(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055418
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/40 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
H01L23/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162340
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】南 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 智哉
(72)【発明者】
【氏名】中子 偉夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 大
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BA03
5F136BB04
5F136EA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136GA31
(57)【要約】
【課題】半導体素子が積載された基板とヒートシンクとを金属粒子を含む接合基材を焼結させた焼結体を用いて接合する半導体装置において、焼結体に空隙が形成されることを抑制しながら、ヒートシンクによる放熱効率の低下を抑制する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、一方の面に半導体素子が積載される基板における他方の面と、平板状のベース部を有するヒートシンクにおけるベース部とのいずれかである接合面に、金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程と、接合基材を介して基板とヒートシンクとを積層する積層工程と、接合基材を焼結して、基板とヒートシンクとを接合する焼結体を形成する焼結工程とを含み、基材設置工程は、接合面のうち基板とヒートシンクとの積層方向から見て半導体素子が積載されない領域に、接合基材が設けられていない非設置部が形成されるように、接合面に接合基材を設ける。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に半導体素子が積載される基板における他方の面と、平板状のベース部を有するヒートシンクにおける当該ベース部とのいずれかである接合面に、金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程と、
前記接合基材を介して前記基板と前記ヒートシンクとを積層する積層工程と、
前記接合基材を焼結して、前記基板と前記ヒートシンクとを接合する焼結体を形成する焼結工程とを含み、
前記基材設置工程は、前記接合面のうち前記基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て前記半導体素子が積載されない領域に、前記接合基材が設けられていない非設置部が形成されるように、当該接合面に当該接合基材を設ける
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記基材設置工程は、前記接合面のうち前記積層方向から見て前記半導体素子が積載される領域、および当該半導体素子が積載される領域から予め定められた距離にある範囲には前記非設置部が形成されないように、当該接合面に前記接合基材を設けることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記基材設置工程は、前記接合面に沿う第1の方向に延びる複数の第1の溝と、当該接合面に沿い且つ当該第1の方向に交差する第2の方向に延びる複数の第2の溝とが格子状に配列された前記非設置部であって、前記積層方向から見て当該第1の溝と当該第2の溝とが前記半導体素子が積載される領域を囲むような当該非設置部が形成されるように、当該接合面に前記接合基材を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
一方の面および他方の面を有する基板における当該他方の面と、平板状のベース部を有するヒートシンクにおける当該ベース部とのいずれかである接合面に、金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程と、
前記接合基材を介して前記基板と前記ヒートシンクとを積層する積層工程と、
前記接合基材を焼結して、前記基板と前記ヒートシンクとを接合する焼結体を形成する焼結工程と、
前記基板の一方の面に半導体素子を接合する接合工程とを含み、
前記基材設置工程は、前記接合基材が設けられた設置部と、当該接合基材が設けられていない非設置部とが形成されるように、前記接合面に当該接合基材を設け、
前記接合工程は、前記基板の前記一方の面のうち当該基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て前記設置部と重なる領域に、前記半導体素子を接合する
半導体装置の製造方法。
【請求項5】
一方の面に半導体素子が積載された基板と、
平板状のベース部を有し、前記基板の他方の面に積層されるヒートシンクと、
前記基板の他方の面と前記ヒートシンクの前記ベース部とを接合する焼結体とを有し、
前記焼結体には、前記基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て当該基板に前記半導体素子が積載されていない領域に、当該基板と当該ヒートシンクとが接合されていない非接合部が形成されている半導体装置。
【請求項6】
前記非接合部は、前記積層方向から見て、前記基板に前記半導体素子が積載されている領域を囲むように形成されており、当該非接合部で囲まれた前記焼結体の面積が、当該半導体素子の面積の1.1倍以上5.0倍以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属ペーストの焼結体を用いて、ダイパッドに対して半導体チップを接合する技術が開示されている。
特許文献2には、第一の部材と第二の部材とを銅焼結体により接続する部材接続方法が開示されている。この部材接続方法では、各部材の接続領域に対して、銅ペーストの塗膜を、塗膜が形成される塗膜形成領域と塗膜が形成されない塗膜非形成領域とからなる印刷パターンを用いて形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-17671号公報
【特許文献2】特開2020-44480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体素子が積載された基板と、半導体素子から生じた熱を放熱するヒートシンクとを、金属粒子を含む金属ペースト等の接合基材を焼結させた焼結体を用いて接合する場合がある。基板とヒートシンクとを焼結体を用いて接合する場合、接合基材を焼結する際に生じる気体によって焼結体に空隙が形成されることを抑制する観点から、基板とヒートシンクとを接合する面に、接合基材が設けられていない非設置部を形成し、この非設置部を介して気体を外部に排出することが好ましい。その一方で、接合基材が設けられていない非設置部では、基板からヒートシンクへ熱が伝導されにくいため、基板に積載される半導体素子の位置と、非設置部との関係によっては、ヒートシンクによる放熱効率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、半導体素子が積載された基板とヒートシンクとを金属粒子を含む接合基材を焼結させた焼結体を用いて接合する半導体装置において、焼結体に空隙が形成されることを抑制しながら、ヒートシンクによる放熱効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記(1)~(6)に係る発明が提供される。
(1)一方の面に半導体素子(半導体素子13)が積載される基板(絶縁性基板11)における他方の面と、平板状のベース部(ベース部21)を有するヒートシンク(ヒートシンク20)における当該ベース部とのいずれかである接合面に、金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置と、
前記接合基材を介して前記基板と前記ヒートシンクとを積層する積層工程と、
前記接合基材を焼結して、前記基板と前記ヒートシンクとを接合する焼結体(焼結体層30、接合部31)を形成する焼結工程とを含み、
前記基材設置工程は、前記接合面のうち前記基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て前記半導体素子が積載されない領域に、前記接合基材が設けられていない非設置部(非塗布部42、第1の溝42a、第2の溝42b)が形成されるように、当該接合面に当該接合基材を設ける
半導体装置の製造方法。
(2)前記基材設置工程は、前記接合面のうち前記積層方向から見て前記半導体素子が積載される領域、および当該半導体素子が積載される領域から予め定められた距離にある範囲には前記非設置部が形成されないように、当該接合面に前記接合基材を設けることを特徴とする(1)に記載の半導体装置の製造方法。
(3)前記基材設置工程は、前記接合面に沿う第1の方向に延びる複数の第1の溝(第1の溝42a)と、当該接合面に沿い且つ当該第1の方向に交差する第2の方向に延びる複数の第2の溝(第2の溝42b)とが格子状に配列された前記非設置部であって、前記積層方向から見て当該第1の溝と当該第2の溝とが前記半導体素子が積載される領域を囲むような当該非設置部が形成されるように、当該接合面に前記接合基材を設けることを特徴とする(1)または(2)に記載の半導体装置の製造方法。
【0007】
(4)一方の面および他方の面を有する基板(絶縁性基板11)における当該他方の面と、平板状のベース部(ベース部21)を有するヒートシンク(ヒートシンク20)における当該ベース部とのいずれかである接合面に、金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程と、
前記接合基材を介して前記基板と前記ヒートシンクとを積層する積層工程と、
前記接合基材を焼結して、前記基板と前記ヒートシンクとを接合する焼結体(焼結体層30、接合部31)を形成する焼結工程と、
前記基板の一方の面に半導体素子(半導体素子13)を接合する接合工程とを含み、
前記基材設置工程は、前記接合基材が設けられた設置部(塗布部41)と、当該接合基材が設けられていない非設置部(非塗布部42、第1の溝42a、第2の溝42b)とが形成されるように、前記接合面に当該接合基材を設け、
前記接合工程は、前記基板の前記一方の面のうち当該基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て前記設置部と重なる領域に、前記半導体素子を接合する
半導体装置の製造方法。
【0008】
(5)一方の面に半導体素子(半導体素子13)が積載された基板(絶縁性基板11)と、
平板状のベース部(ベース部21)を有し、前記基板の他方の面に積層されるヒートシンク(ヒートシンク20)と、
前記基板の他方の面と前記ヒートシンクの前記ベース部とを接合する焼結体(焼結体層30、接合部31)とを有し、
前記焼結体には、前記基板と前記ヒートシンクとの積層方向から見て当該基板に前記半導体素子が積載されていない領域に、当該基板と当該ヒートシンクとが接合されていない非接合部(非塗布部42、第1の溝42a、第2の溝42b)が形成されている半導体装置。
(6)前記非接合部は、前記積層方向から見て、前記基板に前記半導体素子が積載されている領域を囲むように形成されており、当該非接合部で囲まれた前記焼結体の面積が、当該半導体素子の面積の1.1倍以上5.0倍以下であることを特徴とする(5)に記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体素子が積載された基板とヒートシンクとを金属ペーストを焼結させた焼結体を用いて接合する半導体装置において、焼結体に空隙が形成されることを抑制しながら、ヒートシンクによる放熱効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態が適用される半導体装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】半導体装置の構成の一例を示す図であって、半導体装置を
図1のII部で切断した断面の一例を示す図である。
【
図3】半導体装置の構成の一例を示す図であって、半導体装置を
図2のIII方向から見た図である。
【
図4】本実施形態が適用される半導体装置における焼結体層を、半導体モジュールが積載される側から見た図である。
【
図5】(a)~(c)は、半導体装置の製造方法の一例を説明する図である。
【
図6】ヒートシンクの塗布面に金属ペーストを塗布する領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(半導体装置1)
図1は、本実施形態が適用される半導体装置1の構成の一例を示す図である。
図2は、半導体装置1の構成の一例を示す図であって、半導体装置1を
図1のII部で切断した断面の一例を示す図である。
図3は、半導体装置1の構成の一例を示す図であって、半導体装置1を
図2のIII方向から見た図である。
【0012】
本実施形態に係る半導体装置1は、半導体モジュール10と、半導体モジュール10から伝達された熱を放熱するヒートシンク20と、半導体モジュール10とヒートシンク20とを接合する焼結体層30とを備えている。
図示は省略するが、本実施形態の半導体装置1は、例えば、冷却液が流通する内部空間を有するケースに対し、ヒートシンク20の後述するフィン22が冷却液に接触するように取り付けられて使用される。これにより、半導体モジュール10で発生し、焼結体層30を介してヒートシンク20へ伝導した熱が、冷却液によって放熱される。
【0013】
半導体モジュール10は、基板の一例としての絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一方の面(
図2における上側の面)に積載された半導体素子13と、絶縁性基板11の一方の面と半導体素子13とを接合する接合層15と、を備えている。
【0014】
絶縁性基板11は、半導体素子13とヒートシンク20とを絶縁する絶縁層111と、絶縁層111の一方の面(
図2における上側の面)に形成され、半導体素子13に電力を供給するための配線を含む配線層112と、絶縁層111の他方の面(
図2における下側の面)に形成され、半導体素子13から発生した熱をヒートシンク20へ伝達する伝熱層113とを備えている。
【0015】
絶縁層111としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)等からなるセラミック基板を用いることができる。絶縁層111絶縁層111の厚さは、例えば、0.1mm以上2.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0016】
配線層112は、絶縁層111の一方の面における予め定められた領域に形成され、半導体素子13に電力を供給するための配線を構成する。
伝熱層113は、絶縁層111の他方の面における略全面を覆うように形成される。
配線層112および伝熱層113は、金属層からなる。配線層112および伝熱層113に用いられる金属としては、銅、ニッケル、銀、パラジウム、金、白金、鉛、コバルト、錫、アルミニウム、あるいはこれらから選ばれた2種以上の金属の合金が挙げられ、好ましくは、銅、ニッケル、銀、パラジウム、金、あるいはこれらから選ばれた2種以上の金属の合金であり、より好ましくは、銅、ニッケル、銀である。また、配線層112と伝熱層113とは、同種の金属から構成されていてもよく、異なる種類の金属から構成されていてもよい。
配線層112および伝熱層113の厚さは、例えば、0.05mm以上2.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0017】
このような絶縁性基板11としては、セラミックからなる絶縁層111の一方の面および他方の面に、銅からなる配線層112および伝熱層113を接合したDCB(Direct Copper Bond)基板や、セラミック基板からなる絶縁層111の両面にアルミニウムからなる配線層112および伝熱層113を接合したDAB(Direct Aluminium Bond)基板を例示することができる。
なお、絶縁性基板11は、全体として半導体素子13とヒートシンク20とを絶縁することが可能であれば、配線層112および伝熱層113のように導電性を有する層を含んでいてもよい。
【0018】
半導体素子13は、例えば、電力制御に用いられるトランジスタ、サイリスタ、ダイオード等のパワー半導体である。半導体素子13の材質は、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)を例示することができる。
本実施形態では、半導体素子13は、全体として直方体状の形状を有している。なお、図示は省略するが、半導体素子13には、モータやコンピュータ装置等の他の装置に電力を供給するための端子等が設けられていてもよい。
【0019】
接合層15は、絶縁性基板11の表面に形成された配線層112と半導体素子13とを接合する。接合層15としては、配線層112と半導体素子13とを電気的に接続可能なものであれば特に限定されない。接合層15を介して絶縁性基板11(配線層112)と半導体素子13とを接合する手法としては、はんだ付け、ろう付け、焼結等を例示することができる。
【0020】
ヒートシンク20は、平板状のベース部21と、ベース部21から突出する複数のフィン22とを備えている。
ベース部21は、直交する第1の方向(
図2、
図3における左右方向)と第2の方向(
図3における上下方向)とを有する矩形状の部材である。ベース部21は、複数のフィン22が突出する表面211と、焼結体層30を介して半導体モジュール10と対向する裏面212とを有している。この例では、ベース部21の面積は、半導体モジュール10における絶縁性基板11の面積と比べて大きい。
なお、以下の説明では、ヒートシンク20のベース部21における第1の方向および第2の方向を、単に第1の方向および第2の方向と表記する場合がある。
【0021】
ヒートシンク20のそれぞれのフィン22は、ベース部21の表面211からベース部21の板面に直交する方向に突出する。それぞれのフィン22は、ベース部21の板面に直交する方向およびベース部21の第2の方向に延びる平板状の部材である。それぞれのフィン22は、ベース部21の表面211に対し第1の方向に間隙を挟んで並んで配置されている。
また、ヒートシンク20は、ベース部21の裏面212に対して、焼結体層30により半導体モジュール10の絶縁性基板11が接合されている。
【0022】
ヒートシンク20の材質は、特に限定されないが、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金であることを例示することができる。また、ヒートシンク20、特にヒートシンク20におけるベース部21の裏面212には、銀めっきや金めっき等のめっき層が形成されていてもよい。ベース部21の裏面212にこれらのめっき層が形成されることで、焼結体層30を介した半導体モジュール10の絶縁性基板11との接合強度を高めることができる。
なお、ヒートシンク20の形状は、焼結体層30を介して絶縁性基板11に接合される面を有し、この接合される面が金属からなり、半導体モジュール10から伝導された熱を放熱する機能を備えていれば、平板状のベース部21と、ベース部21から突出する平板状のフィン22とを有する上述した形態に限定されない。ヒートシンク20は、例えば、内部に冷却液を流通させることが可能な空間を有する、全体として箱状の形状であってもよい。また、ヒートシンク20において、絶縁性基板11が接合される面に用いられる金属としては、銅、ニッケル、銀、パラジウム、金、白金、鉛、コバルト、錫、アルミニウム、あるいはこれらから選ばれた2種以上の金属の合金が挙げられ、好ましくは、銅、ニッケル、銀、パラジウム、金、あるいはこれらから選ばれた2種以上の金属の合金であり、より好ましくは、銅、ニッケル、銀である。
【0023】
焼結体層30を構成する焼結体は、例えば、絶縁性基板11とヒートシンク20との間に、金属粒子を分散させた金属ペーストを塗布し、焼結することで得られる。また、焼結体層30を構成する焼結体は、例えば、絶縁性基板11とヒートシンク20との間に、金属粒子を含むシート状の接合用シートを積層し、焼結することで得られる。ここでは、金属ペースト、接合用シートが、金属粒子を含む接合基材の一例である。金属ペーストや接合用シート等の接合基材を焼結して焼結体を得る方法としては、無加圧焼結、加圧焼結、通電焼結等を例示することができる。焼結体層30を形成する手順、および焼結体層30の形成に用いる金属ペーストや接合用シートについては、後段にて詳細に説明する。なお、接合基材は、金属粒子を含み、加熱によって金属粒子が焼結した焼結体が得られるものであれば、ペースト状やシート状に限定されるものではない。
【0024】
焼結体層30を構成する焼結体に用いる金属粒子としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、銅と銀との合金(Cu-Ag)から選択された金属の粒子を用いることができる。また、金属粒子としては、例えば、表面を銀で被覆した銅からなる粒子を用いてもよい。これらの金属粒子の中でも、銅粒子を用いることが好ましい。焼結体を形成する金属粒子として銅粒子を用いることで、焼結体層30を介した半導体モジュール10とヒートシンク20との間の伝熱性を向上させることができる。
また、焼結体層30を構成する焼結体は、金属間化合物、無機化合物、樹脂等の金属以外の成分を含んでいてもよい。
【0025】
焼結体層30の厚さは、10μm以上500μm以下の範囲を例示することができる。焼結体層30の厚さが10μm未満である場合、焼結体層30による半導体モジュール10とヒートシンク20との接合強度が不十分となる場合がある。また、焼結体層30の厚さが500μmを超える場合、焼結体層30を介した半導体モジュール10からヒートシンク20への伝熱性が低下しやすい。この場合、半導体モジュール10の半導体素子13で発生した熱の放熱効率が低下するおそれがある。
なお、焼結体層30の厚さは、50μm以上200μm以下の範囲が好ましく、60μm以上180μm以下の範囲がより好ましい。
【0026】
焼結体層30を構成する焼結体は、焼結により溶融した金属粒子同士が連結した構造を有している。また、焼結体層30を構成する焼結体は、金属粒子間に微細な間隙が形成されていることが好ましい。焼結体の金属粒子間に間隙が形成されることで、焼結体層30に生じた内部応力が緩和されやすくなる。
焼結体層30を構成する焼結体における金属の緻密度は、40体積%以上95体積%以下の範囲を例示することができ、50体積%以上95体積%以下の範囲であることが好ましく、60体積%以上95体積%以下の範囲であることがより好ましい。焼結体層30を構成する焼結体における金属の緻密度が上記範囲を満たすことで、焼結体層30を介した半導体モジュール10とヒートシンク20との伝熱性と、焼結体層30による内部応力の緩和とを両立しやすくなる。
【0027】
焼結体における金属の緻密度は、焼結体の体積と、精密天秤で測定した焼結体の質量とを測定し、この体積と質量から、焼結体の見かけの密度M1(g/cm3)を求める。続いて、求めた見かけの密度M1と、焼結体に用いた金属の理論密度Mx(例えば銅粒子の場合は、銅の理論密度8.96g/cm3)とを用いて、下記式(1)から焼結体における金属の緻密度(体積%)が求められる。
焼結体における金属の緻密度(体積%)=[(M1)/(Mx)]×100・・・(1)
【0028】
図4は、本実施形態が適用される半導体装置1(
図1等参照)における焼結体層30を、半導体モジュール10(
図1等参照)が積載される側(
図2における上側)から見た図である。付言すると、
図4は、
図3に示した半導体装置1から半導体モジュール10を省略した図に対応する。
図4では、半導体モジュール10において、絶縁性基板11(
図3等参照)に半導体素子13が積載されている位置を、破線で示している。
図4に示すように、焼結体層30は、積層方向から見た場合、全体として、絶縁性基板11およびヒートシンク20におけるベース部21の形状に対応した、第1の方向および第2の方向に対向する辺を有する矩形状の形状を有している。そして、
図4に示すように、焼結体層30には、絶縁性基板11とヒートシンク20とが接合されている接合部31と、絶縁性基板11とヒートシンク20とが接合されていない非接合部32とが形成されている。
【0029】
非接合部32は、焼結体が形成されていない溝状の領域である。本実施形態では、非接合部32は、半導体モジュール10とヒートシンク20との積層方向から見て絶縁性基板11に半導体素子13が積載されていない領域に形成されている。
また、非接合部32は、焼結体層30において、積層方向から見て格子状に設けられている。具体的には、非接合部32は、ヒートシンク20の第1の方向(
図4の左右方向)に延びる2個の第1非接合部32aと、第2の方向(
図4の上下方向)に延びる2個の第2非接合部32bとが格子状に設けられている。
この例では、それぞれの第1非接合部32aは、焼結体層30における第1の方向の一端(
図4の左側)から他端(
図4の右側)に亘って連続して設けられている。同様に、それぞれの第2非接合部32bは、焼結体層30における第2の方向における一端(
図4の上側)から他端(
図4の下側)に亘って連続して設けられている。付言すると、それぞれの第1非接合部32aおよび第2非接合部32bは、両端部が焼結体層30の外部に接続されている。
【0030】
また、隣接する第1非接合部32a同士の間隔、隣接する第2非接合部32b同士の間隔、焼結体層30の周縁からそれぞれの第1非接合部32aまでの距離、および焼結体層30の周縁からそれぞれの第2非接合部32bまでの距離は、互いに等しくなっている。
さらに、第1非接合部32aの幅(第2の方向に沿った幅)、および第2非接合部32bの幅(第1の方向に沿った幅)は、互いに等しくなっている。第1非接合部32aの幅および第2非接合部32bの幅は、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。第1非接合部32aの幅および第2非接合部32bの幅は、焼結体層30の面積等によっても異なるが、0μmを超え且つ1000μm以下の範囲を例示することができる。
【0031】
ここで、非接合部32は、焼結体が形成されていないため、接合部31と比べて熱の伝導性が低い。本実施形態では、非接合部32が、絶縁性基板11に半導体素子13が積載されていない領域に形成されることで、半導体素子13で発生した熱のヒートシンク20への伝導が非接合部32によって阻害されることが抑制される。これにより、半導体装置1において、半導体素子13で発生した熱の放熱効率が向上する。
【0032】
また、本実施形態の焼結体層30は、非接合部32によって焼結体層30を構成する焼結体が複数の領域(後述する接合領域311)に分割されている。これにより、例えば焼結体層30に非接合部32が形成されておらず焼結体層30が一体の焼結体で構成される場合と比べて、焼結体層30に生じた内部応力が緩和されやすくなる。付言すると、焼結体層30は、非接合部32が形成されていることで、絶縁性基板11とヒートシンク20との間の熱膨張率の差により焼結体層30に生じた内部応力が緩和されやすくなる。これにより、半導体装置1の使用時に半導体素子13から生じた熱による焼結体層30の破損や、半導体モジュール10とヒートシンク20との剥がれが抑制される。
【0033】
なお、この例では、非接合部32が、積層方向から見て格子状に設けられているが、非接合部32は格子状に限られない。すなわち、焼結体層30に生じた内部応力を緩和する観点、または後述する半導体装置1の製造方法における焼結工程において金属ペーストから発生したガスを排出する観点から、非接合部32は、焼結体が形成されていない溝状の領域が、焼結体層30の端部まで延びていればよい。
【0034】
接合部31は、焼結体によって絶縁性基板11とヒートシンク20とが接合されている領域である。接合部31は、焼結体層30の周縁および格子状の非接合部32に囲まれた、複数の接合領域311からなる。この例では、接合部31は、第1の方向に3個ずつ、第2の方向に3個ずつ、合計9個の接合領域311を含んでいる。
それぞれの接合領域311は、積層方向から見た場合に正方形状を有している。この例では、それぞれの接合領域311の形状および大きさ(積層方向から見た場合の面積)は、互いに等しくなっている。
【0035】
本実施形態では、接合部31の一部が、半導体モジュール10とヒートシンク20との積層方向から見て絶縁性基板11に半導体素子13が積載されている領域に形成されている。この例では、接合部31の9個の接合領域311のうち、上から1番目、且つ左から2番目の接合領域311が、絶縁性基板11に半導体素子13が積載されている領域に形成されている。以下の説明では、接合部31の複数の接合領域311のうち、半導体素子13が積載されている領域に形成された接合領域311を、接合領域311aと表記する。
この例では、付言すると、接合部31の複数の接合領域311のうち、上から1番目、且つ左から2番目の接合領域311が、半導体素子13が積載されている領域に形成された接合領域311aである。
【0036】
本実施形態の焼結体層30では、絶縁性基板11に半導体素子13が積載されている領域に接合部31の接合領域311aが形成されることで、半導体素子13で発生した熱が接合領域311aを介してヒートシンク20へ伝導されやすくなる。これにより、絶縁性基板11に半導体素子13が積載されている領域に接合部31が形成されていない場合と比べて、半導体装置1において、半導体素子13で発生した熱の放熱効率が向上する。
【0037】
ここで、本実施形態の接合部31は、接合領域311aを積層方向から見た面積が、半導体素子13を積層方向から見た面積より大きい。そして、接合部31は、積層方向から見て、半導体素子13が積載されている領域が接合領域311aの中央に重なるように設けられている。これにより、半導体素子13が積載されている領域が接合領域311aの端部に重なるように設けられている場合と比べて、半導体素子13から発生した熱が接合領域311aを介してヒートシンク20へより伝導されやすくなる。
【0038】
また、接合部31は、接合領域311aを積層方向から見た面積が、半導体素子13を積層方向から見た面積の1.1倍以上5.0倍以下であることが好ましい。付言すると、本実施形態では、積層方向から見て、非接合部32で囲まれた接合領域311における焼結体の面積が、半導体素子13の面積の1.1倍以上5.0倍以下であることが好ましい。
接合領域311の面積が上述した範囲を満たすことで、接合領域311の面積が半導体素子13の面積の1.1倍未満である場合と比べて、半導体素子13で発生した熱が接合領域311を介してヒートシンク20へ伝導されやすくなり、半導体装置1において、半導体素子13で発生した熱の放熱効率が向上する。また、接合領域311の面積が上述した範囲を満たすことで、接合領域311の面積が半導体素子13の面積の5.0倍を超える場合と比べて、半導体素子13から生じた熱による内部応力によって、接合領域311を構成する焼結体が破損しにくくなる。
接合領域311の積層方向から見た面積は、半導体素子13を積層方向に見た面積の1.3倍以上4.0倍以下であることがより好ましい。
【0039】
また、焼結体層30において、非接合部32により分割されている接合部31(接合領域311)の数は、2個以上50個以下の範囲を例示することができ、4個以上30個以下の範囲が好ましく、5個以上15個以下の範囲がより好ましい。
また、本実施形態の焼結体層30では、接合部31の複数の接合領域311は互いに等しい形状および面積を有しているが、これらは互いに異なっていてもよい。それぞれの接合領域311の形状が互いに異なる場合、複数の接合領域311のうち、少なくとも半導体素子13が積載される領域に形成された接合領域311aの面積が、上述した要件を満たしていればよい。
【0040】
さらに、本実施形態の焼結体層30では、非接合部32の第1非接合部32aおよび第2非接合部32bは、第1の方向または第2の方向に延びる直線状の形状を有しているが、これに限られない。非接合部32は、焼結体層30を複数の接合部31(接合領域311)に分割する形状であれば、曲線状であってもよい。また、焼結体層30が複数の非接合部32を有する場合、複数の非接合部32の形状は互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、半導体モジュール10の絶縁性基板11上に1つの半導体素子13が接合されている場合を例示したが、絶縁性基板11上に複数の半導体素子13が接合されていてもよい。この場合、焼結体層30は、積層方向から見て、複数の半導体素子13のうち少なくとも1つの半導体素子13が絶縁性基板11に積載されていない領域に、非接合部32が形成されていればよい。この場合、この1つの半導体素子13から発生した熱のヒートシンク20への伝導が、非接合部32によって阻害されることが抑制される。なお、半導体装置1における放熱効率を向上させる観点からは、焼結体層30は、積層方向から見て、絶縁性基板11にいずれの半導体素子13も積載されていない領域に、非接合部32が形成されていることがより好ましい。
【0042】
(半導体装置1の製造方法)
続いて、半導体装置1の製造方法について説明する。
図5(a)~(c)は、半導体装置1の製造方法の一例を説明する図である。ここでは、焼結体層30を構成する焼結体を、接合基材の一例である金属ペーストを用いて形成する場合を例に挙げて説明する。
図5(a)~(c)は、半導体装置1の製造方法における工程を示し、
図5(a)~(c)の順に進む。
図5(a)~(c)は、半導体装置1の製造方法における代表的な工程であって、他の工程を含んでもよい。
図5(a)~(c)は、
図2に示した断面図に対応する。
【0043】
本実施形態の半導体装置1の製造方法は、金属ペーストを半導体モジュール10とヒートシンク20との間の塗布面に塗布して金属ペーストの塗膜層40を形成する塗布工程と、金属ペーストの塗膜層40を介して半導体モジュール10とヒートシンク20とを積層する積層工程と、金属ペーストの塗膜層40を焼結して焼結体層30を形成する焼結工程とを含む。
【0044】
<塗布工程>
塗布工程では、一方の面(配線層112上)に半導体素子13が積載される絶縁性基板11における他方の面(伝熱層113上)と、ヒートシンク20のベース部21における裏面212とのいずれかである接合面に、金属ペーストを塗布して塗膜層40を形成する。
この例では、
図5(a)に示すように、接合面の一例としてヒートシンク20におけるベース部21の裏面212に、金属ペーストを塗布して塗膜層40を形成する。
接合面に金属ペーストを塗布する手法としては、特に限定されず、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、各種のディスペンサやコータを用いた印刷法等を例示することができる。
【0045】
図6は、ヒートシンク20の接合面に金属ペーストを塗布する領域を説明する図である。
図6は、ヒートシンク20のベース部21を、裏面212側から見た図に対応する。なお、
図6では、後述する積層工程において塗膜層40を介してヒートシンク20上に積層される半導体モジュール10(
図5参照)において絶縁性基板11(
図5参照)に半導体素子13が積載されている領域を、破線で示している。さらに、
図6では、後述する焼結工程により焼結体層30が形成される範囲を、破線で示している。
【0046】
塗布工程では、接合面(この例では、ベース部21の裏面212)に対して、積層方向から見て、第1の方向(
図6の左右方向)および第2の方向(
図6の上下方向)に対向する辺を有する矩形状の範囲に金属ペーストを塗布して、塗膜層40を形成する。
本実施形態の塗布工程では、金属ペーストが塗布された塗布部41と、金属ペーストが塗布されない非塗布部42とを含む塗膜層40を形成する。言い換えると、塗布工程では、
図6における塗布部41(後述する塗布領域411)に対応する領域に金属ペーストを塗布することで、塗布部41と非塗布部42とを含む塗膜層40を形成する。また、塗布工程では、接合面に対して、積層方向から見て半導体素子13が積載されない領域に、金属ペーストを塗布しない非塗布部42を設ける。なお、この例では、塗布部41が、接合基材が設けられた設置部の一例であり、非塗布部42が、接合基材が設けられていない非設置部の一例である。
【0047】
塗布工程により形成される塗膜層40において、非塗布部42は、積層方向から見て格子状に設けられている。具体的には、非塗布部42は、第1の方向に延びる2個の第1の溝42aと、第2の方向に延びる第2の溝42bとが格子状に設けられている。付言すると非塗布部42は、積層方向から見て半導体素子13が積載される領域に重ならないように、2個の第1の溝42aと2個の第2の溝42bとが格子状に設けられている。
【0048】
この例では、それぞれの第1の溝42aは、塗膜層40において、第1の方向の一端(
図6の左側)から他端(
図6の右側)に亘って連続して設けられている。同様に、それぞれの第2の溝42bは、塗膜層40において、第2の方向の一端(
図6の上側)から他端(
図6の下側)に亘って連続して設けられている。付言すると、それぞれの第1の溝42aおよび第2の溝42bは、両端部が塗膜層40の外部に接続されている。
詳細については後述するが、塗膜層40の非塗布部42は、焼結工程において金属ペーストから発生した気体を、塗膜層40の外部に排出するために用いられる。
【0049】
また、塗布工程により形成される塗膜層40において、塗布部41は、非塗布部42の第1の溝42aおよび第2の溝42bにより分割された複数の塗布領域411からなる。この例では、塗布部41は、第1の方向に3個ずつ、第2の方向に3個ずつ、合計9個の塗布領域411を含んでいる。
それぞれの塗布領域411は、積層方向から見た場合に正方形状を有している。この例では、それぞれの塗布領域411の形状および大きさ(積層方向から見た場合の面積)が互いに等しくなるように、塗布部41を形成する。
【0050】
本実施形態の塗布工程では、接合面のうち積層方向からみて絶縁性基板11に半導体素子13が積載される領域、および半導体素子13が積載される領域から予め定められた距離にある範囲に、塗布部41(塗布領域411)を形成している。言い換えると、本実施形態の塗布工程では、接合面のうち積層方向から見て絶縁性基板11に半導体素子13が積載される領域、および半導体素子13が積載される領域から予め定められた距離にある範囲には、非塗布部42(第1の溝42aおよび第2の溝42b)を設けない。
塗布工程では、このように塗布部41および非塗布部42を含む塗膜層40を形成することで、本実施形態の製造方法により得られる半導体装置1において、積層方向からみて絶縁性基板11に半導体素子が積載される領域、および半導体素子13が積載される領域から予め定められた距離にある範囲に、焼結体が形成されない非接合部32が形成されなくなる。これにより、半導体装置1において、半導体素子13で発生した熱のヒートシンク20への伝導が非接合部32によって阻害されることが抑制され、半導体装置1による放熱効率が向上する。
【0051】
なお、塗布工程で形成する塗膜層40において、非塗布部42(第1の溝42aおよび第2の溝42b)の幅や、塗布部41(塗布領域411)の面積等は、後述する積層工程および焼結工程を経て得られる焼結体層30の形状が目的の形状となるように設定する。付言すると、非塗布部42の幅や塗布部41の面積等は、塗膜層40の形成に用いる金属ペーストの粘度や、積層工程において塗膜層40を介してヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを積層する際の押圧力、焼結工程における焼結条件等を考慮して、得られる焼結体層30の形状が目的の形状となるように設定する。
接合基材として金属ペーストを用いる本実施形態では、塗布工程が、接合面に金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程に相当する。
【0052】
<積層工程>
積層工程では、
図5(b)に示すように、塗布工程により形成された塗膜層40の金属ペーストを介して、ヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを積層する。この例では、ヒートシンク20におけるベース部21の裏面212上に形成された塗膜層40上に、半導体モジュール10における絶縁性基板11の伝熱層113を重ねる。
積層工程では、塗膜層40がヒートシンク20と半導体モジュール10とに挟まれることで、塗膜層40における塗布部41(塗布領域411)の金属ペーストがベース部21および絶縁性基板11の面方向に拡がり、積層方向から見た塗布部41の面積が大きくなる。これに伴って、それぞれの塗布領域411の間に設けられた非塗布部42(第1の溝42a、第2の溝42b)の幅が狭くなる。
【0053】
塗膜層40を介してヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを積層する際には、ヒートシンク20および半導体モジュール10に対して押圧力を付与してもよく、無加圧であってもよい。ヒートシンク20および半導体モジュール10に付与する押圧力は、塗布部41の金属ペーストが面方向に広がった場合であっても、第1の溝42aおよび第2の溝42bの幅が0とならないように、言い換えると、塗膜層40に非塗布部42が残存するように、設定する。このような押圧力としては、塗膜層40の形成に用いる金属ペーストの粘度等によっても異なるが、0.01MPa以下、好ましくは0.005MPa以下の範囲を例示することができる。また、押圧力を付与する方法としては、特に限定されないが、半導体モジュール10上に重りを載せる方法等を例示することができる。
【0054】
<焼結工程>
焼結工程は、
図5(c)に示すように、塗膜層40(
図5(b)参照))を加熱して塗膜層40を構成する金属ペーストを焼結し、ヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを接合する焼結体からなる焼結体層30を形成する。
焼結工程では、塗膜層40の塗布部41を構成する金属ペーストが焼結されることで、焼結体層30の接合部31が形成される。付言すると、塗膜層40の塗布部41におけるそれぞれの塗布領域411から、焼結体層30の接合部31におけるそれぞれの接合領域311が形成される。また、焼結工程では、塗膜層40の非塗布部42におけるそれぞれの第1の溝42aおよび第2の溝42bから、焼結体層30の非接合部32における第1非接合部32aおよび第2非接合部32bが形成される。
【0055】
ここで、焼結工程において塗膜層40を構成する金属ペーストを焼結する際には、金属ペーストに含まれる溶媒が揮発したアウトガス等の気体が発生する。そして、発生した気体が塗膜層40に留まった状態で塗膜層40を構成する金属ペーストが焼結されると、塗膜層40から形成される焼結体層30に、金属ペーストから発生した気体に由来する空隙が発生するおそれがある。この場合、焼結体層30を介した半導体モジュール10とヒートシンク20との接合強度が低下するおそれがある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、上述した塗布工程において、塗膜層40に金属ペーストを塗布しない非塗布部42を設けている。これにより、焼結工程において塗膜層40の金属ペーストから気体が発生した場合であっても、気体が、非塗布部42を介して塗膜層40の外部に排出されやすくなる。この結果、金属ペーストから発生した気体が塗膜層40に留まった状態で金属ペーストが焼結されることが抑制され、焼結体層30を介した半導体モジュール10とヒートシンク20との接合強度の低下が抑制される。
特に、本実施形態では、上述した塗布工程において、非塗布部42の第1の溝42aおよび第2の溝42bの両端部が塗膜層40の外部に接続されるように、塗膜層40を形成している。これにより、焼結工程において塗膜層40の金属ペーストから発生した気体が、非塗布部42の第1の溝42aおよび第2の溝42bを介して塗膜層40の外部により排出されやすくなる。
【0057】
焼結工程において塗膜層40を加熱する際の温度は、金属ペーストに含まれる金属粒子の種類等によっても異なるが、150℃以上500℃以下の範囲を例示することができる。
また、焼結工程では、半導体モジュール10とヒートシンク20とを塗膜層40を介して積層方向に押圧しながら焼結を行ってもよく、半導体モジュール10とヒートシンク20とを押圧せずに無加圧で焼結を行ってもよい。焼結工程において半導体モジュール10とヒートシンク20とを押圧する場合、押圧力は、25MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。焼結工程において半導体モジュール10とヒートシンク20とを押圧する押圧力が10MPaを超える場合、非塗布部42の幅が狭くなって、金属ペーストから発生した気体が塗膜層40の非塗布部42を介して排出されにくくなる。また、焼結工程において半導体モジュール10とヒートシンク20とを押圧する押圧力が25MPaを超える場合、絶縁性基板11等の構造物が破損する可能性がある。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、塗布工程、積層工程および焼結工程により、半導体モジュール10と、ヒートシンク20と、焼結体層30とを備え、半導体モジュール10の絶縁性基板11に半導体素子13が積載されていない領域に、絶縁性基板11とヒートシンク20とが接合されていない非接合部32が形成された
図1~
図4の半導体装置1が得られる。
【0059】
なお、上述した半導体装置1の製造方法では、絶縁性基板11上に半導体素子13が接合された半導体モジュール10と、ヒートシンク20との間に、塗膜層40を形成したが、これに限られるものではない。
例えば、半導体素子13が接合される前の絶縁性基板11とヒートシンク20との間に塗膜層40を形成し、焼結して焼結体層30を形成した後に、絶縁性基板11上に半導体素子13を接合して半導体モジュール10としてもよい。この場合、接合面に金属ペーストを塗布して塗膜層40を形成する塗布工程において、塗布部41と非塗布部42とを形成し、積層工程および焼結工程により、接合部31と非接合部32とを有する焼結体層30を形成する。そして、その後の絶縁性基板11に半導体素子13を接合する接合工程において、積層方向から見て、塗膜層40の塗布部41に対応する焼結体層30の接合部31と重なる絶縁性基板11の領域に、半導体素子13を接合すればよい。
【0060】
(金属ペースト)
続いて、本実施形態の半導体装置1において、焼結体層30の形成に用いる金属ペーストの一例について、詳細に説明する。
金属ペーストは、金属粒子と、金属粒子を分散する溶媒とを含む。また、金属ペーストは、金属粒子および溶媒以外の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、界面活性剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
【0061】
<金属粒子>
金属粒子としては、上述したように、銅、銀、銅と銀との合金から選択された金属の粒子を例示することができる。また、金属粒子としては、表面を銀で被覆した銅からなる粒子を用いてもよい。
これらの中でも、焼結体層30を介した半導体モジュール10とヒートシンク20との熱の伝導性の観点から、金属粒子として銅粒子を用いることが好ましい。
【0062】
金属粒子の平均粒径(50%堆積平均粒径)は、0.1μm以上500μm以下の範囲を例示することができ、1μm以上200μm以下の範囲が好ましく、10μm以上100μm以下の範囲がより好ましい。
なお、金属粒子の平均粒子径は、金属ペーストから溶媒を除去し乾燥させた金属粒子を、公知の分散剤を用いて分散させたものを光散乱法粒度分布測定装置で測定する方法により求めることができる。
【0063】
金属粒子の形状は、特に限定されず、球状、回転楕円体等の略球状、塊状、針状、フレーク状、これらの凝集体等を例示することができる。金属粒子のこれらの形状は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。金属ペーストにおける金属粒子の分散性や焼結体層30における金属粒子の充填性等の観点からは、金属粒子の形状は、球状、略球状またはフレーク状であることが好ましい。
また、金属粒子は、公知の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。
【0064】
<溶媒>
溶媒としては、金属ペーストの溶媒として公知の揮発性の溶媒を用いることができる。このような溶媒としては、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テルピネオール、ジヒドロタピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール(MTPH)等の一価及び多価アルコール類;エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DPMA)、乳酸エチル、乳酸ブチル、トリブチリン、ステアリン酸ブチル、スクアラン、セバシン酸ジプチル、アジピン酸ビス(2―エチルヘキシル)、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等の酸アミド;シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;炭素数1~18のアルキル基を有するメルカプタン類;炭素数5~7のシクロアルキル基を有するメルカプタン類が挙げられる。
【0065】
また、金属ペーストにおける溶媒の含有量は、金属粒子の全質量を100質量部とした場合に、5質量部以上50質量部以下の範囲を例示することができる。
【0066】
(接合用シートを用いた焼結体の形成)
上述したように、本実施形態の焼結体層30を構成する焼結体は、金属粒子を含む接合基材の他の一例として、金属粒子を含む接合用シートを用いて形成してもよい。具体的には、上述した金属ペーストを用いた場合の半導体装置1の製造方法における塗布工程に代えて、以下の成形工程および貼り付け工程を行えばよい。そして、貼り付け工程後、上述した例と同様に、積層工程および焼結工程を行えばよい。
【0067】
<成形工程>
成形工程では、金属粒子を含む接合用シートを、焼結体層30が形成される領域の形状に合わせて、成形する。成形工程では、例えば、上述した塗布工程における塗膜層40の塗布部41と同様の形状となるように、接合用シートを成形する。
なお、貼り付け工程の後に行われる積層工程や焼結工程では、接合用シートがヒートシンク20と半導体モジュール10とに挟まれることで、接合用シートの面積が大きくなる場合がある。したがって、成形工程では、積層工程および焼結工程を経て得られる焼結体層30の形状が目的の形状となるように、接合用シートを成形する。
【0068】
<貼り付け工程>
貼り付け工程では、成形工程にて成形した接合用シートを、一方の面(配線層112上)に半導体素子13が積載される絶縁性基板11における他方の面(伝熱層113上)と、ヒートシンク20のベース部21における裏面212とのいずれかに、貼り付ける。この例では、一例としてヒートシンク20におけるベース部21の裏面212に、接合用シートを貼り付ける。接合用シートを貼り付ける面が、接合面である。
貼り付け工程では、ベース部21の裏面212に対して、積層方向から見て一部の領域に、接合用シートを貼り付ける。具体的には、貼り付け工程では、上述した塗布工程において金属ペーストを塗布する塗布部41に対応する領域に、接合用シートを貼り付ける。また、貼り付け工程では、上述した塗布工程において金属ペーストを塗布しない非塗布部42に対応する領域には、接合用シートを貼り付けない。なお、貼り付け工程において、接合面に接合用シートを貼り付けられた領域が、接合基材が設けられた設置部の一例であり、接合面に接合用シートを貼り付けられていない領域が、接合基材が設けられていない非設置部の一例である。
接合基材として接合用シートを用いる本実施形態では、貼り付け工程が、接合面に金属粒子を含む接合基材を設ける基材設置工程に相当する。
【0069】
<積層工程>
積層工程では、上述した例と同様に、貼り付け工程で貼り付けた接合用シートを介して、ヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを積層する。この例では、ヒートシンク20におけるベース部21の裏面212上に貼り付けられた接合用シートに、半導体モジュール10における絶縁性基板11の伝熱層113を重ねる。
【0070】
<焼結工程>
焼結工程では、上述した例と同様に、接合用シートを加熱して接合用シートに含まれる金属粒子を焼結し、ヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを接合する焼結体からなる焼結体層30の接合部31を形成する。なお、焼結工程では、接合用シートに含まれる溶媒が揮発したアウトガス等の気体が発生する。本実施形態では、上述した貼り付け工程において、間隙をあけて複数の接合用シートを貼り付けている。これにより、焼結工程において接合用シートから気体が発生した場合であっても、気体が接合用シートの間隙を介して外部に排出されやすくなる。
【0071】
以上のように、金属粒子を含む接合用シートを用いた場合も金属ペーストを用いた場合と同様に、半導体モジュール10と、ヒートシンク20と、焼結体層30とを備え、半導体モジュール10の絶縁性基板11に半導体素子13が積載されていない領域に、絶縁性基板11とヒートシンク20とが接合されていない非接合部32が形成された半導体装置1が得られる。
【0072】
(接合用シート)
接合用シートは、金属粒子を含む。金属粒子としては、上述した金属ペーストに用いられる金属粒子と同様のものを用いることができる。接合用シートとしては、以下の3つの態様を例示することができる。
【0073】
<第1の態様>
第1の態様の接合用シートは、金属粒子と、熱分解性樹脂からなるバインダとを含む。第1の態様の接合用シートは、熱分解性樹脂からなるバインダにより金属粒子が保持されることで、シート状の形状をなしている。
熱分解樹脂とは、上述した焼結工程において加熱することにより熱分解が可能な樹脂である。熱分解性樹脂は、熱分解することで、焼結工程により形成される焼結体層30にはほとんど残存しないことが好ましい。熱分解性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱分解性が高いポリカーボネートを用いることが好ましい。
【0074】
第1の態様の接合用シートにおける熱分解性樹脂の含有量は、接合用シート全体に対して30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、35体積%以上65体積%以下であることがより好ましく、40体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。
また、第1の態様の接合用シートは、金属粒子および熱分解性樹脂に加えて、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0075】
<第2の態様>
第2の態様の接合用シートは、金属粒子と、室温でロウ状または液体状の溶媒からなるバインダとを含む。第2の態様の接合用シートは、溶媒からなるバインダにより金属粒子が保持されることで、シート状の形状をなしている。
溶媒としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブタントリオール、ポリオキシプロピレントリオール等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
第2の態様の接合用シートにおける溶媒の含有量は、接合用シート全体に対して1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
また、第2の形態の接合用シートは、金属粒子および溶媒に加えて、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0077】
<第3の態様>
第3の態様の接合用シートは、隣接する金属粒子同士が連続し、且つ金属粒子間に空孔が形成された多孔質体からなる。第3の態様の接合用シートは、例えば、金属粒子を焼結することにより形成される。なお、第3の態様の接合用シートは、金属粒子が完全には焼結されておらず、上述した焼結工程により金属粒子をさらに焼結して、ヒートシンク20と半導体モジュール10の絶縁性基板11とを接合することが可能な状態となっている。
第3の態様の接合用シートは、空孔率が15体積%以上50体積%以下であることが好ましく、15体積%以上30体積%以下であることがより好ましい。
また、第3の形態の接合用シートは、金属粒子に加えて、接着助剤、還元剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限りにおいては様々な変形や組み合わせを行っても構わない。
また、本発明は、本製造方法により作成された、
図1~
図4に示したような半導体装置1にも適用される。
【符号の説明】
【0079】
1…半導体装置、10…半導体モジュール、11…絶縁性基板、13…半導体素子、15…接合層、20…ヒートシンク、21…ベース部、22…フィン、30…焼結体層、31…接合部、32…非接合部、32a…第1非接合部、32b…第2非接合部、40…塗膜層、41…塗布部、42…非塗布部、42a…第1の溝、42b…第2の溝