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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054998
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】鉱石移送方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
E21C50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161534
(22)【出願日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省資源エネルギー庁、平成31年度海洋鉱物資源開発に向けた資源量評価・生産技術等調査、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005924
【氏名又は名称】株式会社三井三池製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】羽上田 裕章
(72)【発明者】
【氏名】荻島 知之
(72)【発明者】
【氏名】下川 眞男
(72)【発明者】
【氏名】浅井 英明
(72)【発明者】
【氏名】山本 譲司
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065FA23
2D065GA01
(57)【要約】
【課題】揚鉱管を通じて鉱石をスラリーとして海水とともに海底から海上に向かって安定して移送することが可能な鉱石移送方法を提供すること。
【解決手段】揚鉱管60を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する際のスラグ流発生を抑制する鉱石移送方法であって、海水と鉱石を混合してスラリーを形成する際に、スラリーにおける鉱石の体積比率で示されるスラリー濃度を以下の式(1)のように調整する。
F(D)≦-0.0511×D+22.556・・・(1)
F(D):スラリー濃度
D:2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径(mm)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚鉱管を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する際のスラグ流発生を抑制する鉱石移送方法であって、
海水と鉱石を混合してスラリーを形成する際に、前記スラリーにおける鉱石の体積比率で示されるスラリー濃度を以下の式(1)のように調整することを特徴とする鉱石移送方法。
F(D)≦-0.0511×D+22.556・・・(1)
F(D):スラリー濃度
D:2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径(mm)
【請求項2】
請求項1に記載の鉱石移送方法であって、
前記鉱石の長径を設定寸法以下に調整してから前記スラリーを形成する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鉱石移送方法であって、
F(D)≦38×D-0.333が成立するように鉱石を破砕する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【請求項4】
請求項1に記載の鉱石移送方法であって、
前記鉱石の粒径を25mm以下とし、
スラリー流速4m/s以上に設定して移送する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【請求項5】
請求項1に記載の鉱石移送方法であって、
前記鉱石の粒径を50mm以下とし、
スラリー流速5m/s以上設定して移送する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の鉱石移送方法であって、
前記揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度の最大値を、
許容濃度以下に設定する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【請求項7】
請求項6に記載の鉱石移送方法であって、
前記揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度を55%以下に設定する
ことを特徴とする鉱石移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移送管を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する鉱石移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、海底には、例えば熱水鉱床をはじめとする種々の鉱物資源が存在している。
このような熱水鉱床等で採掘した鉱石を利用するために、破砕した鉱石を海水と混合してスラリーを形成し、このスラリーを揚鉱管を通じて海上の基地(例えば、船舶)まで移送するための種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
そして、破砕した鉱石でスラリーを形成して移送管を通じて移送する際には、安定的かつ効率的に移送することが採算性の観点からも望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-269070号公報
【特許文献2】特開2012-193578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、破砕した鉱石と海水で形成したスラリーを移送管で揚鉱する際には、スラリーが移送管内において安定して流動する必要があるが、例えば、鉱石同士が咬合による鉱石と管壁面との接触力の増大や、鉱石と管壁との摩擦力や集積した鉱石群の自重が鉱石を上方に搬送する水流の揚力を上回ると、鉱石を安定して移送することが困難となる。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、鉱石と海水とを混合して形成したスラリーを、海底から海上に向かって安定して移送することが可能な鉱石移送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の発明者は、移送管内におけるスラリー流動を鋭意研究した結果、スラグ流の発生を抑制して移送管内における鉱石の粒子同士の咬合を軽減することがスラリーの安定した移送に重要であり、そのためには、スラリー濃度(=(鉱石の体積)/(スラリー体積))の調整が有効であるとの知見を得た。
そして、シミュレーションにおける粒子の挙動を目視確認した結果、スラリーを移送管に送り込む際に、鉱石の粒径(以下、鉱石粒径という場合がある)に応じてスラリー濃度を調整することが有効であることを見出した。さらに、移送管内において局所的に形成されるスラリー濃度の最大値が55vol%以下になるように調整することが極めて有効であることを掴んだ。
ここで、スラグ流とは、移送管内を流れるスラリー(固液混相流)の粒子同士が咬合することにより、管軸に沿って粒子が密な領域と疎な領域が交互に形成され、圧力損失が増大して粒子が移動し難くなる可能性が高まる流動状態をいう。
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)この発明の第1態様は、揚鉱管を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する際のスラグ流発生を抑制する鉱石移送方法であって、海水と鉱石を混合してスラリーを形成する際に、前記スラリーにおける鉱石の体積比率で示されるスラリー濃度を以下の式(1)のように調整することを特徴とする。
F(D)≦-0.0511×D+22.556・・・(1)
F(D):スラリー濃度
D:2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径(mm)
【0008】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、揚鉱管を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する際に、海水と鉱石を混合して濃度が調整されたスラリーを形成して、濃度(スラリー濃度)が調整されたスラリーを揚鉱管に送り込むので、揚鉱管内におけるスラグ流の発生を抑制することができる。スラリー濃度F(D)(vol%)としたときに、例えば、鉱石の粒径D(mm)を、 F(D)≦ -0.0511×D+22.556 に調整することで、移送管内において鉱石の粗密が発生しようとしているがスラグ流の発生は抑制されて鉱石を移送することができる。
その結果、鉱石と海水を混合して形成したスラリーを揚鉱管を通じて安定して移送することができる。
【0009】
ここで、スラリー濃度とは、鉱石と海水を混合してスラリーを形成する際に、スラリーの体積(容積)に対する鉱石が占める体積の比率(割合)をいい、スラリー濃度(体積濃度)=鉱石の体積/(鉱石の体積+海水の体積) で表すことができる。
また、スラリー流速とは、揚鉱管で移送される単位時間当たりのスラリーの流量(体積)を揚鉱管の断面積で除した数値をいうものとする。なお、一定時間当たりのスラリーの移送量を、断面積及び計測時間で除してもよい。また、スラリー濃度の測定における単位時間当たりのスラリーの流量とは、スラリーが含む鉱石の量が定常状態(安定して一定状態)になったときのスラリーの流量をいい、スラリーの流量の測定方法は任意に設定してもよい。例えば、単位時間に移送管から排出されたスラリーをバケツ等で受けて測定してもよい。
また、2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径とは、「試料がすべて通過する金属製網ふるいの最小の目開きで表した粒径」であるとも言える。
【0010】
(2)上記(1)に記載の鉱石移送方法は、前記鉱石の長径を設定寸法以下に調整してから前記スラリーを形成してもよい。
【0011】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、鉱石の長径を設定寸法以下に調整してから前記スラリーを形成するので、すべての鉱石を安定して移送することができる。
ここで、鉱石の長径を設定寸法以下に調整とは、例えば、破砕機で破砕して調整すること、掘削機(例えば、ドラムカッター等のサーフェースマイナー、立型掘削機等)で掘削する際に調整すること等、任意の手段によることが可能である。
ここで、粒径とは、鉱石の長径(それぞれの鉱石で最も離れた二点間の距離(寸法))をいうものとし、JIS A 1204 「土の粒度試験方法」により特定される寸法(粒径)で代用してもよい。
【0012】
(3)上記(1)に記載の鉱石移送方法は、F(D)≦38×D-0.333が成立するように鉱石を破砕してもよい。
【0013】
(4)上記(1)に記載の鉱石移送方法は、前記鉱石の粒径を25mm以下とし、スラリー流速4m/s以上に設定して移送してもよい。
【0014】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径を25mm以下とし、スラリー流速4m/s以上に設定するので、大量の鉱石を効率的かつ安定して移送することができる。
その結果、例えば、スラリー濃度を12.7vol%以下に抑えることにより、揚鉱量を5000ton/日まで増加させることができる。
【0015】
(5)上記(1)に記載の鉱石移送方法は、前記鉱石の粒径を50mm以下とし、スラリー流速5m/s以上設定して移送してもよい。
【0016】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径を50mm以下とし、スラリー流速5m/s以上に設定するので、大量の鉱石を効率的かつ安定して移送することができる。
その結果、例えば、スラリー濃度を10.6vol%以下に抑えることにより、揚鉱量を5000ton/日まで増加させることができる。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の鉱石移送方法は、前記揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度の最大値を、許容濃度以下に設定してもよい。
【0018】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度の最大値を、許容濃度(例えば、55%)以下とするので、移送管内が鉱石によって閉塞リスクを抑制することができる。
ここで、移送管内の局所におけるスラリー濃度とは、移送管の管軸方向の局所(任意の位置)における最大濃度をいう。
【0019】
(7)上記(6)に記載の鉱石移送方法は、前記揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度を55%以下に設定してもよい。
【0020】
この発明に係る鉱石移送方法によれば、揚鉱管内の局所におけるスラリー濃度を55%以下に設定するので鉱石を安定して移送することができる。また、局所におけるスラリー濃度を55%近傍まで高くすることで、閉塞リスクを回避しつつ大量の鉱石を効率的に移送することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る鉱石移送方法によれば、移送管を通じて鉱石をスラリーとして海水とともに海底から海上に向かって安定して移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る揚鉱システムの概略構成の一例を説明する概念図である。
図2】第1実施形態に係るスラリー流動解析における条件の概略を説明する図である。
図3】第1実施形態に係るスラリーの流動解析の概略を説明する概念図である。
図4】第1実施形態に係るスラリー流動解析の概略を説明するグラフであり、(A)は解析領域全体の管軸方向の局所濃度を、(B)は時間経過に伴う局所におけるスラリー濃度の変化を示すグラフである。
図5】第1実施形態に係る鉱石移送方法における固液混相流の流動形態の概略を説明する概念図である。
図6】第1実施形態に係る鉱石移送方法による揚鉱量5000ton/日におけるスラリー流動解析結果を示す図である。
図7】第1実施形態に係る鉱石移送方法による揚鉱量10000ton/日におけるスラリー流動解析結果を示す図である。
図8】第1実施形態に係る鉱石移送方法で適用する粒径設定範囲の一例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、図1を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は第1実施形態に係る揚鉱システムの概略構成を説明する概念図である。
図1において、符号100は揚鉱システムを、符号10は掘削手段を、符号20はストックパイルを、符号30は破砕機を、符号40は浚渫ポンプを、符号50は鉱石フィーダーを、符号60は揚鉱管を、符号70は揚鉱母船(揚鉱基地)を示している。
【0024】
揚鉱システム100は、図1に示すように、例えば、海底の鉱脈を掘削する掘削手段10と、ストックパイル20と、破砕機30と、浚渫ポンプ40と、移送管45と、鉱石フィーダー50と、揚鉱管60と、揚鉱母船(揚鉱基地)70と、を備えている。
【0025】
そして、揚鉱システム100は、例えば、掘削手段10が掘削した鉱石を、破砕機30によって設定した粒径(設定された寸法)以下に破砕して、鉱石フィーダー50において濃度調整したスラリーを、揚鉱管60によって揚鉱母船70に移送する構成とされている。
【0026】
また、揚鉱システム100は、この実施形態において、例えば、スラリー移送に支障が生じた場合に破砕した鉱石を揚鉱母船70に移送するためのバックアップとして、バケット揚鉱装置(不図示)を備えている。バケット揚鉱装置は、公知の種々のバケットコンベア等を適用することが可能である。
【0027】
掘削手段10は、例えば、丘陵状のマウンドを表層から掘削する場合にはサーフェースマイナーを適用することが可能である。なお、掘削手段10としては、チムニー(小型マウンド)を掘削する場合には立型掘削機を適用することが可能であり、掘削手段10の構成は掘削対象の鉱脈の形式に応じて任意に設定することが可能である。
【0028】
ストックパイル20は、掘削手段10で掘削した鉱石を一時的に貯留する。
なお、掘削した鉱石をストックパイル20に運搬する手段は任意に設定することができる。
そして、ストックパイル20は、例えば、スクリューコンベア21を用いて、貯留した鉱石を破砕機30に搬送する。
【0029】
破砕機30は、ストックパイル20から送られてきた鉱石を、揚鉱管60で移送するのに適した設定した粒径D(mm)に破砕する。具体的には、揚鉱量から算出した所望のスラリー濃度(体積濃度)F(D)(vol%)に対して、F(D)≦ -0.0511×D+22.556 が成立する粒径D(mm)に鉱石を破砕する。
ここで、スラリーの体積濃度F(D)であり、粒径Dは、JIS A 1204 土の粒度試験方法において、全量(100%)の粒子が通過する篩によって特定される粒径とすることが可能である。言い換えると、粒径Dは、2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径とすることが可能である。
より具体的には、破砕した鉱石が、粒径Dと対応する篩を全量(100%)通過するように破砕条件を設定する。
【0030】
浚渫ポンプ40は、破砕機30において破砕、粒度調整された鉱石を移送管45を通じて鉱石フィーダー50に移送する。浚渫ポンプ40の構成は公知の任意のものを適用することができる。
【0031】
鉱石フィーダー50は、例えば、鉱石を海水と混合して所定濃度のスラリーを形成する。
また、鉱石フィーダー50は、スラリーを形成する際に、海水の量と、鉱石の量を、調整して、上述のF(D)≦ -0.0511×D+22.556 が成立するスラリー濃度に調整する。
ここで、スラリー濃度は、単位時間当たりに混合する鉱石の体積と海水の体積に基づいて、スラリー濃度(vol%)=鉱石の体積/(鉱石の体積+海水の体積) により算出され、例えば、スラリー流速(又は単位時間当たりの流量)により算出した鉱石の体積と海水の体積をスラリー濃度に応じて調整する。
そして、鉱石フィーダー50は、形成した所定濃度のスラリーを揚鉱管60に送り込む。
【0032】
なお、より安定的に移送することを念頭に、破砕機30が、スラリー濃度(体積濃度)F(D)(vol%)に対して、 F(D) ≦ 38×D-0.333 が成立する粒径D(mm)に鉱石を破砕し、鉱石フィーダー50により、スラリーを形成する際に、海水の量と、鉱石の量を、調整して、上述のF(D) ≦ 38×D-0.333 が成立するスラリー濃度に調整することは、スラグ流発生理リスクが低減されるのでより好適である。
【0033】
なお、スラリー濃度の測定における単位時間当たりのスラリーの流量は、スラリーの流れが定常状態になったときのスラリー流量であり、スラリーの流量の測定方法は任意に設定してもよい。例えば、単位時間に揚鉱管60から排出されたスラリーをバケツ等で受けて測定してもよい。
【0034】
揚鉱管60は、例えば、鋼管等により構成されている。
揚鉱管60は、例えば、鉱石フィーダー50と揚鉱母船70とを接続している。
なお、揚鉱管60の構成は任意に設定することが可能であり、例えば、可撓性を有するライザー管(フレキシブルライザー)等により構成されていてもよい。
【0035】
具体的には、揚鉱管60は、下端が鉱石フィーダー50に接続され、上端が揚鉱母船70に搭載された固液分離・水処理装置71の上部で開口している。
そして、揚鉱管60は、矢印Mに沿って、海底から海上に向かってスラリーを移送して固液分離・水処理装置71にスラリーを吐出する。
【0036】
一方、固液分離・水処理装置71には接続された高圧循環ポンプ72に接続され、高圧循環ポンプ72の下流側には放出管61が接続されている。
そして、放出管61は、固液分離・水処理装置71においてスラリーから鉱石を採取した後の海水を、矢印Wに沿って、海上に放出する。
【0037】
揚鉱母船70は、例えば、一般的には船舶(揚鉱母船)が適用可能であり、目的とする海域の洋上に停泊させて揚鉱を行う。但し、船に限定されることはなく、海上に建設されたプラットホーム等、公知の種々の構成としてもよい。
【0038】
揚鉱母船70には、揚鉱管60を介して海底からスラリー移送されてくる鉱石を、海水から分離する固液分離・水処理装置71が配置されている。
固液分離・水処理装置71としては、例えば、連続するオーバーフロー槽によって構成されたものを用いることが可能であるが、鉱石と海水を分離できればよく、オーバーフロー槽に限定されることはない。例えば、サイクロン、濾過装置、篩などを用いてもよい。
【0039】
以下、図2図8を参照して、第1実施形態に係る揚鉱管60によって揚鉱するのに好適なスラリーの条件設定について説明する。
第1実施形態に係る揚鉱管60によって揚鉱するのに好適なスラリーの条件設定は、例えば、以下に示すスラリーの流動をシミュレーションすることによる解析結果に基づいて設定されている。
【0040】
〔スラリー流動解析におけるパラメータ〕
シミュレーションでは、粒径5mm、10mm、25mm、50mmの鉱石を対象とし、それぞれの鉱石を、スラリー流速4m/s、5m/s、6m/s、7m/sで、揚鉱量5000ton/日、10000ton/日で揚鉱する場合について検証した。
ここで、鉱石の粒径Dは鉱石の長径を意味しており、JIS A 1204 土の粒度試験方法により特定される粒径で近似される。
【0041】
〔スラリー流動解析の前提条件〕
スラリー流動解析は、図2に示すように、例えば、揚鉱管内径d:0.217m、揚鉱管の周期境界(=20・d):4.34m、揚鉱管内面粗度:0.05mm、鉱石の密度:3740(kg/m)、海水に密度:1037(kg/m)、海水の粘性係数:0.0018(Pa・s)(水温0℃)でシミュレーションを実施した。
【0042】
〔スラリー流動解析手法〕
スラリーの流動解析は、数値流体力学(CFD:computational fluid dynamics)及び離散要素法(DEM:Discrete Element Method)を用いて、揚鉱管内における鉱石の粒子と流体の運動を連成を取りつつシミュレーションすることによりスラリー流動における鉱石の挙動を評価した。
なお、シミュレーションにおいては、計算の便宜のために、それぞれの鉱石が粒径(長径)を直径とする球体であるものとして数値流体力学(CFD)及び離散要素法(DEM)により演算、確認した。
具体的には、図3に示すように、揚鉱管内径d:0.217mと等しい高さを検査の対象とする領域A(網掛け部)として設定する。そして、その検査の対象とする領域A内におけるスラリー濃度をスラリー流動を開始してからの経過時間に沿って算出し、それを管軸O方向(スラリーが流れる方向)に沿ってスライドさせて、解析領域全体B(揚鉱管の周期境界(L=20・d):4.34m)の局所濃度をグラフ化して確認した。ここで、局所濃度とは、管軸方向の局所における最大濃度である。
ここで、検査の対象とする領域Aとは、数値流体力学(CFD)及び離散要素法(DEM)を用いてスラリーの流動解析をシミュレーションする空間の一部であり、検査の対象とする領域Aを管軸方向にスライドさせて、連続的に空間に存在する鉱石の体積比率を算術計算して求めたものが局所濃度である。
【0043】
以下、図4を参照して、移送管内におけるスラリーの流動解析の一例について説明する。
図4は、スラリー流動解析の概略を説明するグラフであり、図4(A)は解析領域全体の管軸方向位置と最大局所濃度の関係を示すグラフである。なお、図4(A)に示すグラフにおいて縦軸は管軸方向位置を、横軸は最大局所濃度(vol%)を示しており、縦軸は左側に示した解析領域全体Bの管軸方向位置と対応している。また、図4(B)はスラリーが流動を開始してからの経過時間とスラリーの局所濃度の変化を示すグラフであり、横軸はスラリーが流動を開始してからの経過時間(sec)を、縦軸は、図4(A)に矢印Cで示す部分であり、ある時刻における最大の局所濃度(vol%)を示している。
【0044】
図4(A)に示すように、移送管内における解析領域全体Bの局所的なスラリー濃度は、管軸O方向に沿った位置に応じて変動する。
このような局所的なスラリー濃度は、図4(B)に示すように、スラリー流動が開始されてからの経過時間に応じて変動する。
そして、目視観察では、スラリー濃度が一定上に高く、局所濃度が60vol%近傍を超えた領域においてスラリーのスラグ流は発生するリスクが高くなることが確認されている。その結果、スラリーは安定的に移動することが困難となる可能性が高くなる。
【0045】
また、このような局所的なスラリー濃度は、図4(B)に示すように、例えば、スラリーの流動が開始されてから約3.5(sec)経過するまで時間経過とともにしだいに上昇していることがわかる。
そして、局所的なスラリー濃度は、約5(sec)経過したときに60%まで上昇して収束していることがわかる。
【0046】
なお、鉱石と海水とを混合したときのスラリー(固液二相流)の形態は、図5に示す(A)分散流、(B)塊状流、(C)束状流、(D)スラグ流に分類され、それぞれ以下に示すような性質を有している。
(A)分散流 鉱石粒子が集合することなく分散している流れ
(B)塊状流 少量の固体粒子からなる塊状の鉱石粒子群が散在している流れ
(C)束状流 ほとんどの固体粒子が管中心部に集まっている流れ
(D)スラグ流 鉱石が管断面全体を占めている部分と、粒子が少ない部分からなる流れ
また、スラリーの流動が(A)分散流、(B)塊状流、(C)束状流、にいずれかに該当する場合には、移送管に閉塞は発生しない。
一方、図5に示す(D)スラグ流が発生する場合には、揚鉱管の閉塞リスクは非常に高いといえ、このスラグ流が発生するのは、スラリーの局所濃度が例えば55vol%を超える場合である。
【0047】
次に、図6図7を参照して、鉱石の粒径とスラリー流速の組み合わせたスラリー流動、言い換えると、鉱石の粒径とスラリー濃度の組み合わせにおけるスラリー流動の検証結果について説明する。
図6は、第1実施形態に係る鉱石移送方法による揚鉱量5000ton/日におけるスラリー流動解析結果を示す図である。また、図7は揚鉱量10000ton/日におけるスラリー流動解析結果を示す図である。
【0048】
次に、粒径5mm、10mm、25mm、50mmの鉱石を対象として、スラリー流速4m/s、5m/s、6m/s、7m/sの場合におけるスラリー流動解析を実施した。
図6図7は、粒径Dが5mm、10mm、25mm、50mmの鉱石と海水とを混合して形成したスラリーを、スラリー流速4m/s、5m/s、6m/s、7m/sで流動させた場合の結果を示す図である。
図6図7において、「〇」は図5に示す(A)分散流、(B)塊状流、(C)束状流にいずれかに該当することを示し、「△」はスラリー流の中に鉱石の粗密が交互に発生しようとしているがスラグ流ではない状態を、「×」はスラグ流であることを示している。
また、それぞれの欄に示した「vol%」は、鉱石の粒径及びスラリー流速により定まる移送管に流入するスラリーの濃度(スラリー濃度)を示している。
【0049】
図6に示すように、揚鉱量5000ton/日におけるスラリー流動では、鉱石の粒径Dが5mm、10mm、25mmでは、スラリー流速4m/s~7m/sのいずれの場合もスラグ流は発生していないが、鉱石の粒径Dが25mm、スラリー流速4m/s(スラリー濃度13.8vol%)の場合にはスラグ流との境界となることが判明した。
【0050】
図7に示すように、揚鉱量10000ton/日におけるスラリー流動では、鉱石の粒径Dが5mm、10mmでは、スラリー流速5m/s~7m/sのいずれの場合もスラグ流は発生していないが、鉱石の粒径Dが25mm、50mmでは、スラリー流速5m/s~7m/sのいずれの場合もスラグ流との境界となることが判明した。
また、スラリー流速4m/s(スラリー濃度22.4vol%~25.3vol%)ではいずれの粒径でもスラグ流が発生することが判明した。
【0051】
以上のことから、図8に示すように、鉱石粒径D(mm)を横軸とし、スラリー濃度(vol%)を縦軸とするグラフに、図6図7に示した鉱石粒径D(mm)とスラリー濃度(vol%)をプロットして、それぞれの粒径でスラグ流が発生しないスラリー濃度の範囲を近似式F(D)により特定した。
その結果、図8における「△」に基づいて、スラリー内に鉱石の粗密は発生するがスラグ流が発生しない範囲が、スラリー濃度 F(D)≦ -0.0511×D+22.556で特定されることが判明した。
また、図8における「〇」に基づいて、スラグ流が発生することなく安定的に移送される範囲が、スラリー濃度F(D)(vol%)≦ 38×D-0.333であり、この場合、さらにスラグ流発生リスクが低減することが判明した。
F(D):スラリー濃度(鉱石が粒径Dの球体であると仮定した場合におけるスラリーの容積に対する鉱石の比率)
D:2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径(mm)
【0052】
第1実施形態に係る揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、揚鉱管60を通じて鉱石を海水とともに海底から海上に向かって移送する際に、海水と鉱石を混合して濃度が調整されたスラリーを形成して、濃度調整されたスラリーを揚鉱管60に送り込むので、揚鉱管60内におけるスラグ流の発生を抑制することができる。
その結果、鉱石と海水を混合して形成したスラリーを安定して移送することができる。
【0053】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、鉱石を破砕機30で破砕する際に、鉱石の粒径Dを設定寸法以下に調整するので鉱石を安定して移送することができる。
【0054】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径D(mm)を、設定したスラリー濃度F(D)(vol%)≦ -0.0511×D+22.556 を満足する範囲に調整するので、揚鉱管60内において鉱石の粗密が発生したとしてもスラグ流の発生が抑制されて鉱石を移送することができる。
【0055】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、例えば、鉱石の粒径D(mm)を、設定したスラリー濃度F(D)(vol%)≦ 38×D-0.333 が成立する粒径D(mm)を満足する範囲に調整するので、揚鉱管60内にスラグ流の発生するのを完全に抑制して鉱石を安定的に移送することができる。
【0056】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径を25mm以下、スラリー流速4m/s以上、スラリー濃度を12.7vol%以下に設定することにより、揚鉱量5000ton/日を達成することができる。
【0057】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径を50mm以下、スラリー流速5m/s以上、スラリー濃度を10.6vol%以下に設定することにより、揚鉱量5000ton/日を達成することができる。
【0058】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、鉱石の粒径を10mm以下、スラリー流速5m/s以上、スラリー濃度を18.2vol%以下に設定することにより、揚鉱量10000ton/日を達成することができる。
【0059】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、揚鉱管60内の局所におけるスラリー濃度を例えば55vol%以下に設定することにより、揚鉱管60が閉塞リスクを抑制して安定した揚鉱を実現することができる。
【0060】
また、揚鉱システム100、鉱石移送方法によれば、移送管内の局所におけるスラリー濃度を55%以下に設定するので鉱石を安定して移送することができる。また、局所におけるスラリー濃度を55%近傍まで高くすることで、閉塞リスクを回避しつつ大量の鉱石を効率的に移送することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、鉱石を破砕機30で破砕する際に、鉱石の粒径Dを設定寸法以下に調整する場合について説明したが、鉱石の粒径Dを設定寸法以下に調整するかどうかは任意に設定することが可能であり、設定寸法以上の粒径の鉱石を含んでいてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、篩を用いて鉱石の粒径を設定寸法以下に調整する場合について説明したが、鉱石の寸法調整方法については篩に限定されず任意に設定することが可能であり、篩以外の調整手段を適用してもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、破砕した鉱石が粒径D(2009年版のJIS A 1204 土の土粒試験方法により特定される鉱石の最大粒径(mm))である場合に、スラリーの体積濃度F(D)を、スラリー濃度F(D)≦ -0.0511×D+22.556 に調整する場合について説明したが、鉱石の粒径Dを、F(D)≦ -0.0511×D+22.556に調整するかどうかは任意に設定することが可能であり、スラリーの濃度F(D)を、F(D)> -0.0511×D+22.556の範囲で調整してもよい。
【0064】
また、上記実施形態においては、揚鉱量5000ton/日としたときに、鉱石の粒径Dを25mm以下、スラリー流速4m/s以上、又は50mm以下、スラリー流速5m/s以上とし、揚鉱量10000ton/日としたときに、鉱石の粒径Dを10mm以下、スラリー流速5m/s以上とする場合について例示したが、これに限定されないことはいうまでもない。
【0065】
また、上記実施形態においては、例えば、揚鉱管60内の局所におけるスラリーの濃度を55%以下に設定する場合について説明したが、揚鉱管60内の局所におけるスラリーの濃度を55%以下に設定するかどうかは任意に設定してもよく、例えば、一部に55%を超える領域が形成されてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、揚鉱システム100が、揚鉱基地として揚鉱母船70を備えている場合について説明したが、揚鉱母船70に代えて、又は揚鉱母船70とともにセミサブマージブル型等の洋上浮体を備えた構成としてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、揚鉱システム100が、固液分離した海水を海上に放出する放出管61を備えている場合について説明したが、例えば、放出管61が固液分離した海水を海中に放出する構成とし、又は放出管61に代えて固液分離した海水を鉱石フィーダー50に返送する返送管(不図示)を備えた構成としてもよい。
【0068】
また、上記実施形態においては、揚鉱システム100が、バケット揚鉱装置70を備えている場合について説明したが、バケット揚鉱装置70を備えるかどうかは任意に設定することが可能であり、バケット揚鉱装置を備えない構成としてもよい。また、バケット揚鉱装置に代えて、又はバケット揚鉱装置とともに、他のバックアップ揚鉱手段を備えていてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
G 海底
10 掘削手段
20 ストックパイル
30 破砕機
40 浚渫ポンプ
45 移送管
50 鉱石フィーダー
60 揚鉱管
70 揚鉱母船(揚鉱基地)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8