IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2024-54634有機光電変換素子の製造方法及び有機光電変換素子
<>
  • 特開-有機光電変換素子の製造方法及び有機光電変換素子 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054634
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】有機光電変換素子の製造方法及び有機光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240410BHJP
【FI】
H01L31/04 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160985
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中林 千浩
(72)【発明者】
【氏名】中根 茂
(72)【発明者】
【氏名】中山 英典
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151BA11
5F151CB11
5F151CB24
5F151CB29
5F151DA07
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151FA07
5F151GA02
5F151GA03
5F251AA11
5F251BA11
5F251CB11
5F251CB24
5F251CB29
5F251DA07
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251FA06
5F251FA07
5F251GA02
5F251GA03
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】有機光電変換素子の耐熱性を高める。
【解決手段】第1電極11、正孔輸送層12(キャリア輸送層)、有機光電変換層13、及び第2電極15がこの順で積層された有機光電変換素子10を製造する方法であって、正孔輸送層12上に、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む有機半導体インク組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を150℃以上300℃以下で加熱して有機光電変換層13を得る熱アニール処理工程と、熱アニール処理工程の後に、第2電極15を形成する第2電極形成工程とを有する、有機光電変換素子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、キャリア輸送層、有機光電変換層、及び第2電極がこの順で積層された有機光電変換素子を製造する方法であって、
前記キャリア輸送層上に、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む有機半導体インク組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を150℃以上300℃以下で加熱して前記有機光電変換層を得る熱アニール処理工程と、
前記熱アニール処理工程の後に、前記第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する、有機光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記熱アニール処理工程における加熱時間が1秒間以上30分間以下である、請求項1に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記熱アニール処理工程において、前記キャリア輸送層側から前記塗膜を加熱する、請求項1に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記キャリア輸送層が正孔輸送層である、請求項1に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記熱アニール処理工程と前記第2電極形成工程の間に、前記有機光電変換層と前記第2電極との間に電子輸送層を形成する工程を有する、請求項4に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記p型有機半導体が高分子化合物である、請求項1に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記n型有機半導体が、分子量が100~5000の有機化合物である、請求項1に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の有機光電変換素子の製造方法により製造された有機光電変換素子であって、200℃の温度条件で50分間保持する耐熱性試験の実施後の外部量子効率をEa、前記耐熱性試験の実施前の外部量子効率をEbとするとき、下記式で表されるEQE維持率が70~100%である、有機光電変換素子。
EQE維持率=Ea/Eb×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子の製造方法、及び前記製造方法で得られる有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
入射された光のエネルギーを電気エネルギーに変換する有機光電変換膜は、太陽電池や光センサ(光ダイオード)などの有機光電変換素子への適応が期待されている。
有機光電変換膜については、従来、電子ドナー性半導体(p型有機半導体)である共役系ポリマーと、電子アクセプター性半導体(n型有機半導体)となるPCBMに代表されるフラーレン誘導体との混合物からなるバルクへテロジャンクション(BHJ)構造を膜中に形成させることが、高性能な有機光電変換膜を得ることに有望とされ、最大で11%程度の光電変換効率(PCE)を持つ有機太陽電池が報告されている。
近年では、フラーレン誘導体に代わって、非フラーレン型アクセプターと呼ばれる低分子アクセプターを用いることにより、更なるPCEの向上が可能であることが報告され、例えば、太陽光からのエネルギー変換効率が18%を超えるものも報告されている。
【0003】
有機光電変換素子の光電変換特性には、p型有機半導体とn型有機半導体とからなるBHJ型光電変換層の相分離構造(p型有機半導体とn型有機半導体との相溶性)が重要な役割を担っている。BHJ構造では膜中に概ね10~100nm程度のサイズでp型半導体とn型半導体がそれぞれ共連続のドメインを有することが理想的であるとされる。これは、有機半導体における励起子の拡散長によって主に決定される。このような分離構造を有するためには、BHJ構造を構成するp型半導体とn型半導体との相溶性が低く、過剰に混合しないことが求められる。一方で、このような低い相溶性は、時間の経過や加熱による分子拡散を通じた相分離サイズの成長を促し、結果として理想的なサイズよりも大きなドメインサイズへの成長に至る。マイクロメートルサイズにまで成長し得るこのような相分離は、光電変換特性の低下や、イメージセンサの画素間の特性バラツキが生じるなど、実用上の問題を引き起こす。
【0004】
有機光電変換素子には、素子製造におけるリフロー工程時などの加熱環境に耐えうる耐熱性が必要とされている。しかしながら、一般的に、BHJ型光電変換層は、素子製造時に想定される加熱環境に耐えうる十分な耐熱性を有していない。その結果、BHJ型光電変換層内でp型有機半導体とn型有機半導体のドメインサイズの成長が起こることで光電変換特性の低下が生じる。
このような背景のもと、有機光電変換膜のBHJ構造の安定化による耐熱性の改善に向けて様々な検討がなされてきた。
【0005】
非特許文献1では、架橋基を導入したp型半導体を用いて光電変換層に架橋構造を形成することでBHJ構造の安定性を改善する方法が示されている。
【0006】
非特許文献2では、P3HT(poly(3-hexylthiophene))とPCBMから成る光電変換層に熱架橋性モノマーOBOCO(octane-1,8-diylbis(1,4-dihydrobenzo[d][1,2]oxathiine-6-carboxylate-3-oxide))を添加し光電変換層を熱硬化させることで、光電変換層の耐熱性を改善することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Materials Today・Volume 18,Number 8・October 2015, 425-435頁
【非特許文献2】J.Mater.Chem.A,2013,1, 4589-4594頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、架橋基を有する有機半導体を新たに開発する必要がある。また、非特許文献2の熱硬化性モノマーOBOCOの硬化反応にはフラーレン誘導体が必須であり、本手法を用いる場合、光電変換層の半導体材料の選択に制限が生じる。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、新たな有機半導体を開発しなくとも、p型有機半導体及びn型有機半導体に対して添加物を添加しなくとも、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができる、有機光電変換素子の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、有機光電変換素子の製造工程において、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む塗膜に対して、特定の条件で熱アニール処理を施すことにより、有機光電変換素子の耐熱性を向上できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1]第1電極、キャリア輸送層、有機光電変換層、及び第2電極がこの順で積層された有機光電変換素子を製造する方法であって、前記キャリア輸送層上に、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む有機半導体インク組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を150℃以上300℃以下で加熱して前記有機光電変換層を得る熱アニール処理工程と、前記熱アニール処理工程の後に、前記第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する、有機光電変換素子の製造方法。
[2]前記熱アニール処理工程における加熱時間が1秒間以上30分間以下である、[1]に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[3]前記熱アニール処理工程において、前記キャリア輸送層側から前記塗膜を加熱する、[1]又は[2]に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[4]前記キャリア輸送層が正孔輸送層である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[5]前記熱アニール処理工程と前記第2電極形成工程の間に、前記有機光電変換層と前記第2電極との間に電子輸送層を形成する工程を有する、[4]に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[6]前記p型有機半導体が高分子化合物である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[7]前記n型有機半導体が、分子量が100~5000の有機化合物である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子の製造方法。
[8]前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の有機光電変換素子の製造方法により製造された有機光電変換素子であって、200℃の温度条件で50分間保持する耐熱性試験の実施後の外部量子効率をEa、前記耐熱性試験の実施前の外部量子効率をEbとするとき、下記式で表されるEQE維持率が70~100%である、有機光電変換素子。
EQE維持率=Ea/Eb×100
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の有機光電変換素子の実施形態の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0014】
<有機光電変換素子>
図1は、本実施形態の有機光電変換素子の一例を示す模式的断面図である。この有機光電変換素子10は、第1電極11、正孔輸送層12、有機光電変換層(以下、単に「光電変換層」ともいう。)13、電子輸送層14、及び下部電極としての第2電極15がこの順で積層されている。正孔輸送層12、光電変換層13及び電子輸送層14で有機光電膜20を形成する。通常、第1電極11の正孔輸送層12とは反対側には基板が設けられる。
図1の有機光電変換素子は、キャリア輸送層として、第1電極11と有機光電変換層13との間に正孔輸送層12を有し、有機光電変換層13と第2電極15との間に電子輸送層14を有するが、本実施形態の有機光電変換素子は、キャリア輸送層を1層有していればよい。
【0015】
<基板>
有機光電変換素子は、電極や各層を支持するために、基板を備えていてもよい。基板は、第1電極側、第2電極側のいずれに設けられていてもよく、両側に設けられてもよいが、少なくとも、第1電極側に設けられていることが好ましい。
基板は、任意の材料により形成することが可能であるが、光を基板側から入射する場合は、透明性の高い材料で形成する必要がある。
【0016】
基板の構成材料の例を挙げると、ガラス、サファイア、チタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料;紙、合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料などが挙げられる。なお、基板の構成材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0017】
また、基板の形状及び寸法に制限はなく、任意に設定することができる。
更に、基板には、ガスバリア性の付与や表面状態の制御のために、別の層が積層されていてもよい。
【0018】
基板の厚さは、有機光電変換素子の用途、構成材料等に応じて任意に設計可能であるが、支持部材としての強度の点では厚いことが好ましく、また、一方でコストの点では薄いことが好ましい。そこで、通常10μm~50mm程度のフィルム状乃至板状の基板を用いる。
【0019】
<電極>
電極(第1電極、第2電極)は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。
【0020】
電極の構成材料の例を挙げると、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその複合酸化物(例えばITO、IZO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加したもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。なお、電極の構成材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0021】
有機光電変換素子において、電極は少なくとも一対(2個)設けられ、この一対の電極の間に光電変換層が設けられる。この際、一対の電極のうち、少なくとも一方は透明(即ち、発電のために光電変換層が吸収する光を透過させる)ことが好ましい。透明な電極の材料を挙げると、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の複合酸化物;金属薄膜などが挙げられる。また、この際、光の透過率の具体的範囲に制限は無いが、有機光電変換素子の光電変換効率を考慮すると、80%以上が好ましい。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。
【0022】
電極は、光電変換層内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。従って、電極の構成材料としては、上述した材料のうち、正孔及び電子を捕集するのに適した構成材料を用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、アルミニウム(Al)のような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0023】
電極の厚さには特に制限はなく、用いた材料と、必要とされる導電性、透明性等を考慮して適宜決定されるが、通常10nm~100μm程度である。
【0024】
<正孔輸送層>
正孔輸送層の構成材料としては、公知の正孔輸送物質を用いることができる。具体的な正孔輸送物質としては、下記化学式で示したポリトリアリールアミン化合物等の正孔輸送性高分子などが例示できる。
その他、例えば、特開2019-173032号公報に記載の2,7-ビス(4-ブロモフェニル)-9,9-ジヘキシルフルオレン、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレン、4-(4-(1,1-ビス(4’-ブロモ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)エチル)フェニル)-1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレンから合成したポリトリルアリールアミン化合物、4,4’-ジブロモビフェニル、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレン、3-(1,2-ジヒドロキシシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)アニリンから合成したポリトリアリールアミン化合物、4,4’-ジブロモビフェニル、4-(3,5-ジブロモフェニル)-1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレンから合成したポリトリアリールアミン化合物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
正孔輸送層の膜厚は、一実施形態では50nm以上100nm以下であり、別の実施形態では100nmより大きく400nm以下、好ましくは350nm以下である。即ち、50nm以上400nm以下、好ましくは50nm以上350nm以下である。
正孔輸送層の膜厚は、ブロッキング層として正孔輸送層を設けたことによる暗電流の低減効果を発現しやすい点では厚いことが好ましい。また、一方で、有機光電変換素子を利用したCMOSイメージセンサにおいて、光の入射角を広くとることが可能であり、また、有機光電変換素子の薄膜化をはかることができる点では、薄いことが好ましい。
【0029】
暗電流を効果的に低減するために、正孔輸送層は光電変換層のn型有機半導体に対して0.3eV以上浅いLUMO(最低空分子軌道)を有していることが好ましく、0.5eV以上浅いLUMOを有していることが好ましく、1.0eV以上浅いLUMOを有することが更に好ましい。また、正孔輸送層は光電変換層で発生した正孔を効率よく第1電極へと運ぶ役割を果たすことから、光電変換層のp型有機半導体とのHOMO(最高被占分子軌道)の差が0.5eV以内であることが好ましく、0.3eV以内であることが好ましい。
【0030】
<光電変換層>
光電変換層は、光を吸収して電荷を分離する層である。本実施形態の光電変換層は、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む。
光電変換層の膜厚は、光電変換層の構成や有機光電変換素子の用途に応じて任意に設計できるが、光吸収が十分で効率が高くなりやすい点では厚いことが好ましく、また、一方で、内部抵抗が軽減され損失が小さくなる点では薄いことが好ましい。そこで、通常10nm~1μm程度とする。
【0031】
<p型有機半導体>
p型有機半導体は、特に限定されず公知の化合物を用いることができる。好ましくはドナー性の有機半導体(化合物)である。
p型有機半導体は高分子化合物が好ましい、例えばp型共役高分子化合物である正孔輸送性有機化合物が挙げられ、電子を供与しやすい性質を有する高分子化合物を用いることができる。
本明細書において、高分子化合物とは、分子量分布を有し、サイズ排除クロマトグラフィーにより求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が10000以上である重合体を意味する。
【0032】
p型有機半導体は、正孔輸送性に優れる骨格を有する化合物が好ましい。
正孔輸送性に優れる骨格としては、具体的には、カルバゾール構造、チオフェン構造、ベンゾジチオフェン構造、チエノチオフェン構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造などが挙げられる。
これらのうち、特に後述するn型有機半導体と混合して塗布する方法により膜を形成できる化合物が好ましい。
【0033】
p型有機半導体は、具体的には、例えば、下記式(II)で表される高分子化合物が好ましい。なお、式(II)中、nは正の数である。
【0034】
【化4】
【0035】
本実施形態で用いるp型有機半導体の重量平均分子量は、p型半導体としての特性が発現しやすいことから、10000以上が好ましく、50000以上が更に好ましい。また上限は溶媒への溶解性の面から、150000が好ましく、100000が更に好ましい。
前記重量平均分子量が高いと有機光電変換素子特性が高くなりやすく、また、一方で、低いと溶媒への溶解性に優れる。
本明細書において、p型有機半導体の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより求めた値とする。
【0036】
<n型有機半導体>
n型有機半導体は、アクセプター性半導体であり、主に電子輸送性化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある化合物をいう。更に詳しくは2つの化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の化合物をいう。従って、アクセプター性化合物は、電子受容性のある化合物であればいずれの化合物も使用可能である。
【0037】
n型有機半導体は、分子量が100~5000の有機化合物が好ましい。分子量は500~4000がより好ましく、1000~3000が更に好ましい。分子量が高いとp型有機半導体とのBHJ構造形成能に優れ、また、一方で、低いと溶媒への溶解性に優れる。
【0038】
n型有機半導体としては、具体的には、例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。
これに限らず、上記したように、ドナー性半導体として用いた化合物よりも電子親和力の大きな化合物であればアクセプター性半導体として用いてよい。
【0039】
n型有機半導体としてフラーレン骨格を有するものを用いると、光電変換効率を高めるためにバルクヘテロ接合構造としても、嵩高いフラーレン骨格の存在でn型有機半導体とp型半導体との距離が離れてしまい、光電変換効率が低下してしまう可能性がある。
従って、本実施形態におけるn型有機半導体は、フラーレン骨格を有するn型有機半導体の割合がフラーレン骨格を有さないn型有機半導体に対して10質量%以下であることが好ましく、n型有機半導体中にフラーレン骨格を有するものが実質的に含まれていないフラーレン骨格非含有半導体であることがより好ましい。
ここで、「フラーレン骨格を実質的に含まない」とは、光電変換層において発生した電荷の内、電子の輸送を非フラーレン型のn型有機半導体が担うという意味であり、光電変換層のモルフォロジーの改善のために少量含有することはあり得る。そのような目的においては、通常、フラーレン骨格を含むn型有機半導体は、フラーレン骨格を有さない非フラーレン型のn型有機半導体に対して5質量%以下で含有されており、好ましくはこの割合は2質量%以下である。
【0040】
本実施形態で用いるn型有機半導体は、特にp型有機半導体との相溶性およびBHJ型光電変換層形成能の観点から、下記式(I)で表される化合物及び下記式(I)で表される化合物の2以上の多量体少なくとも何れかの化合物を含むことが好ましい。
【0041】
【化5】
【0042】
(上記式(I)中、Aは周期表第14族から選ばれる原子を表し、X~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子を表す。R1a,R1bは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルコキシ基、直鎖又は分岐のチオアルキル基、或いは水素原子を表す。)
【0043】
上記式(I)中、Aは好ましくは炭素原子又はケイ素原子である。
~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子であり、ハロゲン原子としてはフッ素原子又は塩素原子が好ましい。
1a,R1bは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐のアルキル基であり、該アルキル基の炭素数は8~24、特に10~20、とりわけ12~18であることが好ましい。
【0044】
炭素数8~24の直鎖又は分岐のアルキル基としては、n-オクチル基、n-デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等の直鎖アルキル基;2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の分岐を有する1級アルキル基;2-オクチル基、2-ノニル基、2-デシル基等の2級アルキル基;等が挙げられる。これらのうち、直鎖アルキル基又は分岐を有する1級アルキル基が好ましく、とりわけ2-エチルヘキシル基又は2-ブチルオクチル基であることが好ましい。
【0045】
~Rは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルコキシ基、直鎖又は分岐のチオアルキル基、或いは水素原子であり、該アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基の炭素数は8~24、特に10~20、とりわけ12~18であることが好ましい。
~Rとしては、それぞれ独立して、炭素数8~24のアルコキシ基であることが好ましく、具体的には2-エチルヘキシルオキシ基又はパルミチルオキシ基が挙げられる。
【0046】
p型有機半導体との相溶性およびBHJ型光電変換層形成能の観点からR1aとR1bは同じ基であることが好ましく、R~Rは2種類以上の異なる基で構成されることが好ましい。
【0047】
<p型有機半導体及びn型有機半導体の含有割合>
光電変換層に含まれるp型有機半導体とn型有機半導体の割合に関して、p型有機半導体に対するn型有機半導体の質量比(n型有機半導体/p型有機半導体質量比)は、有機光電変換素子の感度の点では大きいことが好ましく、また、一方で、暗電流が発生し難い点では小さいことが好ましい。そこで、具体的には、n型有機半導体/p型有機半導体質量比は0.5~2.5であることが好ましく、1.0~2.0であることがより好ましい。
【0048】
<その他の成分>
光電変換層には、前述のp型有機半導体及びn型有機半導体の他、必要に応じたその他の成分が含まれてもよい。
例えば、光電変換層が、後述する有機半導体インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう)の塗膜を固化した固化膜である場合、インク組成物由来の成分を含んでもよい。
その他の成分の例としては、安定剤、粘度調整剤、硬化剤等が挙げられる。
光電変換層に含まれるその他の成分の合計含有量は10質量%以下であることが好ましい。
すなわち、光電変換層には、p型有機半導体とn型有機半導体が合計して90~100質量%含まれることが好ましい。
【0049】
<電子輸送層>
電子輸送層は、有機光電変換素子に必ずしも必要とされるものではないが、光電変換効率を高め、暗電流を低減しやすい点では、光電変換層と第2電極との間に電子輸送層を設けることが好ましい。
【0050】
電子輸送層は、光電変換層で生成した電子を効率よく第2電極に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、光電変換層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物が好ましい。
このために、電子輸送層は光電変換層のn型有機半導体とのLUMOの差が1.5eV以下であることが好ましく、1.0eV以下であることが好ましい。また、電子輸送層によって暗電流を低減させる場合、電子輸送層は光電変換層のp型半導体に対して0.3eV以上深いHOMOを有していることが好ましく、0.5eV以上深いHOMOを有していることがより好ましく、1.0eV以上深いHOMOを有していることが更に好ましい。
【0051】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0052】
また、電子輸送層の形成材料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウムなどの金属酸化物を用いることもできる。その場合、電子輸送層の成膜方法としては、金属酸化物のナノ粒子を湿式成膜して乾燥して金属酸化物層とする方法や、前駆体を湿式成膜して加熱変換する方法を用いることができる。
【0053】
電子輸送層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0054】
<有機光電変換素子の製造方法>
本実施形態の有機光電変換素子の製造方法は、キャリア輸送層上に、p型有機半導体及びn型有機半導体を含む有機半導体インク組成物の塗膜を形成する塗膜形成工程と、この塗膜を150℃以上300℃以下で加熱して前記有機光電変換層を得る熱アニール処理工程と、この熱アニール処理工程の後に、第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する。
【0055】
<有機半導体インク組成物>
本実施形態の有機光電変換層の製造に用いる有機半導体インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう)は、前述のp型有機半導体、前述のn型有機半導体、及び溶媒を含む。また、前述のその他の成分を含んでもよい。
インク組成物中におけるn型有機半導体/p型有機半導体の質量比は、光電変換層におけるn型有機半導体/p型有機半導体の質量比と同様である。
また、インク組成物中の全固形分量は、光電変換層の総質量と同じとみなすことができる。
【0056】
<溶媒>
本実施形態のインク組成物に含まれる溶媒は、p型有機半導体及びn型有機半導体を溶解できるものであればよい。例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族系含ハロゲン溶媒などの芳香族系溶媒;1,2-ジクロロエタン等の脂肪族含ハロゲン溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル系溶媒;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等のエステル系溶媒などが挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
これらの溶媒のうち、p型有機半導体およびn型有機半導体の溶解性の観点から芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0058】
<固形分濃度>
本実施形態のインク組成物の固形分濃度、即ち、インク組成物から溶媒を除いた全固形分の含有量は、10~40mg/mLが好ましく、15~30mg/mLがより好ましい。
インク組成物の固形分濃度が高いと光電変換層の成膜性に優れ、また、一方で、低いとインク組成物を容易に調製することができ、また、その取り扱い性に優れる。
【0059】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程において、インク組成物の塗膜を形成する方法は、スピンコート法等の公知の湿式成膜法を用いることができる。スピンコートの条件はインク組成物の粘度等を考慮して定法に従って適宜設定すればよい。
【0060】
<熱アニール処理工程>
熱アニール処理工程では、インク組成物の塗膜を150~300℃で加熱して有機光電変換層を得る。
【0061】
熱アニール処理の方法としては、例えば、ホットプレートを用いて直接的に加熱する方法、熱風加熱法、赤外線加熱法、フラッシュランプによる光加熱法などが挙げられる。
熱アニール処理工程において、キャリア輸送層側から塗膜を加熱することが好ましい。例えば、キャリア輸送層上に光電変換層が形成された積層体の、キャリア輸送層側の外面(光電変換層とは反対側の面)をホットプレートに接触させて加熱することができる。
本明細書において、「塗膜をキャリア輸送層側から加熱する」とは、キャリア輸送層上に光電変換層が形成された積層体の、キャリア輸送層側の外面(光電変換層とは反対側の外面)を、熱源(ホットプレート等)に接触させて加熱することを意味する。
【0062】
熱アニール処理工程における加熱温度は150~300℃であり、160~250℃が好ましく、180~220℃がより好ましい。加熱温度が高いと有機光電変換膜のBHJ構造の熱的安定性向上が見込める点で好ましく、また、一方で加熱温度が低いと材料の劣化を防ぐことができる点で好ましい。
熱アニール処理工程における加熱時間は、1秒間以上30分間以下が好ましく、10秒間以上25分間以下がより好ましく、1分間以上20分間以下がさらに好ましい。加熱時間が長いと有機光電変換膜のBHJ構造の熱的安定性向上が見込める点で好ましく、また、一方で加熱時間が短いと材料の劣化を防ぐことができる点で好ましい。
塗膜形成工程は、有機光電変換素子の特性向上の点から、正孔輸送層上に有機半導体インク組成物の塗膜を形成することが好ましい。
【0063】
塗膜中の溶媒は、熱アニール処理工程のみで除去してもよく、塗膜形成工程と熱アニール処理工程の間に、塗膜中の溶媒の一部又は全部を除去する乾燥処理工程を設けてもよい。
乾燥処理は、公知の加熱乾燥法や、公知の減圧乾燥法を用いて実施できる。
加熱乾燥法を用いた乾燥処理における加熱温度は通常150℃未満であり、60~140℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。
本明細書において、塗膜の熱アニール処理又は乾燥処理の加熱温度がt℃であるとは、塗膜の温度がt℃であることを意味する。
【0064】
<その他の前処理>
塗膜形成工程と第2電極形成工程の間に、熱アニール処理及び乾燥処理以外の他の前処理を行ってもよい。他の前処理としては、ソルベントアニール処理等が挙げられる。
ソルベントアニール処理は、光電変換層を特定の溶媒雰囲気下に暴露させる処理であり、公知の方法で行うことができる。
【0065】
<電子輸送層形成工程>
前述のとおり、本実施形態の有機光電変換素子は、電子輸送層を有することが好ましい。
本実施形態において、キャリア輸送層である電子輸送層を形成する工程は、熱アニール処理工程と第2電極形成工程の間に行うことが好ましい。
電子輸送層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により形成することができるが、通常、真空蒸着法が用いられる。
電子輸送層を形成する前に熱アニール処理を行うことにより、電子輸送層が高温の加熱処理に曝されるのを回避できる。
【0066】
<正孔輸送層形成工程>
前述のとおり、塗膜形成工程は、正孔輸送層上に有機半導体インク組成物の塗膜を形成することが好ましい。そこで、本実施形態において、塗膜形成工程の前に、正孔輸送層を第1電極上に形成する工程を設けることが好ましい。ここで、正孔輸送層と第1電極の間に別の層が設けられていてもよい。
正孔輸送層の製膜方法は特に限定されないが、好ましくは正孔輸送性高分子を用いて、湿式成膜法により形成することができる。
湿式成膜法による正孔輸送層の形成には、正孔輸送性高分子と溶剤とを含む正孔輸送層形成用組成物が用いられる。
【0067】
該溶剤は、正孔輸送性高分子を溶解すればよく、通常正孔輸送性高分子を常温で0.05質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上溶解する溶剤を用いることができる。溶剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが好ましい。
【0068】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0069】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
【0070】
正孔輸送層形成用組成物における正孔輸送性高分子の濃度は、本実施形態の効果を著しく損なわない限り任意であり、膜厚の均一性の点では低い方が好ましく、一方、正孔輸送層に欠陥が生じ難い点では高い方が好ましい。具体的には、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、一方、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0071】
また、正孔輸送層形成用組成物中の溶剤の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0072】
正孔輸送層形成用組成物を用いて正孔輸送層を成膜する場合、正孔輸送層形成用組成物の塗布後、通常加熱を行う。加熱の手法は特に限定されないが、加熱乾燥の場合の条件としては、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、また通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下に、正孔輸送層形成用組成物を用いて形成された層を加熱する。
加熱時間としては、通常1分間以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0073】
<電極形成工程>
電極(第1電極、第2電極)を形成する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、真空蒸着、スパッタ等のドライプロセス、又は導電性インク組成物等を用いたウェットプロセスが例示できる。
導電性インク組成物としては任意のものを使用することができ、例えば、導電性高分子、金属粒子分散液等を用いることができる。
電極は2層以上の電極層の積層体であってもよく、特性(電気特性やぬれ特性等)改良のための表面処理を施してもよい。
【0074】
<その他の構成層>
有機光電変換素子は、本実施形態の効果を著しく損なわなければ、上述した基板、第1及び第2電極、正孔輸送層、光電変換層及び電子輸送層以外の構成層を備えてもよい。
例えば、有機光電変換素子は、外気の影響を最小限にするために、光電変換層部分、更には電極部分を含めて覆うように保護膜を備えていてもよい。保護層は、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体、等のポリマー膜;酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜;あるいはこれらの積層膜などにより構成することができる。
【0075】
前記の保護膜の形成方法に制限はない。例えば、保護膜をポリマー膜とする場合には、ポリマー溶液の塗布乾燥による形成方法、モノマーを塗布或いは蒸着して重合する形成方法などが挙げられる。また、ポリマー膜の形成に際しては、更に架橋処理を行なったり、多層膜を形成したりすることも可能である。一方、保護膜を無機酸化膜や窒化膜等の無機物膜とする場合には、例えば、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法などを用いることができる。
【0076】
また、光電変換層で発生した電荷を効率よく電極に捕集させるために、第1電極と正孔輸送層との間、あるいは電子輸送層と第2電極との間に電荷注入層を備えていてもよい。
更に、有機光電変換素子は、例えば紫外線を透過させない光学フィルタを光の入射側に備えていてもよい。紫外線は一般に有機光電変換素子の劣化を促進することが多いため、この紫外線を遮断することにより、有機光電変換素子を長寿命化させることができるからである。
【0077】
<EQE維持率>
本実施形態の製造方法によれば、光電変換層に対して高温の熱アニール処理を施すことにより、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができる。
本実施形態の製造方法で得られる有機光電変換素子は、例えば、半田付け工程などの高熱に曝される工程を経ても、有機光電変換素子の光電変換特性(例えば、EQE)が低下し難い。
【0078】
具体的に、有機光電変換素子について、200℃の温度条件で50分間保持する耐熱性試験を行ったとき、耐熱性試験の実施後の外部量子効率をEa、耐熱性試験の実施前の外部量子効率をEbとすると、下記式で表されるEQE維持率が70~100%、好ましくは80~100%を達成することができる。上記高温での熱アニール処理を施すことにより、光電変換層のBHJ構造の熱的安定性が向上するためと考えられる。
EQE維持率=Ea/Eb×100
本明細書において、耐熱性試験の温度条件がT℃であるとは、塗膜の温度がT℃であることを意味する。
【0079】
なお、有機光電変換素子の構造は、例えば特開2007-324587号公報の記載などを参照することができ、図1の構造に限定されない。例えば、透明基板上に、透明電極、電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってよく、透明基板上に、透明電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってもよい。
上記実施形態では、正孔輸送層(キャリア輸送層)、光電変換層、電子輸送層(キャリア輸送層)の順に形成したが、電子輸送層(キャリア輸送層)、光電変換層、正孔輸送層(キャリア輸送層)の順に形成してもよい。
【0080】
<有機光電変換素子の用途>
本実施形態の光電変換素子は、光センサや撮像素子等に使用される。その場合の光センサ及び撮像素子の構成は、既知のものを適用すればよい。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0082】
<測定方法>
[耐熱性試験]
耐熱性試験は、素子製造におけるリフロー工程時などの加熱環境を想定した加熱試験であり、有機光電変換素子を200℃の温度条件に50分間保持する条件で実施した。
【0083】
[EQE維持率の測定方法]
擬似太陽光装置・電気特性測定機器(分光計器社製)による分光感度の測定から、波長940nmの光において、有機光電変換素子に-5Vの電圧を印加した際の外部量子効率(EQE)の値を得た。
上記の耐熱性試験前の外部量子効率Eb、及び耐熱性試験後の外部量子効率Eaをそれぞれ測定し、下記式によりEQE維持率(単位:%)を求めた。
EQE維持率=Ea/Eb×100
【0084】
<実施例1>
[正孔輸送層の形成]
ガラス基板上に電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)の透明導電膜がパターン成膜されたITO基板の表面を、紫外線オゾン洗浄機(NL-UV253、日本レーザー電子社製)で10分間処理した後に、正孔輸送層を次のように成膜した。
【0085】
下記式(1)に示すポリトリアリールアミン化合物(正孔輸送性高分子)60mgを1mLのアニソールに溶解させ、正孔輸送層形成用組成物を調製した。この組成物を回転数1000rpmで60秒間、ITO基板の電極面にスピンコートし、240℃で30分間加熱乾燥して、膜厚300nmの正孔輸送層を形成した。
【0086】
【化6】
【0087】
[有機半導体インク組成物の調製]
p型有機半導体は、前記式(II)で表される化合物(重量平均分子量80000)を用いて、n型有機半導体は、前記式(I)において、Aが炭素原子、X~Xがそれぞれ塩素原子、R1a,R1bがそれぞれ2-エチルヘキシル基、Rが2-エチルヘキシル基、Rが2-エチルヘキシルオキシ基、R,Rがそれぞれ水素原子である化合物(分子量1339)を用いた。
【0088】
p型有機半導体0.11g及びn型有機半導体0.13gを、o-キシレン9.68mLに溶解させて有機半導体インク組成物を調製した。
得られた有機半導体インク組成物において、p型有機半導体とn型有機半導体の質量比(n型有機半導体/p型有機半導体質量比)は1.2であり、有機半導体インク組成物の固形分濃度は25mg/mLであった。
【0089】
[有機光電変換素子の製造]
得られた有機半導体インク組成物を用いて、正孔輸送層上に毎分1000回転でスピンコートした後、210℃で10分間加熱処理(熱アニール処理)し、膜厚150nmの光電変換層を形成した。
【0090】
次いで、光電変換層上に、電子輸送材料としてC60フラーレン(フロンティアカーボン社製)を真空中で成膜し、厚さ40nmの電子輸送層を形成した。
更に、電子輸送層上に、金属電極材料としてアルミニウムを真空中で成膜し、厚さ100nmの電極層を形成して、有機光電変換素子を得た。
得られた有機光電変換素子について、上記の方法で耐熱性試験を行い、EQE維持率を求めた。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例2、3、比較例1>
実施例1において、熱アニール処理の条件を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして有機光電変換素子を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示されるように、実施例1~3は比較例1に比べてEQE維持率が向上し、有機光電変換素子の耐熱性が改善された。即ち、本発明の有機光電変換素子の製造方法により、耐熱性に優れる有機光電変換素子を製造できることが裏付けられた。また、実施例1~3を比べると、加熱温度が高くなるにしたがってEQE維持率が高くなった。
比較例1では、熱アニール処理後において、耐熱性試験過程でBHJ構造に急激な変化が生じた結果、EQE維持率が低くなったと考えられる。
一方、実施例1~3では、比較例1と比べて耐熱性試験過程でのBHJ構造の変化が抑制され、EQE維持率が向上したと考えられる。また、加熱温度が高くなるにしたがってBHJ構造の変化が効果的に抑制されたと考えられる。
特に、実施例1では、熱アニール処理後に安定なBHJ構造が充分に形成されたことで、耐熱性試験後のEQE低下が大きく緩和され、高いEQE維持率が達成されたと考えられる。
【符号の説明】
【0094】
10 有機光電変換素子
11 第1電極
12 正孔輸送層
13 光電変換層(有機光電変換層)
14 電子輸送層
15 第2電極
20 有機光電膜
図1