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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055631
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 ZAB
B23K20/12 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162721
(22)【出願日】2022-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (証明書1)発行日 2022年9月20日 公益社団法人日本鋳造工学会2022年秋期・第180回全国講演大会講演概要集 (証明書2)開催日 2022年9月29日 公益社団法人日本鋳造工学会2022年秋期・第180回全国講演大会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「難接合材料を可能にする革新的接合技術の確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半谷 禎彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA08
4E167AB01
4E167AC00
4E167AD04
4E167AD05
4E167BG14
4E167BG22
4E167BG30
(57)【要約】
【課題】金属接合体の廃棄時に、気孔が生成する範囲を制限し、かつ接合された金属部材を容易に分離できる、金属接合体を製造することができる、金属接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の金属部材と第2の金属部材が接合された金属接合体を製造する際に、第1の金属部材又は第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給する工程と、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行い、第1の金属部材及び第2の金属部材を接合し、かつ第1の金属部材内に発泡剤を分散させる工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属部材と第2の金属部材が接合された金属接合体を製造する方法であって、
前記第1の金属部材又は前記第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給する工程と、
前記第1の金属部材の前記接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材を接合し、かつ前記第1の金属部材内に前記発泡剤を分散させる工程と、を含む
金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属部材は、アルミニウムを含む請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の金属部材は、鉄を含む請求項2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とは、組成が異なる請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材が板状の金属部材である請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡剤を供給する工程では、前記接合面に両面テープを貼り、前記両面テープの上から前記発泡剤を散布する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記発泡剤を供給する工程では、包装材に前記発泡剤の粉末を包んで、前記接合面に挟む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項8】
前記発泡剤を供給する工程では、スプレーで前記発泡剤を前記接合面に塗布する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項9】
前記発泡剤を供給する工程では、前記発泡剤を含むスラリーを作製して、刷毛等で前記スラリーを前記接合面に塗布する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項10】
前記発泡剤を供給する工程では、前記発泡剤の粉末の焼結体を作製し、前記焼結体を前記接合面に挟む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の金属部材が接合された金属接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造部材のマルチマテリアル化が推進される中、異材接合技術の一つとして、摩擦攪拌接合(FSW;Friction Stir Welding)が注目されている(例えば、特許文献1を参照。)。
摩擦攪拌接合は、固相接合が可能であり、強固な接合が達成できるため、自動車部材をはじめ様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、自動車の燃費向上などの観点からマルチマテリアル化が推進されているため、鋼-アルミニウムの接合が多く用いられるようになってきている。そして、摩擦攪拌接合は、鋼-アルミニウムの接合において、脆いFe-Al系の金属間化合物層の生成を最小限に抑えられ、強固な接合を実現できる技術として注目されている。
【0004】
一方、循環型社会実現の観点から、廃棄時の解体・分離技術も求められている。製品製造時に強固に接合し、廃棄時に容易に分離できる技術(易分離技術)が確立できれば、リサイクルを容易にし、ライフサイクル全体のエネルギー消費を大幅に削減できる。
易分離技術は、接着分野において若干の研究例がある。例えば、加熱により軟化する材料の利用や、超音波などのトリガーにより発泡する材料の利用など、廃棄時に低荷重で分離できるような研究が進められている。
【0005】
しかしながら、FSWによる接合体では、強固な接合が達成できるがゆえに、易分離技術についての研究が進んでいないのが現状で、ほぼ手つかずの状況である。
【0006】
一方、本発明の発明者らは、FSWを用いて発泡アルミニウムの作製を試みている。FSWの大きな攪拌力を用いて、アルミニウム板材中に発泡剤を均一に混合した前駆体を作製し、その前駆体を加熱して発泡させることで、発泡アルミニウムを作製することができる。
【0007】
そして、本発明の発明者らは、鋼材とアルミニウム材を接合する際に、TiHなどの発泡粒子を添加して摩擦攪拌接合を行い、発泡粒子をアルミニウム材中に分散させて、廃棄時には、接合部を加熱することにより発泡・ポーラス化させる技術を提案した(例えば、非特許文献1を参照。)。
この技術によれば、廃棄時には、接合部を加熱、発泡させることで、気孔を生成させて、低荷重で鋼材とアルミニウム材とを分離させることが可能になる。
【0008】
この技術による、金属接合体の製造方法の一例を説明する概略斜視図を、図13に示す。
まず、図13(a)に示すように、2枚のアルミニウム板51,51の間に、発泡剤52を挟んで、2枚のアルミニウム板51,51を積層する。
次に、図13(b)に示すように、攪拌ツール54を矢印の向きに回転させながら、アルミニウム板51,51と鋼板53との接合面に沿って走査させて、FSWを行う。これにより、積層させたアルミニウム板51,51と鋼板53とが接合されると共に、攪拌ツール54の通過部及びその周囲に、攪拌ツール54によって攪拌されて発泡剤52がアルミニウム板51中に分散された、攪拌部55が形成される。
【0009】
そして、図示しないが、廃棄時には、アルミニウム板51と鋼板53との接合部を加熱発泡させることで、気孔を生成させる。これにより、低荷重でアルミニウム板51と鋼板53とを分離させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許公開第2010/029864号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「A1050アルミニウム/SS400鋼接合体のポーラス化による分離の検討」、軽金属、第72巻、第6号、p.366-370、2022年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図13に示した方法では、発泡剤52を挟むためアルミニウム板51を積層させる必要があり、1枚のアルミニウム板には適用できなかった。
【0013】
また、図13に示した方法では、アルミニウム板51の比較的広い範囲に対してFSWを行って攪拌部55が形成されることになる。これにより、接合部界面以外の箇所に発泡剤52が分布するので、必要のない箇所でも気孔が生成するという難点があった。
【0014】
上述した問題の解決のために、本発明においては、金属接合体の廃棄時に、気孔が生成する範囲を制限し、かつ接合された金属部材を容易に分離できる、金属接合体を製造することができる、金属接合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の金属接合体の製造方法は、第1の金属部材と第2の金属部材が接合された金属接合体を製造する方法である。
そして、本発明の金属接合体の製造方法は、第1の金属部材又は第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給する工程と、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材及び第2の金属部材を接合し、かつ第1の金属部材内に発泡剤を分散させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0016】
上述の本発明によれば、金属接合体を製造する際に、第1の金属部材又は第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給し、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材内に発泡剤を分散させる。
これにより、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材の発泡剤が分散された部分を加熱して発泡させて、その部分を発泡金属とすることができるので、発泡金属となった部分で、接合された金属部材を、低い荷重で容易に分離できる。
【0017】
また、金属部材の接合面に発泡剤を供給し、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材内に発泡剤を分散させるので、発泡剤が分散する範囲を、接合面及びその付近の狭い範囲とすることが可能になる。
これにより、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材の接合面付近の気孔が生成する範囲を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の製造方法の一実施の形態を説明する概略斜視図である。
図2図1において製造した金属接合体を廃棄する際に、接合された金属部材を分離する方法を説明する概略図である。
図3】実験1の試料の作製条件を示す図である。
図4】実験1の試料の構成及び寸法を示す概略斜視図である。
図5】A 初期状態の試料を側面から見た写真である。 B 発泡直後の試料を側面から見た写真である。
図6】実験1において実施した4点曲げ試験の条件を示す概略図(正面図)である。
図7】実験1の試料の破断した状態を示す写真である。
図8】実験1の各試料のエネルギー吸収量を比較して示す図である。
図9】実験2の試料の作製条件を示す図である。
図10】A 初期状態の試料を側面から見た写真である。 B 発泡直後の試料を側面から見た写真である。
図11】実験2の試料の破断後の状態を示す写真である。
図12】実験2の各試料のエネルギー吸収量を比較して示す図である。
図13】従来の金属接合体の製造方法の一例を説明する概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
【0020】
本発明の金属接合体の製造方法は、第1の金属部材と第2の金属部材が接合された金属接合体を製造する方法である。
そして、本発明の金属接合体の製造方法は、第1の金属部材又は第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給する工程と、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材及び第2の金属部材を接合し、かつ第1の金属部材内に発泡剤を分散させる工程と、を含む。
【0021】
本発明において、第1の金属部材としては、摩擦攪拌により金属部材の内部に発泡剤を分散させることが可能な金属部材を使用する。
第1の金属部材の材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、等を使用することができる。
アルミニウム合金としては、例えば、Al-Mg-Si系合金のA6061、Al-Si-Cu系合金のADC12、等が挙げられる。
第1の金属部材の材料を、アルミニウム、アルミニウム合金のようなアルミニウムを含む材料とした場合には、金属材料の中で融点が比較的低いので、摩擦攪拌接合を容易に行うことができる利点を有する。
【0022】
本発明において、第1の金属部材と接合される第2の金属部材としては、金属や合金から成る、様々な金属部材を使用することが可能である。
第2の金属部材の材料としては、例えば、アルミニウム以外の金属(例えば、鉄、銅等)やその金属の合金、アルミニウム、アルミニウム合金、等が挙げられる。
【0023】
第1の金属部材と接合する第2の金属部材には、第1の金属部材と同じ組成の金属部材、第1の金属部材とは異なる組成の金属部材、のいずれも使用することが可能である。これらのうち、第2の金属部材が第1の金属部材と組成が異なる金属部材である方が、本発明を適用して容易に分離できることによる利点が大きい。
第1の金属部材とは異なる組成である構成の第2の金属部材としては、使用する材料の金属が第1の金属部材とは異なる構成や、各金属の組成比が第1の金属部材とは異なる構成が挙げられる。
【0024】
本発明において、発泡剤を供給する接合面は、第1の金属部材の接合面であっても、第2の金属部材の接合面であっても、両方の金属部材の接合面であっても、いずれも可能である。
【0025】
本発明において、接合面に発泡剤を供給する方法としては、粉体等の粒子を供給する様々な方法を適用することができる。
例えば、(1)接合面に両面テープを貼り、両面テープの上から発泡剤を散布する方法、(2)アルミホイル等の包装材に発泡剤の粉末を包んで、接合面に挟む方法、(3)スプレーで発泡剤を接合面に塗布する方法、(4)発泡剤を含むスラリーを作製して、刷毛等でスラリーを接合面に塗布する方法、(5)発泡剤の粉末の薄い焼結体を作製し、焼結体を接合面に挟む方法、等が挙げられる。
【0026】
本発明の金属接合体の製造方法によれば、金属接合体を製造する際に、第1の金属部材又は第2の金属部材の接合面に、発泡剤を供給し、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材内に発泡剤を分散させる。
これにより、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材の発泡剤が分散された部分を加熱して発泡させて、その部分を発泡金属とすることができるので、発泡金属となった部分において、接合された金属部材を、低い荷重で容易に分離できる。
【0027】
また、本発明の金属接合体の製造方法によれば、金属部材の接合面に発泡剤を供給し、第1の金属部材の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材内に発泡剤を分散させるので、発泡剤が分散する範囲を、接合面及びその付近の狭い範囲とすることが可能になる。
これにより、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材の接合面付近の気孔が生成する範囲を制限することができる。
【0028】
図13に示した製造方法では、2枚のアルミニウム板51の間に発泡剤52を挟むため、発泡剤52を接合部の界面に均一に分散させるために、即ちアルミニウム板51の厚さ方向に発泡剤52を分散させるために、攪拌ツール54を複数回走査させることが望ましかった。
これに対して、本発明の金属接合体の製造方法では、第1の金属部材と第2の金属部材との接合面に発泡剤を供給するので、摩擦攪拌接合において、攪拌ツールの走査を1回としても、第1の金属部材内に発泡剤を十分に分散させることが可能になる。
【0029】
続いて、図面を参照して、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
なお、本発明は、請求の範囲に規定された範囲内の任意の構成を採りうるものであり、以下の実施の形態や実施例の構成に限定されるものではない。
【0030】
(実施の形態)
図1は、本発明の製造方法の一実施の形態を説明する概略斜視図である。
【0031】
まず、図1(a)に示すように、1枚の板状の第1の金属部材1を用意する。
第1の金属部材1の材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、等を使用することができる。
【0032】
そして、第1の金属部材1の接合面となる右側面に、発泡剤2の粉末を供給する。例えば、第1の金属部材1の右側面に両面テープを貼って、その両面テープに発泡剤2の粉末を供給する。
【0033】
次に、図1(b)に示すように、1枚の板状の第2の金属部材3を用意して、第1の金属部材1の右側面に、第2の金属部材3の左側面を接合する。
第2の金属部材3の材料としては、例えば、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、等を使用することができる。
【0034】
そして、攪拌ツール4を矢印の向きに回転させながら、第1の金属部材1と第2の金属部材3との接合面に沿って走査させて、摩擦攪拌接合(FSW)を行う。これにより、第1の金属部材1と第2の金属部材3とが接合されると共に、攪拌ツール4の通過部及びその周囲に、攪拌ツール4によって攪拌された発泡剤2が第1の金属部材1内に分散された、攪拌部5が形成される。
このようにして、第1の金属部材1と第2の金属部材3とが接合された金属接合体を製造することができる。
【0035】
次に、図2の概略図を参考にして、図1において製造した金属接合体を廃棄する際に、接合された金属部材を分離する方法を説明する。
図2(a)は、図1(b)と同じ状態を示す金属接合体の概略斜視図である。
図2(a)に示す、第1の金属部材1と第2の金属部材3とが接合された金属接合体を、以下に説明するようにして、個々の第1の金属部材1と第2の金属部材3とに分離する。
【0036】
まず、図2(b)に概略断面図を示すように、接合体の接合面付近に対して、加熱源6から加熱を行う。これにより、接合面付近の攪拌部5では、発泡剤2が第1の金属部材1に混合されているので、発泡剤2の分解によりガスが発生し気孔8が生成され、発泡金属7となる。
【0037】
なお、加熱源6としては、各種の加熱源を使用することができ、例えば、赤外線を照射する光源、ヒーター、等を使用することができる。
【0038】
そして、金属接合体に対して荷重を加えることにより、金属接合体の接合部付近に発泡金属7が形成されているため、この発泡金属7が破断して、第1の金属部材と第2の金属部材3とが分離される。
このようにして、低い荷重で容易に第1の金属部材1と第2の金属部材3とを分離することができる。
【0039】
上述した本実施の形態の金属接合体の製造方法によれば、第1の金属部材1の接合面に、発泡剤2を供給し、第1の金属部材1の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材1内に発泡剤2を分散させ、かつ第1の金属部材1及び第2の金属部材3を接合する。
そして、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材1の発泡剤2が分散された部分を加熱して発泡させて、その部分を発泡金属7とする。これにより、発泡金属7となった部分で、接合された金属部材1と金属部材3を、低い荷重で容易に分離することが可能になる。
【0040】
また、本実施の形態の金属接合体の製造方法によれば、第1の金属部材1の接合面に発泡剤2を供給し、第1の金属部材1の接合面付近の部分に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第1の金属部材1内に発泡剤2を分散させるので、発泡剤2が分散する範囲を、接合面及びその付近の狭い範囲とすることが可能になる。
これにより、製造した金属接合体の廃棄時に、第1の金属部材1の接合面付近の気孔8が生成する範囲を制限することができる。
【0041】
さらに、本実施の形態の金属接合体の製造方法では、第1の金属部材1と第2の金属部材3との接合面に発泡剤2を供給するので、摩擦攪拌接合において、攪拌ツール4の走査を1回としても、第1の金属部材1内に発泡剤2を十分に分散させることが可能になる。
【0042】
(変形例)
上述の実施の形態では、2個の金属部材を接合して金属接合体を製造していたが、3個以上の金属部材を接合した金属接合体を製造しても構わない。
【0043】
また、上述の実施の形態では、2個の板状の金属部材を接合していたが、本発明において接合する金属部材は、板状に限定されない。他の金属部材と摩擦攪拌接合により接合することが可能であれば、板状以外の形状の金属部材も使用することが可能である。
なお、第1の金属部材及び第2の金属部材を共に板状の金属部材とした場合には、摩擦攪拌接合により容易に接合できる利点を有する。
【実施例0044】
ここで、実際に金属接合体を作製して、作製した金属接合体に荷重を加えて、どのくらいの荷重で金属接合体が分離するかを調べた。
【0045】
(実験1)
第1の金属部材1として、工業用純アルミニウムのA1050板を使用し、第2の金属部材3として、一般構造用圧延鋼のSS400板を使用した。A1050板の寸法は80mm×210mm×厚さ6mmであり、SS400板の寸法は80mm×210mm×厚さ5mmである。
また、発泡剤には水素化チタン粉末(TiH,粒子径<45μm)を用い、増粘剤にはアルミナ粉末(Al、粒子径約1μm)を用い、発泡剤と増粘剤を1:5の割合で混合した。
【0046】
図3は、実験1の試料の作製条件を示す図である。以下、図3を参照して、実験1の試料の作製方法を説明する。
【0047】
まず、図3(a)の概略斜視図に示すように、第1の金属部材1であるA1050板の、接合界面となる右側面に両面テープを貼り、両面テープの上から発泡剤2と増粘剤の混合粉末を塗布し、混合粉末をA1050板の接合界面に固定した。
【0048】
その後、図3(b)の概略斜視図に示すように、第1の金属部材1であるA1050板と第2の金属部材3であるSS400板とを突合せ、攪拌ツール4を用いて、大気中でFSWを行った。
攪拌ツール4は、図3(c)の概略断面図に示すように、上部のショルダー部と下部のプローブ4aとからなり、ショルダー部の直径17mm、プローブ4aの直径5mm、プローブ4aの長さ4.8mmのものを用いた。
攪拌ツール4は、回転数2200rpm、送り速度100mm/分、前進角3°で接合界面に沿って走査させることにより、FSWを行った。このとき、第1の金属部材1のA1050板材の表面からプローブ4aを4.8mm挿入し、図3(c)に示すように、プローブ4aの側面が接合界面から第2の部材3のSS400板の側に0.8mm入るようにした。
【0049】
その後、攪拌ツール4の走査で生じたバリをフライス加工で除去した後に、ワイヤー放電加工機を用いて、図3(b)に破線で示すように、接合部が中心となるように、短冊形の試料10を採取した。
【0050】
得られた試料10の構成と寸法を、図4の概略斜視図に示す。図4に示すように、試料10は、第1の金属部材1のA1050と第2の金属部材3のSS400とが接合され、全体の寸法は幅20mm×長さ160mm×厚さ5mmである。
【0051】
次に、作製した短冊形の試料10に対して、接合部を加熱して発泡させた。
図2(b)に示した加熱源6としては、ハロゲンランプによるスポットヒーターを用い、試料10の表面とハロゲンランプとの距離を80mm、ハロゲンランプの出力を1600Wとした。
加熱は、接合部が最も大きく膨張した時点で終了させた。
【0052】
加熱を始めた直後の初期状態の試料10を側面から見た写真を図5Aに示し、発泡直後の試料10を側面から見た写真を図5Bに示す。なお、図5A及び図5Bでは、第1の金属部材1のA1050と第2の金属部材3のSS400の左右が、図4とは逆になっている。
図5A及び図5Bにおいて、紙面に垂直な方向に攪拌ツール4を走査させている。
図5Aからわかるように、FSWにより欠陥などのない良好な接合がなされており、接合面に粉末を塗布しても問題なくFSWによりSS400とA1050の接合ができている。
図5Bからわかるように、A1050の接合面付近の部分が膨張しており、A1050の内部で発泡が生じている。これにより、FSWにより接合と同時に発泡剤の粉末もA1050(アルミニウム)内に分散させることができ、その部分を加熱することでA1050を発泡できることがわかる。
【0053】
その後、4点曲げ試験のために、長さが160mmから80mmとなるように、試料10を切断加工した。以後、この試料をSample Iと称する。
また、比較対照として、発泡剤や増粘剤の粉末を添加したが、加熱を行わない試料(Sample II)と、発泡剤や増粘剤の粉末を添加せず加熱も行わない試料(Sample III)も、Sample Iの作製工程と共通する工程は同様の手順によって作製した。
再現性を確認するため、それぞれ同じ条件で2個ずつの試料を作製した。
【0054】
続いて、以下に説明するように、試料10に対して4点曲げ試験を行った。
図6は、4点曲げ試験の条件を示す概略図(正面図)である。
試料の接合部付近を優先的に変形させるために、試料の圧子が接触する箇所に、構造用接着剤を用いてU字鋼9を接着したものを使用した。
この際に、2つのU字鋼9の間の距離(試料が出ている長さ)は25mmとした。
4点曲げ試験の条件は、荷重点間距離50mm、支点間距離110mm、圧子の曲率半径14mm、クロスヘッド速度1mm/minとした。
また、4点曲げ試験で得られた荷重-変位曲線において、変位0mmから最大荷重に達するまでの間のエネルギー量を吸収エネルギー量として算出した。
そして、Sample I、Sample II、Sample IIIのそれぞれの試料に対して、4点曲げ試験を実施した。
【0055】
図7は、Sample Iの4点曲げ試験において、試料10が破断した状態を示す写真である。図7の写真では、左側がSS400であり、右側がA1050であり、膨張したポーラス部の左端が接合面である。これにより、接合面付近を発泡させたSample Iでは、接合面で破断できることがわかる。
【0056】
4点曲げ試験の結果、Sample Iの2個の試料は、いずれも、荷重が上昇した後に、最大荷重付近で亀裂が発生し、ポーラス部で亀裂が進展するに伴って緩やかに荷重が減少した。
Sample II, Sample IIIでは、Sample Iに比べて荷重の増加が大きかった。そして、Sample II, Sample IIIでは、それぞれの2個の試料のうち、1個は破断に至ると急激に荷重が低下し、もう1個は破断することなく荷重が上昇し続けて、試料が曲がったのみで試験機の最大荷重まで達しても破断に至らなかった。
破断した試料で、最大曲げ荷重を比較すると、Sample Iの方がSample II, Sample IIIよりも15%~25%程度低い値となっていた。即ち、接合部をポーラス化することにより、曲げ強度を低下させることができ、低荷重で破断できることがわかった。さらに、Sample II, Sample IIIでは破断できない場合もあり、ポーラス化は確実に破断するためにも効果があることがわかった。
【0057】
破断した試料について、各試料の破断までのエネルギー吸収量Eを比較して、図8に示す。
図8から、Sample Iは、Sample II, Sample IIIよりも破断に必要なエネルギー量が劇的に低いことがわかる。
【0058】
以上から、接合面付近の部分をポーラス化することで、最大荷重及び試料を破断させるのに必要なエネルギー量を大きく削減できることがわかった。
【0059】
(実験2)
第1の金属部材1として、アルミニウム合金のADC12板を使用し、第2の金属部材3として、実験1と同じSS400板を使用した。
ADC12板は、80mm×210mm×厚さ3mmの板を2枚重ねて厚さを6mmとした。
また、発泡剤及び増粘剤とそれらの混合比は、実験1と同様とした。
【0060】
図9は、実験2の試料の作製条件を示す図である。以下、図9を参照して、実験2の試料の作製方法を説明する。
【0061】
まず、図9(a)の概略斜視図に示すように、2枚のADC12板11を重ねた第1の金属部材1の、接合界面となる右側面に両面テープを貼り、両面テープの上から発泡剤2と増粘剤の混合粉末を塗布し、混合粉末を第1の金属部材1の接合界面に固定した。
【0062】
その後、図9(b)の概略斜視図に示すように、第1の金属部材1と第2の金属部材3であるSS400板とを突合せ、攪拌ツール4を用いて、大気中でFSWを行った。
FSWの条件は、回転数700rpm、送り速度50mm/分とした他は、実験1と同様とした。
【0063】
その後、攪拌ツール4の走査で生じたバリをフライス加工で除去した後に、ワイヤー放電加工機を用いて、図9(b)に破線で示すように、接合部が中心となるように、短冊形の試料20を採取した。
【0064】
得られた試料20は、図示を省略するが、2枚のADC12板11を重ねた第1の金属部材1と第2の金属部材3のSS400とが接合されている。なお、試料20において、2枚のADC12板11は、FSWを行った部分のみ互いに接合されている。
【0065】
加熱を始めた直後の初期状態の試料20を側面から見た写真を図10Aに示し、発泡直後の試料20を側面から見た写真を図10Bに示す。なお、図10A及び図10では、第1の金属部材1のADC12と第2の金属部材3のSS400の左右が、図9(b)とは逆になっている。
図10A及び図10Bにおいて、紙面に垂直な方向に攪拌ツール4を走査させている。
図10Aからわかるように、FSWにより欠陥などのない良好な接合がなされており、接合面に粉末を塗布しても問題なくFSWによりSS400とADC12の接合ができている。
図10Bからわかるように、ADC12の接合面付近の部分が膨張しており、ADC12の内部で発泡が生じている。これにより、FSWにより接合と同時に発泡剤の粉末もADC12内に分散させることができ、その部分を加熱することでADC12を発泡できることがわかる。
【0066】
その後、4点曲げ試験のために、試料20を切断加工した。
なお、再現性を確認するため、同じ条件で3個の試料を作製した。
また、比較対照のため、発泡剤や増粘剤の粉末を添加したが、加熱を行わない試料も作製した。
【0067】
続いて、以下に説明するように、試料20に対して、実験1と同じ器具及び条件で、4点曲げ試験を行った。そして、破断した試料については、実験1と同様にして、破断までのエネルギー吸収量を算出した。
【0068】
図11は、4点曲げ試験において、試料20の破断後の状態を示す写真である。図11の写真では、左側がSS400であり、右側がADC12であり、膨張したポーラス部の左端が接合面である。これにより、接合面付近を発泡させた試料では、接合面で破断できることがわかる。
【0069】
各試料の破断までのエネルギー吸収量Eを比較して、図12に示す。
図12において、加熱を行って発泡させた3個の試料では、いずれもエネルギー吸収量Eが約20N・mmであった。
従って、図12から、加熱を行って発泡させた試料は、加熱を行っていない試料と比較して、破断に必要なエネルギー量が約1/100と劇的に低いことがわかる。
【0070】
以上から、ADC12を使用した実験2の場合も、A1050を使用した実験1の場合と同様に、接合面付近の部分をポーラス化することで、最大荷重及び試料を破断させるのに必要なエネルギー量を大きく削減できることがわかった。
【符号の説明】
【0071】
1 第1の金属部材、2 発泡剤、3 第2の金属部材、4 攪拌ツール、5 攪拌部、6 加熱源、7 発泡金属、8 気孔、9 U字鋼、10,20 試料、11 ADC12板
図1
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図13