(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055103
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】異常事象判定方法及び異常事象判定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
G01N35/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161738
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】谷口 惇浩
(72)【発明者】
【氏名】青柳 雄大
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058GA01
2G058GE10
(57)【要約】
【課題】気泡自体の検出を行わずに、偽陽性判定を回避して、正確に陽性判定又は陰性判定を導くことが可能な異常事象判定方法及び異常事象判定装置を提供する。
【解決手段】検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射し、光が照射された試料から、関心項目に係る時系列データを測定し、時系列データから、一定のサンプリング間隔で取得した複数の数値データを取得し、関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定し、閾値を超えた直後に取得した第2数値データから、その直前に取得した第1数値データを差し引いて得た第1差分値、及び、第2数値データを取得した直後に取得した第3数値データから第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出し、第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合、閾値を超えた原因が異常事象にあると判定し、異常事象に関する判定結果を出力する、工程を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射し、
光が照射された前記試料から、関心項目に係る時系列データを測定し、
前記時系列データから、一定のサンプリング間隔で複数の数値データを取得し、
前記関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定し、
前記閾値を超えた直後に取得した第2数値データから、その直前に取得した第1数値データを差し引いて得た第1差分値、及び、前記第2数値データのさらに後続する直後に取得した第3数値データから、前記第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出し、
前記第2差分値から前記第1差分値を差し引いた値が負である場合、前記閾値を超えた原因が異常事象にあると判定し、
異常事象に関する判定結果を出力する、
工程を有することを特徴とする異常事象判定方法。
【請求項2】
前記サンプリング間隔は、前記異常事象が発生した場合に前記時系列データがステップ状に変位すると想定される過渡時間より大きく、且つ、前記関心項目について陽性となる場合に前記時系列データが立ち上がり開始から変曲点に至るまでに想定される時間間隔より小さい、請求項1に記載の異常事象判定方法。
【請求項3】
前記数値データは、前記サンプリング間隔で取得した瞬時値を中心に前後の前記時系列データを前記サンプリング間隔より細かいサンプリング間隔で取得した瞬時値の平均値である、請求項2に記載の異常事象判定方法。
【請求項4】
前記第2差分値から前記第1差分値を差し引いた値が負である場合、前記時系列データを測定する工程を中断する、請求項1~3の何れか一項に記載の異常事象判定方法。
【請求項5】
前記複数の数値データ及び前記閾値を用いて前記関心項目について陽性又は陰性の判定を行う工程を更に有する、請求項1~3の何れか一項に記載の異常事象判定方法。
【請求項6】
前記陽性又は陰性の判定工程において、前記第2差分値から前記第1差分値を差し引いた値がゼロ又は正の場合、前記関心項目について陽性であると判定する、請求項5に記載の異常事象判定方法。
【請求項7】
前記陽性又は陰性の判定工程において、測定終了に至るまで前記数値データが前記閾値を超えない場合、前記関心項目について陰性であると判定する、請求項5に記載の異常事象判定方法。
【請求項8】
前記時系列データは、前記関心項目に起因する数値の増加が発生する前に、一定のベースレベルを示し、
前記閾値は、前記ベースレベルを用いて設定する、請求項1~3の何れか一項に記載の異常事象判定方法。
【請求項9】
前記閾値は、前記複数の数値データのうち、前記試料からの前記時系列データの測定開始から、検査結果が陽性である場合に前記数値データが上昇し始めると想定される時間が経過するまでに取得された数値データに基づいて設定される、請求項1~3の何れか一項に記載の異常事象判定方法。
【請求項10】
前記閾値は、前記第2差分値から前記第1差分値を差し引いた値が負である場合、前記閾値を超えた数値データに基づいて新たに設定される、請求項1~3の何れか一項に記載の異常事象判定方法。
【請求項11】
検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射する光源部と、
光が照射された前記試料から、関心項目に係る時系列データを測定する検出部と、
前記時系列データから一定のサンプリング間隔で複数の数値データを取得し、前記関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定し、前記閾値を超えた直後に取得した第2数値データから、その直前に取得した第1数値データを差し引いて得た第1差分値、及び、前記第2数値データのさらに後続する直後に取得した第3数値データから、前記第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出し、前記第2差分値から前記第1差分値を差し引いた値が負である場合、前記閾値を超えた原因が異常事象にあると判定する解析部と、
異常事象に関する判定結果を出力する出力部と、
を有することを特徴とする異常事象判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常事象判定方法及び異常事象判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床検査の分野では、ヒトの血液等の検体と所定の試薬とを混合して試料を作成し、試料測定することによって、検体から特定の成分を定量的及び定性的に検査可能な検査装置が知られている。特に、簡易的かつ迅速に検査結果を得ることが可能なポイント・オブ・ケア検査(POCT)が普及しつつある。
【0003】
特許文献1は、液状試薬が複数の槽に分注されたカートリッジ式容器を用いて、血液や尿等の体液(検体)と試薬とをカートリッジ式容器内で所定の手順で混合して得られる試料から、検体中の特定の成分を測定する測定装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、試料の異常を判定するために、励起光成分の光強度を検出して所定の強度(閾値)と比較する分析装置を開示している。特許文献2には、増幅した標的核酸を蛍光プローブによって検出する際に、不測のごみや気泡が混入した異常状態を判別するために、蛍光成分以外に励起光成分と同じ波長帯の光強度を検出して所定の閾値と比較する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3は、光強度の変化を検知するために微分回路を搭載する気泡検知装置を開示している。特許文献3には、光強度の変化を検知するために微分回路を搭載して、気泡自体を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-349896号公報
【特許文献2】特開2005-300292号公報
【特許文献3】特開昭63-143080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
測定前に検体と試薬とを効率良く反応させるために、攪拌工程や加温工程が実施されることがあり、検体と試薬との混合物に意図せず気泡が混入する場合がある。気泡が混入することで、測定容器の内壁に気泡が付着し、この気泡によって検査結果に異常が生じてしまい、偽陽性の判定を導く虞がある。
【0008】
そこで、特許文献2又は特許文献3に記載されるように、気泡自体を検知しようとすることが考えられるが、気泡自体の検知を行うためには、実際の測定器具以外に追加の構成が必要となり、装置が大型化してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、気泡自体の検出を行わずに、偽陽性判定を回避して、正確に陽性判定又は陰性判定を導くことが可能な異常事象判定方法及び異常事象判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法は、検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射し、光が照射された試料から、関心項目に係る時系列データを測定し、時系列データから、一定のサンプリング間隔で複数の数値データを取得し、関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定し、閾値を超えた直後に取得した第2数値データから、その直前に取得した第1数値データを差し引いて得た第1差分値、及び、第2数値データのさらに後続する直後に取得した第3数値データから、第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出し、第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合、閾値を超えた原因が異常事象にあると判定し、異常事象に関する判定結果を出力する、工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、サンプリング間隔は、異常事象が発生した場合に時系列データがステップ状に変位すると想定される過渡時間より大きく、且つ、関心項目について陽性となる場合に時系列データが立ち上がり開始から変曲点に至るまでに想定される時間間隔より小さいことが好ましい。
【0012】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、数値データは、サンプリング間隔で取得した瞬時値を中心に前後の時系列データを上記のサンプリング間隔より細かいサンプリング間隔で取得した瞬時値の平均値であることが好ましい。
【0013】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合、時系列データを測定する工程を中断することが好ましい。
【0014】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、複数の数値データ及び閾値を用いて関心項目について陽性又は陰性の判定を行う工程を更に有することが好ましい。
【0015】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、陽性又は陰性の判定工程において、第2差分値から第1差分値を差し引いた値がゼロ又は正の場合、関心項目について陽性であると判定することが好ましい。
【0016】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、陽性又は陰性の判定工程において、測定終了に至るまで数値データが閾値を超えない場合、関心項目について陰性であると判定することが好ましい。
【0017】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、時系列データは、関心項目に起因する数値の増加が発生する前に、一定のベースレベルを示し、閾値は、ベースレベルを用いて設定することが好ましい。
【0018】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、閾値は、複数の数値データのうち、試料からの時系列データの測定開始から、検査結果が陽性である場合に数値データが上昇し始めると想定される時間が経過するまでに取得された数値データに基づいて設定されることが好ましい。
【0019】
本発明の一側面に係る異常事象判定方法において、閾値は、第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合、閾値を超えた数値データに基づいて新たに設定されることが好ましい。
【0020】
本発明の一側面に係る異常事象判定装置は、検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射する光源部と、光が照射された試料から、関心項目に係る時系列データを測定する検出部と、時系列データから一定のサンプリング間隔で複数の数値データを取得し、関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定し、閾値を超えた直後に取得した第2数値データから、その直前に取得した第1数値データを差し引いて得た第1差分値、及び、第2数値データのさらに後続する直後に取得した第3数値データから、第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出し、第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合、閾値を超えた原因が異常事象にあると判定する解析部と、異常事象に関する判定結果を出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る異常事象判定方法及び異常事象判定装置は、気泡自体の検出を行わずに、偽陽性判定を回避して、正確に陽性判定又は陰性判定を導くことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】検査装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】解析部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】関心項目に関する時系列データの典型例を示す波形図である
【
図4】判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0024】
本発明は、検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射し、光が照射された試料から、関心項目に係る時系列データを測定することで、関心項目について陽性又は陰性の判定を行う検査装置に適用可能である。関心項目は、測定対象の求めるべき量的情報又は質的情報である。
【0025】
例えば、検査装置は、ウィルスや細菌の核酸に反応する試薬を検体に注入することで、時間経過と共に、試薬と検体内に含まれるウィルスや細菌の核酸とが反応して、核酸が増幅していくか否かを測定する装置である。この検査装置は、試料に対して、光として所定の波長を有する励起光を照射する。検査装置は、この励起光が照射された試料から発生する蛍光を検出することによって得られた時系列データを解析する。これにより、検査装置は、時間経過と共に、ウィルスや細菌の核酸が増幅していくか否かを測定する。なお、検査装置によって測定される蛍光の量が増加するほど、核酸が増幅していることを示す。関心項目は、DNA(Deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)又はRNA(Ribonucleic acid、リボ核酸)等の核酸に関する量的又は質的情報であってもよい。検体は、例えば、唾液、粘液又は血液であってもよい。試薬は、例えば、核酸増幅試薬、蛍光を発する試薬(インターカレータ)、抗原反応試薬又は抗体反応試薬であってもよい。試料は、検体及び試薬の他に、蛍光色素で修飾した核酸プローブ(例えば、増幅中の核酸と相補結合する蛍光標識プローブ)及び陽性コントロール等の添加物を含んでもよい。
【0026】
また、検査装置は、タンパク質(抗原)に反応する試薬を検体に注入することで、時間経過と共に、試薬と検体内に含まれる抗原とが反応して、試料の濁度が上昇していくか否かを測定する装置であってもよい。この検査装置は、試料に対して、光として所定の強度を有する可視光又は非可視光(赤外線、近赤外線又は紫外線等)を照射する。検査装置は、照射した可視光又は非可視光が試料を透過する量(すなわち、光強度)を測定することによって得られた時系列データを解析する。これにより、検査装置は、時間経過と共に、試料の濁度が上昇していくか否かを測定する。なお、検査装置によって測定される試料を透過する光の量が減少するほど、試料の濁度が上昇していることを示す。関心項目は、抗原の他に、タンパク質(抗体)に関する量的又は質的情報であってもよい。検体は、例えば、唾液、粘液又は血液であってもよい。試薬は、例えば、抗原又は抗体試薬であってもよい。試料は、検体及び試薬の他に、抗原物質に特異的な抗体をコーティングしたラテックス粒子等の添加物を含んでもよい。
【0027】
なお、本発明を適用可能な検査装置に関して、検体及び所定の試薬を混合及び攪拌することによって作成された試料に光を照射し、光が照射された試料から、関心項目に係る時系列データを測定することで、関心項目について陽性又は陰性の判定を行う検査装置であれば、上記のものに限定されない。以降の実施形態は、図面を参照しながら、本発明を、試料に対して励起光を照射し、励起光が照射された試料から発生する蛍光を検出することによって得られた核酸に関する時系列データを解析することで、時間経過と共に、核酸が増幅していくか否かを測定する検査装置に適用する場合について説明する。
【0028】
図1は、検査装置1の概略構成の一例を示すブロック図である。
【0029】
検査装置1は、検体を検査カートリッジ10に注入された所定の関心項目に関する試薬に注入し、検査カートリッジ10内で検体と試薬とを混合及び攪拌することによって作成された試料11を測定する。検査装置1は、試料11を測定することによって得られた時系列データを解析することで、この検査結果に関する情報を出力する。また、検査装置1は、試料11を測定することによって得られた時系列データから、異常事象の発生を検知する異常事象判定装置として機能する。異常事象は、測定中の検査カートリッジ10内で生じる気泡の移動又は消失である。
図1に示す検査装置1で測定する関心項目は、RNAに関する量的情報である。
【0030】
図1に示すように、検査装置1は、不図示の筐体に配置された、光源部2、検出部3及び解析部4等を含んで構成される。光源部2は、検査カートリッジ10に対して励起光を照射する。例えば、光源部2は、定常光又は瞬間光を照射する。光源部2は、瞬間光を照射する場合、後述する検出部3による蛍光の検出タイミングに合わせて照射してもよい。光源部2は、タングステンランプ及びキセノンランプ等の公知の光源である。光源部2は、1つ又は複数設置可能である。
【0031】
検出部3は、光が照射された試料11から発生する蛍光を検出する。検出部3は、検出した蛍光の蛍光強度に関する時系列データを解析部4へ送信する。検出部3は、光電子増倍管及び半導体検出器等の公知の検出器である。時系列データは、検出部3から直接出力される生データであっても、A/D変換した加工データであってもよい。
【0032】
解析部4は、コンピュータやマイコンの一例であり、検出部3から送信された時系列データに基づいて、関心項目に関する検査結果に関する情報を出力する。例えば、解析部4は、関心項目に関する検査結果が陽性か陰性かを判定して、この判定結果を検査結果に関する情報として出力する。また、解析部4は、異常事象に起因して、検出部3から送信された時系列データに異常な値が含まれているか否かを判定して、この判定結果を検査結果に関する情報として出力する。
【0033】
図2は、解析部4の構成の一例を示すブロック図である。
【0034】
図2に示すように、解析部4は、記憶部41、通信部42、表示部43、操作部44及び処理部45を備える。記憶部41、通信部42、表示部43、操作部44及び処理部45は、バス46を介して電気的に相互に接続される。
【0035】
記憶部41は、プログラム又はデータを記憶する。記憶部41は、例えば、半導体メモリ装置を備える。記憶部41は、処理部45による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等のコンピュータ読み取り可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部41にインストールされる。
【0036】
通信部42は、出力部の一例である。通信部42は、処理部45を他の装置と通信可能にする。通信部42は、通信インタフェース回路を備える。通信部42が備える通信インタフェース回路は、有線LAN(Local Area Network)又は無線LAN等の通信インタフェース回路である。通信部42は、データを他の装置から受信して処理部45に供給すると共に、処理部45から供給されたデータを他の装置に送信する。
【0037】
表示部43は、出力部の一例である。表示部43は、画像を表示する。表示部43は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイを備える。表示部43は、処理部45から供給された表示データに基づいて画像を表示する。
【0038】
操作部44は、検査装置1に対するユーザの入力操作を受け付ける。操作部44は、例えば、キーパッド、キーボード又はマウスを備える。操作部44は、表示部43と一体化されたタッチパネルを備えてもよい。操作部44は、ユーザの入力操作に応じた信号を生成して処理部45に供給する。
【0039】
処理部45は、検査装置1に含まれる各構成の動作を統括的に制御するデバイスであり、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。処理部45は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を備える。処理部45は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部45は、記憶部41に記憶されているプログラム並びに通信部42及び操作部44からの入力に基づいて検査装置1の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御すると共に、各種の処理を実行する。
【0040】
処理部45は、取得部451、閾値設定部452、算出部453、判定部454及び出力制御部455を機能ブロックとして備える。これらの各部は、処理部45によって実行されるプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの各部は、ファームウェアとして検査装置1に実装されてもよい。
【0041】
図3は、関心項目に関する時系列データの典型例を示す波形図である。
【0042】
図3に示す波形図は、検出部3によって検出された試料11中の関心項目に関する特定の成分に由来する蛍光強度の増加量を初期値との比で表す蛍光強度比の経時変化を示している。
図3において、試料11の測定を開始する位置をSで表し、波形の立ち上がり開始の位置をRで表し、変曲点の位置をFで表している。閾値はTで表す。
図3に示す各プロットデータN、V、Pは、時系列データに含まれる数値データを表し、一定のサンプリング間隔で取得した瞬時値を表している。また、
図3に示すように、時系列データは、数値データが安定的に一定となっているベースレベルBを示している。すなわち、時系列データは、関心項目に起因する数値の増加が発生する前(すなわち、位置Rよりも前)に、一定のベースレベルBを示している。プロットデータNは、測定期間中、数値データが閾値Tを超えないため、陰性判定となる。プロットデータVは、90秒から100秒にかけて閾値Tを超えてステップ状に変位する挙動を示す。この挙動は、試料11中に混入していた気泡が測定中に消失又は移動するような物理的な異常事象を反映したものと想定される。よって偽陽性の判定につながる事例となる。プロットデータPには、特定の成分の増幅によって蛍光強度が指数関数的に増加し、反応物の供給が律速的になるにつれて増加率が鈍くなる傾向が示されている。すなわち、プロットデータPは、測定期間中、数値データが閾値Tを超えるため、陽性判定となる。
【0043】
図4は、判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0044】
判定処理は、関心項目について陽性又は陰性を判定するための処理であり、予め記憶部41に記憶されているプログラムに基づき主に処理部45により検査装置1の各要素と協働して実行される。
【0045】
まず、取得部451は、関心項目に関する測定を開始した後、検出部3から送信された関心項目に係る時系列データを取得する(ステップS101)。取得部451は、検出部3から時系列データを受信することによって取得する。時系列データは記憶部41に予め記憶されており、取得部451は、予め記憶された時系列データを記憶部41から読み出すことによって取得してもよい。
【0046】
次に、閾値設定部452は、関心項目について陽性又は陰性を判定するための閾値を設定する(ステップS102)。閾値設定部452は、
図3に示す一定のベースレベルBを用いて閾値を設定する。
【0047】
次に、取得部451は、時系列データから、一定のサンプリング間隔で複数の数値データを取得する(ステップS103)。取得部451によって取得された複数の数値データは、記憶部41に記憶される。例えば、取得部451は、一定のサンプリング間隔で数値データをリアルタイムで取得する。数値データは、時系列データから一定のサンプリング間隔で抽出された、試料11から発生する蛍光の蛍光強度に関するデータである。数値データが示す数値は、一定のサンプリング間隔で取得した瞬時値である。また、数値データが示す数値は、一定のサンプリング間隔で取得した瞬時値を中心に前後の時系列データを上記のサンプリング間隔より細かいサンプリング間隔で取得した瞬時値の平均値であってもよい。
【0048】
サンプリング間隔は、異常事象が発生した場合に時系列データがステップ状に変位すると想定される過渡時間より大きく、且つ、関心項目について陽性となる場合に時系列データが立ち上がり開始から変曲点に至るまでに想定される時間間隔より小さい。
【0049】
例えば、今回の場合、過渡時間は、0.1秒から1.0秒の範囲内にある。また、時系列データが立ち上がり開始から変曲点に至るまでに想定される時間は、20.0秒から60.0秒の範囲内にある。検査装置1は、サンプリング間隔を10秒に設定する。
【0050】
次に、判定部454は、取得部451によって取得して、記憶部41に記憶した数値データが閾値を超えているか否かを判定する(ステップS104)。判定部454は、一定のサンプリング間隔で数値データを取得するごとに、数値データが閾値を超えているか否かを判定する。数値データが閾値を超えていない場合(ステップS104のNo)、判定部454は、測定を終了するか否かを判定する(ステップS105)。測定を終了する場合(ステップS105のYes)、判定部454は、測定を終了し(ステップS106)、検査結果が「陰性」であると判定する(ステップS107)。すなわち、判定部454は、陽性又は陰性の判定工程において、測定開始から測定終了まで数値データが閾値を超えない場合、関心項目について「陰性」であると判定する。
【0051】
数値データが閾値を超えている場合(ステップS104のYes)、取得部451は、次の数値データを取得する(ステップS108)。次の数値データとは、ステップS103において取得部451によって取得された数値データの次に取得部451によって取得された数値データを指す。
【0052】
次に、算出部453は、複数の数値データのうち、閾値を超えた数値データ(第2数値データ)から、第2数値データの直前に取得して、記憶部41に記憶した数値データ(第1数値データ)を差し引いて得た第1差分値を算出する。また、算出部453は、第2数値データのさらに後続する直後に取得した数値データ(第3数値データ)から第2数値データを差し引いて得た第2差分値を算出する(ステップS109)。
【0053】
次に、判定部454は、算出部453によって算出された第2差分値から第1差分値を差し引いた値がゼロ又は正であるか否かを判定する(ステップS110)。第2差分値から第1差分値を差し引いた値がゼロ又は正である場合(ステップS110のYes)、判定部454は、測定を終了し(ステップS111)、検査結果が「陽性」であると判定する(ステップS112)。すなわち、判定部454は、陽性又は陰性の判定工程において、第2差分値から第1差分値を差し引いた値がゼロ又は正の場合、数値データが閾値を超え、且つ、その後の解析の過程で数値データが上昇し続けているため、関心項目について「陽性」であると判定する。
【0054】
第2差分値から第1差分値を差し引いた値が負である場合(ステップS110のNo)、判定部454は、測定を中断するか否かを判定する(ステップS113)。例えば、検査精度の向上のために、異常事象が発生していた時点で測定を中断するという取り決めがある場合、判定部454は、測定を中断すると判定する。また、貴重な試薬を使用する、検査装置で同時に複数の検体を処理する等の理由で、測定の中断をできるだけ回避したいという要望がある場合、判定部454は、測定を継続すると判定する。測定を継続する場合(ステップS113のNo)、ステップS102に戻って、閾値を再設定する。閾値の再設定は、後述する。
【0055】
測定を中断する場合(ステップS113のNo)、判定部454は、測定を中断し(ステップS114)、閾値を超えた原因が異常事象にあると判定する(ステップS115)。
【0056】
最後に、出力制御部455は、検査結果に関する情報を出力し(ステップS116)、一連の判定処理を終了する。出力制御部455は、判定部454によって判定された判定結果を検査結果に関する情報として表示部13に表示することにより出力する。出力制御部455は、通信部12を介して、判定部454によって判定された判定結果を検査結果に関する情報として外部の情報処理装置に送信することにより、出力してもよい。出力制御部455は、関心項目に関する検査結果が陽性か陰性かを判定した結果を検査結果に関する情報として出力する。また、出力制御部455は、異常事象に関する判定結果を検査結果に関する情報として出力する。
【0057】
【0058】
例えば、異常事象は、測定中に検査カートリッジ10内に混入された気泡が移動又は消失して、光源部2から照射される光の光路長が短時間に増加することで生じる。つまり、一旦気泡が移動又は消失すれば、その後、異常な値の数値データは検出されないと考えられる。そこで、
図4において、一旦異常事象があると判定され(ステップS110のNo)、その後のステップS113において、判定部454が測定を中断しない場合(ステップS113のNo)、再度ステップS102へ戻って閾値を設定することとなる。
【0059】
図5において、T1は最初のステップS102で設定された最初の閾値を示し、T2は2回目にステップS102で設定された2回目の閾値を示している。閾値設定部452による閾値の変更(T1→T2)は、予め定めておいてもよいし、閾値を超えた数値データに基づいて新たな閾値T2を決定してもよい。なお、
図5では、閾値をT2に再設定した後に、閾値T2を超えて数値データが上昇しているので、関心項目について陽性の判定がなされる場合を示している。
【0060】
閾値の再設定は、異常事象があると判定された後にも測定を継続可能であるので、有効な処理であるが、必ずしも閾値の再設定をする必要はない。例えば、異常事象があると判定された場合(ステップS110のNo)には、測定を中断するか否かの判定(ステップS113)をせずに、必ず測定を中断(ステップS114)するようにしてもよい。また、一旦閾値を再設定した後にも、異常事象が引き続き発生している場合、閾値設定部452は、3回目以降の閾値の再設定を行ってもよい。
【0061】
以上詳述したように、検査装置1は、数値データが閾値を超えた場合に、閾値を超えた数値データの前後の数値データの動向に基づいて、異常事象が生じているか否かを判定することができる。数値データが閾値を超えたときの勾配が次の数値データでさらなる上昇傾向に向かえば、その亊象は関心項目に起因すると判別し、勾配が一定又は下降傾向に転じるならば、その亊象は異常事象に起因すると判別する。
【0062】
以下、変形例について説明する。
【0063】
サンプリング間隔は、時系列データがステップ状に変位すると予想される過渡時間にできるだけ近い(小さい)値に設定することで、関心項目に起因する数値データの勾配の動向との判別能力を向上させることができる。
【0064】
閾値を超えた原因が関心項目にあると判別した時点で陽性判定を導き、記憶部41に記憶し、測定終了後に報告してもよく、判別した時点で陽性判定を表示部43に表示してもよい。一方、閾値を超えた原因が異常事象にあると判別した時点で数値データの取得を中断してもよい。異常事象が認められた以上、その測定系に何らかの問題があるとみなし、中断することで測定終了までの時間を節約することができる。測定中断の際は適宜表示手段や警告手段を講じ、注意と善後策を促すようにするのが好ましい。中断頻度に応じて表示内容を変えるようにしてもよい。
【0065】
測定対象が含まれる検体と所定の試薬とを混合及び攪拌することにより検体と試薬との化学作用の均一性と再現性が向上することが期待できる。また、気泡が生じやすくなり、試料の流動状態が測定中に持ち越されて気泡が移動しやすくなるという懸念が生じる場合であっても、効果的に偽陽性判定を防止することができる。
【0066】
関心項目に係る測定の際、時系列データから、予め関心項目に係る時系列データの特性、及び異常事象に係る時系列データの特性から割り出したサンプリング間隔で取得した数値データと、関心項目に係る陽性又は陰性判定のための閾値とを使用し、数値データ間の勾配の動向に基づいて陽性判定か異常事象発生かの判別を簡便に行うことを可能にする。異常事象の検出のための閾値を別に用意することなく、関心項目に係る陽性又は陰性判定のための閾値を利用して上記の判別を二者択一で行うことができる。連続データではなく離散的な数値データに基づいて判別を行うので、データ処理に要する計算資源と時間が節約できる。
【0067】
測定中、ほぼリアルタイムで異常事象を検出し測定を中断するので、無効と判明した測定にそれ以上時間を浪費することが回避できる。
【0068】
測定初期段階で異常事象が発生した場合、新たなベースレベルに応じて閾値を更新し、陽性判定か異常事象発生かを判別する工程を繰り返すことにより、測定結果が得られないまま測定を中断してしまうことを回避しつつ、妥当な陽性判定又は陰性判定を導くことができる。
【0069】
異常事象判定装置として機能する検査装置1は、一定のサンプリング間隔で数値データを取得するごとに、数値データが閾値を超えているか否かを判定している。検査装置1は、時系列データから取得可能な複数の数値データ全てを取得してから、時系列順で個々の数値データが閾値を超えているか否かを判定してもよい。
【0070】
閾値設定部452は、複数の数値データのうち、試料からの時系列データの測定開始から、検査結果が陽性である場合に数値データが上昇し始めると想定される時間が経過するまでに取得された数値データに基づいて、閾値を設定してもよい。
【0071】
閾値設定部452は、数値データに対して所定の乗数を乗じる又は所定量を加算する等の処理により閾値を設定してもよい。一般に、関心項目の種類等の測定条件が異なるため、事前評価によって適正な乗数や加算量を割り出しておくことが望ましい。
【0072】
閾値設定部452は、公知の統計処理によって妥当な数値データを選択して、この選択した数値データに基づいて、閾値を設定してもよい。
【0073】
検査装置1は、本発明の異常事象判定装置として機能するが、異常事象判定装置は、検査装置1とは独立して存在してもよい。
【0074】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した各部の処理は、本発明の範囲において、適宜に異なる順序で実行されてもよい。また、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 検査装置(異常事象判定装置)
2 光源部
3 検出部
4 解析部
451 取得部
452 閾値設定部
453 算出部
454 判定部
455 出力制御部