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特開2024-55622デハロコッコイデス属細菌の培養方法及び塩素化エチレン類の浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055622
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】デハロコッコイデス属細菌の培養方法及び塩素化エチレン類の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240411BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20240411BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240411BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 F
C12N1/20 D
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
B09C1/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162703
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】507416805
【氏名又は名称】株式会社テクノスルガ・ラボ
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】久田 貴義
【テーマコード(参考)】
4B065
4D004
4D040
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB02
4B065BB03
4B065BD50
4B065CA55
4D004AA41
4D004AB06
4D004AC07
4D004CA18
4D040DD03
4D040DD11
(57)【要約】
【課題】デハロコッコイデス属細菌をケグ様の金属製の耐圧培養容器を用いて培養する際に、安定的に大量培養できる方法を提供する。
【解決手段】本発明のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、金属製の耐圧培養容器を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養する方法であって、デハロコッコイデス属細菌を、培養液中の(a)鉄含有イオンが1mM以下、(b)クロム含有イオンが23μM以下、及び(c)ニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持するように培養する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の耐圧培養容器を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養する方法であって、
デハロコッコイデス属細菌を、培養液中の
(a)鉄含有イオンが1mM以下、
(b)クロム含有イオンが23μM以下、及び
(c)ニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持するように培養することを特徴とする、デハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項2】
さらに、前記培養液中の
(a)鉄含有イオンが300μM以下、
(b)クロム含有イオンが10μM以下、及び
(c)ニッケル含有イオンが1mM以下、の濃度範囲を保持するように培養することを特徴とする、請求項1に記載のデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項3】
前記金属製の耐圧培養容器として、チタン製の耐圧培養容器を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項4】
前記デハロコッコイデス属細菌は、受託番号:NITE P-02893で特定されるDehalococcoides mccartyi NIT01株であることを特徴とする請求項1又は2に記載のデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項5】
前記鉄含有イオンは、Fe2+であり、
前記クロム含有イオンは、Cr3+であり、
前記ニッケル含有イオンは、Ni2+であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の培養方法で培養されたデハロコッコイデス属細菌を、前記金属製の耐圧培養容器ごと塩素化エチレン類により汚染された汚染サイトに運搬し、該汚染サイトに前記耐圧培養容器から取り出したデハロコッコイデス属細菌を供給することにより、汚染サイトの塩素化エチレン類を浄化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデハロコッコイデス属細菌の培養方法に関し、具体的には、デハロコッコイデス属細菌を効率的に大量培養し、この大量培養されたデハロコッコイデス属細菌により、塩素化エチレン類を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属細菌は、地下水や土壌の汚染物質であるテトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)等の塩素化エチレン類を、無害なエチレンまで還元的に脱塩素化することができる細菌である。それゆえ、このデハロコッコイデス属細菌を利用して、塩素化エチレン類(CEs)で汚染された土壌・地下水を浄化するバイオレメディエーションが期待されている。例えば、本願発明者による特許文献1には、バイオレメディエーションに有用なデハロコッコイデス属細菌として、Dehalococcoides mccartyi NIT01株が開示されており、このNIT01株はトリクロロエチレン及び1,1,2-トリクロロエタンをエチレンに分解できることが記載されている。
【0003】
デハロコッコイデス属細菌によるバイオレメディエーションを実施するためには、大量のデハロコッコイデス属細菌の培養物を準備し、汚染サイトに運ぶ必要がある。デハロコッコイデス属細菌は絶対嫌気性細菌であることから、数十ミリリットル程度の小スケールでの嫌気培養は安定的に行えるものの、数リットルを超える大スケールでの安定的な嫌気培養は非常に難しく、さらに、その培養物を嫌気状態を維持したまま汚染サイトに運ぶことも困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、非特許文献1では、絶対嫌気性菌の大量培養にあたり、耐圧容器である市販の金属製のビア樽(ケグ)を用いることが提案されている。この金属製のビア樽を培養容器とすることにより、培養容器に液体培地を入れた状態でオートクレーブ滅菌することができ、オートクレーブ後のガス置換も容易であり、培養後には培養容器ごと培養物を運ぶことができるという利点を有する。一例として、特許文献2には、5ガロンのビア樽(コーネリアスタイプ)を利用して、デハロコッコイデス属細菌を大量培養したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-31号公報
【特許文献2】特開2021-16368号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“市販のビア樽(ケグ)などの耐圧力容器を用いた大量培養”、[online]、独立行政法人製品評価技術基盤機構 ホームページ、[2022年9月1日検索]、インターネット<URL:https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/support/cultivation.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者は、バイオレメディエーションに適用するため、市販のステンレス製のビア樽(ケグ)を耐圧培養容器として用い、デハロコッコイデス属細菌の大量培養を繰り返し実施していたところ、塩素化エチレン類の脱塩素化が停止し、デハロコッコイデス属細菌の活動や増殖も止まってしまう事象が生じることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、デハロコッコイデス属細菌をケグ様の金属製の耐圧培養容器を用いて培養する際に、安定的に大量培養できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、オートクレーブ可能な市販のビア樽(ケグ)はステンレス鋼から形成されており、大量培養容器として本願発明者が試験を行っていたケグもSUS304鋼で形成されていた点に着目し、この種のステンレス容器から溶出又は剥離等した成分が、デハロコッコイデス属細菌の培養に影響を及ぼした可能性があると仮説を立て、研究を進めていった。その結果得られた知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、金属製の耐圧培養容器を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養する方法であるところ、デハロコッコイデス属細菌を、培養液中の(a)鉄含有イオンが1mM以下、(b)クロム含有イオンが23μM以下、及び(c)ニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持するように培養する。これにより、金属製の耐圧培養容器を用いた際においても、デハロコッコイデス属細菌による塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害され難くなるため、培養液中での塩素化エチレン類の脱塩素化が進行すると共に細菌数も増え、安定的に大量培養することができる。
【0011】
また、上述の培養方法において、培養液中の(a)鉄含有イオンが300μM以下、(b)クロム含有イオンが10μM以下、及び(c)ニッケル含有イオンが1mM以下、の濃度範囲を保持するように培養することも好ましい。これにより、金属製の耐圧培養容器を用いた際においても、デハロコッコイデス属細菌による塩素化エチレン類の脱塩素化がより阻害され難くなるため、培養液中での塩素化エチレン類の脱塩素化が進行すると共に細菌数も増え、安定的に大量培養することができる。
【0012】
また、本発明の培養方法は、金属製の耐圧培養容器として、チタン製の耐圧培養容器を用いることも好ましい。これにより、培養液中の各種金属イオンの濃度範囲に影響を与えず、上述した濃度範囲を保持できる耐圧培養容器の金属材料として、好適な材料が選択される。
【0013】
また、本発明の培養方法におけるデハロコッコイデス属細菌は、受託番号:NITE P-02893で特定されるDehalococcoides mccartyi NIT01株であることも好ましい。これにより、本発明において、好適なデハロコッコイデス属細菌が選択される。このNIT01株は、塩素化エチレン類のみならず、塩素化エタン類をも脱塩素化することができるため、塩素化脂肪族化合物で汚染された汚染サイトの浄化に有用な菌株である。
【0014】
また、本発明の培養方法において、鉄含有イオンは、Fe2+であり、クロム含有イオンは、Cr3+であり、ニッケル含有イオンは、Ni2+であることも好ましい。これにより、培養液中で所定の濃度範囲を保持すべき金属イオンとして、特に好適なものが選択される。
【0015】
さらに、本発明の塩素化エチレン類を浄化する方法は、上述の培養方法で培養されたデハロコッコイデス属細菌を、金属製の耐圧培養容器ごと塩素化エチレン類により汚染された汚染サイトに運搬し、この汚染サイトに耐圧培養容器から取り出したデハロコッコイデス属細菌を供給することにより行われる。これにより、デハロコッコイデス属細菌を耐圧培養容器内で安定的に大量培養することができ、この耐圧培養容器ごと汚染サイトまで運搬することができるため、容易かつ迅速に汚染サイトに耐圧培養容器内のデハロコッコイデス属細菌を供給して、汚染サイトの塩素化エチレン類を脱塩素化して浄化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有するデハロコッコイデス属細菌の培養方法及びそれを用いた塩素化エチレン類の浄化方法を提供することができる。
(1)各金属イオンの培養液中の濃度範囲を所定濃度以下とすることにより、デハロコッコイデス属細菌による塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害され難くなるため、培養液中での塩素化エチレン類の脱塩素化が進行すると共に細菌数も増え、安定的に大量培養することができる。
(2)耐圧培養容器としてチタン製の容器を選択することにより、培養液中の各種金属イオンの濃度範囲に影響を与えないため、培養液中での塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害されず、安定した大量培養を繰り返し行うことができる。
(3)金属製の耐圧培養容器内でデハロコッコイデス属細菌を安定的に大量培養することにより、この培養容器ごと汚染サイトまで運搬することができるため、容易かつ迅速に汚染サイトに培養容器内のデハロコッコイデス属細菌を供給して、汚染サイトの塩素化エチレン類を脱塩素化して浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における(A)鉄の金属片を添加した培養液及び(B)SUS316の金属片を添加した培養液での塩素化エチレン類(CEs)の濃度と細胞密度を示すグラフである。
図2】実施例1におけるSUS304の金属片を添加した培養液での塩素化エチレン類(CEs)の濃度と細胞密度を示すグラフである。
図3】実施例1におけるチタンの金属片を添加した培養液での塩素化エチレン類(CEs)の濃度と細胞密度を示すグラフである。
図4】実施例1における培養試験後の各培養液中の金属片の様子を示す写真である。
図5】実施例2における培養試験前後の各金属片の表面の様子を示す写真である。
図6】実施例4における(A)対照区及び(B)~(E)鉄イオンを種々濃度で添加した培養液での塩素化エチレン類の濃度を示すグラフである。
図7】実施例4におけるクロムイオンを種々濃度で添加した培養液での塩素化エチレン類の濃度を示すグラフである。
図8】実施例4におけるニッケルイオンを種々濃度で添加した培養液での塩素化エチレン類の濃度を示すグラフである。
図9】実施例5において用いたチタン製の耐圧培養容器を示す写真である。
図10】実施例5におけるチタン製の耐圧培養容器にて、大量培養を繰り返し実施した際の培養液での塩素化エチレン類の濃度と細胞密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のデハロコッコイデス属細菌の培養方法について、以下詳細に説明する。本実施形態に係るデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、金属製の耐圧培養容器を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養する方法であって、デハロコッコイデス属細菌を、培養液中の鉄含有イオン、クロム含有イオン及びニッケル含有イオンがそれぞれ所定の濃度範囲を保持するように培養する。
【0019】
本実施形態において用いられるデハロコッコイデス属細菌としては、塩素化エチレン類又は塩素化エタン類のような有機ハロゲンを脱ハロゲン化できるデハロコッコイデス属細菌(Dehalococcoides sp.)であればよく、より具体的には、この種の有機ハロゲンの脱ハロゲン呼吸により、エネルギーを獲得して増殖するデハロコッコイデス属細菌が好ましい。本実施形態においては、具体的には、特に限定されないが、Dehalococcoides mccartyiが好適に用いられ得る。このうち、Dehalococcoides mccartyi NIT01株(受託番号:NITE P-02893)、Dehalococcoides mccartyi CBDB1株又はこれらの変異株が好ましく、Dehalococcoides mccartyi NIT01株が特に好ましく用いられる。また、デハロコッコイデス属細菌としては、単独の株又は単独の種を培養することも、複数種類の株又は複数の種を共培養することも可能である。さらに、本発明の作用効果を減じない範囲において、デハロコッコイデス属細菌以外の他の細菌と共培養することも可能である。
【0020】
上述したDehalococcoides mccartyi NIT01株(以下、「NIT01株」ともいう。)は、4mMのトリクロロエチレン(TCE)をエチレンに分解する特性、及び1,1,2-トリクロロエタンをエチレンに分解する特性を備えたデハロコッコイデス属細菌である。このNIT01株は、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸及び酸素の還元能は有しておらず、塩素化エチレン類等の有機ハロゲンの還元的脱塩素化によってのみ生育可能な菌株である。このNIT01株は、以下のとおり特許微生物の寄託機関に国内寄託がなされている。
(1)受託番号:NITE P-02893
(2)受託日:2019年2月25日
(3)寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)
【0021】
なお、本発明において、塩素化エチレン類とは、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、cis-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)又は塩化ビニル(VC)等が挙げられ、塩素化エタン類とは、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン及び1,1,1-トリクロロエタン等が挙げられる。
【0022】
本実施形態においては、デハロコッコイデス属細菌を金属製の耐圧培養容器を用いて培養するところ、培養液中の鉄含有イオンが1mM以下、クロム含有イオンが23μM以下、及びニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持するように培養することが重要である。これらの濃度範囲を超えて培養液中にこれらの金属イオンが含まれるようになると、デハロコッコイデス属細菌による塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害され、菌の生育が阻害される。具体的には、培養液中の鉄含有イオンは1mM以下の濃度範囲に保持することが好ましく、300μM以下の濃度範囲に保持することがより好ましい。また、培養液中のクロム含有イオンは23μM以下の濃度範囲に保持することが好ましく、10μM以下の濃度範囲に保持することがより好ましい。そして、培養液中のニッケル含有イオンの濃度範囲は1.5mM以下の濃度範囲に保持することが好ましく、1mM以下の濃度範囲に保持することが好ましい。なお、鉄含有イオンとは、鉄が含まれるイオン種であるところ、Fe2+又はFe3+であることが好ましく、Fe2+であることがより好ましい。また、クロム含有イオンとは、クロムが含まれるイオン種であるところ、Cr3+、CrO 2-又はCr 2-であることが好ましく、Cr3+であることがより好ましい。また、ニッケル含有イオンとは、ニッケルを含むイオン種であるところ、Ni2+又はNi3+であることが好ましく、Ni2+であることがより好ましい。
【0023】
本発明においては、デハロコッコイデス属細菌を金属製の耐圧培養容器を用いて培養する。金属製の耐圧培養容器を用いることにより、培養容器に液体培地を入れた状態でオートクレーブ滅菌することができ、オートクレーブ後のガス置換も容易であり、培養後には培養容器ごと培養物を運ぶことができるという利点を有する。特に限定されないが、非特許文献1において紹介されていたように、いわゆるケグ様の金属製耐圧容器が好ましく、蓋部にサンプリングのための孔部を設けるような改造が施された構造とすることが好ましい。ここで、市販のケグは鉄又はステンレスから形成されているところ、後述する実施例に示すように、鉄又はステンレスで形成された培養容器を用いて、オートクレーブと培養とを複数回繰り返すと、鉄又はステンレスに含まれている金属イオン成分が培養液中に溶出し、デハロコッコイデス属細菌の生育を阻害することがわかった。そのため、金属製の耐圧培養容器としては、培養液中の鉄含有イオンが1mM以下、クロム含有イオンが23μM以下、及びニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持できるものを用いることが好ましく、培養液中の鉄含有イオンが300μM以下、クロム含有イオンが10μM以下、及びニッケル含有イオンが1mM以下、の濃度範囲を保持できるものを用いることがより好ましい。
【0024】
金属製の耐圧培養容器として、より具体的には、後述する実施例5に示すように、チタンで形成された耐圧培養容器を用いることが好ましい。チタンとしては純チタンが好ましく、例えば、JIS規格における1種、2種、3種及び4種の純チタンが好適に用いられ得る。これにより、耐食性に優れ、培養液中の鉄含有イオンを1mM以下、クロム含有イオンを23μM以下及びニッケル含有イオンを1.5mM以下、の濃度範囲に確実に保持することができるため、安定的なデハロコッコイデス属細菌の大量培養を行うことができる。また、培養容器をチタンで形成することにより、容器自体も軽量となるため、汚染サイトへ培養物を培養容器ごと運ぶ際にも、運搬が容易となるメリットも有する。なお、上述したように、培養液中の鉄含有イオンが1mM以下、クロム含有イオンが23μM以下、及びニッケル含有イオンが1.5mM以下、の濃度範囲を保持できるものであれば、純チタンのみならず、チタン合金を用いることも可能である。
【0025】
デハロコッコイデス属細菌の培養液としては、後述する実施例1で用いたDHB-CO-Br培地をベースとした培養液の他、デハロコッコイデス属細菌の培養液として用いられている、あらゆる組成の培地が使用できる。また、培養液の組成は、接種するデハロコッコイデス属細菌の種類等や培養条件等によって適宜改変することが可能である。培養液には、炭素源、還元剤、電子受容体源、電子供与体源、無機塩類、微量元素、ビタミン類が含まれていることが好ましく、このうち、電子受容体源としては、接種するデハロコッコイデス属細菌の塩素化エチレン類の分解特性に応じた塩素化エチレン類を含有させることが好ましい。例えば、上述したNIT01株はトリクロロエチレン(TCE)をエチレンにまで分解する特性を備えているので、電子受容体としてトリクロロエチレンを添加することができる。培養液のpHは、接種したデハロコッコイデス属細菌の増殖に適したpHに調整されるが、通常、6.5~7.5のほぼ中性を呈するpHが好ましい。
【0026】
デハロコッコイデス属細菌は、絶対嫌気性細菌であるため、培養は嫌気的に行われる。そのため、水素及び二酸化炭素の混合ガス雰囲気下で培養を行うことが好ましい。水素及び二酸化炭素の混合ガスにおける水素ガスは、デハロコッコイデス属細菌の電子供与体源として使用される。なお、電子供与体源として水素ガスを使用せずに他の有機酸から水素を発生する微生物と混合して用いる場合には、窒素及び二酸化炭素の混合ガス雰囲気下で培養を行うことが可能である。また、培養温度は、接種したデハロコッコイデス属細菌の増殖に適した温度に設定されるが、通常、25℃~35℃が好ましく、25~30℃程度の室温がより好ましい。
【0027】
培地へのデハロコッコイデス属細菌の接種にあたっては、事前培養を行っておき、この事前培養した培養液を、新たに培養する培養液に添加して接種することが好ましい。培養期間は適宜設定でき、所望のデハロコッコイデス属細菌の細菌数(菌体密度)となるまで培養することができる。一例として、1週間~2ヶ月程度とすることが好ましく、2週間~1.5ヵ月とすることがより好ましい。
【0028】
本発明の培養方法により培養されたデハロコッコイデス属細菌を供給する汚染サイトとしては、例えば、土壌、地下水、廃棄物処理場、廃水ピット、水処理場、河川等が挙げられる。また、本発明のデハロコッコイデス属細菌を汚染サイトに供給する方法としては、特に限定されないが、汚染物の形態に合わせて、デハロコッコイデス属細菌を汚染物に直接、添加又は混合等させてもよく、デハロコッコイデス属細菌を含有する浄化剤を汚染物に散布する方法のほか、デハロコッコイデス属細菌を支持体に固定化又は担持させた状態で用いてもよい。デハロコッコイデス属細菌の供給量は、汚染サイトにおける塩素化エチレン類の濃度等によって任意に設定可能であるが、例えば、地下水に10cells/mL程度を添加することが好ましい。また、予備実験を通じて汚染サイトに適したデハロコッコイデス属細菌の供給量を設定することが可能である。
【0029】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0030】
[実施例1]
1.金属片を添加した培養液におけるデハロコッコイデス属細菌の生育状態の検討
本実施例では、発明者がステンレス製のビア樽を培養容器として用いた際に、デハロコッコイデス属細菌の生育の阻害が認められたことから、鉄板、ステンレス板(2種)及びチタン板の金属片をそれぞれ培養液に入れ、デハロコッコイデス属細菌の生育状態に影響を及ぼすかどうか、検討を行った。デハロコッコイデス属細菌の生育状態は、培養液に添加した塩素化エチレン類(CEs)の脱塩素化の進行レベル及び菌体密度で確認した。
【0031】
デハロコッコイデス属細菌の培養は、以下表1に示す試験培地を用いて行った。具体的には、以下表2~表4に示す組成のDHB-CO-Br培地を調製し、50mL容量のバイアル瓶に20mLずつ入れた後、以下表5に示す新品の金属片をそれぞれバイアル瓶1つあたり同種4枚ずつ入れたものを試験区とし、金属片を添加しないものを対照区とした。この液体培地をN:CO=4:1(v/v)のガスで置換して嫌気条件とした後、金属片が入った状態の各試験区及び対照区のDHB-CO-Br培地をバイアル瓶ごとオートクレーブ滅菌し、冷却した。なお、DHB-CO-Br培地の成分のうち、ビタミン溶液とTi(III)-ニトリロ三酢酸水溶液については、ろ過滅菌により冷却後のDHB-CO-Br培地に添加した。冷却後の各バイアル瓶中のDHB-CO-Br培地に、炭素源として酢酸を最終濃度が5mMとなるように加え、さらに、電子受容体としてトリクロロエチレン(TCE)を最終濃度が1mMとなるように加えた。電子供与体としてHを供給するため、各バイアル瓶のヘッドスペースのガスをH:CO=4:1(v/v)に置換して、以下表1に示す組成の試験培地を調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
対照区及び試験区の各バイアル瓶に、事前に培養していたデハロコッコイデス属細菌をバイアル瓶中の試験培地の5v/v%の量を接種し、室温にて静置培養を行った。デハロコッコイデス属細菌としては、Dehalococcoides mccartyi NIT01株(受託番号:NITE P-02893)を用いた。
【0038】
培養開始後、一定期間毎にバイアル瓶のヘッドスペースガスをガスタイトシリンジで回収し、ガスクロマトグラフィー(型番:GC-2014、株式会社島津製作所製品)により、試験培地に添加したトリクロロエチレン(TCE)をはじめとする塩素化エチレン類(CEs)の濃度を測定した。また、培養液のサンプリングも併せて行い、培養液中のデハロコッコイデス属細菌の細胞密度を測定した。なお、細胞密度の測定は、蛍光染料(SYBR(登録商標)GreenI、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)の核酸染色による蛍光顕微鏡を用いた直接検鏡法により計測した。また、各試験区の培養液及び金属片の状態について、目視にて確認を行った。
【0039】
試験区のうち、塩素化エチレン類の脱塩素化が完了した試験区(試験区3及び4)については、培養液から金属片4枚を取り出し、新たに調製したDHB-CO-Br培地を20mL入れたバイアル瓶にその金属片を再度入れ、上述と同様の材料及び方法により、表1に示す試験培地を調製して2回目のデハロコッコイデス属細菌の培養試験を行った。1回目の培養試験と同様の方法により、一定期間毎に塩素化エチレン類(CEs)の濃度と、培養液中のデハロコッコイデス属細菌の細胞密度を測定した。また、各試験区の培養液及び金属片の状態について、目視にて確認を行った。
【0040】
図1図3に培養試験の結果を示す。図1(A)は試験区1(鉄)、図1(B)は試験区2(SUS316)の培養液における塩素化エチレン類(CEs)の濃度(μM)と細胞密度(cells/mL)を示す。また、図2(A)は試験区3(SUS304)の1回目の培養試験のデータであり、図2(B)は同試験区3の2回目の培養試験のデータである。さらに、図3(A)は、試験区4(チタン)の1回目の培養試験のデータであり、図3(B)は同試験区4の2回目の培養試験のデータである。各グラフ中における「NC」は対照区の培養液における塩素化エチレン類の濃度と細胞密度を示している。
【0041】
図1(A)及び(B)に示すように、鉄又はSUS316の金属片を添加した培養液では、塩素化エチレン類の脱塩素化が途中で停止した。また、図2(A)に示すように、SUS304の金属片を添加した1回目の培養試験では、対照区(NC)と比較すると塩素化エチレン類の脱塩素化の完了までに時間を要したが、対照区と同傾向の菌数増殖が観察された。この培養液から取り出した金属片を用いて2回目の培養試験を行ったところ、図2(B)に示すように、塩素化エチレン類の脱塩素化は途中で停止した。一方で、図3(A)及び(B)に示すように、純チタンの金属片を添加した培養液では、塩素化エチレン類の脱塩素化の遅れや停止は観察されず、対照区(NC)の培養液と同様の塩素化エチレン類の脱塩素化ならびに菌数増殖が観察された。
【0042】
また、試験区1~4の培養試験終了後の培養液中の金属片の状態を示す写真を図4に示す。鉄(試験区1)及びSUS316(試験区2)は1回目の培養試験後の写真であり、SUS304(試験区3)とチタン(試験区4)は2回目の培養試験後の写真である。図4の写真に示すように、鉄、SUS316及びSUS304の金属片を添加した培養液においては、培養液に黒い沈殿物が観察されたが、チタンの金属片を添加した培養液では沈殿物は観察されなかった。この黒い沈殿物は、金属片から溶出した鉄等の金属イオンが硫化物イオンと反応したことにより生じた金属硫化物と推測された。
【0043】
[実施例2]
2.デハロコッコイデス属細菌の培養液に添加した金属片の表面状態の観察
上述した実施例1で培養液に添加した各試験区の金属片について、培養前後の表面形状を走査電子顕微鏡(JSM-7800F、日本電子株式会社製品)を用いて撮影した。実施例1の試験区1(鉄)及び試験区2(SUS316)に係る金属片は1回目の培養試験後のものであり、実施例1の試験区3(SUS304)及び試験区4(チタン)に係る金属片は、2回目の培養試験後のものである。走査電子顕微鏡の電子銃の加速電圧は5.0kVとし、顕微鏡倍率は1000倍とした。なお、培養前の金属片は、表面に付着した油分等を落とすためにアセトンで洗浄してから観察を行った。また、培養後の金属片については、洗剤で洗浄した後に観察を行った。
【0044】
培養前後の各金属片を走査電子顕微鏡で観察した結果を図5に示す。培養後の鉄の金属片をみると、培養前に比べ表面の凹凸が増加しており、培養によって表面形状が大きく変化したことがわかった。SUS316については、培養前からひび割れたような凹凸があり、培養後も顕著な変化は見られなかった。SUS304では培養前には直線状の凹凸が観察されるだけであったが、培養後には表面にひび割れたような形状変化が観察された。チタンの金属片については、培養前後で表面形状に変化は観察されなかった。このうち、特に、鉄及びSUS304の金属片は培養前後での表面形状の変化が大きいことから、培養によって、金属片を構成する成分が培養液に溶出したものと考えられた。溶出成分としては、鉄板及び下表6に示すステンレス鋼を構成する成分を考慮すると、少なくとも鉄イオンが溶出し、さらにクロムイオン及びニッケルイオンが溶出した可能性も考えられた。
【0045】
【表6】
【0046】
[実施例3]
3.鉄系金属片を添加した培養液中の総鉄イオン濃度の測定
上述した実施例2において、鉄及びステンレスの金属片表面の変化が観察されたことから、金属片からは少なくとも鉄イオンが培養液中に溶出した可能性が考えられた。これを確認するため、実施例1における対照区及び試験区1~3の培養試験後の培養液に含まれる総鉄イオン濃度を測定した。
【0047】
表7に示すように、実施例1の試験区1(鉄)及び試験区2(SUS316)に係る培養液は1回目の培養試験後のものであり、実施例1の試験区3(SUS304)に係る培養液は、2回目の培養試験後のものである。また、デハロコッコイデス属細菌の培養を実施していない液体培地そのものとして、表2に示すDHB-CO-Br培地の総鉄イオン濃度も測定した。なお、総鉄イオン濃度は次のようにして測定した。各培養液をフィルターろ過して得たサンプル液0.2~2.5mLに対し、最終濃度が144mMとなるように塩化ヒドロキシルアンモニウムを添加し、次に、最終濃度が0.82mMとなるように1,10-フェナントロリン塩酸塩を添加した。そして、1mLの酢酸緩衝液を添加し、MilliQ水で5mLまでメスアップした。この混合液を攪拌後、微量分光光度計を用いて波長510nmで吸光度を測定した。結果を以下表7に示す。
【0048】
【表7】
【0049】
デハロコッコイデス属細菌を培養するための培養液には、一般的に微量元素として鉄イオンが7~10μM程度含まれる(表4に示すSL-10微量元素溶液参照)。表7に示すように、DHB-CO-Br培地のみの総鉄イオン濃度は、9.2μMであり、金属片が添加されていない対照区の培養液中の総鉄イオン濃度は8.5μMであった。このことから、デハロコッコイデス属細菌は、塩素化エチレン類の脱塩素化の際に、鉄をほぼ消費しないことが示唆された。
【0050】
他方、表7に示すように、鉄の金属片を添加した試験区1の培養液中の総鉄イオン濃度は約1mM、SUS316の金属片を添加した試験区2の培養液中の総鉄イオン濃度は67μM、及びSUS304の金属片を添加した試験区3の培養液中の総鉄イオン濃度は276μMであった。試験区1(鉄)の結果より、少なくとも、培養液中の総鉄イオン濃度が1mMにおいて、デハロコッコイデス属細菌の塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害され、生育に影響を及ぼすことが示唆された。その一方で、試験区2(SUS316)及び試験区3(SUS304)の培養液に含まれる総鉄イオン濃度は、試験区1(鉄)の培養液に含まれる総鉄イオン濃度よりも大幅に低く(7%~27%程度)、このような低い総鉄イオン濃度であっても、塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害されていることがわかった。このことから、(i)ステンレス鋼を構成する他の金属成分によって塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害される可能性、又は(ii)総鉄イオン濃度が67μMで塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害される可能性、の両方が考えられた。特に(i)においては、表6に示すステンレス鋼を構成する成分を考慮すると、クロム及びニッケルの含有量が多いことから、これらの金属イオンが溶出することによって塩素化エチレン類の脱塩素化が阻害される可能性が検討された。総鉄イオン濃度の測定結果によれば、試験区2(SUS316)の金属片から、表6のSUS316の成分組成と同じ割合で鉄、クロム及びニッケルが溶出したと仮定すると、試験区2の培養液中には鉄イオンが67μM、クロムイオンが19μM、ニッケルイオンが45μM溶出した可能性がある。また、試験区3(SUS304)の金属片から、表6のSUS304の成分組成と同じ割合で鉄、クロム及びニッケルが溶出したと仮定すると、試験区3の培養液中には鉄イオンが276μM、クロムイオンが72μM、ニッケルイオンが45μM溶出した可能性がある。
【0051】
[実施例4]
4.金属イオンを添加した培養液におけるデハロコッコイデス属細菌の生育状態の検討
鉄、クロム及びニッケルがデハロコッコイデス属細菌の生育に与える影響を確認するため、これらの金属イオンを培養液に添加してデハロコッコイデス属細菌の培養試験を行った。上述した実施例1で用いた金属片の替わりに、以下表8に示す金属イオンを同表に示す添加濃度となるようにDHB-CO-Br培地に添加して各試験区4-1~4-10の試験培地を調製した以外は、実施例1と同様にして、デハロコッコイデス属細菌の培養試験を行った。デハロコッコイデス属細菌としては、実施例1と同様にDehalococcoides mccartyi NIT01株を用いた。室温で静置培養を行い、一定期間毎にバイアル瓶のヘッドスペースガスをガスタイトシリンジで回収し、ガスクロマトグラフィー(型番:GC-2014、株式会社島津製作所製品)により塩素化エチレン類(VC:塩化ビニル、cis-DCE:cis-1,2-ジクロロエチレン、TCE:トリクロロエチレン)及びエチレン(ETH)の濃度を測定した。
【0052】
【表8】
【0053】
図6図8に培養試験の結果を示す。図6(A)は対照区、図6(B)は試験区4-1(Fe2+、68μM)、図6(C)は試験区4-2(Fe2+、273M)、図6(D)は試験区4-3(Fe2+、1mM)及び図6(E)は試験区4-4(Fe2+、5mM)の培養液における塩素化エチレン類の濃度(μM)を示す。また、図7(A)は試験区4-5(Cr3+、23μM)、試験区4-6(Cr3+、72μM)及び試験区4-7(Cr3+、500μM)の培養液における塩素化エチレン類の濃度(μM)を示す。また、図8(A)は試験区4-8(Ni2+、1mM)、試験区4-9(Ni2+、2mM)及び試験区4-10(Ni2+、5mM)の培養液における塩素化エチレン類の濃度(μM)を示す。各グラフ中における四角形のマーカーはトリクロロエチレン(TCE)、菱形のマーカーはcis-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)、三角形のマーカーは塩化ビニル(VC)及び丸形のマーカーはエチレン(ETH)を示している。
【0054】
図6図8によれば、Fe2+、Cr3+、Ni2+を培養液に添加した際、添加濃度が高くなるほど、塩素化エチレン類の脱塩素化の阻害が大きくなることが明らかとなった。このうち、鉄イオン(Fe2+)については、添加濃度が68μM及び273μMでは、塩素化エチレン類の脱塩素化の阻害は全く観察されなかったが(図6(B)及び(C))、添加濃度が1mMにおいて阻害傾向が認められ(図6(D))、添加濃度が5mMでは塩素化エチレン類の脱塩素化が完全に阻害された(図6(E))。
【0055】
また、クロムイオン(Cr3+)については、添加濃度が23μMでは塩素化エチレン類の弱い脱塩素化の進行が観察されたが(図7(A))、添加濃度が72μM及び500μMでは、cis-DCEが僅かに増加するだけであり、脱塩素化の阻害が確認された(図7(B)及び(C))。また、ニッケルイオン(Ni2+)については、添加濃度が1mMでは脱塩素化が終了したが(図8(A))、添加濃度が2mM及び5mMでは、脱塩素化は全く進行しなかった(図8(B)及び(C))。
【0056】
本実施例の結果から、デハロコッコイデス属細菌の生育の阻害、すなわち、塩素化エチレン類の脱塩素化の阻害の原因となる主な成分及びその濃度として、鉄の金属片を培養液に添加した場合には、1mMを超える濃度の鉄イオンであること、ステンレスの金属片を培養液に添加した場合には、23μMを超える濃度のクロムイオンであることが示唆された。
【0057】
[実施例5]
5.チタン製の耐圧培養容器を用いたデハロコッコイデス属細菌の大量培養
ステンレス製のビア樽(ケグ)の耐圧培養容器の替わりに、純チタン(JIS規格におけるチタン2種)でケグ様の耐圧培養容器を作製した(図9)。容量は18Lとした。非特許文献1に示されているように、上蓋にはサンプリングポートを設けた。このチタン製耐圧培養容器に、表2に示すDHB-CO-Br培地を10L入れ、N:CO=4:1(v/v)の混合ガスで置換して嫌気条件とした後、耐圧培養容器ごとオートクレーブ滅菌した。オートクレーブ後に耐圧培養容器を氷水に浸して冷却し、ヘッドスペースのガスをH:CO=4:1(v/v)に置換した。なお、DHB-CO-Br培地の成分のうちのビタミン溶液とTi(III)-ニトリロ三酢酸水溶液については、冷却後の培地にろ過滅菌により添加した。DHB-CO-Br培地に炭素源として酢酸を最終濃度が5mMとなるように加え、さらに、電子受容体としてトリクロロエチレン(TCE)を最終濃度が1mMとなるように加え、実施例1同様の表1に示す組成の試験培地を10L規模で調製した。この10Lの試験培地に、事前に培養していたDehalococcoides mccartyi NIT01株を試験培地の16v/v%量を接種し、室温にて静置培養を行った。培養開始後、実施例1と同様の方法により、一定期間毎に塩素化エチレン類(CEs)の濃度と、培養液中のデハロコッコイデス属細菌の細胞密度を測定した。
【0058】
チタン製耐圧培養容器内の塩素化エチレン類の脱塩素化が完了した時点で1回目の培養試験の終了とし、同じ耐圧培養容器を用いて上記と同内容での大量培養試験を6回繰り返し行った。なお、6回目の培養試験においては、耐圧培養容器内の塩素化エチレン類の脱塩素化が完了した時点で試験終了とせず、さらにトリクロロエチレン(TCE)を最終濃度が1mMとなるように追加添加して培養を継続し、その後の耐圧培養容器内の塩素化エチレン類の濃度と、培養液中のデハロコッコイデス属細菌の細胞密度を測定した。
【0059】
図10に培養試験の結果を示す。図10(A)は1回目、図10(B)は2回目、図10(C)は4回目、図10(D)は5回目及び図10(E)は6回目の培養液における塩素化エチレン類の濃度(μM)と細胞密度(cells/mL)を示す。各グラフ中における四角形のマーカーはトリクロロエチレン(TCE)、菱形のマーカーはcis-1,2-ジクロロエチレン(cis-DCE)、三角形のマーカーは塩化ビニル(VC)及び丸形のマーカーはエチレン(ETH)の濃度を示し、クロス形のマーカーは細胞密度を示している。
【0060】
図10に示すように、チタン製耐圧培養容器を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養することにより、安定的な大量培養を実現できることがわかった。Dehalococcoides mccartyi NIT01株による1mMのトリクロロエチレンの脱塩素化はわずか12~28日程度で完了し、順調な生育状況が観察された。また、脱塩素化の完了時には細胞密度が2.8~7.7×10まで増加した。さらに、図10(E)に示すように、6回目の培養試験の際には、1mMのトリクロロエチレンの脱塩素化が完了した培養液に対し、1mMのトリクロロエチレンを追加添加したところ、わずか8日で追加添加したトリクロロエチレンの脱塩素化が完了し、細胞密度が3.5×10から4.0×10に増加した。
【0061】
このように、デハロコッコイデス属細菌の培養にあたり、チタン製の耐圧培養容器を用いることによって、従来のステンレスや鉄製の耐圧培養容器とは異なり、塩素化エチレン類の脱塩素化は阻害されず、同じ容器を繰り返し用いても大量培養を安定的に実施できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、塩素化エチレン類等で汚染された汚染サイトのバイオレメディエーションによる浄化に有用であり、地下水や土壌の浄化に利用され得る。
【受託番号】
【0063】
受託番号:NITE P-02893、Dehalococcoides mccartyi NIT01株、受託日:2019年2月25日、寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)
図1
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図10