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  • 特開-便通を改善する栄養組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005551
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】便通を改善する栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240110BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A23L33/10
A23C9/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105766
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502392559
【氏名又は名称】雪印ビーンスターク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】泉井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田中 礼央
(72)【発明者】
【氏名】日暮 聡志
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 保宏
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC15
4B001AC99
4B001BC03
4B001BC04
4B001EC05
4B001EC09
4B018LB07
4B018LE03
4B018MD07
4B018MD15
4B018MD23
4B018MD71
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF06
(57)【要約】
【課題】
便通の改善作用を有する栄養組成物を提供する。
【解決手段】
本発明は、脂肪酸アミドを有効成分とする便通改善作用を有する栄養組成物に関する。本発明の便通を改善する栄養組成物を飲食品等に配合して用いることで、前期課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アミドを有効成分とする便通改善作用を有する栄養組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸アミドが、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、エルシン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、リシノール酸アミドから選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸アミドの含有量は、0.15~1.22μg/mlである、請求項1または2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の栄養組成物を含む、飲食品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の栄養組成物を含む、乳児用栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便通を改善する栄養組成物に関する。より詳しくは、脂肪酸アミドを有効成分とする便通を改善する栄養組成物及びそれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
便秘は便が出ない状態のことである。便秘が続くと、多くの人が腹部膨満感を感じる。腸内で便が腐敗しガスが発生することにより、腹部が張った状態になり、不快症状を呈する。また、便やガスの出口が塞がれることから、腹痛が起こることがあり、また、便秘が続くと腸の働きが低下し、食欲不振や吐き気を生じることもある。さらに、影響は腸だけにとどまらず、血行不良や新陳代謝の滞りにより、肌への悪影響やイライラや不眠などの精神的な症状を引き起こすこともある。
【0003】
便秘は、生活習慣やストレス、加齢などの影響を受けて、腸の働きが乱れることにより生じる。現代は、生活習慣の乱れやストレス、運動不足等が原因となり、便秘につながりやすい環境であると言える。便秘を改善するためには、適度な運動や腸内環境を改善する食品の摂取、さらには、便通改善を目的とした医薬品を摂取する方法もある。
【0004】
便通改善を目的とした食品としては、食物繊維、オリゴ糖、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスを含む食品などが挙げられる。食物繊維は、便を軟らかくしたり、腸内細菌の栄養源となって腸内環境を整えたり、便の体積を増やして腸の蠕動運動を促す効果がある。オリゴ糖は、腸内細菌の栄養源となって腸に有益な菌を増やす効果がある。プロバイオティクスは、腸に悪影響を及ぼす腸内細菌の繁殖を抑え、腸内環境を整えることができる。これらを含む食品を中心に腸内環境を整えるための素材が検討されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、麦類の葉及び/又は茎の粉末を含有する整腸剤によって便秘を含む腸組織の以上に関連する種々の疾病及び異常の改善等が期待できることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、プロポリスを有効成分として含有する、ルミノコッカス科、カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属からなる群より選択される少なくとも一種の科又は属に属する細菌の腸内における数を調製するための剤について記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、澱粉中のアミロース含量が20重量%以上である米穀粒を湿熱処理した加工米又はその粉砕物を含む、便通改善剤が記載されている。
【0008】
しかしながら、上記記載の従来技術においては、十分な便通改善を得ることは困難であった。
便通改善を目的とした運動としては、ウォーキングのような全身運動で血行を改善し、腸の運動を促進することや排便時に必要となる腹筋の強化などが挙げられる。また、便通改善を目的とした医薬品としては、便に水分を含ませ軟らかくする薬(酸化マグネシウム)や腸を刺激し大腸の動きを促進する薬(センナ)などが挙げられる。
【0009】
一方、乳幼児期に便秘が生じた場合、一般的な便通改善方法である運動や食品などを用いた食事療法などは、乳幼児に適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-50237号公報
【特許文献2】特開2021-195334号公報
【特許文献3】特開2019-178157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、便通改善作用を有する脂肪酸アミドを配合した栄養組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、便通を改善する有効成分を研究する中で、母乳に含まれる成分に注目した。母乳は乳児にとって最適な飲料であり、乳児にとって必要な栄養や免疫物質など乳児の発育に良い影響を及ぼす成分が多く含まれていることが知られている。
【0013】
そこで本発明者らは、母乳中の便通を改善する成分を探索するために、母乳に含まれる脂肪酸類の量と乳児の排便の状態との関連性を統計的に解析し、便通を改善する新たな成分を鋭意検討した結果、母乳中のオレイン酸アミドが、便通改善に効果を有することを見出し、発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、脂肪酸アミドを有効成分とする便通を改善する栄養組成物である。
本発明は、かかる知見に基づきなされたものである。
【0015】
<1>
脂肪酸アミドを有効成分とする便通改善作用を有する栄養組成物。
<2>
前記脂肪酸アミドが、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、エルシン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、リシノール酸アミド、から選択される少なくとも1つである、<1>に記載の栄養組成物。
<3>
前記脂肪酸アミドの含有量は、0.15~1.22μg/mlである、<1>
または<2>に記載の栄養組成物。
<4>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の栄養組成物を含む、飲食品。
<5>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の栄養組成物を含む、乳児用栄養組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、便通を改善する栄養組成物が提供される。より詳しくは、脂肪酸アミドを有効成分とするものであり、これを摂取することで、便通を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】母乳のオレイン酸アミド量
【発明を実施するための形態】
【0018】
(脂肪酸アミド)
本発明は、脂肪酸アミドを有効成分として含有する便通を改善できる栄養組成物に関する。本明細書において、脂肪酸アミドとは、分子内に長鎖のアルキル基と極性の大きいアミド基を有し、RCONHの構造をもち、安定な化合物である。
【0019】
本発明における脂肪酸アミドは、例えば、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、エルシン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、リシノール酸アミドである。脂肪酸アミドは、工業的には脂肪酸とアンモニアの化学反応により調製できる。一方、脂肪酸アミドは食品中にも含まれていることが報告されている。
【0020】
オレイン酸アミドは天然に存在しており、例えば、食品ではカマンベールチーズやセロリ等で見出されている。特に発酵食品であるカマンベールチーズ中では、認知機能を改善する効果のある物質としてオレイン酸アミドが見出されている。本発明における脂肪酸アミドは、微生物発酵によっても生成することが可能である。本発明において用いられる脂肪酸アミドとしては、合成品又は天然品のいずれを用いてもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として配合し、本発明の栄養組成物としてもよい。
【0021】
ここで、天然品とは、脂肪酸アミドを含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。本発明では、脂肪酸アミドとして、これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然の材料としては、カマンベールチーズやセロリ等が例示できる。
【0022】
本発明の栄養組成物中の有効成分である脂肪酸アミドの添加量は、これを含有する飲食品の種類に応じて適宜変更することができる。例えば育児用粉乳の場合、便通改善作用を有するオレイン酸アミドの添加量は、好ましくは0.15~1.22μg/ml、より好ましくは0.16~0.58μg/ml、更に好ましくは0.29~0.45μg/mlである。
【0023】
本発明の栄養組成物の形態としては、特には限定がなく、液体、ゲル、粉末、顆粒等を挙げることができる。
本発明の栄養組成物の製造方法、飲食品に添加する方法に特に制限はない。また、本発明の栄養組成物に対しては、医薬品、飲食品、または飼料の製造に使用される殺菌処理を行うことが可能である。したがって、本発明の栄養組成物は液状、ゲル状、粉末状、顆粒状等様々な形態の飲食品や医薬品、飼料の製造において利用することができる。
【0024】
本発明の栄養組成物は、飲食品に添加することにより、摂取者の便通を改善することができる。有効成分である脂肪酸アミドは元来母乳に含有されていた成分であるため、育児用粉乳に添加することもできる。そのため、運動や食事療法などの一般的な便通改善方法が難しい乳児に対しても有効である。
【0025】
また、当該成分は、乳児だけでなく幼児、小児、成人でも有効な成分であると想定されることから、幼児、小児、成人向けの飲食品に配合して、便通を改善する栄養組成物として供給することも可能である。
【実施例0026】
本発明の一実施態様である実施例を用いて、以下に本発明を説明するが、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0027】
(試験例)
出産後1~2ヶ月の母乳100検体について、オレイン酸アミドの含量を測定した。さらに、それら母乳を飲んだ乳児について、11~12月齢における排便の状態についてのアンケート結果を集計した。乳児の排便の状態の調査は排便状況に関する質問票(便秘しやすい(はい/いいえ)、)を用いて算出した。また、母乳中の脂肪酸アミド量は、授乳後の母乳を採取した試料を用い測定した。母乳試料より、クロロホルムならびにメタノールを用いて抽出した脂質画分を、固相抽出によりトリグリセリドを除いて、分析試料とした。分析試料をGC/MS(アジレントテクノロジー株式会社)に供してオレイン酸アミド量を定量した。そして、母乳のそれぞれのオレイン酸アミドの測定値と乳児の排便の状態との関連性をマンホイットニーのU検定を用いて解析した。
【0028】
その結果、表1より、オレイン酸アミドの母乳中の含量が多いと、乳児の便通がよいという関連性が認められた。ここで、表1は、乳児の排便状態と母乳中オレイン酸アミド量の関係を示す。本結果の詳細を以降に記載する、乳児の排便状態で母乳サンプルを2群に分け、母乳のオレイン酸アミド濃度を比較した結果、排便状態がよい乳児が飲んだ母乳の方が、排便状態が悪い乳児が飲んだ母乳よりもオレイン酸アミド濃度が有意に高いレベルであった(表1)。このことは、乳児用栄養組成物において排便状態を良好にするには、排便状態がよい乳児が飲んだ母乳と同等レベルのオレイン酸アミドを含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。排便状態がよい乳児が飲んだ母乳のオレイン酸アミド濃度の分布範囲は0.05~1.22μg/mLであり、中央値は0.37μg/mLであった。母乳中のオレイン酸アミド含量を0.15μg/mL以上の検体と以下の検体の2群に分け、排便状態との関係をFisherの正確確率検定に供した結果、p<0.05以下となり、母乳中のオレイン酸アミド含量が0.15μg/mL以上では、排便状態が良好になることが示された。また、より便通改善作用を有するオレイン酸アミドの分布範囲は0.16~0.58μg/mlであった。
【0029】
【表1】
【0030】
母乳のオレイン酸アミド量について、図1に示す。母乳に含まれるオレイン酸アミドは0.05~1.22μg/mlの範囲であり、中央値は0.33μg/mlであった。
【0031】
排便状態がよい乳児の飲んだ母乳に含まれるオレイン酸アミド濃度と、母乳に含まれるオレイン酸アミド濃度を考慮すると、栄養組成物に必要なオレイン酸アミドの量の範囲を規定することができる。
【0032】
排便状態がよい乳児の飲んだ母乳に含まれるオレイン酸アミド濃度と、母乳に含まれるオレイン酸アミド濃度を考慮すると、便通改善作用を有するオレイン酸アミドの分布範囲は、0.15μg~1.22μg/ml、より好ましくは0.16~0.58μg/ml、更に好ましくは0.29~0.45μg/mlであることが示された。
【0033】
(実施例1:オレイン酸アミド配合調製粉乳の調製)
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kgを水500kgに溶解し、この溶液にあらかじめ混合したオレイン酸アミド0.3gと植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳のオレイン酸アミド量は、0.3mg/100g固形であった。
【0034】
(実施例2:パルミチン酸アミド配合調製粉乳の調製)
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kgを水500kgに溶解し、この溶液にあらかじめ混合したパルミチン酸アミド0.3gと植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳のパルミチン酸アミド量は、0.3mg/100g固形であった。
【0035】
(実施例3:ステアリン酸アミド配合調製粉乳の調製)
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kgを水500kgに溶解し、この溶液にあらかじめ混合したステアリン酸アミド0.3gと植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳のステアリン酸アミド量は、0.3mg/100g固形であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、母乳に含有されていた成分である脂肪酸アミドを含む便通を改善する栄養組成物が提供される。例えば、育児用粉乳に添加することもできるため、運動や食事療法などの一般的な便通改善方法が難しい乳児に対しても有効である。
図1