IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2024-55451構造発色する微粒子の分散体及び構造体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055451
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】構造発色する微粒子の分散体及び構造体
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240411BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20240411BHJP
   C09D 125/04 20060101ALI20240411BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20240411BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240411BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D133/04
C09D125/04
C09D11/02
G02B5/26
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162386
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】松浦 春彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【テーマコード(参考)】
2H148
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
2H148FA04
2H148FA15
2H148GA05
2H148GA28
4J038CC021
4J038CE022
4J038CG141
4J038MA10
4J038NA18
4J039AD03
4J039AD10
4J039CA06
4J039EA29
(57)【要約】
【課題】優れた発色性を示し、製膜性に優れ、さらに物理的耐久性にも優れた構造体を得るために最適な分散体及び構造体を提供する。
【解決手段】微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、該微粒子の個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、該水溶性樹脂がポリビニルアルコールを含み、該ポリビニルアルコールの平均ケン化度が90mol%以上であり、該分散体の粘度が11.0cP以下であることを特徴とする、分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、
該微粒子の個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、
該水溶性樹脂がポリビニルアルコールを含み、
該ポリビニルアルコールの平均ケン化度が90mol%以上であり、
該分散体の粘度が、11.0cP以下であることを特徴とする、分散体。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95mol%以上である、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールの4質量%水溶液の粘度が10.0mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
前記微粒子が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類又はポリスチレン類からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項5】
前記微粒子が、ポリスチレン類からなることを特徴とする、請求項4に記載の分散体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、構造発色性を有する構造体。
【請求項7】
さらに、表面にオーバーコート層を有する、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下の微粒子と、水溶性樹脂とを含む、構造体。
【請求項9】
前記水溶性樹脂がポリビニルアルコールを含む、請求項8に記載の構造体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の分散体を用いた塗料組成物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の分散体を用いたインク組成物。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の分散体を用いた化粧料。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の分散体を用いた装飾用フィルム。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の分散体を用いた光学材料。
【請求項15】
請求項6に記載の構造体を用いた塗料組成物。
【請求項16】
請求項6に記載の構造体を用いたインク組成物。
【請求項17】
請求項6に記載の構造体を用いた化粧料。
【請求項18】
請求項6に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
【請求項19】
請求項6に記載の構造体を用いた光学材料。
【請求項20】
請求項8に記載の構造体を用いた塗料組成物。
【請求項21】
請求項8に記載の構造体を用いたインク組成物。
【請求項22】
請求項8に記載の構造体を用いた化粧料。
【請求項23】
請求項8に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
【請求項24】
請求項8に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造発色する微粒子の分散体、その微粒子が配列して構造発色する構造体及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造発色とは、光の波長またはそれ以下の微細構造による発色現象を指し、身近な構造色の例としては、コンパクトディスク、シャボン玉、モルフォ蝶、玉虫等が挙げられる。これらの例では、それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が干渉するため、色づいて見える。
近年、構造色を発現するような規則正しい構造を人工的に作成する開発が進められている。例えば、粒子径が単分散の微粒子が媒体中に分散した分散体を用い、これを流し込み、噴射、塗布、流動等で微粒子を配列・整合・乾燥・固定させて、基材上に微粒子が平面方向に規則的に配列した構造体を製造する方法が種々提案されている。
【0003】
このような微粒子を規則配列したものとしてコロイド結晶が知られており、このようなコロイド結晶はBragg反射をし、構造色を発現することが知られている。また、これを色材や赤外線反射膜に応用する研究開発がされてきている。
一方で、コロイド結晶はその特徴な構造から物理的強度が極めて低く、例えば手で払うだけで簡単にその構造が崩壊し、退色する。また、基材からも剥がれやすい。この課題から、大量生産技術が確立されるまでには至っていない。
【0004】
コロイド結晶の物理的強度を高める方法として、特許文献1では、非架橋ポリマーからなるシェルを有するコアシェル粒子の分散液を塗布することで得られる塗膜を乾燥、もしくは加熱することで、シェル部の融着または流動化を起こすことでシェル部によって形成された塗膜(マトリックス)が生成し、この塗膜中にコア部が規則的に配列することで物理的強度の高いコロイド結晶を得る方法が提案されている。ここで、シェル部の好ましいガラス転移点(Tg)は10~50℃とされている。また、シェル部にカルボキシル基とグリシジル基を導入することで、シェル部による塗膜の形成時に両者の反応を進行させ、コロイド結晶膜の物理的強度をさらに向上させる方法も提案されている。
【0005】
特許文献2では、粒子を構成する単量体として反応性界面活性剤を使用し、コアとシェルのガラス転移点(Tg)とコアシェル比を調整したコアシェル粒子が提案されている。これにより、乾燥、もしくは加熱処理時のシェル同士の過剰な融着が抑制され、粒子間に空域が維持されることで、物理的耐久性だけでなく発色性にも優れるコロイド結晶が得られている。ここで、シェル部のTgは-60~40℃とされている。また、シェルに架橋を形成し得る反応性基を導入することで、シェル部の融着時に反応を進行させ、コロイド結晶膜の物理的強度をさらに向上させる方法も提案されている。具体的な反応として、「ケトン-ヒドラジド架橋」が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-249527号公報
【特許文献2】特開2021-028380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案された方法は、コアに使用する材料とシェルに使用する材料の性質上、粒子として機能するコアとマトリックスとして機能するシェルの屈折率差が小さくなってしまうため、発色性が極めて低いという課題があった。
【0008】
また、特許文献2で提案された方法では、粒子間の空域を維持することで、粒子とマトリックスの屈折率差を保つことができるため、発色性に改善は見られるものの、実施例で示される構成はいずれもスチレン系コア、アクリル系シェルからなる粒子であり、アクリル系シェルが粒子全体としての屈折率を下げることに繋がり、発色性に更なる改善の余地があるものであった。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決することにある。即ち、優れた発色性を示し、製膜性に優れ、さらに物理的耐久性にも優れた構造体を得るために最適な分散体及び構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定の粒度分布を有する或いは配列した際に構造発色する微粒子と、特定の水溶性樹脂とを含有し、粘度が特定の値以下である分散体を用いることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1]微粒子、水溶性樹脂及び分散媒を含有する分散体であって、該微粒子の個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であり、該水溶性樹脂がポリビニルアルコールを含み、該ポリビニルアルコールの平均ケン化度が90mol%以上であり、該分散体の粘度が、11.0cP以下であることを特徴とする、分散体。
【0012】
[2]前記ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95mol%以上である、[1]に記載の分散体。
[3]前記ポリビニルアルコールの4質量%水溶液の粘度が10.0mPa・s以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の分散体。
[4]前記微粒子が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類又はポリスチレン類からなることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載の分散体。
[5]前記微粒子が、ポリスチレン類からなることを特徴とする、[4]に記載の分散体。
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体に含まれる水溶性樹脂及び微粒子からなるコロイド集合体含有物から構成された、構造発色性を有する構造体。
[7]さらに、表面にオーバーコート層を有する、[6]に記載の構造体。
[8]個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下の微粒子と、水溶性樹脂とを含む、構造体。
[9]前記水溶性樹脂がポリビニルアルコールを含む、[8]に記載の構造体。
【0013】
[10][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体を用いた塗料組成物。
[11][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体を用いたインク組成物。
[12][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体を用いた化粧料。
[13][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体を用いた装飾用フィルム。
[14][1]~[5]のいずれか一項に記載の分散体を用いた光学材料。
[15][6]~[9]のいずれか一項に記載の構造体を用いた塗料組成物。
[16][6]~[9]のいずれか一項に記載の構造体を用いたインク組成物。
[17][6]~[9]のいずれか一項に記載の構造体を用いた化粧料。
[18][6]~[9]のいずれか一項に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
[19][6]~[9]のいずれか一項に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた発色性を示し、物理的耐久性にも優れた構造体を得るために最適な分散体及び構造体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0016】
[微粒子]
本発明の微粒子は、個数平均粒子径が50~800nm、個数基準による粒子径のCV値が15%以下であればよい。
前記微粒子は個数平均粒子径と個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、特に制限されるものではなく、有機微粒子であっても、無機微粒子であってもよい。
有機微粒子と無機微粒子の中では、組成制御等、反応条件を精密に制御しやすく、大きさや形状の揃った微粒子を得やすいため、有機微粒子が好ましい。
【0017】
<個数平均粒子径>
本発明の微粒子の個数基準による平均粒子径(個数平均粒子径)は50~800nmである。
本発明の微粒子の個数平均粒子径は好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは180nm以上であり、一方、好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
個数平均粒子径が上記範囲内であれば、構造発色性が良好となることから好ましい。
微粒子の個数平均粒子径の測定方法は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0018】
<個数基準による粒子径のCV値>
本発明の微粒子の個数基準による粒子径のCV値は15%以下である。
本発明の微粒子の個数基準による粒子径のCV値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。個数基準による粒子径のCV値の下限については特に制限はないが、通常1%以上である。
CV値は、「変動係数」又は「相対標準偏差」とも称され、本発明では、個数基準による粒子径の分布における標準偏差と個数平均粒子径の関係を意味し、
(標準偏差/個数平均粒子径)×100
で算出している。
個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、構造発色性が良好となることから好ましい。
微粒子の個数基準による粒子径のCV値の測定方法は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0019】
<有機微粒子>
本発明の有機微粒子は、一般的な高分子からなる微粒子を表す。
一般的な高分子としては、例えば、ポリアミド類、ポリイミド類、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン及びその誘導体等のポリスチレン類、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂類、ポリカーボネートが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、原材料の入手が容易であり、粒子径の揃った微粒子を生産することが容易なことから、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン類が好ましく、高屈折率の重合体が得られることから、ポリスチレン類がより好ましい。
高屈折率の重合体は、粒子内外の屈折率差が大きくなり、構造発色性が向上することから好ましい。
有機微粒子は、非架橋高分子であっても、架橋高分子であってもよい。
【0021】
本発明の有機微粒子は、配列した際に構造発色するために、前述の個数平均粒子径及び個数基準による粒子径のCV値を満たし、粒子径が揃っていることが重要である。
粒子径の揃った有機微粒子を得るには、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等で適当な大きさの重合体を得て、これを粉砕して微粉とし、篩分等の操作により粒子径を揃える方法がある。また、ソープフリー乳化重合によって、粒子径の揃った有機微粒子を直接得る方法がある。
これらの中では、生産性に優れることから、ソープフリー乳化重合による方法が好ましい。
【0022】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル類)
ポリ(メタ)アクリル酸エステル類とは、(メタ)アクリル酸エステル単位を主成分とする重合体である。ここで主成分とは、重合体全体に対して(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であることを表す。
【0023】
前記の(メタ)アクリル酸エステル単位の原料となる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0024】
前記のポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、一般的にはランダム共重合体である。
このポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、上述の(メタ)アクリル酸エステルの他に、任意の単量体を共重合してもよい。
この任意の単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン等のスチレン類;スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸等の酸性単量体;アクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類が挙げられる。
【0025】
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官能単量体を共重合すればよい。
【0026】
(ポリスチレン類)
ポリスチレン類とは、スチレン単位を主成分とする重合体である。ここで主成分とは、重合体全体に対してスチレン単位の含有率が50質量%以上、更には60質量%以上であることを表す。
ポリスチレン類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、一般的にはランダム共重合体である。
ポリスチレン類は、スチレンの他に、任意の単量体を共重合してもよい。
【0027】
任意の単量体としては、例えば、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン以外のスチレン類;スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸等の酸性単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類が挙げられる。
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリスチレン類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官能単量体を共重合すればよい。
【0028】
(ポリスチレン類の組成)
ポリスチレン類は、スチレン単位を80.0~99.75質量%含有することが好ましい。スチレン単位の含有率が上記範囲内であれば、粒子の屈折率が高くなり、構造発色性が向上することから好ましい。
スチレン単位の含有率は90.0質量%以上がより好ましい。また、99.4質量%以下がより好ましい。
【0029】
ポリスチレン類は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位等の酸性単量体単位を0.25~20.0質量%含有することが好ましい。酸性単量体単位の含有率が上記範囲内であれば、重合時のカレットが低減することから好ましい。
酸性単量体単位の含有率は0.6質量%以上がより好ましい。また、10.0質量%以下がより好ましい。
【0030】
ポリスチレン類が、前記酸性単量体単位以外の任意の単量体単位及び/又は多官能単量体単位を含有する場合、その含有率は3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
前記含有率が3質量%以下であれば、粒子径の制御が良好となる。
【0031】
(有機微粒子の製造方法)
本発明の有機微粒子はソープフリー乳化重合によって得ることが好ましい。ソープフリー乳化重合は公知の重合方法であり、例えば下記の通りである。
反応容器にイオン交換水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、重合助剤を加え、重合助剤をイオン交換水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加する。その後、攪拌を続けながら単量体を逐次滴下し、重合反応を開始させる。重合の進行に従って粒子が形成される。
【0032】
重合時の固形分濃度、即ち、重合時の系全体に対する有機微粒子の濃度は20~40質量%が好ましい。
重合時の固形分濃度が前記下限以上であれば、有機微粒子の生産性が向上する。また、前記上限以下であれば、重合時のカレット及び重合装置内壁等への付着物の発生がない。
重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60~90℃に設定される。反応終了後、有機微粒子をエマルションとして取り出す。
【0033】
前記エマルションのpHは3.0~11.0であることが好ましい。エマルションのpHが上記範囲外となった場合、金属腐食の観点から生産性に乏しくなる。
このため、エマルションのpHが上記好適範囲を外れる場合は、適宜、アルカリ又は酸を添加してpH調整することが好ましい。
通常、上記の有機微粒子の製造で得られるエマルションのpHは2.0~7.0程度であることから、一般的にはアルカリを添加してpH調整が行われる。pH調整に用いるアルカリとしては、加熱等で構造体からの除去が容易なことから、アンモニア水などが好ましい。
【0034】
ソープフリー乳化重合で用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤;過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイド等の油溶性重合開始剤;酸化剤と還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、取扱いが容易な点から水溶性重合開始剤が好ましい。
【0035】
<無機微粒子>
本発明の無機微粒子としては、金属粒子や金属酸化物粒子が挙げられる。
これらの中では、入手が容易でかつ、透過性に優れるという理由で、シリカ微粒子が好ましい。
【0036】
<水溶性樹脂>
本発明の分散体は、水溶性樹脂を含有することで、基材との親和性に優れる。これにより、本発明の分散体は製膜性に優れたものとなる。
本発明の水溶性樹脂とは、高分子化合物の内で、水に溶解するか少なくとも水に分散する物質である。
本発明の水溶性樹脂は、ポリビニルアルコールを含むことが好ましい。
【0037】
(ポリビニルアルコール)
本発明で用いられるポリビニルアルコールとしては、未変性ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
本発明で用いるポリビニルアルコールの平均ケン化度は、90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることが更に好ましい。平均ケン化度を上記範囲内とすると、より発色性に優れたコロイド結晶膜を得ることができる。
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、一般的に水溶液粘度で示すことができる。本発明で用いられるポリビニルアルコールの20℃における4質量%水溶液粘度は、1.0mPa・s以上であることが好ましく、2.0mPa・s以上であることがより好ましい。一方、10.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以下であることがより好ましい。水溶液粘度を上記範囲内とすると、より発色性に優れたコロイド結晶膜を得ることができる。なお、水溶液粘度はJIS K 6726-1994に準じた方法で、ヘプラー粘度計を用いて測定した値をいう。
【0038】
(その他の水溶性樹脂)
本発明の目的を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール以外の水溶性樹脂を添加することができる。ポリビニルアルコール以外の水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリアクリルアミド、水溶性アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、水溶性ポリエステル樹脂;デンプン、ゼラチン、カゼイン、カルボキシメチルセルロース基等の天然高分子化合物が挙げられる。
これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
〔分散体〕
本発明の分散体は、前記微粒子、前記水溶性樹脂及び分散媒を含有する。ここで分散体とは、微粒子と水溶性樹脂が分散媒に分散していることを意味する。
【0040】
分散媒としては、任意の媒体を用いることができるが、例えば、水、水を主体とする媒体といった水系媒体、有機溶媒が挙げられる。なお、水を主体とする媒体とは、水の比率が50質量%以上、更には60質量%以上であることを表す。水以外の成分としては、水に可溶な任意の有機溶媒を選択することができる。
【0041】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、デカン、ヘキサデカン等のアルカン類、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロキシフラン、ジオキサン、エチレングルコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
以上の中でも、分散媒としては、構造発色性の高い構造体が得やすいことから、水、水を主体とする媒体といった水系媒体が好ましい。
【0042】
本発明の分散体における微粒子の含有量は、分散体全質量に対して1質量%~70質量%であることが好ましい。
微粒子の含有量は、分散体全質量に対して、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上が特に好ましい。一方、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
微粒子の含有量が上記範囲内であれば、得られる構造体の構造発色性が良好となる。
【0043】
本発明の分散体における水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して0.01~50質量部であることが好ましい。
水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して、0.025質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。一方、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
水溶性樹脂の含有量が上記範囲内であれば、得られる構造体の製膜性が良好となる。
【0044】
本発明の分散体におけるポリビニルアルコールの含有量は、微粒子100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。
ポリビニルアルコールの含有量は、微粒子100質量部に対して、0.02質量部以上がより好ましく、0.03質量部以上が更に好ましく、0.04質量部以上が特に好ましい。一方、4質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましく、1質量部以下が特に好ましい。
ポリビニルアルコールの含有量が上記範囲内であれば、得られる構造体の製膜性が良好となる。
本発明の分散体が含有する水溶性樹脂の全質量中のポリビニルアルコールの含有割合は、5~100質量%であることが好ましい。
水溶性樹脂の全質量中のポリビニルアルコールの含有割合は、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、60質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
水溶性樹脂の全質量中のポリビニルアルコールの含有割合が上記範囲内であれば、得られる構造体の製膜性が良好となる。
【0045】
<濃度>
本発明の分散体の固形分の濃度は10質量%以上であることが好ましい。
分散体の固形分の濃度は20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。また、分散体の固形分濃度の上限値は60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
分散体の固形分濃度が上記範囲内であれば製膜性が良好となり、得られる構造体の構造発色性が良好となる。
なお、ここで、分散体の固形分とは、分散体中の分散媒以外の成分をさし、通常は、微粒子と水溶性樹脂と、必要に応じて含まれていてもよいその他の成分の合計である。
分散体の固形分濃度の測定は、後掲の実施例の項に記載のエマルションの固形分濃度と同様に行うことができるが、分散体の製造に用いた各成分の固形分濃度と成分量から計算により算出することができる。
【0046】
<粘度>
本発明の分散体の粘度は、11.0cP以下である。これにより、得られる構造体の構造発色性が良好となる。
本発明の分散体の粘度は、10cP以下であることが好ましく、8.0cP以下であることがより好ましく、5.0cP以下であることがさらに好ましい。一方、本発明の分散体の粘度は、1.0cP以上であることが好ましく、1.5cP以上であることがより好ましく、2.0cP以上であることがさらに好ましい。
ここで、分散体の粘度は、25℃における粘度である。分散体の粘度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0047】
<その他の成分>
本発明の分散体は、本発明の目的を損なわない範囲で、微粒子、水溶性樹脂及び分散媒以外に必要に応じて、可塑剤、成膜助剤、pH調整剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0048】
[分散体の調製方法]
本発明の分散体は、微粒子、水溶性樹脂、分散媒及び必要に応じて用いられるその他の成分を混合することで調製することができる。
例えば、前述の方法で製造された、微粒子を含むエマルションと、水溶性樹脂と、分散媒と、必要に応じて用いられるその他の成分とを混合することにより調製することができる。
【0049】
〔構造発色〕
本発明の微粒子は、構造発色性を有する。構造発色とは、粒子径の揃った微粒子が規則的に配列したときに構造色を発現することを意味する。
構造発色とは、微粒子が規則正しく配列した結晶構造を有しているため、光の波長によって干渉や散乱等の光学物理的現象が起こり発色して見える現象のことである。
【0050】
構造発色は光の性質によるものであるから、可視光領域のみではなく、紫外線領域、赤外線領域でも同様に発現する。
紫外線領域で構造色を発現させるには、個数平均粒子径が小さい微粒子、例えば個数平均粒子径80~150nmの微粒子を用いればよく、赤外線領域で構造色を発現させるには、個数平均粒子径が大きい微粒子、例えば個数平均粒子径360~800nmの微粒子を用いればよい。
本発明では、物品の意匠性の向上のために構造発色を利用することから、可視光領域での構造色を発現することが好ましい。
【0051】
ここで可視光領域とは波長360~830nmを表し、紫外線領域とは波長200~359nmを表し、赤外線領域とは波長831~2500nmを表す。
【0052】
〔構造体〕
本発明の構造体は、前記分散体に含まれる微粒子を規則的に配列した、構造色を発現する物、具体的には、構造色を発現するコロイド集合体含有物をいう。
ここで、コロイド集合体とは、コロイド結晶やコロイドアモルファス集合体をいい、微粒子を配列させることにより、微粒子がコロイド結晶やコロイドアモルファス集合体、すなわち、コロイド集合体を形成する。
さらに、構造色を発現する物とは、粒子径の揃った微粒子が規則的に配列して光の回折・干渉が起こり、見る角度によって色が変化して見える角度依存性のある色を呈する物をいう。
【0053】
前記構造体としては、例えば、基材上に微粒子が配列した物、基材上に微粒子が配列した物から微粒子の規則的な配列を損なうことなくコロイド結晶を剥離した物が挙げられる。
【0054】
また、本発明の分散体は、水溶性樹脂を含有する。微粒子を配列させた場合に、水溶性樹脂は、分散体の表面張力を低下させ、高い構造発色性を維持したまま、製膜性を向上させる効果を発現するものと考えられる。
これにより、本発明の分散体を用いて得た構造体は、水溶性樹脂を含有しない分散体を用いて得た構造体に対して、製膜性が良好である。
【0055】
一実施形態において、本発明の構造体は、個数平均粒子径が50~800nm、かつ、個数基準による粒子径のCV値が15%以下の微粒子と、水溶性樹脂とを含むことを特徴とする。このとき、構造体に含まれる微粒子及び水溶性樹脂は、前述の本発明の分散体における微粒子及び水溶性樹脂と同様の特性を有することが好ましく、より好ましい範囲も同様に考えることができる。
【0056】
前記基材としては、特に制限されるものではなく、金属、樹脂、木材、紙等の一般的な材料を用いることが可能である。
表面保護の目的で、必要に応じて構造体の表面にオーバーコート層を設けてもよい。
基材としてフィルム状の材料を用いた場合、得られる構造体はフィルム状となる。フィルム状の構造体にも、表面保護の目的で、必要に応じて表面にオーバーコート層を設けてもよい。
【0057】
<反射率>
本発明の構造体は、200~2500nmの波長範囲における構造発色由来の反射率が5%以上であることが好ましい。構造体の前記反射率を5%以上とするには、例えば本発明の分散体を使用すればよい。
前記反射率は10%以上であることがより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
前記反射率が5%以上であれば、構造発色性に優れることから好ましい。
本発明の構造体の構造発色由来の反射率の上限には特に制限はないが、通常90%以下である。
構造発色由来の反射率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0058】
<光沢度の変化率>
本発明の構造体は、下記の物理的耐久性試験を行った前後での光沢度の変化率が0.3以上であることが好ましい。
(物理的耐久性試験)
構造体を固定し、50g分銅をのせたJKワイパーを構造体上で1回スライドさせる。
(光沢度の変化率)=(物理的耐久性試験実施後の光沢度)/(物理的耐久性試験実施前の光沢度)
前記光沢度の変化率を0.3以上とするには、例えば本発明の分散体を使用すればよい。
前記光沢度の変化率は0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。
前記光沢度の変化率が0.3以上であれば、物理的強度に優れることから好ましい。
【0059】
前記光沢度は、下記の方法で測定することができる。
ワイヤーバー(OSG製、OSP-25)を使用し、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、微粒子分散液を15mm/秒で塗布する。
25℃×30分静置した後、製膜された構造体から切り出した5cm四方のサンプルについて、光沢計VG7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS Z8741平行光方式の45°光沢測定を行い、光沢度を得る。
【0060】
[基材]
前述の通り、構造体に用いられる基材としては、特に制限されるものではなく、金属、樹脂、木材、紙等の一般的な材料を用いることが可能である。
例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルムの様な熱可塑性樹脂基材や、アルミニウム箔などの金属基材、ガラス基材、コート紙基材などを用いることもできる。
前記基材は、表面が平滑であっても、凹凸を有したものであってもよいし、透明、半透明、不透明のいずれであってもよい。微粒子の発色をより明瞭にするため、黒色等に予め着色された基材を用いることも可能である。また、上記これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでもよい。なお、基材は本発明の分散体の塗工性を改善する目的で、予めコロナ処理やプラズマ処理を行っても構わない。また、これらの基材上にプライマー層が付与されていても構わない。
【0061】
[オーバーコート層]
前記オーバーコート層は構造体の表面を保護するための層であり、構造体の表面に膜を形成する材料であれば、特に限定されるものではない。
前記オーバーコート層は、微粒子の表面を覆うことに加えて、微粒子の間に充填されることが好ましい。
前記オーバーコート層を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
樹脂の形態としては、任意の溶剤で希釈した樹脂溶液、または水に分散させたエマルションが一般的である。
【0062】
前記オーバーコート層の厚さとしては、特に限定されるものではなく、構造体の微粒子を覆う厚さ以上であればよい。
前記オーバーコート層は、構造体上に本発明の分散体を薄膜塗布し、必要に応じて熱処理等を加えて、構造体の表面に形成することができる。
【0063】
[構造体の製造方法]
本発明の構造体の製造方法は、例えば下記の通りである。
微粒子と水溶性樹脂とを含有する本発明の分散体を平滑な基材の上に塗布する。次いで、適切な温度で乾燥させる。これにより、前記微粒子が配列される。
【0064】
基材への本発明の分散体の塗布方式としては、インクジェットやスプレー、ディッピングやスピンコート等の版を使用しない印刷方式、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどの有版の印刷方式のいずれをも用いることができる。
【0065】
本発明の分散体の塗布膜厚は、分散体の固形分濃度にもよるが、1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、10~30μmが更に好ましい。塗布膜厚が1μm以上であると、得られる構造体の構造発色性が向上する。また、塗布膜厚が100μm以下であると、得られる構造体の規則配列性が向上し、構造発色性が向上する。
【0066】
本発明の分散体を基材上に塗布した後の乾燥方法に特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法など、従来既知の方法を用いることができる。上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。
乾燥温度が高すぎると、分散媒が急速に揮発してしまい微粒子の配列が乱れて発色に悪影響を及ぼすことがある。一方で、乾燥温度が低過ぎると、乾燥ムラが発生に繋がり、均一なコロイド結晶膜を得ることが得られないことがある。微粒子の配列の観点から、乾燥温度は10~120℃、特に90~110℃の範囲が好ましい。
乾燥時間は乾燥温度によっても異なるが、微粒子の配列の観点から、好ましくは0.5~30分、より好ましくは1~10分である。
【0067】
〔用途〕
本発明の分散体は、被塗布基材への濡れ性に優れ、分散媒に含まれる高粘度成分が少ないため、微粒子の配列を阻害することがなく、製膜性に優れる。
本発明の構造体は、膜表面が均一であるため、構造発色性が良好となる。また、微粒子間に容易にバインダー成分等を充填することができる。
これらの特徴から、本発明の分散体は、単独または二次加工材として、例えば、建築用塗料、自動車用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅、リップクリーム、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加飾フィルム等の装飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着カラー板、カラーフィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。
【0068】
また、本発明の構造体は、単独または二次加工材として、例えば、建築用塗料、自動車用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅、リップクリーム、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加飾フィルム等の装飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着カラー板、カラーフィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。
【0069】
上記の各種用途では、本発明の分散体を直接の原材料として用いてもよい。
また、微粒子が配列した構造体を原材料とし、微粒子が配列した状態を維持したまま、マトリクスとなる材料に分散させて用いてもよい。
【実施例0070】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0071】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例において、微粒子及びエマルションは、下記の方法により各種物性を測定した。
【0072】
(1)微粒子の個数平均粒子径
微粒子のエマルションを基材に塗布し、乾燥させた後、倍率2万倍以上の電子顕微鏡で、微粒子の画像を観察した。画像中、少なくとも400個の微粒子の直径を測定し、これを算術平均して個数平均粒子径を求めた。
【0073】
(2)微粒子の個数基準による粒子径のCV値
上記の少なくとも400個の微粒子の直径の測定値を用い、(標準偏差/平均粒子径)×100 の計算をし、個数基準による粒子径のCV値を求めた。
【0074】
(3)エマルションの固形分濃度
エマルションの固形分濃度は、エー・アンド・デイ株式会社製、加熱乾燥式水分計MX-50を用い、10gのエマルションを190℃で60分加熱して水分を蒸発させることにより求めた。
【0075】
(4)分散体(分散液)の粘度
B型粘度計(デジタル粘度計DVE、英弘精機株式会社)と少量サンプルアダプターを用いて分散液の粘度を測定した。具体的には、微粒子分散液6.7gをサンプルチャンバーに投入し、以下の条件にて測定を開始し、1分後に表示されている粘度の値を分散液の粘度とした。
・スピンドル:SC4‐18
・サンプルチャンバー:SC4-13R
・回転数:100rpm
・温度:25℃
【0076】
[原材料等]
以下の実施例及び比較例において、分散体の製造に用いた原材料等は以下の通りである。
・スチレン(デンカ社製)
・アクリル酸(三菱ケミカル社製)
・スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソーファインケム社製)
・ダイアセトンアクリルアミド(富士フィルム和光社製)
・炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光社製)
・過硫酸アンモニウム(関東化学社製)
【0077】
[微粒子含有エマルションの調製]
<エマルション[1]の調製>
スチレン880部、アクリル酸13部を混合し、単量体混合液を調製した。
一方、p-スチレンスルホン酸ナトリウム1.1部、炭酸水素ナトリウム1.5部をイオン交換水2056部に溶解させた助剤溶液を調製した。
攪拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、及び、原料・助剤仕込み装置を備えた反応容器に、助剤溶液を仕込み、内温を77℃に昇温させた。
次に、反応容器に過硫酸アンモニウム3.8部をイオン交換水40部に溶解させた重合開始剤溶液を投入し、その5分後に単量体混合液を2.5時間かけて逐次滴下した。
単量体混合液の滴下終了後、1.5時間77℃での攪拌を継続した後、内温を90℃に昇温させた。その後、90℃での攪拌を3時間維持した。
内温を20℃まで冷却した後、重合反応物を不織布ガーゼ(製品名「クロスガーゼ2号」、オオサキメディカル株式会社製)で濾過して、微粒子のエマルションAを得た。エマルションAに対し、10%アンモニア水を添加することでpHを7.0に調製した。また、適宜イオン交換水を加え、固形分濃度を30.0%に調整することでエマルション[1]を得た。
得られた微粒子は、個数平均粒子径265nm、CV値4.3%であった。
【0078】
[実施例1]
エマルション[1]18.0部、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル株式会社)1.3部、イオン交換水0.7部を混合することで固形分濃度27.0%の分散体を調製した。分散体の粘度は3.2cPであった。
プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(ルミラー(黒色)100μm厚、東レ社製)の上にワイヤーバー(OSP-25、OSG製)を用いて15mm/秒で塗布し、25℃で10分乾燥することで構造体を得た。
【0079】
[実施例2]
エマルション[1]18.1部、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル株式会社)0.7部、イオン交換水1.2部を混合することで固形分濃度27.0%の分散体を調製した。分散体の粘度は3.0cPであった。
プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(ルミラー(黒色)100μm厚、東レ社製)の上にワイヤーバー(OSP-25、OSG製)を用いて15mm/秒で塗布し、25℃で10分乾燥することで構造体を得た。
【0080】
[実施例3]
エマルション[1]18.2部、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル株式会社)0.07部、イオン交換水1.8部を混合することで固形分濃度27.0%の分散体を調製した。分散体の粘度は2.9cPであった。
プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(ルミラー(黒色)100μm厚、東レ株式会社製)の上にワイヤーバー(OSP-25、OSG製)を用いて15mm/秒で塗布し、25℃で10分乾燥することで構造体を得た。
【0081】
[実施例4]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー BVE8049Q(ケン化度≧99.0mol%、4質量%水溶液粘度4.5mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は3.1cPであった。
【0082】
[実施例5]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル株式会社)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー BVE8049Q(ケン化度≧99.0mol%、4質量%水溶液粘度4.5mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は2.7cPであった。
【0083】
[実施例6]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ゴーセノールCKS-50(ケン化度≧99.0mol%、4質量%水溶液粘度2.5~3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は3.1cPであった。
【0084】
[実施例7]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ゴーセノールCKS-50(ケン化度≧99.0mol%、4質量%水溶液粘度2.5~3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は2.3cPであった。
【0085】
[比較例1]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ゴーセノールL-3266(ケン化度86.5~89.0mol%、4質量%水溶液粘度2.3~2.7mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は10.5cPであった。
【0086】
[比較例2]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)の代わりに、4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー OKS-1089(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度60.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は12.4cPであった。
【0087】
[比較例3]
4質量%ポリビニルアルコール水溶液(ニチゴーGポリマー AZF8035W(ケン化度≧98.0mol%、4質量%水溶液粘度3.0mPa・s)、三菱ケミカル社製)を使用しなかったこと以外は、実施例3と同様の操作を行うことで分散体及び構造体を得た。なお、調整した分散体の粘度は2.3cPであった。
【0088】
[構造体の評価方法]
実施例及び比較例で得られた構造体を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
<製膜性の評価>
製膜性は、以下のようにして求めた。
ワイヤーバー(OSG製、OSP-25)を使用し、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、分散体を15mm/秒で塗布し、塗布時の液幅と、25℃×30分静置した後の塗布膜(構造体)の幅から、下記式に基づいて算出した。
製膜性評価指数=(静置後の塗布膜の幅/塗布時の液幅)
・評価基準:
〇(good):製膜性評価指数が0.9以上である場合
×(poor):製膜性評価指数が0.9未満である場合
【0089】
<発色性の評価>
発色性は成膜後の構造体の反射率を測定することで評価した。
分散体を、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(ルミラー(黒色)100μm厚、東レ社製)の上にワイヤーバー(OSP-25、OSG製)を用いて15mm/秒で塗布し、25℃で30分乾燥することで前記フィルム上に構造体を形成させた。得られた構造体の反射スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製V-770)および絶対反射測定ユニット(日本分光社製ARSN-917)を用いて、波長200~2500nmの範囲で測定した。この時、入射角と反射角はともに10°とした。得られた反射スペクトル中の反射率の最大値を構造発色由来の反射率とした。なお、測定におけるリファレンスは絶対反射測定ユニット(日本分光社製ARSN-917)中のミラーを用いた。得られた反射率の値から、発色性を以下のように評価した。
〇(good):反射率の値が5%以上である場合
×(poor):反射率の値が5%未満である場合
【0090】
<物理的耐久性の評価>
物理的耐久性は、以下のようにして評価した。
製膜後の構造体を固定し、50g分銅をのせたJKワイパーを構造体上で1回スライドさせた。その後、構造体の外観を目視で観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○(very good):外観に明確な傷が見られなかった場合
△(good):外観に傷が見られたが、基材であるポリエステルフィルムが露出するほどではなかった場合
×(poor):基材であるポリエステルフィルムから微粒子が剥がれ落ち、ポリエステルフィルムが露出した場合
【0091】
【表1】
【0092】
[考察]
実施例1~7は、平均ケン化度が90mol%以上のポリビニルアルコールを添加しており、かつ、分散体の粘度が11.0cP以下である。これにより、コロイド結晶膜の発色性を損なうことなく製膜性を向上させることができている。また、ポリビニルアルコールの添加量を上げるほど、発色性を損なうことなく塗膜の物理的耐久性を上げることができている。
【0093】
比較例1は、平均ケン化度が90mol%未満のポリビニルアルコールを使用している。これにより、製膜性の向上効果は見られるものの、得られるコロイド結晶膜の発色性が著しく低下している。
【0094】
比較例2は、ポリビニルアルコールの平均ケン化度は90mol%以上であるものの、分散体の粘度が11.0cPを上回っている。これにより、製膜性の向上効果は見られるものの、得られるコロイド結晶膜の発色性が著しく低下している。
【0095】
比較例3は、ポリビニルアルコールを添加していない。これにより、製膜性及び物理的耐久性に劣る分散体となっている。