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特開2024-54855安定化有害生物防除剤、及び、安定化有害生物防除剤の製造方法
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  • 特開-安定化有害生物防除剤、及び、安定化有害生物防除剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054855
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】安定化有害生物防除剤、及び、安定化有害生物防除剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/23 20200101AFI20240410BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20240410BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240410BHJP
   A01P 5/00 20060101ALI20240410BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A01N63/23
A01P7/02
A01P7/04
A01P5/00
A01M1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172960
(22)【出願日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022160697
(32)【優先日】2022-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390006596
【氏名又は名称】住友化学園芸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】勝本 俊行
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 穂高
(72)【発明者】
【氏名】市川 直美
(72)【発明者】
【氏名】勝間 史乃
(72)【発明者】
【氏名】吉永 勝
(72)【発明者】
【氏名】森川 憂乃
(72)【発明者】
【氏名】安西 正人
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121CB02
2B121CB22
2B121CB28
2B121CB61
2B121CC02
2B121CC03
2B121CC39
2B121EA26
2B121FA20
4H011AC01
4H011AC04
4H011BA04
4H011BA05
4H011BA06
4H011BB21
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC17
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA13
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】 本発明は、バチルス属細菌を予め水で、所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈された状態であり、かつ、保存安定性を向上させた有害生物防除剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、バチルス属細菌と、pH調整剤と、水と、を含む、pHが調整された安定化有害生物防除剤、を提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属細菌と、
pH調整剤と、
水と、
を含む、
pHが調整された安定化有害生物防除剤。
【請求項2】
バチルス属細菌と、
pH調整剤と、

のみからなる、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項3】
pHが4以上10以下に調整された、請求項1または2に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項4】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる1種またはそれ以上の非イオン系界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項5】
還元澱粉糖化物の1種またはそれ以上の成分をさらに含む、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項6】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる1種またはそれ以上の非イオン系界面活性剤、および、還元澱粉糖化物の1種またはそれ以上の成分を、さらに含む、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項7】
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、1.36×10CFU/g以上、1.36×10CFU/g以下である、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項8】
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、0.001質量%以上、1.0質量%以下である、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項9】
前記バチルス属細菌は、BT(バチルス・チューリンゲンシス)である、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項10】
有害生物がチョウ目幼虫である、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項11】
40℃1か月保存後の防除効果の低下率が50%以下である、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項12】
希釈せずに散布する、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤。
【請求項13】
ハンドスプレー容器に充填された請求項1に記載の安定化有害生物防除剤を、ハンドスプレー容器から噴霧して植物又は有害生物に施用することを含む、有害生物の防除方法。
【請求項14】
バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を加えることによって、pHを4以上10以下に調整する工程を含む、有害生物防除剤の安定化方法。
【請求項15】
群(a)及び群(b)からなる群より選ばれる1以上の成分を含む、請求項1に記載の安定化有害生物防除剤:
群(a):殺虫活性成分、殺ダニ活性成分及び殺線虫活性成分からなる群;
群(b):殺菌活性成分。
【請求項16】
請求項1に記載の安定化有害生物防除剤の有効量を有害生物又は有害生物の生息場所に施用する有害生物の防除方法。
【請求項17】
請求項1に記載の安定化有害生物防除剤の有効量を保持している種子又は栄養生殖器官。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害生物防除剤に関する。特に、バチルス属細菌を含み、pH調整剤で安定化された、安定化有害生物防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス属細菌は、バチルス(Bacillus)属細菌の生芽胞及び産生結晶毒素を含むものである。鱗翅目、双翅目、鞘翅目等に選択的な毒性を示す菌株が得られており、人体や環境に安全な殺虫剤、殺菌剤として広く使用されている(特許文献1等)。
【0003】
バチルス属細菌は、粉末(顆粒)状態、あるいは、濃縮状態で取引・販売されることが多い。このため、この形態で購入した使用者は、使用前に水で希釈して適切な濃度範囲の水分散液にする必要がある。この点、特に家庭園芸場面では使用者が希釈に適した秤や計量可能な容器を揃えているケースは多くなく、また、適切な秤や容器を持っていたとしても、散布前の正確な希釈作業が非常に面倒であると感じる使用者は少なくない。運搬コストアップとなっても、希釈の必要がないReady-to-useの状態で購入し、そのまま散布可能な防除剤を求める要請があった。
【0004】
しかしながら、散布時の水分散液濃度範囲に希釈してからバチルス属細菌を流通させると、流通過程や保管過程を通し、経時変化によりバチルス属細菌の分解が進み、防除効果が安定せず低下していくという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-265230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バチルス属細菌を予め水で、所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈された状態であり、かつ、保存安定性を向上させた有害生物防除剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、バチルス属細菌の水分散液のpHを調整することにより、予め、散布使用直前の希釈に適した濃度範囲、特に希釈の必要がない散布濃度範囲に水で希釈しても、保存安定性を向上させた安定化有害生物防除剤を見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下に示した項目の構成態様を有し得るが、これらに限定されるものではない。
[項1]
バチルス属細菌と、
pH調整剤と、
水と、
を含む、
pHが調整された安定化有害生物防除剤。
[項2]
バチルス属細菌と、
pH調整剤と、

のみからなる、上記項1に記載の安定化有害生物防除剤。
[項3]
pHが4以上10以下に調整された、上記項1または項2に記載の安定化有害生物防除剤。
[項4]
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる1種またはそれ以上の非イオン系界面活性剤をさらに含む、上記項1に記載の安定化有害生物防除剤。
[項5]
還元澱粉糖化物の1種またはそれ以上の成分をさらに含む、上記項1に記載の安定化有害生物防除剤。
[項6]
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる1種またはそれ以上の非イオン系界面活性剤、および、還元澱粉糖化物の1種またはそれ以上の成分を、さらに含む、上記項1に記載の安定化有害生物防除剤。
[項7]
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、1.36×10CFU/g以上1.36×10CFU/g以下である、上記項1~6のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項8]
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、0.001質量%以上、1.0質量%以下である、上記項1~7のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項8-2]
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、0.01質量%以上、0.5質量%以下である、上記項1~7のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項9]
前記バチルス属細菌は、BT(バチルス・チューリンゲンシス)である、上記項1~8のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項10]
有害生物がチョウ目幼虫である、上記項1~9のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項11]
40℃1か月保存後の防除効果の低下率が50%以下である、上記項1~10のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項12]
希釈せずに散布する、上記項1~11のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤。
[項13]
ハンドスプレー容器に充填された上記項1~11のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤を、ハンドスプレー容器から噴霧して植物又は有害生物に施用することを含む、有害生物の防除方法。
[項14]
バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を加えることによって、pHを4以上10以下に調整する工程を含む、有害生物防除剤の安定化方法。
[項15]
群(a)及び群(b)からなる群より選ばれる1以上の成分を含む、上記項1~11のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤:
群(a):殺虫活性成分、殺ダニ活性成分及び殺線虫活性成分からなる群;
群(b):殺菌活性成分。
[項16]
上記項1~11のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤の有効量を有害生物又は有害生物の生息場所に施用する有害生物の防除方法。
[項17]
上記項1~11のいずれか一項に記載の安定化有害生物防除剤の有効量を保持している種子又は栄養生殖器官。
[項18]
バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を配合してpHを4以上10以下に調整し、安定化有害生物防除剤を調製する工程と、
前記安定化有害生物防除剤を容器に充填する工程と、
を含む、安定化有害生物防除剤の製造方法。
【0009】
すなわち、本発明の安定化有害生物防除剤(以下、本発明の安定化有害生物防除剤と呼称する)は、有効成分として配合されるバチルス属細菌と、保存安定化のため、前記安定化有害生物防除剤のpHを4以上10以下に調整するpH調整剤と、水と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の安定化有害生物防除剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる1種またはそれ以上の非イオン系界面活性剤、および/または、還元澱粉糖化物の1種またはそれ以上の成分を、さらに含んでもよい。
【0011】
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、1.36×10CFU/g以上1.36×10CFU/g以下であることが望ましい。
【0012】
前記バチルス属細菌は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、0.001質量%以上1.0質量%以下であることが望ましい。
【0013】
前記バチルス属細菌は、BT(バチルス・チューリンゲンシス)であってもよい。
【0014】
前記有効成分としてのバチルス属細菌と、前記pH調整剤と、前記水のみからなってもよい。
【0015】
前記有害生物は、チョウ目幼虫であってもよい。
【0016】
前記安定化有害生物防除剤の40℃1か月保存後の防除効果の低下率は、50%以下、または60%以下であることが望ましい。防除効果の低下率は、評価試験の実施直前に調製されたバチルス属細菌の水分散液(以下、直前希釈サンプルと呼称することがある)を用いた場合の防除効果に対する低下率を意味し、以下の式で表される。
40℃1か月保存後の防除効果の低下率(%)=(直前希釈サンプルの防除効果‐安定化有害生物防除剤の40℃1か月保存後の防除効果)/直前希釈サンプルの防除効果×100
【0017】
前記安定化有害生物防除剤は、調製後に希釈せずに散布してもよい。
【0018】
本発明の有害生物の防除方法は、前記安定化有害生物防除剤を調製後に希釈せずに散布してもよい。
【0019】
本発明の前記安定化有害生物防除剤は、ハンドスプレー容器に充填させて、ハンドスプレー容器から噴霧して植物又は有害生物に施用してもよい。
【0020】
バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を加えることによって、4以上10以下に調整する工程を含むことによって、有害生物防除剤の安定化が可能となる。
【0021】
本発明の安定化有害生物防除剤は、バチルス属細菌以外の他の殺虫剤、または他の殺菌剤等から選ばれる1種類以上の成分を含んで、本発明の安定化有害生物防除剤として使用してもよい。
【0022】
本発明の有害生物の防除方法は、本発明の安定化有害生物防除剤の有効量を有害生物または有害生物の生育場所に施用してもよい。
【0023】
本発明の態様としては、本発明の安定化有害生物防除剤の有効量を保持している種子または栄養生殖器官、を挙げられる。
【0024】
本発明の安定化有害生物防除剤の製造方法は、バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を配合してpHを4以上10以下に調整し、安定化有害生物防除剤を調製する工程と、前記安定化有害生物防除剤を容器に充填する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、バチルス属細菌を水で予め、所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈されており、かつ、流通過程や保管過程を通して保存安定性を向上させた安定化有害生物防除剤を提供することができる。また、安定化有害生物防除剤が予め、所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈されていることにより、使用者は秤や軽量可能な容器等を使って正確に希釈する手間をかけることなく、適度な希釈を行うだけで、安定化有害生物防除剤を散布することができるか、または、特に、希釈する手間をかけることなく、そのまま安定化有害生物防除剤を散布することができる。
本発明はまた、バチルス属細菌を予め水で、所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈された状態であり、かつ、保存安定性を向上させた有害生物防除剤を提供することができる。
本発明はさらに、有害生物を防除するのに使用する、安定化有害生物防除剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】評価試験例1における、調整したpHごとの死虫率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0028】
(安定化有害生物防除剤)
本発明の安定化有害生物防除剤は、有害生物を防除する剤であって、保存安定化を施したものをいう。
本発明の安定化有害生物防除剤は、バチルス属細菌を有効成分として含む。さらに、保存安定化のために、該安定化有害生物防除剤のpHを調整するpH調整剤と、水を含むものである。
【0029】
(バチルス属細菌)
バチルス属細菌は、フィルミクテス門バチルス網バチルス目バチルス科に分類される真正細菌であり、バチルス・ズブチリス、バチルス・セレウス、バチルス・アントラシス、バチルス・チューリンゲンシス等の菌の生芽胞及び/又は不活性化された芽胞、及び/又は産生結晶毒素を含むものである。
バチルス属細菌は芽胞形成細菌であり、所定の条件で胞子が発芽し、細胞分裂を繰り返して生芽胞と結晶性タンパク質を形成する。該結晶性タンパク質を有害生物(害虫等)が摂食すると、結晶性タンパク質はアルカリ性の消化液により溶解分解され、結晶毒素となる。さらに、生芽胞も所定の条件で発芽し、害虫に侵入する。これらのメカニズムにより、最終的に有害生物は死亡する。
ここで、消化液が酸性であるヒトが該結晶性タンパク質を摂食しても、結晶性タンパク質は分解されないため、毒素を形成しない。また、消化液等のメカニズムがない植物に対しても、結晶性タンパク質は毒性を示さない。
【0030】
バチルス属細菌の濃度は、有害生物の死虫率が一定以上であれば、特に限定されないが、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、1.36×10CFU(Colony Forming Unit)/g以上1.36×10CFU/g以下であることが好ましい。バチルス属細菌の濃度が1.36×10CFU/gより低い場合、有害生物の防除効果が低下してしまうことがある。また、バチルス属細菌の濃度が1.36×10CFU/gより高い場合、原料コストの問題や薬害発生リスク、高粘度化による散布しにくさなどの問題が発生する。
【0031】
また、質量%で表した場合、バチルス属細菌の濃度は、前記安定化有害生物防除剤全量に対して、0.001質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、例えば0.1重量%が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
バチルス属細菌のうち、バチルス・チューリンゲンシス(以下、「BT」という。)がより好ましい。BT剤は、ゼンターリ顆粒水和剤(WDG)(住友化学製)等の市販品を用いてもよいし、当該生芽胞及び結晶性タンパク質を培養等の手法で得られたものを配合させた剤であってもよい。
【0033】
(pH調整剤)
本発明のpH調整剤は、保存安定化のため、前記安定化有害生物防除剤のpHを調整するものである。
【0034】
本発明のpH調整剤は、水素イオン濃度に対して緩衝作用があり、溶液の酸や塩基の変化や濃度の変化に対し、pHの変動を抑えるものである。一般的には、弱酸と共役塩基、弱塩基と共役酸を混合したものであり、クエン酸(クエン酸 + クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウム(例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム))、酢酸(酢酸 + 酢酸ナトリウム又は酢酸カリウム)、リン酸(リン酸 + リン酸ナトリウム又はリン酸カリウム(例えばリン酸三ナトリウム又はリン酸三カリウム))、または、ホウ酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、もしくはトリス塩酸またはそれらの塩等が例示される。また、pH調整剤として、塩酸や、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等も例示される。
【0035】
本発明のpH調整剤は、酸・塩基の種類と、酸・塩基の配合比率等を調整することにより、調整可能なpHの範囲が決められる。
本発明に用いられるpH調整剤は、安定化有害生物防除剤のpHを4以上10以下に調整することが好ましい。pHが低くなりすぎても、高くなりすぎても、バチルス属細菌は安定せず、保存中に分解が進んで防除率が低下しやすい。
【0036】
本発明のpH調整剤は、所定のpHとなる比率で配合するが、濃度は1mM~1000mMの範囲が好ましく、1mM~100mMの範囲がより好ましく、1mM~40mMの範囲がさらに好ましい。1mMを下回ると、pHの変動を抑える効果が小さくなり、安定化有害生物防除剤の保存安定性が低下する。また、1000mMを上回ると、植物への薬害が発生しやすくなり、また経済性も低下する要因となり得る。
【0037】
(水)
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水などが用いられる。安定化有害生物防除剤の調製時には、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、または滅菌処理した水を用いて調製し、使用直前に希釈するときには、水道水または地下水を用いてもよい、
【0038】
(有害生物)
防除対象となる有害生物は、バチルス属細菌で防除可能なものであれば、特に限定されないが、チョウ目幼虫(コナガ類、アゲハ類、ヨトウムシ類(例えばハスモンヨトウ)、イラガ類、ケムシ類、ヒトリガ類(例えばアメリカシロヒトリ)、ドクガ類、ハマキムシ類、スカシバ類、キリガ類、シャクトリムシ類、シンクイムシ類、メイチュウ類、ノメイガ類、タバコガ類、ミノガ類、ネキリムシ類等)、コガネムシ類幼虫、ハムシ類幼虫、ハエ目幼虫等の害虫が例示される。
【0039】
本発明の安定化有害生物防除剤が防除効力を発揮することができる生物としては、チョウ目幼虫としてのカイコを含む。
【0040】
(対象植物)
防除対象となる植物は、上述した有害生物が発生する植物であれば、特に限定されない。たとえば、アサガオ、アスター、インパチェンス、カーネーション、ガーベラ、ガザニア、カンパニュラ、キキョウ、キク、キンセンカ、グロキシニア、ケイトウ、アイスランドポピー、コスモス、プリムラ、サルビア、ジニア、カスミソウ、スイートピー、スターチス、ストック、パンジー、デルフィニウム、トルコギキョウ、ひまわり、ベゴニア、ペチュニア、リンドウ、ルピナス、シクラメン、ダリア、チューリップ、アジサイ、バラ、シャクヤク、いんげんまめ、トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリ、すいか、メロン、かぼちゃ、にがうり、いちご、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、チンゲンサイ、シュンギク、オクラ、シソ、ホウレンソウ、エンドウ、そらまめ、とうもろこし、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、ネギ、タマネギ、アスパラガス、ばれいしょ、かんしょ、さといも等が例示される。
【0041】
栄養生殖器官とは、植物の根、茎、葉等のうち、その部位を本体から切り離して土壌に設置した場合に、成長する能力を持つものを意味する。栄養生殖器官としては、例えば、塊根(tuberous root)、横走根(creeping root)、鱗茎(bulb)、球茎(corm又はsolid bulb)、塊茎(tuber)、根茎(rhizome)、匍匐枝(stolon)、担根体(rhizophore)、茎断片(cane cuttings)、むかご(propagule)及びつる(vine cutting)が挙げられる。なお、匍匐枝は、ランナー(runner)と呼ばれることもあり、むかごは、珠芽とも呼ばれ、肉芽(broad bud)、鱗芽(bulbil)に分けられる。つるとは、サツマイモやヤマノイモ等の苗条(葉及び茎の総称、shoot)を意味する。鱗茎、球茎、塊茎、根茎、茎断片、担根体又は塊根を総称して、球根とも呼ばれている。イモの栽培は塊茎を土壌に植え付けることで始めるが、用いられる塊茎は一般に種芋と呼ばれる。
【0042】
(その他成分)
その他成分として、任意に、界面活性剤、還元澱粉糖化物、凍結防止剤、防腐剤、または増粘剤等から選ばれる1種類以上の剤が含まれてもよい。
また、本発明の安定化有害生物防除剤には、バチルス属細菌以外の他の殺虫剤、または他の殺菌剤等から選ばれる1種類以上の成分(以下、本成分と記す)が含まれてもよい。
本成分としては、下記群(a)及び群(b)からなる群から選ばれる1以上の成分が挙げられる。
【0043】
群(a)は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えばカーバメート系殺虫剤、有機リン系殺虫剤)、GABA作動性塩素イオンチャネルアンタゴニスト(例えばフェニルピラゾール系殺虫剤)、ナトリウムチャネルモジュレーター(例えば、ピレスロイド系殺虫剤)、ニコチン性アセチルコリン受容体拮抗モジュレーター(例えば、ネオニコチノイド系殺虫剤)、ニコチン性アセチルコリン受容体アロステリックモジュレーター、グルタミン酸作動性塩素イオンチャネルアロステリックモジュレーター(例えば、マクロライド系殺虫剤)、幼若ホルモンミミック、マルチサイト阻害剤、弦音器官TRPVチャネルモジュレーター、ダニ類生育阻害剤、ミトコンドリアATP生合成酵素阻害剤、酸化的リン酸化脱共役剤、ニコチン性アセチルコリン受容体チャネルブロッカー(例えば、ネライストキシン系殺虫剤)、キチン合成阻害剤、脱皮阻害剤、エクダイソン受容体アゴニスト、オクトパミン受容体アゴニスト、ミトコンドリア電子伝達系複合体I, II, III及びIVの阻害剤、電位依存性ナトリウムチャネルブロッカー、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤、リアノジン受容体モジュレーター(例えば、ジアミド系殺虫剤)、弦音器官モジュレーター、微生物殺虫剤の各々の活性成分、及びその他の殺虫・殺ダニ・殺線虫活性成分からなる群である、殺虫・殺ダニ・殺線虫活性成分である。これらは、IRACの作用機構に基づく分類に記載されている。
【0044】
群(b)は、核酸合成阻害剤(例えば、フェニルアミド系殺菌剤、アシルアミノ酸系殺菌剤)、細胞分裂及び細胞骨格阻害剤(例えば、MBC殺菌剤)、呼吸阻害剤(例えば、QoI殺菌剤、QiI殺菌剤)、アミノ酸合成及びタンパク質合成阻害剤(例えば、アニリノピリジン系殺菌剤)、シグナル伝達阻害剤、脂質合成及び膜合成阻害剤、ステロール生合成阻害剤(例えば、トリアゾール系等のDMI殺菌剤)、細胞壁合成阻害剤、メラニン合成阻害剤、植物防御誘導剤、多作用点接触活性殺菌剤、微生物殺菌剤、及びその他の殺菌活性成分からなる群である、殺菌活性成分である。これらは、FRACの作用機構に基づく分類に記載されている。
【0045】
逆に、本発明の安定化有害生物防除剤は、その他成分が含まれない形態であり、バチルス属細菌、pH調整剤、水のみからなってもよい。
【0046】
本発明で使用される界面活性剤としては、特に非イオン系界面活性剤等を用いることができる。アルキルエーテル型非イオン系界面活性剤、アルキルアミノエーテル型非イオン界面活性剤、アリールフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤、脂肪酸エーテルエステル型非イオン系界面活性剤、植物油エーテルエステル型非イオン系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル型非イオン系界面活性剤、ソルビタンエーテルエステル型非イオン系界面活性剤等が例示される。具体的には、ポリオキシエチレン(POE)硬化ヒマシ油エーテル、ソルビタンオレイン酸エステル、ソルビタンラウリン酸エステル、ラウリン酸ポリグリセリル、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンカスターオイルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。商品名としては、ニューカルゲンD230K(別名:タケサーフD-230K)(竹本油脂株式会社)(ポリオキシエチレン(POE)硬化ヒマシ油エーテルを含む)、ニューカルゲンD240K(別名:タケサーフD-240K)(竹本油脂株式会社)(ポリオキシエチレン(POE)硬化ヒマシ油エーテルを含む)、ニューカルゲンD260K(別名:タケサーフD-260K)(竹本油脂株式会社)(ポリオキシエチレン(POE)硬化ヒマシ油エーテルを含む)、ニューカルゲンD931(別名:タケサーフD-931)(竹本油脂株式会社)(ソルビタンラウリン酸エステルを含む)、ニューカルゲンD935(別名:タケサーフD-935)(竹本油脂株式会社)(ソルビタンオレイン酸エステルを含む)、ニューカルゲンD935-T(別名:タケサーフD-935-TT(竹本油脂株式会社)(ソルビタントリオレイン酸エステルを含む)、ニューカルゲンD941(別名:タケサーフD-941)(竹本油脂株式会社)(ポリオキシエチレンソルビタンラウリル酸エステルを含む)、ニューカルゲンD945(別名:タケサーフD-945)(竹本油脂株式会社)(ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステルを含む)、サンソフトA-121E(太陽化学株式会社)(ラウリン酸ポリグリセリルを含む)、シルフェイスSAG002(日信化学工業株式会社)(ポリエーテル変性シリコーンを含む)等が挙げられる。
【0047】
また、界面活性剤としてアニオン系界面活性剤、およびカチオン系界面活性剤も用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては,硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(又はスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウム又はアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-又はジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸又はポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンモノ-又はジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(又はスチリル)フェニルエーテルホスフェート又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウム又はカルシウム塩などの各塩等が挙げられる。 カチオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩、ポリオキシプロピレンアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩誘導体、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、ジアルキルモノメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート等が挙げられる。
【0048】
上記界面活性剤は単独で用いてもよいし、界面活性剤の2種以上を併用してもよい。
【0049】
また、界面活性剤と合わせて、または界面活性剤の代わりに、還元澱粉糖化物を含んでもよい。
本発明において用いられる還元澱粉糖化物とは、澱粉をαアミラーゼや糖で液化した後、βアミラーゼ等の酵素で部分的に加水分解することにより製造された糖化液をそれ自体は公知の方法により水素加圧下で接触還元することにより製造されたものである。
本発明において使用される還元澱粉糖化物としては、還元澱粉糖化物または還元麦芽糖水飴の名称で食品用または一般的に市販されている還元澱粉糖化物が挙げられる。
【0050】
上記還元澱粉糖化物は、還元澱粉糖化物の1種の成分を単独で用いてもよいし、または還元澱粉糖化物の2種以上の成分を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
凍結防止剤としては、融点の低い溶媒、たとえば、アルコール系溶媒(例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルカルビトール、および3-メチル-メトキシブタノール)等を用いることができる。エタノールとしては、イソプロパノール等が添加されていない無変性エタノールを用いることができ、無変性エタノールとしては、95度無変性エタノール(日本アルコール販売(株))および99度無変性エタノール(日本アルコール販売(株))等が挙げられる。エタノールを使用する場合、無変性エタノールがより好ましい。
【0052】
防腐剤としては、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系化合物、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラクロロメタキシレノール、および2,6-ジメチルフェノール等が挙げられる。
【0053】
増粘剤としては、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等を用いることができる。
【0054】
(安定化有害生物防除剤の製造方法)
本発明の安定化有害生物防除剤の製造方法は、バチルス属細菌及び水を含む有害生物防除剤にpH調整剤を配合してpHを4以上10以下に調整し、安定化有害生物防除剤を調製する工程と、前記安定化有害生物防除剤を容器に充填する工程とを含む。
容器からそのままストレートで散布できるように、前記容器は、ハンドスプレー容器であることがより望ましい。
【0055】
本発明の安定化有害生物防除剤を、必要に応じて、散布使用直前に水で希釈する場合には、本発明の安定化有害生物防除剤の体積比で、数倍~数十倍、例えば2倍~10倍、に希釈してもよい。
【0056】
(安定化有害生物防除剤を用いる、有害生物防除方法)
本発明の有害生物の防除方法は、本発明の安定化有害生物防除剤の有効量を有害生物に直接、及び/又は、有害生物の生息場所(植物、土壌、家屋内、動物等)に施用することにより行われる。また、種子に処理することもできる。本発明の有害生物の防除方法としては、例えば、茎葉処理(茎葉散布)、土壌処理(土壌散布)、根部処理、シャワー処理及び種子処理が挙げられる。本発明の安定化有害生物防除剤の施用時期は有害生物の発生状況に応じて決定され、施用時期としては、例えば、有害生物の発生前、発生初期が挙げられる。
【実施例0057】
以下、製造例、および評価試験例(具体的な製造例、および試験例を含む)により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0058】
(製造例)
本発明の安定化有害生物防除剤は、バチルス属細菌(例えば、ゼンターリ顆粒水和剤(住友化学(株)製))、適量の水、所定のpHに調整するのに必要な量のpH調整剤、および適宜(任意に)、界面活性剤、還元澱粉糖化物、凍結防止剤、防腐剤、または増粘剤等から選ばれる1種類以上の剤、および/あるいは、バチルス属細菌以外の他の殺虫剤、または他の殺菌剤等から選ばれる1種類以上の成分、を混合することによって製造する。
【0059】
(評価試験)
以下に本発明の評価試験例を具体的に説明するが、本発明はこれらの評価試験例等に何ら限定されるものではない。
【0060】
評価試験には、以下の試薬を用いた。

バチルス属細菌(BT剤)
・バチルス・チューリンゲンシス
ゼンターリ顆粒水和剤(有効成分10%) 住友化学(株)製

pH緩衝剤
・クエン酸-水和物
工業用クエン酸 昭和化工(株)製
・クエン酸三カリウム-水和物
工業用三カリウム 昭和化工(株)製
・塩酸
富士フィルム和光薬(株)製
・水酸化ナトリウム
富士フィルム和光純薬(株)製

界面活性剤
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル
ニューカルゲンD230K 竹本油脂(株)製
・ソルビタンラウリン酸エステル
ニューカルゲンD931 竹本油脂(株)製
・ポリエーテル変性シリコーン
シルフェイスSAG002 日信化学工業(株)製

還元澱粉糖化物
・還元澱粉糖化物


・イオン交換水
【0061】
評価試験例1
カイコ
チョウ目幼虫の1例であるカイコについて、殺虫効力を調べた。
【0062】
(製造例)
評価試験例1において調べた、試料は下記の通り、製造した。
試料1は、pHが2となるように、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水450g、pH調整剤として塩酸1.4762gを混合し、最後に水で計500gになるよう調製した。それを1か月40℃で保存して得た。
試料2は、pHが4となるように、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水450g、pH調整剤としてクエン酸0.788g及びクエン酸三カリウム0.6381gを混合し、最後に水で計500gになるよう調製した。それを1か月40℃で保存して得た。
試料3は、pHが6となるように、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水450g、pH調整剤としてクエン酸0.2058g及びクエン酸三カリウム1.4483gを混合し、最後に水で計500gになるよう調製した。それを1か月40℃で保存して得た。
試料4は、pHが10となるように、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水450g、pH調整剤として水酸化ナトリウム0.0443gを混合し、最後に水で計500gになるよう調製した。それを1か月40℃で保存して得た。
試料5は、pHが11となるように、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水450g、pH調整剤として水酸化ナトリウム0.0878gを混合し、最後に水で計500gになるよう調製した。それを1か月40℃で保存して得た。
試料6は、ゼンターリ顆粒水和剤0.5g、水499.5gのみ配合し、1か月40℃で保存して得た。
試料7は、ゼンターリ顆粒水和剤0.5gと水499.5gを使用直前に希釈したものである。試料7はpH調整をしていないが、pHは5.81であった。
【0063】
(試験例)
上記で調製した各試料(試料1~7)をカイコに対する殺虫力をもって評価した。
各試料をイオン交換水にて5.62倍希釈した。そのサンプル液0.5mLを餌(シルクメイトM50S 日本農産工業(株))10gに対して加え、よく混合した。そこにカイコ10頭放虫し、恒温器に入れ静置した。それを2反復(計20頭)で実施した。放虫72時間後に試料を含まない餌に替えさらに48時間静置した。計120時間後の死虫頭数から、死虫率(%)を算出した。なお、試験は25℃14時間明状態10時間暗状態条件下にて実施した。
評価試験結果を表1及び図1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1及び図1より、直前希釈した試料7の死虫率は90%であったのに対し、1か月40℃で保存して得たpH無調整の試料6の死虫率は35%まで低下した。
これに対し、pH4の試料2からpH10の試料4の死虫率は、いずれもpH無調整の試料6を上回ることが分かった。すなわち、BT剤を有効成分とした有害生物防除剤は、pHを調整することにより、保存安定化が図れることが分かった。
【0066】
(製造例)
評価試験例2及び3において調べた、試料は下記の通り、製造した。
試料8
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが3になる量(3.67g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料8を得た。
試料9
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.36g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料9を得た。
試料10
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤として水酸化ナトリウムをpHが10になる量(0.15g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料10を得た。
試料11
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤として水酸化ナトリウムをpHが11になる量(0.39g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料11を得た。
試料12
水4500gに、バチルス・チューリンゲンシスの菌数が1.36×10CFU/gとなるような適量であるゼンターリ顆粒水和剤0.187gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.10g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料12を得た。
試料13
水4500gに、バチルス・チューリンゲンシスの菌数が1.36×10CFU/gとなるような適量であるゼンターリ顆粒水和剤187gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(7.03g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料13を得た。
試料14
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gおよびニューカルゲンD230K 5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.39g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料14を得た。
試料15
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gおよびニューカルゲンD931 5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.39g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料15を得た。
試料16
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gおよびシルフェイスSAG002 5gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.40g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料16を得た。
試料17
水4500gにゼンターリ顆粒水和剤5gおよび還元澱粉糖化物30gを加えて混合し、混合物を得た。次いで、該混合物にpH調整剤としてクエン酸をpHが4になる量(0.39g)加えて混合し、最後に計5000gになるよう水を加えて本発明の有害生物防除剤を調製した。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料17を得た。
試料18
水4995gにゼンターリ顆粒水和剤5gを加えて混合し、有害生物防除剤を調製した。該有害生物防除剤のpH調整はしておらず、pHは5.4であった。得られた有害生物防除剤をハンドスプレー容器に充填した。それを1か月40℃で保存して試料18を得た。
【0067】
評価試験例2
ハスモンヨトウ
チョウ目幼虫の1例であるハスモンヨトウについて、殺虫効力を調べた。
【0068】
(試験例)
試験結果を表2に示す。
【0069】
表2中において、各調製した試料中のバチルス・チューリンゲンシス菌数について、初期における菌数と、試料を40℃1か月保存した後の菌数とを調査して、残存数を算出した。残存数が、50%以上であれば、有意に保存されたとみなした。50%以上残存する場合には「〇」と表記し、また、60%以上残存する場合には「◎」と表記する。一方で、50%未満しか残存していない場合には、「×」と表記する。
試験の結果、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料9の場合には、バチルス・チューリンゲンシス菌数が、初期における菌数と比較して、40℃1か月保存後の菌数は60%以上、残存していた。また、pHが10に調整された本発明の実施例としての試料10の場合には、バチルス・チューリンゲンシス菌数が、初期における菌数と比較して、40℃1か月保存後の菌数は50%以上、残存していた。一方で、pHが11に調整された比較例としての試料11の場合には、50%以上、減少していた。
【0070】
上記で調製した各試料のハスモンヨトウに対する殺虫力を評価した。
ガラス温室(無加温)内で、上記で調製した供与製剤の十分量をハンドスプレー容器から噴霧してキャベツの株全体に散布処理し、薬剤風乾燥後、プラスチック容器(11.5×11.5×高さ6cm)にキャベツを設置し、ハスモンヨトウ幼虫(中齢幼虫、約1cm)を、1区画当たり3頭、放虫した。放虫後に、死亡虫数を調査した。また、供与虫の逃亡を防止するため、プラスチック容器専用の蓋をした。蓋にはビンを使用して呼吸穴を13か所設けた。キャベツの萎れを防ぐため保水容器(フローラルチューブ 1.5×4cm)をキャベツの茎に挿した。
放虫後はインキュベータ内で飼育した(25℃、14L、10D、湿度60±5%)。
同様な試験を5反復行い、3日後に死虫数を調査し、評価を行った。
【0071】
表2より、pH無調整の40℃1か月保存した試料18を用いて散布した場合の3日後の死虫率は86.7%であったのに対し、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料9およびpHが10に調整された本発明の実施例としての試料10を用いて散布した場合の3日後の死虫率は、いずれもpH無調整の試料18を上回ることが分かった。すなわち、BT剤を有効成分とした有害生物防除剤は、pHを調整することにより、保存安定化が図れることが分かった。
【0072】
評価試験例3
アメリカシロヒトリ
チョウ目幼虫の1例であるアメリカシロヒトリについて、殺虫効力を調べた。
【0073】
(試験例)
試験結果を表3に示す。
【0074】
上記で調製した各試料のアメリカシロヒトリに対する殺虫力を評価した。
屋外で、ハナミズキに試験区をマークし、上記で調製した試料としての供試製剤の十分量をハンドスプレー容器から噴霧してハナミズキに散布処理し、薬剤風乾後に、プラスチックシャーレに採取したハナミズキの葉を設置し、アメリカシロヒトリ(幼虫、約1cm)を1区画当たり5頭放虫した。放虫後に、死亡虫数を調査した。また、供与虫の逃亡を防止するため、プラスチックシャーレの蓋をした。放虫後は室温(エアコン27℃設定)にて飼育した。同様な試験を3反復行い、3日後に死虫数を調査し、評価を行った。
【0075】
表3より、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料9、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料12、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料13、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料14、pHが4に調整された本発明の実施例としての試料16、およびpHが4に調整された本発明の実施例としての試料17を用いて散布した場合の3日後の死虫率は、有意に高い値を示した。すなわち、BT剤を有効成分とした有害生物防除剤は、pHを調整することにより、保存安定化が図れることが分かった。
【0076】
表2を下記に示す。
【表2】
【0077】
表3を下記に示す。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の安定化有害生物防除剤は、予め水で所定の濃度範囲(特に散布濃度範囲)に希釈された状態であり、かつ、保存安定性を向上させていることから、有害生物の防除剤として簡便に使用することができる。
図1