(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055152
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】熱処理リゾチーム組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 9/36 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
C12N9/36 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161849
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 肇
(72)【発明者】
【氏名】築舘 加奈子
【テーマコード(参考)】
4B050
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD11
4B050FF20C
4B050LL01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、効果的にウイルス及び細菌を不活化できる薬剤を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のpH2.0~4.5で熱処理された低pH熱処理リゾチーム及びpH5.5~8.5で熱処理された高pH熱処理リゾチームを含む、熱処理リゾチーム組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2.0~4.5で熱処理された低pH熱処理リゾチーム及びpH5.5~8.5で熱処理された高pH熱処理リゾチームを含む、熱処理リゾチーム組成物。
【請求項2】
pH2.0~4.5である、請求項1に記載の熱処理リゾチーム組成物。
【請求項3】
ウイルス不活化及び殺菌用である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(a)リゾチームをpH2.0~4.5で熱処理し、低pH熱処理リゾチームを得る工程、
(b)別のリゾチームをpH5.5~8.5で熱処理し、高pH熱処理リゾチームを得る工程、
(c)前記低pH熱処理リゾチーム及び高pH熱処理リゾチームを混合する工程、
を含む、熱処理リゾチーム組成物の製造方法。
【請求項5】
(d)工程(c)で得られた混合物をpH2.0~4.5に調整する工程、
を更に含む、請求項4に記載の熱処理リゾチーム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱処理リゾチーム組成物を、検体と接触させる工程を含む、ウイルス不活化及び/又は殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理リゾチーム組成物に関する。本発明によれば、細菌及びウイルスを効果的に不活化することができる。
【背景技術】
【0002】
リゾチームはグラム陽性菌の細胞壁を分解する酵素として知られていた(非特許文献1)が、加熱を行うことによってタンパクの立体構造が変化し、細胞壁の薄いグラム陰性菌に対しても殺菌効果を有することが明らかとなった(非特許文献2)。
一方、ノロウイルスは、ヒトに対する感染性が高く、食中毒又はウイルス性急性胃腸炎を引き起こすことが知られている。本発明者らは、リゾチームを加熱変性することによって、ノロウイルスを不活化できることを見出した(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/125961号
【特許文献2】国際公開第2016/017784号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Food Science., Vol. 79, 2014
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., 44, 1416-1423. 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の通り、リゾチームを加熱することによって、細菌及びウイルスをそれぞれ不活化できることが分かった。しかしながら、ウイルス及び細菌の不活化作用を併せ持つ、更に効果的にウイルス及び細菌を不活化できる薬剤の開発が期待されていた。
本発明の目的は、効果的にウイルス及び細菌を不活化できる薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、効果的にウイルス及び細菌を不活化できる薬剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、加熱時のpHを調整することによって、ウイルス及び細菌を効果的に不活化できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]pH2.0~4.5で熱処理された低pH熱処理リゾチーム及びpH5.5~8.5で熱処理された高pH熱処理リゾチームを含む、熱処理リゾチーム組成物、
[2]pH2.0~4.5である、[1]に記載の熱処理リゾチーム組成物、
[3]ウイルス不活化及び殺菌用である[1]又は[2]に記載の組成物、
[4](a)リゾチームをpH2.0~4.5で熱処理し、低pH熱処理リゾチームを得る工程、(b)別のリゾチームをpH5.5~8.5で熱処理し、高pH熱処理リゾチームを得る工程、(c)前記低pH熱処理リゾチーム及び高pH熱処理リゾチームを混合する工程、を含む、熱処理リゾチーム組成物の製造方法、
[5](d)工程(c)で得られた混合物をpH2.0~4.5に調整する工程、を更に含む、[4]に記載の熱処理リゾチーム組成物の製造方法、及び
[6][1]又は[2]に記載の熱処理リゾチーム組成物を、検体と接触させる工程を含む、ウイルス不活化及び/又は殺菌方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱処理リゾチーム組成物によれば、ウイルス及び細菌の両者を効果的に不活化することができる。特に食中毒の原因菌及び/又は原因ウイルスを効果的に不活化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】卵白リゾチームを異なるpHで処理して、V. parahaemolyticusに対する殺菌作用を測定したグラフである。
【
図2】卵白リゾチームを異なるpHで処理して、V. harveyiに対する殺菌作用を測定したグラフである。
【
図3】pH3.2で熱処理した卵白リゾチーム、及びpH7.0で熱処理した卵白リゾチームを混合した熱処理リゾチーム組成物(pH3.5、pH4.5又はpH7.0に調整)のV. parahaemolyticusに対する殺菌作用を示したグラフである。
【
図4】pH3.2で熱処理した卵白リゾチーム、及びpH7.0で熱処理した卵白リゾチームを混合した熱処理リゾチーム組成物(pH3.5、pH4.5又はpH7.0に調整)のMNV-1に対する抗ウイルス作用を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]熱処理リゾチーム組成物
本発明の熱処理リゾチーム組成物は、pH2.0~4.5で熱処理された低pH熱処理リゾチーム及びpH5.5~8.5で熱処理された高pH熱処理リゾチームを含む。
【0010】
《低pH熱処理リゾチーム》
本発明に用いる低pH熱処理リゾチームは、pH2.0~4.5で熱処理されたものである。
pHの下限は、pH2.0以上であり、好ましくはpH2.25以上であり、より好ましくはpH2.5以上であり、更に好ましくはpH2.75以上であり、更に好ましくはpH3.0以上である。pHの上限は、4.5以下であり、好ましくはpH4.25以下であり、より好ましくはpH4.0以下であり、更に好ましくはpH3.75以下であり、更に好ましくはpH3.5以下である。前記上限と下限とは、任意に組み合わせてpHの範囲とすることができる。
【0011】
処理されるリゾチームの種類は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、C型リゾチーム(ニワトリ型リゾチーム)、G型リゾチーム(グース型リゾチーム)、又は無脊椎動物リゾチームが挙げられる。C型リゾチームとしては、ニワトリ、キジ、アヒルなどの小型の鳥類、哺乳類、魚類、又は昆虫類のリゾチームが挙げられる。G型リゾチームとしては、ガン、ハクチョウ、又は走鳥類などの大型の鳥類のリゾチームが挙げられる。無脊椎動物リゾチームとしては、貝類などのリゾチームが挙げられる。具体的なC型リゾチームとしては、例えば卵白リゾチーム(配列番号1)、又はヒトリゾチーム(配列番号2)が挙げられる。
具体的には、前記低pH熱処理リゾチームは、限定されるものではないが、後述の熱処理リゾチーム組成物の製造方法における工程aによって調製することができる。
【0012】
《細菌の不活化(殺菌効果)》
本発明に用いる低pH熱処理リゾチームは、限定されるものではないが、細菌を不活化することができる。リゾチームは、グラム陽性菌に対して殺菌効果を有する。加熱処理した加熱処理リゾチームはグラム陽性菌に対して、殺菌効果を示す。
前記低pH熱処理リゾチームは、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対して殺菌効果を有する。グラム陽性菌としては、例えばラクトコッカス・ガルビエ(Lactococus garvieae)、リステリア菌、ブドウ球菌、又はバチルス菌が挙げられる。グラム陰性菌としては、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、広範な腸内細菌科の菌群、シュードモナスなどが挙げられる。
【0013】
本明細書において「細菌の不活化活性(殺菌活性)」とは、細菌を抑制できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば後述の実施例で示すように、リゾチーム組成物と、ビブリオ・パラヘモリティカスとを接触させた後に、ビブリオ・パラヘモリティカスのコロニー形成数を減少させる活性が挙げられる。例えば、増殖性を失っており、増殖性が回復しないものが含まれる。具体的には、5時間、10時間、又は15時間前培養したビブリオ・パラヘモリティカス(100μL)と、1.1重量%の低pH熱処理リゾチーム(900μL)を、30℃、1時間接触させ、生菌数を測定することによって、「細菌の不活化活性(殺菌活性)」を測定することができる。例えば、5時間の前培養の場合、6.4log CFU/mLのコロニー数を、1/10以下、1/100以下、1/1000以下、1/10000以下、又は検出限界以下にすることによって、細菌を不活化(殺菌)することが確認できる。同様に、10時間、又は15時間前培養においても、コロニー数を、1/10以下、1/100以下、1/1000以下、1/10000以下、又は検出限界以下にすることによって、細菌を不活化(殺菌)することが確認できる。
【0014】
《高pH熱処理リゾチーム》
本発明に用いる高pH熱処理リゾチームは、pH5.5~8.5で熱処理されたものである。
pHの下限は、pH5.5以上であり、好ましくはpH5.75以上であり、より好ましくはpH6.0以上であり、更に好ましくはpH6.25以上であり、更に好ましくはpH6.5以上であり、更に好ましくはpH6.75以上である。pHの上限は、8.5以下であり、好ましくはpH8.25以下であり、より好ましくはpH8.0以下であり、更に好ましくはpH7.75以下であり、更に好ましくはpH7.5以下であり、更に好ましくはpH7.25以下である。前記上限と下限とは、任意に組み合わせてpHの範囲とすることができる。
処理されるリゾチームの種類は、前記高pH熱処理リゾチームに用いるものを制限なく用いることができる。
具体的には、前記高pH熱処理リゾチームは、限定されるものではないが、後述の熱処理リゾチーム組成物の製造方法における工程bによって調製することができる。
【0015】
《ウイルスの不活化》
本発明に用いる高pH熱処理リゾチームは、限定されるものではないが、ウイルスを不活化することができる。対象ウイルスは、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、特にはエンベロープを有さないRNAウイルスが挙げられる。エンベロープを有さないRNAウイルスとしては、カリシウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、へパトウイルス、パレコウイルス、コブウイルス、カルディオウイルス、アフソウイルス、エルボウイルス、テスコウイルスが挙げられる。カリシウイルス科のウイルスとしては、ベシウイルス、ラゴウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、又はネボウイルスが挙げられる。
例えば、ノロウイルスには、G1、GII、GIII、GIV、及びGVの5つの遺伝子型が知られており、G1、GII、及びGIVの3つの遺伝子型のノロウイルスが、ヒトに感染する。GIIIは、ウシ又はヒツジに感染し、GVはマウスに感染する。またGIIはヒト以外にブタに感染する。本発明の熱処理リゾチーム組成物は、これらのウイルスを不活化することができる。
【0016】
本明細書において「ウイルス不活化活性」とは、ウイルスを抑制できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば後述の実施例で示すように、高pH熱処理リゾチームと、ノロウイルス(例えば、MNV-1)とを接触させた後に、ノロウイルスのプラク形成数を減少させる活性が挙げられる。具体的には、一定量のウイルスを含むウイルス液と、高pH熱処理リゾチーム液(高pH熱処理リゾチームと低pH熱処理リゾチームとの混合液)とを等量混合して、1時間接触させ、ウイルスのプラク数を測定することによって、「ウイルス不活化活性」を測定することができる。例えば、5時間の前培養の場合、約5.0log PFU/mLのプラク形成数を、1/10以下、1/100以下、1/1000以下、又は検出限界以下にすることによって、ウイルスを不活化することが確認できる。
【0017】
《組成物のpH》
また、本発明の熱処理リゾチーム組成物のpHは、限定されるものではなく、例えばpH2.0~8.5で用いることができるが、好ましくはpH2.0~7.5であり、より好ましくは、pH2.0~6.5であり、更に好ましくはpH2.0~5.5であり、最も好ましくはpH2.0~4.5である。本発明の熱処理リゾチーム組成物は、前記pHにおいてウイルス及び細菌を効果的に不活化することができるが、特に低いpHにおいて細菌を効果的に不活化することができる。
【0018】
本発明の熱処理リゾチーム組成物は、生体外又は生体内で使用することができる。例えば、生体外で使用する場合は、魚類のウイルス及び/又は細菌を不活化することができる。また、水産物を含む食品のウイルス及び/又は細菌を不活化に用いることもできる。生体内で使用する場合は、食中毒に罹患した患者への医薬組成物として使用することができる。
【0019】
[2]熱処理リゾチーム組成物の製造方法
熱処理リゾチーム組成物の製造方法は、(a)リゾチームをpH2.0~4.5で熱処理し、低pH熱処理リゾチームを得る工程、(b)別のリゾチームをpH5.5~8.5で熱処理し、高pH熱処理リゾチームを得る工程、(c)前記低pH熱処理リゾチーム及び高pH熱処理リゾチームを混合する工程、を含む。熱処理リゾチーム組成物の製造方法は、好ましくは(d)工程(c)で得られた混合物をpH2.0~4.5に調整する工程、を更に含む。
【0020】
《工程a》
前記工程aにおいては、リゾチームをpH2.0~4.5で熱処理し、低pH熱処理リゾチームを得る。工程aで使用するリゾチームの種類は、特に限定されるものではないが、前記「熱処理リゾチーム組成物」の項に記載のリゾチームを用いることができる。
【0021】
前記リゾチームを水又は緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)に、0.1~5重量%程度の濃度で溶解する。リゾチーム溶液のpHの調整は、通常の方法を用いることができるが、例えば、pHを下げる場合は、例えば塩酸などを用いることができる。pHを上げる場合は、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0022】
リゾチーム溶液の加熱方法も、本分野で通常用いられる方法を限定することなく使用することができる。例えば、ウォーターバス、オイルバス、又はヒートブロックが挙げられる。
熱処理の温度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば上限は、150℃以下であり、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは130℃以下であり、更に好ましくは125℃以下である。下限は、60℃以上であり、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは90℃以上であり、更に好ましくは95℃以上である。前記、上限と下限とは、組み合わせて好適な範囲とすることができる。
【0023】
加熱時間も、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば10分~10時間であり、ある態様では20分~2時間であり、ある態様では30分~1時間である。
【0024】
《工程b》
前記工程bにおいては、別のリゾチームをpH5.5~8.5で熱処理し、高pH熱処理リゾチームを得る。前記「別のリゾチーム」は、工程aで熱処理されたリゾチームではないリゾチームを意味する。
【0025】
工程aで使用するリゾチームの種類は、特に限定されるものではないが、前記「熱処理リゾチーム組成物」の項に記載のリゾチームを用いることができる。
【0026】
工程bにおける、リゾチームの溶解液、pHの調整方法、加熱方法、加熱温度、及び加熱時間は、pH5.5~8.5とすることを除いては、前記工程aに記載の方法等を用いることができる。
【0027】
《工程c》
前記工程cにおいては、前記低pH熱処理リゾチーム及び高pH熱処理リゾチームを混合する。混合方法は、特に限定されない。また、低pH熱処理リゾチーム及び高pH熱処理リゾチームの混合比も、本発明の効果が得られる限りにおいて限定されるものではないが、低pH熱処理リゾチームと高pH熱処理リゾチームとは、例えば100:1~1~100の混合比(重量比)で混合することができる。混合比は、ある態様では50:1~1:50であり、ある態様では20:1~1:20であり、ある態様では10:1~1:10であり、ある態様では5:1~1:5であり、ある態様では3:1~1:3であり、ある態様では2:1~1:2であり、ある態様では1:1である。
【0028】
《工程d》
前記工程(d)においては、工程(c)で得られた混合物をpH2.0~4.5に調整する。
混合物のpHの調整は、通常の方法を用いることができるが、例えば、pHを下げる場合は、例えば塩酸などを用いることができる。pHを上げる場合は、例えば水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0029】
[3]ウイルス不活化及び/又は殺菌方法
本発明のウイルス不活化及び/又は殺菌方法は、前記熱処理リゾチーム組成物を、検体と接触させる工程を含む。
【0030】
《検体》
本発明のウイルス不活化及び/又は殺菌方法が対象とする検体は、ウイルス及び/又は細菌を含み、それらを不活化したい検体であれば、特に限定されるものではないが、例えば水産物(例えば、魚類、又は貝類)、養殖における魚類又は貝類、畜養時の魚類又は貝類、水産物加工品、肉類及びその加工品、卵及びその加工品、乳類及びその加工品、穀類及びその加工品、野菜類及びその加工品、菓子類などが挙げられる。
また、食中毒患者の吐しゃ物等に含まれるウイルス及び/又は細菌を不活化することもできる。この場合、食中毒患者の吐しゃ物等が検体となる。
【0031】
《作用》
本発明の熱処理リゾチーム組成物が、ウイルス及び細菌を効率的に不活化できるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。しかしながら以下の推定によって、本発明は限定されるものではない。
リゾチームを低いpH下で熱処理することにより、細菌に対する不活化作用に優れた低pH熱還元リゾチームを得ることができると考えられる。また、リゾチームを高いpHで熱処理することによって、ウイルスに対する不活化作用に優れた高pH熱還元リゾチームを得ることができると考えられる。このような熱還元リゾチームを混合して用いることにより、細菌及びウイルスの両方に有効な熱処理リゾチーム組成物を作製することができると考えられる。更に、前記低pH熱還元リゾチームは、低いpH条件において、効率的に細菌を不活化することができる。一方、前記高pH熱還元リゾチームは、低いpHにおいても、高いpHにおいても効率的にウイルスを不活化することができる。従って、細菌及びウイルスを同時に効率的に不活化するためには、本発明の熱処理リゾチーム組成物を低いpHに調製することによって、より高い効果が得られると推定される。
【実施例0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
《実施例1》
本実施例では、卵白リゾチームを異なるpHで処理して、細菌(V. parahaemolyticus、又はV. harveyi)に対する殺菌作用を測定した。
卵白リゾチーム(富士フィルム和光純薬株式会社)を蒸留水で溶解し、30mL(1.1w/v%)の溶液を調製した。4mLずつ15mLの遠沈管(Labcon)に分注し、1mol/L水酸化ナトリウム溶液を用いてpH3.2(未調整)、4.0、5.0、6.0、7.0、又は8.0に調整した。100℃に設定したオイルバスで40分間加熱した後、氷上で急冷し、熱処理リゾチーム溶液を得た。
【0034】
Phosphate buffered saline(PBS)、前記6種類の熱処理リゾチーム溶液900μLに、5時間、10時間、15時間前培養したV. parahaemolyticus、又はV. harveyiを100μLずつそれぞれ曝露し、30℃で1時間培養した。各細菌の生菌数は、段階希釈液を1.5%NaClを添加したTSA培地、又はTSA培地に100μL表面塗抹し、30℃で22時間培養後、コロニー数を測定した。
【0035】
表1及び
図1に示すように、5時間培養のV. parahaemolyticusを曝露した場合、生菌数は検出限界である2.0log CFU/mL以下となった。10時間培養のV. parahaemolyticusを曝露した場合、pH未調整(pH3.2)の熱処理リゾチーム溶液では生菌数が4.7log CFU/mL以上減少し検出限界以下となった。pH4.0では4.4log CFU/mL減少したが(p<0.05)、pHの上昇に伴い生菌数は多くなった。pH8.0では2.6log CFU/mLの減少に留まった(p<0.05)。15時間培養したV. parahaemolyticusを曝露した場合、10時間培養の場合と同様、pH未調整の熱処理リゾチーム溶液では生菌数が4.6log CFU/mL以上減少し検出限界以下となった。
【0036】
【0037】
表2及び
図2に示すように、5時間又は10時間培養のV. harveyiを曝露した場合、PBSを除いてすべての試験区で3.3log CFU/mL以上減少し、検出限界以下となった(p<0.05)。15時間培養のV. harveyiを曝露した場合、pH未調整の熱処理リゾチーム溶液で検出限界以下となった。pH4.0~8.0に調整した熱処理リゾチーム溶液では、V. harveyiの生菌数が3.1~3.8log CFU/mL減少した(p<0.05)。
【0038】
【0039】
《実施例2》
本実施例では、卵白リゾチームをpH3.2、又はpH7.0で熱処理して、それらを混合して、熱処理リゾチーム組成物を得た。そして、得られた熱処理リゾチーム組成物のV. parahaemolyticusに対する殺菌作用、及びMNV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。
卵白リゾチーム(富士フィルム和光純薬株式会社)を蒸留水で溶解し、16mLのリゾチーム溶液(2.2w/v%)を調製した。15mLの遠沈管(Labcon)に8mLずつ分注し、一方はpH未調整(pH3.2)、もう一方は1mol/L水酸化ナトリウム溶液を用いてpH7.0に調整した。100℃に設定したオイルバスで40分間加熱した後、氷上で急冷した。pH未調整のリゾチーム溶液とpH7.0のリゾチーム溶液とを等量混合し、1.1%混合リゾチーム溶液(pH4.5)を作製した。その後、再度pHを調整し、pH3.5、pH4.5、又はpH7.0の3種の1.1%混合リゾチーム溶液を得た。
PBS、3種の1.1%混合リゾチーム溶液1080μLに10時間前培養したV. parahaemolyticus及びMNV-1を等量混合した溶液120μLを1時間曝露した。その後、V. parahaemolyticus 測定用に生理食塩水900μLに曝露後の溶液100μLを接種し、段階希釈を行った。1.5%NaClを添加したTSA培地に100μL表面塗抹し、30℃で22時間培養後、曝露後の生菌数を測定した。MNV-1測定用には、曝露後の溶液800μLを孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過し、ろ液120μLをD-MEMに接種し、段階希釈を行い、以下に述べるプラークアッセイにより感染価を測定した。
【0040】
プラークアッセイはGonzalez-Hernandezら(Gonzalez-Hernandez et al., 2012)の方法を参考にして行った。RAW 264.7細胞を6ウェルプレート(Falcon)におよそ6log cells/mLとなるよう分注し、37℃、5%CO2条件下で18時間インキュベートした。培養後プレートの培養液を全て抜き、段階希釈したサンプルを2ウェルずつ500μL接種し、室温で1時間振盪させた。その後、接種したサンプルをプレートから全て抜き、SeaPlaque Agarose(ロンザジャパン株式会社)を1.5%添加したD-MEMを2mLずつ重層した。これを37℃、5%CO2で48時間インキュベートした。その後、プレートに0.03% Neutral red solution(シグマ・アルドリッチジャパン株式会社)を2mLずつ重層し、37℃、5%CO2条件下で1時間インキュベートした。その後、染色液を抜き、プラークを測定、感染価を算出した。
【0041】
図3に示すように、V. parahaemolyticusの生菌数は、加熱後pH未調整のリゾチーム(pH4.5)で1.8log CFU/mL、加熱後pH7.0に再調整したリゾチームで1.2log CFU/mL減少し、加熱後pH3.5に再調整したリゾチームで3.3log CFU/mL減少し検出限界以下になった。
また、
図4に示すように、MNV-1の感染価は、PBSを除くすべての試験区で検出限界である2.0log PFU/mL以下となった。
本発明の熱処理リゾチーム組成物は、ウイルス及び細菌を効果的に不活化することができる。特に食中毒の原因菌及び/又は原因ウイルスを効果的に不活化することができる。