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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055086
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20240411BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C30B29/06 502J
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161709
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】成松 真吾
(72)【発明者】
【氏名】石川 高志
(72)【発明者】
【氏名】藤森 洋行
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉亮
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB06
4G077AB09
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EJ02
4G077HA12
4G077PF13
4G077PF17
(57)【要約】
【課題】シリコン単結晶の育成時における製品歩留まり向上の指針を得ること。
【解決手段】リンを主ドーパントとするn型のシリコンの単結晶1であって、その育成途中にボロンが副ドーパントとして融液中に投入され、前記副ドーパントの投入に伴って単結晶1の固液界面近傍に形成される抵抗率が変動した遷移領域の軸方向長さHと、前記固液界面の上凸量の大きさである界面高さLとの和である製品不適合領域長さWを、単結晶1の育成に係る各パラメータの下限を0、上限を1とする規格化を行った際の規格化された引上速度をA、固化率をB、副ドーパントの投入前後における規格化された抵抗率比率をC、および、規格化された結晶回転数をDとしたときに、下記(1)式によって、製品不適合領域長さWの予測、または、製品不適合長さWの最適化を可能とした構成とする。W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D)+9.425 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によって育成されるシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶が、リンを主ドーパントとするn型の単結晶(1)であって、前記単結晶(1)の抵抗率を調整するために、その育成途中にボロンが副ドーパントとして融液中に投入され、
前記副ドーパントの投入に伴って前記単結晶(1)の固液界面近傍に形成される抵抗率が変動した遷移領域の軸方向長さ(H)と、前記固液界面の上凸量の大きさである界面高さ(L)との和である製品不適合領域長さWを、前記単結晶の育成に係る各パラメータの下限を0、上限を1とする規格化を行った際の規格化された引上速度をA、固化率をB、副ドーパントの投入前後における抵抗率比率をC、および、前記規格化された結晶回転数をDとしたときに、下記(1)式によって、前記製品不適合領域長さWの予測、または、前記規格化された引上速度A、前記固化率B、前記抵抗率比率C、および、前記規格化された結晶回転数Dの調整による前記製品不適合長さWの最適化を可能としたことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D)+9.425 (1)
【請求項2】
さらに、前記規格化されたルツボ回転数をE、および、前記規格化された磁場印加強度をFとしたときに、前記製品不適合領域長さWを下記(2)式で表した請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D-1.2E-1.0F)+9.7 (2)
【請求項3】
前記規格化された引上速度Aを0.4mm/分以上1.4mm/分以下、前記抵抗率比率Cを0.04以上0.33以下、前記規格化された結晶回転数Dを8rpm以上17rpm以下、前記規格化されたルツボ回転数Eを0.1rpm以上0.5rpm以下、および、前記規格化された磁場印加強度Fを1500Gauss以上2500Gauss以下の各範囲内とし、前記固化率Bが0.2以上0.65以下の範囲内で製品となる前記単結晶が育成される請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記規格化された引上速度A、前記固化率B、前記抵抗率比率C、前記規格化された結晶回転数D、前記規格化されたルツボ回転数E、および、前記規格化された磁場印加強度Fの調整によって、前記製品不適合領域長さWを4mm以上14mm以下の範囲内とした請求項3に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記単結晶(1)が、磁場中で育成され直径が150mm以上である請求項1から4のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チョクラルスキー法によって育成されるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法によって育成され民生用や車載用IGBTなどのパワー半導体などに用いられるシリコン単結晶においては、結晶成長方向に抵抗率が変化する現象が見られる。これは、シリコン融液に投入されたドーパントの偏析によるものであり、単結晶の育成に伴うルツボ内のシリコン融液の減少に伴ってその融液中のドーパント濃度が徐々に高くなり、それに伴って単結晶の抵抗率が連続的に低下していくためである。例えば、n型単結晶のドーパントであるリンの偏析係数は0.35であり、p型単結晶のドーパントであるボロンの偏析係数0.78よりも低く、p型単結晶と比較してn型単結晶のトップ部からボトム部にかけての抵抗率の低下が顕著である。このため、製品として利用できる部分が少なくなり、歩留まりの向上が難しいという問題がある。
【0003】
そこで、例えば下記特許文献1、2では、リンを主ドーパントとするn型の単結晶の育成において、その育成途中にボロンを副ドーパントとして連続的にまたは適時、融液中に投入するカウンタードープを行っている。図2に示すように、カウンタードープは、主ドーパントの偏析に伴って低下した抵抗率を引き上げる作用を有し、n型単結晶の軸方向の抵抗率分布が改善される。このため、狭い抵抗率規格(規格上限USLと規格下限LSLの範囲)であっても、インゴットの長い領域に亘ってその規格を満たすことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-247585号公報
【特許文献2】特開2022-67701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の構成においては、副ドーパントを融液中に投入した際に、図3に示すように、軸方向において抵抗率が部分的に大きく乱れる現象が確認された。この抵抗率の不安定な領域(遷移領域)は、投入された副ドーパントが融液中に十分拡散する前に固液界面に到達して結晶に取り込まれるためであり、カウンタードープにて副ドーパントを投入するごとに発生する。この遷移領域の軸方向長さは、ルツボ回転数、結晶回転数、磁場印加強度、シリコン融液の残量(固化率)などに依存する融液対流状況によって変化するが、副ドーパントの投入から拡散までの間の非定常状態は必ず発生するために、この遷移領域を完全になくすことはできない。
【0006】
また、カウンタードープを行ったシリコン単結晶をウェーハにスライスした後に、抵抗率の面内分布をウェーハピッチで測定した結果、抵抗率の高い領域が、テール方向に進むにつれて中心部から外周部にシフトする現象が確認された。これは、副ドーパントであるボロンの流れが中心部から外周部に進んだことのみに起因するものではなく、図4に示すように、固液界面形状が上凸であったこと(上凸領域)を示唆している。上凸領域の界面高さは、特に引上速度や結晶回転数によって変化すると考えられる。このように抵抗率に乱れが生じている遷移領域および上凸領域は、製品として出荷することができず、製品歩留まりの低下の原因となる問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、シリコン単結晶の育成時における製品歩留まり向上の指針を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
チョクラルスキー法によって育成されるシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶が、リンを主ドーパントとするn型の単結晶であって、前記単結晶の抵抗率を調整するために、その育成途中にボロンが副ドーパントとして融液中に投入され、
前記副ドーパントの投入に伴って前記単結晶の固液界面近傍に形成される抵抗率が変動した遷移領域の軸方向長さと、前記固液界面の上凸量の大きさである界面高さとの和である製品不適合領域長さWを、前記単結晶の育成に係る各パラメータの下限を0、上限を1とする規格化を行った際の規格化された引上速度をA、固化率をB、副ドーパントの投入前後における抵抗率比率をC、および、前記規格化された結晶回転数をDとしたときに、下記(1)式によって、前記製品不適合領域長さWの予測、または、前記規格化された引上速度A、前記固化率B、前記抵抗率比率C、および、前記規格化された結晶回転数Dの調整による前記製品不適合長さWの最適化を可能としたことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を構成した。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D)+9.425 (1)
【0009】
このようにすると、製品不適合領域長さWと、単結晶の育成に係るパラメータである規格化された引上速度A、固化率B、抵抗率比率C、および、規格化された結晶回転数Dとの関係が明確となり、シリコン単結晶育成時における製品歩留まりの向上の指針を得ることが可能となる。
【0010】
前記構成においては、さらに、前記規格化されたルツボ回転数をE、および、前記規格化された磁場印加強度をFとしたときに、前記製品不適合領域長さWを下記(2)式で表した構成とするのが好ましい。このようにすると、追加されたパラメータE、Fによって製品不適合領域長さWの算出をより精度よく行うことができる。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D-1.2E-1.0F)+9.7 (2)
【0011】
上記の式(2)に基づいて製品不適合領域長さWを算出する構成においては、前記規格化された引上速度Aを0.4mm/分以上1.4mm/分以下、前記抵抗率比率Cを0.04以上0.33以下、前記規格化された結晶回転数Dを8rpm以上17rpm以下、前記規格化されたルツボ回転数Eを0.1rpm以上0.5rpm以下、および、前記規格化された磁場印加強度Fを1500Gauss以上2500Gauss以下の各範囲内とし、前記固化率Bが0.2以上0.65以下の範囲内で製品となる前記単結晶が育成される構成とするのが好ましい。このように各パラメータの数値範囲を限定して規格化することにより、製品不適合領域長さWの算出精度をより高めることができる。
【0012】
前記各パラメータを上記の数値範囲とした構成においては、前記規格化された引上速度A、前記固化率B、前記抵抗率比率C、前記規格化された結晶回転数D、前記規格化されたルツボ回転数E、および、前記規格化された磁場印加強度Fの調整によって、前記製品不適合領域長さWを4mm以上14mm以下の範囲内とするのが好ましい。このように製品不適合領域長さWの範囲を限定することにより、高い製品歩留まりを実現することができる。
【0013】
上記の各実施形態においては、前記単結晶が、磁場中で育成され直径が150mm以上であるのが好ましい。前記直径の単結晶の育成にあたり磁場を印加することにより、低酸素シリコン単結晶を好適に育成することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記の発明によると、製品不適合領域長さWとシリコン単結晶の育成に係る各パラメータとの関係が明確となり、シリコン単結晶の育成時における製品歩留まり向上の指針を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施に係るシリコン単結晶の製造装置を示す断面図
図2】カウンタードープに伴う抵抗率の変動を示す図
図3】融液への副ドーパントの投入後に、結晶軸方向において抵抗率が部分的に大きく乱れた状態を示す図
図4】シリコン単結晶の固液界面近傍に形成された製品不適合領域(遷移領域、上凸領域)を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施に係るシリコン単結晶の製造装置Mを図1に示す。この製造装置Mは、チョクラルスキー法によってシリコンの単結晶1を育成するための装置であって、単結晶を育成するチャンバー2と、このチャンバー2の上部に設けられたカウンタードープ装置3とを有している。
【0017】
チャンバー2は、下部チャンバー4と、下部チャンバー4の上部を覆う上部チャンバー5と、上部チャンバー5の上側に接続される筒状のプルチャンバー6と、を有している。下部チャンバー4に上部チャンバー5およびプルチャンバー6を取り付けることにより、チャンバー2内が所定の気密状態に保たれる。
【0018】
下部チャンバー4の内部には、ルツボ7が設けられている。ルツボ7は、外側の黒鉛ルツボ8と、黒鉛ルツボ8の内側に収容された石英ルツボ9から構成される。石英ルツボ9内には、所定量の主ドーパントが投入されたシリコン融液10が入れられている。ルツボ7の下端にはシャフト11が接続されている。このシャフト11に接続された駆動機構(図示せず)によって、ルツボ7は軸周りに回転可能かつ上下動可能となっている。
【0019】
ルツボ7の周囲には、黒鉛ヒータ12が設けられている。この黒鉛ヒータ12への通電により、ルツボ7およびその内部に収容されたシリコン融液10が加熱される。
【0020】
下部チャンバー4の内側には、輻射シールド13が設けられている。輻射シールド13の下端は、ルツボ7内に入れられたシリコン融液10の液面に臨んでいる。この輻射シールド13によって、育成された単結晶1に対する黒鉛ヒータ12およびルツボ7からの輻射を抑制している。単結晶1の育成に伴ってルツボ7内のシリコン融液10の液面高さは次第に低下するが、輻射シールド13の下端と液面との間の隙間の大きさがほぼ一定となるように、ルツボ7は前記駆動機構によって上方に移動される。
【0021】
輻射シールド13には、そのシールド面を貫通するように漏斗型石英管14が設けられている。この漏斗型石英管14の上端は拡大開口した漏斗となっており、その下端はシリコン融液の液面に臨んでいる。
【0022】
ルツボ7内のシリコン融液10から引き上げられる単結晶1の上端にはワイヤ15が接続されている。このワイヤ15の上端側には引上装置(図示せず)が接続されており、単結晶1は、この引上装置によって軸周りに回転しつつ、ワイヤ15の巻き取りによって引き上げられる。
【0023】
チャンバー2の外周側には電磁石16が設けられており、シリコン融液10に横磁場が印加される。横磁場を印加してシリコン融液10の対流を制御することにより、低酸素単結晶を好適に育成することができる。なお、この磁場は横磁場に限定されない。
【0024】
カウンタードープ装置3は、上部チャンバー5に取り付けられている。このカウンタードープ装置3は、チャンバー2内に出没可能なドーピング治具17と、ドーピング治具17をその長さ方向に沿ってスライド可能かつ軸周りに回転可能に案内する本体部18と、本体部18とチャンバー2を仕切るゲートバルブ19とを有している。ドーピング治具17の下端はスプーン状になっており、この部分に数mm角程度の副ドーパントのチップを載置することができるようになっている。
【0025】
チップの大きさは、チップ中の副ドーパント濃度、シリコン融液10の残量などを考慮した上で所望の抵抗率比率Cとなるように決定される。このチップとして、副ドーパントがドープされたシリコンウェーハの小片を用いるのが好適であるが、必ずしもこれに限定されず、副ドーパントを含む化合物などを採用できる可能性もある。
【0026】
カウンタードープを行わないときは、ドーピング治具17は本体部18の上端側に退去し、ゲートバルブ19は閉じられている。これにより、チャンバー2とカウンタードープ装置3は空間的に切り離される。そして、カウンタードープを行うタイミングにおいて、ポンプ(図示せず)で本体部18内のガス置換を行った上でゲートバルブ19を開く。続いてドーピング治具17をその長さ方向下向きにスライドしてチャンバー2内に突出させた上で軸周りに回転し、このドーピング治具17の下端に予め載置していた副ドーパントのチップを漏斗型石英管14の漏斗状部分に落下させる。このチップは、漏斗型石英管14の中を通ってシリコン融液10に落下して溶融する。
【0027】
主ドーパントとしてリンを用いたn型単結晶の場合、リンの偏析係数が0.35であって、p型単結晶のドーパントとして広く用いられているボロンの偏析係数0.78よりも小さいため、p型単結晶と比較してトップ部からボトム部にかけての抵抗率の低下が顕著となる。この抵抗率の低下を抑制するため、n型単結晶の引き上げ中において、主ドーパントのリンに対し、電気特性が逆の副ドーパントであるボロンを添加するカウンタードープが行われる。カウンタードープを行うことにより抵抗率は上昇する。この実施形態では、カウンタードープの直前と直後の抵抗率から、下記の(3)式で示すように抵抗率比率Cを定義した。
抵抗率比率C=(カウンタードープ直後の抵抗率-カウンタードープ直前の抵抗率)/カウンタードープ直後の抵抗率 (3)
【0028】
この発明においては、主ドーパントをリン、副ドーパントをボロンとするカウンタードープを適時行いつつn型単結晶を育成した。育成に係る各パラメータは、引上速度を0.4mm/分以上1.4mm/分以下、抵抗率比率を0.04以上0.33以下、結晶回転数を8rmp以上17rpm以下、ルツボ回転数を0.1rpm以上0.5rpm以下、磁場印加強度を1500Gauss以上2500Gauss以下の各範囲内で調整した。ここで、抵抗率比率C=0.04は抵抗率規格が±2%の場合に対応し、抵抗率比率C=0.33は抵抗率規格が±20%の場合に対応する。また、固化率Bは、ルツボ7へのチャージ量に対する固化重量の比率で定義され、直胴部の開始時から終了時の間で、0.03以上0.90以下の範囲で変化し得るが、下記の(2)式の算出精度を考慮して、固化率Bの範囲を0.2以上0.65以下の範囲内に限定した。
【0029】
カウンタードープに際しては、副ドーパントを融液中に投入した際に、結晶軸方向において抵抗率が部分的に大きく乱れる現象が不可避的に生じる(図3参照)。この抵抗率の不安定な領域(遷移領域)は、投入された副ドーパントがシリコン融液10中に十分拡散する前に固液界面に到達して結晶に取り込まれるためであり、カウンタードープにて副ドーパントを投入するごとに発生する。この遷移領域の軸方向長さHは、ルツボ回転数、結晶回転数、磁場印加強度、シリコン融液10の残量などに依存する融液対流状況によって変化する。また、単結晶1の成長に際しては、引上速度、結晶回転数などに依存して固液界面形状が上凸となる領域(上凸領域)が生じ、面内の抵抗率に乱れが生じる。上凸領域の界面高さLは、特に引上速度や結晶回転数によって変化すると考えられる。このように抵抗率に乱れが生じている遷移領域および上凸領域は、製品として出荷することができない。
【0030】
この発明においては、単結晶1の育成に係る各パラメータ(次元を有するパラメータ)をそのパラメータがとる最小値と最大値(例えば、上記の引上速度の場合、0.4mm/分以上1.4mm/分以下)の間で規格化し、規格化された各パラメータの最小値を0、最大値を1とすることによって無次元化を図っている。
【0031】
規格化された引上速度をA、固化率をB、抵抗率比率をC、規格化された結晶回転数をD、規格化されたルツボ回転数をE、および、規格化された磁場印加強度をFとしたとき、遷移領域の軸方向長さHと、固液界面の上凸量の大きさである界面高さLとの和である製品不適合領域長さWは下記(2)式で表される。各パラメータに係るプラスの係数は製品不適合領域長さWを増加させる要素であり、マイナスの係数は製品不適合領域長さWを減少させる要素である。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D-1.2E-1.0F)+9.7 (2)
【0032】
上記の製造装置を用いて、主ドーパントとしてリン、カウンタードープの副ドーパントとしてボロンをそれぞれ用いた直径200mmのn型単結晶(抵抗率規格:50~60Ωcm)を育成した。この育成には135kgの原料シリコンがチャージされた直径24インチのルツボ7を用いた。この育成に係る各パラメータと、製品不適合領域長さWの算出値および実測値との関係を表1に示す。従来例は、従来の育成条件に基づいて各パラメータを決定したときの結果、実施例1および実施例2は、製品不適合領域長さWが4mm以上14mm以下の範囲内となるように各パラメータの組み合わせを予め決定しその条件で育成したときの結果である。
【0033】
この育成においては、カウンタードープを行った位置(従来例、実施例ともに、固化率が0.27、0.42、0.51、および、0.63となる位置)の近傍で、軸方向に1mmピッチごとで単結晶からウェーハを切り出すとともに、そのウェーハの面内において径方向に5mmピッチで抵抗率を測定した。そして、この面内の最大値をρmax、最小値をρminとしたとき、(ρmax―ρmin)/ρmin×100>8%となったものが製品不適合品に該当すると判断し、この製品不適合品が生じた単結晶1の軸方向領域の長さを製品不適合領域長さWと定義した。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示す結果から、従来例および実施例のいずれにおいても、上記(2)式によって、製品不適合領域長さWを精度よく算出できることが判明した。また、従来例では単結晶1の前半の部位で今回規定した製品不適合領域長さWの範囲内(4mm以上14mm以下)に収めることができず、高い歩留まりロスが発生したのに対し、実施例1および実施例2では、今回規定した固化率Bの範囲内(0.2以上0.65以下)で上記の製品不適合領域長さWの範囲内に収めることができ、高い歩留まりを確保することができた。また、直径150mmおよび直径300mmのn型単結晶の育成に際しても、同様に(2)式を活用できることが確認できた。
【0036】
この発明によると、製品不適合領域長さWと、単結晶の育成に係るパラメータである規格化された引上速度A、固化率B、抵抗率比率C、規格化された結晶回転数D、規格化されたルツボ回転数E、および、規格化された磁場印加強度Fとの関係が明確となり、シリコン単結晶育成時における製品歩留まりの向上の指針を得る、例えば、所望の製品不適合領域長さWとするための各パラメータA~Fの値を実機による予備試験を行うことなく決定したり、実操業における各パラメータA~Fの値から製品不適合領域長さWを精度よく予測したりすることが可能となる。
【0037】
上記(2)式によると、製品不適合領域長さWの増減に与える影響は、規格化された引上速度A、固化率B、抵抗率比率C、および、規格化された結晶回転数Dが比較的大きく、規格化されたルツボ回転数Eおよび規格化された磁場印加強度Fが比較的小さいことが分かる。このため、上記(2)式の代わりに、製品不適合領域長さWの増減に与える影響が比較的小さい規格化されたルツボ回転数Eおよび規格化された磁場印加強度Fを除外した下記の(1)式を用いることができる可能性もある。
W=0.55×(12.3A-12.1B+8.1C+4.6D)+9.425 (1)
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1 単結晶
2 チャンバー
3 カウンタードープ装置
4 下部チャンバー
5 上部チャンバー
6 プルチャンバー
7 ルツボ
8 黒鉛ルツボ
9 石英ルツボ
10 シリコン融液
11 シャフト
12 黒鉛ヒータ
13 輻射シールド
14 漏斗型石英管
15 ワイヤ
16 電磁石
17 ドーピング治具
18 本体部
19 ゲートバルブ
M シリコン単結晶の製造装置
A 規格化された引上速度
B 固化率
C 抵抗率比率
D 規格化された結晶回転数
E 規格化されたルツボ回転数
F 規格化された磁場印加強度
H 遷移領域の軸方向長さ
L 上凸領域の界面高さ
W 製品不適合領域長さ
図1
図2
図3
図4