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特開2024-5422エポキシ樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いた繊維強化プラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005422
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いた繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08G59/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105598
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長谷 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD04
4J036AD11
4J036DB06
4J036FB07
4J036GA23
4J036JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】反応前の可使時間が十分長く、重合反応が十分に進行でき、その反応によって熱可塑性エポキシ樹脂となるエポキシ樹脂組成物、それを含む強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いた繊維強化プラスチックを提供する。
【解決手段】2官能エポキシ化合物と2官能化合物と重合触媒を必須成分として含み、重合反応によって熱可塑性エポキシ樹脂となるエポキシ樹脂組成物と強化繊維を含む強化繊維含有エポキシ樹脂組成物であって、重合触媒は下記一般式(1)で表されるホスホニウム塩である。

(式中、R、R、R、R、R及びRは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、Zは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維プラスチックの母材樹脂として使用するエポキシ樹脂組成物であって、1分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ化合物(A)、1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する化合物(B)、及び重合触媒(C)として下記一般式(1)で表されるホスホニウム塩を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。Zは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項2】
有機溶剤を含まないか、又は有機溶剤を含む場合は、有機溶剤の含有量がエポキシ樹脂組成物中の0.05重量%以上10重量%以下であり、エポキシ樹脂組成物を85℃に加温した際の粘度が100Pa・s以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ化合物(A)と化合物(B)との配合量は、エポキシ化合物(A)1モルに対して化合物(B)0.95~1.05モルである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
重合触媒(C)を、エポキシ化合物(A)100重量部に対して0.5~10重量部使用する請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ化合物(A)及び/又は化合物(B)の一部又は全部が、リン含有化合物である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
リン含有率が1~6重量%である請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維を含有することを特徴とする強化繊維含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
強化繊維として炭素繊維を50~80重量%の割合で含む請求項7に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物からなるプリプレグ。
【請求項10】
請求項7に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化プラスチック。
【請求項11】
請求項9に記載のプリプレグを用いた繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いた繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は軽量、高強度などの優れた物性を示し、多くの分野で利用されている。その中でも、炭素繊維を強化繊維として用いたもの(CFRP)は、特に機械的強度に優れることで知られている。
【0003】
FRPの母材(マトリックス)樹脂として、価格、物性のバランスに優れるため、エポキシ樹脂が主に使用されており、その中でも、特許文献1は、エポキシ化合物とフェノール性水酸基含有化合物とを予め強化繊維と混合し、重合触媒及び反応遅延剤を使用して重付加反応により重合させ、繊維強化熱可塑性樹脂を成形する方法を提案している。特許文献2は、2官能エポキシ化合物と、フェノール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる官能基を有する2官能化合物とを重付加反応させることも提案している。こうしたエポキシ樹脂は、現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂とも言われ、これを使用したFRPは量産性、成型性、リサイクル性に優れると期待されている。現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前の低粘度状態で繊維へ含浸させるため含浸性が良く、強化繊維の割合を高めることができ、汎用的な熱硬化エポキシ樹脂に比べ、衝撃強度や靭性に優れる。
【0004】
FRPの要求特性の一つに耐熱性の向上がある。120℃以上の耐熱性があると適用可能な部材が拡大するため有用である。エポキシ樹脂の耐熱性向上の手法としては、架橋密度の増加、剛直な分子構造の骨格の適用が挙げられる。架橋密度の増加は、熱可塑性樹脂である現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂には不適である。剛直な骨格への変更は、樹脂粘度の増加や反応成分の相溶性の悪化をもたらす。これにより、樹脂フィルムの塗工や繊維への含浸工程が困難になり、繊維内での反応性も低下する。
【0005】
剛直骨格な分子構造を有する樹脂を低粘度化させ、樹脂フィルムの塗工や強化繊維への含浸工程を容易にする手法として、溶剤の添加又は樹脂のハンドリング温度の上昇が挙げられる。溶剤の添加は、重合物中に残留することで最終製品の物性を低下させる。ハンドリング温度の上昇は、樹脂の反応速度が増加する為可使時間が短くなり、ハンドリングを困難とする。
【0006】
重合触媒の添加量を低減することで、樹脂の可使時間を延ばすことはできるが、反応性が悪くなり、現場重合において時間がかかってしまうために生産性が低下する恐れがあるほか、目標の分子量に到達するまでに何らかの理由で失活する恐れがある。
【0007】
特許文献3の実施例では、ホスフィン系の重合触媒を使用し、Tgを139℃まで向上させた現場重合型熱可塑性エポキシについて示されているが、樹脂組成物中に溶剤を30重量部以上含んでおり、重合物中に溶剤が残留し物性に悪影響を及ぼすことが懸念される。
特許文献4では、重合触媒としてアミン系重合触媒が検討されているが、可使時間に関する記載は一切ない。
【0008】
【特許文献1】特開2006-321897号公報
【特許文献2】国際公開第2004/060981号
【特許文献3】国際公開第2006/123577号
【特許文献4】国際公開第2010/079832号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する化合物とを反応させて熱可塑性エポキシ樹脂が得る際に、反応前の可使時間が十分長く、かつ重合反応が十分に進行できるエポキシ樹脂組成物、プリプレグ及びこれらを用いた繊維強化プラスチックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、2官能エポキシ樹脂と1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基を官能基として2つ有する化合物とを原料として用いて熱可塑性エポキシ樹脂を得る際に、特定のホスホニウム塩を重合触媒として使用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、発明の完成に至った。
また、特定のホスホニウム塩を重合触媒として用いることで、重合触媒量を増加させても可使時間が十分に確保でき、かつ現場重合にかかる時間が大幅に短縮されるため、生産性に優れることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ化合物(A)、1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基(アシルオキシ基)を官能基として2つ有する化合物(B)、及び重合触媒(C)を必須成分として含み、重合反応によって熱可塑性プラスチックとなるエポキシ樹脂組成物であって、重合触媒(C)は下記一般式(1)で表されるホスホニウム塩である。


【化1】
式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。Zは酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0012】
上記エポキシ樹脂組成物(E)は、有機溶剤を含まないか、又は有機溶剤を含む場合は、有機溶剤の含有量がエポキシ樹脂組成物中の0.05重量%以上10重量%以下であり、エポキシ樹脂組成物を85℃に加温した際の粘度が100Pa・s以下であることが好ましい。
上記エポキシ化合物(A)と上記化合物(B)との配合量は、エポキシ化合物(A)1モルに対して化合物(B)0.95~1.05モルであることが好ましく、上記重合触媒(C)の配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して0.5~10重量部であることが好ましい。
上記エポキシ化合物(A)及び/又は上記化合物(B)の一部又は全部が、リン含有化合物であってもよく、その場合のリン含有率は、エポキシ樹脂組成物として1~6重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明は、上記エポキシ樹脂組成物(E)と強化繊維(F)を含有することを特徴とする強化繊維含有エポキシ樹脂組成物である。強化繊維(F)としては、炭素繊維が好ましく、50~80重量%の割合で含有することが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記強化繊維含有エポキシ樹脂組成物からなるプリプレグである。
また本発明は、上記強化繊維含有エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化プラスチックであり、上記プリプレグを用いた繊維強化プラスチックである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性が高く、機械的強度に優れ、短時間で重合反応が完了し生産性にも優れる熱可塑性繊維強化プラスチック(FRP)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物(E)は、1分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ化合物(A)と、1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基(アシルオキシ基)を官能基として2つ有する化合物(B)と、上記一般式(1)で表されるホスホニウム塩を重合触媒(C)として含み、加熱により重合し、熱可塑性プラスチックとなる組成物である。この組成物には、有機溶剤や、充填剤、難燃剤などの添加剤が含まれていてもよい。本発明の繊維強化含有エポキシ樹脂組成物は、このエポキシ樹脂組成物(E)と強化繊維(F)を必須成分とする。
なお、本明細書において、1分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ化合物(A)を「エポキシ化合物(A)」や「2官能エポキシ化合物(A)」と称することがある。1分子中にフェノール性水酸基及び/又は活性エステル基(アシルオキシ基)を官能基として2つ有する化合物(B)を「化合物(B)」や「2官能化合物(B)」と称することがある。
【0017】
エポキシ樹脂組成物(E)で使用するエポキシ化合物(A)は、1分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ化合物であればよい。エポキシ化合物(A)の純度は95%以上であることが好ましい。エポキシ化合物(A)中に1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるため、得られた熱可塑性樹脂製品の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物はエポキシ化合物(A)に対して2重量%以下であることが好ましい。3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物についてはエポキシ化合物(A)に対して1重量%以下であることが好ましい。エポキシ化合物(A)としての純度が高ければ、位置異性体やオリゴマーが含まれてもよい。また、これらのエポキシ化合物(A)は1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
エポキシ化合物(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、ZX-1201(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、OGSOL CG-500(大阪ガスケミカル株式会社製)など)、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、テトラ-t-ブチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、チオジフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノール型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(例えば、YX4000(三菱ケミカル株式会社製)など)、ジメチルビフェノール型エポキシ樹脂、テトラ-t-ブチルビフェノール型エポキシ樹脂などのビフェノール型エポキシ樹脂や、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、メチルハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジブチルハイドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂などのベンゼンジオール型エポキシ樹脂や、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ヒドロアントラハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0019】
エポキシ化合物(A)としては、更に、上記2官能エポキシ化合物の芳香環に水素を添加した2官能エポキシ化合物や、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ダイマー酸などの種々のジカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、アニリンなどのアミン化合物と、エピハロヒドリンとから製造されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂や、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘプタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテルなどの鎖状構造のみからなる(ポリ)アルキレングリコール型エポキシ樹脂や、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなどの環状構造を有するアルキレングリコール型エポキシ樹脂や、脂肪族環状エポキシ樹脂や、リン含有2官能エポキシ樹脂(例えば、FX-305(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ジフェニルホスフィニルハイドロキノンジグリシジルエーテルなど)なども挙げられる。
【0020】
耐熱性の向上のためには、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスナフトールフルオレン型エポキシ樹脂などのフルオレン環構造を有する2官能エポキシ化合物がより好ましい。難燃性付与のためには、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂、リン含有2官能エポキシ樹脂が好ましく、リン含有2官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0021】
特に、下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物(a)を含むことが好ましい。その場合、エポキシ化合物(A)中に50重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは66重量%以上であり、更に好ましくは75重量%以上であり、特に好ましくは80重量%以上である。エポキシ化合物(a)はエポキシ化合物(A)の一部を構成する。
【0022】
【化2】
nは繰り返し数でその平均値は0~5であり、好ましくは0~1である。また、エポキシ化合物(a)のエポキシ当量は、150~350g/eq.が好ましい。エポキシ化合物(a)の純度は95%以上であることが好ましい。
【0023】
式(2)において、Aは下記式(2a)で表される2価の基である。
【化3】
【0024】
式(2a)において、Xは単結合、炭素数1~13の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-のいずれかである。
炭素数1~13の炭化水素基としては、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数6~13のアリーレン基が好ましく、例えば、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロプロピレン基、1,1-シクロブチレン基、1,1-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロオクチレン基、1,1-シクロノニレン基、1,2-エチレン基、1,2-シクロプロピレン基、1,2-シクロブチレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-プロピレン基、1,3-シクロブチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,3-フェニレン基、1,4-ブチレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基、1,2-キシリレン基、1,4-キシリレン基、テトラヒドロジシクロペンタジエニレン基、テトラヒドロトリシクロペンタジエニレン基などが挙げられる。なお、Phはフェニル基を表す。
これらの内、Xは、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基が好ましく、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-フルオレン基がより好ましい。なお、Phはフェニル基を表す。アルキレン基はアルキリデン基を含む意味である。
【0025】
は独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらの内、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、又はナフチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、又はトリル基がより好ましい。
【0026】
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかであり、水素原子以外の基が好ましい。アルキル基、アリール基の例としては、前記Yで例示した基と同様である。好ましいYはYと同様である。
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。アルキル基、アリール基の例としては、Yで例示した基と同様である。好ましいYは水素原子又はYと同様である。
【0027】
エポキシ化合物(a)としては、例えば、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0028】
エポキシ樹脂組成物(E)に使用する2官能化合物(B)としては、芳香環に結合した水酸基を2個有するジフェノール化合物(B1)、芳香環に結合したアシルオキシ基を2つ有するジエステル系化合物(B2)、又は芳香環に結合した水酸基とアシルオキシ基を1個ずつ有するモノエステル系化合物(B3)のいずれかであればよい。なお、ジエステル系化合物(B2)とモノエステル系化合物(B3)を区別せずに、「エステル系化合物」と称することがある。
2官能化合物(B)の純度は95重量%以上であることが好ましい。1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるために製造された熱可塑性樹脂の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物は、2官能化合物(B)に対して2重量%以下であることが好ましい。3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物は、2官能化合物(B)に対して1重量%以下であることが好ましい。2官能化合物(B)としての純度が高ければ、位置異性体については含まれていてもよい。また、これらの2官能化合物(B)は1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。なお、アシルオキシ基はR-CO-O-で表され、Rは炭素数1~19の炭化水素基である。炭素数1~19の炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基が好ましい。
【0029】
炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基などが挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが挙げられる。
炭素数7~13のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、フェネチル基、2-フェニルイソプロピル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数1~7の炭化水素基を有するアシルオキシ基が好ましく、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メチルベンゾイルオキシ基がより好ましく、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が更に好ましく、アセチルオキシ基が特に好ましい。
【0030】
ジフェノール化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、ビスフェノールAD、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラ-t-ブチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、チオジフェノール、ジヒドロキシスチルベンなどのビスフェノール化合物や、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラ-t-ブチルビフェノールなどのビフェノール化合物や、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシンなどのベンゼンジオール化合物や、ジヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロアントラハイドロキノンなどや、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-HQ)、10-(2,7-ジヒドロキシナフチル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-NQ)、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフィニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオールなどのリン含有フェノール化合物などが挙げられる。
熱可塑性エポキシ樹脂の耐熱性向上のためには、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンが好ましく、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンがより好ましい。特に、強化繊維含有エポキシ樹脂組成物(E)に使用する場合は、ビスフェノール化合物又はビフェニル化合物が好ましい。また難燃性を付与する目的で、リン含有フェノール化合物を用いてもよい。
【0031】
ジエステル系化合物(B2)及びモノエステル系化合物(B3)としては、上記ジフェノール化合物(B1)の水酸基がアシルオキシ基(活性エステル)に2個又は1個置換された化合物が挙げられる。ジエステル系化合物(B2)はジフェノール化合物(B1)を有機酸の酸無水物、有機酸のハロゲン化物、又は有機酸などのアシル化剤との縮合反応でアシル化して得られる。モノエステル系化合物(B3)もジフェノール化合物(B1)のアシル化時のアシル化剤のモル比調整することで得られる、モノエステル系化合物(B3)、ジエステル系化合物(B2)、及びジフェノール化合物(B1)の混合物から単離することで得られる。
【0032】
上記アシル化に使用する酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、オクタン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ヘキサヒドロ安息香酸、フェノキシ酢酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機酸や、有機酸の酸無水物や、有機酸のハロゲン化物や、有機酸のエステル化物などを使用することができる。
有機酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物などが挙げられる。
有機酸のエステル化物としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどが挙げられる。有機酸のハロゲン化物としては、例えば、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリドなどが挙げられる。
これらのアシル化剤としては、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリドなどの有機酸のハロゲン化物や無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物などの酸ハロゲン化物や有機酸の酸無水物が好ましく、エステル化の後水洗が不要で、電材用途で嫌われるハロゲンの混入を避ける意味で、無水酢酸や安息香酸無水物などの酸無水物がより好ましく、無水酢酸が更に好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂組成物(E)において、化合物(B)の割合は、エポキシ化合物(A)1.00モルに対して、0.90~1.10モルであり、好ましくは0.95~0.99モル、より好ましくは0.97~0.98モルである。
エポキシ樹脂組成物(E)では、エポキシ化合物(A)と化合物(B)が逐次的に反応し、直鎖構造をとることで熱可塑性を発現する。エポキシ化合物(A)が過剰であるとエポキシ基末端となり、化合物(B)が過剰であるとフェノール基末端又はアシルオキシ基末端となり反応が終了する。
化合物(B)の割合が0.99モル超の場合、重合物がフェノール基末端又はアシルオキシ基末端となって反応が終了するため、高分子量化しにくい恐れがある。一方、化合物(B)の割合が0.95モル未満の場合、過剰なエポキシ基が副反応を起こすことにより、重合物がゲル化し熱可塑性が損なわれる恐れがある。
【0034】
エポキシ樹脂組成物(E)において、化合物(B)がエポキシ化合物(A)中に結晶状態で存在すると、ミクロで見た時にモル比が設計から外れる。この状態で反応を開始すると、重合が十分に進行しないことがある。重合を十分に進行させるためには、化合物(B)とエポキシ化合物(A)が相互に均一に相溶しているエポキシ樹脂組成物(E)が好ましい。
また、強化繊維などを配合する前のエポキシ樹脂組成物(E)は完全に溶解又は均一な液状となっていることが望ましいが、例えば、気泡を含まない状態でガラス製シャーレに厚さ2mmになるように溶融混合物を入れて厚み方向のヘイズ値を測定した場合において、その厚み方向のヘイズ値が30%未満であれば、重合反応に影響しない水準まで溶解又は均一な液状となったものと判断する。ヘイズ値についてより好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満である。なお、ヘイズ値の測定方法は実施例に記載の条件に従う。
【0035】
ジエステル系化合物(B2)としては、例えば、下記式(3)で示される化合物が挙げられる。
【化4】
ここで、X、Y、Y及びYは上記式(2)のX、Y、Y及びYと同義である。
【0036】
ジエステル系化合物(B2)は、リン含有化合物であってもよく、リン含有合物としては、例えば、下記式(4)で示される環状リン含有化合物(DOPO-HQ)のジアセチル化物などが挙げられる。
【化5】
【0037】
エポキシ樹脂組成物(E)に難燃性を付与する場合、そのリン含有率は、エポキシ化合物(A)と化合物(B)の総量に対して、1重量%以上6重量%以下が好ましく、1.5重量%以上5重量%以下がより好ましく、2重量%以上4重量%が更に好ましい。また、エポキシ樹脂組成物(E)にはエポキシ化合物(A)、化合物(B)以外のリン含有化合物(例えば、赤燐など)を配合してもよい。
【0038】
また、2官能エポキシ化合物(A)、2官能化合物(B)のいずれとも反応する活性基を持たず、単体では重合反応を阻害しない不純物成分についても、量が多くなると重合後の分子量が小さくなる恐れがある。そのため、2官能エポキシ化合物(A)及び2官能化合物(B)のいずれに対しても2重量%以下であることが好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂組成物(E)は、重合触媒(C)として、下記一般式(1)で表されるホスホニウム塩を少なくとも1種を必須成分として含有する。ホスホニウム塩は、2官能エポキシ化合物(A)と2官能化合物(B)との反応の重合触媒として作用する。
【化6】
【0040】
式(1)において、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表し、同一の基であっても異なる基であってもよい。アルキル基は、炭素数1~12が好ましく、炭素数1~4がより好ましい。アリール基は、炭素数6~10が好ましく、フェニル基がより好ましく、アラルキル基は、炭素数7~12が好ましい。
Zは酸素原子(O)又は硫黄原子(S)である。
【0041】
重合触媒(C)としては、例えば、トリブチル(メチル)ホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリブチル(エチル)ホスホニウム・ジエチルホスフェート、メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(例えば、ヒシコーリン PX-4MP(日本化学工業株式会社製)など)、メチルトリオクチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウム・o,o-ジエチルホスホロジチオエート(例えば、ヒシコーリン PX-4ET(日本化学工業株式会社製)など)などが挙げられる。これらのホスホニウム塩は、1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
重合触媒(C)の配合量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、0.5~10重量部であることが望ましい。本発明の重合触媒(C)の量を増加させても、可使時間を十分に確保でき、かつ現場重合に要する時間を大幅に短縮可能である。0.5重量部未満である場合は、現場重合において時間がかかってしまうために生産性が低下する恐れがあるほか、目標の分子量に到達するまでに何らかの理由で失活する恐れがある。一方、10重量部を超える場合は、重合反応が速やかに進行する一方で貯蔵安定性を損なってプロセス適合性に問題が発生する恐れがあり、反応に関与するが骨格には取り込まれない成分であるため、重合後の物性を損なう恐れがあるほか、単純に高価であるため、経済的にも不利益である。より好ましくは0.5~5.0重量部、更に好ましくは0.5~3.0重量部である。可使時間と重合時間とのバランス等を総合的に考慮して、適宜選択できる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物(E)は、有機溶剤を含有しないことが望ましいが、必要に応じて、重合触媒(C)の溶媒として又は粘度調整のために、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、エポキシ化合物(A)と化合物(B)との反応を阻害しないものであれば特に限定されるものではないが、入手のし易さから、炭化水素系、ケトン系、エーテル系が好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。ただし、反応中に有機溶剤が多量に存在すると重合反応を阻害し、重合物中に有機溶剤が残存すると機械物性や耐熱性を悪化させる。このため、有機溶剤を配合する場合、その割合は、エポキシ樹脂組成物中の10重量%以下であり、5重量%以下が好ましく、2重量%以下が特に望ましい。
エポキシ樹脂組成物は、強化繊維への含浸性を維持するためには低粘度であることが望ましい。85℃に加温した際の粘度が、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下である。また、初期に測定した粘度の2倍になるまでの時間(粘度倍加時間)が、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上である。
【0044】
エポキシ樹脂組成物(E)の重合の進行状況は、重合物の重量平均分子量の推移で判断することがよい。重量平均分子量が増加傾向にある場合は、重合反応が完了していない可能性がある。エポキシ樹脂組成物から熱可塑性プラスチック重合物を得るための重合条件は、例えば、160℃で1時間以下の加熱条件であることが好ましく、より好ましくは30分以下の加熱が生産性に優れる為より好ましい。
【0045】
強化繊維含有エポキシ樹脂組成物の重合の進行状況も、同様に重合物の重量平均分子量の推移で判断することができる。強化繊維含有エポキシ樹脂組成物から繊維強化熱可塑性プラスチック重合物を得るための重合条件は、例えば、160℃で4時間以下の加熱条件であることが好ましく、より好ましくは2時間以下の加熱が生産性に優れる為より好ましい。
【0046】
エポキシ樹脂組成物(E)を重合することで得られる重合物の重量平均分子量(Mw)は30000以上200000以下である。重合物の重量平均分子量が範囲下限未満の場合、十分に重合が進行していない化合物を多く含むこととなり、機械的強度が悪化する恐れがある。一方、重合物の重量平均分子量が範囲上限超の場合、架橋反応が進行しており、熱可塑性が損なわれている恐れがある。好ましくMwは、30,000以上150,000以下、より好ましくは50,000以上100,000以下である。重合物のエポキシ当量は10000g/eq.以上であることが望ましい。エポキシ当量が10,000g/eq.未満であると、十分に重合が進行していない恐れがある。エポキシ当量は好ましくは20,000g/eq.以上、より好ましくは25,000g/eq.以上である。重合物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは140℃以上である。
【0047】
エポキシ樹脂組成物(E)は添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、ヒュームドシリカなどの充填剤、水酸化アルミニウムや赤燐などの難燃剤、コアシェルゴムなどの改質剤、キシレン樹脂などの粘度調整剤などが挙げられる。重合反応を安定させる観点から、添加剤は樹脂相とは異なるものが配合されることが望ましいが、反応に影響しない範囲において、可塑剤、相溶型の難燃剤が含まれていてもよい。
【0048】
エポキシ樹脂組成物(E)は、重合させることにより、熱可塑性プラスチックとなる。この熱可塑性エポキシ樹脂は繊維強化プラスチックの樹脂成分として優れる。
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維を混合又は含侵することにより得られる。また、プリプレグは下記のようにして得ることができる。
【0049】
エポキシ樹脂組成物(E)を、離型処理された紙又はプラスチックフィルムに塗工し、必要に応じて、離型処理されたカバーフィルムを付与することで、エポキシ樹脂組成物フィルムを得ることができる。離型紙や離形プラスチックフィルム、カバーフィルムに関しては公知のものを用いることができ、特に限定されるものではない。エポキシ樹脂組成物フィルムの厚さはプリプレグの設計厚さと樹脂比率によって定められるが、通常の厚さは1μm以上300μm以下である。1μm未満の場合、強化繊維をきれいに解繊しなければ繊維の目開きが目立ってしまう問題があり、300μmを超える場合は強化繊維に均一に含浸しにくくなる。好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0050】
本発明で使用する強化繊維(F)は、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維などのプラスチックを強化するためのものであり、特に限定されるものではない。また、繊維の形態についても繊維を引きそろえたUDシート、織物、トウ、チョップドファイバー、不織布、抄紙などが挙げられ、特に限定されるものではない。ただし、含浸性の観点から、それぞれの繊維束の厚みは1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。
【0051】
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、又はプリプレグは、上記エポキシ樹脂組成物及び/又はエポキシ樹脂組成物フィルムと強化繊維から得られる。強化繊維とエポキシ樹脂組成物の比率は重量比で、好ましくは5:5~8:2である。樹脂含有率(Rc)でいえば、20~50重量%であり、強化繊維の割合を高めることが可能であり、必要であればRcを35重量%以下にすることもできる。強化繊維の比率が、強化繊維が少なすぎると繊維強化材料に求められる強度を十分に満足できない恐れがあり、強化繊維が多すぎるとボイドなどの欠陥が生じる恐れがある。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。
【0053】
実施例において用いた原料、重合触媒、溶媒、強化繊維は以下のとおりである。
【0054】
[エポキシ化合物]
A1:テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX4000、エポキシ当量186g/eq.)
A2:ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、ESF-300、エポキシ当量250g/eq.)
【0055】
[フェノール化合物、エステル系化合物]
B1:ビスフェノールA(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、水酸基当量114g/eq.)
B2:4,4’-ビス(3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール(本州化学工業株式会社製、BisP-HTG、水酸基当量155g/eq.)
【化7】
B3:10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(三光株式会社製、HCA-HQ、下記構造式、水酸基当量162g/eq.)
【化8】
B4:合成例1で得られたジエステル系化合物(10-(2,5-ジアセトキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、式(4)で表されるリン含有化合物、リン含有率7.6%、アセチル基当量204g/eq.)
【化9】
【0056】
[重合触媒]
C1:メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン PX-4MP)
【化10】
C2:テトラブチルホスホニウム・o,o-ジエチルホスホロジチオエート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン PX-4ET)
【化11】
C3:2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ-[1,2-a]ベンズイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール TBZ)
【化12】
【0057】
[その他]
D:シクロヘキサノン(試薬一級、富士フィルム和光純薬株式会社製)
E:PAN系炭素繊維(東レ株式会社製、トレカ T700-12K-60E)
【0058】
実施例における評価方法は以下のとおりである。
(1)相溶性:
フェノール化合物がエポキシ化合物中に均一に溶融しているかどうかはヘイズ値により判断した。具体的には、エポキシ樹脂組成物を無色透明のガラス製シャーレに厚み2mmになるように入れ、村上色彩技術研究所製のヘイズ標準板を参考に、ヘイズ値を「5%未満(<5)」「5%以上10%未満(<10)」「10%以上20%未満(<20)」「20%以上30%未満(<30)」「30%以上(30<)」の5段階で評価した。ヘイズ値が30%未満であれば、フェノール化合物がエポキシ化合物中に均一に溶解していると判断できる。
【0059】
(2)粘度及び粘度倍加時間:
JIS K6870規格及びJIS K5600-2-3規格に準拠して、85℃での粘度及び粘度倍加時間を測定した。具体的には、MCR 102(アントンパール社製)を用いて測定した。測定周波数3Hz、負荷歪1% 20mm直径の平プレート、プレート間ギャップは0.5mmの条件で、85℃に加温した際の粘度を測定した。また、85℃に保温した際、初期に測定した粘度の2倍になるまでの時間を計測し、粘度倍加時間とした。60分以上保温しても初期粘度の2倍未満である場合は、十分な潜在性があると判断できる為、測定時間は60分までとし、その場合は「60<」と表記した。
【0060】
(3)分子量:
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をGPC測定により求めた。具体的には、本体HLC8320GPC(東ソー株式会社製)にカラム(TSKgel SuperH-H、SuperH2000、SuperHM-H、SuperHM-H、以上東ソー株式会社製)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用し、1.0mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料は固形分で0.1gを10mLのTHFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを使用し、注入量は50μLとした。標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、PStQuick A、PStQuick B、PStQuick C)より求めた検量線より換算して、Mw、Mnを求めた。なお、データ処理は東ソー株式会社製GPC8020モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0061】
(4)ガラス転移温度(Tg):
JIS K7121規格に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC・Tmg(ガラス状態とゴム状態の接線に対して変異曲線の中間温度)の温度で表した。
【0062】
(5)溶剤溶解性:
100mLのバイアル瓶に試料1gと、50mLのテトラヒドロフランを加え、室温で超音波拡散を1時間行った後、23時間以上室温で静置して溶解した。重合物が溶剤に溶解し、固形物が観察されない場合は溶剤溶解性を〇と評価した。一部溶け残りが生じ、ゲル状態として観察される場合は△とした。重合物が溶剤に溶解しない場合は×とした。
【0063】
(6)曲げ強度及び曲げ弾性率:
JIS K7074規格に従って3点曲げ試験(A法)にて、90度方向で測定した。試験機は(島津サイエンス製オートグラフAGS-X)を使用し、サンプルの寸法は厚さ2mm、長さ100mm、幅15mmとし、曲げスパンは70mmとし、試験速度1mm/minにて試験を実施した。
【0064】
合成例1(エステル系化合物)
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、2官能フェノール化合物B3を162部、無水酢酸を105部、ピリジンを79部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら60℃まで昇温し、2時間反応を行った。その後、150℃、1.3kPa(10torr)の条件で2時間減圧乾燥を行い、上記式(4)で表されるリン含有化合物B4を203部得た。
【0065】
合成例2(前駆体混合物)
A1を722部、A2を971部、B1を500部、B2を500部、それぞれはかりとり、ヘンシェルミキサーを用いて粉砕混合した。続いてバレル温度を190℃に予熱したS1KRCニーダー(株式会社栗本鐵工所製)を用いて溶融混合を行い、金属缶に全量回収し、撹拌しながら85℃まで冷却して、エポキシ樹脂組成物の前駆体混合物(F1)を得た。
【0066】
合成例3(前駆体混合物)
A1を1356部、A2を0部、B1を300部、B2を700部に変更した以外は、合成例2と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の前駆体混合物(F2)を得た。
【0067】
合成例4(前駆体混合物)
A1を1136部、A2を0部、B1を280部、B4を720部に変更した以外は、合成例2と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の前駆体混合物(F3)を得た。前駆体混合物(F3)のリン含有率は2.6%であった。
【0068】
合成例2~4の配合(重量部)を、表1にまとめて示す。
【表1】
【0069】
実施例1(エポキシ樹脂組成物)
予めC1(重合触媒)1部を50℃に加温して溶融状態にした。85℃に設定したプラネタリーミキサーに前駆体混合物(F1)を100部入れ、先の重合触媒を加えて混合した。混合後は速やかに抜き出して、直ちに40℃以下に冷却して、エポキシ樹脂組成物(G1)を得た。
【0070】
エポキシ樹脂組成物(G1)について、ヘイズ値(相溶性)を測定したところ、5%以上10%未満(<10)であり、均一に溶解していると判断した。85℃での粘度を測定したところ、5.5Pa・sであり、粘度倍加時間は60分以上であった。
【0071】
得られたエポキシ樹脂組成物(G1)を85℃に加温撹拌して、あらかじめクリアランスを4mmにセットした鉄製クロムメッキ金型容器に流し込み、熱風循環式オーブン内で160℃、60分間熱重合を行い、熱可塑性樹脂である重合物(H1)を得た。得られた重合物のMwは61,000であり、Mnは12,000であり、ガラス転移温度は148℃であり、溶剤溶解性は〇であった。
【0072】
実施例2~5、比較例1~3(エポキシ樹脂組成物)
表2の処方の配合量(部)で配合し、実施例1と同様の操作で、エポキシ樹脂組成物(G2~G8)及び重合物(H2~H8)を得た。実施例1と同様の測定を行い、その評価結果を表1に示した。なお、表中においてD(有機溶剤)に値があるものは、予め重合触媒を有機溶剤に溶解した状態で用いた。得られたエポキシ樹脂組成物及び重合物(G2~G8、H2~H8)について、実施例1と同様の測定を行い、その結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例6
85℃に予熱したホットプレートの上に離型処理された離型紙を、離型面が上になるように固定し、実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物(G1)を離型紙上に乗せてから、85℃に予熱したバーコーターを用いて樹脂の面積重量が79g/mになるように塗工した。塗工後直ちにホットプレート上から取り外し空冷して、エポキシ樹脂組成物シートを得た。
続いて、得られたエポキシ樹脂組成物シート上に、繊維の面積重量が153g/mとなるように炭素繊維(E)を貼り合わせ、90℃に予熱したホットプレスを用いて面圧が0.5MPaになるように圧力を加え、1分後に取り出して空冷して、Rc=34%のプリプレグ(I1)を得た。
【0075】
プリプレグ(I1)を繊維の配向方向を同一にして13枚積層した後、離型フィルムを上下面に貼り付け、厚さ3mmのアルミ板で挟み込んだ。プリプレグを挟み込んだアルミ板とカプラーをバグフィルムで包み込んだのち、カプラーと真空ポンプを接続し、バグフィルム内の空気を脱気した。あらかじめ160℃に予熱している熱風循環式オーブンにバグを静置し、真空引きを維持したまま硬化を実施し、厚さ2mmの一方向繊維強化プラスチック(J1)を成型した。なお、硬化温度は160℃、硬化時間は120分とした。
【0076】
得られた一方向強化繊維プラスチック(J1)の樹脂成分について分子量を測定した結果、Mwは67,000、Mnは10,000であった。一方向強化繊維プラスチックのガラス転移温度(Tg)を測定した結果、148℃であった。曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した結果、78MPa、7.2GPaであった。
【0077】
実施例7~12、比較例4~6
実施例6と同様の手順により、表3の条件で成型を行うことで、一方向繊維強化プラスチック(J2~J8)を得た。実施例6と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、繊維強化プラスチック(FRP)の母材樹脂として用いることで、耐熱性が高く、可使時間が十分に長く、重合性に優れる高機械物性の熱可塑性CFRPを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、繊維強化プラスチック(FRP)の母材樹脂として有用であり、特に現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂用途に好適である。