(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055097
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】電気防食用陽極設置方法および電気防食用陽極構造
(51)【国際特許分類】
C23F 13/10 20060101AFI20240411BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C23F13/10 B
C23F13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161727
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】500403309
【氏名又は名称】株式会社ケミカル工事
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國川 正勝
(72)【発明者】
【氏名】若杉 三紀夫
(72)【発明者】
【氏名】神田 利之
(72)【発明者】
【氏名】福井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】湯地 輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 篤志
【テーマコード(参考)】
4K060
【Fターム(参考)】
4K060AA03
4K060BA02
4K060BA45
4K060EA08
4K060EB01
4K060FA07
(57)【要約】
【課題】この開示は、外部電源方式によるコンクリートの電気防食に好適な電気防食用陽極設置方法に関し、コンクリートにダメージを与えずに、コンクリート内の導電性物質と短絡させることなく、電気防食用の陽極を簡便に設置することを目的とする。
【解決手段】電気防食の陰極として機能する鉄筋を内蔵するコンクリート10の表面に、一の方向に長手方向を持つ型枠補助材12を、予め定めた間隔で対を成すように設置する。前記型枠補助材12の対の間に、導電性モルタルを塗り込む。更に、導電性モルタルに埋め込まれるように一次陽極16を配置する。前記導電性モルタルを乾燥させて、前記一次陽極16を包含する導電性モルタル層14を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源方式によるコンクリートの電気防食を実現するための電気防食用陽極設置方法であって、
前記電気防食の陰極として機能する鉄筋を内蔵するコンクリートの表面に、一の方向に長手方向を持つ型枠補助材を、予め定めた間隔で対を成すように設置する工程と、
前記型枠補助材の対の間に、導電性モルタルを塗り込む工程と、
前記導電性モルタルに埋め込まれるように一次陽極を配置する工程と、
前記導電性モルタルを乾燥させて、前記一次陽極を包含する導電性モルタル層を形成する工程と、
を含む電気防食用陽極設置方法。
【請求項2】
前記導電性モルタルを塗り込む工程は、
前記コンクリートと接するように、前記導電性モルタルにより基礎部分を形成する工程と、
前記基礎部分と、その上から配置された前記一次陽極との上に、前記導電性モルタルにより仕上げ部分を形成する工程とを含み、
前記基礎部分は、前記仕上げ部分に比して、前記コンクリートのひび割れに対する追従性に優れた特性が与えられている請求項1に記載の電気防食用陽極設置方法。
【請求項3】
前記導電性モルタル層は、0.5kΩcm以下の電気抵抗率を有する請求項1または2に記載の電気防食用陽極設置方法。
【請求項4】
前記型枠補助材の対を設置する工程では、50cm以上2m以下の間隔で、前記コンクリートの表面に前記型枠補助材の対が複数対設置される請求項3に記載の電気防食用陽極設置方法。
【請求項5】
前記導電性モルタル層が形成された後に、前記型枠補助材を前記コンクリートの表面から除去する工程を更に含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の電気防食用陽極設置方法。
【請求項6】
外部電源方式によるコンクリートの電気防食を実現するための電気防食用陽極構造であって、
前記電気防食の陰極として機能する鉄筋を内蔵するコンクリートの表面に、一の方向に長手方向を持つように形成された導電性モルタル層と、
前記導電性モルタル層に内包され、前記一の方向に長手方向を持つ一次陽極と、を備え、
前記導電性モルタル層は、
0.5kΩcm以下の電気抵抗率を有し、
前記コンクリートの表面に一つだけ形成されているか、或いは、前記コンクリートの表面に50cm以上2m以下の間隔を空けて複数形成されている電気防食用陽極構造。
【請求項7】
前記導電性モルタル層は、
前記コンクリートと接する基礎部分と、
前記基礎部分および前記一次陽極の上に形成された仕上げ部分とを含み、
前記基礎部分は、前記仕上げ部分に比して、前記コンクリートのひび割れに対する追従性に優れた特性が与えられている請求項6に記載の電気防食用陽極構造。
【請求項8】
前記導電性モルタル層を挟み込むように配置された型枠補助材の対を備える請求項6または7に記載の電気防食用陽極構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、電気防食用陽極設置方法および電気防食用陽極構造に係り、特に、外部電源方式によるコンクリートの電気防食に好適な電気防食用陽極設置方法および電気防食用陽極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
外部電源方式によるコンクリートの電気防食の手法としては、一次陽極を、面上、線状、或いは点状に配置する方式が一般に知られている。一次陽極を面上に配置する方式は、オーバーレイモルタルに付着不良等が生じ易いことや、コンクリート表面に施されている保護塗膜を広く除去しなければならないこと、などの課題に起因して最近ではあまり採用されていない。
【0003】
点状配置の方式は、三種類の方式の中で最も施工性に優れているが、その反面、一次陽極の配置数が不足する等の設計ミスによる不具合を生じさせ易い。このため、点状配置の方式も最近では採用数が減っている。
【0004】
線状配置の方式は、前述した保護塗膜の完全除去が必要なく、かつ、施工性に優れるため最近では最も多く採用されている。線状配置の工法として、例えば下記特許文献1には、コンクリートに溝を掘って、その中に一次陽極を埋め込むものが開示されている。この工法によれば、コンクリートの表面に一次陽極を安定的に設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の上記の工法では、一次陽極を埋め込むにあたり、コンクリートに少なからずダメージを与えることになる。また、一次陽極を埋め込むために設けた溝の中に、鉄筋の結束線のような導電性の異物が露出してしまうと、一次陽極がその異物と短絡してしまい、コンクリートの電食が促される事態が生じ得る。
【0007】
この開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、コンクリートにダメージを与えずに、コンクリート内の導電性物質と短絡させることなく、電気防食用の陽極を簡便に設置することのできる電気防食用陽極設置方法を提供することを第一の目的とする。
また、この開示は、コンクリートにダメージを与えることなく簡便に設置することができ、かつ、コンクリートに埋設される導電性物質と短絡することのない陽極を有する電気防食用陽極構造を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、上記の目的を達成するため、外部電源方式によるコンクリートの電気防食を実現するための電気防食用陽極設置方法であって、
前記電気防食の陰極として機能する鉄筋を内蔵するコンクリートの表面に、一の方向に長手方向を持つ型枠補助材を、予め定めた間隔で対を成すように設置する工程と、
前記型枠補助材の対の間に、導電性モルタルを塗り込む工程と、
前記導電性モルタルに埋め込まれるように一次陽極を配置する工程と、
前記導電性モルタルを乾燥させて、前記一次陽極を包含する導電性モルタル層を形成する工程と、
を含むことが望ましい。
【0009】
また、第2の態様は、外部電源方式によるコンクリートの電気防食を実現するための電気防食用陽極構造であって、
前記電気防食の陰極として機能する鉄筋を内蔵するコンクリートの表面に、一の方向に長手方向を持つように形成された導電性モルタル層と、
前記導電性モルタル層に内包され、前記一の方向に長手方向を持つ一次陽極と、を備え、
前記導電性モルタル層は、
0.5kΩcm以下の電気抵抗率を有し、
前記コンクリートの表面に一つだけ形成されているか、或いは、前記コンクリートの表面に50cm以上2m以下の間隔を空けて複数形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の第1または第2の態様によれば、コンクリートにダメージを与えずに、コンクリート内の導電性物質と短絡させることなく、電気防食用の陽極を簡便に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態1の電気防食用陽極構造の概要を示す図である。
【
図2】本開示の実施の形態1の電気防食用陽極設置方法の概要を示す図である。
【
図3】本開示の実施の形態1の電気防食用陽極設置方法の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4(A)は、本開示の実施の形態1において用い得る型枠補助材の第一の例を示す。
図4(B)は、本開示の実施の形態1において用い得る型枠補助材の第二の例を示す。
図4(C)は、本開示の実施の形態1において用い得る型枠補助材の第三の例を示す。
図4(D)は、本開示の実施の形態1において用い得る型枠補助材の第四の例を示す。
【
図5】本開示の実施の形態1において用い得る導電性モルタルの配合例を説明するための図である。
【
図6】本開示の実施の形態1の電気防食用設置構造の特性を測定する条件を説明するための図(その1)を示す。
【
図7】本開示の実施の形態1の電気防食用設置構造の特性を測定する条件を説明するための図(その2)を示す。
【
図8】
図8(A)は第一比較例(
図5に示すNo.1の配合)の特性を示す。
図8(B)は第二比較例(
図5に示すNo.2の配合)の特性を示す。
図8(C)は本開示の実施の形態1で用い得る第一の構造例(
図5に示すNo.6の配合)の特性を示す。
図8(D)は本開示の実施の形態1で用い得る第二の構造例(
図5に示すNo.8の配合)の特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本開示の実施の形態1の電気防食用陽極構造の概要を示す図である。
図1に示す構造は、コンクリート10の構造物を備えている。コンクリート10には、図示しない鉄筋が含まれている。この鉄筋は、所望の強度を得るために、コンクリート10の内部に、例えば網目状に配置されている。
【0013】
図1は、コンクリート10の表面に、対を成すように二つの型枠補助材12が設置されている様子を示している。型枠補助材12は、一の方向に長手方向を有する棒状の部材である。型枠補助材12の対は、両者の間隔が20~50mm程度の一定値となるように配置されている。また、型枠補助材12は、10mm程度の高さを有している。
【0014】
対を成す型枠補助材12の間には、導電性モルタル層14が形成されている。導電性モルタル層14は、電気抵抗率が0.5kΩcm以下となるように構成されている。また、導電性モルタル層14は、型枠補助材12の間に形成されるため、20~50mmの幅と、10mm程度の高さを有している。
【0015】
導電性モルタル層14の中には、一次陽極16が埋め込まれている。一次陽極16は、例えば、チタンリボンメッシュ陽極、チタングリッド陽極、MMOチタンテープ陽極、白金系陽極或いは白金合金系線陽極などで構成されている。一次陽極16には、例えば10mm程度の幅が与えられている。上述した導電性モルタル層14の幅、つまり20~50mm程度の幅は、一次陽極16の幅の2倍程度以上となるように設定された値である。
【0016】
本実施形態において、導電性モルタル層14は、外部電源方式によるコンクリート10の電気防食を実現するための二次陽極として機能する。つまり、一次陽極16と導電性モルタル層14は、共に、上記の電気防食を実現するための陽極として機能する。
【0017】
コンクリート10に包含される上記の鉄筋は、例えば、コンクリート10に水がしみ込んでくることにより腐食環境に置かれる。このような環境下で鉄筋の腐食が進行する際には、コンクリート10と鉄筋との間で電子の移動が伴う。そして、鉄筋を陰極として、その電子の移動を阻止するようにコンクリート10に電圧を印加すれば、鉄筋の腐食が進むのを防ぐことができる。本実施形態では、一次陽極16と鉄筋との間に外部電源から電圧を印加することで、鉄筋の腐食を防止する電気防食の機能を実現する。
【0018】
[実施の形態1の工法]
以下、
図2乃至
図4を参照して、
図1に示す構造を形成するための工法について説明する。
図2は、本実施形態の構造では、導電性モルタル層14に一次陽極16が埋め込まれることを示す図である。また、
図3は、本実施形態の電気防食用陽極設置方法の流れを説明するためのフローチャートである。
【0019】
図3に示すように、本実施形態の工法では、先ず、コンクリート10の表面に施されている防食塗料の剥離処理が行われる(ステップ100)。コンクリート10の表面には、一般に防食塗料が塗られている。電気防食の陽極と陰極との間、つまり、本実施形態における導電性モルタル層14および一次陽極16と、鉄筋との間に効率よく電圧を印加するためには、導電性モルタル層14が防食塗料を介さずにコンクリート10と直接接することが望ましい。このため、本ステップ100では、導電性モルタル層14を設置するべき箇所に防食塗料の剥離処理が施される。
【0020】
本実施形態において、導電性モルタル層14は、コンクリート10の表面に50cm間隔で複数配置される。従って、上記ステップ100の剥離処理は、コンクリート10の表面において、50cm間隔で複数個所に施される。
【0021】
上記の処理が終わると、次に、コンクリート10の表面に型枠補助材12が設置される(ステップ102)。型枠補助材12は、防食塗料を剥離した部分の両側に配置される。具体的には、本実施形態では、コンクリート10の表面に、対を成す型枠補助材12が50cm間隔で複数組み設置される。
【0022】
本実施形態で用い得る型枠補助材12の例を
図4に示す。これらは、何れも汎用品として市場において容易に入手することができるものである。但し、型枠補助材12は、コンクリート10の表面に容易に固定できるものであれば、これらに限定されるものではない。
【0023】
図4(A)は、「のり付きバックアップ材」12-1の斜視図である。のり付きバックアップ材は、粘着剤が塗布された粘着面を一面に備える角柱材である。粘着面は、容易に剥がすことのできる剥離紙で覆われている。のり付きバックアップ材12-1は、剥離紙を剥がして、粘着面がコンクリート10と接するように配置することで、型枠補助材12として機能させることができる。
【0024】
図4(B)は、「プラスティックモール材」12-2の斜視図である。
図4(C)は、L型プラスティックアングル12-3の斜視図である。また、
図4(D)は、T型プラスティックアングル12-4の斜視図である。これらは、コンクリート10の該当箇所に粘着剤により貼り付けることにより、型枠補助材12として機能させることができる。
【0025】
図3に示すように、型枠補助材12の設置が終わると、次に、導電性モルタル層14の基礎部分が形成される(ステップ104)。具体的には、左官コテ、ヘラ、コーキングガンなどを用いて乾燥前の導電性モルタルを、対を成す型枠補助材12の間に埋め込む作業が実施される。一次陽極16は、導電性モルタル層14の中央よりコンクリート10に近い位置に埋め込むことが望ましい。このため、本ステップ104で形成する基礎部分は、5mmより薄い厚さとすることが望ましい。
【0026】
次に、導電性モルタル層14の基礎部分の上に一次陽極16が埋め込まれる(ステップ106)。次いで、導電性モルタル層14の仕上げ処理、つまり、対を成す型枠補助材12の間で、一次陽極16の上に導電性モルタルを塗り重ねる作業が実施される(ステップ108)。
【0027】
以後、導電性モルタル層14が乾燥して硬化するのを待って、型枠補助材12がコンクリート10の表面から除去される(ステップ110)。これにより、コンクリート10の表面に、50cm間隔で、乾燥して硬化した複数の導電性モルタル層14が並ぶ構造が実現される。
【0028】
尚、ここでは、導電性モルタル層14の硬化後に型枠補助材12を除去することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。型枠補助材12が、のり付きバックアップ材12-1、プラスティックモール材12-2、或いはL型プラスティックアングル12-3である場合は、上記ステップ110の処理を省略して、コンクリート10の表面に型枠補助材12を残してもよい。
【0029】
[導電性モルタルの配合]
本実施形態では、電気抵抗率(体積低効率)が0.5kΩcm以下となるように導電性モルタル層14の配合を調整する必要がある。導電性モルタルの電気抵抗率は、基礎材料に混入させる混和材の量により調整することができる。混和材としては、金属系、炭素系および金属酸化物系の導電性フィラーや、イオン電導性の電解質が使用できる。導電性フィラーとしては、具体的には黒鉛等を用いることができる。電解質としては、塩化物、臭化物、硝酸塩、亜硝酸塩および有機カルボン酸塩のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩等を、単独または組み合わせて使用することできる。
【0030】
図5は、混和材として電解質を用いた場合の調合比と電気抵抗率との関係を示す。
図5のNo.1~No.5は、本実施形態では用いることのできない比較例を示している。一方、No.6~No.10は、本実施形態で用いることのできる調合比を示している。但し、
図5に示すNo.6~No.10は、あくまで調合の例示であり、本実施形態で用いる導電性モルタルの調合はそれらに限定されるものではない。上記の通り、混和材としては電解質の他に導電性フィラーを用いることができ、溶解上限以下の混和材で0.5kΩcm以下の電気抵抗率が達成されていれば、他の調合により導電性モルタルを調整してもよい。
【0031】
[防食電流分布の測定結果]
次に、
図6乃至
図8を参照して、導電性モルタル層14の電気抵抗率と、コンクリート10の内部を流れる防食電流分布との関係を説明する。
【0032】
図6は、防食電流分布の計測に用いたコンクリート10の試験体の構造を示す。
図6に示す試験体は、呼び強度24N/mm2、スランプ12cm、空気量4.5%、塩化物イオン含有量10kg/m3のコンクリートと、D13の異形鉄筋を使用して作製されている。この試験片は一辺が1000mmの正方形に成形されている。
【0033】
コンクリート10の試験片の配合は、具体的には以下の通りである。
W/C:59.5%
s/a:46.4%
単位量 W:162kg/m3
C:272kg/m3
S:856kg/m3
G:1023kg/m3
混和材:272kg/m3
塩分:5kg/m3
【0034】
図6に示すように、コンクリート10の試験片の中には鉄筋18が格子状に配置されている。縦方向の鉄筋18、および横方向の鉄筋18は、夫々200mm間隔で配置されている。鉄筋18の一部は、通電のために試験片の外まで伸びている。
【0035】
図7は、コンクリート10の試験片に設けられた陽極20と電極22の配置を示す。陽極20は、導電性モルタル層14と、その中に埋め込まれた一次陽極16とで構成されている。陽極20は、試験片の一辺から50mm離れた位置に、その一辺と平行になるように設けられている。このため、陽極20から反対側の一辺までは950mm離間している。
【0036】
試験片には、九個の電極22が配置されている。電極22は、図示の通り、試験片の中央に位置する一辺600mmの正方形エリア内に等間隔で配置されている。電極22は、夫々が配置されている部位における電位(以下、「分極量」とする)を計測するために設けられている。
【0037】
図8は、陽極20と鉄筋18との間に電流密度が2mA/m2となるように電圧を印加した場合に、コンクリート10の試験片に表れる分極量の分布を示す。具体的には、
図8(A)および(B)は、
図5に示す比較例No.1およびNo.2を導電性モルタル層14とした場合の分極量を夫々示している。また、
図8(C)および(D)は、
図5に示す本発明No.6およびNo.8を導電性モルタル層14とした場合の分極量を示している。
【0038】
図8(A)~
図8(D)において、「V**」は、分極量が(**)mV~{(**)+20}mVであることを表している。例えば、
図8(A)に示す「V20」は、その符号が付されたエリアの分極量が20~40mVであることを表している。また、「V40」は、その符号が付されたエリアの分極量が40~60mVであることを表している。
【0039】
外部電源方式の電気防食では、上記の電圧印加に対して、分極量が100mV以上であることが管理基準とされている。
図8(A)に示す分布では、試験片の凡そ1/3の領域(V140、V120、V100)だけがその基準を満たしてる。また、
図8(B)に示す分布では、試験片の凡そ1/2の領域(V160、V140、V120、V100)だけが上記の基準を満たしてる。
【0040】
これに対して、
図8(C)および
図8(D)は、試験片の全ての領域で100mV以上の分極量が得られることを示している。つまり、導電性モルタル層14の電気抵抗が0.5kΩcm以下である本実施形態の陽極構造によれば、陽極20から1m離れた位置でも管理基準を満たす分極量を発生させることができる。このため、本実施形態の陽極構造によれば、陽極20の間隔を最大で2m程度としても、コンクリート10の全面で十分な防食効果を得ることができる。
【0041】
上述した通り、本実施形態では、コンクリート10の表面に50cm間隔で陽極20、つまり、導電性モルタル層14と一次陽極16とを配置することとしている。このため、この構造によれば、コンクリート10の全面において、余裕を持って十分な防食効果を得ることができる。尚、50cmの間隔は、余裕を持って設定した好ましい値であり、その間隔は1mに広げることが可能であり、更には2mまで広げることとしてもよい。
【0042】
[実施の形態1の効果]
以上説明した通り、本実施形態の陽極設置方法によれば、コンクリート10に溝を掘ることなく、電気防食用の陽極20を設置することができる。固いコンクリート10に溝を掘るよりも、その表面に型枠補助材12を貼り付けて、コテ、ヘラ、コーキングガンなどでモルタルを充填する方が、はるかに施工がしやすい。このため、本実施形態によれば、コンクリート10にダメージを与えずに、鉄筋18との短絡も生じさせることなく、高い施工性の下で陽極20を設置することができる。
【0043】
また、本実施形態の陽極設置方法によれば、導電性モルタル層14が高い導電性を有するため、一次陽極16の設置間隔を、従来の間隔より大きく広げることができる。具体的には、導電性モルタル層14の電気抵抗率を0.5kΩcm以下としたことで、20~30cmが一般的であった一次陽極16の間隔を50~100cm以上、つまり凡そ3倍以上に広げることができる。その結果、材料費および施工費がともに安価となり、一般的に高額な補修工法と位置付けられている電気防食工法の工事費を大幅に下げることができる。
【0044】
また、一次陽極16の設置間隔を現状より著しく広くすることが可能であるため、本実施形態によれば、コンクリート構造物の外観をきれいに収めることができる。更に、幅が50~100cm程度の短い梁であれば、一次陽極16は一本設置するだけで十分な効果を得ることができる。
【0045】
[実施の形態1の変形例]
ところで、上述した実施の形態1では、一次陽極16の下層に形成する導電性モルタル層14の基礎部分と、一次陽極16の上に重ねる導電性モルタル層14の仕上げ部分とを、同じ材料で構成することとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、基礎部分と仕上げ部分は異なる材料で構成することとしてもよい。
【0046】
即ち、導電性モルタル層14の基礎部分は、その下のコンクリート10と接しているため、下地となるコンクリート10に生ずるひび割れ等の損傷の影響を受けやすい。この影響で導電性モルタル層14にひび割れ等が生ずると、鋼材の錆びと同様な色を呈するアノードプロダクトが生成され易くなる。アノードプロダクトは、電気防食の効果に大きな影響を与えることはないが、外観が錆色を呈するため、あたかも電気防食が効いていないような誤解を与え易く、発注者からのクレームにつながりやすい。
【0047】
本実施形態の構造では、導電性モルタル層14の基礎部分を、ひび割れに対する追従性に優れた材料としてもよい。具体的には、基礎部分に、再乳化型の粉末樹脂や液体のポリマーディスパージョンを用いてもよい。或いは、基礎部分に、黒曜石パーライトや真珠岩パーライトなどの軽量骨材を用いてもよい。このような材質によれば、基礎部分の静弾性係数の低下を図ることができ、アノードプロダクトの生成を抑制することができる。
【0048】
また、上述した実施の形態1では、導電性モルタル層14を、断面が長方形になるように仕上げることとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、導電性モルタル層14は、その断面が、山なり、正方形、台形、半円形、或いはそれらの組み合わせとなるように仕上げることとしてもよい。
【0049】
また、上述した実施の形態1では、導電性モルタル層14を、50cm間隔で複数配置することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、コンクリート10の表面に導電性モルタルを均一に塗布して、コンクリート10の全面を覆うように導電性モルタル層14を形成してもよい。或いは、上述した電解質を50重量%以上の濃度で含有する水溶液をコンクリート10の表面に均一に塗布してもよい。更には、1~10重量%のナフィオンに1~10重量%の光触媒を添加した水溶液を、単独で、あるいは上記の電解質水溶液と併用して、コンクリート10の表面に塗布してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 コンクリート
12 型枠補助材
14 導電性モルタル層
16 一次陽極
18 鉄筋
20 陽極