とは、植物の主根におけるシグナル伝達関連遺伝子発現を促進し、かつ、地際部に処理する用法の剤である。
【0049】
酢酸は、食酢(米酢、米黒酢、大麦黒酢等の穀物酢、リンゴ酢、ブドウ酢等の果実酢、合成酢、蒸留酢等)に含まれる酢酸であってもよいし、試薬レベルの酢酸であってもよい。
【0050】
酢酸の濃度(酸度)は、シグナル伝達関連遺伝子発現が促進される範囲であれば、特に限定はされない。病害の種類、シグナル伝達関連遺伝子の種類、処理条件によるが、たとえば、酸度0.05%~2.0%であり、0.05%~1.0%、0.1%~1.0%、0.1%~0.5%がより好ましい。
なお、酸度(%)は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の「醸造酢の酸度測定方法手順書」に従い、測定される。概要としては、試料を0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pH8.2±0.3となるまでに消費した水酸化ナトリウム溶液の量から、酢酸を換算値とし酸度を算出するものである。具体的には、下記式(数1)により計算される。
【0051】
【数1】
【0052】
地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、上述した酢酸と水のみを含有する他、酢酸以外の成分を含有したものであってもよい。たとえば、食酢に含まれる酢酸以外の成分(アミノ酸、有機酸、アルコール等)を含有してもよい。さらに、植物病害抑制剤として一般的に配合される成分(安定化剤、界面活性剤、pH調整剤、肥料成分、着色剤、着香剤等)を含有していてもよい。
【0053】
対象となるシグナル伝達関連遺伝子は、病害抵抗性関連遺伝子のサリチル酸シグナル伝達関連遺伝子や、ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子であり、具体的には、PR1、PR5、P4(以上、サリチル酸シグナル伝達関連遺伝子)、PR3、PI-II、PR6(以上、ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子)である(非特許文献1、非特許文献2等参照)。なかでも、PR1又はP4が好ましい。
【0054】
病害抑制対象となる植物は、上述したシグナル伝達関連遺伝子が主根部で促進される植物であれば、特に限定されない。たとえば、トマト等が例示される。
【0055】
本発明の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、植物の地際部に散布等の処理を施すものである。地際部とは、地面及びその近く、あるいは、植物の株元と地面の境を指す。
地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、植物の地際部だけに散布等の処理を施しても、少なくとも主根部で病害関連抵抗性遺伝子であるシグナル伝達関連遺伝子の発現がみられるという機能を有するものである。地際部は茎葉に比べ、対象となる散布等の処理すべき面積が小さいことから、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を、対象となる地際部に狙ったとおりに効率的に散布等の処理をすることができる。このため、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤は、使用者にとり、扱いやすい。
【0056】
(植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法)
本発明の植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法は、植物の地際部に上述した地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含むことを特徴とする。
【実施例0057】
(評価試験1)
地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤を用い、バラのうどんこ病の発病について評価した。地際部処理を施す処理区1、及び、無処理区を画定した。
【0058】
病害抑制剤は、酢酸(酸度0.1%水溶液)を使用した。バラ(品種:マヨルカ、6号長鉢、2年生苗、樹高50cm)を、1区3株とし、3連制で反復した。
【0059】
無発病のバラに、病害抑制剤を各試験区の処理方法で処理した。発病がなかったため、処理開始から1週間後に、うどんこ病の罹病葉を用いてダスティング法にて接種した。
【0060】
地際部処理は、植物の地際部にスプレートリガーを用いて30回/株(30mL)で処理した。
各処理区と処理概要を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
処理を開始してから、2-3日に1回の間隔で処理し、薬害調査を6回、薬効調査を4回行った。
処理日、接種日、薬害調査日及び薬効調査日を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
薬害については、目視にて調査を行った。
各調査日ごとに、下記「薬害調査基準」で評価した。薬害調査基準は、一般財団法人日本植物防疫協会が発行する新農薬実用化試験に沿ったものである。また、下記「薬害に関する評価基準」で総合的に評価した。
【0065】
「薬害調査基準」
-:薬害を認めない。
+:軽微な薬害症状を認める。
++:中程度の薬害症状を認める。
+++:重度の薬害症状を認める。

「薬害に関する評価基準」
-:薬害なし。
±:薬害が認められるが実用上問題ない程度。
+:薬害が認められ実用上問題がある。
なお、薬害症状は、葉、花弁の変色・枯れ、生長点の委縮・枯れ、株全体の枯死等で判断する。実用上問題があるか否かは、植物の生長に影響があるか否かで判断する。
【0066】
薬害調査結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示したとおり、地際部処理のみ行った処理区1では、無処理区と同様に薬害は認められず、薬害なしと評価された。
【0069】
次に、薬効について、1株あたり任意の約100枚の小葉を対象に、程度別発病葉数を調査し、発病葉率(%)を下式(数2)、発病度(5)を下式(数3)により求めた。
【0070】
「程度別発病葉数」
指数0:発病を認めない。
指数1:病斑面積が葉面積の5%未満を占める。
指数2:病斑面積が葉面積の5%以上25%未満を占める。
指数3:病斑面積が葉面積の25%以上50%未満を占める。
指数4:病斑面積が葉面積の50%以上を占める。
【0071】
【数2】
【0072】
【数3】
【0073】
算出された発病度(%)から、下式(数4)を用いて防除価を算出した。
【0074】
【数4】
【0075】
程度別発病葉数の調査結果及び、算出した発病葉率、発病度、防除価を、表5~表7に示した。表5は処理開始22日後(9回処理3日後)、表6は処理開始28日(10回処理6日後)、表7は処理開始35日後(10回処理13日後の結果である。
また、表4に、防除価と、無処理発病度をまとめたものを示す。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
表3~表7より、処理区1(地際部処理)においては、10回処理から6日後(処理開始28日後)で防除価は51.7、10回処理から13日後(処理開始35日後)であっても防除価は38.7と推移した。これらの結果から、葉部で病害がみられる糸状菌起因病害であるうどんこ病に対し、地際部処理によっても、病害抑制効果がみられることが分かった。
【0081】
(評価試験2)
地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤を用い、キュウリのうどんこ病の発病について評価した。地際部処理を施す処理区1、及び、無処理区を画定した。
【0082】
病害抑制剤は、酢酸(酸度0.1%水溶液)を使用した。キュウリ(品種:穂木ニーナ(S-27)、台木;GT-2、生育ステージ:4~5葉期)を、1区4株とし、3連制で反復した。
【0083】
うどんこ病が無発病のキュウリ苗に対して、下記処理方法を実施した後、6号ポットに定植した。定植後、慣行栽培と同様に施肥及び潅水を実施し、各処理方法を継続した。うどんこ病の発病後、4回調査を行った。
【0084】
地際部処理は、植物の地際部にスプレートリガーを用いて30回/株(30mL)で処理した。
各処理区と処理概要を表8に示す。
【0085】
【表8】
【0086】
処理を開始してから、2-3日に1回の間隔で処理し、薬害調査及び薬効調査を各4回行った。
処理日、接種日、薬害調査日及び薬効調査日を表9に示す。
【0087】
【表9】
【0088】
薬害については、目視にて調査を行った。
各調査日ごとに、下記「薬害調査基準」で評価した。また、下記「薬害に関する評価基準」で総合的に評価した。
【0089】
「薬害調査基準」
-:薬害を認めない。
+:軽微な薬害症状を認める。
++:中程度の薬害症状を認める。
+++:重度の薬害症状を認める。

「薬害に関する評価基準」
-:薬害なし。
±:薬害が認められるが実用上問題ない程度。
+:薬害が認められ実用上問題がある。
なお、薬害症状は、葉、花弁の変色・枯れ、生長点の委縮・枯れ、株全体の枯死等で判断する。実用上問題があるか否かは、植物の生長に影響があるか否かで判断する。
【0090】
薬害調査結果を表10に示す。
【0091】
【表10】
【0092】
表10に示したとおり、地際部処理のみ行った処理区1では、無処理区と同様に薬害は認められず、薬害なしと評価された。
【0093】
次に、薬効について、1株あたり34~92枚程度の数の葉を対象に、程度別発病葉数を調査し、発病葉率(%)を数2、発病度(%)を数3により求めた。
【0094】
「程度別発病葉数」
指数0:発病を認めない。
指数1:病斑面積が葉面積の5%未満を占める。
指数2:病斑面積が葉面積の5%以上25%未満を占める。
指数3:病斑面積が葉面積の25%以上50%未満を占める。
指数4:病斑面積が葉面積の50%以上を占める。
【0095】
算出された発病度(%)から、数4を用いて防除価を算出した。
【0096】
程度別発病葉数の調査結果及び、算出した発病葉率、発病度、防除価を、表11~表14に示した。表12は処理開始8日後、表13は処理開始14日、表14は処理開始18日後の結果である。
また、表11に、防除価をまとめたものを示す。
【0097】
【表11】
【0098】
【表12】
【0099】
【表13】
【0100】
【表14】
【0101】
表11~表14より、処理区1(地際部処理)においては、処理開始8日後で防除価は20.1、処理開始14日後で防除価は16.6、処理開始18日後で防除価は10.5と推移した。これらの結果から、葉部で病害がみられる糸状菌起因病害であるうどんこ病に対し、地際部処理によっても、無処理区に比べて高い病害抑制効果が確認され、葉部で発生する病害を地際部処理で抑制可能であることが分かった。
【0102】
(評価試験3)
地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を用い、病害抵抗性関連遺伝子である、トマトのシグナル伝達関連遺伝子の発現解析を行った。
【0103】
滅菌園芸培土を充填した128穴セルトレイに、トマト種子(品種:ホーム桃太郎)を播種後、温室内(条件:蒸留水で適宜潅水、液肥を2週間後に潅注)で、4週間育成した。
育成した各ポットの地際部に、表15に示すように各処理を行った。
処理区1では、酢酸(酸度0.1%水溶液)を、トマトの地際部に1セル(容量24ml)当たり約2.4ml散布した。
処理区2では、ツィーン20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)0.01体積%を添加したASM(アシベンゾラルSメチル)(濃度20ppm)の散布処理を行った。1処理区あたり約2.4ml散布した。
無処理区では、水を約2.4ml散布した。
なお、1セル当たり2.4mlの処理量は、9cmポット(300ml容量)あたり30回スプレー相当量(30mL)となる。
【0104】
【表15】
【0105】
1、2、4、8日後に、本葉(0.07g~0.1g)を直ちに液体窒素中に入れ、マイナス80℃で保存した。
【0106】
アイソジェン(ニッポンジーン社製)を用いて、プロトコルに従いRNAを抽出した。Promega社製のRQ1を使用し、Dnase I 処理により、該RNA中のDNAを分解した。Takara社製のPrimeScript RT reagent kitを使用し、相補DNA(cDNA)の合成を行った。
Takara社製のSYBR Premix Ex Taq IIを使用し、以下に示すトマトの病害抵抗性に関連するターゲット遺伝子およびリファレンス遺伝子であるactin geneを標的としたリアルタイムPCRによる定量解析を行い、各ターゲット遺伝子の相対発現量をリファレンス遺伝子の発現量で補正して算出した。
【0107】
ターゲット遺伝子は以下のとおりである。
「サリチル酸シグナル伝達関連遺伝子」
PR1
PR5
P4
「ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子」
PR3
PI-II
PR6
【0108】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、Applied Biosystems社製のStepOnePlusを用いて、95℃30秒→95℃5秒、60℃30秒を40サイクル→95℃15秒→60℃60秒→95℃15秒の反応条件で実施した。
【0109】
処理2日後、及び、処理4日後の、葉における遺伝子発現解析を行った。処理2日後の結果を表16、図1に、処理4日後の結果を表17、図2に示した。なお、遺伝子発現量は、無処理区を1とした場合の相対値とした。
【0110】
【表16】
【0111】
【表17】
【0112】
表16、図1より、処理区1及び処理区2の処理2日後の遺伝子発現量の上昇は、最大でも無処理区の発現量の6倍未満であった。
【0113】
表17、図2より、処理区1及び処理区2の処理4日後の遺伝子発現量の上昇は、いずれのターゲット遺伝子においても処理2日後と比較して大きく、なかでも処理区1のP4遺伝子では無処理区の約48倍、PR3遺伝子では無処理区の約24倍、PR1遺伝子では無処理区の約10倍の発現量であった。
【0114】
処理区1と無処理区との比較を明確にするために、処理区1と無処理区で発現量の比較及び統計解析(Wilcoxon rank test)を行った。図3に示すように、処理4日後のPR1、P4、PR3遺伝子の発現量がp<0.05で有意に上昇することが確認された。
【0115】
(評価試験4)
地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤を用い、病害抵抗性関連遺伝子である、トマトのシグナル伝達関連遺伝子の発現解析を行った。
【0116】
滅菌園芸培土(ニッピPp園芸培土)を充填した128穴セルトレイに、トマト種子(品種:ホーム桃太郎)を播種後、温室内(条件:蒸留水で適宜潅水、液肥のハイポネックス1000倍液を2週間後に潅注)で、4週間育成した。
育成した各ポットの地際部に、表18に示すように各処理を行った。
処理区1では、酢酸(酸度0.1%水溶液)を、トマトの地際部に1セル(容量24ml)当たり約2.4ml散布した。
処理区2では、ツィーン20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)0.01体積%を添加したASM(アシベンゾラルSメチル)(濃度20ppm)の散布処理を行った。1処理区あたり約2.4ml散布した。
無処理区では、水を約2.4ml散布した。
なお、1セル当たり2.4mlの処理量は、9cmポット(300ml容量)あたり30回スプレー相当量(30mL)となる。
【0117】
【表18】
【0118】
1、2、4、8日後に、主根部(紙製ウエスであるキムワイプ等で水気を拭き取ってから、基部から5mm~7mmを切断したもの)を直ちに液体窒素中に入れ、マイナス80℃で保存した。
【0119】
アイソジェン(ニッポンジーン社製)を用いて、プロトコルに従いRNAを抽出した。Promega社製のRQ1を使用し、Dnase I 処理により、該RNA中のDNAを分解した。Takara社製のPrimeScript RT reagent kitを使用し、相補DNA(cDNA)の合成を行った。
Takara社製のSYBR Premix Ex Taq IIを使用し、以下に示すトマトの病害抵抗性に関連するターゲット遺伝子およびリファレンス遺伝子であるactin geneを標的としたリアルタイムPCRによる定量解析を行い、各ターゲット遺伝子の相対発現量をリファレンス遺伝子の発現量で補正して算出した。
【0120】
ターゲット遺伝子は以下のとおりである。
「サリチル酸シグナル伝達関連遺伝子」
PR1
PR5
P4
「ジャスモン酸シグナル伝達関連遺伝子」
PR3
PI-II
PR6
【0121】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、Applied Biosystems社製のStepOnePlusを用いて、95℃30秒→95℃5秒、60℃30秒を40サイクル→95℃15秒→60℃60秒→95℃15秒の反応条件で実施した。
【0122】
処理1日後、2日後、4日後、及び、8日後の、主根部における遺伝子発現解析を行った。処理1日後の結果を表19、図4に、処理2日後の結果を表20、図5に、処理4日後の結果を表21、図6に、処理8日後の結果を表22、図7に示した。なお、遺伝子発現量は、無処理区を1とした場合の相対値とした。
【0123】
【表19】
【0124】
【表20】
【0125】
【表21】
【0126】
【表22】
【0127】
表19、図4より、処理区1及び処理区2の処理1日後の遺伝子発現量の上昇は、いずれのターゲット遺伝子においてもみられた。特に、処理区1のPR1遺伝子では無処理区の約28倍、P4遺伝子では約25倍の顕著な上昇がみられた。
【0128】
表20、図5より、処理区1及び処理区2の処理2日後に遺伝子発現量が上昇する傾向は、いずれのターゲット遺伝子においてもみられた。特に、処理区1のPR1遺伝子では無処理区の約12倍、P4遺伝子では無処理区の約19倍の顕著な上昇がみられたが、処理1日後の遺伝子発現量の上昇よりは小さかった。
【0129】
表21、図6より、処理区1の処理4日後の遺伝子発現量の上昇は総じて小さく、PR1遺伝子では無処理区の約4倍、P4遺伝子では無処理区の約5倍、PR6遺伝子では無処理区の約3倍であり、その他の遺伝子では無処理区との有意差は見られなかった。処理区2(ポジティブコントール)の処理4日後の遺伝子発現量の上昇は、PR1遺伝子では無処理区の約24倍、P4遺伝子では無処理区の約19倍、PR6遺伝子では無処理区の約3倍であり、その他の遺伝子では無処理区との有意差は見られなかった。
【0130】
表22、図7より、処理区1及び処理区2の処理8日後の遺伝子発現量の上昇は総じて小さく、最大でも無処理区の2倍~3倍程度であった。
【0131】
(評価試験3及び評価試験4のまとめ)
以上の評価試験3及び評価試験4から、酢酸を有効成分として含有するシグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、植物の地際部を処理する(地際部にスプレーする)と、葉部と主根部に共通して、PR1遺伝子とP4遺伝子の発現量が上昇することが確認された。PR1遺伝子の発現量の経時変化を表23、図8に、P4遺伝子の発現量の経時変化を表24、図9に示す。
【0132】
【表23】
【0133】
【表24】
【0134】
表23、24、図8図9より、葉部では、処理2日後から処理4日後にかけて遺伝子発現量の上昇がみられ、処理4日後の遺伝子発現量が最大になる傾向であることが分かった。一方、主根部では、処理1日後の遺伝子発現量が最大になり、その後経時的に遺伝子発現量は低下する傾向であることが分かった。すなわち、これらの遺伝子発現はまず主根部で速やかに起こり、その後遅れて葉部で起こることが分かった。
【0135】
本発明は以下に示した項目の構成を有し得る。
[項1]
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
[項2]
前記糸状菌起因病害が、うどんこ病である、上記項1に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
[項3]
前記植物が、バラ又はキュウリである、上記項1又は2に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
[項4]
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、上記項1~3いずれか一項に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤。
[項5]
上記項1~4いずれか一項に記載の地際部処理用植物糸状菌起因病害抑制剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の糸状菌起因病害抑制方法。
[項6]
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項7]
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1、P4又はPR3である、上記項6に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項8]
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、上記項6又は7に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項9]
前記植物がトマトである、上記項6~8いずれか一項に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項10]
上記項6~9いずれか一項に記載の地際部処理用植物葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の葉部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法。
[項11]
酢酸を有効成分として含有する、地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項12]
前記シグナル伝達関連遺伝子が、PR1又はP4である、上記項11に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項13]
前記酢酸の酸度は、0.05%以上2.0%以下である、上記項11又は12に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項14]
前記植物がトマトである、上記項11~13いずれか一項に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤。
[項15]
上記項11~14いずれか一項に記載の地際部処理用植物主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進剤で、前記植物の地際部を処理するステップを含む、植物の主根部シグナル伝達関連遺伝子発現促進方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9