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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055609
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】単結晶引上方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20240411BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C30B29/06 502J
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162674
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】松山 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 淳
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EA01
4G077EB01
4G077EH07
4G077EH09
4G077PF34
4G077PF35
(57)【要約】
【課題】チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、シリコン単結晶の直胴部後半の熱履歴制御を行うことができ、テールと融液の切り離し時の熱衝撃を防止すること。
【解決手段】テール部形成工程において、直胴部C2の最終引上げ速度をv0とし、前記直胴部から連続するテール部C3初期の引上速度をv1としたとき、v1≧0.88・v0とし、かつシリコン溶融Mの液面レベルを一定に保持するためにルツボ3を上昇させる第一段階と、前記第一段階の終了後は、引上速度を前記v1よりも遅い引上速度v2に徐々に減速させ、かつ前記ルツボ上昇を停止させる第二段階と、前記第二段階の終了後は、引上速度を、テール部とシリコン融液とが切り離し可能な引上速度v3に調整する第三段階と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
単結晶のインゴット径が一定となるよう引上制御を行う直胴部形成工程と、
前記直胴部形成工程の後に、インゴット径を縮径してテール部を形成するテール部形成工程とを備え、
前記テール部形成工程において、
前記直胴部の最終引上げ速度をv0とし、前記直胴部から連続するテール部初期の引上速度をv1としたとき、v1≧0.88・v0とし、かつシリコン溶融の液面レベルを一定に保持するためにルツボを上昇させる第一段階と、
前記第一段階の終了後は、引上速度を前記v1よりも遅い引上速度v2に徐々に減速させ、かつ前記ルツボ上昇を停止させる第二段階と、
前記第二段階の終了後は、引上速度を、テール部とシリコン融液とが切り離し可能な引上速度v3に調整する第三段階と、
を有することを特徴とする単結晶引上方法。
【請求項2】
前記テール部形成工程において、
前記テール部の目標とする全体長さをLとし、前記第一段階のテール部の長さをL1としたとき、L1≦0.5・Lとすることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上方法。
【請求項3】
前記テール部形成工程において、
前記第一段階の最終のインゴット径をD1とし、前記第二段階のインゴット径をD2としたとき、D2≦1/2・D1であることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上方法。
【請求項4】
前記テール部形成工程において、
前記第三段階のテール部の長さをL3としたとき、L3≧D2であることを特徴とする請求項3に記載された単結晶引上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引上方法に関し、特にシリコン単結晶の直胴部後半の熱履歴制御を行うことができ、テールと融液の切り離し時の熱衝撃を防止する単結晶引上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、図10に示すようにチャンバ50内に設置した石英ルツボ51に原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン溶融液Mとする。
その後、シードチャックに取り付けた種結晶P(シード)をシリコン溶融液Mに浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより輻射シールド53の内側で単結晶Cを育成する。
【0003】
具体的には、インゴット径が徐々に拡径されて肩部C1が形成され、続けて製品部となる直胴部C2の育成が行われる。直胴部C2の育成が終了すると、図11に示すようにインゴット径を徐々に縮小させるテール部C3を形成し、このテール部C3とシリコン融液Mとが切り離される。テール部C3を形成することにより、テール部C3とシリコン融液Mとが切り離される際に生じる熱衝撃による転位が、直胴部C2にスリップバックしないようにしている。
【0004】
従来技術では、テール部C3とシリコン融液Mとの切り離しを安定的に行うために、例えば特許文献1(特開2000-26197号公報)において、インゴット重量の変化量や融液表面温度の変化量を利用した自動化が図られている。
【0005】
ところで、シリコン単結晶の引上速度は、熱履歴制御に有効な条件である。しかしながら、テール部C3の引上げ制御においては、引上速度を変化させなければ、インゴット径を縮小することができない。そのため、融液温度の上昇制御、或いは、液面位置を一定に保持すためのルツボ上昇制御を停止することになる。その結果、テール部C3引上げにおいては、引上速度は熱的にも、相対的にも低速化に制限される。
【0006】
インゴットにおける、ある一部位の熱履歴は、その部位よりも後に引上げられる部位の引上速度によるため、直胴部後半の熱履歴を制御しようとすると、テール部C3の引上速度に依存されることになる。そのため、例えば、Grown-in欠陥の生成を促進させる熱温度帯の体験時間を短くしたい場合、テール部C3の引上速度が低いと、直胴部後半においては所望の熱履歴が達成できないという問題があった。
このような課題に対し、特許文献2(特開平11-268991号公報)では、テール部C3の引上速度をより高速化することで直胴部に発生するOSFや異常酸素析出を抑える熱履歴制御を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-26197号公報
【特許文献2】特開平11-268991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示される方法では、テール部C3の引上げにおいて融液残量が少なくなっていき、かつ引上速度が速いと、融液表面に局所的に温度が低い部分が形成され、シリコン融液Mのフリーズが発生する。この場合、テール部C3とフリーズしたシリコン融液Mとが固着する前に強制的に切り離す必要があり、その際に大きな熱衝撃が生じるという課題があった。
これらの課題を解決するためには、テール部C3形成の際に熱履歴制御を行い、さらにテール部C3と融液Mとの切り離し時の熱衝撃が防止されるシリコン単結晶インゴットの製造方法が必要であった。
【0009】
本発明は、上記事情のもとになされたものであり、本発明は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、シリコン単結晶の直胴部後半の熱履歴制御を行うことができ、テールと融液の切り離し時の熱衝撃を防止することのできる単結晶引上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上方法は、チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、単結晶のインゴット径が一定となるよう引上制御を行う直胴部形成工程と、前記直胴部形成工程の後に、インゴット径を縮径してテール部を形成するテール部形成工程とを備え、前記テール部形成工程において、前記直胴部の最終引上げ速度をv0とし、前記直胴部から連続するテール部初期の引上速度をv1としたとき、v1≧0.88・v0とし、かつシリコン溶融の液面レベルを一定に保持するためにルツボを上昇させる第一段階と、前記第一段階の終了後は、引上速度を前記v1よりも遅い引上速度v2に徐々に減速させ、かつ前記ルツボ上昇を停止させる第二段階と、前記第二段階の終了後は、引上速度を、テール部とシリコン融液とが切り離し可能な引上速度v3に調整する第三段階と、を有することに特徴を有する。
【0011】
なお、前記テール部形成工程において、前記テール部の目標とする全体長さをLとし、前記第一段階のテール部の長さをL1としたとき、L1≦0.5・Lとすることが望ましい。
また、前記テール部形成工程において、前記第一段階の最終のインゴット径をD1とし、前記第二段階のインゴット径をD2としたとき、D2≦1/2・D1であることが望ましい。
また、前記テール部形成工程において、前記第三段階のテール部の長さをL3としたとき、L3≧D2であることが望ましい。
【0012】
このように本発明によれば、テール部形成工程において、直胴部の最終引上げ速度をv0とし、直胴部から連続するテール部初期の引上速度をv1としたとき、v1≧0.88・v0とし、かつシリコン溶融の液面レベルを一定に保持するためにルツボを上昇させる第一段階を備える。
これにより、直胴部後半、特にテール部直上の直胴部においては、Grown-in欠陥などが生成される温度帯の熱体験時間を短時間化し、熱履歴制御を行うことができる。
また、第一段階の終了後は、引上速度をv1よりも遅い引上速度v2に徐々に減速させ、かつルツボ上昇を停止させる(引上げ速度を相対的に低速化させる)第二段階と、第二段階の終了後は、引上速度を、テール部とシリコン融液Mとが切り離し可能な引上速度v3に調整する第三段階と、を備える。
これにより、テール部形成の第二段階において融液残量が少なくなる前に、融液温度を上昇させ、融液のフリーズを抑制することができる。その結果、テール部形成の第三段階において、テール部切り離しの際の熱衝撃を緩和し直胴部までのスリップバックを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、シリコン単結晶の直胴部後半の熱履歴制御を行うことができ、テールと融液の切り離し時の熱衝撃を防止することのできる単結晶引上方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る単結晶引上方法が実施される単結晶引上装置の一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明に係る単結晶引上方法の一例を示すフロー図である。
図3図3は、本発明に係る単結晶引上方法により引き上げられるシリコン単結晶のテール部を示す正面図である。
図4図4は、実施例1におけるテール部形成の第一段階から第三段階におけるテール長と引上速度の関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例1におけるテール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を示すテール部の正面図である。
図6図6は、比較例1におけるテール部形成の第一段階から第三段階におけるテール長と引上速度の関係を示すグラフである。
図7図7は、比較例1におけるテール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を示すテール部の正面図である。
図8図8は、比較例2におけるテール部形成の第一段階から第三段階におけるテール長と引上速度の関係を示すグラフである。
図9図9は、比較例2におけるテール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を示すテール部の正面図である。
図10図10は、従来の単結晶引上方法を説明するための断面図である。
図11図11は、図10の状態に続く状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る単結晶引上方法について図面を用いながら説明する。ただし、本発明の一例として本実施形態を説明するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る単結晶引上方法が実施される単結晶引上装置の一例を示す断面図である。この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンルツボ(或いは黒鉛ルツボ)2と、カーボンルツボ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンルツボ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0017】
また、カーボンルツボ2の下方には、このカーボンルツボ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンルツボ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0018】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を加熱溶融してシリコン融液Mとするための抵抗加熱式または高周波誘導加熱方式によるヒータ4を備えている。
また、単結晶引上装置1は、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9を備えている。引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
【0019】
また、ルツボ3内に形成されるシリコン融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するヒータ4やシリコン融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
【0020】
また、単結晶引上装置1は、育成中の単結晶の直径を測定するためのCCDカメラ等の光学式の直径測定センサ17を備える。メインチャンバ10aの上面部には、観測用の小窓10a1が設けられており、この小窓10a1の外側から固液界面における結晶端(破線矢印で示す位置)の位置変化を検出するようになされている。
【0021】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコントローラ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、回転駆動制御部9a、直径測定センサ17は、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0022】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径300mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。
即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば460kg)を装填し、コントローラ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0023】
先ず、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされる。例えば、炉内圧65torr、アルゴンガス流量90l/minの炉内雰囲気が形成される。
そして、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で所定方向に回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、ヒータ4による加熱によって溶融され、シリコン融液Mとされる(図2のステップS1)。
【0024】
また、ヒータ4への初期供給電力や、引き上げ速度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、種結晶Pが軸回りに所定の回転速度で回転開始される。回転方向はルツボ3の回転方向とは逆方向になされる。
【0025】
続いて、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pがシリコン融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部P1が形成される(図2のステップS2)。
そして、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成される(図2のステップS3)。直径測定センサ17により測定されるインゴット径が所望の径D0となると、コントローラ11は、昇降駆動制御部15aにより昇降駆動部15を駆動制御し、引上げ速度v0を例えば0.55mm/minに一定とし、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(図2のステップS4)。
【0026】
所定の長さまで直胴部C2が形成されると、最終のテール部工程に移行する(図2のステップS5)。
このテール部工程においては、直胴部C2の最終引上速度をv0とすると、図3に示すように第一段階として、引上速度v1≧0.88・v0となるように引上げ制御される(図2のステップS6)。このテール部形成の第一段階では、わずかに融液温度を上昇させ、インゴット径を緩やかに縮小させつつ引上速度v1が調整される。
【0027】
具体的には、テール部形成の第一段階では、テール部引上げ速度v1を高速化する(v1≧0.88・v0)。インゴット径が徐々に縮小化されることにより引上速度は高速化するが、これに、さらに直胴部引上げから液面を一定に保持するために与えているルツボ上昇を持続させ、相対的な引上速度の上昇を図る。これにより、直胴部後半、特にテール部直上の直胴部はGrown-in欠陥などが生成される温度帯の熱体験時間が短時間化される。この熱履歴制御を行うテール部引上げを第一段階とする。
そして、直胴部C2最終のインゴット径をD0、テール部目標値をLとすると、第1段階のテール長L1が、L1≦0.5・L、かつインゴット径D1が、0.6×D0のインゴット径となったところでテール部形成の第一段階を終了する(図2のステップS7)。なお、第一段階のテール長L1が0.5×Lより大きくなると、テール長L1が長大化しすぎて、第二段階以降の制御が困難となる虞がある。
【0028】
ここで、仮にテール部形成の第一段階を継続すると、インゴット径の縮小化が緩やかとなり融液残量が少なくなり、引上速度の高速化により融液温度が低温化して融液がフリーズしやすい。そこで、図3に示すテール部形成の第二段階では、融液残量が少なくなる前に、融液温度を上昇させることでシリコン融液Mのフリーズを防止する。
さらに、ルツボ上昇を停止させることで引上速度を相対的に低速化させ(図2のステップS8)、少なくともインゴット径D2が第一段階最終径D1の50%以下(D2≦1/2・D1)になるまで縮小化を促進させる。ここで、インゴット径D2が、D2≦1/2・D1となるまで第二段階の制御を継続しないと、その後の第三段階において、テールとシリコン融液Mが切り離し可能な引上速度v3に高速化した際にシリコン融液Mがフリーズする虞がある。
具体的には、ヒータ4の出力を上げて、シリコン融液Mがフリーズしないように融液温度を十分に上昇させつつ、引上速度v2を引上速度v1から徐々に減速させ、インゴット径の縮小化を促進する(図2のステップS9)。そして、インゴット径D2が、例えば0.3×D1となったところで第二段階を終了する(図2のステップS10)。
【0029】
この第二段階において十分にインゴット径を縮小化させた後は、図3に示す第三段階として、第二段階最終径D2よりも長いテールを引上げつつ、テールとシリコン融液Mが切り離し可能な引上速度v3に調整する(図2のステップS11)。
そして、第三段階のテール長L3がインゴット径D2以上(L3≧D2)、かつ10mm以下となると(図2のステップS12)、テール部をシリコン融液Mから切り離して第三段階を終了し、シリコン単結晶Cが製造される(図2のステップS13)。
ここで、最終的に第三段階のテール長L3≧D2としたインゴット最小径において、テールとシリコン融液Mとを切り離す引上速度v3は、高速であっても、低速であってもほとんど問題なく切り離しの際の熱衝撃を緩和し、直胴部C2までのスリップバックを防止することができる(第三段階のテール長L3<D2の場合のインゴット最小径では、切り離しの際の熱衝撃が大きくなる虞がある)。
【0030】
以上のように、本実施の形態によれば、テール部形成工程において、直胴部C2の最終引上げ速度をv0とし、直胴部C2から連続するテール部C3初期の引上速度をv1としたとき、v1≧0.88・v0とし、かつシリコン溶融Mの液面レベルを一定に保持するためにルツボ3を上昇させる第一段階を備える。
これにより、直胴部C2後半、特にテール部C3直上の直胴部C2においては、Grown-in欠陥などが生成される温度帯の熱体験時間を短時間化し、熱履歴制御を行うことができる。
また、第一段階の終了後は、ヒータ出力の制御によりシリコン融液Mの温度を上昇させつつ、引上速度をv1よりも遅い引上速度v2に徐々に減速させ、かつルツボ上昇を停止させる(引上げ速度を相対的に低速化させる)第二段階と、第二段階の終了後は、引上速度を、テール部C3とシリコン融液Mとが切り離し可能な引上速度v3に調整する第三段階と、を備える。
これにより、テール部形成の第二段階において融液残量が少なくなる前に、融液温度を上昇させ、融液のフリーズを抑制することができる。その結果、テール部形成の第三段階において、テール部切り離しの際の熱衝撃を緩和し直胴部C2までのスリップバックを防止することができる。
【実施例0031】
本発明に係る単結晶引上方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0032】
本実施例では、図1に示した単結晶引上装置において、直径32インチの石英ルツボ内に460kgのシリコン原料を充填しシリコン融液を形成した。シリコン融液には、ドーパントとしてボロンを添加し、高濃度のボロン添加シリコン単結晶の引上げを行った。
評価は、引き上げたシリコン単結晶に発生するGrown-in欠陥(LPD)の有無を表面検査装置(SPI)で検査した。
LPDは、シリコン単結晶インゴットの形成後半部に発生しやすく、これを低減するために、引上げでは、1000℃~900℃の温度帯の熱体験時間を短時間化する熱履歴制御を行った。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、直胴部最終の引上速度をv0、直胴部最終のインゴット径をD0とすると、テール部第一段階では、わずかに融液温度を上昇させることでインゴット径を緩やかに縮小化させつつ、第一段階での引上速度v1を調整した(v1≧0.88×v0)。その後、テール部全体の目標長をLとすると、第一段階のテール長L1が0.3×Lの長さ、インゴット径D1が0.6×D0のインゴット径になったところで第一段階を終了させた。
【0034】
次の第二段階では、ルツボ上昇を停止し、融液温度を十分に上昇させて行くことで融液がフリーズしないように注意して第二段階の引上速度v2を徐々に減速し、インゴット径の縮小化を促進した。そして、第二段階のインゴット径D2が0.3×D1のインゴット径になったところで第二段階を終了させた。
【0035】
次の第三段階ではさらに融液の温度上昇を行いつつ、インゴット径が拡がりやすい傾向を示したため、第三段階での引上速度v3を高速化させてインゴット径を縮小化させ、第三段階のテールの長さL3≧D2となるまでテール部引上げを継続し、最終的にはインゴット径を10mm以下の最小径にし、テールを融液から切り離した。
【0036】
実施例1におけるテール部形成の第一段階から第三段階におけるテール長(mm)と引上速度(mm/100min)の関係を図4のグラフに示す。また、テール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を図5に示す。
このような実施例1におけるテール部形成により、直胴部までのスリップバックを防止することができた。
また、直胴部後半にあたるインゴット部位の欠陥数を表面検査装置(SPI)において確認したところ、LPD数が低減していることを確認することができた。
【0037】
(比較例1)
比較例1において、テール部形成の第一段階においては、ルツボ上昇を与えつつ、インゴット径の縮小化を促進させるべく融液温度を積極的に上昇させたため、v1は0.56×v0まで低速化した。
第二段階においてはルツボ上昇を停止し引上速度v2を徐々に低速化させた。そして、インゴット径D2が0.3×D1になったところで第二段階を終了させた。
第三段階においてはさらに融液の温度を上昇させ、テールの長さL3≧D2となり、インゴット径が10mm以下となったところでv3を調整し、テールと融液を切り離した。
【0038】
比較例1におけるテール部形成の第一段階から第三段階におけるテール長(mm)と引上速度(mm/100min)の関係を図6のグラフに示す。また、テール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を図7に示す。
このような比較例1におけるテール部形成により、直胴部までのスリップバックが防止されたが所望の熱履歴制御は達成されなかった。
【0039】
このように実施例1および比較例1の結果から、テール部形成の第一段階では、少なくとも引上速度v1をv1≧0.88×v0に調整することで、直胴部後半にあたるインゴット部位の欠陥数を低減することができる(所望の熱履歴制御を行うことができる)ことを確認した。
【0040】
(比較例2)
比較例2において、テール部形成の第一段階においては、ルツボ上昇を与えつつ、所望の熱履歴制御を満足するべく融液の温度上昇を抑え、引上速度v1は1.05×v0に高速化された。しかしながら、テール長L1は長大化した。
第二段階においては、ルツボ上昇を停止したが、融液温度が十分に高温化されていなかったためにインゴット径が増大しやすい傾向があった。そのため、v2を高速化させたがインゴット径の縮小化が不十分となり融液の残量が不足したため、やむなくテール部引上げ途中でテールと融液を切離した。
【0041】
比較例2におけるテール部形成の第一段階から第二段階におけるテール長(mm)と引上速度(mm/100min)の関係を図8のグラフに示す。また、テール部形成のテール長、引上速度、インゴット径の制御結果を図9に示す。
このような比較例2におけるテール部形成により、直胴部までのスリップバックが発生した。また、第一段階のテール長L1が0.5×Lより大きくなると、テール長L1が長大化しすぎて、第二段階以降の制御が困難となることを確認した。
【0042】
本実施例の結果、本発明によれば、直胴部までのスリップバックを防止するとともに、直胴部後半における所望の熱履歴制御を達成できることを確認した。
【符号の説明】
【0043】
1 シリコン単結晶(単結晶)
3 石英ガラスルツボ(ルツボ)
4 ヒータ
6 ワイヤ
7 輻射シールド
C シリコン単結晶
M シリコン溶融液
C2 直胴部
C3 テール部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11