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特開2024-55558フレイル予兆検知システム及びフレイル予兆検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055558
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】フレイル予兆検知システム及びフレイル予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20240411BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162592
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】上原 優衣
(72)【発明者】
【氏名】大平 昭義
(72)【発明者】
【氏名】小野村 佐知
(72)【発明者】
【氏名】宮田 克也
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 英美
(72)【発明者】
【氏名】牧 敦
(72)【発明者】
【氏名】飯島 勝矢
(72)【発明者】
【氏名】小村 勝人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 望
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】高齢者自身や高齢者の家族が、日常的に、フレイルの可能性またはフレイルの兆候の有無を知ることができるフレイル予兆検知システム及びフレイル予兆検知方法を提供する。
【解決手段】本発明のフレイル予兆検知システム1は、センサの測定データにより対象者の生活の活発さを求める生活の活発さ演算部131と、高齢者のフレイル度と生活の活発さとの相関関係に基づいて、前記生活の活発さ演算部で求めた生活の活発さから対象者のフレイルの可能性またはフレイル予兆の少なくとも一方を検知するフレイル予兆判定部132と、を備えるようにした。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの測定データにより対象者の生活の活発さを求める生活の活発さ演算部と、
高齢者のフレイル度と生活の活発さとの相関関係に基づいて、前記生活の活発さ演算部で求めた生活の活発さから対象者のフレイルの可能性またはフレイル予兆の少なくとも一方を検知するフレイル予兆判定部と、
を備えたことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記フレイル予兆判定部は、
高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す近似直線を求め、
前記近似直線においてフレイル度がフレイルである第1レベルになる生活の活発さの第1の値とフレイル度がプレフレイルである第2レベルになる生活の活発さの第2の値とを求め、前記第1の値より大で前記第2の値以下の生活の活発さの範囲をフレイル予兆の範囲とし、
前記生活の活発さ演算部で求めた生活の活発さが前記フレイル予兆の範囲であれば、対象者はフレイル予兆ありと判定する
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項3】
請求項1に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記フレイル予兆判定部は、
前記相関関係を示す散布図においてフレイルの高齢者とプレフレイルの高齢者が混在する生活の活発さの範囲をフレイル予兆の範囲とし、
前記生活の活発さ演算部で算出した対象者の生活の活発さが前記フレイル予兆の範囲であれば、対象者はフレイル予兆ありと判定する
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項4】
請求項1に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記フレイル予兆判定部は、
前記相関関係を示す近似直線を求め、
前記生活の活発さ演算部で算出した対象者の生活の活発さを前記近似直線に基づいてフレイル度に換算し、
換算したフレイル度が、フレイルである第1レベル未満で、かつ、プレフレイルである第2レベル以上であれば、対象者はフレイル予兆ありと判定する
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記フレイル予兆は、J-CHS基準におけるフレイル度が、2以上3未満の範囲のフレイル度の状態とする
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記フレイル予兆判定部は、対象者のフレイル予兆の判定情報を表示部に出力する
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記センサの測定データを取得する情報取得部を備え、
前記生活の活発さ演算部は、前記情報取得部から前センサの測定データを得る
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
フレイル診断項目に重みづけてフレイル度を算出して高齢者のフレイル度と生活の活発さとの相関関係を求める
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載のフレイル予兆検知システムにおいて、
前記生活の活性さ演算部は、対象者の生活の活発さを求める際に、所定期間にセンサの測定データから求めた生活の活性さの最大値を、対象者の生活の活発さとする
ことを特徴とするフレイル予兆検知システム。
【請求項10】
情報取得部が、対象者の生活行動を検出するセンサの測定データを取得するステップと、
生活の活発さ演算部が、前記情報取得部で取得したセンサの測定データに基づき、対象者の生活の活発さを算出するステップと、
フレイル予兆判定部が、高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関関係に基づいて、前記対象者の生活の活発さにより対象者のフレイル予兆の有無を判定するステップと、
フレイル予兆判定部が、対象者のフレイルの可能性またはフレイル予兆の少なくとも一方の判定情報を出力するステップと、
を含むことを特徴とするフレイル予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレイル予兆検知システム及びフレイル予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会において、高齢者が要介護状態になるのを遅らせて健康寿命を延ばすことが、重要となっている。高齢者は、健康と要介護の間であるフレイル(加齢に伴う様々な生活機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態)を経て介護状態へ進むとみられている。一方で、フレイルでは、適切な介入・支援により生活の維持向上が可能と考えられている。
【0003】
この高齢者がフレイルであるか否かの診断方法に、CHS基準またはJ-CHS基準がある。例えば、J-CHS基準は、日本における身体的フレイルの代表的な診断法であり、フレイルの主要な評価方法であるFriedらのCHS基準に、日本の厚生労働省が介護予防のために作成した25項目の質問票を取り入れた日本版CHS基準である。J-CHS基準には体重減少(意図せず6カ月で2kg以上減少)、筋力低下(握力が男性28kg未満、女性18kg未満)、疲労感(ここ2週間わけもなく疲れたような感じがする)、歩行速度(通常歩行速度1.0m/秒未満)、身体活動((1)軽い運動・体操をしているか?(2)定期的な運動・スポーツをしているか?の質問に対し、(1)、(2)ともに週に1回もしていないと回答)に関する5種類のチェック項目が設定されており、前記データが各チェック項目に該当する場合は、各1点ずつ加算する。フレイル度はこの点数の合計値で判断し、0であればロバスト(健常)、1~2点であればプレフレイル、3点以上であればフレイルである。
【0004】
また、特許文献1には、被験者に過去2~3年の状態について4つの所定の質問を行い、回答の合計点数を算出し、合計点が所定点数以上の被験者をフレイルと判定するフレイル診断方法に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-177282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、J-CHS基準の診断に比べて簡易に診断できるので、日常診療でフレイル診断を実施することができる。
しかし、J-CHS基準の診断と特許文献1の診断方法とは、医師の診断方法であり、高齢者が通院した際、または検診の際に実施される。このため、高齢者自身や高齢者の家族が、日常的に、フレイルまたはフレイルの兆候の有無を知ることができなかった。
【0007】
本発明の目的は、高齢者自身や高齢者の家族が、日常的に、フレイルの可能性またはフレイルの兆候の有無の少なくとも一方を知ることができるフレイル予兆検知システム及びフレイル予兆検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のフレイル予兆検知システムは、センサの測定データにより対象者の生活の活発さを求める生活の活発さ演算部と、高齢者のフレイル度と生活の活発さとの相関関係に基づいて、前記生活の活発さ演算部で求めた生活の活発さから対象者のフレイルの可能性またはフレイル予兆の少なくとも一方を検知するフレイル予兆判定部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高齢者自身や高齢者の家族が、簡易に、日常的にフレイルの兆候の有無を知ることができる
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】フレイル予兆の検知方法を説明する高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図である。
図1B】他のフレイル予兆の検知方法を説明する高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図である。
図2】実施形態のフレイル予兆検知システムの基本構成を説明する図である。
図3】実施形態のフレイル予兆検知システム1の基本動作を説明するフロー図である。
図4】実施形態のフレイル予兆検知システム1を利用するフレイル予防サービスについて説明する図である。
図5】実施形態のフレイル予兆検知システムを利用する見守りシステムについて説明する
図6】外部端末の表示部の表示内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、実施形態における、フレイル予兆の検知方法の概要を説明する。
【0012】
本発明の発明者は、複数のJ-CHS基準に基づいてフレイル診断された高齢者について、生活行動における歩数、速度、加速度、活動量、各行動の回数、所要時間、種類数、頻度およびそれらの時間変化または合計値などを用いて表され、フレイル診断した際に生活がどの程度活発に行われているかを数値化した生活の活発さを調査した。
この結果、フレイル診断されたそれぞれの対象者のフレイル度と、調査した高齢者の生活の活発さとの間に、相関があるとの知見を得た。
【0013】
詳しくは、生活の活発さは、ミリ波センサに代表される電波を利用し物体の存在、移動を検知するセンサ、人感センサ、照度センサ、温湿度センサ、気圧センサ、加速度センサ、感圧センサ、カメラ、マイク、においセンサ、スマートウォッチ、ウェアラブル活動量計、体重計、心拍計、血圧計、体組成計などセンサを用い、測定データの種類、大小、頻度、バラつきなどに基づき、高齢者の生活の活発さを求める。
【0014】
図1Aは、調査した高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図である。
図の横軸は、高齢者の生活の活発さを示し、縦軸は、高齢者のフレイル度を示している。
そして、黒丸印は、フレイル進行者を示し、白抜き丸印は、プレフレイル者を示している。
【0015】
高齢者のフレイル度と生活の活発さは、図1Aに示すように、相関があることが判る。このことから、高齢者の生活の活発さから、高齢者のフレイル度を推定することができる。
【0016】
ところで、縦軸のフレイル度は、J-CHS基準に基づくスコアによるフレイル度を示しており、0であればロバスト(健常)、1または2であればプレフレイル(第2レベル)、3、4または5(3以上)であればフレイル(第1レベル)の状態を示している。
【0017】
高齢者のフレイル度は、医師の診察またはフレイル健診により判明するものであり、フレイル度の進行状況を細かく把握できない。このため、実施形態のフレイル予兆の検知方法により、フレイルへの移行状態、つまり、フレイル度が1から3未満の範囲への移行を把握する(フレイル度がプレフレイムの1(第2レベル)からフレイルの3(第1レベル)未満の範囲をフレイム予兆の範囲とする)。
【0018】
図1Aの直線は、複数の高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図を線形回帰分析して求めた近似直線であり、連続的な高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関モデルを示している。なお、線形回帰分析に限らず、非線形回帰分析を行ってもよい。
【0019】
実施形態のフレイル予兆の検知方法では、図1Aの近似直線に基づいて、フレイル度が1になる生活の活発さの値(横軸の右△印である第2の値)と、フレイル度が3になる生活の活発さの値(横軸の左△印である第1の値)を求め、横軸の左△印と右△印の間の生活の活発さの範囲(第1の値より大で第2の値以下の範囲)をフレイル予兆の範囲とする。
【0020】
対象者の生活の活発さが、フレイル予兆の範囲に含まれる場合には、図1Aの近似直線に基づいて換算したフレイル度は1以上3未満に相当するので、健康(プレフレイル未満)からフレイルへの移行状態にあるといえ、フレイル予兆ありと判定する。
【0021】
なお、上記ではフレイル予兆の範囲をフレイル度が1以上3未満への移行状態としたが、図1Aの近似直線に基づいてフレイル度が2になる生活の活発さの値(横軸の中央△印である第3の値)を求め、フレイル度が2以上3未満になる生活の活発さの値の範囲をフレイル予兆の範囲としてもよい。
【0022】
また、実施形態のフレイル予兆の検知方法では、生活の活発さがフレイル予兆の範囲より大きな場合には、近似直線に基づいて、対象者は健康(robust)な状態とし、生活の活発さがフレイル予兆の範囲より小さい場合には、近似直線に基づいて、対象者はフレイルの可能性が高い状態とする。そこで、対象者の生活の活発さが、フレイル可能性高い範囲に含まれる場合は、フレイルの可能性があると判定する。
【0023】
つぎに、実施形態のフレイル予兆の検知方法におけるフレイル予兆の範囲の他の求め方を、図1Bにより説明する。
図1Bは、図1Aと同様の、調査した高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図である。
【0024】
実施形態のフレイル予兆の検知方法は、フレイル度が1の高齢者における生活の活発さの最大値(横軸の右△印である第2の値)と、フレイル度が2の高齢者における生活の活発さの最小値(横軸の左△印である第1の値)を求め、横軸の左△印と右△印の間の生活の活発さの範囲(第1の値以上で第2の値以下の範囲)をフレイル予兆の範囲とする。また、図2Bに示すように、フレイルの高齢者とプレフレイルの高齢者が混在する生活の活発さの範囲をフレイル予兆の範囲とする。
【0025】
図1Bに示すように、横軸の左△印(第1の値)と右△印(第2の値)の間の生活の活発さの範囲(第1の値以上で第2の値以下の範囲)には、フレイル進行者とプレフレイル者が混在しており、生活の活発さの低下に伴いフレイル進行者が増加する領域になっている。したがって、対象者の生活の活発さがフレイル予兆の範囲に含まれる場合には、フレイル予兆がありと判定できる。なお、上記ではフレイル予兆の範囲を横軸の左△印(第1の値)と右△印(第2の値)の間の生活の活発さの範囲としたが、図1Bにおいて、フレイル度が3の高齢者における生活の活発さの最大値(横軸の中央△印である第3の値)を求め、横軸の左△印(第1の値)と中央△印(第3の値)の間の生活の活発さの範囲をフレイル予兆の範囲としてもよい。
【0026】
以上のように、実施形態のフレイル予兆の検知方法では、フレイル予兆の有無を判定する対象者の生活の活発さが、図1Aまたは図1Bで説明したフレイル予兆の範囲に含まれる場合に、健康(プレフレイル未満)からフレイルへの移行状態、つまり、フレイル度が1未満から3への移行状態であるフレイル予兆を判定する。また、フレイルの可能性を判定する対象者の生活の活発さが、図1Aまたは図1Bで説明したフレイル可能性高いの範囲に含まれる場合に、つまり、フレイル度が3から5の場合はフレイルの可能性があると判定する。
【0027】
なお、図1Aで、複数の高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図を線形回帰分析して求めた近似直線に基づいて、フレイル予兆の範囲を求める方法を説明したが、対象者の生活の活発さを近似直線に基づいてフレイル度に換算し、換算したフレイル度が、1から3の間にあれば、フレイル予兆がありと判定するようにしてもよい。
【0028】
つぎに、図2により、実施形態のフレイル予兆検知システムの基本構成を説明する。
フレイル予兆検知システム1は、情報取得部11と、蓄積部12と、演算部13と、で構成される。
【0029】
情報取得部11は、フレイル予兆の有無を判定する対象者の生活の活発さを算出するために必要な対象者の生活行動の情報を測定するセンサ2から測定データを取得するとともに、取得した測定データを蓄積部12と演算部13の少なくとも一方に通知する。なお、センサ2は、フレイル予兆検知システム1の一部として構成してもよい。
【0030】
また、情報取得部11は、対象者の身長、体重、生年月日、年齢、性別、BMI、体脂肪率、内臓脂肪レベル、筋肉量、体水分率、体内年齢、別途実施された健康調査の結果などの情報を、対象者の情報3として取得し、蓄積部12と演算部13の少なくとも一方に通知する。
【0031】
ここで、健康調査には、例えば握力、通常歩行速度の測定、最大歩行速度の測定、ロコモ度テストの2ステップテスト、椅子立ち上がりテスト、SMI、ロコモ度テスト(ロコモ25)、体重変化を問うアンケート、倦怠感を問うアンケート、日常の運動習慣を問うアンケート、認知機能検査(MMSE)、などの情報が含まれていてもよい。
これらの情報に基づいて、CHS基準またはJ-CHS基準によるスコア化することで、医学的に根拠のあるフレイル度を算出することが可能である。
【0032】
蓄積部12は、情報取得部11から通知されたセンサ2の測定データを、情報取得部11から通知された対象者の情報3に関連付けて記憶する。
また、蓄積部12は、図1A図1Bで説明した複数の高齢者のJ-CHS基準に基づいてフレイル診断されたフレイル度と生活の活発さの情報、生活の活発さにおけるフレイル予兆の範囲の情報、または高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す近似直線式を記憶する。
【0033】
演算部13は、対象者の生活の活発さを算出する生活の活発さ演算部131とフレイル予兆の有無を判定するフレイル予兆判定部132から構成し、対象者のフレイル予兆に関する情報を出力する。
【0034】
生活の活発さ演算部131は、情報取得部11から通知されるセンサ2の測定データに基づき、対象者の生活の活発さの指標を算出する。詳しくは、対象者の生活の活発さの指標は、生活行動における歩数、速度、加速度、活動量、各行動の回数、所要時間、種類数、頻度の時間変化または合計値などを用いて算出する。
【0035】
この際に、生活の活発さ演算部131は、生活の活発さ演算部131は、所定期間に算出した生活の活発さの指標の最大値を、対象者の生活の活発さの指標としてもよい。これにより、対象者の静止している場合のセンサ2の測定データに含まれるノイズの影響を低減できるので、生活の活発さの精度を向上できる。また、最大値を生活の活発さの指標とすることにより、算出した生活の活発さの指標の増加及び減少過程を除外できるので、生活の活発さの精度を向上できる。
【0036】
具体的には、対象者の生活の活発さの指標として、例えば、運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示すMETsを採用する。
【0037】
フレイル予兆判定部132は、高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関関係に基づいて、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さにより対象者のフレイル予兆の有無を判定する。
【0038】
詳しくは、フレイル予兆判定部132は、図1A図1Bで説明したフレイル予兆の検知方法のいずれかにより判定する。
【0039】
第1の方法は、蓄積部12に記憶する高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す近似直線を求め、この近似直線においてフレイル度が1になる生活の活発さの第2の値とフレイル度が3になる生活の活発さの第1の値とを求め、第1の値より大で第2の値以下の活発さの範囲をフレイル予兆の範囲とし、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さがこのフレイル予兆の範囲に含まれていれば、対象者はフレイル予兆ありと判定する方法である。
【0040】
第1の方法において、予め蓄積部12に高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す近似直線、またはフレイル予兆の範囲を記憶しておき、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さにより対象者はフレイル予兆の有無を判定してもよい。
【0041】
第2の方法は、蓄積部12に記憶する高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す散布図において、フレイルの高齢者(フレイル度が3)とプレフレイルの高齢者(フレイル度が2及び1)が混在する生活の活発さの範囲(図1Bの第1の値以上で第2の値以下の範囲)をフレイル予兆の範囲とし、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さがこのフレイル予兆の範囲に含まれていれば、対象者はフレイル予兆ありと判定する方法である。
【0042】
第2の方法において、予め蓄積部12にフレイル予兆の範囲を記憶しておき、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さにより対象者はフレイル予兆の有無を判定してもよい。
【0043】
第3の方法は、蓄積部12に記憶する高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関を示す近似直線を求め、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さを近似曲線に基づいてフレイル度に換算し、換算したフレイル度が、1以上で3未満であれば、フレイル予兆がありと判定する方法である。この近似直線は、予め蓄積部12に記憶しておいてもよい。
【0044】
図2のフレイル予兆検知システム1は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力I/F(Interface)、通信I/F及びメディアI/Fを有するコンピュータ(情報処理装置)により構成する。
【0045】
コンピュータがフレイル予兆検知システム1として機能する場合、コンピュータのCPUがHDDからRMAにロードされたプログラムを実行することにより、情報取得部11、演算部13(生活の活発さ演算部131及びフレイル予兆判定部132)の機能を実現する。
また、蓄積部12は、HDDに構成するが、ネットワークを介してコンピュータに接続するファイルサーバに構築してもよい。
【0046】
つぎに、図3のフロー図により、実施形態のフレイル予兆検知システム1の基本動作を説明する。
【0047】
ステップS1で、情報取得部11が対象者の生活行動を検出するセンサ2の測定データを取得する。
【0048】
ステップS2で、演算部13の生活の活発さ演算部131が、情報取得部11で取得したセンサ2の測定データに基づき、対象者の生活の活発さの指標を算出する。
【0049】
ステップS3で、演算部13のフレイル予兆判定部132が、高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関関係に基づいて、生活の活発さ演算部131で算出した対象者の生活の活発さにより対象者のフレイル予兆の有無を判定する。
【0050】
ステップS4で、演算部13のフレイル予兆判定部132が、対象者のフレイル予兆の判定情報を表示部に出力し、フレイルへの対応を促す。ここで、対象者のフレイル予兆の判定情報は、フレイル予兆の有無情報、または、フレイル予兆を検知したことの注意喚起の情報とする。
【0051】
実施形態のフレイル予兆検知システム1は、図3の基本動作を所定周期で繰り返し実行することにより、フレイルの兆候の有無を早期に通知する。
【実施例0052】
つぎに、図4により、保険業者などの高齢者のフレイル予防サービスを提供する事業者7において、実施形態のフレイル予兆検知システム1を利用するフレイル予防サービスについて説明する。
【0053】
まず、事業者7は、フレイル予兆検知システム1を利用したフレイル予防サービスを用意し、サービス加入者8からサービスの加入申し込みがあった際に、センサ2をサービス加入者8に送付する。
【0054】
ここで用いるセンサは、例えばミリ波センサに代表される電波を利用し物体の存在、移動を検知するセンサ、人感センサ、照度センサ、温湿度センサ、気圧センサ、加速度センサ、感圧センサ、カメラ、マイク、においセンサ、スマートウォッチ、ウェアラブル活動量計、体重計、心拍計、血圧計、体組成計などである。
【0055】
センサ2は設置後、電源接続、電池、または太陽光や振動などの環境発電により電源を確保し、測定を開始する。センサ2の測定データは、有線または無線の通信手段により、直接または外部サーバ6を経由してフレイル予兆検知システム1の情報取得部11に通知される。
【0056】
ここで、外部サーバ6の管理者は限定されることはなく、事業者7の管理するサーバであっても、センサメーカの管理するサーバであっても、クラウドサービスに代表される一般にレンタル可能なサーバでもよい。
【0057】
また、センサ2の測定データは、事業者7が提供するセンサ2の測定データに限らず、ホームセキュリティーサービス等の他サービスで設置したセンサのデータを流用することもできる。
【0058】
フレイル予兆検知システム1の情報取得部11は、センサ2の測定データ及び対象者の情報3をフレイル予兆検知システム1内に取得する。ここで、本実施例におけるサービス加入者8は、先に説明したフレイル予兆検知システム1の対象者に相当する。
【0059】
対象者の情報3は、サービスの加入申し込みを行う事業者7のホームページから入力できるようにしてもよい。また、サービス加入者の身長、体重、生年月日、年齢、性別、BMI、体脂肪率、内臓脂肪レベル、筋肉量、体水分率、体内年齢をセンサ2により入力してもよいし、また、他の事業者、自治体、非営利団体などと連携して取得してもよい。
【0060】
本実施例のフレイル予兆検知システム1は、先に説明したように、演算部13(情報取得部11)がサービス加入者8の生活行動を検出するセンサ2の測定データを取得し、演算部13(生活の活発さ演算部131)が、情報取得部11で取得したセンサ2の測定データに基づき、サービス加入者8の生活の活発さの指標を算出する。そして、演算部13(フレイル予兆判定部132)が、高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関関係に基づいて、生活の活発さ演算部131で算出したサービス加入者8の生活の活発さによりサービス加入者8のフレイル予兆の有無を判定する。
【0061】
その後、演算部13(フレイル予兆判定部132)が、サービス加入者8のフレイル予兆の判定情報を事業者7の外部端末5に通知し、フレイルへの対応を促す。ここで、サービス加入者8のフレイル予兆の判定情報は、フレイル予兆の有無情報、または、フレイル予兆を検知したことの注意喚起の情報とする。
【0062】
なお、高齢者のフレイル度と生活の活発さの相関関係の情報は、予め演算部13(フレイル予兆判定部132)に保存し参照するか、蓄積部12に保存しておき演算部13が参照するか、または、外部研究機関、外部教育機関などの外部サーバ6に保存して情報取得部11が参照するようにしてもよい。
【0063】
事業者7の外部端末5は、フレイル予兆検知システム1からサービス加入者8のフレイル予兆の判定情報または換算したフレイル度を取得するとともに、蓄積部12のサービス加入者8の過去のフレイル度を取得するようにしてもよい。これにより、事業者7は、サービス加入者8の過去のフレイル度も含めた時系列解析を行うことができる。
【0064】
ここで、時系列解析とは、各種のデータに対し横軸に時間をとったグラフにより可視化すること、及び、データの値、分類数または分類ごとの継続時間に関し、時間方向の変化率、移動平均、分散、標準偏差などの算出及び誤差解析、多項式近似などの操作を行うことを含んでもよい。この時系列解析により、例えば、現時点におけるフレイル度からはフレイル、または、その予兆と判断されない場合であっても、直近数カ月あるいは数年のフレイル度合いの変化から、近い将来、フレイルの予兆と判断される可能性が高いと考えられる場合には、その時点においてフレイルの予兆があると判断してもよい。
【0065】
外部端末5の表示部52は、フレイル予兆検知システム1から通知されたフレイル予兆の判定情報または換算したフレイル度に基づいて、現時点のサービス加入者8のフレイム予兆の有無、フレイル度及びその時系列変化に加え、事業者7に特有の情報を表示する。
【0066】
具体的には、事業者7が保険業者であれば、サービス加入者8の保険の適用実績とフレイル度の時系列変化を同時に表示し、今後の適切な保険料を類推する材料を提供する。保険業者は、この情報を基に、保険の適用可能性が低くなるよう、サービス加入者8に介入する手段を検討することができる。この介入手段には、サービス加入者8のフレイル度を軽減するために、「毎日30分程度散歩しましょう」「町内でバザーが開催されているので参加してみませんか?」などのレコメンドを行うことが含まれる。
【0067】
事業者7は、表示部52の表示内容について、フレイル予兆検知システム1の管理者にフィードバックすることができる。フィードバックの手段は、口頭での伝達、メール、システム管理者のホームページを介した投稿、外部端末5のインターフェース51への入力などである。システム管理者は、事業者7からのフィードバックに基づき、表示内容を変更する。
【実施例0068】
つぎに、図5により、高齢の親92を見守りたい個人91における、実施形態のフレイル予兆検知システム1を利用する見守りシステムについて説明する。なお、以下の説明では、実施例1と重複する内容は省略し、異なる部分のみ記載する。
【0069】
まず、個人91は、フレイル予兆検知システム1を利用した高齢の親92の見守りサービスに加入する。見守りサービスに加入すると、サービスプランに応じて様々な種類のセンサ2が、個人91または高齢の親92に送付される。
【0070】
センサ2は、高齢の親92の宅内に設置後、電源を確保し、測定を開始する。センサ2の測定データは、フレイル予兆検知システム1の情報取得部11に直接送信する。また、測定データは、外部サーバ6に送信し、外部サーバ6を経由して情報取得部11に送信してもよい。本実施例において、外部サーバ6は、センサメーカが運用するサーバでもよい。
【0071】
本実施例のフレイル予兆検知システム1は、高齢の親92を対象者として、先に説明したように、演算部13(情報取得部11)が高齢の親92の生活行動を検出するセンサ2の測定データを取得する。この際、情報取得部11は、外部サーバ6とは別の外部サーバ61に設けられた蓄積部12から対象者の情報3を取得する。
また、センサ2の測定データが、外部サーバ61の蓄積部12に通知され、情報取得部11が、蓄積部12を格納する外部サーバ61経由でセンサ2の測定データを取得してもよい。
【0072】
演算部13(生活の活発さ演算部131)が、高齢の親92の生活の活発さまたはそれに関する指標を算出する。つぎに、演算部13(フレイル予兆判定部132)が、生活の活発さまたはそれに関する指標を基に、健康調査の結果をJ-CHS基準に基づきスコア化した結果と、前記生活の活発さまたはそれに関する指標との相関を用いてフレイル度を算出する。この相関は、スコアと生活の活発さまたはそれに関する指標の最大値に関するものであってもよい。
【0073】
ここで、フレイル度の算出は、個人91または高齢の親92の意向に応じて、つぎのように行う。例えば、高齢の親92が、特に筋力に関して不安がある場合、健康調査の結果をJ-CHS基準に基づきスコア化する際、握力に関する項目に基づき算出されるスコアに重みづけする。具体的には、男性の場合、握力が28kg未満であればスコア1が加算されるが、そのスコアを1.5にするなどの操作を行う。
【0074】
この重みづけを適用することで、健康調査の結果をJ-CHS基準に基づきスコア化した結果と、生活の活発さとの相関は、握力の測定結果が重点的に反映されるため、相関を用いて算出するフレイル度は、筋力を重視した値として扱ってもよく、また、フレイルの中でも特に身体的フレイルに着目したものとして扱ってもよい。なお、重みづけするスコアは握力だけに限らなくてもよい。また、同時に複数の項目に重みを設定してもよい。
【0075】
最後に、演算部13(フレイル予兆判定部132)で算出したフレイル度またはフレイルの予兆に関する情報を、個人91または高齢の親92の少なくとも一方が所有する外部端末5に送信する。このとき、蓄積部12から高齢の親92の過去のフレイル度を参照し、同時に送信してもよい。
【0076】
図6は、外部端末5の表示部52の表示内容の一例を示す図である。
【0077】
外部端末5は、図6の表示を行うとともに、個人91と高齢の親92が、外部端末5を介して、情報の授受及びコミュニケーションを行えるようにする。例えば、フレイル度の情報を基に、個人91と高齢の親92の次回外出の計画をビデオ通話により相談できるようにする。
【0078】
図6では、生活の活発さの変化のグラフとして本日、先月、先々月の活発さを表示する例を記載したが、これに限られず、例えば半年ごとの活発さや1年ごとの活発さを表示しても良い。また、過去の活発さと現在の活発さを比較しても良い。このとき、外部端末5の画面には「最近、○○様は元気が無いようです。週末は一緒にお出かけしませんか?」と表示する例が考えられ、誘い主は例えば見守りシステムが考えられる。
【0079】
なお、実施形態の説明において、CHS基準及びJ-CHS基準を用いて相関を算出したがこれに限られず、例えば、指輪っかテスト、イレブンチェック、25項目の基本チェックリスト、サルコペニア、ロコモ度、といった基準と生活の活発さとの相関を用いて、フレイルまたはそれ以外のサルコペニア、ロコモなどの予兆を検知してもよい。
【0080】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 フレイル予兆検知システム
11 情報取得部
12 蓄積部
13 演算部
131 生活の活発さ演算部
132 フレイル予兆判定部
2 センサ
3 対象者の情報
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6