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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054817
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/08 20060101AFI20240410BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240410BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054192
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022160841
(32)【優先日】2022-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022193075
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千賀 実
(72)【発明者】
【氏名】菅 浩一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH091
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB276
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮できる組成物を提供する。
【解決手段】 下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、結合している塩素原子の量が10~10000質量ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、結合している塩素原子の量が10~10000質量ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化8】
【請求項2】
前記芳香族ポリエーテルが、塩素原子が結合している芳香族ポリエーテル(a-1)と、フッ素原子が結合している芳香族ポリエーテル(a-2)とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテルが、4,4’-ジクロロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(a-1’)と、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(a-2’)とを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【化9】
【請求項5】
前記無機フィラーの平均繊維長が0.5~20mmである、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記芳香族ポリエーテル100質量部に対する、前記無機フィラーの含有量が5~100質量部である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.81倍超である、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.65~5.00倍である、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量が10~10000質量ppmであり、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化10】
【請求項10】
下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量と芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量の合計に対する芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量の割合が、40~95質量%である芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化11】
【請求項11】
前記芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量が100~10000質量ppmであり、前記芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量が100~10000質量ppmである、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む、請求項9~11のいずれかに記載の組成物。
【化12】
【請求項13】
前記無機フィラーの平均繊維長が0.5~20mmである、請求項9~12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記芳香族ポリエーテル100質量部に対する、前記無機フィラーの含有量が5~100質量部である、請求項9~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.81倍超である、請求項9~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.65~5.00倍である、請求項9~14のいずれかに記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。
具体的には、本発明は、無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特定の重合触媒作用を有する成分を反応系中に存在させることにより製造された特定の芳香族ポリエーテルに、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸塩カルシウム、珪酸カルシウム等の強化材又は充填剤を混合して用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64-065129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1をはじめとする従来の技術には、無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮する観点でさらなる改善の余地が見出された。
【0005】
本発明の目的の1つは、無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮できる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の芳香族ポリエーテルに無機フィラーを配合した場合に、無機フィラーによる補強効果が効率的に発揮されることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の組成物を提供できる。
1.下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、結合している塩素原子の量が10~10000質量ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化1】
2.前記芳香族ポリエーテルが、塩素原子が結合している芳香族ポリエーテル(a-1)と、フッ素原子が結合している芳香族ポリエーテル(a-2)とを含む、1に記載の組成物。
3.前記芳香族ポリエーテルが、4,4’-ジクロロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(a-1’)と、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(a-2’)とを含む、1又は2に記載の組成物。
4.前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む、1~3のいずれかに記載の組成物。
【化2】
5.前記無機フィラーの平均繊維長が0.5~20mmである、1~4のいずれかに記載の組成物。
6.前記芳香族ポリエーテル100質量部に対する、前記無機フィラーの含有量が5~100質量部である、1~5のいずれかに記載の組成物。
7.引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.81倍超である、1~6のいずれかに記載の組成物。
8.引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.65~5.00倍である、1~6のいずれかに記載の組成物。
9.下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量が10~10000質量ppmであり、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化3】
10.下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量と芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量の合計に対する芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量の割合が、40~95質量%である芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む、組成物。
【化4】
11.前記芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量が100~10000質量ppmであり、前記芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量が100~10000質量ppmである、9又は10に記載の組成物。
12.前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む、9~11のいずれかに記載の組成物。
【化5】
13.前記無機フィラーの平均繊維長が0.5~20mmである、9~12のいずれかに記載の組成物。
14.前記芳香族ポリエーテル100質量部に対する、前記無機フィラーの含有量が5~100質量部である、9~13のいずれかに記載の組成物。
15.引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.81倍超である、9~14のいずれかに記載の組成物。
16.引張強度が、前記芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.65~5.00倍である、9~14のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮できる組成物を提供することができる。
これにより、例えば、組成物にある水準の強度を付与する場合に、従来の技術よりも無機フィラーの配合量を削減できる効果が得られる。無機フィラーの配合量を削減できることによって、組成物の粘度増加が抑制されて混練性が向上し、また、組成物を軽量化できる効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の組成物について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0009】
本発明の一態様(第1態様ともいう)に係る組成物は、
下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含み、結合している塩素原子の量が10~10000質量ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む。
【化6】
【0010】
本態様の組成物によれば、無機フィラーによる補強効果を効率的に発揮できる効果が得られる。
これにより、例えば、組成物にある水準の強度を付与する場合に、従来の技術よりも無機フィラーの配合量を削減できる効果が得られる。無機フィラーの配合量を削減できることによって、組成物の粘度増加が抑制されて混練性が向上し、また、組成物を軽量化できる効果も得られる。
【0011】
(芳香族ポリエーテル)
以下に、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれる塩素原子の量(Cl-2、「無機塩素の含有量」ともいう)及びこれら塩素原子の総量(Cl-3、「芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量」ともいう)の測定方法を説明する。また、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるフッ素原子の量(F-2、「無機フッ素の含有量」ともいう)及びこれらフッ素原子の総量(F-3、「芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量」ともいう)の測定方法についても説明する。さらに、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量及びナトリウム原子の量の測定方法についても説明する。
【0012】
<芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)の算出>
a.芳香族ポリエーテルについて全塩素量(*1:後述)を測定した結果から全塩素の含有量(質量ppm)(Cl-3)を算出する。
b.芳香族ポリエーテルについてカリウム量(*2:後述)の測定値からカリウムの含有量(質量ppm)を算出し、カリウムと等モル数の無機塩素(芳香族ポリエーテルに結合していない塩素原子)が含まれるとみなして、無機塩素の含有量(質量ppm)(Cl-2)を算出する。
c.全塩素の含有量(質量ppm)(Cl-3)から無機塩素の含有量(質量ppm)(Cl-2)を差し引くことで、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(質量ppm)(Cl-1)を算出する。
【0013】
<芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)の算出>
a.芳香族ポリエーテルについて全フッ素量(*1:後述)を測定した結果から全フッ素の含有量(質量ppm)(F-3)を算出する。
b.芳香族ポリエーテルについてナトリウム量(*2:後述)の測定値からナトリウムの含有量(質量ppm)を算出し、ナトリウムと等モル数の無機フッ素(芳香族ポリエーテルに結合していないフッ素原子)が含まれるとみなして、無機フッ素の含有量(質量ppm)(F-2)を算出する。
c.全フッ素の含有量(質量ppm)(F-3)から無機フッ素の含有量(質量ppm)(F-2)を差し引くことで、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(質量ppm)(F-1)を算出する。
【0014】
(*1)芳香族ポリエーテルにおける全塩素量(Cl-3)及び全フッ素量(F-3)の測定方法
試料(芳香族ポリエーテル)を燃焼炉内に導入し、酸素を含む燃焼ガス中で燃焼させ、発生したガスを吸収液に捕集させた後、その吸収液をイオンクロマトグラフにて分離定量する。定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。以下に測定条件を示す。
<試料燃焼>
燃焼装置:株式会社日東精工アナリテック製AQF-2100H
燃焼炉設定温度:前段800℃、後段1100℃
アルゴン流量:400ml/min
酸素流量:200ml/min
吸収液:過酸化水素水
<イオンクロマトグラフ>
分析装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Integrion
カラム:ガードカラムとして(Dionex IonPac AG12A)及び分離カラムとして(Dionex IonPac AS12A)を連結して使用(カラムは共にサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
溶離液:NaCO(2.7mmol/l)+NaHCO(0.3mmol/l)
流速:1.5ml/min
カラム温度:30℃
測定モード:サプレッサ方式
検出器:電気伝導度検出器
【0015】
(*2)芳香族ポリエーテルにおけるカリウム量及びナトリウム量(芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量及びナトリウム原子の量)の測定方法
芳香族ポリエーテルにおけるカリウム原子(K)及びナトリウム原子(Na)のそれぞれの含有量を、ICP発光分光分析法により以下の手順で芳香族ポリエーテルを前処理し、Naは589.592nm、Kは766.481nmで測定する。
白金皿に試料1gを秤量し、そこへ濃硫酸を添加後加熱して炭化処理を行い、次に電気炉へ白金皿を入れて550℃で12時間灰化処理を行う。
灰化処理の後、塩酸を添加後、加熱処理を行う。放冷後、超純水にて定容する。尚、試料が無機フィラーを含む場合は、灰化処理の後、フッ化水素酸を添加後、加熱乾固処理を行い、放冷後塩酸を添加し、加熱処理を行う。放冷後、超純水にて定容する。
定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。検量線溶液は試料溶液の塩酸濃度と同一とする。
【0016】
尚、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(質量ppm)(Cl-1)及び芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(質量ppm)(F-1)の算出に関して、芳香族ポリエーテルの合成時に用いたモノマー(反応物)である4,4’-ジフルオロベンゾフェノンや4,4’-ジクロロベンゾフェノンが芳香族ポリエーテルに残留している場合は、芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量と、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量を以下の方法により定量し、その影響を排除する。
まず、固体試料(芳香族ポリエーテル)をブレンダーで粉砕して、アセトン、水の順で洗浄し、180℃の防爆乾燥機で乾燥する。尚、芳香族ポリエーテルを生成する反応の直後の反応混合物(生成物)を試料として用いる場合は、反応終了後、生成物を冷却固化して上記固体試料とする。使用するブレンダーは格別限定されず、例えばワーリング社製7010HSを用いることができる。
次いで、乾燥した試料約1gをナスフラスコにて秤量し、そこにシクロヘキサノン100mlと沸騰石を加えマントルヒーターで1時間加熱還流し、室温に放冷後、濾過により固形分を除去する。
次いで、得られた溶液をガスクロマトグラフィーで測定することで、試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)を算出する。ここで、試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。以下にガスクロマトグラフの測定条件を示す。
【0017】
<ガスクロマトグラフの測定条件>
分析装置:Agilent Technologies 8890
GCカラム:Agilent Technologies DB-HeavyWAX(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
注入口温度:250℃
オーブン温度:250℃(一定)
流速:1ml/min
注入量:1μl
スプリット比:40:1
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0018】
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)は、以下の計算式より換算する。
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)=試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)÷218.20(4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの分子量)×19.00(フッ素の原子量)×2
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)=試料中の4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)÷251.11(4,4’-ジクロロベンゾフェノンの分子量)×35.45(塩素の原子量)×2
【0019】
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)が、いずれも定量下限である100質量ppm未満であれば、上述した芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)と芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)の算出結果に影響はない(影響を無視できるものとする。)。
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)(F-4)が100質量ppm以上である場合は、全フッ素の含有量(質量ppm)(F-3)から無機フッ素の含有量(質量ppm)(F-2)を差し引き、さらに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)(F-4)を差引くことで、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(質量ppm)(F-1)を算出することができる。
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)(Cl-4)が100質量ppm以上である場合は、全塩素の含有量(質量ppm)(Cl-3)から無機塩素の含有量(質量ppm)(Cl-2)を差し引き、さらに4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)(Cl-4)を差引くことで、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(質量ppm)(F-1)を算出することができる。
【0020】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)は、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、500質量ppm以上、1000質量ppm以上又は2000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、6000質量ppm以下、5000質量ppm以下又は4000質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)は、10~10000質量ppm、500~6000質量ppm、1000~5000質量ppm又は2000~4000質量ppmである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける無機塩素の含有量(Cl-2)は、0質量ppm、0質量ppm以上、10質量ppm以上、20質量ppm以上、35質量ppm以上又は50質量ppm以上であり、また、200質量ppm以下、100質量ppm以下、85質量ppm以下又は70質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける無機塩素の含有量(Cl-2)は、0~200質量ppm、10~100質量ppm、20~85質量ppm又は35~70質量ppmである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)は、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、500質量ppm以上、1000質量ppm以上又は2000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、6000質量ppm以下、5000質量ppm以下又は4000質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)は、10~10000質量ppm、100~10000質量ppm、500~6000質量ppm、1000~5000質量ppm又は2000~4000質量ppmである。
【0021】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)は、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、300質量ppm以上、500質量ppm以上又は1000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、5000質量ppm以下、2500質量ppm以下、2000質量ppm以下、1500質量ppm以下又は1200質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)は、10~10000質量ppm、100~5000質量ppm、300~2500質量ppm、500~2000質量ppm、500~1500質量ppm又は500~1200質量ppmである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける無機フッ素の含有量(F-2)は、0質量ppm、0質量ppm以上、10質量ppm以上、20質量ppm以上、30質量ppm以上又は50質量ppm以上であり、また、200質量ppm以下、100質量ppm以下、90質量ppm以下又は85質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける無機フッ素の含有量(F-2)は、0~200、20~200質量ppm、30~100質量ppm、50~100質量ppm又は50~90質量ppmである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)は、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、300質量ppm以上、500質量ppm以上又は1000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、5000質量ppm以下、2500質量ppm以下、2000質量ppm以下、1500質量ppm以下又は1200質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)は、10~10000質量ppm、50~5000質量ppm、100~2500質量ppm、100~2000質量ppm、300~2000質量ppm、300~1500質量ppm、500~1500質量ppm又は500~1200質量ppmである。
【0022】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量は、20質量ppm以上、30質量ppm以上又は50質量ppm以上であり、また、150質量ppm以下、100質量ppm以下又は80質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量は、20~150質量ppm、30~100質量ppm又は30~80質量ppmである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるナトリウム原子の量は、20質量ppm以上、30質量ppm以上又は50質量ppm以上であり、また、150質量ppm以下、100質量ppm以下又は90質量ppm以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるナトリウム原子の量は、20~150質量ppm、30~100質量ppm又は50~90質量ppmである。
【0023】
芳香族ポリエーテルは、塩素原子が結合している芳香族ポリエーテル(以下、(a-1)成分ということがある)と、フッ素原子が結合している芳香族ポリエーテル(以下、(a-2)成分ということがある)とを含んでもよい。
(a-1)成分に結合している塩素原子の量は、例えば、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、500質量ppm以上、1000質量ppm以上又は2000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、6000質量ppm以下、5000質量ppm以下又は4000質量ppm以下である。また、(a-1)成分に結合している塩素原子の量は、例えば、10~10000質量ppm、500~6000質量ppm、1000~5000質量ppm又は2000~4000質量ppmである。
(a-2)成分に結合しているフッ素原子の量は、例えば、10質量ppm以上、50質量ppm以上、100質量ppm以上、300質量ppm以上、500質量ppm以上又は1000質量ppm以上であり、また、10000質量ppm以下、5000質量ppm以下、2500質量ppm以下、2000質量ppm以下、1500質量ppm以下又は1200質量ppm以下である。(a-2)成分に結合しているフッ素原子の量は、例えば、10~10000質量ppm、50~5000質量ppm、100~2500質量ppm、100~2000質量ppm、300~2000質量ppm、300~1500質量ppm、500~1500質量ppm又は500~1200質量ppmである。
一実施形態において、(a-1)成分と(a-2)成分との質量比は、1:99~99:1、21:79~99:1、25:75~95:5、30:70~90:10、さらには40:60~80:20であることが好ましい。
【0024】
一実施形態において、組成物は、芳香族ポリエーテルとして、4,4’-ジクロロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(以下、(a-1’)成分ということがある)と、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンをモノマー成分として形成された芳香族ポリエーテル(以下、(a-2’)成分ということがある)とを含む。
(a-1’)成分と(a-2’)成分との質量比は、1:99~99:1、21:79~99:1、25:75~95:5、30:70~90:10、さらには40:60~80:20であることが好ましい。
【0025】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルの主鎖の1以上の末端に、式(1)で表される構造単位が配置される。この場合、該構造単位に結合する末端構造はハロゲン原子であり得る。ハロゲン原子は、例えば、塩素原子(Cl)又はフッ素原子(F)であり得る。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルの主鎖の1以上の末端に、式(2)で表される構造単位が配置される。この場合、該構造単位に結合する末端構造は例えば水素原子(H)等であり得る(末端構造が水素原子(H)であるとき、該構造単位中の酸素原子(O)と共に水酸基が形成される。)。
芳香族ポリエーテルの末端構造は、例えば、上述した塩素原子(Cl)や水酸基が水素原子(H)等に置き換わった構造等であってもよい。尚、末端構造として、以上に例示したもの以外の構造を有してもよい。
【0026】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む。
【化7】
【0027】
式(3)で表される構造単位は、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位との連結体である。
【0028】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、式(1)及び式(2)で表される構造単位以外の他の構造を含まない。
【0029】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1)及び式(2)で表される構造単位以外の他の構造を含む。
【0030】
一実施形態において、反応に供される全モノマーを基準として、全モノマーに含まれる式(1)で表される構造単位、及び式(2)で表される構造単位の合計の割合(質量%)が、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上であり、また、100質量%以下、99.9質量%以下であり、又は100質量%である。
【0031】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおいて、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とのmol比(式(1)で表される構造単位:式(2)で表される構造単位)は、47.5:52.5~52.5:47.5、48.0:52.0~52.0:48.0、48.5:51.5~51.5:48.5、49.0:51.0~51.0:49.0又は49.5:50.5~50.5:49.5である。
式(1)で表される構造単位のmol数は、式(2)で表される構造単位のmol数より大きくても、小さくても、同じでもよい。
【0032】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、H-NMR測定において、主鎖のHに帰属するピークに対する水酸基のα位のHに帰属するピークの面積比(以下、「面積比X」という場合がある。)が0.1%未満である。
尚、面積比Xは、実施例に記載のH-NMR測定により求めた値である。
【0033】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルは、面積比Xが等しい1種の芳香族ポリエーテルからなる。
【0034】
一実施形態において、本態様に係る芳香族ポリエーテルは、面積比Xが互いに異なる2種以上の芳香族ポリエーテルの混合物である。この場合、混合物のH-NMR測定において、上述した面積比Xが達成され得る。ここで、前記2種以上の芳香族ポリエーテルは、面積比Xが0.1%以上である芳香族ポリエーテルを含んでもよいし、含まなくてもよい。
前記面積比Xが0.1%以上である芳香族ポリエーテルは、例えば、面積比Xが、0.12%以上又は0.14%以上であり得、また、2.0%以下、1.8%以下又は1.6%以下であり得る。また、前記面積比Xが0.1%以上である芳香族ポリエーテルの面積比Xは、例えば、0.10~2.0%、0.12~1.8%又は0.14~1.6%であり得る。
【0035】
一実施形態において、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを用いて芳香族ポリエーテルを合成する際に、ハイドロキノンに対する4,4’-ジクロロベンゾフェノンのmol比を1.00より大きくすることによって、上述した面積比Xを0.1%未満にすることができる。
【0036】
一実施形態において、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンとを用いて芳香族ポリエーテルを合成する際に、ハイドロキノンに対する4,4’-ジフルオロベンゾフェノンのmol比を1.00より大きくすることによって、上述した面積比Xを0.1%未満にすることができる。
【0037】
芳香族ポリエーテルを製造する方法は格別限定されない。
一実施形態において、芳香族ポリエーテルを製造する方法は、
(a-1’)成分を製造すること、
(a-2’)成分を製造すること、及び
(a-1’)成分と(a-2’)成分とを混合すること
を含む。
【0038】
(a-1’)成分を製造する方法は格別限定されない。
一実施形態において、(a-1’)成分を製造する方法は、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させることを含む。
【0039】
4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンは、(a-1’)成分を重合するためのモノマーである。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンを反応させる工程を経て、これら化合物(モノマー単位)の共重合体として、(a-1’)を得ることができる。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンは市販品としても入手可能である。
【0040】
以下の説明において、「反応混合物」とは、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応の開始から反応の完了までの反応系であり、好ましくは、これらのモノマーに加えて後述する溶媒を含む溶液の形態である。反応混合物の組成は、反応の進行に伴って変化し得る。通常、反応の進行に伴って、反応混合物における反応物(4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノン)の濃度は減少し、生成物((a-1’)成分)の濃度は上昇する。
【0041】
また、反応混合物の「最高温度」とは、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応の開始から反応の完了までの過程において反応混合物が到達する最高温度(最高到達温度)である。
【0042】
一実施形態において、反応混合物の最高温度は、260℃以上、265℃以上、270℃以上、275℃以上、280℃以上、285℃以上、290℃以上、290℃超、295℃以上、300℃以上、305℃以上、310℃以上、315℃以上、320℃以上、325℃以上、330℃以上又は335℃以上であり得る。上限は格別限定されず、例えば、360℃以下である。また、反応混合物の最高温度は、例えば260~360℃、好ましくは290℃超360℃以下、より好ましくは295~360℃である。
【0043】
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物を150℃以上に昇温した後、温度保持することを含む。温度保持する際の温度は格別限定されず、例えば150~360℃であり得る。温度保持する時間は格別限定されず、例えば0.1~12時間であり得る。
【0044】
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物を150℃以上に昇温した後、昇温と温度保持とを1回ずつ行うことを含むか、又は昇温と温度保持とを複数回繰り返すことを含む。繰り返しの回数は格別限定されず、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10回であり得る。
昇温と温度保持とを複数回繰り返すことによって、反応を効率的に進行させることができる。
【0045】
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物を180~220℃において0.5~2時間、好ましくは0.6~1.8時間、より好ましくは0.7~1.5時間、保持すること(以下、「温度保持(i)」ともいう)を含む。これにより、原料の揮発を抑制しながら反応を促進することができ、より高分子量の(a-1’)成分を得ることができる。
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物を230~270℃において0.5~2時間、好ましくは0.6~1.8時間、より好ましくは0.7~1.5時間、保持すること(以下、「温度保持(ii)」ともいう)を含む。これにより、原料の揮発を抑制しながら反応を促進することができ、より高分子量の(a-1’)成分を得ることができる。
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物を280~360℃において1~8時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~4時間、保持すること(以下、「温度保持(iii)」ともいう)を含む。これにより、所望の分子量の(a-1’)成分を得ることができる。
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、上記の温度保持(i)~(iii)からなる群から選択される2つ又は3つを含むことができる。2つ又は3つの温度保持は、温度が低いものから順に実施することが好ましい。2つ又は3つの温度保持の間には、反応混合物を昇温することを含むことができる。
【0046】
反応混合物を昇温する際の昇温速度は格別限定されず、例えば0.1~15℃/min、0.1~10℃/min、0.1~8℃/min又は0.1~5℃/minであり得る。これにより、原料の揮発を抑制しながら反応を促進することができ、より高分子量の(a-1’)成分を得ることができる。
【0047】
一実施形態において、(a-1’)成分の製造方法は、反応混合物の温度が150℃に達した時点から最高温度に達する時点までの時間が2.0~10時間である。
【0048】
一実施形態において、反応混合物は溶媒を含む。溶媒を含む反応混合物は、溶液の形態であり得る。溶液は、溶媒に溶解された4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンを含み得る。
溶媒は格別限定されず、例えば、中性極性溶媒を用いることができる。中性極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジメチル安息香酸アミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-イソブチル-2-ピロリドン、N-n-プロピル-2-ピロリドン、N-n-ブチル-2-ピロリドン、N-シクロへキシル-2-ピロリドン、N-メチル-3-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-3-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-3,4,5-トリメチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピペリドン、N-エチル-2-ピペリドン、N-イソプロピル-2-ピペリドン、N-メチル-6-メチル-2-ピペリドン、N-メチル-3-エチルピペリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、1-メチル-1-オキソスルホラン、1-エチル-1-オキソスルホラン、1-フェニル-1-オキソスルホラン、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0049】
一実施形態において、反応混合物は、芳香族スルホンを含み、前記芳香族スルホン100質量部に対して、沸点が270~330℃である溶媒の含有量が0質量部以上1質量部未満である。これにより、反応温度の制御が容易になる。
【0050】
反応混合物は、1種又は2種以上の溶媒を含むことができる。特に、反応混合物が溶媒として一種の溶媒のみ(単一溶媒)を含むことが好ましく、これによりプロセスを簡素化できる。
【0051】
一実施形態において、反応混合物は塩基を含む。反応混合物が、塩基を含むことにより、反応が促進される。
塩基は格別限定されず、例えば、アルカリ金属塩等が好ましい。アルカリ金属塩は格別限定されず、例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属水素化物塩、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
アルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
これらの中でも炭酸カリウムが特に好ましい。
これらの塩基は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
一実施形態において、反応混合物は、炭酸カリウムを含む。
一実施形態において、反応混合物は、炭酸カリウム以外の他の塩基を含む。これらの塩基は、炭酸カリウムと併用してもよい。例えば、炭酸カリウムと炭酸ナトリウムとを併用してもよい。
【0053】
反応混合物における塩基の合計の濃度は格別限定されない。
一実施形態において、反応混合物における塩基の合計の配合量は、反応混合物に配合するハイドロキノン100mol部に対して、100mol部以上であり、また、180mol部以下、160mol部以下、140mol部以下又は120mol部以下である。塩基の合計の配合量が、100mol部以上であれば、反応時間を短縮できる。塩基の合計の配合量が、180mol部以下であれば、ゲル成分の生成を抑制できる。また、反応混合物における塩基の合計の配合量は、反応混合物に配合するハイドロキノン100mol部に対して、例えば100~180mol部、好ましくは100~140mol部、より好ましくは100~120mol部である。
一実施形態において、塩基として炭酸カリウムを上記の配合量で配合する。
【0054】
反応に供される4,4’-ジクロロベンゾフェノン(DCBP)と、ハイドロキノン(HQ)とのmol比([DCBP]:[HQ])は格別限定されない。
mol比([DCBP]:[HQ])は、得られる(a-1’)成分の分子量を制御する等の目的で適宜調整できる。
一実施形態において、mol比([DCBP]:[HQ])は、47.5:52.5~52.5:47.5、48.0:52.0~52.0:48.0、48.5:51.5~51.5:48.5、49.0:51.0~51.0:49.0又は49.5:50.5~50.5:49.5である。
4,4’-ジクロロベンゾフェノン(DCBP)のmol数は、ハイドロキノン(HQ)のmol数より大きくても、小さくても、同じでもよい。
【0055】
一実施形態において、反応混合物における4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンの合計の濃度(配合量基準)は格別限定されず、例えば、1.0mol/l以上、1.2mol/l以上、1.3mol/l以上、1.4mol/l以上又は1.5mol/l以上であり、また、6.0mol/l以下、5.0mol/l以下又は4.0mol/l以下である。また、反応混合物における4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンの合計の濃度(配合量基準)は、例えば1.0~6.0mol/l、好ましくは1.3~5.0mol/l、より好ましくは1.5~4.0mol/lである。
【0056】
一実施形態において、上述した反応に供されるモノマーとして、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノン以外の他のモノマーを用いない。
【0057】
一実施形態において、上述した反応には、本発明の効果を損なわない範囲で、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノン以外の他のモノマーが併用される。
【0058】
一実施形態において、反応に供される全モノマーを基準として、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及びハイドロキノンの合計の割合(質量%)は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は100質量%である。
【0059】
一実施形態において、反応開始時における反応混合物の70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は実質的に100質量%が、
4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキノン、アルカリ金属塩及び溶媒であるか、
4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキノン、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上のアルカリ金属塩並びにジフェニルスルホンであるか、又は
4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキノン、炭酸カリウム及びジフェニルスルホンである。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0060】
4,4’-ジクロロベンゾフェノンとハイドロキノンとの反応は、不活性ガス雰囲気で実施することができる。不活性ガスは格別限定されず、例えば窒素、アルゴンガス等が挙げられる。
【0061】
(a-2’)成分を製造する方法は格別限定されない。
一実施形態において、(a-2’)成分を製造する方法は、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンとを反応させることを含む。
(a-2’)成分は、4,4’-ジクロロベンゾフェノンに代えて4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを用いること以外は上述した(a-1’)成分を製造する方法と同様にして製造することもできる。
【0062】
一実施形態において、(a-1’)成分は(a-1)成分である。
一実施形態において、(a-2’)成分は(a-2)成分である。
【0063】
芳香族ポリエーテルとして、(a-1’)成分と(a-2’)成分との混合物を用いることができる。混合物を用いる場合は、(a-1’)成分と(a-2’)成分との混合比(質量比)を調整して、結合している塩素原子の量が10~10000ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000ppmである芳香族ポリエーテルとすることができる。
(a-1’)成分と(a-2’)成分とを混合する方法は格別限定されず、例えば、公知のミキサーによる混合や、押出機等による溶融混錬等が挙げられる。具体的には、例えば、(a-1’)成分と(a-2’)成分とを360℃~440℃に加熱して溶融させた状態で、二軸混錬機等によって混練することができる。このとき、(a-1’)成分と(a-2’)成分とを混練して芳香族ポリエーテルを得た後に芳香族ポリエーテルに無機フィラーを混練してもよいし、(a-1’)成分と(a-2’)成分と無機フィラーとをまとめて混練してもよい。
【0064】
(a-1’)成分と(a-2’)成分との混合比に関して、(a-1’)成分の割合を高めることで、混合物(芳香族ポリエーテル)における、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量を増加でき、また、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量を減らすことができる。
【0065】
(無機フィラー)
一実施形態において、無機フィラーは、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選択される1種以上を含む。
一実施形態において、無機フィラーは、チョップドストランド、織物、不織布及び一方向材(「UD材」とも称される。)からなる群から選ばれる1種以上の形態である。これにより、組成物の強度がさらに向上する。
【0066】
一実施形態において、組成物は、マトリクスとしての芳香族ポリエーテルと、強化繊維としての無機フィラー分とを含む繊維複合材料であり得る。繊維複合材料は、所謂、繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)であり得る。
【0067】
一実施形態において、無機フィラーが繊維である場合、その平均繊維長は、0.5~20mm、0.5~10mm、1~7mm又は2~6mmである。無機フィラーの平均繊維長はノギスにより測定される値の算術平均で求められる。
【0068】
一実施形態において、無機フィラーが繊維である場合、その平均繊維径は1~30μmである。芳香族ポリエーテルに対する無機フィラーの分散性、成形品の表面平滑性及び機械的強度の観点から、無機フィラーの平均繊維径は、3~25μm、6~20μm、さらには6~13μmであることが好ましい。無機フィラーの平均繊維径はJIS R 7607:2000に準拠して測定される値の算術平均で求められる。
【0069】
炭素繊維は、サイジング剤で処理されたものであってもよい。サイジング剤によって、無機フィラーを束状に結束することができる。サイジング剤で処理された無機フィラーは、その表面にサイジング剤が付着している。サイジング剤は格別限定されず、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ポリアミド系サイジング剤等が挙げられる。また、サイジング剤として芳香族ポリエーテルを用いることもできる。サイジング剤として、これらの1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。無機フィラーとして、サイジング剤で処理されていないものを用いてもよい。上記サイジング剤には、アミノシラン、イソシアネートシラン、アクリルシランなどのシランカップリング剤を併用してもよい。
【0070】
ガラス繊維の種類は特に限定されず、例えば、Eガラス、低誘電ガラス、シリカガラス等のような種々の組成のガラス繊維を、目的、用途に応じて選定し、使用することができる。ガラス繊維の平均繊維径は、好ましくは5~20μm、より好ましくは7~17μmである単繊維を用いることができる。
【0071】
ガラス繊維もまた、サイジング剤で処理されたものであってもよい。サイジング剤によって、ガラス繊維を束状に結束することができる。サイジング剤で処理されたガラス繊維は、その表面にサイジング剤が付着している。サイジング剤は格別限定されず、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、酢酸ビニル系サイジング剤等が挙げられる。また、サイジング剤として芳香族ポリエーテルを用いることもできる。サイジング剤として、これらの1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ガラス繊維として、サイジング剤で処理されていないものを用いてもよい。上記サイジング剤には、アミノシラン、イソシアネートシラン、アクリルシランなどのシランカップリング剤を併用してもよい。
【0072】
組成物における無機フィラーの含有量は格別限定されない。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル100質量部に対して、無機フィラーの含有量が、5質量部以上、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上又は40質量部以上であり、また、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、55質量部以下又は50質量部以下である。また、一実施形態において、芳香族ポリエーテル100質量部に対して、無機フィラーの含有量が、5~100質量部、5~80質量部、5~60質量部、10~60質量部、20~55質量部、30~50質量部又は40~50質量部である。芳香族ポリエーテル100質量部に対する無機フィラーの含有量は、5質量部以上であることにより、無機フィラーによる補強効果がより好適に得られ、また、100質量部以下、さらには60質量部以下であることにより、組成物を混練及び成形する際の適性がより向上する。
【0073】
組成物は、芳香族ポリエーテル及び無機フィラー以外の他の成分を含んでもよい。他の成分は格別限定されず、例えば、芳香族ポリエーテルではない他の樹脂が挙げられる。他の樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等が挙げられる。他の成分として、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
一実施形態において、組成物の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、また、100質量%以下、99.9質量%以下、又は実質的に100質量%が、
芳香族ポリエーテル及び無機フィラーであるか、
芳香族ポリエーテル、無機フィラー及び上述した他の成分である。
尚、「実質的に100質量%」である場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0075】
組成物を調製する方法は格別限定されず、例えば、公知のミキサーによる混合や、押出機等による溶融混錬等が挙げられる。二軸混練機を用いて芳香族ポリエーテルに無機フィラーをサイドフィードしてもよい。
【0076】
組成物のペレットを製造してもよい。ペレットは、成形体を製造するための原料として用いることができる。
一実施形態において、ペレットの製造方法は、無機フィラーを短くカットしてチョップドストランドとした後、無機フィラーに芳香族ポリエーテルを加えることを含む。短繊維と芳香族ポリエーテルとを混合し、造粒することによってペレット(「短繊維ペレット」とも称される。)を製造することができる。
一実施形態において、ペレットの製造方法は、溶融させた芳香族ポリエーテルに無機フィラーのロービングを浸漬させて引き抜き成形した後に、所望のペレット長に切断してペレット(「長繊維ペレット」とも称される。)を製造する。上記のように長繊維ペレットを製造する場合は、無機フィラーの折損を抑制できる。
【0077】
組成物(上述したペレットの形態であってもよい)を成形することによって、成形体を製造することができる。成形には、射出成形、押出成形、ブロー成形等の既知の方法を用いることができる。また、組成物をプレス成形することもでき、コールドプレス法、ホットプレス法等の既知の方法を用いることができる。さらに、組成物を3Dプリンター用樹脂組成物として用い、3Dプリンターによって成形することもできる。
【0078】
一実施形態において、組成物は、芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.75倍以上、1.81倍超、1.82倍以上、1.85倍以上、1.90倍以上又は1.95倍以上の引張強度を有する。この倍率(「増加率」ともいう。)の上限は格別限定されず、例えば、5.00倍以下又は4.00倍以下である。また、一実施形態において、組成物は、芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.75~5.00倍、1.85~5.00倍又は1.90~4.00倍の引張強度を有する。
また、一実施形態において、組成物は、芳香族ポリエーテル単独での引張強度に対して1.65~5.00倍、1.75~4.00倍、1,78~3.00倍の引張強度を有する。
【0079】
尚、組成物の引張強度、芳香族ポリエーテル単独での引張強度は、以下の方法により測定される。
組成物(又は芳香族ポリエーテル単独)を、小型成形機(Haake社製、MiniJet-Pro)を用いて400℃にて射出成型し、ISO 527-2:2012に規定するダンベル状5A形を作製し試験片とする。
得られた試験片について、試験速度5mm/分、チャック間距離50mmで引張試験を行い、引張強度を測定する。
尚、引張試験の準備として、引張試験機の上下チャックを、規定したチャック間距離(50mm)の位置に合わせ、下チャックで試験片を保持し、荷重0点調整を実施する。その後、上チャックでも試験片を保持し、引張試験を開始する。
【0080】
一実施形態において、組成物の引張強度は、160MPa以上、170MPa以上、180MPa以上、190MPa以上、198MPa以上、200MPa以上又は210MPa以上である。上限は格別限定されず、例えば、400MPa以下、350MPa以下又は300MPa以下である。また、一実施形態において、組成物の引張強度は、160~400MPa、170~350MPa又は198~300MPaである。さらに、一実施形態において、組成物の引張強度は、160.0~400.0MPa、168.0~350.0MPa、170.0~300.0MPa又は175.0~250.0MPaである。
【0081】
本発明の組成物の用途は格別限定されず、例えば強度が求められる各種用途に広く適用できる。本発明の組成物は、例えば、金属代替材料として、特に耐熱性、耐溶剤性、耐久性が必要な用途等に好適である。より具体的には、例えば、軸受、ガスケット、構造材等に好適である。
【0082】
本発明の第2態様に係る組成物は、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)が10~10000質量ppmであり、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)が10~10000質量ppmである芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む。
第2態様によれば、第1態様と同様の効果が得られる。
【0083】
本発明の第3態様に係る組成物は、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを含み、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)と芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)の合計に対する芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)の割合(「割合(Cl/(Cl+F))」ともいう)が、40~95質量%である芳香族ポリエーテルと、
無機フィラーとを含む。
第3態様によれば、第1態様と同様の効果が得られる。
【0084】
第3態様において、割合(Cl/(Cl+F))は、40~95質量%、50~90質量%、さらには60~85質量%であることが好ましい。また、一実施形態において、割合(Cl/(Cl+F))は、40~60質量%であってもよい。
【0085】
第2態様及び第3態様において、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)は100~10000質量ppmであり、芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)は100~10000質量ppmであることが好ましい。これにより、本発明の効果がより良好に発揮される。尚、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)及び芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)は、ここで例示した範囲に限定されず、第1態様に係る組成物について例示した範囲を適宜適用できる。
【0086】
第2態様及び第3態様に係る組成物については、第1態様に係る組成物についてした説明が援用される。但し、第2態様及び第3態様に係る組成物は、第1態様に係る組成物(即ち、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを含み、結合している塩素原子の量が10~10000ppmであり、結合しているフッ素原子の量が10~10000ppmである芳香族ポリエーテルと、無機フィラーとを含む組成物)に限定されない。尚、本発明に係る組成物は、第1態様、第2態様及び第3態様のいずれか2以上の条件を満たすものであってもよい。例えば、第1態様及び第2態様の条件を共に満たす組成物、第1態様及び第3態様の条件を共に満たす組成物、第2態様及び第3態様の条件を共に満たす組成物、並びに、第1態様、第2態様及び第3態様の条件を共に満たす組成物が挙げられる。
【実施例0087】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0088】
1.芳香族ポリエーテルの準備
芳香族ポリエーテル(A-1)
撹拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管に接続した水回収容器を備えた300mlの四口フラスコに、4,4’-ジクロロベンゾフェノン41.220g(0.164mol)、ヒドロキノン17.809g(0.162mol)、炭酸カリウム25.704g(0.186mol)及びジフェニルスルホン140.01gを入れ、窒素ガスを流通させた。
【0089】
反応混合物を下記の温度制御下で反応させた。
<温度制御>
(1)150℃に昇温した後、30分間かけて200℃に昇温
(2)200℃において1時間保持
(3)200℃から250℃に昇温(昇温速度1.7℃/min)
(4)250℃において1時間保持
(5)250℃から300℃(反応混合物の最高温度)に昇温(昇温速度3.0℃/min)
(6)300℃(反応混合物の最高温度)において2時間保持
【0090】
反応終了後、生成物をブレンダー(ワーリング社製7010HS)で粉砕し、アセトン、水の順に洗浄を行ってから、180℃の乾燥機で乾燥し、粉末状のPEEKを得た。
得られたPEEKを芳香族ポリエーテル(A-1)として用いた。
【0091】
芳香族ポリエーテル(A-2)
市販のPEEK(ビクトレックス社製、151G)を芳香族ポリエーテル(A-2)として用いた。
【0092】
2.組成物の調製
(実施例1)
芳香族ポリエーテル(A-1)と、芳香族ポリエーテル(A-2)と、無機フィラー(日本電気ガラス社製、ガラス繊維、チョップドストランドECS03 T-786H、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)を、質量比(A-1:A-2:無機フィラー)20:80:43の質量比で、二軸混錬機(Termo Fisher社製、Process11)を用いて400℃にて混練して、芳香族ポリエーテル(A-1)と(A-2)と無機フィラーとからなる組成物を得た。
【0093】
3.測定方法
(1)引張強度
得られた組成物を、小型成形機(Haake社製、MiniJet-Pro)を用いて400℃にて射出成型し、ISO 527-2:2012に規定するダンベル状5A形を作製し試験片とした。
得られた試験片について、試験速度5mm/分、チャック間距離50mmで引張試験を行い、引張強度(「強化品引張強度」ともいう。)を測定した。
尚、引張試験の準備として、引張試験機の上下チャックを、規定したチャック間距離(50mm)の位置に合わせ、下チャックで試験片を保持し、荷重0点調整を実施した。その後、上チャックでも試験片を保持し、引張試験を開始した。
また、ガラス繊維を配合していない芳香族ポリエーテル(A)単独(ニート)についても上記と同様に引張強度(「ニート引張強度」ともいう。)を測定した。
さらに、ニート引張強度に対する強化品引張強度の増加率(「強化品/ニート増加率」ともいう。)を算出した。
【0094】
(2)芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子及びフッ素原子の量の測定
以下の方法により、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれる塩素原子の量(Cl-2、「無機塩素の含有量」ともいう)及びこれら塩素原子の総量(Cl-3、「芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量」ともいう)を測定した。また、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるフッ素原子の量(F-2、「無機フッ素の含有量」ともいう)及びこれらフッ素原子の総量(F-3、「芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量」ともいう)を測定した。さらに、芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量及びナトリウム原子の量を測定した。
【0095】
<芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)の算出>
a.芳香族ポリエーテルについて全塩素量(*1:後述)を測定した結果から全塩素の含有量(質量ppm)(Cl-3)を算出する。
b.芳香族ポリエーテルについてカリウム量(*2:後述)の測定値からカリウムの含有量(質量ppm)を算出し、カリウムと等モル数の無機塩素(芳香族ポリエーテルに結合していない塩素原子)が含まれるとみなして、無機塩素の含有量(質量ppm)(Cl-2)を算出する。
c.全塩素の含有量(質量ppm)(Cl-3)から無機塩素の含有量(質量ppm)(Cl-2)を差し引くことで、芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(質量ppm)(Cl-1)を算出する。
【0096】
<芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)の算出>
a.芳香族ポリエーテルについて全フッ素量(*1:後述)を測定した結果から全フッ素の含有量(質量ppm)(F-3)を算出する。
b.芳香族ポリエーテルについてナトリウム量(*2:後述)の測定値からナトリウムの含有量(質量ppm)を算出し、ナトリウムと等モル数の無機フッ素(芳香族ポリエーテルに結合していないフッ素原子)が含まれるとみなして、無機フッ素の含有量(質量ppm)(F-2)を算出する。
c.全フッ素の含有量(質量ppm)(F-3)から無機フッ素の含有量(質量ppm)(F-2)を差し引くことで、芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(質量ppm)(F-1)を算出する。
【0097】
(*1)芳香族ポリエーテルにおける全塩素量(Cl-3)及び全フッ素量(F-3)の測定方法
試料(芳香族ポリエーテル)を燃焼炉内に導入し、酸素を含む燃焼ガス中で燃焼させ、発生したガスを吸収液に捕集させた後、その吸収液をイオンクロマトグラフにて分離定量する。定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。以下に測定条件を示す。
<試料燃焼>
燃焼装置:株式会社日東精工アナリテック製AQF-2100H
燃焼炉設定温度:前段800℃、後段1100℃
アルゴン流量:400ml/min
酸素流量:200ml/min
吸収液:過酸化水素水
<イオンクロマトグラフ>
分析装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Integrion
カラム:ガードカラムとして(Dionex IonPac AG12A)及び分離カラムとして(Dionex IonPac AS12A)を連結して使用(カラムは共にサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
溶離液:NaCO(2.7mmol/l)+NaHCO(0.3mmol/l)
流速:1.5ml/min
カラム温度:30℃
測定モード:サプレッサ方式
検出器:電気伝導度検出器
【0098】
(*2)芳香族ポリエーテルにおけるカリウム量及びナトリウム量(芳香族ポリエーテル中に遊離成分として含まれるカリウム原子の量及びナトリウム原子の量)の測定方法
芳香族ポリエーテルにおけるカリウム原子(K)及びナトリウム原子(Na)のそれぞれの含有量を、ICP発光分光分析法により以下の手順で芳香族ポリエーテルを前処理し、Naは589.592nm、Kは766.481nmで測定する。
白金皿に試料1gを秤量し、そこへ濃硫酸を添加後加熱して炭化処理を行い、次に電気炉へ白金皿を入れて550℃で12時間灰化処理を行う。
灰化処理の後、塩酸を添加後、加熱処理を行う。放冷後、超純水にて定容する。尚、試料が無機フィラーを含む場合は、灰化処理の後、フッ化水素酸を添加後、加熱乾固処理を行い、放冷後塩酸を添加し、加熱処理を行う。放冷後、超純水にて定容する。
定量値は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求める。検量線溶液は試料溶液の塩酸濃度と同一とする。
【0099】
尚、以上の測定値に関して、表1における「-」は、6質量ppm以下であることを示している。
【0100】
(補足試験)
合成時に用いたモノマー(反応物)である4,4’-ジフルオロベンゾフェノンや4,4’-ジクロロベンゾフェノンが芳香族ポリエーテルに残留している可能性を考慮して、芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量と、4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量を以下の方法により定量した。
まず、固体試料(芳香族ポリエーテル)をブレンダーで粉砕して、アセトン、水の順で洗浄し、180℃の防爆乾燥機で乾燥した。尚、芳香族ポリエーテルを生成する反応の直後の反応混合物(生成物)を試料として用いる場合は、反応終了後、生成物を冷却固化して上記固体試料とする。使用するブレンダーは格別限定されず、ここではワーリング社製7010HSを用いた。
次いで、乾燥した試料約1gをナスフラスコにて秤量し、そこにシクロヘキサノン100mlと沸騰石を加えマントルヒーターで1時間加熱還流し、室温に放冷後、濾過により固形分を除去した。
次いで、得られた溶液をガスクロマトグラフィーで測定することで、試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)を算出した。ここで、試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)は、既知濃度のリファレンスから作成した検量線を元に求めた。以下にガスクロマトグラフの測定条件を示す。
【0101】
<ガスクロマトグラフの測定条件>
分析装置:Agilent Technologies 8890
GCカラム:Agilent Technologies DB-HeavyWAX(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
注入口温度:250℃
オーブン温度:250℃(一定)
流速:1ml/min
注入量:1μl
スプリット比:40:1
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0102】
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)は、以下の計算式より換算した。
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)=試料中の4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの量(質量ppm)÷218.20(4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの分子量)×19.00(フッ素の原子量)×2
芳香族ポリエーテルに4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)=試料中の4,4’-ジクロロベンゾフェノンの量(質量ppm)÷251.11(4,4’-ジクロロベンゾフェノンの分子量)×35.45(塩素の原子量)×2
【0103】
以上の補足試験の結果、芳香族ポリエーテルに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとして含まれるフッ素原子の量(質量ppm)と4,4’-ジクロロベンゾフェノンとして含まれる塩素原子の量(質量ppm)は、いずれも定量下限である100質量ppm未満であったため、上述した芳香族ポリエーテルに結合しているフッ素原子の量(F-1)と芳香族ポリエーテルに結合している塩素原子の量(Cl-1)の算出結果に影響がないことを確認した。
【0104】
また、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)と芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)の値から、芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)と芳香族ポリエーテルにおける全フッ素の含有量(F-3)の合計に対する芳香族ポリエーテルにおける全塩素の含有量(Cl-3)の割合(「割合(Cl/(Cl+F))」)を算出した。
【0105】
(3)H-NMR測定(面積比X)
組成物に用いた芳香族ポリエーテル(A)について、以下の手順でH-NMR測定を行った。
PEEKをH-NMR測定に供し、主鎖ピークの面積(化学シフト7.32ppmから7.36ppmまでの面積)に対する水酸基のα位のピークの面積(化学シフト6.98ppmから7.03ppmまでの面積)の比(面積比X)を下記式より求めた。
面積比X[%]=(水酸基のα位のピークの面積/主鎖ピークの面積)×100
H-NMR測定の測定条件は下記のとおりである。
H-NMR測定の測定条件>
・NMR装置:ブルカージャパン(株)製 Ascend500
・プローブ:5mmφTCIクライオプローブ
・NMR試料管径:5mmφ
・試料溶液調整:試料約20mgにメタンスルホン酸を0.6ml加えて、室温で1時間撹拌した後、重ジクロロメタン0.4mlを加えて、さらに30分室温で撹拌することで試料を溶解させ、試料溶液とした。
・観測範囲:20ppm
・観測中心:6.175ppm
・データポイント数:64kB
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:256回
・フリップアングル:30°
・測定温度:25℃
・化学シフトのリファレンス:重ジクロロメタンのピーク3本のうち中央のピークを5.32ppmに設定
【0106】
以上の結果を表1に示す。
【0107】
(実施例2)
芳香族ポリエーテル(A)として、芳香族ポリエーテル(A-1)及び(A-2)を、質量比(A-1:A-2)40:60で配合して用いたこと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物について実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例3)
芳香族ポリエーテル(A)として、芳香族ポリエーテル(A-1)及び(A-2)を、質量比(A-1:A-2)60:40で配合して用いたこと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物について実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例4)
芳香族ポリエーテル(A)として、芳香族ポリエーテル(A-1)及び(A-2)を、質量比(A-1:A-2)80:20で配合して用いたこと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物について実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例1)
芳香族ポリエーテル(A)として、芳香族ポリエーテル(A-1)及び(A-2)を、質量比(A-1:A-2)0:100として用いた(芳香族ポリエーテル(A-1)の配合を省略した)こと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物について実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(比較例2)
芳香族ポリエーテル(A)として、芳香族ポリエーテル(A-1)及び(A-2)を、質量比(A-1:A-2)100:0として用いた(芳香族ポリエーテル(A-2)の配合を省略した)こと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物について実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】