(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054894
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リゾリン脂質含有組成物の製造方法、およびこれを用いた水中油型乳化組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 11/00 20060101AFI20240411BHJP
C11C 1/06 20060101ALI20240411BHJP
A23D 7/01 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C11B11/00
C11C1/06
A23D7/01
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161328
(22)【出願日】2022-10-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】山本 紘義
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
(72)【発明者】
【氏名】保科 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】石川 卓弥
【テーマコード(参考)】
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B026DG04
4B026DH10
4B026DK05
4B026DL02
4B026DL03
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX04
4H059BA83
4H059BC48
4H059EA11
(57)【要約】
【課題】 本発明は、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行する新規な方法により、リン脂質をリゾリン脂質に分解し、得られるリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易いリゾリン脂質含有組成物の製造方法、およびこれを用いた水中油型乳化組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水を含む原料、ならびにホスフォリパーゼAを均一に混合し、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を開始する原料およびホスフォリパーゼA混合工程と、
前記原料およびホスフォリパーゼA混合物をホスフォリパーゼA分解率20%以上となるようにリン脂質を酵素分解するリン脂質酵素分解工程と、
前記酵素分解物中のホスフォリパーゼAを不活性化する酵素不活性化工程を含み、
前記工程により得られたリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し、
前記組成物の必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水の割合が特定割合であるリゾリン脂質含有組成物の製造方法、およびこれを用いた水中油型乳化組成物の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質をホスフォリパーゼAで分解したリゾリン脂質含有組成物の製造方法において、
前記組成物の原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAを均一に混合し、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を開始する原料混合工程と、
前記原料混合物をリン脂質の分解率が20質量%以上となるようにリン脂質をホスフォリパーゼAにより酵素分解するリン脂質酵素分解工程と、
前記酵素分解物中のホスフォリパーゼAを不活性化する酵素不活性化工程を含み、
前記工程により得られたリゾリン脂質含有組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正であり、
前記原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAの合計量が、前記原料全体に対し90質量%以上、
前記原料中の多価アルコールの含有量が前記原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0質量倍、
前記原料中のリン脂質の含有量が前記原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5質量倍、
前記原料中の多価アルコールおよび清水の合計量が前記原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0質量倍、
であることを特徴とするリゾリン脂質含有組成物の製造方法。
L1値:前記リゾリン脂質含有組成物の明度値
L2値:前記リゾリン脂質含有組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
【請求項2】
前記L2-L1値が+5以上である、
ことを特徴とする請求項1記載のリゾリン脂質含有組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む、
ことを特徴とする水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物に油脂、脂溶性物質、多価アルコール、清水及び水溶性物質の1種または2種以上を混合する混合工程を含み、
前記混合工程により得られた混合組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正である、
ことを特徴とする混合組成物の製造方法。
L1値:前記混合組成物の明度値
L2値:前記混合組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
【請求項5】
請求項4記載の混合組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む、
ことを特徴とする水中油型乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行する新規な方法により、リン脂質をリゾリン脂質に分解し、得られるリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易いリゾリン脂質含有組成物の製造方法、およびこれを用いた水中油型乳化組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質をホスフォリパーゼAで分解する方法としては、例えば、リン脂質を有機溶剤に溶かし、当該有機溶剤相とホスフォリパーゼAの分散液と混合しながらリン脂質とホスフォリパーゼAを接触させる方法(非特許文献1)、あるいは、リン脂質を乳化剤とした水中油型乳化物を製し、水相に分散させたホスフォリパーゼAと油相と水相の界面に存在するリン脂質とを接触させる方法(非特許文献2)等が知られている。
【0003】
しかしながら、前記非特許文献1による方法では、有機溶剤を使うことで酵素反応が進みやすいが、有機溶剤を除去しなければ、色々な用途、例えば、食品、医薬品等に使用できない。特に、非特許文献1記載のジエチルエーテルを用いる製造条件は食品用途には安全性上も許可されていない。また、前記非特許文献2による方法では、有機溶剤を使用せず、水中油型乳化物の状態でリン脂質を酵素分解できるが、有機溶剤を使用する方法よりも酵素分解反応速度は遅く、最終的には水を除去するための大きなエネルギーを必要とする問題があった。いずれの方法も何らかの課題を有し、これらの課題を解決した新たな酵素分解による方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本生化学会編集、生化学実験講座3 「脂質の化学」、P.264-265、1974年11月25日発行
【非特許文献2】D. M. Cabezas, R. Madoery, B. W. K. Diehl, M. C. Toma´s「Emulsifying Properties of Different Modified Sunflower Lecithins」J Am Oil Chem Soc (2012) 89:355-361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行する新規な方法により、リン脂質をリゾリン脂質に分解し、得られるリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易いリゾリン脂質含有組成物の製造方法、およびこれを用いた水中油型乳化組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。
その結果、リン脂質、油脂、多価アルコールおよび少量の清水を原料とした多価アルコールベースの混合物中でホスフォリパーゼAによりリン脂質を酵素分解し、得られた組成物が自己乳化性を有するように前記混合物の原料混合割合をコントロールする新規な酵素分解を試みたところ意外にも、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行し、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易いリゾリン脂質含有組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)リン脂質をホスフォリパーゼAで分解したリゾリン脂質含有組成物の製造方法において、
前記組成物の原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAを均一に混合し、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を開始する原料混合工程と、
前記原料混合物をリン脂質の分解率が20質量%以上となるようにリン脂質をホスフォリパーゼAにより酵素分解するリン脂質酵素分解工程と、
前記酵素分解物中のホスフォリパーゼAを不活性化する酵素不活性化工程を含み、
前記工程により得られたリゾリン脂質含有組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正であり、
前記原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAの合計量が、前記原料全体に対し90質量%以上、
前記原料中の多価アルコールの含有量が前記原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0質量倍、
前記原料中のリン脂質の含有量が前記原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5質量倍、
前記原料中の多価アルコールおよび清水の合計量が前記原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0質量倍、
であることを特徴とするリゾリン脂質含有組成物の製造方法、
L1値:前記リゾリン脂質含有組成物の明度値
L2値:前記リゾリン脂質含有組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
(2)前記L2-L1値が+5以上である(1)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法、
(3)(1)または(2)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む水中油型乳化組成物の製造方法、
(4)(1)または(2)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物に油脂、脂溶性物質、多価アルコール、清水及び水溶性物質の1種または2種以上を添加混合する混合工程を含み、
前記混合工程により得られた混合組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正である混合組成物の製造方法、
L1値:前記混合組成物の明度値
L2値:前記混合組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
(5)(4)の混合組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む水中油型乳化組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行する新規な方法により、リン脂質をリゾリン脂質に分解し、得られるリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易い組成物を提供することができる。したがって、リン脂質を所望の分解率に分解したリゾリン脂質含有組成物を提供することが可能であり、当該組成物の利用拡大、特に、その組成物の特性により、水中油型乳化組成物への利用拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において特に規定しない限り、「%」は「質量%」を、「倍」は「質量倍」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明は、リン脂質、油脂、多価アルコールおよび少量の清水を原料とした多価アルコールベースの混合物中でホスフォリパーゼAによりリン脂質を酵素分解し、得られた組成物が自己乳化性を有するように前記混合物の原料混合割合をコントロールすることより、除去を伴う有機溶剤を使用しなくてもホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解が進行させることが可能であり、得られるリゾリン脂質含有組成物は、自己乳化性を有し色々な用途にも使用し易いリゾリン脂質含有組成物の製造方法を提供することに特徴を有する。
【0011】
<リゾリン脂質含有組成物>
本発明の製造方法で得られるリゾリン脂質含有組成物は、大半がリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水を原料とし、リン脂質のグリセロ骨格と脂肪酸とのエステル結合をホスフォリパーゼAで分解したリゾリン脂質を含有した組成物であり、後述する自己乳化性を有したものである。また、本発明の製造方法で得られるリゾリン脂質含有組成物には、前記原料および原料由来のものを含む他、後述する自己乳化性を有する限り、食品原料、医薬品原料、化粧品原料等、他の原料を含んでも良い。さらに、本発明の製造方法で得られるリゾリン脂質含有組成物は、ホスフォリパーゼAに不活性化処理を施しているので、そのまま、あるいは他の原料と組み合わせて用いても良く、当該組み合わせたものは、食品、医薬品、化粧品またはこれら用途の添加物等、色々な用途に使用することができる。
【0012】
<ホスフォリパーゼA>
本発明の製造方法で用いるリン脂質分解酵素であるホスフォリパーゼAは、リン脂質のグリセロ骨格と脂肪酸とのエステル結合を分解しリゾリン脂質とする酵素であり、ホスフォリパーゼA1またはホスフォリパーゼA2である。ホスフォリパーゼAは、微生物由来、動物由来等が市販されているが、酵素不活化処理のし易さおよびSDGsにおけるCO2削減の観点から微生物由来が好ましい。
【0013】
<ホスフォリパーゼAの含有量>
本発明の製造方法で使用するホスフォリパーゼAの含有量は、ホスフォリパーゼAにより酵素分解されるリン脂質の分解率が20%以上となる量であれば特に限定するものでない。使用するホスフォリパーゼAの酵素活性、種類、酵素の起源、あるいはリン脂質の含有量等にもよるが、経済性および不活性化工程の煩雑さを考慮し、具体的には例えば、原料全体に対し下限量は、好ましくは0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上である。上限量は、好ましくは1.0%以下、0.8%以下、0.5%以下である。
【0014】
<リン脂質およびリゾリン脂質>
本発明の製造方法で使用するリン脂質とは、グリセロ骨格と脂肪酸とのエステル結合を2つ有したリンを伴う脂質である。具体的には例えば、ホスファチジルコリン(以下、「PC」と省略)、ホスファチジルエタールアミン(以下、「PE」と省略)、ホスファチジルイノシトール(以下、「PI」と省略)、ホスファチジルセリン(以下、「PS」と省略)、ホスファチジン酸(以下、「PA」と省略)等が挙げられる。
一方、リゾリン脂質とは、グリセロ骨格と脂肪酸とのエステル結合を1つ有したリンを伴う脂質である。具体的には例えば、リゾホスファチジルコリン(以下、「LPC」と省略)、リゾホスファチジルエタールアミン(以下、「LPE」と省略)、リゾホスファチジルイノシトール(以下、「LPI」と省略)、リゾホスファチジルセリン(以下、「LPS」と省略)、リゾホスファチジン酸(以下、「LPA」と省略)等が挙げられる。
本発明の製造方法で使用するリン脂質としては、前記リン脂質の1種または2種以上を用いることができる。また、本発明においては、前記リン脂質の1種または2種以上を含有した卵黄由来の卵黄リン脂質、大豆、ヒマワリ、菜種、こめ等、植物由来の植物リン脂質、さらにそれぞれ起源由来のトリアシルグリセロール等の油脂等を含有したレシチンも原料として用いることができる。
なお、油脂等を含有したレシチンを用いた場合は、レシチン中のリン脂質部分が本発明のリン脂質であり、レシチン中の油脂は、後述の油脂に相当する。
【0015】
<リン脂質のホスフォリパーゼAによる分解率>
本発明の製造方法は、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の分解率が20%以上、好ましくは25%以上、30%以上、35%以上、40%以上である。分解率が前記値より低いと、本発明の効果である自己乳化性を有した組成物が得られ難く好ましくない。
【0016】
<リン脂質の分解率を算出のための分析用試料の調製>
本発明で規定するリン脂質の分解率に関し、その算出のための分析用試料の調製方法を以下に示す。
(1)本発明の製造方法により得られたリゾリン脂質含有組成物1.0gを10mLネジ口付き遠沈管に分取し、イオン交換水2.0mLを添加し十分に撹拌する。
(2)さらにメタノール2.0mLおよびクロロホルム2.0mLを順次添加し、添加ごとに十分に撹拌する。
(3)前記ネジ口付き遠沈管中の混合液を3,000rpm×10分間遠心分離を施し、2層に分離する。
(4)2層に分離した下層のクロロホルム・メタノール層をメンブレンフィルター(PTFEタイプ)孔径0.45μmでろ過し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)用の試料とした。
【0017】
<リン脂質の分解率を算出のための高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析方法>
次にリン脂質の分解率を算出するためのHPLCの分析条件を以下に示す。なお、下記分析条件に規定していない条件は、任意に設定することができる。
検出器 :蒸発光散乱検出器(ELSD):ウォーターズ社製
カラム:Alltima HP Silica5μm、250mm×4.6mm
移動相A :メタノール:イオン交換水:酢酸:トリエチルアミン=85:15:0.45:0.05(容量比)
移動相B :ヘキサン:2-プロパノール:移動相A=20:48:32(容量比)
【0018】
【0019】
<リン脂質の分解率の算出方法>
本発明で規定するリン脂質の分解率の算出方法は、分解後の下記成分のHPLCピーク面積を用い以下の数式により算出する。
[数1]
リン脂質の分解率(%)=[リゾリン脂質ピーク面積/(リン脂質ピーク面積+リゾリン脂質ピーク面積)] ×100
なお、分解開始時の原料に分解後に生じる成分であるリゾリン脂質を含有している場合は、前記リン脂質の分解率から、原料段階での含有率を減じた値がリン脂質の分解率となる。
また、原料のリン脂質の一部または全部がPCを含有している場合は、リゾリン脂質への分解率とLPCへの分解率がほぼ同程度であるので、本発明においては、下記式を用いる。
[数2]
リン脂質の分解率=[LPCピーク面積/(PCピーク面積+LPCピーク面積)]×100
【0020】
次に、本発明の製造方法で使用するリン脂質以外の必須原料である油脂、多価アルコールおよび清水、ならびにその他の原料について説明する。
【0021】
<油脂>
本発明の製造方法で使用する油脂としては、具体的には例えば、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール等であり、本発明の効果を損なわない限り、その他の中性脂質である例えば、遊離脂肪酸、コレステロール、コレスタノール、フィトステロール、フィトスタノール等を一部含有したものも用いることができる。油脂の起源は特に限定するものではないが、例えば、植物由来、動物由来、藻類由来、微生物由来等が挙げられる。SDGsの観点から動物由来以外の植物由来、藻類由来または微生物由来の油脂が好ましく、特に植物由来の油脂がさらに好ましい。また、本発明の製造方法で使用する油脂としては、室温(25℃)でも液状の状態を保つ液状油脂が好ましく、冷蔵(4℃)でも液状の状態を保つ液状油脂がより好ましい。
なお、前述したレシチン中に含まれる油脂も、本発明の油脂に含まれる。
【0022】
<多価アルコール>
本発明の製造方法で使用する多価アルコールとしては、食品、医薬品または化粧品等の分野において原料と使用されている1分子中にアルコール性ヒドロキシ基を2個以上もつ有機化合物あれば特に限定されない。具体的には例えば、還元水あめ、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。本発明では、これらの1種または2種以上を用いることができる。
前記還元水あめ、ソルビトール等には、水分を30%含有したものが流通している。このような水分を含有したものは、水分を除いた部分が本発明の多価アルコールであり、前記水分は、後述の清水に相当する。
【0023】
本発明の製造方法で使用する清水としては、食品、医薬品または化粧品等の分野において原料と使用されている清水であれば特に限定されない。具体的には例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、注射用蒸留水、水道水等が挙げられる。
なお、前述した多価アルコール中に含まれる水分も、本発明の清水に含まれ、その他、本発明の製造で使用できる水性原料中の水分、例えば、水あめ中の水分等も本発明の清水に含まれる。
【0024】
<その他の原料>
本発明の製造方法は、リン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAを必須原料とするが、本発明の効果を損なわない限り、他の原料を使用することができる。例えば、pH調整剤、キレート剤、酸化防止剤、呈味原料、増粘剤、各種ビタミン類等が挙げられる。
【0025】
次に、本発明の製造方法で使用する必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAの含有量について詳述する。各必須原料の含有量に係る下記条件は、本発明において同時に満たす必要がある。
【0026】
<必須原料の合計含有量>
本発明の製造方法で使用する必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAの合計量は、原料全体に対し90%以上であり、好ましくは95%以上、98%以上である。
合計量が前記量を下回ると、原料全体の均一化が難しい場合があり、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行しない場合がある。
【0027】
<原料中の清水の含有量に対する原料中の多価アルコールの含有量>
本発明の製造方法において、原料中の多価アルコールの含有量は、原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0倍である。また、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.5倍以上であり、前記上限値は、好ましくは2.7倍以下である。
清水の含有量に対する多価アルコールの含有量が前記範囲外の場合は、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。
【0028】
<原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する原料中のリン脂質の含有量>
本発明の製造方法において、原料中のリン脂質の含有量は、原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5倍である。また、原料中のリン脂質含有量が比較的高い状態で製造することが可能であり、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.08倍以上、0.1倍以上であり、前記上限値は、好ましくは0.45倍以下、0.4倍以下である。
リン脂質および油脂の合計量に対するリン脂質の含有量が前記下限値を下回ると、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。一方、前記上限値を上回ると、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行しない。
【0029】
<原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する原料中の多価アルコールおよび清水の合計量>
本発明の製造方法において、原料中の多価アルコールおよび清水の合計量は、原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0倍である。また、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.3倍以上、0.5倍以上、1.0倍以上であり、前記上限値は、好ましくは3.5倍以下である。
前記リン脂質および油脂の合計量に対する多価アルコールおよび清水の合計量が前記範囲外の場合は、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。
【0030】
以上、必須原料の含有量に係る条件について述べたが、上記条件を満たすことにより、原料混合工程後であって、かつリン脂質酵素分解工程の分解開始時の原料混合物において、全体が均一で酵素分解し易い適度な流動性を有するため、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行すると共に、前記原料混合物には、適度なリン脂質を含有しているので、得られるリゾリン脂質の生産性が劣ることはない、
【0031】
<リゾリン脂質含有組成物の自己乳化性>
本発明の製造方法で得られたリゾリン脂質含有組成物は、当該組成物の明度値(L1)と当該組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値(L2)を比較したとき、L2-L1値が正である特性を有し、好ましくは+5以上、+10以上である。
得られるリゾリン脂質含有組成物を、前記特性を有するように原料配合割合をコントロールすることにより、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行させることが可能となり、得られた組成物は、自己乳化性を有しているため、乳化系の様々な用途に使用し易い。
得られるリゾリン脂質含有組成物そのものより、当該組成物を清水に分散させたものが、明るさの指標である明度値が同等あるいはそれ以上ということは、水分散させることで白濁が増したことを意味する。
通常、水中油型乳化物は、当該乳化物を清水に分散させると、乳化粒子を構成する油相の割合が相対的に減少するので、白濁の程度は減少し、明度値も減少する。
一方、本発明の製造方法で得られたリゾリン脂質含有組成物を清水に分散させたものは、明度値が前記組成物その物と同等あるいはそれ以上となるのは、前記組成物中のリゾリン脂質、油脂等の脂質成分の分散状態が水中油型乳化物と異なり多価アルコールをベースとしたものに分散あるいは溶解した状態であるためか、前記組成物を清水に分散させただけで、清水中で新たに微細な乳化粒子を生じさせることができる自己乳化性を有するためと推定する。
なお、本発明において、明度値(L値)は測色色差計(商品名「Color Meter ZE-2000」:日本電色工業社製)を用いて測定することができる。
【0032】
次に、各工程について説明する。
【0033】
<原料混合工程>
本発明の製造方法では、原料混合工程で、組成物の原料であるリン脂質、油脂、多価アルコール、清水およびホスフォリパーゼAを均一に混合する。均一に混合した状態とは、未溶解、未分散の原料が肉眼で観察されず、混合を停止したとしても、しばらくの間(3分間程度)混合状態が保たれている状態のことである。例えば、混合停止後、しばらくした後に全体が分離を生ずる、リン脂質の未分散物が観察される等の状態は、均一に混合した状態とは言えない。
【0034】
<リン脂質酵素分解工程>
本発明のリン脂質酵素分解工程により、リン脂質の分解率が20%以上、好ましくは25%以上、30%以上、35%以上、40%以上となるようにリン脂質をホスフォリパーゼAにより酵素分解する。
必須原料の含有量を上述した条件を満たすように調整することで、酵素分解がスムーズに進行する。
また、酵素分解は、リン脂質の存在下、ホスフォリパーゼAの添加と同時に開始されるので、前記原料混合工程とリン脂質酵素分解工程は、同時に進行することとなる。
【0035】
<酵素不活性化工程>
本発明は、リン脂質酵素分解工程で所望する分解率までリン脂質を酵素分解した後、ホスフォリパーゼAを不活性化し、酵素による分解反応を停止させる。
ホスフォリパーゼAを不活化させる方法は、特に限定するものではないが、例えば、得られた酵素分解物を酵素が失活する温度(例えば70℃以上)で加熱処理を施す方法、あるいは得られた酵素分解物をpH調整剤でpH4.5以下に調整し酵素分解を停止させる方法等、本発明では、任意に不活化させる方法を採用することができる。
【0036】
<リゾリン脂質含有組成物を用いた水中油型乳化組成物の製造方法>
本発明の製造方法で得られたリゾリン脂質含有組成物は、当該組成物を清水に分散させることで、水中油型乳化組成物が得られる。分散させる清水の量は、前記組成物に対し好ましくは0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上である。また、得られた前記乳化物は、食品、医薬品、化粧品等として利用できる。例えば、醤油と食酢を清水で希釈した混合液に前記組成物を分散させると醤油味の乳化液状調味料が得られる。なお、前記清水の量は、前記混合液を例に述べると、醤油及び食酢のそれぞれの水分と希釈に用いた清水との合計量である。
【0037】
<リゾリン脂質含有組成物を用いた混合組成物の製造方法>
本発明は、自己乳化性を有する、つまりL2-L1値が正、好ましくは+5以上、+10以上である限り、本発明の製造方法で得られたリゾリン脂質含有組成物に油脂、脂溶性物質、多価アルコール、清水及び水溶性物質の1種または2種以上を添加し混合することができる。
例えば、リゾリン脂質含有組成物の使用し易さの改善または保存性、添加混合する原料の保存安定性向上等、様々な目的で、本発明は、油脂、脂溶性物質、多価アルコール、清水及び水溶性物質の1種または2種以上をリゾリン脂質含有組成物に添加混合することができる。
添加混合する脂溶性物質とは、油脂に溶解するもの、あるいは油脂に溶解しているものであれば、特に限定されず、例えば、各種脂溶性ビタミン、香辛料、脂溶性医薬品原料、脂溶性化粧品原料、香料等が挙げられる。また、水溶性物質とは、清水に溶解するもの、あるいは清水に溶解しているものであれば、特に限定されず、例えば、醤油、食酢等の液状調味料、水溶性ビタミン、食塩、砂糖等の水溶性調味料、各種防腐剤、水溶性医薬品原料、水溶性化粧品原料等が挙げられる。
【0038】
<混合組成物を用いた水中油型乳化組成物の製造方法>
本発明の製造方法で得られた混合組成物は、上述したリゾリン脂質含有組成物と同様、当該組成物を清水に分散させることで、水中油型乳化組成物が得られる。分散させる清水の量は、前記組成物に対し好ましくは0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上である。また、得られた前記乳化物は、食品、医薬品、化粧品等として利用できる。
【0039】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0040】
[試験例1]
試験例1は、原料中の清水の含有量に対する原料中の多価アルコールの含有量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
表2に示す原料を準備し、油性原料である菜種油およびひまわりレシチン、水性原料である還元水あめおよび清水をそれぞれ均一に混合し油性混合物と水性混合物を調製した。次に、前記油性混合物と前記水性混合物を均一に混合した後、50℃に加温し、その後ホスフォリパーゼAを添加してリン脂質の酵素分解を開始した。リン脂質の酵素分解反応を24時間行った後、酵素を不活性化するため、80℃に加温後、同温で30分間処理した。酵素不活化処理を行った後、冷却し、本発明のリゾリン脂質含有組成物を製造した。結果を表2に示す。
表2中の原料において、ひまわりレシチンは、デュポン(Dupont)社製の商品名:Solec SF-10を使用した。前記Solec SF-10は、リン脂質としてPC、PE、PIおよびPA等を含有し、リン脂質含有量は、アセトン不溶物として約60%であり、表2中のひまわりレシチン中のリン脂質含量は60%として、残りの40%は油脂として算出した。また、ホスフォリパーゼA2は、ナガセケムテック株式会社製の商品名:PLA2ナガセ10P/Rを使用した。それ以外の原料は、市販されているものを使用した。
なお、表2中の比較例1および2は、原料混合工程後、しばらくした後、全体が分離したため、製造を中止した。以後の試験例も同様に、原料混合工程後、全体が分離した場合は、製造を中止した。以後の試験例および実施例は、試験例1と同一の原料を用い、同様な方法で製造した。また、リン脂質の分解率は、使用したひまわりレシチンの一部にリン脂質としてPCを含有しているので、試験例1も含め以後の試験例および実施例では、前記数2の式より算出した。
【0041】
【0042】
表2より、多価アルコールの含有量が清水の含有量に対し0.4~3.0倍、好ましくは下限が0.5倍以上、上限が2.7倍以下の範囲にあるものは、L2-L1値が+10以上と正であり、リン脂質の分解率も高い数値を示した。一方、前記範囲外にあるものは、原料混合後、しばらくした後、全体が分離し、均一な状態で酵素分解反応を進めることが出来なかった。
なお、各実施例で得られたリゾリン脂質含有組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。
【0043】
[試験例2]
試験例2は、原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する原料中のリン脂質の含有量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
結果を表3に示す。
【0044】
【0045】
表3より、リン脂質の含有量がリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5倍、好ましくは下限が0.08倍以上、0.1倍以上、上限が0.45倍以下、0.4倍以下の範囲にあるものは、L2-L1値が+10以上と正であり、リン脂質の分解率も高い数値を示した。一方、前記範囲を下回るものは、原料混合後、しばらくした後、全体が分離し、均一な状態で酵素分解反応を進めることが出来なかった。前記範囲を上回るものは、リン脂質の分解率が20%を下回った。
なお、各実施例で得られたリゾリン脂質含有組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。
【0046】
[試験例3]
試験例3は、原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する原料中の多価アルコールおよび清水の合計量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
結果を表4に示す。
【0047】
【0048】
表4より、多価アルコールおよび清水の合計量がリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0倍、好ましくは下限が0.3倍以上、0.5倍以上、1.0倍以上、上限が3.5倍以下の範囲にあるものは、L2-L1値が+10以上と正であり、使用した多価アルコールの種類に応じ、リン脂質の分解率も高い数値を示した。一方、前記範囲外にあるものは、原料混合後、しばらくした後、全体が分離し、均一な状態で酵素分解反応を進めることが出来なかった。
なお、各実施例で得られたリゾリン脂質含有組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。
【0049】
[実施例22]
実施例9で得られたリゾリン脂質含有組成物27.2部に前記製造原料として使用した還元水あめ19.8部を混合し、前記製造原料として使用した菜種油を徐々に添加しながら均一の混合し、混合組成物100部を得た。得られた混合組成物は、実施例9で得られたリゾリン脂質含有組成物より、滑らかで使用し易さが改善された。また、得られた混合組成物のL2およびL1を測定したところ、L2-L1値が+10以上と正であった。
なお、得られた混合組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
リン脂質をホスフォリパーゼAで分解したリゾリン脂質含有組成物の製造方法において、
前記組成物の必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水を含む原料、ならびにホスフォリパーゼAを均一に混合し、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を開始する原料およびホスフォリパーゼA混合工程と、
前記原料およびホスフォリパーゼA混合物をリン脂質の分解率が20質量%以上となるようにリン脂質をホスフォリパーゼAにより酵素分解するリン脂質酵素分解工程と、
前記酵素分解物中のホスフォリパーゼAを不活性化する酵素不活性化工程を含み、
前記工程により得られたリゾリン脂質含有組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正であり、
前記必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水、ならびにホスフォリパーゼAの合計量が、前記原料およびホスフォリパーゼA全体に対し90質量%以上、
前記必須原料中の多価アルコールの含有量が前記必須原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0質量倍、
前記必須原料中のリン脂質の含有量が前記必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5質量倍、
前記必須原料中の多価アルコールおよび清水の合計量が前記必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0質量倍、
であることを特徴とするリゾリン脂質含有組成物の製造方法。
L1値:前記リゾリン脂質含有組成物の明度値
L2値:前記リゾリン脂質含有組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)リン脂質をホスフォリパーゼAで分解したリゾリン脂質含有組成物の製造方法において、
前記組成物の必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水を含む原料、ならびにホスフォリパーゼAを均一に混合し、ホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を開始する原料およびホスフォリパーゼA混合工程と、
前記原料およびホスフォリパーゼA混合物をリン脂質の分解率が20質量%以上となるようにリン脂質をホスフォリパーゼAにより酵素分解するリン脂質酵素分解工程と、
前記酵素分解物中のホスフォリパーゼAを不活性化する酵素不活性化工程を含み、
前記工程により得られたリゾリン脂質含有組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正であり、
前記必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水、ならびにホスフォリパーゼAの合計量が、前記原料およびホスフォリパーゼA全体に対し90質量%以上、
前記必須原料中の多価アルコールの含有量が前記必須原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0質量倍、
前記必須原料中のリン脂質の含有量が前記必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5質量倍、
前記必須原料中の多価アルコールおよび清水の合計量が前記必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0質量倍、
であることを特徴とするリゾリン脂質含有組成物の製造方法、
L1値:前記リゾリン脂質含有組成物の明度値
L2値:前記リゾリン脂質含有組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
(2)前記L2-L1値が+5以上である(1)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法、
(3)(1)または(2)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む水中油型乳化組成物の製造方法、
(4)(1)または(2)のリゾリン脂質含有組成物の製造方法で得られた前記組成物に油脂、脂溶性物質、多価アルコール、清水及び水溶性物質の1種または2種以上を添加混合する混合工程を含み、
前記混合工程により得られた混合組成物は、下記方法により算出したL2-L1値が正である混合組成物の製造方法、
L1値:前記混合組成物の明度値
L2値:前記混合組成物を100質量倍の清水に分散させて得られた水中油型乳化物の明度値
(5)(4)の混合組成物の製造方法で得られた前記組成物を清水に分散させる水分散工程を含む水中油型乳化組成物の製造方法、
である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
<ホスフォリパーゼAの含有量>
本発明の製造方法で使用するホスフォリパーゼAの含有量は、ホスフォリパーゼAにより酵素分解されるリン脂質の分解率が20%以上となる量であれば特に限定するものでない。使用するホスフォリパーゼAの酵素活性、種類、酵素の起源、あるいはリン脂質の含有量等にもよるが、経済性および不活性化工程の煩雑さを考慮し、具体的には例えば、原料およびホスフォリパーゼA全体に対し下限量は、好ましくは0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上である。上限量は、好ましくは1.0%以下、0.8%以下、0.5%以下である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
<必須原料およびホスフォリパーゼAの合計含有量>
本発明の製造方法で使用する必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水、ならびにホスフォリパーゼAの合計量は、原料およびホスフォリパーゼA全体に対し90%以上であり、好ましくは95%以上、98%以上である。
合計量が前記量を下回ると、原料およびホスフォリパーゼA全体の均一化が難しい場合があり、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行しない場合がある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
<必須原料中の清水の含有量に対する必須原料中の多価アルコールの含有量>
本発明の製造方法において、必須原料中の多価アルコールの含有量は、必須原料中の清水の含有量に対し0.4~3.0倍である。また、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.5倍以上であり、前記上限値は、好ましくは2.7倍以下である。
清水の含有量に対する多価アルコールの含有量が前記範囲外の場合は、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
<必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する必須原料中のリン脂質の含有量>
本発明の製造方法において、必須原料中のリン脂質の含有量は、必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5倍である。また、原料およびホスフォリパーゼA中のリン脂質含有量が比較的高い状態で製造することが可能であり、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.08倍以上、0.1倍以上であり、前記上限値は、好ましくは0.45倍以下、0.4倍以下である。
リン脂質および油脂の合計量に対するリン脂質の含有量が前記下限値を下回ると、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。一方、前記上限値を上回ると、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行しない。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
<必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する必須原料中の多価アルコールおよび清水の合計量>
本発明の製造方法において、必須原料中の多価アルコールおよび清水の合計量は、必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0倍である。また、高いリン脂質の分解率が得られ易いことから、前記下限値は、好ましくは0.3倍以上、0.5倍以上、1.0倍以上であり、前記上限値は、好ましくは3.5倍以下である。
前記リン脂質および油脂の合計量に対する多価アルコールおよび清水の合計量が前記範囲外の場合は、全体を混合したとしても、混合停止後、しばらくした後、全体が分離するため、全体を均一に保ちながらホスフォリパーゼAによるリン脂質の酵素分解を進行させることが困難である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
以上、必須原料の含有量に係る条件について述べたが、上記条件を満たすことにより、原料およびホスフォリパーゼA混合工程後であって、かつリン脂質酵素分解工程の分解開始時の原料混合物において、全体が均一で酵素分解し易い適度な流動性を有するため、リン脂質のホスフォリパーゼAによる酵素分解が十分に進行すると共に、前記原料およびホスフォリパーゼA混合物には、適度なリン脂質を含有しているので、得られるリゾリン脂質の生産性が劣ることはない、
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
<原料およびホスフォリパーゼA混合工程>
本発明の製造方法では、原料およびホスフォリパーゼA混合工程で、組成物の必須原料であるリン脂質、油脂、多価アルコールおよび清水を含む原料、ならびにホスフォリパーゼAを均一に混合する。均一に混合した状態とは、未溶解、未分散の原料およびホスフォリパーゼAが肉眼で観察されず、混合を停止したとしても、しばらくの間(3分間程度)混合状態が保たれている状態のことである。例えば、混合停止後、しばらくした後に全体が分離を生ずる、リン脂質の未分散物が観察される等の状態は、均一に混合した状態とは言えない。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
[試験例1]
試験例1は、必須原料中の清水の含有量に対する必須原料中の多価アルコールの含有量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
表2に示す原料およびホスフォリパーゼAを準備し、油性原料である菜種油およびひまわりレシチン、水性原料である還元水あめおよび清水をそれぞれ均一に混合し油性混合物と水性混合物を調製した。次に、前記油性混合物と前記水性混合物を均一に混合した後、50℃に加温し、その後ホスフォリパーゼAを添加してリン脂質の酵素分解を開始した。リン脂質の酵素分解反応を24時間行った後、酵素を不活性化するため、80℃に加温後、同温で30分間処理した。
酵素不活化処理を行った後、冷却し、本発明のリゾリン脂質含有組成物を製造した。結果を表2に示す。
表2中の原料において、ひまわりレシチンは、デュポン(Dupont)社製の商品名:Solec SF-10を使用した。前記Solec SF-10は、リン脂質としてPC、PE、PIおよびPA等を含有し、リン脂質含有量は、アセトン不溶物として約60%であり、表2中のひまわりレシチン中のリン脂質含量は60%として、残りの40%は油脂として算出した。また、ホスフォリパーゼA2は、ナガセケムテック株式会社製の商品名:PLA2ナガセ10P/Rを使用した。それ以外の原料は、市販されているものを使用した。
なお、表2中の比較例1および2は、原料およびホスフォリパーゼA混合工程後、しばらくした後、全体が分離したため、製造を中止した。以後の試験例も同様に、原料およびホスフォリパーゼA混合工程後、全体が分離した場合は、製造を中止した。以後の試験例および実施例は、試験例1と同一の原料を用い、同様な方法で製造した。また、リン脂質の分解率は、使用したひまわりレシチンの一部にリン脂質としてPCを含有しているので、試験例1も含め以後の試験例および実施例では、前記数2の式より算出した。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
[試験例2]
試験例2は、必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する必須原料中のリン脂質の含有量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
結果を表3に示す。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
表3より、リン脂質の含有量がリン脂質および油脂の合計量に対し0.07~0.5倍、好ましくは下限が0.08倍以上、0.1倍以上、上限が0.45倍以下、0.4倍以下の範囲にあるものは、L2-L1値が+10以上と正であり、リン脂質の分解率も高い数値を示した。一方、前記範囲を下回るものは、原料およびホスフォリパーゼA混合後、しばらくした後、全体が分離し、均一な状態で酵素分解反応を進めることが出来なかった。前記範囲を上回るものは、リン脂質の分解率が20%を下回った。
なお、各実施例で得られたリゾリン脂質含有組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
[試験例3]
試験例3は、必須原料中のリン脂質および油脂の合計量に対する必須原料中の多価アルコールおよび清水の合計量の割合による酵素分解反応への影響を調べた。
結果を表4に示す。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
表4より、多価アルコールおよび清水の合計量がリン脂質および油脂の合計量に対し0.25~4.0倍、好ましくは下限が0.3倍以上、0.5倍以上、1.0倍以上、上限が3.5倍以下の範囲にあるものは、L2-L1値が+10以上と正であり、使用した多価アルコールの種類に応じ、リン脂質の分解率も高い数値を示した。一方、前記範囲外にあるものは、原料およびホスフォリパーゼA混合後、しばらくした後、全体が分離し、均一な状態で酵素分解反応を進めることが出来なかった。
なお、各実施例で得られたリゾリン脂質含有組成物を、0.5倍以上、0.8倍以上、1.0倍以上、2.0倍以上の清水に分散させたところ、いずれの場合も水中油型乳化組成物が得られた。