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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055423
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】摩擦部材センサシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/00 20060101AFI20240411BHJP
   F16D 66/02 20060101ALI20240411BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
F16D66/00 Z
F16D66/02 D
G01B7/00 101R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162346
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢田 智春
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
(72)【発明者】
【氏名】山口 慶之
【テーマコード(参考)】
2F063
3J058
【Fターム(参考)】
2F063AA22
2F063BA09
2F063BB02
2F063DA02
2F063DA05
2F063FA09
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA62
3J058AA87
3J058BA01
3J058CA42
3J058CA47
3J058DB02
3J058DB06
3J058FA06
3J058GA92
(57)【要約】
【課題】ディスクブレーキ装置がウェット状態またはドライ状態であること、さらには摩擦材の摩耗状態を直接検知することができる摩擦部材センサシステムを提供する。
【解決手段】摩擦部材センサシステム100は、少なくとも一部が抵抗体で構成され、支持部材によりディスクロータ10に接触可能に配置される摩擦材22を備えた摩擦部材20と、抵抗体を構成する摩擦材22の内部に対向配置されている一対の電極30と、一対の電極30による測定結果から検知信号を生成する検知部40とを備える。一対の電極30の一端はディスクロータ10と接触する摩擦材22の一方の面に露出し、検知部40は、支持部材により予め設定される間隙を介して摩擦材22とディスクロータ10が対向配置されている状態で、一対の電極30により測定される抵抗値等から、検知信号を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が抵抗体で構成され、支持部材によりディスクロータに接触可能に配置される摩擦材を備えた摩擦部材と、
前記抵抗体を構成する前記摩擦材の内部に対向配置されている一対の電極と、
前記一対の電極による測定結果から検知信号を生成する検知部と
を備え、
前記一対の電極は、少なくとも一端を前記ディスクロータと接触する前記摩擦材の一方の面に露出し、
前記検知部は、前記支持部材により予め設定される間隙を介して前記摩擦材と前記ディスクロータが対向配置されている状態で、前記一対の電極により測定される電流値または前記電流値から算出される抵抗値から、前記検知信号を生成する
摩擦部材センサシステム。
【請求項2】
前記摩擦材は、第1領域と、前記第1領域を構成する材料に導電性材料が添加された抵抗体で構成される第2領域とを有し、
前記一対の電極は、前記摩擦材の前記第2領域の内部に対向配置される、
請求項1記載の摩擦部材センサシステム。
【請求項3】
前記検知部は、前記一対の電極により測定される前記電流値または前記電流値から算出される前記抵抗値が、前記一対の電極のショート状態を含む予め設定される条件を満たすか否かを判定し、推定される路面状態を示す前記検知信号を生成する、
請求項1または2記載の摩擦部材センサシステム。
【請求項4】
前記一対の電極は、前記抵抗体を構成する摩擦材の厚さ方向に貫通するように配置され、
前記検知部は、前記一対の電極により測定される前記電流値または前記電流値から算出される前記抵抗値が、前記一対の電極のショート状態を含む予め設定される条件を満たすか否かを判定し、前記摩擦材の摩耗状態を示す前記検知信号を生成する、
請求項1または2記載の摩擦部材センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のブレーキ装置に使用される摩擦部材センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車には、走行を安定させる運転支援システムや自動運転システムを実現するために、周囲の状況を検知する各種センサが備えられている。例えば路面状況を検知するため、撮像手段や赤外線センサ等を備える路面状態検知手段を備える運転支援システムが開示されている(特許文献1)。
【0003】
従来開示されている路面状態検知手段は、撮像手段や赤外線センサ等により路面を監視し、路面が濡れている状態か否かを検知するものである。このように撮像手段や赤外線センサ等によって路面の状態を直接観察し、路面を監視することで、ハイドロプレーニング現象により制動距離が長くなることやハンドリングが難しくなることを想定した運転支援や自動運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-91388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車の制動のために使用されているディスクブレーキ装置は、バックプレートに摩擦材を張り付けた摩擦部材(ブレーキパット)を支持部により車輪等と一体に回転するディスクロータの両側に配置し、両摩擦部材をそれぞれディスクロータ側に押圧して車輪等を制動する。
【0006】
ディスクブレーキ装置を備えている自動車が雨天時に走行する場合、ディスクブレーキ装置の摩擦材とディスクロータとの間に雨水が入り込んでしまう。このように雨水が入り込んだ状態(ウェット状態)で制動を行うと、摩擦材とディスクロータとの間に雨水のない状態(ドライ状態)と比較して制動性能が悪くなってしまう。一般的な自動車では、撮像手段等の路面状態検知手段により路面が濡れている状態と検知される場合、ディスクブレーキ装置がウェット状態であると推定し、ウェット状態に対応する制動制御が行われる。制動制御を適切に行うためには、ディスクブレーキ装置がウェット状態であることを直接検知することが好ましい。
【0007】
そこで本発明は、ディスクブレーキ装置がウェット状態またはドライ状態であること、さらには摩擦材の摩耗状態を直接検知することができる摩擦部材センサシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の摩擦部材センサシステムは、少なくとも一部が抵抗体で構成され、支持部材によりディスクロータに接触可能に配置される摩擦材を備えた摩擦部材と、前記抵抗体を構成する前記摩擦材の内部に対向配置されている一対の電極と、前記一対の電極による測定結果から検知信号を生成する検知部とを備え、前記一対の電極は、少なくとも一端を前記ディスクロータと接触する前記摩擦材の一方の面に露出し、前記検知部は、前記支持部材により予め設定される間隙を介して前記摩擦材と前記ディスクロータが対向配置されている状態で、前記一対の電極により測定される電流値または前記電流値から算出される抵抗値から、前記検知信号を生成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ディスクブレーキ装置がウェット状態またはドライ状態であること、さらには摩擦材の摩耗状態を直接検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である摩擦部材センサシステム(実施形態1)の説明図である。
図2】実施形態1の摩擦部材センサシステムの説明図で、検知部の一例を説明する図である。
図3】実施形態1の摩擦部材センサシステムが実行する処理の一例のフローチャートである。
図4】実施形態1の摩擦部材センサシステムによる抵抗値の測定結果を説明する図で、ディスクブレーキ装置がドライ状態の場合の測定結果の説明図である。
図5】実施形態1の摩擦部材センサシステムによる抵抗値の測定結果を説明する図で、ディスクブレーキ装置がウェット状態の場合の測定結果の説明図である。
図6】実施形態1の摩擦部材センサシステムにおいて、ウェット状態にあるディスクブレーキ装置の説明図である。
図7】本発明の一実施形態である摩擦部材センサシステム(実施形態2)の説明図である。
図8】実施形態2の摩擦部材センサシステムの説明図で、検知部の一例を説明する図である。
図9】本発明の一実施形態である摩擦部材センサシステム(実施形態3)が実行する処理の一例のフローチャートである。
図10】実施形態3の摩擦部材センサシステムの説明図で、摩擦材の摩耗状態を検知する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の摩擦部材センサシステムについて、図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に説明する部材、材料等は、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また図面において同一符号は同等あるいは同一のものを示し、各構成要素間の大きさや位置関係などは便宜上のものであり、実態を反映したものではない。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本発明の摩擦部材センサシステムの実施形態1の説明図である。図1に示すように本実施形態に係る摩擦部材センサシステム100は、車輪等と一体に回転するディスクロータ10の両側からディスクロータ10側にそれぞれ押圧して車輪等を制動するディスクブレーキ装置の摩擦部材20を含む構成とされている。摩擦部材20には電極30が配置され、この電極30を用いた測定により、検知部40からディスクブレーキ装置の状態を示す検知信号を生成することができる。
【0013】
摩擦部材20は、支持部材の一部を構成するバックプレート21に摩擦材22が接着部材により張り付けられている。摩擦部材20は、摩擦材22の表面が所定の間隙だけ離れた状態でディスクロータ10に対向配置され、制動が行われている状態では図示しない支持部材によりディスクロータ10に押圧されて摩擦材22がディスクロータ10に接触する。支持部材は、一般的なディスクブレーキ装置に採用されている支持部材と同一とすることができる。
【0014】
摩擦材22は、一般的な材料で構成されている。具体的には、例えばフェノール樹脂等の結合材、アラミドパルプ等の繊維基材、グラファイトや二硫化モリブデン等の潤滑材、酸化ジルコニウムやケイ酸ジルコニウム等の無機摩擦調整材、カシューダスト等の有機摩擦調整材、硫酸バリウム等の充填材等を含む複合材料で構成され、電気伝導率の低い抵抗体で構成されている。この電気伝導率は所望の検知信号を得るため、後述する電極30間が高抵抗状態となるように適宜設定されている。
【0015】
電極30は、摩擦材22の内部に対向配置されている。図1に示す例では、摩擦部材20を貫通するように配置され、一対の電極30は、導電性物質に接触しない限りショート状態および低抵抗状態とならず、高抵抗状態となるように配置されている。バックプレート21が導電性材料で構成される場合には、図1に示すようにバックプレート21の一部を切り欠いた構成とすることで高抵抗状態とすることができる。ここで、高抵抗状態とは、ディスクブレーキ装置による制動が行われている場合に測定される抵抗値より大きい抵抗値となる状態となる。例えば、低抵抗状態の抵抗値より一桁程度以上高い抵抗値となる状態とすると、低抵抗状態と高抵抗状態の判定が容易となり好ましい。
【0016】
電極30の一端は検知部40に接続され、別の一端はディスクロータ10と接触する摩擦材22の表面に露出するように配置されている。摩擦材22のディスクロータ10との接触面は、制動を繰り返すことにより摩耗し、摩擦材22の厚さは薄くなる。そのため、電極30は摩擦材22の摩耗とともに摩耗し、ディスクロータ10と接触する摩擦材22の表面上の露出面が、摩擦材22の表面とほぼ同一面となる材料から選択するのが好ましい。一例としてアルミニウムで構成することができる。電極30が摩擦材22の摩耗とともに摩耗して電極30を構成する導電性物質が摩擦材22表面に付着すると、この付着した導電性物質により一対の電極30間がショート状態となり、所望の検知ができなくなる場合がある。そこで、少なくとも電極30間に電極30を構成する導電性物質が付着しないように、ディスクロータ10の回転方向に応じて電極30を配置するのが好ましい。
【0017】
検知部40は、電極30を用いた測定結果から、ディスクブレーキ装置の状態を示す所望の検知信号を生成する。生成された検知信号は、ECU(Electronic Control Unit)に出力され、例えばディスクブレーキ装置の制動制御等、操舵力をアシストするための制御信号とすることができる。なお検知部40の動作は、ECU等により制御する構成とすることができる。
【0018】
まず、ディスクブレーキ装置の状態検知の一例としてディスクブレーキ装置がウェット状態であるかドライ状態であるかを検知することができる摩擦部材センサシステムについて説明する。図2は本実施形態の摩擦部材センサシステム100Aの説明図であり、検知部40の一例を説明する図である。図3図2に示す本実施形態の摩擦部材センサシステム100Aが実行する処理の一例のフローチャートである。
【0019】
自動車のディスクブレーキ装置は、減速や停止のために制動する場合を除けば、図2に示すようにディスクロータ10と摩擦材22は所定の間隔だけ離れた状態で対向配置されている。本実施形態の摩擦部材センサシステム100Aは、この状態で所望の検知を行う。走行中に、測定部42から一対の電極30間に所望の電圧が印加されると、電極30間に流れる電流値の測定が開始される(S01)。自動車の走行中には、減速や停止のために制動が行われ、ディスクロータ10と摩擦材22が接触した状態となり、図2に示すような状態でない場合がある。そこで、ディスクブレーキ装置により制動が行われていない状態、すなわち摩擦材22のディスクロータ10側の表面に露出する電極30がディスクロータ10に接していない状態であることを確認するため、例えば検知部40にディスクブレーキ装置の状態を示すブレーキ状態信号を入力し、ブレーキ状態判定部41で制動中か否かの判定を行う(S02)。ブレーキ状態信号は、例えばブレーキ液圧の圧力が所定の値を上回った場合、ブレーキペダル踏力スイッチがオンとなった場合、ペダルストロークセンサーのストローク量が所定の値を上回った場合等に、ブレーキランプを点灯させるための信号を用いることができる。この場合、ブレーキ状態判定部41によりブレーキ状態信号(ブレーキランプを点灯させるための信号)が入力されれば、制動中であると判定される。制動中であれば、抵抗測定は実施せず、制動を監視する状態へ移行する。
【0020】
ブレーキ状態判定部41により制動中でないと判定される場合には、測定部42により測定された電流値から抵抗値が算出され、この抵抗値を状態判定部43が取得する(S03)。算出された抵抗値は、状態判定部43内に備えられる記憶装置に順次記憶される。
【0021】
状態判定部43では、取得された抵抗値からディスクブレーキ装置の状態を判定する。図4および5は、本実施形態の摩擦部材センサシステムによる抵抗値の測定結果を説明する図であり、下段のグラフは横軸が走行時間(単位:sec)、縦軸が検知部40の状態判定部43で取得された抵抗値を示している。図4および5の上段のグラフは、下段のグラフの走行時間における摩擦部材をディスクロータに押し当てるためにピストンを動作させるための液圧(単位:MPa)を示している。
【0022】
図4に示す例は、乾いている道路を走行している場合の例である。すなわち、ディスクブレーキ装置がドライ状態の場合の測定結果を示す。図4に示すように、液圧が高くなるとき摩擦材22および電極30の表面がディスクロータ10に押圧され、抵抗値が低下していることがわかる。この低下する抵抗値のばらつきは、摩擦材22がディスクロータ10に接触する状態の差、すなわち制動の強さの違いによるもので、摩擦材22がディスクロータ10に弱く押圧された状態であるか、または強く押圧された状態であるかにより抵抗値がばらついている。
【0023】
図5に示す例は、濡れている道路を走行している場合の例である。すなわち、ディスクブレーキ装置がウェット状態の場合の測定結果を示す。図5に示す例では、液圧が高くない状態で、抵抗値が低い状態と抵抗値が高い状態を繰り返していることがわかる。また図4で説明したように、液圧が高くなるとき摩擦材22および電極30の表面がディスクロータ10に押圧され、抵抗値が低下していることがわかる。
【0024】
このようにディスクブレーキ装置がウェット状態の場合の測定結果は、液圧が高くない状態で、抵抗値が低い状態と抵抗値が高い状態を繰り返す現象が生じている。これは図6に本実施形態の摩擦部材センサシステム100Aにおいてディスクブレーキ装置がウェット状態の場合の説明図を示すように、ディスクロータ10と摩擦材22は所定の間隔だけ離れた状態で対向配置されているにも関わらず、この間隙に導電性を有する雨水50が入り込み、電極30間をショート状態または低抵抗状態とするためと考えられる。ディスクロータ10と摩擦材22の間隙に入り込んだ雨水50は、摩擦材22がディスクロータ10に押圧される際に押し出される。例えば図5において走行時間300(sec)において雨水が押し出されると、その後は抵抗値が安定している。しかし走行が続くと再度雨水50の影響により抵抗値がばらつく現象が現れている。
【0025】
つまり、基本的に抵抗値が液圧と連動して変化し、かつ液圧と連動しないで変化する頻度が低い、という現象は、ディスクブレーキ装置がドライ状態の場合の変化に特徴的に表れることがわかる。また、抵抗値が液圧と連動せずに変化する状態が所定の時間継続して繰り返し発生し、かつ抵抗値が液圧と連動して変化した後一定時間は液圧と連動しない抵抗値の変化が生じない、という現象は、ディスクブレーキ装置がウェット状態の場合の変化に特徴的に表れていることがわかる。
【0026】
このような抵抗値の特徴的な変化から状態判定部43において、ディスクブレーキ装置の状態を判定する(S04)。例えば、図4に示すように抵抗値と液圧とが連動して変化する場合を抵抗値が安定している状態とし、このような抵抗値が安定する状態が継続する場合をディスクブレーキ装置がドライ状態であると判定する(S05)。これに対し、図5に示すように抵抗値と液圧とが連動せずに変化する場合を抵抗値が不安定な状態とし、このような抵抗値が不安定な状態が継続する場合をディスクブレーキ装置がウェット状態であると判定する(S06)。判定結果は図2および6に示すように検知信号として出力され(S07)、走行中であれば、再度測定を開始する(S01)。出力される検知信号は、例えばECUに出力され、ディスクブレーキ装置の状態にあわせて制動制御を行うことができる。
【0027】
走行状態から停車状態に移行した場合には、測定を終了(S08)し、再度自動車の走行が開始された場合には、電流値の測定を開始する(S01)。ブレーキ状態判定部41により制動中でないと判定される場合には、測定部42により抵抗値の取得(S03)が繰り返される。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の摩擦部材センサシステム100Aによれば、ディスクブレーキ装置の状態(ドライ状態かウェット状態か)を直接判定することができる。この判定結果に基づき生成される検知信号によって制動制御等を行えば、安全性の高い制動制御等を行うことが可能となる。この検知信号は、推定される路面状態を示す信号と同じように扱うこともできる。そこで、この路面状態を示す検知信号を、濡れた路面を走行する場合に求められる車両安定制御を行うESC(Electronic Stability Control)や、ブレーキやステアリングの統合制御を行うECU等へ送ることにより、安心・安全な走行を実現することができる。
【0029】
(実施形態2)
次に本発明の摩擦部材センサシステムの実施形態2について説明する。図7は、本発明の摩擦部材センサシステムの実施形態2の説明図である。上記実施形態1同様、本実施形態に係る摩擦部材センサシステム200は、車輪等と一体に回転するディスクロータ10の両側からディスクロータ10側にそれぞれ押圧して車輪等を制動するディスクブレーキ装置の摩擦部材20を含む構成とされている。摩擦部材20には電極30が配置され、この電極30を用いた測定により、検知部40からディスクブレーキ装置の状態を示す検知信号を生成することができる。
【0030】
摩擦部材20は、支持部材の一部を構成するバックプレート21に第1領域となる摩擦材22Aと第2領域となる摩擦材22Bとからなる摩擦材が接着部材により張り付けられている。摩擦部材20は、摩擦材22Aおよび22Bの表面が所定の間隙だけ離れた状態でディスクロータ10に対向配置され、制動が行われている状態では図示しない支持部材によりディスクロータ10に押圧されて摩擦材22Aおよび22Bがディスクロータ10に接触する。支持部材は、一般的なディスクブレーキ装置に採用されている支持部材と同一とすることができる。
【0031】
本実施形態において摩擦材22Aは、一般的な材料で構成されている。具体的には、例えばフェノール樹脂等の結合材、アラミドパルプ等の繊維基材、グラファイトや二硫化モリブデン等の潤滑材、酸化ジルコニウムやケイ酸ジルコニウム等の無機摩擦調整材、カシューダスト等の有機摩擦調整材、硫酸バリウム等の充填材等を含む複合材料で構成され、電気伝導率の高い抵抗体で構成されている。また摩擦材22Bは、摩擦材22A同様、一般的な材料で構成され、摩擦材22Aより電気伝導率が低い抵抗体で構成されている。一例としてグラファイトの量を多くする。この摩擦材22Bの電気伝導率は所望の検知信号を得るため、電極30間が高抵抗となるように適宜設定されている。
【0032】
電極30は、摩擦材22Bが配置される第2領域の厚さ方向に摩擦部材20を貫通するように配置され、一対の電極30は、導電性物質に接触しない限りショート状態および低抵抗状態とならず、高抵抗状態となるように配置されている。バックプレート21が導電性材料で構成される場合、図7に示すようにバックプレート21の一部を切り欠き、摩擦材22Bで充填する構成とすればよい。摩擦材22Bをボトルネック構造とすると、摩擦材22Bをバックプレート21に確実に配置することができる。上記実施形態1同様、高抵抗状態とは、ディスクブレーキ装置による制動が行われている場合に測定される抵抗値より大きい抵抗値となる状態となる。例えば、低抵抗状態の抵抗値より一桁程度以上高い抵抗値となる状態とすると、低抵抗状態と高抵抗状態の判定が容易となり好ましい。
【0033】
本実施形態の摩擦部材センサシステム200は、上記実施形態1で説明した摩擦部材センサシステム100と比較して、摩擦材を第1領域となる摩擦材22Aと第2領域となる摩擦材22Bとによって構成する点が相違している。このように組成の異なる材料からなる第1領域となる摩擦材22Aおよび第2領域となる22Bにより摩擦材を構成すると、摩擦材として耐久性(摩耗性)を保ちつつ、所望の電気伝導率に調整することが容易となり、好ましい。
【0034】
検知部40は、電極30を用いた測定結果から、ディスクブレーキ装置の状態を示す所望の検知信号を生成する。生成された検知信号は、ECUに出力され、例えばディスクブレーキ装置の制動制御等、操舵力をアシストするための制御信号とすることができる。なお、検知部40の動作は、ECU等により制御する構成とすることができる。
【0035】
本実施形態においても、ディスクブレーキ装置の状態検知の一例としてディスクブレーキ装置がウェット状態であるかドライ状態であるかを検知することができる。この場合、上記実施形態1の摩擦部材センサシステム100A同様、本実施形態の摩擦部材センサシステム200Aの検知部40を構成することができる。図8は本実施形態の摩擦部材センサシステム200Aの説明図であり、検知部40の一例を説明する図である。本実施形態においても、上記実施形態1で説明した図3に示すフローチャートに従い、同様の処理を実行することができる。
【0036】
(実施形態3)
次に本発明の摩擦部材センサシステムの実施形態3について説明する。上記実施形態1および2で説明した摩擦部材センサシステム100Aおよび200Aでは、ディスクブレーキ装置がドライ状態の場合の抵抗値が、それぞれ摩擦材22、摩擦材22Aおよび22Bの摩耗状態、すなわち厚さに応じて変化する。この抵抗値の変化により、摩擦材22、摩擦材22Aおよび22Bの厚さから摩耗状態の検知が可能となる。以下の説明は、上記実施形態2で説明した図8に示す摩擦部材センサシステム200Aを例に取り説明する。
【0037】
ディスクブレーキ装置の状態検知の一例として摩擦材22Aおよび22Bの摩耗状態を検知することができる摩擦部材センサシステム200Aについて説明する。図9は摩擦部材センサシステム200Aが実行する処理の一例のフローチャートである。
【0038】
本実施形態の摩擦部材センサシステム200Aは、ディスクロータ10と摩擦材22Aおよび22Bが所定の間隔だけ離れた状態で対向配置されている状態で検知を行う。測定部42から一対の電極30間に所望の電圧が印加されると、電極30間に流れる電流値の測定が開始される(S11)。自動車の走行中には、減速や停止のために制動が行われ、ディスクロータ10と摩擦材22Aおよび22Bが接触した状態となる。本実施形態においてもディスクロータ10と摩擦材22Aおよび22Bが接触していない状態で測定が行われる。そこで、ディスクブレーキ装置により制動が行われていない状態、すなわち摩擦材22Aおよび22Bのディスクロータ10側の表面に露出する電極30がディスクロータ10に接していない状態であることを確認するため、例えば検知部40にディスクブレーキ装置の状態を示すブレーキ状態信号を入力し、ブレーキ状態判定部41で制動中か否かの判定を行う(S12)。ブレーキ状態信号は、例えばブレーキランプを点灯させるための信号を用いることができる。この場合、ブレーキ状態判定部41によりブレーキ状態信号(ブレーキランプを点灯させるための信号)が入力されれば、制動中であると判定される。制動中であれば、抵抗測定は実施せず、制動を監視する状態へ移行する。
【0039】
ブレーキ状態判定部41により制動中でないと判定される場合には、測定部42により測定された電流値から抵抗値が算出され、この抵抗値を状態判定部43が取得する(S13)。算出された抵抗値は、状態判定部43内に備えられる記憶装置に順次記憶される。
【0040】
状態判定部43では、取得された抵抗値または抵抗値の変化からディスクブレーキ装置の状態を判定する。本実施形態において摩擦材の摩耗状態を検知するのは、ディスクブレーキ装置がドライ状態の場合のみとなる。そこで、上記実施形態1で説明したように抵抗値のばらつき等から、ドライ状態か否かを判定する(S14)。この判定は、実施形態1で説明したディスクブレーキ装置の状態の判定(S04)と同様に判定することができる。
【0041】
ディスクブレーキ装置がドライ状態であると判定された場合、状態判定部43で摩耗状態検知を行う(S15)。摩耗状態検知は、摩擦材22Bの厚さに応じて変わる抵抗値から算出する。摩擦材22Bは摩耗のない状態で所定の抵抗値となるように設定することで、摩擦材22Bが摩耗して薄くなるに従い抵抗値が高くなる。この抵抗値の変化のデータは例えば図10に示すように予め入手することができ、測定された抵抗値から摩擦材22Bの厚さを算出し、摩擦材22Bの厚さから摩耗状態を検知することができる。
【0042】
摩耗状態検知後、判定結果は検知信号として出力され(S16)、測定を終了(S17)し、処理を終了する。出力される検知信号は、例えばECUへ送られる構成とすることができる。また、必要に応じて図9に示すフローチャートに従い、同様の処理を繰り返してもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の摩擦部材センサシステム200Aによれば、摩擦材22Bの摩耗状態についても判定することができる。摩擦材22Bの摩耗状態は、摩擦材22Aの摩耗状態でもあるため、この判定結果に基づき、摩擦部材20の交換時期を知ることができる。摩擦材の摩耗状態の判定は、上記実施形態1の摩擦部材センサシステム100Aにおいても同様に可能である。
【0044】
上記実施形態1~3の説明では、電極30間に流れる電流値から抵抗値を算出して抵抗値の変化によってディスクブレーキ装置の状態を判定する場合について説明したが、本発明においては、抵抗値等による判定に限定されず、電流値、電流値の変化からディスクブレーキ装置の状態を判定することもできる。
【0045】
また図3および9で説明したフローチャートは一例であり、図3および9に示す工程および工程順に限定されるものではない。
【0046】
(まとめ)
(1)本発明の摩擦部材センサシステムの一実施形態は、少なくとも一部が抵抗体で構成され、支持部材によりディスクロータに接触可能に配置される摩擦材を備えた摩擦部材と、前記抵抗体を構成する前記摩擦材の内部に対向配置されている一対の電極と、前記一対の電極による測定結果から検知信号を生成する検知部とを備え、前記一対の電極は、少なくとも一端を前記ディスクロータと接触する前記摩擦材の一方の面に露出し、前記検知部は、前記支持部材により予め設定される間隙を介して前記摩擦材と前記ディスクロータが対向配置されている状態で、前記一対の電極により測定される電流値または前記電流値から算出される抵抗値から、前記検知信号を生成する構成とすることができる。
【0047】
本実施形態の摩擦部材センサシステムによれば、ディスクブレーキ装置の状態を直接検知することができる。特にディスクブレーキ装置の摩擦材とディスクロータとの間に水が存在するか否かを直接検知することができ、適切な制動制御を行うことが可能となる。
【0048】
(2)前記摩擦材は、第1領域と、前記第1領域を構成する材料に導電性材料が添加された抵抗体で構成される第2領域とを有し、前記一対の電極は、前記摩擦材の前記第2領域の内部に対向配置される構成とすることができる。
【0049】
このように電極が形成される領域を他の領域と異なる組成の材料で構成すると、摩擦材としての耐久性を保ちつつ、所望の電気伝導率に容易に調整することができる。
【0050】
(3)前記検知部は、前記一対の電極により測定される前記電流値または前記電流値から算出される前記抵抗値が、前記一対の電極のショート状態を含む予め設定される条件を満たすか否かを判定し、推定される路面状態を示す前記検知信号を生成することができる。
【0051】
検知信号が推定される路面状態を示す信号とすることで、ディスクブレーキ装置の制動制御のほか、操舵力をアシストするための制御信号として利用することができる。
【0052】
(4)前記一対の電極は、前記抵抗体を構成する摩擦材の厚さ方向に貫通するように配置され、前記検知部は、前記一対の電極により測定される前記電流値または前記電流値から算出される前記抵抗値が、前記一対の電極のショート状態を含む予め設定される条件を満たすか否かを判定し、前記摩擦材の摩耗状態を示す前記検知信号を生成することができる。
【符号の説明】
【0053】
100、100A、200、200A 摩擦部材センサシステム
10 ディスクロータ
20 摩擦部材
21 バックプレート
22、22A、22B 摩擦材
30 電極
40 検知部
41 ブレーキ状態判定部
42 測定部
43 状態判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10