(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055034
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】発毛剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/77 20060101AFI20240411BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240411BHJP
A61K 31/08 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61K31/77
A61P17/14
A61K31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161614
(22)【出願日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 共創の場形成支援プログラム本格型「Well-being社会を支える革新的食薬資源工学技術に関する国立研究開発法人産業技術総合研究所による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】ベジャウィ・メリエム
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ゴック・リン
(72)【発明者】
【氏名】有村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】富永 健一
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA92
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA32
4C206CA35
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA92
(57)【要約】
【課題】ミノキシジルに代わる新たな作用機序に基づく毒性の低い発毛剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を有効成分とする発毛剤。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を有効成分とする発毛剤。
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH
2CH
2O)
nHであり、nは1~10の整数である。
【請求項2】
下記式(1)で表される化合物及び薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物。
【化2】
式(1)中、R
1及びR
2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH
2CH
2O)
nHであり、nは1~10の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛症は、性別や年齢に関係なく発症し、世界中の多くの人が悩みとしている。自尊心を低下させ、精神的な影響も大きい。
最も一般的な治療剤としてミノキシジルが知られている。しかし、この治療剤はもともと血管拡張剤として開発されたものであり、すべての脱毛症を治癒するわけではない。投与量には限界があり、頭痛や血圧低下などの副作用が知られている。
育毛、発毛を促す代表的な化学薬品として、ミノキシジル、フィナステリド及びデュタステリドが知られている。ミノキシジルは、血管を膨張させる効果があることから、塗布により頭皮下の毛細血管の血行を促進し、毛根細胞により多くの養分を供給するため、発毛・育毛効果が発現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、血管の膨張は、血圧の低下をもたらし、心臓やその他の臓器に対して悪影響を及ぼすことがあり、場合によっては危篤状態となり致命的な結果を与えることがある。フィナステリド及びデュタステリドは、ジヒドロテストステロン(DHT)による脱毛作用を抑止することによって抜け毛予防・増毛効果が観察されているが、重大な副作用として肝機能障害が報告されている。様々な発毛・育毛剤が存在する中、高い発毛・育毛効果を示すが、毒性や副作用がない又は低い発毛・育毛剤の開発が依然として望まれている。
【0004】
本発明は、ミノキシジルに代わる新たな作用機序に基づく毒性の低い発毛剤を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、ミノキシジルにはない機能を持つ発毛剤を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 下記式(1)で表される化合物を有効成分とする発毛剤。
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH
2CH
2O)
nHであり、nは1~10の整数である。
[2] 下記式(1)で表される化合物及び薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物。
【化2】
式(1)中、R
1及びR
2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH
2CH
2O)
nHであり、nは1~10の整数である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ミノキシジルに代わる新たな作用機序に基づく毒性の低い発毛剤を提供することができる。また、本発明によれば、ミノキシジルにはない機能を持つ発毛剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1のMTTアッセイの結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2のATPアッセイの結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例3の機能評価試験の結果(ALPL遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例3の機能評価試験の結果(CORIN遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3の機能評価試験の結果(CTNNB1遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3の機能評価試験の結果(FGF2遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3の機能評価試験の結果(FGF1遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例3の機能評価試験の結果(PDGFA遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例4の毛乳頭細胞の3Dスフェロイドによる機能評価の結果(VCAN遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例4の毛乳頭細胞の3Dスフェロイドによる機能評価の結果(ALPL遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例4の毛乳頭細胞の3Dスフェロイドによる機能評価の結果(CTNNB1遺伝子発現量)を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例5の動物実験の方法を説明する図である。
【
図13】
図13は、実施例5の動物実験の結果を示す写真である。
【
図14】
図14は、実施例6の毛包に対する抗老化作用の検討結果を示すブロッティング像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[発毛剤]
一実施形態において、本発明の発毛剤は、下記式(1)で表されるスクアレン誘導体を含む。
【0009】
【0010】
上記式(1)において、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH2CH2O)nHであり、nは1~10の整数である。
【0011】
実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を有効成分とする発毛剤が塗布において高い発毛・育毛効果を示すことを見出し、人体に対し無毒である発毛・育毛、スキンケア及びヘルスケアに応用することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、一態様において、本発明は、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を有効成分とする発毛剤を提供する。
【0013】
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を、n=1の場合、Mono-SQ、n=2の場合、Di-SQ、n=3の場合、Tri-SQ、n=4の場合、Tetra-SQ、と略称する場合がある。
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体としては、n=3のTri-SQ及びn=4のTetra-SQからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
[発毛用組成物]
本実施形態の発毛剤は、薬学的に許容可能な担体を含む、発毛用組成物として製剤化されていることが好ましい。発毛用組成物は、育毛用組成物と言い換えることができる。一態様において、発毛用組成物は、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0015】
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、注射剤用溶剤等が挙げられる。また、発毛用組成物は添加剤を更に含んでいてもよい。
【0016】
添加剤としては、特に制限されず、例えば、防腐剤、pH調整剤、安定剤紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0017】
薬学的に許容される担体及び添加剤としては、例えば、第十六改正日本薬局方等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
【0018】
発毛用組成物の剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。
【0019】
皮膚外用剤としては、例えば、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0020】
発毛用組成物は、脱毛症の治療薬であってもよいし、化粧料であってもよいし、サプリメント等の食品であってもよい。
【0021】
発毛用組成物中の上記式(1)で表されるスクアレン誘導体の含有量は、例えば、0.01~50質量%、0.01~30質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、0.01~1質量%の範囲が挙げられる。
【0022】
発毛剤又は発毛用組成物の投与方法は特に制限されず、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0023】
発毛剤又は発毛用組成物の投与量は、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり0.01~5,000mg/kg体重の有効成分(上記式(1)で表されるスクアレン誘導体)を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり0.01~1,000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。
【0024】
[スクアレン誘導体及びその製造方法]
本発明の発毛剤の有効成分は、下記式(1)で表されるスクアレン誘導体である。
【0025】
【0026】
上記式(1)中、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が(CH2CH2O)nHであり、nは1~10の整数である。
【0027】
実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を有効成分とする発毛剤が塗布において高い発毛・育毛効果を示すことを見出し、人体に対し無毒である発毛・育毛、スキンケア及びヘルスケアに応用することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0028】
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を、n=1の場合、Mono-SQ、n=2の場合、Di-SQ、n=3の場合、Tri-SQ、n=4の場合、Tetra-SQ、と略称する場合がある。
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体としては、n=3のTri-SQ及びn=4のTetra-SQからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記式(1)で表されるスクアレン誘導体は、下記式(2)で示される2,3-エポキシスクアレンから製造することができる。
【0030】
【0031】
具体的には、スクアレンの2,3位をモノエポキシ化して、上記式(2)で表される2,3-オキシドスクアレンを合成し〔文献1:van Tamelen,E. E.、Curphey, T. J.、「The selective in vivo oxidation of the terminal double bonds in squalene」、Tetrahedron Letters、1962年、第3巻、p.121-124〕、合成した2,3-オキシドスクアレンの2位又は3位をオリゴエチレングリコール基:(CH2CH2O)nH(nは1~10の整数)で置換することにより、上記式(1)で表される化合物を合成することができる。
【0032】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、脱毛症の治療方法を提供する。
【0033】
一実施形態において、本発明は、脱毛症の治療における使用のための、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体を提供する。
【0034】
一実施形態において、本発明は、発毛剤を製造するための、上記式(1)で表されるスクアレン誘導体の使用を提供する。
【実施例0035】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[製造例]
Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQを製造した。
【0037】
<製造例1>Mono―SQ(式(1):R1=H,R2=(CH2CH2O)H)の合成
2,3-オキシドスクアレン30mg(71μmol)を2-プロパノール3mLに溶解し、エチレングリコール2.7mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC-300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、Mono-SQ(式(1)において、R1=H、R2=(CH2CH2O)H)17mg(収率49%)を無色油状物として得た。
【0038】
<製造例2>Di―SQ(式(1):R1= H,R2=(CH2CH2O)2H)の合成
2,3-オキシドスクアレン30mg(71μmol)を2-プロパノール3mLに溶解し、ジエチレングリコール4.6mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC-300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、Di―SQ(式(1)において、R1=H、R2=(CH2CH2O)2H)27mg(収率80%)を無色油状物として得た。
【0039】
<製造例3>Tri―SQ(式(1):R1=H,R2=(CH2CH2O)3H))の合成
2,3-オキシドスクアレン30mg(71μmol)を2-プロパノール3mLに溶解し、トリエチレングリコール6.5mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC-300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、Tri―SQ(式(1)において、R1=H、R2=(CH2CH2O)3H))11mg(収率40%)を無色油状物として得た。
【0040】
<製造例4>Tetra―SQ(式(1):R1=H,R2=(CH2CH2O)4H))の合成
2,3-オキシドスクアレン30mg(71μmol)を2-プロパノール3mLに溶解し、テトラエチレングリコール8.4mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC-300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、Tetra―SQ(式(1)において、R1=H、R2=(CH2CH2O)4H))13mg(収率51%)を無色油状物として得た。
【0041】
[実施例1]毒性試験-MTTアッセイ
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC:Human Follicle Dermal Papilla Cells;Cell Application Inc.より購入)に対する、Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの細胞毒性を評価した。
【0042】
<実験方法>
96ウェルプレート(BD Falcon)にHFDPCを3×105個/ウェルの密度で播種し、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃でインキュベートした。培地として、成長因子(ウシ胎児血清、インスリン、トランスフェリン、トリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、シプロテロン溶液)を添加した毛乳頭細胞成長培地を使用した。
24時間後、培地を除去し、細胞を様々な濃度のスクアレン(SQ)又はスクアレン誘導体(Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、若しくはTetra-SQ)を含有する培地(0、2.5、5、10、20、又は40μM)に交換し、48時間インキュベートした。
続いて、3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を使用して、細胞増殖を測定した。具体的には、MTT試薬(MTT濃度:5mg/mL)を細胞に添加し、8時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、一晩インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(Powerscan HT)を使用して、570nmの吸光度を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の吸光度に対する吸光度の割合(%)として定量化した。
【0043】
<結果>
いずれの濃度でも細胞毒性は観察されなかった。
Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの場合に細胞の増殖が確認された。
スクアレン又はスクアレン誘導体の濃度が2.5μMの場合の結果を
図1に示す。
【0044】
[実施例2]毒性試験-ATPアッセイ
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC:Human Follicle Dermal Papilla Cells;Cell Application Inc.より購入)に対する、Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの細胞毒性を評価した。
【0045】
<実験方法>
96ウェルプレート(BD Falcon)にHFDPCを3×105個/ウェルの密度で播種し、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃でインキュベートした。培地として、成長因子(ウシ胎児血清、インスリン、トランスフェリン、トリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、シプロテロン溶液)を添加した毛乳頭細胞成長培地を使用した。
24時間後、培地を除去し、細胞を様々な濃度のスクアレン(SQ)又はスクアレン誘導体(Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、若しくはTetra-SQ)を含有する培地(0、2.5、5、10、20、又は40μM)に交換し、48時間インキュベートした。
続いて、ルシフェラーゼを使用して、細胞増殖を測定した。具体的には、ルシファラーゼ試薬(東洋ピーテック CA-2)を100μL/ウェルで細胞に添加し、室温(25℃)でシェーカー中1分間、暗所で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(大日本住友製薬)を使用して発光量を測定し、細胞増殖を、未処理細胞の発光量に対する発光量の割合(%)として定量化した。
【0046】
<結果>
いずれの濃度でも細胞毒性は観察されなかった。
Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの場合に細胞の増殖が確認された。
スクアレン又はスクアレン誘導体の濃度が2.5μMの結果を
図2に示す。
【0047】
[実施例3]機能評価試験
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC:Human Follicle Dermal Papilla Cells;Cell Application Inc.より購入)に対する、Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの発毛促進効果を検討した。
【0048】
<実験方法>
6ウェルプレート(BD Falcon)にHFDPCを5×105個/ウェルの密度で播種し、37℃で24時間インキュベートした。続いて、培地を除去して、2.5μMのスクアレン(SQ)又はスクアレン誘導体(Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、若しくはTetra-SQ)を含有する培地に交換した。
続いて、48時間後に、細胞を冷PBSで洗浄し、ISOGENキット(ニッポンジーン)を使用して全RNAを抽出した。続いて、NanoDrop 2000分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して全RNAを定量し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。
まず、SuperScript IV VILOTM Master Mix (Invitrogen)を使用して、95℃10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間のサイクリングプロトコールにより、抽出された1μgの全RNAから逆転写を行い、cDNAを合成した。
続いて、 得られたcDNA(100ng)を,TaqMan Gene Expression Assayにより増幅させ、7500 Fast Real-Time PCR Systemで解析し、毛乳頭細胞関連遺伝子〈ALPL(alkaline phosphatase)遺伝子、CORIN(corin,serine peptidase)遺伝子〉、β-カテニン関連遺伝子〈CTNNB1(catenin beta 1)遺伝子、FGF2(fibroblast growth factor 2)遺伝子、FGF1(fibroblast growth factor 1)遺伝子>、及び毛乳頭・真皮関連遺伝子〈PDGFA(platelet derived growth factor subunit A)遺伝子〉の発現量を定量した。
【0049】
<結果>
Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの場合に以下の遺伝子発現が増加した。結果を
図3~
図8に示す。
毛乳頭細胞関連遺伝子:ALPL(
図3)、CORIN(
図4)
β-カテニン関連遺伝子:CTNNB1(
図5)、FGF2(
図6)、FGF1(
図7)
毛乳頭・真皮関連遺伝子:PDGFA(
図8)
【0050】
[実施例4]毛乳頭細胞の3Dスフェロイドによる機能評価
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC:Human Follicle Dermal Papilla Cells;Cell Application Inc.より購入)に対する、Mono-SQ、Di-SQ、Tri-SQ、及びTetra-SQの発毛促進効果を検討した。
【0051】
<実験方法>
既報に従い、ハンギングドロップ法によりHFDPCの3Dスフェロイドを培養した。
未処理のものの他に、0.1μMのミノキシジル(Minox)で48時間処理したもの、0.1μMのTri-SQで48時間処理したもの、0.1μMのTetra-SQで48時間処理したものを作成した。
実施例4と同様にして、細胞接着関連遺伝子〈VCAN(versican)遺伝子〉、毛乳頭細胞関連遺伝子〈ALPL(alkaline phosphatase)遺伝子〉、β-カテニン関連遺伝子〈CTNNB1(catenin beta 1)遺伝子〉の発現量を定量した。
【0052】
<結果>
VCAN遺伝子発現量を
図9に示す。スクアレン誘導体(Tri-SQ、Tetra-SQ)は、ミノキシジル(Minox)と同程度の遺伝子発現量を示した。
ALPL遺伝子発現量を
図10に示す。スクアレン誘導体(Tri-SQ、Tetra-SQ)は、ミノキシジル(Minox)より有意に高い遺伝子発現量を示した。
CTNNB1遺伝子発現量を
図11に示す。スクアレン誘導体(Tri-SQ、Tetra-SQ)は、ミノキシジル(Minox)と同程度の遺伝子発現量を示した。
【0053】
[実施例5]動物実験
正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である、ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC:Human Follicle Dermal Papilla Cells;Cell Application Inc.より購入)からハンギングドロップ法により作製した3Dスフェロイド(3D DP、3D DP-Minox、3D DP-Tri-SQ、3D DP-Tetra-SQ)をマウス(C57BL/6,オス,6週齢,n=5)に移植した場合の発毛促進効果を検討した。
【0054】
<実験方法(
図12)>
マウスを7日間馴化させた。
休止期毛をトリミング、クリームを用いて脱毛した。
各3Dスフェロイド細胞(3D DP、3D DP-Minox、3D DP-Tri-SQ、3D DP-Tetra-SQ)を脱毛した背部の3箇所(上背、中背、下背)に3×10
5個/70μLを3回注入した。
注入後0日目、10日目、20日目にマウスを観察した。
【0055】
<結果>
結果を
図13に示す。
10日目で比較すると、3D DP Tri-SQ群と3D DP Tetra-SQ群のマウスは、10日目、20日目において3D DP-Minoxと同様に発毛を促進していた。
【0056】
[実施例6]毛包に対する抗老化作用の検討
<実験方法>
実施例5の背部細胞を採取し、ウェスタンブロッティングによりタンパク質を定量した。
【0057】
<結果>
結果を
図14に示す。
SQ誘導体で炎症性サイトカイン(NF-κB)およびそのメディエーター(Cox2)の発現が減少した。
その結果、HF幹細胞の老化の制御に関与するNfatc1の発現が抑制された。
内在性皮膚老化マーカーであるMrps5もSQ誘導体で減少した。
一方、ミノキシジル(Minox)ではこのような抗炎症・抗老化作用は見られなかった(ミノキシジルでは炎症マーカーが増大している)。