(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055446
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】赤外線反射性を有する微粒子の分散体及び構造体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240411BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20240411BHJP
C09D 11/023 20140101ALI20240411BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D129/04
C09D11/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162380
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】松浦 春彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【テーマコード(参考)】
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4J038CE021
4J038CG141
4J038EA011
4J038MA02
4J038NA19
4J038PC08
4J039AD03
4J039AD10
4J039BD02
4J039CA06
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、製膜性に優れ、十分な赤外線反射性能を有する赤外線反射膜を得るために最適な分散体及び構造体を提供することにある。
【解決手段】微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、該微粒子の個数平均粒子径が451~800nm、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する分散体を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、
該微粒子の個数平均粒子径が451~800nm、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、
該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、分散体。
【請求項2】
ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より2°以上低い、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
固形分の濃度が10質量%以上である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項5】
前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、赤外線反射性を有する構造体。
【請求項7】
さらに、表面にオーバーコート層を有する、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
配列した際に赤外線反射性を示す微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、
該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、分散体。
【請求項9】
ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より2°以上低い、請求項8に記載の分散体。
【請求項10】
固形分の濃度が10質量%以上である、請求項8又は9に記載の分散体。
【請求項11】
前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、請求項8又は9に記載の分散体。
【請求項12】
前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、請求項8又は9に記載の分散体。
【請求項13】
請求項8又は9に記載に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、赤外線反射性を有する構造体。
【請求項14】
さらに、表面にオーバーコート層を有する、請求項13に記載の構造体。
【請求項15】
請求項1又は8に記載の分散体を用いた塗料組成物。
【請求項16】
請求項1又は8に記載の分散体を用いたインク組成物。
【請求項17】
請求項1又は8に記載の分散体を用いた化粧料。
【請求項18】
請求項1又は8に記載の分散体を用いた装飾用フィルム。
【請求項19】
請求項1又は8に記載の分散体を用いた光学材料。
【請求項20】
請求項6に記載の構造体を用いた塗料組成物。
【請求項21】
請求項6に記載の構造体を用いたインク組成物。
【請求項22】
請求項6に記載の構造体を用いた化粧料。
【請求項23】
請求項6に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
【請求項24】
請求項6に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射性を有する微粒子の分散体、及びその微粒子が配列して赤外線反射性を示す構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造発色とは、光の波長またはそれ以下の微細構造による発色現象を指し、身近な構造色の例としては、コンパクトディスク、シャボン玉、モルフォ蝶、玉虫等が挙げられる。これらの例では、それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が反射・干渉するため、色づいて見える。
近年、構造色を発現するような規則正しい構造を人工的に作成する開発が進められている。例えば、粒子径が単分散の微粒子が媒体中に分散した分散体を用い、これを流し込み、噴射、塗布、流動等で微粒子を配列・整合・乾燥・固定させて、基材上に微粒子が平面方向に規則的に配列した構造体を製造する方法が種々提案されている。
また、このような微細構造による光の反射・干渉の現象は、可視光のみならず赤外線に関しても発現する。
【0003】
このような微粒子を規則配列したものとしてコロイド結晶が知られており、このようなコロイド結晶はBragg反射をし、構造色を発現することが知られている。また、これを色材や赤外線反射膜に応用する研究開発がされてきている。
コロイド結晶を形成して構造色を発現する方法として、特許文献1では、コア部及びシェル部からなるコアシェル粒子を用い、加熱により融着するシェル部の流動性を利用して、塗装のみでコロイド結晶を安価に形成する方法が提案されている。
また、特許文献2では、有機ポリマー粒子の分散体中にカルボキシメチルセルロースナトリウム等のハイドロゲル能を有する水溶性樹脂を、有機ポリマー粒子100質量部に対して、0.5~2.2質量部配合することで、構造色を発現する膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-249527号公報
【特許文献2】特開2016-187803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された方法では、コロイド結晶を形成するための加熱処理時間が長いという課題があった。また、コロイド結晶を赤外線反射膜とする具体的な実施例が記載されていない。
また特許文献2で提案された方法では、構造色の発現が十分ではなく、膜を形成するための乾燥時間が長いという課題があった。また、本文献においても、コロイド結晶を赤外線反射膜とする具体的な実施例が記載されていない。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題を解決することにある。即ち、製膜性に優れ、十分な赤外線反射性能を有する赤外線反射膜を得るために最適な分散体及び構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の平均粒子径を有する微粒子に特定の水溶性樹脂を特定量配合することを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1]微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、該微粒子の個数平均粒子径が451~800nm、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、分散体。
[2]ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より2°以上低い、[1]に記載の分散体。
[3]固形分の濃度が10質量%以上である、[1]又は[2]に記載の分散体。
[4]前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の分散体。
【0009】
[5]前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の分散体。
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、赤外線反射性を有する構造体。
[7]さらに、表面にオーバーコート層を有する、[6]に記載の構造体。
【0010】
[8]配列した際に赤外線反射性を示す微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、分散体。
[9]ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より2°以上低い、[8]に記載の分散体。
[10]固形分の濃度が10質量%以上である、[8]又は[9]に記載の分散体。
[11]前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、[8]~[10]のいずれか一項に記載の分散体。
【0011】
[12]前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、[8]~[11]のいずれか一項に記載の分散体。
[13][8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、赤外線反射性を有する構造体。
[14]さらに、表面にオーバーコート層を有する、[13]に記載の構造体。
【0012】
[15][1]~[5]及び[8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体を用いた塗料組成物。
[16][1]~[5]及び[8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体を用いたインク組成物。
[17][1]~[5]及び[8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体を用いた化粧料。
[18][1]~[5]及び[8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体を用いた装飾用フィルム。
【0013】
[19][1]~[5]及び[8]~[12]のいずれか一項に記載の分散体を用いた光学材料。
[20][6]~[7]及び[13]~[14]のいずれか一項に記載の構造体を用いた塗料組成物。
[21][6]~[7]及び[13]~[14]のいずれか一項に記載の構造体を用いたインク組成物。
[22][6]~[7]及び[13]~[14]のいずれか一項に記載の構造体を用いた化粧料。
[23][6]~[7]及び[13]~[14]のいずれか一項に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
[24][6]~[7]及び[13]~[14]のいずれか一項に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分散体は、被塗布基材への濡れ性に優れ、分散媒に含まれる高粘度成分が少ないため、微粒子の配列を阻害することがなく、製膜性に優れる。
本発明の構造体は、膜表面が均一であるため、赤外線反射性能が良好となり、優れた赤外線反射膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0016】
本発明の分散体は、微粒子と水溶性樹脂を含有する。
【0017】
[微粒子]
本発明の微粒子は、個数平均粒子径が451~800nm、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であればよい。
前記微粒子は個数平均粒子径と個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、特に制限されるものではなく、有機微粒子であっても、無機微粒子であってもよい。
【0018】
有機微粒子と無機微粒子の中では、組成制御等、反応条件を精密に制御しやすく、大きさや形状の揃った微粒子を得やすいため、有機微粒子が好ましい。
【0019】
<個数平均粒子径>
本発明の微粒子の個数基準による平均粒子径(個数平均粒子径)は、451~800nmである。
本発明の微粒子の個数平均粒子径は好ましくは460nm以上、より好ましくは470nm以上、更に好ましくは480nm以上であり、一方、好ましくは780nm以下、より好ましくは750nm以下、更に好ましくは700nm以下である。
個数平均粒子径が上記範囲内であれば、赤外線反射性が良好となることから好ましい。
本発明の個数平均粒子径の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0020】
<個数基準による粒子径のCV値>
本発明の微粒子の個数基準による粒子径のCV値は15%以下である。
本発明の微粒子の個数基準による粒子径のCV値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。個数基準による粒子径のCV値の下限については特に制限はないが、通常1%以上である。
CV値は、「変動係数」又は「相対標準偏差」とも称され、本発明では、個数基準による粒子径の分布における標準偏差と個数平均粒子径の関係を意味し、
(標準偏差/個数平均粒子径)×100
で算出している。
個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、赤外線反射性が良好となることから好ましい。
本発明の個数基準による粒子径のCV値の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0021】
<有機微粒子>
本発明の有機微粒子は、一般的な高分子からなる微粒子を表す。
一般的な高分子としては、例えば、ポリアミド類、ポリイミド類、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン及びその誘導体等のポリスチレン類、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂類、ポリカーボネートが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、原材料の入手が容易であり、粒子径の揃った微粒子を生産することが容易なことから、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン類が好ましく、高屈折率の重合体が得られることから、ポリスチレン類がより好ましい。
高屈折率の重合体は、粒子内外の屈折率差が大きくなり、赤外線反射性が向上することから好ましい。
有機微粒子は、非架橋高分子であっても、架橋高分子であってもよい。
【0023】
本発明の有機微粒子は、本発明の効果を達成するため、粒子径が揃っていることが必要である。
粒子径の揃った有機微粒子を得るには、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等で適当な大きさの重合体を得て、これを粉砕して微粉とし、篩分等の操作により粒子径を揃える方法がある。また、ソープフリー乳化重合によって、粒子径の揃った有機微粒子を直接得る方法がある。
これらの中では、生産性に優れることから、ソープフリー乳化重合による方法が好ましい。
【0024】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル類)
本発明のポリ(メタ)アクリル酸エステル類とは、(メタ)アクリル酸エステル単位を主成分とする重合体である。ここで主成分とは、重合体全体に対して(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であることを表す。
【0025】
前記の(メタ)アクリル酸エステル単位の原料となる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0026】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、一般的にはランダム共重合体である。
このポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、上述の(メタ)アクリル酸エステルの他に、任意の単量体を共重合してもよい。
この任意の単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン等のスチレン類;スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸等の酸性単量体;アクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類が挙げられる。
【0027】
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官能単量体を共重合すればよい。
【0028】
(ポリスチレン類)
本発明のポリスチレン類とは、スチレン単位を主成分とする重合体である。ここで主成分とは、重合体全体に対してスチレン単位の含有率が50質量%以上、更には60質量%以上であることを表す。
ポリスチレン類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、一般的にはランダム共重合体である。
ポリスチレン類は、スチレンの他に、任意の単量体を共重合してもよい。
【0029】
任意の単量体としては、例えば、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン以外のスチレン類;スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸等の酸性単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類が挙げられる。
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリスチレン類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官能単量体を共重合すればよい。
【0030】
(ポリスチレン類の組成)
ポリスチレン類は、スチレン単位を80.0~99.75質量%含有することが好ましい。スチレン単位の含有率が上記範囲内であれば、粒子の屈折率が高くなり、赤外線反射性が向上することから好ましい。
スチレン単位の含有率は90.0質量%以上がより好ましい。また、99.4質量%以下がより好ましい。
【0031】
ポリスチレン類は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位等の酸性単量体単位を0.25~20.0質量%含有することが好ましい。酸性単量体単位の含有率が上記範囲内であれば、重合時のカレットが低減することから好ましい。
酸性単量体単位の含有率は0.6質量%以上がより好ましい。また、10.0質量%以下がより好ましい。
【0032】
ポリスチレン類が、前記酸性単量体単位以外の任意の単量体単位及び/又は多官能単量体単位を含有する場合、その含有率は3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
前記含有率が3質量%以下であれば、粒子径の制御が良好となる。
【0033】
(有機微粒子の製造方法)
本発明の有機微粒子は、ソープフリー乳化重合によって得ることが好ましい。ソープフリー乳化重合は公知の重合方法であり、例えば下記の通りである。
反応容器にイオン交換水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、重合助剤を加え、重合助剤をイオン交換水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加する。その後、攪拌を続けながら単量体を逐次滴下し、重合反応を開始させる。重合の進行に従って粒子が形成される。
【0034】
重合時の固形分濃度、即ち、重合時の系全体に対する有機微粒子の濃度は20~40質量%が好ましい。
重合時の固形分濃度が前記下限以上であれば、有機微粒子の生産性が向上する。また、前記上限以下であれば、重合時のカレット及び重合装置内壁等への付着物の発生がない。
重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60~90℃に設定される。反応終了後、有機微粒子をエマルションとして取り出す。
【0035】
ソープフリー乳化重合で用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤;過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイド等の油溶性重合開始剤;酸化剤と還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、取扱いが容易な点から水溶性重合開始剤が好ましい。
【0036】
<無機微粒子>
本発明の無機微粒子は、金属粒子や金属酸化物である。
これらの中では、入手が容易でかつ、透過性に優れるという理由で、シリカ微粒子が好ましい。
【0037】
<水溶性樹脂>
本発明の分散体は、水溶性樹脂を含有することで、基材との親和性に優れる。これにより、本発明の分散体は製膜性に優れたものとなる。
本発明の水溶性樹脂とは、高分子化合物の内で、水に溶解するか少なくとも水に分散する物質である。
水溶性樹脂としては、例えば、分子内にスルホニル基、カルボキシル基等のイオン性基;水酸基等の水溶性置換基を有しており、水に溶解する物質が挙げられる。
【0038】
水溶性樹脂には、非イオン性の水溶性樹脂と、イオン性の水溶性樹脂がある。
非イオン性の水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリアクリルアミド、水溶性アクリル系樹脂、非イオン性のポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル;デンプン、ゼラチン、カゼイン等の天然高分子化合物が挙げられる。
イオン性の水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリエステル樹脂、ポリアクリル酸、イオン性のポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0039】
これらの中では、高分子主鎖の耐加水分解性が高い理由で、非イオン性のポリビニルアルコール系樹脂及び/又はイオン性のポリビニルアルコール系樹脂を用いることが好ましい。
また、水溶性樹脂の中では、イオン強度が向上することから、イオン性の水溶性樹脂が好ましい。
【0040】
(イオン性の水溶性樹脂)
イオン性の水溶性樹脂とは、アニオン性又はカチオン性の部位を有する水溶性樹脂のことであり、具体的には上述の通りである。
イオン性の水溶性樹脂の中では、耐溶剤性に優れるという理由で、イオン性のポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0041】
(イオン性のポリビニルアルコール系樹脂)
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂とは、分子鎖中に、スルホニル基又はその塩;カルボキシル基又はその塩;4級アンモニウム塩等のイオン性基を含むポリビニルアルコール系樹脂である。
【0042】
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂として、具体的には、分子鎖中にスルホニル基のナトリウム塩を含むポリビニルアルコール系樹脂、分子鎖中にカルボキシル基のナトリウム塩を含むポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。
これらの中では、塩が解離しやすいという理由で、スルホニル基のナトリウム塩を含むポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0043】
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂の市販品としては、例えば、ゴーセネックス(三菱ケミカル社製、特殊変性ポリビニルアルコール系樹脂)が挙げられる。
【0044】
[分散体]
本発明の分散体は、前記微粒子、前記水溶性樹脂及び分散媒を含有する。ここで分散体とは、微粒子と水溶性樹脂が分散媒に分散していることを意味する。
【0045】
分散媒としては、任意の媒体を用いることができるが、例えば、水、水を主体とする媒体といった水系媒体、有機溶媒が挙げられる。なお、水を主体とする媒体とは、水の比率が50質量%以上、更には60質量%以上であることを表す。水以外の成分としては、水に可溶な任意の有機溶媒を選択することができる。
【0046】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、デカン、ヘキサデカン等のアルカン類、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロキシフラン、ジオキサン、エチレングルコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
以上の中でも、分散媒としては、構造発色性の高い構造体が得やすいことから、水、水を主体とする媒体といった水系媒体が好ましい。
【0047】
本発明の分散体における微粒子の含有量は、分散体全質量に対して1質量%~70質量%であることが好ましい。
微粒子の含有量は、分散体全質量に対して、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上が特に好ましい。一方、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
微粒子の含有量が上記範囲内であれば、得られる構造体の赤外線反射性が良好となる。
【0048】
本発明の分散体における水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して0.001~0.4質量部である。
水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して、0.005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましい。一方、水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して、0.3質量部以下が好ましく、0.2質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下が更に好ましい。
水溶性樹脂の含有量が上記範囲内であれば製膜性が良好となる。
【0049】
<濃度>
本発明の分散体の固形分の濃度は10質量%以上であることが好ましい。
本発明の分散体の固形分の濃度は20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。また、本発明の分散体の固形分濃度の上限値は60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
分散体の固形分濃度が上記範囲内であれば製膜性が良好となり、得られる構造体の赤外線反射性が良好となる。
なお、ここで、分散体の固形分とは、分散体中の分散媒以外の成分をさし、通常は、微粒子と水溶性樹脂と、必要に応じて含まれていてもよいその他の成分の合計である。
分散体の固形分濃度の測定は、後継の実施例の項に記載のエマルションの固形分濃度と同様に行うことが出来るが、分散体の製造に用いた各成分の固形分濃度と成分量から計算により算出することができる。
【0050】
<接触角>
本発明の分散体は、ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より2°以上低いことが好ましい。
ポリエステルフィルムに対する分散体の接触角は、ポリエステルフィルムに対する水の接触角より3°以上低いことがより好ましく、5°以上低いことがさらに好ましい。
また、接触角差の上限値は通常20°である。
【0051】
ここで、ポリエステルフィルムとは、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルムに必要に応じてプラズマ処理等の表面処理を施したものである。
ここで水とは、イオン交換水である。
本発明の接触角の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0052】
<その他の成分>
本発明の分散体は、本発明の目的を損なわない範囲で、微粒子、水溶性樹脂及び分散媒以外に必要に応じて、可塑剤、成膜助剤、pH調整剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
本発明の分散体中のこれらのその他の成分の含有量は、本発明の分散体の固形分100質量%中に5質量%以下であることが、構造体の赤外線反射性の観点から好ましい。
【0053】
[分散体の調製方法]
本発明の分散体は、微粒子、水溶性樹脂、分散媒及び必要に応じて用いられるその他の成分を混合することで調製することができる。
例えば、前述の方法で製造された、微粒子を含むエマルションと、水溶性樹脂と、分散媒と、必要に応じて用いられるその他の成分とを混合することにより調製することができる。
【0054】
[赤外線反射性]
本発明の微粒子は、赤外線反射性を有する。本発明において赤外線反射性とは、粒子径の揃った微粒子が規則的に配列したときに赤外線を反射することを意味する。
ここで、赤外線とは波長831~2500nmの電磁波を表す。
【0055】
[構造体]
本発明の構造体は、前記分散体に含まれる微粒子を規則的に配列した、赤外線反射性を発現するコロイド集合体含有物をいう。
ここで、コロイド集合体とは、コロイド結晶やコロイドアモルファス集合体をいい、微粒子を配列させることにより、微粒子がコロイド結晶やコロイドアモルファス集合体、すなわち、コロイド集合体を形成する。
【0056】
前記構造体としては、例えば、基材上に微粒子が配列した物、基材上に微粒子が配列した物から微粒子の規則的な配列を損なうことなくコロイド結晶を剥離した物が挙げられる。
【0057】
また、本発明の分散体は、水溶性樹脂を含有する。微粒子を配列させた場合に、水溶性樹脂は、分散体の表面張力を低下させ、高い赤外線反射性を維持したまま、製膜性を向上させる効果を発現するものと考えられる。
これにより、本発明の分散体を用いて得た構造体は、水溶性樹脂を含有しない分散体を用いて得た構造体に対して、製膜性が良好である。
【0058】
前記基材としては、特に制限されるものではなく、金属、樹脂、木材、紙等の一般的な材料を用いることが可能である。
表面保護の目的で、必要に応じて構造体の表面にオーバーコート層を設けてもよい。
基材としてフィルム状の材料を用いた場合、得られる構造体はフィルム状となる。
フィルム状の構造体には、表面保護の目的で、必要に応じて表面にオーバーコート層を設けてもよい。
【0059】
<反射率>
本発明の構造体は、831~2500nmの波長範囲における微粒子配列由来の反射率が5%以上であることが好ましい。構造体の前記反射率を5%以上とするには、例えば本発明の分散体を使用すればよい。
前記反射率は10%以上であることがより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
前記反射率が5%以上であれば、赤外線反射性に優れることから好ましい。
本発明の構造体の微粒子配列由来の反射率の上限には特に制限はないが、通常90%以下である。
微粒子配列由来の反射率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0060】
<基材>
前述の通り、前記構造体に用いられる基材としては、特に制限されるものではなく、金属、樹脂、木材、紙等の一般的な材料を用いることが可能である。
例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルムの様な熱可塑性樹脂基材や、アルミニウム箔などの金属基材、ガラス基材、コート紙基材などを用いることもできる。
前記基材は、表面が平滑であっても、凹凸を有したものであってもよいし、透明、半透明、不透明のいずれであってもよい。黒色等に予め着色された基材を用いることも可能である。また、上記これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでもよい。なお、基材は本発明の分散体の塗工性を改善する目的で、予めコロナ処理やプラズマ処理を行っても構わない。また、これらの基材上にプライマー層が付与されていても構わない。
【0061】
<オーバーコート層>
前記オーバーコート層は構造体の表面を保護するための層であり、構造体の表面に膜を形成する材料であれば、特に限定されるものではない。
前記オーバーコート層は、微粒子の表面を覆うことに加えて、微粒子の間に充填されることが好ましい。
前記オーバーコート層を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
樹脂の形態としては、任意の溶剤で希釈した樹脂溶液、または水に分散させたエマルションが一般的である。
【0062】
前記オーバーコート層の厚さとしては、特に限定されるものではなく、構造体の微粒子を覆う厚さ以上であればよい。
前記オーバーコート層は、構造体上に前記樹脂溶液又はエマルションを薄膜塗布し、必要に応じて熱処理等を加えて、構造体の表面に形成することができる。
【0063】
[構造体の製造方法]
本発明の構造体の製造方法は、例えば下記の通りである。
微粒子と水溶性樹脂とを含有する本発明の分散体を平滑な基材の上に塗布する。次いで、適切な温度で乾燥させる。これにより、前記微粒子が配列される。
【0064】
基材への本発明の分散体の塗布方式としては、インクジェットやスプレー、ディッピングやスピンコート等の版を使用しない印刷方式、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどの有版の印刷方式のいずれをも用いることができる。
【0065】
本発明の分散体の塗布膜厚は、分散体の固形分濃度にもよるが、1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、10~30μmが更に好ましい。塗布膜厚が1μm以上であると、得られる構造体の赤外線反射性が向上する。また、塗布膜厚が100μm以下であると、得られる構造体の規則配列性が向上し、赤外線反射性が向上する。
【0066】
本発明の分散体を基材上に塗布した後の乾燥方法に特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法など、従来既知の方法を用いることができる。上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。
乾燥温度が高すぎると、分散媒が急速に揮発してしまい微粒子の配列が乱れて発色に悪影響を及ぼすことがある。一方で、乾燥温度が低過ぎると、乾燥ムラが発生に繋がり、均一なコロイド結晶膜を得ることが得られないことがある。微粒子の配列の観点から、乾燥温度は10~120℃、特に90~110℃の範囲が好ましい。
乾燥時間は乾燥温度によっても異なるが、微粒子の配列の観点から、好ましくは0.5~30分、より好ましくは1~10分である。
【0067】
[用途]
本発明の分散体は、被塗布基材への濡れ性に優れ、分散媒に含まれる高粘度成分が少ないため、微粒子の配列を阻害することがなく、製膜性に優れる。本発明の構造体は、膜表面が均一であるため、赤外線反射性が良好となる。また、微粒子間に容易にバインダー成分等を充填することができる。
これらの特徴から、本発明の分散体は、単独または二次加工材として、例えば、建築用塗料、自動車用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅、リップクリーム、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加飾フィルム等の装飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着カラー板、カラーフィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。その中でも、建築用塗料や自動車用塗料の場合、赤外線反射性が良好な構造体が得られる本発明の分散体を用いることで、特に遮熱用途として好適となる。
【0068】
また、本発明の構造体は、単独または二次加工材として、例えば、建築用塗料、自動車用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅、リップクリーム、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加飾フィルム等の装飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着カラー板、カラーフィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。その中でも、建築用塗料や自動車用塗料の場合、赤外線反射性が良好な本発明の構造体を用いることで、特に遮熱用途として好適となる。
【0069】
上記の各種用途では、本発明の分散体を直接の原材料として用いてもよい。
また、微粒子が配列した構造体を原材料とし、微粒子が配列した状態を維持したまま、マトリクスとなる材料に分散させて用いてもよい。
【実施例0070】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、ポリビニルアルコールを「PVA」と略表記することがある。
以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0071】
[評価方法]
(1)微粒子の個数平均粒子径
微粒子のエマルションを基材に塗布し、乾燥させた後、倍率2万倍以上の電子顕微鏡で、微粒子の画像を観察した。画像中、少なくとも400個の微粒子の直径を測定し、これを算術平均して個数平均粒子径を求めた。
【0072】
(2)微粒子の個数基準による粒子径のCV値
上記の少なくとも400個の微粒子の直径の測定値を用い、(標準偏差/平均粒子径)×100 の計算をし、個数基準による粒子径のCV値を求めた。
【0073】
(3)エマルションの固形分濃度
エマルションの固形分濃度は、エー・アンド・デイ株式会社製、加熱乾燥式水分計MX-50を用い、10gのエマルションを190℃で60分加熱して水分を蒸発させることにより求めた。
【0074】
(4)接触角の差
接触角は、以下のようにして求めた。
KRUSS社の簡易接触角計DSA25を使用し、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、分散体からなる10μLの液滴を作製し、25℃、60%RHの環境下で、着滴60秒後の接触角を2点測定し、平均値を算出した。
また、同様の条件でイオン交換水の接触角を測定した。
次いで、「イオン交換水の接触角」-「分散体の接触角」を計算して、接触角の差を求めた。
【0075】
(5)製膜性
製膜性は、以下のようにして求めた。
ワイヤーバー(OSG製、OSP-25)を使用し、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、分散体を15mm/秒で塗布し、塗布時の液幅と、25℃で30分間静置した後の塗布膜(構造体)の幅から、下記式に基づいて算出した。
製膜性評価指数=(静置後の塗布膜の幅/塗布時の液幅)
評価基準は下記の通りである。
○(good):製膜性評価指数が0.7以上である場合
×(poor):製膜性評価指数が0.7未満である場合
【0076】
(6)反射波長
分散体を、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(ルミラー(黒色)100μm厚、東レ株式会社製)の上にワイヤーバー(OSP-25、OSG製)を用いて15mm/秒で塗布し、25℃で10分乾燥することで前記フィルム上に構造体を形成させた。得られた構造体の反射スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製V-770)及び絶対反射測定ユニット(日本分光社製ARSN-917)を用いて、波長250~2500nmの範囲で測定した。この時、入射角と反射角はともに10°とした。なお、測定におけるリファレンスは絶対反射測定ユニット(日本分光社製ARSN-917)中のミラーを用いた。得られた反射スペクトル中の反射率の最大値を微粒子配列由来の反射率とし、その反射率を示す波長が831~2500nmであった場合、赤外線反射性を有すると判断し、該波長を「反射波長」とした。
【0077】
(7)赤外線反射性能
赤外線反射性能は、反射波長の評価で求めた微粒子配列由来の反射率の値から、以下のように評価した。
〇(good):微粒子配列由来の反射率の値が5%以上である場合
×(poor):微粒子配列由来の反射率の値が5%未満である場合
【0078】
[原材料等]
以下の実施例及び比較例において、水性分散体の製造に用いた原材料等は以下の通りである。
・スチレン(デンカ社製)
・アクリル酸(三菱ケミカル社製)
・スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソーファインケム社製)
・炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光社製)
・過硫酸アンモニウム(関東化学社製)
【0079】
<水溶性樹脂>
・イオン性PVA:アニオン性のポリビニルアルコール系樹脂(三菱ケミカル社製、ゴーセネックスCKS50)
・水溶性ポリエステル:アニオン性のポリエステル樹脂(三菱ケミカル社製、ニチゴーポリエスターWR905)
・非イオン性PVA:非イオン性のポリビニルアルコール系樹脂(三菱ケミカル社製、ニチゴーGポリマー)
【0080】
[微粒子含有エマルションの調製]
<エマルション[1]の調製>
スチレン880部、アクリル酸13部を混合し、単量体混合液を調製した。
一方、p-スチレンスルホン酸ナトリウム0.42部、炭酸水素ナトリウム1.5部をイオン交換水2056部に溶解させた助剤溶液を調製した。
攪拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、及び、原料・助剤仕込み装置を備えた反応容器に、助剤溶液を仕込み、内温を77℃に昇温させた。
次に、反応容器に過硫酸アンモニウム4.4部をイオン交換水40部に溶解させた重合開始剤溶液を投入し、その5分後に単量体混合液を2.5時間かけて逐次滴下した。
単量体混合液の滴下終了後、1.5時間77℃での攪拌を継続した後、内温を90℃に昇温させた。その後、90℃での攪拌を3時間維持した。
内温を20℃まで冷却した後、重合反応物を不織布ガーゼ(製品名「クロスガーゼ2号」、オオサキメディカル株式会社製)で濾過して、微粒子のエマルションAを得た。エマルションAに対し、10%アンモニア水を添加することでpHを7.0に調製した。また、適宜イオン交換水を加え、固形分濃度を29.0%に調整することでエマルション[1]を得た。
得られた微粒子は、個数平均粒子径485nm、CV値5.6%であった。
【0081】
<エマルション[2]の調製>
スチレン880部、アクリル酸13部を混合し、単量体混合液を調製した。
一方、p-スチレンスルホン酸ナトリウム0.27部、炭酸水素ナトリウム1.5部をイオン交換水2056部に溶解させた助剤溶液を調製した。
攪拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、及び、原料・助剤仕込み装置を備えた反応容器に、助剤溶液を仕込み、内温を77℃に昇温させた。
次に、反応容器に過硫酸アンモニウム4.4部をイオン交換水40部に溶解させた重合開始剤溶液を投入し、その5分後に単量体混合液を2.5時間かけて逐次滴下した。
単量体混合液の滴下終了後、1.5時間77℃での攪拌を継続した後、内温を90℃に昇温させた。その後、90℃での攪拌を3時間維持した。
内温を20℃まで冷却した後、重合反応物を不織布ガーゼ(製品名「クロスガーゼ2号」、オオサキメディカル株式会社製)で濾過して、微粒子のエマルションBを得た。エマルションBに対し、10%アンモニア水を添加することでpHを7.0に調製した。また、適宜イオン交換水を加え、固形分濃度を29.0%に調整することでエマルション[2]を得た。
得られた微粒子は、個数平均粒子径540nm、CV7.1%であった。
【0082】
<エマルション[3]の調製>
スチレン880部、アクリル酸13部を混合し、単量体混合液を調製した。
一方、p-スチレンスルホン酸ナトリウム0.18部、炭酸水素ナトリウム1.5部をイオン交換水2056部に溶解させた助剤溶液を調製した。
攪拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、及び、原料・助剤仕込み装置を備えた反応容器に、助剤溶液を仕込み、内温を77℃に昇温させた。
次に、反応容器に過硫酸アンモニウム4.4部をイオン交換水40部に溶解させた重合開始剤溶液を投入し、その5分後に単量体混合液を2.5時間かけて逐次滴下した。
単量体混合液の滴下終了後、1.5時間77℃での攪拌を継続した後、内温を90℃に昇温させた。その後、90℃での攪拌を3時間維持した。
内温を20℃まで冷却した後、重合反応物を不織布ガーゼ(製品名「クロスガーゼ2号」、オオサキメディカル株式会社製)で濾過して、微粒子のエマルションCを得た。エマルションCに対し、10%アンモニア水を添加することでpHを7.0に調製した。また、適宜イオン交換水を加え、固形分濃度を29.0%に調整することでエマルション[3]を得た。
得られた微粒子は、個数平均粒子径637nm、CV値6.3%であった。
【0083】
[実施例1]
エマルション[1]18.6部、水溶性樹脂としてイオン性PVAを4質量%含む水溶液0.013部、イオン交換水1.37部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。なお、微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量は0.01部となるよう調整した。
得られた分散体を、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色)100μm厚)の上に、ワイヤーバー(OSG製、OSP-25)を用いて、15mm/秒で塗布し、25℃×3分乾燥させることで構造体を得た。
【0084】
[実施例2]
エマルション[1]18.6部、水溶性樹脂としてイオン性PVAを4質量%含む水溶液0.067部、イオン交換水1.32部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。なお、微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量は0.05部となるよう調整した。
得られた分散体を実施例1と同様の条件で塗布することで、構造体を得た。
【0085】
[実施例3]
エマルション[1]18.6部、水溶性樹脂としてイオン性PVAを4質量%含む水溶液0.135部、イオン交換水1.26部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。なお、微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量は0.1部となるよう調整した。
得られた分散体を実施例1と同様の条件で塗布することで、構造体を得た。
【0086】
[実施例4]
エマルション[1]18.5部、水溶性樹脂としてイオン性PVAを4質量%含む水溶液0.538部、イオン交換水0.92部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。なお、微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量は0.4部となるよう調整した。
得られた分散体を実施例1と同様の条件で塗布することで、構造体を得た。
【0087】
[実施例5]
イオン性PVAの代わりに、水溶性樹脂として水溶性ポリエステルを4質量%含む水溶液を0.067部添加した以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0088】
[実施例6]
イオン性PVAの代わりに、水溶性樹脂として非イオン性PVAを4質量%含む水溶液を0.067部添加した以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0089】
[実施例7]
イオン性PVAの代わりに、水溶性樹脂として非イオン性PVAを4質量%含む水溶液を0.135部添加した以外は、実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0090】
[実施例8]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[2]を18.6部使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0091】
[実施例9]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[2]を18.6部使用したこと以外は実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0092】
[実施例10]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[2]を18.6部使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0093】
[実施例11]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[2]を18.6部使用したこと以外は実施例5と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0094】
[実施例12]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[2]を18.6部使用したこと以外は実施例6と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0095】
[実施例13]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.6部使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0096】
[実施例14]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.6部使用したこと以外は実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0097】
[実施例15]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.6部使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0098】
[実施例16]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.5部使用したこと以外は実施例4と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0099】
[実施例17]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.6部使用したこと以外は実施例5と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0100】
[実施例18]
エマルション[1]の代わりに、エマルション[3]を18.6部使用したこと以外は実施例6と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。
【0101】
[比較例1]
エマルション[1]18.6部、イオン交換水1.38部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。
得られた分散体を実施例1と同様の条件で塗布することで、構造体を得た。
【0102】
[比較例2]
エマルション[1]18.4部、水溶性樹脂としてイオン性PVAを4質量%含む水溶液1.337部、イオン交換水0.23部を混合することで、固形分濃度27%の分散体を調製した。なお、微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量は1.0部となるよう調整した。
得られた分散体を実施例1と同様の条件で塗布することで、構造体を得た。
【0103】
実施例1~18及び比較例1~2で得られた分散体及び構造体について、接触角の差、製膜性、反射波長及び赤外線反射性能を表1に示す。
【0104】
【0105】
表1に示す通り、本発明の分散体を用いた実施例1~18は、製膜性と赤外性反射性能に優れることがわかった。
【0106】
これに対して、水溶性樹脂を用いなかった比較例1は、製膜性が十分ではなかった。
微粒子100部に対する水溶性樹脂の添加量が1.0部である比較例2は、製膜性は十分であったが、得られた構造体に明確な反射ピークは確認できず、赤外線反射性能が十分でなかった。