(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054890
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】両親媒性ポリマー溶液の調液方法
(51)【国際特許分類】
C08F 20/56 20060101AFI20240411BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08F20/56
B01D61/14 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161322
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【テーマコード(参考)】
4D006
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006MA22
4D006MB09
4D006MC30
4D006PA01
4D006PB20
4J100AL03Q
4J100AL08R
4J100AM17P
4J100AM21P
4J100BA03P
4J100BA05R
4J100BC43P
4J100DA01
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】
製膜に好適な両親媒性ポリマー溶液の調液方法を提供することにある。
【解決手段】
数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法により、両親媒性ポリマー溶液から不溶性成分および難溶性成分を効率的に除去することができ、前記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法。
【請求項2】
ろ過が加圧ろ過であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
両親媒性ポリマーがブロック共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
両親媒性ポリマーが温度応答性ブロック共重合体であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶媒の沸点が50~200℃であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性ポリマー溶液の調液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理技術は素材の持つ特性とは別の特性を与えることができる技術であり、機能性の付与だけでなく機能性製品のコスト削減に効果がある。表面処理技術のうち塗装は、機能性材料の溶液を素材に塗布して塗膜を形成するが、機能性材料として有機化合物やポリマー化合物を適用可能で、幅広い機能発現が可能である。例えば特許文献1では、有機EL材料含有溶液を塗布した有機EL素子が紹介されており、有機EL材料の薄膜を簡易かつ低コストに成膜することができ、カラー表示が可能になる。また特許文献2では、温度応答性ポリマー溶液を塗布した温度応答性培養基材が紹介されており、培養温度では細胞が基材に接着して増殖可能で、冷却すると細胞が基材から剥離して細胞を回収できる。
【0003】
一方で機能性材料が高分子量体のポリマー化合物である場合は、ポリマー溶液中に分子量過大のポリマーを含む不溶性成分および難溶性成分の残存が発生する。さらに、ポリマー製造工程で混入された無機塩等を含む不溶性成分がポリマー溶液中に残存することもある。上記難溶性成分および不溶性成分を含んだ溶液で塗装すると見た目や機能が低下することがある。難溶性成分をフィルターろ過で除く場合でも、特に機能性材料が分子量の高い両親媒性ポリマーである場合は、両親媒性ポリマーがフィルター表面に固着や溶媒の揮発による溶液の高粘度化で起こる目詰まりで、調液が困難な課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5320282号公報
【特許文献2】特許第6638706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本特許の目的は、製膜に好適な両親媒性ポリマー溶液の調液方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法により、製膜に好適な両親媒性ポリマー溶液を調液できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の態様を含包する。
<1>数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法。
<2>ろ過が加圧ろ過であることを特徴とする<1>に記載の方法。
<3>両親媒性ポリマーがブロック共重合体であることを特徴とする<2>に記載の方法。
<4>両親媒性ポリマーが温度応答性ブロック共重合体であることを特徴とする<3>に記載の方法。
<5>溶媒の沸点が50~200℃であることを特徴とする<4>に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法により、両親媒性ポリマー溶液から不溶性成分および難溶性成分が除去され、製膜に好適な両親媒性ポリマー溶液を効率的に調液できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜変更して実施できる。
【0009】
数平均分子量5万以上の両親媒性ポリマーの溶液調液において、孔径0.2~1μmの親水化メンブレンフィルターでろ過する工程を含む調液方法である。
【0010】
両親媒性ポリマーとは1つの分子内に水相になじむ親水基と有機相になじむ疎水基の両方を持つポリマーである。親水基の一例として、水酸基、アミノ基、カルボキシ基が挙げられる。また疎水基の一例として、アルキル基、フェニル基が挙げられる。両親媒性ポリマーの種類に特に限定はないが、親水基と疎水基が強度に作用するブロック共重合体で目詰まりが容易に発生する。ブロック共重合体の親水基と疎水基に特に限定はないが、一例として親水基はHLB値が9以上の繰り返し単位からなるブロックであり、疎水基は9未満の繰り返し単位であるブロックである。HLB値(Hydrophile-Lipophile Balance:HLB)とは、W.C.Griffin, Journal of the Society of Cosmetic Chemists, 1, 311(1949).に記載の、水と油への親和性の程度を表す値であり、0から20までの値を取り、0に近いほど疎水性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。計算式によりHLB値を算出方法として、アトラス法、グリフィン法、デイビス法、川上法があるが、本明細書においては、グリフィン法により算出した値を使用し、本発明のブロック共重合体を構成する各ブロックの繰り返し単位中の親水部の式量と繰り返し単位の総式量を元に、下記の計算式により算出した。
【0011】
HLB値=20×(繰り返し単位中の親水部の式量)÷(繰り返し単位の総式量)
前述の、各ブロックの繰り返し単位中の親水部の定義として、スルホン部(-SO3-)、ホスホノ基部(-PO3-)、カルボキシル基部(-COOH)、エステル部(-COO-)、アミド部(-CONH-)、イミド部(-CON-)、アルデヒド基部(-CHO)、カルボニル基部(-CO-)、ヒドロキシル基部(-OH)、アミノ基部(-NH2)、アセチル基部(-COCH3)、エチレンアミン部(-CH2CH2N-)、エチレンオキシ部(-CH2CH2O-)、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、ハロゲン化物イオン、酢酸イオンを例示することができる。
【0012】
繰り返し単位中の親水部の算出では、親水部を構成する原子が、他の親水部を構成する原子として重複してはならない。繰り返し単位中のHLB値の算出例を以下に記載した。例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(分子量:295.27)の場合、親水部は、エステル部が1部、ホスホノ基部が1部およびエチレンアミン部が1部であり、親水部の分子量は181.04であるから、HLB値は12.3である。2-ジメチルアミノエチルメタクリレート(分子量:157.11)の場合、親水部は、エステル部が1部およびエチレンアミン部が1部であり、親水部の分子量は86.07であるから、HLB値は11.0である。メチルメタクリレート(分子量:100.12)の場合、親水部は、エステル部が1部であり、親水部の分子量は44.01であるから、HLB値は8.8である。n-ブチルメタクリレート(分子量:142.20)の場合、親水部は、エステル部が1部であり、親水部の分子量は44.01であるから、HLB値は6.2である。また温度によって親水基と疎水基の位置づけが変化する温度応答性ブロックを含んだブロック共重合体でもよい。温度応答性ブロックの一例としてN-イソプロピルアクリルアミドを含む繰り返し単位があり、温度応答性ブロック共重合体の一例として、N-イソプロピルアクリルアミドの繰り返し単位とn-ブチルアクリルアミドの繰り返し単位からなる含む繰り返しが挙げられる。
【0013】
本発明のメンブレンフィルターは親水化処理されている。親水化処理を形成されていると両親媒性ポリマーの疎水基とフィルターとの間の疎水性相互作用が低減し、吸着を抑制できる。孔径は0.2~1μm、好ましくは0.2~0.8μmである。0.2μm未満ではメンブレンフィルターの親水化処理の有無によらず目詰まりする。1μmを超えると調液後のポリマー溶液中に不溶性成分および難溶性成分が含まれ、塗膜の見た目や機能が低下する。メンブレンフィルターの材質は表面が親水化処理されていればよく、特に限定はない。
【0014】
本発明のろ過は特に限定はなく、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過のいずれであっても構わないが、溶媒の揮発による溶液の高粘度化を抑えることが可能であることから、閉鎖系雰囲気のろ過である加圧ろ過が好ましい。
【0015】
本発明の溶媒は両親媒性ポリマーを溶解できれば特に限定はないが、溶媒の沸点は好ましくは50~200℃である。溶媒の沸点が50℃未満では溶媒の揮発が起こりやすく、200℃を超える場合は溶液が高粘度になる。
【0016】
本発明の調液環境は特に限定はなく、一例として、常温常圧常湿で換気された室内である。また設備や機器は防爆構造であることが好ましい。
【0017】
本発明の調液方法は上記に記載のろ過工程を含んでいればよく、その他の工程が含まれてよい。一例として、ろ過工程の前に溶解工程を含んでよい。溶解工程は特に限定はないが、目視で両親媒性ポリマーの溶解を確認した後、24時間以上攪拌を続けると、目視不可な両親媒性ポリマーによる目詰まりを低減できるため好ましい。またろ過工程にろ過以外の操作が組み合わさっても良い。一例として、攪拌台座付タンクホルダーで加圧ろ過する場合は、撹拌操作を組み合わせると両親媒性ポリマーの溶液の濃度勾配の発生を抑制でき、高粘度による目詰まりを低減できるため好ましい。
【実施例0018】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
<数平均分子量の測定>
数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー製 TSKgel Super AWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ製)を用いた。
<両親媒性ポリマーA>
HLB値が13.5の2-メトキシエチルアクリレートの繰り返し単位を5mol%と、HLB値が6.2のn-ブチルアクリレートの繰り返し単位を30mol%と、温度応答性ブロックのN-イソプロピルアクリルアミドの繰り返し単位を65mol%から構成され、数平均分子量が11.8×104の淡黄色粉末の両親媒性ポリマーAを準備した。ポリマーAには精製工程で用いた硫酸マグネシウムの微粉末混入が確認された。
<両親媒性ポリマーB>
分子構造に親水基として水酸基を含み、疎水基としてフェニル基を含む、数平均分子量が9.5×104で白色粉末のポリドーパミンアクリルアミドである両親媒性ポリマーBを準備した。
実施例1
10Lのジャケット攪拌台座付タンク(東京硝子器械(株)製、KST-293-10-JA)に孔径0.2μm親水化PTFEメンブレンフィルターを取り付けた。ジャケット攪拌台座付タンクに2wt%の両親媒性ポリマーAを溶解した2-メトキシプロパノール溶液を3L加え、タンク内を閉鎖した。溶媒に用いた、2-メトキシプロパノールの沸点は120℃である。尚、ろ過前の両親媒性ポリマー溶液を静置すると白色微粉末の不溶物が確認された。ゲージ圧0.08MPaの窒素でタンク内を加圧し両親媒性ポリマー溶液をろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
実施例2
孔径0.45μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
実施例3
孔径0.8μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
実施例4
両親媒性ポリマーBを用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
実施例5
孔径0.45μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例4と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
実施例6
孔径0.8μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例5と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ過後のろ液中に不溶物は確認できなかった。
比較例1
孔径0.1μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、0.3Lろ過したところで目詰まりした。
比較例2
孔径3μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ液中に白色微粉末の不溶物が確認された。
比較例3
孔径0.2μmPTFEメンブレンフィルター(疎水性)を用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、0.1Lろ過したところで目詰まりした。
比較例4
孔径0.45μmPTFEメンブレンフィルター(疎水性)を用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、0.2Lろ過したところで目詰まりした。
比較例5
孔径1μmPTFEメンブレンフィルター(疎水性)を用いたこと以外は実施例1と同様にろ過したところ、0.5Lろ過したところで目詰まりした。
比較例6
孔径0.1μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例4と同様にろ過したところ、0.1Lろ過したところで目詰まりした。
比較例7
孔径3μm親水化PTFEメンブレンフィルターを用いたこと以外は実施例4と同様にろ過したところ、3L全てをろ過できた。またろ液中に白色微粉末の不溶物が確認された。
比較例8
孔径0.2μmPTFEメンブレンフィルター(疎水性)を用いたこと以外は実施例4と同様にろ過したところ、0.1Lろ過したところで目詰まりした。
【0019】