(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055415
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】渦電流センサの出力信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
G01B7/00 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162333
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】湊崎 勝也
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA02
2F063BA26
2F063BB06
2F063BC06
2F063CB01
2F063GA03
2F063LA23
(57)【要約】
【課題】周囲環境の変化等に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの出力信号処理装置を提供する。
【解決手段】交流信号生成装置82は、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号80を生成する。保持装置66は、基準状態において検出コイル73が出力する出力信号176に相当する第1の交流生成信号80を特定する基準データ154を保持する。導電体の膜厚を測定するときに、交流信号生成装置82は、基準データ154に基づいて第1の交流生成信号80を生成して基準信号として出力する。導電体の膜厚を測定するときに、差分装置268は、出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する基準信号が入力されて、膜厚信号の振幅と基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求めて出力する。データ生成装置88は、基準状態において出力信号176の振幅を測定して、基準データ154を生成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、
前記出力信号処理装置は、
異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号を生成可能な交流信号生成装置と、
前記複数の第1の交流生成信号のうち、第1の基準状態において前記検出コイルが出力する第1の基準状態信号である前記出力信号に相当する前記第1の交流生成信号を特定する基準データを保持する保持装置とを有し、
前記導電体の膜厚を測定するときに、前記交流信号生成装置は、前記基準データに基づいて前記第1の交流生成信号を生成して基準信号として出力し、
前記出力信号処理装置は、さらに、
前記導電体の膜厚を測定するときに、前記検出コイルが出力する膜厚信号である前記出力信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求めて出力する差分装置と、
前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅を測定して、前記基準データを生成するデータ生成装置とを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項2】
前記データ生成装置は、前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅の大きさを測定して、前記振幅の大きさに関する振幅データを保持し、
前記データ生成装置は、前記第1の交流生成信号を指定するための振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力し、
前記交流信号生成装置は、前記振幅指定データに基づいて前記第1の交流生成信号を生成して出力し、
前記データ生成装置は、前記交流信号生成装置が出力する前記第1の交流生成信号の振幅の大きさを測定して、前記振幅データと比較し、比較結果に基づいて前記基準データを生成することを特徴とする請求項1記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項3】
前記データ生成装置は、前記振幅データと比較したときに、前記振幅データとの第1の振幅差が第1の振幅差所定値より大きいとき、または前記第1の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記振幅指定データを変更して、変更した前記振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、
前記データ生成装置は、前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記振幅指定データを前記基準データとすることを特徴とする請求項2記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項4】
前記データ生成装置は、前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の位相を測定して、前記位相に関する位相データを保持し、
前記交流信号生成装置は、異なる位相を有する複数の第2の交流生成信号を生成可能であり、
前記データ生成装置は、前記第2の交流生成信号を指定するための位相指定データを前記交流信号生成装置に出力し、
前記交流信号生成装置は、前記位相指定データに基づいて前記第2の交流生成信号を生成して出力し、
前記データ生成装置は、前記交流信号生成装置が出力する前記第2の交流生成信号の位相を測定して、前記位相データと比較し、比較結果に基づいて前記基準データを生成することを特徴とする請求項2または3記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項5】
前記データ生成装置は、前記位相データと比較したときに、前記位相データとの位相差が位相差所定値より大きいとき、または前記位相差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小になるように、前記位相指定データを変更して、変更した前記位相指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小になるまで行い、
前記データ生成装置は、前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小であるときの前記位相指定データを前記基準データに含むことを特徴とする請求項4記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項6】
(1)前記データ生成装置は前記第1の基準状態において、前記第1の基準状態信号の振幅の大きさと、前記第1の交流生成信号の振幅の大きさとを比較し、
比較した前記振幅の差を1倍より大きく拡大した第2の振幅差が第2の振幅差所定値より大きいとき、または前記第2の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記振幅指定データを変更して、変更した前記振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、
前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記振幅指定データを前記基準データとする、および/または
(2)前記データ生成装置は前記第1の基準状態において、前記第1の基準状態信号の振幅と、前記第2の交流生成信号の振幅とを比較し、
比較した前記振幅の差を1倍より大きく拡大した前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値より大きいとき、または前記第2の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記位相指定データを変更して、変更した前記位相指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、
前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記位相指定データを前記基準データとする、
ことを特徴とする請求項4または5記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項7】
前記第1の基準状態の後の第2の基準状態において、前記交流信号生成装置は、前記基準データに基づいて前記第1の基準状態信号に相当する前記第1の交流生成信号を生成して前記基準信号として出力し、
前記検出コイルは前記第2の基準状態において、前記出力信号である第2の基準状態信号を出力し、
前記第2の基準状態において、前記差分装置は、前記第2の基準状態信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記第2の基準状態信号の振幅と前記基準信号の振幅との基準差を求め、
前記基準差が基準差所定値を超えている場合、(1)前記出力信号処理装置はアラーム信号を出力する、および/または(2)前記データ生成装置は、前記第2の基準状態において前記検出コイルが出力する前記第2の基準状態信号の振幅の大きさを測定して、前記測定された前記第2の基準状態信号の振幅に基づいて前記基準データを更新して保持することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項8】
前記出力信号処理装置は、前記膜厚振幅を増幅する増幅器を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項9】
前記増幅器は、前記導電体の膜厚に応じて、前記膜厚振幅を増幅する増幅率が変わることを特徴とする請求項8記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項10】
前記導電体の膜厚を測定するときに、前記導電体の膜厚が膜厚所定値より大きい場合、前記交流信号生成装置は、直流信号を生成して前記基準信号として出力し、
前記差分装置は、前記検出コイルが出力する前記膜厚信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記直流信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記直流信号の振幅との差を求めて、前記膜厚振幅とすることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置を有する、前記導電体を研磨する研磨装置であって、前記研磨装置は、
前記導電体の研磨が可能な研磨部と、
前記導電体の膜厚を測定するために、前記導電体に前記渦電流を形成するとともに、形成された前記渦電流を検出可能な前記渦電流センサと、
前記差分装置が出力する前記膜厚振幅から前記膜厚を求める膜厚算出部とを有することを特徴とする研磨装置。
【請求項12】
導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理方法において、
交流信号生成装置が、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号を生成し、
保持装置が、前記複数の第1の交流生成信号のうち、基準状態において前記検出コイルが出力する第1の基準状態信号である前記出力信号に相当する前記第1の交流生成信号を特定する基準データを保持し、
前記交流信号生成装置は、前記導電体の膜厚を測定するときに、前記基準データに基づいて前記第1の基準状態信号に相当する前記第1の交流生成信号を生成して基準信号として出力し、
前記導電体の膜厚を測定するときに、差分装置が、前記検出コイルが出力する膜厚信号である前記出力信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求め、
データ生成装置が前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅を測定して、前記基準データを生成することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサの出力信号処理装置および渦電流センサの出力信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
渦電流センサは膜厚測定、変位測定等に使用される。以下では、膜厚測定を例にして渦電流センサを説明する。膜厚測定用渦電流センサは、例えば半導体デバイスの製造工程(研磨工程)で用いられる。研磨工程において渦電流センサは、以下のように用いられる。半導体デバイスの高集積化が進むにつれて回路の配線が微細化し、配線間距離もより狭くなりつつある。そこで、被研磨物である半導体ウェハの表面を平坦化することが必要となるが、この平坦化法の一手段として研磨装置により研磨(ポリッシング)することが行われている。
【0003】
研磨装置は、被研磨物を研磨するための研磨パッドを保持するための研磨テーブルと、被研磨物を保持して研磨パッドに押圧するためのトップリングを備える。研磨テーブルとトップリングはそれぞれ、駆動部(例えばモータ)によって回転駆動される。研磨剤を含む液体(スラリー)を研磨パッド上に流し、そこにトップリングに保持された被研磨物を押し当てることにより、被研磨物は研磨される。
【0004】
研磨装置では、被研磨物の研磨が不十分であると、回路間の絶縁がとれず、ショートするおそれが生じ、また、過研磨となった場合は、配線の断面積が減ることによる抵抗値の上昇、又は配線自体が完全に除去され、回路自体が形成されないなどの問題が生じる。このため、研磨装置では、最適な研磨終点を検出することが求められる。
【0005】
このような技術としては、特開2005-121616号に記載のものがある。この技術においては、2個のコイル、すなわち検出コイルとバランスコイルを用いた渦電流センサが研磨終点を検出するために用いられている。特開2005-121616号の
図10に示すように、検出コイルとバランスコイルは直列回路を構成し、その両端は可変抵抗を含むブリッジ回路に接続されている。ブリッジ回路でバランスの調整を行うことで、膜厚がゼロのときに、ブリッジ回路の出力がゼロになるようにゼロ点の調整が可能である。ブリッジ回路の出力は、特開2005-121616号の
図11に示すように、同期検波回路に入力される。同期検波回路は、入力された信号から、膜厚の変化に伴う抵抗成分(R)、リアクタンス成分(X)、振幅出力(Z)および位相出力(tan
-1R/X)を取り出す。
【0006】
従来のブリッジ回路を使用した検出方法に関しては、ゼロ点調整時の抵抗値調整量はブリッジ回路を構成する抵抗値全体の大きさに比べて非常に小さい。その結果、抵抗値全体の温度変化量は、ゼロ点調整時の抵抗値調整量と比べると、無視できない量である。温度変化による抵抗値の変化や、抵抗が有する浮遊容量の変化、経時変化等のために、抵抗の周囲環境の変化に対してブリッジ回路の特性が敏感に影響を受ける。この結果、上述のゼロ点がシフトしやすく、膜厚の測定精度が低下するという問題があった。
【0007】
すなわち、従来は可変抵抗でブリッジ回路のバランスを調整して導電性膜が存在しない時にブリッジ回路の出力がゼロとなるようにブリッジ回路の出力を調整していた。しかし、次のような要因でブリッジ回路のパラメータが経時変化してバランスがくずれてしまい、ブリッジ回路の出力がゼロにならないという課題がある。(i)検出コイルとバランスコイルは、周囲温度の影響で値が変動する。(ii)可変抵抗においても、機械的な可変
機構をもつ場合、抵抗値がシフトする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一形態は、このような問題点を解消すべくなされたもので、その目的は、周囲環境の変化等に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの出力信号処理装置および渦電流センサの出力信号処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第1の形態では、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理装置において、前記出力信号処理装置は、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号を生成可能な交流信号生成装置と、前記複数の第1の交流生成信号のうち、第1の基準状態において前記検出コイルが出力する第1の基準状態信号である前記出力信号に相当する前記第1の交流生成信号を特定する基準データを保持する保持装置とを有し、前記導電体の膜厚を測定するときに、前記交流信号生成装置は、前記基準データに基づいて前記第1の交流生成信号を生成して基準信号として出力し、前記出力信号処理装置は、さらに、前記導電体の膜厚を測定するときに、前記検出コイルが出力する膜厚信号である前記出力信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求めて出力する差分装置と、前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅を測定して、前記基準データを生成するデータ生成装置とを有することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0011】
本実施形態では、バランスコイルを使用していない。これによりブリッジ回路のバランスが崩れてしまう要因を減らすことができる、もしくはそのような要因を排除することができるので、課題を解決できる。すなわち周囲環境の変化等に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの出力信号処理装置を提供できる。
【0012】
第2の形態では、前記データ生成装置は、前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅の大きさを測定して、前記振幅の大きさに関する振幅データを保持し、前記データ生成装置は、前記第1の交流生成信号を指定するための振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力し、前記交流信号生成装置は、前記振幅指定データに基づいて前記第1の交流生成信号を生成して出力し、前記データ生成装置は、前記交流信号生成装置が出力する前記第1の交流生成信号の振幅の大きさを測定して、前記振幅データと比較し、比較結果に基づいて前記基準データを生成することを特徴とする請求項1記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0013】
第3の形態では、前記データ生成装置は、前記振幅データと比較したときに、前記振幅データとの第1の振幅差が第1の振幅差所定値より大きいとき、または前記第1の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記振幅指定データを変更して、変更した前記振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、前記データ生成装置は、前記第1の振幅差が前記第1の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記振幅指定データを前記基準データとすることを特徴とする第2の形態記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0014】
第4の形態では、前記データ生成装置は、前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の位相を測定して、前記位相に関する位相データを保持し、前記交流信号生成装置は、異なる位相を有する複数の第2の交流生成信号を生成可能であり、前記データ生成装置は、前記第2の交流生成信号を指定するための位相指定データを前記交流信号生成装置に出力し、前記交流信号生成装置は、前記位相指定データに基づいて前記第2の交流生成信号を生成して出力し、前記データ生成装置は、前記交流信号生成装置が出力する前記第2の交流生成信号の位相を測定して、前記位相データと比較し、比較結果に基づいて前記基準データを生成することを特徴とする第2または第3の形態記載の渦電流センサの出力信号処理装置。という構成を採っている。
【0015】
第5の形態では、前記データ生成装置は、前記位相データと比較したときに、前記位相データとの位相差が位相差所定値より大きいとき、または前記位相差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小になるように、前記位相指定データを変更して、変更した前記位相指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小になるまで行い、前記データ生成装置は、前記位相差が前記位相差所定値以下又は最小であるときの前記位相指定データを前記基準データに含むことを特徴とする第4の形態記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0016】
第6の形態では、(1)前記データ生成装置は前記第1の基準状態において、前記第1の基準状態信号の振幅の大きさと、前記第1の交流生成信号の振幅の大きさとを比較し、比較した前記振幅の差を1倍より大きく拡大した第2の振幅差が第2の振幅差所定値より大きいとき、または前記第2の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記振幅指定データを変更して、変更した前記振幅指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記振幅指定データを前記基準データとする、および/または(2)前記データ生成装置は前記第1の基準状態において、前記第1の基準状態信号の振幅と、前記第2の交流生成信号の振幅とを比較し、比較した前記振幅の差を1倍より大きく拡大した前記第2の振幅差が第2の振幅差所定値より大きいとき、または前記第2の振幅差が最小でないとき、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、前記位相指定データを変更して、変更した前記位相指定データを前記交流信号生成装置に出力することを前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行い、前記データ生成装置は、前記第2の振幅差が前記第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの前記位相指定データを前記基準データとする、ことを特徴とする第4又は第5の形態記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0017】
第7の形態では、前記第1の基準状態の後の第2の基準状態において、前記交流信号生成装置は、前記基準データに基づいて前記第1の基準状態信号に相当する前記第1の交流生成信号を生成して前記基準信号として出力し、前記検出コイルは前記第2の基準状態において、前記出力信号である第2の基準状態信号を出力し、前記第2の基準状態において、前記差分装置は、前記第2の基準状態信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記第2の基準状態信号の振幅と前記基準信号の振幅との基準差を求め、前記基準差が基準差所定値を超えている場合、(1)前記出力信号処理装置はアラーム信号を出力する、および/または(2)前記データ生成装置は、前記第2の基準状態において前記検出コイルが出力する前記第2の基準状態信号の振幅の大きさを測定して、前記測定された前記第2の基準状態信号の振幅に基づいて前記基準データを更新して保持することを特徴とする第1の形態ないし第6の形態のいずれか1項に記載の渦電流センサ
の出力信号処理装置という構成を採っている。
【0018】
第8の形態では、前記出力信号処理装置は、前記膜厚振幅を増幅する増幅器を有することを特徴とする第1の形態ないし第7の形態のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0019】
第9の形態では、前記増幅器は、前記導電体の膜厚に応じて、前記膜厚振幅を増幅する増幅率が変わることを特徴とする第8の形態記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0020】
第10の形態では、前記導電体の膜厚を測定するときに、前記導電体の膜厚が膜厚所定値より大きい場合、前記交流信号生成装置は、直流信号を生成して前記基準信号として出力し、前記差分装置は、前記検出コイルが出力する前記膜厚信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記直流信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記直流信号の振幅との差を求めて、前記膜厚振幅とすることを特徴とする第1の形態ないし第9の形態のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置という構成を採っている。
【0021】
第11の形態では、第1の形態ないし第10の形態のいずれか1項に記載の渦電流センサの出力信号処理装置を有する、前記導電体を研磨する研磨装置であって、前記研磨装置は、前記導電体の研磨が可能な研磨部と、前記導電体の膜厚を測定するために、前記導電体に前記渦電流を形成するとともに、形成された前記渦電流を検出可能な前記渦電流センサと、前記差分装置が出力する前記膜厚振幅から前記膜厚を求める膜厚算出部とを有することを特徴とする研磨装置という構成を採っている。
【0022】
第12の形態では、導電体に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記導電体に形成可能な前記渦電流を検出する検出コイルとを有する渦電流センサが出力する前記検出コイルの出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理方法において、交流信号生成装置が、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号を生成し、保持装置が、前記複数の第1の交流生成信号のうち、基準状態において前記検出コイルが出力する第1の基準状態信号である前記出力信号に相当する前記第1の交流生成信号を特定する基準データを保持し、前記交流信号生成装置は、前記導電体の膜厚を測定するときに、前記基準データに基づいて前記第1の基準状態信号に相当する前記第1の交流生成信号を生成して基準信号として出力し、前記導電体の膜厚を測定するときに、差分装置が、前記検出コイルが出力する膜厚信号である前記出力信号と、前記交流信号生成装置が出力する前記基準信号が入力されて、前記膜厚信号の振幅と前記基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求め、データ生成装置が前記第1の基準状態において前記第1の基準状態信号の振幅を測定して、前記基準データを生成することを特徴とする渦電流センサの出力信号処理方法という構成を採っている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、研磨テーブルと渦電流センサと半導体ウェハとの関係を示す平面図である。
【
図3】
図3は、渦電流センサ組立体の構成を示す図であり、
図3(a)は渦電流センサ組立体の構成を示すブロック図であり、
図3(b)は渦電流センサ組立体の等価回路図である。
【
図4】
図4は、従来技術の渦電流センサにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、膜厚測定時の増幅回路等の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、基準信号生成時のスイッチと増幅回路等の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、基準信号を生成する時の各部の信号を示す図である。
【
図10】
図10は、基準信号生成時に微調整を行うときのスイッチと増幅回路等の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、微調整を行うときの各部の信号を示す図である。
【
図12】
図12は、基準信号生成時のメインフローチャートを示す。
【
図14】
図14は、微調整を行うときのフローチャートを示す。
【
図15】
図15は、キャリブレーションを再度行うときのスイッチと増幅回路等の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図16】
図16は、キャリブレーションを再度行うときの各部の信号を示す図である。
【
図17】
図17は、増幅率を半導体ウェハや導電体の種類や研磨状態に応じて変えるときのスイッチと増幅回路等の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図18】
図18は、増幅率を半導体ウェハや導電体の種類や研磨状態に応じて変えるときの各部の信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理装置が適用される研磨装置の全体構成を示す概略図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル100と、研磨対象物である半導体ウェハ等の基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧するトップリング(保持部)1とを備えている。
【0026】
研磨テーブル100は、テーブル軸170を介してその下方に配置される駆動部であるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸170周りに回転可能になっている。研磨テーブル100の上面には研磨パッド101が貼付されており、研磨パッド101の表面101aが半導体ウェハWHを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル102が設置されており、この研磨液供給ノズル102によって研磨テーブル100上の研磨パッド101上に研磨液Qが供給されるようになっている。
図1に示すように、研磨テーブル100の内部には、渦電流センサ50が埋設されている。
【0027】
トップリング1は、半導体ウェハWHを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体142と、半導体ウェハWHの外周縁を保持して半導体ウェハWHがトップリングから飛び出さないようにするリテーナリング143とから基本的に構成されている。
【0028】
トップリング1は、トップリングシャフト111に接続されており、このトップリングシャフト111は、上下動機構124によりトップリングヘッド110に対して上下動するようになっている。このトップリングシャフト111の上下動により、トップリングヘッド110に対してトップリング1の全体を昇降させ位置決めするようになっている。なお、トップリングシャフト111の上端にはロータリージョイント125が取り付けられ
ている。
【0029】
トップリングシャフト111およびトップリング1を上下動させる上下動機構124は、軸受126を介してトップリングシャフト111を回転可能に支持するブリッジ128と、ブリッジ128に取り付けられたボールねじ132と、支柱130により支持された支持台129と、支持台129上に設けられたサーボモータ138とを備えている。サーボモータ138を支持する支持台129は、支柱130を介してトップリングヘッド110に固定されている。
【0030】
ボールねじ132は、サーボモータ138に連結されたねじ軸132aと、このねじ軸132aが螺合するナット132bとを備えている。トップリングシャフト111は、ブリッジ128と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ138を駆動すると、ボールねじ132を介してブリッジ128が上下動し、これによりトップリングシャフト111およびトップリング1が上下動する。
【0031】
また、トップリングシャフト111はキー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。この回転筒112はその外周部にタイミングプーリ113を備えている。トップリングヘッド110にはトップリング用モータ114が固定されており、上記タイミングプーリ113は、タイミングベルト115を介してトップリング用モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。したがって、トップリング用モータ114を回転駆動することによってタイミングプーリ116、タイミングベルト115、およびタイミングプーリ113を介して回転筒112およびトップリングシャフト111が一体に回転し、トップリング1が回転する。なお、トップリングヘッド110は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたトップリングヘッドシャフト117によって支持されている。
【0032】
図1に示すように構成された研磨装置において、トップリング1は、その下面に半導体ウェハWHなどの基板を保持できるようになっている。トップリングヘッド110はトップリングヘッドシャフト117を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウェハWHを保持したトップリング1は、トップリングヘッド110の旋回により半導体ウェハWHの受取位置から研磨テーブル100の上方に移動される。そして、トップリング1を下降させて半導体ウェハWHを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このとき、トップリング1および研磨テーブル100をそれぞれ回転させ、研磨テーブル100の上方に設けられた研磨液供給ノズル102から研磨パッド101上に研磨液Qを供給する。このように、半導体ウェハWHを研磨パッド101の研磨面101aに摺接させて半導体ウェハWHの表面を研磨する。
【0033】
図2は、研磨テーブル100と渦電流センサ50と半導体ウェハWHとの関係を示す平面図である。
図2に示すように、渦電流センサ50は、トップリング1に保持された研磨中の半導体ウェハWHの中心Cwを通過する位置に設置されている。研磨テーブル100は回転中心170の周りを回転する。例えば、渦電流センサ50は、半導体ウェハWHの下方を通過している間、通過軌跡(走査線)上で連続的に半導体ウェハWHのCu層等の金属膜(導電性膜)を検出できるようになっている。
【0034】
次に、本発明に係る研磨装置が備える渦電流センサ50について、添付図面を用いて説明する。
図3は、渦電流センサ50を含む渦電流センサ組立体の構成を示す図であり、
図3(a)は渦電流センサ組立体の構成を示すブロック図であり、
図3(b)は渦電流センサ組立体の等価回路図である。
図3(a)に示すように、渦電流センサ50は、検出対象の金属膜(または導電性膜)mfの近傍に配置され、そのコイルに交流信号源260が接続されている。ここで、検出対象の導電体mfは、例えば半導体ウェハWH上に形成され
たCu、Al、Au、Wなどの薄膜である。渦電流センサ50は、検出対象の金属膜(または導電性膜)に対して、例えば1.0~4.0mm程度の近傍に配置される。コイルはフェライト等の磁性体(図示せず)に通常、巻かれている。渦電流センサ50は空芯コイルでもよい。
【0035】
渦電流センサの信号検出には、導電体mfに渦電流が生じることにより、インピーダンスが変化し、このインピーダンス変化から金属膜(または導電性膜)を検出するインピーダンスタイプと呼ばれるものがある。即ち、インピーダンスタイプでは、
図3(b)に示す等価回路において、渦電流I
2が変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(固定周波数発振器)260から見たインピーダンスZが変化すると、出力信号処理回路54でこのインピーダンスZの変化を検出し、金属膜(または導電性膜)の変化を検出することができる。
【0036】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、信号出力X、Y、位相、合成インピーダンスZ(=X+iY)、を取り出すことが可能である。インピーダンス成分X、Y等から、金属膜(または導電性膜)Cu、Al、Au、Wの膜厚に関する測定情報が得られる。渦電流センサ50は、
図1に示すように研磨テーブル100の内部の表面付近の位置に内蔵することができ、研磨対象の半導体ウェハに対して研磨パッドを介して対面するように位置し、半導体ウェハ上の金属膜(または導電性膜)に流れる渦電流から金属膜(または導電性膜)の変化を検出することができる。
【0037】
渦電流センサの周波数は、単一電波、AM変調電波、関数発生器の掃引出力等を用いることができ、金属膜の膜種に適合させて、感度の良い発振周波数や変調方式を選択することが好ましい。
【0038】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて具体的に説明する。交流信号源260は、例えば2~30MHz程度の固定周波数の発振器を有する。発振器は、例えば水晶発振器である。そして、交流信号源260により供給される交流電圧により、渦電流センサ50に電流I1が流れる。金属膜(または導電性膜)mfの近傍に配置された渦電流センサ50に電流が流れることで、この磁束が金属膜(または導電性膜)mfと鎖交することでその間に相互インダクタンスMが形成され、金属膜(または導電性膜)mf中に渦電流I2が流れる。ここでR1は渦電流センサを含む一次側の等価抵抗であり、L1は同様に渦電流センサを含む一次側の自己インダクタンスである。金属膜(または導電性膜)mf側では、R2は渦電流損に相当する等価抵抗であり、L2はその自己インダクタンスである。交流信号源260の端子a、bから渦電流センサ側を見たインピーダンスZは、金属膜(または導電性膜)mf中に形成される渦電流損の大きさによって変化する。
【0039】
次に、本実施形態の渦電流センサ50におけるコイルの構成例について説明する。
図4は、渦電流センサ50におけるコイルの構成例を示す概略図である。渦電流センサ50は、半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)に渦電流を形成するための励磁コイル72と、生成された渦電流を検出するための検出コイル73とを有する。渦電流センサ50は、フェライトコア71に巻回された2層のコイル、励磁コイル72、検出コイル73により構成されている。なお、フェライトコア71の構造としては、
図4に示す構造に限られず、任意の構造を採用することができる。本図では、円筒状のフェライトコアに、励磁コイル72と検出コイル73が軸方向に配置される。
【0040】
励磁コイル72は、交流信号源260に接続される。励磁コイル72は、交流信号源260より供給される電圧の形成する磁界により、渦電流センサ50の近傍に配置される半導体ウェハWH上の金属膜(または導電性膜)mfに渦電流を形成する。フェライトコアの上側(金属膜(または導電性膜)側)には、検出コイル73が配置され、金属膜(また
は導電性膜)に形成される渦電流により発生する磁界を検出する。なお本発明では、渦電流センサ50は、バランスコイルを有しない。
【0041】
図5は、本発明の一実施形態に係る渦電流センサの出力信号処理回路54(出力信号処理装置)を示すブロック図である。出力信号処理回路54は、導電体mfに渦電流を形成可能な励磁コイル72と、導電体に形成可能な渦電流を検出する検出コイル73とを有する渦電流センサ50が出力する検出コイル73の出力信号176を処理する。出力信号処理回路54は、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号80を生成可能な交流信号生成装置82と、複数の第1の交流生成信号80のうち、第1の基準状態において検出コイル73が出力する第1の基準状態信号である出力信号176に相当する第1の交流生成信号80を特定する基準データ84を保持する保持装置66とを有する。
【0042】
本実施形態では交流信号生成装置82は、例えばDDS方式のファンクションジェネレータを用いることができる。ファンクションジェネレータは、任意の周波数・波形を出力できる。本実施形態では交流信号生成装置82は正弦波信号を出力する。出力波形の生成に用いるDDS(ダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer))方式とは、固定周波数クロック基準に基づいて、周波数や位相を調整した信号を生成する手法である。DDS方式では、あらかじめ固定のクロックを持つ波長データがメモリに保存されている。メモリからユーザーが設定した周波数、振幅、位相に応じて、データを修正して取り出す。例えば位相に関しては、ファンクションジェネレータは位相の増分を決定しながら波形データを取り出す。交流信号生成装置82が生成した波形は、デジタルアナログ変換回路30で、アナログ波形に変換されて出力される。ユーザーが設定した周波数、振幅、位相を有する信号を生成することができるものであれば、DDS方式のファンクションジェネレータ以外の信号発生器を用いることができる。市販の信号発生器を用いる場合、保持装置66が保持する基準データ84を市販の信号発生器に適合するように交流信号生成装置82内で変換した後に、市販の信号発生器に入力すればよい。
【0043】
導電体の膜厚を測定するときに、出力信号処理回路54は、基準データ84に基づいて第1の交流生成信号80を生成して基準信号として出力する。出力信号処理回路54は、さらに、導電体の膜厚を測定するときに、検出コイル73が出力する膜厚信号である出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する基準信号が入力されて、膜厚信号の振幅と基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求めて、膜厚振幅を増幅後、出力する増幅回路268(差分装置)と、第1の基準状態において第1の基準状態信号の振幅を測定して、基準データ84を生成するデータ生成装置88とを有する。出力信号処理回路54は、
図5において検出コイル73の出力信号176を入力されるスイッチSW以降の回路である。
【0044】
出力信号176は増幅回路268の+端子に入力され、基準信号である信号108は増幅回路268の-端子に入力される。-端子に入力された信号108は、増幅回路268内で符号が反転されて、+端子に入力された出力信号176と加算される。すなわち増幅回路268は、+端子に入力された出力信号176と、-端子に入力された信号108の差を求める。
【0045】
出力信号処理回路54は保持装置66を有する。保持装置66は、検出コイル73が基準状態において出力する出力信号176に相当する第1の交流生成信号80を特定する基準データ84を保持し、膜厚を測定するときに基準データ84を出力する。基準データ84の生成方法については後述する。ここで「基準状態において出力する出力信号176に相当する」とは、出力信号176と第1の交流生成信号80が少なくとも実質的に同一の振幅を有することを言う。出力信号176と第1の交流生成信号80は通常、同一の周波数を有すると考えられるので、周波数が実質的に一致することは要求されない。但し、周
波数が異なり、そのため測定誤差が生じることが明らかな場合は、「基準状態において出力する出力信号176に相当する」とは、周波数が実質的に一致することを含む。出力信号176と第1の交流生成信号80の位相のずれ少ない場合は、位相が実質的に一致することは要求されない。但し、位相が異なり、そのため測定誤差が許容範囲内にない場合は、「基準状態において出力する出力信号176に相当する」とは、位相が実質的に一致することを含む。ここで「少なくとも実質的に同一の振幅を有する」、および「位相または周波数が実質的に一致する」とは、振幅、位相、周波数の差が、振幅、位相、周波数ごとに設定される誤差の所定値内にある場合を含む。
【0046】
出力信号処理回路54は交流信号生成装置82を有する。交流信号生成装置82は、検出コイル73が基準状態において出力する出力信号176に相当する第1および第2の交流生成信号80(基準信号)を、保持装置66が出力する基準データ84により特定されて生成して出力する。検出コイル73が基準状態において出力する出力信号176に相当する第1の交流生成信号80は、基準状態における検出コイル73の出力を相殺可能な基準信号であると言ってもよい。出力信号処理回路54は膜厚測定時に、検出コイル73の出力を処理して、膜厚に依存する信号を生成する機能も有する。
【0047】
なお、第1の交流生成信号80と第2の交流生成信号80の違いは以下の通りである。第1の交流生成信号80は、振幅調整時に交流信号生成装置82により生成される位相が同じで振幅が異なる交流生成信号80であり、第2の交流生成信号80は、位相調整時に交流信号生成装置82により生成される振幅が同じで位相が異なる交流生成信号80である。交流生成信号80という用語は、振幅や位相を調整する時以外(すなわち第1の交流生成信号80と第2の交流生成信号80を区別する必要が無いとき)に交流信号生成装置82が出力する信号を指す。
【0048】
ここで基準状態とは例えば、導電体が検出コイル73の近傍にない状態である。導電体が検出コイル73の近傍にない状態とは、例えば以下の状態である。(i)研磨テーブル100上にトップリング1があるが、半導体ウェハWHの下には、検出コイル73が存在しない、(ii)研磨テーブル100上に、半導体ウェハWHを保持するトップリング1が無い、(iii)研磨テーブル100上に、トップリング1があるが、トップリング1が半導体ウェハWHを保持していない、(iii)研磨テーブル100上に、トップリング1があるが、導電膜が形成されていない(すなわち、膜厚ゼロの)校正用のウェハをトップリング1が保持している状態である。
【0049】
さらに基準状態は、導電体が検出コイル73の近傍にある状態でもよい。例えば、研磨テーブル100上にトップリング1があり、校正用の所定の既知の厚みを有する導電膜が形成されているウェハをトップリング1が保持している状態である。
【0050】
基準データ84は例えば、基準状態における渦電流センサ50の出力信号176の振幅である。基準データ84は振幅そのものでなくてもよい。例えば、振幅に比例する量でもよい。振幅に比例する量であれば、交流信号生成装置82は基準データ84から振幅を求めることができ、出力信号176に相当する第1の交流生成信号を特定できるからである。さらには、振幅との関係がわかる量であれば、振幅に比例する量でなくても、交流信号生成装置82は基準データ84から振幅を求めることができ、出力信号176に相当する第1の交流生成信号を特定できるからである。例えば、振幅と基準データ84との関係がテーブル形式で交流信号生成装置82に与えられていてもよい。また基準データ84は、第1の交流生成信号を特定するためのものであるから、第1の交流生成信号と基準データ84との関係が交流信号生成装置82にテーブル形式等で与えられていてもよい。さらに、基準データ84は、第1の交流生成信号の位相、周波数、波形、タイミング等に関する情報を含んでいてもよい。
【0051】
図5により、膜厚測定時の出力信号処理回路54の構成と動作について説明する。
図5は、渦電流センサの出力信号処理回路54を示すブロック図である。本図は、交流信号源260側から渦電流センサ50側を見たインピーダンスZの計測回路例を示している。本図に示すインピーダンスZの計測回路(すなわち出力信号処理回路54)においては、膜厚の変化に伴う抵抗成分(X)、リアクタンス成分(Y)、振幅出力(Z)および位相出力(tan
-1Y/X)を取り出すことができる。
【0052】
上述したように、検出対象の金属膜(または導電体mf)が成膜された半導体ウェハWH近傍に配置された渦電流センサ50に、信号源260は交流信号を供給する。信号源260は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器である。信号源260は、例えば、2MHz、8MHz、16MHzの固定周波数の電圧を供給する。渦電流センサ50で検出された出力信号176は、増幅回路268とアナログデジタル変換回路282(ADC)を経て、cos同期検波回路(図示しない)およびsin同期検波回路(図示しない)からなる直交信号検出回路86により検出信号のcos成分40とsin成分42とが取り出される。ここで、信号源260の出力262から、直交信号検出回路86内において位相シフト回路(図示しない)により信号源260の同相成分(0゜)(図示しない)と直交成分(90゜)(図示しない)の2つの信号が形成され、それぞれcos同期検波回路とsin同期検波回路とに導入され、上述の同期検波が行われる。
【0053】
同期検波された信号は、cos同期検波出力である抵抗成分(X出力40)と、sin同期検波出力であるリアクタンス成分(Y出力42)である。また、ベクトル演算回路89により、抵抗成分(X出力40)とリアクタンス成分(Y出力42)とから振幅出力(Z出力)である(X2+Y2)1/2が得られる。また、θ処理回路90により、同様に抵抗成分出力とリアクタンス成分出力とから位相出力(θ出力)である(tan-1X/Y)が得られる。
【0054】
図5に示す本発明の一実施形態では、従来技術と比較すると、従来は可変抵抗でブリッジ回路のバランスを調整して導電性膜が存在しない時にブリッジ回路の出力がゼロとなるようにブリッジ回路の出力を調整していた。しかし、次のような要因でブリッジ回路のパラメータが経時変化してバランスがくずれてしまい、ブリッジ回路の出力がゼロにならないという課題がある。(i)検出コイルとバランスコイルは、周囲温度の影響で値が変動する。(ii)可変抵抗においても、機械的な可変機構をもつ場合、抵抗値がシフトする。本図の渦電流センサ50はバランスコイルとブリッジ回路を使用していない。これによりブリッジ回路のバランスが崩れてしまう要因を減らすことができる、もしくはそのような要因を排除することができるので、課題を解決できる。
【0055】
アナログデジタル変換回路282以後の処理回路はデジタル信号処理部94である。デジタル信号処理部94は、デジタル信号処理回路、例えば、PGA(Programmable Gate Array)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)により構成することができる。デジタル信号処理部94は、またCPU、メモリ、記録媒体と、デジタル信号処理部94の各部に所定の動作させるために記録媒体に格納されたソフトウェアにより構成することができる。なお、保持装置66が有する基準データ84は、別の研磨装置の出力信号処理回路54で得られたデータでもよい。これが可能である場合としては、例えば検出コイル73の出力のばらつきが小さい、または、検出コイル73の出力に対する精度要求が厳しくない場合等である。
【0056】
次に、膜厚測定時の増幅回路268(差分装置)等の詳細な動作について説明する。
図6は、膜厚測定時の増幅回路268等の詳細な動作を説明するためのブロック図である。検出コイル73の出力信号176は出力信号処理回路54に入力されると、最初に前段増
幅器96で増幅される。前段増幅器96は設けなくてもよい。増幅回路268には、検出コイル73が出力する膜厚信号である出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する基準信号である第1の交流生成信号80が入力される。増幅回路268は、膜厚信号の振幅と基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求めて出力する。第1の交流生成信号80は交流信号生成装置82で生成され、デジタルアナログ変換回路30でアナログ信号に変換されている。出力信号176は、スイッチSWを介して増幅回路268に入力される。スイッチSWの機能については、後述する。
【0057】
増幅回路268は、膜厚振幅をN倍して、信号98としてアナログデジタル変換回路282に出力する。Nは1より大きく、2以上であることが好ましい。増幅回路268の増幅率は、
図1に示す終点検出コントローラ246が出力する信号148により決定される。信号148は増幅率を示す。終点検出コントローラ246については後述する。増幅率は基準状態と膜厚測定時で異なる。膜厚測定時の増幅率については後述する。
【0058】
増幅回路268で膜厚振幅を増幅する理由は以下の通りである。膜厚の変化に伴う渦電流の変化は薄膜の場合、微小である。従って膜厚の正確な測定のためには渦電流を高感度に検出することが必要である。渦電流を高感度に検出するためには、薄電流が生成する磁場の微小な変化を検出コイル73で検出する必要が有る。ブリッジ回路を使用しないで、すなわちダミーコイルを使用しないで、一つの検出コイル73のみで磁場を検出した場合、膜厚の変化に伴う渦電流の変化、すなわち出力信号176の微小な変化を増幅できないという問題があった。
【0059】
微小な変化を増幅できない理由は以下の通りである。膜厚測定のためには、検出コイルの出力信号176から出力信号176の変化分を高精度で検出することが必要である。出力信号176の変化分が研磨量を示すからである。高精度で検出する(すなわち感度を上げる)ためには、検出回路の入力信号を増幅するか、検出回路のノイズを下げる必要が有る。検出回路に高性能なADC(例えば14bit、200MspsのADC)を用いた場合、検出回路のノイズを下げることができる。しかし振幅を大きくすることができない。なぜならば、出力信号176の変化分を高精度で検出したいが、出力信号176の振幅が大きく、出力信号176全体を増幅すると、信号処理回路が処理できるダイナミックレンジの制限のため、増幅後の出力信号176における変化分の振幅が十分な信号レベルにならなかった。
【0060】
そこで、既述のように、検出回路への入力信号である出力信号176の変化分のみを増幅する。すなわち、半導体ウェハWHの外部等に検出コイル73が位置する基準状態における検出コイル73の出力信号176を、交流信号生成装置82で生成した第1の交流生成信号80を用いて相殺する。相殺することにより、膜厚測定時に半導体ウェハWHの内部で渦電流が発生している時の受信信号(出力信号176)の変化分のみを十分な倍率で増幅可能とし、検出感度を改善する。
【0061】
図7Aにおいて信号104は、半導体ウェハWHが渦電流センサ50の近傍に存在しない基準時における検出コイル73の出力信号176である。このとき出力信号176の振幅は大きい。
図7Aにおいて信号106は、半導体ウェハWHが渦電流センサ50の近傍に存在する膜厚測定時における検出コイル73の出力信号176である。このとき出力信号176の振幅は、基準時から変化している。
図7Aの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号104と信号106は、異なる時間に生じるものであるが、振幅にわずかな違いしかないことが明瞭にわかるように、時間軸を一致させて示す。信号104と信号106は、本実施形態では正弦波である。
【0062】
図7Bの信号108は、交流信号生成装置82が生成し、デジタルアナログ変換回路30経由で出力されるキャンセル用の交流生成信号80を示す。
図6の増幅回路268によ
り信号106と信号108の差を増幅するため、デジタル信号処理部94に入力される信号98は、わずかな変化分のみが大きく増幅された信号である。
図7Bの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号108は、信号104と信号106に合わせて本実施形態では正弦波である。信号104と信号106が正弦波でない場合は、信号104と信号106の波形に合わせて信号108を正弦波以外の波形とすることができる。なお信号104と信号106が正弦波でない場合でも、信号104と信号106が正弦波に近い場合は、信号108を正弦波とすることができる。
【0063】
図7Cは、増幅回路268が出力する信号98を示す。信号146は、半導体ウェハWHが渦電流センサ50の近傍に存在しない基準時における増幅回路268の出力信号98である。このとき出力信号98の振幅が最も小さい。
図7Cにおいて信号144は、半導体ウェハWHが渦電流センサ50の近傍に存在する膜厚測定時における増幅回路268の出力信号98である。このとき出力信号98の振幅は、基準時よりもかなり大きい。
図7Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号144と信号146は、異なる時間に生じるものであるが、
図7Aと比較して、振幅の差が大きく変化していることが明瞭にわかるように、時間軸を一致させて示す。信号144と信号146は、本実施形態では正弦波である。
【0064】
次に、基準状態におけるスイッチSW、増幅回路268(差分装置)、データ生成装置88等の詳細な動作について
図5,
図8により説明する。基準状態では、基準信号を生成するために必要なデータを取得するキャリブレーションが行われる。基準状態では、最初に出力信号176の振幅と位相が測定される。次に、測定された出力信号176の振幅および位相と一致する振幅および位相を有する基準信号を交流信号生成装置82が生成するように、交流信号生成装置82を調整する作業が行われる。
【0065】
図8は基準状態における振幅と位相の測定時のスイッチSWと増幅回路268等の詳細な動作を説明するためのブロック図である。基準状態には、第1の基準状態と第2の基準状態がある。データ生成装置88は、第1の基準状態において第1の基準状態信号の振幅を測定して、基準データ84を生成する。
【0066】
ここで第1の基準状態と第2の基準状態の違いについて説明する。第1の基準状態と第2の基準状態は、いずれも既述の基準状態である。時間的に先行する基準状態を第1の基準状態と呼び、第1の基準状態より時間的に後にある基準状態を第2の基準状態と呼ぶ。第1の基準状態で最初に生成された基準データ84が、時間の経過により最新の基準状態での出力信号176からずれた場合に、基準データ84を更新する必要があると判断されたとき、新たな基準データ84を生成する当該最新の基準状態を第2の基準状態と呼ぶ。なお、第1の基準状態は、基準データ84が存在しない時(例えば、研磨装置が工場から出荷された直後)、または生成された基準データ84が喪失または無効になった時における基準状態も含む。第1の基準状態と第2の基準状態の時間差は、研磨テーブル100が1回転する程度の短時間、もしくは1時間もしくは1週間等の長時間の場合もある。
【0067】
データ生成装置88は、第1の基準状態において出力信号176(第1の基準状態信号)の振幅の大きさを測定して、振幅の大きさに関する振幅データ150(
図5参照)を保持する。振幅の大きさは以下のようにして測定される。終点検出コントローラ246は増幅回路268に、増幅率を示す信号148を出力する。第1の基準状態における増幅率は、
図8Aの増幅回路268に図示するように「1」である。データ生成装置88は交流信号生成装置82に、0ボルト(0V)の信号を出力するように振幅指定データ152を出力する。この結果、増幅回路268に入力された出力信号176が変化せずに、増幅回路268から出力される。
【0068】
すなわち検出コイル73の出力信号176が増幅されずに出力信号処理回路54に入力される。このときの出力信号176と信号108と信号98を、それぞれ
図9A,9B,9Cに示す。
図9A,9B,9Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号176と信号98は、本実施形態では正弦波である。アナログデジタル変換回路282の出力158(
図5参照)であるデジタル信号から、出力信号176の振幅の大きさを直接算出することができる。すなわち、出力158の最大値と最小値の差の半分が出力信号176の振幅である。本実施形態ではこのように出力信号176の振幅の大きさを直接算出する。振幅の大きさとしては他の方法で得ることもできる。例えば、出力信号176は出力信号処理回路54の直交信号検出回路86とベクトル演算回路89によって処理されて、Z出力を得る。Z出力は、出力信号176の振幅の大きさに比例する量である。
【0069】
位相は、例えば次のようにして測定される。アナログデジタル変換回路282の出力158と、交流信号源260からの出力262の周波数は同じである。このとき、アナログデジタル変換回路282の出力158であるデジタル信号の最大値が生じる時刻と、交流信号源260からの出力262の最大値が生じる時刻の差から、データ生成装置88は、出力262に対する出力信号176の位相が決定できる。
【0070】
位相の大きさとしては他の方法で得ることもできる。例えば、研磨装置全体が1つの基準クロックに従って動作している場合がある。この基準クロックに従って、デジタル信号の最大値が生じるクロック時刻と、交流信号源260からの出力262の最大値が生じるクロック時刻の差から、データ生成装置88は、出力262に対する出力信号176の位相が決定できる。得られた時刻を位相データ160としてデータ生成装置88は保持する。なお、アナログデジタル変換回路282の出力158と、交流信号源260からの出力262の位相差が生じない場合、もしくは位相差が問題にならない程度に小さい場合は、位相の大きさを測定する必要はない。
【0071】
データ生成装置88が振幅データ150と位相データ160を保持した後に、スイッチSWは、
図8Bに示すように、接点Aから接点Bに切り替えられる。接点Bは接地であり、増幅回路268に例えば0ボルト(0V)が入力される。その後、データ生成装置は、第1の交流生成信号を指定するための振幅指定データ152を交流信号生成装置に出力する。
図8Bでは、信号108の振幅と位相が調整される。
【0072】
第1の基準状態において信号108の振幅と位相を調整する理由は以下の通りである。交流信号生成装置82に入力する振幅指定データ152および位相指定データ162と、交流信号生成装置82の出力との関係が不明な場合がある。例えば第1の基準状態は最初に出力信号処理回路54を動作させるときである。この場合、交流信号生成装置82に入力する振幅指定データ152と交流信号生成装置82の出力との関係が設計値とは異なり、若干不正確な場合がある。もしくは、交流信号生成装置82もしくは交流信号生成装置82以外の研磨装置の回路特性が、交流信号生成装置82が設置されている環境の変化または時間の経過により変化している場合がある。このような状況が考えられるため、以下の手順で最適な振幅指定データ152と位相指定データ162を求める。そして最適な振幅指定データ152と位相指定データ162を基準データ84として保持装置66に保持する。
【0073】
振幅指定データ152の初期値としては、試験時に得られた基準データ、もしく想定される最大値、もしくは最小値等を用いる。データ生成装置88は初期値としての振幅指定データ152を交流信号生成装置82に出力する。交流信号生成装置82は、振幅指定データ152に基づいて第1の交流生成信号80を生成して増幅回路268に出力する。スイッチSWが接点Bであり、増幅率が「1」であるため、増幅回路268は、第1の交流
生成信号80の逆相である(正負が反転した)信号を出力する。逆相の信号ではあるが、振幅の大きさは変化しない。データ生成装置88は、増幅回路268の出力の正負を反転して、反転した信号を利用して以下の測定と比較を行えばよい。データ生成装置88は、初期値としての振幅指定データ152に対応して交流信号生成装置が出力する第1の交流生成信号の振幅の大きさを既述のいずれかの方法で測定する。
【0074】
データ生成装置88は、すでに保持している出力信号176の振幅データ150と、初期値としての振幅指定データ152に対応する第1の交流生成信号80の振幅データの大きさを比較する。データ生成装置88は、比較結果に基づいて基準データを生成する。データ生成装置88は、振幅データと比較したときに、2つの振幅データの差(第1の振幅差)が第1の振幅差所定値より大きいとき、または第1の振幅差が最小でないとき、データ生成装置88は、第1の振幅差が第1の振幅差所定値以下又は最小になるように、振幅指定データを変更して、変更した振幅指定データを交流信号生成装置82に出力する。この動作を第1の振幅差が第1の振幅差所定値以下又は最小になるまで行う。
【0075】
第1の振幅差が第1の振幅差所定値以下又は最小になるように、振幅指定データ152をデータ生成装置88が変更する方法としては、種々可能である。例えば、(1)初期値としての振幅指定データ152の近傍の所定の範囲内で、所定の変化量で振幅指定データ152を変更する。この場合、所定の範囲内で第1の振幅差所定値以下又は最小であるときの振幅指定データを基準データ154とすることができる。または(2)初期値としての振幅指定データ152を増加させて、第1の振幅差が減少したら、さらに振幅指定データ152を増加させる。反対に、第1の振幅差が増加したら、振幅指定データ152を減少させる。この場合、第1の振幅差が第1の振幅差所定値以下又は最小であるときの振幅指定データを基準データ154とすることができる。
【0076】
データ生成装置88は、第1の振幅差が第1の振幅差所定値以下又は最小であるときの振幅指定データを基準データ154として保持装置66に出力する。このときの増幅回路268の+端子に入力される信号156と信号108と信号98を、それぞれ
図9D,9E,9Fに示す。
図9D,9E,9Fの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号108と信号98は既述のように、本実施形態では正弦波である。
【0077】
振幅についての調整後、位相の調整を行う。スイッチSWの状態は、
図8Bに示すとおりである。交流信号生成装置82は、異なる位相を有する複数の第2の交流生成信号80を生成可能である。データ生成装置88は、第2の交流生成信号80を指定するための位相指定データ162を交流信号生成装置82に出力する。交流信号生成装置82は、位相指定データ162に基づいて第2の交流生成信号80を生成して出力する。
【0078】
位相指定データ162の初期値としては、試験時に得られた基準データ、もしく想定される最大値、もしくは最小値等を用いる。データ生成装置88は初期値としての位相指定データ162を交流信号生成装置82に出力する。交流信号生成装置82は、位相指定データ162に基づいて第2の交流生成信号80を生成して増幅回路268に出力する。スイッチSWが接点Bであり、増幅率が「1」であるため、増幅回路268は、第1の交流生成信号80の逆相である(正負が反転した)信号を出力する。逆相の信号であるため、位相の大きさは180度変化しているので、データ生成装置88は、既述のように増幅回路268の出力の正負を反転した信号を処理すればよい。
【0079】
データ生成装置88は、交流信号生成装置82が出力する第2の交流生成信号80の位相を既述のように測定する。得られたデータを位相データ160と比較する。データ生成装置88は、比較結果に基づいて基準データを生成する。データ生成装置88は、位相デ
ータと比較したときに、位相データ160との差(位相差)が位相差所定値より大きいとき、または位相差が最小でないとき、データ生成装置88は、位相差が位相差所定値以下又は最小になるように、位相指定データ162を変更する。位相指定データ162をデータ生成装置88が変更する方法としては、振幅指定データ152の変更方法について既述したように種々可能である。
【0080】
変更した位相指定データ162を交流信号生成装置82に出力する。このことを位相差が位相差所定値以下又は最小になるまで行い、データ生成装置88は、位相差が位相差所定値以下又は最小であるときの位相指定データ162を基準データ154に含む。最終的に得られた振幅指定データ152と位相指定データ162を含む基準データ154はデータ生成装置88から保持装置66に送られる。
【0081】
図8により、保持装置66が有する基準データ154の求め方を説明した。
図8の方法で基準データ154は十分精度良く求められると考えられる。しかし、精度が不十分と判断して、さらに得られた基準データ154を微調整したい場合は、
図10の方法が可能である。
図8の方法と
図10の方法の違いは以下の通りである。(1)
図8では、データ生成装置88に保持している振幅データ150及び位相データ160と、交流信号生成装置82が生成する第1、第2の交流生成信号80とを比較した。
図10では、得られた基準データ154から生成した第1、第2の交流生成信号80を、実際の出力信号176と基準状態で比較して精度をさらに上げる。(2)
図8では増幅回路268の増幅率は「1」であるが、
図10では増幅率は「N」である。増幅率を大きくして誤差を拡大し、精度をさらに上げる。
【0082】
図10では、先に位相を変化させ、位相差が最も小さくなる位相指定データ162を探し、その後、振幅を調整するために振幅指定データ152を変化させることが好ましい。位相を先に調整することが好ましい理由は、位相が合っていないと、振幅の差が大きくなり、目標値、例えば「0」にならない場合があるからである。
【0083】
具体的には、増幅回路268は第1の基準状態において、出力信号176(第1の基準状態信号)の振幅と、第2の交流生成信号80の振幅との差を求めて、振幅の差をN倍に拡大して信号156(第2の振幅差)として出力する。データ生成装置88は、出力信号98を入力されるため、実質的に、出力信号176を1倍より大きく拡大した信号と、第2の交流生成信号80を1倍より大きく拡大した信号との差を比較することができる。
【0084】
データ生成装置88は、比較した振幅の差をN倍に拡大した信号156が第2の振幅差所定値より大きいとき、または信号156が最小でないとき、データ生成装置88は、信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、位相指定データ162を変更する。位相指定データ162をデータ生成装置88が変更する方法としては、位相指定データ162の変更方法について既述したように種々可能である。データ生成装置88は、変更した位相指定データ162を交流信号生成装置82に出力することを信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行う。データ生成装置88は、信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの位相指定データ162を基準データ154とする、
【0085】
次に、増幅回路268は、第1の基準状態において、第1の基準状態信号の振幅の大きさと、第1の交流生成信号80の振幅の大きさとを比較し、比較した振幅の差をN倍に拡大して信号156(第2の振幅差)として出力する。データ生成装置88は、出力信号98を入力されて、比較した振幅の差をN倍に拡大した信号156が第2の振幅差所定値より大きいとき、または信号156が最小でないとき、信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小になるように、振幅指定データ152を変更する。振幅指定データ152をデ
ータ生成装置88が変更する方法としては、振幅指定データ152の変更方法について既述したように種々可能である。
【0086】
データ生成装置88は、変更した振幅指定データ152を交流信号生成装置82に出力することを信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小になるまで行う。データ生成装置88は、信号156が第2の振幅差所定値以下又は最小であるときの振幅指定データ152を基準データ154とする。微調整終了時の増幅回路268の+端子に入力される出力信号176と、-端子に入力される第1の交流生成信号80と、信号156を、それぞれ
図11A,11B,11Cに示す。
図11A,11B,11Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号176と信号80は、本実施形態では正弦波である。
【0087】
図8A、8B、10での処理を
図12,13、14のフローチャートにより説明する。
図12のフローチャートは、メインフローを示し、
図13,14はサブフローチャートを示す。
図12において、基準信号を生成する時は最初に、
図8に示す処理に対応するステップ10を行う。次に必要に応じて、
図10に示す微調整処理に対応するステップ20を行う。その後、基準信号を用いて、通常の膜厚測定を行う(ステップS30)。基準信号の更新が必要かどうかを所定時間経過ごとに判断する(S40)。不要と判断したときは、通常の膜厚測定を行う(ステップS30)。必要と判断したときは、基準信号を生成する(S10)。
【0088】
次に
図13のフローチャートにより、基準信号を生成する時の
図8の処理(ステップ10)について説明する。最初に研磨装置164の終点検出コントローラ246と出力信号処理回路54は、基準信号生成のために信号振幅モニタモードに切り替えられる(S110)。そして
図8Aに示す信号振幅(A0)と位相(P0)モニタを行う(S112)。信号振幅(A0)は、基準状態で測定された出力信号176の振幅であり、位相(P0)は、基準状態で測定された出力信号176の位相である。次に終点検出コントローラ246と出力信号処理回路54は、交流信号生成装置82が生成する第1、第2の交流生成信号80の振幅と位相の調整のために、
図8Bに示す処理を行うキャリブレーション信号調整モードに切り替えられる(S114)。
【0089】
調整モードでは第1の交流生成信号80の振幅の調整のために、キャリブレーション信号振幅測定として第1の交流生成信号80の振幅測定が行われる(S116)。測定された第1の交流生成信号80の振幅が所定値内、すなわち、「A0-α<第1の交流生成信号80の振幅<A0+α」であるかどうかが判断される(S118)。ここでA0-αは所定値の下限を示し、A0+αは所定値の上限を示す。αは所定値の幅の半分の大きさを示す。測定された第1の交流生成信号80の振幅が所定値内でない(NO)ときは、振幅指定データ152が変更されて、振幅設定値の変更が行われる(S120)。そしてS116に戻る。振幅が所定値内(YES)のときは、第1の交流生成信号80の振幅の調整が終了する。
【0090】
次に、キャリブレーション信号位相測定として第2の交流生成信号80の位相測定が行われる(S122)。測定された第2の交流生成信号80の位相が所定値内、すなわち、「P0-β<第2の交流生成信号80の位相<P0+β」であるかどうかが判断される(S124)。ここでP0-βは所定値の下限を示し、P0+βは所定値の上限を示す。βは所定値の幅の半分の大きさを示す。測定された第2の交流生成信号80の位相が所定値内でない(NO)ときは、位相指定データ162が変更されて、位相設定値の変更が行われる(S126)。そしてS122に戻る。位相が所定値内(YES)のときは、第1の交流生成信号80の位相の調整が終了する。終点検出コントローラ246と出力信号処理回路54は、膜厚測定を行う通常動作モードに切り替えられる(S128)。
【0091】
次に
図14のフローチャートにより、基準信号を生成する時の
図10の処理(
図12のステップ20)について説明する。最初に第2の交流生成信号80の位相を所定の範囲内でスィープ(Sweep)することにより微調整する。微調整による第2の交流生成信号80の振幅測定の結果、振幅と設定値との差が最小となる位相を、位相の設定値に設定する(S210)。次に第2の交流生成信号80の振幅を所定の範囲内でスィープ(Sweep)することにより微調整する。微調整による第2の交流生成信号80の振幅測定の結果、振幅と設定値との差が最小となる振幅を、振幅の設定値に設定する(S212)。
【0092】
次に、時間が経過して、基準信号と基準状態でのセンサ出力との差が所定値より大きくなったときに、キャリブレーションを再度行うことについて
図15により説明する。
図15Aは、微調整直後の基準状態における出力信号176の測定結果を示す。本図は、
図10と同一である。
図15Bは、時間が経過して、基準信号と基準状態でのセンサ出力との差が所定値より大きくなったときの基準状態における出力信号176の測定結果を示す。
図15における交流生成信号80は、
図8または
図10において説明した振幅と位相の調整が終了した後の基準信号である。
【0093】
図16は、微調整直後と、ある時間が経過後の基準状態における出力信号176の測定結果を示す。
図16Aにおいて、信号166は、微調整直後の検出コイル73の出力信号176であり、信号168は、ある時間が経過後の基準状態における出力信号176である。信号166と信号168を比較すると、振幅が変化している。
図16Bにおいて信号180は、微調整直後の増幅回路268の出力であり、信号182は、ある時間が経過後の基準状態における増幅回路268の出力である。信号180と信号182を比較すると、信号180は振幅が「0」で、一定しているが、信号182は振幅が「0」ではなく、かつ、変化している。
図16Cは信号108を示す。
図16A,16B,16Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号166,168,182、108は、本実施形態では正弦波である。
【0094】
図15Bにおける振幅と位相の調整は、
図10に示す微調整と同様に行われる。すなわち、位相調整後に振幅調整が行われる。具体的には第1の基準状態の後の第2の基準状態において、交流信号生成装置82は、基準データ154に基づいて第1の基準状態信号に相当する振幅と位相を有する第2の交流生成信号80を生成して基準信号として出力する。検出コイル73は第2の基準状態において、出力信号176である第2の基準状態信号を出力する。第2の基準状態において、差分装置268は、出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する第2の交流生成信号80が入力されて、出力信号176の振幅と第2の交流生成信号80の振幅との基準差を求める。
【0095】
基準差が基準差所定値を超えている場合、(1)出力信号処理回路54はアラーム信号を出力する、および/または(2)データ生成装置88は、第2の基準状態において検出コイル73が出力する第2の交流生成信号80の振幅の大きさを測定して、測定された第2の交流生成信号80の振幅に基づいて基準データ154の位相を更新して保持する。位相調整後に、振幅が異なる第1の交流生成信号80を出力信号176と比較して、振幅の調整を行う。
【0096】
図15Bにおける振幅と位相の調整は、
図10に示す微調整と同様に行われる。しかし
図15Bにおける振幅と位相の調整は、
図10に示す微調整とは異なる方法で行ってもよい。例えば、
図8に示す調整方法で行ってもよい。
図15Bに示す処理は、常時行ってもよい。例えば、研磨テーブル100の1回転ごとに行うことができる。
【0097】
次に増幅回路268の増幅率を半導体ウェハWHや導電体mfの種類や研磨状態に応じて変えることについて説明する。増幅率を変える理由は、増幅回路268等の処理回路の
ダイナミックレンジを確保するためである。すなわち、増幅回路268等の出力が飽和することを防止するための対策である。具体的には出力信号処理回路54は、膜厚を測定する時の増幅率が低い低ゲインモードを備える。例えば増幅器である増幅回路268は、導電体mfの膜厚に応じて、膜厚振幅を増幅する増幅率が変わる。膜厚が厚いときは、
図17Aに示すように増幅率を1倍とする。膜厚が薄いときは増幅率をN倍とする。このように時間的に増幅率を切り替えながら出力信号176、すなわち膜厚を測定する。膜厚が厚いときは、基準状態の検出コイルの出力と、厚膜測定時の検出コイルの出力との差(変化分)の振幅が、
図18A、18Dに示すように大きく、増幅率をN倍よりも低い値、例えば1倍とすることができるからである。
【0098】
図18A,18B,18Cは、
図17Aにおける各部の信号を示す。膜厚が厚いときと、基準状態もしくは膜厚が薄いときの出力信号176の測定結果を示す。
図18Aにおいて、信号184は、基準状態もしくは膜厚が薄いときの検出コイル73の出力信号176であり、信号186は、膜厚が厚いときの出力信号176である。信号184と信号186を比較すると、膜厚が厚いとき振幅が小さい。
図18Bにおいて信号188は、基準状態もしくは膜厚が薄いときの増幅回路268の出力であり、信号190は、膜厚が厚いときの増幅回路268の出力である。
【0099】
信号188と信号190を比較すると、信号188は振幅がほぼ「0」であり、一定しているが、信号190は振幅が「0」より大きく、かつ、変化している。本図から、増幅率が1倍もしくはその近傍であることが適切であり、
図6のようなN倍とすると、厚膜に対してはダイナミックレンジが確保できないことがわかる。
図18Cは、基準信号である信号108を示す。
図18A,18B,18Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号184,186,190,108は、本実施形態では正弦波である。
【0100】
ダイナミックレンジを確保する別の方法を
図17Bに示す。本図では、増幅率を1倍とするとともに、
図17Aとは異なり交流信号生成装置82は一定値(例えば「0ボルト」)である信号108を出力する。膜厚が厚いときは増幅率を1倍とする。すなわち、導電体mfの膜厚を測定するときに、導電体mfの膜厚が膜厚所定値より大きい場合、交流信号生成装置82は、直流信号を生成して基準信号108として出力する。差分装置268は、検出コイル73が出力する膜厚信号である出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する直流信号が入力されて、膜厚信号の振幅と直流信号の振幅との差を求めて、膜厚振幅とする。
【0101】
図18D,18E,18Fは、
図17Bにおける各部の信号を示す。膜厚が厚いときと、基準状態もしくは膜厚が薄いときの出力信号176の測定結果を示す。
図18Dは
図18Aと同じものである。すなわち信号184は、基準状態もしくは膜厚が薄いときの検出コイル73の出力信号176であり、信号186は、膜厚が厚いときの出力信号176である。
図18Eにおいて信号192は、基準状態もしくは膜厚が薄いときの増幅回路268の出力であり、信号194は、膜厚が厚いときの増幅回路268の出力である。
【0102】
信号192と信号194を比較すると、信号194は振幅が「0」に近く、小さく振動しているが、信号192は振幅が「0」よりかなり大きく、かつ、変化している。本図から増幅率が1倍もしくはその近傍であり、かつ信号108が一定であることが適切であり、
図6のようなN倍とすると、厚膜に対してはダイナミックレンジが確保できないことがわかる。
図18Cは、基準信号である信号108を示す。
図18A,18B,18Cの横軸は時間(単位は秒:s)、縦軸は電圧(単位はボルト:V)である。信号192,194は、本実施形態では正弦波である。
【0103】
次に、
図8Bの基準信号を求めるキャリブレーションに要する時間の1例について説明する。交流信号生成装置82にDDS方式を使用すると仮定した場合、交流信号生成装置82が生成可能な振幅範囲と位相精度の全範囲で振幅と位相を変えた場合が最も時間を要する。全範囲を対象に2分探索法でキャリブレーションすると、例えば振幅12bit,位相14bitの範囲で調整が可能である場合、26回測定すれば全範囲での探索が終了する。
【0104】
なぜならば、2分探索法で12bitを探索するためには、12回の探索で、出力信号176の振幅の全範囲に対して所定値内にある振幅を見つけることができるからである。そして2分探索法で14bitを探索するためには、14回の探索で、出力信号176の位相の全範囲に対して所定値内にある位相を見つけることができるからである。1回の測定が1msecの場合、26msecで26回の測定が終わる。従来のようにブリッジ回路を用いる方式では、ブリッジ回路内の抵抗値を調整する必要がある。この場合、ブリッジ回路内の可変抵抗を調整するためにモータを回す必要がある。本実施形態ではモータを回す必要が無いので高速動作が可能である。
【0105】
従ってリアルタイム(すなわちテーブル一回転毎)でのキャリブレーションも十分可能である。ただし、1枚の半導体ウェハWHを研磨中に、基準データ154が変わると、誤差になる可能性がある。そのため研磨前にキャリブレーション処理を行うことが良い場合がある。既述のように、基準状態における出力信号176が所定値から外れたときのみアラームを上げることとしてもよい。
【0106】
図1、2に戻り、出力信号処理回路54の配置について説明する。出力信号処理回路54は、
図1に示す位置に配置することができる。
図2に示すように、研磨装置の研磨テーブル100は矢印で示すようにその軸心170まわりに回転可能になっている。この研磨テーブル100内には、交流信号源260および出力信号処理回路54が埋め込まれている。
【0107】
渦電流センサ50と出力信号処理回路54を一体型としてもよい。出力信号処理回路54の出力信号172は、研磨テーブル100のテーブル軸170内を通り、テーブル軸170の軸端に設けられたロータリジョイント(図示せず)を経由して、出力信号172により終点検出コントローラ246に接続されている。なお、出力信号処理回路54を研磨テーブル100外に配置してもよい。
【0108】
研磨装置164は、既述のように渦電流センサ50の出力信号処理回路54を有して、導電体を研磨する。研磨装置164は、導電体の研磨が可能な研磨テーブル100および半導体ウェハWHを保持して研磨テーブル100上の研磨面に押圧するトップリングを有する研磨部196を有する。研磨装置164は、さらに、導電体の膜厚を測定するために、導電体に渦電流を形成するとともに、形成された渦電流を検出可能な前記渦電流センサ50と、差分装置268が出力する膜厚振幅から膜厚を求める終点検出コントローラ246とを有する。
【0109】
終点検出コントローラ246は、インピーダンスZの大きさ、または位相出力等から、膜厚を求めるための膜厚演算が行われる。終点検出コントローラ246は、出力信号処理回路54が出力する信号172から膜厚を求める膜厚算出部である。終点検出コントローラ246は、X,Y,Z出力やΘ出力から膜厚を算出する。算出方法は種々ある。例えば、Z出力と膜厚との関係を事前に求めておき、Z出力から膜厚を求める。
【0110】
次に、導電体mfに渦電流を形成可能な励磁コイル72と、導電体mfに形成可能な渦電流を検出する検出コイル73とを有する渦電流センサ50が出力する検出コイル73の出力信号を処理する渦電流センサの出力信号処理方法について説明する。本方法では、交
流信号生成装置82が、異なる振幅を有する複数の第1の交流生成信号80を生成する。保持装置66が、複数の第1の交流生成信号80のうち、基準状態において検出コイル73が出力する第1の基準状態信号である出力信号176に相当する第1の交流生成信号80を特定する基準データ154を保持する。
【0111】
交流信号生成装置82は、導電体mfの膜厚を測定するときに、基準データ154に基づいて第1の基準状態信号に相当する第1の交流生成信号80を生成して基準信号として出力する。導電体mfの膜厚を測定するときに、差分装置268が、検出コイル73が出力する膜厚信号である出力信号176と、交流信号生成装置82が出力する基準信号108が入力されて、膜厚信号の振幅と基準信号の振幅との差である膜厚振幅を求める。データ生成装置88が第1の基準状態において第1の基準状態信号の振幅を測定して、基準データ154を生成する。
【0112】
以上、本発明の実施形態の例について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0113】
WH…半導体ウェハ
30…デジタルアナログ変換回路
50…渦電流センサ
54…出力信号処理回路
66…保持装置
72…励磁コイル
73…検出コイル
80…交流生成信号
80…第1の交流生成信号
80…第2の交流生成信号
82…交流信号生成装置
84…基準データ
88…データ生成装置
100…研磨テーブル
108…基準信号
150…振幅データ
152…振幅指定データ
154…基準データ
160…位相データ
162…位相指定データ
164…研磨装置
176…出力信号
196…研磨部
246…終点検出コントローラ
260…交流信号源
268…増幅回路
268…差分装置